説明

摺動用シール

【課題】摺動抵抗が小さい摺動用シールを提供すること。
【解決手段】装着体の周面に形成されたシール溝30に装着され、装着体とシール面52との間をシールする環状の摺動用シールであって、この摺動用シールは、その断面において、略水平に延伸する本体部12と、該本体部12との交角が鋭角をなすように本体部12から斜め方向に延伸するリップ部14とを有しており、シール溝30に装着された際に、本体部12の上面がシール面52と水平に当接し、リップ部14の下面の少なくとも一部がシール溝30の底面32と接するように構成されているとともに、少なくとも前記本体部12の上面が、フッ素樹脂、高機能樹脂またはフッ素ゴムのいずれかで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動する部材間をシールするために使用される摺動用シールに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンとシリンダの間など、摺動する部材間をシールする摺動用のシール材として、従来より、ゴム製のバックリングとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の摺動リングとを組み合わせた環状のシール材が知られており、例えば、本出願人によっても開示されている(特許文献1)。
【0003】
図8は、従来の摺動用シールを示した断面図である。
この従来の摺動用シール100は、まず、バックリング110がシール溝130の底面132と当接するように装着され、次いで、摺動リング120がシリンダ150のシール面152と当接するように装着されることで、図8に示したように、ピストン140の外周面に形成されたシール溝130に装着され、ピストン140とシール面152との間をシールする。
【0004】
バックリング110は合成ゴムにより形成されており、弾力性に富んでいる。一方、摺動リング120はPTFEにより形成されており、摺動性に富んでいる。また、バックリング110の断面形状は、図8に示したように、長方形の上下面に突起113が形成された形状の他、単純な長方形状のもの(角リング)や円形状のもの(Oリング)などが使用されている。
【0005】
このような構成からなる従来の摺動用シール100は、シール面152と接する摺動リング120が摺動性に富むPTFEにより形成されているため、摺動抵抗が小さい。また、バックリング110が弾力性に富む合成ゴムにより形成されているため、摺動リング120がシール面152により押圧されると、バックリング110が圧縮され、その弾性復元力によって摺動リング120をシール面152に押し付けるため、高いシール性を確保することができるようになっている。
【0006】
また、従来の摺動用シールとして、所謂リップ型シールと呼称されるシール材も知られている。
図9は、この従来の摺動用シール(リップ型シール)を示した断面図である。
【0007】
この従来の摺動用シール200は、図9に示したように、ピストン240の外周面に形成されたシール溝230の底面232と当接するように装着される本体部212と、この本体部212との交角が鋭角をなすように、本体部212の端部から斜め方向に延伸するリップ部214とから構成されており、リップ部214がシリンダ250のシール面252と当接することで、ピストン240とシール面252との間をシールするようになっている。
【0008】
このような構成からなる従来の摺動用シール200は、摺動性と弾力性を備えた、例えばフッ素ゴムなどから形成されており、摺動抵抗が小さい。また、リップ部214がシール面252により押圧されると、リップ部214が底面232側に屈曲するように変形し、その弾性復元力によってリップ部214がシール面252に押し付けられるため、高いシール性を確保することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−288476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、摺動用シールにおいてシール材の長寿命化を図るためには、シール面とシール材との間の摺動抵抗を極力小さくして、摺動抵抗によるシール材の損傷を防ぐことが重要である。シール面との摺動抵抗を小さくするためには、シール材を摺動性に優れた材料で形成するとともに、シール材がシール面に押し付けられる力(シール材の当接力)を小さくする必要があるが、上述した従来の摺動用シール100や摺動用シール200では、シール材の当接力を十分に小さくすることはできず、所望の長寿命化に必要な程度にまで摺動抵抗を小さくすることはできなかった。
【0011】
すなわち、上述した従来の摺動用シール100にあっては、バックリング110の断面形状が略長方形に形成されており、長方形の上下面に突起113が形成されているものの、シール面152によって押圧された際のバックリング110の反発力(バックリング110が圧縮された際の弾性復元力)は大きい。したがって、シール面152によって摺動リング120が押圧された際、その押圧された力の大半がバックリング110の弾性復元力となって摺動リング120に作用し、摺動リング120をシール面152に強く押し付けるため、摺動リング120の当接力は大きいものであった。
【0012】
また、上述した従来の摺動用シール200は、本体部212から斜め方向に延伸したリップ部214がシール面252と当接することで、ピストン240とシール面252との間をシールするように構成されており、リップ部214の全面がシール面252と当接するのではなく、その一部分だけがシール面252と当接するものである。このため、上述した摺動用シール100と比べて、シール面252によって押圧された際の摺動用シール200の反発力(リップ部214が底面232側に屈曲するように変形した際の弾性復元力)は小さいものの、その反発力がシール面252と当接する一部分に集中して作用するため、この部分の当接力は大きいものであった。
【0013】
本発明は、このような現状に鑑みなされたものであって、従来の摺動用シールと比べて、シール面との摺動抵抗を飛躍的に小さくすることができ、したがって長期間に亘って使用することが可能な摺動用シールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明の摺動用シールは、
装着体の周面に形成されたシール溝に装着され、装着体とシール面との間をシールする環状の摺動用シールであって、
前記摺動用シールは、
その断面において、略水平に延伸する本体部と、該本体部との交角が鋭角をなすように該本体部から斜め方向に延伸するリップ部とを有しており、シール溝に装着された際に、該本体部の上面がシール面と水平に当接し、該リップ部の下面の少なくとも一部がシール溝の底面と当接するように構成されているとともに、
少なくとも前記本体部の上面が、フッ素樹脂、高機能樹脂またはフッ素ゴムのいずれかで形成されていることを特徴とする。
【0015】
このように、本体部から斜め方向に延伸するリップ部がシール溝の底面と当接するとともに、本体部の上面がシール面と水平に当接するように構成されているため、シール材全体としての反発力を小さくできるとともに、その反発力がシール面と当接する本体部の上面の全体に略均一に作用する。また、シール面と当接する本体部の上面は摺動性に優れるフッ素樹脂、高機能樹脂またはフッ素ゴムのいずれかにより形成されており、従来の摺動用シールと比べ、シール面との摺動抵抗を飛躍的に小さくすることができる。
【0016】
上記発明において、
前記摺動用シールによって圧力差のある2つの空間の間をシールする際に、高圧側の空間側に向けて前記リップ部が延伸するように構成されている。
【0017】
このような場合に、高圧側の空間側に向けてリップ部が延伸するように構成されていれば、高圧側の空間から本体部とリップ部との間に浸入する高圧の流体の影響によっても、シール材の摺動抵抗が大きくなることはない。すなわち、この流体の圧力によって変形するのはリップ部であり、リップ部がシール溝の底面に押し付けられても、シール材のシール面との摺動抵抗が増大することはない。
【0018】
上記発明において、
前記摺動用シールが、
前記本体部の上面側部分を構成する摺動リングと、前記本体部のそれ以外の部分および前記リップ部を構成するバックリングとが組み合わされて形成されることを特徴とする。
【0019】
このように構成することにより、本発明の摺動用シールを、摺動リングとバックリングとからなる複合シールとして構成することができる。
また、上記発明において、
前記摺動リングとバックリングとが係合して組み合わされることが望ましい。
【0020】
このように構成することで、摺動リングとバックリングとを容易に組み合わせることができる。
また、上記発明において、
前記摺動リングがフッ素樹脂または高機能樹脂により形成されており、
前記バックリングが合成ゴムにより形成されていることが望ましい。
【0021】
このように構成することにより、本発明の摺動用シールを、摺動性と弾力性とを兼ね備えた複合シールとして構成することができる。
また、上記発明において、
前記摺動用シールが、前記装着体の外周面に形成されたシール溝に装着されるとともに、
前記摺動用シールの内周長が、シール溝の底面における前記装着体の外周長よりも短く構成されており、
これにより、前記摺動用シールを前記装着体の外周面に形成されたシール溝に装着した際に、前記摺動用シールが自緊した状態となるように構成されていることが望ましい。
【0022】
このように、摺動用シールを装着体の外周面に形成されたシール溝に装着した際に、摺動用シールが自緊した状態となるように構成されていれば、斜め方向に延伸するリップ部をシール溝の底面と接するように構成した本願発明の摺動用シールを、安定した状態でシール溝に装着することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来の摺動用シールと比べて、摺動抵抗を飛躍的に小さくすることができ、したがって長期間に亘って使用することが可能な摺動用シールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の摺動用シールにより、ピストンとシリンダとの間の空間をシールした状態を示した図である。
【図2】図2は、本発明の摺動用シールを示した平面図である。
【図3】図3は、図2のA−A線における断面図である。
【図4】図4は、本発明の摺動用シールを示した断面図であって、バックリングと摺動リングとが組み合される前の状態を示した図である。
【図5】図5は、本発明の摺動用シールがシール溝に装着された状態を示した断面図である。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態の摺動用シールを示した断面図である。
【図7】図7は、本発明の別の実施形態の摺動用シールにより、ピストンとシリンダとの間の空間をシールした状態を示した図である。
【図8】図8は、従来の摺動用シール材を示した断面図である。
【図9】図9は、従来の別の摺動用シール材を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
なお、本明細書において、「上面側」および「上面」とは摺動用シールがシール溝に装着された際のシール面側およびその側の面を指し、「下面側」および「下面」とは摺動用シールがシール溝に装着された際のシール溝の底面側およびその側の面を指す。
【0026】
図1は、本発明の摺動用シールにより、ピストンとシリンダとの間の空間をシールした状態を示した図である。図2は、本発明の摺動用シールの平面図である。図3は、図2のA−A線における断面図である。
【0027】
本実施形態の摺動用シール1は、図1に示したように、例えば、ピストン40の外周面に形成された矩形状のシール溝30に装着されて、ピストン40とシリンダ50との間をシールする目的で使用される。この摺動用シール1は、図2に示したように、環状のシール材であって、図3に示したように、内周側に位置する環状のバックリング10と、外周側に位置する摺動リング20とが組み合わされて構成されている。
【0028】
図4は、本発明の摺動用シールを示した断面図であって、バックリングと摺動リングとが組み合される前の状態を示した図である。図5は、本発明の摺動用シールがシール溝に装着された状態を示した断面図である。
【0029】
バックリング10は、図4に示したように、その断面において、略水平に延伸する本体部12と、この本体部12の端部から斜め方向に延伸するリップ部14とから構成されている。そして、本体部12とリップ部14との交角αが、本体部12およびリップ部14の各々が変形していない状態において鋭角となるように構成されている。この本体部12とリップ部14との交角αは、シール溝30の形状などにより異なるが、約10度〜90度、好ましくは10度〜30度の範囲であり、本実施形態では約16度となっている。
【0030】
また、リップ部14の基端部の肉厚(本体部12とリップ部14との接合点Xにおけるリップ部14の肉厚)14tは、本体部12の基端部の肉厚12t(本体部12とリップ部14との接合点Xにおける本体部12の肉厚)よりも薄肉に形成されている。このため、摺動用シール1に対して上下面方向に外力が作用した場合には、本体部12は殆ど変形せずに、リップ部14だけが上面側に屈曲しながら変形するようになっている。
【0031】
ここで、本体部12の基端部の肉厚12tと、リップ部14の基端部の肉厚14tとの比の好ましい範囲は、1:0.2〜1:0.8であり、本実施形態では、1:0.5に形成されている。
【0032】
また、本体部12の上面側の中央部分は凸形状に形成されており、後述する摺動リング20の下面側と係合するように構成されている。
このようなバックリング10は、弾力性に富んだゴム材料などによって形成することができ、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、布入りゴムなどの合成ゴム材料により形成することができる。本実施形態のバックリング10は、ニトリルゴムにより形成されている。
【0033】
摺動リング20は、図4に示したように、その断面が下向き略コ状に形成されている。
また、摺動リング20の上面20aには、その中央部分に水平部21aが形成されており、上面20aの端部には、テーパー部21bが形成されている。この水平部21aは、後述するように、本実施形態の摺動用シール1がシール溝30に装着された際に、シール面52と水平に当接する部分である。
また、摺動リング20の下面側の中央部分は、上述したバックリング10と係合するように凹形状に形成されている。
【0034】
このような摺動リング20は、摺動性に富んだフッ素樹脂材料や、高機能樹脂と呼ばれる樹脂材料によって形成することができ、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン)などの各種フッ素樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、布入りフェノールなどの高機能樹脂により形成することができる。本実施形態の摺動リング20は、PTFEにより形成されている。
【0035】
この摺動用シール1をシール溝30に装着する際は、先ず、バックリング10をそのリップ部14の下面14bの一部が底面32と当接するようにシール溝30に装着する。次いで、摺動リング20の下面20bとバックリング10の本体部12の上面12aとを嵌め合わせることで、また必要に応じて接着剤などで接着して、図5(A)に示したように、摺動リング20の上面20aの水平部21aがシール面52と水平に当接するように、摺動用シール1がシール溝30に装着される。
【0036】
このように本実施形態の摺動用シール1は、バックリング10の本体部12の端部から斜め方向に延伸するリップ部14が形成され、このリップ部14がシール溝30の底面32と当接するように構成されており、この摺動用シール1に対して上下面方向に外力が作用した場合には、リップ部14が屈曲しながら変形するように形成されている。したがって、バックリング10の断面が長方形状や円形状である従来の摺動用シールと比べて、摺動用シール1の反発力(弾性復元力)を小さくすることができる。
【0037】
また、本実施形態の摺動用シール1は、摺動リング20の上面20aに水平部21aが形成されており、この水平部21aがシール面52と水平に当接するように構成されている。したがって、シール材の反発力(弾性復元力)が一部分だけに集中するのではなく、摺動リング20の上面20aの全体に略均一に作用するため、所謂リップ型シールと呼ばれる従来の摺動用シールと比べて、単位長さ(面積)当たりの摺動抵抗を小さくすることができる。
【0038】
なお、シール材の反発力(弾性復元力)を摺動リング20の上面20aの全体に略均一に作用させるためには、水平部21aをできるだけ長く形成することが好ましい。ここで、上面20aの水平長さ(L1)に対する水平部21aの水平長さ(L2)の比(L2/L1)の好ましい範囲は、0.5〜1.0であり、本実施形態では、L2/L1=0.75となっている。
【0039】
さらに、シール面52と接する摺動リング20は、摺動性に優れるPTFEにより形成されている。
これらにより、本実施形態の摺動用シール1は、従来の摺動用シールと比べて、シール面52との摺動抵抗が飛躍的に小さくすることができる。
【0040】
この際、摺動用シール1の内周長、すなわち、バックリング10の内周長および摺動リング20の内周長が、シール溝30の底面32におけるピストン40の外周長よりも短く構成されていることが好ましい。
【0041】
このように構成されていれば、摺動用シール1をピストン40の外周面に形成されたシール溝30に装着した際に、摺動用シール1が自緊した状態、すなわち、摺動用シール1が自ら収縮しようとして緊張した状態となり、バックリング10のリップ部14が上面側に屈曲するように変形する。そして、図5(B)に示したように、リップ部14の下面14bがシール溝30の底面32と広範囲に亘って当接するため、摺動用シール1が安定した状態でシール溝30に装着されるとともに、シール溝30の底面32におけるシール性が向上する。
【0042】
また、本実施形態では、図5(A),(B)に示したように、摺動用シール1がシール溝30に装着されることにより、ピストン40とシリンダ50との間の空間が、摺動用シール1を境界として、一方側の高圧側空間60aと、他方側の低圧側空間60bとに区分される。すなわち、摺動用シール1をシール溝30に装着することで、摺動用シール1が、圧力差のある2つの空間の間をシールしている状態となっている。そして、本実施形態の摺動用シール1は、バックリング10のリップ部14が、高圧側空間60a側に向けて延伸した状態に配置することができるように構成されている。
【0043】
このように、摺動用シール1によって圧力差のある2つの空間の間をシールする場合において、バックリング10のリップ部14が、高圧側空間60a側に向けて延伸するように配置されていれば、高圧側空間60aからバックリング10の本体部12とリップ部14との間に浸入する高圧の流体などの影響によっても、摺動用シール1の摺動抵抗が大きくなることはない。すなわち、バックリング10の本体部12とリップ部14との間の空間60cに高圧の流体が浸入した場合、リップ部14は、下面側に屈曲しながら変形し、シール溝30の底面32側に強く押し付けられるが、本体部12は、リップ部14と比べて相対的に変形し難い形状となっているため、殆んど上面側に変形しない。このため、摺動リング20がシール面52に強く押し付けられることはなく、摺動用シール1の摺動抵抗が大きくなることもない。
【0044】
以上のとおり、本発明の摺動用シール1によれば、シール溝30に装着された際の摺動用シール1の当接力を小さくすることができ、これにより、従来の摺動用シールと比べてシール面52との摺動抵抗を飛躍的に小さくすることができる。したがって、長期間に亘って継続的に使用しても、摺動抵抗によりシール材の損傷が生じ難く、従来の摺動用シールよりも製品寿命の長い摺動用シール1を提供することができる。
【0045】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、摺動用シール1をバックリング10と摺動リング20とを組み合わせることで構成したが、本発明の摺動用シール1はこれに限定されず、例えば、図6に示したように、その断面において、略水平に延伸する本体部72と、この本体部72の端部から斜め方向に延伸するリップ部74とから形成された、1つの環状のシール材によって摺動用シール1を構成してもよい。
【0046】
この場合、摺動用シール1は、摺動性と弾力性を備えた例えばフッ素ゴムや、上述した実施形態の摺動リング20と同様、摺動性に富んだフッ素樹脂材料、高機能樹脂材料などによって形成することができる。
【0047】
また、上述した実施形態では、ピストン40の外周面に形成されたシール溝30に、摺動用シール1を装着する場合を例に説明したが、本発明の摺動用シール1はこれに限定されず、例えば、図7に示したように、シリンダ50の内周面に形成されたシール溝30に装着可能なように摺動用シール1を構成することもできる。
【0048】
この場合、上述した実施形態では、摺動用シール1の内周側にバックリング10が位置し、外周側に摺動リング20が位置するように構成されていたが、それを逆向きに、すなわち、外周側にバックリング10が、内周側に摺動リング20が位置するように、摺動用シール1を構成すればよい。
【0049】
なお、上述した実施形態では、摺動用シール1の内周長をシール溝30の底面32におけるピストン40の外周長よりも短く構成することで、摺動用シール1を安定した状態でシール溝30に装着するようにしていたが、シリンダ50の内周面に形成されたシール溝30に装着される摺動用シール1の場合は、このように構成することができない。したがって、この場合は、リップ部14の下面14bを例えば接着剤などで底面32に固定することで、摺動用シール1を安定した状態でシール溝30に装着することができる。
【0050】
また、上述した実施形態では、摺動用シール1が、ピストン40またはシリンダ50の周面に形成されたシール溝30に装着される場合を例に説明したが、本発明の摺動用シール1はこれに限定されず、例えば、回転軸シール用のパッキンやロッドシール用のパッキンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 摺動用シール
10 バックリング
12 本体部
12a 上面
12t 肉厚
14 リップ部
14b 下面
20 摺動リング
20a 上面
20b 下面
30 シール溝
32 底面
40 ピストン
50 シリンダ
52 シール面
60a 高圧側空間
60b 低圧側空間
60c 空間
72 本体部
74 リップ部
100 摺動用シール
110 バックリング
113 突起
120 摺動リング
130 シール溝
132 底面
140 ピストン
150 シリンダ
152 シール面
200 摺動用シール
212 本体部
214 リップ部
230 シール溝
232 底面
240 ピストン
250 シリンダ
252 シール面
X 接合点
α 交角
L1 上面の水平長さ
L2 水平部の水平長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着体の周面に形成されたシール溝に装着され、装着体とシール面との間をシールする環状の摺動用シールであって、
前記摺動用シールは、
その断面において、略水平に延伸する本体部と、該本体部との交角が鋭角をなすように該本体部から斜め方向に延伸するリップ部とを有しており、シール溝に装着された際に、該本体部の上面がシール面と水平に当接し、該リップ部の下面の少なくとも一部がシール溝の底面と当接するように構成されているとともに、
少なくとも前記本体部の上面が、フッ素樹脂、高機能樹脂またはフッ素ゴムのいずれかで形成されていることを特徴とする摺動用シール。
【請求項2】
前記摺動用シールによって圧力差のある2つの空間の間をシールする際に、高圧側の空間側に向けて前記リップ部が延伸するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の摺動用シール。
【請求項3】
前記摺動用シールが、
前記本体部の上面側部分を構成する摺動リングと、前記本体部のそれ以外の部分および前記リップ部を構成するバックリングとが組み合わされて形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の摺動用シール。
【請求項4】
前記摺動リングとバックリングとが係合して組み合わされることを特徴とする請求項3に記載の摺動用シール。
【請求項5】
前記摺動リングがフッ素樹脂または高機能樹脂により形成されており、
前記バックリングが合成ゴムにより形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の摺動用シール。
【請求項6】
前記摺動用シールが、前記装着体の外周面に形成されたシール溝に装着されるとともに、
前記摺動用シールの内周長が、シール溝の底面における前記装着体の外周長よりも短く構成されており、
これにより、前記摺動用シールを前記装着体の外周面に形成されたシール溝に装着した際に、前記摺動用シールが自緊した状態となるように構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の摺動用シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−196505(P2011−196505A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65967(P2010−65967)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】