説明

携帯電話機の解体方法

【課題】プラスチック筺体からなる携帯電話機の解体において、材料リサイクルおよび部品の再利用を可能とし、かつ後工程の手解体時間を短縮し、解体に要するコストを低減する。
【解決手段】少なくとも筐体の一部がプラスチック材料からなる携帯電話機1をバッチ式処理装置2に投入し、バッチ式処理装置2の内部に設けられた過熱水蒸気発生装置3によって常圧で100℃以上に加熱した過熱水蒸気に携帯電話機1を曝して、プラスチック材料を加熱することにより、プラスチック材料を軟化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも筐体の一部がプラスチック材料からなる使用済み携帯電話機を、加熱した後に手分解する携帯電話機の解体方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機には、金などの貴金属をはじめ、インジウムなどのレアメタルが含まれるため、資源枯渇による影響が予測される我が国では、国内でのリサイクルが推進されている。一方、プラスチック材料は、軽量で、加工が容易であり、耐久性に優れるため、様々な筺体に用いられているが、比較的安価であるため、プラスチック材料を焼却して熱回収を行い、有価で取引きされる金属資源だけが回収されることが多かった。
【0003】
しかしながら、石油資源の枯渇が危惧される現在、プラスチック材料もできるだけ材料としてリサイクルされることが環境の観点から望まれている(非特許文献1)。また廃棄された携帯電話機を粉砕処理した場合、プラスチック、金属等の材料が混合され、リサイクルのための分別が必要となるため、分離のためのエネルギーが必要であった。さらに部品のリユースも一部、始まっているが、該当部品を損なわずに取り出す方法として、手解体が最適であるが、経済的に見合わないことからあまり推進されていなかった。
【0004】
以上のように使用済み携帯電話機のリサイクルにおいて、手解体の必要性が高まってきている。しかしながら、携帯電話機の技術革新が早く、モデルチェンジが迅速に行われるため、1台ごとに解体手順や接合箇所・方法が異なり、その探索に時間を要する。さらに部品の締結に用いられるねじの形状は、一種類ではなく、既存の携帯電話機では、ねじ頭部の形状が+(プラス)、−(マイナス)といったものだけではなく、Y字、星型、車輪型 等、様々であり、1台の携帯電話機を手解体するために、一種類の道具では完了しないことが多く、道具を用意する手間もかかっていた。
【0005】
そこで、リサイクルの現場では、よりコストが安い機械破砕や焼却により携帯電話機を破壊し、一部の金属材料(金、銅、銀等)が回収されているのが実情であり、部品の再利用を含む、より高品質なリサイクルを達成するためには、手解体時間を短縮して、コストを削減することが課題であった。
【0006】
物品の手解体を容易にする方法として、所定温度以上に加熱するとねじによる締結が無効となる易分解締結部によって組み立てられた物品に、過熱蒸気を供給して物品を分解する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−21339号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高橋 和枝他,“携帯電話からの資源回収とその経済効果および環境負荷”,日本金属学会誌,第73巻,第9号,2009,pp.747−751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された分解方法では、易分解締結を可能とするねじを使用する必要があり、そのようなねじが一般に広まっていない現状では、実用的ではないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、プラスチック筺体からなる携帯電話機の解体方法において、材料リサイクルおよび部品の再利用を可能とし、かつ後工程の手解体時間を短縮し、解体に要するコストを低減することが可能な解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも筐体の一部がプラスチック材料からなる携帯電話機を加熱した後に手分解する携帯電話機の解体方法であって、過熱水蒸気発生装置によって生成された過熱水蒸気に携帯電話機を曝して加熱することを特徴とするものである。
また、本発明の携帯電話機の解体方法の1構成例は、前記過熱水蒸気でプラスチック材料が、このプラスチック材料の軟化温度よりも5〜30℃以上の温度になるように前記過熱水蒸気の温度を設定することを特徴とするものである。
また、本発明の携帯電話機の解体方法の1構成例は、前記過熱水蒸気に携帯電話機を曝す曝露時間が30秒から10分の範囲であることを特徴とするものである。
また、本発明の携帯電話機の解体方法の1構成例において、前記プラスチック材料は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)とポリカーボネート(PC)とポリアミド(PA)のうちいずれか1つ、ABSとPCとPAのうち少なくとも2つの複合体、あるいはABSとPCとPAのうち少なくとも1つとガラスファイバーとの複合体である。
また、本発明の携帯電話機の解体方法の1構成例は、過熱水蒸気処理時において、携帯電話機に含まれる部品が、この部品の再利用が可能な範囲の温度になるように前記過熱水蒸気の温度を設定することを特徴とするものである。
また、本発明の携帯電話機の解体方法の1構成例において、前記携帯電話機に含まれる部品は、液晶ディスプレイ、カメラ、モーターである。
また、本発明の携帯電話機の解体方法の1構成例は、携帯電話機を前記過熱水蒸気に曝す処理装置として、携帯電話機を1台ずつ処理するバッチ式処理装置、あるいは複数台の携帯電話機の処理が可能なフロー式処理装置を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過熱水蒸気発生装置によって生成された過熱水蒸気に携帯電話機を曝して加熱することにより、筺体の接合部付近のプラスチック材料を軟化させることができ、ネジ留めや接着剤などによる接合を弱め、携帯電話機の解体を迅速かつ容易に行うことができる。解体において、特殊なねじ回しなどの道具や、接合部位に関する知識は不要であり、誰でも容易に携帯電話機を解体することができる。また、多種のプラスチック材料に本発明を適用可能であり、汎用性が広い。この結果、解体時間が短縮されると同時に、プラスチック素材をリサイクルできるようになり、さらに含有される部品を再利用することができ、リサイクルによる利益を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る携帯電話機の解体方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る携帯電話機の処理装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第4の実施の形態に係る携帯電話機の処理装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本実施の形態に係る携帯電話機の解体方法を説明するフローチャート、図2は本実施の形態に係る処理装置の構成を示すブロック図である。
本実施の形態では、少なくとも筐体の一部がプラスチック材料からなる携帯電話機1をバッチ式処理装置2に投入し(ステップS100)、バッチ式処理装置2の内部に設けられた過熱水蒸気発生装置3によって常圧で100℃以上に加熱した過熱水蒸気に携帯電話機1を曝して、プラスチック材料を加熱することにより、プラスチック材料を軟化させる(ステップS101)。
【0015】
過熱水蒸気は、食品加工等の分野で既に実用化されており、過熱水蒸気発生装置も一般に使用されるようになっている。例えば、<http://www.shinnetsu.co.jp/products/19/index.html>に開示されているように、過熱水蒸気による加熱とオーブンなどによる加熱との違いは、水蒸気が介在することにより、熱伝達効率が高く、また短時間で温度一定となるため、短時間での処理が可能なことである。
【0016】
次に、加熱した携帯電話機1を作業者が手で解体し(ステップS102)、作業者が部品毎あるいは材料毎に分別し(ステップS103)、分別した部品や材料を再資源化業者に渡す(ステップS104)。再資源化業者は、回収した部品や材料の再資源化(中古部品としての再利用や、再生プラスチックの生成、金属の精錬、貴金属の回収など)を行う。
【0017】
本実施の形態では、以上のような解体方法の1例として、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)を筐体素材とする携帯電話機1の解体を行った。具体的には、ABSを筐体素材とする携帯電話機1をバッチ式処理装置2に3分間設置して過熱水蒸気処理した後、手で解体を行い、液晶ディスプレイ、基板、カメラおよびモーターと筐体とに分離した。ABSの軟化温度は概ね100℃付近である。過熱水蒸気雰囲気下の温度を測定したところ、雰囲気の温度は170℃であったのにも関わらず、筺体表面は130℃未満、液晶表面は80℃未満であった。携帯電話機1の手解体に要した平均時間は2分であり、ねじ回しなどは不要であった。
【0018】
通常、ねじ回しなどの道具を用いて携帯電話機を解体した場合、平均で12分かかることから、本実施の形態によれば解体時間を大幅に短縮できることが分かる。また、ABSからなる筐体部分は軟化温度以上の温度に上昇したが、液晶ディスプレイや内部の表面の最大温度は動作保障温度内であった。このため、部品の機能を損なうことはなく、解体分離した液晶ディスプレイ、カメラおよひモーターは動作し、再利用できることを確認した。
【0019】
なお、本実施の形態では、部品を再利用できるようにすることから、部品の信頼性を確保することができ部品を再利用することが可能な程度の過熱水蒸気の温度および曝露時間であることが望ましい。
過熱水蒸気の温度は、過熱水蒸気でプラスチック材料が、その軟化温度よりも5〜30℃以上の温度になるように設定すればよい。また、過熱水蒸気に携帯電話機1を曝す曝露時間は、30秒から10分の短時間の範囲で設定すればよい。
【0020】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態では、ポリアミド(PA)とガラスファイバーとの複合体を筐体素材とする携帯電話機1を第1の実施の形態と同じ条件のバッチ式処理装置2に3分間設置して過熱水蒸気処理した後、作業者が手で携帯電話機1の解体を行い、液晶ディスプレイ、基板、カメラおよびモーターと筐体とに分離した。携帯電話機1の解体に要した平均時間は2分であり、ねじ回しなどは不要であった。また、分離した液晶ディスプレイ、カメラおよびモーターは動作し、再利用できることを確認した。
【0021】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態では、ポリカーボネート(PC)とABSの複合体を筐体素材とする携帯電話機1を第1の実施の形態と同じ条件のバッチ式処理装置2に3分間設置して過熱水蒸気処理した後、作業者が手で携帯電話機1の解体を行い、液晶ディスプレイ、基板、カメラおよびモーターと筐体とに分離した。携帯電話機1の解体に要した平均時間は2分であり、ねじ回しなどは不要であった。また、分離した液晶ディスプレイ、カメラおよびモーターは動作し、再利用できることを確認した。
【0022】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態では、図3に示すように、ABSを筐体素材とする携帯電話機1をフロー式処理装置2aに設置して過熱水蒸気処理した後、作業者が手で携帯電話機1の解体を行い、液晶ディスプレイ、基板、カメラおよびモーターと筐体とに分離した。本実施の形態では、携帯電話機1を1台ずつ過熱水蒸気処理するバッチ式処理装置2と異なり、複数台の携帯電話機1の過熱水蒸気処理が可能なフロー式処理装置2aを用いるため、複数の作業者によって一度に2台以上の携帯電話機1の処理が可能であり、バッチ式処理装置使用時よりもさらに解体時間を短縮することができる。具体的には、携帯電話機1の解体に要した時間は1台あたり平均1分であり、ねじ回しなどは不要であった。また、分離した液晶ディスプレイ、カメラおよびモーターは動作し、再利用できることを確認した。
【0023】
第1〜第4の実施の形態で説明したように、本発明を適用できるプラスチック材料としては、例えばABSとPCとPAのうちいずれか1つ、ABSとPCとPAのうち少なくとも2つの複合体、あるいはABSとPCとPAのうち少なくとも1つとガラスファイバーとの複合体がある。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、使用済み携帯電話機を解体する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1…携帯電話機、2…バッチ式処理装置、2a…フロー式処理装置、3…過熱水蒸気発生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも筐体の一部がプラスチック材料からなる携帯電話機を加熱した後に手分解する携帯電話機の解体方法であって、
過熱水蒸気発生装置によって生成された過熱水蒸気に携帯電話機を曝して加熱することを特徴とする携帯電話機の解体方法。
【請求項2】
請求項1記載の携帯電話機の解体方法において、
前記過熱水蒸気でプラスチック材料が、このプラスチック材料の軟化温度よりも5〜30℃以上の温度になるように前記過熱水蒸気の温度を設定することを特徴とする携帯電話機の解体方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の携帯電話機の解体方法において、
前記過熱水蒸気に携帯電話機を曝す曝露時間が30秒から10分の範囲であることを特徴とする携帯電話機の解体方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の携帯電話機の解体方法において、
前記プラスチック材料は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)とポリカーボネート(PC)とポリアミド(PA)のうちいずれか1つ、ABSとPCとPAのうち少なくとも2つの複合体、あるいはABSとPCとPAのうち少なくとも1つとガラスファイバーとの複合体であることを特徴とする携帯電話機の解体方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の携帯電話機の解体方法において、
過熱水蒸気処理時において、携帯電話機に含まれる部品が、この部品の再利用が可能な範囲の温度になるように前記過熱水蒸気の温度を設定することを特徴とする携帯電話機の解体方法。
【請求項6】
請求項5のいずれか1項に記載の携帯電話機の解体方法において、
前記携帯電話機に含まれる部品は、液晶ディスプレイ、カメラ、モーターであることを特徴とする携帯電話機の解体方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の携帯電話機の解体方法において、
携帯電話機を前記過熱水蒸気に曝す処理装置として、携帯電話機を1台ずつ処理するバッチ式処理装置、あるいは複数台の携帯電話機の処理が可能なフロー式処理装置を用いることを特徴とする携帯電話機の解体方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236149(P2012−236149A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106961(P2011−106961)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】