撥油性共重合体およびその製造方法ならびに撥油性処理液
【課題】良好な撥油性および視認性を有するとともに、基材との密着性に優れた撥油膜を形成できる撥油性共重合体を提供する。
【解決手段】ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)の7〜60質量%を有することを特徴とする撥油性共重合体。
【解決手段】ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)の7〜60質量%を有することを特徴とする撥油性共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撥油性共重合体およびその製造方法、ならびに該撥油性共重合体を用いた撥油性処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、非染料単量体と染料単量体を共重合させた含フッ素重合体が記載されている。重合体の製造に用いられる非染料単量体と染料単量体の量については、「当該重合体に所望とされる色、吸光性又は蛍光発生性の強さに依存して変わり得るが、一般的に言えば、…全単量体重量基準で90〜99.9%非染料単量体(類)と10〜0.1%の染料単量体(類)とを重合させることによって製造することができる(公報第5頁右上欄1〜12行)。」と記載されている。
特許文献1において、クマリン系の官能基を有する染料単量体を用いた実施例10、11における非染料単量体と染料単量体の使用量は、実施例10では非染料単量体10g(98.77質量%)に対して染料単量体が0.125g(1.23質量%)であり、実施例11では非染料単量体10g(97.5質量%)に対して染料単量体が、0.257g(2.5質量%)である。
【特許文献1】特開平2−3407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
着色された含フッ素重合体は、例えば、視認性および撥油性を有する撥油膜を形成する撥油性共重合体として好適に用いられる。かかる撥油膜にあっては、溶剤と接触した場合にも視認性または撥油性が低下し難いように、基材と撥油膜との密着性向上が求められる。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、良好な撥油性および視認性を有するとともに、基材との密着性に優れた撥油膜を形成できる撥油性共重合体およびその製造方法、ならびに該共重合体を含有する撥油性処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、クマリン系蛍光発光性官能基を有するモノマーが、蛍光発光性の発現だけでなく、基材と撥油膜との密着性向上に寄与することを新たに知見した。すなわち、撥油性共重合体を構成するモノマーとして、クマリン系蛍光発光性官能基を有するモノマーを、これまで蛍光発光性の良好な発現に必要な量として使用されていた量よりも多く含有させることによって、該撥油性共重合体を用いて形成された撥油膜と基材との優れた密着性が得られることを見出して本発明に至った。
【0005】
すなわち本発明の撥油性共重合体は、ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)の7〜60質量%を有することを特徴とする。
本発明の撥油性共重合体は、さらに、上記繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)のいずれにも含まれない繰り返し単位であって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下である繰り返し単位(C)の1〜50質量%を有することが好ましい。
【0006】
また本発明は、重合開始剤の存在下、溶媒中にて、ポリフルオロアルキル基と重合性官能基を有するモノマー(A’)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基と重合性官能基を有するモノマー(B’)の7〜60質量%を含むモノマー原料を重合させる工程を有することを特徴とする撥油性共重合体の製造方法を提供する。
前記モノマー原料が、さらに、上記モノマー(A’)およびモノマー(B’)のいずれにも含まれないモノマーであって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)と重合性官能基を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下であるモノマー(C’)の1〜50質量%を含むことが好ましい。
また本発明は、本発明の撥油性共重合体と溶媒を含有することを特徴とする撥油性処理液を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の撥油性重合体および撥油性処理液によれば、良好な撥油性および視認性を有するとともに、基材との密着性に優れた撥油膜を形成できる。
本発明の撥油性共重合体の製造方法によれば、良好な撥油性および視認性を有するとともに、基材との密着性に優れた撥油膜を形成できる撥油性共重合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の撥油性共重合体は、繰り返し単位(A)と、繰り返し単位(B)を有する。さらに繰り返し単位(C)を有してもよい。
[繰り返し単位(A)]
ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)は、ポリフルオロアルキル基と重合性官能基を有するモノマー(A’)から誘導される。該モノマー(A’)としては、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基の水素原子が、ポリフルオロアルキル基を有する基で置換された「ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート」が好ましい。
本発明における「ポリフルオロアルキル基」とは、エーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子が含まれてもよいアルキル基の、水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基を意味する。
また(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を含む概念である。
【0009】
「ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート」としては、下式〔1〕で表される化合物が好ましい。式中、Rf はポリフルオロアルキル基、Qは2価の有機基、Rは水素原子またはメチル基を示す。
なお下式〔1〕における「Rf−Q−」において、フッ素原子と結合している炭素原子は全てRfに含まれるものとし、残りの炭素原子のうちQに含まれる炭素原子の数が最大となるように「Rf」および「Q」を決めるものとする。
例えば「Rf−Q−」が「CF2 H−CH2 −CH(OH)−CH2−」である場合、「Rf」は「CF2 H−」であり「−Q−」は「−CH2 −CH(OH)−CH2−」であるものとする。
【0010】
【化1】
【0011】
Rf の炭素原子数は2〜20が好ましく、4〜16がより好ましい。Rf は、直鎖構造でも分岐構造でもよく、直鎖構造がより好ましい。分岐構造の場合には、分岐部分がRf の末端部分に存在し、かつ分岐部分の炭素原子数が1〜4程度の短鎖が好ましい。Rf の末端部分の構造としては、CF3 CF2 −、(CF3 )2 CF−、CF2 H−、CFH2 −等が挙げられ、CF3 CF2 −が好ましい。
【0012】
Rf におけるフッ素原子の数は、[(Rf 中のフッ素原子数)/(Rf と同一炭素原子数のアルキル基中に含まれる水素原子数)]×100(%)で表現した場合に、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。100%の場合のRf をペルフルオロアルキル基という。
【0013】
Rf がペルフルオロアルキル基の場合、Rf の炭素数は2〜20が好ましく、4〜16がより好ましい。該炭素数が上記の範囲内であると、上記式〔1〕で表される化合物からなるモノマーの重合性、重合後の溶液安定性がよく、撥油性処理液の初期撥油性と撥油持久性に優れる。
【0014】
Rf がペルフルオロアルキル基の場合、Rf の具体例としては、以下の基(構造異性の基を含む。)等が挙げられる。
C4 F9 −:F(CF2 )4 −、(CF3 )2 CFCF2 −、(CF3 )3 C−、CF3 CF2 (CF3 )CF−等。
C5 F11−:F(CF2 )5 −等。
C6 F13−:F(CF2 )6 −等。
C7 F15−:F(CF2 )7 −、(CF3 )2 CF(CF2 )4 −等。
C8 F17−:F(CF2 )8 −等。
C9 F19−:F(CF2 )9 −、(CF3 )2 CF(CF2 )6 −等。
C10F21−:F(CF2 )10−等。
C12F25−:F(CF2 )12−等。
C13F27−:(CF3 )2 CF(CF2 )10 −等。
C14F29−:F(CF2 )14−等。
C16F33−:F(CF2 )16−等。
【0015】
Rf が、エーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子を有するペルフルオロアルキル基である場合の具体例としては、以下の基が挙げられる。ただし、kは1〜5の整数を示す。
F(CF2 )k OCF(CF3 )−、
F(CF2 CF2 O)k CF2 CF2 −、
F(CF2 CF2 CF2 O)k CF2 CF2 −、
F[CF(CF3 )CF2 O]k CF(CF3 )−、
F[CF(CF3 )CF2 O]k CF(CF3 )CF2 CF2 −、
F(CF2 )k SCF(CF3 )−、
F(CF2 CF2 S)k CF2 CF2 −、
F(CF2 CF2 CF2 S)k CF2 CF2 −、
F[CF(CF3 )CF2 S]k CF2 CF2 −、
F[CF(CF3 )CF2 S]k CF(CF3 )CF2 CF2 −等。
【0016】
Rf としては、直鎖状のペルフルオロアルキル基がより好ましく、具体的には、F(CF2 )4 −、F(CF2 )5 −、F(CF2 )6 −、F(CF2 )7 −、F(CF2 )8 −、F(CF2 )9 −、F(CF2 )10−、F(CF2 )11−、F(CF2 )12−が特に好ましい。
【0017】
上記式〔1〕におけるQの例としては、以下の基が挙げられる。ただし、R’ は水素原子またはアルキル基を示し、pおよびqはそれぞれ独立して0または1以上の整数を示し、p+qは1〜22の整数である。
−(CH2 )p+q −、
−(CH2 )p CONR’(CH2 )q −、
−(CH2 )p OCONR’(CH2 )q −、
−(CH2 )p SO2 NR’(CH2 )q −、
−(CH2 )p NHCONH(CH2 )q −、
−(CH2 )p CH(OH)(CH2 )q −、
−(CH2 )p CH(OCOR’)(CH2 )q −等。
これらのうちで、−(CH2 )p+q −、−(CH2 )p CONR’(CH2 )q −または−(CH2 )p SO2 NR’(CH2 )q −(pは0または1以上の整数、qは2以上の整数を示し、p+qは2〜6である。)がより好ましく、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基またはヘキサメチレン基が最も好ましい。
【0018】
「ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート」としての、ペルフルオロ(メタ)アクリレートは、以下の化合物が好ましい。ただし、Rは水素原子またはメチル基を示す。
F(CF2 )4 CH2 OCOCR=CH2 〔1−1〕、
F(CF2 )5 CH2 OCOCR=CH2 〔1−2〕、
H(CF2 )4 CH2 OCOCR=CH2 〔1−3〕、
H(CF2 )6 CH2 OCOCR=CH2 〔1−4〕、
H(CF2 )8 CH2 OCOCR=CH2 〔1−5〕、
H(CF2 )10CH2 OCOCR=CH2 〔1−6〕、
F(CF2 )4 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−7〕、
F(CF2 )6 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−8〕、
F(CF2 )8 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−9〕、
F(CF2 )10CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−10〕、
F(CF2 )12CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−11〕、
F(CF2 )14CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−12〕、
F(CF2 )16CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−13〕、
F(CF2 )8 (CH2 )3 OCOCR=CH2 〔1−14〕、
F(CF2 )8 (CH2 )4 OCOCR=CH2 〔1−15〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )4 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−16〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )6 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−17〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )8 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−18〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )5 (CH2 )3 OCOCR=CH2 〔1−19〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )5 CH2 CH(OH)CH2 OCOCR=CH2 〔1−20〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )7 CH2 CH(OH)CH2 OCOCR=CH2 〔1−21〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )5 CH2 CH(OCOCH3 )OCOCR=CH2 〔1−22〕、
F(CF2 )8 SO2 N(CH3 )CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−23〕、
F(CF2 )8 SO2 N(C2 H5 )CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−24〕、
F(CF2 )8 SO2 N(C3 H7 )CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−25〕、
F(CF2 )8 CONHCH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−26〕。
ペルフルオロ(メタ)アクリレートとしては、〔1−1〕〜〔1−26〕のうち、〔1−3〕〜〔1−13〕がより好ましく、〔1−7〕〜〔1−11〕が最も好ましい。
【0019】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(A)は1種でもよく、2種以上でもよい。繰り返し単位(A)を誘導するモノマー(A’)は市販品から入手可能である。
本発明の撥油性共重合体を構成する全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(A)の占める割合は、40〜93質量%の範囲であり、70〜90質量%が好ましい。上記範囲の下限値以上であると撥油性処理液の初期撥油性と撥油持久性に優れ、上限値以下であると繰り返し単位(B)を充分に含有させることができる。
【0020】
[繰り返し単位(B)]
クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)は、クマリン系蛍光発光性官能基と重合性官能基を有するモノマー(B’)から誘導される。重合性官能基は特に限定されないが、(メタ)アクリロイル基が共重合性の観点から好ましい。(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基(CH2=CHCO−)およびメタクリロイル基(CH2=C(CH3)CO−)の一方または両方を含む概念である。
モノマー(B’)としては、クマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドが好ましく、(メタ)アクリレートがより好ましい。
クマリン系蛍光発光性官能基は、下記式〔2〕で表される置換基である。
【0021】
【化2】
【0022】
式〔2〕中、R1〜R6のいずれか1個は2価の有機基であり、残りの5個はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基、または隣り合う2個が互いに結合して環を形成する連結基である。
該2価の有機基は重合性官能基と結合している。重合性官能基と結合する部位は特に限定されず、R1〜R6のいずれであってもよい。
前記1価の有機基は特に限定されない。該1価の有機基の種類、位置によってクマリン系蛍光発光性官能基の吸収特性および発光特性が変わることから、目的とする吸収波長や発光波長等から、該1価の有機基の種類と位置を選ぶことができる。また、該1価の有機基の選択は合成の容易さや原料の入手性も加味できる。
R1〜R6のうちの5個が水素原子であってもよい。3個以上が水素原子であることが好ましい。
【0023】
式〔2〕における2価の有機基としては、例えば下記の2価基が挙げられる。下記において、R4は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示し、aおよびbはそれぞれ独立して0または1以上の整数を示し、a+bは1〜22の整数である。該2価基の片末端にエーテル性酸素原子(−O−)を有する場合は、該エーテル性酸素原子が重合性官能基と結合していることが好ましい。
−O−、
−O−(CH2 )a+b−、
−O−(CH2 )a+bO−、
−O−(CH2 )aOCO(CH2 )b−、
−NR4−、
−O−(CH2 )a+b−NR4−、
−O−(CH2 )aOCONR4 (CH2 )b −、
下記式〔3〕で表される2価基等。
【0024】
【化3】
【0025】
式〔2〕における1価の有機基としては、例えば下記の1価基が挙げられる。下記において、R5は炭素数1〜20のアルキル基を示し、cおよびdはそれぞれ独立して0または1以上の整数を示し、c+dは1〜22の整数である。eは1〜20の整数である。
R5−、
R5−O−、
R5−CO−、
R5−CO−(CH2 )c+d−、
R5−(CH2 )cOCO(CH2 )d−、
CeF2e+1−、
(CH2)2N−、
下記式〔4〕で表される1価基等。
【0026】
【化4】
【0027】
またR1〜R6のうち2価の有機基を除く5個において、隣り合う2個が互いに結合して環を形成する連結基である場合、例えば−R4−R5−の例としては、−O−(CH2)f−O−(fは1または2である。)等が挙げられる。
【0028】
繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)の具体例としては、下記式(VI−1)〜(VI−23)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化5】
【0030】
繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の反応性官能基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料に、重合性官能基を導入することで容易に合成できる。例えば、水酸基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料の場合、(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応、メチル(メタ)アクリレートとのエステル交換反応、(メタ)アクリル酸無水物を用いたエステル化反応、または(メタ)アクリル酸ハロゲン化物を用いたエステル化反応により、クマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリレートが合成され得る。
アミノ基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料の場合、(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応、メチル(メタ)アクリレートとのエステル−アミド交換反応、(メタ)アクリル酸無水物を用いたアミド化反応、または(メタ)アクリル酸ハロゲン化物を用いたアミド化反応により、クマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリルアミドが合成され得る。
カルボキシル基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料の場合、2-ヒドロキシエチルメタクリレートのような水酸基を持つ化合物とのエステル化反応により、重合性官能基を導入できる。
【0031】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(B)は1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明の撥油性共重合体を構成する全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(B)の占める割合は、7〜60質量%の範囲であり、7〜30質量%が好ましい。上記範囲の下限値以上であると良好な蛍光発光性が得られるとともに、密着性向上効果が充分に得られる。上限値以下であると繰り返し単位(A)を充分に含有させることができる。
撥油性共重合体が、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とからなる場合、A/Bの質量比は40/60〜93/7が好ましく、60/40〜93/7がより好ましく、70/30〜90/10がさらに好ましい。
【0032】
[繰り返し単位(C)]
繰り返し単位(C)は、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)のいずれにも含まれない繰り返し単位であって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下である繰り返し単位である。
繰り返し単位(C)は、上記モノマー(A’)およびモノマー(B’)のいずれにも含まれないモノマーであって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)と重合性官能基を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下であるモノマー(C’)から誘導される。すなわち、重合性官能基とは別に炭素数が8以下の炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有することが必要である。
後述の繰り返し単位(D)に含まれるもの、すなわち基材と反応また作用する基を有する繰り返し単位は、繰り返し単位(C)には含まれないものとする。
該モノマー(C’)としては、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基の水素原子が、上記炭素数8以下の炭化水素基で置換された(メタ)アクリレート」が好ましい。すなわち、重合性官能基としては(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0033】
繰り返し単位(C)における上記炭素数8以下の炭化水素基は、飽和でもよく不飽和でもよい。直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。エーテル性酸素原子(−O−)を含んでいてもよい。
かかる炭化水素基の好ましい例としては、飽和アルキル基、フェニル基、ベンジル基、フルフリル基およびテトラヒドロフルフリル基が挙げられる。
【0034】
撥油性共重合体に繰り返し単位(C)を含有させることにより、撥油性共重合体の溶媒への溶解性を向上させることができる。すなわちクマリン系蛍光発光性官能基を有するモノマー(B’)は、極性溶媒に対して良好な溶解性を示すが、ハロゲン系溶媒に対しては溶解性が低い。このため、本発明においてはモノマー(A’)とモノマー(B’)を共重合させる際の重合溶媒として、例えば後述の(X3)ケトン、(X4)エステル、(X5)エーテル等の極性溶媒を含む溶媒が好ましく用いられる。一方、ポリフルオロアルキル基を有するモノマー(A’)はハロゲン系溶媒に対して良好な溶解性を示し、極性溶媒に対しても一定の溶解性を示すが、モノマー(A’)の重合体は極性溶媒への溶解性が低い。したがってモノマー(A’)とモノマー(B’)の共重合体は、モノマー(A’)から誘導される繰り返し単位(A)の含有割合が高いほど、極性溶媒を含む重合溶媒への溶解性が低くなる傾向があり、重合中もしくは重合後に共重合体が析出する可能性がある。この問題は該共重合体に繰り返し単位(C)を含有させることによって解決できる。
【0035】
モノマー(C’)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、1−プロピル(メタ)アクリレート、2−プロピル(メタ)アクリレート、1−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは市販品から入手できる。
【0036】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(C)は1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明の撥油性共重合体を構成する全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(C)の占める割合は、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると共重合体の溶解性向上効果が充分に得られる。上限値以下であると繰り返し単位(A)および(B)を充分に含有させることができる。
また撥油性共重合体が、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)と繰り返し単位(C)からなる場合、全繰り返し単位のうち各繰り返し単位の占める割合が上記の範囲内であり、かつ(A+C)/Bの含有量の質量比が50/50〜93/7であることが好ましく、70/30〜93/7がより好ましく、70/30〜90/10がさらに好ましい。
【0037】
[繰り返し単位(D)]
本発明の撥油性共重合体に、上記繰り返し単位(A)〜(C)以外に、基材と反応または相互作用する基を有する繰り返し単位(D)を含有させてもよい。これにより、撥油膜と基材との密着性をさらに向上させることができる。繰り返し単位(D)は、基材と反応する基と重合性官能基を有するモノマー(D1’)、または基材と相互作用する基と重合性官能基を有するモノマー(D2’)から誘導される。重合性官能基としては(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0038】
モノマー(D1’)としては、例えば3−(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、3−(トリエトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート等の、重合性官能基を有するシランカップリング剤;例えばグリシジル(メタ)アクリレート等の、オキソラン環と重合性官能基を有する化合物;イソシアネート基またはブロック化されたイソシアネート基と重合性官能基を有する化合物等が挙げられる。
イソシアネート基またはブロック化されたイソシアネート基と重合性官能基を有する化合物としては、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、1,3,3−トリメチル−4−イソシアネートシクロヘキシルメチルアミドオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
前記イソシアネート基のブロック化に用いられるブロック化剤としては、2−ブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ε−カプロラクタム、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、フェノール、メタノール、ジエチルマロネート、重亜硫酸塩、ピラゾール、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、インダゾール等が挙げられる。これらブロック化剤のうち、安定性に優れ、反応性に優れることから、2−ブタノンオキシム、アセト酢酸エチル、ジエチルマロネート、ピラゾール、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾールがより好ましく、2−ブタノンオキシム、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾールが最も好ましい。
【0039】
モノマー(D2’)としては、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、アミド基、水酸基、シアノ基、エステル結合等の極性基(塩を形成していてもよい。)と重合性官能基を有する化合物が挙げられる。該エステル結合は、アクリル酸由来のエステル結合以外のエステル結合である。これらの具体例を以下に挙げる。
【0040】
カルボキシル基およびその塩を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム塩、(メタ)アクリル酸カリウム塩、6−アクリルアミドヘキサン酸等が挙げられる。
スルホ基およびその塩を有するモノマーとしては、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートカリウム塩、等が挙げられる。
アミノ基およびアンモニウム塩を有すモノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、(3−(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルコリンクロリド等が挙げられる。
アミド基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。
水酸基を有するモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
シアノ基を有するモノマーとしては、2−シアノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アクリル酸由来のエステル結合以外のエステル結合を有するモノマーとしては、α−メタクリロキシ−γ−ブチロラクトン、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、モノ(メタクリロイルオキシエチル)コハク酸等が挙げられる。
【0041】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(D)は1種でもよく、2種以上でもよい。繰り返し単位(D)を誘導するモノマー(D1’)および(D2’)はいずれも市販品から入手可能である。
本発明の撥油性共重合体において繰り返し単位(D)は必須ではないが、これを含有させる場合、全繰り返し単位のうち繰り返し単位(D)の占める割合は、0.1〜50質量%が好ましく、0.3〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると撥油膜と基材との密着性向上効果が充分に得られる。上限値以下であると他の成分とのバランスが良い。
【0042】
[その他の繰り返し単位]
本発明の撥油性共重合体は、上記繰り返し単位(A)〜(D)のいずれの範疇にも含まれないその他の繰り返し単位を、本発明の効果を損なわない範囲で有していてもよい。該その他の繰り返し単位を誘導するモノマーは、上記モノマー(A’)〜(D2’)のいずれの範疇にも含まれないモノマーであって、撥油性共重合体を構成する他のモノマーと共重合可能なモノマーであればよく、特に限定されない。
該その他の繰り返し単位は、全繰り返し単位のうち5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0043】
[製造方法]
本発明の撥油性共重合体は、各繰り返し単位を誘導するモノマーを重合反応させることによって製造できる。
具体的には、重合開始剤の存在下、繰り返し単位(A)を誘導するモノマー(A’)、繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)を含むモノマー原料を、溶媒(重合溶媒)中で重合させる工程を有する方法が好ましい。前記モノマー原料には、さらに必要に応じて繰り返し単位(C)を誘導するモノマー(C’)および/または繰り返し単位(D)を誘導するモノマー(D1’)と(D2’)の一方または両方を含有させることができる。
繰り返し単位(A)を誘導するモノマー(A’)としてポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートを用い、繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)としてクマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。またモノマー(C’)としては、上記特定の一価基を有する(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0044】
重合方法は、イオン重合法、ラジカル重合法等の重合方法を用いることができる。特に、重合開始剤としてラジカル開始剤を用いて穏和な条件で重合できる点で、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合は、具体的に懸濁重合、溶液重合、バルク重合、乳化重合等の重合方法を用いて行うことができる。
ラジカル開始剤としては、水溶性開始剤または油溶性開始剤を重合方法に応じて使用できる。例えば、乳化重合においては開始剤として水溶性過酸化物が好ましく用いられる。水溶性過酸化物の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ジコハク酸ペルオキシド等が挙げられる。懸濁重合、溶液重合またはバルク重合においては、開始剤として非フッ素系過酸化物、フッ素系過酸化物、アゾ化合物が好ましく用いられる。
これらの開始剤の具体例としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ベンゾイルペルオキシド、ペルフルオロブタン酸ペルオキシド、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が好ましく用いられる。
【0045】
(重合溶媒)
重合反応に用いる重合溶媒としては、(X1)ハロゲン化合物、(X2)炭化水素、(X3)ケトン、(X4)エステル、(X5)エーテル等が挙げられる。
(X1)ハロゲン化合物としては、(X11)ハロゲン化炭化水素、(X12)ハロゲン化エーテル等が挙げられる。
(X11)ハロゲン化炭化水素としては、(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X112)ハイドロフルオロカーボン、(X113)含フッ素アルコール、(X114)ハイドロブロモカーボン、(X115)ペルフルオロアルキルアミン等が挙げられる。
(X111)ハイドロクロロフルオロカーボンとしては、以下の化合物が挙げられる。
CH3 CCl2 F、
CHCl2 CF2 CF3 、
CHClFCF2 CClF2 等。
【0046】
(X112)ハイドロフルオロカーボンとしては、以下の化合物が挙げられる。
CHF2 CF2 CF2 CF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 CHFCF3 、
CHF2 CF2 CF2 CF2 CHF2 、
CF3 CHFCHFCF2 CF3 、
CF3 CHFCF2 CH2 CF3 、
CF3 CF(CF3 )CH2 CHF2 、
CF3 CH(CF3 )CH2 CF3 、
CF3 CH2 CF2 CH2 CF3 、
CHF2 CHFCF2 CHFCHF2 、
CHF2 CF2 CF2 CHFCH3 、
CF3 CH2 CH2 CH2 CF3 、
CHF2 CH2 CF2 CH2 CHF2 、
CF3 (CF2 )4 CHF2 、
CF3 (CF2 )4 CH2 F、
CF3 CF2 CF2 CF2 CH2 CF3 、
CHF2 CF2 CF2 CF2 CF2 CHF2 、
CF3 CH(CF3 )CHFCF2 CF3 、
CF3 CF2 CH2 CH(CF3 )CF3 、
CF3 CH2 CF2 CF2 CH2 CF3 、
CF3 CF2 CH2 CH2 CF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 CH2 CH3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 CF2 CF2 CH2 CH3 、
CF3 CH(CF3 )CH2 CH2 CF3 、
CHF2 CF2 CH2 CH2 CF2 CHF2 、
CF3 CF2 CF2 CH2 CH2 CH3 、
1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン等。
【0047】
(X113)含フッ素アルコールとしては、トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2−(ペンタフルオロブチル)エタノール、2−(ペルフルオロエキシシル)エタノール、2−(ペルフルオロヘキシル)エタノール、2−(ペルフルオロオクチル)エタノール、2−(ペルフルオロデシル)エタノール、2−(ペルフルオロ−3−メチルブチル)エタノール、1H,1H,3H−テトラフルオロ−1−プロパノール、1H,1H,5H−オクタフルオロ−1−ヘプタノール、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロ−1−ノナノール、2H−ヘキサフルオロ−2−2−プロパノール、1H,1H,3H−ヘキサフルオロ−2−ブタノール等が挙げられる。
【0048】
(X114)ハイドロブロモカーボンとしては、以下の化合物が挙げられる。
CH2 Br2 、
CH2 BrCH2 CH3 、
CH3 CHBrCH3 、
CH2 BrCHBrCH3 等。
【0049】
(X115)ペルフルオロアルキルアミンとしては、以下の化合物が挙げられる。
(CF3 CF2 F2 )3 N、((CF3 )2 CF)3 N、(CF3 CF2 CF2 CF2 )3 N等。
【0050】
(X12)ハロゲン化エーテルとしては、(X121)ハイドロフルオロエーテルが挙げられる。
(X121)ハイドロフルオロエーテルとしては、(X1211)分離型ハイドロフルオロエーテル、(X1212)非分離型ハイドロフルオロエーテルが挙げられる。
(X1211)分離型ハイドロフルオロエーテルとは、エーテル性酸素原子を介してペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルキレン基、および、アルキル基またはアルキレン基が結合している化合物である。
(X1212)非分離型ハイドロフルオロエーテルとは、部分的にフッ素化されたアルキル基またはアルキレン基を含むハイドロフルオロエーテルである。
【0051】
(X1211)分離型ハイドロフルオロエーテルとしては、以下の化合物が挙げられる。
CF3 CF2 CF2 OCH3 、
(CF3 )2 CFOCH3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CH3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 OCH3 、
(CF3 )2 CFCF2 OCH3 、
(CF3 )3 COCH3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 OCH2 CH3 、
(CF3 )CFCF2 OCH2 CH3 、
(CF3 )3 COCH2 CH3 、
CF3 CF2 CF(OCH3 )CF(CF3 )2 、
CF3 CF2 CF(OCH2 CH3 )CF(CF3 )2 、
C5 F11OCH2 CH3 、
CF3 CF2 CF2 CF(OCH2 CH3 )CF(CF3 )2 、
CH3 O(CF2 )4 OCH3 、
CH3 OCF2 CF2 OCH2 CH3 、
C3 H7 OCF(CF3 )CF2 OCH3
F(CF2 )n OCH3 (nは6〜10である。)等。
【0052】
(X1212)非分離型ハイドロフルオロエーテルとしては、以下の化合物が挙げられる。
CHF2 OCF2 OCHF2 、
CH2 FCF2 OCHF2 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 F、
CF3 CF2 OCH2 CHF2 、
CHF2 CF2 OCH2 CF3 、
CHF2 CF2 CH2 OCF3 、
CF3 CF2 CH2 OCHF2 、
CHF2 CF2 OCH2 CHF2 、
CF3 CH2 OCF2 CH2 F、
CF3 CH2 OCF2 CHF2 、
CHF2 CF2 CF2 OCH3 、
CHF2 CF2 CH2 OCH3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CF3 、
CF3 CF2 CH2 OCF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CHF2 、
CF3 CF2 CH2 OCF2 CHF2 、
CHF2 CF2 CH2 OCF2 CF3 、
CHF2 CF2 CH2 OCF2 CHF2 、
CF3 CHFCF2 CH2 OCF3 、
CF3 CHFCF2 CH2 OCHF2 、
CF3 CF2 CF2 CH2 OCH3 、
(CF3 )2 CHCF2 OCH3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CF2 CHF2 、
CF3 CF2 CF2 CF2 OCF2 CHF2 、
CF3 (CF2 )5 OCHF2 、
CHF2 OCF2 CF2 OCHF2 、
CHF2 OCF2 OCF2 CF2 OCHF2 、
CHF2 OCF2 OCF2 OCF2 OCHF2 等。
【0053】
(X2)炭化水素としては、(X21)脂肪族炭化水素、(X22)脂環式炭化水素、(X23)芳香族炭化水素等が挙げられる。
(X21)脂肪族炭化水素としては、ペンタン、2−メチルブタン、3−メチルペンタン、ヘキサン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン、2,2,3−トリメチルヘキサン、デカン、ウンデカン、ドデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等が挙げられる。
(X22)脂環式炭化水素としては、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。
(X23)芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0054】
(X3)ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
(X4)エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ペンチル等が挙げられる。
(X5)エーテルとしては、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。
【0055】
重合溶媒は、重合反応に用いるモノマーを溶解し、かつ生成した共重合体を溶解するものであればよく、上記に挙げた溶媒のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒としてもよい。
単独で用いる場合、(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X121)ハイドロフルオロエーテル、または(X3)ケトンが好ましい。
二種以上の混合溶媒として用いる場合、モノマー(A’)およびその重合体の溶解性が高い溶媒(a)と、モノマー(B’)の溶解性が高い溶媒(b)との組合せが好ましい。該溶媒(a)としては(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X112)ハイドロフルオロカーボン、(X121)ハイドロフルオロエーテルが好ましい。該溶媒(b)としては(X3)ケトン、(X4)エステル、(X5)エーテルが好ましい。
【0056】
こうして重合溶媒中でモノマーを重合反応させることにより、生成した撥油性共重合体と重合溶媒を含む反応溶液が得られる。
本発明の撥油性共重合体の質量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算分子量、以下同様。)は、1万〜50万が好ましく、3万〜10万がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると得られる撥油膜が耐久性に優れ、上限値以下であると溶媒への溶解性に優れる。
【0057】
[撥油性処理液]
本発明の撥油性処理液は、本発明の撥油性共重合体と溶媒を含有する。該溶媒は、撥油性共重合体を溶解するものであればよく、上記重合溶媒の例として挙げた溶媒のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
撥油性処理液は、重合反応後に得られた反応溶液を、適宜の溶媒で希釈して調製することができる。反応溶液中の重合溶媒と、希釈に用いる溶媒とは同じであってもよく異なっていてもよい。
または、重合反応後に得られた反応溶液から、いったん再沈等で撥油性共重合体を回収し、これを溶媒に再溶解する方法で撥油性処理液を調製してもよい。
撥油性処理液における溶媒の含有割合は、撥油性処理液の100質量%に対して、80〜99.9質量%が好ましく、90〜99.9質量%がより好ましい。該範囲内であると、撥油性処理液の保存安定性に優れ、1度の塗工で膜を形成できる点で好ましい。
【0058】
撥油性処理液中の溶媒には、含フッ素溶媒以外の他の溶媒が含まれていてもよい。特に溶媒中において含フッ素溶媒の占める割合が60質量%以上、好ましくは80質量%以上であると、撥油性共重合体の溶解性に優れ、撥油性処理液の保存安定性に優れる点で好ましい。100質量%でもよい。含フッ素溶媒としては、(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X112)ハイドロフルオロカーボン、(X121)ハイドロフルオロエーテルが好ましく、これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0059】
[撥油膜]
本発明の撥油性処理液を用いて撥油膜を形成できる。
具体的には、撥油性処理液を基材に塗布し、溶媒を蒸発させて膜を形成する。塗布方法としては、スプレー、ディップ、刷毛塗り、ポッティング、スピン等が挙げられる。
また、スプレー缶のような携帯型の塗装剤またはインクに撥油性処理液を混ぜて、基板に塗布してもよい。
【0060】
撥油膜を形成する際に、撥油性処理液中の溶媒を乾燥させるとともに、膜の硬化を促進させるために加熱することが好ましい。加熱の温度は70〜180℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。加熱の時間は30分間以上が好ましい。繰り返し単位(D)がブロック化されたイソシアネート基を有する場合は、該ブロック化剤が解離する温度以上に加熱する。
【0061】
本発明の撥油性処理液を用いて形成された撥油膜は、膜形成成分である撥油性共重合体が蛍光発光性官能基を備えており視認性に優れている。
例えば、撥油性共重合体中の蛍光発光性官能基が感度を有する波長の光線を撥油膜に照射して、該蛍光発光性官能基を蛍光発光させることにより、視認性が得られる。
【0062】
また本発明の撥油性処理液を用いて形成された撥油膜は、基材との密着性に優れており、耐久性に優れる。具体的には、後述の実施例に示されるように、溶剤と接触しても視認性および撥油性が良好に保たれる。
基材の材質は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼等の金属でもよく、芳香族ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)等のプラスチックでもよい。
【0063】
[用途]
本発明の撥油性処理液からなる膜は、優れた視認性を有するため、特に製品製造時、製品使用中または製品の不具合発生時に撥油膜の検査が要求される用途に好ましい。すなわち、膜が正しい位置に形成されているか、所望の形状に形成されているか、膜が使用環境によって剥離、変質等しているか等の検査において、膜の異常を検知しやすいという利点が得られる。
かかる用途としては、軸受けのオイルシール;LEDバックライト冷却用ファンモータFDBオイルシール;プリント基板のオイル拡散防止;半導体基板またはウェハー等の半導体の工程内製品の防湿、防汚、耐食;マイクロベアリングの潤滑グリース漏出防止;マイクロモーター潤滑剤オイルの拡散防止;時計部品のオイル拡散防止;各種レンズ摺動部のオイル拡散防止;磁気ヘッドの汚れ付着防止;フラックス這い上がり防止;HDDボイスコイルモータの潤滑;顕微鏡レンズの防汚、防湿;窓材等の光学部品の防汚、耐食、防湿;ロールベルト、プリンターロール、回転ローラー、モーターファン等回転部品の潤滑、防汚、撥油、防水;マイクロリアクター流路、スライド式バブル装置、モールド等のデバイスの防汚、防水、離型、表面改質;ベアリング、歯車の撥油、防汚;塗工ヘッドのノズルの防汚、撥油、防水の用途が挙げられる。
【0064】
上記の他、以下の用途にも好適である。
鏡の防汚;ディスプレイ画面の防汚;露光マスクやフォトマスクの防汚、防湿、離型;眼鏡レンズの防汚、防湿;カメラ用レンズの防汚、防湿;カメラまたは携帯電話等の差圧調整用フィルターの防汚、撥油;掃除機用のエアフィルター濾材の防汚;車載用通気性フィルター等の通気性フィルターの撥油、防汚;レンジフード、ガスコンロ、ガスレンジ油飛散防止シート等のキッチン周り用品の防汚、撥油、防水;排ガスフィルターの撥油、防汚;リード線の防湿、防錆;筆記用具用部材の防汚、撥油;カーペットの撥水撥油、防汚;フィラメントの防錆、防水;衣料品の撥水撥油;ショーウィンドウの防汚、撥油;インクジェット用紙の撥油;化粧品の表面改質;インクジェットノズルの防汚、撥油;金属プレートの防汚、撥油;食用包装材封止材の撥水撥油;インジケーターの防汚;燃料電池用分離膜の撥油、防汚;絶縁スペーサーの撥油;フィルムグローブの防汚、防水;燃料タンクの防汚、撥油;墓石または石碑等の石材の防汚、撥水撥油;壁材、建築材料、木材、タイル等の防汚、撥水撥油。
【実施例】
【0065】
本発明について、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下において、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
下記の製造例で用いたモノマーおよび溶媒は以下の通りである。
モノマーA’:ペルフルオロヘキシルエチルメタクリレート(F(CF2)6CH2CH2OCOC(CH3)=CH2)。
モノマーB’:下記の合成例1に示す方法で合成した、上記式(VI‐17)で表される7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル。
【0066】
(モノマーC’)
MMA:メチルメタクリレート。
BMA:ブチルメタクリレート。
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート。
2EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート。
(モノマーD1’)
MOI−BP:メタクリル酸2−[(3,5−ジメチルピラゾリル)カルボキシアミノ]エチル。これはイソシアネート基が3,5−ジメチルピラゾールでブロック化された2−イソシアネートエチルメタクリレートである。
(モノマーD2’)
GBLMA:α−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン。
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート。
(その他のモノマー)
StMA:ステアリルメタクリレート。
(溶媒)
AE:HCF2CF2OCH2CF3 (AE−3000:製品名、旭硝子株式会社製)。
AC:CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH3。
MEK:メチルエチルケトン。
【0067】
[合成例1:モノマーB’の合成]
まず、以下の方法で7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸を合成した。
撹拌機、ジムロート冷却器を備えた反応器(内容積300mL、ガラス製)に、4−(ジエチルアミノ)サリチルアルデヒド(10.20g)、マロン酸ジエチル(8.92g)、ピペリジン(4.49g)、およびエタノール(50mL)を投入して撹拌した。つづいて反応器の内温を80℃に加熱して8時間、還流させた。
つぎに反応器を50℃に冷却し、ジムロート冷却器を滴下ロートに換え、1N水酸化カリウム水溶液(60mL)を滴下し、1時間攪拌した。
つづいて反応器を室温まで冷却し、3N塩酸水溶液を滴下して中和した。析出した固体をろ取し、蒸留水(20mL)で2回、メタノール(30mL)で3回洗浄し、得られた橙色固体を100℃で8時間減圧乾燥して7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸の8.19gを得た。収率は59%であった。1H−NMRおよびFT−IRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.27(6H、t、−CH3)、3.50(4H、q、−CH2−)、6.53(1H、s、8−H)、6.71(1H、d、6−H)、7.46(1H、d、5−H)、8.66(1H、s、4−H)、12.35(1H、s、−COOH)。
FT−IR(KBr)ν(cm−1):1738(C=O)、1665(C=O)。
【0068】
上記で得た7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸を用いてモノマーB’を合成した。
撹拌機、滴下ロートを備えた反応器(内容積100mL、ガラス製)に、7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸(7.55g)、およびトルエン(50mL)を投入して撹拌した。つづいて反応器の内温を30℃に加熱して無水トリフルオロ酢酸(6.45g)を滴下し、さらに5分間攪拌した。
つぎに反応器の内温が30−35℃になるように、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(4.39g)を滴下し、1時間攪拌した。
得られた反応粗液を分液ロートに移し、1N水酸化ナトリウム水溶液(60mL)、蒸留水(60mL)で2回洗浄し、トルエン層の溶媒を留去して12.80gの黄色固体を得た。これを10質量%蒸留水/メタノールを用いて再結晶することにより、7.31gの目的物を得た。収率は63%であった。1H−NMR、FT−IR、可視紫外吸収スペクトル、および融点の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.24(6H、t、−CH2CH3)、1.96(3H、s、CH2=C−CH3)、3.45(4H、q、−CH2CH3)、4.64−4.57(4H、m、−OCH2CH2O−)、5.59(1H、s、transC=CH2)、6.17(1H、s、cisC=CH2)、6.46(1H、s、8−H)、6.61(d、1H、6−H)、7.35(d、1H、5−H)、8.41(1H、s、4−H)。
FT−IR(KBr)ν(cm−1):1759(C=O)、1713(C=O)。
可視紫外吸収スペクトル(溶媒:ジクロロペンタフルオロプロパン)λ(nm):414。
融点:104.9−105.3℃。
【0069】
[製造例1〜13:撥油性処理液の調製]
表1に示すモノマーおよび溶剤を用いて撥油性共重合体を製造し、該撥油性共重合体を含む撥油性処理液を調製した。
まず30mLのガラス製重合用アンプルに、表1に示す仕込み量の各モノマーと溶媒、および開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)の0.12gを入れた。アンプル内部のガスを窒素ガスで置換した後、密閉し、60℃の湯浴中で16時間保持し、共重合体を含む反応溶液を得た。
得られた反応溶液を40gのACで希釈し、氷浴で冷却した600gのメタノール中に滴下し、沈降した固体をろ取、減圧乾燥することによりポリマー(共重合体)を得た。
得られたポリマーの質量平均分子量(MW)および収率(単位:質量%)を表1に示す。
さらに、得られたポリマーを表2に示す処理液濃度となるようにACに溶解し、撥油性処理液を得た。
【0070】
【表1】
【0071】
[例1〜15:撥油膜の形成および評価]
製造例1〜13で得られた撥油性処理液をそれぞれ用いて撥油膜を形成し、該撥油膜の視認性および撥油性の耐久性評価を、以下に示す方法に従って行った。評価結果を表2に示す。
例12と例13、および例14と例15は、それぞれ同じ撥油性処理液を用い、キュア温度を違えて撥油膜を形成した。
【0072】
[SUS試験板の作成]
洗浄済みのSUS板を基材として用い、その上に撥油性処理液をスピンコート法にて、500rpmの条件で20秒間塗布した。この後、表2に示すキュア温度で60分間加熱処理して撥油膜を形成し、SUS試験板を得た。
[LCP試験板の作成]
洗浄済みの樹脂フィルム(液晶ポリマー(LCP)フィルム、製品名:べクスター、クラレ社製)をガラス板上に貼り付けたものを基材とした。該基材の樹脂フィルム上に撥油性処理液をスピンコート法にて、500rpmの条件で20秒間塗布した後、表2に示すキュア温度で60分間加熱処理して撥油膜を形成し、LCP試験板を得た。
【0073】
[初期視認性の評価]
SUS試験板およびLCP試験板のそれぞれにブラックライト(波長365nm)を照射して、撥油膜の発色を目視にて観察した。結果を下記の評価基準で示す。
◎:発色が明確に観察される。
○:発色が観察される。
△:発色がわずかに観察される。
×:発色が全く観察されない。
【0074】
[初期撥油性の評価]
SUS試験板およびLCP試験板のそれぞれについて、撥油膜上に約1μLのn−ヘキサデカンを滴下し、その接触角を測定することにより初期撥油性を評価した。接触角の測定結果を下記の評価基準で示す。
接触角の測定は、協和界面科学社製(商品名:CA−A)を用い、25℃の条件下、液滴法で行った(以下、同様。)。
◎:65°以上。
○:55°以上、65°未満。
△:45°以上、55°未満。
×:45°未満。
【0075】
[耐溶剤試験]
SUS試験板およびLCP試験板のそれぞれについて、撥油膜上に有機溶剤を3滴載せ、1分後に不織布(製品名:クリーンワイパー、クラレ社製)で拭き取った。有機溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)およびイソプロピルアルコール(IPA)の2種を用い、それぞれについて評価を行った。
[耐溶剤試験後の視認性評価]
上記耐溶剤試験の前後における撥油膜の状態を目視にて観察した。また、試験前後に、それぞれブラックライト(波長365nm)を照射して撥油膜の発色を目視にて観察した。結果を下記の評価基準で示す。
◎:試験前後で膜に変化がなく視認性が維持される。
○:液滴の痕跡が残るが拭いた痕跡は残らない。視認性は維持される。
△:液滴の痕跡および拭いた痕跡が残るが、視認性は維持される。
×:液滴の痕跡および拭いた痕跡が残り、かつ視認性が減衰する。
【0076】
[耐溶剤試験後の撥油性評価]
上記耐溶剤試験後のSUS試験板およびLCP試験板のそれぞれについて、撥油膜上に約1μLのn−ヘキサデカンを滴下し、その接触角を測定した。評価基準は初期撥油性と同じである。
【0077】
【表2】
【0078】
例1〜8は本発明の実施例である。一方、例9〜15はいずれも、モノマー(B’)の含有率が6質量%以下の比較例である。そのうち例9および10は、モノマー原料がモノマー(A’)とモノマー(B’)からなる例であり、例11はモノマー(A’)、モノマー(B’)の他に、モノマー(D2’)を加えた例である。これらの例は、初期特性(初期視認性および初期撥油性)は良好であるが、耐溶剤試験後には、ほとんどの条件の場合において視認性および撥油性が低下した。特にLPC基板の場合に特性の低下が比較的大きかった。
例12および例14は、モノマー原料としてモノマー(A’)、モノマー(B’)の他に、モノマー(D1’)および(D2’)を加えた例である。初期特性は良好であるが、耐溶剤試験後においては、ほとんどの条件の場合において視認性および撥油性が低下した。特に撥油性の低下が顕著であった。
例13は例12においてキュア温度を120℃とした例、例15は例14においてキュア温度を120℃とした例である。このようにモノマー(D1’)および(D2’)を含有させて高温で熱処理すると、モノマー(B’)の含有率が6質量%以下であっても耐溶剤試験後における特性の低下が小さくなった。
【0079】
これに対して例1〜4は、初期特性(初期視認性および初期撥油性)が優れており、耐溶剤試験後においてもこれらの特性が良好に維持され、または低下が小さかった。
例5〜8は例1〜4に比べてモノマー(B’)の含有率を高くした例である。モノマー(B’)の含有率が高いとフッ素系溶媒(AC)への溶解性が低くなるため、これらの例ではモノマー(C’)を加え、溶媒としてMEKを用いた。例1〜4と比べると例5〜8はモノマー(A’)の含有率が低いため初期撥油性がやや劣るものの良好な範囲であり、初期視認性は優れている。また耐溶剤試験後において、これらの特性が良好に維持され、または低下が小さかった。すなわち、例1〜8では溶剤と接触した後も良好な視認性および撥油性が得られ、撥油膜の耐溶剤性が良好であることが認められる。
このように例1〜8は例9〜12および14に比べて撥油膜の耐溶剤性が向上しており、撥油膜と基材との密着性が向上したことが認められる。
また例1〜8は高温での熱処理を行わなくても、例13および例15とほぼ同等の良好な特性が得られた。
【技術分野】
【0001】
本発明は撥油性共重合体およびその製造方法、ならびに該撥油性共重合体を用いた撥油性処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、非染料単量体と染料単量体を共重合させた含フッ素重合体が記載されている。重合体の製造に用いられる非染料単量体と染料単量体の量については、「当該重合体に所望とされる色、吸光性又は蛍光発生性の強さに依存して変わり得るが、一般的に言えば、…全単量体重量基準で90〜99.9%非染料単量体(類)と10〜0.1%の染料単量体(類)とを重合させることによって製造することができる(公報第5頁右上欄1〜12行)。」と記載されている。
特許文献1において、クマリン系の官能基を有する染料単量体を用いた実施例10、11における非染料単量体と染料単量体の使用量は、実施例10では非染料単量体10g(98.77質量%)に対して染料単量体が0.125g(1.23質量%)であり、実施例11では非染料単量体10g(97.5質量%)に対して染料単量体が、0.257g(2.5質量%)である。
【特許文献1】特開平2−3407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
着色された含フッ素重合体は、例えば、視認性および撥油性を有する撥油膜を形成する撥油性共重合体として好適に用いられる。かかる撥油膜にあっては、溶剤と接触した場合にも視認性または撥油性が低下し難いように、基材と撥油膜との密着性向上が求められる。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、良好な撥油性および視認性を有するとともに、基材との密着性に優れた撥油膜を形成できる撥油性共重合体およびその製造方法、ならびに該共重合体を含有する撥油性処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、クマリン系蛍光発光性官能基を有するモノマーが、蛍光発光性の発現だけでなく、基材と撥油膜との密着性向上に寄与することを新たに知見した。すなわち、撥油性共重合体を構成するモノマーとして、クマリン系蛍光発光性官能基を有するモノマーを、これまで蛍光発光性の良好な発現に必要な量として使用されていた量よりも多く含有させることによって、該撥油性共重合体を用いて形成された撥油膜と基材との優れた密着性が得られることを見出して本発明に至った。
【0005】
すなわち本発明の撥油性共重合体は、ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)の7〜60質量%を有することを特徴とする。
本発明の撥油性共重合体は、さらに、上記繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)のいずれにも含まれない繰り返し単位であって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下である繰り返し単位(C)の1〜50質量%を有することが好ましい。
【0006】
また本発明は、重合開始剤の存在下、溶媒中にて、ポリフルオロアルキル基と重合性官能基を有するモノマー(A’)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基と重合性官能基を有するモノマー(B’)の7〜60質量%を含むモノマー原料を重合させる工程を有することを特徴とする撥油性共重合体の製造方法を提供する。
前記モノマー原料が、さらに、上記モノマー(A’)およびモノマー(B’)のいずれにも含まれないモノマーであって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)と重合性官能基を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下であるモノマー(C’)の1〜50質量%を含むことが好ましい。
また本発明は、本発明の撥油性共重合体と溶媒を含有することを特徴とする撥油性処理液を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の撥油性重合体および撥油性処理液によれば、良好な撥油性および視認性を有するとともに、基材との密着性に優れた撥油膜を形成できる。
本発明の撥油性共重合体の製造方法によれば、良好な撥油性および視認性を有するとともに、基材との密着性に優れた撥油膜を形成できる撥油性共重合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の撥油性共重合体は、繰り返し単位(A)と、繰り返し単位(B)を有する。さらに繰り返し単位(C)を有してもよい。
[繰り返し単位(A)]
ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)は、ポリフルオロアルキル基と重合性官能基を有するモノマー(A’)から誘導される。該モノマー(A’)としては、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基の水素原子が、ポリフルオロアルキル基を有する基で置換された「ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート」が好ましい。
本発明における「ポリフルオロアルキル基」とは、エーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子が含まれてもよいアルキル基の、水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基を意味する。
また(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を含む概念である。
【0009】
「ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート」としては、下式〔1〕で表される化合物が好ましい。式中、Rf はポリフルオロアルキル基、Qは2価の有機基、Rは水素原子またはメチル基を示す。
なお下式〔1〕における「Rf−Q−」において、フッ素原子と結合している炭素原子は全てRfに含まれるものとし、残りの炭素原子のうちQに含まれる炭素原子の数が最大となるように「Rf」および「Q」を決めるものとする。
例えば「Rf−Q−」が「CF2 H−CH2 −CH(OH)−CH2−」である場合、「Rf」は「CF2 H−」であり「−Q−」は「−CH2 −CH(OH)−CH2−」であるものとする。
【0010】
【化1】
【0011】
Rf の炭素原子数は2〜20が好ましく、4〜16がより好ましい。Rf は、直鎖構造でも分岐構造でもよく、直鎖構造がより好ましい。分岐構造の場合には、分岐部分がRf の末端部分に存在し、かつ分岐部分の炭素原子数が1〜4程度の短鎖が好ましい。Rf の末端部分の構造としては、CF3 CF2 −、(CF3 )2 CF−、CF2 H−、CFH2 −等が挙げられ、CF3 CF2 −が好ましい。
【0012】
Rf におけるフッ素原子の数は、[(Rf 中のフッ素原子数)/(Rf と同一炭素原子数のアルキル基中に含まれる水素原子数)]×100(%)で表現した場合に、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。100%の場合のRf をペルフルオロアルキル基という。
【0013】
Rf がペルフルオロアルキル基の場合、Rf の炭素数は2〜20が好ましく、4〜16がより好ましい。該炭素数が上記の範囲内であると、上記式〔1〕で表される化合物からなるモノマーの重合性、重合後の溶液安定性がよく、撥油性処理液の初期撥油性と撥油持久性に優れる。
【0014】
Rf がペルフルオロアルキル基の場合、Rf の具体例としては、以下の基(構造異性の基を含む。)等が挙げられる。
C4 F9 −:F(CF2 )4 −、(CF3 )2 CFCF2 −、(CF3 )3 C−、CF3 CF2 (CF3 )CF−等。
C5 F11−:F(CF2 )5 −等。
C6 F13−:F(CF2 )6 −等。
C7 F15−:F(CF2 )7 −、(CF3 )2 CF(CF2 )4 −等。
C8 F17−:F(CF2 )8 −等。
C9 F19−:F(CF2 )9 −、(CF3 )2 CF(CF2 )6 −等。
C10F21−:F(CF2 )10−等。
C12F25−:F(CF2 )12−等。
C13F27−:(CF3 )2 CF(CF2 )10 −等。
C14F29−:F(CF2 )14−等。
C16F33−:F(CF2 )16−等。
【0015】
Rf が、エーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子を有するペルフルオロアルキル基である場合の具体例としては、以下の基が挙げられる。ただし、kは1〜5の整数を示す。
F(CF2 )k OCF(CF3 )−、
F(CF2 CF2 O)k CF2 CF2 −、
F(CF2 CF2 CF2 O)k CF2 CF2 −、
F[CF(CF3 )CF2 O]k CF(CF3 )−、
F[CF(CF3 )CF2 O]k CF(CF3 )CF2 CF2 −、
F(CF2 )k SCF(CF3 )−、
F(CF2 CF2 S)k CF2 CF2 −、
F(CF2 CF2 CF2 S)k CF2 CF2 −、
F[CF(CF3 )CF2 S]k CF2 CF2 −、
F[CF(CF3 )CF2 S]k CF(CF3 )CF2 CF2 −等。
【0016】
Rf としては、直鎖状のペルフルオロアルキル基がより好ましく、具体的には、F(CF2 )4 −、F(CF2 )5 −、F(CF2 )6 −、F(CF2 )7 −、F(CF2 )8 −、F(CF2 )9 −、F(CF2 )10−、F(CF2 )11−、F(CF2 )12−が特に好ましい。
【0017】
上記式〔1〕におけるQの例としては、以下の基が挙げられる。ただし、R’ は水素原子またはアルキル基を示し、pおよびqはそれぞれ独立して0または1以上の整数を示し、p+qは1〜22の整数である。
−(CH2 )p+q −、
−(CH2 )p CONR’(CH2 )q −、
−(CH2 )p OCONR’(CH2 )q −、
−(CH2 )p SO2 NR’(CH2 )q −、
−(CH2 )p NHCONH(CH2 )q −、
−(CH2 )p CH(OH)(CH2 )q −、
−(CH2 )p CH(OCOR’)(CH2 )q −等。
これらのうちで、−(CH2 )p+q −、−(CH2 )p CONR’(CH2 )q −または−(CH2 )p SO2 NR’(CH2 )q −(pは0または1以上の整数、qは2以上の整数を示し、p+qは2〜6である。)がより好ましく、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基またはヘキサメチレン基が最も好ましい。
【0018】
「ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート」としての、ペルフルオロ(メタ)アクリレートは、以下の化合物が好ましい。ただし、Rは水素原子またはメチル基を示す。
F(CF2 )4 CH2 OCOCR=CH2 〔1−1〕、
F(CF2 )5 CH2 OCOCR=CH2 〔1−2〕、
H(CF2 )4 CH2 OCOCR=CH2 〔1−3〕、
H(CF2 )6 CH2 OCOCR=CH2 〔1−4〕、
H(CF2 )8 CH2 OCOCR=CH2 〔1−5〕、
H(CF2 )10CH2 OCOCR=CH2 〔1−6〕、
F(CF2 )4 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−7〕、
F(CF2 )6 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−8〕、
F(CF2 )8 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−9〕、
F(CF2 )10CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−10〕、
F(CF2 )12CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−11〕、
F(CF2 )14CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−12〕、
F(CF2 )16CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−13〕、
F(CF2 )8 (CH2 )3 OCOCR=CH2 〔1−14〕、
F(CF2 )8 (CH2 )4 OCOCR=CH2 〔1−15〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )4 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−16〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )6 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−17〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )8 CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−18〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )5 (CH2 )3 OCOCR=CH2 〔1−19〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )5 CH2 CH(OH)CH2 OCOCR=CH2 〔1−20〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )7 CH2 CH(OH)CH2 OCOCR=CH2 〔1−21〕、
(CF3 )2 CF(CF2 )5 CH2 CH(OCOCH3 )OCOCR=CH2 〔1−22〕、
F(CF2 )8 SO2 N(CH3 )CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−23〕、
F(CF2 )8 SO2 N(C2 H5 )CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−24〕、
F(CF2 )8 SO2 N(C3 H7 )CH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−25〕、
F(CF2 )8 CONHCH2 CH2 OCOCR=CH2 〔1−26〕。
ペルフルオロ(メタ)アクリレートとしては、〔1−1〕〜〔1−26〕のうち、〔1−3〕〜〔1−13〕がより好ましく、〔1−7〕〜〔1−11〕が最も好ましい。
【0019】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(A)は1種でもよく、2種以上でもよい。繰り返し単位(A)を誘導するモノマー(A’)は市販品から入手可能である。
本発明の撥油性共重合体を構成する全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(A)の占める割合は、40〜93質量%の範囲であり、70〜90質量%が好ましい。上記範囲の下限値以上であると撥油性処理液の初期撥油性と撥油持久性に優れ、上限値以下であると繰り返し単位(B)を充分に含有させることができる。
【0020】
[繰り返し単位(B)]
クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)は、クマリン系蛍光発光性官能基と重合性官能基を有するモノマー(B’)から誘導される。重合性官能基は特に限定されないが、(メタ)アクリロイル基が共重合性の観点から好ましい。(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基(CH2=CHCO−)およびメタクリロイル基(CH2=C(CH3)CO−)の一方または両方を含む概念である。
モノマー(B’)としては、クマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドが好ましく、(メタ)アクリレートがより好ましい。
クマリン系蛍光発光性官能基は、下記式〔2〕で表される置換基である。
【0021】
【化2】
【0022】
式〔2〕中、R1〜R6のいずれか1個は2価の有機基であり、残りの5個はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基、または隣り合う2個が互いに結合して環を形成する連結基である。
該2価の有機基は重合性官能基と結合している。重合性官能基と結合する部位は特に限定されず、R1〜R6のいずれであってもよい。
前記1価の有機基は特に限定されない。該1価の有機基の種類、位置によってクマリン系蛍光発光性官能基の吸収特性および発光特性が変わることから、目的とする吸収波長や発光波長等から、該1価の有機基の種類と位置を選ぶことができる。また、該1価の有機基の選択は合成の容易さや原料の入手性も加味できる。
R1〜R6のうちの5個が水素原子であってもよい。3個以上が水素原子であることが好ましい。
【0023】
式〔2〕における2価の有機基としては、例えば下記の2価基が挙げられる。下記において、R4は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示し、aおよびbはそれぞれ独立して0または1以上の整数を示し、a+bは1〜22の整数である。該2価基の片末端にエーテル性酸素原子(−O−)を有する場合は、該エーテル性酸素原子が重合性官能基と結合していることが好ましい。
−O−、
−O−(CH2 )a+b−、
−O−(CH2 )a+bO−、
−O−(CH2 )aOCO(CH2 )b−、
−NR4−、
−O−(CH2 )a+b−NR4−、
−O−(CH2 )aOCONR4 (CH2 )b −、
下記式〔3〕で表される2価基等。
【0024】
【化3】
【0025】
式〔2〕における1価の有機基としては、例えば下記の1価基が挙げられる。下記において、R5は炭素数1〜20のアルキル基を示し、cおよびdはそれぞれ独立して0または1以上の整数を示し、c+dは1〜22の整数である。eは1〜20の整数である。
R5−、
R5−O−、
R5−CO−、
R5−CO−(CH2 )c+d−、
R5−(CH2 )cOCO(CH2 )d−、
CeF2e+1−、
(CH2)2N−、
下記式〔4〕で表される1価基等。
【0026】
【化4】
【0027】
またR1〜R6のうち2価の有機基を除く5個において、隣り合う2個が互いに結合して環を形成する連結基である場合、例えば−R4−R5−の例としては、−O−(CH2)f−O−(fは1または2である。)等が挙げられる。
【0028】
繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)の具体例としては、下記式(VI−1)〜(VI−23)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化5】
【0030】
繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の反応性官能基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料に、重合性官能基を導入することで容易に合成できる。例えば、水酸基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料の場合、(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応、メチル(メタ)アクリレートとのエステル交換反応、(メタ)アクリル酸無水物を用いたエステル化反応、または(メタ)アクリル酸ハロゲン化物を用いたエステル化反応により、クマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリレートが合成され得る。
アミノ基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料の場合、(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応、メチル(メタ)アクリレートとのエステル−アミド交換反応、(メタ)アクリル酸無水物を用いたアミド化反応、または(メタ)アクリル酸ハロゲン化物を用いたアミド化反応により、クマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリルアミドが合成され得る。
カルボキシル基とクマリン系蛍光発光性官能基を持つ原料の場合、2-ヒドロキシエチルメタクリレートのような水酸基を持つ化合物とのエステル化反応により、重合性官能基を導入できる。
【0031】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(B)は1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明の撥油性共重合体を構成する全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(B)の占める割合は、7〜60質量%の範囲であり、7〜30質量%が好ましい。上記範囲の下限値以上であると良好な蛍光発光性が得られるとともに、密着性向上効果が充分に得られる。上限値以下であると繰り返し単位(A)を充分に含有させることができる。
撥油性共重合体が、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とからなる場合、A/Bの質量比は40/60〜93/7が好ましく、60/40〜93/7がより好ましく、70/30〜90/10がさらに好ましい。
【0032】
[繰り返し単位(C)]
繰り返し単位(C)は、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)のいずれにも含まれない繰り返し単位であって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下である繰り返し単位である。
繰り返し単位(C)は、上記モノマー(A’)およびモノマー(B’)のいずれにも含まれないモノマーであって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)と重合性官能基を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下であるモノマー(C’)から誘導される。すなわち、重合性官能基とは別に炭素数が8以下の炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有することが必要である。
後述の繰り返し単位(D)に含まれるもの、すなわち基材と反応また作用する基を有する繰り返し単位は、繰り返し単位(C)には含まれないものとする。
該モノマー(C’)としては、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基の水素原子が、上記炭素数8以下の炭化水素基で置換された(メタ)アクリレート」が好ましい。すなわち、重合性官能基としては(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0033】
繰り返し単位(C)における上記炭素数8以下の炭化水素基は、飽和でもよく不飽和でもよい。直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。エーテル性酸素原子(−O−)を含んでいてもよい。
かかる炭化水素基の好ましい例としては、飽和アルキル基、フェニル基、ベンジル基、フルフリル基およびテトラヒドロフルフリル基が挙げられる。
【0034】
撥油性共重合体に繰り返し単位(C)を含有させることにより、撥油性共重合体の溶媒への溶解性を向上させることができる。すなわちクマリン系蛍光発光性官能基を有するモノマー(B’)は、極性溶媒に対して良好な溶解性を示すが、ハロゲン系溶媒に対しては溶解性が低い。このため、本発明においてはモノマー(A’)とモノマー(B’)を共重合させる際の重合溶媒として、例えば後述の(X3)ケトン、(X4)エステル、(X5)エーテル等の極性溶媒を含む溶媒が好ましく用いられる。一方、ポリフルオロアルキル基を有するモノマー(A’)はハロゲン系溶媒に対して良好な溶解性を示し、極性溶媒に対しても一定の溶解性を示すが、モノマー(A’)の重合体は極性溶媒への溶解性が低い。したがってモノマー(A’)とモノマー(B’)の共重合体は、モノマー(A’)から誘導される繰り返し単位(A)の含有割合が高いほど、極性溶媒を含む重合溶媒への溶解性が低くなる傾向があり、重合中もしくは重合後に共重合体が析出する可能性がある。この問題は該共重合体に繰り返し単位(C)を含有させることによって解決できる。
【0035】
モノマー(C’)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、1−プロピル(メタ)アクリレート、2−プロピル(メタ)アクリレート、1−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは市販品から入手できる。
【0036】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(C)は1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明の撥油性共重合体を構成する全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(C)の占める割合は、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると共重合体の溶解性向上効果が充分に得られる。上限値以下であると繰り返し単位(A)および(B)を充分に含有させることができる。
また撥油性共重合体が、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)と繰り返し単位(C)からなる場合、全繰り返し単位のうち各繰り返し単位の占める割合が上記の範囲内であり、かつ(A+C)/Bの含有量の質量比が50/50〜93/7であることが好ましく、70/30〜93/7がより好ましく、70/30〜90/10がさらに好ましい。
【0037】
[繰り返し単位(D)]
本発明の撥油性共重合体に、上記繰り返し単位(A)〜(C)以外に、基材と反応または相互作用する基を有する繰り返し単位(D)を含有させてもよい。これにより、撥油膜と基材との密着性をさらに向上させることができる。繰り返し単位(D)は、基材と反応する基と重合性官能基を有するモノマー(D1’)、または基材と相互作用する基と重合性官能基を有するモノマー(D2’)から誘導される。重合性官能基としては(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0038】
モノマー(D1’)としては、例えば3−(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、3−(トリエトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート等の、重合性官能基を有するシランカップリング剤;例えばグリシジル(メタ)アクリレート等の、オキソラン環と重合性官能基を有する化合物;イソシアネート基またはブロック化されたイソシアネート基と重合性官能基を有する化合物等が挙げられる。
イソシアネート基またはブロック化されたイソシアネート基と重合性官能基を有する化合物としては、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、1,3,3−トリメチル−4−イソシアネートシクロヘキシルメチルアミドオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
前記イソシアネート基のブロック化に用いられるブロック化剤としては、2−ブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ε−カプロラクタム、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、フェノール、メタノール、ジエチルマロネート、重亜硫酸塩、ピラゾール、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、インダゾール等が挙げられる。これらブロック化剤のうち、安定性に優れ、反応性に優れることから、2−ブタノンオキシム、アセト酢酸エチル、ジエチルマロネート、ピラゾール、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾールがより好ましく、2−ブタノンオキシム、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾールが最も好ましい。
【0039】
モノマー(D2’)としては、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、アミド基、水酸基、シアノ基、エステル結合等の極性基(塩を形成していてもよい。)と重合性官能基を有する化合物が挙げられる。該エステル結合は、アクリル酸由来のエステル結合以外のエステル結合である。これらの具体例を以下に挙げる。
【0040】
カルボキシル基およびその塩を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム塩、(メタ)アクリル酸カリウム塩、6−アクリルアミドヘキサン酸等が挙げられる。
スルホ基およびその塩を有するモノマーとしては、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートカリウム塩、等が挙げられる。
アミノ基およびアンモニウム塩を有すモノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、(3−(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルコリンクロリド等が挙げられる。
アミド基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。
水酸基を有するモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
シアノ基を有するモノマーとしては、2−シアノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アクリル酸由来のエステル結合以外のエステル結合を有するモノマーとしては、α−メタクリロキシ−γ−ブチロラクトン、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、モノ(メタクリロイルオキシエチル)コハク酸等が挙げられる。
【0041】
1分子の撥油性共重合体に含まれる繰り返し単位(D)は1種でもよく、2種以上でもよい。繰り返し単位(D)を誘導するモノマー(D1’)および(D2’)はいずれも市販品から入手可能である。
本発明の撥油性共重合体において繰り返し単位(D)は必須ではないが、これを含有させる場合、全繰り返し単位のうち繰り返し単位(D)の占める割合は、0.1〜50質量%が好ましく、0.3〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると撥油膜と基材との密着性向上効果が充分に得られる。上限値以下であると他の成分とのバランスが良い。
【0042】
[その他の繰り返し単位]
本発明の撥油性共重合体は、上記繰り返し単位(A)〜(D)のいずれの範疇にも含まれないその他の繰り返し単位を、本発明の効果を損なわない範囲で有していてもよい。該その他の繰り返し単位を誘導するモノマーは、上記モノマー(A’)〜(D2’)のいずれの範疇にも含まれないモノマーであって、撥油性共重合体を構成する他のモノマーと共重合可能なモノマーであればよく、特に限定されない。
該その他の繰り返し単位は、全繰り返し単位のうち5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0043】
[製造方法]
本発明の撥油性共重合体は、各繰り返し単位を誘導するモノマーを重合反応させることによって製造できる。
具体的には、重合開始剤の存在下、繰り返し単位(A)を誘導するモノマー(A’)、繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)を含むモノマー原料を、溶媒(重合溶媒)中で重合させる工程を有する方法が好ましい。前記モノマー原料には、さらに必要に応じて繰り返し単位(C)を誘導するモノマー(C’)および/または繰り返し単位(D)を誘導するモノマー(D1’)と(D2’)の一方または両方を含有させることができる。
繰り返し単位(A)を誘導するモノマー(A’)としてポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートを用い、繰り返し単位(B)を誘導するモノマー(B’)としてクマリン系蛍光発光性官能基を有する(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。またモノマー(C’)としては、上記特定の一価基を有する(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0044】
重合方法は、イオン重合法、ラジカル重合法等の重合方法を用いることができる。特に、重合開始剤としてラジカル開始剤を用いて穏和な条件で重合できる点で、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合は、具体的に懸濁重合、溶液重合、バルク重合、乳化重合等の重合方法を用いて行うことができる。
ラジカル開始剤としては、水溶性開始剤または油溶性開始剤を重合方法に応じて使用できる。例えば、乳化重合においては開始剤として水溶性過酸化物が好ましく用いられる。水溶性過酸化物の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ジコハク酸ペルオキシド等が挙げられる。懸濁重合、溶液重合またはバルク重合においては、開始剤として非フッ素系過酸化物、フッ素系過酸化物、アゾ化合物が好ましく用いられる。
これらの開始剤の具体例としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ベンゾイルペルオキシド、ペルフルオロブタン酸ペルオキシド、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が好ましく用いられる。
【0045】
(重合溶媒)
重合反応に用いる重合溶媒としては、(X1)ハロゲン化合物、(X2)炭化水素、(X3)ケトン、(X4)エステル、(X5)エーテル等が挙げられる。
(X1)ハロゲン化合物としては、(X11)ハロゲン化炭化水素、(X12)ハロゲン化エーテル等が挙げられる。
(X11)ハロゲン化炭化水素としては、(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X112)ハイドロフルオロカーボン、(X113)含フッ素アルコール、(X114)ハイドロブロモカーボン、(X115)ペルフルオロアルキルアミン等が挙げられる。
(X111)ハイドロクロロフルオロカーボンとしては、以下の化合物が挙げられる。
CH3 CCl2 F、
CHCl2 CF2 CF3 、
CHClFCF2 CClF2 等。
【0046】
(X112)ハイドロフルオロカーボンとしては、以下の化合物が挙げられる。
CHF2 CF2 CF2 CF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 CHFCF3 、
CHF2 CF2 CF2 CF2 CHF2 、
CF3 CHFCHFCF2 CF3 、
CF3 CHFCF2 CH2 CF3 、
CF3 CF(CF3 )CH2 CHF2 、
CF3 CH(CF3 )CH2 CF3 、
CF3 CH2 CF2 CH2 CF3 、
CHF2 CHFCF2 CHFCHF2 、
CHF2 CF2 CF2 CHFCH3 、
CF3 CH2 CH2 CH2 CF3 、
CHF2 CH2 CF2 CH2 CHF2 、
CF3 (CF2 )4 CHF2 、
CF3 (CF2 )4 CH2 F、
CF3 CF2 CF2 CF2 CH2 CF3 、
CHF2 CF2 CF2 CF2 CF2 CHF2 、
CF3 CH(CF3 )CHFCF2 CF3 、
CF3 CF2 CH2 CH(CF3 )CF3 、
CF3 CH2 CF2 CF2 CH2 CF3 、
CF3 CF2 CH2 CH2 CF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 CH2 CH3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 CF2 CF2 CH2 CH3 、
CF3 CH(CF3 )CH2 CH2 CF3 、
CHF2 CF2 CH2 CH2 CF2 CHF2 、
CF3 CF2 CF2 CH2 CH2 CH3 、
1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン等。
【0047】
(X113)含フッ素アルコールとしては、トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2−(ペンタフルオロブチル)エタノール、2−(ペルフルオロエキシシル)エタノール、2−(ペルフルオロヘキシル)エタノール、2−(ペルフルオロオクチル)エタノール、2−(ペルフルオロデシル)エタノール、2−(ペルフルオロ−3−メチルブチル)エタノール、1H,1H,3H−テトラフルオロ−1−プロパノール、1H,1H,5H−オクタフルオロ−1−ヘプタノール、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロ−1−ノナノール、2H−ヘキサフルオロ−2−2−プロパノール、1H,1H,3H−ヘキサフルオロ−2−ブタノール等が挙げられる。
【0048】
(X114)ハイドロブロモカーボンとしては、以下の化合物が挙げられる。
CH2 Br2 、
CH2 BrCH2 CH3 、
CH3 CHBrCH3 、
CH2 BrCHBrCH3 等。
【0049】
(X115)ペルフルオロアルキルアミンとしては、以下の化合物が挙げられる。
(CF3 CF2 F2 )3 N、((CF3 )2 CF)3 N、(CF3 CF2 CF2 CF2 )3 N等。
【0050】
(X12)ハロゲン化エーテルとしては、(X121)ハイドロフルオロエーテルが挙げられる。
(X121)ハイドロフルオロエーテルとしては、(X1211)分離型ハイドロフルオロエーテル、(X1212)非分離型ハイドロフルオロエーテルが挙げられる。
(X1211)分離型ハイドロフルオロエーテルとは、エーテル性酸素原子を介してペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルキレン基、および、アルキル基またはアルキレン基が結合している化合物である。
(X1212)非分離型ハイドロフルオロエーテルとは、部分的にフッ素化されたアルキル基またはアルキレン基を含むハイドロフルオロエーテルである。
【0051】
(X1211)分離型ハイドロフルオロエーテルとしては、以下の化合物が挙げられる。
CF3 CF2 CF2 OCH3 、
(CF3 )2 CFOCH3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CH3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 OCH3 、
(CF3 )2 CFCF2 OCH3 、
(CF3 )3 COCH3 、
CF3 CF2 CF2 CF2 OCH2 CH3 、
(CF3 )CFCF2 OCH2 CH3 、
(CF3 )3 COCH2 CH3 、
CF3 CF2 CF(OCH3 )CF(CF3 )2 、
CF3 CF2 CF(OCH2 CH3 )CF(CF3 )2 、
C5 F11OCH2 CH3 、
CF3 CF2 CF2 CF(OCH2 CH3 )CF(CF3 )2 、
CH3 O(CF2 )4 OCH3 、
CH3 OCF2 CF2 OCH2 CH3 、
C3 H7 OCF(CF3 )CF2 OCH3
F(CF2 )n OCH3 (nは6〜10である。)等。
【0052】
(X1212)非分離型ハイドロフルオロエーテルとしては、以下の化合物が挙げられる。
CHF2 OCF2 OCHF2 、
CH2 FCF2 OCHF2 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 F、
CF3 CF2 OCH2 CHF2 、
CHF2 CF2 OCH2 CF3 、
CHF2 CF2 CH2 OCF3 、
CF3 CF2 CH2 OCHF2 、
CHF2 CF2 OCH2 CHF2 、
CF3 CH2 OCF2 CH2 F、
CF3 CH2 OCF2 CHF2 、
CHF2 CF2 CF2 OCH3 、
CHF2 CF2 CH2 OCH3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CF3 、
CF3 CF2 CH2 OCF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CHF2 、
CF3 CF2 CH2 OCF2 CHF2 、
CHF2 CF2 CH2 OCF2 CF3 、
CHF2 CF2 CH2 OCF2 CHF2 、
CF3 CHFCF2 CH2 OCF3 、
CF3 CHFCF2 CH2 OCHF2 、
CF3 CF2 CF2 CH2 OCH3 、
(CF3 )2 CHCF2 OCH3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CF2 CF3 、
CF3 CF2 CF2 OCH2 CF2 CHF2 、
CF3 CF2 CF2 CF2 OCF2 CHF2 、
CF3 (CF2 )5 OCHF2 、
CHF2 OCF2 CF2 OCHF2 、
CHF2 OCF2 OCF2 CF2 OCHF2 、
CHF2 OCF2 OCF2 OCF2 OCHF2 等。
【0053】
(X2)炭化水素としては、(X21)脂肪族炭化水素、(X22)脂環式炭化水素、(X23)芳香族炭化水素等が挙げられる。
(X21)脂肪族炭化水素としては、ペンタン、2−メチルブタン、3−メチルペンタン、ヘキサン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン、2,2,3−トリメチルヘキサン、デカン、ウンデカン、ドデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等が挙げられる。
(X22)脂環式炭化水素としては、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。
(X23)芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0054】
(X3)ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
(X4)エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ペンチル等が挙げられる。
(X5)エーテルとしては、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。
【0055】
重合溶媒は、重合反応に用いるモノマーを溶解し、かつ生成した共重合体を溶解するものであればよく、上記に挙げた溶媒のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒としてもよい。
単独で用いる場合、(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X121)ハイドロフルオロエーテル、または(X3)ケトンが好ましい。
二種以上の混合溶媒として用いる場合、モノマー(A’)およびその重合体の溶解性が高い溶媒(a)と、モノマー(B’)の溶解性が高い溶媒(b)との組合せが好ましい。該溶媒(a)としては(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X112)ハイドロフルオロカーボン、(X121)ハイドロフルオロエーテルが好ましい。該溶媒(b)としては(X3)ケトン、(X4)エステル、(X5)エーテルが好ましい。
【0056】
こうして重合溶媒中でモノマーを重合反応させることにより、生成した撥油性共重合体と重合溶媒を含む反応溶液が得られる。
本発明の撥油性共重合体の質量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算分子量、以下同様。)は、1万〜50万が好ましく、3万〜10万がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると得られる撥油膜が耐久性に優れ、上限値以下であると溶媒への溶解性に優れる。
【0057】
[撥油性処理液]
本発明の撥油性処理液は、本発明の撥油性共重合体と溶媒を含有する。該溶媒は、撥油性共重合体を溶解するものであればよく、上記重合溶媒の例として挙げた溶媒のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
撥油性処理液は、重合反応後に得られた反応溶液を、適宜の溶媒で希釈して調製することができる。反応溶液中の重合溶媒と、希釈に用いる溶媒とは同じであってもよく異なっていてもよい。
または、重合反応後に得られた反応溶液から、いったん再沈等で撥油性共重合体を回収し、これを溶媒に再溶解する方法で撥油性処理液を調製してもよい。
撥油性処理液における溶媒の含有割合は、撥油性処理液の100質量%に対して、80〜99.9質量%が好ましく、90〜99.9質量%がより好ましい。該範囲内であると、撥油性処理液の保存安定性に優れ、1度の塗工で膜を形成できる点で好ましい。
【0058】
撥油性処理液中の溶媒には、含フッ素溶媒以外の他の溶媒が含まれていてもよい。特に溶媒中において含フッ素溶媒の占める割合が60質量%以上、好ましくは80質量%以上であると、撥油性共重合体の溶解性に優れ、撥油性処理液の保存安定性に優れる点で好ましい。100質量%でもよい。含フッ素溶媒としては、(X111)ハイドロクロロフルオロカーボン、(X112)ハイドロフルオロカーボン、(X121)ハイドロフルオロエーテルが好ましく、これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0059】
[撥油膜]
本発明の撥油性処理液を用いて撥油膜を形成できる。
具体的には、撥油性処理液を基材に塗布し、溶媒を蒸発させて膜を形成する。塗布方法としては、スプレー、ディップ、刷毛塗り、ポッティング、スピン等が挙げられる。
また、スプレー缶のような携帯型の塗装剤またはインクに撥油性処理液を混ぜて、基板に塗布してもよい。
【0060】
撥油膜を形成する際に、撥油性処理液中の溶媒を乾燥させるとともに、膜の硬化を促進させるために加熱することが好ましい。加熱の温度は70〜180℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。加熱の時間は30分間以上が好ましい。繰り返し単位(D)がブロック化されたイソシアネート基を有する場合は、該ブロック化剤が解離する温度以上に加熱する。
【0061】
本発明の撥油性処理液を用いて形成された撥油膜は、膜形成成分である撥油性共重合体が蛍光発光性官能基を備えており視認性に優れている。
例えば、撥油性共重合体中の蛍光発光性官能基が感度を有する波長の光線を撥油膜に照射して、該蛍光発光性官能基を蛍光発光させることにより、視認性が得られる。
【0062】
また本発明の撥油性処理液を用いて形成された撥油膜は、基材との密着性に優れており、耐久性に優れる。具体的には、後述の実施例に示されるように、溶剤と接触しても視認性および撥油性が良好に保たれる。
基材の材質は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼等の金属でもよく、芳香族ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)等のプラスチックでもよい。
【0063】
[用途]
本発明の撥油性処理液からなる膜は、優れた視認性を有するため、特に製品製造時、製品使用中または製品の不具合発生時に撥油膜の検査が要求される用途に好ましい。すなわち、膜が正しい位置に形成されているか、所望の形状に形成されているか、膜が使用環境によって剥離、変質等しているか等の検査において、膜の異常を検知しやすいという利点が得られる。
かかる用途としては、軸受けのオイルシール;LEDバックライト冷却用ファンモータFDBオイルシール;プリント基板のオイル拡散防止;半導体基板またはウェハー等の半導体の工程内製品の防湿、防汚、耐食;マイクロベアリングの潤滑グリース漏出防止;マイクロモーター潤滑剤オイルの拡散防止;時計部品のオイル拡散防止;各種レンズ摺動部のオイル拡散防止;磁気ヘッドの汚れ付着防止;フラックス這い上がり防止;HDDボイスコイルモータの潤滑;顕微鏡レンズの防汚、防湿;窓材等の光学部品の防汚、耐食、防湿;ロールベルト、プリンターロール、回転ローラー、モーターファン等回転部品の潤滑、防汚、撥油、防水;マイクロリアクター流路、スライド式バブル装置、モールド等のデバイスの防汚、防水、離型、表面改質;ベアリング、歯車の撥油、防汚;塗工ヘッドのノズルの防汚、撥油、防水の用途が挙げられる。
【0064】
上記の他、以下の用途にも好適である。
鏡の防汚;ディスプレイ画面の防汚;露光マスクやフォトマスクの防汚、防湿、離型;眼鏡レンズの防汚、防湿;カメラ用レンズの防汚、防湿;カメラまたは携帯電話等の差圧調整用フィルターの防汚、撥油;掃除機用のエアフィルター濾材の防汚;車載用通気性フィルター等の通気性フィルターの撥油、防汚;レンジフード、ガスコンロ、ガスレンジ油飛散防止シート等のキッチン周り用品の防汚、撥油、防水;排ガスフィルターの撥油、防汚;リード線の防湿、防錆;筆記用具用部材の防汚、撥油;カーペットの撥水撥油、防汚;フィラメントの防錆、防水;衣料品の撥水撥油;ショーウィンドウの防汚、撥油;インクジェット用紙の撥油;化粧品の表面改質;インクジェットノズルの防汚、撥油;金属プレートの防汚、撥油;食用包装材封止材の撥水撥油;インジケーターの防汚;燃料電池用分離膜の撥油、防汚;絶縁スペーサーの撥油;フィルムグローブの防汚、防水;燃料タンクの防汚、撥油;墓石または石碑等の石材の防汚、撥水撥油;壁材、建築材料、木材、タイル等の防汚、撥水撥油。
【実施例】
【0065】
本発明について、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下において、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
下記の製造例で用いたモノマーおよび溶媒は以下の通りである。
モノマーA’:ペルフルオロヘキシルエチルメタクリレート(F(CF2)6CH2CH2OCOC(CH3)=CH2)。
モノマーB’:下記の合成例1に示す方法で合成した、上記式(VI‐17)で表される7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル。
【0066】
(モノマーC’)
MMA:メチルメタクリレート。
BMA:ブチルメタクリレート。
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート。
2EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート。
(モノマーD1’)
MOI−BP:メタクリル酸2−[(3,5−ジメチルピラゾリル)カルボキシアミノ]エチル。これはイソシアネート基が3,5−ジメチルピラゾールでブロック化された2−イソシアネートエチルメタクリレートである。
(モノマーD2’)
GBLMA:α−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン。
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート。
(その他のモノマー)
StMA:ステアリルメタクリレート。
(溶媒)
AE:HCF2CF2OCH2CF3 (AE−3000:製品名、旭硝子株式会社製)。
AC:CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH3。
MEK:メチルエチルケトン。
【0067】
[合成例1:モノマーB’の合成]
まず、以下の方法で7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸を合成した。
撹拌機、ジムロート冷却器を備えた反応器(内容積300mL、ガラス製)に、4−(ジエチルアミノ)サリチルアルデヒド(10.20g)、マロン酸ジエチル(8.92g)、ピペリジン(4.49g)、およびエタノール(50mL)を投入して撹拌した。つづいて反応器の内温を80℃に加熱して8時間、還流させた。
つぎに反応器を50℃に冷却し、ジムロート冷却器を滴下ロートに換え、1N水酸化カリウム水溶液(60mL)を滴下し、1時間攪拌した。
つづいて反応器を室温まで冷却し、3N塩酸水溶液を滴下して中和した。析出した固体をろ取し、蒸留水(20mL)で2回、メタノール(30mL)で3回洗浄し、得られた橙色固体を100℃で8時間減圧乾燥して7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸の8.19gを得た。収率は59%であった。1H−NMRおよびFT−IRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.27(6H、t、−CH3)、3.50(4H、q、−CH2−)、6.53(1H、s、8−H)、6.71(1H、d、6−H)、7.46(1H、d、5−H)、8.66(1H、s、4−H)、12.35(1H、s、−COOH)。
FT−IR(KBr)ν(cm−1):1738(C=O)、1665(C=O)。
【0068】
上記で得た7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸を用いてモノマーB’を合成した。
撹拌機、滴下ロートを備えた反応器(内容積100mL、ガラス製)に、7−(ジエチルアミノ)クマリン−3−カルボン酸(7.55g)、およびトルエン(50mL)を投入して撹拌した。つづいて反応器の内温を30℃に加熱して無水トリフルオロ酢酸(6.45g)を滴下し、さらに5分間攪拌した。
つぎに反応器の内温が30−35℃になるように、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(4.39g)を滴下し、1時間攪拌した。
得られた反応粗液を分液ロートに移し、1N水酸化ナトリウム水溶液(60mL)、蒸留水(60mL)で2回洗浄し、トルエン層の溶媒を留去して12.80gの黄色固体を得た。これを10質量%蒸留水/メタノールを用いて再結晶することにより、7.31gの目的物を得た。収率は63%であった。1H−NMR、FT−IR、可視紫外吸収スペクトル、および融点の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.24(6H、t、−CH2CH3)、1.96(3H、s、CH2=C−CH3)、3.45(4H、q、−CH2CH3)、4.64−4.57(4H、m、−OCH2CH2O−)、5.59(1H、s、transC=CH2)、6.17(1H、s、cisC=CH2)、6.46(1H、s、8−H)、6.61(d、1H、6−H)、7.35(d、1H、5−H)、8.41(1H、s、4−H)。
FT−IR(KBr)ν(cm−1):1759(C=O)、1713(C=O)。
可視紫外吸収スペクトル(溶媒:ジクロロペンタフルオロプロパン)λ(nm):414。
融点:104.9−105.3℃。
【0069】
[製造例1〜13:撥油性処理液の調製]
表1に示すモノマーおよび溶剤を用いて撥油性共重合体を製造し、該撥油性共重合体を含む撥油性処理液を調製した。
まず30mLのガラス製重合用アンプルに、表1に示す仕込み量の各モノマーと溶媒、および開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)の0.12gを入れた。アンプル内部のガスを窒素ガスで置換した後、密閉し、60℃の湯浴中で16時間保持し、共重合体を含む反応溶液を得た。
得られた反応溶液を40gのACで希釈し、氷浴で冷却した600gのメタノール中に滴下し、沈降した固体をろ取、減圧乾燥することによりポリマー(共重合体)を得た。
得られたポリマーの質量平均分子量(MW)および収率(単位:質量%)を表1に示す。
さらに、得られたポリマーを表2に示す処理液濃度となるようにACに溶解し、撥油性処理液を得た。
【0070】
【表1】
【0071】
[例1〜15:撥油膜の形成および評価]
製造例1〜13で得られた撥油性処理液をそれぞれ用いて撥油膜を形成し、該撥油膜の視認性および撥油性の耐久性評価を、以下に示す方法に従って行った。評価結果を表2に示す。
例12と例13、および例14と例15は、それぞれ同じ撥油性処理液を用い、キュア温度を違えて撥油膜を形成した。
【0072】
[SUS試験板の作成]
洗浄済みのSUS板を基材として用い、その上に撥油性処理液をスピンコート法にて、500rpmの条件で20秒間塗布した。この後、表2に示すキュア温度で60分間加熱処理して撥油膜を形成し、SUS試験板を得た。
[LCP試験板の作成]
洗浄済みの樹脂フィルム(液晶ポリマー(LCP)フィルム、製品名:べクスター、クラレ社製)をガラス板上に貼り付けたものを基材とした。該基材の樹脂フィルム上に撥油性処理液をスピンコート法にて、500rpmの条件で20秒間塗布した後、表2に示すキュア温度で60分間加熱処理して撥油膜を形成し、LCP試験板を得た。
【0073】
[初期視認性の評価]
SUS試験板およびLCP試験板のそれぞれにブラックライト(波長365nm)を照射して、撥油膜の発色を目視にて観察した。結果を下記の評価基準で示す。
◎:発色が明確に観察される。
○:発色が観察される。
△:発色がわずかに観察される。
×:発色が全く観察されない。
【0074】
[初期撥油性の評価]
SUS試験板およびLCP試験板のそれぞれについて、撥油膜上に約1μLのn−ヘキサデカンを滴下し、その接触角を測定することにより初期撥油性を評価した。接触角の測定結果を下記の評価基準で示す。
接触角の測定は、協和界面科学社製(商品名:CA−A)を用い、25℃の条件下、液滴法で行った(以下、同様。)。
◎:65°以上。
○:55°以上、65°未満。
△:45°以上、55°未満。
×:45°未満。
【0075】
[耐溶剤試験]
SUS試験板およびLCP試験板のそれぞれについて、撥油膜上に有機溶剤を3滴載せ、1分後に不織布(製品名:クリーンワイパー、クラレ社製)で拭き取った。有機溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)およびイソプロピルアルコール(IPA)の2種を用い、それぞれについて評価を行った。
[耐溶剤試験後の視認性評価]
上記耐溶剤試験の前後における撥油膜の状態を目視にて観察した。また、試験前後に、それぞれブラックライト(波長365nm)を照射して撥油膜の発色を目視にて観察した。結果を下記の評価基準で示す。
◎:試験前後で膜に変化がなく視認性が維持される。
○:液滴の痕跡が残るが拭いた痕跡は残らない。視認性は維持される。
△:液滴の痕跡および拭いた痕跡が残るが、視認性は維持される。
×:液滴の痕跡および拭いた痕跡が残り、かつ視認性が減衰する。
【0076】
[耐溶剤試験後の撥油性評価]
上記耐溶剤試験後のSUS試験板およびLCP試験板のそれぞれについて、撥油膜上に約1μLのn−ヘキサデカンを滴下し、その接触角を測定した。評価基準は初期撥油性と同じである。
【0077】
【表2】
【0078】
例1〜8は本発明の実施例である。一方、例9〜15はいずれも、モノマー(B’)の含有率が6質量%以下の比較例である。そのうち例9および10は、モノマー原料がモノマー(A’)とモノマー(B’)からなる例であり、例11はモノマー(A’)、モノマー(B’)の他に、モノマー(D2’)を加えた例である。これらの例は、初期特性(初期視認性および初期撥油性)は良好であるが、耐溶剤試験後には、ほとんどの条件の場合において視認性および撥油性が低下した。特にLPC基板の場合に特性の低下が比較的大きかった。
例12および例14は、モノマー原料としてモノマー(A’)、モノマー(B’)の他に、モノマー(D1’)および(D2’)を加えた例である。初期特性は良好であるが、耐溶剤試験後においては、ほとんどの条件の場合において視認性および撥油性が低下した。特に撥油性の低下が顕著であった。
例13は例12においてキュア温度を120℃とした例、例15は例14においてキュア温度を120℃とした例である。このようにモノマー(D1’)および(D2’)を含有させて高温で熱処理すると、モノマー(B’)の含有率が6質量%以下であっても耐溶剤試験後における特性の低下が小さくなった。
【0079】
これに対して例1〜4は、初期特性(初期視認性および初期撥油性)が優れており、耐溶剤試験後においてもこれらの特性が良好に維持され、または低下が小さかった。
例5〜8は例1〜4に比べてモノマー(B’)の含有率を高くした例である。モノマー(B’)の含有率が高いとフッ素系溶媒(AC)への溶解性が低くなるため、これらの例ではモノマー(C’)を加え、溶媒としてMEKを用いた。例1〜4と比べると例5〜8はモノマー(A’)の含有率が低いため初期撥油性がやや劣るものの良好な範囲であり、初期視認性は優れている。また耐溶剤試験後において、これらの特性が良好に維持され、または低下が小さかった。すなわち、例1〜8では溶剤と接触した後も良好な視認性および撥油性が得られ、撥油膜の耐溶剤性が良好であることが認められる。
このように例1〜8は例9〜12および14に比べて撥油膜の耐溶剤性が向上しており、撥油膜と基材との密着性が向上したことが認められる。
また例1〜8は高温での熱処理を行わなくても、例13および例15とほぼ同等の良好な特性が得られた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)の7〜60質量%を有することを特徴とする撥油性共重合体。
【請求項2】
上記繰り返し単位(A)が、ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートから誘導される繰り返し単位である請求項1に記載の撥油性共重合体。
【請求項3】
上記繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)のいずれにも含まれない繰り返し単位であって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下である繰り返し単位(C)の1〜50質量%を有する請求項1に記載の撥油性共重合体。
【請求項4】
重合開始剤の存在下、溶媒中にて、ポリフルオロアルキル基と重合性官能基を有するモノマー(A’)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基と重合性官能基を有するモノマー(B’)の7〜60質量%を含むモノマー原料を重合させる工程を有することを特徴とする撥油性共重合体の製造方法。
【請求項5】
上記モノマー(A’)がポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートである請求項4に記載の撥油性共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記モノマー原料が、上記モノマー(A’)およびモノマー(B’)のいずれにも含まれないモノマーであって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)と重合性官能基を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下であるモノマー(C’)の1〜50質量%を含む、請求項4または5に記載の撥油性重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の撥油性共重合体と溶媒を含有することを特徴とする撥油性処理液。
【請求項1】
ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位(A)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基を有する繰り返し単位(B)の7〜60質量%を有することを特徴とする撥油性共重合体。
【請求項2】
上記繰り返し単位(A)が、ポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートから誘導される繰り返し単位である請求項1に記載の撥油性共重合体。
【請求項3】
上記繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)のいずれにも含まれない繰り返し単位であって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下である繰り返し単位(C)の1〜50質量%を有する請求項1に記載の撥油性共重合体。
【請求項4】
重合開始剤の存在下、溶媒中にて、ポリフルオロアルキル基と重合性官能基を有するモノマー(A’)の40〜93質量%と、クマリン系蛍光発光性官能基と重合性官能基を有するモノマー(B’)の7〜60質量%を含むモノマー原料を重合させる工程を有することを特徴とする撥油性共重合体の製造方法。
【請求項5】
上記モノマー(A’)がポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートである請求項4に記載の撥油性共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記モノマー原料が、上記モノマー(A’)およびモノマー(B’)のいずれにも含まれないモノマーであって、炭化水素基(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい)と重合性官能基を有し、該炭化水素基の炭素数が8以下であるモノマー(C’)の1〜50質量%を含む、請求項4または5に記載の撥油性重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の撥油性共重合体と溶媒を含有することを特徴とする撥油性処理液。
【公開番号】特開2009−29902(P2009−29902A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194368(P2007−194368)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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