説明

撥水撥油性化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料

【課題】フッ素系の高価な油剤を用いることなく化粧料中に良好な分散状態で配合することのできる撥水撥油性化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料を提供する。
【解決手段】化粧料用顔料粉体に、下記一般式(1)にて示されるパーフルオロアルキルアルコキシシランと、下記一般式(2)にて示されるN−アシルアミノ酸金属塩とを表面被覆処理してなる。


(式中、Rfは炭素数3〜21のパーフルオロアルキル基を示し、直鎖状あるいは分岐鎖状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであってもよい。nは1〜12、mは1〜3の整数である。a,bは1〜3の整数であり、a+b=4である。)


(式中、Mはナトリウムあるいはカリウムを示し、nは整数を示す。また、Rは直鎖状あるいは分岐鎖状で、炭素数3〜27の飽和炭化水素あるいは不飽和炭化水素を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばファンデーション、アイシャドウ、ほほ紅等のメイクアップ化粧料、あるいはサンスクリーン化粧料に配合されて撥水撥油性を示す撥水撥油性化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばファンデーション、アイシャドウ、ほほ紅等のメイクアップ化粧料、あるいはサンスクリーン化粧料に撥水撥油性を付与するために、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物で表面被覆処理された撥水撥油性顔料を使用することが行われている。しかし、この種の撥水撥油性顔料は、一般的に使用されている脂肪族系もしくはシリコン系の油分、所謂バインダーや界面活性剤に分散し難いために、感触の良い化粧料が得られ難い。そこで、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカリン、パーフルオロオクタン等のフッ素系の油剤を配合して、前記撥水撥油性顔料の分散性を改善することが行われている。しかし、かかるフッ素系の油剤は非常に高価であるために、これを配合させるのは特定の化粧料のみに限られるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決し得る技術として、本出願人は、顔料粉体にパーフルオロアルキルリン酸エステル化合物とアルキルアルコキシシランとを同時にまたは連続的に表面被覆処理するという技術(特許文献1参照)や、顔料粉体にパーフルオロアルキルリン酸エステル化合物とアルコキシチタンニウムアルキレートとを同時にまたは連続的に表面被覆処理するという技術(特許文献2参照)や、顔料粉体にパーフルオロアルキルリン酸エステル化合物とポリシロキサンとを同時または連続的に表面被覆処理するという技術(特許文献3参照)、などを既に提案している。
【0004】
また、本出願人は、先願発明として、下記一般式(1)に示されるパーフルオロアルキルアルコシキシランを用いて撥水撥油性顔料の分散性を改善して感触の良好な化粧料を得るために、アルキルアルコキシシラン化合物やシリコンとの同時または連続被覆表面処理を行うようにしたものを提案している(特願2005−283334号)。
【化3】

(式中、Rfは炭素数3〜21のパーフルオロアルキル基を示し、直鎖状あるいは分岐鎖状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであってもよい。nは1〜12、mは1〜3の整数である。a,bは1〜3の整数であり、a+b=4である。)
【0005】
しかしながら、上記一般式(1)に示されるパーフルオロアルキルアルコシキシランを被覆表面処理した顔料を化粧料に用いた場合でも、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物を被覆表面処理した顔料を化粧料に用いた場合と同様に、良好な分散状態で感触が良好な化粧料を得るためには、一般的に使用されている脂肪族系もしくはシリコン系の油分、所謂バインダーや界面活性剤だけでは、満足される化粧料が得られないことから、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカリン、パーフルオロオクタン等のフッ素系の高価な油剤を使用しなければならないという問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−316223号公報
【特許文献2】特開2005−119997号公報
【特許文献3】特開2000−256133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、撥水撥油性に優れるとともに、フッ素系の高価な油剤を用いることなく一般的に使用されている油性成分等を用いて化粧料中に良好な分散状態で配合することのできる撥水撥油性化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、下記一般式(1)に示されるパーフルオロアルキルアルコシキシランを被覆表面処理した顔料が良好な分散状態となって、感触が良好な化粧料を得ることができるように、前記先願発明(特願2005−283334号)と同様にして、下記一般式(2)に示されるN−アシルアミノ酸金属塩を用いることにより上記課題を解決するに至ったものである。
【0009】
要するに、本発明による撥水撥油性化粧料用顔料は、
化粧料用の顔料粉体に、下記一般式(1)にて示されるパーフルオロアルキルアルコキシシランと、下記一般式(2)にて示されるN−アシルアミノ酸金属塩とを表面被覆処理してなることを特徴とするものである。
【化4】

(式中、Rfは炭素数3〜21のパーフルオロアルキル基を示し、直鎖状あるいは分岐鎖状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであってもよい。nは1〜12、mは1〜3の整数である。a,bは1〜3の整数であり、a+b=4である。)
【化5】

(式中、Mはナトリウムあるいはカリウムを示し、nは整数を示す。また、Rは直鎖状あるいは分岐鎖状で、炭素数3〜27の飽和炭化水素あるいは不飽和炭化水素を示す。)
【0010】
また、本発明による化粧料は、
前記発明による撥水撥油性化粧料用顔料を含有してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の撥水撥油性化粧料用顔料は、撥水撥油性に優れるとともに、化粧料への配合時に、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカリン、パーフルオロオクタン等のフッ素系の高価な油剤を用いることなく、一般的に用いられている、例えばワセリン、ラノリン、カルナバロウ、キャンデリアロウ、スクワラン、流動パラフィン、エステル油、シリコン油、トリグリセライド、等のバインダーを用いて化粧料中に良好な分散状態で配合するができる。
【0012】
また、本発明の化粧料によれば、十分な撥水撥油性を示し、分散状態も良好で、使用感に優れた化粧料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明による撥水撥油性化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料の具体的な実施の形態について説明する。
【0014】
本発明においては、適当な溶剤もしくは種々の混合溶剤に被覆表面処理剤を溶解または分散させ、その混合液を原料の化粧料用顔料と撹拌混合した後に、溶剤を除去することにより、表面被覆処理がなされた撥水撥油性化粧料用顔料が得られる。ここで、用いられる溶剤としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール等のアルコール類、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の極性溶剤などが挙げられる。
【0015】
本発明による撥水撥油性化粧料用顔料において原料となる化粧料用顔料としては、無機顔料、有機顔料および樹脂粉体顔料がある。ここで、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄、群青、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、マイカ、セリサイト、タルク、シリカ、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化クロム、ケイ酸マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、チタン被覆雲母等が挙げられる。また、有機顔料としては、リソールルビンB、レーキレッドC、リソールレッド、ローダミンB、ヘリンドンピンクCN、パーマネントレッド、ベンジジンオレンジG、フタロシアニンブルー、セルロースパウダー等が挙げられる。また、樹脂粉体顔料としては、ナイロンパウダー、アクリルパウダー、シリコンパウダー等が挙げられる。
【0016】
本発明による撥水撥油性化粧料用顔料において、下記一般式(1);
【化6】

(式中、Rfは炭素数3〜21のパーフルオロアルキル基を示し、直鎖状あるいは分岐鎖状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであってもよい。nは1〜12、mは1〜3の整数である。a,bは1〜3の整数であり、a+b=4である。)
にて示されるパーフルオロアルキルアルコキシシランの化粧料用顔料に対する被覆量は、その原料となる化粧料用顔料粉体の粒子径によって異なるが、0.02〜30重量%が適当である。この被覆量が0.02重量%未満であると、本来の撥油性および撥水性を十分に得ることができない。また、この被覆量が30重量%を超えると、被覆処理剤同士の反応等によって感触が悪くなる懸念がある。
【0017】
一方、下記一般式(2);
【化7】

(式中、Mはナトリウムあるいはカリウムを示し、nは整数を示す。また、Rは直鎖状あるいは分岐鎖状で、炭素数3〜27の飽和炭化水素あるいは不飽和炭化水素を示す。)
にて示されるN−アシルアミノ酸金属塩の化粧料用顔料に対する被覆量についてもその原料となる化粧料用顔料粉体の粒子径によって異なるが、0.05〜20重量%が適当である。なお、この被覆量は処理された顔料の撥油性を損なわない範囲で処理されることが重要である。
【0018】
本発明で用いられる上記一般式(1)に示されるパーフルオロアルキルアルコキシシランとしては、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
また、上記一般式(2)に示されるN−アシルアミノ酸金属塩としては、N−ヘキサノイルアスパラギン酸(グルタミン酸)(ここで、N−ヘキサノイルアスパラギン酸(グルタミン酸)は、N−ヘキサノイルアスパラギン酸とN−ヘキサノイルグルタミン酸の両方を表記したものとする。以下同様。)、N−オレイリルアスパラギン酸(グルタミン酸)、N−ラウロイルアスパラギン酸(グルタミン酸)、N−ミリストイルアスパラギン酸(グルタミン酸)、N−パルミトイルアスパラギン酸(グルタミン酸)、N−ステアロイルアスパラギン酸(グルタミン酸)、N−リノレノイルアスパラギン酸(グルタミン酸)等のナトリウム塩およびカリウム塩等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明による撥水撥油性化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
高速撹拌混合機に酸化チタン2kgを投入するとともに、その酸化チタンに対して3%のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン(デグサ社製:DYNASYLAN F8261)と0.5%のN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム(味の素(株)製:アミソフトHS−11)を重量比30/70のイオン交換水/イソプロピルアルコール混合液500gに加熱溶解させた混合液を高速撹拌混合機に入れ、十分に撹拌する。そして、撹拌状態を維持したまま混合機を加熱し、槽内を減圧してイオン交換水とイソプロピルアルコールを除去する。その後、槽内から粉体を取り出し、熱乾燥後粉砕を行って目的の表面被覆処理酸化チタンを得た。これと同様な方法で、前記酸化チタンに代えて赤酸化鉄、黄酸化鉄および黒酸化鉄を用いて各種の表面被覆処理顔料粉体を得た。
【0022】
(実施例2)
高速撹拌混合機にセリサイト2kgを投入するとともに、そのセリサイトに対して5%のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン(デグサ社製:DYNASYLAN F8261)と0.5%のN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム(味の素(株)製:アミソフトHS−11)を重量比30/70のイオン交換水/イソプロピルアルコール混合液500gに加熱溶解させた混合液を高速撹拌混合機に入れ、十分に撹拌する。そして、撹拌状態を維持したまま混合機を加熱し、槽内を減圧してイオン交換水とイソプロピルアルコールを除去する。その後、槽内から粉体を取り出し、熱乾燥後粉砕を行って目的の表面被覆処理セリサイトを得た。これと同様な方法で、前記セリサイトに代えてタルクおよびマイカを用いて各種の表面被覆処理顔料粉体を得た。
【0023】
(比較例1)
高速撹拌混合機に酸化チタン2kgを投入するとともに、その酸化チタンに対して3%のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン(デグサ社製:DYNASYLAN F8261)をイソプロピルアルコール500gに溶解させたイソプロピルアルコール溶液を高速撹拌混合機に投入して、十分に撹拌する。そして、撹拌状態を維持したまま混合機を加熱し、槽内を減圧してイソプロピルアルコールを除去する。その後、槽内から粉体を取り出し、乾燥後粉砕を行って目的の表面被覆処理酸化チタンを得た。これと同様な方法で、前記酸化チタンに代えて赤酸化鉄、黄酸化鉄および黒酸化鉄を用いて各種の表面被覆処理顔料粉体を得た。
【0024】
(比較例2)
高速撹拌混合機にセリサイト2kgを投入するとともに、そのセリサイトに対して5%のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン(デグサ社製:DYNASYLAN F8261)をイソプロピルアルコール500gに溶解させたイソプロピルアルコール溶液を高速撹拌混合機に入れ、十分に撹拌する。そして、撹拌状態を維持したまま混合機を加熱し、槽内を減圧してイソプロピルアルコールを除去する。その後、槽内から粉体を取り出し、乾燥後粉砕を行って目的の表面被覆処理セリサイトを得た。これと同様な方法で、前記セリサイトに代えてタルクおよびマイカを用いて各種の表面被覆処理顔料粉体を得た。
【0025】
これら実施例1,2および比較例1,2の各種表面被覆処理顔料粉体について、撥水度と撥油度を測定した。その測定結果が表1に示されている。ここで、撥水度については水による接触角を、撥油度については流動パラフィンによる接触角を測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、実施例1,2の各種表面被覆処理顔料粉体は、比較例1,2の各種表面被覆処理顔料粉体と同程度の撥水性を有し、親油性の被覆処理を行っているにもかかわらず、十分な撥油性も残っている。
【0028】
(配合実施例)
実施例1,2の各種表面被覆処理顔料粉体を用い、以下の配合にてパウダーファンデーションを調製した。
<パウダーベースの配合>
表面処理セリサイト 35.0
表面処理タルク 25.0
表面処理マイカ 20.0
表面処理酸化チタン 10.0
表面処理黄酸化鉄 4.0
表面処理ベンガラ 1.2
表面処理黒酸化鉄 0.8
ナイロンパウダー 4.0
合計100.0
<バインダーベースの配合>
ジメチルポリシロキサン(6CS) 30.0
ジメチルポリシロキサン(10000CS) 25.0
精製ラノリン 9.0
エステル油 36.0
合計100.0
前記パウダーベースを88%含み、前記バインダーベースを12%として、これらをヘンシェルミキサーにて混合し目的のパウダーファンデーションを得た。
【0029】
(配合比較例)
比較例1,2の各種表面被覆処理顔料粉体を用い、配合実施例と同様にしてパウダーファンデーションを得た。
【0030】
これら配合実施例および配合比較例のパウダーファンデーションにおける分散状態、分散安定性、撥水性および撥油性についてそれぞれ評価した。その結果が表2に示されている。
【0031】
【表2】

【0032】
表2から明らかなように、実施例1,2の顔料からなる配合実施例のパウダーファンデーションは、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムのアルキル基が導入されたことによってバインダーへの親和性が向上し、分散状態および分散安定性が共に良好で、しかも撥水性および撥油性も良好であった。これ対して、比較例1,2の顔料からなる配合比較例のパウダーファンデーションは、バインダーへの親和性が良くないために、分散状態および分散安定性が共に悪かった。
【0033】
以上のように、本実施例の表面被覆処理顔料粉体によれば、撥水撥油性に優れるとともに、化粧料への配合時にパーフルオロデカリン、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロオクタン等の高価なフッ素化合物系のバインダーを用いることなく、一般に用いられているバインダー(例えば、ワセリン、ラノリン、カルナバロウ、キャンデリアロウ、スクワラン、流動パラフィン、エステル油、シリコン油、トリグリセライド等)にて容易に分散配合できるという優れた効果を有していると言える。また、本実施例の表面被覆処理顔料粉体を配合した本実施例の化粧料によれば、十分な撥水撥油性を示し、かつ肌への延展性がよくてしっとりとした感触を付与することができるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料用の顔料粉体に、下記一般式(1)にて示されるパーフルオロアルキルアルコキシシランと、下記一般式(2)にて示されるN−アシルアミノ酸金属塩とを表面被覆処理してなることを特徴とする撥水撥油性化粧料用顔料。
【化1】

(式中、Rfは炭素数3〜21のパーフルオロアルキル基を示し、直鎖状あるいは分岐鎖状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであってもよい。nは1〜12、mは1〜3の整数である。a,bは1〜3の整数であり、a+b=4である。)
【化2】

(式中、Mはナトリウムあるいはカリウムを示し、nは整数を示す。また、Rは直鎖状あるいは分岐鎖状で、炭素数3〜27の飽和炭化水素あるいは不飽和炭化水素を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の撥水撥油性化粧料用顔料を含有してなることを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2008−231074(P2008−231074A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76398(P2007−76398)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】