説明

撥水性炭素繊維及びその製造方法

【課題】撥水性に富み、化学修飾炭素繊維表面の安定性が良い炭素繊維を提供する。
【解決手段】炭素繊維表面のヒドロキシル基に、酸素原子を介してトリオルガノシリル基(オルガノ基は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示す)を結合してなり、X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面珪素濃度Si/Cが0.100以上である撥水性炭素繊維。炭素繊維の表面に、繊維軸に平行な方向に連続する溝が形成されているものが好ましい。水に対する接触角が90度以上であることが好ましく、100〜120度であることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性炭素繊維及びその製造方法に関し、更に詳しくは撥水性に優れた表面修飾炭素繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、他の繊維と比較して優れた比強度及び比弾性率を有しており、その軽量且つ優れた機械的特性を利用して、樹脂との複合化に用いる補強繊維として広く利用されている。近年、炭素繊維を利用した複合材料の工業的な用途は、多目的に広がりつつあり、特に産業用途、スポーツ・レジャー分野、航空宇宙分野においては、より高性能化(高強度、高弾性で、かつ伸度が高い)に向けた要求が高まっている。複合材料の高性能化を追求する為には、樹脂の持つ物性を向上させることに加え、炭素繊維そのもの自体の特性を改善することも不可欠である。
【0003】
このような炭素繊維の適用分野の拡大において、それを複合材料とする場合に用いるマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂など多岐にわたっている。その中でもエポキシ樹脂は最も多く使用されており、今後も用途は広がりつつある。
【0004】
従来、炭素繊維と樹脂とを複合する場合、界面特性を改善する事により、複合体の物質特性の向上が図られている。炭素繊維と樹脂との界面特性を向上する目的で炭素繊維表面を酸化処理して、樹脂との接着性や濡れ性を改善する手法が最も多く利用されている。即ち、気相又は液相において、化学的若しくは電気化学的に炭素繊維表面を酸化処理し、炭素繊維表面に表面官能基を数多く導入する手法が一般的に広く用いられている。このような表面酸化処理を行うことによって、炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは増大し、表面官能基が数多く形成される。この表面官能基は、主として、親水性であるOH基、COOH基である。形成された表面官能基によって炭素繊維表面の樹脂との濡れ性が改善され、界面特性が向上する。このような、炭素繊維の表面特性の改善によって、エポキシ樹脂等と複合するに好適な界面を形成する為、表面に親水性のOH基、COOH基等を形成した炭素繊維は古くから製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、炭素繊維表面に親水性の官能基を設定する事により、マトリックス樹脂との接着性を改善する方法等が開示されている。
【0006】
このように、親水性の炭素繊維については、広く検討がなされている。一方、撥水性の炭素繊維は、製造、販売されていない。
【0007】
一般に撥水性とは、水への濡れにくさを示し、撥水現象は、固体表面における固液気の三相現象といえる。撥水性の検討は、炭素繊維以外の、建設資材、化粧品、繊維処理、エレクトロニクス用部材などの産業分野では従来から注目を集めている。
【0008】
一方近年、電極材用途に炭素繊維が応用されつつあり、上記産業分野の用途等で従来必要とされなかった撥水性の炭素繊維が、にわかに脚光を浴びるようになり、必要性が生じてきている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
特許文献2には、燃料ガスを供給するガス拡散層と酸化ガスを供給するガス拡散層によって膜電極接合体を挟持した電池セルを備える燃料電池が開示されている。この燃料電池において、各ガス拡散層は、前記膜電極接合体側に設けられた撥水層と、多孔質体によって形成された本体の内部にガス流路を含みガス流路を流れるガスが本体を透過するガス流路層とを積層した構造を有する。
【0010】
しかし、撥水材は、粒子として炭素繊維と結合材繊維と共に抄紙されている。従って、炭素繊維自体に撥水性を付与するものではない。
【特許文献1】特開平11−93078号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−339089号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0029])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、上記問題について鋭意検討しているうち、所定構造のシリル基を、表面酸素濃度O/C、ヒドロキシル基濃度COH/Cが所定範囲の原料炭素繊維表面に、ヒドロキシル基からシリル基への所定範囲の官能基置換率で結合させることで、炭素繊維表面が所定構造のシリル誘導体で化学修飾され、撥水性の性質が付与された炭素繊維を安定して得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した、撥水性炭素繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0014】
[1] 炭素繊維表面のヒドロキシル基に、酸素原子を介して下記式(1)に示す、
【0015】
【化1】

【0016】
トリオルガノシリル基を結合してなり、X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面珪素濃度Si/Cが0.100以上である撥水性炭素繊維。
【0017】
[2] 炭素繊維の表面に、繊維軸に平行な方向に連続する溝が形成されている[1]に記載の撥水性炭素繊維。
【0018】
[3] 水に対する接触角が90〜120度である[1]に記載の撥水性炭素繊維。
【0019】
[4] X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度O/Cが0.10〜0.30で且つX線光電子分光法により測定されるC1sスペクトルをピーク分割して求められるヒドロキシル基濃度COH/Cが0.05〜0.25である炭素繊維表面を有する炭素繊維のヒドロキシル基の60%以上に、下記式(1)に示す、
【0020】
【化2】

【0021】
トリオルガノシリル基を導入する、炭素繊維表面のヒドロキシル基に、酸素原子を介して前記トリオルガノシリル基を結合してなり、X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面珪素濃度Si/Cが0.100以上であり、水に対する接触角が90〜120度である撥水性炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の炭素繊維は、所定構造のシリル基を、表面酸素濃度O/C、ヒドロキシル基濃度COH/Cが所定範囲の原料炭素繊維表面に、ヒドロキシル基からシリル基への所定範囲の官能基置換率で結合させているので、撥水性に富む。このシリル基は炭素繊維表面に化学結合により導入されているので、結合安定性が良い。
【0023】
本発明の炭素繊維の製造方法によれば、所定構造のシリル誘導体を所定量含む反応液に、表面酸素濃度O/C、ヒドロキシル基濃度COH/Cが所定範囲の原料炭素繊維を浸漬させる簡単な操作で、撥水性に富み、化学修飾炭素繊維表面の安定性が良い炭素繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の炭素繊維は、下記式(1)に示す、3つの、有機基(アルキル基若しくはアルコキシ基)又は水素原子を結合したシリル基(トリオルガノシリル基)を、炭素繊維表面に結合させてなり、X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面珪素濃度Si/Cが0.100以上である撥水性の表面化学修飾炭素繊維である。
【0025】
【化3】

【0026】
炭素繊維表面珪素濃度Si/Cが0.100未満の場合は、炭素繊維表面の撥水性が不足する。水に対する接触角は高いほど、撥水性が良くなり、90度以上が必要である。但し、水に対する接触角が120度を超える撥水性の炭素繊維を得る為には、原料の炭素繊維表面におけるトリオルガノシリル基の導入量、即ち表面珪素濃度Si/Cをさらに上げる必要がある。
【0027】
そのためには、トリオルガノシリル基を導入する前段階において、原料の炭素繊維における表面処理量、即ち表面酸素濃度O/C、ヒドロキシル基濃度COH/Cを更に上げる必要が生ずる。しかし、原料の炭素繊維における表面処理量を更に上げると、表面酸化が必要以上に進み、新たな表面クラックの発生が起こりやすくなり、炭素繊維物性の低下やバラツキが生じやすくなるので、水に対する接触角が120度を超える場合は、撥水性炭素繊維として適さなくなる場合がある。
【0028】
本発明の撥水性炭素繊維は、トリオルガノシリル基を結合させる炭素繊維表面において、X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度O/Cが0.10〜0.30、0.12〜0.28、更に好ましくは好ましくは0.15〜0.25で、且つ、X線光電子分光法により測定されるC1sスペクトルをピーク分割して求められるヒドロキシル基濃度COH/Cが0.05〜0.25、好ましくは0.10〜0.21である。
【0029】
本発明の撥水性炭素繊維は、炭素繊維表面のヒドロキシル基(OH基)がトリオルガノシリル基で置換、結合され、その官能基置換率は60%以上、好ましくは63〜100%である。繊維表面に結合されたトリオルガノシリル基は、空気中で安定である。官能基置換率が60%未満であると撥水性が低下する。
【0030】
ここで、官能基置換とは、炭素繊維表面のOH基が、3つの、有機基(アルキル基若しくはアルコキシ基)又は水素原子を結合したシリル基を有する化合物(トリオルガノシリル誘導体)と反応して、炭素繊維表面のOH基の水素がトリオルガノシリル基と置換される事である。したがって、官能基置換率とは、炭素繊維表面のトリオルガノシリル誘導体による処理後のトリオルガノシリル基濃度の比率%で表される。
【0031】
本発明の撥水性炭素繊維は、水に対する接触角が90度以上であることが好ましく、100〜120度であることがより好ましい。
【0032】
本発明の撥水性炭素繊維は、トリオルガノシリル基を結合させる炭素繊維表面に、繊維軸方向に平行に連続する溝が形成されていることが好ましい。
【0033】
[撥水性炭素繊維の製造方法]
本発明の撥水性炭素繊維は、その物性が上記範囲内にあれば、その製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、トリオルガノシリル誘導体からなる反応液に、又は、トリオルガノシリル誘導体の濃度が12質量%以上、好ましくは15質量%以上である反応溶液に、表面酸素濃度O/Cが0.10〜0.30、好ましくは0.12〜0.28、更に好ましくは0.15〜0.25で、且つ、ヒドロキシル基濃度COH/Cが0.05〜0.25、好ましくは0.10〜0.21である繊維表面を有する原料炭素繊維を、温度10〜30℃で5秒以上、好ましくは5〜20秒浸漬させることにより製造することができる。
【0034】
以下、本発明の撥水性炭素繊維の製造方法を、各工程に沿って詳細に説明する。
【0035】
[炭素繊維前駆体繊維]
トリオルガノシリル基が導入される原料炭素繊維製造用の前駆体繊維(炭素繊維前駆体繊維)は、後述の特定の表面を有する炭素繊維を得ることができるものであれば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系などの前駆体繊維を適用できる。
【0036】
これらの前駆体繊維のうち、取扱性に優れ、且つ高強度の炭素長繊維が得られやすいPAN系前駆体繊維が好ましい。ここで、PAN系前駆体繊維の場合は、アクリロニトリル構造単位を主成分とし、イタコン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル等のビニル単量体単位を10モル%以内で含有する共重合体を常法に従い、炭素繊維前駆体繊維を得ることができる。
【0037】
炭素繊維前駆体繊維は、繊度1.00〜1.35dtexの長繊維であることが好ましい。
【0038】
[耐炎化処理]
上記炭素繊維前駆体繊維は6000〜24000本束ねてストランドとし、この前駆体繊維ストランドを、240〜280℃の空気中で耐炎化処理することにより前駆体繊維の環化反応を生じさせ、酸素結合量を増加させて不融化、難燃化させて耐炎化繊維が得られる。
【0039】
[炭素化処理]
次いで、窒素雰囲気中で初期炭素化、続けて炭素化する。
【0040】
[表面酸化処理]
その後、表面処理し、水洗し、空気中で乾燥して原料炭素繊維を得ることができる。
【0041】
炭素化処理をした繊維束を表面処理する手法としては、気相又は液相において、化学的若しくは電気化学的に炭素繊維表面を酸化処理し、炭素繊維表面に表面官能基の数多く導入する手法が一般的である。このような表面酸化処理を行うことによって、炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは増大し、表面官能基が数多く形成される。この表面官能基は、主として、親水性であるOH基、COOH基である。
【0042】
本発明の製造方法に用いる原料炭素繊維は、その表面において、X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度O1s/C1sが0.10〜0.30、好ましくは0.12〜0.28、更に好ましくは0.15〜0.25であり、且つ、表面ヒドロキシル基濃度COH/Cが0.05〜0.25、好ましくは0.10〜0.21である。
【0043】
表面ヒドロキシル基濃度COH/Cが0.05未満の場合は、原料炭素繊維へ均一な被覆状態は得られず、撥水性が低下するので、本発明の化学修飾炭素繊維には適さない。
【0044】
一方、表面ヒドロキシル基濃度COH/Cが0.25を超えると、原料炭素繊維の表面酸化が進み、新たな表面クラックの発生が起こりやすくなり、炭素繊維物性のバラツキが生じやすくなるので本発明の原料炭素繊維には適さない。
【0045】
上記表面ヒドロキシル基濃度COH/Cは、X線光電子分光法により測定されるC1sスペクトルをピーク分割することにより求めるものである。
【0046】
即ち、通常のC1sスペクトル測定にて得られるスペクトルの帯電補正を行うために、最大ピークをC−C結合エネルギーを示す284.6eVとし、ヒドロキシル基(COH)のピーク位置を286.2eV、カルボニル基(C=O)のピーク位置を287.5eV、カルボキシル基(COOH)のピーク位置を288.8eV、炭酸塩(OCOO)ピーク位置を290.6eVとしてピーク分割を行い、COHのピーク面積をC1sスペクトルのピーク全体の面積Cで除することにより求めるものである。
【0047】
X線光電子分光法により測定されるC1sスペクトルをピーク分割して求めた表面ヒドロキシル基濃度COH/Cが0.05〜0.25の特性を有する炭素繊維は、気相又は液相で表面を酸化し表面官能基の数を増す処理を施すことで得ることが出来る。本発明においては、生産性、処理の均一性、安定性等の観点から、繊維を陽極として液相にて電解表面処理を施すことが好ましい。
【0048】
表面処理を施された炭素繊維は、被覆処理前において、そのストランド強度が好ましくは3000MPa以上、より好ましくは4000MPa以上、更に好ましくは4500MPa以上のものであり、そのストランド弾性率が好ましくは200GPa以上、より好ましくは220GPa以上のものである。
【0049】
この強度、弾性率を有する炭素繊維を用いて製造された複合材料は、優れた特性を発現できるようになる。ここで、炭素繊維のストランド強度、ストランド弾性率とは、JIS−R−7601の樹脂含浸ストランド試験法に準じて測定した強度、弾性率をいう。ストランド強度及び弾性率の上限については、高い程好ましいが、現状ではそれぞれ7000MPa及び800GPa程度である。
【0050】
より撥水性の性質を持たせるには、炭素繊維表面に、繊維軸に平行な方向に溝を有する炭素繊維が好ましい。撥水性を与える主要因としては、固体の表面自由エネルギーと表面の微細構造との2つの要因が挙げられる。トリオルガノシリル基の炭素繊維表面への導入により、固体の表面自由エネルギーが高まって撥水性炭素繊維を得ることができる。
【0051】
また、炭素繊維表面に溝を有する炭素繊維を用いることによっても、その撥水性をより高めることができる。これは、炭素繊維表面に溝がある事によって、溝の表面凹部に空気が存在し、撥水性が高まるためと考えられる(空気は接触角180度)。溝の深さ、間隔は、それぞれ10〜35μm、50〜200μmが好ましい。
【0052】
炭素繊維表面に溝を与える方法としては、炭素繊維前駆体繊維の紡糸時に湿式紡糸を行うことで得ることができる。
【0053】
なお、市販の炭素繊維でも、上記条件を満足するものであれば、本発明の原料炭素繊維として使用することができる。
【0054】
[炭素繊維表面の化学修飾処理]
炭素繊維表面の化学修飾処理においては、炭素繊維表面官能基が、反応に寄与し、炭素繊維表面にトリオルガノシリル基が導入される。予め乾燥した炭素繊維表面で反応する。具体的には、反応溶液槽の中で、溶媒中に反応剤を溶かし込み、乾燥した原料炭素繊維を浸漬して表面で反応させることにより目的の撥水性の化学修飾炭素繊維を得る事ができる。
【0055】
炭素繊維表面の化学修飾処理剤(表面処理剤)として用いるトリオルガノシリル誘導体には、炭素繊維表面のOH基と反応してトリオルガノシリル基を付与するものであり、トリオルガノクロロシラン、ヘキサオルガノジシラザンなどが挙げられる。その中でも反応性が高いものは、オルガノ基がメチル基であるヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシランであり、このトリオルガノシリル誘導体を用いて得られる炭素繊維の撥水性が最も良好である。また、オルガノ基がメトキシ基やエチル基であっても撥水性が得られる。
【0056】
一方、ニつの反応性の官能基を有する、ジクロロジメチルシラン等を反応させ、クロロジメチルシリル基を導入しても、ある程度の撥水性は得られる。しかし、炭素繊維表面のOH基と反応した以外に反応点があることで、空気中での安定性がトリオルガノシリル基を導入した場合と比較して悪い。例えば、次工程の複合化に至るまでに、一時的に保存できる期間が限られてくる。
【0057】
化学修飾処理剤を溶かし込んだ反応溶液の濃度は、溶媒に対し、12質量%以上、好ましくは15質量%以上である。化学修飾処理剤としてトリメチルクロルシラン等のトリオルガノクロルシランを用いた場合には、溶媒を用いずにそのまま反応させる事ができる。但し、無溶媒若しくは溶液中の濃度が高すぎると反応溶液を空気中で安定に保つ事が難しくなる場合もある。この場合、撥水性炭素繊維を工業的に安定生産する事が困難となる。一方、濃度が低すぎると反応性が低下し、結果として、得られる化学修飾炭素繊維の撥水性も低下する。
【0058】
その後、反応によって生じた副生成物や未反応物等を除去する目的で、水洗を複数の工程で行う。水洗をする場合は、カルシウム成分、ナトリウム成分、マグネシウム成分を含有する井水を使用しても問題ないが、イオン交換水を用いる事が望ましい。井水を用いた場合には、水洗の最終工程でイオン交換水に置換する事が望ましい。このような水洗した後、空気中で乾燥処理を行って、目的の撥水性の化学修飾炭素繊維を得ることができる。乾燥処理は、100〜150℃に加温した乾燥機を用いる事が好ましい。乾燥後の化学修飾炭素繊維の水分率は、0.1質量%未満が好ましい。
【0059】
なお、本発明の製造方法で得られた炭素繊維は、取扱い向上の為にサイジング剤を付着させても良い。化学修飾して得られた撥水性の炭素繊維は、乾燥した状態では収束性が悪く、収束剤としてサイジング剤を用いると取扱性が向上する。サイジング剤は、炭素繊維に一般的に用いられるものが利用できる。
【0060】
サイジング剤を付与させ、化学修飾して得られた撥水性の炭素繊維は、そのままでは撥水性が低下し効果が発現できないので、加工後は脱サイズ処理を行うことが好ましい。脱サイズ処理は、JIS−R−7601に記載された有機溶剤を用いて行う事ができる。一般的には、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、操作条件の評価、各物性の測定は次の方法によった。
【0062】
[炭素繊維表面の表面酸素及び珪素の濃度O/C、Si/C]
炭素繊維表面の表面酸素及び珪素の濃度O/C、Si/Cは、次の手順に従ってXPS(ESCA)によって求めた。
【0063】
炭素繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10-6Paの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせる。Si1sピーク面積は、92〜116eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求めた。炭素繊維表面の表面珪素濃度Si/Cは、上記Si1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求めた。
【0064】
また、X線光電子分光法により測定されるSiの結合エネルギーのピークは、拡大し、最大点の位置を求めた。 発生する光電子の割合は各元素により異なり、この日本電子株式会社製X線光電子分光器ESCA JPS−9000MXの場合の装置定数を含めた換算係数は2.69である。
【0065】
[表面官能基のCOH/Cの求め方]
上記表面ヒドロキシル基濃度COH/Cは、X線光電子分光法により測定されるC1sスペクトルをピーク分割することにより求めた。
【0066】
即ち、通常のC1sスペクトル測定にて得られるスペクトルの帯電補正を行うために、最大ピークをC−C結合エネルギーを示す284.6eVとし、ヒドロキシル基(COH)のピーク位置を286.2eV、カルボニル基(C=O)のピーク位置を287.5eV、カルボキシル基(COOH)のピーク位置を288.8eV、炭酸塩(OCOO)ピーク位置を290.6eVとしてピーク分割を行い、COHのピーク面積をC1sスペクトルのピーク全体の面積Cで除することにより求めた。
【0067】
以下に、ヒドロキシル基濃度COH/Cを求める方法の具体的な説明を示すが、この例に限定されるものではない。
【0068】
原料となる炭素繊維ストランドをカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、10-6Paに減圧した測定室に入れ、日本電子株式会社製X線光電子分光器ESCA JPS−9000MXにより、Mgを対極として電子線加速電圧10kV、電流10mAの条件で発生させたX線を照射し、光電子の脱出角度を90°とした場合に炭素原子より発生する光電子スペクトルを測定した。引き続き、装置付属の解析ソフトウェアにより、得られたスペクトルをVAMASフォーマットに変換し、表面分析科学会より配布されている解析用ソフトウェアCompro6にて前述のピーク補正と分割を行うことで、COH/Cを求めた。
【0069】
以下に、炭素繊維の表面酸素濃度O1s/C1sを求める方法の具体的な説明を示すが、この例に限定されるものではない。
【0070】
原料となる炭素繊維ストランドをカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、10-6Paに減圧した測定室に入れ、日本電子株式会社製X線光電子分光器ESCA JPS−9000MXにより、Mgを対極として電子線加速電圧10kV、電流10mAの条件で発生させたX線を照射し、光電子の脱出角度を90°とした場合に炭素原子、酸素原子より発生する光電子スペクトルを測定し、その面積比を算出した。
【0071】
発生する光電子の割合は各元素により異なり、この日本電子株式会社製X線光電子分光器ESCA JPS−9000MXの場合の装置定数を含めた換算係数は2.69である。
【0072】
[官能基置換率の測定]
X線光電子分光法により、原料炭素繊維及び化学修飾した炭素繊維の表面を測定し、
原料炭素繊維のSi/C : Si/C1
反応後のSi/C : Si/C2
原料炭素繊維のCOH/C : COH/C1 として、計算によって求めた。
具体的には、下式で定義される比
[(Si/C2)−(Si/C1)]/(COH/C1)
で計算して官能基置換率を求めることができる。
【0073】
[炭素繊維ストランド強度、弾性率]
JIS R 7601に規定された方法により測定した。
【0074】
[接触角の評価]
炭素繊維の界面特性として、水と化学修飾炭素繊維表面との接触角測定で調べることができる。接触角測定は、協和界面科学(株)製DM700型の全自動接触角計を用い、温度20℃で、液滴法により行った。
【0075】
液滴は、霧吹きに蒸留水を入れて噴霧し、化学修飾炭素繊維表面に水滴を付着させる。この化学修飾炭素繊維表面についた任意の液滴を、該装置の接眼レンズから観察し接触角を測定した。引き続き、炭素繊維表面に付いた任意の液滴20個について接触角の測定を行い、その平均値を接触角の値として用いた。
【0076】
接触角が高いほど、撥水性がよく、撥水性を示す指標と考えてよい。
【0077】
炭素繊維は、通常取扱性を向上させる目的で、表面にサイズ剤を塗布しており、一般的には未硬化エポキシ樹脂が用いられる。 未硬化エポキシ樹脂をサイジングした一般的な炭素繊維の水との接触角は81度である。例えば、東レT700 24000−50C(サイジング剤は、不飽和ポリエステル樹脂等)の接触角は80.5度である。これに対して、本発明のトリオルガノシリル基を導入した化学修飾炭素繊維は、水との接触角が90〜120度とかなり高く、画期的に撥水性が向上している。また、前述したように、繊維軸に平行な方向に連続する溝が炭素繊維表面に形成している炭素繊維を用いることによっても、その撥水性をより高めることができる。
【0078】
より撥水性の性質を持たせるには、炭素繊維表面に、繊維軸に平行な方向に溝を有する炭素繊維が好ましい。撥水性を与える主要因としては、固体の表面自由エネルギーと表面の微細構造との2つの要因が挙げられる。トリオルガノシリル基の炭素繊維表面への導入により、固体の表面自由エネルギーが高まって撥水性炭素繊維を得ることができる。
【0079】
また、炭素繊維表面に溝を有する炭素繊維を用いることによっても、その撥水性をより高めることができる。これは、炭素繊維表面に溝がある事によって、溝の表面凹部に空気が存在し、撥水性が高まるためと考えられる(空気は接触角180度)。溝の深さ、間隔は、それぞれ10〜35μm、50〜200μmが好ましい。
【0080】
[化学修飾炭素繊維表面の安定性]
化学修飾した後、水と化学修飾炭素繊維表面との接触角を測定する。その測定した接触角をα度とする。その後、空気中室温に放置して2週間経過した時に、再度、水と化学修飾炭素繊維表面との接触角を測定する。この測定した接触角をβ度とする。次いで、この測定した両者の値(α度及びβ度)を用いた下式
安定性 (%) = β/α × 100
によって、化学修飾炭素繊維表面の安定性を評価した。
【0081】
[複合材料の層間剪断強度(ILSS)]
エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、商品名:エピコート)に、硬化剤、促進剤を加え、炭素繊維含浸用エポキシ樹脂組成物を作製した。
【0082】
この樹脂組成物をフィルムコーターにより、離型紙の上に塗布し、樹脂フィルムとした。この樹脂フィルム上に炭素繊維を等間隔に引き揃え並べた後、加熱して樹脂を炭素繊維に含浸させ、目付350g/m、樹脂含浸率35質量%の炭素繊維強化エポキシ樹脂組成物を作製した。
【0083】
上記の方法で作製した炭素繊維強化エポキシ樹脂組成物を、成型後の厚みが2.8mmとなるように積層し、金型に入れ、130℃で1.5時間、0.49MPa-Gauge(5.0kgf/cm-Gauge)の圧力で成型し、繊維が1方向に配列した炭素繊維強化成型板(CFRP板:コンポジット)を作製した。このCFRP板のILSSをASTM−D−2344に準拠し、23℃において測定を行った。
【0084】
[原料炭素繊維表面の溝の観察]
表面に、繊維軸に平行な方向に連続する溝が形成されている炭素繊維を原料炭素繊維として使用した。この繊維表面は、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)で観察することができる。
【0085】
また、走査型プローブ顕微鏡(SPM、Scanning Probe Microscope)観察によって、繊維表面の溝の深さと間隔を測定することができる。
【0086】
原料炭素繊維をSPM測定用のステンレス板上に両面テープで固定すると共に、Tapping modeでカンチレバー長125μmのプローブを使用して測定した。
【0087】
さらに、繊維の軸方向が走査する方向となるようにし、ある任意の繊維表面の0.5μm角について測定を行った。
【0088】
溝の深さは、この0.5μm角での測定値から繊維軸に垂直な線を引き、凹凸の部分の高低差を計算した。溝の間隔は、凸と凸の間隔を計算した。この観察を繊維表面の任意の箇所で20回行い、溝の深さと間隔を求めた。
【0089】
[実施例1]
アクリロニトリル(AN)95質量%、アクリル酸メチル4質量%、イタコン酸1質量%を用いて塩化亜鉛水溶液中で重合し、紡糸原液(共重合体)を作製した。この紡糸原液を用いて湿式紡糸方法により単繊維(フィラメント)繊度1.30dtex(1.18デニール)のアクリル系繊維を得た。このアクリル系繊維は、フィラメント数12000本が束ねられたストランドを形成している。
【0090】
得られたアクリル系繊維ストランドを240〜280℃の空気中で、延伸比1.05倍で加熱して耐炎化繊維を得た。この耐炎化繊維を窒素雰囲気中300〜700℃の温度領域での昇温速度を230℃/分として初期炭素化し、更に5.5%収縮させながら1350℃まで炭素化した。その後、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり20クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いてイオン交換水で水洗し、160℃の加熱空気中で乾燥して原料炭素繊維を得た。
【0091】
得られた原料炭素繊維は、目付けが0.800g/m、比重が1.77、ストランド強度が5100MPa、ストランド弾性率が242GPa、ILSSが106MPaであった。X線光電子分光法により、原料炭素繊維の表面分析を行ったところ、表面酸素濃度O/Cは0.20、ヒドロキシル基濃度COH/Cは0.14、表面珪素濃度Si/Cは0.107であった。
【0092】
原料炭素繊維の表面を、電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図1のように表面に溝が観察された。溝の深さ、間隔は、それぞれ20〜30nm、50〜200nmであった。
【0093】
続いて、炭素繊維表面官能基と反応する基としてトリメチルシリル基を有するトリメチルクロロシラン(J1.466D、沸点57℃)を溶媒の四塩化炭素に溶かして20質量%の反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与した後、イオン交換水を用いて水洗し、さらに120℃の乾燥機で乾燥した。
【0094】
得られた化学修飾した炭素繊維を、X線光電子分光装置を用いて官能基置換率を測定した結果、70%であった。このようにして得られた化学修飾炭素繊維は、水に対する撥水性を評価したところ、接触角が112度となり、撥水性を示した。
【0095】
[実施例2]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理し、続いて炭素繊維表面官能基と反応する基として、トリメチルシリル基を有するヘキサメチルジシラザン(J7.217F)を溶媒としてピリジンに溶かして40質量%の反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0096】
[実施例3]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理し、続いて炭素繊維表面官能基と反応する基として、トリエチルシリル基を有するトリエチルクロロシラン(J47.877F)を溶剤に溶かし20質量%の反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0097】
[実施例4]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理し、続いて炭素繊維表面官能基と反応する基として、トリメトキシシリル基を有するトリメトキシクロロシラン(J968.020I)を溶剤に溶かし20質量%の反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0098】
[実施例5]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理し、続いて炭素繊維表面官能基と反応する基として、トリメチルシリル基を有するトリメチルクロロシラン及びヘキサメチルジシラザンをモル比で1:3の割合で混ぜ、40質量%ピリジン溶液になるように反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0099】
[実施例6]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理し、続いて炭素繊維表面官能基と反応する基として、トリメチルシリル基を有するトリメチルクロロシランを無溶媒で、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0100】
[比較例1]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理し、続いて炭素繊維表面官能基と反応する基として、ジメチルジクロロシランを溶剤に溶かし20質量%の反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0101】
[比較例2]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理する際の電気量を炭素繊維1g当たり5クーロンで電解表面処理した。この原料炭素繊維は、表面酸素濃度O/Cが0.08、ヒドロキシル基濃度COH/Cが0.06であった。この原料炭素繊維の表面官能基と反応する基として、トリメチルクロロシランを溶剤に溶かし20質量%の反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0102】
[比較例3]
実施例1と同様にして炭素繊維を焼成後、表面処理し、続いて炭素繊維表面官能基と反応する基として、トリメチルシリル基を有するトリメチルクロロシランを溶剤に溶かし10質量%の反応溶液を調製し、浸漬法により原料炭素繊維に付与し、その後は実施例1と同様に処理した。
【0103】
[実施例7]
炭素繊維前駆体繊維製造において、乾湿式紡糸方法(エアギャップ3mm)を用いて凝固させた以外は、実施例1と同様に実施して、炭素繊維の表面に、繊維軸に平行な方向に連続する溝が形成されない原料炭素繊維を得た。
【0104】
得られた原料炭素繊維は、目付けが0.802g/m、比重が1.78、ストランド強度が5150MPa、ストランド弾性率が243GPa、ILSSが107MPaであった。X線光電子分光法により、原料炭素繊維の表面分析を行ったところ、表面酸素濃度O/Cは0.21、ヒドロキシル基濃度COH/Cは0.16、表面珪素濃度Si/Cは、0.125であった。
【0105】
原料炭素繊維の表面を、電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図2のように表面に溝が観察されなかった。この原料炭素繊維を用い、その後は実施例1と同様に処理した。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
表1〜2に示すように、実施例1〜7においては、良好な物性の撥水性炭素繊維が得られた。なお、実施例1〜6で得られた炭素繊維は、その表面に、繊維軸に平行な方向に連続する溝が形成されており、溝が形成されていない実施例7と比較すると、更に良好な物性の撥水性炭素繊維であった。
【0109】
これらの実施例1〜7に対し、比較例1においては、表面処理剤にジメチルジクロロシランを用いたため、得られた炭素繊維は、化学修飾炭素繊維表面の安定性が低いものであった。
【0110】
比較例2においては、原料炭素繊維の表面酸素濃度O/Cが0.08と低いため、得られた化学修飾炭素繊維は、水と炭素繊維表面との接触角が低く、撥水性が不足し、また、化学修飾炭素繊維表面の安定性も低いものであった。
【0111】
比較例3においては、反応溶液の表面処理剤濃度が低いため、得られた炭素繊維シートは、水と炭素繊維表面との接触角が低く、撥水性が不足し、良好な物性のものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の製造方法で得られる原料炭素繊維の表面の一例を示す図面代用電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】本発明の製造方法で得られる原料炭素繊維の表面の他の例を示す図面代用電子顕微鏡(SEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維表面のヒドロキシル基に、酸素原子を介して下記式(1)に示す、
【化1】

トリオルガノシリル基を結合してなり、X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面珪素濃度Si/Cが0.100以上である撥水性炭素繊維。
【請求項2】
炭素繊維の表面に、繊維軸に平行な方向に連続する溝が形成されている請求項1に記載の撥水性炭素繊維。
【請求項3】
水に対する接触角が90〜120度である請求項1に記載の撥水性炭素繊維。
【請求項4】
X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度O/Cが0.10〜0.30で且つX線光電子分光法により測定されるC1sスペクトルをピーク分割して求められるヒドロキシル基濃度COH/Cが0.05〜0.25である炭素繊維表面を有する炭素繊維のヒドロキシル基の60%以上に、下記式(1)に示す、
【化2】

トリオルガノシリル基を導入する、炭素繊維表面のヒドロキシル基に、酸素原子を介して前記トリオルガノシリル基を結合してなり、X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面珪素濃度Si/Cが0.100以上であり、水に対する接触角が90〜120度である撥水性炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248416(P2008−248416A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89783(P2007−89783)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】