説明

放射線検査装置

【課題】試料の上下方向の搬送振れを減少させることで、放射線源とシート状試料の間隔を一定に保ちながら厚さ測定、欠陥検査をし、一定の透過線量を試料に透過する検査装置を提供する。
【解決手段】搬送手段によって搬送されるシート状試料と、該シート状試料を挟んで対向して配置され、前記シート状試料の物理的特性を測定する放射線源およびラインセンサと、該ラインセンサの少なくとも一方の側面に近接して配置され、前記シート状試料の張力によって発生する上下方向の搬送振れを軽減し、エアーベアリングとして機能するための気体噴出手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線(例えばX線,ベータ線、ガンマ線等)検査装置に関し、特に材料ロールからシート状試料(以下、単に試料という)を引き出し、機能を付加する生産工程(塗布、エッジング、表面改質処理、コーティング、乾燥など)に用いて好適な放射線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に薄膜シートや電池の電極シートのような高機能シートの膜厚測定を行う場合、完成品の膜厚測定をし、必要に応じて良品、不良品の区別がなされて完成品ロールに巻き取られる。また、材料投入直後や、付加価値生産工程毎に必要に応じて膜厚検査を行うこともある。
【0003】
試料の搬送高さの位置(以下パスラインと称す)を一定に保つことで、線源と試料の間隔を一定に保ちながら厚さ測定、欠陥検査をし、一定の透過線量を試料に透過する検査装置として図9(a,b)に示すものが知られている。図9(a)は斜視図、図9(b)は断面構成図である。
【0004】
図9(a,b)において、材料ロール2に巻き回された表面改質処理を行うべき試料1は塗布装置3による塗装工程、乾燥装置4による乾燥工程を経て搬送ローラ(b図参照)7により搬送され巻き取りロール2aに巻き取られる。
【0005】
図示の例では乾燥装置4の後段の上空に放射線(例えばX線)源5が配置され、この放射線源5から放射された放射線は試料1を透過した後、試料1の幅と略同一幅に形成されたシンチレータ付のX線ラインセンサ(以下、単にラインセンサという)6に入射する。ラインセンサ6では試料1の全幅にわたって厚さや欠陥などの検査が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−311079
【特許文献2】特開平11−349179
【特許文献3】特開2004−284751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図9(a,b)に示すように、放射線源5は点源からの放射であり、放散して試料1を透過し、その下のラインセンサ6にて検出される。このため、試料1が放射線源6より近いところを透過すれば(図9a,bで示す点線U)、単位面積当たりに照射される線量は多くなるし、遠いところを透過すれば(図9a,bで示す点線D)線量は少なくなる。
【0008】
図9(a,b)に示す構成では、試料1と搬送ローラ7の間隔が広かった場合、試料1の搬送張力により試料1が上下することが考えられ、厚さの測定においてはこの試料1の動きにより精度が悪くなるという課題があった。
【0009】
ここで、試料1と線源5の距離を400mm、試料幅(=シート幅)を400mmとし、試料1が上に5mm、下に5mmの範囲で搬送されていたとすれば、試料1が安定して搬送される定位置の照射角(全角)は53.13度、試料が上に在る時の照射角(全角)は、53.71度、下に在る時の照射角(全角)は、52.56度となる。
【0010】
角度の比が照射線量比であるため、上に在る時は+1.1%、下に在る時は−1.1%となる。厚さ測定では、相対的なコントラストでの判定とは異なり、X線の透過率を厚さに換算するため、このプラスマイナス1.1%の誤差を含んだ測定精度となる。
【0011】
また、試料1が振れながら搬送される状況であるため、試料1に対してラインセンサ6を離して設置しなければならず、大気吸収が問題となる低エネルギー域の放射線では、測定感度が悪くなるという課題があった。一般的にラインセンサ6を近くした方が、温度、湿度、気圧の影響を軽減できる。
【0012】
従って本発明は、試料の上下方向の搬送振れを減少させることで、放射線源5と試料1の間隔を一定に保ちながら厚さ測定、欠陥検査をし、一定の透過線量を試料に透過する検査装置を提供し、高精度な膜厚測定、欠陥測定を可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の放射線検査装置の発明は、
搬送手段によって搬送されるシート状試料と、該シート状試料を挟んで対向して配置され、前記シート状試料の物理的特性を測定する放射線源およびラインセンサと、該ラインセンサの少なくとも一方の側面に近接して配置され、前記シート状試料の張力によって発生する上下方向の搬送振れを軽減し、エアーベアリングとして機能するための気体噴出手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2においては、請求項1記載の放射線検査装置において、
前記気体噴出手段は、気体を噴射する複数のノズルまたは孔が前記シート状試料の幅方向に複数列並べられたことを特徴とする。
【0015】
請求項3においては、請求項1または2記載の放射線検査装置において、
前記気体噴出手段は、気体の噴出口に庇状の流体ガイドを形成したことを特徴とする。
【0016】
請求項4においては、請求項1乃至3記載の放射線検査装置において、
前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔に沿って前記シート状試料が前記ラインセンサに接触しない程度の圧力の複数の吸着手段を設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項5においては、請求項1乃至4記載の放射線検査装置において、
前記ラインセンサを前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔より僅かに低く設置したことを特徴とする。
【0018】
請求項6においては、請求項1乃至5記載の放射線検査装置において、
前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔からの気体の噴出方向は、上流側はシート状の試料の流れに対して抗力が発生するように傾斜させて設置し、下流側は推力が発生するように上流側のそれとは反対方向に傾斜させて設置したことを特徴とする。
【0019】
請求項7においては、請求項1乃至6記載の放射線検査装置において、
シート状試料の上下の変位量を測定する変位計を設け、該変位計の測定値を基に前記シート状試料の上下方向の搬送振れを軽減するために、前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔からの気体の噴出量を制御可能に構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1〜7によれば、
1.試料の張力により変わってしまう試料と線源の距離が常に一定に保たれ、距離変動による透過線量変動の無い高精度測定が可能である。
2.低張力で、駆動ローラのスパンが長い試料搬送においても、試料の振れ幅を抑えることができる。
3.生産ラインの張力コントロールの精度に因らず安定した測定が可能である。
【0021】
4.X線ラインセンサと試料の間隔を狭くすることが可能となり、大気吸収や温度、湿度、気圧変化の影響を軽減して測定感度を向上させることができる。
5.X線ラインセンサの検出部は、エアーパージを行ってゴミの付着、堆積を防いでいるが、気体噴出手段が隣接しているため、専用のエアーパージを行う必要が無い。
6.X線ラインセンサ、気体噴出手段ともに市販の製品がありシステム構成が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す断面構成図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す断面構成図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す断面構成図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す断面構成図である。
【図5】本発明の他の実施例を示すブロック構成図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す要部斜視図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す要部斜視図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す要部斜視図である。
【図9】従来例を示す斜視図(a)および断面構成図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す断面構成図である。なお、図9と同一要素には同一符号を付している。
図1において、放射線(X線)源5に対し測定用ラインセンサ6が正対して設置してあり、試料1はX線源5から離れた位置で且つ、ラインセンサ6の近傍に置かれる。この試料を放射線に対してほぼ直角方向(図では水平)に移動してラインセンサ6で検出すれば試料の測定(検査)が可能である。
【0024】
図1ではX線源と正対した位置にシンチレータ付きのX線ラインセンサ6が設置されており、X線ラインセンサ6の比較的近傍上空を試料が右から左へ流れている。X線ラインセンサ6の両脇には、気体(空気)噴射手段8が近接して置かれており、X線ラインセンサ6の上面は、気体噴射手段8の上面より僅かに下がった位置に配置されている。気体噴射手段8は、試料幅よりも広くX線ラインセンサ6の幅(長手方向に)と同等程度に設置されており、X線ラインセンサ6の幅に沿って矢印イで示す多数の空気噴出孔や噴出ノズルが設けられている。
【0025】
気体噴射手段8は、試料1の下方に設置され、チャンバ構造体に設けた微細の噴射ノズル又は微細孔(図示省略)で構成されており、そこから上方(試料)に向けて気体が噴出している。この場合は、試料を吹き上げるような噴出量ではなく、接触しないで搬送が可能なエアーベアリング程度の噴出量および流速であって、試料の自重を支えるものである。
なお、試料送り速度は生産ラインの搬送ローラ7により制御される。
【0026】
試料は比較的軽く薄いシートであるため、噴出孔イが大きくまばらであると、部分的に持ち上げられ、皺がよってしまうため、極力細かで微小ピッチとされている。
また、気体の噴出量はベルヌーイの定理によってシート状の試料1を非接触状態を維持しながら吸着するのに適した噴出量と噴出口を持つ噴出口のみによる構造が望ましい。
【0027】
図1に示す気体噴出手段では矢印イで示す噴出孔のほかに矢印ロで示す吸引孔を設け、これら噴出孔からの風圧と吸引孔の吸引力を図示しない制御手段により制御することにより試料1を理想的な位置に維持している。このような構成によれば単に気体を噴出させる場合に比較してX線ラインセンサ6の上部と試料1をA’で示す狭い間隙で維持することができ、B’で示すように試料の触れ幅をほぼ0にすることができる。
【0028】
図2は他の実施例を示すもので、X線ラインセンサ6と気体噴射手段8を一体に構成したものである。それぞれの機能は図1に示すものと同様である。
図2に示す構成によれば、X線ラインセンサ6と気体噴射手段8の位置調整などが不要になるとともに小型化が可能になる。X線ラインセンサ6と気体噴射手段8を一体にした場合、個別の噴射ノズル9をライン状に設置したり、あるいはスリット(図示省略)をエアカーテンの様にして試料1側に噴出しても良い。その場合、単なるスリットではなく、先端で絞って流速を上げれば、エアー噴出量を節約可能である。
【0029】
図3は他の実施例を示すもので、試料1の上側にも気体噴射手段8を設けた構成を示すものである。即ち、X線ラインセンサ6の上流と下流側にそれぞれ試料を挟んで対向する位置に気体噴射手段8を設ける。そして、試料に対しては垂直に噴出させる。この場合も、噴射ノズルはライン状に並べたものであっても良いし、スリット上の開口部を設けたもの、微細孔をライン状に並べたものであっても良い。
【0030】
但し、この場合は噴射ノズル(孔)の対向位置をモーメントが発生しないように正確に対向させる必要がある。噴出ノズル(孔)の位置決めをしてもモーメントが発生する場合は気体噴出の状態を加味してバランス調整を行う。
このように上下から噴出することで、更に試料の張力変動の影響を受け難くなる。
【0031】
図4は他の実施例を示すもので、この実施例では、気体の噴出方向が垂直ではなく傾斜させている。即ち、上流側(前部)の気体噴射手段8aの噴出方向は試料の搬送方向に対して抗力(ブレーキ)が働く様に右側を向いて配置する。一方、下流側(後部)の気体噴射手段8bの噴出方向は試料1の搬送方向に対して推力(加速)が働くように左側を向いて配置する。
【0032】
この抗力および推力はいずれも、生産ラインの駆動に影響を与えるような強力な力ではない。しかし、X線ラインセンサ6上の試料1においては前後に若干張力が発生することになるため、皺のより難い搬送が可能になる。
【0033】
図4に示すように上流側の気体噴射手段8cの噴出方向は垂直方向に噴出しても良いし、下流側の気体噴射手段8b側の噴出方向を垂直方向に噴出させ、上流側(前部)の気体噴射手段8aの噴出方向を試料の搬送方向に対して抗力(ブレーキ)が働く様に右側を向いて配置しても良い。また、シートの幅方向(シート搬送方向とは直交する方向)に張力をかけるベクトルが存在するようにしても良い。
【0034】
図5は他の実施例を示すもので、この例ではX線ラインセンサ6の近傍にレーザ式やキャパシタンス式に代表される変位計(距離計、測長計を含む)10を設置し、噴出ガスの流量又は圧力をフィードバック制御することで試料1とX線ラインセンサ6の間隔を最適に制御するものである。この変位計は気体墳出手段8dに内蔵しても良いし、気体墳出手段8の近傍に併設しても良い。
【0035】
図5において、変位計10の出力はそれぞれ計測センサ11で計測され、その計測値が制御器12に送られる。そして制御器12において試料1とラインセンサ6の距離が予め定めた最適な間隔になるように弁開度が演算されて制御弁13a,13bに指令される。
【0036】
図6は他の実施例を示すもので、この例ではX線ラインセンサ6と試料1の間に流れる気体のコアンダ効果を高める庇状の流体ガイド14を設けたものである。流体ガイド14に沿ってスリット15から噴出する気体の流れの向きが変わるコアンダ効果により試料1とラインセンサ6の距離を安定化させることができる。
【0037】
図7は他の実施例を示すもので、この例では気体噴出手段8を複数(図では3分割、8e,8f,8g)分割したものである。それぞれの気体噴出手段には空気配管16(a,b,c)を介して制御器12aに含まれる制御弁13(a,b,c)が設けられ、この制御弁をそれぞれ個別に調節することにより加圧空気が加えられる。
【0038】
このような構成によれば、試料の幅の広さに応じて気体噴出手段の流量や気体噴出手段の数を選択することができるので、空気噴出のためのコスト削減を図ることが可能となる。
【0039】
図8は他の実施例を示すもので、この例ではX線ラインセンサ6をX線源5から試料に照射されるX線の強さが均等になるように円弧状に形成すると共にその円弧に合せて空気噴出手段8hを形成したものである。
このような構成によればX線源5から試料に照射するX線の強さを均等にすることができ、X線ラインセンサ6がフラットな場合に必要なX線の強さの補正をする必要がない。
【0040】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。実施例では放射線源としてX線を使用したが例えばβ線、ガンマ線等であっても良い。また、気体噴出手段から噴出する気体はドライエアーとし、微細ゴミやオイルミスト、過剰な水分などをろ過する専用のフィルタを備えたものであってもよく、隣接して設置する気体噴出手段は、その配置を試料の下側によらず、上側を含む隣接位置とし、噴出ガスの流速によって生じる負圧でシートを吸着するようにしてもよい。
また、図2〜図8では言及していないが、これらの実施例においてもX線ラインセンサの上面は、気体噴射手段の上面より僅かに下がった位置に配置するようにしてもよい。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0041】
1 シート状試料
2 材料ロール
2a 巻き取りロール
3 塗布装置
4 乾燥装置
5 放射線(X線)源
6 X線ラインセンサ
7 搬送ローラ
8 気体噴出手段
9 噴出ノズル
10 変位計
11 計測手段
12 制御器
13 制御弁
14 ひさし状の流体ガイド
15 スリット
16 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送手段によって搬送されるシート状試料と、該シート状試料を挟んで対向して配置され、前記シート状試料の物理的特性を測定する放射線源およびラインセンサと、該ラインセンサの少なくとも一方の側面に近接して配置され、前記シート状試料の張力によって発生する上下方向の搬送振れを軽減し、エアーベアリングとして機能するための気体噴出手段を備えたことを特徴とする放射線検査装置。
【請求項2】
前記気体噴出手段は、気体を噴射する複数のノズルまたは孔が前記シート状試料の幅方向に複数列並べられたことを特徴とする請求項1記載の放射線検査装置。
【請求項3】
前記気体噴出手段は、気体の噴出口に庇状の流体ガイドを形成したことを特徴とする請求項1または2記載の放射線検査装置。
【請求項4】
前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔に沿って前記シート状試料が前記ラインセンサに接触しない程度の圧力の複数の吸着手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至3記載の放射線検査装置。
【請求項5】
前記ラインセンサを前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔より僅かに低く設置したことを特徴とする請求項1乃至4記載の放射線検査装置。
【請求項6】
前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔からの気体の噴出方向は、上流側はシート状の試料の流れに対して抗力が発生するように傾斜させて設置し、下流側は推力が発生するように上流側のそれとは反対方向に傾斜させて設置したことを特徴とする請求項1乃至5記載の放射線検査装置。
【請求項7】
シート状試料の上下方向の搬送振れを測定する変位計を設け、該変位計の測定値を基に前記シート状試料の上下方向の搬送振れを軽減するために、前記気体噴出手段の噴出ノズルまたは噴射孔からの気体の噴出量を制御可能に構成したことを特徴とする請求項1乃至6記載の放射線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−69641(P2011−69641A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218975(P2009−218975)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】