説明

撮像装置、画像処理装置、および画像処理プログラム

【課題】画像復元時のリンギングを抑え、かつ高感度の撮像を可能にする。
【解決手段】複数の撮像素子(310a、310b)と、露光時間中、時間符号化パターンに従って、入射光を各撮像素子(310a、310b)に順次入射させる光学素子(光入射部)315と、露光時間中に発生する手振れを検出し、手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する手振れ検出部345と、複数の撮像素子(310a、310b)によって取得した複数の画像を処理する画像処理部220とを備える。画像処理部220は、手振れ情報および時間符号化パターンに基づいて、各画像の手振れによるぼやけを規定する点広がり関数を決定するPSF決定部と、点広がり関数を用いて各画像を復元する画像復元部と、復元された複数の画像を合成する画像合成部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像復元に用いられる撮像装置、画像処理装置、および画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラで画像を撮像すると、CCD(Charge−Coupled Device)、あるいはCMOSの読み出し回路の特性や伝送路の特性により画像にノイズが加えられることがある。また、撮像時にフォーカスが合っていないこと(焦点外れ:out−of−focus)による画像のぼやけ(ブラー:blur)や、手振れ(camera shake)などによる画像のぼやけが発生する。このように、撮像画像固有の特性に起因するノイズに、撮影時の人為的な操作に起因するぼやけが加わることにより、画像が劣化する。これらの「ぼやけ」のうち、撮影(露光)中におけるカメラの運動による画像のぼやけ(手振れ)を「ブレ(motion blur)」と称し、焦点外れによるぼやけ(out−of−focus blur)と区別することにする。
【0003】
近年、特に高感度撮影の需要が増大していることにより、ぼやけによって劣化した画像(以下、「劣化画像」という)を元の画像(以下、「理想画像」という)にできるだけ近い画像に復元することが必要となる。高感度撮影に要求される、明るくノイズやぼやけのない画像を実現するために、大別して感度を高めるという考え方と、露光時間を長くするという考え方がある。
【0004】
しかしながら、感度を高めるとノイズも増幅されてしまう。そのため、信号がノイズに埋もれてしまい、ノイズが大半を占める画像になることが多い。一方で露光時間を長くすることにより、その場で生じる光を多く蓄積し、ノイズの少ない画像が得られる。この場合、信号がノイズで埋もれることはないが、露光時間中における手振れよって画像にブレが生じるという問題がある。
【0005】
そこで、従来、2通りの考え方で露光時間を長くする場合の対処法がとられていた。一つは、レンズシフトやセンサシフトといった光学式手振れ補正である。光学的手振れ補正は、例えば特許文献1に開示されている。他方は、得られた画像からブレの方向/大きさを求め、そこから信号処理によって画像を復元するという方法(信号処理による復元方法)である。信号処理による復元方法は、例えば特許文献2〜4、非特許文献1〜7などに開示されている。
【0006】
暗い環境で十分な光量を確保するために露光時間を長くすると、手振れが発生し易くなる。そのような暗い環境において、光学式手振れ補正によってブレに対応するためには、レンズやセンサの可動範囲を大きくする必要がある。しかし、可動範囲が大きくなるとレンズやセンサの移動の際に時間遅れが生じるという問題がある。また、可動範囲を大きくすることには物理的な限界がある。
【0007】
手振れによって理想画像から劣化画像へと画像が劣化する現象は、以下のようにモデル化することができる。劣化画像における各画素の輝度を表す関数は、理想画像における各画素の輝度を表す関数と、画像のブレを表す点広がり関数(PSF; Point Spread Function)との畳み込み(convolution)によって得られると考えられる。そして、得られた劣化画像を理想画像へと復元するためには、劣化画像とPSFとの逆畳み込み(deconvolution)を行えばよい。畳み込み演算は周波数空間において乗算に相当するため、周波数空間において劣化画像をPSFで除算することにより、復元画像を得ることができる。
【0008】
このようにPSFが既知の場合、ノイズの影響を無視すれば、上記の逆畳み込み演算によって比較的容易に復元画像を得ることができる。一方、PSFが未知の場合、復元画像を得るためには劣化画像からPSFを推定する必要がある。
【0009】
PSFの推定には、例えば非特許文献1に開示されたスパースコーディングによる方法などが知られている。この方法では、まず手動で与えた初期PSFと劣化画像とから、第1の復元結果を得る。続いて第1の復元結果と劣化画像とを用いてより真のPSFに近いと考えられるPSFを推定し、推定されたPSFで初期PSFを修正する。修正されたPSFを用いて劣化画像から第2の復元結果を得る。以降、第(N−1)のPSFと劣化画像とから第Nの復元画像を得て、第Nの復元画像と劣化画像とから第NのPSFを推定する、という操作を繰り返すことにより、PSFの推定と劣化画像の復元を同時に行っていく。
【0010】
しかし、この方法では、復元された画像にリンギングなどのノイズが発生してしまうという問題がある。「リンギング(ringing)」とは、画像において輝度などが一様な部分(平坦部)が平坦に見えないノイズである。
【0011】
図1(a)は、輝度がステップ状に変化する画像(エッジ付近の理想画像)を示す平面図であり、図1(b)は、その輝度分布を模式的に示すグラフである。図2(a)は、図1(a)の画像をカメラで撮影することによって得られた劣化画像(ぼやけ画像:blurred image)を示す平面図であり、図2(b)は、その輝度分布を模式的に示すグラフである。ここで、カメラ撮影に際して、水平横方向に手振れが生じたものとする。図2(a)の劣化画像は、手振れによるぼやけ(ブレ)が発生したため、エッジのシャープネスが失われている。図3(a)は、図2(a)の劣化画像を信号処理によって復元した画像を示す平面図であり、図3(b)は、復元画像の輝度分布を模式的に示すグラフである。図3(a)の復元画像には、輝度が周期的に変化する部分が存在している。このような輝度変化が「リンギング」と称されるノイズである。リンギングは、周波数空間上でPSFの値が0になる点が存在することに起因して発生する。
【0012】
このようなリンギングの問題を解決する技術が、特許文献3、4、非特許文献6、7に開示されている。これらの技術によれば、露光状態の間、シャッタを開放し続けるのではなく、ある決められた時間パターン(符号化パターン)に従って光を遮ることにより、周波数空間上でPSFが0となる領域を低減させることができる。そのため、リンギングノイズの発生を防ぐことができる。特許文献3、4、非特許文献6、7に開示された方法は、“Coded Exposure Photography”と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−197357号公報
【特許文献2】特開2006−129236号公報
【特許文献3】特表2009−522825号公報
【特許文献4】特開2008−310797号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】”High−quality Motion Deblurring from a Single Image”, Qi Shan, Jiaya Jia, and Aseem Agarwala,SIGGRAPH 2008
【非特許文献2】米司・田中・奥富共著,「直線的手ぶれ画像復元のためのpsfパラメータ推定手法」,情報処理学会研究報告,第2005巻,第38号,p.47−52,2005年
【非特許文献3】J. Bioucas−Dias, Bayesian wavelet−based image deconvolution: a gem algorithm exploiting a class of heavy−tailed priors”, IEEE Trans. Image Proc., vol. 4, pp. 937−951, April 2006
【非特許文献4】Levin, “Blind Motion Deblurring Using Image Statistics”, Advances in Neural Information Processing Systems (NIPS), Dec 2006
【非特許文献5】Bob Fergus et al., “Removing camera shake from a single image”, Barun Singh Aaron Hertzmann, SIGGRAPH 2006
【非特許文献6】“Coded Exposure Photography: Motion Deblurring using Fluttered Shutter”, Ramesh Raskar, Amit Agrawal, Fack Tumblin, SIGGRAPH 2006
【非特許文献7】“Coded Exposure Deblurring: Optimized Codes for PSF Estimation and Invertibility”, Amit Agrawal, Yi Xu, MITSUBISHI ELECTRIC RESEARCH LABORATORIES,http://www.merl.com
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、特許文献3、4、非特許文献6、7に開示された方法によれば、リンギングを少なくすることができ、画像復元に有効である。しかしながら、露光時間中、符号化パターンに従ってシャッタを開閉するため、シャッタを開放し続ける場合に比べて入射光量が減少し、光利用率が低下する。そのため、特に暗い撮影環境では、シャッタを開放し続ける場合よりも、露光時間(露光開始から露光終了までの時間)を長くする必要がある。しかし、露光時間を長くすると、露光時間中に発生する手振れの量が増加し、精度の高い復元が困難になる。従って、シャッタの開閉を行う場合であっても、シャッタを開放し続ける場合と同程度の露光時間にできることが好ましい。
【0016】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、Coded Exposure Photographyにおいて、リンギングノイズが小さく、かつ光利用率を高くできる撮像装置、画像処理装置、および画像処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の撮像装置は、各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に、入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、前記露光時間中に発生する手振れを検出し、前記手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する手振れ検出部と、前記複数の撮像素子によって取得した複数の画像を処理する画像処理部とを備えている。前記画像処理部は、前記手振れ情報および前記時間符号化パターンに基づいて、前記複数の撮像素子によって前記露光時間中に取得された複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部と、前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成する画像復元部と、前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成する画像合成部とを有している。
【0018】
前記光入射部は、前記入射光を反射して前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に順次入射させるように反射面の傾きを切り替えることができるミラー部と、前記露光時間中、前記時間符号化パターンに従って前記ミラー部の反射面を駆動するミラー駆動部とを有していてもよい。
【0019】
前記ミラー部は、2次元状に配列された複数のマイクロミラーを含み、前記ミラー駆動部は、前記時間符号化パターンに従って前記複数のマイクロミラーの反射面を駆動するように構成されていてもよい。
【0020】
前記光入射部は、前記時間符号化パターンに従って前記入射光を2つの撮像素子に交互に入射させるように構成されていてもよい。
【0021】
前記画像合成部は、前記複数の復元画像を重ね合わせることによって、前記合成された画像を生成してもよい。
【0022】
本発明の他の撮像装置は、各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に、入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、前記複数の撮像素子によって取得した複数の画像を処理する画像処理部とを備える。前記画像処理部は、前記時間符号化パターンに基づいて、前記複数の撮像素子によって前記露光時間中に取得された複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部と、前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成する画像復元部と、前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成する画像合成部とを有している。
【0023】
本発明の他の撮像装置は、各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、前記露光時間中に発生する手振れを検出し、前記手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する手振れ検出部と、前記時間符号化パターンを規定する情報、前記露光時間中に前記複数の撮像素子によって取得された複数の画像、および前記手振れ情報を記録媒体に記録する記録部とを備える。
【0024】
ある実施形態における撮像装置は、前記手振れ情報および前記時間符号化パターンに基づいて、前記複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部を備え、前記記録部は、前記複数の点広がり関数を前記記録媒体に記録する。
【0025】
本発明の画像処理装置は、本発明の撮像装置によって記録された前記時間符号化パターンを規定する情報、前記複数の画像、および前記手振れ情報を取得する入力部と、前記時間符号化パターンを規定する情報および前記手振れ情報に基づいて、前記複数の画像における手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部と、前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成する画像復元部と、前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成する画像合成部とを備える。
【0026】
本発明のプログラムは、各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に、入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、前記露光時間中に発生する手振れを検出し、前記手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する手振れ検出部とを備える撮像装置によって前記露光時間中に取得された複数の画像を処理するプログラムであって、前記前記時間符号化パターンを規定する情報、前記複数の画像、および前記手振れ情報を取得するステップと、前記時間符号化パターンを示す情報および前記手振れ情報に基づいて、前記複数の撮像素子によって前記露光時間中に取得された複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するステップと、前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成するステップと、前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成するステップとを実行する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、劣化画像を復元するシステムにおいて、リンギングノイズの発生を抑えるとともに、光利用率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は、輝度がステップ状に変化する画像(エッジ付近の理想画像)を示す平面図であり、(b)は、その輝度分布を模式的に示すグラフである。
【図2】(a)は、図1(a)の画像をカメラで撮影することによって得られた劣化画像(ぼやけ画像:blurred image)を示す平面図であり、(b)は、その輝度分布を模式的に示すグラフである。
【図3】(a)は、図2(a)の劣化画像を信号処理によって復元した画像を示す平面図であり、(b)は、復元画像の輝度分布を模式的に示すグラフである。
【図4】画像の画素配列を示す図である。
【図5A】光学素子が第1の撮像素子に光を入射させる様子を示す図である。
【図5B】光学素子が第2の撮像素子に光を入射させる様子を示す図である。
【図6A】2つの撮像素子が光を受ける場合における時間符号化パターンの例を示す図である。
【図6B】3つの撮像素子が光を受ける場合における時間符号化パターンの例を示す図である。
【図7】露光時間中に発生する手振れの軌跡の一例を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態における撮像装置の概略構成を示す図である。
【図9A】本発明の第1の実施形態における光学素子315の一例を示す図である。
【図9B】本発明の第1の実施形態における光学素子315の一例において、反射面が傾斜している様子を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態における画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の第1の実施形態における画像処理部の処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を説明する前に、まず、本発明の基本的原理を説明する。
【0030】
図4は、本明細書における画像の構成を模式的に示す図である。本明細書では、撮像面に形成される画像130の輝度分布をi(x,y)で表すことにする。座標(x,y)は、撮像面の画素(光感知セル)の位置を示す二次元座標である。画像が例えば行列状に配列されたM×N個の画素135からなる場合において、xおよびyが、それぞれ、0≦x≦M−1、0≦y≦N−1の関係を満足する整数であるとすると、画像を構成する個々の画素の位置を座標(x,y)によって特定することができる。ここでは、座標の原点(0、0)を画像の左上隅に置き、x軸は垂直方向、y軸は水平方向に延びるものとする。ただし、座標の取り方は、これに限られず、任意である。本明細書において、画像上の座標(x,y)における輝度を「画素値」と呼ぶことがある。
【0031】
ぼやけ(blur)のない画像(理想画像または元画像)の輝度分布をs(x,y)とし、ぼやけを規定するPSF、すなわち「点広がり関数(Point Spread Function)」をf(x,y)とすると、ノイズの影響を無視すれば、以下の式1が成立する。
【数1】

【0032】
ここで、記号「*」は、畳み込み演算(コンボリューション)を示している。式1の右辺は、一般に、以下の式2で表される。
【数2】

【0033】
画像が、M×N個の画素からなる場合、上記の式2は、以下の式3で表すことができる。
【数3】

【0034】
ぼやけの点広がり関数PSFである関数f(x,y)が既知であると、カメラ撮影によって得られた画像i(x,y)に対する逆畳み込み演算(デコンボリューション)により、ぼやけの無い画像s(x,y)を復元することができる。また、f(x,y)が既知でない場合は、画像からf(x,y)を推定した上でs(x,y)を求める必要がある。
【0035】
一般に、2つの関数の畳み込みのフーリエ変換は、各関数のフーリエ変換の積によって表される。このため、i(x,y)、s(x,y)、f(x,y)のフーリエ変換を、それぞれ、I(u,v)、S(u,v)、F(u,v)で表すと、式1から、以下の式4が導かれる。なお、(u,v)は、周波数空間における座標であり、それぞれ、実画像におけるx方向およびy方向の空間周波数に対応している。
【数4】

【0036】
ここで、記号「・」は、周波数空間における関数の「積」を示している。式(4)を変形すると、以下の式5が得られる。
【数5】

【0037】
この式5は、カメラ撮影によって得られた画像i(x,y)のフーリエ変換I(u,v)を、点広がり関数PSFであるf(x,y)のフーリエ変換F(u,v)で除算して得られた関数が、理想画像s(x,y)のフーリエ変換S(u,v)に相当することを示している。すなわち、I(u,v)およびF(u,v)が求まれば、S(u,v)を決定できる。I(u,v)は、カメラ撮影によって得られた画像(劣化画像)をフーリエ変換したものであるため、手振れの点広がり関数PSFを表すf(x,y)のフーリエ変換F(u,v)が求まれば、信号処理によって劣化画像から画像を復元する(真の画像に近づける)ことが可能になる。
【0038】
手振れの点広がり関数PSFを表すf(x,y)は、撮影(露光)中における手振れの軌道に依存する。言い換えると、手振れの軌道はカメラ撮影毎に異なるため、f(x,y)もカメラ撮影毎に変化する。f(x,y)は、カメラ撮影によって得られた1枚または複数枚の画像から推定することも可能であるが、撮影(露光)中におけるカメラの動き(手振れ軌跡)をセンサによって検出して推定することも可能である。しかし、f(x,y)は、推定または測定によって得られるものに過ぎず、何らかの誤差を含む。このため、理想画像s(x,y)を完全に復元することは困難である。
【0039】
非特許文献2は、短い露光時間中における手振れの軌道を「等速直線運動」と仮定することにより、その点広がり関数PSFのフーリエ変換をsinc関数で近似することを開示している。手振れの幅をW、手振れの方向をx軸方向とすると、式5の分母であるF(u,v)は、以下の式6で示される。
【数6】

【0040】
式6の右辺は、sinc(ジンク)関数であり、その振幅は一定周期毎にゼロ(0)となる。この周期は、手振れの幅Wの逆数(1/W)である。なお、手振れの方向がx軸に対してθの角度を向く場合、F(u、v)は、式6の関数を角度θだけ回転させたものとなる。現実の手振れは、複雑な軌道を描くため、「等速直線運動」の仮定が充分に成立しない場合がある。
【0041】
式5の分母であるF(u,v)が周期的にゼロとなることが、画像の平坦部におけるリンギングの主たる発生原因であると考えられる。特許文献3、4、非特許文献6、7は、撮影の際、露光時間中にシャッタを符号化パターンに従って開閉することにより、F(u,v)がゼロとなる点を少なくすることを開示している。露光時間中、シャッタは、開状態と閉状態とを切り替える。これらの技術では、シャッタを閉じている間は光が利用されずに損失が生じるため、光量が不足して撮像感度が低下する。
【0042】
本発明では、露光時間中、1つの固体撮像素子(以下、「撮像素子」と呼ぶ。)が光を受けていない間、他の撮像素子が光を受けるようにすることにより、上記課題を解決する。複数の撮像素子によって取得された複数の画像は、復元および合成され、良好な画像となる。なお、本明細書において「露光時間」とは、1回の撮影のために撮像装置への光の取り込みを開始してから終了するまでの時間を指す。
【0043】
本発明の撮像装置は、複数の撮像素子と光入射部とを備える。露光時間中、光入射部は、受けた光(入射光)を複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に時間符号化パターン(以下、「符号化パターン」と呼ぶことがある。)に従って順次入射させる。光の取り込みが終了すると、各撮像素子は露光時間中に各々が受けた光に応じた画像信号を出力する。
【0044】
図5A、5Bは、本発明の撮像装置における撮像部の概略構成の一例を模式的に示す図である。図示される撮像装置は、固体撮像素子310a、310bと、撮影レンズ320を通過した光(入射光)を撮像素子310aおよび撮像素子310bに順次入射させる光学素子315とを備えている。この例では、光学素子315が光入射部として機能する。図5Aは、撮像素子310aの撮像面311aに光が入射している時の模式図であり、図5Bは、撮像素子310bの撮像面311bに光が入射している時の模式図である。図5A、5Bでは、簡単のため、2つの撮像素子310a、310bが光を受ける場合の例を示しているが、3つ以上の撮像素子が光を順次受けるように配置されていてもよい。
【0045】
図示される例において、露光時間中、図5Aに示す状態と図5Bに示す状態とが時間符号化パターンに従って交互に繰り返されることによって、一方の撮像素子が光を受けていない時は他方の撮像素子が光を受ける。そのため、入射光を有効利用することができる。2つの撮像素子によって露光時間中に取得された
2つの画像は、不図示の画像処理部によってそれぞれ復元され、合成されて1つの画像となる。
【0046】
本明細書において「時間符号化パターン」とは、露光時間中に光が入射する撮像素子が時間に応じてどのように切り替わるかを規定するコードである。図6Aは、本発明における時間符号化パターンの一例を示す図である。この例では、時刻0に露光が開始し、時刻Tに露光が終了するものとし、露光時間Tを細分化されたm個(m:2以上の整数)の時間ブロックに分割することを考える。図6Bは、各時間ブロックにおいて、いずれの撮像素子が光学素子315から光を受けるかを表している。図示されるように、撮像素子310a、310bは、光学素子315から入射する光を交互に受ける。この場合、1つの撮像素子が光を受ける時間の最小単位はT/mである。この例では、時間符号化パターンは、例えば[011001・・・01]のような符号列で規定され得る。
【0047】
以上の時間符号化パターンはあくまでも一例であって、時間符号化パターンは、露光時間中に光を受ける撮像素子が時間に応じてどのように切り替わるかを規定するものであればよい。なお、露光時間中に光学素子315から光を受ける撮像素子が3つ以上配置されている場合も、同様の考え方により時間符号化パターンが規定される。例えば、光学素子315から光を受ける撮像素子が3つである場合、図6Bに示すような時間符号化パターンが用いられ得る。この場合、各時間ブロックにおいて、3つの撮像素子A、B、Cのうちのいずれかが光学素子315から光を受ける。
【0048】
露光時間中、上記のような時間符号化パターンに従って各撮像素子が光を受けることにより、各撮像素子によって取得される画像は、通常の方法によって取得される画像と比較して、式5の分母であるF(u,v)がゼロとなる点を少なくできる。その結果、復元後の画像にリンギングなどのノイズが発生することを防止することができる。さらに、露光時間中、1つの撮像素子に光が入射していない時でも他の撮像素子に光が入射するため、従来技術よりも光の利用率を高めることができる。その結果、画像処理によってノイズが少なく、かつ明るい画像を得ることができる。
【0049】
本発明の撮像装置は、さらに手振れ検出部を備える。手振れ検出部は、撮影時の手振れを検出し、手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する。ここで「手振れの軌跡」とは、露光時間中に撮像装置が動くことに起因して撮像面上の点像が撮像面上に描く軌跡を指す。図7は、手振れの軌跡の例を示す図である。手振れが生じていない状態では、点像は撮像面の1つの画素に位置しているとする。手振れが生じると、この点像は複数の画素に広がり、露光時間中の撮像装置の動きに応じた軌跡を描くことになる。この軌跡上に位置する個々の画素の輝度値は、一般に互いに異なる。これは、撮像装置の動きの速さは手振れの最中に一定ではないからである。「手振れ情報」は、手振れによって複数の画素にどのような重みで点像が広がるかを示す情報であると言える。
【0050】
1回の撮影で複数の撮像素子によって取得される複数の画像、時間符号化パターンを示す情報、および手振れ情報は、不図示の画像処理部に入力され、そこで処理される。画像処理部はまず、符号化パターンと手ぶれ情報とを用いて各画像に対応するPSFを決定する。その後、画像処理部は各画像を公知の復元方法によって復元し、手ぶれによるぼやけを減少させた複数の復元画像を生成する。これらの復元画像は合成され、1つの合成復元画像が得られる。このようにして得られる合成復元画像は、リンギングなどのノイズが少ない良好な画像である。
【0051】
以下、図面を参照しながら本発明の第1の実施形態を説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付している。
【0052】
(実施形態1)
図6は、本実施形態における撮像装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態における撮像装置は、デジタル式の電子カメラであるが、本発明はこれに限定されない。撮像装置は、図6に例示するように、撮像部300と、各種信号処理および画像の復元・合成を行う信号処理部200と、撮像によって取得した画像を表示する表示部600と、画像のデータを記録する記録部500と、各部を制御するシステム制御部400とを備える。本実施形態の撮像装置が公知の撮像装置と異なる主な点は、撮像部300および信号処理部200にある。
【0053】
本実施形態における撮像部300は、撮像面上に配列された複数の光感知セル(フォトダイオード)を備える2つの撮像素子(イメージセンサ)310a、310bと、絞り機能を有するシャッタ325と、撮像素子310a、310bの撮像面上に像を形成するための撮影レンズ320とを有している。撮像素子310の典型例は、CCDまたはCMOSセンサである。撮影レンズ320は、公知の構成を有しており、現実には複数のレンズから構成されたレンズユニットであり得る。シャッタ325および撮影レンズ320は、不図示の機構によって駆動され、光学ズーミング、自動露光(AE:Auto Exposure),オートフォーカス(AF:Auto Focus)に必要な動作が実行される。
【0054】
更に、撮像部300は、撮像素子310a、310bをそれぞれ駆動する撮像素子駆動部330a、330bを備えている。撮像素子駆動部330a、330bは、例えばCCDドライバなどの半導体集積回路から構成され得る。撮像素子駆動部330a、330bは、それぞれ撮像素子310a、310bを駆動することにより、撮像素子310a、310bからアナログ信号(光電変換信号)をそれぞれ読み出してデジタル信号に変換する。
【0055】
撮像部300はまた、撮像時の手振れを検出する手振れ検出部345を備えている。手振れ検出部345は、例えば公知のジャイロスコープや加速度センサなどであり、露光時間中における撮像装置の動きを検出し、手振れの軌跡を示す情報(手振れ情報)を生成する。生成された手振れ情報は、信号処理部200に入力され、各画像を復元するためのPSFを決定する処理に用いられる。
【0056】
撮像部300は更に、シャッタ325を通過した光を時間符号化パターンに応じて2つの撮像素子310a、310bに交互に入射させる光学素子315と、光学素子315の動作を制御する光学素子制御部350とを備えている。本実施形態における光学素子315は、例えば半導体集積回路上に設置された複数の可動式のマイクロミラーを有するマイクロミラーデバイスである。光学素子315は、入力される信号に応じてマイクロミラーの向きを少なくとも2方向に切り替えることができる。光学素子制御部350は、光学素子315に入力する信号を、予め設定された時間符号化パターンに従って切り替えることによって、光学素子315の動作を制御する。光学素子制御部350は、例えば上記制御を実行するように設計された半導体集積回路、もしくは上記制御を規定するソフトウェアによって実現され得る。また、ユーザが所望の時間符号化パターンを設定できるように、入力インターフェースを有していてもよい。
【0057】
再び図5A、図5Bを参照しながら、光学素子315、撮像素子310a、310bの構成をより詳しく説明する。撮像素子310a、310bは、それぞれ撮像面311a、311bを有しており、撮像面311a、311b上には複数の光感知セルが配列されている。ここで、光感知セルの配列形態は、公知のどのような配列であってもよく、また、個々の光感知セルの平面形状も任意である。なお、カラーの画像信号を生成するため、典型的には、原色カラーフィルタまたは補色カラーフィルタが個々の光感知セルに対応して配置される。また、各光感知セルに効率的に集光するため、マイクロレンズが個々の光感知セルに対応して配置されていてもよい。光学素子315および撮像素子310a、310bの位置は、各撮像素子の撮像面に形成される像の大きさおよび向きが互いに適合するように好適に調整される。
【0058】
光学素子315は、上記のように、時間符号化パターンに従って、入射光を撮像素子310a、310bに交互に入射させる。時間符号化パターンは、例えば図6Aに示すように、露光時間Tを細分化されたm個(m:2以上の整数)の時間ブロックに分割したとき、各時間ブロックにおいて、いずれの撮像素子に光が入射するかを規定する。時間符号化パターンとして、特許文献3、4、非特許文献6、7に開示された時間符号化パターンを用いることもできるし、ランダムなパターンを用いることもできる。また、各撮像素子における受光の回数がほぼ等しくなるように規則的なパターンを用いることもできる。例えば、m=50、T/m=100μsとして、光学素子315は、時間ブロック長100μsごとに交互に撮像素子310a、310bに光を入射させるように設定してもよい。本実施形態における時間符号化パターンは、上述のように2値の符号列によって規定され得る。時間符号化パターンは、露光時間または手振れの大きさなどに応じて時間ブロック長が調整されてもよい。
【0059】
なお、光学素子315が光の入射を一方の撮像素子(第1の撮像素子)から他方の撮像素子(第2の撮像素子)へと切り替える最中、各撮像素子の撮像面に形成される像は移動することになる。すなわち、ある時間ブロックにおいて第1の撮像素子の撮像面に固定されていた像は、切り替えの際、第2の撮像素子の撮像面に固定されるまでの間、移動する。この移動によって、各撮像素子に意図した光が入射せず、誤差が生じる可能性がある。このような誤差を緩和するため、シャッタ325は、時間符号化パターンと連動して開閉動作を行ってもよい。すなわち、光学素子315が第1の撮像素子から第2の撮像素子へと入射方向を切り替えるための動作を開始するタイミングに合わせてシャッタ325を閉じ、第2の撮像素子に像が固定したタイミングでシャッタ325を開く、といった制御を行うことができる。これにより、切り替えの最中は光が遮断されるため、上記のような像の移動によって各撮像素子に意図しない光が入射することを防ぐことができる。あるいは、シャッタ325に上記の開閉動作を行わせるのではなく、光学素子315と各撮像素子との間に第2のシャッタを配置し、同様の動作を行わせてもよい。
【0060】
図9A、9Bは、光学素子315の構成の一例を模式的に示す図である。図示される光学素子315は、2次元状に配列された複数のマイクロミラー316と、各マイクロミラーを駆動するミラー駆動部317とを有している。図9A、図9Bは、マイクロミラー316の配置面に垂直な平面で切ったときの断面の一部を示している。ミラー駆動部317は、光学素子制御部350から入力される信号に応じてマイクロミラー316の反射面の角度を変動させることができる。ミラー駆動部317は、例えばMEMS技術を利用して作製されたマイクロアクチュエータであり、マイクロミラーの反射面を高い応答性をもって駆動する。
【0061】
光学素子制御部350から光学素子315に入力される信号の状態が第1状態にあるとき(例えば、電圧が印加されていないとき)、図9Aに示されるように、マイクロミラー316の向きは、マイクロミラー316の配置面に平行である。一方、光学素子制御部350から光学素子315に入力される信号の状態が第2状態にあるとき(例えば、電圧が印加されているとき)、図9Bに示されるように、マイクロミラー316の向きは、マイクロミラー316の配置面に対して一定の角度で傾斜する。
【0062】
マイクロミラー316が上記のような動作を行うことにより、光学素子315に入射する光は、入力される信号の状態に応じて異なる方向に反射する。その結果、異なる2つの撮像素子310a、310bに交互に光を入射させることができる。なお、上記のマイクロミラー316は、あくまでも一例であって、各撮像素子に光を入射できるように構成されていれば、それらの動作は任意である。
【0063】
次に、再び図8を参照しながら信号処理部200を説明する。本実施形態における信号処理部200は、画像処理部(イメージプロセッサ)220、メモリ240を備えている。画像処理装置200は、液晶表示パネルなどの表示部600、および、メモリカードなどの記録部500に接続される。
【0064】
画像処理部220は、色調補正、解像度変更、データ圧縮などの各種信号処理を行うほか、本発明による劣化画像の復元処理および復元画像の合成処理を実行する。画像処理部220は、撮影ごとに撮像部300によって取得される2つの画像をそれぞれ復元した後、2つの復元画像を合成して合成復元画像を出力する。画像処理部220は、公知のデジタル信号処理プロセッサ(DSP)などのハードウェアと、画像処理を実行するためのソフトウェアとの組み合わせによって好適に実現される。メモリ240は、DRAMなどによって構成される。このメモリ240は、撮像部300から得られた画像データを記録するとともに、画像処理部220によって各種の画像処理を受けた画像データや、圧縮された画像データを一時的に記録する。画像データは、アナログ信号に変換された後、表示部600によって表示され、あるいは、デジタル信号のまま記録部500に記録される。画像データは、不図示の通信装置を介して、無線または有線で他の装置(不図示)に送信されてもよい。
【0065】
上記の構成要素は、不図示の中央演算処理ユニット(CPU)およびフラッシュメモリを含むシステム制御回路400によって制御される。なお、本実施形態の撮像装置は、光学ファインダ、電源(電池)、フラッシュライトなどの公知の構成要素を備え得るが、それらの説明は本発明の理解に特に必要でないため省略する。
【0066】
以下、図10を参照しながら本実施形態における画像処理部220の構成をより詳細に説明する。
【0067】
図10は、本実施形態における画像処理部220の構成を示すブロック図である。画像処理部220は、撮像部300から手振れによるぼやけを含んだ画像(劣化画像)を取得する画像入力部232と、撮像部300から手振れ情報および時間符号化パターンを示す情報を取得し、各劣化画像を復元するためのPSFを決定するPSF決定部231とを有している。画像処理部220はまた、取得した劣化画像を復元する画像復元部234と、復元された複数の画像を合成する画像合成部235と、合成された画像(合成復元画像)を出力する画像出力部239とを有している。ここで、画像合成部235は、位置合わせ部236と画像加算部238とを有している。
【0068】
画像入力部232は、1回の撮影ごとに撮像素子310a、310bによって取得された2つの劣化画像を撮像部300から取得する。取得した2つの劣化画像は画像復元部234に入力される。
【0069】
PSF決定部231は、時間符号化パターンを示す情報と手振れ検出部345によって生成された手振れ情報とを撮像部300から取得する。その後、PSF決定部は、取得した時間符号化パターンを示す情報と手振れ情報とを用いて、2つの劣化画像のブレをそれぞれ規定する2つのPSFを決定する。各PSFは、例えば手振れ情報から、各画像を取得した撮像素子が光を受けた時に相当する部分を抽出することによって求められる。決定された2つのPSFは、画像復元部234に入力される。
【0070】
画像復元部234は、入力された2つの劣化画像と2つのPSFとを用いて2つの復元画像を生成する。画像復元部234が実行する復元処理のアルゴリズムは特に限定されず、公知の画像復元処理のいずれであってもよい。例えば、公知のリチャードソンルーシ(LR)法やウィーナフィルタ法などを用いることができる。また、非特許文献1に開示されたスパースコーディング法を用いてもよい。生成された2つの復元画像は、位置合わせ部236に入力される。
【0071】
位置合わせ部236は、画像復元部234によって生成された2つの復元画像の位置を合わせる。具体的には、2つの画像の正規化相関を求め、最も相関値が高い位置を決定する。例えば、一方の画像を固定して他方をX、Y方向のそれぞれについて、PSFのサイズ程度の範囲内で1画素ずつずらしながら2つの画像の正規化相関を順次計算する。ここで、PSFのサイズとは、PSFが有限値をとるX方向の画素およびY方向の画素から形成される矩形領域に含まれる画素の数を意味する。計算された正規化相関値が最大となる位置を、位置合わせされた位置として採用する。位置合わせされた2つの復元画像は、画像加算部238に入力される。
【0072】
画像加算部238は、2つの復元画像における互いに対応する2つの画素の輝度値を加算することによって、合成復元画像を生成する。なお、画像加算部238は、単に2つの復元画像の対応する2画素の輝度値を加算するのではなく、一方と他方とを異なる重みで加算してもよい。例えば、両者を6:4の割合で重ね合わせるようにしてもよい。
【0073】
画像出力部239は、以上のようにして得た合成復元画像を出力する。合成復元画像は、例えば記録部500に記録され、表示部600によって表示される。
【0074】
図10に示す構成は、画像処理部220の機能ブロックの一例であり、画像処理部220は、他の機能ブロックに分割され得る。画像処理部は、例えば公知のハードウェアに画像処理のソフトウェアを組み込むことによっても好適に実現される。
【0075】
以下、ユーザが本実施形態の撮像装置によって撮像を行うときの動作を説明する。
【0076】
ユーザがシャッタボタンを押すと、シャッタ325が開き、「露光」が開始される。このとき、光学素子制御部350は、前述の時間符号化パターンに従って、光学素子315に制御信号を入力する。光学素子315は、入力された制御信号に応じて、マイクロミラー316の反射面の向きを変動させる。その結果、撮像素子310a、310bに交互に光が入射する。露光時間中にユーザによって撮像装置が不安定に動いた場合、撮像素子310a、310bの撮像面上を像が移動するため、手振れによるぼやけが付加されることになる。この際、手振れ検出部345は、手振れの軌跡を検出し、検出した手振れの軌跡を示す情報を出力する。「露光」が終了すると、撮像部300は、撮像素子310a、310bによって取得した2つの画像と、手振れ検出部345によって検出された手振れ情報と、時間符号化パターンを示す情報とを信号処理部200に出力する。
【0077】
信号処理部200は、入力された2つの画像と、手振れ情報と、時間符号化パターンを示す情報とを受け取る。このようにして得られた2つの画像は、ともに式7の左辺においてi(x、y)で表される劣化画像である。信号処理部200における画像処理部220は、2つの画像について、i(x、y)からs(x,y)を復元するための処理を行う。復元処理によって得られた2つの復元画像は、合成されて1つの画像となる。合成された画像は表示部600に表示され、必要に応じて記録部500に記録される。
【0078】
以下、図11を参照しながら、本実施形態で実行し得る復元処理および画像合成処理の一例を説明する。
【0079】
図11は、復元処理の一例を示すフローチャートである。まず画像入力部232は、撮像素子310a、310bによって取得された2つの画像(劣化画像1、劣化画像2)を取得する(S1a、S1b)。取得された2つの画像は画像復元部234に入力される。また、PSF決定部231は、時間符号化パターンを示す情報と、手振れ検出部で検出された手振れ情報とを取得する(S1c)。PSF決定部231は、時間符号化パターンと手振れ情報とを用いて劣化画像1、劣化画像2のぼやけをそれぞれ規定する2つのPSFを決定する(S1d)。決定された2つのPSFは、画像復元部234に入力される。
【0080】
次に、画像復元部234は、決定された2つのPSFを用いてそれぞれに対応する画像を復元し、2つの復元画像を生成する(S2a、S2b)。生成された2つの復元画像は、位置合わせ部236によって相対位置が調整される(S4)。その後、画像加算部238によって2つの復元画像の各画素における輝度値が加算され、合成された画像が生成される(S4)。合成された画像は、表示部600に表示され、記録部500に記録される(S5)。
【0081】
以上の処理により、2つの劣化画像から1つの合成された画像が得られる。このようにして得られた画像は、リンギングなどのノイズが少なく、光利用率の高い良好な画像である。さらに、本実施形態によれば、従来のCoded Exposure Photographyによって得られる画像を単純に増幅して得られる画像よりも、暗電流などに起因するノイズによる影響を低減させることができる。従来のCoded Exposure Photographyによれば、光の利用率が低いため、復元画像において撮像素子の暗電流に起因するノイズが目立つ傾向にある。暗電流ノイズは、画素単位でランダムに発生するため、1枚の画像を増幅すると、ノイズも増幅されてしまう。本実施形態においては、2つの撮像素子から取得された2つの画像を重ね合わせるため、ノイズが含まれる画像上の位置が分散する。そのため、ノイズが目立たない良好な画像が得られる。
【0082】
本実施形態では、撮像部300は、2つの撮像素子310a、310bを有しているが、本発明において、撮像部300は、3つ以上の撮像素子を有していてもよい。その場合であっても、光学素子315は、シャッタ325を通過した光を各撮像素子に時間符号化パターンに応じて順次入射させるように構成されていれば本発明の効果が得られる。一例として、光を受ける撮像素子の数が3つである場合、図6Bに示されるような時間符号化パターンを用いることができる。この場合であっても、各撮像素子によって取得される各画像は、上記と同様の画像処理によって復元・合成され、1つの合成復元画像が得られる。
【0083】
また、光学素子315は必ずしもマイクロミラーデバイスである必要はない。時間符号化パターンに応じて複数の撮像素子に光を選択的に入射させることが可能であれば、どのようなデバイスを用いてもよい。例えば、光学素子315は、複数のマイクロミラーの代わりに時間に応じて反射面の向きを変動させることができる1つのミラー部を有していてもよい。その場合であっても、ミラー部がミラー制御部によって反射面の向きを高い応答性をもって変動させるように構成されていれば本発明の効果を得ることができる。あるいは、時間に応じて入射光の透過と反射とを切り替えることが可能な光学素子を用いて、反射光と透過光とを異なる撮像素子に入射させるように撮像部300を構成してもよい。
【0084】
光学素子制御部350は、光学素子315と独立した機能部である必要はない。光学素子制御部350は、光学素子315に含まれていてもよいし、システム制御部400が光学素子制御部350の機能を有していてもよい。また、撮像素子駆動部330a、330bは、撮像素子310a、310bにそれぞれ対応する個別の機能部である必要はなく、両者は統合されていてもよい。あるいは、システム制御部400が撮像素子駆動部330a、330bの機能を有していてもよい。
【0085】
画像処理部220は、必ずしも撮像装置に設けられている必要はない。画像処理部220は、外部の機器に設けられていてもよい。例えば、撮像装置は、取得した画像データを処理することなく、符号化パターンを示す情報、手振れ情報、および取得した2つの画像を記録部500に記録してもよい。記録された画像データを外部の機器に読み込ませ、画像処理部220が実行する上記の処理を規定したプログラムをその機器に実行させることによっても本発明の効果を得ることができる。
【0086】
以上の説明において、PSF決定部は画像処理部220に設けられているが、PSF決定部231は撮像部300に設けられていてもよい。この場合、各撮像素子によって取得される各画像のブレを規定するPSFは撮像部300において決定され、信号処理部200に入力される。このような構成であっても本発明の効果に変わりはない。
【0087】
PSFは、上記の説明において、ジャイロスコープや加速度センサなどの手振れ検出部345によって検出した手振れ情報に基づいて決定されるが、本発明におけるPSFの決定の仕方はこれに限られない。例えば、ユーザが任意に設定したPSFを初期PSFとして、公知のPSF推定方法を用いてPSFを求めてもよい。あるいは、例えば非特許文献1に開示された方法を用いて、PSFの決定と画像の復元処理を複数サイクルにわたって繰り返すことにより復元画像を生成してもよい。
【0088】
以下、非特許文献1に開示されたスパースコーディング法を用いて、複数の劣化画像を復元する際の手順を説明する。まず、PSF決定部231は、各劣化画像に対応するPSFの初期値を設定する。ここで、各PSFは、手動で設定してもよいし、上記の手振れ情報に基づいて設定してもよい。各PSFを手動で設定する場合、撮像装置は手振れ検出部345を備えている必要はない。各PSFにおいて、対応する劣化画像を取得した撮像素子が光を受けなかった時に相当する部分は0(ゼロ)に設定される。次に、画像復元部234は、各PSFと各劣化画像とから、第1の復元画像を生成する。PSF決定部231は、第1の復元画像および劣化画像とを用いて、より真のPSFに近いと考えられるPSFを推定する。推定されたPSFにおいても同様に、符号化パターンに基づいて、対応する劣化画像を取得した撮像素子が光を受けなかった時に相当する部分はゼロに設定される。以後、同様の画像復元処理とPSF推定処理を繰り返すことにより、各劣化画像に対応する複数の復元画像を得ることができる。このようにして得られた複数の復元画像は、画像合成部235によって合成され、合成復元画像が生成される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、画像復元時に発生するリンギングを減少させることができ、かつ光利用率を高めることができるため、電子スチルカメラなどとして利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
130 画像
135 画素
140 撮像面
200 信号処理部
220 画像処理部
231 PSF決定部
232 画像入力部
234 画像復元部
235 画像合成部
236 位置合わせ部
238 画像加算部
239 画像出力部
240 メモリ
300 撮像部
310a、310b 固体撮像素子
311a、311b 固体撮像素子の撮像面
315 光学素子
316 マイクロレンズ
317 ミラー駆動部
320 撮影レンズ
325 絞り機能を有するシャッタ
330a、330b 撮像素子駆動部
345 手振れ検出部
350 光学素子制御部
400 システム制御部
500 記録部
600 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、
前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に、入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、
前記露光時間中に発生する手振れを検出し、前記手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する手振れ検出部と、
前記複数の撮像素子によって取得した複数の画像を処理する画像処理部と、
を備え、
前記画像処理部は、
前記手振れ情報および前記時間符号化パターンに基づいて、前記複数の撮像素子によって前記露光時間中に取得された複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部と、
前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成する画像復元部と、
前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成する画像合成部と、
を有する撮像装置。
【請求項2】
前記光入射部は、
前記入射光を反射して前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に順次入射させるように反射面の傾きを切り替えることができるミラー部と、
前記露光時間中、前記時間符号化パターンに従って前記ミラー部の反射面を駆動するミラー駆動部とを有している、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記ミラー部は、2次元状に配列された複数のマイクロミラーを含み、
前記ミラー駆動部は、前記時間符号化パターンに従って前記複数のマイクロミラーの反射面を駆動する、請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記光入射部は、前記時間符号化パターンに従って前記入射光を2つの撮像素子に交互に入射させる、請求項1から3のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項5】
前記画像合成部は、前記複数の復元画像を重ね合わせることによって、前記合成された画像を生成する、請求項1から4のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項6】
各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、
前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に、入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、
前記複数の撮像素子によって取得した複数の画像を処理する画像処理部と、
を備え、
前記画像処理部は、
前記時間符号化パターンに基づいて、前記複数の撮像素子によって前記露光時間中に取得された複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部と、
前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成する画像復元部と、
前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成する画像合成部と、
を有する撮像装置。
【請求項7】
各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、
前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、
前記露光時間中に発生する手振れを検出し、前記手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する手振れ検出部と、
前記時間符号化パターンを規定する情報、前記露光時間中に前記複数の撮像素子によって取得された複数の画像、および前記手振れ情報を記録媒体に記録する記録部と、
を備える撮像装置。
【請求項8】
前記手振れ情報および前記時間符号化パターンに基づいて、前記複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部を備え、
前記記録部は、前記複数の点広がり関数を前記記録媒体に記録する、
請求項7に記載の撮像装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の撮像装置によって記録された前記時間符号化パターンを規定する情報、前記複数の画像、および前記手振れ情報を取得する入力部と、
前記時間符号化パターンを規定する情報および前記手振れ情報に基づいて、前記複数の画像における手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するPSF決定部と、
前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成する画像復元部と、
前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成する画像合成部と、
を備える画像処理装置。
【請求項10】
各々が露光時間中に受けた光に応じて画像を取得する複数の撮像素子と、
前記露光時間中、前記複数の撮像素子のうちの少なくとも2つの撮像素子に、入射光を時間符号化パターンに従って順次入射させる光入射部と、
前記露光時間中に発生する手振れを検出し、前記手振れの軌跡を示す手振れ情報を生成する手振れ検出部と、
を備える撮像装置によって前記露光時間中に取得された複数の画像を処理するプログラムであって、
前記前記時間符号化パターンを規定する情報、前記複数の画像、および前記手振れ情報を取得するステップと、
前記時間符号化パターンを示す情報および前記手振れ情報に基づいて、前記複数の撮像素子によって前記露光時間中に取得された複数の画像の手ぶれによるぼやけを規定する複数の点広がり関数を決定するステップと、
前記複数の画像の各々から、前記点広がり関数に基づいて、前記手振れによるぼやけを減少させた復元画像を生成するステップと、
前記画像復元部によって生成された複数の復元画像から合成された画像を生成するステップと、
を実行するプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−199660(P2011−199660A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64996(P2010−64996)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】