説明

放射線撮影装置

【課題】直交する2方向で鮮鋭度が異なる放射線画像検出器を用いる場合に、位相微分画像のS/Nを向上させることを可能とする。
【解決手段】X線撮影装置は、X線源から放射されたX線を通過させて第1の周期パターン像(G1像)を生成する第1の格子と、第1の格子と対向するとともに、第1の格子に対して格子面内方向に相対的に傾斜して配置され、G1像を部分的に遮蔽することによりモアレ縞が生じた第2の周期パターン像(G2像)を生成する第2の格子と、G2像を検出して画像データを生成するX線画像検出器と、画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部とを備える。X線画像検出器は、直交する2方向で鮮鋭度が異なり、鮮鋭度の高い方向(Y方向)がモアレ縞に交わる方向に沿うように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の位相変化に基づく画像を得る放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、例えばX線は、物質を構成する元素の重さ(原子番号)と、物質の密度及び厚さとに依存して減衰するという特性を有する。この特性に着目し、医療診断や非破壊検査等の分野において、被検体の内部を透視するためのプローブとしてX線が利用されている。
【0003】
一般的なX線撮影装置では、X線を放射するX線源と、X線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体を透過したX線の撮影を行う。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、被検体を透過する際に吸収され減衰した後、X線画像検出器に入射する。この結果、被検体によるX線の強度変化に基づく画像がX線画像検出器により検出される。
【0004】
X線吸収能は、原子番号が小さい元素ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線の強度変化が小さく、画像に十分なコントラストが得られないという問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線吸収能の差が小さいため、コントラストが得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化に基づいた画像を得るX線位相イメージングの研究が近年盛んに行われている。X線位相イメージングは、被検体に入射したX線の位相変化が強度変化より大きいことに基づき、X線の位相変化を画像化する方法であり、X線吸収能が低い被検体に対しても高コントラストの画像を得ることができる。
【0006】
このようなX線位相イメージングを可能とするX線撮影装置として、X線源とX線画像検出器との間に、第1及び第2の格子を所定の間隔で平行に配置し、X線源から第1及び第2の格子を介して得られるX線のモアレ画像をX線画像検出器で撮影することにより位相コントラス画像を取得するX線撮影装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に記載のX線撮影装置では、縞走査法が用いられている。縞走査法では、第1の格子に対して第2の格子を、格子方向にほぼ垂直な方向に、格子ピッチよりも小さい所定量ずつ間欠的に移動させながら、その各停止中に撮影を行うことにより複数のモアレ画像が検出される。この複数のモアレ画像に基づいて、被検体との相互作用によって生じたX線の位相変化量が検出され、位相微分画像が生成される。この位相微分画像を積分処理することにより位相コントラスト画像が生成される。
【0008】
しかし、縞走査法では、第1または第2の格子を、その格子ピッチよりも小さいピッチで精度よく移動させるために高精度な移動機構が必要である。このため、装置の複雑化や高コスト化という問題がある。また、縞走査法では、1枚の位相コントラスト画像を取得するために複数回の撮影を行う必要があるため、その一連の撮影中に被検体の体動や装置の振動が生じると、各モアレ画像間で被検体や格子に位置ずれが生じ、位相微分画像の画質が劣化するという問題がある。特許文献1には、第1及び第2の格子を移動させずに一度の撮影を行うことより得られる1枚のモアレ画像から位相微分画像を生成することが記載されているが、その具体的な方法については記載されていない。
【0009】
特許文献2では、第1及び第2の格子を移動させずに一度の撮影を行うことにより1枚のモアレ画像を取得し、このモアレ画像に対して、フーリエ変換、キャリア周波数に対応したスペクトルの分離、フーリエ逆変換の一連の処理を施すことにより位相微分画像を得るフーリエ変換法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−200361号公報
【特許文献2】WO2010/050483号公報
【特許文献3】特開2009−133823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2には、モアレ画像のモアレ縞の方向性とX線画像検出器との間の配置関係については何ら記載されていない。X線画像検出器には、特許文献3に記載された光読取方式のものや、イメージングプレートに代表されるように、直交する2方向で鮮鋭度が異なるものがある。特許文献2に記載のように、1枚のモアレ画像をフーリエ変換等で空間分解して位相微分画像を生成する場合には、直交する2方向で鮮鋭度が異なるX線画像検出器を用いると、その鮮鋭度の異方性と空間分解の方向性との関係に依存して位相微分画像のS/Nが低下するという問題がある。
【0012】
本発明は、直交する2方向で鮮鋭度が異なる放射線画像検出器により得られた1枚のモアレ画像を用いて位相微分画像を生成する放射線撮影装置において、位相微分画像のS/Nを向上させることを可能とする放射線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の放射線撮影装置は、放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の格子と対向するとともに、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽することによりモアレ縞が生じた第2の周期パターン像を生成する第2の格子と、直交する2方向で鮮鋭度が異なり、鮮鋭度の高い方向が前記モアレ縞に交わる第1の方向に沿うように配置されるとともに、2次元配列された複数の画素により前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、前記放射線画像検出器により生成された画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
前記放射線画像検出器は、前記第1の方向に延設された線状読取光源が、前記第1の方向と直交する第2の方向に走査されることによって画素ごとに電荷が読み取られ、画像データの生成が行われる光読取方式の放射線画像検出器である。
【0015】
前記位相微分画像生成部は、前記第1の方向に並ぶ所定数の画素を1グループとし、このグループを前記第1の方向に所定画素ずつ変更しながら、各グループ内の各画素値からなる強度変調信号の位相を算出することにより位相微分画像を生成する。この場合、
前記所定画素は1画素であることが好ましい。
【0016】
前記グループを構成する画素数が、前記モアレ縞の周期の整数倍に相当することが好ましい。この場合、前記グループを構成する画素数が、前記モアレ縞の1周期に相当することが好ましい。また、前記グループを構成する画素数が、前記モアレ縞の1周期に相当する画素数より少なくてもよい。
【0017】
前記位相微分画像生成部は、前記画像データに対して、フーリエ変換、キャリア周波数に対応したスペクトルの分離、フーリエ逆変換を施すことにより位相微分画像を生成するものであってもよい。
【0018】
前記モアレ縞は、前記第2の格子を、第1の格子に対して格子面内方向に相対的に傾斜して配置することにより生成されたものであり、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ直交している。
【0019】
前記モアレ縞は、前記第1及び第2の格子の対向方向の位置関係、または、前記第1及び第2の格子の格子ピッチを調整することにより生成されたものであり、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ平行であってもよい。
【0020】
前記モアレ縞は、前記第2の格子を、第1の格子に対して格子面内方向に相対的に傾斜して配置し、かつ、前記第1及び第2の格子の対向方向の位置関係、または、前記第1及び第2の格子の格子ピッチを調整することにより生成されたものであり、前記第1及び第2の格子の格子方向に直交せず、かつ平行でなくてもよい。
【0021】
本発明の放射線撮影装置は、前記位相微分画像生成部により生成された位相微分画像を、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ直交する方向に沿って積分処理して位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備える。
【0022】
本発明の放射線撮影装置は、被検体を配置しない状態で前記位相微分画像生成部により生成された位相微分画像を補正画像として記憶する補正画像記憶部と、被検体を配置した状態で前記位相微分画像生成部により生成された位相微分画像から、前記補正画像記憶部に記憶された補正画像を減算する補正処理部とを備える。この場合、放射線撮影装置は、前記補正処理部によって補正された補正済みの位相微分画像を、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ直交する方向に沿って積分処理して位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備えることが好ましい。
【0023】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を前記第2の格子に幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。
【0024】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせ前記第1の周期パターン像を生成するものであってもよい。
【0025】
さらに、本発明の放射線撮影装置は、前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、鮮鋭度の高い方向がモアレ縞に交わる方向に沿うように放射線画像検出器を配置するので、放射線画像検出器で検出されるモアレ縞のコントラストが向上し、位相微分画像のS/Nが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】X線撮影装置の構成を示す模式図である。
【図2】X線画像検出器の構成を示す概略斜視図である。
【図3】X線画像検出器の作用を説明する第1の説明図である。
【図4】X線画像検出器の作用を説明する第2の説明図である。
【図5】X線画像検出器の作用を説明する第3の説明図である。
【図6】X線画像検出器のMTFと空間周波数との関係を示すグラフである。
【図7】第1及び第2の格子の構成を説明する説明図である。
【図8】X線画像検出器の画素に対する第1及び第2の格子の位置関係を説明する説明図である。
【図9】強度変調信号を構成する1グループの画素を示す説明図である。
【図10】強度変調信号を示すグラフである。
【図11】画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図12】位相微分値の算出時のグループの設定変更方法を説明する説明図である。
【図13】グループの設定方法の第1の変形例を説明する説明図である。
【図14】グループの設定方法の第2の変形例を説明する説明図である。
【図15】グループの設定方法の第3の変形例を説明する説明図である。
【図16】グループの設定変更方法の変形例を説明する説明図である。
【図17】第2の実施形態におけるX線画像検出器の画素に対する第1及び第2の格子の位置関係を説明する説明図である。
【図18】第2の実施形態におけるX線画像検出器の配置を説明する説明図である。
【図19】第2の実施形態における位相微分値の算出時のグループの設定変更方法を説明する説明図である。
【図20】第3の実施形態のX線画像検出器の構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施形態)
図1において、X線撮影装置10は、X線源11、撮影部12、メモリ13、画像処理部14、画像記録部15、撮影制御部16、コンソール17、及びシステム制御部18を備えている。X線源11は、周知のように、回転陽極型のX線管(図示せず)と、X線の照射野を制限するコリメータ(図示せず)とを有し、被検体Hに向けてX線を放射する。
【0029】
撮影部12は、X線画像検出器20、第1の格子21、及び第2の格子22を備えている。第1及び第2の格子21,22は、吸収型格子であり、X線照射方向であるZ方向に関してX線源11に対向配置されている。X線源11と第1の格子21との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。X線画像検出器20は、詳しくは後述するが、光読取方式のフラットパネル検出器であり、第2の格子22の背後に近接して配置されている。X線画像検出器20の検出面20aは、Z方向に直交している。
【0030】
第1の格子21は、Z方向に直交するXY面(格子面)におけるY方向に延伸された複数のX線吸収部21a及びX線透過部21bを備えている。X線吸収部21a及びX線透過部21bは、X方向(Z方向及びY方向に直交する方向)に沿って交互に配列されており、縞状のパターンを形成している。第2の格子22は、第1の格子21と同様にY方向に延伸され、かつX方向に沿って交互に配列された複数のX線吸収部22a及びX線透過部22bを備えている。X線吸収部21a,22aは、金(Au)、白金(Pt)等のX線吸収性を有する金属により形成されている。X線透過部21b,22bは、シリコン(Si)や樹脂等のX線透過性材料や空隙により形成されている。
【0031】
第1の格子21は、X線源11から放射されたX線を部分的に通過させて第1の周期パターン像(以下、G1像という)を生成する。第2の格子22は、第1の格子21により生成されたG1像を部分的に透過させて第2の周期パターン像(以下、G2像という)を生成する。G1像は、第2の格子22の格子パターンとほぼ一致する。詳しくは後述するが、第2の格子22に対して第1の格子21がZ軸周り(格子面内方向)に僅かに傾斜しており、G2像には、その傾斜角に応じた周期を有するモアレ縞が生じている。
【0032】
X線画像検出器20は、G2像を検出して画像データを生成する。メモリ13は、X線画像検出器20から読み出された画像データを一時的に記憶する。画像処理部14は、メモリ13に記憶された画像データに基づいて位相微分画像を生成し、この位相微分画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する。画像記録部15は、画像処理部14により生成された位相微分画像や位相コントラスト画像を記録する。撮影制御部16は、X線源11及び撮影部12の制御を行う。
【0033】
コンソール17は、撮影条件の設定や、撮影モードの切替、撮影実行指示等の操作を可能とする操作部17aと、撮影情報や、位相微分画像、位相コントラスト画像等の画像表示を行うモニタ17bとを備えている。撮影モードとしては、被検体Hを配置せずに撮影を行うプレ撮影と、被検体Hを配置して行う本撮影が実行可能となっている。システム制御部18は、操作部17aから入力される信号に応じて各部を統括的に制御する。
【0034】
図2において、X線画像検出器20は、X線を透過する第1の電極層31と、第1の電極層31を透過したX線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層32と、記録用光導電層32で発生した電荷のうち一方の極性の電荷に対しては絶縁体として作用し、他方の極性の電荷に対しては導電体として作用する電荷輸送層34と、読取光LRの照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層35と、第2の電極層36とをこの順に積層したものである。
【0035】
記録用光導電層32と電荷輸送層34との界面近傍には、記録用光導電層32内で発生した電荷を蓄積する蓄電部33が形成される。なお、上記各層は、ガラス基板37上に第2の電極層36から順に形成されている。
【0036】
第1の電極層31は、X線透過性を有する。第1の電極層31としては、例えば、ネサ皮膜(SnO)、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、アモルファス状光透過性酸化膜であるIDIXO(Idemitsu Indium X-metal Oxide;出光興産(株))などを50〜200nm厚にして用いることができ、また、100nm厚のAlやAuなども用いることもできる。
【0037】
記録用光導電層32は、X線の照射を受けることにより電荷を発生するものであればよく、X線に対して比較的量子効率が高く、また暗抵抗が高いなどの点で優れているアモルファスセレンを主成分とするものを使用する。記録用光導電層32の厚さは10〜1500μmが適切である。また、記録用光導電層32の厚さは、マンモグラフィ用途である場合には150〜250μmであることが好ましく、一般撮影用途である場合には500〜1200μmであることが好ましい。
【0038】
電荷輸送層34としては、X線画像の記録の際に第1の電極層31に帯電する電荷の移動度と、その逆極性となる電荷の移動度の差が大きい程良く、例えば、ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK)分散物,Clを10〜200ppmドープしたa−Se、AsSe等の半導体物質が適当である。電荷輸送層34の厚さは0.2〜2μm程度が適切である。
【0039】
読取用光導電層35としては、読取光LRの照射を受けることにより導電性を呈するものであればよく、例えば、a−Se、Se−Te、Se−As−Te、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン、MgPc(Magnesium phtalocyanine)、VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine)、CuPc(Cupper phtalocyanine)などのうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質が好適である。読取用光導電層35の厚さは5〜20μm程度が適切である。
【0040】
第2の電極層36は、読取光LRを透過させる複数の透明線状電極36aと、読取光LRを遮光する複数の遮光線状電極36bとを有する。透明線状電極36aと遮光線状電極36bとは、X方向に沿って、X線画像検出器20の画像形成領域の一方の端部から他方の端部まで連続して直線状に延びている。透明線状電極36aと遮光線状電極36bとは、Y方向に沿って、所定の間隔を空けて交互に平行に配列されている。
【0041】
透明線状電極36aは、読取光LRを透過させる導電性を有する材料からなる。透明線状電極36aとして、例えば、第1の電極層31と同様に、ITO、IZOやIDIXOを用いることができる。透明線状電極36aの厚さは100〜200nm程度である。
【0042】
遮光線状電極36bは読取光LRを遮光するとともに、導電性を有する材料からなる。例えば、上記の透明導電材料とカラーフィルターを組み合せて用いることができる。透明導電材料の厚さは100〜200nm程度である。
【0043】
X線画像検出器20では、隣接する透明線状電極36aと遮光線状電極36bとの1組により、Y方向の画素サイズDy(以下、主画素サイズDyという)が規定される。
【0044】
さらに、X線画像検出器20は、透明線状電極36aと遮光線状電極36bの延伸方向に直交する方向(Y方向)に延設された線状読取光源38を備えている。線状読取光源38は、LED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)などの光源と光学系とから構成され、線状の読取光LRをガラス基板37に照射する。線状読取光源38は、移動機構(図示せず)によって透明線状電極36a及び遮光線状電極36bの延伸方向(X方向)について移動するものであり、線状読取光源38から発せられた線状の読取光によって電荷が読み出される。線状読取光源38のX方向の幅により、X方向の画素サイズDx(以下、副画素サイズDxという)が規定される。
【0045】
次に、X線画像検出器20の画像検出と読み出しの作用について説明する。まず、図3に示すように高圧電源40によってX線画像検出器20の第1の電極層31に負の電圧を印加した状態において、X線源11から放射され、第1及び第2の格子21,22を通過したX線がG2像として、X線画像検出器20の第1の電極層31側から照射される。
【0046】
X線画像検出器20に入射したX線は、第1の電極層31を透過し、記録用光導電層32に照射される。このX線照射により記録用光導電層32で電荷対が発生し、そのうち正の電荷(正孔)は第1の電極層31に帯電した負の電荷(電子)と結合して消滅し、負の電荷は、図4に示すように、潜像電荷として記録用光導電層32と電荷輸送層34との界面に形成される蓄電部33に蓄積される。
【0047】
次いで、図5に示すように、第1の電極層31が接地された状態において、線状読取光源38から発せられた線状の読取光LRがガラス基板37側から照射される。読取光LRは、ガラス基板37を透過し、さらに透明線状電極36aを透過して読取用光導電層35に照射される。この読取光LRの照射により読取用光導電層35で発生した正の電荷が電荷輸送層34を通過して蓄電部33の潜像電荷と結合するとともに、負の電荷が、透明線状電極36aに接続された積分アンプ41を介して遮光線状電極36bに帯電した正の電荷と結合する。
【0048】
そして、読取用光導電層35で発生した負の電荷と遮光線状電極36bに帯電した正の電荷との結合によって、積分アンプ41に電流iが流れ、この電流iが積分されて画像信号として出力される。
【0049】
この後、線状読取光源38が、X方向に副画素サイズDxを移動ピッチとして、この移動ピッチずつ順次移動しながら上記の電荷読取動作が行われる。これにより、線状の読取光LRの照射された読取ラインごとに画像信号が検出され、検出された読取ラインごとの画像信号が積分アンプ41から順次出力される。
【0050】
積分アンプ41から出力された画像信号は、A/D変換器(図示せず)によるA/D変換と、補正回路(図示せず)による暗電流補正、ゲイン補正、リニアリティ補正等が行われ、デジタル形式の画像データが生成される。この画像データは、メモリ13に入力される。
【0051】
X線画像検出器20は、上記のように光読取方式であり、Y方向の画素の区分は、透明線状電極36a及び遮光線状電極36bにより物理的に規定されるのに対し、X方向の画素の区分は、読取光LRの段階的な走査により規定される。このため、X線画像検出器20におけるMTF(Modulation Transfer Function)の空間周波数に対する特性は、図6に示すように、X方向とY方向とで異なる。同図は、Y方向の鮮鋭度がX方向の鮮鋭度より高いことを示している。
【0052】
図7において、X線源11から照射されるX線は、X線焦点11aを発光点としたコーンビームである。第1の格子21は、X線透過部21bを通過したX線をほぼ幾何光学的に投影するように構成されている。具体的には、X方向に関するX線透過部21bの幅を、X線源11から放射されるX線の実効波長より十分大きな値とし、X線の大部分を回折させずに、直進性を保ったまま通過させることで実現される。例えば、X線源11の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線の実効波長は約0.4Åである。この場合には、X線透過部21bの幅を1〜10μm程度とすればよい。なお、第2の格子22も同様である。
【0053】
第1の格子21により生成されるG1像は、X線焦点11aからの距離に比例して拡大する。第2の格子22の格子ピッチpは、第2の格子22の位置におけるG1像の周期パターンと一致するように設定されている。具体的には、第2の格子22の格子ピッチpは、第1の格子21の格子ピッチをp、X線焦点11aと第1の格子21との間の距離L、第1の格子21と第2の格子22との間の距離Lとした場合、下式(1)をほぼ満たすように設定されている。
【0054】
【数1】

【0055】
X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置すると、G2像が被検体Hにより変調される。この変調量には、被検体HによるX線の屈折角が反映される。
【0056】
次に、位相微分画像の生成方法を説明する。ここで、X,Y,Z方向の座標を、x,y,zとする。図7には、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折するX線の1つの経路が例示されている。符号X1は、被検体Hが存在しない場合にX線が直進する経路を示している。この経路X1を進むX線は、第1及び第2の格子21,22を通過してX線画像検出器20に入射する。符号X2は、被検体Hが存在する場合に、被検体Hにより屈折したX線の経路を示している。この経路X2を進むX線は、第1の格子21を通過した後、第2の格子22のX線吸収部22aにより吸収される。
【0057】
被検体Hの位相シフト分布Φ(x)は、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)として、下式(2)で表される。ここで、説明の簡略化のため、y座標は省略している。
【0058】
【数2】

【0059】
第2の格子22の位置に形成されたG1像は、被検体HでのX線の屈折により、その屈折角φに応じた量だけX方向に変位する。この変位量Δxは、X線の屈折角φが微小であることに基づいて、近似的に下式(3)で表される。
【0060】
【数3】

【0061】
ここで、屈折角φは、X線の波長λと被検体Hの位相シフト分布Φ(x)を用いて、下式(4)で表される。
【0062】
【数4】

【0063】
このように、変位量Δxは、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、変位量Δx及び屈折角φは、X線画像検出器20により検出される各画素の強度変調信号の位相ズレ量ψ(被検体Hがある場合とない場合とでの強度変調信号の位相ズレ量)と、下式(5)に示すように関連している。ここで、強度変調信号とは、第1の格子21と第2の格子22との位置変化に伴う画素値の強度変化を表す波形信号である。
【0064】
【数5】

【0065】
したがって、上式(4)及び(5)により、強度変調信号の位相ズレ量ψが位相シフト分布Φ(x)の微分量に対応することが分かる。この微分量をxについて積分することにより、位相シフト分布Φ(x)、すなわち位相コントラスト画像が生成される。
【0066】
図8において、G1像が第2の格子22に対してZ軸周りに所定角度θだけ傾斜するように、第1の格子21は、第2の格子22に対してZ軸周りに角度θだけ傾斜して配置される。これにより、G2像には、ほぼY方向に下式(6)で表される周期T(以下、モアレ周期Tという)を有するモアレ縞MSが生じる。
【0067】
【数6】

【0068】
第2の格子22の傾斜角θは、モアレ周期Tが主画素サイズDyのほぼ整数倍となるように設定されている。
【0069】
図9において、Y方向に沿って並ぶM個の画素50を1グループGr(x,n)とする。ここで、M,nは、正の整数である。nは、1グループGr(x,n)内の先頭の画素50のy座標を表している。本実施形態では、1グループGr(x,n)内の画素数Mを、1モアレ周期Tに含まれる画素数ν(図8の例では、ν=3)と同一とする。
【0070】
I(x,y)は、座標x,yの画素50の画素値を示している。この画素値I(x,y)は、メモリ13に記憶された画像データから取得される。1グループGr(x,n)内の画素値I(x,n)〜I(x,n+M−1)は、画素50のy座標に応じて第2の格子22によるG1像の強度変調量が異なることにより、図10に示すように、1周期分の強度変調信号を構成している。したがって、1グループGr(x,n)内の画素値I(x,n)〜I(x,n+M−1)は、従来の縞走査法において、第1または第2の格子を格子方向にほぼ垂直な方向(X方向)に、所定量ずつ移動させながら取得した1周期分の強度変調信号に相当する。
【0071】
図11において、画像処理部14は、位相微分画像生成部60、補正画像記憶部61、補正処理部62、及び位相コントラスト画像生成部63を備える。位相微分画像生成部60は、本撮影及びプレ撮影によりメモリ13に記憶された画像データをそれぞれ読み出し、後述する方法によって位相微分画像を生成する。補正画像記憶部61は、プレ撮影時に位相微分画像生成部60により生成された位相微分画像を補正画像として記憶する。補正処理部62は、本撮影時に位相微分画像生成部60により生成された位相微分画像から、補正画像記憶部61に記憶された補正画像を減算することにより、補正済み位相微分画像を生成する。位相コントラスト画像生成部63は、補正済み位相微分画像をX方向に沿って積分処理することにより位相コントラスト画像を生成する。
【0072】
位相微分画像生成部60は、図12に示すように、X方向に並ぶ画素50の各列について、グループGr(x,n)をY方向に1画素ずつ変更しながら(nを1ずつ変更しながら)、各グループGr(x,n)の強度変調信号に基づいて位相微分値を算出する。すべての画素50について位相微分値を算出することにより位相微分画像が得られる。
【0073】
位相微分値は、縞走査法と同様な方法により算出可能である。具体的には、「応用光学 光計測入門 谷田貝豊彦著 丸善株式会社 136〜138頁」に示された位相変調干渉法(フリンジスキャン干渉法)における位相分布の算出法を用いることができる。
【0074】
位相微分画像生成部60は、下記の行列式(7)を演算し、演算結果を次式(8)に適用することにより、位相微分値ψ(x,y)を生成する。
【0075】
【数7】


【数8】

【0076】
ここで、参照位相δ、行列a,A(δ),B(δ)は、それぞれ下式(9)〜(12)で表される。
【0077】
【数9】


【数10】


【数11】


【数12】

【0078】
本実施形態では、前述のようにM=νとしているため、参照位相δは、0から2πの間で等間隔に段階変化する。この場合、行列A(δ)の非対角項が0となり、1以外の対角項が1/2となるため、位相微分値ψ(x,y)は、より簡単な下式(13)を用いて算出可能である。
【0079】
【数13】

【0080】
次に、以上のように構成されたX線撮影装置10の作用を説明する。まず、被検体Hを配置せずに、操作部17aからプレ撮影指示が入力されると、X線源11からX線が放射されるとともに、X線画像検出器20によりG2像の検出が行われ、画像データが生成される。この画像データは、メモリ13に記憶された後、画像処理部14により読み出される。画像処理部14内では、位相微分画像生成部60により画像データに基づいて上記演算が行われ、位相微分画像が生成される。この位相微分画像は、補正画像として補正画像記憶部61に記憶される。プレ撮影は、以上で動作が終了する。
【0081】
この後、被検体HをX線源11と第1の格子21との間に配置して、操作部17aから本撮影指示が入力されると、同様に、X線源11からX線が放射されるとともに、X線画像検出器20によりG2像の検出が行われ、画像データが生成される。この画像データは、メモリ13に記憶された後、画像処理部14により読み出される。画像処理部14内では、位相微分画像生成部60により画像データに基づいて上記演算が行われ、位相微分画像が生成される。
【0082】
この位相微分画像は、補正処理部62に入力される。補正処理部62は、補正画像記憶部61から補正画像を読み出し、位相微分画像生成部60から入力された位相微分画像から補正画像を減算する。これにより、被検体Hの位相情報のみが反映された補正済み位相微分画像が生成される。この補正済み位相微分画像は、位相コントラスト画像生成部63に入力され、X方向に沿って積分処理が施されることにより、位相コントラスト画像が生成される。
【0083】
この位相コントラスト画像及び補正済み位相微分画像は、画像記録部15に記録された後、コンソール17に入力され、モニタ17bに画像表示される。
【0084】
本実施形態では、モアレ縞の周期方向(縞に直交する方向)をX線画像検出器20の鮮鋭度が高い方向(Y方向)に対応させているため、X線画像検出器20で検出されるモアレ縞のコントラストが向上し、強度変調信号が高精度に得られるため、位相微分画像のS/Nが向上する。
【0085】
なお、上記第1の実施形態では、図9に示すように、1グループGr(x,n)内の画素数Mを、1モアレ周期Tに含まれる画素数νと同一としているが、図13に示すように、1グループGr(x,n)内の画素数Mを、1モアレ周期Tに含まれる画素数νのN倍(ここで、Nは2以上の整数)と同一としてもよい。
【0086】
また、図14に示すように、1グループGr(x,n)内の画素数Mは、1モアレ周期Tに含まれる画素数νまたはそのN倍と一致しなくてもよい。この場合、位相微分値ψ(x,y)の算出には、上式(13)を用いることはできないが、行列式(7)を演算した結果を上式(8)に適用することにより算出可能である。
【0087】
さらに、図15に示すように、1グループGr(x,n)内の画素数Mは、1モアレ周期Tに含まれる画素数νより少なくてもよい。この場合も、位相微分値ψ(x,y)の算出には、上式(13)を用いることはできないが、行列式(7)を演算した結果を上式(8)に適用することにより算出可能である。この場合、位相微分値の算出に用いる画素数が少ないため、第1の実施形態の場合よりS/N比は低下するが、解像度は向上する。
【0088】
また、上記第1の実施形態では、図12に示すように、グループGr(x,n)をY方向に1画素ずつ変更しながら位相微分値の算出を行っているが、これに限られず、グループGr(x,n)をY方向に2画素以上の単位で変更しながら位相微分値の算出を行ってもよい。さらには、図16に示すように、グループGr(x,n)を、グループGr(x,n)を構成するM個の画素ずつ変更しながら位相微分値の算出を行ってもよい。この場合には、画素50のサイズがDx=M×Dyの関係を満たすようにX線画像検出器20を構成することが好ましい。
【0089】
また、上記第1の実施形態では、第2の格子22のX線吸収部22aの延伸方向をY方向とし、これに対して第1の格子21のX線吸収部21aの延伸方向を角度θだけ傾斜させているが、逆に、第1の格子21のX線吸収部21aの延伸方向をY方向とし、これに対して第2の格子22のX線吸収部22aの延伸方向を角度θだけ傾斜させてもよい。さらには、Y方向に対して、第1の格子21のX線吸収部21aの延伸方向と、第2の格子22のX線吸収部22aの延伸方向とを逆方向に傾斜させ、両者が角度θをなすようにしてもよい。
【0090】
また、上記第1の実施形態では、X線画像検出器20は、第2の格子22の背後に近接して配置され、第2の格子22により生成されるG2像をほぼ等倍率で検出しているが、X線画像検出器20と第2の格子22との間に間隔を設けてもよい。X線画像検出器20と第2の格子22とのZ方向への間隔をLとすると、下式(14)の倍率Rで拡大されたG2像がX線画像検出器20により検出される。
【0091】
【数14】

【0092】
この場合には、X線画像検出器20により検出されるモアレ縞の周期T’は、上式(6)で表されるモアレ周期TのR倍(すなわちT’=RT)となる。このため、モアレ周期T’に基づいて、同様にグループGr(x,n)の設定を行えばよい。
【0093】
また、上記第1の実施形態では、上式(8)または(13)で表される値、すなわち強度変調信号の位相を表す値を位相微分値としているが、これに定数を乗じたり付加したりしたものを位相微分値としてもよい。
【0094】
また、上記第1の実施形態では、位相微分画像の生成を行っているが、これに加えて、吸収画像や小角散乱画像を生成してもよい。吸収画像は、図10に例示した強度変調信号の平均値を求めることにより生成される。小角散乱画像は、強度変調信号の振幅を求めることにより生成される。
【0095】
また、上記第1の実施形態では、被検体HをX線源11と第1の格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の格子21と第2の格子22との間に配置してもよい。
【0096】
また、上記第1の実施形態では、X線源11から射出されるX線をコーンビームとしているが、これに代えて、平行ビームを射出するX線源を用いることも可能である。この場合には、上式(1)に代えて、p=pの関係をほぼ満たすように第1及び第2の格子21,22を構成すればよい。
【0097】
また、上記第1の実施形態では、光読取方式のX線画像検出器20を用いているが、本発明は、直交する2方向について鮮鋭度が異なるものであれば、TFT等のスイッチング素子を介して電気的に電荷を読み出す方式のX線画像検出器や、イメージングプレートを用いたX線撮影装置に適用することも可能である。
【0098】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。上記第1の実施形態では、第1及び第2の格子21,22の格子面内方向への相対的な傾斜によりG2像にモアレ縞を生じさせているが、第2の実施形態のX線撮影装置では、第1及び第2の格子21,22を傾斜させずに、上式(1)の関係を僅かに崩すように第1及び第2の格子21,22の位置関係(距離L,L)、もしくは第1及び第2の格子21,22の格子ピッチp,pを調整することで、図17に示すように、G2像にモアレ縞を生じさせる。
【0099】
第2の格子22の位置でのG1像のX方向へのパターン周期pは、第2の格子22の格子ピッチpとは僅かにずれており、モアレ縞は、X方向に、下式(15)で表される周期Tを有する。
【数15】

【0100】
このように、本実施形態では、モアレ縞の周期方向がX方向となるため、図18に示すように、透明線状電極36aと遮光線状電極36bの延伸方向がY方向、線状読取光源38がX方向に対応するようにX線画像検出器20を配置する。したがって、X線画像検出器20の鮮鋭度の高い方向がX方向となり、鮮鋭度の低い方向がY方向となる。
【0101】
本実施形態では、位相微分画像生成部60は、図19に示すように、Y方向に並ぶ画素50の各行について、グループGr(n,y)をX方向に1画素ずつ変更しながら(nを1ずつ変更しながら)、各グループGr(n,y)の強度変調信号に基づいて位相微分値ψ(x,y)を算出する。
【0102】
位相微分値ψ(x,y)の算出方法は、第1の実施形態と同様である。具体的には、行列式(7)の演算を行って位相微分値ψ(x,y)を算出する場合には、上式(8)に代えて下式(16)を用い、上式(12)に代えて下式(17)を用いればよい。
【0103】
【数16】


【数17】

【0104】
また、モアレ周期Tが主画素サイズDxのほぼ整数倍となるように設定した場合には、上式(13)に代えて、下式(18)を用いることにより位相微分値ψ(x,y)の算出を行うことができる。
【0105】
【数18】

【0106】
本実施形態においても第1の実施形態と同様に、1グループGr(n,y)内の画素数Mは、1モアレ周期Tに含まれる画素数νまたはそのN倍と一致しなくてもよく、また、1モアレ周期Tに含まれる画素数νより少なくてもよい。さらに、グループGr(n,y)をX方向に2画素以上の単位で変更しながら位相微分値の算出を行ってもよい。その他の構成や作用については、第1の実施形態と同一である。
【0107】
なお、本実施形態においてもX線画像検出器20と第2の格子22との間に間隔Lを設けてもよい。この場合には、上式(15)で表されるモアレ周期Tに、上式(14)で表される倍率Rを乗じたモアレ周期T’に基づいてグループGr(n,y)を設定すればよい。
【0108】
また、上記第1の実施形態で説明した第1及び第2の格子21,22の格子面内方向への相対的な傾斜と、上記第2の実施形態で示した第1及び第2の格子21,22の位置関係や格子ピッチのずれが同時に生じることにより、X方向とY方向とのいずれにも平行でない方向に周期を有するモアレ縞がG2像に生じることがある。この場合には、モアレ縞はX方向及びY方向に成分を有するため、第1の実施形態または第2実施形態のいずれかの方法を用いることにより位相微分画像を生成することが可能である。また、この場合には、X方向とY方向とのいずれにも平行でない斜め方向に並ぶ複数の画素50によりグループを構成し、同様に位相微分画像を生成することも可能である。
【0109】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。上記第1及び第2の実施形態では、X線源11は単一焦点であるが、第3の実施形態では、図20に示すように、X線源11の射出側直後に、WO2006/131235号公報等に記されたマルチスリット(線源格子)23を設ける。マルチスリット23は、第1及び第2の格子21,23と同様に、Y方向に延伸された複数のX線吸収部23a及びX線透過部23bがX方向に交互に配列されたものである。マルチスリット23の格子ピッチpは、下式(19)をほぼ満たすように設定されている。ここで、Lは、マルチスリット23から第1の格子21まで距離である。
【0110】
【数19】

【0111】
このようにマルチスリット23を配置すると、X線源11からの放射線がY方向に分散化され、各X線透過部23bがX線焦点として機能する。各X線透過部23bから放射された放射線は、第1の格子21によりG1像を形成し、第2の格子22の位置で重なり合うことによりG2像を形成する。これより、本実施形態では、G2像の光量が向上し、位相微分画像の算出精度の向上や、撮影時間の短縮が可能となる。
【0112】
その他の構成や作用については、第1または第2の実施形態と同一である。本実施形態では、マルチスリット23の各X線透過部23bがX線焦点として機能するため、上式(1)において距離Lを、距離Lで置き換えればよい。
【0113】
なお、本実施形態においてもX線画像検出器20と第2の格子22との間に間隔Lを設けてもよい。この場合には、上式(6)または上式(15)で表されるモアレ周期Tに、上式(14)で表される倍率Rを乗じたモアレ周期T’に基づいてグループGr(x,n)またはグループGr(n,y)を設定すればよい。なお、マルチスリット23を設けた場合においても、第2の格子22により生成されるG2像は、X線源11のX線焦点11aを原点とし、X線焦点11aからX線画像検出器20までの距離に比例して拡大されるため、G2像の倍率Rについては、上式(14)をそのまま(距離Lを距離Lで置き換えずに)用いればよい。
【0114】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。上記第1〜第3の実施形態では、第1の格子21は、入射X線を回折せずに幾何光学的に投影しているが、第4の実施形態のX線撮影装置では、特開2008−200361号公報等に記されているように、第1の格子21でタルボ効果が生じる構成とする。第1の格子21でタルボ効果を生じさせるためには、X線の空間干渉性を高めるように、小焦点のX線光源を用いるか、または、上記マルチスリット23を用いて小焦点化を行えばよい。
【0115】
第1の格子21でタルボ効果が生じる場合には、第1の格子21の自己像(G1像)は、第1の格子21から下流にタルボ距離Zだけ離れた位置に形成される。このため、本実施形態では、第1の格子21から第2の格子22までの距離Lをタルボ距離Zに設定する必要がある。なお、この場合には、第1の格子21を位相型格子とすることも可能である。その他の構成や作用については、第1〜第3の実施形態のいずれかと同一である。
【0116】
第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(20)で表される。ここで、mは正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、上式(1)をほぼ満たすように設定される(ただし、マルチスリット23を用いる場合には、距離Lは距離Lに置き換えられる)。
【0117】
【数20】

【0118】
また、第1の格子21がπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(21)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、上式(1)をほぼ満たすように設定される(ただし、マルチスリット23を用いる場合には、距離Lは距離Lに置き換えられる)。
【0119】
【数21】

【0120】
また、第1の格子21がπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(22)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、G1像のパターン周期が第1の格子21の格子周期の1/2倍となるため、格子ピッチp,pは、次式(23)をほぼ満たすように設定される(ただし、マルチスリット23を用いる場合には、距離Lは距離Lに置き換えられる)。
【0121】
【数22】


【数23】

【0122】
また、第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(24)で表される。ここで、mは正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、p=pの関係をほぼ満たすように設定される。
【0123】
【数24】

【0124】
また、第1の格子21がπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(25)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、p=pの関係をほぼ満たすように設定される。
【0125】
【数25】

【0126】
そして、第1の格子21がπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(26)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、G1像のパターン周期が第1の格子21の格子周期の1/2倍となるため、格子ピッチp,pは、p=p/2の関係をほぼ満たすように設定される。
【0127】
【数26】

【0128】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。上記第1〜第4の実施形態では、位相微分画像生成部60は、X方向に並ぶ画素50の各列においてグループGr(x,n)を設定し、グループGr(x,n)をY方向にずらしながら縞走査法と同様な方法により位相微分画像を生成しているが、第5の実施形態のX線撮影装置では、WO2010/050483号公報に記載のように、画像データに対して、フーリエ変換、キャリア周波数に対応したスペクトルの分離、フーリエ逆変換の一連の処理を施すことにより位相微分画像を生成する。
【0129】
本実施形態では、第1の実施形態のように、第1及び第2の格子21,22の格子面内方向への相対的な傾斜によりG2像にモアレ縞を生じさせてもよいし、第2の実施形態のように、上式(1)の関係を僅かに崩すように第1及び第2の格子21,22の位置関係(距離L,L)、もしくは第1及び第2の格子21,22の格子ピッチp,pを調整することでG2像にモアレ縞を生じさせてもよい。本実施形態においてもモアレ縞の周期方向をX線画像検出器20の鮮鋭度が高い方向に対応させる。これにより、X線画像検出器20で検出されるモアレ縞のコントラストが向上し、上記一連の処理が高精度に行われるため、位相微分画像のS/Nが向上する。
【0130】
上記各実施形態は、矛盾しない範囲で相互に組み合わせてもよい。本発明は、医療診断用の放射線撮影装置の他に、工業用の放射線撮影装置等に適用することが可能である。また、放射線は、X線以外に、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0131】
10 X線撮影装置
20 X線画像検出器
21 第1の格子
21a X線吸収部
21b X線透過部
22 第2の格子
22a X線吸収部
22b X線透過部
23 マルチスリット
31 第1の電極層
32 記録用光導電層
33 蓄電部
34 電荷輸送層
35 読取用光導電層
36 第2の電極層
36a 透明線状電極
36b 遮光線状電極
37 ガラス基板
38 線状読取光源
50 画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、
前記第1の格子と対向するとともに、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽することによりモアレ縞が生じた第2の周期パターン像を生成する第2の格子と、
直交する2方向で鮮鋭度が異なり、鮮鋭度の高い方向が前記モアレ縞に交わる第1の方向に沿うように配置されるとともに、2次元配列された複数の画素により前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記放射線画像検出器により生成された画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記放射線画像検出器は、前記第1の方向に延設された線状読取光源が、前記第1の方向と直交する第2の方向に走査されることによって画素ごとに電荷が読み取られ、画像データの生成が行われる光読取方式の放射線画像検出器であることを特徴とする請求項1に記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記位相微分画像生成部は、前記第1の方向に並ぶ所定数の画素を1グループとし、このグループを前記第1の方向に所定画素ずつ変更しながら、各グループ内の各画素値からなる強度変調信号の位相を算出することにより位相微分画像を生成することを特徴とする請求項1または2に記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記所定画素は1画素であることを特徴とする請求項3に記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記グループを構成する画素数が、前記モアレ縞の周期の整数倍に相当することを特徴とする請求項3または4に記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記グループを構成する画素数が、前記モアレ縞の1周期に相当することを特徴とする請求項5に記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記グループを構成する画素数が、前記モアレ縞の1周期に相当する画素数より少ないことを特徴とする請求項3または4に記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記位相微分画像生成部は、前記画像データに対して、フーリエ変換、キャリア周波数に対応したスペクトルの分離、フーリエ逆変換を施すことにより位相微分画像を生成することを特徴とする請求項1または2に記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
前記モアレ縞は、前記第2の格子を、第1の格子に対して格子面内方向に相対的に傾斜して配置することにより生成されたものであり、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ直交していることを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項10】
前記モアレ縞は、前記第1及び第2の格子の対向方向の位置関係、または、前記第1及び第2の格子の格子ピッチを調整することにより生成されたものであり、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ平行であることを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項11】
前記モアレ縞は、前記第2の格子を、第1の格子に対して格子面内方向に相対的に傾斜して配置し、かつ、前記第1及び第2の格子の対向方向の位置関係、または、前記第1及び第2の格子の格子ピッチを調整することにより生成されたものであり、前記第1及び第2の格子の格子方向に直交せず、かつ平行でないことを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項12】
前記位相微分画像生成部により生成された位相微分画像を、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ直交する方向に沿って積分処理して位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備えること特徴とする請求項1から11いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項13】
被検体を配置しない状態で前記位相微分画像生成部により生成された位相微分画像を補正画像として記憶する補正画像記憶部と、
被検体を配置した状態で前記位相微分画像生成部により生成された位相微分画像から、前記補正画像記憶部に記憶された補正画像を減算する補正処理部と、
を備えることを特徴とする請求項1から11いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項14】
前記補正処理部によって補正された補正済みの位相微分画像を、前記第1及び第2の格子の格子方向にほぼ直交する方向に沿って積分処理して位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備えること特徴とする請求項13に記載の放射線撮影装置。
【請求項15】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を前記第2の格子に幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項1から14いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項16】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせ前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項1から14いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項17】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備えることを特徴とする請求項1から16いずれか1項に記載の放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−236005(P2012−236005A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264691(P2011−264691)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】