説明

撹拌翼、撹拌装置および重合反応装置

【課題】ラテックスの製造上問題となるCGの発生や、ラテックスの品質上重要な特性となる粗大粒子の量を極力減らすことができる撹拌翼および重合反応方法を提供する。
【解決手段】竪形円筒状の撹拌槽1内中心部に撹拌軸2を設け、該撹拌軸に幅広パドル翼3を槽底部に近接するように配置し、さらに該幅広パドル翼上部の該撹拌軸上に1段以上のH型パドル翼4を配置し、該H型パドル翼を回転方向に対し上下に隣接する下段の撹拌翼よりも0.1〜90°の交差角で先行させ、かつ、上下に隣接する撹拌翼の一部に重なりを持たせて攪拌を行う、重合反応方法、攪拌装置、攪拌翼。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層流域から乱流域における広範囲の撹拌操作において、液−液混合、気−液混合、固−液混合、気−液−固混合、液−液・気−液・固−液・気−液−固系の反応および蒸留・濃縮、晶析、溶解、けん濁、分散等の操作を効率よく行うための撹拌装置を用い、重合体ラテックスを製造する際のCG(コアギュラム)や粗大粒子量の増加や高濃度化(高粘度化)に伴う伝熱性能の低下、モノマーエマルジョンの反応中添加時の槽内圧上昇など、種々の問題を解決するものである。
【0002】
たとえば重合体ラテックスを製造する際などに、撹拌翼を備えた撹拌装置が用いられる。従来の撹拌装置としては、種々のものが知られている。撹拌装置の槽の内径に対する液の高さは、反応の形態に応じて様々であるが、容量当りの伝熱性能を高めて生産性を高めることができるなどの理由から、液の高さが2.0を超える高液深型の重合撹拌装置も、重合反応用撹拌装置として好ましく用いられている。
このような高液深型の撹拌装置に用いられる撹拌翼としては、たとえば多段の傾斜パドル翼を用いたものが知られている。また、2.0を下回る場合には、アンカー翼やヘリカルリボン翼といった大型翼を用いたものが知られている。
【0003】
ところが、この従来の撹拌翼を有する撹拌装置を用いて、重合体ラテックスを製造しようとした場合には、上下混合の悪さ、剪断応力の高さ等に起因するCG(コアギュラム)や粗大粒子量の増加や高濃度化(高粘度化)に伴う伝熱性能の低下、モノマーエマルジョンの反応中添加時の槽内圧上昇など、種々の問題があった。
【0004】
また、特開平7−278210号公報や特開平7−292002号公報に示すように、撹拌回転軸に沿って二段以上の平板状パドル翼を有する撹拌装置も知られている。
【0005】
ところが、これら公報に示す撹拌装置では、撹拌回転軸に沿って多段の平板状パドル翼を有するため、翼間の流動滞留部が発生し、均一な混合性能の点で難点があることが、本発明者等の実験により判明した。特に槽の形状、即ち撹拌装置の槽の内径に対する液の高さの違いに、均一混合性能が良化したり悪化したりと、変化の著しいことが判明した。
【0006】
さらに、特開昭61−200842号公報や特開平6−312122号公報に示すように、格子状の撹拌翼を有する撹拌装置も開発されている。
【0007】
この格子状の撹拌翼を有する撹拌装置によれば、多段傾斜パドル翼を有する撹拌装置や、多段平板状パドル翼を有する撹拌装置などに比べれば、均一混合特性が向上し、重合の粗大粒子量を少なくすることができることが、本発明者等の実験により判明している。
【0008】
しかしながら、たとえばラテックスの製造においては、均一混合特性をさらに向上させることが望まれていると共に、CGや重合の粗大粒子量をさらに少なくすることが望まれている。
【0009】
更に、ボトムパドル部、アーム部と、第1および第2ストリップ部とを含む翼を使用して、CGや重合による粗大粒子の削減が示されているが、撹拌装置の槽の内径に対する液の高さが2.0を超える高液深型の重合撹拌装置に限定されており、現在保有する反応装置の撹拌翼のみを交換するというような低コストな方法では、発明効果を発現させることが出来ず、汎用性に欠けていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
【特許文献1】特開平10−33966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、一般的な反応装置において容易に実現可能な、たとえばラテックスの製造上問題となるCGの発生や、ラテックスの品質上重要な特性となる粗大粒子の量を極力減らすことができる撹拌翼および重合反応方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、竪形円筒状の撹拌装置内中心部に撹拌軸を設け、撹拌軸に幅広パドル翼を槽底部に近接するように配置し、さらに該幅広パドル翼上部の撹拌軸上に1段以上のH型パドル翼を配置し、H型パドル翼を回転方向に対し上下に隣接する下段の撹拌翼よりも先行させ、かつ、上下に隣接する撹拌翼の一部に重なりを持たせることが上記課題を解決することを見出した。
【0013】
即ち、本発明は、竪形円筒状の撹拌槽内中心部に撹拌軸を設け、該撹拌軸に幅広パドル翼を槽底部に近接するように配置し、さらに該幅広パドル翼上部の該撹拌軸上に1段以上のH型パドル翼を配置し、該H型パドル翼を回転方向に対し上下に隣接する下段の撹拌翼よりも0.1〜90°の交差角で先行させ、かつ、上下に隣接する撹拌翼の一部に重なりを持たせたことを特徴とする撹拌装置を用いて撹拌を行い、重合反応を生じさせることを特徴とする重合反応方法、撹拌装置、撹拌翼を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、品質上重要な特性となる粗大粒子の量を極力減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の撹拌翼について、説明する。図1は、本発明による撹拌装置の一実施形態を示す模式図である。
【0016】
撹拌槽1の槽底部に、撹拌軸2上に配置した幅広パドル翼3と、その上部で同一撹拌軸上に配置したH型のパドル翼4よりなる撹拌装置で、幅広パドル翼3は、下端部を撹拌槽の底壁面に近接させて槽底部に配置し、翼先端部が回転方向に対して後退した形状であり、上端中央に凹部を有する構造となっている。
【0017】
幅広パドル翼3は、槽内全体にわたる循環流を形成するのに十分な大きさの形状とすることが好ましいので、槽内径に対する翼径の比(d/D)は0.6から0.8の範囲とすることが好ましい(例えば、図1では0.77であり、図2では0.6である)。
【0018】
さらに、この幅広パドル翼3の槽直胴部長さに対する翼高さの比(h/L)としては0.2から0.5の範囲が好ましいが、一般に翼高さは槽内径に対する比として表現されることが多く、この表現に従えば、槽内径に対する翼高さの比(h/D)として0.3から0.5が好ましい(例えば、図1ではh/D=0.3であり、図2では0.45である)。
【0019】
H型パドル翼4は状況に応じ、1段もしくは複数段使用するが、本実施形態においては1段のH型パドル翼4を使用した場合を示している。H型パドル翼4が1段の場合、回転方向に対し0〜90°、より好ましくは30〜60°の範囲の交差角で、槽底部に設置した幅広パドル翼3よりも先行させて配置し、かつ、幅広パドル翼3とH型パドル翼4とは軸方向に対して重なりを有する。
【0020】
また、上述した各部材の位置関係を有した撹拌装置として、図2に示すような他の実施の形態や、図3に示すように翼の強度を確保するためにH型パドル翼が連結したような変形のH型パドル翼4であってもよい。
【0021】
また、図4に示すように、H型パドル翼を複数段使用する場合は(図4においてはH型パドル翼4とH型パドル翼4'の2段使用)、上に位置するH型パドル翼4'を下に位置するH型パドル翼4よりも回転方向に対して0.1〜90°、好ましくは30〜60°の範囲の交差角で先行させて配置し、かつ、上下方向に隣接する撹拌翼と軸方向に対して重なりを有するとともに、下に位置するH型パドル翼4を幅広パドル翼3よりも回転方向に対して0.1〜90°、好ましくは30〜60°の範囲の交差角で先行させて配置させる。
【0022】
この場合、回転軸がバランス良く回転するように各翼の交差角を選択することが好ましく、例えば図4に示すように2つのH型パドル翼を使用する場合には、上段のH型パドル翼4を下段のH型パドル翼4'より45°の交差角で先行させ、下段のH型パドル翼4'を幅広パドル翼3よりも45°の交差角で先行させる配置とすればよい。
H型パドル翼4又は4'は、翼径の半径(翼スパンdsの1/2)よりも軸方向の長さ(翼高さ:hs)が長い方が好ましく、また、撹拌装置の寸法上の制約や複数段のH型パドル翼を使用することを考慮すると、1/2・ds≦hs≦4・dsの範囲とすることが好ましい。
【0023】
なお、翼スパンとは一般的には翼の最も広い部分をいう。
また、翼先端部の撹拌軸上下方向に延びる縦長ブレードは、撹拌軸に対して平行か、もしくは若干の角度を有した構造が好ましい。
H型パドル翼と幅広パドル翼は、図5に示すように種々の形状を有していてもよい。すなわちH型パドル翼は、完全なH型でも、略ハの字型でも、テーパーを有するH型でもよい。そして、H型パドル翼の幅方向に対する先端部にある縦長ブレードは、上下方向の辺と撹拌軸との成す角度をθとすると、0.1°(軸と平行)≦θ≦30°の範囲が好ましく、縦長ブレードの幅が平行でない場合には、0.1°≦θin(内側の辺の角度)≦θout(外側の辺の角度)≦30°の範囲にあることが好ましい。
【0024】
H型パドル翼の翼径(翼スパン:ds)は、最下段に設置された幅広パドル翼の翼径(翼スパン:d)よりも小さいことが好ましく、1/3・d≦ds≦3/4・dの範囲とすることが特に好ましい。さらに、H型パドル翼の先端部にある縦長ブレードの撹拌軸に隣接する上下方向の辺(内側の辺)と撹拌軸との距離は、撹拌効率を考慮した場合には、撹拌槽内径Dの2%以上とすることが好ましく、15%以下とすることが好ましい。
また、縦長ブレードを支えるパドル部は、撹拌軸付近で下降流を生じるように傾斜させてもよい。さらに、撹拌槽の内壁面に流体の旋回(いわゆる供回り)を阻害する整流手段5(ジャマ板)を設置してもよい。
【0025】
この整流手段5としては、撹拌槽内径Dの2〜15%程度の幅を有する平板形状の部材や丸棒形状の部材を使用することができる。次に、図6に基づいて液体中に上部より別の液体を投入した場合の流体の動きを説明する。重合反応の形態によっては、反応中に上部より、追加のモノマーや乳化剤や分散剤等の各種添加物の投入を行うことがあり、これら投入物は反応中の液体部と比重差があることが多いため、素早く均一に系内に運搬されることが重要である。撹拌槽内投入された粉体は、液面に浮いたままの状態で液体の流れにのって、液面を螺旋を描いて撹拌軸近傍まで引き寄せられる。
撹拌軸近傍では下降流が発生しており、この下降流により粉体は液中に引き込まれる。この際、粉体は撹拌軸に沿って液中に引き込まれるが、撹拌軸に密着したまま引き込まれることはなく、撹拌軸からは若干の距離を置き、H型パドル翼の縦長ブレード上下方向の内側の辺に渡る広がりを持って、螺旋を描いて引き込まれる。
このため、粉体の多くは撹拌軸に接触することなく液中に引き込まれて粉体の撹拌軸への付着を低減できる。
【0026】
液中に引き込まれた粉体は、撹拌軸に接触することなく撹拌軸に沿って螺旋を描きながら撹拌槽底部に設置された幅広パドル翼上端付近まで移動すると、幅広パドル翼上端中央の凹部をすり抜け、幅広パドル翼の回転方向に対して裏側の最も負圧となる部分に引き込まれ、さらに幅広パドル翼が生み出す吐出流により撹拌槽壁面方向に吐出される。
【0027】
幅広パドル翼により液体と共に撹拌槽壁面方向に吐出された液体は、液体の流れが上昇流に変換されることによって壁面に沿って撹拌槽上部まで上昇し、さらに液面付近で液体の流れが撹拌槽中心方向に変換することで、撹拌槽中心部まで循環する。
このような撹拌槽全域にわたる上下方向の大きな循環流に加え、H型パドル翼により発生する水平方向への吐出流と、H型パドル翼及び幅広パドル翼の剪断混合により、投入された液体が液中に均一に分散される。
【0028】
本発明の撹拌装置では、最下段槽底部に設置される幅広パドル翼が主撹拌翼として、また、幅広パドル翼上段に設置されるH型パドル翼が補助翼として作用している。
主翼である幅広パドル翼は、撹拌槽内全域にわたる上下方向の大きな循環流を発生させる。幅広パドル翼が流体中で回転すると、必ず回転方向に対し表側の面では正圧が、裏側の面では負圧が発生する。幅広パドル翼の表側の面では、流体は翼の回転方向に押し出されると共に、遠心力の影響で撹拌槽壁面方向に吐出される。さらに、翼前面に生じる正圧の影響により、流体は上下方向にも押し出されることになり、これにより翼上端および下端から翼裏側の負圧部分に向かって流体の回り込みが発生する。この際、幅広パドル翼が撹拌槽底部壁面に摺接するように設置されることから、翼下端から翼裏側にかけての流体の回り込みは、翼上端から翼裏側への流体の回り込みよりも少なくなる。
翼裏面の負圧部分では、翼の上端及び下端からの流体の回り込みに加え、回転方向後方からの翼裏面近傍負圧部への流体の引き込みが生じている。上端と下端、および翼後方の負圧部に向かって引き込まれた流体は、翼裏面近傍で合流し、遠心力の作用により撹拌槽壁面方向に吐出される。
【0029】
すなわち、槽底部に設置された幅広パドル翼の生み出す吐出流の多くは、この翼裏側の負圧の影響により作り出されることになる。また、幅広パドル翼が回転することによって生じる流体の水平方向の旋回流も、翼が流体を回転方向に押し出すことによって生じていると考えるよりはむしろ、回転に伴い流体を翼裏面近傍の負圧部に引き込むことによって生じていると考えることができる。さらに、幅広パドル翼裏側の負圧部分だけに注目しても、そこには圧力勾配が生じていると考えられる。すなわち、撹拌軸付近と翼先端付近とでは、翼先端付近の方がより負圧になっていると言える。したがって、流体の回り込み、引き込みに伴う負圧部での流れの合流は、翼先端付近で最も密になると考えられる。このため、翼裏側の先端部により多くの流体を流し込み、流れの合流を効率的に生じさせるため、幅広パドル翼上端の軸付近に凹部を設けて翼上端からの流体の回り込みをより多くすることが特に好ましい。
【0030】
この多くの流れが合流した状態を「流線が密な状態」という言葉で表現すると、流線が密な状態では多くの流れが合流することにより、1つの大きな流れ(川に例えると本流)が生じており、この流れが撹拌槽内全域にわたる循環流を形成するもととなる。
【0031】
この本流の向きは、上述したように翼上端からの流体の回り込みの方が下端からの回り込みよりも多いことの影響を受け、撹拌槽壁面方向で水平よりもやや下向きとなる。
翼先端部から吐出された流体の多くは、撹拌槽壁面近傍で、壁面に沿った上昇流に変換され、壁面に沿って液面近傍まで上昇する。液面付近で流体は、撹拌槽中心方向に流れの向きを変え、撹拌軸付近に生じるボルテックスの影響で下降流へと変換される。
【0032】
補助翼としてのH型パドル翼は、主翼である幅広パドル翼裏側の負圧部に、より多くの流体を導く役割を担っている。H型パドル翼も幅広パドル翼と同様に、回転方向の前面に正圧が、裏面に負圧が生じる。したがって、幅広パドル翼に隣接するH型パドル翼の下端部でも、翼前面から裏面への流体の回り込みが生じる。この回り込み効果により、H型パドル翼の回転方向前方では、翼下端付近にある流体をH型パドル翼の裏側へ持ち上げることになる。
【0033】
本発明による撹拌装置では、主翼の幅広パドル翼に隣接するH型パドル翼は、主翼と上下方向に幅広パドル翼の撹拌軸方向高さhに対して1%以上、特に5%以上の重なりを有することが好ましく、H型パドル翼下端で翼裏側に回り込んだ流体を、幅広パドル翼上端で生じる回り込みの流れに合流させることができる(図7参照)。
もちろん、回り込みの流れに合流させるためにはその流路を塞ぐまでに至るような重なりではその効果が低減するため、50%以下、特に40%以下の範囲とすることが好ましい。
【0034】
なお、H型パドル翼と幅広パドル翼との重なりは、幅広パドル翼の最上端を基準にしている。幅広パドル翼の上端中央部には凹部があるため、実際には、H型パドル翼と幅広パドル翼との重なりは、略三角形もしくは台形の形状となる(図8参照)。このように重なり具合を軸付近は薄く、軸から離れたところで厚くすることで、H型翼と幅広パドル翼とが作る回り込み流れが斜め下向きとなり、下降流を本流まで効率よく導くことができる(図8(A)参照)。
【0035】
H型パドル翼の翼径(翼スパン)が小さく、比較的撹拌軸に近い部分で流体の回り込みを生じさせる場合、流線が粗な領域(川に例えると上流域)に流れを合流させることになる(図8(A)参照)。
【0036】
この場合は、H型翼の下端部裏側に持ち上げた流体を幅広パドル翼裏側の負圧部へ落とし込むことになる。すなわち、H型パドル翼の翼径が小さい場合には、撹拌軸付近の下降流を強める作用をする。また、主翼上端の回り込み流れに合流したH型パドル翼下端の回り込み流れは、主翼裏側で撹拌槽壁面方向に移動し、主翼裏側に発生する吐出流(本流)に合流することになるため、結果的には主翼である幅広パドル翼の吐出流(本流)をも強めることになる。
【0037】
そして、回り込み流れとの合流を効率的に生じさせるために、幅広パドル翼の上端中央に凹部を形成させることが特に好ましいのである。H型パドル翼の翼径(翼スパン)が大きく比較的撹拌軸から離れたところに流体の回り込みを生じさせる場合も同様に、H型パドル翼下端の回り込み流れを幅広パドル翼上端の回り込み流れと合流させることができる(図8(B)参照)。
【0038】
この場合、主翼裏側の流線が密になっている部分(本流)にH型パドル翼下端で発生した回り込み流れを合流させることになるため、H型パドル翼下端の回り込み流れは下降流に変換された直後に吐出流に変換される。
【0039】
このため、H型翼の翼径が大きい場合、主翼の吐出流を強めることにはなるが、軸付近の下降流を強める効果はほとんど期待できない。例えば、特開平4−90839号公報に記載の門型翼では、門型翼と槽底部に設置された翼とがほぼ同径(同スパン)であるため、下降流(軸流)を強める作用は得られない。これに対し本発明では、H型パドル翼が幅広パドル翼よりも小スパンに設計されているため、下降流(軸流)を強めることができる。
【0040】
さらにH型パドル翼には、撹拌軸への粉体の付着を防止する作用がある。
H型パドル翼を設置せず幅広パドル翼のみを用いた場合、高粘度流体を撹拌中に撹拌槽内に投入された粉体は、流体表面から撹拌軸に沿って撹拌軸にほぼ密着した状態で液中に引き込まれる。
【0041】
これに対しH型パドル翼を設置した場合、翼先端の上下方向に延びた縦長ブレード裏面に生じた負圧の影響により、液中に引き込まれた粉体はこの負圧部の引力を受けながら螺旋を描き、主翼である幅広パドル翼上端付近まで引き込まれる(図6参照)ので、撹拌軸への粉体の付着を防止する効果があるのである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下に示す実施例及び比較例において、部または%は、特に断りのない限り重量基準である。
比較に用いたラテックスの重合は以下に述べる手順で実験を行い、その際に用いる撹拌装置・設定回転数を変えることで、本発明の装置と比較を行った。
【0043】
実験1:攪拌装置(l/d=1.6)を備えた耐圧重合容器に水120部、水酸化ナトリウム0.1部、乳化剤ニューコール271S(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)[日本乳化剤(株)製]を1.8部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、スチレン69部、アクリル酸3.0部、t−ドデシルメルカプタン0.7部を仕込み窒素置換した後、ブタジエン28部を圧入し、攪拌を開始し、昇温し、重合容器内温度が60℃に達したとき、過硫酸アンモニウム0.4部を添加し、反応を開始させた。重合率が98%に達したときに80℃に昇温し、8時間反応し、重合率99.5%で冷却を行なった。次いで、25%アンモニア水でラテックスのpHを8.5に調整し、固形分45.2%のSBRラテックス(i)を得た。撹拌動力は、重合中を通じて0.1kW/立方メートルとした。
【0044】
実験1で本発明に記述した撹拌装置を用いた場合を実施例1−A、マックスブレンド翼を用いた場合を比較例1−A、アンカー翼を用いた場合を比較例1−B、大型アンカー翼を用いた場合を比較例1−C、タービン翼を用いた場合を比較例1−Dとする。
実験2:攪拌装置(l/d=1.6)を備えた耐圧重合容器に水120部、水酸化ナトリウム0.1部、乳化剤ニューコール271S(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)[日本乳化剤(株)製]を1.8部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、スチレン69部、アクリル酸3.0部、t−ドデシルメルカプタン0.7部を仕込み窒素置換した後、ブタジエン28部を圧入し、攪拌を開始し、昇温し、重合容器内温度が60℃に達したとき、過硫酸アンモニウム0.4部を添加し、反応を開始させた。重合率が98%に達したときに80℃に昇温し、8時間反応し、重合率99.5%で冷却を行なった。次いで、25%アンモニア水でラテックスのpHを8.5に調整し、固形分45.2%のSBRラテックス(ii)を得た。撹拌動力は、重合中を通じて0.04kW/立方メートルとした。
【0045】
実験2で本発明に記述した撹拌装置を用いた場合を実施例2−A、マックスブレンド翼を用いた場合を比較例2−A、アンカー翼を用いた場合を比較例3−B、大型アンカー翼を用いた場合を比較例3−C、タービン翼を用いた場合を比較例3−Dとする。
【0046】
実験3:攪拌装置(l/d=2.2)を備えた耐圧重合容器に水120部、水酸化ナトリウム0.1部、乳化剤ニューコール271S(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)[日本乳化剤(株)製]を1.8部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、スチレン69部、アクリル酸3.0部、t−ドデシルメルカプタン0.7部を仕込み窒素置換した後、ブタジエン28部を圧入し、攪拌を開始し、昇温し、重合容器内温度が60℃に達したとき、過硫酸アンモニウム0.4部を添加し、反応を開始させた。重合率が98%に達したときに80℃に昇温し、8時間反応し、重合率99.5%で冷却を行なった。次いで、25%アンモニア水でラテックスのpHを8.5に調整し、固形分45.2%のSBRラテックス(iii)を得た。撹拌動力は、重合中を通じて0.1kW/立方メートルとした。
【0047】
実験3で本発明に記述した撹拌装置を用いた場合を実施例3−A、マックスブレンド翼を用いた場合を比較例3−A、アンカー翼を用いた場合を比較例3−B、大型アンカー翼を用いた場合を比較例3−C、タービン翼を用いた場合を比較例3−Dとする。
粗大粒子数の測定は、重合終了後のラテックス(i)を325メッシュの金網を通して、コールター社の粒径測定装置(COULTER MULTISIZER)を使用して、2μm以上の粒子の重量%を求めた。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
結果を表1〜3に示す。それぞれの表で実施例が最も粗大粒子量が少なく、CGも少ないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の撹拌装置の一実施形態を示す模式図。
【図2】本発明の撹拌装置の他の実施形態を示す模式図。
【図3】本発明の撹拌装置の他の実施形態を示す模式図。
【図4】本発明の撹拌装置の他の実施形態を示す模式図。
【図5】本発明の撹拌装置に使用するH型パドル翼と幅広パドル翼の組み合わせ例。
【図6】本発明の撹拌装置において、H型パドル翼と幅広パドル翼間での流体の流れを側面から見た概念図。
【図7】本発明の撹拌装置において、H型パドル翼と幅広パドル翼間での流体の流れを正面から見た概念図。
【符号の説明】
【0053】
1 撹拌槽
2 撹拌軸
3 幅広パドル翼
4 H型パドル翼
4’H型パドル翼
5 整流手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪形円筒状の撹拌槽内中心部に撹拌軸を設け、該撹拌軸に幅広パドル翼を槽底部に近接するように配置し、さらに該幅広パドル翼上部の該撹拌軸上に1段以上のH型パドル翼を配置し、該H型パドル翼を回転方向に対し上下に隣接する下段の撹拌翼よりも0.1〜90°の交差角で先行させ、かつ、上下に隣接する撹拌翼の一部に重なりを持たせたことを特徴とする撹拌装置を用いて撹拌を行い、重合反応を生じさせることを特徴とする重合反応方法。
【請求項2】
該H型パドル翼と上下に隣接する下段の撹拌翼との交差角を30〜60°とした撹拌装置を用いた請求項1記載の重合反応方法。
【請求項3】
該H型パドル翼と上下に隣接する下段の撹拌翼とが、該幅広パドル翼の撹拌軸方向高さに対し、1%〜50%の重なりを持つ撹拌装置を用いた請求項1又は2に記載の重合反応方法。
【請求項4】
該H型パドル翼の上下方向の長さが、該H型パドル翼の翼径の1/2〜4の範囲である撹拌装置を用いた請求項1、2、又は3記載の重合反応方法。
【請求項5】
該H型パドル翼の翼径が、該幅広パドル翼の翼径の1/3〜3/4の範囲である撹拌装置を用いた請求項1〜4のいずれか1つに記載の重合反応方法。
【請求項6】
最下段に設置した該幅広パドル翼の先端部が回転方向に対して後退した形状である撹拌装置を用いた請求項1〜5のいずれか1つに記載の重合反応方法。
【請求項7】
最下段に設置した該幅広パドル翼の上端中央に凹部を有する撹拌装置を用いた請求項1〜6のいずれか1つに記載の重合反応方法。
【請求項8】
竪形円筒状の撹拌槽内中心部に撹拌軸を設け、該撹拌軸に幅広パドル翼を槽底部に近接するように配置し、さらに該幅広パドル翼上部の該撹拌軸上に1段以上のH型パドル翼を配置し、該H型パドル翼を回転方向に対し上下に隣接する下段の撹拌翼よりも0.1〜90°の交差角で先行させ、かつ、上下に隣接する撹拌翼の一部に重なりを持たせたことを特徴とする撹拌装置。
【請求項9】
幅広パドル翼上部の該撹拌軸上に1段以上のH型パドル翼を配置し、該H型パドル翼を回転方向に対し上下に隣接する下段の撹拌翼よりも0.1〜90°の交差角で先行させ、かつ、上下に隣接する撹拌翼の一部に重なりを有することを特徴とする撹拌翼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−282729(P2006−282729A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101489(P2005−101489)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(599132580)ディックテクノ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】