撹拌方法及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステム
【課題】組織を焼灼するバルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面温の温度のバラツキをなくし、アブレーションによる治療効果の改善を図る。
【解決手段】カテーテルシャフト2aと、カテーテルシャフト2aに取り付けられたバルーン3と、カテーテルシャフト2aを長軸方向に貫通してバルーン内部と連通するルーメン4と、バルーン内部に配置された加熱電極9と、加熱電極9に電気的エネルギーを加える加熱装置13と、ルーメン4から加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して加熱用液体に振動を付与する振動付与装置6と、を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおいて、振動により加熱用液体を撹拌する撹拌方法であって、振動付与装置6から1回の吐出でバルーン3に吐出される加熱用液体の体積をバルーン3の膨張時の体積で除して100を乗じた値が2〜9である、撹拌方法。
【解決手段】カテーテルシャフト2aと、カテーテルシャフト2aに取り付けられたバルーン3と、カテーテルシャフト2aを長軸方向に貫通してバルーン内部と連通するルーメン4と、バルーン内部に配置された加熱電極9と、加熱電極9に電気的エネルギーを加える加熱装置13と、ルーメン4から加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して加熱用液体に振動を付与する振動付与装置6と、を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおいて、振動により加熱用液体を撹拌する撹拌方法であって、振動付与装置6から1回の吐出でバルーン3に吐出される加熱用液体の体積をバルーン3の膨張時の体積で除して100を乗じた値が2〜9である、撹拌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌方法及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カテーテルアブレーションは、心腔内にアブレーション用カテーテルを挿入し、先端電極と対極板の間で熱を加えて心筋組織を焼灼し、不整脈を治療する方法である。カテーテルアブレーションは、主に、発作性上室性頻拍、心房頻拍、心房粗動、発作性心室頻拍などの頻脈性不整脈の治療のために施され、心臓電気生理学的検査で不整脈の発生機序及び発生部位を診断した後に、アブレーション用カテーテルの電極を心腔内から不整脈の発生部位へと到達させ、そこで原因となる心筋組織に電極を押し当て、53〜60℃で約60秒間温める操作を繰り返す手法である。
【0003】
現在使用されているアブレーションカテーテルの多くは、カテーテルの先端部に長さ4〜8mm、直径2〜3mmの金属製電極を有するものであるため、金属製電極部を不整脈の原因となる心筋組織に点状に接触させ、少しずつ移動させながら焼灼ラインを形成し、不整脈の発生源を隔離する手法をとるのが一般的である(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、金属製電極を有するアブレーション用カテーテルでは、焼灼ラインを形成して不整脈の発生源を隔離するのに数十回のアブレーションを繰り返す必要があるため、手技が長時間化し、患者に多大な負担をかけるという問題点があった。また、アブレーション用カテーテルで焼灼ラインを形成するには、小さな金属製電極を心筋組織の標的部位に正確に接触させる必要があるため、医師にアブレーション用カテーテルを操る高度な技術が必要であった。さらに、心筋組織は点状に焼灼されるため、焼灼部位間に隙間のある不十分な焼灼ラインが形成されてしまうことがあり、この場合には、不整脈の発生源を完全に隔離できず、不整脈を再発させてしまう可能性があった。
【0005】
近年、カテーテルチューブの先端にバルーンを有するバルーン付きアブレーションカテーテルが開発され、高周波発生装置及びバルーン表面温度均一化装置を備えたバルーン付きアブレーションカテーテルシステムが報告されている(特許文献2及び3)。
【0006】
バルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、カテーテルの先端に取り付けられたバルーンを加熱用液体で膨張させ、高周波発生装置から通電された高周波電流によって加熱用液体を加熱し、バルーン表面と接触した心筋組織全体を焼灼するシステムである。バルーン表面の温度は、バルーン表面温度均一化装置、例えば、バルーン内に充填された加熱用液体に振動を印加する振動印加装置により調節され、バルーン内部に配置された温度センサにより制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4151910号公報
【特許文献2】特許第3607231号公報
【特許文献3】特許第3892438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを用いた治療では、患者の組織学的特徴及び不整脈の発生部位の状態に応じてバルーンサイズを適宜調節する必要があり、この場合において、特許文献2及び3で開示された振動印加装置によるバルーン表面温度均一化手段では、さまざまなサイズのバルーンに応じてバルーン表面温度を均一に維持することは困難なことであった。
【0009】
さらに、バルーン表面温度を均一に維持することに時間を要すると、カテーテルを挿入後の手技が長時間化するため、患者に多大な負担をかけることとなるという問題点があった。
【0010】
そこで本発明の目的は、バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面の温度のバラツキをなくすと共に、短時間でバルーン表面温度の均一化を図り、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムによる治療効果を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面の温度のバラツキをなくすためには、加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返してバルーン内の加熱用液体に振動を付与する際、大容量の吸引と吐出を激しく繰り返すのではなく、むしろ一定範囲内の小容量の吸引と吐出を繰り返すことが効果的であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して上記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して上記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置とを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおける上記加熱用液体を、上記振動により撹拌する撹拌方法であって、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9となるように上記加熱用液体を振動させる撹拌方法を提供する。
【0013】
上記振動付与装置は、上記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す装置であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して前記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから前記加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して前記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備え、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9である、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを提供する。
【0015】
上記振動付与装置は、上記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す装置であることが好ましく、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ、ピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプからなる群から選択されるポンプを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バルーン付きアブレーションカテーテルに装備されている様々なサイズのバルーンの表面温度を均一に維持することが可能となり、バルーン表面温度を均一に維持するために要する時間を短縮できる。さらに本発明によれば、焼灼部位のムラを無くすことができるために治療効果が高まり、患者負担も大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの概略図である。
【図2】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに使用されるカテーテルシャフトのA−A’線における断面の概略図である。(A)はルーメンを1つ有するカテーテルシャフトの例であり、(B)はルーメンを2つ有するカテーテルシャフトの例である。
【図3】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに使用可能なバルーン付きアブレーションカテーテルの第二例を示す概略図である。
【図4】図3のカテーテルシャフトのB−B’線における断面の概略図である。
【図5】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに使用可能なバルーン付きアブレーションカテーテルの第三例を示す概略図である。
【図6】図5のカテーテルシャフトのC−C’線における断面の概略図である。
【図7】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第一例を示す概略図である。
【図8】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第二例を示す概略図である。
【図9】振動付与装置によりルーメンから吐出又は吸引される加熱用液体の体積を測定するための実験系を示した図である。
【図10】バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面温度を測定するための実験系を示した図である。
【図11】図10におけるバルーンと該バルーンに取り付けられた温度センサ及び擬似心筋組織との位置関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致していない。
【0019】
本発明の撹拌方法は、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して上記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して上記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおける上記加熱用液体を、上記振動により撹拌する撹拌方法であって、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9となるように上記加熱用液体を振動させることを特徴としている。
【0020】
図1は、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの概略図である。
【0021】
図1に示されるバルーン付きアブレーションカテーテルシステム15は、大きく分けてバルーン付きアブレーションカテーテル1、振動付与装置6及び加熱装置13から構成される。
【0022】
バルーン付きアブレーションカテーテル1は、カテーテルシャフト2aの先端側に膨張及び収縮可能なバルーン3を備え、バルーン3の先端部及び後端部はカテーテルシャフト2aに固定されている。カテーテルシャフト2aは、その内部を貫通するルーメン4を有し、ルーメン4は、カテーテルシャフト2aの先端部の側孔5によって、バルーン3の内部と連通している。カテーテルシャフト2aの基端側のルーメン4は、三方活栓7と、耐圧延長チューブ8とを介して、振動付与装置6に接続されている。加熱電極9は、バルーン3内部で、カテーテルシャフト2aに固定されており、温度センサ10は、加熱電極9の基端に固定されている。加熱電極9に接続された加熱電極用リード線11と、温度センサ10に接続された温度センサ用リード線12とは、ルーメン4を挿通して、加熱装置13に接続されている。
【0023】
カテーテルシャフト2aの長さとしては、バルーン3を心筋組織へ到達させる観点から、0.5〜2mが好ましい。
【0024】
カテーテルシャフト2aの直径としては、血管内へ挿入する観点から、3〜5mmであることが好ましい。
【0025】
カテーテルシャフト2aの材料としては、抗血栓性に優れる可撓性のある材料が好ましく、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂又はポリイミド樹脂が挙げられる。
【0026】
不整脈の発生部位に密着できる観点から、バルーン3の直径としては20〜40mmが好ましく、形状としては球形が好ましく、膜厚としては20〜100μmが好ましい。
【0027】
バルーン3の材料としては、抗血栓性に優れた伸縮性のある材料が好ましく、ポリウレタン系の高分子材料がより好ましい。
【0028】
ポリウレタン系の高分子材料としては、例えば、熱可塑性ポリエーテルウレタン、ポリエーテルポリウレタンウレア、フッ素ポリエーテルウレタンウレア、ポリエーテルポリウレタンウレア樹脂又はポリエーテルポリウレタンウレアアミドが挙げられる。
【0029】
カテーテルシャフト2aの長手方向に対して垂直な断面におけるルーメン4の断面積としては、三方活栓7からシリンジを用いて加熱用液体14を円滑に供給できる観点から、3〜12mm2であることが好ましく、図2(A)に示すように、ルーメン4が円形であれば、その内径としては2〜4mmが好ましい。
【0030】
カテーテルシャフトは、図2(B)に示すように、バルーン3の内部に連通した加熱用液体14が通過するルーメン4aと、加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12が挿通するルーメン4bとを有する、ダブルルーメンのカテーテルシャフト2bであっても構わない。
【0031】
また、カテーテルシャフトは、図3又は図5に示すように、外管21のルーメンに内管20が挿入されている、二重管式のカテーテルシャフト2cであっても構わない。この場合、図3に対応する図4に示すように、外管21と内管20との間の空間がバルーン3の内部に連通し、内管20のルーメンに加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12が挿通していることが好ましい。あるいは、図5に対応する図6に示すように、外管21と内管20との間の空間がバルーン3の内部に連通し、該空間に加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12が挿通しており、内管20のルーメンにガイドワイヤ23が挿通していることが好ましい。
【0032】
二重管式のカテーテルシャフト2cの場合、図3又は図5に示すように、バルーン3の先端部は内管20の長手方向における先端部に固定され、バルーン3の後端部は外管21の長手方向における先端部に固定されることが好ましい。
【0033】
側孔5の面積としては、カテーテルシャフト2aの長手方向に対して垂直な断面におけるルーメン4の断面積と同程度であることが好ましい。
【0034】
側孔5を設ける位置としては、加熱用液体4の吸引と吐出によってバルーン内部に渦流を発生させる観点から、バルーン3の先端部付近又は後端部付近に設けられることが好ましいが、複数の側孔が螺旋状に設けられても構わない。なお、図3又は図5に示す二重管式のカテーテルシャフト2cの場合には、側孔5を設ける必要はない。
【0035】
加熱電極9は、バルーン3の内部で、カテーテルシャフト2aに固定されている。加熱電極9が固定された範囲の可撓性を向上させる観点から、加熱電極9を複数個に分割して固定してもよい。
【0036】
加熱電極9を、カテーテルシャフト2aに固定に固定する方法としては、例えば、かしめ、接着、溶着又は熱収縮チューブが挙げられる。
【0037】
加熱電極9の形状としては、長さが10〜20mmのコイル状又は円筒状などの、筒状の形状が好ましい。
【0038】
コイル状の加熱電極9の電線の直径としては、実用性の観点から、0.1〜1mmが好ましい。
【0039】
加熱電極9の材料としては、例えば、金、銀、プラチナ若しくは銅又はこれら金属の合金が挙げられる。
【0040】
加熱電極9に接続された加熱電極用リード線11は、ルーメン4を挿通して加熱装置13に接続される。
【0041】
加熱電極用リード線11の直径としては、実用性の観点から、0.1〜1mmが好ましい。
【0042】
加熱電極用リード線11の材料としては、例えば、銅、銀、金、白金若しくはタングステン又はこれら金属の合金が挙げられるが、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂などの電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。
【0043】
加熱装置13は高周波発生装置であることが好ましく、加熱電極9に供給する高周波電流の周波数としては、患者の感電を防ぐ観点から、100kHz以上が好ましい。
【0044】
温度センサ10は、バルーン3の内部温度を安定して測定する観点から、加熱電極9又はカテーテルシャフト2aに固定されていることが好ましいが、バルーン3の表面温度を測定する観点から、バルーン3の内面に固定されていても構わない。
【0045】
温度センサ10としては、例えば、熱電対又は測温抵抗体が挙げられる。
【0046】
温度センサ10に接続された温度センサ用リード線12は、ルーメン4を挿通して温度制御ユニットに接続される。
【0047】
温度センサ用リード線12の直径としては、実用性の観点から、0.05〜0.5mmが実用的好ましい。
【0048】
温度センサ用リード線12の材料としては、温度センサ10が測温抵抗体であれば、例えば、銅、銀、金、白金若しくはタングステン又はこれら金属の合金が挙げられるが、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂などの電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。また、温度センサ10が熱電対であれば、熱電対と同じ材料であることが好ましく、例えば、T型熱電対の場合には銅とコンスタンタン、K型熱電対の場合にはクロメルとアルメルが挙げられる。
【0049】
加熱用液体14としては、膨張したバルーン3がX線透視画像で確認できる観点から、造影剤又は生理食塩水で希釈した造影剤が好ましい。なお、加熱電極9に高周波電流を供給する場合には、導電性を有する観点から、イオン系造影剤又は生理食塩水で希釈した造影剤が好ましい。
【0050】
振動付与装置6は、三方活栓7及び耐圧延長チューブ8を介して、バルーン付きアブレーションカテーテル1と接続されている。
【0051】
振動付与装置6としては、例えば、ローラーポンプ又はピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプが挙げられる。
【0052】
図7は、図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第一例を示す概略図である。
【0053】
ローラー27は、回転軸25を中心として、モータにより回転駆動される。ローラー27がガイド面30と相対向すると、弾性チューブ26の相対向する管壁同士が密着し、弾性チューブ26が遮断されてリザーバ部31が加圧される。一方、ローラー27がガイド面30と相対向していなければ、弾性チューブ26は弾性復帰作用により元の径に拡径されて、弾性チューブ26が連通状態となってリザーバ部31の圧力が解放される。このように、ローラー27の回転によりリザーバ部31からバルーン3へ向けて液体の吸引と吐出を周期的に繰り返すことで、加熱用液体に振動を付与することが可能である。
【0054】
弾性チューブ26の材料としては、弾性復帰が容易な観点から、シリコーンが好ましい。
【0055】
図9は、図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第二例、すなわち、ピストンとシリンダとを組み合わせたポンプであるシリンジ型振動付与装置32を示す概略図である。
【0056】
固定具34で固定されたシリンダ33に挿入したピストン35の後端は、クランク機構36のアーム37の先端に接続されており、回転体38がモータにより回転駆動することでピストン35が前後するため、接続用コネクタ28を介してバルーン3へ向けて液体の吸引と吐出を周期的繰り返して、加熱用液体に振動を付与することが可能である。
【0057】
加熱用液体14の吸引と吐出は、バルーン3の内部で効果的に渦状の流れが発生させて、短時間にバルーンの表面温度を均一化する観点から、1秒間に1〜5回繰り返されることが好ましい。
【0058】
内径の圧力変動を抑制する観点から、耐圧延長チューブ8の材料としてはポリアミド樹脂又はポリ塩化ビニルが好ましく、その内径としては2〜4mmが好ましく、その長さとしては0.5〜2mが好ましい。
【0059】
また、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して上記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから上記加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して上記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備え、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9であることを特徴とする。
【0060】
「振動付与装置」としては、バルーン3の内部で効果的に渦状の流れを発生させて、短時間にバルーンの表面温度を均一化する観点から、加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返すことが可能である装置が好ましい。
【0061】
加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返すことが可能である装置としては、動作の効率性、形態性及び経済性の観点から、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ、ピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプからなる群から選択されるポンプを備える装置が好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の撹拌方法及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの具体的な実施例を、図を交えて説明する。なお、「長さ」というときは、長手方向における長さを表すものとする。
【0063】
(バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの作製)
ペレセン(ダウ・ケミカル社製)を材料として、ブロー成型法により外径25mm、膜厚40μmのポリウレタン製のバルーン3を作製した。また、外径3.3mm、内径2.5mm、長さ800mmのポリウレタン製のカテーテルシャフト2aを作製した。
【0064】
カテーテルシャフト2aの先端から、ルーメン4に約0.15mLのエポキシ接着剤を充填してルーメン4の先端部分を封止した。また、カテーテルシャフト2aの先端から長さ32mmの位置を中心として、直径2.5mmの側孔5を設けた。
【0065】
カテーテルシャフト2aの先端から長さ15mmの位置を開始点として、銀メッキを施した外径0.4mmの銅線をカテーテルシャフト2aの基端方向に向かって巻き付けて、長さ12mmのコイル状の加熱電極9を形成した。
【0066】
銀メッキを施した外径0.4mmの銅線を加熱電極用リード線11として、加熱電極4の基端に接続して半田で固定した。なお、加熱電極用リード線11には、テフロン樹脂による被覆を施した。
【0067】
外径0.1mmの極細熱電対銅線を一方の温度センサ用リード線12とし、外径0.1mmの極細熱電対コンスタンタン線を他方の温度センサ用リード線12として、温度センサ用リード線12の先端同士を接続して半田で固定して得られたT型熱電対を温度センサ10とした。温度センサ10は、加熱電極9と側孔5の間に接着剤で固定した。なお、温度センサ用リード線12には、テフロン樹脂による被覆を施した。
【0068】
カテーテルシャフト2aの先端から長さ10mmの位置にバルーン3の先端部を合わせて、バルーン3の両端をカテーテルシャフト2aの外周に熱溶着して固定した。
【0069】
カテーテルシャフト2aの基端部にY型コネクタを取り付け、その一方の開口部からルーメン4を挿通した加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12を取り出した上で、その開口部を接着材で封止した。
【0070】
Y型コネクタの開口部から取り出した加熱電極用リード線11は、1.8MHzの周波数を有する高周波発生装置である、加熱装置13に接続した。また、温度センサ用リード線12は、加熱装置13の内部の温度制御ユニットに接続した。
【0071】
Y型コネクタの他方の開口部には三方活栓7を取り付け、三方活栓7には、シリンジと、長さ1m、内径2mm、外径4mmのポリ塩化ビニル製チューブである耐圧延長チューブ8とをそれぞれ接続した。耐圧延長チューブ8の他端は、接続用コネクタ28を介して、3回転/秒で回転するシリンジ型振動付与装置32、すなわち、加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に3回繰り返すシリンジ型振動付与装置32に接続して、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムを完成した。
【0072】
(バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの使用準備)
造影剤(ヘキサブリックス(登録商標);ゲルベ・ジャパン社製)と、生理食塩水との、体積比1:1の混合溶液を加熱用液体14としてシリンジから供給し、バルーン3の内部及びルーメン4の空気抜き作業を行ってから、バルーン3を最大径が25mmになるように膨張させた。
【0073】
次に、三方活栓7を切り替えて耐圧延長チューブ8内の空気抜き作業を行ってから、さらに三方活栓7を切り替えて、シリンジ型振動付与装置32と、ルーメン4とを連通させた。
【0074】
(ルーメンから吐出される加熱用液体の体積測定)
図9に、振動付与装置によりルーメンから吐出又は吸引される加熱用液体の体積を測定するための実験系を示す。バルーン付きアブレーションカテーテル1からバルーン3を取り除き、側孔5の位置に合わせて固定した取り付け具40を介して、ルーメン4と、目盛付のガラス管41とを連通させた。
【0075】
ルーメン4、耐圧延長チューブ8及び弾性チューブ26の空気抜き作業を行った後、三方活栓7に取り付けたシリンジから加熱用液体14を供給し、ガラス管41内の液面を上昇させて、目盛が0(mL)の位置に液面を合わせた。
【0076】
次に、三方活栓7を切り替えて、耐圧延長チューブ8と、ルーメン4とを連通させてから振動付与装置6を作動し、ガラス管41内で上下移動する液面の、下限に対応する目盛値(mL)と、上限に対応する目盛値(mL)を読み取って、両値の差を、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積とした。
【0077】
(バルーンの表面温度測定)
図10に、バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面温度を測定するための実験系を示す。水槽42に生理食塩水を35L入れて、37℃に保温した。水槽42の内壁に貼られた、加熱電極9の対極板である板状電極43(型番354;ValleyLab社製)は、加熱装置13に接続した。
【0078】
透明容器に、最大径が25mmになるように膨張させたバルーン3が嵌合する形状に成形した、ポリアクリルアミド製の疑似心筋組織44を作製し、水槽42内に設置した。
【0079】
バルーン3を水槽42内の生理食塩水に浸漬してから、最大径25mmになるように膨張させて疑似心筋組織44に嵌合してから、図11に示すように、バルーン3の円周方向の4ヶ所に等間隔で温度センサ45〜48、すなわち、温度センサA〜Dを配置し、それぞれ記録計49に接続した。
【0080】
加熱装置13及びシリンジ型振動付与装置32を同時に作動させ、設定温度70℃でバルーン3を加熱して、記録計49で、加熱開始から120秒後の温度センサ45〜48が接するバルーン表面の温度をそれぞれ測定した。
【0081】
(実施例1)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.17mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0082】
(実施例2)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.72mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0083】
(比較例1)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.15mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0084】
(比較例2)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.75mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0085】
表1に、実施例1、2及び比較例1、2それぞれの、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積(以下、「吐出体積」)、バルーン3の膨張体積(以下、「バルーン体積」)、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積をバルーン3の膨張体積で除して100を乗じた値(以下、「体積比」)、温度センサA〜Dの温度測定値を示す。さらに、温度センサA〜Dの温度測定値の、最高値と最低値の差(以下、「表面温度差」)についても、併せて表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
体積比が2以上の実施例1では、バルーン3の表面温度差は2℃以下であったのに対し、体積比が2以下の比較例1では、バルーン3の表面温度差は7℃以上にもなった。
【0088】
体積比が2以下の場合には、吐出体積が小さすぎるために撹拌が不足して、表面温度差が大きくなるものと考えられる。
【0089】
一方で、実施例2において、体積比が9以下の実施例2では、バルーン3の表面温度差は1℃以下であったのに対し、体積比が9以上の比較例2では、バルーン3の表面温度差は6℃以上にもなった。
【0090】
体積比が9以上の場合には、吐出体積が大きすぎるためにルーメン4に吸引され、冷却された加熱用液体14が、再びバルーン3の内部に多量に吐出されることで、表面温度差が大きくなるものと考えられる。
【0091】
表1の結果から、体積比、すなわち、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積をバルーン3の膨張体積で除して100を乗じた値が2〜9の範囲にあることが、バルーン3の表面温度のバラツキをなくすために好適であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、心房細動などの不整脈や癌細胞等を治療するためのバルーン付きアブレーションカテーテルシステムとして用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1・・・バルーン付きアブレーションカテーテル、2a,2b,2c・・・カテーテルシャフト、3・・・バルーン、4,4a,4b・・・ルーメン、5・・・側孔、6・・・振動付与装置、7・・・三方活栓、8・・・耐圧延長チューブ、9・・・加熱電極、10・・・温度センサ、11・・・加熱電極用リード線、12・・・温度センサ用リード線、13・・・加熱装置、14・・・加熱用液体、15・・・バルーン付きアブレーションカテーテルシステム、20・・・内管、21・・・外管、22・・・中心ルーメン、23・・・ガイドワイヤ、24・・・ローラーポンプ型振動付与装置、25・・・回転軸、26・・・弾性チューブ、27・・・ローラー、28・・・接続用コネクタ、29・・・封止用コネクタ、30・・・ガイド面、31・・・リザーバ部、32・・・シリンジ型振動付与装置、33・・・シリンダ、34・・・固定具、35・・・ピストン、36・・・クランク、37・・・アーム、38・・・回転体、39・・・調節溝、40・・・取り付け具、41・・・ガラス管、42・・・水槽、43・・・板状電極、44・・・疑似心筋組織、45・・・温度センサA、46・・・温度センサB、47・・・温度センサC、48・・・温度センサD、49・・・記録計
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌方法及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カテーテルアブレーションは、心腔内にアブレーション用カテーテルを挿入し、先端電極と対極板の間で熱を加えて心筋組織を焼灼し、不整脈を治療する方法である。カテーテルアブレーションは、主に、発作性上室性頻拍、心房頻拍、心房粗動、発作性心室頻拍などの頻脈性不整脈の治療のために施され、心臓電気生理学的検査で不整脈の発生機序及び発生部位を診断した後に、アブレーション用カテーテルの電極を心腔内から不整脈の発生部位へと到達させ、そこで原因となる心筋組織に電極を押し当て、53〜60℃で約60秒間温める操作を繰り返す手法である。
【0003】
現在使用されているアブレーションカテーテルの多くは、カテーテルの先端部に長さ4〜8mm、直径2〜3mmの金属製電極を有するものであるため、金属製電極部を不整脈の原因となる心筋組織に点状に接触させ、少しずつ移動させながら焼灼ラインを形成し、不整脈の発生源を隔離する手法をとるのが一般的である(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、金属製電極を有するアブレーション用カテーテルでは、焼灼ラインを形成して不整脈の発生源を隔離するのに数十回のアブレーションを繰り返す必要があるため、手技が長時間化し、患者に多大な負担をかけるという問題点があった。また、アブレーション用カテーテルで焼灼ラインを形成するには、小さな金属製電極を心筋組織の標的部位に正確に接触させる必要があるため、医師にアブレーション用カテーテルを操る高度な技術が必要であった。さらに、心筋組織は点状に焼灼されるため、焼灼部位間に隙間のある不十分な焼灼ラインが形成されてしまうことがあり、この場合には、不整脈の発生源を完全に隔離できず、不整脈を再発させてしまう可能性があった。
【0005】
近年、カテーテルチューブの先端にバルーンを有するバルーン付きアブレーションカテーテルが開発され、高周波発生装置及びバルーン表面温度均一化装置を備えたバルーン付きアブレーションカテーテルシステムが報告されている(特許文献2及び3)。
【0006】
バルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、カテーテルの先端に取り付けられたバルーンを加熱用液体で膨張させ、高周波発生装置から通電された高周波電流によって加熱用液体を加熱し、バルーン表面と接触した心筋組織全体を焼灼するシステムである。バルーン表面の温度は、バルーン表面温度均一化装置、例えば、バルーン内に充填された加熱用液体に振動を印加する振動印加装置により調節され、バルーン内部に配置された温度センサにより制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4151910号公報
【特許文献2】特許第3607231号公報
【特許文献3】特許第3892438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを用いた治療では、患者の組織学的特徴及び不整脈の発生部位の状態に応じてバルーンサイズを適宜調節する必要があり、この場合において、特許文献2及び3で開示された振動印加装置によるバルーン表面温度均一化手段では、さまざまなサイズのバルーンに応じてバルーン表面温度を均一に維持することは困難なことであった。
【0009】
さらに、バルーン表面温度を均一に維持することに時間を要すると、カテーテルを挿入後の手技が長時間化するため、患者に多大な負担をかけることとなるという問題点があった。
【0010】
そこで本発明の目的は、バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面の温度のバラツキをなくすと共に、短時間でバルーン表面温度の均一化を図り、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムによる治療効果を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面の温度のバラツキをなくすためには、加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返してバルーン内の加熱用液体に振動を付与する際、大容量の吸引と吐出を激しく繰り返すのではなく、むしろ一定範囲内の小容量の吸引と吐出を繰り返すことが効果的であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して上記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して上記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置とを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおける上記加熱用液体を、上記振動により撹拌する撹拌方法であって、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9となるように上記加熱用液体を振動させる撹拌方法を提供する。
【0013】
上記振動付与装置は、上記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す装置であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して前記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから前記加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して前記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備え、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9である、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを提供する。
【0015】
上記振動付与装置は、上記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す装置であることが好ましく、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ、ピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプからなる群から選択されるポンプを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バルーン付きアブレーションカテーテルに装備されている様々なサイズのバルーンの表面温度を均一に維持することが可能となり、バルーン表面温度を均一に維持するために要する時間を短縮できる。さらに本発明によれば、焼灼部位のムラを無くすことができるために治療効果が高まり、患者負担も大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの概略図である。
【図2】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに使用されるカテーテルシャフトのA−A’線における断面の概略図である。(A)はルーメンを1つ有するカテーテルシャフトの例であり、(B)はルーメンを2つ有するカテーテルシャフトの例である。
【図3】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに使用可能なバルーン付きアブレーションカテーテルの第二例を示す概略図である。
【図4】図3のカテーテルシャフトのB−B’線における断面の概略図である。
【図5】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに使用可能なバルーン付きアブレーションカテーテルの第三例を示す概略図である。
【図6】図5のカテーテルシャフトのC−C’線における断面の概略図である。
【図7】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第一例を示す概略図である。
【図8】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第二例を示す概略図である。
【図9】振動付与装置によりルーメンから吐出又は吸引される加熱用液体の体積を測定するための実験系を示した図である。
【図10】バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面温度を測定するための実験系を示した図である。
【図11】図10におけるバルーンと該バルーンに取り付けられた温度センサ及び擬似心筋組織との位置関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致していない。
【0019】
本発明の撹拌方法は、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して上記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して上記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおける上記加熱用液体を、上記振動により撹拌する撹拌方法であって、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9となるように上記加熱用液体を振動させることを特徴としている。
【0020】
図1は、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの概略図である。
【0021】
図1に示されるバルーン付きアブレーションカテーテルシステム15は、大きく分けてバルーン付きアブレーションカテーテル1、振動付与装置6及び加熱装置13から構成される。
【0022】
バルーン付きアブレーションカテーテル1は、カテーテルシャフト2aの先端側に膨張及び収縮可能なバルーン3を備え、バルーン3の先端部及び後端部はカテーテルシャフト2aに固定されている。カテーテルシャフト2aは、その内部を貫通するルーメン4を有し、ルーメン4は、カテーテルシャフト2aの先端部の側孔5によって、バルーン3の内部と連通している。カテーテルシャフト2aの基端側のルーメン4は、三方活栓7と、耐圧延長チューブ8とを介して、振動付与装置6に接続されている。加熱電極9は、バルーン3内部で、カテーテルシャフト2aに固定されており、温度センサ10は、加熱電極9の基端に固定されている。加熱電極9に接続された加熱電極用リード線11と、温度センサ10に接続された温度センサ用リード線12とは、ルーメン4を挿通して、加熱装置13に接続されている。
【0023】
カテーテルシャフト2aの長さとしては、バルーン3を心筋組織へ到達させる観点から、0.5〜2mが好ましい。
【0024】
カテーテルシャフト2aの直径としては、血管内へ挿入する観点から、3〜5mmであることが好ましい。
【0025】
カテーテルシャフト2aの材料としては、抗血栓性に優れる可撓性のある材料が好ましく、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂又はポリイミド樹脂が挙げられる。
【0026】
不整脈の発生部位に密着できる観点から、バルーン3の直径としては20〜40mmが好ましく、形状としては球形が好ましく、膜厚としては20〜100μmが好ましい。
【0027】
バルーン3の材料としては、抗血栓性に優れた伸縮性のある材料が好ましく、ポリウレタン系の高分子材料がより好ましい。
【0028】
ポリウレタン系の高分子材料としては、例えば、熱可塑性ポリエーテルウレタン、ポリエーテルポリウレタンウレア、フッ素ポリエーテルウレタンウレア、ポリエーテルポリウレタンウレア樹脂又はポリエーテルポリウレタンウレアアミドが挙げられる。
【0029】
カテーテルシャフト2aの長手方向に対して垂直な断面におけるルーメン4の断面積としては、三方活栓7からシリンジを用いて加熱用液体14を円滑に供給できる観点から、3〜12mm2であることが好ましく、図2(A)に示すように、ルーメン4が円形であれば、その内径としては2〜4mmが好ましい。
【0030】
カテーテルシャフトは、図2(B)に示すように、バルーン3の内部に連通した加熱用液体14が通過するルーメン4aと、加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12が挿通するルーメン4bとを有する、ダブルルーメンのカテーテルシャフト2bであっても構わない。
【0031】
また、カテーテルシャフトは、図3又は図5に示すように、外管21のルーメンに内管20が挿入されている、二重管式のカテーテルシャフト2cであっても構わない。この場合、図3に対応する図4に示すように、外管21と内管20との間の空間がバルーン3の内部に連通し、内管20のルーメンに加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12が挿通していることが好ましい。あるいは、図5に対応する図6に示すように、外管21と内管20との間の空間がバルーン3の内部に連通し、該空間に加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12が挿通しており、内管20のルーメンにガイドワイヤ23が挿通していることが好ましい。
【0032】
二重管式のカテーテルシャフト2cの場合、図3又は図5に示すように、バルーン3の先端部は内管20の長手方向における先端部に固定され、バルーン3の後端部は外管21の長手方向における先端部に固定されることが好ましい。
【0033】
側孔5の面積としては、カテーテルシャフト2aの長手方向に対して垂直な断面におけるルーメン4の断面積と同程度であることが好ましい。
【0034】
側孔5を設ける位置としては、加熱用液体4の吸引と吐出によってバルーン内部に渦流を発生させる観点から、バルーン3の先端部付近又は後端部付近に設けられることが好ましいが、複数の側孔が螺旋状に設けられても構わない。なお、図3又は図5に示す二重管式のカテーテルシャフト2cの場合には、側孔5を設ける必要はない。
【0035】
加熱電極9は、バルーン3の内部で、カテーテルシャフト2aに固定されている。加熱電極9が固定された範囲の可撓性を向上させる観点から、加熱電極9を複数個に分割して固定してもよい。
【0036】
加熱電極9を、カテーテルシャフト2aに固定に固定する方法としては、例えば、かしめ、接着、溶着又は熱収縮チューブが挙げられる。
【0037】
加熱電極9の形状としては、長さが10〜20mmのコイル状又は円筒状などの、筒状の形状が好ましい。
【0038】
コイル状の加熱電極9の電線の直径としては、実用性の観点から、0.1〜1mmが好ましい。
【0039】
加熱電極9の材料としては、例えば、金、銀、プラチナ若しくは銅又はこれら金属の合金が挙げられる。
【0040】
加熱電極9に接続された加熱電極用リード線11は、ルーメン4を挿通して加熱装置13に接続される。
【0041】
加熱電極用リード線11の直径としては、実用性の観点から、0.1〜1mmが好ましい。
【0042】
加熱電極用リード線11の材料としては、例えば、銅、銀、金、白金若しくはタングステン又はこれら金属の合金が挙げられるが、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂などの電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。
【0043】
加熱装置13は高周波発生装置であることが好ましく、加熱電極9に供給する高周波電流の周波数としては、患者の感電を防ぐ観点から、100kHz以上が好ましい。
【0044】
温度センサ10は、バルーン3の内部温度を安定して測定する観点から、加熱電極9又はカテーテルシャフト2aに固定されていることが好ましいが、バルーン3の表面温度を測定する観点から、バルーン3の内面に固定されていても構わない。
【0045】
温度センサ10としては、例えば、熱電対又は測温抵抗体が挙げられる。
【0046】
温度センサ10に接続された温度センサ用リード線12は、ルーメン4を挿通して温度制御ユニットに接続される。
【0047】
温度センサ用リード線12の直径としては、実用性の観点から、0.05〜0.5mmが実用的好ましい。
【0048】
温度センサ用リード線12の材料としては、温度センサ10が測温抵抗体であれば、例えば、銅、銀、金、白金若しくはタングステン又はこれら金属の合金が挙げられるが、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂などの電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。また、温度センサ10が熱電対であれば、熱電対と同じ材料であることが好ましく、例えば、T型熱電対の場合には銅とコンスタンタン、K型熱電対の場合にはクロメルとアルメルが挙げられる。
【0049】
加熱用液体14としては、膨張したバルーン3がX線透視画像で確認できる観点から、造影剤又は生理食塩水で希釈した造影剤が好ましい。なお、加熱電極9に高周波電流を供給する場合には、導電性を有する観点から、イオン系造影剤又は生理食塩水で希釈した造影剤が好ましい。
【0050】
振動付与装置6は、三方活栓7及び耐圧延長チューブ8を介して、バルーン付きアブレーションカテーテル1と接続されている。
【0051】
振動付与装置6としては、例えば、ローラーポンプ又はピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプが挙げられる。
【0052】
図7は、図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第一例を示す概略図である。
【0053】
ローラー27は、回転軸25を中心として、モータにより回転駆動される。ローラー27がガイド面30と相対向すると、弾性チューブ26の相対向する管壁同士が密着し、弾性チューブ26が遮断されてリザーバ部31が加圧される。一方、ローラー27がガイド面30と相対向していなければ、弾性チューブ26は弾性復帰作用により元の径に拡径されて、弾性チューブ26が連通状態となってリザーバ部31の圧力が解放される。このように、ローラー27の回転によりリザーバ部31からバルーン3へ向けて液体の吸引と吐出を周期的に繰り返すことで、加熱用液体に振動を付与することが可能である。
【0054】
弾性チューブ26の材料としては、弾性復帰が容易な観点から、シリコーンが好ましい。
【0055】
図9は、図1のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の第二例、すなわち、ピストンとシリンダとを組み合わせたポンプであるシリンジ型振動付与装置32を示す概略図である。
【0056】
固定具34で固定されたシリンダ33に挿入したピストン35の後端は、クランク機構36のアーム37の先端に接続されており、回転体38がモータにより回転駆動することでピストン35が前後するため、接続用コネクタ28を介してバルーン3へ向けて液体の吸引と吐出を周期的繰り返して、加熱用液体に振動を付与することが可能である。
【0057】
加熱用液体14の吸引と吐出は、バルーン3の内部で効果的に渦状の流れが発生させて、短時間にバルーンの表面温度を均一化する観点から、1秒間に1〜5回繰り返されることが好ましい。
【0058】
内径の圧力変動を抑制する観点から、耐圧延長チューブ8の材料としてはポリアミド樹脂又はポリ塩化ビニルが好ましく、その内径としては2〜4mmが好ましく、その長さとしては0.5〜2mが好ましい。
【0059】
また、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、上記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して上記バルーン内部と連通するルーメンと、上記バルーン内部に配置された加熱電極と、上記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、上記ルーメンから上記加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して上記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備え、上記振動付与装置により上記ルーメンから上記バルーンに向けて吐出される上記加熱用液体の1回当たりの体積を上記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9であることを特徴とする。
【0060】
「振動付与装置」としては、バルーン3の内部で効果的に渦状の流れを発生させて、短時間にバルーンの表面温度を均一化する観点から、加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返すことが可能である装置が好ましい。
【0061】
加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返すことが可能である装置としては、動作の効率性、形態性及び経済性の観点から、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ、ピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプからなる群から選択されるポンプを備える装置が好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の撹拌方法及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの具体的な実施例を、図を交えて説明する。なお、「長さ」というときは、長手方向における長さを表すものとする。
【0063】
(バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの作製)
ペレセン(ダウ・ケミカル社製)を材料として、ブロー成型法により外径25mm、膜厚40μmのポリウレタン製のバルーン3を作製した。また、外径3.3mm、内径2.5mm、長さ800mmのポリウレタン製のカテーテルシャフト2aを作製した。
【0064】
カテーテルシャフト2aの先端から、ルーメン4に約0.15mLのエポキシ接着剤を充填してルーメン4の先端部分を封止した。また、カテーテルシャフト2aの先端から長さ32mmの位置を中心として、直径2.5mmの側孔5を設けた。
【0065】
カテーテルシャフト2aの先端から長さ15mmの位置を開始点として、銀メッキを施した外径0.4mmの銅線をカテーテルシャフト2aの基端方向に向かって巻き付けて、長さ12mmのコイル状の加熱電極9を形成した。
【0066】
銀メッキを施した外径0.4mmの銅線を加熱電極用リード線11として、加熱電極4の基端に接続して半田で固定した。なお、加熱電極用リード線11には、テフロン樹脂による被覆を施した。
【0067】
外径0.1mmの極細熱電対銅線を一方の温度センサ用リード線12とし、外径0.1mmの極細熱電対コンスタンタン線を他方の温度センサ用リード線12として、温度センサ用リード線12の先端同士を接続して半田で固定して得られたT型熱電対を温度センサ10とした。温度センサ10は、加熱電極9と側孔5の間に接着剤で固定した。なお、温度センサ用リード線12には、テフロン樹脂による被覆を施した。
【0068】
カテーテルシャフト2aの先端から長さ10mmの位置にバルーン3の先端部を合わせて、バルーン3の両端をカテーテルシャフト2aの外周に熱溶着して固定した。
【0069】
カテーテルシャフト2aの基端部にY型コネクタを取り付け、その一方の開口部からルーメン4を挿通した加熱電極用リード線11及び温度センサ用リード線12を取り出した上で、その開口部を接着材で封止した。
【0070】
Y型コネクタの開口部から取り出した加熱電極用リード線11は、1.8MHzの周波数を有する高周波発生装置である、加熱装置13に接続した。また、温度センサ用リード線12は、加熱装置13の内部の温度制御ユニットに接続した。
【0071】
Y型コネクタの他方の開口部には三方活栓7を取り付け、三方活栓7には、シリンジと、長さ1m、内径2mm、外径4mmのポリ塩化ビニル製チューブである耐圧延長チューブ8とをそれぞれ接続した。耐圧延長チューブ8の他端は、接続用コネクタ28を介して、3回転/秒で回転するシリンジ型振動付与装置32、すなわち、加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に3回繰り返すシリンジ型振動付与装置32に接続して、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムを完成した。
【0072】
(バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの使用準備)
造影剤(ヘキサブリックス(登録商標);ゲルベ・ジャパン社製)と、生理食塩水との、体積比1:1の混合溶液を加熱用液体14としてシリンジから供給し、バルーン3の内部及びルーメン4の空気抜き作業を行ってから、バルーン3を最大径が25mmになるように膨張させた。
【0073】
次に、三方活栓7を切り替えて耐圧延長チューブ8内の空気抜き作業を行ってから、さらに三方活栓7を切り替えて、シリンジ型振動付与装置32と、ルーメン4とを連通させた。
【0074】
(ルーメンから吐出される加熱用液体の体積測定)
図9に、振動付与装置によりルーメンから吐出又は吸引される加熱用液体の体積を測定するための実験系を示す。バルーン付きアブレーションカテーテル1からバルーン3を取り除き、側孔5の位置に合わせて固定した取り付け具40を介して、ルーメン4と、目盛付のガラス管41とを連通させた。
【0075】
ルーメン4、耐圧延長チューブ8及び弾性チューブ26の空気抜き作業を行った後、三方活栓7に取り付けたシリンジから加熱用液体14を供給し、ガラス管41内の液面を上昇させて、目盛が0(mL)の位置に液面を合わせた。
【0076】
次に、三方活栓7を切り替えて、耐圧延長チューブ8と、ルーメン4とを連通させてから振動付与装置6を作動し、ガラス管41内で上下移動する液面の、下限に対応する目盛値(mL)と、上限に対応する目盛値(mL)を読み取って、両値の差を、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積とした。
【0077】
(バルーンの表面温度測定)
図10に、バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面温度を測定するための実験系を示す。水槽42に生理食塩水を35L入れて、37℃に保温した。水槽42の内壁に貼られた、加熱電極9の対極板である板状電極43(型番354;ValleyLab社製)は、加熱装置13に接続した。
【0078】
透明容器に、最大径が25mmになるように膨張させたバルーン3が嵌合する形状に成形した、ポリアクリルアミド製の疑似心筋組織44を作製し、水槽42内に設置した。
【0079】
バルーン3を水槽42内の生理食塩水に浸漬してから、最大径25mmになるように膨張させて疑似心筋組織44に嵌合してから、図11に示すように、バルーン3の円周方向の4ヶ所に等間隔で温度センサ45〜48、すなわち、温度センサA〜Dを配置し、それぞれ記録計49に接続した。
【0080】
加熱装置13及びシリンジ型振動付与装置32を同時に作動させ、設定温度70℃でバルーン3を加熱して、記録計49で、加熱開始から120秒後の温度センサ45〜48が接するバルーン表面の温度をそれぞれ測定した。
【0081】
(実施例1)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.17mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0082】
(実施例2)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.72mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0083】
(比較例1)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.15mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0084】
(比較例2)
ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積が0.75mLとなるように調整した上で、加熱開始から120秒後のバルーン表面温度を測定した。
【0085】
表1に、実施例1、2及び比較例1、2それぞれの、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積(以下、「吐出体積」)、バルーン3の膨張体積(以下、「バルーン体積」)、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積をバルーン3の膨張体積で除して100を乗じた値(以下、「体積比」)、温度センサA〜Dの温度測定値を示す。さらに、温度センサA〜Dの温度測定値の、最高値と最低値の差(以下、「表面温度差」)についても、併せて表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
体積比が2以上の実施例1では、バルーン3の表面温度差は2℃以下であったのに対し、体積比が2以下の比較例1では、バルーン3の表面温度差は7℃以上にもなった。
【0088】
体積比が2以下の場合には、吐出体積が小さすぎるために撹拌が不足して、表面温度差が大きくなるものと考えられる。
【0089】
一方で、実施例2において、体積比が9以下の実施例2では、バルーン3の表面温度差は1℃以下であったのに対し、体積比が9以上の比較例2では、バルーン3の表面温度差は6℃以上にもなった。
【0090】
体積比が9以上の場合には、吐出体積が大きすぎるためにルーメン4に吸引され、冷却された加熱用液体14が、再びバルーン3の内部に多量に吐出されることで、表面温度差が大きくなるものと考えられる。
【0091】
表1の結果から、体積比、すなわち、ルーメン4からバルーン3に向けて吐出される加熱用液体の1回当たりの体積をバルーン3の膨張体積で除して100を乗じた値が2〜9の範囲にあることが、バルーン3の表面温度のバラツキをなくすために好適であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、心房細動などの不整脈や癌細胞等を治療するためのバルーン付きアブレーションカテーテルシステムとして用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1・・・バルーン付きアブレーションカテーテル、2a,2b,2c・・・カテーテルシャフト、3・・・バルーン、4,4a,4b・・・ルーメン、5・・・側孔、6・・・振動付与装置、7・・・三方活栓、8・・・耐圧延長チューブ、9・・・加熱電極、10・・・温度センサ、11・・・加熱電極用リード線、12・・・温度センサ用リード線、13・・・加熱装置、14・・・加熱用液体、15・・・バルーン付きアブレーションカテーテルシステム、20・・・内管、21・・・外管、22・・・中心ルーメン、23・・・ガイドワイヤ、24・・・ローラーポンプ型振動付与装置、25・・・回転軸、26・・・弾性チューブ、27・・・ローラー、28・・・接続用コネクタ、29・・・封止用コネクタ、30・・・ガイド面、31・・・リザーバ部、32・・・シリンジ型振動付与装置、33・・・シリンダ、34・・・固定具、35・・・ピストン、36・・・クランク、37・・・アーム、38・・・回転体、39・・・調節溝、40・・・取り付け具、41・・・ガラス管、42・・・水槽、43・・・板状電極、44・・・疑似心筋組織、45・・・温度センサA、46・・・温度センサB、47・・・温度センサC、48・・・温度センサD、49・・・記録計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルシャフトと、前記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、前記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して前記バルーン内部と連通するルーメンと、前記バルーン内部に配置された加熱電極と、前記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、前記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して前記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおける前記加熱用液体を、前記振動により撹拌する撹拌方法であって、
前記振動付与装置により前記ルーメンから前記バルーンに向けて吐出される前記加熱用液体の1回当たりの体積を前記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9となるように前記加熱用液体を振動させる、撹拌方法。
【請求項2】
前記振動付与装置は、前記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す、請求項1記載の撹拌方法。
【請求項3】
カテーテルシャフトと、
前記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、
前記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して前記バルーン内部と連通するルーメンと、
前記バルーン内部に配置された加熱電極と、
前記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、
前記ルーメンから前記加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して前記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、
を備え、
前記振動付与装置により前記ルーメンから前記バルーンに向けて吐出される前記加熱用液体の1回当たりの体積を前記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9である、
バルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【請求項4】
前記振動付与装置は、前記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す、請求項3記載のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【請求項5】
前記振動付与装置は、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ、ピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプからなる群から選択されるポンプを備える、請求項3又は4記載のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【請求項1】
カテーテルシャフトと、前記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、前記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して前記バルーン内部と連通するルーメンと、前記バルーン内部に配置された加熱電極と、前記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、前記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して前記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおける前記加熱用液体を、前記振動により撹拌する撹拌方法であって、
前記振動付与装置により前記ルーメンから前記バルーンに向けて吐出される前記加熱用液体の1回当たりの体積を前記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9となるように前記加熱用液体を振動させる、撹拌方法。
【請求項2】
前記振動付与装置は、前記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す、請求項1記載の撹拌方法。
【請求項3】
カテーテルシャフトと、
前記カテーテルシャフトに取り付けられたバルーンと、
前記カテーテルシャフトを長軸方向に貫通して前記バルーン内部と連通するルーメンと、
前記バルーン内部に配置された加熱電極と、
前記加熱電極に電気的エネルギーを加える加熱装置と、
前記ルーメンから前記加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して前記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、
を備え、
前記振動付与装置により前記ルーメンから前記バルーンに向けて吐出される前記加熱用液体の1回当たりの体積を前記バルーンの膨張体積で除して100を乗じた値が、2〜9である、
バルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【請求項4】
前記振動付与装置は、前記加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返す、請求項3記載のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【請求項5】
前記振動付与装置は、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ、ピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプからなる群から選択されるポンプを備える、請求項3又は4記載のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−233810(P2010−233810A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85006(P2009−85006)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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