説明

放射イミュニティ試験装置

【課題】強電界を出力することが可能な高価なアンプを用いることなく、強電界を照射するイミュニティ試験を実施することができるとともに、アンテナを一々移動させることなく、照射する電界を均一にする必要がある電子機器や大型機器のイミュニティ試験を実施することができるようにする。
【解決手段】信号発生器1から発生された試験信号を分配する分配器2と、分配器2により分配された試験信号を増幅する複数のアンプ3と、アンプ3により増幅された試験信号を放射する複数のアンテナ4とを備え、複数のアンテナ4から構成されるアレーアンテナの形状がボアサイト方向に対して中央が凹状になるように複数のアンテナ4が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁ノイズを電子機器に照射して、その電子機器や、その電子機器を搭載しているシステムが正常に動作するか否かを試験する放射イミュニティ試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の放射イミュニティ試験装置は、1台の信号発生器と、1台のアンプと、1台のアンテナとから構成されており、単一のアンテナから電磁ノイズを試験対象の電子機器に照射して、その電子機器が誤動作する状況を評価するようにしている(例えば、非特許文献1,2を参照)。
例えば、以下の非特許文献1に開示されている放射イミュニティ試験装置では、電磁ノイズとして、100V/m以上の電界を自動車搭載用の電子機器に照射するようにしている。
【0003】
以下の非特許文献2に開示されている放射イミュニティ試験装置では、アンテナから指定の距離の垂直面内の電界レベルが均一であることが決められており、その電界レベルが均一であるエリアに試験対象の電子機器を設置して、その電子機器が誤動作する状況を評価するようにしている。
【0004】
【非特許文献1】ISO 11452−2
【非特許文献2】IEC61000−4−3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の放射イミュニティ試験装置は以上のように構成されているので、信号発生器、アンプ又はアンテナのいずれか1つが故障すると、イミュニティ試験を継続することができなくなる。また、単一のアンプで100V/m以上の強電界を出力することが可能なアンプは非常に高価であるため、装置の製作コストが高くなる課題があった。
また、電界レベルが均一であるエリアに試験対象の電子機器を設置する必要があるため、試験対象の電子機器が均一のエリアに入らない大型機器であれば、アンテナを移動させながらイミュニティ試験をしなければならず、試験時間が長くなる課題もあった。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、強電界を出力することが可能な高価なアンプを用いることなく、強電界を照射するイミュニティ試験を実施することができるとともに、アンテナを一々移動させることなく、照射する電界を均一にする必要がある電子機器や大型機器のイミュニティ試験を実施することができる放射イミュニティ試験装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る放射イミュニティ試験装置は、信号発生器から発生された試験信号を分配する分配器と、分配器により分配された試験信号を増幅する複数のアンプと、アンプにより増幅された試験信号を放射する複数のアンテナとを備え、複数のアンテナから構成されるアレーアンテナの形状がボアサイト方向に対して中央が凹状になるように複数のアンテナが配置されているようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、信号発生器から発生された試験信号を分配する分配器と、分配器により分配された試験信号を増幅する複数のアンプと、アンプにより増幅された試験信号を放射する複数のアンテナとを備え、複数のアンテナから構成されるアレーアンテナの形状がボアサイト方向に対して中央が凹状になるように複数のアンテナが配置されているように構成したので、強電界を出力することが可能な高価なアンプを用いることなく、強電界を照射するイミュニティ試験を実施することができるとともに、アンテナを一々移動させることなく、照射する電界を均一にする必要がある電子機器や大型機器のイミュニティ試験を実施することができる効果がある。
また、1台のアンプやアンテナが故障しても、イミュニティ試験を継続することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による放射イミュニティ試験装置を示す構成図であり、図において、信号発生器1(図中、“SG”と記載)は電磁ノイズである試験信号を発生する機器である。
分配器2は信号発生器1から発生された試験信号を分配し、その試験信号を複数のアンプ3に出力する機器である。
アンプ3(図中、“AMP”と記載)は分配器2により分配された試験信号を増幅し、増幅後の試験信号をアンテナ4に出力する。
【0010】
アンテナ4はアンプ3から出力された増幅後の試験信号を空中に放射するものであり、複数のアンテナ4からアレーアンテナが構成されている(図中、5は素子アンテナであるアンテナ4の放射パターンであり、6はアレーアンテナの放射パターンである)。
なお、放射イミュニティ試験装置から任意の距離にある所望の面内に均一な振幅の電界分布7を形成するために、複数のアンテナ4から構成されるアレーアンテナの形状が、ボアサイト方向に対して中央が凹状になるように、複数のアンテナ4が配置されている。
ただし、複数のアンテナ4は、ボアサイト方向から見たときに重ならないように配置されており、また、ボアサイト方向に向けて配置されている。
【0011】
次に動作について説明する。
照射する電界を均一にする必要がある電子機器や大型機器のイミュニティ試験を実施する場合、放射イミュニティ試験装置が所望の面内に均一な振幅の電界分布7を形成する。
即ち、放射イミュニティ試験装置の信号発生器1は、電磁ノイズである試験信号(電界)を発生する。
【0012】
分配器2は、信号発生器1から試験信号を受けると、その試験信号を分配して、その試験信号を複数のアンプ3に出力する。
アンプ3は、分配器2から試験信号を受けると、その試験信号を増幅して、増幅後の試験信号をアンテナ4に出力する。
アンテナ4は、アンプ3から増幅後の試験信号を受けると、その試験信号を空中に放射する。
【0013】
ここで、複数のアンテナ4はアレーアンテナを構成しており、複数のアンテナ4から放射された試験信号である電界が重ね合わされて、アンテナ4から任意の距離にある所望の面内に均一な振幅の電界分布7が形成される。
即ち、アンテナ4から任意の距離にある所望の面内に均一な振幅の電界分布7を形成するために、複数のアンテナ4から構成されるアレーアンテナの形状が、ボアサイト方向に対して中央が凹状になるように、複数のアンテナ4が配置されている。
ただし、複数のアンテナ4は、ボアサイト方向から見たときに重ならないように配置されており、また、ボアサイト方向に向けて配置されている。
【0014】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、信号発生器1から発生された試験信号を分配する分配器2と、分配器2により分配された試験信号を増幅する複数のアンプ3と、アンプ3により増幅された試験信号を放射する複数のアンテナ4とを備え、複数のアンテナ4から構成されるアレーアンテナの形状がボアサイト方向に対して中央が凹状になるように複数のアンテナ4が配置されているように構成したので、強電界を出力することが可能な高価なアンプを用いることなく、強電界を照射するイミュニティ試験を実施することができるとともに、アンテナ4を一々移動させることなく、照射する電界を均一にする必要がある電子機器や大型機器のイミュニティ試験を実施することができる効果を奏する。
また、1台のアンプ3やアンテナ4が故障しても、イミュニティ試験を継続することができる効果を奏する。
【0015】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、複数のアンテナ4を1次元状に配置しているものについて示したが、複数のアンテナ4から構成されるアレーアンテナの形状が、ボアサイト方向に対して中央が凹状になるように複数のアンテナ4が配置されていれば、複数のアンテナ4を1次元状に配置するものに限るものではなく、例えば、図2に示すように、複数のアンテナ4を2次元状に配置するようにしてもよい。
なお、図2に示すように、中央部が階段状に凹状になっているアレーアンテナでもよいし、1次曲面又は2次曲面や球面状の曲面形状のアレーアンテナでもよいし、平面と曲面の組み合せによるものでも構わない。
【0016】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、複数のアンプ3が分配器2により分配された試験信号を増幅し、複数のアンテナ4がアンプ3により増幅された試験信号を放射するものについて示したが、図3に示すように、複数のアンプ3が分配器2により分配された試験信号を増幅し、さらに、複数の分配器2がアンプ3により増幅された試験信号を分配して、複数のアンテナ4がアンプ3により増幅された試験信号を放射するようにしてもよい。
つまり、上記実施の形態1では、分配器2とアンプ3が1段の縦続構成であるものについて示したが、分配器2とアンプ3が2段以上の複数段構成であってもよい
分配器2とアンプ3を複数段構成にすることにより、アンテナ4の配置条件を変えることなく、所望の面内に均一な振幅の電界分布7を形成することができる。
【0017】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3では、複数のアンテナ4がボアサイト方向に向けて配置されているものについて示したが、図4に示すように、複数のアンテナ4が凹状の面の法線方向に向けて配置されているようにしてもよい。
このように、複数のアンテナ4を凹状の面の法線方向に向けて配置することにより、複数のアンテナ4から照射される電界が集光するため、強電界な電界分布7を形成することができる効果を奏する。
【0018】
図4では、分配器2とアンプ3が1段の縦続構成であるものについて示したが、図5に示すように、分配器2とアンプ3が2段以上の複数段構成であってもよい
分配器2とアンプ3を複数段構成にすることにより、アンテナ4の配置条件を変えることなく、所望の面内に均一な振幅の電界分布7を形成することができる。
また、図4では、複数のアンテナ4を1次元状に配置しているものを示しているが、複数のアンテナ4を2次元状に配置するようにしてもよい。
また、中央部が階段状に凹状になっているアレーアンテナでもよいし、1次曲面又は2次曲面や球面状の曲面形状のアレーアンテナでもよいし、平面と曲面の組み合せによるものでも構わない。
【0019】
実施の形態5.
図6はこの発明の実施の形態5による放射イミュニティ試験装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
等振幅制御部8は複数のアンプ3により増幅された試験信号の励振振幅を等振幅に制御する。
【0020】
上記実施の形態1〜4では、等振幅制御部8が実装されていない放射イミュニティ試験装置について示したが、等振幅制御部8が実装されている放射イミュニティ試験装置では、複数の等振幅制御部8が複数のアンプ3により増幅された試験信号の励振振幅を等振幅に制御することにより、複数のアンテナ4から放射される試験信号である電界を等振幅にすることが可能になる。
複数のアンテナ4から放射される電界を等振幅にすることで、所望の垂直面内に強電界な電界分布や均一なレベルの電界分布などを形成することが可能になる。
【0021】
なお、等振幅制御部8は、試験信号の励振振幅を制御することができるものであればよく、例えば、アンプなどを組み込んで電気的に制御するようにしてもよいし、減衰器などを使用して制御するようにしてもよい。
また、アンプ3の出力段とアンテナ4間の接続ケーブルの損失を利用して制御するようにしてもよい。
【0022】
実施の形態6.
図7はこの発明の実施の形態6による放射イミュニティ試験装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
ランダム振幅制御部9はアンプ3により増幅された試験信号の励振振幅をランダムに制御する。
【0023】
上記実施の形態1〜4では、ランダム振幅制御部9が実装されていない放射イミュニティ試験装置について示したが、ランダム振幅制御部9が実装されている放射イミュニティ試験装置では、複数のランダム振幅制御部9が複数のアンプ3により増幅された試験信号の励振振幅をランダムに制御することにより、複数のアンテナ4から放射される試験信号である電界をランダムな振幅にすることが可能になる。
複数のアンテナ4から放射される電界をランダムな振幅にすることで、アンテナ4から任意の距離にある垂直面内に、広範囲に渡って、強電界な電界分布や均一なレベルの電界分布などを形成することが可能になる。
【0024】
なお、ランダム振幅制御部9は、試験信号の励振振幅を制御することができるものであればよく、例えば、アンプなどを組み込んで電気的に制御するようにしてもよいし、減衰器などを使用して制御するようにしてもよい。
また、アンプ3の出力段とアンテナ4間の接続ケーブルの損失を利用して制御するようにしてもよい。
【0025】
実施の形態7.
図8はこの発明の実施の形態7による放射イミュニティ試験装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
等位相制御部10は複数のアンプ3により増幅された試験信号の励振位相を等位相に制御する。
【0026】
上記実施の形態1〜4では、等位相制御部10が実装されていない放射イミュニティ試験装置について示したが、等位相制御部10が実装されている放射イミュニティ試験装置では、複数の等位相制御部10が複数のアンプ3により増幅された試験信号の励振位相を等位相に制御することにより、複数のアンテナ4から放射される試験信号である電界を等位相にすることが可能になる。
複数のアンテナ4から放射される電界を等位相にすることで、所望の垂直面内に強電界な電界分布や均一なレベルの電界分布などを形成することが可能になる。
なお、等位相制御部10は、試験信号の励振位相を制御することができるものであればよく、例えば、ラインストレッチャーのように、線路長によって位相を制御するようにしてもよい。
【0027】
実施の形態8.
図9はこの発明の実施の形態8による放射イミュニティ試験装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
ランダム位相制御部11はアンプ3により増幅された試験信号の励振位相をランダムに制御する。
【0028】
上記実施の形態1〜4では、ランダム位相制御部11が実装されていない放射イミュニティ試験装置について示したが、ランダム位相制御部11が実装されている放射イミュニティ試験装置では、複数のランダム位相制御部11が複数のアンプ3により増幅された試験信号の励振位相をランダムに制御することにより、複数のアンテナ4から放射される試験信号である電界をランダムな位相にすることが可能になる。
複数のアンテナ4から放射される電界をランダムな位相にすることで、アンテナ4から任意の距離にある垂直面内に、広範囲に渡って、強電界な電界分布や均一なレベルの電界分布などを形成することが可能になる。
なお、ランダム位相制御部11は、試験信号の励振位相を制御することができるものであればよく、例えば、ラインストレッチャーのように、線路長によって位相を制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態1による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態4による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態4による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態5による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態6による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態7による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【図9】この発明の実施の形態8による放射イミュニティ試験装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1 信号発生器、2 分配器、3 アンプ、4 アンテナ、5 アンテナ4の放射パターン、6 アレーアンテナの放射パターン、7 電界分布、8 等振幅制御部、9 ランダム振幅制御部、10 等位相制御部、11 ランダム位相制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁ノイズである試験信号を発生する信号発生器と、上記信号発生器から発生された試験信号を分配する分配器と、上記分配器により分配された試験信号を増幅する複数のアンプと、上記アンプにより増幅された試験信号を放射する複数のアンテナとを備え、上記複数のアンテナから構成されるアレーアンテナの形状がボアサイト方向に対して中央が凹状になるように上記複数のアンテナが配置されていることを特徴とする放射イミュニティ試験装置。
【請求項2】
複数のアンテナがボアサイト方向に向けて配置されていることを特徴とする請求項1記載の放射イミュニティ試験装置。
【請求項3】
複数のアンテナが凹状の面の法線方向に向けて配置されていることを特徴とする請求項1記載の放射イミュニティ試験装置。
【請求項4】
複数のアンプにより増幅された試験信号の励振振幅を等振幅に制御する等振幅制御部を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の放射イミュニティ試験装置。
【請求項5】
複数のアンプにより増幅された試験信号の励振振幅をランダムに制御するランダム振幅制御部を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の放射イミュニティ試験装置。
【請求項6】
複数のアンプにより増幅された試験信号の励振位相を等位相に制御する等位相制御部を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の放射イミュニティ試験装置。
【請求項7】
複数のアンプにより増幅された試験信号の励振位相をランダムに制御するランダム位相制御部を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の放射イミュニティ試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−139142(P2009−139142A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313678(P2007−313678)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】