説明

摩擦圧接方法

【課題】異なる熱容量を有する接合部材同士を接合する場合に、十分な接合品質を確保することのできる摩擦圧接方法を提供する。
【解決手段】異なる熱容量を有するアクスル10とスピンドル20同士をインサート部材33によって同一の回転数で摩擦しても、スピンドル20側を温度調整することによって、アクスル10の突き合わせ面12とスピンドル20の突き合わせ面25との間の温度に差が生じることを防止する。その結果、接合後の冷却段階において、接合部分に応力が残留することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一の接合部材の端部と、他の接合部材の端部との突き合せ部分を、回転によって発生する摩擦熱を用いて接合する摩擦圧接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摩擦圧接方法として、一の円柱状の接合部材の端部と、他の円柱状の接合部材の端部との突き合せ部分に円板状の回転体を配置し、当該回転体を回転させることによって発生する摩擦熱を用いて、接合部材同士を接合するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−224856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した摩擦圧接方法にあっては、同一の摩擦熱を発生させた場合、熱容量が小さい接合部材ほど温度が高くなるため、異なる熱容量を有する接合部材同士を同一の回転数で摩擦すると、一方側の温度が高くなり、突き合せ部分において接合部材間の温度に差が生じる。そして、接合部材間の温度に差がある状態で接合させた場合、接合後の冷却段階において、接合部分に応力が残留してしまう場合があった。このような残留応力は、接合部材の接合品質に影響を与えると考えられる。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、異なる熱容量を有する接合部材同士を接合する場合に、十分な接合品質を確保することのできる摩擦圧接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る摩擦圧接方法は、互いに熱容量が異なる一の接合部材と他接合部材との突き合せ部分を回転によって発熱する摩擦熱を用いて接合する摩擦圧接方法であって、接合部材の少なくとも一方の温度を温度調整手段によって調整しながら回転体を回転させることを特徴とする。
【0006】
このような摩擦圧接方法によれば、異なる熱容量を有する接合部材同士を同一の回転数で摩擦しても、接合部材の一方側を温度調整することによって、突き合せ部分における接合部材間の温度に差が生じることを防止することができる。その結果、接合後の冷却段階において、接合部分に応力が残留することを防止でき、これによって、異なる熱容量を有する接合部材同士を接合する場合に、十分な接合品質を確保することができる。
【0007】
また、突き合せ部分に回転体として円板状のインサート部材を配置することが好ましい。この場合、いずれの接合部材も回転させることなく、インサート部材のみを回転させることで摩擦熱を発生させることができる。これによって、双方の接合部材を温度調整手段で調整することができ、突き合せ部分における接合部材間の温度に差が生じることを一層効果的に防止することができる。
【0008】
また、温度調整手段は、熱容量が小さい方の接合部材の外周面を冷却する冷却手段であることが好ましい。この場合、熱容量が小さく、突き合せ部分の温度が高くなり易い方の接合部材の外周面を冷却することによって、外周面と突き合わせ部分との間で熱を伝達させ、突き合せ部分を間接的に冷却することができる。
【0009】
また、温度調整手段は、熱容量が大きい方の接合部材の外周面を加熱する加熱手段であることが好ましい。この場合、熱容量が大きく、突き合せ部分の温度が低くなり易い方の接合部材の外周面を加熱することによって、外周面と突き合わせ部分との間で熱を伝達させ、突き合せ部分を間接的に加熱することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異なる熱容量を有する接合部材同士を接合する場合に、十分な接合品質を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態において、「上」、「下」等の語は、図面に示される状態に基づいており、便宜的なものである。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る摩擦圧接方法によって接合部材が接合される様子を示す斜視図であり、図2は、図1に対応する縦断面図である。本実施形態では、接合部材として、図1及び図2に示すように、鉄道車両で用いられる台車の一部分(図示せず)やトレーラー等のアクスル10とスピンドル20を例示する。アクスル10は、クロムモリブデン鋼からなる全長1800mm程度の円筒状の部材であり、外径は170mm程度で、肉厚は10mm程度とされている。アクスル10は端部11側の端面を突き合せ面(突き合せ部分)12として、スピンドル20と突き合せる。
【0013】
スピンドル20は、突き合せ方向の逆側へ向かって外径が小さくされた、全長350mm程度の中空の部材であり、アクスル10と同じくクロムモリブデン鋼からなる。スピンドル20は、円筒状の大径部22と、円筒状の小径部23と、大径部22及び小径部23同士を接続する拡大部24とから構成されており、端部21側の端面、すなわち大径部22の端面を突き合せ面(突き合せ部分)25としてアクスル10と突き合せる。大径部22は、アクスル10の外径と同径とされ、10mm程度の肉厚を有する。小径部23は、80mm程度の外形で10mm程度の肉厚を有し、大径部22と同軸に延在する。拡大部24は、小径部23から大径部22へ向かって外径と内径が徐々に拡大するように形成されている。なお、小径部23の軸方向の長さは、大径部22及び拡大部24の軸方向の長さよりも長くされており、大径部22及び拡大部24は端部21側の一部のみに形成されることとなる。
【0014】
アクスル10の突き合せ面12とスピンドル20の突き合せ面25は、いずれも同径の円環をなし、互いに形状が一致する。しかし、アクスル10の全長は、スピンドル20に比して数倍の大きさとされているため、スピンドル20の全体としての熱容量はアクスル10の全体としての熱容量に比して小さくなる。特に、スピンドル20のうち、アクスル10と同径の大径部22が形成されているのは端部21側の一部のみであり、他の部分は小径部23で占められているため、突き合せ面付近のみの熱容量について比較した場合であっても、スピンドル20の熱容量はアクスル10の熱容量に比して小さくなる。
【0015】
アクスル10はホルダ31で固定され、スピンドル20は小径部23においてホルダ32で固定されている。
【0016】
アクスル10の突き合せ面12とスピンドル20の突き合せ面25との間には、板厚15mm程度のクロムモリブデン鋼からなる円板状のインサート部材(回転体)33が配置される。インサート部材33は、側面がホルダ(不図示)で固定される共に、当該ホルダがベルト等で回転されることによって、中心軸周りに回転可能とされる。インサート部材33の一方の回転面33aはアクスル10の突き合せ面12との間で摩擦熱を発生させ、他方の回転面33bはスピンドル20の突き合せ面25との間で摩擦熱を発生させる。
【0017】
スピンドル20の大径部22には、外部へ熱を放出してスピンドル20を冷却するためのヒートシンク(温度調整部材、冷却手段)34が取り付けられる。ヒートシンク34は、大径部22の外周面27に取り付けられた取付板36と、取付板36に設けられた複数の放熱板37から構成される。取付板36は、大径部22の外周面27の径に合わせて曲げられている。放熱板37は、突き合せ面12,25と平行に広がる板厚1mm程度のアルミ板からなり、突き合せ方向へ向かって所定の間隔でそれぞれ配置される。
【0018】
大径部22にヒートシンク34が取り付けられることによって、突き合せ面25で発生した摩擦熱の一部が大径部22における外周面27を介してヒートシンク34へ伝達されると共に、ヒートシンク34から外部へ放出される。これによって、突き合せ面25から摩擦熱が奪われ、間接的に冷却される。
【0019】
次に、本実施形態に係る摩擦圧接方法の手順を説明する。
【0020】
まず、アクスル10及びスピンドル20をそれぞれホルダ31,32で固定し、インサート部材33をホルダに固定してアクスル10の突き合せ面12とスピンドル20の突合せ面25との間に配置する。その後、ホルダ31,32を移動させることによって、アクスル10及びスピンドル20同士を突き合せる。このとき、突き合せ面12,25の中心とインサート部材33の回転中心は一致させる。
【0021】
アクスル10及びスピンドル20同士を突き合せた後、インサート部材33を回転数500rmpで回転させつつ、ホルダ31,32を突き合せ方向へ移動させることによって、アクスル10の突き合せ面12をインサート部材33の回転面33aで摩擦すると共に、スピンドル20の突き合せ面25を回転面33bで摩擦する。まず、それぞれの突き合せ面12,25に1.2kgf/mmの圧力(予熱圧力)を付与して10秒間摩擦することにより、突き合せ面12,25及び回転面33a,33b内で予熱を発生させる。次に、それぞれの突き合せ面12,25に2.4kgf/mmの圧力(摩擦圧力)を付与して30秒間摩擦することにより、突き合せ面12,25及び回転面33a,33bの温度を接合に必要な温度まで上昇させる。最後に、インサート部材33の回転を急停止し、それぞれの突き合せ面12,25に6.0kgf/mmの圧力(アップセット圧力)を付与して8.5秒間突き合せることにより、インサート部材33を介してアクスル10及びスピンドル20同士を接合する。
【0022】
アクスル10及びスピンドル20同士を接合した後、ホルダ31,32から取り外し、ヒートシンク34を大径部22の外周面27から取り外す。また、インサート部材33のうち、外周面27より外側にはみ出した部分を切断する。
【0023】
以上のように、本実施形態に係る摩擦圧接方法では、異なる熱容量を有するアクスル10とスピンドル20同士をインサート部材33によって同一の回転数で摩擦しても、スピンドル20側を温度調整することによって、アクスル10の突き合わせ面12とスピンドル20の突き合わせ面25との間の温度に差が生じることを防止することができる。その結果、接合後の冷却段階において、接合部分に応力が残留することを防止でき、これによって、異なる熱容量を有するアクスル10及びスピンドル20同士を接合する場合に、十分な接合品質を確保することができる。
【0024】
また、この摩擦圧接方法では、突き合せ面12,25の間に回転体として円板状のインサート部材33を配置しているため、アクスル10とスピンドル20のいずれも回転させることなく、インサート部材33のみを回転させることで摩擦熱を発生させることができる。これによって、双方の温度をヒートシンク34などの温度調整手段で調整することができ、突き合せ面12,25間の温度に差が生じることを一層効果的に防止することができる。
【0025】
また、この摩擦圧接方法では、熱容量が小さく、突き合せ面の温度が高くなり易い方のスピンドル20の外周面27を冷却することによって、外周面27と突き合わせ面25との間で熱を伝達させ、突き合せ面25を間接的に加熱することができる。
【0026】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、温度調整手段として、熱容量が大きい方のアクスル10の外周面17にレーザビームを照射することによって加熱するレーザ照射装置などの加熱手段を用いてもよい。この場合、熱容量が大きく、突き合せ面の温度が低くなり易い方のアクスル10の外周面17を冷却することによって、外周面17と突き合わせ面12との間で熱を伝達させ、突き合せ面12を間接的に加熱することができる。なお、加熱手段として、ガスバーナや誘導加熱器を用いてもよい。
【0027】
また、接合部材は、異なる熱容量を有するもの同士であればアクスル10、スピンドル20に限定されない。突合せ面の形状についても、円環状に限られず矩形状のものであってもよい。
【0028】
また、インサート部材33は必ずしも用いなくてよい。この場合、例えばアクスル10とスピンドル20とを直接接触させ、アクスル10を回転させることによって接合させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る摩擦圧接方法によって接合部材が接合される様子を示す斜視図である。
【図2】図1に対応する縦断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10…アクスル(接合部材)、12…突き合せ面(突き合せ部分)、17,27…外周面、20…スピンドル(接合部材)、25…突き合せ面(突き合せ部分)、33…インサート部材(回転体)、34…ヒートシンク(温度調整部材、冷却手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに熱容量が異なる一の接合部材と他接合部材との突き合せ部分を回転によって発熱する摩擦熱を用いて接合する摩擦圧接方法であって、
前記接合部材の少なくとも一方の温度を温度調整手段によって調整しながら回転体を回転させることを特徴とする摩擦圧接方法。
【請求項2】
前記突き合せ部分に回転体として円板状のインサート部材を配置することを特徴とする請求項1記載の摩擦圧接方法。
【請求項3】
前記温度調整手段は、熱容量が小さい方の前記接合部材の外周面を冷却する冷却手段であることを特徴とする請求項1又は2記載の摩擦圧接方法。
【請求項4】
前記温度調整手段は、熱容量が大きい方の前記接合部材の外周面を加熱する加熱手段であることを特徴とする請求項1又は2記載の摩擦圧接方法。

【図1】
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【図2】
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