説明

支持体

【課題】温度や湿度といった環境変化に対する寸法安定性と、優れた塗布適性とを具備する、磁気記録媒体などに適した支持体の提供。
【解決手段】二軸配向積層フィルム(F層)の少なくとも片面に金属類または金属系無機化合物からなる層(M層)が設けられた支持体であって、F層は、ポリエステル(A)からなるフィルム層(A)と熱可塑性樹脂(B)からなるフィルム層(B)とを積層して延伸したものであり、芳香族ポリエステル(A)は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートであること、熱可塑性樹脂(B)は、ポリエステル(A)よりも吸水率が0.03%以上低いこと、M層の厚みが、15〜90nmの範囲であること、および縦方向のヤング率(GPa)と厚み(μm)の積が30(Gpa・μm)以上であることを具備する支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向積層フィルムの少なくとも片面に金属類または金属系無機化合物からなる層(M層)が設けられた磁気記録媒体用支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリエステルフィルムはその優れた熱特性、寸法安定性、機械特性および表面形態の制御のし易さから各種用途に使用されており、特に磁気記録媒体などの支持体としての有用性がよく知られている。近年、磁気テープなどの磁気記録媒体は、機材の軽量化、小型化、大容量化のため、ベースフィルムの薄膜化や高密度記録化が要求されている。高密度記録化のためには、記録波長を短くし、記録トラックを小さくすることが有用である。しかしながら、記録トラックを小さくすると、テープ走行時における熱やテープ保管時の温湿度変化による変形により、記録トラックのずれが起こりやすくなるという問題がある。したがって、テープの使用環境および保管環境での寸法安定性といった特性の改善に対する要求がますます強まっている。
【0003】
この観点から、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどを用いたポリエステルフィルムにおいて、延伸技術を用いて高強度化した磁気記録媒体用支持体が開発されている。しかしながら、高強度化によってその方向の温度膨張係数や湿度膨張係数は小さくできるものの、高強度化していくと湿度膨張係数は小さくなるものの、その方向の温度膨張係数が負の値となり、すなわち温度の上昇に伴う収縮挙動が発現し、寸法安定性が損なわれるという問題があった。
【0004】
また、ポリエステルフィルムの片面または両面に金属などの層(M層)を設ける方法(特許文献1〜4など)が開示されている。しかしながら、湿度膨張係数を小さくするなど寸法安定性のためにM層の厚みを厚くしていくと、M層にクラックが入りやすくなり、M層による改善だけでは限界があった。
【0005】
一方、特許文献5および6では、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分と他の芳香族ジカルボン酸成分とを共重合させた芳香族ポリエステルからなるフィルムが、磁気記録媒体として使用する際の温度や湿度の変化に対する寸法安定性に優れることを開示している。しかしながら、さらに検討を進めたところ、このフィルムは、温度や湿度の変化に対する寸法安定性に優れるものの、通常、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムでは問題とならない120℃程度の温度での加工において、フィルムが張力を負荷した方向に伸びやすく、塗布適性に問題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−30818号公報
【特許文献2】特開2005−196944号公報
【特許文献3】特開2006−277920号公報
【特許文献4】特開2003−242630号公報
【特許文献5】国際公開第2008/010607号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2008/096612号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、温度や湿度といった環境変化に対する寸法安定性に優れ、高温下で荷重を負荷するような塗布適性に優れ、特に磁気記録媒体のベースフィルムに適した支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究したところ、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートなどからなるフィルム層と、吸水率とガラス転移温度がそれらよりも低い熱可塑性樹脂からなるフィルム層を積層して延伸したところ、それらを単純にブレンドしたフィルムに比べ、同じ温度膨張係数ならより低い湿度膨張係数を具備し、さらにその片面または両面に金属などの層(M層)を設けることで、極めて環境変化に対する寸法安定性に優れ、しかも塗布適性も改善された磁気記録媒体用支持体が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、二軸配向積層フィルム(F層)の少なくとも片面に金属類または金属系無機化合物からなる層(M層)が設けられた支持体であって、
F層は、ポリエステル(A)からなるフィルム層(A)と熱可塑性樹脂(B)からなるフィルム層(B)とを積層して延伸したものであり、
ポリエステル(A)は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートであること、
熱可塑性樹脂(B)は、ポリエステル(A)よりも吸水率が0.03%以上低いこと、
M層の厚みが、15〜90nmの範囲であること、そして
支持体の縦方向のヤング率(GPa)と支持体の厚み(μm)の積が30(Gpa・μm)以上であることを具備する支持体が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、支持体の厚みが1〜10μmであること、支持体が、その片面に磁性層を設けて、磁気記録媒体のベースフィルムに用いられること、支持体の長手方向と幅方向のヤング率の和が10〜22GPaであり、かつ、長手方向のヤング率Emと幅方向のヤング率Etの比Em/Etが0.5〜1.0の範囲にあること、フィルム層(A)または(B)の片面または両面にフィルム層(B)または(A)を積層したこと、フィルム層(A)とフィルム層(B)とを交互に4層以上積層したこと、熱可塑性樹脂(B)は、主たる繰り返し単位が、下記式(I)と(II)
【化1】

(式(I)および(II)中のRおよびRは炭素数2〜4のアルキレン基またはシクロヘキシレン基、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基である。)とからなり、下記式(I)で表される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位のモル数を基準として、5モル%以上80モル%未満の範囲であることの少なくともいずれか一つを具備する支持体も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二軸配向積層フィルム(F層)の少なくとも片面に金属類または金属系無機化合物からなる層(M層)が設けられた支持体において、
F層として、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートであるポリエステル(A)からなるフィルム層(A)とポリエステル(A)よりも吸水率が0.03%以上低い熱可塑性樹脂(B)からなるフィルム層(B)とを積層して延伸することで、フィルム層(B)による湿度膨張係数の低減効果を単にブレンドしたものに比べ効率的に発現できる。また、フィルム層(A)が塗布適性をある程度維持できることから、クラックなどの不具合が発生するような厚いM層を形成しなくても、非常に塗布適性などに優れた支持体とすることもできる。しかも、本発明の支持体は、F層自体が極めて環境変化に対する寸法安定性を有することから、単純に前述の特許文献4や5のフィルムにM層を形成したものに比べ、同じヤング率や同じ温度膨張係数なら、より湿度膨張係数が小さく、加工時の伸びも抑制された支持体を得ることができ、特に非常に薄い支持体としたときに、優れた塗布適性と寸法安定性を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、芳香族ポリエステル(A)からなるフィルム層(A)と、熱可塑性樹脂(B)からなるフィルム層(B)とを積層して延伸した二軸配向積層フィルムの少なくとも片面に、金属類または金属系無機化合物からなる層(M層)が設けられた支持体である。以下、芳香族ポリエステル(A)、熱可塑性樹脂(B)、F層およびM層に分けて順次説明する。
【0013】
<ポリエステル(A)>
ポリエステル(A)は、フィルム層(A)を構成するもので、塗布適性を向上させる観点から、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰り返し単位とするものである。そのような観点から、フィルム層(A)を構成するポリエステル(A)は、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレート以外の共重合成分の割合は、ポリエステル(A)の全酸成分のモル量を基準として、10モル%以下、さらに5モル%以下であることが好ましい。
【0014】
ポリエステル(A)のP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度は、好ましくは0.45〜1.5dl/g、より好ましくは0.5〜1.0dl/g、特に好ましくは0.55〜0.8dl/gである。
【0015】
ポリエステル(A)は、フィルム層(A)を構成するポリエステル樹脂組成物としてみたときのDSCにおけるTg(ガラス転移温度)が110℃以上であることが、塗布適性の点から好ましい。ポリエステル(A)のガラス転移温度の下限は、好ましくは110℃、より好ましくは115℃である。上限は特に制限されないがフィルム層(B)と積層したときの製膜性の点から、好ましくは170℃、より好ましくは150℃である。このように、芳香族ポリエステル(A)は、よりガラス転移温度(Tg:℃)が高いことが好ましく、そのような観点からエチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましい。また、ガラス転移温度を高くできる共重合成分を共重合したり、ポリエーテルイミドや液晶樹脂をブレンドすること(例えば、特開2000−355631号公報、特開2000−141475号公報および特開平11−1568号公報などを参照)も好ましく、特にエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする場合は、このような共重合やブレンドをすることが好ましい。そのような観点から、ポリエステル(A)の割合は、フィルム層(A)の重量を基準として、70wt%以上、さらに80wt%以上であることが好ましい。
【0016】
ポリエステル(A)のDSCで測定した融点は、好ましくは240〜300℃、より好ましくは250〜290℃、さらに好ましくは260〜280℃の範囲であることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、溶融粘度が大きく溶融押し出しして成形する際に、流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなり、製膜性が低下しやすい。一方、上記下限未満になると、製膜性は優れるものの、加工時の伸び抑制効果が不十分となりやすい。
【0017】
<熱可塑性樹脂(B)>
本発明における熱可塑性樹脂(B)はフィルム層(B)を構成するものであり、前述のポリエステル(A)に対して、吸水率が0.05%以上低いもので、フィルム層(A)と積層して製膜できるものであれば特に制限されず、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトンなどいずれであっても良く、これらの中でも前記式(I)、(II)の繰り返し単位からなるポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィンが好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂(B)の吸水率が、ポリエステル(A)に対して、0.03%以上低いことで、支持体としたときの湿度膨張係数を低減することができる。好ましいポリエステル(A)と熱可塑性樹脂(B)の吸水率の差は0.03〜0.30%、さらにフィルム層(A)との剥離を抑制しつつ優れた寸法安定性を発現しやすいことから、0.04〜0.15%である。また、好ましい熱可塑性樹脂(B)の吸水率は0.01〜0.30%、さらにフィルム層(A)との剥離を抑制しつつ優れた寸法安定性を発現しやすいことから、0.15〜0.27%である。
【0019】
ところで、本発明における熱可塑性樹脂(B)による湿度膨張係数の低減効果がより効率的に発現される理由は定かではないが、ポリエステル(A)と熱可塑性樹脂(B)とを積層した状態で延伸するとき、フィルム層(A)側に延伸応力が優先的に配分され、その結果フィルム層(A)の湿度膨張係数をより効率的に低減でき、しかも熱可塑性樹脂(B)として、吸水率の低いものを使用していることから、延伸応力がフィルム層(A)に優先的に配分されてもフィルム層(B)の湿度膨張係数の増加が少なく、結果としてポリエステル(A)と熱可塑性樹脂(B)とを単純にブレンドしたものに比べ、同じヤング率や温度膨張係数なら、より低い湿度膨張係数を発現できるのではないかと考えられる。
【0020】
ところで、フィルム層(A)と(B)の剥離を抑える観点からは、熱可塑性樹脂(B)はポリエステルであることが好ましく、特に前記式(I)および式(II)の繰り返し単位からなり、その繰り返し単位の5モル%以上80モル%未満が、前記式(I)のポリエステルが好ましい。式(I)で示される繰り返し単位の割合が下限未満では湿度膨張係数(αh)の低減効果が発現されがたい。なお、上限は、成形性などの観点から、80モル%未満である。式(I)で示される成分による湿度膨張係数(αh)の低減効果は、少量で非常に効率的に発現され、さらに剥離を抑制する観点から繰り返し単位の50モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートであるものが好ましい。好ましい前記式(I)で示される成分の共重合量の上限は、高温での加工時の伸びを抑制する観点から、45モル%、さらに40モル%、よりさらに35モル%、特に30モル%である。他方下限は、ガラス転移温度を十分に低くしつつ、吸水率を下げる観点から5モル%、より7モル%、さらに10モル%、特に15モル%である。
【0021】
式(I)において、Rは炭素数2〜4のアルキレン基またはシクロへキシレン基である。炭素数2〜4のアルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、ブチレン基等が挙げられる。式(I)におけるジカルボン酸成分としては、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられ、これらの中でも本発明の効果の点からは、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂(B)のP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度は、好ましくは0.4〜1.5dl/g、より好ましくは0.5〜1.3dl/gである。
【0023】
熱可塑性樹脂(B)は、DSCで測定した融点が、200〜280℃の範囲、さらに210〜270℃の範囲の範囲にあることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、製膜が難しくなり、他方上記下限未満になると、支持体の機械的特性などが損なわれやすくなる。
【0024】
また、熱可塑性樹脂(B)のDSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、高温での加工時の伸びを抑制する観点から、好ましくは50〜150℃、より好ましくは70〜130℃、さらに好ましくは80〜120℃の範囲である。Tgがこの範囲にあることは、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。なお、このような融点やガラス転移温度は、熱可塑性樹脂の種類、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物などによって調整できる。
【0025】
<二軸配向積層フィルム(F層)>
本発明におけるF層は、フィルム層(A)とフィルム層(B)とを積層したものであり、フィルム層(A)または(B)の片面または両面にフィルム層(B)または(A)を積層したF層(1)と、フィルム層(A)とフィルム層(B)を交互に4層以上となるように積層したF層(2)を包含する。なお、本発明において、幅方向とは、F層の製膜方向(長手方向、縦方向と称することもある。)に直交する方向であり、横方向と称することもある。
【0026】
本発明におけるF層の厚みは、用途に応じて適宜決めればよく、磁気記録テープのベースフィルムに用いる場合は、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜6μm、さらに好ましくは3〜5μmである。特に磁気テープの高容量化には厚みが薄いほどよく、しかも厚みが薄くなるほど、より塗布適性や寸法安定性の要求は高くなるので、特に厚さが3.5〜4.5μmの範囲にあるとき、本発明の支持体による優れた特性が最大限に発現される。
【0027】
本発明におけるF層は、環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、フィルム層(B)の厚みの合計が、F層の厚みに対して、10〜90%、さらに15〜75%、特に20〜60%の範囲であることが好ましい。このような範囲とすることで、湿度変化に対する寸法安定性向上効果と加工時の伸び抑制効果とをより高度に発現できる。 本発明におけるF層は、磁気テープなどのベースフィルムとして用いたとき、トラックズレなどを抑制する観点から、F層の幅方向のヤング率は、6〜12GPa、さらに6.5〜10GPaの範囲にあることが好ましい。上記範囲内にあることで、後述の温度膨張係数や湿度膨張係数を非常に小さくすることができる。また、磁気テープなどのベースフィルムとして用いたとき、加工時や走行時の伸びを抑制しつつ、前述の幅方向に十分なヤング率を具備させる観点から、F層の製膜方向のヤング率は、4〜10GPa、さらに4.5〜8GPaの範囲にあることが好ましい。
【0028】
本発明におけるF層は、優れた寸法安定性、特に磁気テープなどのベースフィルムとして用いたとき、トラックズレなどを抑制する観点から、フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)が−10〜10ppm/℃以下であることが好ましい。好ましいフィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)は、−7〜5ppm/℃、さらに−5〜2ppm/℃の範囲である。このような温度膨張係数(αt)は、幅方向の分子鎖が十分に配向するように延伸倍率を高めたり、延伸温度が過度に高くならないようにすることなどで調整できる。
【0029】
本発明におけるF層は、優れた寸法安定性、特に磁気テープなどのベースフィルムとして用いたとき、トラックズレなどを抑制する観点から、フィルムの幅方向における湿度膨張係数(αh)が、1〜6ppm/%RH、さらに1〜5ppm/%RHの範囲にあることが好ましい。
【0030】
また、本発明におけるF層は、走行性と平坦性とを両立できるように、適度にフィルムの表面に突起などを形成することが好ましい。F層の表面に突起を形成する手段としては、フィルム層(A)または(B)に不活性粒子を含有させたりして、突起を形成したり、F層の表面に不活性粒子を含有するフィルム層や塗膜を形成すればよい。含有させる不活性粒子としては、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイアモンドなど)および粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子、さらに(3)異なる素材を例えばコアとシェルに用いたコアシェル型などの複合粒子など粒子の状態で添加する外部添加粒子や(4)触媒などの析出によって形成する内部析出粒子などそれ自体公知のものを好適に挙げることができる。
【0031】
これらの中でも、架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、カオリン及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましい。特に架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンおよび二酸化ケイ素(但し、多孔質シリカなどは除く)からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが、粒子の粒径のバラツキを小さくしやすいことから好ましい。もちろん、これらは2種以上を併用しても良い。
【0032】
フィルム層(A)または(B)に不活性粒子を含有させる場合、走行性の観点から好ましい不活性粒子の平均粒径は、0.05〜1.0μm、さらに0.1〜0.8μmの範囲である。特に磁気記録媒体用の場合、不活性粒子の平均粒径は、好ましくは0.1〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.3μmの範囲である。また、フィルム層に含有させる不活性粒子の含有量は、含有させるフィルム層の重量を基準として、好ましくは0.005〜1.0重量%、より好ましくは0.01〜0.5重量%の範囲である。
さらに本発明の二軸配向積層フィルムについて、前述のF層(1)および(2)に分けて、詳述する。
【0033】
<F層(1)>
F層(1)は、フィルム層(B)の片面にフィルム層(A)を積層した2層フィルムを包含する。またF層(1)は、フィルム層(A)の両面にフィルム層(B)を積層した3層フィルムも包含する。またF層(1)は、フィルム層(A)の両面にフィルム層(B)を積層した3層フィルムを包含する。本発明におけるF層(1)には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のフィルム層を積層したり、塗膜層を設けたりしても良い。
【0034】
本発明におけるF層(1)は、走行性と平坦性とをより高度に両立させる観点から、一方の表面粗さ(Ra)と他方の表面粗さ(RaA)との差が、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であることが好ましい。表面粗さの差を下限以上にすることで、単層フィルムに比べ、優れた平坦性と巻取性とを高度に具備させることができる。表面粗さの差の上限は、特に制限されないが、平坦な側の表面の形態を粗面側の粗い表面の転写や突き上げによって損なわれないようにする点から、好ましくは8nm、より好ましくは5nm、さらに好ましくは4nmである。平坦面側の表面粗さ(Ra)は、好ましくは0.2〜7.0nm、より好ましくは0.3〜5.0nm、さらに好ましくは0.5〜4.0nmの範囲である。またF層(1)に優れた巻取性を具備させるために、表面粗さの粗い走行面側の表面粗さ(Ra)は、好ましくは2〜15nm、より好ましくは3〜10nm、さらに好ましくは4〜8nmの範囲である。
【0035】
なお、このような表面粗さの差を調整するには、前述のように表面粗さの粗い側の表面を形成するフィルム層に、他方の表面層を形成するフィルム層に比べより大きな粒子を含有させるかより多く粒子を含有させるか、さらに塗膜層を形成したりすればよい。
なお、F層自体のカールを抑制する観点からは、F層は前述の3層の積層構成が好ましい。ただ、カールは後述のM層を、カールが解消されるように、片面だけにつけたり、厚みの異なるM層を両面につけることで調整でき、むしろ表面粗さの差を調整しやすく、より平坦性と走行性とを高度に具備させやすいことから、フィルム層(A)の片面にフィルム層(B)を積層した2層フィルムが好ましい。
【0036】
<F層(2)>
本発明におけるF層(2)は、フィルム層(A)とフィルム層(B)とを交互に4層以上積層したものである。好ましい積層数は、フィルム層(A)とフィルム層(B)の合計層数で11〜10001の範囲、さらに31〜1001の範囲にあることが層構成の均一性とカールなどを抑えつつ、フィルム層(A)とフィルム層(B)の延伸性を上げやすいことから好ましい。積層数の上限は特に制限されないが、積層構造を維持しやすい点から、10,001以下であることが好ましい。また、フィルム層(A)および(B)の1層あたり厚みは、0.1〜1,000nmの範囲、さらに1〜100nmの範囲にあることが層構成の均一性と効果の発現性の点から好ましい。
【0037】
本発明におけるF層(2)は、フィルム層(A)とフィルム層(B)とを交互に4層以上積層し、フィルム層(A)またはフィルム層(B)で形成された、第1表層、内層および第2表層を有し、第1表層の表面粗さ(RaX)が0.5〜5nmの範囲で、第2表層の表面粗さ(RaY)がRaXよりも1nm以上大きく10nm以下である積層フィルム(3)を包含する。第1表層は、第2表層に比べ表面粗さが小さな表層である。
【0038】
RaXが0.2nm以上であると滑り性が良好となり巻取り性が良好となる。5nm以下であると磁気テープとしたときに電磁変換特性が良好となる。RaXの範囲は、より好ましくは0.3〜4nm、さらに好ましくは0.5〜3nmである。RaYがRaXよりも1nm以上大きいと、表面が適度に粗くなり巻取り性が良くなる。一方10nm以下であると、磁気テープとしたときに磁性層表面への転写の恐れがなく、電磁変換特性の悪化やエラーレートの悪化が少ない。RaYの範囲は、好ましくは2〜15nm、より好ましくは3〜10nm、さらに好ましくは4〜8nmである。
【0039】
ただ、積層構造を形成するフィルム層(A)およびフィルム層(B)だけでこのような表面粗さを満足させるのは、単純に一方のフィルム層に不活性粒子を含有させることだけでは難しい。そこで、好ましいフィルムの層構成について、さらに詳述する。
【0040】
本発明におけるF層(2)として、フィルム層(A)とフィルム層(B)の合計数が奇数の積層フィルムがある。すなわち、フィルム層(A)またはフィルム層(B)のいずれか一方が第1表層および第2表層の双方を形成する場合、(i)内層は、平均粒径0.01〜1.0μmの不活性粒子を0.001〜5重量%含み、(ii)第1表層および第2表層は、不活性粒子を含有しないか、内層よりも平均粒径の小さな粒子を含有するか、同じ平均粒径の不活性粒子をより少ない含有量で含有し、(iii)第1表層の厚み(tX)が、第2表層の厚み(tY)の厚みに対して、1.5倍以上であることが好ましい。
tXをtY対比、1.5倍以上にすることで、内側のフィルム層に内在する不活性粒子による影響を抑え、表面粗さの小さい第1表層をより平坦に調整することができる。
【0041】
また、本発明におけるF層(2)として、フィルム層(A)とフィルム層(B)の合計数が偶数の積層フィルムがある。すなわち、フィルム層(A)およびフィルム層(B)の一方が第2表層を形成し、他方が第1表層を形成する場合、(i)第2表層は、平均粒径0.01〜1.0μmの不活性粒子を0.001〜5重量%含み、(ii)第1表層は、不活性粒子を含有しないか、第2表層よりも平均粒径の小さな不活性粒子を含有するか、同じ平均粒径の不活性粒子を第2表層より少ない含有量で含有することが好ましい。
【0042】
この際、第1表層の厚み(tX(nm))、第2表層の厚み(tY(nm))、第1表層に隣接するフィルム層の厚み(tX’(nm))および第2表層に隣接するフィルム層の厚み(tY’(nm))が次の関係式の少なくとも一つを満たすことが好ましい。
(式1) tX>1.5×tX’
(式2) tY>1.5×tY’
【0043】
式1、式2における厚み比は、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは5倍以上、特に好ましくは10倍以上である。上限は特に制限されないが、通常500倍以下、さらに300倍以下であることが好ましい。tXとtX’が上記(式1)を満たすことにより、表面粗さをより平坦にしやすく、他方tYとtY’が上記(式2)を満たすことにより、表面粗さをより大きく調整しやすくなる。
【0044】
フィルム層(A)とフィルム層(B)は、どちらを表面粗さの小さい第1表層にしても良いし、またどちらを表面粗さの大きい第2表層にしても良い。
本発明におけるF層(2)は、フィルム層(A)とフィルム層(B)とを交互に4層以上積層し、第1表層、内層および第2表層を形成していれば良いが、第1表層および第2表層とは別の第3表層を有していても良い。特にフィルム層の厚みを薄くする必要があるときに、フィルム層(A)とフィルム層(B)との積層構造をのみでは滑り性と表面平坦性を両立する表層の形成が困難となる場合がある。このような場合、第2表層の上またはその代わりに、それ自体公知の塗膜層や不活性粒子を含有する共押出で形成される第3表層を設けることで、滑り性と表面平坦性を両立させることもできる。 本発明におけるF層(2)の交互積層された多層部分の厚みは、上記のように表層とそれ以外で厚みを変えることが好ましいが、その厚みの変化は、表層のみ厚くすることも可能であるし、また、交互積層部分の厚みを厚み方向に連続的に変化させることも可能である。
【0045】
なお、F層(2)の積層構造を形成する表層以外の内層の平均厚み(フィルム層(A)の平均厚み:tA(nm)、フィルム層(B)の平均厚み:tB(nm))には特に制約はないが、延伸性を確保するための総層数と全厚みの関係から、好ましくは0.5〜1000nm、より好ましくは1〜300nm、さらに好ましくは2〜200nm、特に好ましくは3〜100nmである。
【0046】
<M層>
本発明の磁気記録媒体用支持体は、前述のF層の片方の表面もしくは両方の表面上に金属類または金属系無機化合物からなる層(M層)が形成されている。金属類としては、例えば、Cu、Zn、Al、Si、Fe、Ag、Ti、Mg、Sn、Zr、In、Cr、Mn、V、Ni、Mo、Ce、Ga、Hf、Nb、Ta、Y、Wなどが挙げられ、金属系無機化合物としてはこれらの金属類を酸化させたものが挙げられる。
【0047】
上記のM層を両面に形成する場合、両表面で異なる金属成分を含んでいてもよく、また、複数種の金属成分を混合して含んでいても構わないが、より好ましくは両表面で同一種の金属成分を含む方が良い。中でも、金属系酸化物は、酸化度の制御性、寸法安定性、生産性、環境性の観点から、アルミニウム、銅、亜鉛、銀、珪素元素の少なくとも一種を含んでいることが好ましく、より好ましくはアルミニウム元素が主成分となっていることが好ましい。
【0048】
ところで、本発明では、M層の厚みは、それぞれ15〜90nmの範囲にあることが必要である。M層の厚みが15nmより小さい場合、補強効果が小さく、温度・湿度による環境変化や高温での加工時の伸びが大きくなりやすい。M層の厚みの下限は、好ましくは20nm、より好ましくは25nmである。一方、M層の厚みが90nmより大きい場合は、曲げ剛性が大きくなりやすく、結晶粒などによって表面が荒れやすく、結果としてクラックなどが生じやすくなる。M層の厚みの上限は、好ましくは80nm、より好ましくは70nmでである。M層の厚みは、上記の範囲であれば、両表面で異なる厚みでもよい。両表面を同じ厚みに制御すると、得られた支持体がフラットな形状になりやすいので好ましい。また、両表面を異なる厚みに制御すると、得られた支持体がカッピングを起こすことがあるが、磁気記録媒体に使用するために、必要に応じて、カッピングを有する支持体であると、磁気ヘッドあたりが良好であることがある。その場合、磁性層を設ける側の表面(A)と磁性層を設けない側の表面、すなわちバックコート層側の表面(B)とでは、磁性層を設ける側の表面(A)が凸面になるカッピング形状であることが好ましい。このようなカッピング形状を実現するためには、A面側のM層の厚みとB面側のM層の厚みをそれぞれMa、Mbとしたとき、その厚み比(Ma/Mb)を1〜5とすることが好ましい。Ma/Mbは、より好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2である。
【0049】
ところで、本発明の支持体は、支持体の縦方向のヤング率(GPa)と支持体の厚み(μm)の積が30以上であることが必要である。この積が30未満では、例えば磁気テープとする際に、塗布工程での張力により長手方向に延びて幅方向にシワが入る、または磁気テープとしたときに、磁気テープの走行方向にかかる張力で長手方向に延びて幅方向に縮み、トラックズレなどを引き起こすからである。もちろん、この積を大きくするには、支持体の縦方向のヤング率(GPa)と支持体の厚み(μm)とを大きくすれば良いのであるが、前述のとおり、記憶容量の観点からは支持体の厚みは薄いほどよい。その点、本発明の支持体は、F層が非常に寸法安定性に優れつつ塗布適性に優れたフィルム層(A)も有することから、M層を薄くしつつ、さらに支持体の厚みを4.5μm以下、さらに4μm以下といった非常に薄いものとしても、塗布適性を高度に維持することができる。
【0050】
本発明の支持体は、優れた寸法安定性、特に磁気テープなどの支持体として用いたとき、トラックズレなどを抑制する観点から、支持体の幅方向の温度膨張係数(αt)が−10〜10ppm/℃以下であることが好ましい。好ましい支持体の幅方向の温度膨張係数(αt)は、−7〜5ppm/℃、さらに−5〜0ppm/℃の範囲である。このような温度膨張係数(αt)は、F層のαtやM層の材質や厚さなどで調整できる。また、本発明の支持体は、優れた寸法安定性、特に磁気テープなどのベースフィルムとして用いたとき、トラックズレなどを抑制する観点から、フィルムの幅方向における湿度膨張係数(αh)が、0〜5ppm/%RH、さらに1〜4.5ppm/%RHの範囲にあることが好ましい。このような湿度膨張係数(αh)は、F層のαhやM層の材質や厚さなどで調整できる。
【0051】
また、本発明の支持体は、支持体の長手方向と幅方向のヤング率の和が10〜22GPaであり、かつ、長手方向のヤング率Emと幅方向のヤング率Etの比Em/Etが0.5〜1.0の範囲にあることが、上記のような寸法安定性を具備させつつ、製造工程を安定化しやすいことから好ましい。
【0052】
<支持体の製造方法>
まず、前述のポリエステル(A)および熱可塑性樹脂(B)はそれ自体公知の方法で製造できる。さらに不活性粒子を含有させる場合は、フィルム層(A)、(B)および第3の層への添加方法は、特に制限されず、それぞれの層を構成する樹脂の重合段階で添加したり、重合後に二軸混練押出機などで練り込んだりすればよい。好ましくは、フィルム層中での粒子の分散性をより向上させやすいことから、重合段階で最終のフィルムでの使用よりも多量に不活性粒子を含有させたマスターポリマーを作成し、それを不活性粒子を含有しないポリマーで所望の粒子濃度になるように希釈する方法が好ましい。その際、フィルターなどのろ過によって、粗大粒子などを取り除くことが好ましい。
【0053】
そして、これらのポリエステル(A)および熱可塑性樹脂(B)とを原料として用意し、これを乾燥後、溶融状態、好ましくはそれぞれの層を形成するポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度でダイ内において積層してからフィルム状に押出すか、それぞれを溶融状態でシート状にダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとし、さらに積層未延伸フィルムを二軸延伸する。なお、層数が増えても、それらは流路中で所定の層数だけ分割を行ない、交互に積層した後に口金から吐出させ、急冷固化して積層未延伸フィルムとすればよい。このとき分岐流路の形状を工夫することにより、最外層の厚みのみを厚くすることや、厚み方向で厚みを徐々に変えることも可能である。また、交互積層している層を形成後、口金から押し出す前の段階までに、第3の樹脂を合流させてどちらかの最外層に積層させた構造体を作ることも可能である。
【0054】
なお、本発明で規定する両方向のヤング率、さらにαtやαhを満足させるには、その後の延伸を進行させやすくすることから、冷却ドラムによる冷却を非常に速やかに行うことが好ましい。そのような観点から、冷却ドラムの温度は、20〜60℃という低温で行うことが好ましい。このような低温で行うことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行うことができる。
【0055】
二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸(フィルムの製膜方向)、横延伸(フィルムの製膜方向に直交する方向)および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸はポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜10倍に延伸する。次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜10倍に延伸する。さらに熱処理としてポリエステル(A)の融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒、さらに1〜15秒熱固定処理するのが好ましい。熱固定処理の温度は、好ましくは180〜220℃、より好ましくは190〜210℃の範囲である。なお、前述のとおり、高温側tanδのピーク温度が低いときは、製膜方向の延伸倍率を高くしたり、横方向の延伸倍率を低くして、製膜方向に分子鎖を配向させやすい条件をとればよい。
【0056】
前述の説明は逐次二軸延伸について説明したが、本発明におけるF層は、縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも製造でき、例えば先で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0057】
次に、上記のようにして得られたF層にM層を形成する方法を、真空蒸着装置を用いて両面にM層を設ける方法を例にとって説明する。
まず、真空蒸着装置においては、真空チャンバの内部をF層が巻出しロール部から冷却ドラムを経て巻取りロール部へと走行する。そのときに、るつぼ内に金属材料を入れ、そこに電子銃から照射した電子ビームを当てるなどして加熱蒸発させ、冷却ドラム上のF層に蒸着する。このとき、酸素供給ノズルから酸素ガスを導入すれば、蒸発した金属を酸化反応させながら蒸着することができる。また、片方の表面(1面目)に蒸着した後巻取りロール部から片面蒸着したものを取り外し、それを巻出しロール部にセットし同じように反対側の表面(2面目)に蒸着することで両面に形成できる。
【0058】
ここで、真空チャンバ12の内部は、1.0×10−8〜1.0×10Paに減圧することが好ましい。さらに緻密で劣化部分の少ないM層を形成させるためには、1.0×10−6〜1.0×10−1Paに減圧することが好ましい。また、冷却ドラムは、その表面温度を−40〜60℃の範囲内にすることが好ましい。より好ましくは−35〜30℃、さらに好ましくは−30〜0℃である。電子ビームを用いる場合は、その出力が2.0〜8.0kWの範囲内のもので行うのが好ましい。より好ましくは3.0〜7.0kW、さらに好ましくは4.0〜6.0kWの範囲内である。なお、直接ルツボを加熱することで金属材料を加熱蒸発させてもよい。
【0059】
酸素ガスは、ガス流量制御装置を用いて0.5〜10L/minの流量で真空チャンバ内部に導入するのが好ましい。より好ましくは1.5〜8L/min、さらに好ましくは2.0〜5L/minである。
【0060】
真空チャンバの内部におけるF層の搬送速度は20〜200m/minが好ましい。より好ましくは30〜100m/min、さらに好ましくは40〜80m/minである。搬送速度が20m/minより遅い場合、上記のようなM層厚みに制御するためには金属の蒸発量をかなり小さくする必要がある。厚みや酸化度の制御が非常に難しくなる。搬送速度が200m/minより速くなると、冷却ドラムとの接触時間が短くなるため熱による破れやシワが発生し、生産性が低下する傾向がある。また、金属蒸気と酸素ガスとが不充分な反応状態で成膜されやすく、酸化度の制御が難しくなる場合がある。蒸着は片面ずつ行ってもよいし、両面を1工程で行ってもよい。
【0061】
蒸着後、M層を安定化させ、緻密性を高めるためには、真空蒸着装置内を常圧に戻して、巻取ったフィルムを巻き返すことが好ましい。特に、未結合原子を減らすためには加湿巻き返しを行うことが水蒸気とM層が接触する機会が長くなるため好ましい。加湿巻き返しは20〜40℃で60〜80%RHで行うことが好ましい。さらに、20〜50℃の温度で1〜3日間エージングすることが好ましく、さらに好ましくは湿度60%以上の結露しない程度の環境下でエージングすることが好ましい。
【0062】
次に、磁気記録媒体を製造する方法を説明する。上記のようにして得られた支持体を、磁気記録媒体用支持体として用いる場合、たとえば0.1〜3m幅にスリットし、速度20〜300m/min、張力50〜300N/mで搬送しながら、一方の面(A)に磁性塗料および非磁性塗料をエクストルージョンコーターにより重層塗布する。なお、上層に磁性塗料を厚み0.1〜0.3μmで塗布し、下層に非磁性塗料を厚み0.5〜1.5μmで塗布する。その後、磁性塗料および非磁性塗料が塗布された支持体を磁気配向させ、温度80〜130℃で乾燥させる。次いで、反対側の面(B)にバックコートを厚み0.3〜0.8μmで塗布し、カレンダー処理した後、巻き取る。なお、カレンダー処理は、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)を用い、温度70〜120℃、線圧0.5〜5kN/cmで行う。その後、60〜80℃にて24〜72時間エージング処理し、1/2インチ(1.27cm)幅にスリットし、パンケーキを作製する。次いで、このパンケーキから特定の長さ分をカセットに組み込んで、カセットテープ型磁気記録媒体とする。
【0063】
ここで、磁性塗料などの組成は、例えば後述の実施例の測定にある組成などが挙げられる。磁気記録媒体は上記に示した以外に、コバルト、ニッケル、鉄などを蒸着やスパッタなどにより設けた強磁性薄膜型磁性層を有するものでもかまわない。
このようにして得られた磁気記録媒体は、例えば、データ記録用途、具体的にはコンピュータデータのバックアップ用途(例えばリニアテープ式の記録媒体(LTO4やLTO5など))や映像などのデジタル画像の記録用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0065】
(1)固有粘度
得られた樹脂の固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0066】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点および融点は、それぞれの層に用いる樹脂を用意し、DSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal Analyst2920)により、昇温速度20℃/minで測定した。
【0067】
(3)ヤング率
得られたF層および支持体を試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算した。
【0068】
(4)湿度膨張係数(αh)
得られたF層、支持体および磁気テープを、フィルムの幅方向が測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度30%RHと湿度70%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数を算出する。5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L70−L30)/(L30×△H)
ここで、上記式中のL30は30%RHのときのサンプル長(mm)、L70は70%RHのときのサンプル長(mm)、△H:40(=70−30)%RHである。
なお、磁気ヘッドの湿度膨張係数は0ppm/%RHであることから、磁気テープにした状態で、幅方向の湿度膨張係数が0に近いほど優れているといえる。
【0069】
(5)積層フィルムおよびフィルム層の厚み
積層フィルムを層間の空気を排除しながら10枚重ね、JIS規格のC2151に準拠し、(株)ミツトヨ製ダイヤルゲージMDC−25Sを用いて、10枚重ね法にて厚みを測定し、1枚当りのフィルム厚みを計算する。この測定を10回繰り返して、その平均値を1枚あたりの積層フィルムの全体の厚みとした。
一方、フィルム層(A)およびフィルム層(B)の厚みは、フィルムの小片をエポキシ樹脂にて固定成形し、ミクロトームにて約60nmの厚みの超薄切片(フィルムの製膜方向および厚み方向に平行に切断する)を作成する。この超薄切片の試料を透過型電子顕微鏡(日立製作所製H−800型)にて観察しその境界をからフィルム層(A)とBの厚みを求めた。
【0070】
(6)吸水率
各層に用いる樹脂を厚み100μmの未延伸フィルムを作成し、JIS K7209A法に準拠して測定した。
【0071】
(7)温度膨張係数(αt)
得られたF層および支持体を、フィルムの幅方向が測定方向となるようにそれぞれ長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、60℃で30分前処理し、その後室温まで降温させる。その後25℃から70℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出する。なお、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5は石英ガラスの温度膨張係数(ppm/℃)である。なお、磁気ヘッドの温度膨張係数は通常7ppm/℃であることから、磁気テープにした状態で、幅方向の温度膨張係数が7ppm/℃に近いほど優れているといえる。
【0072】
(8)中心面平均粗さ(Ra)
Zygo社製 非接触三次元表面構造解析顕微鏡(NewView5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトにより中心面平均粗さRaを以下の式より求めた。
【数1】

Zjkは測定方向(283μm)、それと直行する方向(213μm)をそれぞれM分割、N分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における2次元粗さチャート上の高さである。
【0073】
(9)M層の厚み
下記条件にて断面観察を行い、得られた合計9点の厚み(nm)の平均値を算出し、M層の厚み(nm)とする。
・測定装置:透過型電子顕微鏡(TEM) 日立製H−7100FA型
・測定条件:加速電圧 100kV
・測定倍率:20万倍
・試料調製:超薄膜切片法
・観察面 :TD−ZD断面
・測定回数:1視野につき3点、3視野を測定する。
【0074】
(10)データストレージ(磁気テープ)の作成
ダイコーターで、30MPaの張力条件で、幅500mmにスリットされた長さ850mの支持体の平坦な側の表面に、下記組成の非磁性塗料、磁性塗料を同時に、乾燥後の非磁性層および磁性層の厚みが、それぞれ1.2μmおよび0.1μmとなるように膜厚を変えて塗布し、磁気配向させて120℃×30秒の条件で乾燥させる。さらに、小型テストカレンダ−装置(スチ−ルロール/ナイロンロール、5段)で、温度:70℃、線圧:200kg/cmでカレンダ−処理した後、70℃、48時間キュアリングする。次に、その磁性層の反対面に下記組成のバックコートを固形分の厚みが0.5μmとなるように塗布した後、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)で、温度85℃、線圧200kg/cmでカレンダー処理し、巻き取る。上記テープ原反を1/2インチ幅にスリットし、それをLTO用のケースに組み込み、長さが850mのデータストレージカートリッジを作成した。
【0075】
(非磁性塗料の組成)
・非磁性無機質粉末(α−酸化鉄:平均長軸長:0.15μm,平均針状比:7,BET比表面積:52m2/g):100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体:10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン: 1重量部
・メチルエチルケトン:75重量部
・メチルイソブチルケトン:75重量部
・トルエン:75重量部
・カーボンブラック(平均粒子径:20nm): 2重量部
・ラウリン酸:1.5重量部
【0076】
(磁性塗料の組成)
・磁性粉(戸田工業株式会社製、商品名:NF30x):100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体):10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン: 1重量部
・メチルエチルケトン:75重量部
・メチルイソブチルケトン:75重量部
・トルエン:75重量部
・カーボンブラック(平均粒子径:20nm): 2重量部
・ラウリン酸:1.5重量部
【0077】
(バックコートの組成)
・カーボンブラック(平均粒径20nm) : 95重量部
・カーボンブラック(平均粒径280nm): 10重量部
・αアルミナ : 0.1重量部
・変成ポリウレタン : 20重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 30重量部
・シクロヘキサノン : 200重量部
・メチルエチルケトン : 300重量部
・トルエン : 100重量部
【0078】
(11)クラック
支持体の表面を光学顕微鏡により倍率500倍で100視野観察し、以下の評価基準で評価した。
○;クラックが観察されない
×;1視野以上でクラックが観察される
【0079】
(12)塗布適性
ダイコーターで、30MPaの張力条件で、幅500mmにスリットされた長さ500mのフィルムの一方の表面に、上記(10)の作成で用いた組成の非磁性塗料、磁性塗料を同時に、乾燥後の非磁性層および磁性層の厚みが、それぞれ1.2μmおよび0.1μmとなるように膜厚を変えて塗布し、磁気配向させて120℃×30秒の条件で乾燥させる。塗布直後および乾燥後のシワの状態を観察し以下の基準で評価した。
◎;塗布直後も乾燥後もシワなし
○;塗布直後はシワが見えるが、乾燥後はシワなし
△;塗布直後にシワが見え、乾燥後も残る。部分的にテープ化は何とか可能なレベル。
×;塗布直後にシワが見え、乾燥後も全面に残る。
【0080】
[参考例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行い、固有粘度が0.63dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を得た。
【0081】
[参考例2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行い、酸成分の30モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の70モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分で、固有粘度が0.63dl/gである共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN−ANA70)を得た。
【0082】
[参考例3]
テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行い、固有粘度が0.65dl/gであるポリエチレンテレフタレート(PET)のペレットを得た。
【0083】
[参考例4]
テレフタル酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行い、酸成分の40モル%がテレフタル酸成分、酸成分の60モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分で、固有粘度が0.65dl/gである共重合ポリエチレンテレフタレート(PET−ANA60)を得た。
【0084】
[参考例5]
ポリエ−テルイミド(PEI)として、General Electric社製“Ultem”(登録商標))を用意した。
【0085】
[実施例1]
フィルム層(A)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例3のPETを用意し、他方フィルム層(B)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例3のPETと参考例4のPET−ANA60を重量比52:48でブレンドしたものを用意した。
そして、これらのポリマーを170℃で4時間乾燥後、押出し機に供給し、295℃まで加熱して溶融状態とし、フィルム層(A)用のポリマーを25層、フィルム層(B)用のポリマーを25層に分岐させた後、それぞれの層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、その積層状態を保持したままダイへと導き、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し、総数50層の未延伸多層積層フィルムを作成した。なお、フィルム層(A)については、表1に示すように、表面に位置するフィルム層(A)を平坦層表面として厚くし、他のフィルム層(A)は同じ厚みになるように調整した。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が100℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.6倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、120℃で横方向(幅方向)に延伸倍率4.7倍で延伸し、その後220℃で2秒間熱固定処理を行い、厚さ4.4μmの二軸配向多層積層フィルムを得た。
上記の方法で作成した二軸配向多層積層フィルムの両面に、以下の方法で、M層を設けた。まず、真空蒸着装置内に設置されたフィルム走行装置に、得られた二軸配向多層積層フィルムをセットし、1.00×10−3Paの高真空にした後に、20℃の冷却金属ドラムを介して走行させた。このとき、アルミのターゲットを電子ビームで加熱蒸発させ、酸素を導入して、アルミと酸素のモル比が42:58の部分酸化アルミのM層(厚み:60nm)を形成し、さらに連続で、反対側の面に同様にしてM層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。なお、M層の元素分析は、X線光電子分光器などを用いて測定することができる。
【0086】
[実施例2]
フィルム層(A)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例3のPETと参考例4のPEIとを重量比85:15でブレンドしたものを用意し、他方フィルム層(B)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例3のPETと参考例4のPET−ANA60を重量比63:37でブレンドしたものを用意した。
そして、これらのポリマーを170℃で4時間乾燥後、押出し機に供給し、295℃まで加熱して溶融状態とし、フィルム層(A)用のポリマーの片面に、フィルム層(B)用のポリマーをフィードブロック中で積層し、その積層状態を保持したままダイへと導き、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し、総数2層の未延伸積層フィルムを作成した。なお、フィルム層(A)とフィルム層(B)の厚みはそれぞれ表1に示すようになるように供給量を調整した。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が105℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.6倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、130℃で横方向(幅方向)に延伸倍率4.7倍で延伸し、その後220℃で2秒間熱固定処理を行い、厚さ4.4μmの二軸配向積層フィルムを得た。
そして、このようにして得られた二軸配向積層フィルムの両面に、膜厚をそれぞれ70nmとなるように変更した以外は実施例1と同様にして、M層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0087】
[実施例3]
フィルム層(A)用のポリマーを、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例3のPETと参考例4のPEIとを重量比85:15でブレンドしたものに変更し、表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更し、縦延伸を延伸温度95℃で延伸倍率3.8倍に、横延伸を延伸温度125℃で延伸倍率4.5倍に、そして、熱固定温度を210℃で3秒に変更したほかは実施例1と同様にして二軸配向多層積層フィルムを作成した。
上記の方法で作成した二軸配向多層積層フィルムの両面に、実施例1と同様にして、M層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0088】
[実施例4]
表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更したほかは実施例3と同様にして二軸配向多層積層フィルムを作成した。
上記の方法で作成した二軸配向多層積層フィルムの両面に、アルミの代わりにシリカ(SiO)を用い、珪素と酸素のモル比が37:63の部分酸化ケイ素とし、かつその厚みをそれぞれ80nmとなるように変更した以外は、実施例1と同様にして、M層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0089】
[実施例5]
実施例2において、フィルム層(B)用のポリマーを表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例1のPENと参考例2のPEN−ANA70を重量比70:30でブレンドしたものに変更した。そして、表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更し、縦延伸を延伸温度130℃で延伸倍率4.5倍に、横延伸を延伸温度140℃で延伸倍率5.5倍に、そして、熱固定を温度220℃で3秒に変更したほかは実施例2と同様にして二軸配向積層フィルムを作成した。
そして、このようにして得られた二軸配向積層フィルムの両面に、膜厚をそれぞれ40nmとなるように変更した以外は実施例1と同様にして、M層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0090】
[実施例6]
実施例5において、二軸配向積層フィルムの両面に設けるM層を、アルミの代わりにシリカ(SiO)を用い、珪素と酸素のモル比が37:63の部分酸化ケイ素とし、かつ厚みをそれぞれ70nmとなるように変更して形成した以外は、同様な操作を繰り返した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0091】
[実施例7]
フィルム層(A)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例3のPETと参考例5のPEIとを重量比85:15でブレンドしたものを用意し、他方フィルム層(B)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例1のPETと参考例2のPEN−ANA70を重量比60:40でブレンドしたものを用意した。
そして、これらのポリマーを170℃で6時間乾燥後、押出し機に供給し、295℃まで加熱して溶融状態とし、フィルム層(A)用のポリマーを101層、フィルム層(B)用のポリマーを101層に分岐させた後、それぞれの層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、その積層状態を保持したままダイへと導き、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し、総数202層の未延伸多層積層フィルムを作成した。なお、フィルム層(A)については、表1に示すように、表面に位置するフィルム層(A)を平坦層表面として厚くし、他のフィルム層(A)は同じ厚みになるように調整した。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が130℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.7倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、145℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.3倍で延伸し、その後210℃で2秒間熱固定処理を行い、厚さ3.9μmの二軸配向多層積層フィルムを得た。
上記の方法で作成した二軸配向多層積層フィルムの両面に、それぞれのM層の厚みを30nmに変更した以外は、実施例1と同様にして、M層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0092】
[実施例8]
実施例7において、縦および横方向の延伸倍率をそれぞれ4.5倍と5.0倍に変更して二軸配向多層積層フィルムを作成し、その両面に形成するM層を、アルミの代わりにシリカ(SiO)を用い、珪素と酸素のモル比が37:63の部分酸化ケイ素とし、かつ厚みをそれぞれ70nmとなるように変更して形成した以外は、同様な操作を繰り返した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0093】
[実施例9]
フィルム層(A)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例1のPENを用意し、他方フィルム層(B)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例1のPENと参考例2のPEN−ANA70を重量比60:40でブレンドしたものを用意し、表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更し、縦延伸を延伸温度125℃で延伸倍率4.7倍に、横延伸を延伸温度145℃で延伸倍率5.8倍に、そして、熱固定処理を温210℃で2秒に変更したほかは実施例2と同様にして二軸配向積層フィルムを作成した。
そして、このようにして得られた二軸配向積層フィルムの両面に、膜厚をそれぞれ40nmとなるように変更した以外は実施例1と同様にして、M層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0094】
[実施例10]
実施例9において、表1に示すようにF層の厚みを変更し、二軸配向積層フィルムの両面に形成するM層を、アルミの代わりにシリカ(SiO)を用い、珪素と酸素のモル比が37:63の部分酸化ケイ素とし、かつ厚みをそれぞれ80nmとなるように変更して形成した以外は、同様な操作を繰り返した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0095】
[実施例11]
フィルム層(A)用のポリマーとして、参考例1のPENを用意し、他方フィルム層(B)用のポリマーとして、表1に示すように不活性粒子を含有させた参考例1のPENと参考例2のPEN−ANA70を重量比60:40でブレンドしたものを用意した。
そして、これらのポリマーを170℃で6時間乾燥後、押出し機に供給し、295℃まで加熱して溶融状態とし、フィルム層(A)用のポリマーを51層、フィルム層(B)用のポリマーを51層に分岐させた後、それぞれの層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、その積層状態を保持したままダイへと導き、溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し、総数102層の未延伸多層積層フィルムを作成した。なお、フィルム層(A)については、表1に示すように、表面に位置するフィルム層(A)を平坦層表面として厚くし、他のフィルム層(A)は同じ厚みになるように調整した。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が125℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、145℃で横方向(幅方向)に延伸倍率6.0倍で延伸し、その後210℃で2秒間熱固定処理を行い、厚さ3.9μmの二軸配向多層積層フィルムを得た。
上記の方法で作成した二軸配向多層積層フィルムの両面に、厚みを40nmに変更する以外は実施例1と同様な操作を繰り返してM層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0096】
[実施例12]
実施例11において、フィルム層(B)用のポリマーにおける参考例1のPENと参考例2のPEN−ANA70の重量比を40:60に変更し、表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更し、縦延伸の延伸倍率を5.2倍に変更したほかは同様にして二軸配向多層積層フィルムを作成した。
上記のようにして得られた二軸配向積層フィルムの両面に形成するM層を、アルミの代わりにシリカ(SiO)を用い、珪素と酸素のモル比が37:63の部分酸化ケイ素とし、かつ厚みをそれぞれ50nmとなるように変更して形成した以外は、実施例11と同様な操作を繰り返して支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0097】
[比較例1]
実施例2において、フィルム層(B)用のポリマーを、表1に示すように不活性粒子をそれぞれ含有させた参考例3のPETと参考例4のPEIとを重量比85:15でブレンドしたものに変更し、表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更し、縦延伸を延伸温度105℃で延伸倍率3.6倍に、横延伸を延伸温度130℃で延伸倍率4.7倍に、そして、熱固定処理を220℃で2秒に変更したほかは同様にして二軸配向積層フィルムを作成した。
上記のようにして得られた二軸配向積層フィルムの両面に形成するM層の厚みをそれぞれ50nmとなるように変更して形成した以外は、実施例2と同様な操作を繰り返して支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0098】
[比較例2]
実施例2において、フィルム層(A)およびB用のポリマーを、表1に示すように不活性粒子をそれぞれ含有させた参考例1のPENに変更し、表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更し、縦延伸を延伸温度125℃で延伸倍率5.0倍に、横延伸を延伸温度140℃で延伸倍率6.0倍に、そして、熱固定処理を215℃で2秒に変更したほかは同様にして二軸配向積層フィルムを作成した。
上記のようにして得られた二軸配向積層フィルムの両面に形成するM層の厚みをそれぞれ120nmとなるように変更して形成した以外は、実施例2と同様な操作を繰り返して支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0099】
[比較例3]
比較例2において、表1に示すようにそれぞれのフィルム層の厚みを変更し、M層の厚みをそれぞれ10nmとなるように変更した以外は、同様な操作を繰り返して支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0100】
[比較例4]
実施例11において、M層を形成しなかった以外は同様な操作を繰り返した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0101】
[比較例5]
実施例11において、フィルム層(A)用のポリマーを用いずに厚さ3.9μmの単層フィルムとし、縦延伸を延伸温度133℃で延伸倍率4.7倍に、横延伸を延伸温度135℃で延伸倍率8.3倍に、そして、熱固定処理を202℃で10秒に変更したほかは同様にして二軸配向フィルムを作成した。
上記の方法で作成した二軸配向フィルムの両面に、厚みを50nmに変更する以外は実施例11と同様な操作を繰り返してM層を形成し、支持体を作成した。得られた支持体の特性を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
ここで、表1中の、PETはポリエチレンテレフタレート、PENはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、PET−ANA15、PET−ANA21は、全酸成分に対して、それぞれ15モル%21モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分であるポリエチレンテレフタレート、PET−PEI15は、ポリエーテルイミドを15重量%含有するポリエチレンテレフタレート、PEN−ANA15、PET−ANA21、PEN−ANA34は、それぞれ、全酸成分に対して、それぞれ15モル%、21モル%、34モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分であるポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、架橋Pstは架橋ポリスチレン粒子、AlOxはアルミと酸素の元素のモル比が42:58の部分酸化アルミ、SiOxは珪素と酸素の元素のモル比が37:63の部分酸化ケイ素、MDおよびTDはそれぞれフィルムの製膜(長手)方向および幅(横)方向を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の支持体は、クラックなどが改善され、優れた寸法安定性と塗布適性を具備することから、さまざまな用途に利用でき、特に高密度磁気記録媒体の支持体として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向積層フィルム(F層)の少なくとも片面に金属類または金属系無機化合物からなる層(M層)が設けられた支持体であって、
F層は、ポリエステル(A)からなるフィルム層(A)と熱可塑性樹脂(B)からなるフィルム層(B)とを積層して延伸したものであり、
芳香族ポリエステル(A)は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートであること、
熱可塑性樹脂(B)は、ポリエステル(A)よりも吸水率が0.03%以上低いこと、
M層の厚みが、15〜90nmの範囲であること、そして
支持体の縦方向のヤング率(GPa)と支持体の厚み(μm)の積が30(Gpa・μm)以上であること
を特徴とする支持体。
【請求項2】
支持体の厚みが1〜10μmである、請求項1に記載の支持体。
【請求項3】
支持体が、その片面に磁性層を設けて、磁気記録媒体のベースフィルムに用いられる請求項1または2のいずれかに記載の支持体。
【請求項4】
支持体の長手方向と幅方向のヤング率の和が10〜22GPaであり、かつ、長手方向のヤング率Emと幅方向のヤング率Etの比Em/Etが0.5〜1.0の範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載の支持体。
【請求項5】
フィルム層(A)または(B)の片面または両面にフィルム層(B)または(A)を積層した請求項1〜4のいずれかに記載の支持体。
【請求項6】
フィルム層(A)とフィルム層(B)とを交互に4層以上積層した請求項1〜5のいずれかに記載の支持体。
【請求項7】
熱可塑性樹脂(B)は、主たる繰り返し単位が、下記式(I)と(II)とからなり、下記式(I)で表される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位のモル数を基準として、5モル%以上80モル%未満の範囲である請求項1〜6のいずれかに記載の支持体。
【化1】

(式(I)および(II)中のRおよびRは炭素数2〜4のアルキレン基またはシクロヘキシレン基、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基である。)
【請求項8】
支持体の幅方向の湿度膨張係数が0〜5ppm/%RHである請求項1〜7のいずれかに記載の支持体。

【公開番号】特開2010−264683(P2010−264683A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118686(P2009−118686)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】