説明

摩擦転写成形法

【課題】本発明は、高い加工効率及び材料利用率を有し、且つ複雑な形状を成形することができる摩擦転写成形法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る摩擦転写成形法は、工具を提供するステップと、凹部が開設された表面を有する金型を提供するステップと、部材を提供して、前記部材を前記金型の凹部が開設された表面に設置するステップと、前記工具を前記部材に押し込み、前記工具を回転させながら前記凹部の開設方向に沿って移動し、前記部材の材料を局部的に摩擦することによって、前記金型の凹部内に前記部材と一体に成形される凸部を形成するステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦転写成形法に関し、特にピン(突起部)を備えない工具を用いた摩擦転写成形法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属又はプラスッチク板材に部分的に凹凸を形成する方法としては、切削などにより部分的に除去加工するか、他部品又は他材料を付加して接合・積層するか、又は部分的に金型に沿わせた変形加工を行うのかの3つの方法が存在する。前記除去加工は、形状的自由度が高いものの生産効率が低く、前記接合付加加工及び前記変形加工は、生産効率が高いものの形状的制約が大きいといった加工法特有の問題点を有するため、それぞれの用途に応じた適切な加工法が選択される。
【0003】
このうち板厚変化を伴う部分的な凹凸変形加工の場合は、プレス機械と金型を使用し、コイニング、鍛造、半抜き加工によって金型凹凸面を転写させることが可能となる。しかし板材に部分的に凹凸を形成する場合、転写面積に比例した加圧力を必要とするため、通常は巨大な加圧力を必要として、適用範囲は小物部品に限られる。また部分的な変形加工を加えることにより、板材全体に有害なそり歪を伴うことが多い。これらプレス加工による板材に凹凸成形の問題点を解決することが出来れば、板材の部分的成形法の適用範囲が拡大し、加工費の削減及び材料利用率の向上等製造上の経済的効果は大きい。
【0004】
この問題を解決するため、加圧力を減少させる手段として被加工材全体を加熱軟化させる対策が考えられるものの、基本的には熱間プレス成形であるため、大寸法の板材加工に適用されない。これに対し、変形部のみ局部加熱を行うことも有り得るが、板材に局部加熱を加えることにより部分的な熱膨張が発生し、また冷却後の収縮による大きな内部応力が残留し、結果的に板材に有害なそりが発生してしまう。これらのことから、実際にはある面積以上大寸法の板材では、板材表面にプレス加圧による変形加工で凹凸形状成形を行うことは極めて困難とされ実施例は限定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明は、高い加工効率及び材料利用率を有し、且つ複雑な形状を成形することができる摩擦転写成形法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題を解決するために、本発明に係る摩擦転写成形法は、工具を提供するステップと、凹部が開設された表面を有する金型を提供するステップと、部材を提供して、前記部材を前記金型の凹部が開設された表面に設置するステップと、前記工具を前記部材に押し込み、前記工具を回転させながら前記凹部の開設方向に沿って移動し、前記部材の材料を局部的に摩擦することによって、前記金型の凹部内に前記部材と一体に成形される凸部を形成するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る摩擦転写成形法は、加工効率が高く、且つ複雑な形状を簡単に成形することができる。更に、成形する時、材料の流動を利用して材料を除去する必要がなくなるため、材料利用率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦転写成形法に使用される接合工具の構造を示す図である。
【図2】図1に示す接合工具の摩擦面の構造を示す図である。
【図3】図1に示す接合工具の摩擦面の他の構造を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る摩擦転写成形法に使用される金型の構造を示す図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係る摩擦転写成形法による接合工具を使用して部材を成形させる時の構造を示す図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る摩擦転写成形法に使用される金型の構造を示す図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る摩擦転写成形法による部材の成形時の状態を示す図である。
【図8】本発明の第二実施形態に係る摩擦転写成形法による部材の成形時の他の状態を示す図である。
【図9】本発明の第二実施形態に係る摩擦転写成形法による部材の成形時の他の状態を示す図である。
【図10】本発明の第二実施形態に係る摩擦転写成形法によって成形された部材の構造を示す図である。
【図11】本発明の第三実施形態に係る摩擦転写成形法に使用される金型の構造を示す図である。
【図12】本発明の第三実施形態に係る摩擦転写成形法による接合工具を使用して部材を成形させる時の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る摩擦転写成形法について詳細に説明する。
【0010】
図1を参照すると、本発明の実施形態に係る摩擦転写成形法は、工具10を採用して行う。図1乃至図3を一緒に参照すると、前記工具10は、略柱状体であって、その一端面は、略平面状の摩擦面11である。前記摩擦面11には、前記工具10の内部へ凹入された複数の凹部13が形成されている。前記凹部13の形状は、螺旋状又は前記接合工具10の回転中心を共同起点として放射状に配列される複数の円弧である。作業時の前記接合工具10の回転方向は、前記凹部13の中心から周縁へ延伸する方向と同じである。
【0011】
図4を参照すると、本発明の第一実施形態に係る摩擦転写成形法に使用される金型20は、表面202を有し、前記表面202には、矩形断面を有する凹部204が開設されている。前記表面202は、平面又は曲面であって、前記表面202及び前記凹部204の形状は、最終製品の所定形状に基づいて設計される。
【0012】
図5を参照すると、成形される部材40は、略板状であって、摩擦面400を備える。摩擦成形する時、先ず、前記部材40の摩擦面400が前記金型20の表面202から背離するように前記部材40を前記金型20の表面202に配置する。次に、前記工具10を前記部材40の摩擦面400に押し込み、前記工具10を高速回転させながら前記凹部204の開設方向に沿って移動して、前記部材40の前記工具10に接合する接合線近傍の材料を局部的に摩擦する。前記部材40の材料は摩擦により熱を生じ、その熱は前記部材40の内部へ伝送されて、少なくとも一部分の材料は塑性流動を起こして前記金型20の凹部204に流れ込み、前記凹部204は前記部材40の材料で充填される。この結果、前記部材40の前記凹部204と対応する部分に所望の凸部402が形成されるとともに、前記部材40の摩擦面400に前記工具10の押し込みによるくぼみ跡が残される。最後に、需要によって前記部材40の摩擦面400表層の部分材料を取り除いて、前記部材40の摩擦面400を平らかな面に加工する。勿論、前記部材40の摩擦面400に対する要求が低い場合、前記表層材料を取り除く工程を省略することができる。
【0013】
この転写成形法は、厚い部材にも適用可能ではあるが、部材の厚さがある程度以上に厚いと、金型凹部の体積より部材のくぼみ量が大きくなるので、工具の周辺部に盛り上がりが生ずるので必要であれば後加工で除去する。又、前記工具を前記凹部204の延伸方向のみならず前記凹部204の延伸方向と直交する方向又は他の方向に移動することにより、前記部材40の材料を前記金型20の凹部204に効率よく充填させることが出来る。
【0014】
前記部材40の材料を深い凹部の底や角部まで十分に充填できない場合には、同じ又は違う材料の補充材料を工具押し込みにより生じた空洞に補給して再度摩擦成形を行うことにより、前記部材と前記補充材料を接合すると同時に成形することが出来る。具体的には、本発明の第二実施形態に示したようである。
【0015】
図6ないし図10は、本発明の第二実施形態に係る摩擦転写成形法である。本発明の第二実施形態は、前記第一実施形態と大体同じであるが、本発明の第二実施形態において、部材に成形しようとする凸部の高さがさらに高い。本発明の第二実施形態に係る摩擦転写成形法は、凹部504有する金型50を採用し、前記凹部504の深さは前記第一実施形態に係る摩擦転写成形法に使用される金型20の凹部204の深さより大きい。部材60は摩擦面600を有する。
【0016】
成形する時、先ず、前記部材60の摩擦面600が前記金型50の凹部504から背離するように前記部材60を前記金型20の凹部504が開設された表面に配置する。次に、前記工具10を前記部材60の摩擦面600に押し込み、前記工具10を回転させながら前記凹部504の開設方向に沿って移動して、前記部材60の前記工具10に接合する接合線近傍の材料を局部的に摩擦する。前記第一実施形態のように、前記部材60の材料は塑性流動を起こして前記金型50の凹部504に流れ込み、凸部602を形成する。しかし、前記凹部504の深さが大きすぎるため、材料が前記凹部504を完全に充填することが出来ない。次に、補充材料70を前記部材60の摩擦面600の工具押し込みにより生じた空洞に配置して、前記工具10を前記補充材料70に押し込み、再び前記工具10を回転させながら移動して、前記部材60と前記補充材料70とを接合すると同時に成形して、材料が前記凹部504を完全に充填して凸部604を形成する。本実施形態において、前記補充材料70の材料は前記部材60と同じである。これで、前記部材60の前記凹部504と対応する部分に所望の凸部604が形成される。最後に、需要によって前記部材60の摩擦面600表層の部分材料を取り除いて、前記部材60の摩擦面600を平らかな面に加工する。勿論、前記部材60の摩擦面600の表面に対する要求が低い場合、前記表層材料を取り除く工程を省略することができる。又、前記工具10を違う方向に沿って前記摩擦面600上で移動することができる。
【0017】
図11及び図12は、本発明の第三実施形態に係る摩擦転写成形法である。本実施形態において、金型80及び補充材料902を採用する。前記金型80には、複雑な形状を有する凹部804が開設されている。本実施形態において、前記凹部804はT字状である。前記補充材料902は前記凹部804と対応する形状を有し、即ち前記補充材料902は前記凹部804内に収容されることができる。成形する時、先ず、前記補充材料902を前記凹部804内に配置して、前記部材90を前記金型80の凹部804が開設された表面に配置する。次に前記工具10を前記部材90の前記凹部804から背離した表面に押し込み、前記工具10を回転させながら前記凹部804の開設方向に沿って移動することにより、前記部材90を局部的に摩擦し、又は同時に前記部材90及び前記補充材料902を局部的に摩擦する。前記部材90の材料又は前記部材90及び前記補充材料902の材料は塑性流動を起こして、前記部材90と前記補充材料902とを接合し、前記部材90に凸部を形成する。需要によって前記部材90表層の摩擦された材料を除去する。
【0018】
前記工具10の摩擦面11の中心部にねじ状の溝部が形成されている突起を設置してもよい。前記突起によって材料を前方に送り込むことにより、前記凹部204、504をより効率的に充填することが出来る。前記工具10の直径は、前記凹部204、504の大きさ及び深さによって決まるが、必ずしも凹部寸法以上の直径の工具を使う必要はなく、小寸法の直径の工具で繰返し摩擦成形を行ってもよい。
【0019】
前記部材及び前記補充材料の材料は、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅合金、ゴムなどのような低熔点の材料である。前記部材及び前記補充材料の形状は限定されず、自由に選択することが出来る。
【0020】
本発明に係る摩擦転写成形法は、次のような利点がある。第一、小径回転工具を使用した部分的な加工であるため、加工動力と加圧力は小さく、設備も小型で安価である。第二、工具自動交換装置を備えた切削用マシニングセンターがそのまま本加工法に使用できる上、転写成形前後に同一セッテングのもとに、切削の予備加工や追加工を行うことができる。第三、少量生産から多量生産に至るまで対応可能で、同一生産設備で多用な成形やモデルチェンジへの対応性も高い。第四、本法は局部的な転写成形の連続又は繰返しであるため、プレス加工のように部分的な加圧と変形により板材全体の歪や変形を生じる課題は存在せず、板材全体の精度を崩さない。第五、凹部に充填する材料が不足する場合には、成形後に工具を一たん後退させ、新たに同じ材料片を追加して摩擦工程を繰返すことにより追加材料を母材と一体化し、金型凹部へ充填を確実なものとし、また比較的大寸法や高い凸の成形を行うことが出来る。第六、金型に微細パターンを形成しておけば、微細パターンの転写成形も可能となる。第七、くぼみ部への追加材料片は別種の材料の投入することが出来、更に多機能を持つ部材を成形できる。第八、本発明に係る摩擦転写成形法は加工効率が高く、且つ切削される材料が少ないため、材料利用率が高い。第九、金型凹部に別の材料を装着しておき、部材の摩擦面から摩擦工具を押し込めば成形と同時に別材料の接合ができ、より複雑な形状形成が可能となる。
【0021】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形又は修正が可能であり、該変形又は修正も又、本発明の特許請求の範囲内に含まれるものであることは、いうまでもない。
【符号の説明】
【0022】
10 工具
11 工具の摩擦面
13 工具の凹部
20 金型
40 部材
50 金型
60 部材
70 補充材料
80 金型
90 部材
202 金型の表面
204 金型の凹部
400 部材の摩擦面
402 凸部
504 金型の凹部
600 部材の摩擦面
602 凸部
604 凸部
804 金型の凹部
902 補充材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を提供するステップと、
凹部が開設された表面を有する金型を提供するステップと、
部材を提供して、前記部材を前記金型の凹部が開設された表面に設置するステップと、
前記工具を前記部材に押し込み、前記工具を回転させながら前記凹部の開設方向に沿って移動し、前記部材の材料を局部的に摩擦することによって、前記金型の凹部内に前記部材の一部を突出させて凸部を形成するステップと、
を備えることを特徴とする摩擦転写成形法。
【請求項2】
前記部材の材料は摩擦により熱を生じ、その熱によって少なくとも一部分の材料は塑性流動を起こして前記金型凹部内に流れ込み、前記金型の凹部は前記部材の材料で充填されて前記凸部を形成することを特徴とする請求項1に記載の摩擦転写成形法。
【請求項3】
前記凸部が前記金型の凹部を完全に充填できない場合には、前記部材の前記金型から離れた一側に補充材料を設置し、前記工具を前記補充材料に押し込み、前記工具を再び回転させながら前記凹部の開設方向に沿って移動し、前記補充材料を局部的に摩擦することによって、前記補充材料と前記部材とを一体に接合して、前記金型凹部内に前記部材の一部を突出させて前記金型の凹部を完全に充填する凸部を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦転写成形法。
【請求項4】
前記金型凹部の形状に対応する形状を有する補充材料を提供して、前記工具で摩擦する前に前記補充材料を前記金型の凹部内に設置して、摩擦により前記部材と前記補充材料とを一体に接合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の摩擦転写成形法。
【請求項5】
前記凸部を形成してから、前記部材の表層から一定厚さの材料を除去するステップを更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の摩擦転写成形法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−116106(P2011−116106A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91523(P2010−91523)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(503023069)鴻富錦精密工業(深▲セン▼)有限公司 (399)
【出願人】(305052584)ファインテック株式会社 (6)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】