説明

撥液膜の形成方法およびノズル板

【課題】
ノズル板を加熱することなく、かつノズル板裏面や吐出孔内壁に撥液性を付与することなく、吐出孔開口部周縁部を含むノズル板おもて面に撥液膜を形成することのできる撥液膜形成方法と、その形成方法によって撥液膜が形成されているノズル板を提供する。
【解決手段】
シラン化合物溶液を塗布することによって、ノズル板21の上にシラン化合物溶液層31を形成する。次に、紫外線35を照射することによって、ノズル板おもて面22に形成されたシラン化合物溶液層31を固化し、撥液膜40を形成する。さらに、ノズル板21を溶媒を用いて洗浄することによって、紫外線35が照射されないノズル板裏面23や吐出孔内壁25の上の未固化のシラン化合物溶液層31を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタなどの記録ヘッドに好適に用いられるノズル板と、それに用いられる撥液膜の形成方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタなどに用いられる記録ヘッドはノズル板を有し、このノズル板にはインクを噴出するための微細な吐出孔が微小間隔を隔てて複数形成されている。このノズル板おもて面の吐出孔開口部周縁にインクが付着すると、その後に噴出されたインクが付着したインクの表面張力や粘性等の影響を受けて噴出軌道が曲げられてしまい、所定の位置にインクを塗布することができなくなるという問題がある。このため、ノズル板おもて面の吐出孔開口部周縁にインクの付着を防止する撥液膜を形成する必要がある。
【0003】
また、インクジェットプリンタは待機中に吐出孔の内部でインクが固化するために、動作を開始する前に外側から吐出孔内のインクを吸引している。吸引されたインクがノズル板おもて面の吐出孔開口部周縁に残っている場合があり、このインクを取り除く作業、すなわち、ワイピングを行っている。ワイピングはエラストマ等で形成される板状のワイパを用いてノズル板おもて面を擦るようにして行われている。
【0004】
近年はディジタルスチルカメラ等の高画質プリントに対応するために、顔料を分散させた顔料インクが用いられるようになった。しかし、顔料は粒子が大きく硬いため、撥液膜面に対しては研磨材的作用がある。このため、成膜面をエラストマ等の板でワイピングを重ねると前記成膜面が削られ、撥液性が著しく低下したり、撥液膜自体が剥離したりしてしまうということがある。
【0005】
また、顔料インク中の顔料の表面には樹脂系の分散剤がコーティングされているために、撥液膜には撥水性および撥油性の両方の性質を有することが求められている。
【0006】
この様に、顔料インクに対応して高い撥水性と撥油性の両方を具し、かつワイピング耐性を有する撥液膜とその形成方法などが特許文献1に記載されている。この技術は200℃から400℃までの温度範囲で加熱した金属製のノズル板をフッ素を含む直鎖高分子化合物を有するシランカップリング剤などの金属アルコキシド溶液に浸漬させて、ノズル板おもて面および吐出孔内壁に撥水性および撥油性を有する分子膜を形成する技術である。
【0007】
また、他の撥液膜形成方法として特許文献2の技術が挙げられる。この技術はノズル板の撥液性を必要としない部分にアルミニウムの膜を形成して、フロロアルキル基及びクロロシラン基を含む物質の溶液に2時間ほど浸漬し、ノズル板及び前記アルミニウム薄膜表面上に単分子膜を成膜する。そして、前記アルミニウム薄膜をエッチングすることにより、ノズル板おもて面に撥液性を有する単分子膜を得る技術である。こうすることで、撥液性があると問題がある部分、例えば、接着剤の密着力が損なわれるノズル板と記録ヘッドとの接合部分などに撥液性を付与しないで済む。
【0008】
【特許文献1】特開2004−330605号公報
【特許文献2】特開平5−116324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された分子膜の形成にはノズル板を200℃〜400℃まで加熱する必要があるため、ノズル板にはプラスチックなどの耐熱性の低い材料を用いることが困難であった。
【0010】
また、特許文献1に記載された分子膜の形成はノズル板を金属アルコキシド溶液に浸漬することによって行われるので、ノズル板の記録ヘッド側表面(ノズル板裏面)にも撥液性が付与されてしまい、接着剤の密着力が損なわれるので、ノズル板と記録ヘッド本体との接合強度が不十分になる問題があった。さらに、この形成方法では、吐出孔内壁にも撥液性が付与されてしまうので、吐出孔へのインクの充填性が劣ってしまうという問題があった。
【0011】
また、特許文献2に記載された技術では、ノズル板裏面に撥液性を付与することなくノズル板おもて面の所望の部分に撥液性を付与するためには、アルミニウム膜の形成とエッチング工程を設けなくてはならず、手間がかかった。
【0012】
そこで、本発明は上記問題点を解決するために、ノズル板裏面や吐出孔内壁に撥液性を付与することなく、ノズル板おもて面、特に吐出孔開口部周縁部に撥液膜を、加熱することなく簡便に形成する方法と、その方法により形成された撥液膜が形成されているノズル板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる撥液膜の形成方法は、シラン化合物溶液を塗布することによりノズル板上にシラン化合物溶液層を形成する工程と、紫外線を照射することによって前記シラン化合物溶液層を固化する工程、を含む。
【0014】
この形成方法によれば、紫外線を照射することによってノズル板上に形成されたシラン化合物溶液層を固化するので、ノズル板を加熱することなく、ノズル板上に撥液膜を形成することができる。その結果、耐熱性の高い金属からなるノズル板のみならず、耐熱性の低い材料、例えば、プラスチックや低融点金属などからなるノズル板上にも撥液膜を形成することができる。
【0015】
本発明にかかる形成方法において、シラン化合物はフロロアルキル基を含むことができる。フロロアルキル基を含むシラン化合物溶液を用いることによって、フロロアルキル基の有する高い撥水性および撥油性を有する撥液膜を形成することが出来る。
【0016】
本発明にかかる形成方法において、紫外線は真空紫外光であることができる。真空紫外光をシラン化合物溶液層に照射することにより、シラン化合物溶液中のシランとノズル板おもて面および/またはシラン化合物溶液中のシラン同士のシランカップリング反応を促進させることによって、固体のシラン化合物膜を形成させることができる。
【0017】
本発明にかかる形成方法において、紫外線をノズル板おもて面の吐出孔開口部周縁部に形成されたシラン化合物溶液層に照射することができる。前記周縁部とは、ノズル板おもて面上における吐出孔開口部端から高々1mmまでの領域である。前記周縁部に形成されたシラン化合物溶液層に紫外光を照射することによって、前記周縁部に撥液膜を形成することができるので、前記周縁部にインクが付着することを防止することができる。その結果、吐出孔から吐出するインクの軌道が曲がることを防止できる。
【0018】
本発明にかかる形成方法において、紫外線をノズル板おもて側からシラン化合物溶液層に照射することができる。かかる方法で紫外線を照射することによって、ノズル板裏面などに撥液膜を形成しないで済むので、ノズル板と記録ヘッド本体との接合を容易にすることが可能となる。
【0019】
本発明にかかる形成方法において、前記紫外線を吐出孔の中心軸と平行に照射することことができる。かかる方法で紫外線を照射することにより、吐出孔の中心軸に対して偏ることなく、紫外線を吐出孔内壁に照射することができるので、吐出孔内壁に形成される撥液膜が吐出孔中心軸に対して均等に形成することができる。その結果、前記吐出孔から吐出されるインクが吐出孔中心軸に対して偏ることなく、平行に吐出することが可能となる。
【0020】
本発明にかかる形成方法において、前記吐出孔の形状は、前記吐出孔の内壁面の紫外線照射方向に垂直な平面への正射影が、前記吐出孔開口部の前記紫外線照射方向に垂直な平面への正射影の内側に存在しないような形状であることができる。すなわち、かかる形状は、ノズル板おもて側の紫外線照射方向から見て、吐出孔開口部から吐出孔内壁を見ることができない形状である。かかる形状の吐出孔としては、例えば、紫外線照射方向が吐出孔中心軸と平行である場合では、底面がノズル板裏側上に存在する円錐台形状などを挙げることができる。かかる形状の吐出孔を有するノズル板おもて側から紫外線を照射すると、前記吐出孔内壁に紫外線が照射されないので、吐出孔内壁に形成されたシラン化合物溶液層は固化されず、撥液膜を形成することができない。その結果、吐出孔内壁に撥液性を付与することが無いので、記録ヘッド側から吐出孔へのインクの充填性の劣化を防止することが出来る。
【0021】
本発明にかかる形成方法において、前記シラン化合物溶液層を固化する工程の後に、未固化のシラン化合物溶液層を溶媒で洗浄することによって除去する工程を含むことができる。前記除去工程によって、紫外線が照射されずに未固化のまま残存するシラン化合物溶液層を簡便に除去することが可能となる。その結果、ノズル板裏面や吐出孔内壁などに撥液性を付与しないで済むので、ノズル板と記録ヘッド本体との接合を容易にすることが可能となったり、記録ヘッド側から吐出孔へのインクの充填性の劣化を防止することが出来る。
【0022】
本発明にかかるノズル板は、上述した本発明にかかる形成方法によって形成された撥液膜が形成されている。このノズル板は、上述したように、耐熱性の高い材料だけでなく、耐熱性の低い材料でも構成することができるので、幅広い種類の材料を用いて構成することが可能になる。また、ノズル板裏面に撥液性が付与されないで済むので、記録ヘッド本体との接合が容易である。
【0023】
本発明にかかるノズル板は、ノズル板上の所望の部分のみ撥水性と撥油性が付与されたノズル板であり、インクジェットプリンタの顔料インク用記録ヘッドなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明に係る撥液膜の形成方法およびノズル板について説明する。なお、以下に記載するものは本発明の実施の一形態にすぎず、本発明はこれに限定されるものでない。
【0025】
(撥液膜の形成方法の実施形態)
まず、本発明の撥液膜形成方法にかかる一実施形態を、図1のノズル板の断面図により説明する。
【0026】
この実施形態においては、図1(a)に例示するように、上面がノズル板21のおもて側にある吐出孔開口部26となる円錐台形状の吐出孔24を有するノズル板を用いた撥液膜形成方法について説明する。なお、本発明の撥液膜形成方法およびノズル板にかかるノズル板の形状はこれに限定されるものではない。
【0027】
この実施形態においては、まず、シラン化合物溶液を塗布することによって、図1(b)に例示する様に、ノズル板21の上にシラン化合物溶液層31を形成する。シラン化合物溶液は、少なくともノズル板おもて面22、さらに少なくとも吐出孔開口部26の周縁部27に塗布されればよい。前記周縁部27とは、吐出孔開口部26の端から高々1mmまでの領域である。かかる場所にシラン化合物溶液を塗布することによって、この領域に撥液膜を形成することができ、インクが付着することを防止することができる。また、シラン化合物溶液はノズル板裏面23や吐出孔内壁25に塗布してもよい。
【0028】
ノズル板21の材質は特に限定されるものではないが、表面に水酸基が存在するものであることが好ましい。この水酸基の存在によって、後述するように、撥液膜とノズル板との結合を形成することができ、撥液膜をノズル板上に定着することができる。かかるノズル板の材質としては、例えばステンレス鋼やアルミニウムなどの、表面に酸化皮膜を有する金属が挙げられる。
【0029】
塗布の方法は特に限定しないが、ディップコート法やスピンコート法などを用いることができる。
【0030】
前記のシラン化合物としては撥液性を有するものであれば良いが、フロロアルキル基を含むものであれば、高い撥液性を発揮することができる。フロロアルキル基を含むシラン化合物のうち、特に分子量1000以上の長鎖のパーフロロアルキル基やパーフロロポリエーテル基を含むシラン化合物は、高い撥水性と撥油性の両方を兼ね備えるのでより好ましい。さらに、前記フロロアルキル基を含むシラン化合物においては、フロロアルキル基が紫外線によって分解しにくいので、後述する様に、前記溶液層に紫外線を照射した後も、撥液膜における撥液性劣化が生じにくい。
【0031】
前記のフロロアルキル基を含むシラン化合物の例としては、ヘプタデカフロロデシルトリメトキシシラン、ペンタデカフロロノニルトリメトキシシラン、トリデカフロロオクチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフロロデシルトリエトキシシラン、ペンタデカフロロノニルトリエトキシシラン、トリデカフロロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフロロデシルトリクロロシラン、ペンタデカフロロノニルトリクロロシラン、トリデカフロロオクチルトリクロロシランなどが挙げられる。
【0032】
また、前記の長鎖のパーフロロアルキル基を含むシラン化合物としては、例えば、ヘプタトリアコンタフロロイコシルトリメトキシシラン、ヘプタトリアコンタフロロイコシルトリエトキシシラン、ヘプタトリアコンタフロロイコシルトリクロロシランなどが挙げられ、前記の長鎖のパーフロロポリエーテル基を含むシラン化合物としては、オプツールDSX(商標、ダイキン工業製)などを挙げることができる。
【0033】
シラン化合物溶液は、まず、シラン化合物を1−メトキシヘプタフルオロプロパンなどの溶媒で希釈することにより溶液にする。かかる溶媒は、前記シラン化合物を溶解するものであれば、これに限定されるものではない。
【0034】
希釈濃度としては、20体積%以下0.01体積%以上であることが好ましい。この濃度範囲よりも濃度が高ければ、十分な流動性が得られずノズル板上に均一な溶液層を形成することができず、濃度が低ければ、ノズル板を十分に覆うだけのシラン化合物分子の量を確保することができない。
【0035】
次に、図1(c)に例示されるように、ノズル板おもて面22に形成したシラン化合物溶液層31に紫外線35を照射することによって、ノズル板おもて面22に形成されたシラン化合物溶液層31を固化し、図1(d)に例示されるように、ノズル板おもて面22の上に撥液膜40を形成する。かかる方法では、紫外線35を照射することによって、シラン化合物溶液層31を固化するので、ノズル板21を加熱することなく撥液膜40を形成することができる。
【0036】
前記周縁部27に撥液膜40を形成する場合には、少なくとも前記周縁部27上のシラン化合物溶液層31に紫外線35を照射する。こうすることによって、前記周縁部27上に撥液膜40を形成することができ、この部分へのインクの付着を防止することができるので、吐出孔24から吐出するインクの軌道が曲がることを防げる。
【0037】
紫外線35の照射はノズル板おもて側から行うことができる。こうすることによって、ノズル板裏面23に紫外線35が照射されないので、ノズル板裏面23に形成されたシラン化合物溶液層31が固化されずに済む。
【0038】
さらに、前記紫外線35は吐出孔24の中心軸と平行に照射することができる。こうすることによって、吐出孔24の中心軸に対して偏ることなく、紫外線35を吐出孔内壁25に照射することができ、吐出孔内壁25に形成される撥液膜40が吐出孔中心軸に対して均等に形成することができる。
【0039】
また、前記吐出孔24の形状は、吐出孔内壁面_の紫外線照射方向に垂直な平面への正射影が、吐出孔開口部26の前記紫外線照射方向に垂直な平面への正射影の内側に存在しないような形状、すなわち、ノズル板おもて側にある紫外線照射方向から見て、吐出孔開口部26から吐出孔内壁25を見ることができない形状である場合、吐出孔内壁25に紫外線35が照射されないので、吐出孔内壁25に形成されたシラン化合物溶液層31は固化されない。かかる形状の例としては、図1に例示した、上面が吐出孔開口部26となる円錐台形状を挙げることができる。
【0040】
紫外線35としては真空紫外光を用いることができる。かかる真空紫外光をシラン化合物溶液層31に照射することにより、シラン化合物溶液層31の中のシランとノズル板おもて面22および/またはシラン化合物溶液層31中のシラン同士のシランカップリング反応を促進させることによって、固体のシラン化合物膜を形成させることができる。この様な真空紫外光の波長範囲としては、10〜200nmの範囲であれば良いが、150〜200nmの範囲のものを用いる方が、シラン化合物に含まれるフロロアルキル基などの紫外線による破壊を抑制できるので、より好適である。このような真空紫外光としては、例えば、キセノンエキシマランプから照射される波長172nmの光を用いることができる。
【0041】
また、紫外線35の積算照射量は特に限定されるものではないが、例えば、波長172nmの真空紫外線を用いる場合、膜表面における積算光量は、30ないし600J/cm2であることが好ましい。前記真空紫外線の積算光量が、上記の範囲内である場合、シラン化合物溶液層31の中の前記シランカップリング反応を促進させ、シラン化合物溶液層31を固化させることができるし、かつシラン化合物としてフロロアルキル基を含むものを用いた場合には、シラン化合物溶液層31の中のフロロアルキル基の破壊を抑制することができ、撥液性の劣化を防ぐことができる。
【0042】
次に、ノズル板21を溶媒を用いて洗浄することによって、図1(e)に例示したように、紫外線35が照射されないノズル板裏面23や吐出孔内壁25の上の未固化のシラン化合物溶液層31を除去する。かかる方法でノズル板裏面23のシラン化合物溶液層31を洗い流すことによって、ノズル板裏面24と記録ヘッド本体との接着における密着性を確保することができるし、また、吐出孔内壁25のシラン化合物溶液層31を洗い流した場合には、吐出孔24におけるシラン化合物溶液のインクへの混入を防止したり、記録ヘッド側から吐出孔24へのインクの充填性の劣化を防止したりすることが可能となる。
【0043】
前記溶媒は、シラン化合物およびシラン化合物溶液層を溶解するものであればなんでも良く、例えば、1−メトキシヘプタフルオロプロパンなどを用いることができる。また、洗浄の方法は特に限定されることは無いが、例えば、前記溶媒の入った浴に浸漬するだけでもよいし、前記溶媒の液流を用いてもよい。
【0044】
上記の実施形態に従うことによって、ノズル板上、特にノズル板おもて面上に常温で、簡便に撥液膜を形成することができる。
【0045】
(ノズル板の実施形態)
次に、上述の実施形態によって撥液膜が形成されたノズル板の一実施形態について説明する。
【0046】
図2は記録ヘッドに本発明のノズル板を装着した形態の一例を示す図である。
【0047】
図2に示すノズル板6は、上記撥液膜の形成方法によってノズル板おもて面にのみ撥液膜9が形成されており、ノズル板裏面および吐出孔7の内壁には撥液膜が形成されていないものを例示している。
【0048】
また、ノズル板6は、その裏面が記録ヘッド本体2と接着剤などを介して接合されている。本実施形態においては、ノズル板の裏面に撥液膜が形成されていないので、上述したように、ノズル板と記録ヘッド本体との接着が容易になる。
【0049】
記録ヘッド本体2にはインクを記録ヘッド内部へ導入するインク導入口3、インク溜り4、および圧力室5が設けられている。このインク導入口3はインク溜り4と接続しており、このインク溜り4においてインクを溜めるように形成されている。また、インク溜り4は圧力室5と連通しており、圧力室5のインク吐出側はノズル板6に設けられた吐出孔7と接続している。
【0050】
また、圧力室5の壁面の一部には圧力を加えられる構成となっている。この構成は、例えば、圧力室5の壁面の一部を振動板で形成するとともに、その外側に励振電極8(圧電素子)を設ける。そして励振電極8に電圧を印加すると、静電気力により振動板が振動して、圧力室の内圧が変化する。この内圧によりインクが吐出孔7より吐出される。本実施形態では、吐出孔7の内壁に撥液膜が形成されていないので、圧力室5から吐出孔7へのインクの充填性が損なわれない。
【0051】
なお、本実施形態では、ノズル板を圧電方式の記録ヘッドに装着した例を示しているが、ノズル板の装着される記録ヘッドはこれに限定されるものではなく、加熱方式記録ヘッドなどの幅広い形式の記録ヘッドに装着することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明にかかる撥液膜の形成方法によって撥液膜が形成されたノズル板は、インクジェットプリンタの記録ヘッドなどに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】撥液膜の形成方法にかかる実施形態を模式的に表す図。
【図2】記録ヘッドにおける本発明のノズル板の装着形態の一例を表す図。
【符号の説明】
【0054】
1 記録ヘッド、2 記録ヘッド本体、3 インク導入口、4 インク溜り、5 圧力室、6 ノズル板、7 吐出孔、8 圧電素子、9 撥液膜、21 ノズル板、22 ノズル板おもて面、23 ノズル板裏面、24 吐出孔、25 吐出孔内壁、26 吐出孔開口部、27 周縁部、31 シラン化合物溶液層、35 紫外線、40 撥液膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン化合物溶液を塗布することによりノズル板上にシラン化合物溶液層を形成する工程と、紫外線を照射することによって前記シラン化合物溶液層を固化する工程と、からなる撥液膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の形成方法において、シラン化合物はフロロアルキル基を含むことを特徴とする撥液膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の形成方法において、前記紫外線は真空紫外光であることを特徴とする撥液膜形成方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の形成方法において、前記紫外線を前記ノズル板表面の吐出孔開口部の周縁部に形成された前記シラン化合物溶液層に照射することを特徴とする撥液膜形成方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の形成方法において、前記紫外線をノズル板のおもて側から照射することを特徴とする撥液膜形成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の形成方法おいて、前記紫外線を前記吐出孔の中心軸と平行に照射することを特徴とする撥液膜形成方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の形成方法おいて、前記吐出孔の形状は、前記吐出孔の内壁面の紫外線照射方向に垂直な平面への正射影が、前記吐出孔開口部の前記紫外線照射方向に垂直な平面への正射影の内側に存在しないような形状であることを特徴とする撥液膜形成方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の形成方法において、前記シラン化合物溶液層を固化する工程の後に、未固化のシラン化合物溶液層を溶媒で洗浄することによって除去する工程を含む撥液膜形成方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載の形成方法によって形成された撥液膜が形成されていることを特徴とするノズル板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−224485(P2006−224485A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41725(P2005−41725)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】