説明

放射線感受性フィラメントとしてのポリアセチレンのリチウム塩とその製法および使用

本発明は、末端カルボキシル基又はカルボキシレート基を有する重合性共役ポリアセチレンのリチウム塩からなる光互変性フィラメントに関する。ここで、前記フィラメントの長さ対幅の比は約5000:1と約5:1の間であり、該フィラメントの平均長さは約5cmまでである。本発明はまた、画像化、放射線線量測定又は放射線の場の地図及び検出に、最大にした放射線感受性の前記塩を用いることに関係がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の寸法を有する粒子形態で、放射線源の累積する照射に応じて色又は色濃度の変化を受ける特異なポリアセチレンリチウム塩に関し、また正確かつ解像度の高い画像記録と画像表示の媒体としての前記塩の使用に関する。本発明は更に、フィラメント状の粒子形態で優れた感受性を示すリチウム塩の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線照射に応答する光互変性ポリアセチレン類が、いくつかの米国特許、すなわち米国特許第4,066,676号、第4,581,315号、第3,501,302号、第3,501,297号、第3,501,303号、第3,501,308号、第3,772,028号、第3,844,791号および第3,954,816号に開示されている。最も高い感受性のものを含むこれらポリアセチレン化合物における画像又は線量情報の記録は、画像パターンの不十分な程度の解像度、透明度、色の不安定度を含むいくつかの問題と欠点を示していた。従来のポリアセチレン化合物では、安定した放射線量表示を形成することができないと思われる。他の欠点は、比較的遅い現像、及び場合によっては極めて低温又は過度に高い線量レベルで像を造る非現実的な必要性を含む。
【0003】
各種ポリアセチレン化合物のリチウム塩が、放射線画像記録について可能性のある候補として言及されてきたが、商業的成功のために要求される画像記録に望ましい放射線感受性または透明度を提供していない。
【0004】
従って、本発明の目的は、特異な形態と寸法のポリアセチレン化合物類の特定グループの使用により上記困難及び欠点を克服して、電子ビーム、γ―線、β―線、X―線、イオンビーム、紫外線、及び電磁スペクトルの可視や赤外域で化学線から発生させる可視光線によって発生したものを含めた放射線の全ての形態と、一般に放射エネルギーの形態だと考えられる微粒子及び/又は波状的なエネルギーの他の形態に応答する、前例のない高放射線感受性を達成することである。
【0005】
本発明の他の目的は、フィラメント状態でのリチウム/ポリアセチレン塩の放射線感受性を最大にすることである。
【0006】
別の目的は、支持体上に被膜として又は粉末もしくはタブレットとして、ポリアセチレンの高感受性ラジオクロミックリチウム塩を用いることである。
【0007】
他の目的はまた、経済的かつ商業的に実現可能な本発明のリチウム塩の製法を提供することである。
【0008】
さらに他の目的は、二次元又は三次元の像を造る改良方法を提供することである。
【0009】
本発明の上記の目的及び利益と他の目的及び利益は、以下の説明と開示から明らかになる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、毛状又は剛毛状フィラメントの形態、かつ、前記フィラメントの長さと幅の比が少なくとも5:1、そして5000:1、又はそれ以上の数千:1までであるミクロン(μm)で測定される大きさで、末端カルボキシル基又はカルボキシレート基を少なくとも一つ有するCないしC64の重合性共役ポリアセチレンの放射線感受性リチウム塩を提供する。リチウム塩粒子を、該塩又はその重合及び/又は架橋生成物に対して化学的に不活性である母材に個々にかつ均一に分散させて、この塩含有母材を支持体または他の放射線受容物上に配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、ポリアセチレン化合物の放射線感受性リチウム塩は、リチウム化合物と共役構造を有するポリアセチレン(PA)との反応から誘導され、次式:
【化1】


で表され、式中のmとnはそれぞれ独立して0から30の値を有し、pは2から4の値を有し、Aは-COOH又は-COOR、BはR、-OR、-OH、-COOR、-COOH、-CONR又は-(CH)-O-CO-NRあるいは酸又はエステルの金属塩であり、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して水素あるいはC〜C12の飽和もしくは不飽和脂肪族炭化水素基又はアリール基であり、rは1から4の値を有する。また、上記ポリアセチレン単量体の混合物を用いることができる。これらのうち、ペンタコサ-10,12-ジイン酸(PCDA)、トリコサ-10,12-ジイン酸(TCDA)、ヘンエイコサ-10,12-ジイン酸(HCDA)及びエイコサ-5,7-ジイン酸(ECDA)が好ましい。
【0012】
リチウム反応体はポリアセチレン化合物の放射線感受性を高め、ここではリチウム増感剤と称する。適当なリチウム増感剤は容易に置換反応を受けるものであり、ここでリチウムはポリアセチレン末端基の少なくとも一つの水素又はR基に置換して、対応する塩を形成する。従って、リチウム増感剤を維持するのに都合のよい理論量に近い量で用いるのが好ましい。しかし、リチウムとポリアセチレン官能基の比が1:10〜5:1といったように該増感剤をより少ない又はより多い量で、本発明の範囲から逸脱することなく用いることができると理解される。適当なリチウム反応体は水溶性の化合物であり、また限定されるものではないが、ハロゲン化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム;酢酸リチウム、リチウムオキシレート、マレイン酸リチウム、乳酸リチウム等のアルキルカルボン酸リチウム;安息香酸リチウムのようなアリールカルボン酸リチウムと、前述のリチウム化合物の混合物を含む。
【0013】
5000:1またはそれ以上の粒子長さ対幅の比が最大の感受性を提供するが、かかる生成物の粘性は被膜目的に不適当となることがある。従って、好ましい被膜媒体について、粒子長さ対幅の比を例えば約100:1と5:1の間に下げ、理想的には50μm以下の平均粒子長さを備えることを推奨する。これは、後述する一連の微粉化とオズワルド成熟工程によって遂行することができる。乾燥母材に分散させたリチウム/ポリアセチレン塩フィラメントの粉末を、例えばタブレット形態におけるように用いる他の目的では、より高い又は最も高い長さ/幅比を用いることができる。
【0014】
本発明のフィラメントを形成するには、その製法における特定のパラメータ、例えばリチウム増感剤と接触する前のポリアセチレン溶液の形成やLi/PA塩の成熟期間を観察しなければならない。
【0015】
本発明の一の実施形態において、被膜は、支持体上に均一な被膜を得るに適した配合物の製法を含む。フィラメントの形成を達成するための必須工程は、順に、不活性な母材水溶液の選択と、あらかじめ塩基性水溶液に溶解した選択されたポリアセチレン(PA)化合物を均一溶液が得られるまで混合物の融解温度以上の温度で導入して混合する工程と、一定の攪拌下選択されたリチウム塩増感剤を該溶液に加えて所定のPAのリチウム塩溶液を形成する工程と、生成した溶液を好ましくは冷凍により急冷する工程と、急冷すなわち冷凍温度で少なくとも1時間、好ましくは3時間以上保持して、所望の塩粒子の核を凝固して形成する工程と、少なくとも1時間、好ましくは3時間以上に亘って混合物を約40℃から約100℃の間の温度に加熱して50μmを超える平均長さまで粒子を成長させる工程と、微粉砕、音波処理または他の機械的手段によって粒子長さを縮める工程と、縮めた大きさの粒子を1時間以上高温に再加熱して成熟させる工程と、所定の粒子寸法、望ましくは平均粒子長さが50μm未満で粒子の長さ対幅の比が100:1から5:1で、高い感受性が得られるまで最後の二工程を繰返す工程とを備える。
【0016】
上述したとおり、リチウム増感剤を用いる反応を開始する前に、選択されたPA成分を塩基、好ましくは有機塩基、最も好ましくは例えば水酸化テトラエチルアンモニウムのような水酸化テトラ(アルキル)アンモニウムの水溶液に高温度で溶解することにより可溶性形態として調製することが重要である。状況に応じて、後述のフィルム形成重合体を該溶液に加えることができる。溶解したPA成分を選択された母材材料に導入し、次いで所望量のリチウム増感剤水溶液、例えば約30重量%までの水溶液のみを導入し、溶解したPA成分と反応させて、初期のPA成分または従来の研究手順により製造されたあらゆるLi塩の小板を越えて著しく増大した放射線感受性を示す毛、針または剛毛状粒子を熟成して形成する前に、対応した核化Li-PA塩を形成する。その一方、本発明のフィラメント状粒子は高い長さ対幅の比、典型的には少なくとも5:1、より多くは少なくとも10:1、好ましくは少なくとも100:1の比を有する。PA溶液を約1から約50重量%の塩基の水溶液、約0.5から約10重量%のリチウム増感剤及び約0から約3重量%のフィルム形成重合体と混合することにより、増感された塩を被膜組成物として都合よく調製することができる。
【0017】
本発明の塩の被覆に適した母材は、水又は溶解したPA成分と混合し得るフィルム形成重合体である。重合体母材は、ゼラチン、寒天、キサンタンガムのような天然高分子に限定されることなく、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアミン類、ポリビニルイミド類、ポリアクリル酸およびポリアクリル酸エステル類、ポリビニルアルコールおよびビニルエーテル-マレイン酸共重合体のような合成重合体または共重合体を含む。有用な水分散性重合体は、限定されるものではないが、ポリ(アルケン類)、ポリアクリル酸エステル類およびポリハロゲン化ビニル類の乳濁液又は分散体を含む。これを使用する場合、約100:1から1:10のPA/フィルム形成重合体の重量比を用いることができ、約3:1から約1:3の重量比がより堅実的に望ましい。
【0018】
PA成分のリチウム塩を生成する反応の終了は、Li-PA塩の不透明分散体の形成によって示される。本発明の最高感受性のLi-PA分散体は長い毛状フィラメントを有するものであり、特に毛状フィラメントの長さが>25μm、例えば>100μm、好ましくは>500μmのものである。長さ>100μmの毛状フィラメントは、しばしば縮れており、少なくとも10:1、通常>100:1の長さ対幅の比を有する。
【0019】
長い縮れた毛状の粒子の不利益は、これらがからみ合いを受けることである。これによりLi-PA塩分散体の粘性が劇的に増大するばかりでなく、凝集塊によって分散体は平滑性を失い塊状になる。からみ合った粒子を放射線受容目的に直接適用できる乾燥圧縮粉末又はタブレットのような非被膜用途に使用し得るが、かかる高粘性と粒粒は平滑かつ均一な被膜の生産の役に立たない。
【0020】
長い糸又は毛状の粒子および高粘性の生成物に対する難点を克服するために、Li-PA塩溶液はこれら長さを短くする処理でさらに加工される。かかる処理は、磨砕、微粉砕および音波処理などを含む。かかる処理の適用は、通常Li-PA塩分散体を流動化して平滑な被膜の生産に適したものにする。毛状粒子の長さを約50μm未満に短くして平滑な被膜の生産を容易にするのが好ましい。
【0021】
改善された被覆性としての低粘性の利益にもかかわらず、粒子長さの短縮は射線感受性の望ましくない減少をしばしば伴うことが観察される。しかし本発明によれば、少なくとも1時間、約40℃と100℃の間の高温、好ましくは50℃と70℃の間で2〜48時間に亘って、生成混合物を熟成することによって低い粘性を維持しながら感受性を回復することができる。Li-PA塩フィラメントの放射線感受性を最適にして平滑な被膜を製造するために、粒子サイズの減少と熟成の工程を2〜10回、しばしば2〜4回繰返す。連続する熟成工程それぞれの後でLi-PA塩フィラメントは、より短くかつ直線で放射線感受性となる、すなわち長い毛状粒子が短い剛毛状又は針状形態をとることが観察される。最適にした放射線感受性および被覆性が微粉砕および熟成工程の2〜4回の反復後に得られ、長さ対幅の比が5:1以上、望ましくは>10:1、できれば>20:1である長さ約10μmと50μmの間のフィラメントの形成をもたらす。
【0022】
生成したラジオクロミックLi-PA塩フィラメントは、放射線照射の全実施形態に対して前例のない高い感受性を示し、無限に安定かつ正確で明瞭な鮮明度で2Dと3D画像を製造し、種々の量の放射線照射に応じて安定した色の階調を提供することができる。
【0023】
さらに本発明の他の実施形態において、少なくとも10:1μmの長さ対幅の比を有するLi-PA塩粒子を固体母材に分散して放射線感受性活性組成物を形成することができ、該組成物は直接に支持体に適用することができる。乾燥した状態でLi-PA塩と均一に混合される適切な固体母材成分は、圧縮性のワックス、パテ、塩、微結晶性セルロース及びポリビニルピロリドン等を含む。母材とLi-PA塩の推奨比は、約20:1部と1:20部の間である。本発明において、化学線に曝される場合、塩フィラメントは色形成によって示される重合を受ける。変色は測定することができ、活性塩フィラメント又は活性塩フィラメント組成物によって吸収された線量と相互関係がある。状況に応じて、活性塩組成物を透明又は反射性支持体に塗布して画像を記録できる層を形成することができる。さらに他の実施形態において、活性塩組成物すなわち活性塩成分は、放射線照射に応じて可視変化を受ける指示器を提供する目的で製品に適用できる。
【0024】
上述のとおり、本発明の母材は、リチウム増感剤、単量体ポリアセチレン成分とこれらの重合体又は架橋生成物に対して化学的に不活性であるあらゆる固体又は液体材料となることができる。かかる母材の適切な例は、水性及び/又は非水性溶剤のどちらかに可溶な重合体を含む。通常用いる液体母材は、天然もしくは合成重合体又はこれらの混合物の1〜40重量%水溶液、好ましくは2〜20重量%水溶液である。液体母材に対する活性のLi/PA塩単量体又はオリゴマーは、約100:1から約1:10、好ましくは約5:1から約1:5の重量比である。
【0025】
本発明のさらに他の実施形態において、あるタイプ又は種類の放射線への感受性を一層高めるために、二次増感剤をLi-PA塩生成物と混合し、又は本塩生成物に極めて接近して用いることができる。例えば、二次増感剤を、生成物全体に塗布する被膜に均質混合するか、又は生成物が堆積する支持体の中に含めることができる。約10KeVから200KeVのエネルギーを有する光子線用の二次増感剤の代表例は、原子番号>11を有する放射線吸収元素を少なくとも一つ含有する化合物、例えば鉛、ヨウ素、セシウム、バリウム、臭素及びルビジウムを含有する化合物を含む。かかる増感剤の選択は、当業者によって十分に識別される。例えば、ホウ素を含有する化合物は中性子線用増感剤として有用となる。UV及び可視線用増感剤は従来のハロゲン化銀フィルムに用いられる既知のものを含む。
【0026】
長さ対幅の高い比率を有する本光学活性Li-PA塩の毛、針、剛毛又は棒状フィラメントが、支持体上の被膜分散体の流れの方向に平行に並んで光学活性被膜を提供することを見出した。本被膜に放射線を照射する場合、これらはポリアセチレン部分の重合の結果として着色する。重合体が光を吸収する可視-UVスペクトルの波長において、被膜が作用して光を偏光する、すなわちこれらが重合体フィラメントの長軸と垂直に入射光を偏光するときに強く、また該フィラメントに平行に光を偏光するときに弱く吸収する。リチウムで増感された活性ポリアセチレン単量体は約220nmと300nmの間でいくつかの吸収バンドを有するので、この波長範囲で紫外線の照射によって即時重合をもたらす。しかし、紫外線がフィラメント粒子の長軸に平行な方向に偏光される場合、該粒子自体が放射線を吸収しないので重合は起きない。
【0027】
放射線画像化、放射線検出、放射線測定又は放射線表示に適している本Li-PA塩フィラメントを含有する製品又は装置は、以下のものを含む。
・透明、反射性、半透明又は不透明な支持体上への本生成物又はこの組成物の被膜;
・圧縮粉末又は粉末と結合剤の混合物で作った粉末又はタブレット;
・液体が純化合物、液状化合物の混合物又は少なくとも一つの溶媒に少なくとも一つの溶質の溶液あるいは液状化合物が乳化されたものを含む液状媒体での本塩生成物のスラリー、乳濁液又は分散体;
・光学繊維、棒又は板のような光伝送素子への本生成物又はこの組成物の被膜;
・生成物又はこの組成物を被覆し、さもなければ変換器に組み込まれる製品−具体例としては限定されるものではないが、発光及び/又は光検出素子を含有する統合電子装置を含む装置;圧電又は応力検出素子を含有する統合電子装置を含む装置;生成物又はこの組成物の電気的性質の変化を首尾よく測定する機能の統合電子装置を含む装置がある;
・本フィラメントを紡糸し、さもなければフィラメントで糸、ワイヤ又は繊維を作る製品;
・本フィラメントからなる糸、ワイヤ又は繊維を一緒に織る製品;
・光学計算装置;
・例えばリチウムイオン電池のような電池;及び
・フィラメント又はフィラメント状組成物でマット又は紙を作る製品.
【実施例】
【0028】
本発明のLi-PA塩フィラメントの製法について好適な実施形態の例を以下の実施例において説明する。
【0029】
実施例1
毛状粒子の製造及び感受性
骨ゼラチンを水に溶解して10%溶液を提供することによってA部を調製する。
【0030】
ペンタコサ-10,12-ジイン酸(PCDA)5gと等モル量の20%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を水と一緒に混ぜ、全重量を100gにしてB部を調製する。該混合物を約70℃に加熱して攪拌しながらPCDAを溶解する。この結果生じるペンタコサ-10,12-ジイン酸テトラエチルアンモニウム溶液を濾過して集める。
【0031】
C部としての10%酢酸リチウム水溶液を単独で調製する。A部10gをB部10gと混ぜた後(約50℃)、PCDAの1モル毎にLi約0.3モルを提供する分量でC部を加えて混合することによって、放射線感受性組成物を形成する。
【0032】
混合物を冷凍温度(約2〜8℃)まで冷却し、その結果ペンタコサ-10,12-ジイン酸リチウム粒子が形成するにつれて次第に乳白色になる。この段階で、該組成物は短波長UVランプの照射による青色発色の出現によって証明されるように光活性となる。
【0033】
数時間後に、試料の一部を約50℃に加熱して粘稠液体に融解する。光学顕微鏡を用いて500倍でこの液体の試料を調査する場合、個々の粒子が可視光で分解されるには小さすぎるため該粒子を明瞭に区別することが困難である。混合物を数時間50〜60℃で保持すると、該混合物は次第により粘稠になって、500倍での顕微鏡観察により水性のゼラチン母材に毛状フィラメントからなる分散体の形成を明らかにする。これらフィラメントは縮れていて、約0.5μmの幅と数十ないし数百マイクロメートルの長さを有する。顕微鏡観察ではまた、毛が顕微鏡用スライドで液体流パターンと一直線又は部分的に一直線に並ぶことと、個々の毛が凝集してより大きくて長いフィラメント単位のように見えることを示す。これらの凝集体は、ほこり又は塵粒のような液体流に対する障害を避けて流れを形成する。
【0034】
この段階でフィラメントの分散体は、UV照射又はX線照射(120kVp、2mmのAl濾過)への応答によって判断される優れた感光性となる。前述したX線の<10cGyの線量を照射した場合、組成物は藍色に変化する。しかし、該組成物の平滑で均一な被膜を提供する試みは、顕微鏡観測に基づき、該試料の長い毛状粒子のからみ合いに帰する組成物の非常に高い粘性と「粒々」のために成功しない。
【0035】
実施例2
毛状フィラメントの長さの短縮
顕微鏡用スライドに少量の分散体を置いてこれをカバースリップで覆うことにより、実施例1の分散体の試料を顕微鏡用に調製した。カバースリップを押しつけて回転させることにより分散体の粘性を著しく低下させることが観察され、その後顕微鏡でスライドを観察すると毛の長さが劇的に短くなることが明らかとなる。
【0036】
実施例1の分散体の試料20gを40℃で融解して音波処理を少しの間施す。分散体はすぐに流体となり、ワイヤを巻きつけた棒を用いてポリエステルの支持体上に均一に被覆して平滑なフィルムを形成することができる。顕微鏡による音波処理した分散体の観察によると毛状粒子の長さが数百マイクロメートルから20マイクロメートル未満に短縮されていることが示される。しかし、音波処理の前後でフィラメント分散体の試料にX線を照射する場合、音波処理した分散体が音波処理の前のものよりかなり低い感受性になることを確認した。感受性は4倍あるいはそれ以上減少する。
【0037】
実施例3
フィラメント分散体の熟成
音波処理したフィラメント分散体を約60℃に加熱して、この温度で数時間保持する。この間に粘性と感光性が増大する。この分散体の感受性は、実施例1の音波処理する前の分散体の半分である。分散体の粘性は、音波処理前の分散体より低いのだが、平滑で均一な被膜の製法を可能にするにはまだ高すぎる。
【0038】
光学顕微鏡を用いて500倍での分散体を観察すると、毛状フィラメント粒子がその時約20μm〜100μmの長さであることを示す。粒子の幅は最初の形状より広いが、まだ<1μmである。
【0039】
実施例4
さらなる大きさの減少と熟成
実施例1により調整し、実施例2と3に記載したように音波処理および熟成された実施例1〜3に記載されたようなフィラメント分散体の試料に、実施例2及び3の処理を繰返す。両方の処理について最初の反復後に、分散体の粘性は一層低下して感受性は実施例1の分散体の約2/3となった。粘性が減少されたので、平滑で均一な被膜が達成された。フィラメント粒子の長さは約20μm〜50μmであり、これらの幅は約1μmであった。
【0040】
実施例2及び3の音波処理と熟成処理のさらなる反復によって、その結果生じる生成物の感受性は、音波処理又は熟成処理より前の最初の分散体の感受性に非常に近づく。本分散体は流体のままであり、平滑で均一の被膜を提供する。繰返された処理の後で、高い放射線感受性をまだ維持しながら、フィラメント状粒子の大きさを約20μm〜30μmの長さと約1μm〜2μmの幅に減少する。
【0041】
実施例5
超高圧放射線に対するフィルムの感受性
分散体試料を実施例4のとおり調製し、この場合該分散体に三回の音波処理と三回の熟成を行った。この分散体をカスケードアプリケータから透明なポリエステルの支持体上に被覆して乾燥し、約15μmの厚さを有する層を形成した。この被膜に超高圧線形加速装置から線量が2GyのX線を照射した場合、該被膜は青色発色を起こした。放射線照射による試料の視感濃度の純変化は約0.3であった。濃度計に狭い通過域フィルタを備え付けた場合(約636nmを中心とした10nm FWHM)、純濃度はおよそ0.6であった。フィルムの可視吸収スペクトルを分光光度計で測定した場合、小さいピークが約580nmに観測されて主ピークは約635nmであった。照射による最大の純濃度変化は、635nmの波長で約0.65であった。これらの結果は、最良な結果が635nmに近接した波長の狭帯域内で測定することによって得られることを示す。
【0042】
実施例6
偏光板の効果
実施例5のとおり調製したフィルム試料に線量が2Gyの超高圧放射線を照射した。該フィルムを偏光板に平行に置いて偏光子が偏光板とフィルムの面と垂直な軸の周りを回転する場合、フィルムの暗さが変化したことを観察した。偏光板と未照射フィルム1枚を濃度計に設置して視感濃度を零点調整した。未照射フィルムを多数の角度に回転して繰返し測定すると、視感濃度が実質的に回転の角度と無関係であることが観察された。しかし、未照射フィルムを2Gyの線量を照射されたフィルムと置換したとき、試料を360°まで回転させるに従い視感濃度が0.29の低い値から0.35の高い値に変わることを確認した。濃度は、フィルム試料の被覆方向が偏光板の偏光軸に垂直であるときに最大となった。これらの測定が636nmの通過域フィルタ(10nm FWHM)を付加して繰返された場合、濃度は最低約0.55から最大約0.8に回転角と共に変化した。
【0043】
実施例7
フィルムの配向効果
実施例5のとおり調製した二つのフィルム試料に線量が2Gyの超高圧放射線を照射した。該フィルムを互いに平行に置いて、一つのフィルムがフィルムの面と垂直な軸の周りを回転する場合、一対のフィルムの暗さが回転角と共に変化したことを観察した。二つの未照射フィルムを濃度計に設置して、視感濃度間隔について濃度計を零点調整した。未照射フィルムを互いに関連して回転させると視感濃度は実質的に回転角と無関係であることが観察された。しかし、未照射フィルムを2Gyの線量を照射されたフィルムと置換したとき、視感濃度は回転角と共に約0.55から約0.75に変化した。濃度はフィルムを互いに垂直な被覆方向に配向するときに最大となった。濃度は、被覆方向が同一線形であるときに最小であった。これらの測定が636nmの通過域フィルタ(10nm FWHM)を付加して繰返されたとき、濃度は最低約1.15から最大約1.55に回転角と共に変化した。
【0044】
実施例8
フィルムの積層効果
四つのフィルム試料を実施例5のとおり調製した。二つのフィルムを被覆方向に沿って一直線にした平行配向に向かい合わせて置いた。少量の水をシートの間に置いて、これらをロール間隙に速く通すことによって積層した。過剰水を絞り出してフィルムは互いに積層した状態になった。フィルムが互いに垂直な被覆方向を有する直交配向であることを除いて類似の積層板を用意した。
【0045】
二つの積層板に線量が2Gyの超高圧放射線を照射して濃度を測定した。平行配向を有する積層板の視感濃度は、直交積層板の視感濃度より低かった。直交積層板が偏光板を通して観察されたとき、濃度が回転角と無関係であることを確認した。しかし、平行積層板と偏光板を組合せると、濃度は回転角に依存した。該濃度は偏光板の偏光軸がフィルム積層板の被覆方向に垂直であるときに最大となって、被覆方向と偏光軸が一直線になるときに最小となった。直交積層板の濃度は、平行積層板と偏光板の組合せの最小と最大の中間であった。
【0046】
濃度を636nmの通過域フィルタ(10nm FWHM)に通して測定した場合、該通過域フィルタを用いた濃度が常に対応する視感濃度より大きいことを除いて、類似の観察がなされた。
【0047】
実施例9
粒子の長さと感受性への微粉砕効果
実施例1の分散体の試料20gを40℃で溶解して約5μmの間隙を有するコロイドミルに通した。該分散体は流体となってワイヤを巻きつけた棒を用いてポリエステルの支持体上に均一に被覆して平滑なフィルムを形成することができる。顕微鏡によって微粉砕した分散体を観察すると、毛状粒子の長さを数百マイクロメートルから約20μm〜50μmに短縮したことを示した。しかし、微粉砕前後の分散体の試料にX線を照射すると、微粉砕した分散体が微粉砕前のものより非常に低い感受性となることを観察した。感受性が少なくとも4倍低下した。
【0048】
微粉砕した分散体を実施例3のように熟成することができる。熟成は、音波処理した分散体の熟成と類似の仕方で、粒子の長さと微粉砕した分散体の感受性を上昇させる。
【0049】
実施例10
さらなる微粉砕と熟成
分散体の試料を実施例1に従い調製し、実施例9に記載のとおり微粉砕と熟成を行った。該処理を繰返した。1回の反復後に分散体の粘性は一層低下して感受性は実施例1の分散体の約2/3であった。該粘性は平滑で均一な被膜を作り得るのに十分な低さであった。2回目の反復後に粒子の長さが約20μm〜50μm、幅が約1μmであった。
【0050】
微粉砕と熟成処理のさらなる反復によって、感受性はあらゆる微粉砕より前の最初の分散体の感受性にますます近くなる。該分散体は流体のまま用いて平滑で均一の被膜を提供することができる。繰返し処理した後に、粒子の大きさは約20μm〜30μmの長さと約1μm〜2μmの幅に漸近する。
【0051】
実施例11
界面活性剤溶液での毛状粒子の製造
ペンタコサ-10,12-ジイン酸(PCDA)5gと等モル量の20%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を水と一緒に混ぜて全重量を100gにすることによりA部を調製する。該混合物を約70℃に加熱して攪拌しながらPCDAを溶解する。両性界面活性剤のアンフォゾルCA(Amphosol CA)を加えて2%の濃度にする。この結果生じるペンタコサ-10,12-ジイン酸テトラエチルアンモニウム溶液を濾過する。
【0052】
B部は、10%の酢酸リチウム水溶液である。
【0053】
A部10gを水10gと混ぜて(約50℃)、さらにPCDAの1モル毎にLi約0.9モルを提供する分量でB部を加えて混合することによって、組成物を調製する。
【0054】
混合物が常温(約22℃)に冷却されると、ペンタコサ-10,12-ジイン酸リチウム粒子が形成されるにつれて次第に乳白色になる。この段階で組成物は、短波長UVランプの照射による青色発色の出現によって証明されるように光活性となる。混合物は、最大光活性に達するまで経時的により光活性となる。
【0055】
数分後に試料の一部を光学顕微鏡で調査する。極めて微細な毛状粒子を見ることができる。これらは長さ約10μm〜20μmで幅<0.5μmであると推定される。混合物を一晩常温にしておくと、パテ状の塊が液体から分離する。この物質の試料を500倍の顕微鏡で観察すると、からみ合った毛状粒子の塊からなることが示される。これら粒子が約1μmの幅と少なくとも数百マイクロメートルまでの長さであることが観察される。個々の毛はまっすぐではなく縮れていて、UV及びX線に非常に過敏である。線量がわずか1cGyの前述したX線を照射すると、組成物は青色に変化する。
【0056】
実施例12
フィルムの製造とキロボルト数の放射線に対する感受性
分散体を実施例5のとおり調製し、不透明な白色フィルム基材上に被覆して厚さ約15μmの乾燥した層を形成した。このフィルムについて水性のゼラチンと二次増感剤である臭化セシウムからなる表層を活性層一面に被覆した。乾燥後にゼラチン/臭化セシウム層は約25重量%の臭化セシウムを含み、厚さ約8μmであった。この被膜に線量が1cGyのX線(120kVp、2mmのAl濾過)を照射すると、被膜が青色発色を起こした。放射線照射による試料の視感反射濃度の純変化は0.14であった。該濃度変化は、濃度計の赤色チャンネルで測定すると0.2であった。
【0057】
臭化セシウムを省いた試験を繰返し行った。この結果生じるフィルムに線量が0.9cGyのX線(120kVp、2mm Al)を照射した場合、目に見える変化も濃度変化もなかった。
【0058】
実施例13
積層板の製造とキロボルト数の放射線に対する感受性
分散体を実施例5のとおり調製し、不透明な白色フィルム基材上に被覆して厚さ約15μmの乾燥した層を形成した。10%のゼラチン溶液を用意して二次増感剤である臭化セシウム0.6gを該ゼラチン溶液10gに溶解した。この結果生じる組成物を、#46のワイヤを巻きつけた棒を用いて透明なポリエステル上に被覆した。該被膜を乾燥させた。分散体とゼラチン/CsBrで被覆したフィルムを向かい合わせに置いた。少量の水をシートの間に置いて、該シートをロール間隙に速く通すことによって積層した。過剰水を絞り出してフィルムは互いに積層した状態になった。この積層板に線量が1cGyのX線(120kVp、2mmのAl濾過)を照射すると、該積層板は青色発色を起こした。放射線照射による該試料の視感反射濃度の純変化は0.10であった。濃度変化は、濃度計の赤色チャンネルで測定すると0.15であった。
【0059】
臭化セシウムをゼラチン溶液から省いた試験を繰返し行った。この結果生じる積層板に線量が0.9cGyのX線(120kVp、2mm Al)を照射した場合、目に見える変化も濃度変化もなかった。
【0060】
実施例14
照射フィルムの機械物理的挙動の観察
被膜を実施例5のとおり調製した。フィルムの被覆側に短波のUVランプを照射するとすぐに青色に変化した。被覆層が照射を受けて収縮することを示す凹湾曲をフィルムがすぐに起こすことを観察した。該フィルムにX線を照射したとき、同様の観察がなされた。その上、湾曲が被覆方向に垂直な軸の周りに起こることを観察した。該収縮は、重合を受けるにつれてポリアセチレン単量体が収縮する結果であると考えられる。
【0061】
実施例15
圧電素子に被覆したポリアセチレン単量体からなる検出器
ポリアセチレン単量体の分散体を実施例1に記載のとおり調製した。該分散体を圧電材料の表面に適用して乾燥した。圧電素子が検出器に組み込まれた。圧電素子と被膜に放射線源を照射したとき、検出器は圧電素子への応力の発現と一致した電位変化を記録した。ポリアセチレン単量体分散体を被覆せずに試験を繰返した場合、圧電素子の状態の変化を検出できなかった。
【0062】
実施例16
放射線指示器
放射線感受性組成物を実施例11のとおり調製した。液体から分離した固形物のほんの一部を薄いウェーハに押し込んで該ウェーハは白色の支持体に接着した。「放射線を照射されたときに、青色」の語を支持体上に印刷した。この製品に10mGyのX線を照射した場合、ウェーハの白色はすぐにX線の照射を示す薄青色になった。
【0063】
実施例17
放射線指示器
放射線感受性フィルムを実施例5のとおり調製した。「未照射」の語を白色の支持体上に印刷した。透明な接着剤を用いて「未」という語の上に放射線感受性被膜を一枚張合わせることにより照射指示器を用意した。照射前に該指示器は、「未照射」と読める。該指示器に線量が10Gyの超高圧放射線を照射するとすぐに、放射線感受性フィルムが紺青色かつ不透明に変化して、「未」の語を目に見えないようにした。指示器のメッセージは「照射」と読め、正確にこの状態を識別する。
【0064】
実施例18
偏光した紫外線を用いた照射効果
実施例5の被膜を調製するのに使用したのと同様な流体分散体を調製した。この流体を用いて支持体上に被覆した二つの層を形成した。層1はポリアセチレン単量体の粒子を含み、該粒子の長軸を優先的に一方向に並べる。層2においては、層1の優先的直線と垂直に、粒子を優先的に並べる。
【0065】
最初の紫外線源を層1と垂直に偏光してフィルムを照射するのに用いる。この偏光では、紫外線源が優先的に層1の粒子を照射するようになる。層2と垂直に偏光した第二の紫外線源を用いてフィルムを照射すると優先的に層2を照射するようになる。偏光を用いて層に記録された情報を見ることができ、ポリアセチレン重合体の吸収極大に近い波長の光が好ましい。光を層1の粒子配向と垂直に偏光する場合、層1に記録した情報が明らかにされる。逆に、光を層2の粒子配向と垂直に偏光する場合、層2に記録した情報が明らかにされる。
【0066】
実施例19
第1部
水酸化テトラエチルアンモニウム29.4gと水105.24gに75℃で攪拌しながらペンタコサ-10,12-ジイン酸14.9gを溶解して、ペンタコサ-10,12-ジイン酸テトラエチルアンモニウム溶液を調製した。この結果生じる混合物に溶液Aとラベルを貼付けた。
【0067】
溶液A4gを水4gで希釈して氷温に冷却した後、5%の塩化リチウム水溶液0.83gを激しく攪拌しながら加えた。この結果生じる混合物を混合物Bとラベルを貼付し、氷温で16時間保持してから顕微鏡で検査した。冷却された分散体は、長さ約40〜100μmで幅1μm未満のフィラメント状粒子を示した。
【0068】
次に20%のゼラチン水溶液2gを混合物Bに添加して短期間の音波処理にかけた後、加熱して45℃で36時間保持した。この結果生じる分散体は2〜20μm×5〜50μmの板状粒子から成り立っていた。
【0069】
第2部
少量の溶液A4gを75℃に加熱して水0.4gと20%のゼラチン水溶液2gで希釈した後に、5%の酢酸リチウム水溶液2.2gを激しく攪拌しながら加えた。上記のように、生成する混合物を氷で急冷し、0℃で16時間保持した。結果として生じる分散体を顕微鏡で観察すると、約1〜2μmの大きさの板状粒子を表した。
【0070】
第3部
少量の溶液A2gを水1gで希釈して20%のゼラチン水溶液1gと混合し、その後5%の酢酸リチウム水溶液0.6gを激しく攪拌しながら加えてリチウム塩を含む溶液を形成した。次に、この結果生じる混合物を氷で急冷し、0℃で64時間保持してLi/PA塩フィラメントを沈殿させた。顕微鏡検査によって、大部分は100μm以上の長さと1μm未満の幅であるフィラメント状粒子が示された。
【0071】
第3部で得られたフィラメント状粒子の溶液(0.4g)を第1部で得られた分散体5gに加えて、結果生じる混合物を45℃で24時間加熱した。顕微鏡検査によって、第1部の生成物である板状粒子が消えて、該分散体が長さ200μm以上の毛状フィラメント物だけから成り立っていることが示された。この分散体混合物の小さい試料を濾紙に塗布して、短波のUVランプからの放射線を照射すると、該試料はすぐに明確な青色に変化して光重合を起こした。第2部及び第3部の分散体を混合して同様な方法により加熱した場合、光重合を起こす色の強度は極めて紺青色であった。しかし、同様に加熱された第1部と第2部の分散体の混合物は、UV照射によってわずかに淡い青色を与えた。第1部と第2部の分散体混合物に線量が約10Gyの放射線を照射した場合にのみ、わずか2Gyに対する第1部と第3部の分散体混合物の応答に近い色の強度に達する。
【0072】
これらの結果により、ペンタコサ-10,12-ジイン酸リチウムの毛状粒子が同一の化合物の板状粒子より極めて大きい感受性を見せることが示される。この結果はまた、板状粒子(第1部の分散体)の低い感受性を、フィラメント状粒子の存在の下で熟成することによって核の種を形成し、小板を糸状形態に変化させることで高い感受性に転換することができることを立証する。
【0073】
以下の実施例において、用いられた成分を次のように定義する。
【0074】
成分 組成
A 10%のゼラチン水溶液
B ペンタコサ-10,12-ジイン酸(PCDA)10gを等モル量の20%の水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液に溶解し、水を用いて体積100mlに希釈した溶液
C 10%の塩化リチウム水溶液
D 10重量%のゼラチン、1.5重量%のLiCl及び0.2重量%の没食子酸プロピル溶液
【0075】
実施例20
成分Aを成分B100gと混ぜて、この結果生じる溶液を35℃に冷却した後、成分C11.23g(前記酸1モルに対してLi0.8モル当量である)を一定の攪拌下添加した。生成する混合物を氷水浴で素早く冷却して凝固し、その後25時間冷凍下で保管した。毛状粒子の無作為の固体が沈殿するにつれて、溶液は次第に不透明になった。次に不透明な溶液を40℃に加熱して2分間400Wのエネルギーで音波処理した後に、60℃の湯浴に一晩処理した。分散体の粘度が約50から約5000cpsに増大した。顕微鏡検査により、分散体中の毛状粒子が30μmの長さから1000μmに成長したことが示された。この分散体は極めて高い放射線感受性を見せた。
【0076】
次に上記粘性分散体を5分間上記エネルギーで音波処理して粘度を10cpsまで減少し、約20μmのフィラメント長に短縮した。しかし、粒子の大きさの減少によって感受性は約80%に低下した。これを改善するために、該分散体を再度60℃の湯浴で一晩熟成すると、粘度が100cpsまで高まり、フィラメント長も100μmまで増大した。放射線感受性の著しい上昇を示した。音波処理工程と熟成(2時間)を再び繰り返して粘度を10cps未満に減少し、約30μmの平均フィラメント長を達成した。
【0077】
実施例21
粘度が10cpsである実施例20の分散体生成物を、#55のワイヤを巻きつけた棒を用いて厚さ15μmのポリエステルフィルム上に被覆した。次に該フィルムに#5の棒を用いて成分Dを厚さ3μmに上塗りした。上塗りによって供給された追加のリチウムイオンは、Liとペンタコサ-10,12-ジイン酸のモル比を>1.2:1まで上げた。この結果生じるフィルムに120kVpのX線を照射すると、青色がすぐに発色した。X-Rite 310T型濃度計で測定したときの10Gyの照射で生じる視感濃度の差は、約0.5であった。相対的に、同じ放射線レベルで照射されたペンタコサ-10,12-ジイン酸の分散体を用いた類似の被膜厚さのフィルムは、0.1未満の純濃度を有する。
【0078】
実施例22
PCDA5gを水とともに等モル量の20%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液に溶解し、全体で100mlの体積にした。該溶液を氷水浴で4℃以下に冷却し、5%のLiC水溶液l3.4g(PCDA1モルに対してLi0.3モル当量である)をゆっくり加えた。この結果生じる溶液を氷水浴で素早く冷却した。該溶液は次第に不透明で粘性の状態になった。生成する溶液を25時間冷凍下で貯蔵した。生成物は放射線に対して良好な感受性を示した。長さ約40μmで1ミクロン未満の直径の毛状結晶が顕微鏡で観察された。
【0079】
実施例23
以下に示す実施例において、A部は10%のゼラチン溶液である。
PCDA10gを水と一緒に等モル量の20%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液に溶解し、全体の体積を100mlにして、B部を調製した。
C部は、実施例20に従って調製された分散体である。
D部は、10%のLiCl水溶液である。
【0080】
A部100gをB部100gに混ぜて溶液を形成した。該溶液を40℃に冷却してC部10gを加えた。分散体をよく混ぜた後に、D部11.23g(PCDA1モルに対してLi0.8モル当量である)をゆっくり加えた。生成する溶液を40℃で1時間保ち、その後温度を60℃に上昇させた。
【0081】
次に実施例20に記載のとおり音波処理と熟成により分散体を処理した。糸状フィラメント結晶の感受性と構造が実施例20で得られたものと同様であると確認された。その後、該分散体を実施例21に記載のとおり被覆し、平滑な放射線感受性被膜を提供した。
【0082】
上述の開示と一貫した変更及び代替を本発明の範囲から逸脱することなく、上記実施例に行うことができると理解される。例えば、上述のリチウム塩増感剤及び/又はポリアセチレン単量体のあらゆるものを上記実施例において代用することができ、同様に増強した放射線感受性を有するミクロンサイズの対応するフィラメント状リチウム塩を提供する。また、粒子の大きさ及び感光性を与えられた生成物の割合は実施例において変わり、特定用途、例えば液状塗料又はペースト、乾燥粉末、及び圧縮タブレット等と合致した増強された感受性を有するLi/PA塩フィラメントを得ることができる。さらに、本発明のフィラメント状塩生成物を、この溶液と末端カルボキシル基もしくはカルボキシレート基を少なくとも一つ有する重合性共役ポリアセチレン、又は前記ポリアセチレンの混合物とここに開示されたリチウム塩増感剤とを混ぜることで追加処理して、より多くの及び/又はより大きいフィラメント状粒子の形態における更なるフィラメント材料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端カルボキシル基又はカルボキシレート基を少なくとも一つ有する重合性共役ポリアセチレン及び前記ポリアセチレン混合物のリチウム塩のフィラメント状粒子であり、長さ対幅の比が少なくとも5:1であるフィラメント状粒子。
【請求項2】
前記フィラメントの平均長さが約5μmと約50,000μmの間である請求項1に記載のリチウム塩フィラメント。
【請求項3】
長さ対幅の比が約5:1と約5,000:1の間である請求項1に記載のリチウム塩フィラメント。
【請求項4】
前記塩は6〜64個の炭素原子を含む請求項1に記載のリチウム塩フィラメント。
【請求項5】
前記塩は10〜40個の炭素原子を含む請求項4に記載のリチウム塩フィラメント。
【請求項6】
前記塩は、ペンタコサ-10,12-ジイン酸、トリコサ-10,12-ジイン酸、ヘンエイコサ-10,12-ジイン酸、エイコサ-5,7-ジイン酸、及びこれらに対応する低級アルキルエステルよりなる群から選択されたポリアセチレンのリチウム塩である請求項5に記載のリチウム塩フィラメント。
【請求項7】
放射線源の照射による現像に適した感光性被膜組成物であって、該組成物が、フィラメント状粒子の長さ対幅の比が5:1より大きく、フィラメントの平均長さが約10μmと50μmの間である請求項1に記載のリチウム塩フィラメントの有効画像化量を含有する不活性母材を備える感光性被膜組成物。
【請求項8】
前記母材が、水あるいは天然もしくは合成重合体もしくはこれらの混合物の溶液又は分散体である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
母材がゼラチンの水溶液である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記塩が、ペンタコサ-10,12-ジイン酸、トリコサ-10,12-ジイン酸、ヘンエイコサ-10,12-ジイン酸、エイコサ-5,7-ジイン酸及びこれらに対応する低級アルキルエステル、並びにこれらの混合物よりなる群から選択されたポリアセチレンのリチウム塩である請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記塩が、ペンタコサ-10,12-ジイン酸のリチウム塩である請求項6に記載のリチウム塩。
【請求項12】
前記塩が、ペンタコサ-10,12-ジイン酸のリチウム塩である請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
請求項7に記載の組成物を担持する支持体。
【請求項14】
請求項7に記載の乾燥した組成物を担持する支持体。
【請求項15】
請求項14に記載の支持体を備える線量計。
【請求項16】
請求項14に記載の支持体を備える線量指示器。
【請求項17】
請求項1に記載のリチウム塩フィラメントを製造するに当たり、
(a)末端カルボキシル基又はカルボキシレート基を少なくとも一つ有する重合性共役ポリアセチレン溶液を該ポリアセチレン及びあらゆる重合生成物に対して不活性である母材中で混合する工程と、
(b)ポリアセチレンの末端カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を、該カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と反応性のリチウム塩増感剤と接触させて、前記ポリアセチレンのリチウム塩溶液を形成する工程と、
(c)工程(b)で生成した母材/リチウム塩溶液を常温以下に急冷し、母材中のリチウム/ポリアセチレン塩を核化して沈殿するに十分な期間、この温度で保持する工程と、
(d)リチウム/ポリアセチレン塩のフィラメントが形成し、平均5μm以上の長さであって、長さ対幅の比が少なくとも5:1に成長するまで、工程(c)の生成物を状況に応じて加熱保持する工程と、
(e)機械的手段でフィラメントの長さを状況に応じて減ずる工程と、
(f)所望のフィラメントの長さと放射線感受性が得られるまで、工程(d)から工程(e)を状況に応じて繰返す工程と、
(g)該方法の生成物として請求項1に記載のフィラメント状塩生成物を回収する工程とを順に備えるリチウム塩フィラメントの製造方法。
【請求項18】
リチウム塩増感剤が、ハロゲン化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、アルキルカルボン酸リチウム、アリールカルボン酸リチウム及びこれらの混合物よりなる群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(d)を約40℃と約100℃の間の温度で行う請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記母材が、ゼラチン、コラーゲン、寒天、キサンタンガム、合成重合体及びこれらの混合物よりなる群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記母材が、ゼラチンの水溶液である請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記母材が水である請求項17に記載の方法。
【請求項23】
工程(b)におけるリチウム/ポリアセチレン塩と母材の重量比が、約100:1と1:10の間である請求項17に記載の方法。
【請求項24】
支持体を被覆するに適した不活性母材に分散させた請求項1に記載のフィラメント状の塩であって、前記塩と母材の重量比が約4:1と約1:5の間であるフィラメント状の塩。
【請求項25】
ゼラチン、コラーゲン、寒天、キサンタンガム、合成のフィルム形成重合体およびこれらの混合物よりなる群から選択したフィルム形成母材に分散させる請求項24に記載のフィラメント状の塩。
【請求項26】
乾燥ゼラチンに分散させた請求項1に記載のフィラメント状の塩。
【請求項27】
共役ポリアセチレンのリチウム塩からなる小板の分散体を、少なくとも0.1重量%の請求項1に記載のフィラメントと該小板をフィラメントに転換するに十分な期間接触させてなる方法。
【請求項28】
請求項17の方法のフィラメント状塩生成物を、板状粒子からなるリチウム/アセチレン塩と接触させ、板状粒子をフィラメント状粒子に転換するに十分な期間高温で保持する方法。
【請求項29】
請求項17のフィラメント状塩生成物を、末端カルボキシル基もしくはカルボキシレート基を少なくとも一つ有する重合性共役ポリアセチレン又はこれらの混合物の溶液と混合し、ハロゲン化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、アルキルカルボン酸リチウム、アリールカルボン酸リチウム及びこれらの混合物よりなる群から選択されたリチウム塩増感剤の溶液と接触させる方法。

【公表番号】特表2007−524718(P2007−524718A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507027(P2006−507027)
【出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/007273
【国際公開番号】WO2004/095065
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(596121138)アイエスピー インヴェストメンツ インコーポレイテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】ISP INVESTMENTS INC.
【Fターム(参考)】