説明

摺動式等速自在継手

【課題】密封装置の装着時の継手内圧の上昇を防止して、密封装置のゴムや樹脂からなる部材の変形を回避することができる摺動式等速自在継手を提供する。
【解決手段】外側継手部材53の開口端部80に、外嵌固定されるブーツアダプタ73が密接するシール部Sと、シール部Sよりも開口側に設けられて、ブーツアダプタ73の圧入時に密封装置70内のエアを抜くエア抜き構造とを形成する。エア抜き構造Mは、継手軸線に対して所定角度で傾斜する方向に沿って形成される斜め溝81を周方向に沿って所定ピッチで配設して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等に適用される摺動式等速自在継手に関し、特に、外側継手部材の開口部が密封装置で密封されている摺動式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動式等速自在継手であるダブルオフセット型等速自在継手は、図7に示すように、円筒形状内周面1に軸方向に延びる複数のトラック溝2を形成した外側継手部材3と、球面状外周面4に軸方向に延びる複数のトラック溝5を形成した内側継手部材6と、前記外側継手部材3のトラック溝2と前記内側継手部材6のトラック溝5との対で形成されるボールトラックに一個ずつ組み込んだ複数のトルク伝達ボール7と、前記トルク伝達ボール7を保持するポケット8を有するケージ9とを備える。
【0003】
ケージ9の球面状外周面9aの曲率中心O1と球面状内周面9bの曲率中心O2を、継手中心Oを挟んで軸方向に互いに逆方向に等距離だけオフセットさせたものである。なお、外側継手部材3の内周面開口端部には、内部部品(内側継手部材6とケージ9とボール7等)の抜け止めとしての止め輪が付設されている。
【0004】
また、内側継手部材6の軸心孔に雌スプライン10が形成され、この軸心孔にシャフト11の端部が嵌入される。このシャフト11の端部には雄スプライン12が形成され、シャフト11の端部が内側継手部材6の軸心孔に嵌入された状態で、シャフト11の雄スプライン12が内側継手部材6の雌スプライン10に嵌合する。雄スプライン12の端部には周方向凹溝13が設けられ、この周方向凹溝13にストッパとしての止め輪14が装着されている。
【0005】
外側継手部材3の開口部は密封装置20にて塞がれている。ゴム材料又は樹脂材料等の可撓性材料にて構成されるブーツ22と、金属製のアダプタ23とからなる。ブーツ22は大径部22aと、小径部22bと、大径部22aと小径部22bとを連結する断面略U字形の屈曲部22cとを備える。アダプタ23は略円筒形で、一端部23aが外側継手部材3の端部外周面29に圧入され、他端部23bがブーツ22の大径部22aを加締めにて保持している。
【0006】
また、ブーツ22は、その小径部22bがシャフト11に外嵌されてブーツバンド24で締め付けられている。この場合、アダプタ23の一端部23aは大径に形成されて、一端部23aと中間胴部23cとの間に径方向壁部23dが形成される。この径方向壁部23dが外側継手部材3のシャフト突出側の端面3aに当接している。
【0007】
外側継手部材3の端部外周面には周方向溝25が設けられ、この周方向溝25にシールリングとしてのOリング26が装着されている。また、この周方向溝25よりも反開口側(継手奥側)には、ブーツアダプタ23の反ブーツ側端部が内径側へ加締られてなる縮径部27が嵌合する嵌合凹溝28が形成されている。
【0008】
ところで、前記のような密封装置20を組み付ける場合、アダプタ23の一端部23aを、外側継手部材3の端部外周面29に圧入することになる。この場合、圧入する際には、外側継手部材3の端部外周面29と一端部23aの内径面とが密接して、継手内部が密封される。このため、アダプタ23の一端部23aを順次圧入して行けば、継手内部の空気が圧縮されて内圧が上昇する。
【0009】
継手内部の内圧が上昇すれば、ブーツ22が継手外部側へ押圧されて変形した状態となる。このようにブーツ22が変形すれば、外側継手部材3及び内側継手部材6を軸方向に相対移動させたり、外側継手部材3及び内側継手部材6に角度変位をつけてトルクを付与すると、ブーツ22が折れや反転により内側継手部材6のシャフトに擦れて摩耗したり、ブーツ22に亀裂が発生し耐久性が低下する。
【0010】
そこで、従来には、ブーツアダプタの圧入時に、継手内部の内圧が上昇させないように、内圧調整構造を形成したものがある(特許文献1)。この特許文献1に記載のものは、図8に示すように、外側継手部材3の端部外周面29の端縁側を小径部31とし、この小径部31の外径面31aとアダプタ23の一端部23aの内径面との間に隙間を設けるようにしている。すなわち、周方向溝25の軸方向両土手部25a,25b側およびこの周方向溝25に装着されたOリング26が、アダプタ23の一端部23aの内径面に密着するシール部30としている。
【0011】
このため、シール部30にアダプタ23の一端部23aの内径面が密着するまで、継手内部と継手外部とが隙間によって連通状態となって、内圧の上昇を防止できる。これによって、圧入時に形成されるブーツの変形を回避させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−17224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、特許文献1に示すように隙間が形成されるものでは、図9の矢印に示すようにアダプタ23を圧入する際に、アダプタ23が、外側継手部材3の軸心に対して傾斜する状態を招くおそれがある。このように傾斜する状態で圧入して行くと、アダプタ23が変形して、装着後の密着性に不具合が生じるおそれがある。
【0014】
このため、外側継手部材3の小径部を可能な限り大径(周方向溝25の軸方向両土手部25a,25bの外径よりも僅かに小さい寸法)とすることも提案できる。しかしながら、このような僅か小さい寸法の小径部では、小径部31の外径面31aとアダプタ23の一端部23aの内径面との間の隙間が小さくなって、内圧吸収量が小さく、ブーツの変形を回避することが困難となる。
【0015】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、密封装置の装着時の継手内圧の上昇を防止して、密封装置のゴムや樹脂からなる部材の変形を回避することができる摺動式等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の摺動式等速自在継手は、外側継手部材と、外側継手部材に内挿される内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在してトルク伝達を行うトルク伝達部材と、外側継手部材の開口部を密封する密封装置とを備え、前記密封装置は、継手開口側から継手奥側に向かって圧入されて外側継手部材の開口端部に外嵌固定されるブーツアダプタと、内側継手部材に連結されて前記外側継手部材の開口より延出したシャフトと前記ブーツアダプタとの間に配設されたブーツとを有する摺動式等速自在継手において、外側継手部材の開口端部に、外嵌固定されるブーツアダプタが密接するシール部と、シール部よりも開口側に設けられて、ブーツアダプタの圧入時に密封装置内のエアを抜くエア抜き構造とを形成し、前記エア抜き構造は、継手軸線に対して所定角度で傾斜する方向に沿って形成される斜め溝を周方向に沿って所定ピッチで配設して構成したものである。
【0017】
本発明の第2の摺動式等速自在継手は、外側継手部材と、外側継手部材に内挿される内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在してトルク伝達を行うトルク伝達部材と、外側継手部材の開口部を密封する密封装置とを備え、前記密封装置は、継手開口側から継手奥側に向かって圧入されて外側継手部材の開口端部に外嵌固定されるブーツアダプタと、内側継手部材に連結されて前記外側継手部材の開口より延出したシャフトと前記ブーツアダプタとの間に配設されたブーツとを有する摺動式等速自在継手において、外側継手部材の開口端部に、外嵌固定されるブーツアダプタが密接するシール部と、シール部よりも開口側に設けられて、ブーツアダプタの圧入時に密封装置内のエアを抜くエア抜き構造とを形成し、前記エア抜き構造は、継手軸線に対して所定角度で傾斜する方向に沿って形成される第1の斜め溝を周方向に沿って所定ピッチで配設するとともに、この第1の斜め溝に対してクロスするように形成される第2の斜め溝を周方向に沿って所定ピッチで配設して構成したものである。
【0018】
本発明の第1および第2の摺動式等速自在継手によれば、ブーツアダプタの圧入時に密封装置内のエアを抜くエア抜き構造を形成したものであるので、ブーツアダプタの圧入時に継手内圧の上昇を抑えることができる。しかも、エア抜き構造は、第1の摺動式等速自在継手では、斜め溝を周方向に沿って所定ピッチで配設したものであり、第2の摺動式等速自在継手では、第1の斜め溝とこの溝に対してクロスする第2の斜め溝とで構成したものであるので、斜め溝を省いたエア抜き構造においては、その外径寸法をブーツアダプタの内径面が圧接する外側継手部材の開口端部におけるシール面の外径寸法と同一とすることができる。このため、ブーツアダプタの圧入時に、ブーツアダプタが外側継手部材の軸心に対して傾くことを回避することができる。
【0019】
外側継手部材のシール部に周方向溝が形成されるとともに、この周方向溝にシールリングが装着されるようにするのが好ましい。このように、シールリングを装着されるようにすれば、密封性の向上を図ることができる。
【0020】
外側継手部材において、シール部よりも継手奥側に、ブーツアダプタの反ブーツ側端部が内径側へ加締られてなる縮径部が嵌合する嵌合凹溝を設けたものであってもよい。このような嵌合凹溝を設けることによって、ブーツアダプタの安定した固定が可能となる。
【0021】
円筒形状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した外側継手部材と、球面状外周面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との対で形成されるボールトラックに一個ずつ組み込んだ複数のトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールを保持するポケットを有するケージとを備え、前記ケージの球面状外周面の曲率中心と球面状内周面の曲率中心を、継手中心を挟んで軸方向に互いに逆方向に等距離だけオフセットさせたものであってもよい。すなわち、ダブルオフセットタイプの等速自在継手であってもよい。
【0022】
円周方向に向き合って配置された案内面を有する3つのトラック溝が形成された外側継手部材と、半径方向に突出した3つの脚軸を備えた内側継手部材としてのトリポード部材と、このトリポード部材の脚軸に装着されるトルク伝達部材とを備えたものであってもよい。すなわち、トリポードタイプの等速自在継手であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ブーツアダプタの圧入時に継手内圧の上昇を抑えることができ、ゴム等から構成されるブーツの変形を回避することができ、シャフトに対してブーツが擦れることを防止できて、ブーツの耐久性の向上を図ることができる。しかも、ブーツアダプタの圧入時に、ブーツアダプタが外側継手部材の軸心に対して傾くことを回避することができ、安定した圧入が可能となって、組立性の向上を図ることができる。さらに、圧入時のブーツアダプタの変形を防止して、圧入後の密封性の安定化を図ることができる。
【0024】
シールリングを装着されるようにすれば、密封性の向上を図ることができ、高品質な等速自在継手を提供できる。外側継手部材に縮径部が嵌合する嵌合凹溝を設けることによって、ブーツアダプタの安定した固定が可能となって、耐用性に優れた等速自在継手となる。
【0025】
ダブルオフセットタイプであっても、トリポードタイプであってもよく、種々のタイプの等速自在継手に適用することができ、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の摺動型等速自在継手の断面図である。
【図2】前記図1に示す摺動型等速自在継手の外側継手部材の側面図である。
【図3】前記図1に示す摺動型等速自在継手のブーツアダプタ圧入工程を示す要部拡大断面図である。
【図4】本発明の第2の摺動型等速自在継手の断面図である。
【図5】前記図4に示す摺動型等速自在継手の外側継手部材の側面図である。
【図6】前記図4に示す摺動型等速自在継手のブーツアダプタ圧入工程を示す要部拡大断面図である。
【図7】従来の摺動型等速自在継手を示す断面図である。
【図8】従来の摺動型等速自在継手の要部拡大断面図である。
【図9】従来の摺動型等速自在継手のブーツアダプタ圧入工程を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0028】
図1に示す実施形態の摺動型等速自在継手は、円筒形状内周面51に軸方向に延びる複数のトラック溝52を形成した外側継手部材53と、球面状外周面54に軸方向に延びる複数のトラック溝55を形成した内側継手部材56と、外側継手部材53と内側継手部材56との間に介在してトルク伝達を行うトルク伝達部材57とを備える。この場合、トルク伝達部材57は、外側継手部材53のトラック溝52と前記内側継手部材56のトラック溝55との対で形成されるボールトラックに一個ずつ組み込んだ複数のトルク伝達ボール57aである。トルク伝達ボール57aは、ケージ59のポケット58に保持される。
【0029】
ケージ59の球面状外周面59aの曲率中心O1と球面状内周面59bの曲率中心O2を、継手中心Oを挟んで軸方向に互いに逆方向に等距離だけオフセットさせたものである。なお、外側継手部材53の内周面開口端部には、内部部品(内側継手部材56とケージ59とボール57a等)の抜け止めとしての止め輪65が付設されている。
【0030】
また、内側継手部材56の軸心孔に雌スプライン60が形成され、この軸心孔にシャフト61の端部が嵌入される。このシャフト61の端部には雄スプライン62が形成され、シャフト61の端部が内側継手部材56の軸心孔に嵌入された状態で、シャフト61の雄スプライン62が内側継手部材56の雌スプライン60に嵌合する。雄スプライン62の端部には周方向凹溝63が設けられ、この周方向凹溝63にストッパとしての止め輪64が装着されている。
【0031】
外側継手部材53の開口部は密封装置70にて塞がれている。ゴム材料又は樹脂材料等の可撓性材料にて構成されるブーツ72と、金属製のアダプタ73とからなる。ブーツ72は大径部72aと、小径部72bと、大径部72aと小径部72bとを連結する断面略U字形の屈曲部72cとを備える。また、ブーツ72は、その小径部72bがシャフト61のブーツ装着部61aに外嵌されてブーツバンド75で締め付けられている。
【0032】
アダプタ73は略円筒形で、一端部(嵌合部)73aが外側継手部材53の端部外周面80に圧入され、他端部(加締部)73bがブーツ72の大径部72aを加締めにて保持している。アダプタ73の一端部73aは大径に形成されて、嵌合部73aと中間胴部73cとの間に径方向壁部73dが形成される。この径方向壁部73dが外側継手部材53のシャフト突出側の端面53aに当接している。
【0033】
外側継手部材53の端部外周面80には周方向溝79が設けられ、この周方向溝79にシールリングとしてのOリング76が装着されている。また、この周方向溝79よりも反開口側(継手奥側)には、ブーツアダプタ73の反ブーツ側端部(嵌合部73aの開口端部)が内径側へ加締られてなる縮径部(加締部)77が嵌合する嵌合凹溝78が形成されている。このため、Oリングが装着される周方向溝79を含む端部外周面80が、アダプタ73の嵌合部73aが圧接するシール部Sとなる。このため、図2に示すように、端部外周面80は、周方向溝79よりも開口側の第1部80aと、周方向溝79よりも嵌合凹溝78側の第2部80bとを有する。
【0034】
ところで、本発明においては、ブーツアダプタ73の圧入時に密封装置70乃至外側継手部材内のエアを抜くエア抜き構造Mを形成している。この実施形態では、エア抜き構造Mは、図2に示すような複数の斜め溝81から構成される。各斜め溝81は、外側継手部材53の軸心に対して所定角度θ(例えば、70°〜80°程度)で傾斜するように、端部外周面80の第1部80aの外径面に、周方向に沿って所定ピッチで配設される。
【0035】
次に、密封装置70の装着方法を説明する。まず、ブーツ72の小径部72bを、シャフト61のブーツ装着部61aに外嵌状として、この小径部72bをブーツバンド75にて締め付ける。これによって、ブーツ72の小径部72bがシャフト61のブーツ装着部61aに取り付けられる。
【0036】
その後、図3に示すように、外側継手部材53の端部外周面80に対して外側継手部材53に軸線に沿ってアダプタ73の一端部73aを矢印A方向に圧入していく。この際、アダプタ73の一端部73aの開口端部は加締られていない状態で、外径側へ拡開している拡開部82とされている。
【0037】
アダプタ73の一端部73aが端部外周面80の第1部80aを通過する間は、斜め溝81によって、継手外部と継手内部とが連通されている状態となっている。このため、継手内部と内圧が上昇することがない。
【0038】
そして、アダプタ73の拡開部82が端部外周面80の第2部80bを越えて、嵌合凹溝78に達したとき、すなわち、径方向壁部73dが外側継手部材53の端面53aに当接したときに圧入を停止する。この状態では、端部外周面80のシール部Sにアダプタ73の一端部73aが密着することになる。すなわち、継手外部と継手内部とが密封状態となる。その後、アダプタ73の拡開部82を内径側へ縮径させる加締を行って、図1に示すように、その加締部77を嵌合凹溝78に嵌合させる。これによって、密封装置70が装着されることになる。
【0039】
本発明では、ブーツアダプタ73の圧入時に密封装置70内のエアを抜くエア抜き構造Mを形成したものであるので、ブーツアダプタ73の圧入時に継手内圧の上昇を抑えることができる。しかも、エア抜き構造Mは、斜め溝81を周方向に沿って所定ピッチで配設したものであるので、斜め溝81を省いたエア抜き構造においては、その外径寸法をブーツアダプタ73の内径面が圧接する外側継手部材53の開口端部80におけるシール面(シール部S)の外径寸法と同一とすることができる。このため、ブーツアダプタ73の圧入時に、ブーツアダプタ73が外側継手部材53の軸心に対して傾くことを回避することができる。
【0040】
外側継手部材53のシール部Sに周方向溝79が形成されるとともに、この周方向溝79にシールリング76が装着されるようにするのが好ましい。このように、シールリング76を装着されるようにすれば、密封性の向上を図ることができる。
【0041】
外側継手部材53において、シール部Sよりも継手奥側に、ブーツアダプタ73の反ブーツ側端部が内径側へ加締られてなる縮径部77が嵌合する嵌合凹溝78を設けたものであってもよい。このような嵌合凹溝78を設けることによって、ブーツアダプタ73の安定した固定が可能となる。
【0042】
次に、図4は他の実施形態を示し、この場合、エア抜き構造Mは格子状溝84から構成される。すなわち、図5に示すように、エア抜き構造は、継手軸線に対して所定角度θ1で傾斜する方向に沿って形成される第1の斜め溝85を周方向に沿って所定ピッチで配設するとともに、この第1の斜め溝85に対してクロスするように形成される第2の斜め溝86を周方向に沿って所定ピッチで配設して構成したものである。なお、第1の斜め溝85の傾斜角度θ1は、例えば、70°〜80°程度とされ、第2の斜め溝86の傾斜角度θ2は、例えば、160°〜170°程度とされる。
【0043】
このため、このような格子状溝からなるエア抜き構造Mであっても、前記図2に示すような斜め溝81にて構成されるエア抜き構造Mと同様の機能を発揮することができる。すなわち、この図4に示すような密封装置70においても、この密封装置70を装着する際には、図6に示すように、外側継手部材53の端部外周面80に対して外側継手部材53に軸線に沿ってアダプタ73の一端部73aを矢印A方向に圧入していくことになる。この際、アダプタ73の一端部73aが端部外周面80の第1部80aを通過する間は、格子状溝84によって、継手外部と継手内部とが連通されている状態となっている。このため、継手内部と内圧が上昇することがない。
【0044】
そして、径方向壁部73dが外側継手部材53の端面53aに当接したときに圧入を停止する。その後、アダプタ73の拡開部82を内径側へ縮径させる加締を行って、その加締部77を嵌合凹溝78に嵌合させる。これによって、密封装置70が装着されることになる。
【0045】
このため、図4に示す等速自在継手であっても、図1に示す等速自在継手と同様の作用効果を奏する。
【0046】
ところで、前記各実施形態の摺動式等速自在継手は、ダブルオフセットタイプの等速自在継手であったが、トリポードタイプの等速自在継手やクロスグルーブタイプの等速自在継手であってもよい。トリポードタイプの場合、トルク伝達部材がシングルローラタイプであっても、ダブルローラタイプであってもよい。
【0047】
トリポードタイプの等速自在継手は、円周方向に向き合って配置された案内面を有する3つのトラック溝が形成された外側継手部材と、半径方向に突出した3つの脚軸を備えた内側継手部材としてのトリポード部材と、このトリポード部材の脚軸に装着されるトルク伝達部材とを備えたものである。クロスグルーブタイプの等速自在継手は、軸線に対して互いに逆方向に傾いたボール溝を円周方向に交互に形成した外周面を有する内側継手部材と、軸線に対して互いに逆方向に傾いたボール溝を円周方向に交互に形成した内周面を有する外側継手部材と、軸線に対して互いに逆方向に傾いた内側継手部材のボール溝と外側継手部材のボール溝との交差部に組み込んだトルク伝達ボールと、内側継手部材の外周面と外側継手部材の内周面との間に介在してトルク伝達ボールを収容するポケットを有し、このトルク伝達ボールを円周方向で所定間隔に保持するケージを備えたものである。
【0048】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、図2に示す斜め溝81であっても、格子状溝であっても、その断面形状としては、実施形態に示すような半円形のものに限らず、矩形、半楕円、半多角形等の種々のものを採用することができる。また、溝が形成される範囲である第1部の軸方向長さ、各斜め溝81、格子状溝84の各第1の斜め溝85、及び各第2の斜め溝86の大きさ、傾斜角度、配設ピッチ等としても、エア抜き機能を発揮でき、しかも、端部外周部80の強度が低下しない範囲で種々選択できる。また、斜め溝81、84,85の形成としては、切削、研削等にて成形でき、ローレット加工等によっても成形できる。
【符号の説明】
【0049】
53 外側継手部材
56 内側継手部材
57 トルク伝達部材
61 シャフト
70 密封装置
72 ブーツ
73 ブーツアダプタ
77 加締部(縮径部)
78 嵌合凹溝
79 周方向溝
80 端部外周面(開口端部)
81 斜め溝
85 第1の斜め溝
86 第2の斜め溝
M エア抜き構造
S シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材と、外側継手部材に内挿される内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在してトルク伝達を行うトルク伝達部材と、外側継手部材の開口部を密封する密封装置とを備え、前記密封装置は、継手開口側から継手奥側に向かって圧入されて外側継手部材の開口端部に外嵌固定されるブーツアダプタと、内側継手部材に連結されて前記外側継手部材の開口より延出したシャフトと前記ブーツアダプタとの間に配設されたブーツとを有する摺動式等速自在継手において、
外側継手部材の開口端部に、外嵌固定されるブーツアダプタが密接するシール部と、シール部よりも開口側に設けられて、ブーツアダプタの圧入時に密封装置内のエアを抜くエア抜き構造とを形成し、前記エア抜き構造は、継手軸線に対して所定角度で傾斜する方向に沿って形成される斜め溝を周方向に沿って所定ピッチで配設して構成したことを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項2】
外側継手部材と、外側継手部材に内挿される内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在してトルク伝達を行うトルク伝達部材と、外側継手部材の開口部を密封する密封装置とを備え、前記密封装置は、継手開口側から継手奥側に向かって圧入されて外側継手部材の開口端部に外嵌固定されるブーツアダプタと、内側継手部材に連結されて前記外側継手部材の開口より延出したシャフトと前記ブーツアダプタとの間に配設されたブーツとを有する摺動式等速自在継手において、
外側継手部材の開口端部に、外嵌固定されるブーツアダプタが密接するシール部と、シール部よりも開口側に設けられて、ブーツアダプタの圧入時に密封装置内のエアを抜くエア抜き構造とを形成し、前記エア抜き構造は、継手軸線に対して所定角度で傾斜する方向に沿って形成される第1の斜め溝を周方向に沿って所定ピッチで配設するとともに、この第1の斜め溝に対してクロスするように形成される第2の斜め溝を周方向に沿って所定ピッチで配設して構成したことを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項3】
外側継手部材のシール部に周方向溝が形成されるとともに、この周方向溝にシールリングが装着されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項4】
外側継手部材において、シール部よりも継手奥側に、ブーツアダプタの反ブーツ側端部が内径側へ加締られてなる縮径部が嵌合する嵌合凹溝を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項5】
円筒形状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した外側継手部材と、球面状外周面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との対で形成されるボールトラックに一個ずつ組み込んだ複数のトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールを保持するポケットを有するケージとを備え、前記ケージの球面状外周面の曲率中心と球面状内周面の曲率中心を、継手中心を挟んで軸方向に互いに逆方向に等距離だけオフセットさせたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項6】
円周方向に向き合って配置された案内面を有する3つのトラック溝が形成された外側継手部材と、半径方向に突出した3つの脚軸を備えた内側継手部材としてのトリポード部材と、このトリポード部材の脚軸に装着されるトルク伝達部材とを備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の摺動式等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−241882(P2012−241882A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115944(P2011−115944)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】