説明

放射線測定装置

【課題】光を検出する半導体デバイスのバイアス電圧を制御する。
【解決手段】ガンマ線から得られるエネルギーの大きさに対応したチャンネル(波高値)について、複数のチャンネルと各チャンネルの頻度を示す計数とを対応付けた波高分布が形成される。そして、基準線源のガンマ線の全吸収ピークに対応した互いに隣接する二つのチャンネルの計数、つまり、チャンネルci-1とciの計数ni-1とniが比較される。そして計数ni-1が計数niよりも大きい場合には半導体デバイスのバイアス電圧を増加させ、計数ni-1が計数niよりも小さい場合にはバイアス電圧を減少させる。つまり、ni-1/ni=1となるようにバイアス電圧がフィードバック制御され、波形80の全吸収ピークPBがチャンネルci-1とciの間に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線測定装置に関し、特にシンチレータを利用して放射線を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線測定装置において、半導体検出器を利用する装置が知られている。例えば、特許文献1には、半導体検出器を利用した電池駆動型の放射線測定装置が示されている。
【0003】
また、放射線測定装置において、シンチレーション検出器を利用する装置も知られている。シンチレーション検出器は、放射線が入射することにより光を発生するシンチレータを利用し、シンチレータで発生した極めて微弱な光を光電子増倍管(PMT)などの光検出器を利用して検出する。
【0004】
PMTは、光の検出信号を増幅するために1000ボルト程度の高電圧を印加する必要がある。PMTにおける利得を安定させるためには、PMTに印加される高電圧が適切な電圧値となるように制御されることが望ましい。しかし、高電圧であるため、PMTに印加される電圧を安定的に制御し続けることは容易ではない。そのため、PMTを利用したシンチレーション検出器では、例えば、PMTに印加する電圧をマニュアルで調整してから短時間の測定を行い、測定後に必要に応じてさらにPMTに印加する電圧を調整するなどして、測定の精度を維持する必要がある。
【0005】
このように、放射線測定装置に関する各種技術が知られている一方において、光を検出するデバイスとして、アバランシェフォトダイオード(APD)などの半導体デバイスが近年になって注目されている。例えばAPDを利用した光検出器は、比較的低いバイアス電圧で動作させることが可能であり、光データ伝送の分野などにおいて利用されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−243884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した背景において、本願発明者は、PMTに換えてAPDなどの半導体デバイスを利用してシンチレータの光を検出する技術について研究開発を重ねてきた。
【0008】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、シンチレータの光を検出する半導体デバイスのバイアス電圧を制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である放射線測定装置は、ガンマ線が入射することにより光を発生するシンチレータと、シンチレータにおいて発生する光を検出して検出信号を出力する半導体デバイスと、半導体デバイスから出力される検出信号に基づいて、ガンマ線から得られるエネルギーの分布を反映させたスペクトルを形成するスペクトル形成部と、スペクトル形成部において形成されるスペクトルに基づいて、半導体デバイスに供給されるバイアス電圧を制御する電圧制御部とを有することを特徴とする。
【0010】
望ましい態様において、前記電圧制御部は、特徴スペクトル部分がスペクトル内の目標位置に維持されるようにバイアス電圧をフィードバック制御することを特徴とする。
【0011】
望ましい態様において、前記スペクトル形成部は、前記スペクトルとして、ガンマ線から得られるエネルギーの大きさに対応した波高値について、複数の波高値と各波高値の頻度を示す計数値とを対応付けた波高分布を形成し、前記電圧制御部は、波高分布内の全吸収ピークが目標波高値に維持されるようにバイアス電圧をフィードバック制御することを特徴とする。
【0012】
望ましい態様において、前記電圧制御部は、波高分布内の全吸収ピークに対応した互いに隣接する二つの波高値の計数値を比較してバイアス電圧を制御することを特徴とする。
【0013】
望ましい態様において、前記電圧制御部は、前記互いに隣接する二つの波高値の計数値を比較し、一方の計数値が他方の計数値よりも大きい場合にバイアス電圧を増加させ、一方の計数値が他方の計数値よりも小さい場合にバイアス電圧を減少させることを特徴とする。
【0014】
望ましい態様において、前記電圧制御部は、基準線源から放出されるガンマ線の全吸収ピークが目標波高値に維持されるようにバイアス電圧を制御することを特徴とする。
【0015】
望ましい態様において、前記基準線源から放出されるガンマ線の全吸収ピークと測定対象となるガンマ線の全吸収ピークは互いに異なる波高値に対応しており、前記基準線源から放出されるガンマ線の全吸収ピークが目標波高値に維持されるようにバイアス電圧を制御しつつ、測定対象となるガンマ線が測定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、シンチレータの光を検出する半導体デバイスのバイアス電圧を制御する技術が提供される。例えば、本発明の好適な態様により、シンチレータの光を検出する半導体デバイスの利得が安定し、環境温度などが変化した場合においても、ガンマ線の高分解能スペクトル測定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1には、本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す機能ブロック図である。図1の放射線測定装置は、例えば、線量モニタやサーベイメータなどとして具現化されるが、他の態様により具現化されてもよい。
【0019】
シンチレータ10は、ガンマ線(γ線)が入射することにより光を発生する。つまり、シンチレータ10は、入射するガンマ線と相互作用をすることにより、そのガンマ線が失ったエネルギーに比例した数の光子を放出する。
【0020】
APD(アバランシェフォトダイオード:Avalanche photo diode)20は、シンチレータ10において発生する光を検出して検出信号を出力する半導体デバイスである。APD20は、n+pπp+の半導体構造を有しており、逆方向のバイアス電圧が印加される。APD20に光(光子)が入射すると、比較的厚いπ領域で光子が吸収されてホールと電子の対が生成され、生成された電子が電界により加速されて衝突電離によりさらにホールと電子の対を生成する。新しく生成された電子も電界により加速されて衝突電離によりさらにホールと電子の対を生成する。こうして、電子とホールの対がなだれ的に増加して最終的に飽和した電気信号(検出信号)として外部に出力される。
【0021】
APD20から出力される検出信号の大きさは、APD20において検出された光の本数(光子の個数)に比例する。つまり、シンチレータ10に入射したガンマ線が失ったエネルギーに比例する。
【0022】
波高弁別部30は、APD20から出力される検出信号に基づいてパルス信号を生成する。つまり、シンチレータ10にガンマ線が入射する度に、そのガンマ線による発光時間だけ検出信号を積分してパルス信号を生成する。波高弁別部30は、ADC(アナログデジタルコンバータ)を備えており、ADCによりパルス信号がデジタル化されて計数部40に出力される。つまり、ガンマ線が入射する度に生成されるパルス信号の大きさ(波高値)に応じたデジタル値が計数部40内のメモリに次々に記憶される。
【0023】
計数部40は、メモリに記憶されたデジタル値をその大きさによって複数のチャンネルに分け、各チャンネルごとにそのデジタル値の出現回数をカウントする。こうして、複数のチャンネルと各チャンネルのカウント値(計数)とを対応付けた計数分布が得られる。計数部40において形成された計数分布は、表示部50に表示される。
【0024】
図2は、複数のチャンネルと各チャンネルの計数とを対応付けた計数分布を示す図である。図2の横軸はチャンネルcを示しており、縦軸は計数nを示している。各チャンネルは、波高弁別部(図1の符号30)から出力されるデジタル値の大きさに対応付けられている。つまり、各チャンネルは、ガンマ線が入射する度に生成されるパルス信号の大きさ(波高値)に対応付けられている。先に説明したように、パルス信号は、ガンマ線によって発生した光(光子)の検出結果である検出信号をそのガンマ線による発光時間だけ積分したものであり、そのガンマ線から得られたエネルギーを反映させたものである。したがって、図2に示す計数分布は、ガンマ線から得られるエネルギーの分布を反映させたものとなる。図2の計数分布はスペクトルと呼ばれる。
【0025】
図2において、波形80は、基準線源から放出されるガンマ線に対応した計数分布曲線である。ガンマ線の場合、シンチレータ(図1の符号10)における相互作用として、光電効果、コンプトン散乱、電子対生成などがある。つまり、これらの相互作用によってガンマ線からエネルギーが得られる。これらの相互作用のうち、光電効果等はガンマ線の全エネルギーを電子等に移行させる作用である。
【0026】
図2において、波形80の全吸収ピークPBが光電効果等によるガンマ線のエネルギー吸収に対応している。つまり、全吸収ピークPBがガンマ線の全エネルギーに対応するものであり、その位置(チャンネル)からガンマ線のエネルギーを知ることができる。
【0027】
なお、波形94は、測定対象となるガンマ線に対応した計数分布曲線である。測定対象のガンマ線が、基準線源のガンマ線とは異なるエネルギーを持っていれば、基準線源のガンマ線の全吸収ピークPBとは異なる位置(チャンネル)に測定対象のガンマ線の全吸収ピークPOが現れる。また、基準線源のガンマ線と測定対象のガンマ線が混在した状態で測定が行われた場合には、波形80上に波形94が重畳され、その結果として波形92が得られる。
【0028】
ガンマ線の測定において、全吸収ピークの位置(チャンネル)が重要であることは上記のとおりである。本実施形態では、その全吸収ピークの位置を高精度に測定するために、以下に説明するフィードバック制御が行われる。
【0029】
図1に戻り、電圧制御部60は、計数部40において得られた計数分布に基づいて、バイアス電圧回路70からAPD20に供給されるバイアス電圧を制御する。APD20に供給されるバイアス電圧は、例えば100ボルト程度または100ボルト以下である。電圧制御部60は、計数分布内における基準線源のガンマ線の全吸収ピークが所定の位置(チャンネル)に維持されるようにバイアス電圧をフィードバック制御する。
【0030】
その制御において、電圧制御部60は、基準線源のガンマ線の全吸収ピークに対応した互いに隣接する二つのチャンネルの計数を比較する。例えば、図2のチャンネルci-1とciの計数ni-1とniを比較する。そして、計数ni-1が計数niよりも大きい場合にはバイアス電圧を増加させ、計数ni-1が計数niよりも小さい場合にはバイアス電圧を減少させる。つまり、ni-1/ni=1となるようにバイアス電圧がフィードバック制御され、図2の波形80の全吸収ピークPBがチャンネルci-1とciの間に維持される。
【0031】
そのため、例えば環境温度などの影響によりバイアス電圧回路70からAPD20に供給されるバイアス電圧が変動し、全吸収ピークの位置を変動させようとする悪条件下においても、上述したフィードバック制御によりバイアス電圧が適宜調整され、全吸収ピークの位置の変動が抑えられる。
【0032】
なお、上記説明では、ni-1/ni=1となるようにバイアス電圧をフィードバック制御する例を示したが、制御の基準となるni-1/niの値は「1」以外の値に設定されてもよい。
【0033】
次に、図1の放射線測定装置を利用して測定対象となるガンマ線を測定する場合の測定手順について説明する。
【0034】
まず、基準線源を利用して目標となる全吸収ピークの位置が設定される。つまり、エネルギーの大きさが予め分かっているガンマ線、すなわち全吸収ピークの位置が予め分かっているガンマ線を放出する基準線源を利用し、図1の放射線測定装置により基準線源のガンマ線を測定する。そして、そのガンマ線の計数分布(例えば図2に示す波形80)を表示部50に表示させる。ユーザは、表示部50に表示される波形を確認しながら、基準線源のガンマ線の全吸収ピークの位置が、予め分かっているそのガンマ線の全吸収ピークの位置となるように、操作デバイスなどを利用してAPD20のバイアス電圧を調整する。こうして、ユーザの目視と手動操作により基準線源に関する全吸収ピークの位置が調整された後、その基準線源のガンマ線の全吸収ピークが所定の位置(チャンネル)に維持されるように上述したバイアス電圧のフィードバック制御が開始される。
【0035】
次に、基準線源から放出されるガンマ線を検出し続けてフィードバック制御を行いつつ測定対象となるガンマ線を測定する。つまり、基準線源のガンマ線と測定対象のガンマ線が混在した状態で測定が行われ、ガンマ線の計数分布(例えば図2に示す波形92)が得られる。その測定中においては、基準線源のガンマ線の全吸収ピークが所定の位置(チャンネル)に維持されるようにバイアス電圧が制御される。そのため、測定対象となるガンマ線の全吸収ピーク(図2のPO)の位置の測定精度が高められる。
【0036】
なお、測定対象となるガンマ線のみの計数分布(図2の符号94)を得たい場合には、基準線源のガンマ線の計数分布が重畳された計数分布(図2の符号92)から、予め測定しておいた基準線源のガンマ線の計数分布(図2の符号80)を差し引けばよい。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態により、シンチレータの光を検出する半導体デバイス(APD)の利得が安定し、環境温度などが変化した場合においても、ガンマ線の高分解能スペクトル測定が可能になる。なお、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る放射線測定装置の全体構成を示す機能ブロック図である。
【図2】各チャンネルと計数とを対応付けた計数分布を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10 シンチレータ、20 APD、30 波高弁別部、40 計数部、60 電圧制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマ線が入射することにより光を発生するシンチレータと、
シンチレータにおいて発生する光を検出して検出信号を出力する半導体デバイスと、
半導体デバイスから出力される検出信号に基づいて、ガンマ線から得られるエネルギーの分布を反映させたスペクトルを形成するスペクトル形成部と、
スペクトル形成部において形成されるスペクトルに基づいて、半導体デバイスに供給されるバイアス電圧を制御する電圧制御部と、
を有する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線測定装置において、
前記電圧制御部は、特徴スペクトル部分がスペクトル内の目標位置に維持されるようにバイアス電圧をフィードバック制御する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線測定装置において、
前記スペクトル形成部は、前記スペクトルとして、ガンマ線から得られるエネルギーの大きさに対応した波高値について、複数の波高値と各波高値の頻度を示す計数値とを対応付けた波高分布を形成し、
前記電圧制御部は、波高分布内の全吸収ピークが目標波高値に維持されるようにバイアス電圧をフィードバック制御する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の放射線測定装置において、
前記電圧制御部は、波高分布内の全吸収ピークに対応した互いに隣接する二つの波高値の計数値を比較してバイアス電圧を制御する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線測定装置において、
前記電圧制御部は、前記互いに隣接する二つの波高値の計数値を比較し、一方の計数値が他方の計数値よりも大きい場合にバイアス電圧を増加させ、一方の計数値が他方の計数値よりも小さい場合にバイアス電圧を減少させる、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の放射線測定装置において、
前記電圧制御部は、基準線源から放出されるガンマ線の全吸収ピークが目標波高値に維持されるようにバイアス電圧を制御する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の放射線測定装置において、
前記基準線源から放出されるガンマ線の全吸収ピークと測定対象となるガンマ線の全吸収ピークは互いに異なる波高値に対応しており、前記基準線源から放出されるガンマ線の全吸収ピークが目標波高値に維持されるようにバイアス電圧を制御しつつ、測定対象となるガンマ線が測定される、
ことを特徴とする放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−281441(P2008−281441A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125923(P2007−125923)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】