説明

擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法、および擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法

【課題】 本発明は、高価な高精細の電子線描画機を設計欠陥の深さの種類の数に応じて複数回使用することを要せずに、同一の基板に、数種の異なる深さの凹状の設計欠陥を、寸法精度や位置精度を向上させて形成することができる擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法、および擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 数種の異なる深さの凹状の設計欠陥のパターン全てを、基板上に形成したハードマスクに一括してパターン形成し、その後、前記ハードマスクパターンをマスキングしながら順次基板をエッチング加工することで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外光(Extreme Ultra Violet:以後、EUVと記す)を用いてマスクパターンをウェハ上に転写するためのEUV露光用の反射型マスクに関し、より詳しくは、位相欠陥の検査や評価に用いられる擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法、および擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体デバイスの微細化に伴い、EUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。
【0003】
なお、ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィにおいて用いられるマスクとしては、例えば特許文献1に記載された反射型マスクが提案されている。
【0004】
このような反射型マスクは、少なくとも、基板の主面上にEUV光を反射する多層膜からなる反射層を有し、前記反射層の上に形成されたEUV光を吸収する吸収層を、部分的に除去することにより吸収体パターンが形成されたものである。
【0005】
EUV露光機に搭載された反射型マスクに入射したEUV光は、吸収体のある部分では吸収され、吸収体のない部分では反射層により反射され、光像が反射光学系を通して被転写体上に転写される。
【0006】
上述の反射型マスクの基板には、パターン位置精度を高精度に保持するために、低熱膨張係数を有し、さらに、高反射率や転写精度を得るために、平滑性、平坦度が高く、マスク製造工程の洗浄などに用いる洗浄液への耐性に優れた基板が求められ、例えば、石英ガラス、SiO2−TiO2系の低熱膨張ガラス、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスなどのガラス基板などが用いられている。
【0007】
そして、上述のような基板の主面に、上記の反射層や吸収層などを形成したものを反射型マスクブランクスと呼ぶ。
【0008】
反射型マスクは、この反射型マスクブランクスの吸収層を、部分的に除去してマスクパターンとなる吸収体パターンを形成したものである。
【0009】
吸収体パターンを形成するには、例えば、反射型マスクブランクスの表面側(吸収層を形成した面)にレジストを形成し、このレジストを電子線描画等によりマスクパターン状に形成し、このレジストパターンをマスクに吸収層をエッチングして、所望の吸収体パターンを得る。
【0010】
ここで、上述の基板表面に、例えば、傷や異物付着に起因する段差が存在すると、その上に形成する反射層の層構造が崩れ、反射層で反射されるEUV光に位相の変化を引き起こしてしまう。この位相の変化は転写されるパターンの位置精度やコントラストを悪化させる原因となり、このような転写に影響を及ぼす位相変化を生じる欠陥を位相欠陥と呼ぶ(特許文献2)。
【0011】
例えば、波長が13.5nmのEUV光の場合、わずか3.4nm(≒1/4波長)の段差が180度の位相欠陥となりうる。
【0012】
このため、EUV露光用の反射型マスクにおいては、反射型マスクブランクスの位相欠陥制御が最も重要な課題とされている。
【0013】
反射型マスクブランクスにおいては、この位相欠陥をゼロにすることが理想であるが、現実にはこれをゼロにすることは困難であり、位相欠陥の修正技術と共に、位相欠陥の転写性や検査感度を評価することがEUVリソグラフィにおける重要な技術開発課題とされている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭63−201656号公報
【特許文献2】特開2004−289110号公報
【特許文献3】特表2002−532738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したような位相欠陥の検査や評価を行うには、基板の所定の位置に、位相欠陥の元となる所定の大きさの段差(設計欠陥)が形成された反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを用意する必要がある。
【0016】
上記段差は、例えば、凹状の設計欠陥を、反射型マスクブランクスの基板の主面に形成することで得ることができる。そして、上記設計欠陥は、同一の基板に、数種の異なる開口面積で形成されている形態の他に、数種の異なる深さで形成される形態が求められている。
【0017】
ここで、数種の異なる開口面積の凹状の設計欠陥については、例えば、従来の電子線描画によるリソグラフィ技術を用いて、描画パターンを所望の開口パターンとすることで、同一の基板に容易に形成することができる。
【0018】
しかしながら、数種の異なる深さの凹状の設計欠陥については、通常、一回の形成工程につき一種類の深さしかつくることができず、数種の異なる深さの凹状の設計欠陥を同一の基板に作成するためには、複数回の形成工程を行う必要があった。
【0019】
例えば、図7〜図9に示すように、同一の基板に2種の異なる深さの凹状の設計欠陥を有する反射型マスクブランクス100を製造するには、従来の方法では、基板102の主面の上に、まず、1つ目の深さを有する凹状の設計欠陥103Aを形成するためのレジストパターン112Aを形成し(図7(b))、このレジストパターン112Aをマスクに基板102を所定の1つ目の深さにエッチングし(図7(c))、レジストパターン112Aを除去後(図7(d))、2つ目の深さを有する凹状の設計欠陥103Bを形成するためのレジストパターン112Bを形成し(図8(e))、このレジストパターン112Bをマスクに基板102を所定の2つ目の深さにエッチングし(図8(f))、レジストパターン112Bを除去し(図8(g))、その後、凹状の設計欠陥103A、103Bを被覆するように基板102の上に反射層104を形成し(図8(h))、その上に吸収層105を形成する(図9(i))という複雑で長い工程を要していた。
【0020】
なお、この反射型マスクブランクス100の吸収層105を部分的に除去して吸収体パターン105Aを形成することにより2種の異なる深さの凹状の設計欠陥を有する反射型マスク110を得ることができる(図9(j))。
【0021】
上述の従来の方法では、3種以上の異なる深さの凹状の設計欠陥を形成するには、上述のレジストパターン形成、基板エッチング、およびレジストパターン除去の一連の工程を、必要な深さの種類の数に応じて繰り返すことになる。
【0022】
しかしながら、上述のような設計欠陥のパターンは、反射型マスクの吸収体パターンよりも小さなパターンが要求されるため、そのパターン形成には高精細の電子線描画機を用いる必要があり、このような高精細の電子線描画機を上述のように複数回のレジストパターン形成に使用するとなると、製造コストは非常に高いものとなっていた。
【0023】
また、上述のような微小パターンでは、電子線描画機における電子線の安定性や、現像工程の再現性の限界に起因して、寸法仕上がりの安定性が低く、複数回のレジストパターン形成を必要とする従来の方法では、異なる深さのパターン間で寸法仕上がりに違いが発生してしまっていた。
【0024】
また、複数回のレジストパターン形成を必要とする従来の方法では、電子線描画機におけるアライメント精度の限界に起因して、深さの異なる設計欠陥パターン間で位置ズレが生じるため、反射型マスクにおける吸収体パターンと設計欠陥の位置関係が、設計欠陥の深さ毎に異なってしまい、精度の良い検査や評価を行うことが困難になっていた。
【0025】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高価な高精細の電子線描画機を設計欠陥の深さの種類の数に応じて複数回使用することを要せずに、同一の基板に、数種の異なる深さの凹状の設計欠陥を、寸法精度や位置精度を向上させて形成することができる擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法、および擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者は、種々研究した結果、数種の異なる深さの凹状の設計欠陥のパターン全てを、基板上に形成したハードマスクに一括してパターン形成し、その後、前記ハードマスクパターンをマスキングしながら順次基板をエッチング加工することで、上記課題を解決できることを見出して本発明を完成したものである。
【0027】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、基板と、前記基板の主面に形成された凹状の設計欠陥と、前記設計欠陥を被覆するように前記基板の主面の上に形成された多層膜からなる反射層と、前記反射層の上に形成された吸収層と、を少なくとも有するEUV露光用の反射型マスクブランクスの製造方法であって、前記基板の主面の上に、複数の開口を有する薄膜パターンを形成する薄膜パターン形成工程と、前記薄膜パターンの所望の部位を露出し、他の部位を被覆する保護膜パターンを、前記薄膜パターンの上に形成する保護膜パターン形成工程と、前記保護膜パターンおよび露出する前記薄膜パターンをエッチングマスクに用いて前記基板をエッチングして前記設計欠陥を形成する設計欠陥形成工程と、前記保護膜パターンを除去する保護膜パターン除去工程と、前記薄膜パターンを除去する薄膜パターン除去工程と、前記基板の主面の上に、前記設計欠陥を被覆するように前記反射層を形成する反射層形成工程と、前記反射層の上に前記吸収層を形成する吸収層形成工程と、を有し、前記保護膜パターン形成工程、前記設計欠陥形成工程、および前記保護膜パターン除去工程の一連の工程を、前記保護膜パターンで被覆する前記薄膜パターンの位置を変え、かつ、前記基板をエッチングする深さを変えて、必要な回数繰り返すことにより、前記基板に複数の異なる深さの設計欠陥を形成することを特徴とする擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法である。
【0028】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記基板をエッチング加工する際のマスクとなる薄膜パターンが、金属、金属酸化物、または金属窒化物のいずれかを含む薄膜をパターン状に加工したものであることを特徴とする請求項1に記載の擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法である。
【0029】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記保護膜パターンが、紫外線レジスト、または電子線レジストをパターン状に加工したものであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法である。
【0030】
また、本発明の請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法を用いて得られた反射型マスクブランクスの前記吸収層を部分的に除去して、所望の部位で前記反射層が露出するように吸収体パターンを形成することを特徴とする擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、設計欠陥のパターン全てを基板上に形成した薄膜のハードマスクに一括してパターン形成するため、例え、深さの種類が増えても、高価な高精細の電子線描画機を使用する工程の回数は1回で済み、同一の基板に数種の異なる深さの凹状の設計欠陥を有する反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを、低コストで製造することができる。
【0032】
また、本発明によれば、設計欠陥のパターン全てを基板上に形成したハードマスクに一括してパターン形成するため、例えば、1回の工程でパターン全てを一括して電子線描画でき、1回の工程でパターン全てを一括して現像できるため、複数回のレジストパターン形成工程を必要としていた従来の方法よりも、パターン全ての寸法仕上がりは安定し、その結果、寸法精度が向上した凹状の設計欠陥を有する反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを製造することができる。
【0033】
また、本発明によれば、設計欠陥のパターン全てを基板上に形成したハードマスクに一括してパターン形成するため、例えば、1回の工程でパターン全てを一括して電子線描画できるため、複数回のレジストパターン形成工程を必要としていた従来の方法よりも、パターン間の相対的な位置精度が向上した凹状の設計欠陥を有する反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクの例を示す概略断面図であり、(a)は設計欠陥が吸収体パターン間の略中央に位置する例を示し、(b)は設計欠陥が吸収体パターンに近接した例を示す。
【図3】本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の例を示す模式的工程図である。
【図4】図3に続く本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の例を示す模式的工程図である。
【図5】図4に続く本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の例を示す模式的工程図である。
【図6】図5に続く本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の例を示す模式的工程図である。
【図7】従来の擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の例を示す模式的工程図である。
【図8】図7に続く従来の擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の例を示す模式的工程図である。
【図9】図8に続く従来の擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の例を示す模式的工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(反射型マスクブランクス、および反射型マスク)
まず、本発明に係る反射型マスクブランクス、および反射型マスクについて説明する。
【0036】
図1は、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの例を示す概略断面図である。
【0037】
図1に示すように、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクス1においては、基板2の主面に、深さの異なる凹状の設計欠陥3A、3Bが形成されており、基板2の主面の上には、設計欠陥3A、3Bを被覆するように反射層4が形成されており、反射層4の上には、吸収層5が形成されている。
【0038】
図2は、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクの例を示す概略断面図であり、(a)は設計欠陥が吸収体パターン間の略中央に位置する例を示し、(b)は設計欠陥が吸収体パターンに近接した例を示す。
【0039】
本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスク10は、反射型マスクブランクス1の吸収層5を部分的に除去して、所望の部位で前記反射層4が露出するように吸収体パターン5Aを形成したものであり、図2(a)に示すように、設計欠陥が吸収体パターン間の略中央に位置する実施形態の他に、例えば、図2(b)に示すように、設計欠陥が吸収体パターンに近接した実施形態がある。
【0040】
その他にも、設計欠陥の一部分が吸収体パターンの下に隠れる形態や、設計欠陥が吸収体パターンの下に完全に隠れる形態も、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクに含まれる。
【0041】
上述のような、設計欠陥と吸収体パターンとの位置関係が変化した反射型マスクを製造する目的は、上述の各設計欠陥により生じる位相変化がEUV露光における転写に及ぼす影響を評価するためである。
【0042】
上述のような設計欠陥の形状は、主にドット、若しくはラインであり、その開口幅は、例えば、25nm〜200nm程度の範囲である。設計欠陥の深さは、例えば、1nm〜20nm程度である。設計欠陥の形状や深さは、原子間力顕微鏡(AFM)等により計測することができる。
【0043】
また、吸収体パターンは、主にラインアンドスペースパターン、若しくはホールアレイパターンであり、例えば、ラインアンドスペースパターンのライン幅は、64nm〜128nmである。
【0044】
次に、本発明に係る反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを構成するその他の要素について説明する。
(基板)
本発明の反射型マスクを構成する基板2としては、パターン位置精度を高精度に保持するために低熱膨張係数を有し、高反射率および転写精度を得るために平滑性、平坦度が高く、マスク製造工程の洗浄などに用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましく、石英ガラス、SiO2−TiO2系の低熱膨張ガラス、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスなどのガラス基板、さらにはシリコンを用いることもできる。
【0045】
基板2は、0.2nmRms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることが高反射率および転写精度を得るために好ましい。マスクブランクスの平坦度としては、例えば、パターン領域において50nm以下が求められている。
(反射層)
反射層4は、EUV露光に用いられるEUV光を高い反射率で反射する材料が用いられ、Mo(モリブデン)層とSi(シリコン)層からなる多層膜が多用されており、例えば、2.8nm厚のMo層と4.2nm厚のSi層を各40層積層した多層膜よりなる反射層が挙げられる。それ以外には、特定の波長域で高い反射率が得られる材料として、Ru/Si、Mo/Be、Mo化合物/Si化合物、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜およびSi/Ru/Mo/Ru周期多層膜なども用いることができる。ただし、材料によって最適な膜厚は異なる。Mo層とSi層からなる多層膜の場合、イオンビームスパッタ法により、まずSiターゲットを用いてSi層を成膜し、その後、Moターゲットを用いてMo層を成膜し、これを1周期として、30〜60周期、好ましくは40周期積層されて、多層膜の反射層が得られる。上記のように、EUV光を高い反射率で反射させるために、13.5nmのEUV光を入射角6.0度で入射したときの反射層4の反射率は、通常、60%以上を示すように設定されている。
(キャッピング層)
反射層4の反射率を高めるには屈折率の大きいMo層を最上層とするのが好ましいが、Moは大気で酸化され易く、反射率が低下するので、酸化防止やマスク洗浄時における保護のための保護層として、スパッタリング法などによりSiやRu(ルテニウム)を成膜し、キャッピング層を設けることが行われている。例えば、キャッピング層としてSiを用いる場合は、反射層4の最上層に11nmの厚さで設けられる。
(バッファ層)
EUV露光に用いられるEUV光を吸収する吸収層5をドライエッチングなどの方法でパターンエッチングするときに、下層の反射層4に損傷を与えるのを防止するために、反射層4と吸収層5との間にバッファ層を設けてもよい。バッファ層の材料としてはSiO2、Al23、Cr、CrNなどが用いられる。CrNを用いる場合は、RFマグネトロンスパッタ法によりCrターゲットを用いてN2ガス雰囲気下で、上記の反射層の上にCrN膜を5nm〜15nm程度の膜厚で成膜するのが好ましい。
(吸収層)
マスクパターンを形成し、EUV光を吸収する吸収層5の材料としては、Ta、TaN、TaB、TaBNなどのTaを主成分とする材料、Cr、Crを主成分としN、O、Cから選ばれる少なくとも1つの成分を含有する材料などが、膜厚20nm〜100nm程度の範囲で用いられる。
(ハードマスク層)
吸収層5の上には、吸収層のエッチングマスクとしてハードマスク層を設けても良い。ハードマスク層の材料としては、吸収層5のエッチングに耐性をもつものであって、反射型マスクの転写パターンに応じた微細加工に適したものを用いる必要がある。例えば、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ハフニュウム(Hf)およびその窒化物、酸化物などである。
【0046】
また、ハードマスク層の材料は、バッファ層と同一の材料であることが好ましい。この場合、吸収層5のエッチングの後に、ハードマスク層の除去とバッファ層の除去とを同一工程で除去できる。
【0047】
ハードマスク層の厚さは、その材料のエッチング耐性や転写パターンのサイズに応じた加工精度にもよるが、例えば5nm〜15nmである。
【0048】
ハードマスク層は、例えば、Arと窒素の混合ガス雰囲気下で、Crをスパッタ成膜することで、CrNからなるハードマスク層を設けることができる。
(導電層)
基板2の主面上に設けられた反射層4と相対する他方の面(裏面側)の上には、導電層が形成されていてもよい。この導電層は、反射型マスクの裏面を静電吸着するために、設けられるものである。この導電層は、導電性を示す金属や金属窒化物などの薄膜であって、例えば、クロム(Cr)や窒化クロム(CrN)などを厚さ20nm〜150nm程度に成膜して用いられる。
(反射型マスクブランクスの製造方法、および反射型マスクの製造方法)
次に、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法、および擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法について説明する。
【0049】
図3〜図6は、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法の一例を示す模式的工程図である。
【0050】
まず、図3(a)に示すように、表面研磨された基板2を用意し、その主面の上にハードマスク層11を形成する(図3(b))。
【0051】
ハードマスク層11には、金属、金属酸化物、または金属窒化物のいずれかを含む薄膜を用いることができ、例えば、ハードマスク層11は、Cr(クロム)等の金属を基板2の主面上に5nm〜20nm程度の厚さでスパッタ成膜することにより形成することができる。
【0052】
次に、図3(c)に示すように、ハードマスク層11の上にポジ型の電子線レジスト12を形成し、電子線描画により、所定の位置に、所望の形状やサイズの開口を有するレジストパターン12Aを形成し(図3(d))、次いで、レジストパターン12Aの開口に露出するハードマスク層11をエッチングし(図4(e))、その後、レジストパターン12Aを除去して、所望の設計欠陥のパターン全てを一括形成したハードマスクパターン11Aを得る(図4(f))。
【0053】
ここで、従来の方法では、1回のパターン形成工程で1種類の深さに対応した設計欠陥パターンしか形成できなかったが、本発明においては、1回のパターン形成工程で、全ての種類の深さに対応した設計欠陥パターンを一括して形成する。
【0054】
それゆえ、本発明においては、従来のような複数回の電子線描画によるパターン形成工程を要せず、例え、深さの種類が増えても、高価な高精細の電子線描画機を使用する工程の回数は1回で済み、同一の基板に数種の異なる深さの凹状の設計欠陥を有する反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを、低コストで製造することができる。
【0055】
また、設計欠陥のパターン全てをハードマスクに一括してパターン形成するため、例えば、1回の工程でパターン全てを一括して電子線描画でき、1回の工程でパターン全てを一括して現像できるため、複数回のレジストパターン形成工程を必要としていた従来の方法よりも、パターン全ての寸法仕上がりは安定し、その結果、寸法精度が向上した凹状の設計欠陥を有する反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを製造することができる。
【0056】
また、設計欠陥のパターン全てをハードマスクに一括してパターン形成するため、例えば、1回の工程でパターン全てを一括して電子線描画できるため、複数回のレジストパターン形成工程を必要としていた従来の方法よりも、パターン間の相対的な位置精度が向上した凹状の設計欠陥を有する反射型マスクブランクスおよび反射型マスクを製造することができる。
【0057】
また、このハードマスクパターンには、設計欠陥用のパターンの他に、反射型マスクの吸収体パターンをアライメントして形成するためのアライメントマーク用のパターンも形成しても良い。アライメントマークと設計欠陥の両パターンを一括して電子線描画することで、各パターン間の相対的な位置精度が向上した反射型マスクブランクスを製造することができ、このアライメントマークを用いることにより、吸収体パターンと設計欠陥との相対的な位置精度が向上した反射型マスクを製造することができるからである。
【0058】
次に、図4(g)に示すように、保護膜パターン13Aを、ハードマスクパターン11Aの所望の部位を露出し、他の部位を被覆するように、ハードマスクパターン11Aの上に形成する。
【0059】
保護膜パターン13Aは、例えば、紫外線レジスト、または電子線レジストを基板の主面上に300nm〜500nm程度の厚さで塗布形成し、通常の紫外線、または電子線リソグラフィにより、所望の部位が開口したパターンとして形成することができる。
【0060】
次に、図4(h)に示すように、保護膜パターン13Aおよび露出するハードマスクパターン11Aをエッチングマスクに用いて基板2を所定量エッチングして、所望の深さの設計欠陥3Aを形成する。エッチングには、例えば、エッチングレートを小さくするために、低濃度に調整した緩衝フッ酸液を用いる。エッチングレートを小さくする理由は、1nm〜20nm程度のエッチング深さの制御を容易にするためである。
【0061】
なお、図4(h)においては説明を容易にするため、設計欠陥を1つしか示していないが、通常は、深さが同じ設計値の複数の設計欠陥を一括して形成する。
【0062】
次に、図5(i)に示すように、保護膜パターン13Aを除去し、その後、図5(j)に示すように、ハードマスクパターン11Aを被覆する位置を変えて保護膜パターン13Bを形成し、次いで、基板2をエッチングする深さを、先の1回目の設計欠陥形成工程(図4(h))の場合と異なる深さに変えることにより、設計欠陥3Aとは深さの異なる設計欠陥3Bを形成する(図5(k))。その後、図5(l)に示すように、保護膜パターン13Bを除去する。
【0063】
上述のように、これまでの工程で、2種類の深さの設計欠陥3A、3Bを形成することができる。ここで、図3(a)〜図5(l)においては、2種類の深さの設計欠陥3A、3Bを形成する方法を示したが、
前記保護膜パターン形成工程(例えば、図5(j))、前記設計欠陥形成工程(例えば、図5(k))、および前記保護膜パターン除去工程(例えば、図5(l))の一連の工程を、前記保護膜パターンで被覆する位置を変え、かつ、前記基板をエッチングする深さを変えて、必要な回数繰り返すことにより、基板2に複数の異なる深さの設計欠陥を形成することができる。
【0064】
また、上述の一連の工程をN回繰り返すことで、理論的には、最大2N−1種の異なる深さの設計欠陥を形成することができる。例えば、表1に示すように、上述の一連の工程を3回繰り返すことで、7種の異なる深さの設計欠陥を形成することができる。
【0065】
それゆえ、本発明の製造方法によれば、複数の深さの設計欠陥を、従来の方法より効率的に形成することができる。
【0066】
【表1】

上述のようにして、所望の設計欠陥を全て形成した後は、図6(m)に示すように、ハードマスクパターン11Aを除去し、露出させた基板2の主面の上に、設計欠陥3A、3Bを被覆するようにして反射層4を形成し(図6(n))、さらに反射層4の上に吸収層5を形成して(図6(o))、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクス1を得る。
【0067】
なお、図6においては省略しているが、反射層4と吸収層5の間には、キャッピング層やバッファ層を形成してもよい。
【0068】
最後に、反射型マスクブランクス1の吸収層5を部分的に除去して所望の部位で前記反射層4が露出するように吸収体パターン5Aを形成し(図6(p))、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスク10を得る。
【0069】
以上、本発明に係る擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法、および擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
基板として、光学研磨された大きさ6インチ角(厚さ0.25インチ)の合成石英基板を用い、その主面の上に、Crを10nmの厚さにスパッタ成膜してハードマスク層を形成し、次いで、このハードマスク層の上にポジ型の電子線レジスト(日本ゼオン製、ZEP520)を形成し、加速電圧が100kVのスポットビーム電子線描画機を用いて、所望の設計欠陥パターンとアライメントマークパターンを形成し、次いで、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、上記のパターンを一括形成したCr薄膜パターンを形成し、その後、レジストパターンを剥膜した。
【0071】
次に、上記のCr薄膜パターンの上に紫外線レジスト(東京応化工業製、THMR−IP3500)を400nmの厚さで形成し、レーザー描画機を用いて、まず1種類目の深さ(1nm)の設計欠陥パターンのみが露出するように製版し、露出した設計欠陥パターンを希釈した緩衝フッ酸液でウェットエッチングして、深さ1nmの設計欠陥を形成し、その後、上記の紫外線レジストを80℃の硫酸水溶液で除去した。
【0072】
次に、上記のレジスト除去したCr薄膜パターンの上に、再び上述の紫外線レジストを400nmの厚さで形成し、レーザー描画機を用いて、2種類目の深さ(1.5nm)の設計欠陥パターンのみが露出するように製版し、露出した設計欠陥パターンを希釈した緩衝フッ酸液でウェットエッチングして、深さ1.5nmの設計欠陥を形成し、その後、上記の紫外線レジストを80℃の硫酸水溶液で除去した。
【0073】
その後、上述と同様に、紫外線レジスト製版、基板ウェットエッチング、および紫外線レジスト除去の一連の工程を、紫外線レジストパターンで被覆するCr薄膜パターンの位置を変え、かつ、基板をエッチングする深さを変えて、3回繰り返すことにより、さらに、2.0nm、3.0nm、および5.0nmの深さの設計欠陥を形成した。
【0074】
次に、上記のレジスト除去したCr薄膜パターンの上に、再び上述の紫外線レジストを400nmの厚さで形成し、レーザー描画機を用いて、アライメントマークパターンのみが露出するように製版し、露出したアライメントマークパターンを緩衝フッ酸液でウェットエッチングして、全長2mm、線幅2μm、深さ500nmの平面形状が十字型のアライメントマークを形成し、その後、上記の紫外線レジストを80℃の硫酸水溶液で除去し、次いで、上記のCr薄膜パターンを硝酸セリウムアンモニウム水溶液で除去した。
【0075】
次に、露出した基板の上に、イオンビームスパッタ法により、Siターゲットを用いてSi膜を4.2nm成膜し、続いてMoターゲットを用いてMo膜を2.8nm成膜し、これを1周期として40周期積層してMoとSiの多層膜よりなる反射層を形成した後、最表面のMo膜の上にSi膜を11nm成膜してキャッピング層を形成した。
【0076】
次に、上記のSi膜の上に、RFマグネトロンスパッタ法によりCrターゲットを用いてN2雰囲気下で、CrN膜をバッファ層として10nmの厚さに成膜し、続いて、上記のCrN膜上に、DCマグネトロンスパッタ法により、Taターゲットを用いて、Arと窒素の混合ガス雰囲気下で、TaN膜を70nmの厚さで形成し、EUV光を吸収する吸収層を形成し、本発明に係る反射型マスクブランクスを得た。
【0077】
次に、この反射型マスクブランクスを用い、電子線レジストを塗布し、電子線描画装置で上記のアライメントマークを用いてアライメント描画し、上記の設計欠陥と所定の位置関係となる吸収体パターン用のレジストパターンを形成した。次いで、TaNの吸収層をCl2ガスでドライエッチングし、さらにCrNのバッファ層をCl2と酸素との混合ガスでドライエッチングしてキャッピング層を露出させ、レジストパターンを剥膜して、本発明に係る反射型マスクを得た。
【符号の説明】
【0078】
1 反射型マスクブランクス
2 基板
3A、3B 設計欠陥
4 反射層
5 吸収層
5A 吸収体パターン
10 反射型マスク
11 ハードマスク層
11A ハードマスクパターン
12 電子線レジスト
12A レジストパターン
13A、13B 保護膜パターン
100 反射型マスクブランクス
102 基板
103A、103B 設計欠陥
104 反射層
105 吸収層
105A 吸収体パターン
110 反射型マスク
112A、112B レジストパターン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の主面に形成された凹状の設計欠陥と、前記設計欠陥を被覆するように前記基板の主面の上に形成された多層膜からなる反射層と、前記反射層の上に形成された吸収層と、を少なくとも有するEUV露光用の反射型マスクブランクスの製造方法であって、
前記基板の主面の上に、複数の開口を有する薄膜パターンを形成する薄膜パターン形成工程と、
前記薄膜パターンの所望の部位を露出し、他の部位を被覆する保護膜パターンを、前記薄膜パターンの上に形成する保護膜パターン形成工程と、
前記保護膜パターンおよび露出する前記薄膜パターンをエッチングマスクに用いて前記基板をエッチングして前記設計欠陥を形成する設計欠陥形成工程と、
前記保護膜パターンを除去する保護膜パターン除去工程と、
前記薄膜パターンを除去する薄膜パターン除去工程と、
前記基板の主面の上に、前記設計欠陥を被覆するように前記反射層を形成する反射層形成工程と、
前記反射層の上に前記吸収層を形成する吸収層形成工程と、を有し、
前記保護膜パターン形成工程、前記設計欠陥形成工程、および前記保護膜パターン除去工程の一連の工程を、前記保護膜パターンで被覆する前記薄膜パターンの位置を変え、かつ、前記基板をエッチングする深さを変えて、必要な回数繰り返すことにより、
前記基板に複数の異なる深さの設計欠陥を形成することを特徴とする擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法。
【請求項2】
前記基板をエッチング加工する際のマスクとなる薄膜パターンが、金属、金属酸化物、または金属窒化物のいずれかを含む薄膜をパターン状に加工したものであることを特徴とする請求項1に記載の擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法。
【請求項3】
前記保護膜パターンが、紫外線レジスト、または電子線レジストをパターン状に加工したものであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の擬似位相欠陥を有する反射型マスクブランクスの製造方法を用いて得られた反射型マスクブランクスの前記吸収層を部分的に除去して、所望の部位で前記反射層が露出するように吸収体パターンを形成することを特徴とする擬似位相欠陥を有する反射型マスクの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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