説明

改質カーボンブラック、カーボンブラック分散液及び水性インキ

長期間保存安定でき更に目詰まりし難く、かつOD値が高く深みのある黒い印刷を可能とするカーボンブラック、或いは、インクジェットプリンタ印刷に使用され、沈降性が低く長期間安定に保存でき更に目詰まりし難く、かつ反射濃度値が高く深みのある黒で印字濃度の高い印刷をさせる水性インキに用いられるカーボンブラック、それを分散してなるカーボンブラック分散液、及びそれを含有する水性インキを提供する。本発明の改質カーボンブラックの一実施形態は、一次粒子径11〜18nm、BET比表面積が少なくとも180m/g、DBP吸油量が少なくとも180mL/100g、DBP吸油量(mL/100g)あたりの該BET比表面積(m/g)が0.75〜1.3のカーボンブラックを酸化処理することで得られる改質カーボンブラックで、その表面に少なくともラクトン基とカルボキシル基が導入され、一次粒子径に対する平均粒子径の比が8.5以上であることを特徴とする。また本発明のカーボンブラック分散液、水性インキは、該改質カーボンブラックを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、改質カーボンブラック、詳細には、インクジェットプリンタ記録用インキ、筆記具用インキ、スタンプ用インキ等の黒色インキに使用されるカーボンブラック、それを分散してなるカーボンブラック分散液、及びそれを含有する水性インキに関するものである。
【背景技術】
インクジェットプリンタで黒色を印刷する水性インキの着色剤として、カーボンブラックが汎用されている。
一般にカーボンブラックの原末は、略球状一次粒子が集合した一次凝集体であるアグリゲート同士が、ファンデルワールス力や単なる集合、付着、絡み合い等により形成されたアグロメレートと呼ばれる二次凝集塊となったものである。このようなカーボンブラック原末は、未処理のままでは水へ分散することなく直ちに沈降してしまう。
このような原末と、それを分散する分散剤とを含む水性インキは、粘度が高く印刷し難い。そこで、分散剤を用いなくても水に分散し易いように、カーボンブラック原末の表面を酸化してカルボキシル基のような親水性官能基を導入した改質カーボンブラックが用いられる。
このような改質カーボンブラックとして、本発明者は(特許文献1)において、その比表面積とDBP吸油量(ジブチルフタレートを用いた吸油量:本明細書内ではDBP吸油量と記載する)とが特定されたものを開示している。この改質カーボンブラックを含む水性インキは、粘度が低いうえ、反射濃度値(optical density:本明細書内ではOD値と記載する)が高いので、深みのある黒で濃い印刷をすることができる。水性インキは、インクジェット用記録インキとして用いるのに際し、実用上充分な経時安定性を有する必要があるが、これらの水性インキは経時安定性が必ずしも充分ではないものもあった。
また改質カーボンブラックとして、平均粒子径が細かなカーボンブラック原末を酸化したものもある。この改質カーボンブラックを含む水性インキは、分散性がよく沈降し難いため保存安定性に優れ、目詰まりし難い。しかしながらこのインキで印刷すると、反射濃度値が低く、実用的で充分な印字濃度を示さなくなってしまう。またインキの色相が赤みを帯びた黒色となってしまう傾向がある。
また(特許文献2)では、NSA、IA、NSA/IA、CTAB、DBP、24M4DBP、Tint及び全炭素原子に対する全酸素原子の比率等を特定した水性インキ用カーボンブラック顔料が開示されている。しかしながらこの水性インキ用カーボンブラックは特にインクジェット用インキとして使用する場合にはOD値が充分ではないという課題を有する。
(特許文献1)特開2000−319573号公報
(特許文献2)特開2001−81355号公報
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、インクジェットプリンタ印刷に使用され、一層沈降率が低く長期間安定に保存でき、更に目詰まりし難く、かつ反射濃度値(OD値)が高く深みのある黒で濃い印刷ができる水性インキに用いられるカーボンブラック、及びそれを分散させた水性インキを提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明は、下記(1)〜(26)に示す各構成の改質カーボンブラック、水性インキ等を提供することにより、前記目的を達成したものである。
(1)一次粒子径11〜18nm、BET比表面積が少なくとも180m/g、DBP吸油量が少なくとも180mL/100g、DBP吸油量(mL/100g)あたりの該BET比表面積(m/g)が0.75〜1.3のカーボンブラックを酸化処理することで得られる改質カーボンブラックで、その表面に少なくともラクトン基とカルボキシル基が導入され、一次粒子径に対する平均粒子径の比が8.5以上であることを特徴とする改質カーボンブラック。
(2) 前記DBP吸油量(mL/100g)あたりのBET比表面積(m/g)が0.9〜1.1であることを特徴とする(1)に記載の改質カーボンブラック。
(3) 前記改質カーボンブラックの平均粒子径が150〜250nmであることを特徴とする(1)または(2)に記載の改質カーボンブラック。
(4) 前記改質カーボンブラックにおけるカーボンブラック重量に対する前記ラクトン基が500μmol/g以上、同じく前記カルボキシル基が700μmol/g以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
(5) 前記改質カーボンブラックの沈降率が30%以下を示すことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
(6) 前記ラクトン基と前記カルボキシル基とが次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩により酸化されて導入されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
(7) 改質カーボンブラック濃度0.001重量%に希釈した測定液の500nm波長での吸光度が、少なくとも0.47であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
本発明者らは鋭意検討の結果、自己分散カーボンブラックを特定の溶剤構成比で調整した分散体の沈降率と、平均粒子径とを、ある特定の範囲に調整することで、前記課題を解決し得るとの知見を得た。以下の発明(8)〜(13)はかかる知見に基づくものである。すなわち該発明の構成は以下の通りである。
(8) 分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な、改質カーボンブラックであって、
該カーボンブラック13重量%、水87重量%に調整された分散体Aの沈降率(%)をS
該カーボンブラック5重量%、グリセリン10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル10重量%、水75重量%に調整された分散体Bの沈降率(%)をS、としたときに、
10≦S−S≦50、S≦40の関係が成立し、かつ、
該カーボンブラックの0.3g/Lに調整された分散体で測定される50%累積径が150〜350nmの範囲であることを特徴とする改質カーボンブラック。
(9) 20≦S−S≦50、S≦30の関係が成立することを特徴とする(8)に記載の改質カーボンブラック。
(10) 前記カーボンブラックの0.3g/Lに調整された分散体で測定される50%累積径が150〜250nmの範囲であることを特徴とする(8)または(9)に記載の改質カーボンブラック。
(11) 前記カーボンブラックが、一次粒子径11〜18nm、BET比表面積が少なくとも180m/g、DBP吸油量が少なくとも180mL/100g、DBP吸油量(mL/100g)あたりの該BET比表面積(m/g)が0.75〜1.3のカーボンブラックに表面改質することで得られる改質カーボンブラックであることを特徴とする、(8)〜(10)のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
(12) 前記DBP吸油量(mL/100g)あたりのBET比表面積(m/g)が0.9〜1.1であることを特徴とする(11)に記載の改質カーボンブラック。
(13) 前記カーボンブラックが、カーボンブラック原末を次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩により酸化処理することで得られるものであることを特徴とする(8)〜(12)のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
(14) (1)〜(13)のいずれかに記載の改質カーボンブラックを製造する方法であって、ファーネス法により調製されたカーボンブラック原末を水に懸濁させた液に、次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩の水溶液を加え、直径0.6〜3mmのミル媒体とともに分散機を用いて酸化処理し、100〜500メッシュの金網で濾別し、得られた液を脱塩する工程を少なくとも有することを特徴とする改質カーボンブラックの製造方法。
(15) (1)〜(14)のいずれかに記載の改質カーボンブラックを水に分散してなることを特徴とするカーボンブラック分散液。
(16) (1)〜(14)のいずれかに記載の改質カーボンブラックを含有することを特徴とする水性インキ。
(17) 少なくともグリセリン、グリコールエーテル化合物および(8)〜(13)のいずれかに記載の改質カーボンブラックを含有することを特徴とする水性インキ。
(18) 前記グリコールエーテル化合物が、グリコールブチルエーテル化合物から選ばれることを特徴とする(17)に記載の水性インキ。
(19) 記録媒体へのインキの塗布量が1mg/cmであるときの浸透時間が1秒未満であるような浸透性を有することを特徴とする(16)〜(18)のいずれかに記載の水性インキ。
(20) 20℃における表面張力が45mN/m以下であることを特徴とする(16)〜(19)のいずれかに記載の水性インキ。
(21) グリコールブチルエーテル系の水性有機溶剤を含んでなることを特徴とする(16)、(19)または(20)に記載の水性インキ。
(22) ノニオン性界面活性剤を含んでなることを特徴とする(16)〜(21)のいずれかに記載の水性インキ。
(23) 前記ノニオン性界面活性剤がアセチレングリコール系界面活性剤であることを特徴とする(22)に記載の水性インキ。
(24) インキを付着させて記録媒体に印字を行う記録方法であって、インキとして(16)〜(23)のいずれかに記載の水性インキを用いることを特徴とする、記録方法。
(25) インキの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、インキとして(16)〜(23)のいずれかに記載の水性インキを用いることを特徴とする、インクジェット記録方法。
(26) (24)または(25)に記載の記録方法によって記録が行われたことを特徴とする記録物。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づいて説明する。
(実施形態A)
本実施形態Aの改質カーボンブラックは、ラクトン基とカルボキシル基が表面に導入され、一次粒子径に対する平均粒子径の比が8.5以上の改質カーボンブラックであって、平均粒子径が150〜250nmと大きいにも関わらず沈降率が30%以下のものである。
この改質カーボンブラックは、一次粒子径(一次粒子径の平均値の範囲)が11〜18nm、BET比表面積が少なくとも180m/g、好ましくは180〜260m/gであり、DBP吸油量が少なくとも180mL/100g、好ましくは180〜300mL/100g、一層好ましくは190〜250mL/100gであり、且つDBP吸油量(mL/100g)あたりの該比表面積(m/g)が0.75〜1.3の範囲にあるカーボンブラックを、酸化処理したものである。
前記カーボンブラックのDBP吸油量あたりの比表面積(比表面積/DBP吸油量)、及び、一次粒子径に対する平均粒子径の比(平均粒子径/一次粒子径)の各々の値が、前記範囲内にある改質カーボンブラックで調製された水性インキは、深みのある黒の濃い印字濃度で印刷することができる。一方、この範囲から外れた改質カーボンブラックで調製されたインキは、浅い黒色であり、深みのある黒に印刷できない。
前記DBP吸油量(mL/100g)あたりのBET比表面積(m/g)は、0.75〜1.3であり、0.9〜1.1であると一層好ましい。
前記カーボンブラックの一次粒子径に対する平均粒子径の比は、一次粒子の凝集したアグロメレートと呼ばれるカーボンブラック凝集塊一つあたりに含まれる、凝集している一次粒子の平均数に相当するものである。一次粒子径に対する平均粒子径の比が8.5以上の改質カーボンブラックに調製することは、所望の沈降率とOD値とを共に満たすために重要である。一次粒子径に対する平均粒子径の比が8.5〜15.0であると一層好ましく、9.0〜12.0であるとなお一層好ましい。
一次粒子径がこの範囲の改質カーボンブラックで調製されたインキは、平均粒子径が150〜250nmであっても沈降率が低く、インクジェットプリンタのインキ噴出ノズルの目詰まりを惹き起しにくく、また沈降、変質等を生じにくく、実用的に数年間の長期保存安定性を有する。
一次粒子径の範囲は、11〜18nmであり、15〜18nmであると一層好ましい。この範囲よりも大きい一次粒子径のものを用いると、この範囲内のものと比べ、調製されたインキの沈降率が、急激に数〜数10倍上昇し、目詰まりや長期保存による変質を起こし易くなってしまう。一方、この範囲よりも小さい一次粒子径のものを用いると、インキの沈降率に問題はないが、粘度が高くなってしまい改質カーボンブラックの製造やインキの印刷が困難になってしまう。
長期保存安定性の良好な水性インキを調製することができる改質カーボンブラックは、原料のカーボンブラックに適度な酸化処理を施すことより得られるもので、カーボンブラック重量に対する前記ラクトン基が500μmol/g以上、同じく前記カルボキシル基が700μmol/g以上であることが好ましい。ラクトン基やカルボキシル基は親水性官能基であるので、この改質カーボンブラックと水との相互作用が強まり、改質カーボンブラック同士の静電的な斥力が働く。この親水性官能基が多いほど、斥力が大きくなって水に分散し易くなる結果、沈降し難くなる。
本実施形態Aの改質カーボンブラックは、沈降率30%以下を示す。沈降率は下記のように測定する。
改質カーボンブラック濃度5重量%、グリセリン10重量%、ジエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル10重量%に調製した液30gを沈降管に封入し、11000Gの重力加速度で10分間遠心分離処理を行う。その上澄み液4gを精秤し、1Lメスフラスコで希釈する。この希釈液を5mLホールピペットに量り取り、100mLメスフラスコで希釈する。この液の500nm波長における吸光度W1を測定する。同様に遠心処理前の調製液を希釈したときの吸光度W0を測定し、
沈降率(%)=〔1−(吸光度値W1)/(吸光度値W0)〕×100
の計算式により沈降率を算出する。
本実施形態Aの改質カーボンブラックを用い、上記の条件で得られた沈降率は、30%以下の低い値を示す。このことにより、このような沈降率の改質カーボンブラックを含有するカーボンブラック分散液および水性インキは、たとえ改質カーボンブラックの平均粒子径が前記範囲のように比較的大きくても、数年間の長期保存後も沈降せず、変質しにくく安定である。またこの水性インキをインクジェットプリンタに使用した場合、インクジェットプリンタのインキ噴出ノズルの目詰まりを惹き起さず、スムーズに印字できる。さらにこの分散液やインキは、OD値が高いので、深みのある黒で濃い印刷等ができる。より好ましい沈降率は25%以下である。一方、前記範囲を超える沈降率を示すカーボンブラックを用いたインキは、目詰まりや長期保存による沈降を起こしてしまう。
改質カーボンブラック濃度を0.001重量%に調製した液の500nmでの吸光度が、0.47以上であることが好ましい。吸光度がこの範囲である改質カーボンブラックを水性インキに用いると、深みのある黒で印刷される。吸光度がこの範囲外のカーボンブラックを用いると、茶色を帯びた黒色で印刷されてしまう。
改質カーボンブラックの製造方法としては、例えば、ファーネス法により調製されたカーボンブラック原末を水に懸濁させた液に、次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩の水溶液を加え酸化処理を行い、直径0.6〜3mmのミル媒体とともに分散機で攪拌し、100〜500メッシュの金網で濾別し、濾液を限外濾過膜により脱塩する工程を少なくとも有しているというものである。
カーボンブラック原末は、公知のカーボンブラックの製造方法で製造されたものであり、ファーネス法で得られたカーボンブラック、チャンネル法で得られたカーボンブラック等が挙げられる。ファーネス法は、約2000℃迄の高温に耐え得るレンガで内張りされた特殊な燃焼炉に燃料(ガスや油)と空気とを導入し、完全燃焼させ1400℃以上の高温雰囲気を形成した上で液状の原料油を連続的に噴霧し熱分解させ、炉内後段で生成したカーボンブラックを含む高温ガスに水を噴霧し反応を停止させた後、バッグフィルターでカーボンブラックと排ガスとに分離するという原末調製方法である。
カーボンブラックを酸化するには、例えば、次のような方法がある。空気接触による酸化法、窒素酸化物、オゾンとの反応による気相酸化法、硝酸、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、亜塩素酸、過塩素酸、次亜ハロゲン酸塩、過酸化水素、臭素水溶液、オゾン水溶液等の酸化剤を用いる液相酸化法等である。プラズマ処理等により表面を改質してもよい。
特に好ましい方法は、次亜ハロゲン酸塩を用いてカーボンブラックを湿式酸化する方法である。次亜ハロゲン酸塩の具体例には次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウムが挙げられ、反応性の点から次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。
次亜ハロゲン酸やその塩を酸化剤として用いることにより、カーボンブラック原末の表面は酸化されてラクトン基、カルボキシル基等が導入される。反応性の点から次亜塩素酸ナトリウムの水溶液が一層好ましい。次亜ハロゲン酸やその塩の使用量はカーボンブラック原末のBET比表面積の大きさで調整する。BET比表面積が小さくなるほど次亜ハロゲン酸やその塩の量を少なくし、BET比表面積が大きくなるほど次亜ハロゲン酸やその塩の量を多くする。比表面積が小さくなるほど次亜ハロゲン酸と反応する活性点が少なくなり、比表面積が大きくなるほど次亜ハロゲン酸と反応する活性点が多くなるからである。活性点以上の次亜ハロゲン酸を加えても反応に支障はないが、無駄な次亜ハロゲン酸を使用することになり、更に余分な脱塩操作が必要になる。活性点以下の次亜ハロゲン酸量で反応を行なうと目標とするラクトン基量、カルボキシル基量に到達せず沈降率が悪くなってしまう。前記次亜ハロゲン酸やその塩中の有効塩素濃度とカーボンブラックの表面積とに着目し、検討した結果、カーボンブラックの表面積(m)あたりに0.6×10−4〜2.5×10−4モル、好ましくは0.6×10−4〜1.5×10−4モルの塩素量の次亜ハロゲン酸やその塩で酸化することにより、良好な酸化処理ができることが分かった。
カーボンブラック原末を水に懸濁させた工程では、酸化工程を適切に行うために、カーボンブラックを充分に水に混合してなじませることが重要である。負荷の高い分散機や高速攪拌機などを用いることができる。またあらかじめ水溶性溶剤を用い、カーボンブラックに溶剤を浸透させたり、水−水溶性溶剤の混合系での分散処理をすることができる。
カーボンブラックの酸化処理・分散または粉砕する製造工程では、分散機または粉砕機としてボールミル、アトライター、フーロジェットミキサー、インペラーミル、コロイダルミル、サンドミル(例えば、「スーパーミル」、「アジテーターミル」、「ダイノーミル」、「ビーズミル」の商品名で市販のもの)等を用いることができる。ミル媒体を必ずしも用いなくてもよいが、用いた方がよく、直径0.6〜3mmのミル媒体を例示できる。前記ミル媒体としては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、磁性ビーズ、ステンレス製ビーズ等を用いることができ、この酸化しつつ分散する工程での処理条件としては、10〜70℃で3〜10時間、回転数=500rpm以上で行なわれることが好ましい。反応温度が高いほうが反応は進行しやすいが、温度が高くなると次亜ハロゲン酸塩が分解してしまうので反応は40〜60℃が好ましい。
得られた分散液をミル媒体とともに、粗大粒子を取り除くため、100〜500メッシュの金網で濾過する。
金網で濾別した濾液の脱塩は、例えば限外濾過膜により電導度が1.5mS/cmよりも小さくなるまで行なう。1.5mS/cm以上で脱塩を終了するとNaCl等の不純物がインキ中に含まれてしまい保存安定性が悪くなってしまう。
更に、脱塩後、遠心分離機やフィルターを用いて、1μm以上の粗大粒子を取り除く。粗大粒子は沈降しやすく沈降率が増加し、インクジェットプリンタのインキ噴出ノズルの目詰まりを起こしてしまうため、取り除くことが重要である。
得られた分散液のpH調整や、酸化によって得られた水溶性酸性基の中和をすることができる。それに用いられる塩基性物質としてはアルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等)、アンモニア(水)、各種のアミン化合物を挙げることができる。
好ましいアミン化合物には水溶性の揮発アミン、アルカノールアミン等が挙げられる。具体的には、炭素数1〜3のアルキル基で置換された揮発性アミン(例えばメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン);炭素数1〜3のアルカノール基で置換されたアルカノールアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等);炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルカノール基で置換されたアルキルアルカノールアミン等が挙げられる。
本実施形態Aのカーボンブラック分散液は、前記改質カーボンブラックを水に分散させてなることを特徴とする。前記カーボンブラックは分散剤なしに分散及び/または溶解が可能なカーボンブラックであるので、前記カーボンブラック分散液は、前記カーボンブラックに水を添加及び/または濃縮して所望のカーボンブラック濃度になるように調整して得ることができる。また必要に応じて、後述する任意の水溶性有機溶剤や防腐剤等の添加物を加えることもできる。
本実施形態Aの水性インキは、前記改質カーボンブラックを少なくとも含有することを特徴とする。前記カーボンブラックを含有することで、水性インキは鮮明で深みのある黒で濃く綺麗に印刷することを可能する。更に保存安定性がよく、長期間保存しても沈降を生じにくくなる。前記カーボンブラックは、一般には水性インキ全量に対して、0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%の範囲で含有される。カーボンブラックの含有量が0.1重量%未満では印字又は筆記濃度が不十分となる場合があり、また20重量%を超える場合には水性インキの粘度が急激に高くなり、インキの吐出時の安定性が低下する恐れがある。
また本実施形態Aの水性インキは、更に記録媒体へのインキの塗布量が1mg/cmであるときの浸透時間が1秒未満であるような浸透性を有することを特徴とする。塗布量が1mg/cmでの浸透時間が1秒未満であるインキとは、具体的には、例えば360dpi(ドット/インチ)×360dpiの面積に50ngの水性インキを塗布した場合に、印刷面を触ってもインキで汚れなくなるまでの時間が1秒未満である水性インキを指す。
これらのインキは、水溶液の表面張力が小さくなる水溶性有機溶剤や界面活性剤の浸透促進剤を添加して、記録媒体への濡れ性を向上することで浸透性を早めたものである。水溶性有機溶剤としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカルビトール類、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等の1,2−アルキルジオール類が挙げられる。中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールブチルエーテル系の水性有機溶剤が、優れた浸透性を与える意味で特に好ましい。
また界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等を用いることができる。中でも、ノニオン性界面活性剤が低起泡性であることから特に好ましく、更にはアセチレングリコール系ノニオン性界面活性剤が、優れた浸透性を与える意味で特に好ましい。
これらの浸透促進剤は、水溶性有機溶剤または界面活性剤単独、あるいは併用して、20℃におけるインキの表面張力が45mN/m以下、好ましくは40mN/m以下に調整して添加することが望ましい。
本実施形態Aの水性インキは、例えばインクジェット記録方法に用いた場合にインキを吐出するノズル先端のインキ乾燥防止のために、保湿剤を添加することができる。保湿剤としては、水溶性かつ吸湿性の高い材料から選ばれ、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等のポリオール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類、マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等の糖類を用いることができる。これらの保湿剤の使用量は特に限定されないが、一般には0.5〜50重量%の範囲である。
水性インキは、上述した以外にも必要に応じて、一般的な定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤のような添加剤を含んでいてもよい。
上記改質カーボンブラックを含有する水性インキは深みのある黒で濃く綺麗に印刷することを可能にする。例えば、改質カーボンブラック濃度5重量%、グリセリン10重量%、ジエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル10重量%に調製した水性インキを、1mg/cm塗布した場合、そのインキ層をマクベス濃度計で測定した反射濃度値(OD値)は、少なくとも1.4である。
また上記配合比で調製した水性インキで印刷すると、L*a*b*表色系でのL*値が47以下、b*値が0.7〜0となり、L*a*b*表色系がこの範囲のものであれば、印刷したとき、青み乃至赤みを帯びておらず、肉眼での観察程度では見分けできない程度に同等で、深みのある黒である。また水性インキの吸光度と反射濃度値とが前記範囲内にあり大きいほどL*値とb*値とが小さく良好である。
本実施形態Aの水性インキは、筆記具用、スタンプ用等のような各種のインキとしても用いられる。特に、水性ボールペン等の筆記用インキ組成物として使用した場合に記録・筆記特性が良好で筆跡ムラのない筆記ができ、また、速記した場合に文字がかすれることはない。本実施形態Aの水性インキは、インキの液滴を吐出し、前記液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録用インキとして、更に好適に使用することができる。
本実施形態Aのインクジェット記録方法は、インキを微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させるいかなる方式も使用することができる。
その幾つかを説明する。先ず静電吸引方式がある。この方式には、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインキを液滴状で連続的に噴射させ、インキ滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインキ滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式がある。
第二の方式は、小型ポンプでインキ液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインキ滴を噴射させる方式である。噴射したインキ滴は噴射と同時に帯電させ、インキ滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
第三の方式は、圧電素子を用いる方式であり、インキに圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インキ滴を噴射・記録させる方式である。
第四の方式は、熱エネルギーの作用によりインキを急激に体積膨張させる方式であり、インキを印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インキ滴を噴射・記録させる方式である。
以上のいずれの方式も本実施形態Aの水性インキを用いたインクジェット記録方法に使用することができる。
本実施形態Aの記録物は、少なくとも上記水性インキを用いて記録が行われて得られたものである。この記録物は、本実施形態Aの水性インキを用いることにより高い印字濃度を示す。
以上、詳細に説明したように本実施形態Aの改質カーボンブラックは、簡便に大量に製造することが可能で、分散剤や界面活性剤を用いなくとも、水に分散させることができる。このカーボンブラックを分散させた分散液は、分散剤を必要としないので、粘度が低く、低粘度の水性インキに用いるのに好適である。
特にこの水性インキは、インクジェットプリンタ用に好適である。このインキは、保存安定性がよく長期間保存しても沈降を生じにくく、品質保持期限が長い。またインクジェットプリンタのインキ噴出ノズルの目詰まりを惹き起こしにくい。更にこのインキを用いると、鮮明で深みのある黒で濃く綺麗に印刷される。
(実施形態B)
本実施形態Bの改質カーボンブラックは、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な改質カーボンブラックである。本実施形態Bにおける、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能なカーボンブラックとは、顔料表面に多数の親水性官能基および/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解することが可能なカーボンブラックである。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、カーボンブラックが分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な最小粒子径で安定に存在している状態をいう。ここで「分散可能な最小粒子径」とは、分散時間を増してもそれ以上小さくならないカーボンブラックの粒子径をいう。前記カーボンブラックの表面に結合される分散性付与基としては、カルボキシル基、ラクトン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン基、燐酸基および第4級アンモニウム、およびそれらの塩等が例示できる。本明細書中では、このような分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な改質カーボンブラックを、自己分散カーボンブラックと称することがある。
前記自己分散カーボンブラックは、分散液もしくは水性インキとして用いた場合、通常の顔料を分散させるために含有させる分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下や発泡がほとんど無く、取り扱いが容易であり、かつ印刷に用いる場合の印字安定性が優れる水性インキが調整しやすい。またカーボンブラック自身の黒色度が高いのみならず、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり、OD値をさらに高めることができる。
本実施形態Bのカーボンブラックは、該カーボンブラック13重量%、水87重量%に調整された分散体Aの沈降率(%)をS、該カーボンブラック5重量%、グリセリン10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル10重量%、水75重量%に調整された分散体Bの沈降率(%)をS、としたときに、
10≦S−S≦50、S≦40の関係が成立することを特徴とする。
また、
20≦S−S≦50、S≦30の関係が成立することがより好ましい。
本明細書中では、沈降率とは以下のように求められる値をいう。
カーボンブラックを所定の組成比で混合・調整した分散液体30gを沈降管に封入し、11000Gの重力加速度で10分間遠心分離処理を行う。その上澄み液4gを精秤し、1Lメスフラスコで希釈する。この希釈液を5mLホールピペットに計り取り、100mLメスフラスコで希釈する。この液の500nm波長における吸光度W1を測定する。同様に遠心処理前の調整液を希釈したときの吸光度W0を測定し、
沈降率S(%)=〔1−(吸光度値W1)/(吸光度値W0)〕×100の計算式により沈降率を算出する。
本実施形態Bの改質カーボンブラックは、異なる組成で調整された分散体の沈降率S、Sの差が、10〜50の範囲、より好ましくは20〜50の範囲であり、かつ分散体Bの沈降率Sが40以下、より好ましくは30以下であることを特徴とするものである。S−Sの値が10未満であり、OD値の高いものを得るためには、粒径が大きく沈降率の高いカーボンブラックを選択する必要があるが、その場合、その高い沈降率のために、長期間の放置による変質、インキ噴出ノズルの目詰まり等の重大な問題が発生する恐れがある。またS−Sの値が10未満であり、沈降率の低いカーボンブラックを選択すれば、長期間の放置による変質、インキ噴出ノズルの目詰まり等が発生しにくくなるものの、印刷物のOD値は低く、黄赤味の黒色となる。それに対し上記要件を満たす本実施形態Bの改質カーボンブラックは、分散体もしくは水性インキとして印刷した場合に、深みのある黒色で、高いOD値を実現しうる。また上記範囲内の改質カーボンブラックは、実使用上、沈降が生じにくいため、分散体もしくは水性インキとして使用する際に数年間長期保存しても変質しにくく安定である。またインクジェットプリンタに使用した場合、インクジェットプリンタのインキ噴出ノズルの目詰まりを惹き起しにくく、スムーズに印字できる。
本実施形態Bのカーボンブラックは、該カーボンブラックの0.3g/Lに調整された分散体で測定される50%累積径が150〜350nmの範囲であることを特徴とする。また前記50%累積径が150〜250nmの範囲であることがより好ましい。
本明細書中では、50%累積径とは以下のように求められる値をいう。
カーボンブラック13重量%、水87重量%に調整された分散体A 2.3gを精秤し、1Lメスフラスコで希釈する。この希釈分散体を、例えば粒度分析計MICROTRAC9340−UPA(商品名;マイクロトラック社製)等の装置を使用して粒度分布測定を行い、累積頻度が50%となるときの粒径を求める。
50%累積径が上記範囲内である改質カーボンブラックは、分散体もしくは水性インキとして印刷した場合に、深みのある黒色で、高いOD値を実現しうる。一方、50%累積径が上記範囲外であるカーボンブラックは、浅い黒色であり、深みのある黒に印刷できない場合がある。
本実施形態Bの改質カーボンブラックは、一次粒子径11〜18nm、BET比表面積が少なくとも180m/g、DBP吸油量が少なくとも180mL/100g、DBP吸油量(mL/100g)あたりの該BET比表面積(m/g)が0.75〜1.3のカーボンブラックに表面改質することで得られる改質カーボンブラックであることが好ましい。また前記DBP吸油量(mL/100g)あたりのBET比表面積(m/g)が0.9〜1.1であることがより好ましい。
上記範囲内のカーボンブラックを表面改質した場合、沈降率S、Sの関係が上述した好ましい範囲内となり、かつ50%累積径が上述した好ましい範囲内である自己分散カーボンブラックを調整することが容易である。
本実施形態Bの自己分散カーボンブラックは、例えば、カーボンブラックに物理的処理または化学的処理を施すことで、前記分散性付与基または前記分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。
前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば空気接触による酸化法、窒素酸化物、オゾンとの反応による気相酸化法、また、水中で硝酸、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、亜塩素酸、過塩素酸、次亜ハロゲン酸塩、過酸化水素、臭素水溶液、オゾン水溶液等の酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法、また、p−アミノ安息香酸等を顔料表面に結合させることによりフェニル基等を介して分散性付与基を結合させる方法等が例示できる。
本実施形態Bにおいて特に好ましい方法は、次亜ハロゲン酸塩を用いてカーボンブラックを湿式酸化する方法である。この方法についての詳細は、実施形態Aで説明したことが適宜適用される。
本実施形態Bの改質カーボンブラックの好ましい製造方法としては、例えば、ファーネス法により調製されたカーボンブラック原末を水に懸濁させた液に、次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩の水溶液を加え酸化処理を行い、直径0.6〜3mmのミル媒体とともに分散機で攪拌し、100〜500メッシュの金網で濾別し、濾液を限外濾過膜により脱塩する工程を少なくとも有しているというものである。
この製造方法における各工程(カーボンブラック原末を水に懸濁させる工程、カーボンブラックの酸化処理・分散または粉砕する製造工程等)ついては、実施形態Aで説明したことと同様であり、その内容が適宜適用される。
本実施形態Bのカーボンブラック分散液は、上述した自己分散カーボンブラックを水に分散してなることを特徴とする。前記カーボンブラックは分散剤なしに分散及び/または溶解が可能なカーボンブラックであるので、前記カーボンブラック分散液は、前記カーボンブラックに水を添加及び/または濃縮して所望のカーボンブラック濃度になるように調整して得ることができる。また必要に応じて、後述する任意の水溶性有機溶剤や防腐剤等の添加物を加えることもできる。
本実施形態Bの水性インキは、前記改質カーボンブラックを少なくとも含有することを特徴とする。前記カーボンブラックを含有することで、水性インキは鮮明で深みのある黒で濃く綺麗に印刷することを可能する。更に保存安定性がよく、長期間保存しても沈降を生じにくくなる。前記カーボンブラックは、一般には水性インキ全量に対して、0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%の範囲で含有される。カーボンブラックの含有量が0.1重量%未満では印字又は筆記濃度が不十分となる場合があり、また20重量%を超える場合には水性インキの粘度が急激に高くなり、インキの吐出時の安定性が低下する恐れがある。
本実施形態Bの水性インキは、グリセリン、グリコールエーテル化合物をさらに含んでなることがより好ましい。前記グリコールエーテル化合物は、中でも、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ヘキシレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のグリコールブチルエーテル化合物から選ばれるものであることが、インクへの浸透性を効果的に付与しやすいという観点から、さらに好ましい。上述のように、本実施形態Bの改質カーボンブラックは、グリセリン、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを含む分散体としての沈降率がある一定の範囲以下であるため、上記グリセリン、グリコールエーテル化合物を含んでなる水性インキは、実質的に小さい沈降率を確保しつつ、適正な浸透性、信頼性および高いOD値を実現し得る。
また本実施形態Bの水性インキは、実施形態Aと同様に、更に記録媒体へのインキの塗布量が1mg/cmであるときの浸透時間が1秒未満であるような浸透性を有することを特徴とする。
これらのインキは、水溶液の表面張力が小さくなる水溶性有機溶剤や界面活性剤の浸透促進剤を添加して、記録媒体への濡れ性を向上することで浸透性を早めたものである。水溶性有機溶剤及び界面活性剤として本実施形態Bに適した化合物としては、前記実施形態Aに適した例示の化合物と同様である。
これらの浸透促進剤は、水溶性有機溶剤または界面活性剤単独、あるいは併用して、20℃におけるインキの表面張力が45mN/m以下、好ましくは40mN/m以下に調整して添加することが望ましい。
本実施形態Bの水性インキは、前述した実施形態Aの場合と同様の理由から保湿剤等を添加することができ、該保湿剤の例及び使用量については、前記実施形態Aで説明したことと同様であり、その内容が適宜適用される。
本実施形態Bの水性インキは、上述した以外にも必要に応じて、前述した実施形態Aと同様に、一般的な定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤のような添加剤を含んでいてもよい。
定着剤としては、水溶性の樹脂類や水性エマルジョン、水性ポリマー微粒子等を用いることができる。水溶性の樹脂類としては、水溶性ロジン類、アルギン酸類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、スチレン−アクリル酸樹脂、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−マレイン酸半エステル樹脂、アクリル酸−アクリル酸エステル樹脂、イソブチレン−マレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、アラビアゴムスターチ、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。水性エマルジョンや水性ポリマー微粒子としては、スチレン−アクリル酸エマルジョン、アクリル酸エマルジョン等が挙げられる。
pH調整剤としては、pHを特定の範囲内に設定する目的で従来水性インク組成物に用いられているものを利用することが出来る。具体的には、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン類等を用いることが出来る。pH緩衝剤としては、pHを特定の範囲内に維持する目的で従来水性インク組成物に用いられているものを利用することが出来る。具体的には、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等を用いることが出来る。
酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024など、あるいはランタニドの酸化物等が用いられる。
防腐剤・防かび剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(アビシア社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などの中から選ぶことができる。
本実施形態Bの水性インキも、前述した実施形態Aと同様に、筆記具用、スタンプ用、インクジェット記録用インキ等のような各種のインキとしても用いられる。特にその好適態様及び効果は実施形態Aの水性インキと同様である。
本実施形態Bのインクジェット記録方法は、インキを微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させるいかなる方式も使用することができる。その幾つかの方式の例は、前述した実施形態Aと同様であり、実施形態Aでの説明が本実施形態Bでも適用される。
以上のいずれの方式も本実施形態Bの水性インキを用いたインクジェット記録方法に使用することができる。
本実施形態Bの記録物は、少なくとも上記水性インキを用いて記録が行われて得られたものである。この記録物は、本実施形態Bの水性インキを用いることにより高い印字濃度を示す。
以上、好適な実施形態として実施形態A及び実施形態Bを例に挙げて詳細に説明したように、本発明の改質カーボンブラックは、簡便に大量に製造することが可能で、分散剤や界面活性剤を用いなくとも、水に分散させることができる。このカーボンブラックを分散させた分散液は、分散剤を必要としないので、粘度が低く、低粘度の水性インキに用いるのに好適である。
特にこの水性インキは、インクジェットプリンタ用に好適である。このインキは、保存安定性がよく長期間保存しても沈降を生じにくく、品質保持期限が長い。またインクジェットプリンタのインキ噴出ノズルの目詰まりを惹き起こしにくい。更にこのインキを用いると、鮮明で深みのある黒で濃く綺麗に印刷される。
【実施例】
以下、本発明に係る改質カーボンブラック、それを含有するカーボンブラック分散液および水性インキの実施例を詳細に説明する。本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
【実施例A】
カーボンブラック分散液aの調製(実施形態Aを適用するカーボンブラック)
ファーネス法で調製した一次粒子径=18nm、BET比表面積=185m/g、DBP吸油量=200mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=0.93のカーボンブラック原末200gを、イオン交換水1500gに加え、ディゾルバーで攪拌しながら50℃まで昇温した。その後、次亜塩素酸ナトリウム2220g(有効塩素濃度12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、滴下終了直後に直径3mmのガラスビーズを加え、50℃で30分間撹拌し、改質カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ガラスビーズ及び未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液に水酸化ナトリウム5%水溶液を加えpH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更に改質カーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、改質カーボンブラックを濃度15重量%になるまで希釈し、分散させた。
カーボンブラック分散液bの調製(実施形態Aを適用するカーボンブラック)
ファーネス法で調製した一次粒子径=16nm、BET比表面積=220m/g、DBP吸油量=230mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=0.92のカーボンブラック原末500gを、イオン交換水3750gに加え、ディゾルバーで攪拌し50℃まで昇温した。その後、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いたサンドミルにより、粉砕しながら次亜塩素酸ナトリウム6600g(有効塩素濃度=12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、引き続きサンドミルにより30分間粉砕し続け、改質カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ジルコニアビーズ並びに未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液に水酸化カリウム5%水溶液を加えpH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更に改質カーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、改質カーボンブラックを濃度15重量%になるまで希釈し、分散させた。
カーボンブラック分散液cの調製(実施形態Aを適用するカーボンブラック)
ファーネス法で調製した一次粒子径=17nm、BET比表面積=200m/g、DBP吸油量=220mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=0.91のカーボンブラック原末500gを、イオン交換水3750gに加え、ディゾルバーで攪拌し50℃まで昇温した。その後、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いたサンドミルにより、粉砕しながら次亜塩素酸ナトリウム6000g(有効塩素濃度=12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、引き続きサンドミルにより30分間粉砕し続け、改質カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ジルコニアビーズ並びに未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液に水酸化ナトリウム5%水溶液を加えpH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更に改質カーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、改質カーボンブラックを濃度15重量%になるまで希釈し、分散させた。
(実施例A1)の水性インキ
カーボンブラック分散液a23.3gにイオン交換水32.7g、グリセリン7g、ジエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル7gを加えて撹拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製の商品名)により濾過し、実施例A1の水性インキを調製した。
(実施例A2)の水性インキ
カーボンブラック分散液a32.7gにイオン交換水26.8g、グリセリン7g、トリエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル2.1g、オルフィンE1010(日信化学工業社製の商品名)0.7g、トリエタノールアミン0.7gを加えて撹拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製の商品名)により濾過し、実施例A2の水性インキを調製した。
(実施例A3)の水性インキ
カーボンブラック分散液b23.3gにイオン交換水32.7g、グリセリン7g、ジエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル7gを加えて撹拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製の商品名)により濾過し、実施例A3の水性インキを調製した。
(実施例A4)の水性インキ
カーボンブラック分散液b32.7gにイオン交換水27.4g、グリセリン7g、トリエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル2.1g、オルフィンSTG(日信化学工業社製の商品名)0.1g、トリエタノールアミン0.7gを加えて撹拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製の商品名)により濾過し、実施例A4の水性インキを調製した。
(実施例A5)の水性インキ
カーボンブラック分散液c23.3gにイオン交換水32.7g、グリセリン7g、ジエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル7gを加えて撹拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製の商品名)により濾過し、実施例A5の水性インキを調製した。
(実施例A6)の水性インキ
カーボンブラック分散液c32.7gにイオン交換水26.8g、グリセリン7g、トリエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル2.1g、オルフィンE1010(日信化学工業社製の商品名)0.7g、トリエタノールアミン0.7gを加えて撹拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製の商品名)により濾過し、実施例A6の水性インキを調製した。
上記改質カーボンブラックを含有するカーボンブラック分散液a〜c及びそれらを用いて調製した実施例A1〜A6の水性インキについて、以下のようにして物性評価を行なった。
(改質カーボンブラックの平均粒子径測定)
0.065重量%の改質カーボンブラック濃度に調整した水溶液を、粒度分析計MICROTRAC9340−UPA(マイクロトラック社製の商品名)を用いて、測定した。
(改質カーボンブラックのラクトン基及びカルボキシル基存在量の測定)
得られた改質カーボンブラックを60℃ 15時間乾燥し、そのカーボンブラックを用い、熱分解ガスクロマト装置HP5890A(ヒューレットパカード社製の商品名)を使用して、358℃でラクトン基、650℃でカルボキシル基が、分解して生じるCOを測定した。測定値からカーボンブラックのラクトン基及びカルボキシル基存在量を換算した。
(カーボンブラック分散液の粘度測定方法)
15重量%改質カーボンブラック濃度に調整した分散液を、E型粘度計RE550L(東機産業社製の商品名)を用いて測定した。
(改質カーボンブラックの吸光度測定方法)
改質カーボンブラック濃度を0.001重量%に調整した水溶液を、分光光度計UV−1600PC(島津製作所社製の商品名)を用いて測定した。
(改質カーボンブラックの沈降率の測定方法)
改質カーボンブラック濃度5重量%、グリセリン10重量%、ジエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル10重量%に調製した液30gを沈降管に封入し、11000Gの重力加速度で10分間遠心分離処理を行なった。その上澄み液4gを精秤し、1Lメスフラスコで希釈した。ついでこの希釈液を5mLホールピペットに量り取り、100mLメスフラスコで希釈した。この液の500nm波長における吸光度W1を測定した。同様に遠心処理前の調製液を希釈したときの吸光度W0を測定し、
沈降率(%)=〔1−(吸光度値W1)/(吸光度値W0)〕×100
の計算式により沈降率を算出した。
(水性インキ放置後の沈降の測定方法)
水性インキ50gを室温で半年間放置後、目視で沈降の有無を判定した。
(水性インキによる印刷物の反射濃度値及びL*a*b*表色系の測定)
得られた水性インキをインクジェット記録装置EM−900C(セイコーエプソン社製の商品名)に充填し、中性普通紙であるゼロックス−P(富士ゼロックス社製の商品名)に印刷した。ただし印刷の際には塗布量が1mg/cmとなるように調節した。印刷物を乾燥後、マクベス濃度計TR−927(コールモーゲン社製の商品名)により、反射濃度値(OD値)を測定した。また、分光色彩計JP7100F (JUKI社製の商品名)により、L*a*b*表色系について測定した。そのときの色調を目視により観察した。
これらの結果を表1に示す。

表1から明らかなように、実施例Aの改質カーボンブラックを用いて調製した水性インキは、カーボンブラックが長期間、沈降せず、印刷すると深みのある黒となった。
なお、比較例として、実施例Aに用いたカーボンブラック原末に代えて、表2に示す比較例A1〜A5に記載のカーボンブラック原末を用いたこと以外はカーボンブラック分散液aの製造方法と同様にして、比較例A1〜A5の改質カーボンブラック及びカーボンブラック分散液を調製した。更にそこで得られたカーボンブラック分散液を使用して、実施例A1の水性インキの調製方法と同様にして、比較例A1〜A5の水性インキを調製した。上記で得られた改質カーボンブラック、カーボンブラック分散液及び水性インキについて、実施例A1〜A6と同様の特性評価を行なった。その結果を表2に示す。

表2から明らかなように、実施形態Aを適用外の改質カーボンブラックを用いて調製した水性インキは、カーボンブラックが沈降したり、印刷すると黄赤味や青味を帯びた黒となったりする。
【実施例B】
[カーボンブラック分散液1の調整(実施形態Bを適用するカーボンブラック)]
ファーネス法で調製した一次粒子径=17nm、BET比表面積=215m/g、DBP吸油量=210mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=1.02のカーボンブラック原末500gを、イオン交換水3750gに加え、ディゾルバーで攪拌し50℃まで昇温した。その後、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いたサンドミルにより、粉砕しながら次亜塩素酸ナトリウム6600g(有効塩素濃度=12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、引き続きサンドミルにより30分間粉砕し続け、改質カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ジルコニアビーズ並びに未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液にKOH 5%水溶液を加えPH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更に改質カーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、改質カーボンブラックを濃度13重量%になるまで希釈し、カーボンブラック分散液1を得た。このカーボンブラック分散液1の沈降率を上述の方法で測定したところ、54%であった。また、カーボンブラック分散液1を38.5重量%(カーボンブラック濃度に換算すると5重量%)、グリセリンを10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを10重量%、イオン交換水を41.5重量%の割合で攪拌、混合した分散体を作成し、上述の方法で測定したところ、26%であった。また、カーボンブラック分散液1を2.31g精秤し、1000mLメスフラスコで希釈した分散体(カーボンブラック濃度に換算すると0.30g/L)を作成し、粒度分析計MICROTRAC9340−UPA(商品名;マイクロトラック社製)を用いて50%累積径を測定したところ、200nmであった。
[カーボンブラック分散液2の調整(実施形態Bを適用するカーボンブラック)]
ファーネス法で調製した一次粒子径=18nm、BET比表面積=185m/g、DBP吸油量=200mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=0.93のカーボンブラック原末200gを、イオン交換水1500gに加え、ディゾルバーで攪拌しながら50℃まで昇温した。その後、次亜塩素酸ナトリウム2220g(有効塩素濃度12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、滴下終了直後に直径3mmのガラスビーズを加え、50℃で30分間撹拌し、改質カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ガラスビーズ及び未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液にNaOH 5%水溶液を加えpH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更に改質カーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、改質カーボンブラックを濃度13重量%になるまで希釈し、カーボンブラック分散液2を得た。このカーボンブラック分散液2の沈降率を上述の方法で測定したところ、45%であった。また、カーボンブラック分散液2を38.5重量%(カーボンブラック濃度に換算すると5重量%)、グリセリンを10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを10重量%、イオン交換水を41.5重量%の割合で攪拌、混合した分散体を作成し、上述の方法で測定したところ、18%であった。また、カーボンブラック分散液2を2.31g精秤し、1000mLメスフラスコで希釈した分散体(カーボンブラック濃度に換算すると0.30g/L)を作成し、粒度分析計MICROTRAC9340−UPA(商品名;マイクロトラック社製)を用いて50%累積径を測定したところ、190nmであった。
[カーボンブラック分散液3の調整(実施形態Bの適用外であるカーボンブラック)]
チャネル法で調製した一次粒子径=20nm、BET比表面積=125m/g、DBP吸油量=170mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=0.74のカーボンブラック原末500gを、イオン交換水3750gに加え、ディゾルバーで攪拌し50℃まで昇温した。その後、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いたサンドミルにより、粉砕しながら次亜塩素酸ナトリウム6600g(有効塩素濃度=12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、引き続きサンドミルにより30分間粉砕し続け、改質カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ジルコニアビーズ並びに未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液にKOH5%水溶液を加えPH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更に改質カーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、改質カーボンブラックを濃度13重量%になるまで希釈し、カーボンブラック分散液3を得た。このカーボンブラック分散液3の沈降率を上述の方法で測定したところ、72%であった。また、カーボンブラック分散液3を38.5重量%(カーボンブラック濃度に換算すると5重量%)、グリセリンを10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを10重量%、イオン交換水を41.5重量%の割合で攪拌、混合した分散体を作成し、上述の方法で測定したところ、65%であった。また、カーボンブラック分散液3を2.31g精秤し、1000mLメスフラスコで希釈した分散体(カーボンブラック濃度に換算すると0.30g/L)を作成し、粒度分析計MICROTRAC9340−UPA(商品名;マイクロトラック社製)を用いて50%累積径を測定したところ、224nmであった。
[カーボンブラック分散液4の調整(実施形態Bの適用外であるカーボンブラック)]
ファーネス法で調製した一次粒子径=16nm、BET比表面積=250m/g、DBP吸油量=155mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=1.61のカーボンブラック原末200gを、イオン交換水1500gに加え、ディゾルバーで攪拌しながら50℃まで昇温した。その後、次亜塩素酸ナトリウム2220g(有効塩素濃度12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、滴下終了直後に直径3mmのガラスビーズを加え、50℃で30分間撹拌し、改質カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ガラスビーズ及び未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液にNaOH 5%水溶液を加えpH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更に改質カーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、改質カーボンブラックを濃度13重量%になるまで希釈し、カーボンブラック分散液4を得た。このカーボンブラック分散液4の沈降率を上述の方法で測定したところ、7%であった。また、カーボンブラック分散液4を38.5重量%(カーボンブラック濃度に換算すると5重量%)、グリセリンを10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを10重量%、イオン交換水を41.5重量%の割合で攪拌、混合した分散体を作成し、上述の方法で測定したところ、6%であった。また、カーボンブラック分散液4を2.31g精秤し、1000mLメスフラスコで希釈した分散体(カーボンブラック濃度に換算すると0.30g/L)を作成し、粒度分析計MICROTRAC9340−UPA(商品名;マイクロトラック社製)を用いて50%累積径を測定したところ、120nmであった。
(実施例B1)の水性インキ
カーボンブラック分散液1を38.5重量%(カーボンブラック濃度に換算すると5重量%)、グリセリンを10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを10重量%、イオン交換水を41.5重量%の割合で攪拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(商品名;ミリポア社製)により濾過し、実施例B1の水性インキを調製した。
(実施例B2)の水性インキ
カーボンブラック分散液1を53.8重量%(カーボンブラック濃度に換算すると7重量%)、グリセリンを10重量%、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルを3重量%、オルフィンE1010(商品名;日信化学工業社製)を1重量%、トリエタノールアミンを0.9重量%、イオン交換水を31.3重量%の割合で攪拌し、ポリテトラフルオロエチレン製で孔径5μmのメンブランフィルター(商品名;ミリポア社製)により濾過し、実施例B2の水性インキを調製した。
(実施例B3)の水性インキ
カーボンブラック分散液として、カーボンブラック分散液2を用いること以外は実施例B1の水性インキと同様にして、実施例B3の水性インキを調整した。
(実施例B4)の水性インキ
カーボンブラック分散液として、カーボンブラック分散液2を用いること以外は実施例B2の水性インキと同様にして、実施例B4の水性インキを調整した。
(比較例B1)の水性インキ
カーボンブラック分散液として、カーボンブラック分散液3を用いること以外は実施例B2の水性インキと同様にして、比較例B1の水性インキを調整した。
(比較例B2)の水性インキ
カーボンブラック分散液として、カーボンブラック分散液4を用いること以外は実施例B2の水性インキと同様にして、比較例B2の水性インキを調整した。
上記改質カーボンブラックを含有する実施例B1〜B4、比較例B1〜B2の水性インキについて、以下の評価を行った。
(水性インキ放置後の沈降の測定方法)
水性インキ50gを室温で半年間放置後、目視で沈降の有無を判定した。
(水性インキによる印刷物のOD値の測定)
得られた水性インキをインクジェット記録装置EM−900C(商品名;セイコーエプソン社製)に充填し、中性普通紙であるゼロックス−P(商品名;富士ゼロックス社製)に印刷した。ただし印刷の際には塗布量が1mg/cmとなるように調節した。印刷物を乾燥後、マクベス濃度計TR−927(商品名;コールモーゲン社製)により、反射濃度値(OD値)を測定した。また印刷物の色調を目視により観察した。
これらの結果を表3に示す。

表3から明らかなように、実施形態Bの範囲内である改質カーボンブラックを用いて調整した水性インキは、長期間放置しても沈降を生じることがなく、また高いOD値を示し、かつ、深みのある黒い印刷物を与える。一方で、沈降率S−Sの値が本発明の範囲外であるカーボンブラックを含む分散液3を使用した比較例B1の水性インキは、高めのOD値を示し、かつ、やや深みのある黒い印刷物を与えるものの、長期間の放置で沈降が生じる結果となった。さらに沈降率S−Sの値および50%累積径が実施形態Bの範囲外であるカーボンブラックを含む分散液4を使用した比較例B2の水性インキは、長期間放置後の沈降は生じないものの、OD値が低く、黄赤み色の黒の印刷物を与えた。
なお、実施例B1〜B4及び比較例B1、B2の各水性インキの沈降率Sは、次の通りであった。このS(水性インキの沈降率)の測定は、前記の改質カーボンブラックの沈降率(カーボンブラック分散液1及び2の沈降率)の測定方法において、沈降管に封入する分散液体(混合・調製した液体)を水性インキに変更した以外は同様の手順で行った。
(水性インキの沈降率)
実施例B1… 26
実施例B2… 22
実施例B3… 25
実施例B4… 20
比較例B1… 62
比較例B2… 5
この結果から、水性インキの沈降率Sは分散液の沈降率Sと同程度であることが判り、実施形態Bに係る所定の沈降率で規定された改質カーボンブラック、及びこれを含む分散液を使用すれば、所望の水性インキを得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、インクジェットプリンタ印刷に使用され、一層沈降率が低く長期間安定に保存でき、更に目詰まりし難く、かつ反射濃度値(OD値)が高く深みのある黒で濃い印刷ができる水性インキに用いられるカーボンブラック、及びそれを分散させた水性インキとして、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径11〜18nm、BET比表面積が少なくとも180m/g、DBP吸油量が少なくとも180mL/100g、DBP吸油量(mL/100g)あたりの該BET比表面積(m/g)が0.75〜1.3のカーボンブラックを酸化処理することで得られる改質カーボンブラックで、その表面に少なくともラクトン基とカルボキシル基が導入され、一次粒子径に対する平均粒子径の比が8.5以上であることを特徴とする改質カーボンブラック。
【請求項2】
前記DBP吸油量(mL/100g)あたりのBET比表面積(m/g)が0.9〜1.1であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の改質カーボンブラック。
【請求項3】
前記改質カーボンブラックの平均粒子径が150〜250nmであることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の改質カーボンブラック。
【請求項4】
前記改質カーボンブラックにおけるカーボンブラック重量に対する前記ラクトン基が500μmol/g以上、同じく前記カルボキシル基が700μmol/g以上であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
【請求項5】
前記改質カーボンブラックの沈降率が30%以下を示すことを特徴とする請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
【請求項6】
前記ラクトン基と前記カルボキシル基とが次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩により酸化されて導入されていることを特徴とする請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
【請求項7】
改質カーボンブラック濃度0.001重量%に希釈した測定液の500nm波長での吸光度が、少なくとも0.47であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
【請求項8】
分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な、改質カーボンブラックであって、
該カーボンブラック13重量%、水87重量%に調整された分散体Aの沈降率(%)をS
該カーボンブラック5重量%、グリセリン10重量%、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル10重量%、水75重量%に調整された分散体Bの沈降率(%)をS、としたときに、
10≦S−S≦50、S≦40の関係が成立し、かつ、
該カーボンブラックの0.3g/Lに調整された分散体で測定される50%累積径が150〜350nmの範囲であることを特徴とする改質カーボンブラック。
【請求項9】
20≦S−S≦50、S≦30の関係が成立することを特徴とする請求の範囲第8項に記載の改質カーボンブラック。
【請求項10】
前記カーボンブラックの0.3g/Lに調整された分散体で測定される50%累積径が150〜250nmの範囲であることを特徴とする請求の範囲第8項または第9項に記載の改質カーボンブラック。
【請求項11】
前記カーボンブラックが、一次粒子径11〜18nm、BET比表面積が少なくとも180m/g、DBP吸油量が少なくとも180mL/100g、DBP吸油量(mL/100g)あたりの該BET比表面積(m/g)が0.75〜1.3のカーボンブラックに表面改質することで得られる改質カーボンブラックであることを特徴とする、請求の範囲第8項〜第10項のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
【請求項12】
前記DBP吸油量(mL/100g)あたりのBET比表面積(m/g)が0.9〜1.1であることを特徴とする請求の範囲第11項に記載の改質カーボンブラック。
【請求項13】
前記カーボンブラックが、カーボンブラック原末を次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩により酸化処理することで得られるものであることを特徴とする請求の範囲第8項〜第12項のいずれかに記載の改質カーボンブラック。
【請求項14】
請求の範囲第1項〜第13項のいずれかに記載の改質カーボンブラックを製造する方法であって、ファーネス法により調製されたカーボンブラック原末を水に懸濁させた液に、次亜ハロゲン酸または/及び次亜ハロゲン酸塩の水溶液を加え、直径0.6〜3mmのミル媒体とともに分散機を用いて酸化処理し、100〜500メッシュの金網で濾別し、得られた液を脱塩する工程を少なくとも有することを特徴とする改質カーボンブラックの製造方法。
【請求項15】
請求の範囲第1項〜第14項のいずれかに記載の改質カーボンブラックを水に分散してなることを特徴とするカーボンブラック分散液。
【請求項16】
請求の範囲第1項〜第14項のいずれかに記載の改質カーボンブラックを含有することを特徴とする水性インキ。
【請求項17】
少なくともグリセリン、グリコールエーテル化合物および請求の範囲第8項〜第13項のいずれかに記載の改質カーボンブラックを含有することを特徴とする水性インキ。
【請求項18】
前記グリコールエーテル化合物が、グリコールブチルエーテル化合物から選ばれることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の水性インキ。
【請求項19】
記録媒体へのインキの塗布量が1mg/cmであるときの浸透時間が1秒未満であるような浸透性を有することを特徴とする請求の範囲第16項〜第18項のいずれかに記載の水性インキ。
【請求項20】
20℃における表面張力が45mN/m以下であることを特徴とする請求の範囲第16項〜第19項のいずれかに記載の水性インキ。
【請求項21】
グリコールブチルエーテル系の水性有機溶剤を含んでなることを特徴とする請求の範囲第16項、第19項または第20項に記載の水性インキ。
【請求項22】
ノニオン性界面活性剤を含んでなることを特徴とする請求の範囲第16項〜第21項のいずれかに記載の水性インキ。
【請求項23】
前記ノニオン性界面活性剤がアセチレングリコール系界面活性剤であることを特徴とする請求の範囲第22項に記載の水性インキ。
【請求項24】
インキを付着させて記録媒体に印字を行う記録方法であって、インキとして請求の範囲第16項〜第23項のいずれかに記載の水性インキを用いることを特徴とする、記録方法。
【請求項25】
インキの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、インキとして請求の範囲第16項〜第23項のいずれかに記載の水性インキを用いることを特徴とする、インクジェット記録方法。
【請求項26】
請求の範囲第24項または第25項に記載の記録方法によって記録が行われたことを特徴とする記録物。

【国際公開番号】WO2004/061015
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508509(P2005−508509)
【国際出願番号】PCT/JP2003/017036
【国際出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】