説明

放射線照射方法

【課題】 粒子線のスキャニング照射を呼吸や心臓拍動によって腫瘍部が動くような場合に適用する際、腫瘍部に対して計画通りの線量(一様線量など)で照射できるようにした放射線照射方法を提供する。
【解決手段】 スキャニング照射において粒子線1は、3次元的に局所集中した線量分布をもつビームスポットとなって患者の腫瘍部2を塗りつぶすように照射される。各ビームスポット位置にあらかじめ計画された照射量を与えることで腫瘍部2に計画線量を与えることが出来る。各ビームスポット位置は水平と垂直の2台の走査電磁石4,5、エネルギ(レンジシフタ6等)により、照射量はオンラインモニタ7により制御される。他のビームスポット位置よりも例えば2倍〜100倍程度の非常に大きな照射量を計画されたビームスポット位置には、粒子線1を複数回に分けて照射することにより、腫瘍部の動きによる計画線量と照射線量の差を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置の放射線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、陽子線、重粒子線等の粒子線を用いた放射線治療装置が注目されている。図7に示すように、光子線を使った腫瘍の治療では、身体表面の近くで最も線量が高く、深くすすむにつれて減衰する。このことは、深部の腫瘍を治療する場合、放射線が腫瘍にとどくまでに正常組織が障害をうけやすく、また、腫瘍を通り越して更に深部にまで影響を与える危険性があることを意味する。
これと比較して、陽子線や重粒子線などの粒子線の場合は、照射するときのエネルギによってある深さに大量の線量を与えるピークを示し、前後に与える線量は少ないという特徴がある。このため、線量がピークになる部分を標的(腫瘍)にあわせることにより、正常組織の障害を少なくすることができるという利点がある。
【0003】
粒子線による放射線治療装置では、腫瘍を含む標的部を処方線量で照射し、かつ、まわりの非標的部である正常組織に照射する線量を最小限にすることを目指した照射を行う。正常組織の障害を少なくするため、治療効果を正しく判断する基準を満たすためという理由に加え、処方線量に達しなかった標的部分からは、腫瘍の再発が起こることが予想され、治療成績を大きく下げてしまうからである。処方線量は、部位ごとに設定されることもあるが、ここではある線量で一様に照射するよう処方された場合について説明する。
【0004】
ここで、粒子線の照射法には、拡大照射法、スキャニング照射法がある。
拡大照射法では、照射すべき領域全体を覆うように3次元(横方向x,y、深さ方向z方向)に拡げたビームを用いる。そして、この拡げられたビームは、照射すべき領域に到達する前に予め最深部の形状をボーラスにより修正し、横方向の形状をコリメータにより切り取るようにしている。
【0005】
スキャニング法では、3次元的に局所集中した線量分布をもつ粒子線によるスポットビームで腫瘍部(標的部)を3次元的に塗りつぶすように照射する。スポットビームが3次元的に局所集中するスポット位置は、あらかじめ治療計画により設定され、横方向と縦方向を水平と垂直の2台の走査電磁石で制御し、深さ方向をエネルギの変更により制御する。これにより複雑な形状の腫瘍部に対しても3次元的形状に合った照射を行える。
【特許文献1】特開2003−126278号公報(段落0002、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記拡大照射法では、ビーム形状をボーラス等により標的部の最深部の形状に合わせて加工できるため、ビームを標的部の後端部となる最深部に精度よく照射することができる。しかし、この拡大照射法は、ビーム形状を標的部の前端部の形状には合わせることができないため、標的部以外の正常組織にまで余分なビームが照射されてしまうという不具合が生じる。
【0007】
これに対し、スキャニング法では、前記したように、複雑な形状の標的部に対しても3次元形状に合った照射を行える。しかし、このような照射法を用いても、以下のような問題が生じる。
【0008】
即ち、体幹部では、呼吸、心臓拍動などの要因により照射対象である標的部の位置や形状が照射時間内に変動する。これらの動きは照射手順と独立であることから、照射する前に予め設定されたスポット位置へ順番に照射していくスキャニング照射法では、照射領域内での線量分布に非一様性が生じる。
【0009】
例えば、スポットビームで臓器の標的部を塗りつぶすようにずらしながら照射する間に臓器が動くと隣り合うスポットビーム同士が重なったり、大きく離れて隙間が生じたりして非一様線量分布が生じたり、正常部へ大きくはみ出して照射してしまったりすることがある。特に、非一様線量分布における線量の低い部分は、そこから再発が起こりやすいなど、治療成績を大きく下げてしまうという問題がある。
【0010】
標的内を処方線量にかつ標的外へのはみ出し線量を少なく、特に重要臓器へのはみ出し線量を減ずるように、スポット位置および照射量を最適化した治療計画を立てる。しかし、標的部が臓器と一緒に動くと、前記の如くその計画通りに精度良く照射することが出来ない。従って、現在のところ粒子線治療におけるスキャニング照射法による治療は、臓器の動きのない頭頚部などに限定せざるを得ないという問題がある。
【0011】
本発明は、前記課題に鑑み、呼吸などによって標的部が動くような場合でも、標的部に対して処方線量で照射できるようにした放射線照射方法を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明では、標的からはみだす線量を低くする、照射時間を短くする、などによる照射精度向上をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題を解決すべく構成されるものであり、請求項1に記載の発明は、粒子線をスポットビームとして標的に照射するスキャニング照射法による放射線照射方法であって、必要な照射量を複数回に分けて照射することを特徴とする放射線照射方法である。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、標的部が呼吸などによって動くような場合でも、必要な照射量を、各スポット位置毎に複数回に分けて照射することができるため、標的の位置が変動しても照射量の損失は許容範囲内で済み、必要な処方線量を一様に照射することができる。また、標的の照射量の損失は許容範囲内で済むため、その反対として標的の外にはみ出す線量を低くすることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、必要な照射量を複数回に分けて照射するときスポット位置毎に繰り返して照射する回数が設定可能なことを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法である。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、各スポット位置に必要な照射量が異なる場合でも、各スポット位置毎に繰り返して照射する回数を設定して放射線治療装置から粒子線を照射できるので、各スポットの照射量を照射量誤差が無視できる値に設定することが出来る。また、スポット位置を移動させるなどの制御時間を少なく出来、治療時間延長に伴う照射誤差を抑えることが出来る。ここで、「繰り返して照射する」とは、スポット位置あたりの照射量を複数回に分割して照射することをいう。
【0017】
請求項3に記載の発明は、必要な線量を複数回に分けて照射するとき、標的の前記粒子線の進行方向下流側境界部に寄与の高いスポット位置(以下「一番奥のスポット位置」と呼ぶ)に繰り返して照射することを特徴とする放射線照射法である。
【0018】
請求項3において、標的の粒子線の進行方向下流側の「境界部」は、標的内部から見た粒子線の進行方向下流側の標的(腫瘍部)と正常組織の境界部に相当する。
また、「寄与の高い」とは各スポットが標的内部のある位置に与える線量が高いことをいう。照射量当りの線量寄与が高い場合と、照射量そのものが高い場合を考慮する必要がある。
また、「一番奥のスポット位置」は、治療計画により標的内部から見た粒子線の進行方向下流側の標的と正常組織の境界部に沿って多数設定されることとなる。
【0019】
粒子線のスポットビームは、図7に示すように、粒子の進行方向のある深さに多量の線量を与えるピークを示し、ピークより上流側では上流に向かってなだらかに線量が減少する「プラトー部」を有し、ピークより下流では急激に線量が減衰する。
このため、標的内部を処方線量で照射し、かつ標的外部へのはみ出し線量を少なくするためには、これらピークと線量の減衰を考慮する必要がある。ある位置での線量は各スポット位置に照射されたスポットビームの線量寄与の総和であるから、その位置の近傍にピークがあるスポット位置からの、また照射量の多いスポット位置からの線量寄与が大きくなる。このように、処方線量の達成に大きく寄与するスポット位置が「寄与の高いスポット位置」である。
【0020】
スポットビームの進行方向下流側境界部へ高く寄与するスポット位置への照射量は非常に高いので、その境界部へ寄与するスポット位置をこれ以降「一番奥のスポット位置」と呼ぶ。その境界部に必要且つ一様な線量を与えるには、その境界部に隣接した下流側にも照射し、それによるスポットの「プラトー部」の線量を寄与させる場合もあり、その場合は「一番奥のスポット位置」は、前記標的よりやや下流側にずれた位置となる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、短時間で標的全体に対して一様線量で照射することができる。これは次の理由による。
例えば標的の中央部の線量は、そこにスポット位置をあわせて照射される線量と、より下流側にあるスポット位置に照射される粒子線の前記「プラトー部」の部分に相当する線量との積算値になる。
このため、標的が動いた場合でも、積算されるべき線量の一部が失われるだけで済み、線量の損失は許容範囲内に入るため、必要な処方線量を一様に照射することができる。
【0022】
これに対して、「一番奥のスポット位置」には、より下流側のスポットは存在しないため、「進行方向下流側境界部」の線量は、「一番奥のスポット」に照射される線量によって決まってしまう。このため、標的が動いた場合、照射量の損失は極めて大きく、必要な処方線量を照射することができない。また、その場合、標的外部にはみ出して照射してしまうおそれがある。
【0023】
請求項3の発明では、「一番奥のスポット位置」に、必要な照射量、すなわち計画された照射量を複数回に分けた上で、繰り返し数に応じた少ない線量の粒子線を繰り返し照射して、最終的に計画された照射量を照射する。
すなわち、「一番奥のスポット位置」についても線量が積算されるように照射するため、標的の位置が変動しても線量の損失は許容範囲内で済み、必要な処方線量を一様に照射することができる。一方、「進行方向下流側境界部」以外の標的部では、前記のように標的が動いた場合でも、必要な処方線量を一様に照射することができる。また、万が一はみ出し照射となっても一回あたりの照射線量が少ないので、そのはみ出し照射による正常部への線量がその分少なくてすむ。しかも、はみ出し照射が複数回発生しても、それぞれ照射位置が異なるので、はみ出し線量が特定位置に積算され、大きな線量を与える心配もない。
従って、「一番奥のスポット位置」だけ繰り返し照射を行うことにより、短時間で照射を行うことができる。また、上記のように「進行方向下流側境界部」とそれ以外の部分との両方について必要な処方線量を一様に照射することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、スポット位置間隔を部位毎に設定可能とすることを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法である。
別言すれば、必要な照射量を複数回に分けて照射するとき、スポット位置の微調整設定が可能なことを特徴とする放射線照射方法である。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、スポット位置間隔を部位毎に適切な間隔で配置できるので、スポット位置を少しずつずらしながら繰り返し照射を行うことにより、必要な処方線量を一様に照射することができる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、標的の前記粒子線の進行方向下流側境界部に寄与の高い部位についてスポット位置間隔を細かく設定して、その分一回あたりの照射線量を少なくすることで必要な処方線量をさらに一様に照射することを特徴とする放射線照射法である。
【0027】
請求項5に記載の発明によれば、前記粒子線の進行方向下流側境界部に寄与の高い部位について、スポット位置間隔を細かく設定して少しずつずらしながら繰り返し照射を行ない、スポットの重複部分で積算される線量が処方線量に対して許容範囲内となるよう調整することができるので、「一番奥のスポット位置」についてより均一な一様線量で照射することができる。
【0028】
請求項6に記載の発明は、患者呼吸をモニタして呼気時のみに照射時間を制限することで、照射中の標的の動きを減ずることのできる呼吸同期法と併用することを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法である。
【0029】
請求項6に記載の発明によれば、呼吸同期法を併用することにより、臓器の動きが静止する呼気時(通常1秒以下)にのみ粒子線を照射することができ、放射線治療装置からの照射目標位置に対する標的部の動きが減少するため、より効果的に一様線量で照射できる。
【発明の効果】
【0030】
以上、詳述した通り、本発明によれば、スキャニング照射においてスポット毎に、標的部が呼吸などによって動くような場合でも、標的に対して一様線量で照射することができる。
【0031】
また、本発明では、スポット位置毎に繰り返し数を設定することで、繰り返し照射スポット位置の各スポットビームの照射線量を一定にすることもでき、さらに繰り返し照射するスポット位置を選択できるので治療照射時間を減ずることができるため、治療中に体の位置が変わることによって目標位置がずれることを回避することが可能になり、治療時間延長に伴う治療精度低下を抑えることができる。
【0032】
また、本発明では、繰り返し照射数に応じた少ない線量の粒子線を繰り返し照射することから、はみ出し照射による正常部への線量を少なくすることができる。
【0033】
また、本発明では、スポット位置間隔を部位毎に適切な間隔で配置できるので、スポット位置を細かく設定して少しずつずらしながら繰り返し照射を行うことにより、必要な処方線量を一様に照射することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本実施の形態に係る放射線照射方法について説明する。
放射線照射は、まず標的の位置、大きさ等をCT、PET等で把握した上で、コンピュータシミュレーションにより粒子線を照射する位置と量の計画(以下、治療計画と記す)を立案し、この治療計画を放射線治療装置に入力して、放射線治療装置から標的に粒子線を照射することにより行う。
【0035】
次に、前記治療計画に基づく標的部2に対する粒子線1の照射方法について説明する。
まず、図2に示すように、患者の臓器には、腫瘍を含む標的部2と、標的部2を囲む標的外部3とがある。つまり、粒子線1の進行方向に対して上流側から、標的外部3、標的部2と、さらに下流側にあって標的部2に隣接する標的外部3が存在する。そして、この標的部2に粒子線1を照射するときには、各スポット位置とその照射量を最適化した計画をたて、放射線治療装置から標的部2を3次元的に塗りつぶすように粒子線1のスポットビームを照射する。
【0036】
臓器に動きのある体幹部では、呼吸などの要因により照射対象である腫瘍(標的部2)の位置や形状が照射時間内に変動する。従って例えば動きのある臓器からみた隣接するスポットビーム位置の間隔が計画より狭くなれば、その部分の線量が高くなり、広くなれば線量が低くなる。特に、非一様線量分布になり線量の低い部分が発生すると、そこから再発が起こりやすいなど、治療成績を大きく下げてしまう。
【0037】
粒子線1のスポットビームからみた標的部2(図1、図2参照)の動きは独立であるので、標的部2の全部のスポットに粒子線を繰り返して照射を行うことで、標的部2に対する非一様線量分布という問題を解決できるとも考えられる。
【0038】
しかしながら、標的部2全体を繰り返して照射することは現実的ではない。その理由は、放射線照射装置側でスポット位置間の移動などの機械動作に数ミリ秒の時間を要するが、これを全スポット数(繰り返し回数×スポット位置数)の積分にすると、治療時間を大幅に延長させてしまい、その結果、患者位置がずれるなど、別の避けがたい原因による照射精度低下を引き起こすからである。
【0039】
<治療計画の立案>
治療成績を上げるためには、標的部2全体に一様に処方線量で照射し、かつはみ出す線量を減じた治療計画を立てる必要がある。
図3は、治療計画立案の際に作成される照射線量のシミュレーション値を表す。図3の横軸は標的部2の粒子線1の進行方向に対する深さを示している。また、特性線Fは、深さ方向に対する臨床線量の分布を示している。臨床線量とは、吸収線量に放射線の種類、線質により異なるRBE(Relative Biological Effectiveness)を乗じたものである。Lは標的部2のある範囲を示す。
【0040】
図3のf1のように、一番奥のスポット位置(図2中の黒丸)に対して、その上流側のスポット(図2中の白丸)よりも例えば2倍〜100倍程度またはそれ以上の非常に大きな線量をもった粒子線1を精度よく当てて塗りつぶすことで、一様線量で標的部2全体に照射するような治療計画を立てる。
【0041】
上流側は前記のごとく下流のスポットビームによる線量寄与があり、線量が積算されるので、大きな線量は不要である。これに対し、前記一番奥のスポットには上流側に照射したスポットビームの線量が届かないため、大きな線量を当てる必要がある。各スポットの位置及び照射量は、既知の計算方法に基づき一様線量となるようにシミュレーションの結果に基づいて決定される。
【0042】
図3から、f1のように、「一番奥のスポット位置」に特に大きな照射量を設定することにより、標的部2である範囲Lにおいて一様線量で照射されていることが分かる。
しかし、標的部2が前記した理由で動く場合には、「一番奥のスポット位置」に特に大きな照射量を設定するだけでは一様線量を確保できない。
【0043】
そこで、本実施の形態では、「一番奥のスポット位置」のうち例えばスポット位置f1には、必要な照射量を分割して照射する。これにより、標的部2が呼吸などによって動くような場合でも、標的部2に対して一様線量で照射することが可能になる。また、「一番奥のスポット位置」に必要な照射量を分割して照射することにより、標的外部3へのはみ出し照射量も少なくできる。
【0044】
<粒子線の照射>
次に、上記の治療計画に基づいた、放射線治療装置から標的への粒子線の照射について説明する。
図1は、本実施形態に用いる放射線照射装置である。図1に示すように、加速器(図示せず)からの粒子線1は、患者の臓器(例えば、肺、肝臓)にできた例えばひょうたん形状をなす標的となる標的部2に処方線量を与えるように照射される。なお、標的部2の周りの臓器は非標的部となる標的外部3である。
そして、この粒子線1は、3次元的に局所集中した線量分布をもつスポットビームであり、その位置と照射量は、放射線照射装置の制御手段(図示せず)に入力された上記の治療計画に従って標的部2に照射される。
【0045】
ここで、粒子線1によるスポットビームのスポット位置は、横方向と縦方向をそれぞれ水平と垂直の2台の走査電磁石4,5で制御し、深さ方向を加速器の調整またはレンジシフタ6の挿入により粒子線1のエネルギを調整することで制御される。照射量は、オンラインモニタ7で確認し、予定量に達した時点でそのスポット照射を終了する。
あるスポットに必要な照射量を複数回に分けて照射する場合、そのスポットの照射を終了するオンラインモニタ7の設定値を予め放射線照射装置の制御手段に入力しておくことによって行うことができる。
【0046】
本実施形態では、呼吸同期照射法を併用することができる。呼吸同期照射は、公知の方法で行うことができる。例えば、放射線治療装置から粒子線を照射する際、レーザー変位計を用いて腹壁または胸壁の呼吸運動を読み取り、この波形で得られる呼吸信号を増幅し、波形の任意の位相で放射線照射装置にオンオフ信号を送ることによって行う方法を用いることができる。
臓器の動きが一定時間静止する呼気時に粒子線を照射することが好ましい。これによりスポットビームの進行方向に対する標的部2の位置の変位幅を限定することが可能になり、より効果的に一様線量で照射できる。
【0047】
また本実施形態の変形として、スポット位置やその予定照射量に応じたスポットビーム照射の繰り返し数、それぞれの分割照射量を設定して照射を行うようにすることができる。スポット位置の調整は、水平、垂直方向については前記の走査電磁石4,5、深さ方向については加速器の調整またはレンジシフタ6の挿入により粒子線1のエネルギを調整することによって行うことができる。スポットビーム照射の繰り返し数は前記したオンラインモニタ7の設定値の調整により行うことができる。スポットビームを繰り返して照射する方法は、照射1回あたりの照射線量を照射量誤差が無視できる値に設定でき、また、スポット位置を移動させるなどの制御時間を少なくすることで、治療時間延長に伴う照射誤差を抑えることが出来る。もちろん、1回照射する毎に線量を変更してもよい。
これにより、照射線量の一様性を高めることができる。
【0048】
本実施形態の別の変形として、各スポット位置間隔を標的部2の部位毎に異なる値に設定することができる。例えば図2において、標的部2の粒子線1の進行方向に対して上流側のスポットの照射量が、前記した下流側のスポットへの照射量の積算により過大になる場合は、スポット位置間隔を大きくすることができる。そしてスポット位置を少しずつずらしながら繰り返し照射を行ない、スポットの重複部分で積算される線量が処方線量に対して許容範囲内となるよう調整する。スポット位置間隔の調整は、前記したスポット位置の調整と同様の方法で行うことができる。
これにより各スポットに対して最適な照射条件を選択できる。
【0049】
また、本実施形態の別の変形として、「一番奥のスポット位置」の各スポット位置間隔を、上流にあるスポット間の間隔と比較して細かく設定することができる。そしてスポット間隔を細かく設定することで一回あたりの照射線量をより少なくし、スポット位置を少しずつずらしながらスポットの重複部分で積算される線量が処方線量に対して許容範囲内となるよう繰り返し照射する。
【0050】
従って、以上の本実施の形態によれば、呼吸などによって標的部2が動くような場合でも、標的部2に対して粒子線1を一様線量で照射することができ、治療成績を上げることができる。同時に、標的部2と隣接する標的外部3へのはみ出し照射量も少なくできる。
【0051】
照射方向に直交するXY平面上に多数のスポット位置がマス目状に配置される場合、その中央部のスポット位置mは周囲8個のスポット位置に隣接するが、辺に接するスポット位置eは5個のスポット位置に隣接し、角部のスポット位置cは3個のスポット位置に隣接することになる。このXY平面上において、スポットビームは隣接するスポットビームとオーバラップするように照射されるので、近隣に配置されるスポットビームによる照射線量が蓄積される。従って、標的内の処方線量が同じであるとすると、周囲を多数の他のスポット位置に囲まれている位置のスポットビームは照射量が少なくてすむ。そのため標的内の処方線量が同じであるとすると、各スポット位置に対する照射線量の大きさdは、d:スポット位置m<スポット位置e<スポット位置cとなる。これは、XZ平面上、YZ平面上に関しても同様なことがいえる。本発明では、繰り返し照射するために、各スポット位置に対する総照射線量を繰り返し数で調整することができるので、各スポットビームの照射量をそろえることができ、そのため制御が容易となる。
【0052】
なお、実施形態においてひょうたん形状をなす標的部2に対して粒子線1を照射する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限ることなく、例えば図6に示す変形例のように、「く」字状に曲がった標的部2′に対しても前記繰り返し照射方法を用いて粒子線1′を照射することが可能である。
【0053】
この場合、非照射部と隣接した前記「一番奥のスポット位置」は2箇所あり、標的部2′の厚肉部2A′から横方向に突出した第1の突出部2B′の非標的部に隣接する前記「一番奥のスポット位置」と、標的部2′の厚肉部2A′から横方向に突出した第2の突出部2C′の非標的部に隣接する前記「一番奥のスポット位置」とであり(共に中の黒丸の部分)、両部分に対して繰り返して照射を行うようにする。これにより標的部2′に対して粒子線1′を一様線量で照射することができる。なお、この変形例の場合、第1の突出部2B′と第2の突出部2C′との間の距離W(図6参照)がスポットビームの径よりも小さい場合には、第2の突出部2C′と厚肉部2A′に対してのみ、繰り返して照射を行うのが好ましい。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の効果を確認した実施例について図4および図5を参照して説明する。図4(a)は、繰り返し照射を行わずに粒子線をスキャニング法を用いて標的部2に照射したときの塗りむらを示す分布図である。図4(b)は、実線が図4(a)中の矢示A‐A方向からみた線量の分布図であり、点線が図4(b)中の矢示B−B方向からみた線量の分布図である。なお、粒子線の照射は図1に示す放射線照射装置により行う。
【0055】
図5(a)は、前記「一番奥のスポット位置」のみ照射を10回繰り返す繰り返し照射スキャニング法を用いて粒子線を標的部2に照射したときの塗りむらを示す分布図である。図5(b)は、実線が図5(a)中の矢示C−C方向からみた線量の分布図であり、点線が図5(a)中の矢示D−D方向からみた線量の分布図である。
【0056】
図4に示すように繰り返して照射を行わないと標的である標的部2に線量の塗りむらが大きくなり、線量の非一様性が生じていることが分かる。これに対し、図5に示すように標的部2に対し繰り返して照射を行った場合には、塗りむらが少なくなり、一様線量で照射されていることが分かる。照射の繰り返し数をさらに多くすると、より均等に照射される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る放射線照射装置を示す概略図である。
【図2】図1中の標的部を拡大して示す拡大図である。
【図3】体内の深さ方向と線量との関係を示す特性線図である。
【図4】(a)は繰り返して照射を行わずに重粒子線をスキャニング法を用いて標的部に照射したときの塗りむらを示す分布図であり、(b)は、実線が図4(a)中の矢示A‐A方向からみた線量の分布図であり、点線が図4(b)中の矢示B−B方向からみた線量の分布図である。
【図5】(a)は、最奥側のみ繰り返して照射を行って重粒子線をスキャニング法を用いて標的部に照射したときの塗りむらを示す分布図であり、(b)は、実線が図5(a)中の矢示C−C方向からみた線量の分布図であり、点線が図5(a)中の矢示D−D方向からみた線量の分布図である。
【図6】本発明の変形例による標的部を拡大して示す拡大図である。
【図7】粒子線および光子線における表面からの深さと相対線量との関係を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0058】
1,1′ 粒子線
2,2′ 標的部
3 標的外部
4,5 走査電磁石
6 レンジシフタ
7 オンラインモニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線のスキャニング照射法において、必要な線量を複数回に分けて照射することを特徴とする放射線照射方法。
【請求項2】
前記必要な線量を複数回に分けて照射するとき、スポット位置毎に繰り返して照射する回数が設定可能なことを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法。
【請求項3】
前記必要な線量を複数回に分けて照射するとき、標的の前記粒子線の進行方向下流側境界部に寄与の高いスポット位置について、繰り返して照射することを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法。
【請求項4】
スポット位置間隔を部位毎に設定可能とすることを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法。
【請求項5】
標的の前記粒子線の進行方向下流側境界部に寄与の高いスポット位置についてスポット位置間隔を細かく設定することを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法。
【請求項6】
呼吸同期照射法と組み合わせて行うことを特徴とする請求項1に記載の放射線照射方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−87649(P2006−87649A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276414(P2004−276414)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】