説明

撚線機

【課題】ゴム被覆した芯の周りに複数本の側線を配列して撚り合わせ、芯と側線からなる外層との間の空隙が完全にゴムで埋まる複層コードを製造することができる、機構簡単で、省スペース並びに省電力が可能な撚線機を提供する。
【解決手段】貫通穴1を有する回転軸2上に、ブレーキ機構を介し独立して回転自在な状態で複数個のボビン7を装着し、各ボビン7の周囲各一箇所でボビン7毎に回転方向にずれた位置に回転軸2と一体に回転するガイドローラー25,26を設け、回転軸2の軸先端部に回転軸2と一体に回転する目板27を配置する。そして、ゴム被覆した芯Cを回転軸2の貫通穴1を通して供給し、回転軸2に連動する各ボビン7から側線Sを引き出し、目板28の穴に通してダイス28で芯Cの周りに集合させ、束にして捩りトルクを加え、撚り合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード等の撚線(コード)を製造する撚線機、特に、単線あるいは撚線からなるゴム被覆された芯の周りに単線あるいは撚線からなる複数本の側線を配列して撚り合わせる複層コード製造用の撚線機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ補強材等に使用するスチールコード等の撚線を製造する装置として、バンチャータイプやチューブラータイプの撚線機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。タイヤ補強用スチールコードは、3〜6本の素線(スチールフィラメント)を撚り合わせた、芯線の無い単層構造(1×m構造)の単層コードや、例えば3本のコアフィラメントを撚り合わせて芯ストランドを形成し、その周りに8本のシースフィラメントを配置して芯ストランドとは撚り方向あるいは撚りピッチを異ならせて撚り合わせてなる3+8構造等、複数本の素線(スチールフィラメント)を内外2層に撚り合わせた2層撚り構造(m+n構造)その他の複層コードであり、それら単層あるいは複層のスチールコードを、一般に上記バンチャー型あるいはチューブラー型の撚線機によって製造している。
【特許文献1】特開昭57−193253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、タイヤ補強用のスチールコードを複層構造とする場合に、単線あるいは撚線からなる芯を未加硫ゴムで被覆して、そのゴム被覆した芯の周りに単線あるいは撚線からなる複数本の側線を配列して撚り合わせることで、芯と側線からなる外層(シース)との間の空隙が未加硫ゴムで埋まったスチールコードとする試みが従来から行われている。このように芯と外層との間の空隙が未加硫ゴムで埋まった複数構造のスチールコードは、例えばタイヤ補強材としてタイヤ成形時にタイヤ本体のゴムに埋め込まれることにより、未加硫ゴムが加硫化されて、芯と外層との間の空隙が完全にゴムで埋まり、そのため、フレッティング摩耗を生じず、水分等によるコード内部からの腐食を防止して、スチールコードの耐疲労性を改善し、タイヤ等のゴム製品の寿命を延ばすことができる。
【0004】
しかしながら、このようにゴム被覆された芯の周りに複数本の側線を配列して撚り合わせる複層コードの製造において、バンチャータイプやチューブラータイプといった従来の撚線機を使用したのでは、撚り口(集合部)に到る前にゴムが剥がれ易くて、撚り合わせ後のコード内部にゴムで埋まらない空隙が残り、製品品質の向上に限界がある。バンチャータイプの撚線機では、ゴム被覆した芯にも捩れが負荷されるので、撚り合わされるまでにゴムの均一性が損なわれる。また、チューブラータイプの撚線機では、芯に捩れは負荷されないものの、集合部までの長いガイド等の経路を通る間に擦られるためゴムが剥がれ易い。そして、それら何れのタイプの撚線機も、スチールフィラメントをリールあるいはボビンの周りに長い距離引き出して、回転させるものであるため、遠心力による膨らみを防止するためのガイド等が必要で、機構複雑で規模の大きな設備となるばかりでなく、それらガイド等の回転による空気抵抗が大きくて、消費電力が大きいという問題がある。
【0005】
本発明は、ゴム被覆した芯の周りに複数本の側線を配列して撚り合わせ、芯と側線からなる外層との間の空隙が完全にゴムで埋まる複層コードを製造することができる、機構簡単で、省スペース並びに省電力が可能な撚線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の撚線機は、単線あるいは撚線からなるゴム被覆された芯の周りに単線あるいは撚線からなる複数本の側線を配列して撚り合わせる複層コード製造用の撚線機であって、軸芯部に芯供給用の貫通穴を有する駆動式の回転軸と、その回転軸上に回転自在に装着された複数個の側線繰出し用のボビンから成るボビン列と、そのボビン列の各ボビンと回転軸との相対回転にブレーキをかけるブレーキ機構を備え、ゴム被覆された芯を回転軸の貫通穴を通して供給し、回転軸を駆動して、ブレーキ機構を介して回転軸に連動するボビン列の各ボビンから側線を繰り出し、その繰り出した複数本の側線を芯の周りに配列して撚り合わせるよう構成したことを特徴とする。
【0007】
この撚線機は、より具体的には、例えば、ボビン列の各ボビンの周囲各一箇所でボビン毎に回転方向にずれた位置に設置され回転軸と一体に回転する側線引出し用のガイドローラーと、ボビン列の芯供給方向前方で各ボビン周囲の各ガイドローラーに対して回転軸の軸線と平行な方向に並ぶ位置に設置され回転軸と一体に回転する側線供給用のガイドローラーを備え、ボビン列の各ボビンから側線引出し用のガイドローラーを介して側線を引き出し、該側線を側線供給用のガイドローラーを介して供給するよう構成し、また、側線供給用のガイドローラーの芯供給方向前方で回転軸上に側線供給用のガイドローラーを介して供給される複数本の側線を所定の配列で通し回転体と一体に回転する目板を備え、この目板の芯供給方向前方に、目板の穴を通した複数本の側線を芯の周りに集合させる集合部と、集合部にて集合した複数本の側線を芯の周りに束ねて捩る捩り機構を備え、側線供給用のガイドローラーを介して供給される複数本の側線を目板の穴に通して集合部で芯の周りに集合させ、この芯の周りに集合させた複数本の側線の束を捩り機構により捩りトルクを加えて撚り合わせるよう構成する。
【0008】
この撚線機によれば、予めゴム被覆した芯が回転軸の貫通穴を通して供給され、ブレーキ機構を介して回転軸に連動するボビン列の各ボビンから複数本の側線がそれぞれ所定の張力が負荷された状態で繰り出されて、その繰り出された複数本の側線が芯の周りに配列されて撚り合わされ、複層コードとなって送り出される。その際、芯は単に真直ぐ供給されるだけで、捩れが負荷されることがなく、側線だけに捩れが負荷されて撚り合わされる。そのため、従来のバンチャータイプの撚線機のような芯の捩れによるゴムの剥離は無く、チューブラータイプの撚線機にような長いガイド等の経路で擦れることによるゴムの剥離も無くて、芯の周りにゴムの均一な被覆層を維持することができ、完全クローズの2層撚りスチールコードを含め、芯と外層との間の空隙が完全にゴムで埋まる複層コードを製造することができる。そして、この撚線機は、従来のバンチャータイプやチューブラータイプの撚線機に比べて、機構簡単で、省スペース並びに省電力が可能である。
【発明の効果】
【0009】
以上のとおり、本発明の撚線機は、ゴム被覆した芯の周りに複数本の側線を配列して撚り合わせ、芯と側線からなる外層との間の空隙が完全にゴムで埋まる複層コードを製造することができ、しかも、機構簡単で、省スペース並びに省電力が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1〜図3は本発明の実施形態の一例を示している。図1は撚線機の要部構成を示す図、図2は図1のA−A断面図、図3は図1の部分拡大図である。
【0011】
この実施の形態の撚線機は、タイヤ補強用の例えば3本のスチールフィラメント(単線)を単層に撚り合わせてゴム被覆した1×3構造の芯の周りに、側線である8本のスチールフィラメント(単線)を配列して撚り合わせ3+8構造の2層撚りスチールコードを製造するためにタイヤ製造ラインにインライン配置される撚線機である。
【0012】
この撚線機は、軸芯部を前端から後端まで全長にわたって貫通する芯供給用の貫通穴1を有する回転軸2を備えている。回転軸2は、前部が軸本体部、後部が支持部で、支持部が軸受部3を介して固定台4に回転自在に支持され、その支持部の先端(後端)に駆動用のプーリー5が固定されている。回転軸2は、プーリー5を介して図示しない電動機によりベルト駆動される。そして、回転軸2の軸本体部には、それぞれ個別に一対のベアリング6を介して支持され独立して回転自在な状態で装着された8個の側線繰出し用のボビン7から成るボビン列が設けられている。
【0013】
各ボビン7を支持する各一対のベアリング6は、各々ベアリングインナー8が回転軸2の外周に嵌装固定されたボビン7毎のインナースリーブ9に固定支持され、ベアリングアウター10が、ボビン7の内周に嵌装されノックピン11でボビン7を位置決め固定したボビン7毎のアウタースリーブ12の内周に固定支持されている。
【0014】
そして、各アウタースリーブ12には、一対のベアリング6のベアリングアウター10を支持する内径が段差状に拡大した両端のベアリング支持部に挟まれた中央部に、内面側に開口する円柱状の径方向の摺動穴13が形成されて、この径方向の摺動穴13に、下端面がインナースリーブの外周に密着状態で当接する円弧状に湾曲し上端面が一方向に傾斜した円柱状のブレーキ片14が上下摺動自在に保持され、また、一端側のベアリング支持部の端面に開口し中央部まで延びて上記径方向の摺動穴13に連通する円柱状で開口側にネジ部を有する軸方向の調節穴15が形成されて、この軸方向の調節穴15に、横向き状態で下面がくさび面16を構成しそのくさび面がブレーキ片14の傾斜した上面に当接してブレーキ片14をインナースリーブ9の外周に向けて加圧する棒状のブレーキ加圧治具17が軸方向摺動自在に保持されるとともに、このブレーキ加圧治具17を軸方向に押圧してくさび面16のブレーキ片14との当接位置を調節することによりブレーキ力を調節するよう、ブレーキ力調節バネ18およびブレーキ力調節ネジ19が配設されている。これらはボビン列の各ボビン7と回転軸2との相対回転にブレーキをかけるブレーキ機構を構成するものである。
【0015】
また、回転軸2の軸本体部には、ボビン列の前後に回転ブラケット20,21が固定され、これら前後の回転ブラケット20,21を介し、前面部がフレーム部材22で構成され後面部および周面部がドラム部材23で構成された籠状回転ケース24が、ボビン列を覆う配置で回転軸2と一体回転するよう配設されている。そして、この籠状回転ケース24には、ドラム部材23が構成する周面部には、ボビン列の各ボビン7の周囲各一箇所でボビン7毎に回転方向にずれた位置に側線引出し用のガイドローラー25が設置され、また、フレーム部材22が構成する前面部に、ボビン列の芯供給方向前方で各ボビン7周囲の各ガイドローラー25に対して回転軸2の軸線と平行な方向に並ぶ配置で、側線供給用のガイドローラー26が設置されている。
【0016】
また、回転軸2には、側線供給用のガイドローラー26の芯供給方向前方に位置する軸先端部に、ガイドローラー26を介して供給される複数本の側線Sを所定の配列で通す穴を有する目板27が配置され、回転軸2と一体回転するよう固定されている。
【0017】
そして、目板27の芯供給方向前方に、目板27の穴を通した8本の側線Sを芯Cの周りに集合させるダイス28(集合部)が配置され、その前方に、ダイス28を通った8本の側線Sを芯Cの周りに束ねて捩りトルクを加えるオーバーツイストローラー29(捩り機構)が配置され、更にその前方に、キャプスタン30(引き取り機構)が配置されている。なお、オーバーツイストローラー29とキャプスタン30の間に、オーバーツイストローラー29で側線Sの束が捩られて撚り合わされたスチールコードSCの形状を整えるための矯正ローラーを配置してもよい。そして、図示していないが、キャプスタン30より先には、巻き取りリール(巻き取り機構)が設けられる。また、巻き取りリールに巻き取らずにカレンダー工程(ゴムシートにコードを挟む工程)に直結させることも可能である。
【0018】
この撚線機では、ゴム被覆した例えば1×3構造の芯Cを回転軸2の貫通穴1を通して供給する。そして、回転軸2を駆動し、オーバーツイストローラー29およびキャプスタン30を駆動して、ボビン列の各ボビン7から側線引出し用のガイドローラー25を介して各側線Sを引き出し、その引き出した8本の側線Sを対応する側線供給用の各ガイドローラー26を介して供給して芯Cの周りに配列し、その各側線供給用のガイドローラー26を介して供給される8本の側線Sを目板28の穴に通してダイス28で芯Cの周りに集合させて束にし、オーバーツイストローラー29により捩りトルクを加えて撚り合わせ、3+8構造の2層撚りスチールコードSCを製造する。その際、芯Cと8本の側線Sは、キャプスタン30で引き取られて供給方向前方に送られる。そして、各ボビン7は、側線Sに負荷される張力とブレーキ力が釣り合って回転軸2に連動する。ブレーキ力はブレーキ力調節ネジ19によってボビン7毎に調節可能である。各ボビン7から繰り出される側線Sの張力は、ブレーキ力を調節することにより一定に保持する。
【0019】
この撚線機によれば、芯Cは単に真直ぐ供給されるだけで、捩れが負荷されることが無く、ゴムの均一な被覆層を維持したまま芯Cの周りに側線Sを撚り合わせることができる。そのため、芯Cと側線Sからなる外層との間の空隙が完全にゴムで埋まるスチールコードを製造することができる。
【0020】
なお、図示の例は、回転軸2に8個の側線繰出し用のボビン7を装着したものであるが、回転軸2に装着するボビン7の数は、例えば2〜9個の範囲で適宜変更できる。芯Cを構成するスチールフィラメント(単線)の数も、例えば1〜4本の範囲で適宜変更が可能である。
【0021】
また、上記実施の形態の撚線機は、タイヤ補強用の例えば3本のスチールフィラメント(単線)を単層に撚り合わせてゴム被覆した1×3構造の芯の周りに、側線である8本のスチールフィラメント(単線)を配列して撚り合わせ3+8構造の2層撚りスチールコードを製造するためにタイヤ製造ラインにインライン配置される撚線機であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、単線あるいは撚線(複数本の単線を撚り合わせたコード、複数本のコードを撚り合わせたコード、あるいはコードと単線を撚り合わせたコード)からなる芯を未加硫ゴムで被覆して、そのゴム被覆した芯の周りに単線あるいは撚線(複数本の単線を撚り合わせたコード、複数本のコードを撚り合わせたコード、あるいはコードと単線を撚り合わせたコード)からなる複数本の側線を配列して撚り合わせる撚線機一般に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の撚線機の要部構成を示す図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0023】
1 貫通穴
2 回転軸
3 軸受部
4 固定台
5 プーリー
6 ベアリング
7 ボビン
12 アウタースリーブ
13 摺動穴
14 ブレーキ片
15 調節穴
16 くさび面
17 ブレーキ加圧治具
18 ブレーキ力調節バネ
19 ブレーキ力調節ネジ
25 側線引出し用のガイドローラー
26 側線供給用のガイドローラー
27 目板
28 ダイス(集合部)
29 オーバーツイストローラー(捩り機構)
30 キャプスタン(送り機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単線あるいは撚線からなるゴム被覆された芯の周りに単線あるいは撚線からなる複数本の側線を配列して撚り合わせる複層コード製造用の撚線機であって、軸芯部に芯供給用の貫通穴を有する駆動式の回転軸と、該回転軸上に回転自在に装着された複数個の側線繰出し用のボビンから成るボビン列と、該ボビン列の各ボビンと前記回転軸との相対回転にブレーキをかけるブレーキ機構を備え、前記ゴム被覆された芯を前記回転軸の貫通穴を通して供給し、前記回転軸を駆動して、前記ブレーキ機構を介して前記回転軸に連動する前記ボビン列の各ボビンから側線を繰り出し、その繰り出した複数本の側線を前記芯の周りに配列して撚り合わせるよう構成したことを特徴とする撚線機。
【請求項2】
前記ボビン列の各ボビンの周囲各一箇所でボビン毎に回転方向にずれた位置に設置され前記回転軸と一体に回転する側線引出し用のガイドローラーと、前記ボビン列の芯供給方向前方で前記各ボビン周囲の各ガイドローラーに対して前記回転軸の軸線と平行な方向に並ぶ位置に設置され前記回転軸と一体に回転する側線供給用のガイドローラーを備え、前記ボビン列の各ボビンから前記側線引出し用のガイドローラーを介して側線を引き出し、該側線を前記側線供給用のガイドローラーを介して供給するよう構成したことを特徴とする請求項1記載の撚線機。
【請求項3】
前記側線供給用のガイドローラーの芯供給方向前方に前記側線供給用のガイドローラーを介して供給される複数本の側線を所定の配列で通し前記回転軸と一体に回転する目板を備え、該目板の芯供給方向前方に、前記目板の穴を通した複数本の側線を前記芯の周りに集合させる集合部と、該集合部にて集合した前記複数本の側線を前記芯の周りに束ねて捩る捩り機構を備え、前記側線供給用のガイドローラーを介して供給される複数本の側線を前記目板の穴に通して前記集合部で芯の周りに集合させ、この芯の周りに集合させた複数本の側線の束を前記捩り機構により捩りトルクを加えて撚り合わせるよう構成したことを特徴とする請求項2記載の撚線機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−63703(P2008−63703A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244858(P2006−244858)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】