説明

放射線測定装置

【課題】素子のリーク電流に伴う誤差を補正する改良技術を提供する。
【解決手段】電離箱10は、放射線を検出して電離電流を発生する。エレクトロメータ回路20は、電離電流を測定するためのオペアンプOP1を備えている。オペアンプOP1の出力端子T1には、電離電流とリーク電流が抵抗R1を流れることによって発生する電位が表れる。リーク電流測定回路30は、オペアンプOP1の特性と同等な特性のオペアンプOP2を備えている。オペアンプOP2の出力端子T2には、リーク電流が抵抗R1を流れることによって発生する電位が表れる。リーク電流補償回路40は、減算回路として機能し、オペアンプOP3の出力端子TOには、出力端子T1と出力端子T2の電位差が表れる。こうして、エレクトロメータ回路20の出力に含まれるリーク電流の成分が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線測定装置に関し、特に、放射線測定装置の測定精度を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線測定装置は、放射線の検出に伴って発生する微弱な検出信号を測定している。放射線の測定手法として、電離箱に放射線が入射することによって発生する微弱な電離電流を測定する手法や、放射線を受けたシンチレータから出る光を測定する手法などが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3には、電離電流を介して放射線を測定する技術が記載されている。電離電流は微弱な電流であるため、電離電流を高い精度で測定することは容易ではない。特許文献1〜3には、微弱な電離電流の測定精度を高める技術が記載されている。
【0004】
特許文献1には、トランジスタの温度変化に伴う測定誤差を補償する旨の技術が記載されている。また、特許文献2には、電離箱放射線検出器の電極とグランド間のリーク電流を補正する旨の技術が記載されている。そして、特許文献3には、各チャンネルのオフセット電流を記憶しておき、記憶しておいた情報を利用して補正を行う旨の技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平1−113689号公報
【特許文献2】特開昭61−225683号公報
【特許文献3】特開昭59−20865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような背景において、本願発明者は、放射線を検出することによって得られる検出電流を高い精度で測定する技術について、特に、検出電流を測定するための素子のリーク電流に伴う誤差成分を補正する技術について研究開発を重ねてきた。
【0007】
ちなみに、特許文献2には、リーク電流に関する技術が記載されているものの、そのリーク電流は、電離箱の電極とグランド間に発生するものであり、検出電流を測定するための素子に発生するものではない。また、特許文献3に記載された技術では、記憶しておいた情報を利用して補正を行うため、例えば、電流の変化等に応じてリアルタイムに補正を行うことができない。
【0008】
本発明は、このような状況において成されたものであり、その目的は、検出電流を測定するための素子のリーク電流に伴う誤差を補正する改良技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である放射線測定装置は、放射線を検出して検出電流を発生する放射線検出部と、検出電流を測定するための検出電流用素子を備え、検出電流用素子を利用して検出電流を測定することにより測定信号を得る検出電流測定回路と、検出電流用素子の特性と同等な特性のリーク電流用素子を備え、リーク電流用素子のリーク電流を測定することにより、検出電流用素子のリーク電流に対応した校正信号を得るリーク電流測定回路と、検出電流測定回路から出力される測定信号とリーク電流測定回路から出力される校正信号とを比較処理することにより、測定信号に含まれるリーク電流の成分を除去するリーク電流補償回路を有することを特徴とする。
【0010】
望ましい態様において、前記検出電流用素子と前記リーク電流用素子は、互いに同一の集積回路用パッケージ内に実装される半導体素子であることを特徴とする。
【0011】
望ましい態様において、前記検出電流測定回路は、放射線のバックグランドレベルの測定に対応したバックグランド測定用抵抗を備え、前記測定信号として、検出電流を含んだ電流がバックグランド測定用抵抗を流れることによって発生する電圧信号を出力し、前記リーク電流測定回路は、バックグランド測定用抵抗と同じ抵抗値のリーク電流測定用抵抗を備え、前記校正信号として、リーク電流用素子のリーク電流がリーク電流測定用抵抗を流れることによって発生する電圧信号を出力し、前記リーク電流補償回路は、測定信号の電圧信号と校正信号の電圧信号との間の電圧差を出力することを特徴とする。
【0012】
望ましい態様において、前記検出電流測定回路は、放射線の測定感度を切り替えるための感度変更用抵抗を備え、バックグランド測定用抵抗に対して感度変更用抵抗が並列接続されて合成抵抗値を変化させることにより測定感度が切り替えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、検出電流を測定するための素子のリーク電流に伴う誤差を補正する改良技術が提供される。例えば、本発明の好適な態様により、検出電流用素子の特性と同等な特性のリーク電流用素子のリーク電流から校正信号を得て、測定信号に含まれるリーク電流の成分を除去することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1には、本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態が示されており、図1はその主要部分の回路構成図である。本実施形態の放射線測定装置は、例えば、サーベイメータ、モニタリングポスト、エリアモニタなどである。
【0016】
電離箱10は、入射する放射線を検出して電離電流を出力する。電離箱10には、電源Vによって、例えばマイナス数百〜マイナス数千ボルトのバイアスが印加される。電離箱10内に放射線が入射すると電離箱10内のガスが電離し、電離の結果発生する帯電体(例えば電子)が集電極に引き寄せられる。こうして、集電極に集められた電離電流(IR)が電離箱10から出力される。ちなみに、電離箱10は、バイアスの極性を変えて、電離の結果発生する帯電体として正電荷を集電極に引き寄せるタイプのものでもよい。
【0017】
なお、電離箱10に接続された電源Vのマイナス側は、図1内において共通の基準電位端子(例えば、グランドやマイナス側の基準電位端子)に接続される。
【0018】
エレクトロメータ回路20は、電離箱10から出力される電離電流を計測する回路である。エレクトロメータ回路20は、オペアンプOP1、抵抗R1〜R3、リレーK2,K3を備えている。
【0019】
エレクトロメータ回路20の抵抗R1〜R3は、各々、オペアンプOP1に対して並列接続されている。つまり、抵抗R1〜R3は、各々、オペアンプOP1の反転入力端子(−端子)と出力端子(端子T1)の間に設けられている。なお、抵抗R2に対してリレーK2が直列接続されており、抵抗R3に対してリレーK3が直列接続されている。また、オペアンプOP1の非反転入力端子(+端子)は、図1内において共通の基準電位端子に接続される。
【0020】
リーク電流測定回路30は、オペアンプOP2と抵抗R1とリレーK1を備えており、オペアンプOP2のリーク電流を測定することにより、オペアンプOP1のリーク電流に対応したリーク電流成分を測定する回路である。オペアンプOP2の非反転入力端子(+端子)は、図1内において共通の基準電位端子に接続される。また、抵抗R1は、オペアンプOP2に対して並列接続される。つまり、抵抗R1は、オペアンプOP2の反転入力端子(−端子)と出力端子(端子T2)の間に設けられる。また、リレーK1は、オペアンプOP2の出力端子に直列接続される。
【0021】
リーク電流補償回路40は、エレクトロメータ回路20で計測された測定結果から、リーク電流測定回路30で測定されたリーク電流成分を減算する回路である。リーク電流補償回路40は、オペアンプOP3と4つの抵抗R4を備えている。
【0022】
オペアンプOP3の反転入力端子(−端子)は、1つの抵抗R4とリレーK1を介して、リーク電流測定回路30のオペアンプOP2の出力端子(端子T2)に接続される。一方、オペアンプOP3の非反転入力端子(+端子)は、1つの抵抗R4を介して、エレクトロメータ回路20のオペアンプOP1の出力端子(端子T1)に接続される。
【0023】
また、オペアンプOP3に対して1つの抵抗R4が並列接続されている。つまり、オペアンプOP3の反転入力端子(−端子)と出力端子(端子TO)の間に抵抗R4が設けられている。さらに、オペアンプOP3の非反転入力端子(+端子)は、1つの抵抗R4を介して、図1内において共通の基準電位端子に接続される。
【0024】
次に、図1に示す回路の動作について説明する。放射線のバックグランドレベルを測定する高感度測定の場合、図示しない制御部などによる制御に応じて、リレーK1が接続状態とされ、リレーK2とリレーK3が開放状態(非接続状態)とされる。つまり、リレーK1が接続状態とされることにより、リーク電流測定回路30とリーク電流補償回路40が電気的に接続され、また、リレーK2とリレーK3が開放状態とされることにより、抵抗R2と抵抗R3がオペアンプOP1から電気的に切り離される。
【0025】
高感度測定の場合、リレーK2とリレーK3が開放状態とされているため、電離箱10から出力される電離電流IRは、抵抗R1へ流れ込む。抵抗R1の抵抗値R1は、例えば、数テラオーム程度であり、また、バックグランドレベルにおいて、電離電流IRは、例えば、10-14アンペア程度のものとなる。抵抗R1には、オペアンプOP1において発生するリーク電流ILも流れ込んでしまう。リーク電流ILは、例えば、電離電流IRの数十パーセント程度の大きさである。その結果、オペアンプOP1の出力端子の電位はリーク電流の成分を含んだ電位となる。つまり、端子T1の電位ERLは次式のようになる。
【0026】
RL=(IR+IL)×R1 ・・・ (1)
【0027】
また、高感度測定の場合、リレーK1が接続状態とされているため、リーク電流測定回路30とリーク電流補償回路40が電気的に接続される。リーク電流測定回路30のオペアンプOP2は、エレクトロメータ回路20のオペアンプOP1と同等な特性のオペアンプである。例えば、オペアンプOP1とオペアンプOP2は、互いに同一の半導体基板上に形成され、そして、互いに同一のIC(集積回路)パッケージ内に実装される。
【0028】
オペアンプOP2とオペアンプOP1の特性が揃えられているため、オペアンプOP2のリーク電流とオペアンプOP1のリーク電流は、互いに等しい電流値となり、オペアンプOP2からリーク電流ILが発生する。なお、オペアンプOP2のリーク電流とオペアンプOP1のリーク電流は、互いに完全に等しい電流値となることが望ましいものの、実質的に等しいとみなせる程度であっても効果が十分期待できる。
【0029】
オペアンプOP2において発生するリーク電流ILは抵抗R1に流れ込み、その結果、オペアンプOP2の出力端子の電位、つまり端子T2の電位ELは、次式のようになる。なお、オペアンプOP2に並列接続される抵抗R1の抵抗値R1は、オペアンプOP1に並列接続される抵抗R1の抵抗値と同じ値であり、例えば、数テラオーム程度である。
【0030】
L=IL×R1 ・・・ (2)
【0031】
そして、高感度測定の場合、リーク電流補償回路40によって、エレクトロメータ回路20の端子T1の電位ERLとリーク電流測定回路30の端子T2の電位ELの電位差が算出される。つまり、リーク電流補償回路40の4つの抵抗R4が、全て同一の抵抗値に揃えられており、そのため、リーク電流補償回路40が、減算回路として機能する。なお、抵抗R4の抵抗値は、例えば、数十キロオーム程度である。
【0032】
リーク電流補償回路40が減算回路として機能するため、オペアンプOP3の出力端子の電位、つまり端子TOの電位EOUTは、次式のようになる。
【0033】
OUT=ERL−EL=IR×R1 ・・・ (3)
【0034】
(3)式に示す端子TOの電位EOUTには、(1)式に示す端子T1の電位ERLに含まれていたリーク電流ILに伴う電位成分が含まれていない。つまり、リーク電流補償回路40によって、リーク電流の成分が除去され、極めて高い精度で放射線の測定を行うことが可能になる。
【0035】
放射線のバックグランドレベルを測定する高感度測定の場合の動作は、上記のとおりである。一方、放射線の通常の測定の場合には、図示しない制御部などによる制御に応じて、リレーK1が開放状態(非接続状態)とされ、リレーK2とリレーK3が適宜接続状態とされる。つまり、リレーK1が開放状態とされることにより、リーク電流測定回路30とリーク電流補償回路40が電気的に切り離され、また、リレーK2とリレーK3が適宜接続状態とされることにより、抵抗R2と抵抗R3が必要に応じてオペアンプOP1に電気的に接続される。
【0036】
抵抗R2と抵抗R3は、測定感度を変更するための抵抗であり、抵抗R2の抵抗値は、例えば抵抗R1の抵抗値の1/100程度に設定され、抵抗R3の抵抗値は、例えば抵抗R2の抵抗値の1/100程度に設定される。
【0037】
そして、例えば、図示しない制御部が、ユーザによって設定された測定感度に応じて、リレーK2とリレーK3のうちの少なくとも一方を接続状態とすることにより、抵抗R1〜R3による合成抵抗の抵抗値が変更され、その合成抵抗の抵抗値に応じた電位が端子T1に発生する。
【0038】
また、放射線の通常の測定の場合には、リレーK1が開放状態とされているため、端子T1の電位が、端子TOにそのまま出力される。こうして、例えばユーザによって設定された測定感度に応じた測定結果が端子TOに出力される。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る放射線測定装置の主要部分の回路構成図である。
【符号の説明】
【0041】
10 電離箱、20 エレクトロメータ回路、30 リーク電流測定回路、40 リーク電流補償回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出して検出電流を発生する放射線検出部と、
検出電流を測定するための検出電流用素子を備え、検出電流用素子を利用して検出電流を測定することにより測定信号を得る検出電流測定回路と、
検出電流用素子の特性と同等な特性のリーク電流用素子を備え、リーク電流用素子のリーク電流を測定することにより、検出電流用素子のリーク電流に対応した校正信号を得るリーク電流測定回路と、
検出電流測定回路から出力される測定信号とリーク電流測定回路から出力される校正信号とを比較処理することにより、測定信号に含まれるリーク電流の成分を除去するリーク電流補償回路と、
を有する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線測定装置において、
前記検出電流用素子と前記リーク電流用素子は、互いに同一の集積回路用パッケージ内に実装される半導体素子である、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線測定装置において、
前記検出電流測定回路は、放射線のバックグランドレベルの測定に対応したバックグランド測定用抵抗を備え、前記測定信号として、検出電流を含んだ電流がバックグランド測定用抵抗を流れることによって発生する電圧信号を出力し、
前記リーク電流測定回路は、バックグランド測定用抵抗と同じ抵抗値のリーク電流測定用抵抗を備え、前記校正信号として、リーク電流用素子のリーク電流がリーク電流測定用抵抗を流れることによって発生する電圧信号を出力し、
前記リーク電流補償回路は、測定信号の電圧信号と校正信号の電圧信号との間の電圧差を出力する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の放射線測定装置において、
前記検出電流測定回路は、放射線の測定感度を切り替えるための感度変更用抵抗を備え、バックグランド測定用抵抗に対して感度変更用抵抗が並列接続されて合成抵抗値を変化させることにより測定感度が切り替えられる、
ことを特徴とする放射線測定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−145264(P2008−145264A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332786(P2006−332786)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】