説明

摩擦ダンパー及び摩擦ダンパーユニット

【課題】滑り材を均等に圧着できる摩擦ダンパー及び摩擦ダンパーユニットを得る。
【解決手段】摩擦ダンパー10は、板材20〜38と、板材20〜38に固定された滑り材68と、滑り材68に当接する相手板44〜60と、板材20〜38の最外部に一対設けられた締付板65、66と、を有している。ここで、滑り材68が、貫通孔72の穴芯を中心とした所定の範囲を被っており、この貫通孔72を貫通するPC鋼棒74と締付板65、66の組合せによって、摩擦面が均等かつ有効に押圧される範囲を特定できるので、摩擦力および滑り材68の耐久性を管理することができる。また、滑り材と相手板材が複数あり、摩擦面が多段となっているので、滑り材68の面積を小さくして摩擦ダンパー10の形状を小さくしても、全体の摩擦面積を減少させなくて済む。このため、摩擦ダンパー10の形状をコンパクト化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物の揺れを低減する摩擦ダンパー及び摩擦ダンパーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等による建築構造物の揺れを低減するため、建築構造物の梁又はブレース又は腰壁垂壁間に摩擦ダンパーが設けられている。摩擦ダンパーは、相対変位する2部材の一方の部材に滑り板を設け、当該滑り板と他方の部材の接触面で発生する摩擦力によって揺れを減衰させる機構となっている。
【0003】
ここで、摩擦ダンパーの第1例として、振動により相対変位する2部材にそれぞれ第1圧接板、第2圧接板を設け、第1圧接板と第2圧接板の間に摩擦板及び滑動板を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の摩擦ダンパーは、振動により相対変位する2部材の一方に第1圧接板が設けられ、他方に、第1圧接板を挟む一対の第2圧接板が設けられている。第2圧接板の表面側には、摩擦板が設けられ、摩擦板と第1圧接板の間には、滑動板が設けられている。
【0005】
第1圧接板には長孔が形成されており、第2圧接板を貫通するボルトが、この長孔を貫通して、軸力を付与している。ここで、第2圧接板と摩擦板の間の摩擦係数を第1圧接板と滑動板の間の摩擦係数よりも大きくすることで、摩擦板の接着固定を不要としている。
【0006】
しかし、特許文献1の摩擦ダンパーは、形成される摩擦面が2箇所しかないため、摩擦面の面積を増加しようとすると、摩擦ダンパーを大型化しなくてはならなかった。
【0007】
摩擦ダンパーの第2例として、相対変位する一方の部材と他方の部材との接触面の圧力を、締付け力を変更することで調節可能としたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2の摩擦ダンパーは、複数積層された一方の摩擦板の間隔に、他方の摩擦板が挿入され面接触している。そして、これらの摩擦板を角型筒体で囲み、角型筒体と摩擦板との間に挿入した楔型の部材で摩擦板同士を圧着している。
【0009】
しかし、特許文献2の摩擦ダンパーは、端部で締付けられる楔型部材で摩擦板を圧着するため、摩擦板全面を均等に圧着させることができなかった。
【特許文献1】特開2003−307253
【特許文献2】特開2005−344761
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、滑り材を均等に圧着できる摩擦ダンパー及び摩擦ダンパーユニットを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る摩擦ダンパーは、間隔をおいて積層され一の建築構造体に取付けられる複数の板材と、前記板材の長手方向に所定間隔で形成され、締付部材が挿通される板穴部と、前記板穴部の穴芯を中心とした所定の範囲を被うように前記板材に固定された滑り材と、前記間隔へ挿入されて前記滑り材に当接され、前記一の建築構造体と相対移動する他の建築構造体に取付けられる複数の相手板材と、前記相手板材に形成され、前記板穴部へ挿通された前記締付部材と相対移動可能な長穴と、積層された前記板材の最外部から突出した前記締付部材の両端部に設けられ、前記締付部材の締付力で前記板材と前記相手板材を圧着させる一対の締付板と、を有することを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、締付部材と長穴が相対移動可能となっており、地震等の震動により板材と相手板材が相対移動すると、圧着された板材と相手板材の間、すなわち滑り材と相手板材の間の摩擦面で摩擦力が発生し、この摩擦力によって地震等の震動エネルギーが吸収される。これにより、建築構造体の制震が行われる。
【0013】
ここで、滑り材が、板穴部の穴芯を中心とした所定の範囲を被っており、この板穴部を貫通する締付部材と締付板の組合せによって摩擦面が均等かつ有効に押圧されるので、滑り材を均等に圧着でき、摩擦力および滑り材の耐久性を精度良く管理することができる。
【0014】
また、滑り材と相手板材が複数あり、摩擦面が多段となっているので、滑り材の面積を小さくして摩擦ダンパーの形状を小さくしても、全体の摩擦面積を減少させなくて済む。このため、摩擦ダンパーの形状をコンパクト化することができ、建築構造体への設置の自由度が増す。
【0015】
本発明の請求項2に係る摩擦ダンパーは、前記締付部材が、前記締付板をナットと共に締付けるPC鋼棒であり、前記PC鋼棒の軸方向の前記滑り材が被う所定の範囲と前記締付板の投影位置が一致することを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、PC鋼棒の軸方向における締付板の投影位置と滑り材が被う所定の範囲の位置が一致しているので、PC鋼棒で締付けられたときに、摩擦面における摩擦力の分布が片寄ることがなくなり、摩擦力を均等にすることができる。
【0017】
また、PC鋼棒は、締込許容荷重が高張力ボルトに比べて大きく、棒径を小さくできるので、摩擦面における付加的応力の発生を抑止でき、摩擦力が安定する。
【0018】
本発明の請求項3に係る摩擦ダンパーは、前記滑り材は所定の間隔をおいて、前記板材に固定されていることを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、所定の間隔をおいて滑り材が板材に固定されているので、摩擦面積を大きくしても板材の各箇所における締付部材による押圧力を均等化しやすく、摩擦力を一様にすることができる。
【0020】
本発明の請求項4に係る摩擦ダンパーは、前記滑り材が被う所定の範囲は、前記板穴部の穴芯を中心とした、一辺の長さが100mm以上145mm以下の四角形又は一辺の長さが100mm以上145mm以下の四角形に内接する円形から、前記長穴に相当する部分を除いた範囲であり、前記締付板は、厚さ22mm以上30mm以下の角型または丸型の板であることを特徴としている。
【0021】
上記構成によれば、一般に、滑り材が押圧されたとき、圧力の広がり方には粗密が生じるが、滑り材の大きさと締付板の厚さの組合せを上記範囲に特定することで、押圧力を滑り材のほぼ全面にわたって均等かつ有効に伝達させることができる。
【0022】
本発明の請求項5に係る摩擦ダンパーユニットは、請求項3又は請求項4に記載の摩擦ダンパーが、同一面上に並列配置されたことを特徴としている。
【0023】
上記構成によれば、摩擦ダンパーを並列に配置することで、想定される地震動に応じて震動の減衰力を調整できるので、震動の減衰力の管理が容易となる。また、摩擦ダンパーを縦方向にも横方向にも展開することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上記構成としたので、摩擦ダンパーの摩擦力を管理可能となり、且つ摩擦ダンパーのコンパクト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の摩擦ダンパー及び摩擦ダンパーユニットの第1実施形態を図面に基づき説明する。
【0026】
図1aに示すように、地盤108上に、高層の建物100が構築されている。
【0027】
建物100は、地盤108の鉛直方向にコンクリート等で構成される図示しない杭が形成され、この杭上に、複数の柱からなる柱部102と、複数の梁104が組み上げられ固定されることで構築される。
【0028】
また、建物10の一部の階層には、揺れ等に対する補強部としてトラス構造部106が設けられている。
【0029】
図1bに示すように、トラス構造部106は、略水平方向に延設された上弦材110と、上弦材110の下方で上弦材110と平行に配設された下弦材112と、上弦材110の両端部から下弦材112の略中央部へ向けて配設された斜材114と、上弦材110の略中央部に一端が固定され、他端が下弦材112の略中央部に固定された柱材116と、で構成されている。
【0030】
上弦材110、下弦材112、斜材114、及び柱材116は、それぞれ図示しないボルト及びナットにより締結されている。
【0031】
上弦材110の一端は、柱部102の側面から外方向へ突設された接続板118に、図示しないボルト及びナットにより締結されている。また、下弦材112の一端は、接続板118の下方側で柱部102の側面から外方向へ突設された接続板120に、図示しないボルト及びナットにより締結されている。
【0032】
ここで、下弦材112の一部には、摩擦力を発生させて建物100(図1a参照)の制震を行う摩擦ダンパー10が設けられている。
【0033】
図2a及び図2bに示すように、摩擦ダンパー10は、主に、複数の板材20、24、28、30、34、38と、板材20、24、28、30、34、38に固定された滑り材68と、板材20、24、28、30、34、38の間隔に挿入された複数の相手板44、48、52、56、60と、板材20、24、28、30、34、38の最外部に設けられた一対の締付板65、66と、で構成されている。
【0034】
板材20、24、28、30、34、38は、鋼材で構成されている。板材20、24、28、30、34、38の一方端(左端)の間隔には、鋼材からなる挿入板22、26、32、36が挿入されている。
【0035】
また、板材28、30の間隔には、鋼材からなり、挿入板22、26、32、36よりも長い連結板12の一方端(右端)が挿入されている。
【0036】
ここで、板材20、挿入板22、板材24、挿入板26、板材28、連結板12、板材30、挿入板32、板材34、挿入板36、及び板材38には、板材20の上面から板材38の下面へ貫通する貫通孔41、43が形成されている。この貫通孔41、43に、ボルト40が挿通され、ナット42で締結されることで、連結板12に板材20、24、28、30、34、38の一方端が固定されている。これにより、板材20、24、28、30、34、38が一体となって移動可能となっている。
【0037】
連結板12の他方端(左端)は、前述の接続板120(図1参照)の先端部と共に、鋼板からなる一対の押え板119、121で挟持されている。
【0038】
押え板119、接続板120、連結板12、及び押え板121には、押え板119の上面から押え板121の下面へ貫通する貫通孔15、16が形成されている。この貫通孔15、16に、ボルト14が挿通され、ナット18で締結されることで、接続板120に連結板12の他方端が固定されている。
【0039】
図2b及び図4に示すように、板材20、24、28、30、34、38の表面には、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂又はフェノール樹脂からなる複数の板状の滑り材68が、所定の間隔で接着剤により貼り付けられている。
【0040】
積層された板材20、24、28、30、34、38の最外部には、鋼板からなる一対の締付板65、66が、複数箇所に設けられているか、またはビスによる締結によって固定されている。
【0041】
ここで、図3a及び図3bに示すように、締付板65、66、滑り材68、及び板材20、24、28、30、34、38には、締付板65の上面から、締付板66の下面まで貫通した貫通孔72が形成されている。
【0042】
貫通孔72は、板材20、24、28、30、34、38の長手方向に所定間隔で複数形成されている。また、貫通孔72の内径は、PC鋼棒74が挿通可能な大きさとなっている。
【0043】
なお、前述の滑り材68は、図心が貫通孔72の穴芯に一致するように予め板材20、24、28、30、34、38に固定されている。
【0044】
一方、図2b及び図4に示すように、板材20、24、28、30、34、38の他方端(右端)における間隔には、鋼板からなる複数の相手板44、48、52、56、60が、矢印−X方向に挿入され、滑り材68に当接されている。なお、相手板52は、相手板44、48、56、60よりも長くなっている。
【0045】
図3a及び図3cに示すように、相手板44、48、52、56、60には、所定の間隔で複数箇所に長穴70が形成されている。なお、摩擦ダンパー10(図1参照)の初期位置(揺れが生じていない状態の位置)では、前述の貫通孔72の中心位置と、長穴70の中心位置とが一致している。
【0046】
なお、図3aでは、滑り材68と相手板44、48、52、56、60が離れているが、これは多層の構成を明確にするために離間配置したものであり、実際には、滑り材68と相手板44、48、52、56、60が圧着されている。
【0047】
ここで、図2bに示すように、貫通孔72及び長穴70にPC鋼棒74が挿通され、ナット76で締結されることで、締付板65、66が、板材20、24、28、30、34、38と相手板44、48、52、56、60を圧着させている。また、長穴70の内部で、PC鋼棒74と長穴70が相対移動可能となっている。
【0048】
なお、PC鋼棒74及びナット76で締結された状態において、PC鋼棒74の軸方向の滑り材68と締付板65、66の投影位置が一致している。
【0049】
一方、相手板44、48、52、56、60の一方端(右端)の間隔には、鋼材からなる挿入板46、50、54、58が挿入されている。
【0050】
ここで、相手板44、挿入板46、相手板48、挿入板50、相手板52、挿入板54、相手板56、挿入板58、及び相手板60には、相手板44の上面から相手板60の下面へ貫通する貫通孔61、63が形成されている。この貫通孔61、63に、ボルト62が挿通され、ナット64で締結されることで、相手板44、48、52、56、60が一体となって移動可能となっている。
【0051】
前述の下弦材112(図1参照)の一部を構成するとともに下弦材112の中央部近傍に設けられた接続板122の先端部と、相手板52の一方端(右端)は、鋼板からなる一対の押え板123、125で挟持されている。
【0052】
押え板123、相手板52、接続板122、及び押え板125には、押え板123の上面から押え板125の下面へ貫通する貫通孔79、81が形成されている。この貫通孔79、81に、ボルト78が挿通され、ナット80で締結されることで、接続板122に相手板52の一方端が固定されている。
【0053】
以上の構成により、板材20、24、28、30、34、38及び滑り材68が一体となって移動し、相手板44、48、52、56、60が滑り材68の上面又は下面を摺擦移動して、板材20、24、28、30、34、38と相手板44、48、52、56、60が相対移動可能となっている。
【0054】
なお、図3aに示したように、板材20、24、28、30、34、38、滑り材68、及び相手板44、48、52、56、60を含む締付板65から締付板66までの多段構造の一組を、摩擦ダンパー10(図1参照)の構成単位として、パーツ11と呼ぶことにする。本実施形態では、摩擦ダンパー10が、5個のパーツ11で構成されている。
【0055】
次に、締付板65、66の締め付けによる滑り材68の面圧分布について説明する。
【0056】
摩擦ダンパー10において、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との摩擦面の面圧分布に著しい偏載などがある場合、摩擦ダンパー10の各種依存性や耐久性能に影響を及ぼす可能性がある。また、面圧が分布していない領域を締付板65、66で拘束することは不経済となる。
【0057】
このため、滑り材68の面圧分布が可能なかぎり均一となるよう、締付板65、66の板厚、滑り材68の大きさ、PC鋼棒74の径についての適正値を、一軸圧縮試験により確認する。
【0058】
図5bに示すように、一軸圧縮試験機150を用いて一軸圧縮試験を行う。
【0059】
一軸圧縮試験機150は、ロードセル152と試験機底面156の間に、平座金154を介して、一軸圧縮試験の対象物である試験体90を挟持して、鉛直方向に圧縮するようになっている。
【0060】
試験体90は、長穴158が形成された相手板99の上面に圧力測定フィルム98が載置され、相手板99及び圧力測定フィルム98が、上下一対の滑り板96で挟持されている。滑り板96は、上下一対の板材94で挟持されており、さらに、板材94が、上下一対の締付板92で挟持されている。
【0061】
なお、締付板92、板材94、滑り材96、及び相手板99は、いずれも、前述の締付板65、66、板材20、24、28、30、34、38、滑り材68、及び相手板44、48、52、56、60と同様の材質で構成されている。
【0062】
締付板92は、板厚が22mm又は30mm、形状が角型、丸型の計4種類を用意した。また、締付板92は、平座金154からの面圧分布を60°分布と考え、この面圧分布以上の平面寸法とするため、角型のものは1辺を、丸型のものは直径を、それぞれ180mmとしている。なお、締付板92には、上面から下面まで貫通した内径22mmの貫通孔93が形成されている。
【0063】
圧力測定フィルム98は、富士フィルム株式会社製富士プレスケールの中圧用(測定可能領域10〜50MPa)を用いる。
【0064】
図5a及び図5bに示すように、滑り材96は、2つに分割され、長穴158の両側近傍に配置されている。
【0065】
ここで、一軸圧縮試験機150において200kNを載荷し、各平座金154に100kNの荷重が載荷されるように調整した。荷重はロードセル152で管理した。
【0066】
一軸圧縮試験機150を用いて試験体90の面圧分布を評価した結果を表1に示す。目視確認による圧力測定フィルム98の発色濃度の濃い領域がすなわち摩擦面が有効に押圧される領域である。これを、X、Y方向の幅で表した。
【0067】
【表1】


表1によると、各試験条件において、X、Y方向の幅が102mm〜143mmの範囲において、面圧分布が均等となっていることが分かる。
【0068】
よって、滑り材68は、上の値を工学的に丸めた一辺の長さが100mm以上145mm以下の四角形に内接する大きさであることが好ましい。
【0069】
また、締付板92の板厚を22mm、30mmと変えても面圧分布に顕著な差異は見られないため、締付板92の板厚は、22mm〜30mmの範囲で設定することができる。
【0070】
なお、上記結果は、締付板92に直径22mmの貫通孔93を形成しているため、貫通孔93に挿通されるPC鋼棒の直径は、17ないし19mmとなる。
【0071】
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
【0072】
図6a〜図6cは、板材20、24、28、30、34、38と、相手板44、48、52、56、60の相対移動の状態を示している。なお、説明の都合上、板材20、24、28、30、34、38側を基準(固定)として、相手板44、48、52、56、60の移動量を示している。
【0073】
図6aに示すように、建物100(図1参照)に地震等の揺れが生じていない場合は、板材20、24、28、30、34、38及び相手板44、48、52、56、60は静止している。
【0074】
続いて、図6bに示すように、地震等の揺れが生じて、相手板44、48、52、56、60が板材20、24、28、30、34、38に対して−X方向へ距離d1で相対移動すると、滑り材68は、板材20、24、28、30、34、38と一体となっているため、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との界面(摩擦面)で摩擦力が発生する。
【0075】
この摩擦力をF1とすると、揺れの振動エネルギーは、F1×d1に相当するエネルギー分だけ減衰することになる。
【0076】
続いて、図6cに示すように、地震等の揺れが生じて、相手板44、48、52、56、60が板材20、24、28、30、34、38に対して+X方向へd1の位置から距離d2で相対移動すると、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との界面(摩擦面)で摩擦力が発生する。
【0077】
この摩擦力は大きさが概略F1に等しく向きが逆な力となる。これをF2とすると、揺れの振動エネルギーは、F2×d2に相当するエネルギー分だけ減衰することになる。
【0078】
このように、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との摩擦面で発生する摩擦力F1又はF2により、揺れの振動エネルギーが徐々に減衰し、建物100の制震が行われる。
【0079】
ここで、滑り材68の図心を貫通するPC鋼棒74と締付板65、66の組合せによって、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との摩擦面が均等かつ有効に押圧されるので、摩擦ダンパー10の摩擦力および滑り材68の耐久性を精度良く管理することができる。
【0080】
また、滑り材68と相手板44、48、52、56、60が複数あり、摩擦面が多段となっているので、滑り材68の面積を小さくして摩擦ダンパー10の形状を小さくしても、全体の摩擦面積を減少させなくて済む。このため、摩擦ダンパー10の形状をコンパクト化することができ、建物100への設置の自由度が増す。
【0081】
さらに、PC鋼棒74の軸方向における締付板65、66の投影位置と滑り材68の位置が一致しているので、PC鋼棒74で締付けられたときに、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との摩擦面における摩擦力の分布が片寄ることがなくなり、摩擦力を均等にすることができる。
【0082】
また、滑り材68が、所定の間隔をおいて板材20、24、28、30、34、38に固定されているので、摩擦面積を大きくしても板材20、24、28、30、34、38の各箇所におけるPC鋼棒74による押圧力を均等化しやすく、摩擦力を一様にすることができる。
【0083】
さらに、一般に、滑り材68が押圧されたとき、圧力の広がり方には粗密が生じるが、滑り材68を一辺の長さが100mm以上145mm以下の四角形に内接する大きさとして、締付板65、66を厚さ22mm以上32mm以下の角型または円型の板としたので、押圧力を滑り材68のほぼ全面にわたって均等かつ有効に伝達させることができる。
【0084】
次に、本発明の摩擦ダンパー及び摩擦ダンパーユニットの第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一のものには、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0085】
図7は、摩擦ダンパー10(図2参照)を鉛直方向に5セット並べた摩擦ダンパーユニット130の正面図を示している。摩擦ダンパーユニット130は、前述の建物100の下弦材112(図1参照)の一部に設けられている。
【0086】
図7に示すように、摩擦ダンパーユニット130の左側端部は、建物100の柱部102(図1参照)の側面から外方向へ突設された接続板126に、ボルト14及び図示しないナットによって連結されている。
【0087】
また、摩擦ダンパーユニット130の右側端部は、下弦材112の一部を構成するとともに下弦材112の中央部近傍に設けられた接続板128に、ボルト78及び図示しないナットによって連結されている。
【0088】
摩擦ダンパーユニット130は、摩擦ダンパー10A、10B、10C、10D、10Eで構成されている。即ち、摩擦ダンパーユニット130には、摩擦力により振動エネルギーを減衰させるパーツ11が、合計25組設けられている。
【0089】
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
【0090】
図8a〜図8cは、摩擦ダンパーユニット130における板材20、24、28、30、34、38と、相手板44、48、52、56、60の相対移動の状態を示している。
【0091】
なお、説明の都合上、摩擦ダンパー10A、10B、10C、10D、10Eのうち、摩擦ダンパー10Aについて説明する。また、板材20、24、28、30、34、38側を基準(固定)として、相手板44、48、52、56、60の移動量を示す。
【0092】
図8aに示すように、建物100(図1参照)に地震等の揺れが生じていない場合は、板材20、24、28、30、34、38及び相手板44、48、52、56、60は静止している。
【0093】
続いて、図8bに示すように、地震等の揺れが生じて、相手板44、48、52、56、60が板材20、24、28、30、34、38に対して−X方向へ距離d3で相対移動すると、滑り材68は、板材20、24、28、30、34、38と一体となっているため、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との界面(摩擦面)で摩擦力が発生する。
【0094】
この摩擦力をF3とすると、揺れの振動エネルギーは、F3×d3に相当するエネルギー分だけ減衰することになる。
【0095】
続いて、図8cに示すように、地震等の揺れが生じて、相手板44、48、52、56、60が板材20、24、28、30、34、38に対して+X方向へd3の位置から距離d4で相対移動すると、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との界面(摩擦面)で摩擦力が発生する。
【0096】
この摩擦力は大きさが概略F3に等しく向きが逆な力となる。これをF4とすると、揺れの振動エネルギーは、F4×d4に相当するエネルギー分だけ減衰することになる。
【0097】
このように、滑り材68と相手板44、48、52、56、60との摩擦面で発生する摩擦力F3又はF4により、揺れの振動エネルギーが徐々に減衰し、建物100の制震が行われる。
【0098】
ここで、滑り材68、締付板65、66、板材20、24、28、30、34、38、及び相手板44、48、52、56、60の取付け数、即ち、パーツ11の取付け数によって震動の減衰力を調整できるので、震動の減衰力の管理が容易となる。また、摩擦ダンパー10A〜10Eを並列に配置することで、縦方向にも横方向にも展開することができる。
【0099】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されない。
【0100】
摩擦ダンパー10、摩擦ダンパーユニット130は、板材と滑り材の間の各摩擦面を地面と略垂直になるように配置するだけでなく、略平行になるように配置してもよい。
【0101】
また、摩擦ダンパー10、摩擦ダンパーユニット130は、建物100の梁部104に設けてもよい。
【0102】
さらに、摩擦ダンパーユニット130は、摩擦ダンパー10を5セットとするだけでなく、2セット以上で複数並列したものであってもよい。
【0103】
各板材及び各相手板は、6枚、5枚だけでなく、1枚や複数枚であってもよく、適宜枚数選択できる。また、板材及び相手板の厚さは、同一であってもよく、片方が厚くてもよい。
【0104】
滑り材68は、各板材の移動方向に沿って5箇所設けるだけでなく、1箇所で面積の広いものを取り付けてもよく、また、2箇所以上の複数個所で取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】(a)本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーが設けられた建物の全体図である。(b)本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーが設けられた建物の部分拡大図である。
【図2】(a)本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーの正面図である。(b)本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーの断面図である。
【図3】(a)本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーのパーツの分解図である。(b)本発明の第1実施形態に係る滑り材の平面図である。(c)本発明の第1実施形態に係る相手板の平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーの部分分解図である。
【図5】(a)本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーの圧力分布試験における試験体の平面図である。(b)本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーの圧力分布試験における試験体の側面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る摩擦ダンパーの移動状態を示す模式図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る摩擦ダンパーユニットの正面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る摩擦ダンパーユニットの移動状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0106】
10 摩擦ダンパー(摩擦ダンパー)
20 板材(板材)
24 板材(板材)
28 板材(板材)
30 板材(板材)
34 板材(板材)
38 板材(板材)
44 相手板(相手板材)
48 相手板(相手板材)
52 相手板(相手板材)
56 相手板(相手板材)
60 相手板(相手板材)
65 締付板(締付部材)
66 締付板(締付部材)
68 滑り材(滑り材)
70 長穴(長穴)
72 貫通孔(板穴部)
74 PC鋼棒(PC鋼棒)
100 建物
120 接続板(一の建築構造体)
122 接続板(他の建築構造体)
126 接続板(一の建築構造体)
128 接続板(他の建築構造体)
130 摩擦ダンパーユニット(摩擦ダンパーユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて積層され一の建築構造体に取付けられる複数の板材と、
前記板材の長手方向に所定間隔で形成され、締付部材が挿通される板穴部と、
前記板穴部の穴芯を中心とした所定の範囲を被うように前記板材に固定された滑り材と、
前記間隔へ挿入されて前記滑り材に当接され、前記一の建築構造体と相対移動する他の建築構造体に取付けられる複数の相手板材と、
前記相手板材に形成され、前記板穴部へ挿通された前記締付部材と相対移動可能な長穴と、
積層された前記板材の最外部から突出した前記締付部材の両端部に設けられ、前記締付部材の締付力で前記板材と前記相手板材を圧着させる一対の締付板と、
を有することを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項2】
前記締付部材が、前記締付板をナットと共に締付けるPC鋼棒であり、
前記PC鋼棒の軸方向の前記滑り材が被う所定の範囲と前記締付板の投影位置が一致することを特徴とする請求項1に記載の摩擦ダンパー。
【請求項3】
前記滑り材は所定の間隔をおいて、前記板材に固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦ダンパー。
【請求項4】
前記滑り材が被う所定の範囲は、前記板穴部の穴芯を中心とした、一辺の長さが100mm以上145mm以下の四角形又は一辺の長さが100mm以上145mm以下の四角形に内接する円形から、前記長穴に相当する部分を除いた範囲であり、前記締付板は、厚さ22mm以上30mm以下の角型または丸型の板であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の摩擦ダンパー。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の摩擦ダンパーが、同一面上に並列配置されたことを特徴とする摩擦ダンパーユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−2119(P2009−2119A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166778(P2007−166778)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】