説明

摩擦点接合方法

【課題】
異種金属部材同士を重ね合せて摩擦点接合をした後に電着塗装をした場合に接合部周囲に塗り残しが生じないように対策することを課題とする。
【解決手段】
融点が相対的に低いアルミニウム部材63と融点が相対的に高い鋼部材64とを重ね合せ、アルミニウム部材63の側から回転ツール14を押し込んで該回転ツール14の回転動作及び加圧動作により発生する摩擦熱でアルミニウム部材63を軟化及び塑性流動させて両部材63,64を摩擦点接合する方法において、両部材63,64を所定の接合部Pにおいて重ね合せ方向に所定の間隔Sをあけて重ね合せ、この状態で上記所定の接合部Pにおいて両部材63,64を摩擦点接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦点接合、特に異種の金属部材同士を重ね合せて摩擦点接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を図る1つの方策として、自動車のボディ等にアルミニウムやアルミニウム合金(以下総じて単に「アルミ」ということがある)で作製された部材が多く採用されるようになっており、それに伴い、例えばアルミと鉄又はアルミと鋼といった異種の金属部材同士を接合する機会が多くなって、その場合に、異種の金属部材同士を接合する手段として、摩擦点接合が知られている。この摩擦点接合は、例えばアルミニウム合金等の第1金属部材と、該第1金属部材よりも融点の高い例えば鋼等の第2金属部材とを重ね合せてワークとし、このワークに融点の低いほうの第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで、該回転ツールの回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱により第1金属部材を軟化させ、そののち塑性流動させて、両金属部材を融点以下の温度で固相接合(溶融を伴わない固相状態のままの接合)するものである。
【0003】
この点に関し、特許文献1には、例えばアルミと鋼又はチタンと鋼といった異種の金属部材を重ね合せて回転ツールで摩擦接合する場合に、上記異種金属が混合した際に生じる合金又は金属間化合物の溶融温度よりも、上記異種金属のうちの一方の金属部材を同種同士で摩擦接合するときの接合温度のほうが低くなるような異種金属部材の組合せを選択することで、良好な摩擦接合を実現する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−170280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、自動車のボディ等は、浸漬塗装工法の1つである電着塗装によって下塗りが行われる。この電着塗装は、塗着効率及び防錆効果が高く、膜厚の調整が容易である等の利点がある。しかし、自動車のボディを組み立てるときに前述のような摩擦点接合を行った箇所があると、その摩擦点接合の接合部周囲に電着塗装の塗り残しが生じる場合があるという不具合が見出された。
【0006】
つまり、摩擦点接合は、最初に金属部材同士を所定の接合部においてぴったりと密着するように重ね合せ、この状態で上記接合部に回転ツールを高回転・高圧力で押し込んでいくのであるが、その際発生する摩擦熱や外部応力等によって、回転ツールを押し込んだ側の金属部材に歪みや撓み等の変形が生じ、その結果、金属部材間に微小空間・微小空隙が発生して、この微小空間には電着塗装の塗料溶液が表面張力の影響等によって浸入できないことから、摩擦点接合の接合部の周囲に電着塗装の塗り残しが生じる場合があるのである。そして、このような塗り残しを生じたままにしておくと、後々ここに水等の電解質が結露等によって接触したときに、異種金属部材間のイオン化傾向の違いから電気腐蝕が発生してしまうのである。
【0007】
本発明は、異種金属部材同士を重ね合せて摩擦点接合する場合における上記のような不具合に対処するもので、摩擦点接合をした後に行う電着塗装において、接合部周囲に塗り残しが生じないように対策することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、第1金属部材と該第1金属部材より融点の高い第2金属部材とを重ね合せたワークに第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転動作及び加圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させて両金属部材を摩擦点接合する方法であって、第1金属部材と第2金属部材とを所定の接合部において重ね合せ方向に所定の間隔をあけて重ね合せ、上記所定の接合部において両金属部材を摩擦点接合することを特徴とする。
【0009】
次に、請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、所定の接合部は、第1金属部材と第2金属部材とに形成した凹部の底部に設けられていることを特徴とする。
【0010】
次に、請求項3に記載の発明は、上記請求項1又は2に記載の発明において、第1金属部材はアルミニウム合金であり、第2金属部材は鋼であって、両金属部材を固相状態で接合することを特徴とする。
【0011】
そして、請求項4に記載の発明は、上記請求項1から3のいずれかに記載の発明において、第1金属部材は車体の所定の蓋部材のレインフォースメントであり、第2金属部材は上記蓋部材にヒンジ部材を取り付けるためのボルトのリテーナであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
まず、請求項1に記載の発明によれば、異種の金属部材同士を重ね合せて摩擦点接合する場合において、従来のように、両金属部材同士を所定の接合部においてぴったりと密着するように重ね合せるのではなく、両金属部材同士を所定の接合部において重ね合せ方向に所定の間隔をあけて重ね合せ、この状態で上記接合部に回転ツールを押し込んで摩擦点接合をするようにしたから、たとえ回転ツールによる接合時に金属部材に歪みや撓み等の変形が生じても、接合部の周囲の空間が微小となることがなく、その結果、電着塗装の塗料溶液が接合部の周囲の空間に支障なく浸入できて、摩擦点接合の接合部周囲に電着塗装の塗り残しが生じることがなくなる。
【0013】
つまり、接合中の金属部材の変形は回避できないから、それであれば、たとえ金属部材が変形しても、接合後に電着塗装の塗料溶液が円滑に侵入できるだけの大きさの空間が接合部の周囲に確保されるように、最初から金属部材間に所定の間隔を設けたところに本発明の最大の特徴があり、これにより、電着塗装の塗料溶液の付き回りが良くなって塗り残しの問題が解消されることとなる。
【0014】
もっとも、上記所定の間隔は、大きくすればするほど、接合後において接合部の周囲に大きな空間が確保されることになって好ましいが、一方で、接合強度の低下を伴う場合があるので、上記間隔の下限値は、接合後の空間確保の観点から定め、上記間隔の上限値は、接合強度の観点から定めるのがよい。
【0015】
その場合に、請求項2に記載の発明によれば、第1金属部材と第2金属部材とを両金属部材に形成した凹部の底部において接合するから、回転ツールが押し込まれて変形する側の第1金属部材の凹部が内側に位置し、回転ツールが押し込まれず変形しない側の第2金属部材の凹部が外側に位置することとなって、第1金属部材の凹部の変形が第2金属部材の凹部で拘束されることとなる。その結果、第1金属部材の凹部の変形に伴う微小空間・微小空隙の発生、及びそれに起因する電着塗装の塗り残しの発生が凹部内に集約されて凹部内で多発することとなり、このような状況下で、第1金属部材の凹部の底部と第2金属部材の凹部の底部とを所定の間隔をあけて重ね合せることによって得られる本発明の作用効果は一層顕著なものとなる。
【0016】
そして、請求項3に記載の発明によれば、アルミニウム合金部材と鋼部材とを重ね合せたワークにアルミニウム合金部材の側から回転ツールを押し込んでアルミニウム合金部材を軟化及び塑性流動させて両金属部材を固相状態で摩擦点接合する方法において、上記請求項1又は2に記載の発明で奏される作用効果と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明によれば、車体の所定の蓋部材(例えばトランクリッドやボンネット等)のレインフォースメントと、上記蓋部材にヒンジ部材を取り付けるためのボルトのリテーナとを重ね合せたワークに、レインフォースメントの側から回転ツールを押し込んで、レインフォースメントを軟化及び塑性流動させて、両金属部材を固相状態で摩擦点接合する方法において、上記請求項1から3のいずれかに記載の発明で奏される作用効果と同様の作用効果が奏されることとなる。以下、本発明の最良の実施形態を通して、本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本実施形態に係る摩擦点接合装置1の概略正面図である。この摩擦点接合装置1は、例えば自動車のボディ等に採用されるアルミ部材同士の接合、又はアルミ部材と鋼部材との接合に用いられるもので、主たる構成要素として、接合ガン10と、該接合ガン10を下垂状態で支持するフレーム11とを含んでいる。
【0019】
図2及び図3に拡大して示すように、上部フレーム11にはアッパプレート11aが設けられており、該アッパプレート11aにレール部材41が水平方向に延設されて、該レール部材41の溝41aに接合ガン10の上部カバー22がスライド自在に嵌合されて、接合ガン10は、上記レール部材41に沿って水平方向に移動自在とされている。接合ガン10は、本体ケース13と、加圧用モータ14と、回転用モータ15とを有し、本体ケース13の下端部に接合用工具18の一方である回転ツール16が具備されている。これと同様に、下部フレーム11にはロアプレート11bが設けられており、該ロアプレート11bにもレール部材42が水平方向に延設されて、該レール部材42の溝42aに接合用工具18の他方である受け具17がスライド自在に嵌合されて、受け具17は、上記レール部材42に沿って水平方向に移動自在とされている。
【0020】
図4にさらに拡大して示すように、本体ケース13の内部には、上下に平行に延びるネジ軸(昇降軸)24とスプライン軸(回転軸)25とがそれぞれ回転自在に備えられている。両軸24,25の上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで従動プーリ26,27が組み付けられている。一方、図5に示すように、上蓋部材21は、本体ケース13の上部から本体ケース13の側方に張り出しており(図2参照)、この張出部に加圧用モータ14及び回転用モータ15が固定されている。その場合に、両モータ14,15の出力軸14a,15aの上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで駆動プーリ14b,15bが組み付けられている。そして、各駆動プーリ14b,15bと従動プーリ26,27との間にそれぞれ動力伝達用のベルト28,29が巻き掛けられて、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa,b方向に回転駆動され、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動される。
【0021】
図4に戻り、ネジ軸24の螺子部24aに昇降ブロック31が螺合されており、スプライン軸25のスプライン部25aに回転筒体35がスプライン結合されている。回転筒体35は、上記昇降ブロック31に結合部材32を介して一体に結合された昇降筒体33の内部に回転自在に備えられている。本体ケース13の下面には円筒状の下方突出部13aが形成されており、該下方突出部13aの下端部には下部カバー23が備えられて、昇降筒体33及び回転筒体35の下端部は上記下部カバー23を超えて下方に突出している。その場合に、内側の回転筒体35のほうが外側の昇降筒体33よりも長く下方に突出し、該回転筒体35の先端部に取付部材36が固着されて、該取付部材36に回転ツール16が着脱自在(交換自在)に取り付けられている。なお、下部カバー23と昇降筒体33の下端部との間に、昇降筒体33の外表面を本体ケース13の外部の汚染等から保護する伸縮自在の蛇腹部材34が備えられている。
【0022】
以上により、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa方向に回転駆動されたときは、昇降体30(昇降ブロック31と結合部材32と昇降筒体33の一体物をいう)が螺子部24aとの螺合によって下降し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に下降する。逆に、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のb方向に回転駆動されたときは、昇降体30が螺子部24aとの螺合によって上昇し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に上昇する。また、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動されたときは、上記のような昇降体30の動きとは無関係に、回転筒体35がスプライン部25aとのスプライン結合によって同方向cに回転し、回転筒体35に取り付けられた回転ツール16も一緒に同方向cに回転する。図1〜図3には、そのときの回転ツール16の回転軸心を符号Xで示してある。
【0023】
ここで、加圧用モータ14としては、回転角の制御及び検知が容易なサーボモータが好ましく使用可能であり、回転用モータ15としては、同じく回転角の制御及び検知が容易なサーボモータあるいは回転速度の制御が容易なインダクションモータが好ましく使用可能である。
【0024】
図6に回転ツール16の先端部を拡大して示す。この回転ツール16は、特に、異種の金属部材(例えばアルミと鋼等)の接合に好適なように設計されており、円柱状の胴体部16aの下端面(その輪郭は円形である)が、金属部材と当接して該金属部材を加圧するショルダ部16bとされている。その場合に、ショルダ部16bは、平坦ではなく、所定角度(θ)傾斜して、回転軸心Xを中心とする円錐形状に窪んだ形状とされている。そして、該ショルダ部16bの中心に円柱状のピン部16cが立設され、該ピン部16cはショルダ部16bの下端部つまりショルダ部16bの周縁部よりも所定長さ(h)だけ下方に突出している。ここで、回転ツール16の具体的寸法としては、例えば、後述するように(図20参照)、ショルダ部16bの直径が10mm、ピン部16cの直径が2mm、ショルダ部16bの傾斜角(θ)が7°、ピン部16cの突出長さ(h)が0.35mm(金属部材の厚みが薄い場合は0.3mm)等とされる。
【0025】
図1に示したように、接合ガン10はハーネス51を介して制御盤50と接続されている。そして、フレーム11に配設されたスイッチ12のオン・オフ操作により、加圧用モータ14及び回転用モータ15の回転駆動が制御盤50に内蔵された図示しない制御ユニットによって開始、制御又は停止される。
【0026】
図7に例示するように、本実施形態においては、摩擦点接合装置1の受け具17上に、融点の相対的に低い第1金属部材W1(例えばアルミ板材)を上板とし、融点の相対的に高い第2金属部材W2(例えば鋼板材)を下板として重ね合せたワークを載置する(状況に応じてワークを図示しないクランプ等の適宜手段によって固定する)。そして、このワークに向かって上方から、つまり第1金属部材W1の側から、回転ツール16を回転させながら下降させて押し込み、この回転ツール16の回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱で第1金属部材W1を軟化させ、そののち塑性流動させて、両金属部材W1,W2を固相接合する。
【0027】
このとき、1つの接合部Pでの接合が終了すると、回転ツール16を上昇させ、接合ガン10をレール部材41に沿って所定距離だけ水平移動させた後、再び回転ツール16を下降させて接合を行い、これを繰り返すことにより、第1・第2金属部材W1,W2を複数の接合部P…Pで摩擦点接合することができる。
【0028】
さらに詳しく説明すると、図8に示すように、摩擦点接合動作の初期、つまり回転ツール16が下降してピン部16cの先端が第1金属部材W1に接触したときは、その接触部位で摩擦熱Hが発生し、周囲に拡散していく。第1金属部材W1及び酸化防止のために第2金属部材W2の表面に施されている亜鉛メッキ層Zは、上記摩擦熱Hによって接合部Pにおいて軟化し始める。
【0029】
次に、図9に示すように、摩擦点接合動作の中期、つまり回転ツール16がさらに下降してショルダ部16bの先端が第1金属部材W1に突入したときは、ピン部16cの回転及び加圧に加えて、大径のショルダ部16bの回転及び加圧により、より大量の摩擦熱Hが発生し、第1金属部材W1は十分に軟化して塑性流動し始める(符号A)。しかも、このとき、回転ツール16のショルダ部16bが回転軸心Xを中心とする円錐形状に窪んだ形状とされているから、塑性流動する第1金属部材W1は、回転ツール16の直下から外方へ流出するのが抑制され、その結果、回転ツール16による加圧力が回転ツール16の直下に集中して、第1金属部材W1の塑性流動が促進される。
【0030】
また、回転ツール16による加圧及び第1金属部材W1の塑性流動によって、軟化した亜鉛メッキ層Zが接合部Pから押し出され、両金属部材W1,W2の接合境界面(第2金属部材W2の上面)において第2金属部材W2の新生面が露出すると共に、図示しないが、空気中の酸素により第1金属部材W1の表面に生成していた酸化皮膜が接合部Pにおいて破壊され、両金属部材W1,W2の接合境界面(第1金属部材W2の下面)において第1金属部材W1の新生面が露出する。
【0031】
そして、図10に示すように、摩擦点接合動作の後期、つまり回転ツール16がさらに下降してショルダ部16bが第1金属部材W1に深く突入したときは、回転ツール16で押し出された金属材料がバリBとなってワークの表面に隆起すると共に、亜鉛メッキ層Zがより一層接合部Pから押し出され、また酸化皮膜がより一層破壊されて、両金属部材W1,W2の新生面の露出範囲が拡大する(図中×で表示した範囲)。その結果、両金属部材W1,W2の摩擦点接合(固相接合)の接合強度の向上が図られる。
【0032】
なお、亜鉛メッキ層Zの1部に(符号Y)、第1金属部材Wから由来した金属と、亜鉛メッキ層Zから由来した金属との金属混合物が生成する。
【0033】
以上により、図11に示すように、接合終了後に回転ツール16を上昇させた後の接合部Pにおいては、ワークの表面に、バリBで囲まれた状態で、ショルダ部16bの痕とピン部16cの痕とが残る。ただし、その場合に、ピン部16cの先端が上板である第1金属部材W1を突き抜けて下板である第2金属部材W2に突き当たらないように、回転ツール16の寸法や板組みW1,W2に応じて、接合条件が調整されている(図20参照)。さもないと、第1金属部材W1にピン部16cで孔が開いてしまい、接合強度不足あるいは電気腐食等の不具合が生じてしまうからである。
【0034】
次に、本発明の特徴部分を説明する。図12は、本発明に係る方法で摩擦点接合をする自動車ボディの構成部材の使用状態を示したものである。この自動車ボディの構成部材は、自動車のトランクリッド60のレインフォースメント63と、該トランクリッド60にヒンジ70(図13参照)を取り付けるためのボルトリテーナ64とである。これらの部材63,64は、アウタパネル61とインナパネル62とを周縁部でヘミング加工して結合した袋構造のトランクリッド60のコーナ内部に左右一対配置されている。ここで、レインフォースメント63は、6000系のアルミニウム合金(厚み1.4mm)で作製されており、ボルトリテーナ64は、亜鉛メッキされた鋼鈑(厚み1.0mm)で作製されている(図20参照)。
【0035】
図13に示すように、トランクリッド60のコーナ内部において、レインフォースメント63がインナパネル62に適宜手段で固着されている。そして、このレインフォースメント63に重ね合せてボルトリテーナ64が次に説明する方法で摩擦点接合されている(接合部Pは2箇所)。このボルトリテーナ64に結合されたボルト65,65の螺子部がインナパネル62から外方に突出し、このボルト65,65の螺子部にヒンジ70を通して該ヒンジ70をナット66,66で締め付け固定する。ここで、レインフォースメント63とボルトリテーナ64との摩擦点接合は、ヒンジ70をトランクリッド60に組み付けるまでの期間中、ボルトリテーナ64をトランクリッド60に仮止めするためのものである。
【0036】
その場合に、上記接合部P,Pは、レインフォースメント(第1金属部材)63と、ボルトリテーナ(第2金属部材)64とに形成した凹部の底部63a,64aに設けられている。これらの凹部は、レインフォースメント63の剛性確保のため、あるいは摩擦点接合で生成するバリBを隠すために設けられたもので、図12に明らかなように、正対視で円形に仕上げられている。
【0037】
以下、第1金属部材としてのレインフォースメント63と、第2金属部材としてのボルトリテーナ64とを重ね合せて摩擦点接合する本発明に係る方法を説述する。
【0038】
まず、図14に示すように、融点の相対的に低いアルミニウム合金製のレインフォースメント63を上板とし、融点の相対的に高い鋼製のボルトリテーナ64を下板として、両部材63,64を重ね合せ、これをワークとする。そして、このワークを摩擦点接合装置1の受け具17の上に載置する。この状態で、ボルト65,65の螺子部が、レインフォースメント63の孔(符号付さず)を貫通して上方に起立しているので、該ボルト65,65の螺子部をクランプ17a,17aで固定する。
【0039】
このとき、レインフォースメント63の凹部と、ボルトリテーナ64の凹部とを位置合せして両部材63,64を重ね合せる。その場合に、レインフォースメント63の凹部が内側に位置し、ボルトリテーナ64の凹部が外側に位置するので、レインフォースメント63の凹部の径が、ボルトリテーナ64の凹部の径よりも小さく設定されている。併せて、レインフォースメント63の凹部の深さが、ボルトリテーナ64の凹部の深さよりも浅く設定されている。その結果、図14に示したように、レインフォースメント63の凹部の底部63aと、ボルトリテーナ64の凹部の底部64aとの間に、上下方向つまり重ね合せ方向に、所定の間隔Sがあいている。そして、接合部P,Pにおいては、そのように重ね合せ方向に所定の間隔Sがあいているが、その他の部分では、レインフォースメント63とボルトリテーナ64とがぴったりと密着して重なり合っている。そして、この状態で、上記接合部P,Pにおいて両部材63,64を摩擦点接合するべく、ワークに向けて摩擦点接合装置1の回転ツール16を回転させながら下降させる。
【0040】
図15は、回転ツール16のピン部16cの先端がレインフォースメント63の凹部の底部63aに接触した様子を示している(前述の図8に相当)。このときピン部16cは摩擦熱を発生させるが、同時に回転ツール16を接合部Pに位置決めし、回転ツール16が接合部Pから位置ズレしないようにする機能も有している。
【0041】
次に、図16は、回転ツール16のショルダ部16bがレインフォースメント63の凹部の底部63aに深く突入した様子を示している(前述の図10に相当)。このとき回転ツール16で下方に押圧されたレインフォースメント63の塑性流動部分が、上記両部材63,64間の所定の間隔Sを埋めながら下方に押し出され、その押し出された部分において両部材63,64の新生面が露出して、両部材63,64が摩擦点接合(固相接合)している。
【0042】
次に、図17は、1点目の接合が終了して、2点目の接合を行うべく、回転ツール16が2点目の接合部Pの上方に水平移動した様子を示している(1点目の図14と同様)。なお、回転ツール16の上昇時及び水平移動時も回転ツール16は回転したままとする(もちろん回転を一時停止してもよい)。
【0043】
次に、図18は、2点目の接合部Pにおいて、回転ツール16のショルダ部16bがレインフォースメント63の凹部の底部63aに深く突入した様子を示している(1点目の図16と同様)。このときもまた回転ツール16で下方に押圧されたレインフォースメント63の塑性流動部分が、上記両部材63,64間の所定の間隔Sを埋めながら下方に押し出され、その押し出された部分において両部材63,64の新生面が露出して、両部材63,64が摩擦点接合(固相接合)している。
【0044】
以上により、図19に符号ア…アで示すように、接合終了後の接合部P,Pの周囲には、上記両部材63,64間の所定の間隔Sに起因して、比較的大きな空間が最後まで残ることとなる。したがって、この摩擦点接合をした後に行うワークの電着塗装において、塗料溶液が接合部P,Pの周囲の空間ア…アに支障なく浸入できて、摩擦点接合の接合部P,Pの周囲に電着塗装の塗り残しが発生しなくなり、その結果、異種金属部材63,64間の電気腐蝕の問題が解消される。
【0045】
もちろん、この最後まで残った空間ア…アは、最初の間隔Sと同じサイズであるとは限らず、接合中の摩擦熱や外部応力等によってレインフォースメント63に歪みや撓み等の変形が生じ、その結果、空間ア…アの高さは最初の間隔Sから増加又は減少していることが多い。しかし、たとえ減少した場合であっても、接合終了後の接合部P,Pの周囲の空間が、電着塗装の塗料溶液が表面張力の影響等によって浸入できなくなるほどの微小空間・微小空隙となることが回避されている。
【0046】
しかも、本実施形態においては、レインフォースメント63とボルトリテーナ64とを両部材63,64に形成した凹部の底部63a,64aにおいて接合するから、回転ツール16が押し込まれて変形する側のレインフォースメント63の凹部が内側に位置し、回転ツール16が押し込まれずそれほど変形しない側のボルトリテーナ64の凹部が外側に位置することとなって、レインフォースメント63の凹部の変形がボルトリテーナ64の凹部で拘束されることとなる。その結果、レインフォースメント63の凹部の変形に伴う微小空間・微小空隙の発生、及びそれに起因する電着塗装の塗り残しの発生が凹部内に集約されて凹部内で多発することとなる。したがって、このような状況下で、レインフォースメント63の凹部の底部63aと、ボルトリテーナ64の凹部の底部64aとを、所定の間隔Sをあけて重ね合せることによって得られる本発明の作用効果は一層顕著なものとなっている。
【0047】
図20は、上記図14〜図19に例示した本発明に係る摩擦点接合方法のより具体的な各種設定値をまとめたものである。ここで、接合条件として3段加圧を採用した。なお、加圧力の変更は加圧用モータ14の回転角を制御することにより、また回転数の変更は回転用モータ15の回転速度を制御することにより、それぞれ可能なことはいうまでもない。
【0048】
図21は、上記図20に示した各種設定値のもとで、レインフォースメント63とボルトリテーナ64との間の間隔Sをいくつか変えて行った摩擦点接合テスト1〜3の結果をまとめたものである。これによると、接合前の板間隔Sを0.3mmとしたとき(テスト2)は、0.90kNの接合部剥離強度が得られた。これは、接合前の板間隔Sを0mmとしたとき、つまりレインフォースメント63とボルトリテーナ64との間に間隔Sをあけずに接合する従来の接合方法を行ったとき(テスト1)に得られる剥離強度(0.88kN)と遜色がなく、ヒンジ70をトランクリッド60に組み付ける際にインパクトレンチでナット66をボルト65の螺子部に打ち込むときの衝撃に十分耐え得るものであった(すなわち仮止めとしての基準を満足するレベルであった)。
【0049】
一方、接合前の板間隔Sを0.6mmに増大したとき(テスト3)は、接合部剥離強度が低減した(0.49kN)。ただし、この数値は、1点目の接合のみで得られた強度である。すなわち、1点目を接合した際のレインフォースメント63の変形を受けて、1点目の接合部Pの周囲の空間ア…アの高さが最初の間隔Sから増加したのであるが、このとき板間隔Sを0.6mmに増大していたことによって、2点目の接合部Pにおいて板間隔Sが離れ過ぎてしまい、その結果、2点目の接合が満足に行えなかったのである(より具体的には、回転ツール16を押し込んだときにレインフォースメント63の塑性流動部分が下板のボルトリテーナ64まで届かずに2点目の接合部Pに穴が開いてしまったのである)。
【0050】
以上のことから、接合後の大きな空間ア…ア確保の観点に加えて、接合後の接合強度の観点まで考慮すると、上記図20に示した各種設定値のもとでは、接合前の最初の板間隔Sは、およそ0.3mm以上で0.6mm未満の範囲にするとよいことが分かった。
【0051】
因みに、上記図14〜図19と対比させて、上下板間隔Sをあけない従来の摩擦点接合方法の様子を図22〜図27に例示する。この場合、例えば図24に示したように、1点目の接合によって、該1点目の接合部P周辺で、上下両部材63,64の境界面に、僅かな空間・空隙が発生する(これは1点目を接合した際のレインフォースメント63の変形に起因するものである)。また同様に、図26に示したように、2点目の接合によって、該2点目の接合部P周辺で、上下両部材63,64の境界面に、僅かな空間・空隙が発生する(これは2点目を接合した際のレインフォースメント63の変形に起因するものである)。
【0052】
しかし、図27に符号イ…イで示したように、接合終了後の接合部P,Pの周囲には、微小空間・微小空隙しか発生せず、したがって、この摩擦点接合をした後に行うワークの電着塗装において、塗料溶液が接合部P,Pの周囲の空間イ…イに浸入することができず、摩擦点接合の接合部P,Pの周囲に電着塗装の塗り残しが生じて、異種金属部材63,64間の電気腐蝕の問題が起きてしまうこととなる。
【0053】
以上のように摩擦点接合をした後に行う電着塗装は、例えば図28に示すようなシステムで実行される。すなわち、上記トランクリッド60やボンネット等の車体の蓋部材が組み付けられた自動車ボディをハンガに吊るし、上記蓋部材を開けた状態で所定速度で移動させながら電着塗装の塗料溶液槽に所定時間浸漬させる。その間、プラスに帯電された塗料(カチオン電着)が陰極とされた自動車ボディの表面に電気泳動によって析出し、これにより塗膜が形成されて、自動車ボディの下塗りが行われる。
【0054】
なお、上記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、なお種々の修正・変更が可能であることはいうまでもない。例えば、上記実施形態では、摩擦点接合装置1は、接合ガン10をフレーム11で下垂状態に支持する構成であったが、これに代えて、例えば接合ガン10を汎用される6軸垂直多関節型ロボットの手首に備え、このロボットの動きで接合ガン10による摩擦点接合、及び複数の接合部P…P間の接合ガン10の移動を行う構成としてもよい。また、上記実施形態では、摩擦点接合をするワークはトランクリッド60の構成部材であったが、これに限らず、例えばボンネットの構成部材等であってもよい。さらに、上記実施形態では、上下両部材63,64の凹部の深さを異ならせることにより、両部材63,64間に所定の間隔Sをあけるようにしたが、これに限らず、例えば両部材63,64間にスペーサ等を挟み込むことにより、両部材63,64間に所定の間隔Sをあけるようにしてもよい(この方法は、接合部Pが凹部の底部にないときに特に有効である)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明によれば、異種金属部材同士を重ね合せて摩擦点接合をした後に電着塗装をしても接合部周囲に塗り残しが生じることがなくなり、その結果、異種金属部材間のイオン化傾向の違いに起因して電気腐蝕が発生することが回避できる。本発明は、回転ツールを高回転・高圧力で接合部に押し込む方式の摩擦点接合の技術分野において幅広い産業上の利用可能性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係る摩擦点接合装置の概略正面図である。
【図2】上記摩擦点接合装置における接合ガン周辺の拡大正面図である。
【図3】図2のI−I矢視断面図である。
【図4】図3と同方向からの上記接合ガンの本体ケースの内部構成を示す拡大断面図である。
【図5】図4のII−II矢視断面図である。
【図6】上記摩擦点接合装置に採用される回転ツールの先端構造を示す拡大図である。
【図7】上記摩擦点接合装置の回転ツールと受け具とにより重ね合せた2枚の金属部材を複数の接合部で摩擦点接合する動作を示す斜視図である。
【図8】上記摩擦点接合装置の回転ツールを押し込んで重ね合せた2枚の金属部材を摩擦点接合する動作の初期を示す拡大断面図である。
【図9】同じく摩擦点接合する動作の中期を示す拡大断面図である。
【図10】同じく摩擦点接合する動作の終期を示す拡大断面図である。
【図11】上記摩擦点接合の接合部を示す拡大断面図である。
【図12】自動車のトランクリッドのヒンジ取付部をインナパネル側から示す一部切欠きの部分図である。
【図13】図12のIII−III矢視断面図であって、(a)はトランクリッドにヒンジを取り付ける前の状態を分解して示す図、(b)はトランクリッドにヒンジを取り付けた後の状態を示す図である。
【図14】上記摩擦点接合装置を用いて本発明の方法により上記トランクリッドのレインフォースメントとボルトリテーナとを2箇所の接合部で摩擦点接合する動作の1例を示す拡大断面図である。
【図15】上記摩擦点接合動作の次の段階を示すものである。
【図16】さらに次の段階を示すものである。
【図17】さらに次の段階を示すものである。
【図18】さらに次の段階を示すものである。
【図19】上記摩擦点接合により接合部周囲に生じた比較的大きな空間を示す拡大断面図である。
【図20】上記摩擦点接合装置を用いて本発明の方法により上記トランクリッドのレインフォースメントとボルトリテーナとを2箇所の接合部で摩擦点接合する動作の接合条件、ツール寸法及び板組みを示すテーブルである。
【図21】上記摩擦点接合のテスト1〜3の結果を示すテーブルである。
【図22】上記摩擦点接合装置を用いて従来の方法により上記トランクリッドのレインフォースメントとボルトリテーナとを2箇所の接合部で摩擦点接合する動作の1例を示す拡大断面図であって図14と対比するものである。
【図23】上記摩擦点接合動作の次の段階を示すものであって図15と対比するものである。
【図24】さらに次の段階を示すものであって図16と対比するものである。
【図25】さらに次の段階を示すものであって図17と対比するものである。
【図26】さらに次の段階を示すものであって図18と対比するものである。
【図27】上記摩擦点接合により接合部周囲に生じた微小空間を示す拡大断面図である。
【図28】摩擦点接合後に行う電着塗装工程の1例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 摩擦点接合装置
10 接合ガン
11 フレーム
14 加圧用モータ
15 回転用モータ
16 回転ツール
16b ショルダ部
16c ピン部
17 受け具
24 ネジ軸(昇降軸)
25 スプライン軸(回転軸)
50 制御盤
60 トランクリッド(蓋部材)
63 レインフォースメント
64 ボルトリテーナ
63a,64a 凹部の底部
70 ヒンジ
P 接合部
S 間隔
W1 第1金属部材
W2 第2金属部材
X 回転軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と該第1金属部材より融点の高い第2金属部材とを重ね合せたワークに第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転動作及び加圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させて両金属部材を摩擦点接合する方法であって、第1金属部材と第2金属部材とを所定の接合部において重ね合せ方向に所定の間隔をあけて重ね合せ、上記所定の接合部において両金属部材を摩擦点接合することを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項2】
所定の接合部は、第1金属部材と第2金属部材とに形成した凹部の底部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦点接合方法。
【請求項3】
第1金属部材はアルミニウム合金であり、第2金属部材は鋼であって、両金属部材を固相状態で接合することを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦点接合方法。
【請求項4】
第1金属部材は車体の所定の蓋部材のレインフォースメントであり、第2金属部材は上記蓋部材にヒンジ部材を取り付けるためのボルトのリテーナであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の摩擦点接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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