説明

放射線検出器

【課題】 信頼性の高い放射線検出器を提供する。
【解決手段】 X線ラインセンサ1では、低エネルギ範囲のX線を吸収して光を発するシンチレータ層24と、高エネルギ範囲のX線を吸収して光を発するシンチレータ層26とが接触させられており、更に、後側のシンチレータ層26の厚さよりも、前側のシンチレータ層24の厚さが薄くなっている。これらにより、同じ角度で前側から入射した低エネルギ範囲のX線及び高エネルギ範囲のX線に対するシンチレータ層24での発光位置P1とシンチレータ層26での発光位置P2とのずれ量が小さくなるため、このとき、シンチレータ層24が発した光及びシンチレータ層26が発した光は、対向する光検出部16及び光検出部23によって検出されることになる。従って、同時に取得された低エネルギ範囲のX線透過像と高エネルギ範囲のX線透過像とがずれるのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルエナジータイプの放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
デュアルエナジータイプの放射線検出器は、被検査物を透過した低エネルギ範囲の放射線及び高エネルギ範囲の放射線を検出する装置である(例えば、特許文献1参照)。このような放射線検出器によれば、低エネルギ範囲の放射線像及び高エネルギ範囲の放射線像を同時に取得し、それらの放射線像に基づいて、所定の処理(例えば、重み付け減算や重ね合せ等)が施された処理画像を作成することで、ベルトコンベア等で搬送される被検査物の非破壊検査(すなわち、インラインでの非破壊検査)において、異物の検出、成分分布の計測、重量の計測等を高い精度で実現することができる。
【特許文献1】特公平5−68674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、デュアルエナジータイプの放射線検出器に対しては、同時に取得された低エネルギ範囲の放射線像と高エネルギ範囲の放射線像とがずれるのを防止するなど、更なる信頼性の向上が期待されている。
【0004】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、信頼性の高い放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る放射線検出器は、前側から入射した第1のエネルギ範囲の放射線及び第2のエネルギ範囲の放射線を検出する放射線検出器であって、所定の方向に沿って延在し、第1のエネルギ範囲の放射線を光に変換する第1のシンチレータ層と、所定の方向に沿って1次元に配置されて第1のシンチレータ層の前側に固定され、第1のシンチレータ層が変換した光を電気信号に変換する複数の第1の光検出部、及び第1の光検出部が設けられた第1の基板を有する第1の光検出器と、所定の方向に沿って延在して第1のシンチレータ層の後側に接触させられ、第2のエネルギ範囲の放射線を光に変換する第2のシンチレータ層と、所定の方向に沿って1次元に配置されて第2のシンチレータ層の後側に固定され、第2のシンチレータ層が変換した光を電気信号に変換する複数の第2の光検出部、及び第2の光検出部が設けられた第2の基板を有する第2の光検出器と、を備え、第1のシンチレータ層の厚さは、第2のシンチレータ層の厚さよりも薄く、前側から見た場合に、所定の方向と直交する方向において、第1の基板の一方の縁部は、第2の基板の一方の縁部よりも外側に位置しており、第2の基板の他方の縁部は、第1の基板の他方の縁部よりも外側に位置していることを特徴とする。
【0006】
この放射線検出器では、第1のエネルギ範囲の放射線を光に変換する第1のシンチレータ層と、第2のエネルギ範囲の放射線を光に変換する第2のシンチレータ層とが接触させられており、更に、後側に配置された第2のシンチレータ層の厚さよりも、前側に配置された第1のシンチレータ層の厚さが薄くなっている。これらにより、同じ角度で前側から入射した第1のエネルギ範囲の放射線及び第2のエネルギ範囲の放射線に対する第1のシンチレータ層での発光位置と第2のシンチレータ層での発光位置とのずれ量が小さくなる。従って、同時に取得された第1のエネルギ範囲の放射線像と第2のエネルギ範囲の放射線像とがずれるのを防止することができる。しかも、この放射線検出器では、第2の光検出部が設けられた第2の基板の一方の縁部よりも、第1の光検出部が設けられた第1の基板の一方の縁部が外側に位置しており、逆に、第1の基板の他方の縁部よりも、第2の基板の他方の縁部が外側に位置している。このため、第1のシンチレータ層の厚さを薄くすることで第1の基板と第2の基板とが近接しても、第1の基板において第2の基板と重ならない部分及び第2の基板において第1の基板と重ならない部分に回路やコネクタ等を配置して、回路やコネクタ等に放射線が照射されるのを回避することができる。以上により、この放射線検出器によれば、信頼性を向上させることが可能となる。
【0007】
なお、第1のエネルギ範囲の放射線とは、所定の範囲のエネルギを有する放射線を意味し、第2のエネルギ範囲の放射線とは、その所定の範囲と異なる範囲のエネルギを有する放射線を意味する。
【0008】
本発明に係る放射線検出器は、第1の光検出器の前側に配置され、第1のエネルギ範囲の放射線及び第2のエネルギ範囲の放射線を通過させるスリット構造体を備え、スリット構造体は、所定の方向に延在するスリットが形成された第1の板状部材、及び第1の板状部材を後側から支持する第2の板状部材を有し、第2の板状部材には、後側に向かって立設された壁部がスリットの一方の縁部及び他方の縁部に沿って形成されていることが好ましい。この場合、放射線を確実に遮蔽するために鉛のような比較的軟らかい材料を第1の板状部材に用いても、第1の板状部材に形成されたスリットの変形が第2の板状部材によって防止されるため、所定の方向に沿ったライン上に放射線を確実に入射させることができる。
【0009】
本発明に係る放射線検出器においては、前側から見た場合に、所定の方向と直交する方向において、第1のシンチレータ層の幅は、スリットの幅よりも広いことが好ましい。この場合、第1のシンチレータ層の厚さを薄くしても、第1のシンチレータ層の強度が低下するのを抑制することができると共に、第1のエネルギ範囲の放射線を第1のシンチレータ層で確実に光へ変換させることができる。
【0010】
本発明に係る放射線検出器においては、第1の光検出部は、第1の隙間を取りつつ所定の方向に沿って1次元に配置された複数の第1の光検出デバイスのそれぞれに少なくとも2つ形成されることで、所定の方向に沿って1次元に配置され、第1のシンチレータ層は、第1の光検出デバイス及び第1の隙間の後側に配置されており、第2の光検出部は、第2の隙間を取りつつ所定の方向に沿って1次元に配置された複数の第2の光検出デバイスのそれぞれに少なくとも2つ形成されることで、所定の方向に沿って1次元に配置され、第2のシンチレータ層は、第2の光検出デバイスの前側に配置されていることが好ましい。この場合、隣り合う光検出デバイス同士が接触してそれらが破損するのを回避することができる。また、第1の光検出部においては、第1のシンチレータ層は、光検出デバイスの後側だけでなく、第1の隙間の後側にも配置されている。第1のシンチレータ層は所定の方向にわたって一体に形成されていることが好ましく、この場合、光検出デバイス上だけでなく、隣り合う光検出デバイス間の隙間上にもシンチレータ層が配置されているため、所定の方向に沿ったライン上において不感帯が生じるのを防止することができる。
【0011】
本発明に係る放射線検出器においては、第2のシンチレータ層は、所定の方向に沿って1次元に配置された複数のシンチレータ部、及び第2の光検出部が固定される部分を除いてシンチレータ部を覆う反射層を有し、シンチレータ部は、第2のエネルギ範囲の放射線を吸収して光を発し、反射層は、第2のエネルギ範囲の放射線を通過させ、且つ第1のシンチレータ層が発した光及びシンチレータ部が発した光を反射すると共に、前側から見た場合に所定の方向と直交する方向において対向する部分の厚さがその他の部分の厚さよりも厚くなるように形成されていることが好ましい。この場合、隣り合う第2の光検出部間におけるクロストークの発生を防止することができる。更に、高解像度を維持しつつ高エネルギ範囲の放射線を光に変換させるために第2のシンチレータ層のシンチレータ部を柱状にしても、所定の方向と直交する方向において対向する部分の厚さがその他の部分の厚さよりも厚くなるように反射層が形成されているため、シンチレータ部を確実に支持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射線検出器の信頼性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明に係る放射線検出器の一実施形態であるX線ラインセンサが適用された非破壊検査システムの構成図である。図1に示されるように、非破壊検査システム50は、被検査物Sを搬送するベルトコンベア51と、ベルトコンベア51で搬送される被検査物Sに向かってX線を出射するX線源52と、被検査物Sを透過した低エネルギ範囲のX線(第1のエネルギ範囲の放射線)及び高エネルギ範囲のX線(第2のエネルギ範囲の放射線)を検出するデュアルエナジータイプのX線ラインセンサ(一次元センサ)1と、被検査物S、X線源52及びX線ラインセンサ1を覆うX線遮蔽ボックス53と、X線ラインセンサ1と電気的に接続されたコンピュータ54と、を備えている。コンピュータ54は、同時に取得された低エネルギ範囲のX線透過像及び高エネルギ範囲のX線透過像に基づいて、所定の処理(例えば、重み付け減算や重ね合せ等)が施された処理画像を作成する。
【0015】
以下、一次元センサとしてラインセンサを例示するが、これに限定されるものではなく、本発明に係る放射線検出器に適用可能なその他の一次元センサとしては、例えば、TDIセンサ等が挙げられる。
【0016】
このように構成された非破壊検査システム50によれば、食品や電子部品等の被検査物Sに対し、異物の検出を始めとして、成分分布の計測や重量の計測等を高い精度で実現することができる。
【0017】
図2は、図1のX線ラインセンサの断面図であり、図3は、図2のX線ラインセンサの要部拡大図であり、図4は、図3のX線ラインセンサのIV−IV線に沿っての断面図である。図2〜4に示されるように、X線ラインセンサ1は、アルミニウムからなる直方体状の機構体2を備えている。機構体2は、前側(X線源52側)を構成する前段部3及び後側を構成する後段部4を有しており、前段部3には、開口5が設けられている。
【0018】
機構体2の前側には、X線源52から出射されたX線を通過させるスリット構造体6が取り付けられている。スリット構造体6は、所定の方向(前側から見た場合に、被検査物Sの搬送方向と直交する方向)に延在するスリット7aが形成された第1の板状部材7、及び第1の板状部材7を後側から支持する第2の板状部材8を有している。第1の板状部材7は、X線を遮蔽する金属(例えば、鉛)からなり、第2の板状部材8は、第1の板状部材7に用いられる金属よりも硬度が高い金属(例えば、ステンレス鋼)からなる。
【0019】
第2の板状部材8には、スリット7aにおいてその長手方向に延在する一方の縁部及び他方の縁部に沿って、後側に向かって立設された壁部8aが形成されている。壁部8aは、機構体2の前段部3に設けられた開口5内に配置されている。
【0020】
機構体2の前段部3の内面には、第1の光検出器11が取り付けられている。第1の光検出器11は、機構体2の前段部3に固定された矩形板状の第1の基板12、わずかな第1の隙間13を取りつつ所定の方向に沿って1次元に第1の基板12上に配置された複数(例えば、8〜14個)の第1の光検出デバイス14、及び第1の基板12上に配置されて各光検出デバイス14とワイヤボンディングによって電気的に接続されたアンプ回路15等を有している。第1の光検出デバイス14には、X線の入射方向(被検査物Sの搬送方向及び所定の方向と直交する方向)においてスリット7aと対向するように、光電変換素子である第1の光検出部16が所定の方向に沿って1次元に複数(例えば、128個)形成されている。
【0021】
機構体2の後段部4の内面には、第2の光検出器17が取り付けられている。第2の光検出器17は、機構体2の後段部4に固定された矩形板状の第2の基板18、わずかな第2の隙間19を取りつつ所定の方向に沿って1次元に第2の基板18上に配置された複数(例えば、8〜14個)の第2の光検出デバイス21、及び第2の基板18上に配置されて各光検出デバイス21とワイヤボンディングによって電気的に接続されたアンプ回路22等を有している。第2の光検出デバイス21には、X線の入射方向において第1の光検出部16のそれぞれと対向するように、光電変換素子である第2の光検出部23が所定の方向に沿って1次元に複数(例えば、128個)形成されている。
【0022】
なお、第1の光検出器11の構成と第2の光検出器17の構成とは略同一であり、光検出デバイス14,21としては、例えば、CCDやCMOS等のラインセンサが用いられる。そして、前側から見た場合に、所定の方向と直交する方向において、第1の基板12の一方の縁部12aは、第2の基板18の一方の縁部18aよりも外側に位置しており、第2の基板18の他方の縁部18bは、第1の基板12の他方の縁部12bよりも外側に位置している。
【0023】
第1の光検出デバイス14及び第1の隙間13の後側には、所定の方向に沿って延在し、低エネルギ範囲のX線を吸収して光を発する第1のシンチレータ層24が配置されている。第1の光検出デバイス14の第1の光検出部16は、第1の接着剤25によって第1のシンチレータ層24の前側に固定され、第1のシンチレータ層24が発した光を電気信号に変換する。第1の接着剤25は、第1のシンチレータ層24と第1の光検出デバイス14との間だけでなく、第1の隙間13にも充填されていてもよいし、充填されていなくてもよい。
【0024】
第1のシンチレータ層24は、例えば、ガドリニウムによって、スリット7aの長手方向に、厚さが0.1mm程度のテープ状に一体的に形成されている。第1のシンチレータ層24の幅は、前側から見た場合に、所定の方向と直交する方向において、スリット7aの幅よりも広くなっている。
【0025】
第2の光検出デバイス21及び第2の隙間19の前側には、所定の方向に沿って延在し、高エネルギ範囲のX線を吸収して光を発する第2のシンチレータ層26が配置されている。第2の光検出デバイス21の第2の光検出部23は、第2の接着剤27によって第2のシンチレータ層26の後側に固定され、第2のシンチレータ層26が発した光を電気信号に変換する。第2の接着剤27は、第2のシンチレータ層26と第2の光検出デバイス21との間だけでなく、第2の隙間19にも充填されていてもよいし、充填されていなくてもよい。
【0026】
第2のシンチレータ層26は、X線の入射方向において第2の光検出部23のそれぞれと対向するように、所定の方向に沿って1次元に配置された複数のシンチレータ部28、及びX線の入射方向において対向する第2の光検出部23が固定される面を除いてシンチレータ部28を覆う反射層29を有している。シンチレータ部28は、高エネルギ範囲のX線を吸収して光を発するが、高解像度を維持しつつ高エネルギ範囲のX線を確実に吸収させるために、例えば、タングステン酸カドニウムによって、底面が0.4mm×0.4mm、高さが2mm程度の四角柱状に形成されている。反射層29は、例えば、アルミニウム等の金属を蒸着した遮光板をシンチレータ部28に接着することで形成されており、X線を通過させ、且つ第1のシンチレータ層24が発した光及びシンチレータ部28が発した光を反射する。この場合、シンチレータ部28と第2の光検出部23とが固定される面を除くシンチレータ部28のその他の面が反射板で覆われて、反射層29を形成することが好ましい。反射層29では、前側から見た場合に所定の方向と直交する方向において対向する部分29aの厚さがその他の部分の厚さよりも厚くなっている。反射層29は、シンチレータ部28にアルミニウムを蒸着することで形成された反射膜であってもよい。
【0027】
なお、第1のシンチレータ層24と第1の光検出器11との固定に用いられる第1の接着剤25の硬度と、第2のシンチレータ層26と第2の光検出器17との固定に用いられる第2の接着剤27の硬度とでは、第1のシンチレータ層24と第1の光検出器11との間における第1の温度変形量の差、及び第2のシンチレータ層26と第2の光検出器17との間における第2の温度変形量の差のうち、温度変形量の差が大きい方に用いられる接着剤の硬度が温度変形量の差が小さい方に用いられる接着剤の硬度よりも低くなっている。本実施形態では、第1のシンチレータ材料と第2のシンチレータ材料とが異なるため、温度変形量が異なる。ここで、接着剤の硬度としては、例えば、ショア硬さ(JIS Z2246)を適用することができる。また、第1のシンチレータ層24と(、反射層29が設けられた)第2のシンチレータ層26とは、摺動するように接触させられている。第1のシンチレータ層24及び反射層29の界面と、第2のシンチレータ層26及び反射層29の界面との両面を、それぞれ接着剤で固定してもよいし、あるいは、どちらか一方の界面のみを接着固定してもよい。前者の場合、上記と同様に、第1のシンチレータ層24と第1の光検出器11との間における第1の温度変形量の差、及び第2のシンチレータ層26と第2の光検出器17との間における第2の温度変形量の差のうち、温度変形量の差が大きい方に用いられる接着剤の硬度が温度変形量の差が小さい方に用いられる接着剤の硬度よりも低くなっている。温度変形量の相違に応じて、硬度の異なる接着剤を用いることにより、反射層29とシンチレータと界面での剥離や、検出器とシンチレータとの界面での剥離を防止することができる。また後者では、第1のシンチレータ層24と第2のシンチレータ層26とは、反射層29を介して摺動するように接触されるため、温度変形量の差に起因する各界面での剥離を防止することができる。そして、第2のシンチレータ層26の厚さよりも第1のシンチレータ層24の厚さが極めて薄くされるなど、第1のシンチレータ層24の構成と第2のシンチレータ層26の構成とは相違している。
【0028】
第1の光検出器11の第1の基板12上には、電気信号出力用のコネクタ31が接続されている。第1の光検出器11から出力された電気信号は、コネクタ31及びA/D変換・走査変換回路基板33等を介してコンピュータ54に伝送される。同様に、第2の光検出器17の第2の基板18上には、電気信号出力用のコネクタ32が接続されている。第2の光検出器17から出力された電気信号は、コネクタ32及びA/D変換・走査変換回路基板34等を介してコンピュータ54に伝送される。
【0029】
以上のように構成されたX線ラインセンサ1が適用された非破壊検査システム50の動作について説明する。
【0030】
X線源52から出射されて被検査物Sを透過したX線は、スリット7a及び壁部8a,8a間を通過し、第1の光検出器11を透過して第1のシンチレータ層24に入射する。第1のシンチレータ層24に入射したX線のうち低エネルギ範囲のX線は、第1のシンチレータ層24によって吸収され、このとき、第1のシンチレータ層24が発した光は、第1の光検出器11の第1の光検出部16によって電気信号に変換される。この電気信号は、第1の光検出器11のアンプ回路15、コネクタ31及びA/D変換・走査変換回路基板33等を介してコンピュータ54に伝送され、コンピュータ54によって低エネルギ範囲のX線透過像が取得される。
【0031】
第1のシンチレータ層24に入射したX線のうち高エネルギ範囲のX線は、第1のシンチレータ層24及び反射層29を透過して第2のシンチレータ層26のシンチレータ部28によって吸収され、このとき、シンチレータ部28が発した光は、第2の光検出器17の第2の光検出部23によって電気信号に変換される。この電気信号は、第2の光検出器17のアンプ回路22、コネクタ32及びA/D変換・走査変換回路基板34等を介してコンピュータ54に伝送され、コンピュータ54によって高エネルギ範囲のX線透過像が取得される。
【0032】
そして、同時に取得された低エネルギ範囲のX線透過像及び高エネルギ範囲のX線透過像は、コンピュータ54によって所定の処理(例えば、重み付け減算や重ね合せ等)が施されて、被検査物Sの処理画像が作成される。これにより、ベルトコンベア51で搬送される被検査物Sに対して、異物の検出、成分分布の計測、重量の計測等を高い精度で実現することができる。
【0033】
以上説明したように、X線ラインセンサ1では、図4に示されるように、低エネルギ範囲のX線を吸収して光を発する第1のシンチレータ層24と、高エネルギ範囲のX線を吸収して光を発する第2のシンチレータ層26とが接触させられており、更に、後側に配置された第2のシンチレータ層26の厚さよりも、前側に配置された第1のシンチレータ層24の厚さが薄くなっている(隣り合う第1の光検出部16の中心間距離よりも小さくなっている)。これらにより、同じ角度で前側から入射した低エネルギ範囲のX線及び高エネルギ範囲のX線に対する第1のシンチレータ層24での発光位置P1と第2のシンチレータ層26での発光位置P2とのずれ量が小さくなるため、このとき、第1のシンチレータ層24が発した光及び第2のシンチレータ層26が発した光は、X線の入射方向において対向する第1の光検出部16及び第2の光検出部23によって検出されることになる。従って、同時に取得された低エネルギ範囲のX線透過像と高エネルギ範囲のX線透過像とがずれるのを防止することができる。
【0034】
また、X線ラインセンサ1では、図2に示されるように、第2の光検出部23が設けられた第2の基板18の一方の縁部18aよりも、第1の光検出部16が設けられた第1の基板12の一方の縁部12aが外側に位置しており、逆に、第1の基板12の他方の縁部12bよりも、第2の基板18の他方の縁部18bが外側に位置している。このため、第1のシンチレータ層24の厚さを薄くすることで第1の基板12と第2の基板18とが近接しても、第1の基板12において第2の基板18と重ならない部分にアンプ回路15やコネクタ31等を配置すると共に、第2の基板18において第1の基板12と重ならない部分にアンプ回路22やコネクタ32等を配置して、アンプ回路15,22やコネクタ31,32等にX線が照射されるのを回避することができる。
【0035】
また、X線ラインセンサ1では、X線を通過させるスリット構造体6は、所定の方向に延在するスリット7aが形成された第1の板状部材7、及び第1の板状部材7を後側から支持する第2の板状部材8を有しており、第2の板状部材8には、後側に向かって立設された壁部8aがスリット7aの一方の縁部及び他方の縁部に沿って形成されている。これにより、X線を確実に遮蔽するために鉛のような比較的軟らかい材料を第1の板状部材7に用いても、第1の板状部材7に形成されたスリット7aの変形が第2の板状部材8によって防止されるため、所定の方向に沿ったライン上にX線を確実に入射させることができる。なお、壁部8aは、X線に対するスリットとして機能するだけでなく、第2の板状部材8の曲げ強度を向上させるリブとしても機能する。
【0036】
また、X線ラインセンサ1では、前側から見た場合に、所定の方向と直交する方向において、第1のシンチレータ層24の幅は、スリット7aの幅よりも広くなっている。これにより、第1のシンチレータ層24の厚さを薄くしても、第1のシンチレータ層24の強度が低下するのを抑制することができると共に、低エネルギ範囲のX線を第1のシンチレータ層24に確実に吸収させることができる。
【0037】
また、X線ラインセンサ1では、図4に示されるように、第1の光検出部16は、第1の隙間13を取りつつ所定の方向に沿って1次元に配置された複数の第1の光検出デバイス14のそれぞれに少なくとも2つ形成されることで、所定の方向に沿って1次元に配置され、第1のシンチレータ層24は、第1の光検出デバイス14及び第1の隙間13の後側に配置されている。これにより、隣り合う光検出デバイス14,14同士が接触してそれらが破損するのを回避することができると共に、光検出デバイス14上だけでなく、隣り合う光検出デバイス14,14間の隙間13上にもシンチレータ層24が配置されているため、第1の光検出器11において、所定の方向に沿ったライン上で不感帯が生じるのを防止することができる。
【0038】
同様に、第2の光検出部23は、第2の隙間19を取りつつ所定の方向に沿って1次元に配置された複数の第2の光検出デバイス21のそれぞれに少なくとも2つ形成されることで、所定の方向に沿って1次元に配置され、第2のシンチレータ層26は、第2の光検出デバイス21の前側に配置されている。これにより、隣り合う光検出デバイス21,21同士が接触してそれらが破損するのを回避することができる。
【0039】
また、X線ラインセンサ1では、第2のシンチレータ層26は、所定の方向に沿って1次元に配置された複数のシンチレータ部28、及びX線の入射方向において対向する第2の光検出部23が固定される面を除いてシンチレータ部28を覆う反射層29を有している。そして、シンチレータ部28は、高エネルギ範囲のX線を吸収して光を発し、反射層29は、X線を通過させ、且つ第1のシンチレータ層24が発した光及びシンチレータ部28が発した光を反射すると共に、図3,4に示されるように、前側から見た場合に所定の方向と直交する方向において対向する部分29aの厚さがその他の部分の厚さよりも厚くなるように形成されている。これらにより、隣り合う第2の光検出部23,23間におけるクロストークの発生を防止することができる。更に、高解像度を維持しつつ高エネルギ範囲のX線を吸収させるために第2のシンチレータ層26のシンチレータ部28を柱状にしても、所定の方向と直交する方向において対向する部分の厚さ29aがその他の部分の厚さよりも厚くなるように反射層29が形成されているため、シンチレータ部28を確実に支持することができる。なお、第1のシンチレータ層24の厚さは、第2のシンチレータ層26の厚さよりも薄いため、第1の光検出部16毎に区切る遮蔽層を第1のシンチレータ層24に設けなくても、隣り合う第1の光検出部16,16間におけるクロストークの影響は殆どない。
【0040】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、製造コストの低廉化の観点から、第1の光検出器11の構成と第2の光検出器17の構成とが略同一であったが、第1の光検出器11の構成と第2の光検出器17の構成とが相違していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る放射線検出器の一実施形態であるX線ラインセンサが適用された非破壊検査システムの構成図である。
【図2】図1のX線ラインセンサの断面図である。
【図3】図2のX線ラインセンサの要部拡大図である。
【図4】図3のX線ラインセンサのIV−IV線に沿っての断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1…X線ラインセンサ、6…スリット構造体、7…第1の板状部材、7a…スリット、8…第2の板状部材、8a…壁部、11…第1の光検出器、12…第1の基板、12a…第1の基板の一方の縁部、12b…第1の基板の他方の縁部、13…第1の隙間、14…第1の光検出デバイス、16…第1の光検出部、17…第2の光検出器、18…第2の基板、18a…第2の基板の一方の縁部、18b…第2の基板の他方の縁部、19…第2の隙間、21…第2の光検出デバイス、23…第2の光検出部、24…第1のシンチレータ層、26…第2のシンチレータ層、28…シンチレータ部、29…反射層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前側から入射した第1のエネルギ範囲の放射線及び第2のエネルギ範囲の放射線を検出する放射線検出器であって、
所定の方向に沿って延在し、前記第1のエネルギ範囲の放射線を光に変換する第1のシンチレータ層と、
前記所定の方向に沿って1次元に配置されて前記第1のシンチレータ層の前側に固定され、前記第1のシンチレータ層が変換した光を電気信号に変換する複数の第1の光検出部、及び前記第1の光検出部が設けられた第1の基板を有する第1の光検出器と、
前記所定の方向に沿って延在して前記第1のシンチレータ層の後側に接触させられ、前記第2のエネルギ範囲の放射線を光に変換する第2のシンチレータ層と、
前記所定の方向に沿って1次元に配置されて前記第2のシンチレータ層の後側に固定され、前記第2のシンチレータ層が変換した電気信号に変換する複数の第2の光検出部、及び前記第2の光検出部が設けられた第2の基板を有する第2の光検出器と、を備え、
前記第1のシンチレータ層の厚さは、前記第2のシンチレータ層の厚さよりも薄く、
前側から見た場合に、前記所定の方向と直交する方向において、前記第1の基板の一方の縁部は、前記第2の基板の一方の縁部よりも外側に位置しており、前記第2の基板の他方の縁部は、前記第1の基板の他方の縁部よりも外側に位置していることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記第1の光検出器の前側に配置され、前記第1のエネルギ範囲の放射線及び前記第2のエネルギ範囲の放射線を通過させるスリット構造体を備え、
前記スリット構造体は、前記所定の方向に延在するスリットが形成された第1の板状部材、及び前記第1の板状部材を後側から支持する第2の板状部材を有し、
前記第2の板状部材には、後側に向かって立設された壁部が前記スリットの一方の縁部及び他方の縁部に沿って形成されていることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前側から見た場合に、前記所定の方向と直交する方向において、前記第1のシンチレータ層の幅は、前記スリットの幅よりも広いことを特徴とする請求項2記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記第1の光検出部は、第1の隙間を取りつつ前記所定の方向に沿って1次元に配置された複数の第1の光検出デバイスのそれぞれに少なくとも2つ形成されることで、前記所定の方向に沿って1次元に配置され、
前記第1のシンチレータ層は、前記第1の光検出デバイス及び前記第1の隙間の後側に配置されており、
前記第2の光検出部は、第2の隙間を取りつつ前記所定の方向に沿って1次元に配置された複数の第2の光検出デバイスのそれぞれに少なくとも2つ形成されることで、前記所定の方向に沿って1次元に配置され、
前記第2のシンチレータ層は、前記第2の光検出デバイスの前側に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記第2のシンチレータ層は、前記所定の方向に沿って1次元に配置された複数のシンチレータ部、及び前記第2の光検出部が固定される部分を除いて前記シンチレータ部を覆う反射層を有し、
前記シンチレータ部は、前記第2のエネルギ範囲の放射線を光に変換し、
前記反射層は、前記第2のエネルギ範囲の放射線を通過させ、且つ前記第1のシンチレータ層が変換した光及び前記シンチレータ部が変換した光を反射すると共に、前側から見た場合に前記所定の方向と直交する方向において対向する部分の厚さがその他の部分の厚さよりも厚くなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−85844(P2009−85844A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257960(P2007−257960)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】