説明

摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造、摩擦撹拌接合装置、及び摩擦撹拌接合設備

【課題】接合後に接合対象物から工具を引抜く時に前記工具が保持手段から外れることがなく、かつ接合対象物に対する工具の押圧力を所望の値に制御することが容易な摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造を提供する。
【解決手段】回転ツール保持具37は、その一端部がFSJガン本体26に取り付けられる。他端部には、嵌合孔部61を有すると共にその周面に前記一端部と反対側に開口する複数の取付け通路60が周方向に間隔をあけて形成される。取付け具38は、複数のピン部材67を有し、ピン部材を取付け通路60の開口から先端部分まで移動させて嵌め込むことで前記ツール保持具に取付けられる。取付け具には、回転ツール33が挿通されている。回転ツールは、一端部に形成される取合い部が前記保持手段の嵌合孔部に嵌合されている。さらに取付け具には、ピン部材が先端部分から離脱しないように回転ツール保持具を付勢する付勢手段69が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合装置の工具を摩擦撹拌接合装置本体に取付けるための摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造、それを有する摩擦撹拌接合装置及び摩擦撹拌接合設備に関する。
【背景技術】
【0002】
図16は、第1の従来技術の回転ツール保持具1を示す断面図である。従来の技術の摩擦撹拌接合装置である摩擦撹拌接合ガン(以下、「FSWガン」という)は、ガンアダプタを介して、ロボットの先端部に装着される。このFSWガンは、C字状の支持フレームを有する。この支持フレームの一端部には、図示しない固定ツール保持具が設けられ、また支持フレームの他端部には、回転ツール保持具1が設けられている。
【0003】
回転ツール保持具1は、回転ツール2を保持するためのものである。この回転ツール保持具1は、FSWガンの駆動軸に固定され、テーパ状の内周面が形成される回転基台3と、回転基台3に嵌まり込んで保持され、テーパ状の外周面が形成されるチャック部材4と、チャック部材4に着脱可能に連結されて回転基台3に螺着される操作片5とを有する。回転基台3に対して操作片5を回転させて軸方向に変位させることによって、チャック部材4の内径を変化させることができる。
【0004】
この回転ツール保持具1は、チャック部材4内に回転ツール2の円筒状の軸部6を挿入し、操作片5を手作業で回転させてチャック部材4の内径を収縮させることで、回転ツール2を把持する。このように把持することにより、回転ツール2は、回転基台3と共に回転し、摩擦撹拌接合後に接合対象物と接合された回転ツール2を接合対象物から引き抜くことが可能となる。
【0005】
このような回転ツール保持具1は、操作片5の手動操作によって、回転ツール2を着脱することができるように構成され、回転ツール2が摩耗した場合などに、交換することができる。(例えば特許文献1および特許文献2参照)
摩擦撹拌接合では、接合対象物の部位の形状及び材質に応じて回転ツール2を交換する必要がある。第1の従来技術のように回転ツール2を手作業で行うことは、極めて効率が悪いので、機械操作によって自動的に回転ツール2を交換できるツールチェンジャの開発が望まれている。そして1つとして第2の従来技術のようなロボット先端のロボットハンドに取付けられたグリップを機械操作によって自動的に交換できる装置を適用することが考えられる。
【0006】
図17には、第2の従来技術の取付け構造におけるロボットハンド10とグリップ15とを示す断面図である。ロボットハンド10は、円筒状の上下送り軸11と、上下送り軸11内に回動可能に収容された有底円筒状の回転軸12と、前記回転軸12内にコイルスプリング13によって下方に付勢されて収容されたグリップ押さえ14とを備えている。また回転軸12は、下方に開口しており、その下端には、鉤状の溝部12aが複数形成されている。
【0007】
グリップ15は、前記回転軸12内に嵌合するシャンク16を有し、このシャンク16の周面には、前記複数の溝部12aに対応させて複数のローラ17が設けられている。そしてシャンク16の下端には、プレート18が設けられており、このプレート18が収納ベース19に設けられた位置決めピン19aにより位置決めされて、収納ベース19に載置されている。
【0008】
グリップ15をロボットハンド10に装着する際、まず上下送り軸11を下方に移動させ、各ローラ17を各溝部12aの開口に挿入しつつシャンク16を回転軸12に挿入する。更に上下送り軸11の上下動及び回転軸12の回動を組み合わせて、各ローラ17を各溝部12aの先端部分へと移動させて嵌めこむ。先端部分に嵌まり込んだ各ローラ17は、シャンク16がグリップ押さえ14により下方に押圧されているため、その先端部分からの離脱が阻止される。これによりグリップ15がロボットハンド10に自動的に装着される。(例えば特許文献3参照)
【特許文献1】特開2001−314982号公報
【特許文献2】特開2002−137067号公報
【特許文献3】特開昭55−151489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
摩擦撹拌接合では、回転基台3を介して回転ツール2を接合対象物に押し付けながら接合対象物を撹拌する必要があり、その押付力は、図示しない制御装置により所望の値になるように制御されている。第2の従来技術の取付け構造を第1の従来技術の摩擦撹拌接合装置の適用した場合、回転ツール保持具1はグリップ押さえ14を介してグリップ15に相当する回転ツール2を下方に押圧する。これにより回転ツール保持具1から回転ツール2に与える押付力がコイルスプリング14により吸収されてしまう。そのため回転ツール2を所望の押付力で押し付けるためには、グリップ押え14に付勢される付勢力をも考慮しなければならない。グリップ押え14に付勢される付勢力をも考慮すると、接合対象物に対する回転ツール2の押付力の制御が複雑となる。
【0010】
本発明の目的は、摩擦撹拌接合後に接合対象物から工具を引抜く時に前記工具が保持手段から外れることがなく、かつ接合対象物に対する工具の押圧力を所望の値に制御することが容易な摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造、それを備える摩擦撹拌接合装置及びそれ備える摩擦撹拌接合設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造は、摩擦撹拌接合装置の工具を摩擦撹拌接合装置本体に取付けるための摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造であって、一端部が前記摩擦撹拌接合装置本体に取り付けられ、他端部の周面において、前記一端部と反対側に開口する開口端を有する複数の取付け通路が周方向に間隔をあけて形成される保持手段と、前記取付け通路の開口端から挿入される複数の取付け部材を有し、これら複数の取付け部材が前記取付け通路を移動して前記取付け通路の先端部分にそれぞれ嵌まり込むことで前記保持手段の他端部に取付けられる取付け手段と、前記取付け手段に設けられ、一端部が保持手段の他端部に当接し、かつ他端部に摩擦撹拌部を有する工具とを有し、前記取付け手段には、前記各取付け部材が前記先端部分から離脱しないように前記保持手段をその一端部側に付勢する付勢手段が設けられることを特徴とするものである。
【0012】
本発明に従えば、摩擦撹拌接合後に接合対象物から工具を引抜く際、工具と接合対象物とがくっついてしまっているが、このような状態でも前記工具に複数の取付け部材が先端部分から離脱することなく工具を引き抜くことができる。つまり摩擦撹拌接合後に接合対象物から工具を引抜く際、前記工具が保持手段から外れることがない。それ故、連続して摩擦撹拌接合を行うことができる。
【0013】
また本発明では、保持手段と工具とが当接しているので、摩擦撹拌接合において保持手段により工具をして工具を接合対象物に押し付ける際、保持手段と工具との間には相対変位が生じない。そのため保持手段との間にも相対変位が生じず、工具を接合対象物に押付けても、付勢手段から保持手段に与えられる付勢力も変化しない。それ故、工具の接合対象物に対する押付力を所望の値に制御する際、前記付勢手段の付勢力を考慮する必要がなく、前記押付力を所望の値に制御することが容易である。
【0014】
また付勢手段を取付け手段に設けることで、保持手段の構成が簡単になる。そして保持手段を摩擦撹拌接合装置本体に取付けたままにすることができる。これにより工具を交換する際、保持手段を摩擦撹拌接合装置に取付ける作業を省くことができる。また工具の取付けが、複数の取付け部材を各取付け通路の開口端から先端部まで移動させる動作を行うことで実現できる。従って工具の取付けが容易である。
【0015】
上記発明においては、前記保持手段の他端部には、嵌合孔部が形成され、前記工具の一端部には、取合い部が形成され、前記嵌合孔部に前記取合い部を嵌合することで、前記保持手段と工具とが互いに当接することが好ましい。本発明に従えば、嵌合孔部に取合い部を嵌合させることで、回転軸に対して直交する方向への位置ズレを抑制し、所望の位置での接合を可能にする。
【0016】
上記発明においては、前記保持手段の嵌合孔部は、その少なくとも一部に前記工具の回転軸周りにおいてテーパ状に形成されたテーパ部分を有し、前記工具の取合い部は、その少なくとも一部に前記工具の回転軸周りにおいて前記嵌合孔部に対応するテーパ状に形成された調芯部を有することが好ましい。
【0017】
本発明に従えば、嵌合孔部のテーパ部分に取合い部の調芯部を嵌合することによって、前記テーパ部分への調芯部の挿入が容易であると共に、工具の軸と保持手段の軸とが調芯される。これにより所望の位置に工具を押し付けて回転させることができ、所望の位置と実際の接合位置とのズレを少なくすることができる。また回転軸に沿う方向の荷重を面全体で受けることができる。
【0018】
上記発明においては、前記保持手段の嵌合孔部は、その少なくとも一部に前記回転軸に沿う方向に見て非円形状に形成された非円形部分を有し、前記工具の取合い部は、その少なくとも一部に前記嵌合孔部の非円形部分に対応する非円形状に形成された回動阻止部を有することが好ましい。
【0019】
本発明に従えば、嵌合孔部の非円形部分に取合い部の回動阻止部が嵌合する。これにより保持手段と工具とがすべることなく、保持手段の回動力が回動阻止部を介して工具に伝達される。第2の従来の技術では、ロボットハンドに対してグリップを回動させる際、ロボットハンドの回動力はローラを介してグリップに与えられている。そのためローラに大きな荷重が作用する。これに対し本発明では、回動阻止部で保持手段の回動力を受けることができるので、取付け部材に大きな負荷が作用しない。これによって取付け部材の破損を防ぐことができる。また保持手段と工具とがすべらないので、保持手段からの回動力を工具に確実に伝達することができる。これによって保持手段と工具とがすべることを想定して、摩擦撹拌接合装置本体が保持手段に対し余剰な回動力を与える必要がなく、摩擦撹拌接合装置本体の出力を小さくすることができる。
【0020】
上記発明においては、前記複数の取付け通路は、前記開口端及び先端部分に接続し周方向に伸びる回動案内溝部を有する鉤形状に形成され、互いに隣接する前記取付け通路の前記回動案内溝部は、互いに接続されていることが好ましい。
【0021】
本発明に従えば、取付け部材を取付け通路の開口端から先端部分まで移動させる際、取付け部材を開口端に挿入して回動案内溝部まで移動させた後、保持手段を回動させることで取付け部材が回動案内溝部内を移動する。そしてその後、取付け部材を先端部分に嵌め込む。互いに隣接する取付け通路の回動案内溝部が互いに接続されることにより、保持手段を過剰に回動させても、取付け部材が前記回動案内溝部に衝突することがない。
【0022】
本発明の摩擦撹拌接合装置は、上記発明のうちの何れか1つの摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造と、前記摩擦撹拌接合装置本体とを備えるものである。本発明に従えば、上記のような摩擦撹拌接合装置を実現することができる。
【0023】
本発明の摩擦撹拌接合設備は、上記発明の摩擦撹拌接合装置と、前記保持手段の回動及び移動を制御する制御装置と前記工具が挿通された前記取付け手段を載置可能な工具交換装置とを備え、前記取付け手段及び前記工具交換装置は、前記工具交換装置に対して前記取付け手段が前記工具の回転軸まわりに回転不能に載置されているものである。
【0024】
本発明に従えば、まず工具が挿通された状態で前記取付け手段が載置された工具交換装置の取付け手段が載置された側に保持手段を配置する。次に制御装置は、保持手段を取付け手段に向って移動させて、保持手段の嵌合孔部に工具の取合い部を嵌合させると共に、各取付け部材を各取付け通路の開口端に挿入させる。その後、制御装置は、保持手段を移動及び回動させる。このとき取付け手段が交換装置に対して回転軸まわりに回転不能に載置されているため、保持手段と取付け手段とが共回りせずに保持手段だけを回動させることができる。これにより複数の取付け部材を取付け通路の先端部分まで移動させることができ、保持手段に取付け手段が取付けられる。交換装置を用いることにより、このような方法で工具の自動装着を行うことができる。また前記方法とは逆に動かすことによって、工具の自動離脱が可能となる。このように交換装置を用いることにより、工具の自動装着及び自動取外し、つまり工具の自動交換が可能となる。
【0025】
上記発明においては、前記工具交換装置は、基台と、前期取付け手段を載置可能な載置台と、前記基台が前記一端部に設けられ、前記基台に対し近接離隔可能に前記載置台が他端部に設けられた支持手段と、前記載置台を前記基台から離反する方向に向って付勢する載置台付勢手段と、前記載置台の前記基台に近接する方向の変位が予め定められた許容範囲以上か否かを検出する検出手段とを備え、前記制御装置は、前記検出手段の検出結果に応じて保持手段の移動を停止することが好ましい。
【0026】
本発明に従えば、保持手段に交換装置に載置された取付け手段を取付ける際、載置台に対して基台に向かう大きな荷重が作用しても、載置台を基台に近接する方向に変位させることにより前記荷重を付勢手段により吸収することができる。
【0027】
また本発明では、載置台の変位が予め定められた許容範囲以上になると、そのことを検出手段が検出する。制御装置は、この検出結果に応じて保持手段の移動を停止する。これにより工具を自動交換する際、載置台、取付け手段及び保持手段に大きな荷重が作用することを防いでいる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、摩擦撹拌接合後に接合対象物から工具を引抜く時に前記工具が保持手段から外れることがなく、かつ接合対象物に対する工具の押付力を所望の値に制御することが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、本発明の実施の一形態の摩擦撹拌接合設備21を示す正面図である。摩擦撹拌接合設備21は、ロボット22と、ロボット22の先端部25に設けられる摩擦撹拌接合ガン23と、ツールチェンジャ80とを含んで構成される。
【0030】
ロボット22は、汎用ロボットなどと呼ばれる多軸ロボット、本実施の形態では6軸ロボットであって、工場の床などの設置対象24に設置される。このロボット22は、その先端部25を、互いに直交する3軸方向に変位させることができるとともに、前記互いに直交する3軸まわりに角変位させることができるように構成されている。このロボット22の先端部25に摩擦撹拌接合ガン23(以下、「FSJガン」という)が設けられている。従ってロボット22は、摩擦撹拌接合ガン23を前記互いに直交する3軸方向に変位することができるとともに、前記互いに直交する3軸まわりに角変位することができる。このように構成されるロボット22の前記互いに直交する3軸方向に変位及び前記互いに直交する3軸まわりに角変位は、制御装置39によって制御されている。
【0031】
摩擦撹拌接合装置であるFSJガン23は、複数の接合対象物を摩擦撹拌接合するための装置である。FSJガン23は、工具である回転ツール33を、複数の接合対象物の少なくともいずれか一方に当接させて高速で回転させることにより複数の接合対象物の一部を軟化させて流動させて複数の接合対象物を接合する装置である。このFSJガン23は、FSJガン本体26と、回転ツール保持具37と、回転ツール33を備える回転ツールユニット34(図2参照)を有する。またFSJガン本体26は、支持フレーム27と、固定ツール保持具28と、回転ツール装着具29と、回転駆動手段30と、スライド駆動手段31とを有する。
【0032】
支持フレーム27は、大略的にC字状に形成される。この支持フレーム27が、ガンアダプタ32を介して、ロボット22の先端部25に固定される。固定ツール保持具28は、支持フレーム27において、支持フレーム27のロボット22に固定される部位から遠い側の端部である一端部に設けられる。この固定ツール保持具28は、支持フレーム27に固定されており、固定ツール35を着脱自在に保持する。固定ツール35は、固定ツール保持具28に保持された状態で、その軸が予め定める基準軸L0と一致するように配置され、支持フレーム27に対する相対変位が阻止されて固定的に設けられる。
【0033】
回転ツール装着具29は、支持フレーム27において、支持フレーム27のロボット22に固定される部位に近い側の端部である他端部に、固定ツール保持具28に対向するように設けられる。この回転ツール装着具29は、回転ツール保持具37を把持する回転基台40を有する。回転ツール保持具37は、回転ツールユニット34を保持可能に構成されている。従って、回転ツールユニット34を保持する回転ツール保持具37を回転基台40によって把持することで、前記回転ツールユニット34を回転ツール装着具29に装着することができる。
【0034】
支持フレーム27には、駆動軸36が設けられ、この駆動軸36の一端部に回転基台40が固定されている。駆動軸36は、その軸を基準軸L0と一致させて、回転軸である基準軸L0まわりに回転可能にかつ基準軸L0に沿ってスライド変位可能に設けられている。なおこの基準軸L0に平行な方向が回転軸方向Zである。この駆動軸36の回転及び変位に伴って、回転基台40が基準軸L0まわりに回転し、また回転軸方向Zに変位する。そしてこの回転基台40に回転ツール保持具37が保持される。回転ツール保持具37は、そこに保持された回転ツールユニット34の回転ツール33の軸が基準軸L0と一致するように配置される。これにより駆動軸36を回転させることで回転ツール33が回転軸である基準軸L0まわりに回転し、また駆動軸36を変位させることで回転ツール33が回転軸方向Zに変位する。
【0035】
回転駆動手段30は、サーボモータによって実現される回転駆動源41と、回転駆動源41から駆動軸36に駆動力を伝達する回転伝達機構42とを有する。この回転駆動手段30は、回転駆動源41から出力される回転駆動力を回転伝達機構42によって駆動軸36に伝達し、駆動軸36を基準軸L0まわりに回転駆動する。これによって回転ツール保持具37を介して回転基台40に装着された回転ツールユニット34が基準軸L0まわりに回転駆動する。
【0036】
スライド駆動手段31は、サーボモータによって実現されるスライド駆動源43と、スライド駆動源43から駆動軸36に駆動力を伝達するスライド伝達機構44とを有する。このスライド駆動手段31は、スライド駆動源43から出力される回転駆動力を、スライド伝達機構44によって回転軸方向Zへのスライド変位駆動力に変換して駆動軸36に伝達する。これによって駆動軸36が回転軸方向Zにスライド変位する。駆動軸36がスライド変位することにより、回転ツール保持具37を介して回転基台40に装着された回転ツールユニット34が回転軸方向Zに変位する。回転駆動手段30及びスライド駆動手段31は、ロボット22と共に制御装置39に電気的に接続されており、制御装置39により制御される。これにより制御装置39は、回転ツール保持具37の回動及び移動を制御すると共に、回転ツール33の回転及び移動を制御するように構成される。
【0037】
このような構成を有するFSJガン23は、回転駆動手段30により回転ツール33を回転させた状態で、スライド駆動手段31により回転ツール33を固定ツール35に向って変位させる。そして接合対象物の接合位置に回転ツール33を約600kgfの荷重で押付けることにより、前記接合位置の部分が軟化して流動し、そして接合される。この接合位置は、ロボット22を駆動してロボット22の先端に設けられたFSJガン23を変位及び角変位させることにより変えることができる。
【0038】
ツールチェンジャ80は、回転ツール33をFSJガン本体26に着脱するために用いられる装置である。このツールチェンジャ80は、FSJガン本体26と協働することにより回転ツール33の自動交換を実現する。ツールチェンジャ80は、ロボット22が設置される設置対象24に設置される。
【0039】
図2は、FSJガン23の回転ツール装着具29に回転ツールユニット34を装着した状態を示す断面図である。回転ツール装着具29は、支持基台45と、回転基台40と、チャック部材51と、操作片52とを含んで構成される。支持基台45は、支持フレーム27(図1参照)に回転軸方向Zにスライド変位可能に支持されている。この支持基台45には、内方にボールベアリングによって実現される軸受手段46が収容されている。この軸受手段46内には、軸を基準軸L0と一致させた回転基台40が部分的に嵌り込むように設けられている。そのため回転基台40は、基準軸L0まわりに回転可能に支持基台45に保持される。また回転基台40は、回転軸方向Zのスライド変位が阻止された状態で支持基台45に設けられ、駆動軸36側の端部である回転軸方向一端部に形成される連結部47で駆動軸36に連結される。
【0040】
また回転基台40は、固定ツール保持具28側の端部である回転軸方向他端部に、固定ツール保持具28に向って開口する有底筒状の装着孔部48が形成される。装着孔部48の内周面は、開口端から離れるに従って縮経するテーパ状に形成されており、そこにチャック部材51が嵌まり込んでいる。
【0041】
チャック部材51は、円筒形状を有し、その外周面が回転軸方向一端から他端に向かうに従って縮経するテーパ状に形成されている。またこの外周面の形状は、装着孔部48の内周面の形状に略一致するように形成されている。そしてチャック部材51の一端部には、操作片52が着脱可能に連結されている。この操作片52は、回転基台40の開口端部に螺着されており、回転することで回転軸方向一方Z1に変位することができる。この操作片52を回転させて回転軸方向一方Z1に変位させることで、チャック部材51が回転基台40を回転軸方向一方Z1に摺動変位する。これによりチャック部材51の内径が収縮する。チャック部材51は、回転ツール保持具37の一端部を挿通可能に構成されており、回転ツール保持具37を挿通させた状態でチャック部材51の内径を収縮させることで、回転ツール保持具37がチャック部材51に締め付けられて保持される。なお回転軸方向一方Z1とは、回転ツール保持具37から駆動軸36に向う方向であり、図2の紙面上方向に相当する。そして回転軸方向他方Z2は、回転軸方向一方Z1の反対方向に相当する。
【0042】
図3は、回転ツール保持具37に回転ツールユニット34を取付けた状態を示す斜視図である。図4は、回転ツール保持具37及び回転ツールユニット34の分解斜視図である。回転ツール保持具37は、その回転軸方向他端部に回転ツールユニット34が取付けられ、回転ツールユニット34をFSJガン本体26に着脱可能に保持するものである。
【0043】
図5は、回転ツール保持具37を拡大して示す側面図である。図6は、回転ツール保持具37を拡大して示す底面図である。以下、図2も参照しつつ説明する。保持手段である回転ツール保持具37は、軸部55と取付け部56とを有する。軸部55は、チャック部材51に装着すべくチャック部材51に挿通可能な円柱形状に形成されている。装着具55の軸線方向一端部には、取付け部56が一体的に設けられている。
【0044】
取付け部56は、装着具55より大径の円板形状に形成され、その軸が軸部55の軸と一致している。取付け部56の外周部は軸部55側の端部である軸線方向一端部がその周方向全周にわたって軸線方向に切欠かれている。それによって取付け部56の外周部にその周方向全周にわたって伸びる回動案内溝部57が形成される。更に取付け部56の外周部には、その周方向に等間隔をあけて複数の挿入溝部58が形成され、これら挿入溝部58の間には、係合凹部59がそれぞれ形成されている。実施の形態では、挿入溝部58及び係合凹部59は、前記取付け部56の外周部において、その周方向90度間隔で4つ形成されている。そして隣接する挿入溝部58と係合凹部59とは、周方向に45度間隔で形成されている。ただしこれらの記載は、このような間隔に限定するものではない。
【0045】
挿入溝部58は、取付け部56の軸線方向一端から他端まで貫通している。そのため前記挿入溝部58は、一端が回動案内溝部57に接続され、他端が回動案内溝部57と反対側に開口している。また係合凹部59は、一端が回動案内溝部57に接続され、そこから取付け部56の軸線方向中間部まで伸びている。そのため係合凹部59の他端部は閉口している。このように形成された回動案内溝部57、挿入溝部58及び係合凹部59は、互いに隣接する挿入溝部58及び係合凹部59と、回動案内溝57におけるこれら挿入溝部58及び係合凹部59に挟まれた部分とによって、鉤状の取付け通路60(図5の2点鎖線参照)が規定される。
【0046】
また回転ツール保持具37の取付け部56側の端部である軸線方向他端部には、その軸線周りにおいて嵌合孔部61(図2も参照)が形成されている。この嵌合孔部61は、前記一端部から軸部55にまで達しており、回転ツール保持具37の一端側と他端側とで形状が異なっている。嵌合孔部61は、回転ツール保持具37の一端側が回転ツール保持具37の一端に向うにつれて縮径するテーパ形状になり、他端側が非円形状、本実施の形態では正方形状になるように形成されている。即ち嵌合孔部61は、前記一端側にテーパ状のテーパ部分62を有し、前記他端側に非円形部分である正方形部分63を有する。なお他端側の非円形状については、例えば楕円形、矩形、星型であってもよい。
【0047】
このように構成された回転ツール保持具37では、軸部55の一部分がチャック部材51に挿通される。そして操作片52が回動し回転軸方向他方Z2に変位することで、前記軸部55がチャック部材51に締め付けられる。これにより回転ツール保持具37の一端部がFSJガン本体26に保持されて装着される。このとき回転ツール保持具37は、軸部55の軸が基準軸L0に一致するように回転ツール装着具29に装着される。これにより回転ツール保持具37の軸と回転ツール装着具29の軸とが、基準軸L0に一致する。このようにして装着される回転ツール保持具37の他端部、すなわち取付け部56には、回転ツールユニット34が取付けられる。
【0048】
図7は、回転ツールユニット34を拡大して示す拡大断面図である。図8は、回転ツールユニット34を拡大して示す平面図である。以下では、図2乃至4も参照しつつ説明する。回転ツールユニット34は、取付け具38と回転ツール33とを有する。取付け手段である取付け具38は、ケーシング66と、複数のピン部材67と、ばね受け皿68と、付勢部材69とを有する。ケーシング66は、有底円筒状に形成されている。ケーシング66の底部66aには、ケーシング66の軸線方向に貫通する挿通孔70が形成され、また底部66aの周縁部には、軸線方向に沿って没入する複数の位置決め孔71が周方向に等間隔をあけて形成されている。またケーシング66の内周面66bにおいて、前記底部側の部分が半径方向内方に突出している。これによりケーシング66の内周面66bには、段部66cが形成される。そしてケーシング66の開口端部には、周方向に等間隔をあけて複数のピン部材67が設けられている。
【0049】
取付け部材である複数のピン部材67は、本実施の形態では段付平行ピンであり、ケーシング66の外周部から半径方向内方に向かって貫通させて、その先端が前記ケーシング66の内周面66bから突出している。この複数のピン部材67は、回転ツール保持具37の挿入溝部58に対応させて設けられている。従って本実施の形態では、周方向90度間隔で4つ形成される。
【0050】
更にケーシング66内であって段部66cと複数のピン部材67との間には、ばね受け皿68が設けられている。ばね受け皿68は、円環状に形成された円板である。ばね受け皿68は、ばね受け皿68がケーシング66の段部66cと複数のピン部材67との間を摺動可能に形成されている。またばね受け皿68は、複数のピン部材67によりケーシング66から離脱することが阻止されているとともに、段部66cから底部側に摺動変位することも阻止されている。そしてこのばね受け皿68とケーシング66の底部66aとの間には、付勢手段である付勢部材69が介在している。付勢部材69は、例えば圧縮コイルばねであり、そのばね定数は、10N/mm以上60N/mm以下である。この付勢部材69は、その内径がばね受け皿68の内径及び挿通孔70の径より大きく形成され、ばね受け皿68を付勢している。このように構成された取付け具38には、回転ツール33が挿通されている。
【0051】
回転ツール33は、大略的に円柱状に形成されている。回転ツール33の軸方向一端部には取合い部74が形成され、軸方向他端部には摩擦撹拌部75が形成され、軸方向中間部には位置決め部78が形成されている。取合い部74は、回転ツール保持具37の嵌合孔部61に嵌合可能に形成されており、嵌合孔部61の形状に対応させて形成されている。即ち回転ツール33の軸方向一端部の先端側と軸方向他端部側とで、その形状が異なっている。
【0052】
更に具体的に説明すると、取合い部74における軸方向一端部の先端側の部分はその先端に向って進むにつれて縮径するテーパ形状に形成されており、軸方向他方部側の部分は非円形状、本実施の形態では正方形状に形成されている。これにより取合い部74は、前記先端側においてテーパ状に形成された調芯部76を有し、前記他端部側において正方形状に形成された回動阻止部77を有する。調芯部76及び回動阻止部77の外形は、嵌合孔部61のテーパ部分62及び正方形部分63の内形とそれぞれ略同形である。そのため嵌合孔部61に取合い部74を嵌合すると、回転ツール33は、調芯部76によりその軸が回転ツール保持具37の軸に一致するように調整され、回動阻止部77により回転ツール保持具37に対し回動不能になる。なお回動阻止部77の非円形状は、例えば楕円形、矩形、星型であり、回動阻止部77が嵌合孔部61に嵌合した状態で回転ツール33が回動不能になるような形状であればよい。更に回動阻止部77は、その対角線の長さが少なくとも取付け具38のばね受け皿68の内径より長く形成されている。そのため回転ツール33を取付け具38に挿通する際、回動阻止部77がばね受け皿68に載置され、ばね受け皿68により回転ツール33が支持される(図7参照)。
【0053】
摩擦撹拌部75は、接合対象物の接合部位に当接しながら高速で回転することで、前記2つの接合対象物を摩擦撹拌接合するものである。また位置決め部78は、取合い部74の回動阻止部77に一体的に設けられている。位置決め部78は、その外形がばね受け皿68の内径と略同一になるように形成されている。そのため位置決め部78をばね受け皿68に挿入することで、回転ツール33の取付け具38に対する半径方向の位置決めが行われる。
【0054】
このような構成を有する回転ツールユニット34は、取付け具38のばね受け皿68の内孔、付勢部材69内及び挿通孔70に回転ツール33を挿入し、回転ツール33の回動阻止部77がばね受け皿68に載置されるまで押し込む。回転ツール33の回動阻止部77がばね受け皿68に載置されることにより、回転ツール33は位置決め部78により取付け具38に対する位置決めがなされ、回転ツールユニット34が構成される。
【0055】
そしてこのようにして構成された回転ツールユニット34を回転ツール保持具37に取付ける。具体的には、まず取付け具38の開口部、つまりケーシング66の開口部66dに回転ツール保持具37の取付け部56を挿入する。このとき、平面視(回転軸方向Zに見た状態)において、嵌合孔部61と取合い部74との外形が一致し、かつ取付け具38の各ピン部材67と取付け部56の各挿入溝部58とが対応するような位置に配置してから取付け部56を挿入する。なお取付け部56の一部分だけを挿入した後に、回転ツールユニット34回転させる等して前記位置に配置してもよい。
【0056】
このように回転ツール保持具37を取付け具38に挿入することにより、嵌合孔部61に取合い部74が嵌合して回転ツール保持具37の他端部と回転ツール33の一端部が互いに当接し、そして各ピン部材67が各挿入溝部58に挿入される。このとき嵌合孔部61のテーパ部62及びに取合い部74の調芯部76より回転ツール33の軸が回転ツール保持具37の軸と一致するように調整される。そして回転ツール保持具37とばね受け皿68との間には僅かであるが間隙が形成されており、ばね受け皿68は複数のピン部材67に当接した状態にある。
【0057】
この状態から更に回転ツール保持具37を挿入方向である回転軸方向他方Z2に押し込むことによって、回動阻止部77がばね受け皿68を押し込んで回転軸方向他方Z2に移動させる。これによって各ピン部材67が各取付け通路60の回動案内溝部57の部分に達する。そして取付け具38を保持しつつ回転ツール保持具37を回動させると、各ピン部材67が回転案内溝部57を周方向に移動する。このとき回転案内溝部57が周方向全周にわたって形成されているので、つまり連なっているので、回転ツール保持具37をいくら回動させても、ピン部材67が前記回動案内溝部57に衝突することがない。
【0058】
そして各ピン部材67が係合凹部59の開口端に達した後、回転ツール保持具37を回転軸方向一方Z1に戻すことによって各ピン部材67が各係合凹部59に嵌まり込む。これによって回転ツールユニット34が回転ツール保持具37に取付けられる。
【0059】
このようにして取付けられると、前記付勢部材69の付勢力により各ピン部材67が各係合凹部59に押し付けられて、各ピン部材67の各係合凹部59から離脱が阻止される。即ち取付け具38の離脱が阻止された状態で回転ツール保持具37に取付けられる。またこのように取付けられると、回転ツール33の取合い部74は、ばね受け皿68を介して付勢部材69に付勢され他状態で回転ツール保持具37の嵌合孔部61に嵌合される。そのため回転ツール33は、回転ツール保持具37とばね受け皿68とによって挟持されて、回転ツール保持具37に装着されている。このように装着された回転ツール33と取付け具38は、その軸線が基準軸L0に一致している。
【0060】
このような取付け方で回転ツールユニット34を回転ツール保持具に取付けることによって、摩擦撹拌接合後に接合対象物から回転ツール33を引抜く際、回転ツール33と接合対象物とがくっついてしまっているが、このような状態でも前記回転ツール33に複数のピン部材67を先端部分から離脱することなく回転ツール33を引き抜くことができる。これにより前記複数のピン部材67が取付け通路60から抜けることを阻止することができる。つまり摩擦撹拌接合後に接合対象物から回転ツール33を引抜く際、前記回転ツール33が回転ツール保持具37から外れることがない。それ故、異なる部位に対して連続して摩擦撹拌接合を行うことができる。
【0061】
またFSJガン23では、摩擦撹拌接合する際、回転ツール保持具37が嵌合孔部61に嵌合する回転ツール33の取合い部74を押すことにより回転ツール33を接合対象物に押し付けている。これにより、押付け時には、回転ツール保持具37と回転ツール33との間には相対変位が生じず、ましてや回転ツール保持具37と取付け具38との間にも相対変位が生じない。そのため、回転ツール33を接合対象物に押付けても回転ツール保持具37に対して付勢部材69が与える付勢力に変化がない。そのため、回転ツール33の接合対象物に対する押付力を所望の値に制御する際、前記付勢部材69の付勢力を考慮する必要がなく、前記押付力を所望の値に制御することが容易である。この作用効果については、回転ツール保持具37の他端部と回転ツール33の一端部が互いに対応する形状に形成されて当接するような形状であっても同様に得られる
また嵌合孔部61のテーパ部分62に取合い部74の調芯部76を嵌合することによって、前記テーパ部分62への調芯部76の挿入が容易であると共に、回転ツール33の軸と回転ツール保持具37の軸とが調芯される。これにより所望の位置にて回転ツール33を回転させることができ、所望の位置と実際の接合位置とのズレを少なくすることができる。また回転軸方向Zの荷重を面全体で受けることができる。
【0062】
また嵌合孔部61の正方形部分63に取合い部74の回動阻止部77が嵌合する。これにより回転ツール保持具37と回転ツール33とがすべることなく、回転ツール保持具37の回動力が回動阻止部77を介して回転ツール33に伝達される。これにより回動阻止部77で回転ツール保持具37からの回動力を受けることができるので、ピン部材67に大きな負荷が作用しない。これによってピン部材の破損を防ぐことができる。また回転ツール保持具37と回転ツール33とがすべらないので、回転ツール保持具37からの回動力を回転ツール33に確実に伝達することができる。これによって回転ツール保持具37と回転ツール33とがすべることを想定して、FSJガン本体26が回転ツール保持具37に対し余剰な回動力を与える必要がなく、FSJガン本体26の出力を小さくすることができる。
【0063】
また付勢部材69を取付け具38に設けることで、回転ツール保持具37の構成が簡単になる。また取付け作業が複雑な回転ツール保持具37をFSJ本体26に取付けたままにすることができる。これにより回転ツール33を交換する際、回転ツール保持具37に取付ける作業を省くことができる。また回転ツール33の取付けに関し、回転ツール33を挿入した取付け具38の複数のピン部材67を各取付け通路60の開口端から係合凹部59まで移動させるような動作を行うことで実現できる。従って、回転ツール33の取付けが容易である。そのため作業者が手作業で行わなくとも、機械により自動的に回転ツール33を取付けることができる。以下では、FSJガン23を用いて回転ツール33を自動的に着脱するために用いられるツールチェンジャ80について説明する。
【0064】
図9は、ツールチェンジャ80を拡大して示す拡大断面図である。工具交換装置であるツールチェンジャ80は、基台81と、複数の支持体82と、工具載置台83と、ばね部材84と、リミットスイッチ89とを有する。基台81は、設置対象24に立設されている。この基台81の上端部には、複数の支持体82が立設されている。本実施の形態では、3つの支持体82が設けられている。これら立設された3つの支持体82には、上下方向にスライド変位可能に工具載置台83が設けられている。載置台である工具載置台83は、板状のプレート部85と円筒状の載置部86とを有する。プレート部85には、3つの支持体82が貫通しており、これにより3つの支持体82に対し上下方向にスライド変位することができる。また3つの支持体82上端部側にストッパ部材87がそれぞれ設けられており、これによりプレート部85が支持体82から離脱することが阻止される。そしてプレート部85の上面には、載置部86が設けられている。
【0065】
載置部86の下端は、プレート部85に固定されている。また載置部86の上端の周縁部には、複数の位置決めピン88が周方向に互いに間隔をあけて設けられている。位置決めピン88は、載置部86の上端の周縁部から上方に突出するように設けられている。また位置決めピン88は、取付け具38のケーシング66に形成される位置決め孔71に対応するように形成されている。このように構成される工具載置台83と基台81との間には、3つの支持体82の各々に巻装されたばね部材84が介在している。これらばね部材84は、圧縮コイルばねであり、3つの支持体82にそれぞれ巻装された状態で、基台81と工具載置台83とにより挟持される。
【0066】
このように配設された工具載置台83は、ばね部材84により上方に付勢されて基台81から所定距離だけ離隔して配置される。これにより工具載置台83が下方に押付けられても工具載置台83を下方に逃がすことができ、前記押付け動作を許容することができる。またばね部材84では許容できない程、過度に押付けられた場合を想定し、工具載置台83には、リミットスイッチ89が設けられる。リミットスイッチ89は、制御装置39に電気的に接続されており、工具載置台83の上下方向の変位を検出している。リミットスイッチ89は、予め定められた許容範囲以上の工具載置台83の下降を検出し、その検出結果を制御装置39に出力するように構成されている。制御装置39は、その検出結果に応じて回転駆動手段30、スライド駆動手段31及びロボット22の駆動を停止する。これにより回転ツールユニット34を自動着脱する際、回転ツールユニット34に工具載置台83を予め定められた許容範囲以上下降させるような大きな荷重が作用することを防ぐことができる。
【0067】
以下では、ツールチェンジャ80を用いた回転ツールユニット34の自動交換の方法について説明する。なお以下では、回転軸方向Zと上下方向とが略平行であるものとして説明する。図10は、回転ツール装着具29がツールチェンジャ80の上方で待機している状態を一部拡大して示す拡大断面図である。ツールチェンジャ80の工具載置台83には、位置決めピン88を位置決め孔71に嵌合させた状態で取付け具38が載置されている。この取付け具38には、下側に摩擦撹拌部75が配置されるように回転ツール33が挿入されている。これにより回転ツール33の取合い部74の一部がケーシング66の開口端66dから上方に突出する。そしてFSJガン本体26は、図10に示すように回転ツール装着具29に回転ツール保持具37を装着した状態で、回転ツール装着具29をツールチェンジャ80の上方に待機させている(待機状態)。なお待機状態では、回転ツール33の軸と回転ツール保持具37の軸とが略一致し、平面視において複数のピン部材67と複数の挿入溝部58とをそれぞれ対応させて配置されている。この配置関係は、制御装置39がロボット22を制御することによって実現される。
【0068】
図11は、図10の待機状態から回転ツール装着具29が下降した状態を一部拡大して示す拡大断面図である。図11(a)は、ツールチェンジャ80及び回転ツール装着具29を側方から見たものを一部拡大して示す拡大断面図であり、図11(b)は、図11(a)の切断線B−Bで切断して上方から見た拡大断面図である。待機状態において、制御装置39は、図示しない操作手段又はプログラム等から回転ツール33を装着すべき指令を受けると、待機状態にあるFSJ本体26のスライド駆動手段31を駆動し回転ツール装着具29を下降させる。回転ツール装着具29を下降させていくと、嵌合孔部61に取合い部74の調芯部76が容易に挿入される。
【0069】
更に下降させていくと、嵌合孔部61に取合い部74が嵌合すると共に複数のピン部材67が複数の挿入溝部58へと挿入される。このとき嵌合孔部61に取合い部74が嵌合する際、調芯部76が嵌合孔部61のテーパ部分62の内周面に摺動しながら上昇する。これにより回転ツール33の軸と回転ツール保持具37の軸との軸ずれが更に小さくなるように調整される。
【0070】
更に下降させていくと、回転ツール保持具37が取合い部74を押付けて取合い部74を支持しているばね受け皿68を下方へと押し下げる。これにより、図11に示すように各ピン部材67が挿入溝部58を上昇していき回動案内溝部57へと達する。制御装置39は、このような下降完了状態になるまで回転ツール装着具29を下降させる。このとき回転ツール装着具29の下降動作によって、前記回転ツール装着具29から工具載置台83に与えられる荷重は、ばね部材84によって吸収される。しかし前記荷重を吸収できない程に大きな荷重が作用した場合、つまり工具載置台83が所定の許容範囲以上に下降した場合、リミットスイッチ89が作動し、スライド駆動手段31の駆動を停止させ、回転ツール33の装着(交換)を停止する。
【0071】
図12は、図11の下降完了状態から回転ツール装着具29を回動させた状態を一部拡大して示す拡大断面図である。図12(a)は、ツールチェンジャ80及び回転ツール装着具29を側方から見たものを一部拡大して示す拡大断面図であり、図12(b)は、図12(a)の切断線C−Cで切断して上方から見た拡大断面図である。下降完了状態になると、制御装置39は、下降制御を停止し、次に回転駆動手段30を駆動して回転ツール装着具29を基準軸L0周りに回動させる。これにより複数のピン部材67は、回動案内溝57内を周方向に移動する。そして45度回動させると、図12に示すように前記各ピン部材67が各係合凹部59の上方にそれぞれ配置される。
【0072】
図13は、図12の回転ツール装着具29に回転ツールユニット34が取付けられた状態を一部拡大して示す拡大図である。図13(a)は、ツールチェンジャ80及び回転ツール装着具29を側方から見たものを一部拡大して示す断面図であり、図13(b)は、装着された状態における回転ツール保持具37とピン部材67との位置関係を示すべく、図13(a)の矢符Dに示す方向に見た拡大側面図である。前記複数のピン部材67が複数の係合凹部59の上方にそれぞれ配置されると、制御装置39は、回転ツール装着具29を少し上昇させる。それと共に付勢部材69により回転ツール保持具37が上方に押し上げられる。これによって各ピン部材67は、図13(b)に示すように各係合凹部59へと挿入され嵌まり込む。このとき回転ツール保持具37が上方に付勢されたままの状態で各ピン部材67が係合凹部59に嵌まり込むので、各ピン部材67は各係合凹部59からの離脱が阻止されるように嵌まり込む。これによって取付け後に各ピン部材67が各係合凹部59から不用意に離脱することを防ぐことができる。
【0073】
このように回転ツール装着具29を下降及び回動させることにより、各ピン部材67が取付け通路60を移動し、前記各ピン部材67を取付け通路60の先端部分である係合凹部59へと導くことができる。これによってFSJガン本体26に回転ツールユニット34を自動的に取付けることができる。
【0074】
図14は、図13の回転ツールユニット34をツールチェンジャ80から取り外した状態を一部拡大して示す拡大断面図である。FSJガン本体26に回転ツールユニット34を取付けると、制御装置39は、図14に示すように回転ツール装着具29を上昇させて、取付け具38を工具載置台83から取り外す。これによって回転ツール33の取付けが終了する。
【0075】
回転ツールユニット34の取外しは、取付け動作の逆の動作を行うことによって可能である。具体的に説明すると、まず制御装置39は、ロボット22により回転ツールユニット34が取付けられた回転ツール装着具29を、ツールチェンジャ80の上方に配置する。このとき、平面視において、回転ツール33の摩擦撹拌部75が載置部86の内方に配置され、回転ツール33の各位置決め孔71が各位置決めピン88に対応するように配置される。その後、制御装置39は、回転ツール装着具29を下降させて、回転ツールユニット34を工具載置台83に載置させる。このとき各位置決めピン88には、各位置決め孔71が嵌まり込み、取付け具38が工具載置台83に対し回動不能になる。
【0076】
制御装置39は、更に回転ツール装着具29を下降させて、ばね受け皿68を下降させる。これによって複数のピン部材67が係合凹部59から離脱する。更に制御装置39は、この状態から回転ツール装着具29を回動させ、複数のピン部材67を挿入溝部58の上方まで移動させる。そして最後に、制御装置39は、回転ツール装着具29を上昇させて、回転ツールユニット34から回転ツール保持具37を取り外す。このような容易な簡単な制御によって回転ツール33を回転ツール保持具37から取り外すことができる。
【0077】
このようにツールチェンジャ80を用いることによって、FSJガン本体26が有する回動機能及びスライド機能によって回転ツール33を交換することができ、更なる機能をFSJガン本体26に付加する必要がない。従って従来のFSJガン本体26も用いることができ、利便性が高い。
【0078】
なお本実施の形態では、回転ツール保持具37の外周面に取付け通路60が形成されているけれども、その内周面に取付け通路60が形成されていてもよい。この場合、回転ツール保持具37は、その回転軸方向他端部が取付け具38を覆うように構成され、また複数のピン部材67が取付け具38の外周面から突出して前記取付け通路60を移動するように取付け具38が構成される。また本実施の形態では、取付け通路60について鉤状のものだけを説明しているけれども、それ以外の形状であってもよい。以下にその一部が鉤状に形成されているものであってもよい。具体的には、図15(a)に示すように、隣接する回動案内溝部57が互いに接続されていないものであってもよい。また図15(b)に示すように係合凹部59が形成されていなくともよい。この場合、付勢部材69は、圧縮コイルばねではなく、捻りばねを用いて回転ツール保持具37を回動方向に付勢することによって、ピン部材67の離脱を阻止することができる。
【0079】
前述の各実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において、構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、工具を自動交換可能であって、摩擦撹拌接合後に接合対象物から工具を引抜く時に前記工具が保持手段から外れることがなく、かつ接合対象物に対する工具の押付力を所望の値に制御することが容易であることが必要な摩擦撹拌接合装置及びそれを備える摩擦撹拌接合設備に適している。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の一形態の摩擦撹拌接合設備を示す正面図である。
【図2】FSJガンの回転ツール装着具に回転ツールユニットを装着した状態を示す断面図である。
【図3】回転ツール保持具に回転ツールユニットを取付けた状態を示す斜視図である。
【図4】回転ツール保持具及び回転ツールユニットの分解斜視図である。
【図5】回転ツール保持具を拡大して示す側面図である。
【図6】回転ツール保持具を拡大して示す底面図である。
【図7】回転ツールユニットを拡大して示す拡大断面図である。
【図8】回転ツールユニットを拡大して示す平面図である。
【図9】ツールチェンジャ80を拡大して示す拡大断面図である。
【図10】回転ツール装着具がツールチェンジャの上方で待機している状態を一部拡大して示す拡大断面図である。
【図11】図10の待機状態から回転ツール装着具が下降した状態を一部拡大して示す拡大断面図である。
【図12】図11の下降完了状態から回転ツール装着具を回動させた状態を一部拡大して示す拡大断面図である。
【図13】図12の回転ツール装着具に回転ツールユニットが取付けられた状態を一部拡大して示す拡大図である。
【図14】図13の回転ツールユニットをツールチェンジャから取り外した状態を一部拡大して示す拡大断面図である。
【図15】取付け通路の別形態を示す側面図である。
【図16】第1の従来技術の回転ツール保持具を示す断面図である。
【図17】第2の従来技術の取付け構造におけるロボットハンドとグリップとを示す断面図である。
【符号の説明】
【0082】
21 摩擦撹拌接合設備
23 摩擦撹拌接合ガン
24 設置対象
26 摩擦撹拌接合ガン本体
33 回転ツール
34 回転ツールユニット
39 制御装置
40 回転基台
57 回動案内溝部
58 挿入溝部
59 係合凹部
60 取付け通路
61 嵌合孔部
62 テーパ部分
63 正方形部分
67 ピン部材
69 付勢部材
70 挿通孔
71 位置決め孔
74 取合い部
75 摩擦撹拌部
76 調芯部
77 回動阻止部
80 ツールチェンジャ
81 基台
82 支持体
83 工具載置台
88 ピン部材
89 リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦撹拌接合装置の工具を摩擦撹拌接合装置本体に取付けるための摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造であって、
一端部が前記摩擦撹拌接合装置本体に取り付けられ、他端部の周面において、前記一端部と反対側に開口する開口端を有する複数の取付け通路が周方向に間隔をあけて形成される保持手段と、
前記取付け通路の開口端から挿入される複数の取付け部材を有し、これら複数の取付け部材が前記取付け通路を移動して前記取付け通路の先端部分にそれぞれ嵌まり込むことで前記保持手段の他端部に取付けられる取付け手段と、
前記取付け手段に設けられ、一端部が保持手段の他端部に当接し、かつ他端部に摩擦撹拌部を有する工具とを有し、
前記取付け手段には、前記各取付け部材が前記先端部分から離脱しないように前記保持手段をその一端部側に付勢する付勢手段が設けられることを特徴とする摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造。
【請求項2】
前記保持手段の他端部には、回転軸に沿う方向に没入する嵌合孔部が形成され、
前記工具の一端部には、前記回転軸に沿う方向に突出する取合い部が形成され、
前記嵌合孔部に前記取合い部が嵌合することで、前記保持手段と工具とが互いに当接することを特徴とする請求項1に記載の摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造。
【請求項3】
前記保持手段の嵌合孔部は、その少なくとも一部に前記工具の回転軸周りにおいてテーパ状に形成されたテーパ部分を有し、
前記工具の取合い部は、その少なくとも一部に前記工具の回転軸周りにおいて、前記嵌合孔部に対応するテーパ状に形成された調芯部を有することを特徴とする請求項2に記載の摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造。
【請求項4】
前記保持手段の嵌合孔部は、その少なくとも一部に前記回転軸に沿う方向に見て非円形状に形成された非円形部分を有し、
前記工具の取合い部は、その少なくとも一部に前記嵌合孔部の非円形部分に対応する非円形状に形成された回動阻止部を有することを有することを特徴とする請求項2又は3に記載の摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造。
【請求項5】
前記複数の取付け通路は、前記開口端及び先端部分に接続し周方向に伸びる回動案内溝部を有する鉤形状に形成され、
互いに隣接する前記取付け通路の前記回動案内溝部は、互いに接続されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1つに記載の摩擦撹拌接合装置の工具取付け構造と、
前記摩擦撹拌接合装置本体とを備えることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項7】
請求項6に記載の摩擦撹拌接合装置と、
前記保持手段の回動及び移動を制御する制御装置と
前記工具が挿通された前記取付け手段を載置可能な工具交換装置とを備え、
前記取付け手段及び前記工具交換装置は、前記工具交換装置に対して前記取付け手段が前記工具の回転軸まわりに回転不能に載置されていることを特徴とする摩擦撹拌接合設備。
【請求項8】
前記工具交換装置は、
基台と、
前記取付け手段を載置可能な載置台と、
前記基台が前記一端部に設けられ、前記基台に対し近接離隔可能に前記載置台が他端部に設けられた支持手段と、
前記載置台を前記基台から離反する方向に向って付勢する載置台付勢手段と、
前記載置台の前記基台に近接する方向の変位が予め定められた許容範囲以上か否かを検出する検出手段とを備え、
前記制御装置は、前記検出手段の検出結果に応じて保持手段の移動を停止することを特徴とする請求項7に記載の摩擦撹拌接合設備

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−190037(P2009−190037A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29920(P2008−29920)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 1.博覧会名:2007国際ロボット展 2.主催者名:社団法人日本ロボット工業会/日刊工業新聞社 3.開催日:2007年11月28日〜12月1日
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】