説明

摩擦改質粒子が結合させられた複数の結合剤粒子を含む摩擦材料

1つの例示的実施形態には、複数の繊維を含むベースを含む摩擦材料が含まれる。このベースは係合表面と、そしてこの係合表面にある複数の結合剤粒子および摩擦改質粒子とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示が一般に関わる分野には、スリップクラッチ、スタートクラッチ、トルクトランスファクラッチ、トルクコンバータなどを含むがこれに限定されない、さまざまな利用分野のための摩擦材料が含まれる。
【背景技術】
【0002】
当業者は、スリッピングクラッチ、トルクトランスファクラッチおよびトルクコンバータを含むがこれらに限定されない、さまざまな利用分野で使用するための摩擦材料に対する代替物および改良をつねに探究している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
複数の繊維を含み係合表面を有する基材と、係合表面に離散的に設置された複数の結合剤粒子、および結合剤粒子の少なくとも1つに結合させられた、より小さい複数の摩擦改質粒子と、を含む摩擦材料を含む製品。
【0004】
本発明のその他の例示的実施形態は、以下で提供する詳細な説明から明らかになろう。詳細な説明および具体的実施例は、本発明の例示的実施形態を開示しているものの、例示目的にのみ意図されており、本発明の範囲を限定するようには意図されていないことが理解されるべきである。
【0005】
本発明の例示的実施形態は、詳細な説明および添付図面からさらに完全に理解されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】繊維を含むベースを含み、係合表面を有し、かつ複数の未硬化結合剤粒子と、より小さい複数の摩擦改質粒子とを係合表面に有する、本発明の例示的一実施形態に係る摩擦材料を示している。
【図2】複数の繊維を含み、係合表面を有し、複数の不規則な形状の結合剤粒子が、不規則な形状の結合剤粒子に結合させられたより小さい複数の摩擦改質粒子と共に離散的に設置された、本発明の例示的一実施形態に係る、摩擦材料を示している。
【図3】不規則な形状の結合剤粒子に結合させられたより小さい複数の摩擦改質粒子と共に離散的に設置された複数の形状の結合剤粒子を含む、本発明の例示的一実施形態に係る摩擦材料と、このような結合剤粒子を含まない摩擦材料との耐摩耗性比較試験の結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態についての以下の記述は、事実上単に例示的(例証的)なものにすぎず、いかなる形であれ、本発明、その応用または用途を限定することを意図したものではない。
【0008】
ここで図1を参照すると、本発明の一実施形態は、以下で記述する通り、異なるタイプのものであってもよい複数の繊維12および14を含んでいてもよい摩擦材料10を含んでいる。摩擦材料中には複数の粒子16および18も含まれていてもよい。粒子16の一部は、所望の摩擦特性および気孔サイズを提供するように比較的大きいものであってもよい。摩擦特性、耐熱性および強度を改善するためにさまざまなより小さい粒子18および20を提供してもよい。この摩擦材料10は、別の摩擦材料または基板と係合するための係合表面22を含む。係合表面22またはその近くで、離隔した離散的場所に、複数の結合剤粒子24が提供される。結合剤粒子24には、より小さい複数の摩擦改質粒子26を結合させてもよい。この結合剤粒子24は、図1に示されている実施形態において、硬化されなくてもよいポリマーまたは樹脂であってもよい。実施形態の中で、結合剤粒子24は流動性の未硬化樹脂またはポリマーを含んでいてもよい。この結合剤粒子24は、例えばシリコーン、フェノール、ポリアミドまたはポリイミド樹脂を含んでいてもよい。より小さい摩擦改質粒子26は無機または有機粒子であってもよい。例えば、より小さい摩擦改質粒子26は炭素、金属、金属酸化物、シリカまたはカシュー油改質粒子を含んでいてもよい。
【0009】
一実施形態において、図1に示されている摩擦材料は、規則的形状の結合剤粒子24を含む。例えば、流動性未硬化結合剤粒子24は、概して球形の形状を有していてもよい。摩擦材料10をさらに加工することで、結果として、図2に示されている通りの不規則な形状へと結合剤粒子24が流動し、ここで追加のより小さい摩擦改質粒子26が結合剤粒子24に接着された状態となり得る。例えば、摩擦材料10を熱処理して、球状の結合剤粒子24を流動させて追加の摩擦改質粒子26を吸収させ、それを結合させるようにしてもよい。結合剤粒子が、高温性能特性を提供する不規則な形状の硬化した結合剤粒子24’となり(例えば中実熱硬化粒子となり)、より小さな摩擦改質粒子が結合剤粒子に結合したままにとどまり得るように、さらに加工を行なってもよい。例えば、複数の摩擦改質粒子26が結合させられた不規則な形状の硬化した結合剤粒子24’を含む摩擦は、350℃以上の高い界面温度で高い性能特性を提供し得る。
【0010】
係合表面により小さな複数の摩擦改質粒子が結合させられた離隔した複数の離散的結合剤粒子を含む、例示的な一実施形態による摩擦材料を調製した。より小さい摩擦改質粒子が結合させられた結合剤粒子を含まない摩擦材料も同様に構築した。2つの材料について、耐摩耗性比較試験を実施した。各々のプレート上に摩擦材料を載せたプレート1、2、3、4を含むクラッチパックを使用した。クラッチパックを13500サイクルの高エネルギースリップ動作について作動させ、摩擦プレート1、2、3および4上の各摩擦材料の厚み変化を試験後に測定した。より小さい摩擦改質粒子が結合させられた結合剤粒子を伴わない摩擦材料についての厚み変化は、斜線入りの棒で示されている。より小さい摩擦改質粒子が結合させられた結合剤粒子を伴う摩擦材料についての厚み変化は、斜線の無い棒30、32、34および36で示されている。例示的な一実施形態によると、より小さい複数の摩擦改質粒子を含む離散的に設置された結合剤粒子を含む摩擦材料は、耐摩耗性が改善されていた。
【0011】
流動性未硬化結合剤粒子またはより小さい複数の摩擦改質粒子が結合させられた硬化された結合剤粒子のいずれかを含む摩擦材料を、当業者が企図可能なさまざまな任意の手段によって製造してもよい。例えば、流動性未硬化結合剤粒子をヘッドボックス(head box)内でより小さい摩擦改質粒子と混合し、複数の繊維を含むベース摩擦材料がヘッドボックスの下を通るコンベヤベルトに沿って走行するときに、この材料の上部表面に散布してもよい。コンベヤベルトから得られた摩擦材料に、以下で記述する通り、液体樹脂をさらに含浸させてもよい。その後、流動性未硬化結合剤粒子を軟化させ、不規則な形状に流動させてもよく、さらに多くのより小さい摩擦改質粒子を、軟化した結合剤材料に結合させてもよい。流動性未硬化結合剤粒子は、オーブン焼成、放射線曝露、マイクロ波エネルギー、イオン衝撃、圧縮加熱、レーザー加熱などを含むがこれらに限定されないさまざまな方法における熱の適用を通して、流動または軟化させられてもよい。あるいは、より小さい複数の摩擦改質粒子が結合させられている硬化した樹脂粒子を調製し、チャージボックス(charge box)内に供給し、コンベヤベルトに沿って流れる湿潤な摩擦材料上に散布してもよい。摩擦材料の後続する加熱処理は行なっても行なわなくてもよい。
【0012】
摩擦材料の表面において、複数の摩擦改質粒子を含む結合剤粒子が離隔した離散的位置に提供されている摩擦材料の開気孔構造を、さまざまな選択肢および粒子サイズ、粒子サイズ比率または使用する飽和樹脂の量を用いて達成し得る。このような開気孔構造は、摩擦材料を通る油の流量を改善する。例えば、本発明の例証的実施形態にしたがって生産された摩擦材料を、油滴試験に付し、ここで、摩擦材料の表面上に4マイクロメートルの油滴を置き、摩擦材料内に流れ込ませた。本発明に係る材料を通り抜けて油滴が流れる時間はおよそ4秒であったのに比べて、従来の摩擦材料ではおよそ10秒かかった。したがって、複数の摩擦改質粒子が結合された離隔した離散的結合剤粒子を含む摩擦材料は、結果として改善した油流量および摩擦材料をもたらす。本発明の例示的実施形態において、より小さい複数の摩擦改質粒子が結合された結合剤粒子により覆われた表面積の量は、係合表面積の約3〜約30パーセントの範囲内にあってもよい。一実施形態において、規則的形状の粒子は、1.8〜40ミクロン、15〜30ミクロン、または18〜22ミクロンの範囲内の平均粒径を有する球形形状である。より小さい摩擦改質粒子は、1〜25ミクロン、または2〜10ミクロンの範囲内の平均直径を有し得る。より小さい摩擦改質粒子と結合剤粒子の重量比は50/50〜90/10の範囲であり得る。一実施形態においては、係合表面積3000平方フィートあたりおよそ9ポンドの摩擦改質粒子とおよそ9ポンドの結合剤粒子とが使用される。
【0013】
複数の摩擦改質粒子が結合された複数の離散的に設置された硬化した結合剤粒子を含む摩擦材料は、より優れた耐震動性、摩耗による厚み喪失の減少、高エネルギー放出下での改善された耐久性を示し、350℃以上の高い界面温度に曝露されているにもかかわらず材料の寿命全体を通して高性能を維持することができるということがわかった。
【0014】
以下の記述には、摩擦材料において利用してもよいさまざまな構成要素の例示的実施形態が含まれている。
【0015】
摩擦材料の例示的実施形態は、改善された抗震動特性を有していてもよい。同様に摩擦材料は、改善された弾性、および摩擦材料使用中のより均一な熱放散を可能にする気孔率を有していてもよい。トランスミッションまたはブレーキ中の流体は、摩擦材料の多孔質構造を通して速く移動することができる。さらに、向上した弾性は摩擦材料上により均一な圧力すなわち均等な圧力分布を提供し、こうして不均等なライニング摩耗または分離板の「ホットスポット」が回避される。
【0016】
摩擦材料の構造の気孔率が高くなればなるほど、熱放散効率は良くなる。摩擦材料の使用中に係合中の摩擦材料を出入りする油の流れは、摩擦材料の気孔率が高い場合、より速くなる。
【0017】
摩擦材料に含浸させるためのさまざまな方法を使用することができる。繊維質基材には、好ましくは含浸用樹脂材料が摩擦材料100重量部分あたり約20〜約65重量部分を占めるように、フェノール樹脂またはフェノール系の樹脂を含浸させる。繊維質基材に樹脂を含浸させた後、含浸された繊維質基材を、既定の長さの時間、所望の温度まで加熱して摩擦材料を形成させる。加熱は、約350°Fの温度でフェノール樹脂を硬化させる。シリコーン樹脂などの他の樹脂が存在する場合、加熱は、約400°Fの温度でシリコーン樹脂を硬化させる。その後、含浸され硬化した摩擦材料を適切な手段により、所望の基板に接着する。
【0018】
繊維質基材に含浸させる上で有用なさまざまな樹脂には、フェノール樹脂およびフェノール系樹脂が含まれる。樹脂ブレンド中に他の改質成分、例えばエポキシ、ブタジエン、シリコーン、キリ油、ベンゼン、カシューナッツ油などを含むさまざまなフェノール系樹脂が、本発明に有用であるものとして企図されるということを理解すべきである。フェノール改質樹脂において、フェノール樹脂は一般に樹脂ブレンドの約50重量%以上(存在する一切の溶媒を除く)の割合で存在する。しかしながら、特定の実施形態において、摩擦材料はシリコーン−フェノール混合物(溶媒および他の加工用酸を除く)の重量に基づいて含浸剤樹脂ブレンドが約5〜約80重量%、そして特定の用途のためには約15〜約55重量%および、特定の実施形態では約15〜約25重量%のシリコーン樹脂を含んでいる場合に改善可能であることが発見されている。
【0019】
シリコーン樹脂は例えば、熱硬化シリコーンシーラントおよびシリコーンゴムを含んでいてもよい。さまざまなシリコーン樹脂が本発明に有用である。詳細には、1つの樹脂はキシレンおよびアセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)を含む。シリコーン樹脂は約362°F(183℃)の沸点、68°Fで21mmHgの蒸気圧、4.8の蒸気密度(空気=1)、無視できる程度の水中溶解度、比重約1.09、5重量%の揮発分、0.1未満の蒸発率(エーテル=1)、Pensky−Martens法を用いた約149°F(65℃)の引火点を有する。本発明では他のシリコーン樹脂を利用することができるということを理解すべきである。その他の有用な樹脂ブレンドとしては、例えば(重量%で)、約55〜約60%のフェノール樹脂;約20〜約25%のエチルアルコール;約10〜約14%のフェノール;約3〜約4%のメチルアルコール;約0.3〜約0.8%のホルムアルデヒド;そして約10〜約20%の水を含む適切なフェノール樹脂が含まれる。別の適切なフェノール系樹脂は(重量%で)、約50〜約55%のフェノール/ホルムアルデヒド樹脂;約0.5%のホルムアルデヒド;約11%のフェノール;約30〜約35%のイソプロパノール;および約1〜約5%の水を含む。
【0020】
別の有用な樹脂は、約5〜約25重量パーセントそして好ましくは約10〜約15重量パーセントのエポキシ化合物を含み、残り(溶媒および他の加工助剤を除く)がフェノール樹脂であるエポキシ改質フェノール樹脂であることも発見されている。エポキシ−フェノール樹脂化合物は、特定の実施形態において、フェノール樹脂単独の場合よりも高い耐熱性を摩擦材料に提供する。
【0021】
特定の実施形態において、繊維質基材による樹脂の目標吸収率は、合計シリコーン−フェノール樹脂の重量%で、約20〜約65%、そして特定の実施形態では約60〜少なくとも65%の範囲内であってもよい。繊維質基材に樹脂を含浸させた後、この繊維質基材を一定の時間(特定の実施形態においては約1/2時間)300〜400°Fの範囲内の温度で硬化させて、樹脂結合剤を硬化させ摩擦材料を形成する。摩擦材料の最終厚みは、繊維基材の初期厚みによって左右され、特定の実施形態においては、好ましくは約0.014インチ〜約0.040インチの範囲内にある。
【0022】
樹脂ブレンドの調製および含浸用繊維質ベースの材料の調製の両方において有用なことが公知である他の成分および加工助剤を、摩擦材料の中に含めることができるということがさらに企図される。
【0023】
シリコーン樹脂およびフェノール樹脂は両方共、互いに相溶性である溶媒中に存在する。これらの樹脂は共に混合されて(好ましい実施形態では)均質なブレンドを形成し、その後、繊維質基材に含浸させるために使用される。繊維質基材にフェノール樹脂を含浸させ、その後シリコーン樹脂を添加する場合と、またはその逆の場合とで、同じ効果が得られるわけではない。また、シリコーン−フェノール樹脂溶液の混合物と、シリコーン樹脂粉末および/またはフェノール樹脂粉末のエマルジョンの間でも差異が存在する。シリコーン樹脂とフェノール樹脂が溶解状態にある場合、それらは全く硬化されない。対照的に、シリコーン樹脂およびフェノール樹脂の粉末粒子は部分的に硬化される。シリコーン樹脂およびフェノール樹脂の部分的硬化は、繊維質基材の優れた含浸性を阻害する。
【0024】
特定の実施形態において、繊維質基材には、フェノール樹脂とその溶媒とに相溶性のある溶媒中のシリコーン樹脂のブレンドが含浸させられる。一実施形態においては、イソプロパノールが特に適切な溶媒であることがわかった。ただし、エタノール、メチル−エチルケトン、ブタノール、イソプロパノール、トルエンなどのさまざまな他の適切な溶媒も使用できるということが理解されるべきである。フェノール樹脂とブレンドされ繊維質基材に含浸させるために使用される場合のシリコーン樹脂の存在は、フェノール樹脂のみが含浸された繊維質基材に比べて、結果として得られる摩擦材料をより弾性の高いものにする。本発明のシリコーン−フェノール樹脂ブレンド含浸した摩擦材料に圧力を加えた場合、圧力分布がより均等になり、そのために、ライニングが不均等に摩耗する確率が低下する。シリコーン樹脂とフェノール樹脂を一緒に混合した後、この混合物を繊維質基材への含浸に用いる。
【0025】
特定の実施形態においては、低フィブリル化繊維および炭素繊維が繊維質基材内に使用されて、摩擦材料に所望の気孔構造を提供し、この気孔構造自体がこの摩擦材料に耐熱性の向上を提供する。繊維の幾何形状は、耐熱性の向上を提供するだけでなく、耐剥離性および防鳴き性すなわち防ノイズ性をも提供する。炭素繊維および炭素粒子の存在は、耐熱性を向上させ、定常な摩擦係数を維持し、防鳴き性を向上させる上で一助となる。繊維質基材中の綿繊維の量が比較的低いことによって、摩擦材料のクラッチ「ブレークイン(break−in)」特性が改善される。
【0026】
繊維質基材中に、低フィブリル化アラミド繊維および炭素繊維を使用することで、摩擦材料の高温に耐える能力は改善される。低フィブリル化アラミド繊維には一般に、コア繊維に付着されたフィブリルが少ない。低フィブリル化アラミド繊維を使用することで、より気孔率の高い構造を有する摩擦材料が得られる。すなわち、典型的なフィブリル化アラミド繊維が使用された場合よりも多くの、かつより大きな気孔が存在する。多孔質構造は一般に、気孔サイズおよび液体浸透性により画定される。好ましい実施形態において、繊維質基材は、直径約2.0〜約25ミクロンの範囲の平均サイズを有する気孔を画定する。特定の実施形態において、平均気孔サイズは直径約2.5〜約8ミクロンの範囲内にあり、摩擦材料は少なくとも約50%、そして特定の実施形態では少なくとも約60%以上の直ちに利用可能な空隙を有していた。
【0027】
摩擦材料がより高い平均流量孔径および浸透性を有する場合、摩擦材料の多孔質構造全体を通してオートマチックトランスミッション液がより良好に流れるために、摩擦材料は、より低温で作動する、すなわちトランスミッション内に発生する熱がより少ない状態で作動する確率が高くなる。トランスミッションシステムの作動中、摩擦材料表面上の油被着物は、特に高温でのオートマチックトランスミッション液の分解(break down)によって経時的に成長する傾向をもつ。繊維上の油被着物は、気孔の大きさを低減させる。したがって、摩擦材料の気孔が最初により大きければ、摩擦材料の耐用年数の間に残留する開気孔はより多くなる。さらに、少なくとも部分的にシリコーン樹脂が含浸された実施形態においては、このシリコーン樹脂は、その弾性特性に起因して、摩擦材料中の繊維がさらに一層開放した構造を有することができるようにする。
【0028】
アラミド繊維が約0.5〜約10mmの範囲内の長さおよび約300超のカナダ標準濾水度(CSF)を有することが望まれる。特定の実施形態においては、約450〜約550、好ましくは約530以上、そして他の特定の実施形態においては約580〜650以上、好ましくは約650以上のCSFを有する、低フィブリル化アラミド繊維を使用することが望ましい。対照的に、アラミドパルプなどの、フィブリル化のより高い繊維は、約285〜290の濾水度を有する。
【0029】
「カナダ標準濾水度」(T227om−85)とは、繊維のフィブリル化度を繊維の濾水度測定値として記述できることを意味する。CSF試験は、水1リットル中3グラムの繊維の懸濁液がドレンされ得る速度を随意の尺度で提供する経験的方法である。したがって、フィブリル化のより低いアラミド繊維は、他のアラミド繊維またはパルプに比べ、より高い濾水度、すなわち摩擦材料からのより高い流体ドレン速度を有する。約430〜650(そして特定の実施形態では好ましくは約580〜640または好ましくは約620〜640)の範囲内のCSFを有するアラミド繊維を含む摩擦材料は、従来の高フィブリル化アラミド繊維を含む摩擦材料よりも優れた摩擦性能を提供し、より良い材料特性を有する。繊維長が長ければ長いほど、より高いカナダ濾水度と共に、より高い強度、より高い気孔率そしてより優れた耐摩耗性を有する摩擦材料を提供する。低フィブリル化アラミド繊維(約530〜約650のCSF)は、特に優れた長期耐久性および安定した摩擦係数を有する。
【0030】
基材中にはさまざまな充填剤が含まれていてもよい。詳細には、珪藻土などのシリカ充填剤が有用である。しかしながら、その他のタイプの充填剤も使用に適しており、充填剤の選択は、摩擦材料の特定の要件により左右されることが企図されている。
【0031】
特定の実施形態においては、綿繊維を繊維質基材に添加して、より高い摩擦係数を繊維質材料に提供してもよい。特定の実施形態においては、約5〜約20%そして特定の実施形態では約10%の綿を繊維質基材に添加してもよい。
【0032】
基材のための調合物の一実施例は、約10〜約50重量%の低フィブリル化アラミド繊維;約10〜約35重量%の活性炭粒子;約0〜約20重量%の綿繊維、約2〜約15重量%の炭素繊維;そして約10〜約35重量%の充填剤材料を含んでいてもよい。特定の実施形態においては、約35〜約45重量%の低フィルブリル化アラミド繊維;約10〜約20重量%の活性炭粒子;約5〜約15%の綿繊維;約2〜約10重量%の炭素繊維;そして約25〜約35重量%の充填剤を含む特別な一調合物が有用であることがわかった。繊維質基材の一次層上に追加の遊離した摩擦改質粒子を使用すると、繊維質基材に対し三次元構造が提供される。
【0033】
繊維質基材の表面上の追加の遊離した摩擦改質粒子の均一性は、好ましくは約0.5〜約80ミクロン、そして好ましくは約0.5〜約20ミクロンである粒子の範囲およびサイズを使用することによって達成される。これらの特定の実施形態においては、摩擦改質粒子のサイズが過度に大きいかまたは小さい場合、最適な三次元構造は達成されず、その結果、熱放散がさほど最適でなくなるということが発見された。
【0034】
例示的実施形態において、一次層上の追加の遊離摩擦改質粒子の量は、摩擦紙の約0.2〜約20重量%、そして特定の実施形態では約2〜約15重量%、そして特定の他の実施形態では約2〜約5重量%の範囲内にある。さらに他の実施形態において、表面上の摩擦改質粒子の被覆面積は、表面積の約3〜約90%の範囲内であってもよい。
【0035】
基材上に摩擦改質粒子を被着させてもよい。さまざまな摩擦改質粒子が繊維質基材上で有用である。有用な摩擦改質粒子には、シリカ粒子;樹脂粉末、例えばフェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂およびその混合物;カシュー油改質粒子;部分的および/または完全炭化炭素粉末および/または粒子およびその混合物;およびこのような摩擦改質粒子の混合物が含まれる。詳細には、シリカ粒子、例えば珪藻土、セライトRTM、セラトムRTM、および/または二酸化ケイ素が特に有用である。シリカ粒子は、繊維質材料に強力に接着する安価な有機材料である。シリカ粒子は、摩擦材料に対し高い摩擦係数を提供する。シリカ粒子は、摩擦材料に対して平滑な摩擦表面も同様に提供し、あらゆる「震動」を最小限に抑えるような優れた「シフト感触」、および摩擦特性を摩擦材料に提供する。
【0036】
本発明の実施形態についての以上の記述は、事実上単に例示的なものにすぎず、したがってその変形形態は、本発明の精神および範囲からの逸脱としてみなされるべきものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維を含み係合表面を有する基材と、前記基材の前記係合表面にある複数の結合剤粒子と、複数の摩擦改質粒子と、を含む摩擦材料であって、前記摩擦改質粒子が前記結合剤粒子よりも小さい粒子サイズを有し、摩擦改質粒子対結合剤粒子の重量比が50/50〜90/10の範囲内にある、摩擦材料。
【請求項2】
前記結合剤粒子が流動性未硬化粒子を含む、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項3】
前記結合剤粒子が概して球形形状を有する、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項4】
複数の前記摩擦改質粒子が各々の結合剤粒子に結合させられている、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項5】
前記結合剤粒子が不規則な形状を有する、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項6】
前記結合剤粒子が硬化され、前記摩擦改質粒子が前記結合剤粒子に結合させられている、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項7】
前記結合剤粒子が、シリコーンポリマー、フェノールポリマー、ポリアミドポリマーまたはポリイミドポリマーの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項8】
前記結合剤粒子がポリマーを含む、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項9】
前記摩擦改質粒子が、炭素粒子、酸化物粒子、またはシリカもしくはカシュー油改質粒子の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項10】
前記結合剤粒子が1.8〜40ミクロンの範囲内のサイズを有する、請求項5に記載の摩擦材料。
【請求項11】
前記摩擦改質粒子が1〜25ミクロンの範囲内のサイズを有する、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項12】
前記結合剤粒子がフェノール樹脂を含み、前記摩擦改質粒子がシリカを含む、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項13】
前記結合剤粒子が硬化される、請求項12に記載の摩擦材料。
【請求項14】
前記摩擦改質粒子が前記結合剤粒子に結合させられ、前記摩擦改質粒子が結合させられた前記結合剤粒子が前記基材の前記係合表面のおよそ2〜30パーセントを覆っている、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項15】
前記複数の結合剤樹脂粒子、およびそれに結合させられた複数の摩擦改質粒子が、前記係合表面に離散的に配置され、前記係合表面に多孔性を提供している、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項16】
複数の摩擦改質粒子が結合させられた複数の不規則な形状の硬化した樹脂粒子を含む摩擦材料であって、前記摩擦改質粒子が前記結合剤粒子より小さいサイズを有し、前記結合剤粒子がシリコーンポリマー、フェノールポリマー、ポリアミドまたはポリイミド樹脂の少なくとも1つを含み、前記摩擦改質粒子が炭素粒子、酸化物粒子、シリカ粒子またはカシュー油改質粒子の少なくとも1つを含んでいる、摩擦材料。
【請求項17】
複数の繊維を含み、係合表面を有する基材をさらに含み、複数の摩擦改質粒子が結合させられた前記複数の不規則な形状の硬化した樹脂粒子が、前記係合表面に離散的に配置され、前記係合表面に多孔性を提供している、請求項16に記載の摩擦材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−514679(P2012−514679A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545336(P2011−545336)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/030636
【国際公開番号】WO2010/080154
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(500124378)ボーグワーナー インコーポレーテッド (302)
【Fターム(参考)】