説明

放射線測定装置

【課題】物理的に強く良好な遮光性をもった放射線測定装置を実現する。
【解決手段】転写先部材としての発光プレート16上に、熱転写方法によって発光皮膜14が転写される。発光プレート16はβ線検出用の第1シンチレータ材料を有する。発光皮膜14は、保護層24、遮光層26及び発光層28を有する。発光層28は、接着発光層であり、接着材料と、それに添加されたα線検出用の第2シンチレータ材料と、を有する。発光皮膜14を透明部材の表面、光電子増倍管の受光面等に熱転写法によって直接的に形成することもできる。遮光層26が保護層24と転写先部材との間において挟まれ、それが物理的に保護される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線測定装置に関し、特に、シンチレータ部材を有する放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータ部材は、表面汚染測定器、体表面モニタなどの様々な放射線測定装置に用いられている。シンチレータ部材に放射線が入射すると、そこで生じた光が光電子増倍管(PMT)の受光面に導かれる。シンチレータ部材で生じた光を高感度で検出するために、シンチレータ部材の背面側には外部光を遮断する遮光構造(暗室)が設けられ、シンチレータ部材の前面側にも遮光構造が設けられる。
【0003】
シンチレータ部材の前面(放射線入射面)側における遮光に際しては、そこを放射線が通過するために、そこでの放射線の減弱が問題となる。特に、α線や低エネルギーのβ線は物質中の飛程が小さく、シンチレータ部材の前面側に、ある程度の厚みをもった遮光膜を形成すると、そこにおけるα線やβ線の遮断、減弱が無視できなくなって、測定感度が大きく低下する。よって、シンチレータ部材の前面側には極めて薄い遮光膜しか設けることができない。しかし、そのような薄い遮光膜は物理的な強度が非常に低く、腐食にも弱い。遮光膜が傷ついたりピンホールが形成されたりすると、そこから光が内部へ入射してしまい、シンチレータ部材で生じた微弱発光を検出することができなくなる。
【0004】
そこで、下記の特許文献1及び特許文献5に記載されているように、シンチレータ部材の前面側に互いに離間して複数の薄い遮光膜を設けることが考えられる。各遮光膜は樹脂フィルムとその両面に形成された遮光層とで構成される。仮に、最も外側の遮光膜の表面に形成された遮光層が傷ついても、その裏面に形成された遮光膜によって光が遮断される。仮に外的作用が大きく、外側に設けられた遮光膜の全体が傷ついても、それに対して離間して配置された次の遮光膜によって光の遮断を確保できる。最も外側の遮光膜の前面側には、必要に応じて、格子状の保護部材が設けられるが、いずれかの開口を介して異物が進入する可能性もある。保護部材における開口面積を小さくして物理的保護を強化すれば、放射線の検出感度が低下してしまう。
【0005】
遮光膜を放射線測定装置に取り付ける場合には、皺が生じないように全体を均等に引っ張りつつ、その配置を行う必要がある。その作業には熟練を要し、また非常に手間がかかる。更に、配置作業中に必要以上に力を加えると、遮光膜が簡単に破れてしまうという問題もある。従来においては、一般に、放射線測定装置に対して複数の遮光膜が取り付けられるため、上記問題は非常に顕著なものとなっている。
【0006】
下記の特許文献2にはシンチレータ部材を用いた放射線測定器の一例が示されている。下記の特許文献3には、大面積の薄型シンチレータ板に対して遮光膜を貼り付けることが記載されている(第0041段落など)。しかし、遮光膜の詳細については記載されておらず、また、遮光膜の取付方法についても記載されていない。特に、α線及び低エネルギーのβ線の検出においては極めて薄い遮光膜を配置する必要があるが、そのような薄膜特有の取り扱いについては記載されていない。
【0007】
下記の特許文献4には、プラスチックシンチレータの表面上に遮光膜を設けることが記載されている。遮光膜は、薄膜状のプラスチックフィルムと、その裏面又は表面に形成された薄膜状の蒸着層と、を有する。しかし、プラスチックシンチレータに薄膜状の遮光膜をどのように設けるのかについては記載されていない。下記の特許文献6には、シンチレータ層と遮光層とを密着させることが記載されている。但し、遮光層は着脱可能であり、シンチレータ層に接着されているものではない。
【0008】
【特許文献1】特開2001−141831号公報
【特許文献2】特開平7−35869号公報
【特許文献3】特開平8−248139号公報
【特許文献4】実願昭60−108278号(実開昭62−16486号)のマイクロフィルム
【特許文献5】特開平3−231187号公報
【特許文献6】特開平5−297145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、外力に強く良好な遮光性を有するα線検出用シンチレータ型放射線測定装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、外力に強く良好な遮光性を有するα線検出用シンチレータ部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)発光皮膜の説明
本発明に係る実施形態において、放射線測定装置は発光皮膜を有する。発光皮膜は、放射線を透過させる保護層と、前記保護層の裏面側に設けられ、放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光層と、前記遮光層の裏面側に設けられ、シンチレータ材料を有する発光層と、を有する。ここで、発光皮膜は、転写シートから剥離して転写先部材に転写された剥離膜である。転写先部材は、シンチレータ部材の表面、サポート部材の表面、光検出器の受光面、等である。
【0012】
上記構成によれば、転写技術を用いて、転写先部材に直接的に(つまり、空気層を介在させずに)発光皮膜が形成される。発光皮膜の上には必要に応じて1又は複数の遮光皮膜が積層形成される。発光皮膜は、保護層、遮光膜及び発光層を有する。遮光層は望ましくはアルミニウム等の反射率の高い金属を含有する薄い層として形成され、それは外部から進入する放射線を透過させ且つ外部からの光の進入を遮断する。遮光層は、放射線をできるだけ減弱させずに且つ遮光性を発揮できる程度の厚さに形成される。保護層は、放射線を透過させ、同時に遮光膜を外部作用から保護する材料で構成される。保護層は、一般に、塗布(印刷)により均一の厚みで形成されて硬化した塗膜として構成される。保護層は、放射線をできるだけ減弱させず且つ保護機能を発揮できる程度の厚さに形成される。但し、遮光層の厚み及び保護層の厚みは、シンチレータ上に形成する皮膜数(発光皮膜及び遮光皮膜の積層数)を考慮して決定するのが望ましい。あるいは、各皮膜における遮光層の厚み及び保護層の厚みを考慮して、シンチレータ上に形成する皮膜数を決定するのが望ましい。発光層は、シンチレータ材料を含有する。例えば、α線の入射によって発光を生じるシンチレータ部材と、それが分散添加された接着材料と、によって発光層が構成される。接着材料は転写先部材への転写時に発光皮膜を転写先部材に貼り付ける機能を発揮する。保護層、遮光層、発光層のいずれについても、その厚みが全体的に均一であるのが望ましい。発光皮膜が、保護層と遮光層との間に設けられた中間層、遮光層と発光層との間に設けられた別の中間層、その他の層を有するように構成してもよい。転写先部材の表面にそのまま発光皮膜を形成してもよいし、転写先部材の表面に例えば透明性を有するコーティング層等を形成した上で、その表面に発光皮膜を形成するようにしてもよい。
【0013】
遮光層から見て転写先部材が背面支持部材として機能するため、また、遮光層が保護層とシンチレータとでサンドイッチ状態で挟まれるため、遮光層は物理的作用から効果的に保護される。例えば、発光皮膜へ局所的な外力が加わっても、その外力は保護層で分散され、または転写先部材で分散されるので、遮光層へ及ぼうとする局所応力を回避、緩和できる。また、保護層それ自体についても、転写先部材が背面支持基板として機能するので、保護層の強度を向上できる。また、接着方式を利用すれば、大掛かりで特殊な装置を必要とせずに、発光皮膜の形成を簡便に行える。発光皮膜の形成に当たって転写技術を利用するのが望ましい。その場合、例えば、既に形成されているアルミニウム蒸着層を含む剥離膜を転写するだけでよいので、転写先部材を高温下で長い時間処理する必要はない。また、既に均一に形成されている遮光膜をそのまま利用できるので厚みの不均一性の問題も回避できる。なお、熱転写方式を利用する場合には、転写先部材への熱伝導が生じるが、その場合でも比較的低温で処理を行うことができ、また、熱転写部位のみを短時間だけ加熱すればよいので、加熱による影響はほとんど問題とならない。感圧方式を利用する場合には加熱による問題を回避できる。
【0014】
望ましくは、転写シートは熱転写シートであり、発光皮膜は熱転写法によって形成される。望ましくは、転写シートは感圧転写シートであり、発光皮膜は感圧転写法によって形成される。転写方式を利用すれば、ある程度の厚みをもったベースフィルム上に薄膜状の発光皮膜を形成しておいて、そのベースフィルムから発光皮膜を剥離してそれを転写先部材に容易に貼り付けることができる。つまり、転写前の状態において、発光皮膜はベースフィルムと一体化されているので物理的に強化された状態にあり、転写後の状態において、皮膜は転写先部材と一体化されるので物理的に強化された状態にある。また、転写という簡便な方法によって、遮光層を(発光層と一緒に)配設できるので、従来の手張り法による場合に比べて、作業性を飛躍的に向上できる。また、ベースフィルム上への所定材料の塗布によって均一な厚みをもった保護層を容易に形成でき、その厚みのコントロールも容易である。保護層が塗布されて、それが硬化した後に、保護層の上に蒸着処理によって遮光層を均一な厚みで形成することも容易である。
【0015】
望ましくは、遮光層はアルミニウム等の反射率の高い金属を含有する蒸着層である。望ましくは、保護層は遮光性をもった着色層である。着色層であれば保護層それ自体が遮光性を有することになるので、皮膜全体としての遮光性能をより向上できる。望ましくは、前記シンチレータの表面に複数の皮膜(発光皮膜及び1又は複数の遮光皮膜)が積層される。各皮膜は望ましくは保護層、遮光層及び接着層を有する。望ましくは、放射線はα線あるいはβ線である。上記の発光皮膜はX線、γ線の検出においてもその機能を発揮するが、特に、空気中でさえ減弱し易いα線や低エネルギーのβ線を検出する場合において有効なものである。望ましくは、転写先部材の裏面側には透明性を有する補強部材が設けられる。
【0016】
(2)放射線測定装置の説明
本発明に係る実施形態において、放射線測定装置は、発光皮膜と、前記発光皮膜の裏面側から出た光を検出する光検出部と、を含み、前記発光皮膜は、放射線を透過させる保護層と、前記保護層の裏面側に設けられ、放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光層と、前記遮光層の裏面側に設けられ、放射線の入射により発光を生じるシンチレータ材料を有する発光層と、を有し、前記発光皮膜は転写シートから剥離した剥離膜である。
【0017】
上記構成によれば、転写シートから剥離した発光皮膜が転写先部材の表面上に転写される。発光皮膜は発光層を有するので、その発光層で放射線を光として検出できる。発光層の上面側には遮光層が設けられ、その遮光層は外部光の進入を遮断し、更に望ましくは内部光を反射して内部に戻す作用を発揮する。保護層と転写先部材との間で特に遮光層をサンドイッチ状態で挟み込んで遮光層を物理的に強化できる。転写方式を利用するので従来のような煩雑な作業を回避できる。
【0018】
望ましくは、前記転写シートは熱転写シートであり、前記発光皮膜は熱転写法によって形成される。望ましくは、前記発光皮膜の表面側には、1又は複数の遮光性を有する皮膜が熱転写法によって積層形成される。各皮膜は同じ構成を有していてもよいが、異なる構成を有していてもよい。望ましくは、前記発光層は、前記シンチレータ材料が添加された接着材料を有する。望ましくは、前記発光皮膜は透明性をもった背面プレートの上面側に設けられる。背面プレートは転写先部材であって、例えば、それはシンチレータプレート、透明性を有する他の部材、その他である。望ましくは、前記発光皮膜は前記光検出部の受光面上に設けられる。
【0019】
また、本発明に係る実施形態において、放射線測定装置は、第1シンチレータ材料を有し、透明性をもった発光プレートと、前記シンチレータプレートの上面側に設けられた発光皮膜と、前記シンチレータプレートで生じた光を検出し、且つ、前記発光皮膜で生じた光を検出する光検出部と、を含み、前記発光皮膜は、放射線を透過させる保護層と、前記保護層の裏面側に設けられ、放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光層と、前記遮光層の裏面側に設けられ、放射線の入射により発光を生じる第2シンチレータ材料を有する発光層と、を有し、前記発光皮膜は転写シートから前記発光プレートの表面上へ転写された剥離膜である。この構成によれば、第1シンチレータ材料による放射線検出作用と第2シンチレータ材料による放射線検出作用の両方を発揮させることができる。
【0020】
望ましくは、前記第1シンチレータ材料はβ線検出用シンチレータ材料であり、前記第2シンチレータ材料はα線検出用シンチレータ材料である。この構成によれば、α線β線兼用放射線測定装置を構成できる。望ましくは、前記発光層は、前記第2シンチレータ材料が分散された接着材料を有する。なお、発光層とは別に透明性を有する接着層を形成することも可能である。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、外力に強く良好な遮光性を有するα線検出用放射線測定装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
(1)シンチレータ部材の説明
図1には、実施形態に係るシンチレータ部材10の製造方法が示されている。このシンチレータ部材10は、放射線測定装置において放射線検出器として用いられるものである。シンチレータ部材10は発光プレート16と発光皮膜14とで構成される。なお、図1には、発光プレート16の表面(放射線入射面)上に発光皮膜14だけが形成されているものが示されているが、発光プレート16の表面上に発光皮膜14に加えて1又は複数の皮膜を積層形成するようにしてもよい。
【0024】
発光プレート16はプラスチックシンチレータ材料(第1シンチレータ材料)によって構成される。本実施形態においては、発光プレート16はβ線検出用である。なお、α線は以下に詳述する発光皮膜14で検出される。発光プレート16にβ線が入射すると、それによって発光が生じ、生じた光は発光プレート16の裏面側において検出される。図1において、シンチレータ部材10は板状の部材として示されており、このシンチレータ部材10はいわゆる大面積型又は小面積型のシンチレータ検出器を構成する。ただし、シンチレータ部材10の形状は必ずしも平板状である必要はなく、例えば曲面状であってもよいし、棒状であってもよい。転写技術を利用すれば、任意の形態のシンチレータに対して発光皮膜14を容易に形成できる。
【0025】
発光皮膜14は、外部からの光を遮断する機能と、α線の入射時に発光を生じる機能と、を有する。この発光皮膜14は、本実施形態において、熱転写方式によって、熱転写シート18から剥離された剥離膜である。これについては後に詳述する。発光皮膜14は、放射線の入射側から見て、保護層24、遮光層26及び発光層28を有している。各層はそれ全体として均一の厚みを有する。
【0026】
保護層24は透明な材料あるいは着色された材料からなるものであり、遮光層26の表面の全体を覆って遮光層26を物理的な作用から保護する機能を発揮する。保護層は例えばアクリルエポキシ系の材料によって構成され、その厚みは例えば0.5〜3μmの範囲内に設定される。望ましくは保護層24は1.0μmの厚みを有する。保護層24は堅い材料によって薄く均一に形成されており、これによって上述したように遮光層26が物理的な作用から保護されている。保護層24を着色層として構成すれば、例えば黒色あるいは白色の層として構成すれば、それ自体に遮光性を持たせることができる。一般に、遮光層26を構成するアルミニウム材料などに比べて樹脂系の材料の方が放射線の減弱作用が弱いために、遮光層26よりも保護層24の方を厚くするのが望ましい。
【0027】
保護層24は、後述するベースフィルム上に所定材料を塗布し、それを硬化することによって形成された塗膜(塗布層)である。塗布処理によれば、均一で薄い層を比較的に容易に形成できるという利点がある。
【0028】
本実施形態では、熱転写前の状態では、発光皮膜14が後述するベースフィルム20に一体化されてその強度が確保され、熱転写後の状態では皮膜が発光プレート16に一体化されてその強度が確保される。発光皮膜(特に遮光層)を単体で存在させる必要がないので、その取扱いが極めて容易である。
【0029】
遮光層26はアルミニウム材料あるいはそれを含む混合材料によって構成され、その遮光層26は保護層24の裏面側に形成された蒸着層として形成されている。すなわち遮光層26は熱転写シート18の形成段階において蒸着によって形成されたものである。その厚みは、例えば0.01〜1.5μmの範囲内に設定され、望ましくは0.04μmである。熱転写シート18の形成段階において蒸着法以外を用いて遮光層26を形成するようにしてもよい。遮光層26は、測定対象となる放射線を通過させ、その一方において、外来光がシンチレータプレートへ到達することを防止する遮光機能、及び、発光プレート16側からの光を反射する反射機能、を有する。なお、蒸着層をアルミニウム材料以外の材料で構成することも可能である。
【0030】
発光層28は、本実施形態において、接着材料と、そこに分散添加された粉末状の第2シンチレータ材料と、で構成される。第2シンチレータ材料は、例えば粉末状のZnS(Ag)であり、その添加比率は例えば50%以上であり、望ましくは80%以上である。その第2シンチレータ材料はα線の入射によって発光を生じるものである。そのような作用を有する他のシンチレータ材料を利用することもできる。β線検出用のシンチレータ部材を利用してもよい。接着材料は、例えば熱可塑性接着材であり、例えばオレフィン系の材料(PP系接着材、アクリル系接着材、等)である。接着材料は、熱転写時に発光皮膜14を発光プレート16上に接着するためのものである。発光層28の厚みは例えば2〜3μm程度である。接着材料としては加熱後に硬化する材料を用いるのが望ましい。もちろん、それ以外にも様々な接着材料を利用することが可能である。但し、あまり発光層28の厚さを厚くすると、そこでのβ線の減弱が無視できなくなるため、そのようなβ線の減弱を考慮しつつ、α線を検出してその光を裏面側に放出できるように発光層28の厚み、組成を決定するのが望ましい。第2シンチレータを含有する発光層とその裏面側の接着層とを設けるようにしてもよい。接着材料は光の減弱をあまり生じさせないように透明性を有する材料で構成されるのが望ましい。
【0031】
なお、発光プレート16は例えば0.5〜2.0mmの厚みを有し、その厚みは、検出するβ線などに応じて適宜設定される。例えば発光プレート16の厚みを薄くしてそれに対して発光皮膜14を形成した後に、シンチレータ部材10の全体を湾曲させて放射線検出器として利用することも可能である。発光プレート16を湾曲させた状態において発光皮膜14を熱転写によって形成するようにしてもよい。発光プレート16それ自体は通常透明であるが、その表面には、必要に応じて、光の散乱を生じさせる非常に細かい凹凸加工が施される。これは、光検出器側から見て発光部分を広げるためである。
【0032】
次に、熱転写シート18について詳述する。熱転写シート18は、ベースフィルム20と、そのベースフィルム20に対して離型層22を介して設けられた上記の発光皮膜14と、を有している。すなわち、熱転写時において、熱転写シート18に対して加熱が行われると、離型層22の作用により、ベースフィルム20から発光皮膜14が剥がれることになる。それと同時に、皮膜14は上記の接着材料の作用によって発光プレート16上に接着される。ベースフィルム20は、例えばポリエステル樹脂によって構成され、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムによって構成される。その厚みは例えば10〜20μmの範囲内に設定され、望ましくは16μmの厚みを有する。離型層22は例えばワックス系あるいはアクリル系の材料によって構成され、その厚みは例えば0.3〜0.8μmの範囲内に設定され、望ましくは0.5μmである。上記の離型層を有しない熱転写シートを用いることもできる。
【0033】
図1においては、発光プレート16上に熱転写シート18が重合され、その重合体が搬送されている状態が示されている。重合体に対する局所的な加熱が図示されていない熱転写ローラによって行われた後、ガイドローラ44によってベースフィルム20が巻き取られる。すると、上述したようにベースフィルム20上から発光皮膜14が剥離して、発光皮膜14が発光プレート16側に残存することになる。これによって熱転写処理が完成する。
【0034】
後に説明するように、熱転写処理にあたっては、発光プレート16への熱伝導は局所的になされるため、第1シンチレータ材料からなる発光プレート16(及び第2シンチレータ材料)が熱的な影響によって劣化する問題はほとんど生じない。但し、熱転写後において、シンチレータ部材10の反りを防止するために、熱転写時に、発光プレート16の裏面側に(発光プレート16と後述するベルトコンベアとの間に)薄い平坦な金属板を設けることもできる。その金属板は、例えばアルミニウムによって構成され、熱転写時に、発光プレート16へ加えられた熱を、発光プレート16の裏面側で奪い取る吸熱作用を発揮する。
【0035】
なお、上記で掲げた各数値は一例であって、諸条件に応じて各種の数値を採用し得る。例えば、遮光層26の厚みを遮光性が十分担保される限りにおいてより薄くしつつ、その一方において保護層24の厚みをより厚くするようにしてもよい。また薄い遮光層26と薄い保護層24とで皮膜を構成し、そのような皮膜を複数積層することによって、全体として厚い遮光層及び厚い保護層を構成するようにしてもよい。いずれの場合においても、α線、β線を十分な感度をもって検出できるように、しかも遮光層における物理的な保護が十分に図られるように、各材料の厚みを適宜設定するのが望ましい。
【0036】
図2には、一般的な熱転写装置30が例示されている。発光プレート16はベルトコンベア32上におかれ、図2における矢印方向へのベルトコンベア32の移動に伴って発光プレート16が搬送される。ベルトコンベア32上には転写ユニットが設けられており、その転写ユニットは供給ローラ38、巻取りローラ40、ヒーター36、熱転写ローラ34、及び、ガイドローラ42,44などによって構成される。
【0037】
供給ローラ38には熱転写シートが巻き付けられており、その供給ローラ38から供給される熱転写シート18は、ガイドローラ42によって案内され、熱転写ローラ34を経てガイドローラ44によって折り返され、巻取りローラ40によって巻き取られる。熱転写ローラ34はヒーター36によって所定温度に加熱されており、また熱転写ローラ34がその下方を通過する発光プレート16に対して熱転写シート18を押しつける。これによって、熱転写ローラ34の当接部位において、加圧と加熱とが同時に行われる。ベルトコンベア32は一定速度で搬送されており、それと同じ速度で熱転写シート18も搬送される。加熱後においては、熱転写シート18がガイドローラ44によって折り返されるが、その段階においては図1に示したようにガイドローラ44の作用によって熱転写シート18におけるベースフィルム20と発光皮膜14との分離が達成される。すなわちベースフィルム20から発光皮膜14が剥がされることになる。
【0038】
したがって、図2に示すような熱転写装置30を用いれば、様々な形状あるいはサイズをもった発光プレート16(あるいは転写先部材)に対して簡便かつ迅速に皮膜形成処理を行うことができ、その製造コストを非常に軽減することが可能となる。また様々な場所で皮膜形成を行えるという利点もある。ベルトコンベア32上に複数の発光プレート16を整列させておけば、それらの発光プレート16に対して連続的に熱転写処理を施すことも可能であり、図2に示す構成によれば大量処理を容易に行えるという利点がある。なお、熱転写時における加熱温度は例えば100〜250℃であるが、その温度は熱転写シートやシンチレータ材料などに応じて適宜設定すればよい。加熱部位は発光プレートの搬送方向及び深さ方向の両方向にわたって限定されており、また瞬時的なものであるため、シンチレータ材料に与える熱的な影響をほとんど無視することができる。転写先部材のサイズ、形状に応じて、可搬型の小型熱転写装置を利用することもできる。転写先部材は、上記のようなシンチレータ材料で構成されたプレートに限られず、平面的あるいは任意形状を有する透明プレート、ライトガイドの透光板、光電子増倍管の受光面などをあげることができる。本実施形態に係る発光皮膜14は、α線及びβ線を検出する放射線測定装置に設けられる他、α線のみを検出する放射線測定装置、その他の放射線測定装置に適用可能である。
【0039】
図3には、複数の皮膜が積層されたシンチレータ部材100が示されている。発光プレート16上には発光皮膜14A、遮光皮膜14Bが設けられている。皮膜14Aは、放射線入射側から見て保護層24、遮光層26及び発光層(接着層)28を有する。皮膜14Bは、放射線入射側から見て保護層24、遮光層26及び接着層29を有する。例えば、図2に示したようなプロセスを2回繰り返せば、図3に示すような2層の皮膜14A,14Bを容易に形成することができる。もちろん3層以上の積層構造を構築することも容易である。
【0040】
図2に示した熱転写プロセスにおいては、熱転写処理に先立って転写先部材としての発光プレート16の表面上における塵、ゴミ等の異物を十分に除去しておくのが望ましい。すなわち、発光プレート16の表面を清浄状態にしておくのが望ましい。その場合においては、例えばエアブロー、洗浄などの手法を利用することができ、場合によっては、不純物の混入を避けるために、クリーンブースあるいはそれに相当するような部屋を用意し、その内部において熱転写処理を行うようにしてもよい。そのような密閉空間には、エアフィルタを通過したクリーンエアが導入される。エアーブロー装置は、熱転写前の段階で、発光プレート16の表面上にクリーンエアを吹き付けて異物を吹き飛ばすものである。そのような処理によれば異物によるピンホールの発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0041】
上記の熱転写方式に代えて感圧転写方式を利用することもできる。その場合、感圧転写シートが利用される。感圧転写シートは、上記の熱転写シートと同様に、ベースフィルムの上に設けられた皮膜(保護層、遮光層、発光層)を有する。その場合、感圧転写シートにおける発光層が有する接着材料としては、熱可塑性接着材ではなく、加圧によって接着作用を十分に発揮する接着材が利用される。感圧転写方式の場合には、加圧ローラーによって、感圧転写シートが転写先部材へ押しつけられ、転写先部材上に発光皮膜(剥離膜)が転写される。この感圧転写方式においても、熱転写方式の場合と同様の利点を得られる。すなわち、転写前の状態においては、発光皮膜がベースフィルム上に形成されるので、その発光皮膜を薄く形成することができ、しかも、発光皮膜が単体で存在している場合に比べて、発光皮膜を物理的あるいは構造的に保護、強化することができる。転写後の状態においては、発光皮膜が転写先部材に転写されるため、その発光皮膜を物理的あるいは構造的に保護、強化することができる。感圧転写方式によれば、熱的歪みの発生を防止できる。熱転写方式によれば、より薄い皮膜の転写を行える。なお、転写先部材に発光層を皮膜として転写した後、遮光層を皮膜として転写することも可能である。
【0042】
図4には、上述したシンチレータ部材10を備えたα線β線兼用放射線測定装置が分解斜視図として概念的に示されている。シンチレータ部材10の裏面側には例えばアクリル板などによって構成される透明な補強プレート46が設けられ、それらの部材が容器48に対してセットされる。補強プレートは必要に応じて設けられる。具体的には、枠体50によってそれらの部材が容器48に対して抑え込み固定される。容器48はいわゆる暗室を構成するものであり、容器48の内部空間には、図4に示す例において、2つの光電子増倍管(PMT)52,54の受光面が臨んでいる。
【0043】
β線が外部から飛来すると、β線がシンチレータ部材10における発光皮膜を通って発光プレートに到達し、そこで生じた発光が透明な補強プレート46を通過して容器48の内部空間に到達する。その光が2つの光電子増倍管52,54によって検出されることになる。α線が外部から飛来すると、α線が発光皮膜における発光層に到達し、そこに含まれるシンチレータ部材が発光する。その光が透明性を有する発光プレートを通過して容器48の内部空間に到達し、それが2つの光電子増倍管52,54によって検出される。β線の検出信号とα線の検出信号は波形弁別処理によって相互分離可能であり、それぞれの信号が独立して計数される。シンチレータ部材10には、物理的な保護が図られた発光皮膜が形成されており、そこに含まれる遮光層の遮光機能によって外部からの光の進入は効果的に防止される。特に、枠体50における開口部を介して何らかの部材がシンチレータ部材10の表面上に接触したとしても、上記の保護層によって遮光層の保護を図ることができる。すなわち、遮光層は保護層と発光プレートによってサンドイッチ状態で挟まれており、また保護層から見て(同時に遮光層から見て)発光プレートそれ自体が背面支持基板として機能するため、保護層や遮光層に局所的な応力が加わったとしてもそれを背面支持基板によって分散することができ、その結果として発光皮膜の物理的な強度を向上することが可能である。遮光層は、発光層及び発光プレートから出た光を反射して内部に戻す作用も発揮する。これによって検出感度を高められる。
【0044】
図5には、図4に示した放射線測定装置の部分的な断面図が示されている。シンチレータ部材10と補強プレート46からなる重合体は、容器48に取付けられているフレーム60によって支持されている。符号62はパッキンを示しており、そのパッキン62を介して枠体50によってフレーム60側へ上記の重合体を押しつけることにより、パッキン62の作用によって隙間が完全に塞がれ、これによって隙間からの外来光の進入を効果的に防止することができる。パッキン62は重合体の周囲全体を取り囲むような環状の形態を有している。外部から進入するβ線により、シンチレータ部材10における発光プレートで発光が生じ、それが符号67で示されている。同様に外部から進入するα線により、シンチレータ部材10における発光層で発光が生じ、それが符号66で示されている。上記のように、シンチレータ部材における遮光層は外部からの光を遮断し、内部からの光を反射して戻す作用を発揮する。なお、後述するように、発光皮膜だけを利用してα線用放射線検出器を構成することも可能である。
【0045】
図6には、他の実施形態に係る放射線測定装置が示されている。この放射線測定装置は、検出部102と演算部104とで構成される。検出部102は、光を検出する光電子増倍管112と、その受光面112Aを取り囲むように設けられたライトガイド110と、そのライトガイド110を前面開口に設けられたシンチレータ部材10と、を有する。ライトガイド110は中空部材あるいは充填部材として構成され、その内面あるいは周囲には酸化チタン等の反射材の塗布処理あるいは鏡面加工処理が施されている。
【0046】
シンチレータ部材10は、上記で説明したように、発光プレート16とその放射線入射面側に熱転写によって形成された発光被膜14とを有する。発光被膜14は、放射線入射側から見て保護層、遮光層及び発光層を有する。
【0047】
一方、演算部104は、信号処理器116、演算器118及び表示器120を有する。信号処理器116は、光電子増倍管からの信号を増幅する作用の他、その信号に対して波形弁別処理を実行し、α線の検出信号及びβ線の検出信号を取り出す作用を有する。演算器118は、α線の検出信号を計数すると共に、β線の検出信号の計数を行う。これによって得られた計数結果に基づいて、α線及びβ線のそれぞれについて放出率等の所定の放射線計測値が演算されることになる。その値は表示器120に表示される。演算部104の構成それ自体は公知である。
【0048】
本実施形態においては、上述したシンチレータ部材10が用いられているため、α線及びβ線を同時計測することが可能である。もちろん、発光プレート16に代えて透明性を有するアクリル板などを用いれば、α線を検出する放射線測定装置を構成することも容易である。
【0049】
図7及び図8には更に他の実施形態が示されている。図7に示す実施形態においては、光電子増倍管12の受光面112A上にシンチレータ部材10が貼り付けられている。シンチレータ部材10は発光皮膜14と発光プレート16とによって構成されるものである。このような構成によってもα線およびβ線の両方を同時に検出することが可能である。図8に示す実施形態においては、光電子増倍管112の受光面112A上に直接的に発光皮膜14が形成されている。この場合においては上述したように転写法、特に熱転写法が用いられ、受光面112Aに対して熱転写シートを重合させた状態において加熱ローラーを押圧・回転させることにより、受光面112A上に簡単に発光皮膜14を形成することが可能である。必要に応じて、発光皮膜14の上に転写方法を利用して更に1又は複数の皮膜(遮光皮膜)を形成し、これによって遮光性能をより一層高めると共に物理的強化をより一層高めることも可能である。但し、複数の皮膜を形成する場合には、その全体の厚さを検出する放射線の種別やエネルギーなどに応じて適宜定めるのが望ましい。すなわち、放射線の減弱を必要以上に生じさせない限りにおいてできるだけ遮光性及び堅牢性を高めた検出部を構成するのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係るシンチレータ部材の製造方法を示す概念図である。
【図2】熱転写装置の構成を示す斜視図である。
【図3】複数の皮膜を有するシンチレータ部材を示す図である。
【図4】α線β線兼用放射線測定装置の概念図である。
【図5】図4に示した放射線測定装置の部分断面図である。
【図6】他のα線β線兼用放射線測定装置の概念図である。
【図7】光電子増倍管の受光面にシンチレータ部材が直接的に配置された放射線測定装置の要部構成を示す図である。
【図8】光電子増倍管の受光面に直接的に転写された発光皮膜を有する放射線測定装置の要部構成を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 シンチレータ部材、14 発光皮膜、16 発光プレート、18 熱転写シート、20 ベースフィルム、22 離型層、24 保護層、26 遮光層、28 発光層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面部材と、
前記背面部材の上面側に設けられた発光皮膜と、
前記発光皮膜の裏面側から出た光を検出する光検出部と、
を含み、
前記発光皮膜は、
α線を透過させる保護層と、
前記保護層の裏面側に設けられ、α線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光層と、
前記遮光層の裏面側に設けられ、α線の入射により発光を生じるシンチレータ材料が添加された接着材料を有する接着発光層と、
を有し、
前記発光皮膜は、前記背面部材の上面側への前記接着発光層による接着と同時に転写シートから剥離した転写膜である、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記転写シートは熱転写シートであり、前記発光皮膜は熱転写法によって形成された、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
前記接着材料への前記シンチレータ材料の添加比率は50%以上である、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
シンチレータ部材の製造方法であって、
剥離可能な転写膜としての発光皮膜を備えた転写シートを用い、
透明性を有する背面部材の上面側に、前記発光皮膜を単体で存在させることなく当該発光皮膜を前記転写シートから前記背面部材の上面側に転写し、
前記発光皮膜が、α線を透過させる保護層と、前記保護層の裏面側に設けられα線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光層と、前記遮光層の裏面側に設けられα線の入射により発光を生じるシンチレータ材料が添加された接着発光層と、を有し、
前記発光皮膜の転写では、前記背面部材の上面側への前記発光皮膜の接着と同時に前記発光皮膜が前記転写シートから剥離される、
ことを特徴とするシンチレータ部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−249722(P2008−249722A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147704(P2008−147704)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【分割の表示】特願2006−38907(P2006−38907)の分割
【原出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】