放射線画像撮影システム
【課題】タルボ干渉計方式を用いて人体の軟骨組織等の辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることができる放射線画像撮影装置の撮影画像を処理する放射線画像撮影システムを提供する。
【解決手段】放射線画像撮影システム100は、X線管8と、被写体台12と、複数の格子11、15、16と、X線検出器17とを備える放射線画像撮影装置1と、制御装置20と、画像処理装置30と、画像出力装置50とを備え、制御装置20は、被写体台12に被写体Hを載置しない状態で予め撮影された第一のモアレ縞画像と、第一のモアレ縞画像の撮影後に被写体台12に被写体Hを載置しない状態で撮影された第二のモアレ縞画像とに基づいて複数の格子のいずれかに歪みが生じたか否かの判断を行い、画像処理装置30は、前記第二のモアレ縞画像のX線画像データに基づいて、被写体Hが存在する状態で撮影されたX線画像データの補正を行う。
【解決手段】放射線画像撮影システム100は、X線管8と、被写体台12と、複数の格子11、15、16と、X線検出器17とを備える放射線画像撮影装置1と、制御装置20と、画像処理装置30と、画像出力装置50とを備え、制御装置20は、被写体台12に被写体Hを載置しない状態で予め撮影された第一のモアレ縞画像と、第一のモアレ縞画像の撮影後に被写体台12に被写体Hを載置しない状態で撮影された第二のモアレ縞画像とに基づいて複数の格子のいずれかに歪みが生じたか否かの判断を行い、画像処理装置30は、前記第二のモアレ縞画像のX線画像データに基づいて、被写体Hが存在する状態で撮影されたX線画像データの補正を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像撮影システムに係り、特に、タルボ干渉計方式を用いた放射線画像撮影装置により撮影された画像の処理を行う放射線画像撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本におけるリウマチ疾患の罹患率は1%にも達しており、今や国民病ともされている。その初期症状として軟骨部の磨り減り(軟骨破壊)や微細な骨形状や骨梁の変化が観察され、症状が進行したところで骨部の形状の大きな変化が観察される。したがって、リウマチ疾患は、軟骨部の形状や微細な骨形状や骨梁の変化を観察することで病状の診断が可能であり、症状の進行を止める治療方法しかない現在の段階では早期発見による治療への移行が重要である。
【0003】
リウマチ疾患の上記初期症状は、手軽な検査方法であるX線写真では検出することが非常に難しく、発症しているか否かを判断し難い。
【0004】
一方、軟部組織の変化を発見するためには、最近、放射線画像撮影に代わり、MRI(magnetic resonance imaging)等により得られた画像を用いた診断が検討されている。また、最近では、放射線画像撮影のうち、放射線が平行に直進する放射光を取り出し、これを用いて軟骨部を撮影する技術も報告されている。しかし、MRIによる撮影は費用や診察に要する時間等の観点から被撮影者の負担が大きく、一般の定期検診等に組み込んで行うことは難しいことから、撮影を定期的に行い手指等の関節部の変化を経時的に観察することは困難であるという問題があった。
【0005】
また、放射光を用いた撮影を行うためには、巨大な撮影設備が必要であり、また、撮影に数10分の時間を要する場合もあるため、一般の医療施設において診療に使用することは困難である。このようなことから、簡便に関節形状や骨形状の微細な変化や腫れなどの軟部組織の疾患を早期に診断できるようにすることが望まれている。
【0006】
ここで、前記のように、例えばリウマチ疾患早期の診断を行うには、患部の微細な症状を識別できる鮮鋭性の高い放射線画像を撮影する必要があるわけであるが、鮮鋭性の高い放射線画像が得られる放射線画像撮影装置としては、例えば特許文献1に示すような放射線画像撮影装置を用いて位相コントラスト画像を撮影する技術が知られている。この技術によれば、通常の吸収によって形成される放射線画像では十分なコントラストが得られないX線吸収の低い被写体に対しても、その辺縁部(エッジ部)のコントラストを強調した画像を得ることができる。そして、この技術は前記のリウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など、様々な部位に適用することができる。
【0007】
そして、被写体の辺縁部のコントラストをさらに強調することができる技術として、例えば特許文献2に回折格子によるタルボ効果を用いたタルボ干渉計方式のX線撮影装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−248699号公報
【特許文献2】国際公開第2004/058070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載されているタルボ干渉計方式では、放射光X線源が使用されており、上記にも示したが特殊な施設が必要であるため、広く一般の診療施設で利用することができないという問題がある。また、低エネルギーのX線を照射することが想定されている。これは、低エネルギーのX線の方が位相コントラストの効果大きいことと、さらに従来のX線画像で利用されている吸収コントラストも強いためである。しかし、低すぎるエネルギーのX線は人体への吸収が多く検出器への到達線量が少ないため、検出器での信号が程度のSNを得るためには照射線量を多くする必要が生じ、このことは被曝量が多くなるとことにつながる。また、照射線量が増えることは、撮影時間が長くなることにつながる。しかし、長時間の撮影時間の間に被写体である人体が動かないようにすることは困難である。そして、被写体が動くことで、被写体の辺縁部がぶれたX線画像が撮影されてしまい、被写体の辺縁部のコントラストを強調することができるというタルボ干渉計方式の特性が減退してしまう。
【0010】
一方、照射するX線のエネルギーが高すぎると、照射時間は短くなるが、人体を構成する骨や軟部の組織等のコントラストが十分に得られないという知見が得られている。有効にコントラストが得られなければ被写体である人体の診断に使用しうるX線画像が得られないという問題点がある。
【0011】
このように、タルボ干渉計方式の放射線画像撮影装置を医療用に用いる場合、使用できるX線のエネルギー(正確には平均エネルギー)の範囲は比較的狭い。しかも、タルボ効果を生じさせてタルボ干渉計方式を実現するためには、後述するように第一回折格子と第二回折格子との距離や各回折格子を構成する回折部材の間隔(格子周期)等に大きな制約を受ける。
【0012】
前記のように、タルボ干渉計方式を、リウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など、様々な部位に適用することが期待されている。しかし、そのためには上記のような極めて厳しい条件をクリアするように構成しなければならない。
【0013】
本発明は、タルボ干渉計方式を用いて人体の軟骨組織等の辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることができる放射線画像撮影装置の撮影画像を処理する放射線画像撮影システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の問題を解決するために、本発明の放射線画像撮影システムは、
X線を照射するX線管と、
被写体を載置する被写体台と、
複数の格子と、
前記複数の格子を通過したX線を検出するX線検出器と、
を備える放射線画像撮影装置と、
前記被写体台に被写体を載置しない状態で前記X線管からX線を照射し、前記複数の格子を透過したX線を前記X線検出器で検出して撮影されるモアレ縞画像に基づいて、前記複数の格子に歪みが生じたか否かを判断する制御装置と、
前記放射線画像撮影装置により撮影された画像を処理する画像処理装置と、
前記画像処理装置により処理された画像を出力する画像出力装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記被写体台に被写体を載置しない状態で予め撮影された第一のモアレ縞画像と、前記第一のモアレ縞画像の撮影後に前記被写体台に被写体を載置しない状態で撮影された第二のモアレ縞画像とに基づいて、前記複数の格子のいずれかに歪みが生じたか否かの判断を行い、
前記画像処理装置は、前記第二のモアレ縞画像のX線画像データに基づいて、前記被写体が存在する状態で前記放射線画像撮影装置により撮影されたX線画像データの補正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タルボ効果を十分に発揮させてモアレ縞画像中に被写体の形状を精度良く検出することが可能となる。その際、X線管から15〜60keVの平均エネルギーを有するX線を数分の一秒以下の短時間照射することで、被写体である人体の動きによるぶれがないX線画像が得られ、人体への負担が軽減されるとともに、X線管とX線検出器との距離、X線管と第一回折格子との距離、及びX線管の焦点径を的確に設定することでX線の短時間の照射でも十分明瞭なX線画像を得ることが可能となる。
【0016】
そのため、リウマチを代表とする関節疾患や、そのほとんどが軟部組織でありさらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など通常のX線撮影装置ではX線画像が得られ難い様々な部位に対してタルボ干渉計方式を用いてその辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る放射線画像撮影システムの全体構成の一例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【図3】図2の放射線画像撮影装置の内部構成を示す図である。
【図4】第一回折格子、第二回折格子及び温度センサの斜視図である。
【図5】本実施形態に係る放射線画像撮影装置の制御構成を示すブロック図である。
【図6】図2の放射線画像撮影装置におけるX線の透過及びモアレ縞を説明する要部斜視図である。
【図7】図6のI−I断面図である。
【図8】図6のII−II断面図である。
【図9】図2の放射線撮影装置におけるX線管、被写体、第一回折格子、第二回折格子、X線検出器の位置関係を説明する説明図である。
【図10】被写体を第一回折格子と第二回折格子の間に配置するように構成した放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【図11】他の実施形態に係る放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【図12】図11の放射線画像撮影装置の内部構成を示す図である。
【図13】マルチスリットの構成を示す斜視図である。。
【図14】放射線画像撮影装置をタルボ・ロー干渉計方式とした場合のX線の透過及びモアレ縞を説明する要部斜視図である。
【図15】マルチスリットの各スリットを通過したX線による第一回折格子の自己像が第二回折格子上でピントがあった状態を説明する図である。
【図16】タルボ・ロー干渉計方式の放射線画像撮影装置におけるX線管、マルチスリット、被写体、第一回折格子、第二回折格子、X線検出器の位置関係を説明する説明図である。
【図17】屈折コントラスト画像方式の概略を説明する図である。
【図18】位相コントラスト効果について説明する図である。
【図19】被写体を第一回折格子と第二回折格子の間に配置するように構成した放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る放射線画像撮影システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。
【0019】
本実施形態では、放射線画像撮影システム100は、図1に示すように、放射線であるX線を照射することにより被写体の画像を生成する放射線画像撮影装置1と、放射線画像撮影装置1によって生成された画像の画像処理等を行う画像処理装置30と、画像処理装置30によって画像処理等が行われた画像等を表示又はフィルム出力等する画像出力装置50とから構成されており、各装置は、例えば図示しないスイッチングハブ等を介してLAN(Local Area Network)等の通信ネットワーク(以下単に「ネットワーク」という。)Nに接続されている。
【0020】
なお、放射線画像撮影システム100の構成は、ここに例示したものに限定されず、例えば、画像処理装置30と画像出力装置50とが一体化されて、1つの装置によって画像処理と画像処理された画像の出力(表示又はフィルム出力等)とを行うように構成してもよい。
【0021】
放射線画像撮影装置1には、図2及び図3の構成例に示すように、支持基台3が床面にボルト等で固定された支持台2に対して昇降自在に設けられている。支持基台3には、撮影装置本体部4が支持軸5を介して支持されている。支持軸5は、筒状の支持外筒5aとその内側の支持内軸5bとで構成されており、支持外筒5aは支持内軸5bの外側でCW方向及びCCW方向に回動されるようになっている。
【0022】
支持基台3には、その昇降及び支持軸5の回動を駆動する駆動装置6が備えられており、駆動装置6は、図示しない公知の駆動モータ等を備えている。撮影装置本体部4は支持外筒5aに固定されており、支持軸5を介して支持基台3の昇降にあわせて昇降するようになっている。また、撮影装置本体部4は、支持軸5の支持外筒5aがCW方向及びCCW方向に回動されることにより支持軸5を回動軸として回動するようになっている。
【0023】
撮影装置本体部4内には、略棒状の保持部材7が上下方向に延びるように固定されている。保持部材7の上部には、被写体HにX線を放射するX線管8が昇降自在に支持されており、X線管8は、図示しない公知の駆動モータ等を備える位置調整装置9で昇降されて位置調整されるようになっている。X線管8には、電力を供給する電源部10が支持基台3や支持軸5、撮影装置本体部4を介して接続されている。X線管8のX線放射口には、X線照射野を調節するための絞り8aが、開閉自在に設けられており、絞り8aはX線管8とともに昇降するようになっている。
【0024】
X線管8は、15〜60keVの平均エネルギーを有するX線を照射するものが用いられる。これは、照射するX線の平均エネルギーが15keV未満では、照射するX線のほとんど大部分が被写体で吸収されてしまうために、被写体の被曝線量が非常に大きくなってしまい、臨床での利用は好ましくない。また、照射するX線の平均エネルギーが60keVより大きいと、人体を構成する骨や軟部の組織等のコントラストが十分に得られず、得られたX線画像が診断等に用いることができない可能性があるためである。
【0025】
X線管8としては、例えば、医療現場で広く用いられているクーリッジX線管や回転陽極X線管が好ましく用いられる。その際、X線管球のターゲット(陽極)に乳房撮影で使用されるMo(モリブデン)を用いた場合(この場合は、通常、30μm厚のモリブデンフィルタを付加する)、一般に管電圧の設定値が22kVpで平均エネルギーが15keVのX線が照射され、管電圧の設定値が39kVpで平均エネルギーが21keVのX線が照射される。また、ターゲットに一般撮影で使用されるW(タングステン)を用いた場合、管電圧の設定値が30、50、100、150kVpで平均エネルギーがそれぞれ22、32、47、60keVのX線が、通常照射される。
【0026】
本実施形態のようにリウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影等の関節疾患等を対象とした放射線画像撮影装置1の場合、前記のX線エネルギーの中でも特に低X線エネルギー(低管電圧に設定)のX線照射で、位相コントラスト効果により鮮明度が向上し診断能が向上するので、照射するX線の平均エネルギーは好ましくは15〜32keVであり、被曝線量等を考慮すると、ターゲットとしてWを用いた20〜27keVであることがさらに好ましい。
【0027】
また、X線管8の焦点径は、上記の平均エネルギーの範囲のX線を照射でき、且つ実用上の出力強度が得られるように1μm以上に設定されるようになっている。十分なX線強度を得るために焦点径は7μm以上であれば好ましい。また、後述する第一回折格子に入射するX線は、可干渉性を有する必要がある。X線が15〜60keVの平均エネルギーを有するX線が用いられる点と、後述するように撮影装置として長くても2m程度が上限である点より、可干渉性を有するには、X線管8の焦点径は50μm以下であることが好ましい。さらに、可干渉性を良くし、後述するタルボ効果をより有効に利用し鮮明な画像を得るためには30μm以下であることが好ましい。なお、X線管8の焦点径は、JIS Z 4704−1994の7.4.1焦点試験の(2.2)スリットカメラに規定されている方法で測定することができる。
【0028】
X線管8から照射されるX線の平均エネルギーが15〜60keVの範囲内であり、その焦点径が1μm以上であれば、1回の撮影ごとのX線の照射は数分の一秒間程度、長くても2〜3秒以下で終了するように設定することができる。
【0029】
なお、X線管8は、照射するX線の波長分布の半値幅が、当該X線のピーク波長の0.1倍以下であるものが好ましく、X線管8は、このような条件を満たすものであれば上記のクーリッジX線管や回転陽極X線管に限定されず、マイクロフォーカスX線源等であってもよい。
【0030】
X線管8の下方には、被写体Hを載置するための被写体台12が床面にほぼ平行な状態になるように支持軸5の支持内軸5bから延設されている。被写体台12や支持内軸5bは撮影装置本体部4や保持部材7には固定されておらず、そのため、前述したように撮影装置本体部4は支持軸5の支持外筒5aの回動によりCW方向及びCCW方向に回動されても、被写体台12はそれにあわせて回動しないようになっている。
【0031】
被写体台12は、必要に応じて支持内軸5b周り等に回転することも可能とされており、また、必要に応じて被写体Hは上方から圧迫板13で圧迫されて固定されるようになっている。圧迫板13は図示しない支持部材で被写体台12に支持されている。圧迫板13の移動は、自動又は手動のいずれも適用可能である。
【0032】
被写体台12は、このように支持軸5を介して支持基台3の昇降にあわせて昇降するようになっており、支持基台3を昇降させて、例えば被検者が被写体Hである腕を被写体台12に載せて疲れにくい姿勢をとることができるような位置に調整される。また、被写体台12の下面には、被験者が脚をぶつけることなく撮影位置につくことができるように、プロテクタ14が、ほぼ鉛直方向に延在して設けられている。これにより、被検者は椅子Xに座った状態で、後述する第一回折格子15等に脚をぶつけることなく、また、X線により被曝することなく撮影位置につくことができるようになっている。なお、圧迫板13及びプロテクタ14は必須の構成要素ではなく、圧迫板13及びプロテクタ14を用いない構成としてもよい。
【0033】
保持部材7の中央部には、被写体台12の下側に第一回折格子15が昇降自在に支持されており、保持部材7の下部には、第二回折格子16が昇降自在に支持されている。第一回折格子15と第二回折格子16とは、互いに平行に配置されるように保持されている。第一回折格子15と第二回折格子16の構成及びそれらと後述するX線検出器17との位置関係については後で詳しく述べる。
【0034】
第一回折格子15のX線管8に対する距離Lは、第一回折格子15が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。また、第一回折格子15から第二回折格子16までの距離Z1は、第二回折格子16が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。なお、本実施形態では、第一回折格子15および第二回折格子16は、それぞれ独立に位置調整装置9で昇降される。また、本発明において、X線管8と他の部材との距離とは、正確にはX線管8の焦点と他の部材との距離を表す。
【0035】
また、第一回折格子15と第二回折格子16には、例えば図4に示すように、X線により撮影されない位置にそれらの温度を測定する温度センサ15a、16aがそれぞれ配設されている。なお、例えば、第一回折格子15と第二回折格子16の温度がそれぞれの面内で均一となるようにX線撮影を阻害せず熱伝導性が良いものを第一回折格子15と第二回折格子16とにそれぞれ貼り付けたり、例えば電流の向きや電流の大きさを制御して加熱や冷却を行うことができるペルチェ素子等を第一回折格子15や第二回折格子16に配設してそれらの加熱や冷却を行うことができるように構成することも可能である。
【0036】
図2及び図3に示すように、第二回折格子16の下方には、X線検出器17を支持する検出器支持台18が保持部材7に対して昇降自在に支持されており、検出器支持台18は前述した位置調整装置9により第一回折格子15等とは独立に昇降されて位置調整されるようになっている。
【0037】
X線検出器17は、X線管8に対向するように検出器支持台18上に支持されている。図2及び図3等では、X線検出器17と第二回折格子16とが別体であることを示すためにそれらの間にある程度の距離Z2があいているように表現されているが、実際には、X線検出器17と第二回折格子16とは互いに当接した状態で配設される。これは、第二回折格子16とX線検出器17の距離が離れるほど、モアレ縞がぼけてしまうからである。すなわち図3における距離Z2がほぼ0になるように配置される。なお、第二回折格子16とX線検出器17を一体的に構成することも可能である。また、X線検出器17の下側や検出器支持台18の内部等には、X線検出器17の下方にある人体へのX線照射による被曝を防ぐために図示しない放射線遮蔽部材が設けられている。
【0038】
X線検出器17は、図示を省略するパネルや検出器制御部等がバスで接続されて構成されている。そして、X線管8から放射され被写体Hを透過したX線量を検出してX線画像データとしてネットワークN(図1参照)を介して画像処理装置30に出力するようになっている。
【0039】
X線検出器17としては、X線量を画素ごとにデジタル情報として検出するFPD(Flat Panel Detector)やCR(Computed Radiography)、CCD(Charge Coupled Device)を用いた検出器が好ましく用いられるが、2次元画像センサとして優れるFPDが特に好ましい。画素サイズは10〜200μmが好ましく、50〜150μmであればより好ましい。パネル全体の大きさは適宜選択される。
【0040】
X線検出器17は、X線管8との距離Ltotalが0.5m以上となるように設定されるようになっており、また、距離Ltotalの上限は、放射線画像撮影装置1を室内で使用することや放射線画像撮影装置1の精度や強度等を考慮して2m程度に設定される。
【0041】
放射線画像撮影装置1に対する各種設定やその動作の制御は、図5に示す制御装置20で行われるようになっている。制御装置20は、図示しないCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等がバスで接続されたコンピュータで構成される。
【0042】
放射線画像撮影装置1が設置された同じ室内に制御装置20を設置することも可能であるが、本実施形態では、制御装置20は、ネットワークNを介して放射線画像撮影装置1に接続されている画像処理装置30を構成するコンピュータを利用して構築されている。すなわち、制御装置20と画像処理装置30とが同じコンピュータを用いて構成されている。なお、制御装置20を、ネットワークNを介して接続される画像処理装置30とは別体のコンピュータ内に構成することも可能である。
【0043】
制御装置20は、図5に示すように、前述したX線管8や電源部10、駆動装置6、位置調整装置9、温度センサ15a、16aのほか、照射されたX線量の検出を行う放射線量検出装置21や、入力装置22a及び表示装置22bを備える操作装置22等に接続されている。
【0044】
制御装置20のROM等のメモリには、放射線画像撮影装置1各部を制御するための制御プログラム及び各種処理プログラムが記憶されており、制御装置20は、キーボードやマウス、コントローラ等の入力装置22aから入力されるオペレータの入力に基づいて、メモリから制御プログラム及び各種処理プログラムを読み出して、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ等の表示装置22bに制御内容を表示させながら放射線画像撮影装置1各部の動作を統括的に制御するようになっている。
【0045】
例えば、前述したように使用されるX線管8の管電圧が設定されるとX線管8から照射されるX線の平均エネルギーが決まり、それに応じてX線管8と第一回折格子15との距離Lの許容範囲や、第一回折格子15と第二回折格子16との間の距離Z1が決まる。また、前述したように第二回折格子16とX線検出器17とを密着させた場合、図2において、仮にX線管8から被写体台12までの距離をR1、被写体台12からX線検出器17までの距離をR2とすると、被写体台12の位置により被写体Hの拡大率は(R1+R2)/R1で決まる。
【0046】
そこで、本実施形態では、制御装置20は、入力装置22aを介してX線管8の管電圧や距離L、距離Z1、拡大率等が入力されると、それに基づいて位置調整装置9を駆動させて、被写体台12に対してX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整を行う。そして、それらの位置関係を保ったまま支持基台3の昇降により被写体台12を昇降させて被検者が疲れにくい姿勢をとるように位置調整を行うようになっている。
【0047】
なお、被写体台12と第一回折格子15等とが接触しないように位置調整されなければならないから、前述した距離R1、R2には限界があり、従って、拡大率(R1+R2)/R1も設定できる範囲が限られる。そのため、X線管8の管電圧や距離L、距離Z1、拡大率が入力された段階で表示装置22bに拡大率の設定可能な範囲を表示するように構成することも可能である。
【0048】
また、あらかじめ使用されるX線管8の管電圧に対して好適な距離Lや距離Z1のLUT(Look Up Table)を用意しておき、管電圧が入力されると自動的に距離Lや距離Z1が設定されるように構成することも可能である。この場合、管電圧が入力されると自動的にX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整が行われ、拡大率が入力されると、それに応じてそれらと被写体台12との位置調整が行われる。
【0049】
制御装置20は、このようにしてX線管8等の位置調整とともに、駆動装置6を駆動して支持軸5を図3のCW方向又はCCW方向に回動させ、撮影装置本体部4を被写体H周りに回動させて放射線照射角度を調節するようになっている。
【0050】
また、制御装置20は、放射線画像撮影装置1の稼動時には、電源部10からX線管8に電力を供給して被写体Hに対してX線を照射させ、放射線量検出装置21が検出したX線量が予め設定されたX線量に達すると、電源部10からX線管8への電力の供給を停止してX線の照射を停止させる。なお、X線の照射条件は、放射線量検出装置21が検出するX線量以外の要素、すなわち例えばX線検出器17の種類等も加味されて適宜設定される。
【0051】
本実施形態では、制御装置20は、駆動装置6を駆動して支持軸5を回転させて撮影装置本体部4を回転させ、X線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17を被写体Hの周囲で回転させることで、被写体Hに複数の方向からX線を照射して連続的に撮影することができるようになっている。なお、撮影装置本体部4の回転量や撮影タイミング(回転角度が何度ごとに撮影するかのタイミング)等は、入力装置22aから入力されて設定される。
【0052】
また、制御装置20は、第一回折格子15と第二回折格子16に配設された温度センサ15a、16aにより測定された第一回折格子15と第二回折格子16の温度が、予め設定された温度以上か否かの判断を行うようになっており、本実施形態では、制御装置20は、第一回折格子15の温度と第二回折格子16の温度の少なくとも一方が予め設定された温度以上になった場合には、警告を行うようになっている。警告は、表示装置22bを制御して警告する旨を視覚的或いは聴覚的な報知により表示をさせる。
【0053】
なお、前述したように電流の向きや電流の大きさを制御して加熱や冷却を行うことができるペルチェ素子等が第一回折格子15や第二回折格子16に配設されている場合には、温度センサ15a、16aが測定した第一回折格子15と第二回折格子16の温度が上昇又は下降する場合にペルチェ素子等を作動させて第一回折格子15と第二回折格子16の温度が所定の温度範囲に収まるように制御することも可能である。
【0054】
本実施形態では、さらに、制御装置20は、後述するように被写体Hを被写体台12に載置しない状態で検出されるモアレ縞画像(後述する図6のモアレ縞M参照)に基づいて第一回折格子15や第二回折格子16に温度による歪みや経時的な歪みが生じたか否かを判断するように構成されている。
【0055】
具体的には、制御装置20は、放射線画像撮影装置1が工場から出荷されて室内に設置された段階や第一回折格子15及び第二回折格子16を交換した段階で、装置の稼動開始前に被写体Hを被写体台12に載置しない状態で撮影されたモアレ縞画像をRAM等のメモリに記憶しておく。そして、設定された放射線画像撮影装置1の使用時間を経過したりX線の照射回数が所定の回数に達するなど予め設定された条件を満たした段階で、改めて被写体Hを被写体台12に載置しない状態でモアレ縞画像を撮影する。定期的にモアレ縞画像を撮影するように構成してもよい。
【0056】
そして、稼動開始前に撮影したモアレ縞画像をメモリから読み出して比較して、今回撮影されたモアレ縞画像が、稼動開始前に撮影したモアレ縞画像に比べてモアレ縞の間隔が所定量以上拡大し又は縮小した、モアレ縞の一部又は全部が曲がった、モアレ縞のうち照射されたX線が最大の部分と最小の部分との検出量の差が所定量以上に拡大又は縮小した等の条件を満たす場合に、制御装置20は、第一回折格子15や第二回折格子16の回折部材(格子)に歪みが生じたと判断するようになっている。なお、この操作は、後述するタルボ干渉計方式とタルボ・ロー干渉計方式と屈折コントラスト画像方式を切り換えられるようになっている実施形態においては、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれか一方の方式の場合にのみ行ってもよく、全ての方式で行ってもよい。
【0057】
制御装置20は、このようにして第一回折格子15や第二回折格子16の回折部材に歪みが生じたと判断すると、前記と同様に、表示装置22bを制御して警告する旨を視覚的或いは聴覚的な報知により表示をさせて警告を行うようになっている。
【0058】
画像処理装置30と画像出力装置50とは、図1に示したように、ネットワークNで放射線画像撮影装置1に接続されている。画像出力装置50には、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ等の表示装置や画像をフィルム出力するための現像装置等が含まれる。
【0059】
画像処理装置30は、ネットワークNを介して放射線画像撮影装置1のX線検出器17から画素ごとのX線画像データが送信されてくると、図示しないメモリに受信したX線画像データを一時記憶するようになっている。メモリとしては、大容量かつ高速の記憶装置であるハードディスク、RAID(Redundant Array of Independent Disks)等のハードディスクアレイ、シリコンディスク等を用いることができる。
【0060】
また、画像処理装置30は、被写体Hが存在しない状態で予め放射線画像撮影装置1にモアレ縞画像を撮影させてそのX線画像データを送信させ、そのX線画像データをメモリに記憶しておくようになっている。このX線画像データを仮に基準X線画像データとする。そして、画像処理装置30は、放射線画像撮影装置1による被写体Hの撮影作業が開始されると、被写体Hが存在する状態で放射線画像撮影装置1により撮影され送信されてきたX線画像データを基準X線画像データに基づいて補正するようになっている。
【0061】
補正は、例えば画像上の位置ずれや感度ムラ(すなわち検出器の信号値の非一様性)等について行われる。すなわち、基準X線画像データにより画像上の一定の画素領域で位置ずれが生じることが分かっている場合には、送信されてきたX線画像データのその画素領域について位置ずれの分だけ元に戻す補正を行うことで、位置ずれを補正することができる。また、位置ずれ補正後のX線画像データを基準X線画像データで画素ごとに割り算することで、回折格子が存在することに起因する感度ムラのないX線画像を得ることができる。画像処理装置30はこのように処理したX線画像データもメモリに保存するようになっている。
【0062】
また、画像処理装置30は、X線検出器17により検出されたX線画像(モアレ縞画像)から被写体Hによる屈折効果によってX線が曲げられる角度の分布像(位相シフト微分像)への変換、位相シフト微分像を積分することによる位相のずれそのものを表す像の取得を行うことができるようになっている。前記変換や像の取得には、国際公開第2004/058070号などに示される方法など公知の手法が用いられる。
【0063】
また、本実施形態では、画像処理装置30は、画像放射線画像撮影装置1から被写体Hを撮影する方向を変えて連続的に撮影された複数のX線画像データが送信されてくると、それらの複数のX線画像データに基づいて被写体Hの三次元画像を形成するようになっている。形成された三次元画像は、液晶ディスプレイ等に表示させたりフィルム出力させるなどして画像出力装置50から出力される。なお、この場合、被写体Hを撮影した複数の二次元の画像データから三次元画像を形成する手法としては公知の手法が用いられる。
【0064】
なお、このようにして得られた被写体Hの二次元画像や三次元画像に対してさらに処理を施すことも可能である。例えば、背景の淡色に対して軟骨部分が濃色で出力される画像の輝度を反転させて表示、フィルム出力させたり、或いは標準的な軟骨部分のモデルに対して大きく変化している部分を着色して表示、フィルム出力させることで、症状が現れている部分を強調した画像等を得ることが可能となる。また、例えば、手の指にリウマチの症状が現れているような場合には、指の関節の角度を種々変化させた複数の三次元画像を得ることで動画像的に患部を観察することが可能となる。
【0065】
なお、以上の操作は、後述するタルボ干渉計方式とタルボ・ロー干渉計方式と屈折コントラスト画像方式を切り換えられるようになっている実施形態においては、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれか一方の方式の場合にのみ行ってもよく、全ての方式で行ってもよい。
【0066】
次に、本実施形態の放射線画像撮影装置1において構成されるタルボ干渉計について説明し、第一回折格子15と第二回折格子16の構成やそれらとX線検出器17との位置関係等の説明とあわせて放射線画像撮影装置1の作用について説明する。
【0067】
本実施形態においては、図6に示すように、X線管8から照射され被写体Hを透過したX線が、第一回折格子15及び第二回折格子16を透過してX線検出器17に入射するようになっており、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ干渉計が構成される。
【0068】
図7は、図6におけるI−I断面図である。図6及び図7に示すように、第一回折格子15は、基板151と、この基板151に配置された複数の回折部材152とを備え、被写体台12及びこれに保持された被写体Hを透過して照射されたX線を回折することにより後述するタルボ効果を生じさせる。基板151は、例えばガラス等により形成される。なお、基板151の、回折部材152が配置されている面を回折格子面153とする。
【0069】
複数の回折部材152は、いずれも、X線管8から照射されるX線の照射方向に直交する一方向、すなわち例えば図6では上下方向に延びる線状の部材である。各回折部材152の厚みはほぼ等しくなっており、例えば10〜50μmの範囲で形成される。
【0070】
また、図7に示すように、複数の回折部材152相互間の間隔d1は一定とされており、回折部材152相互間の間隔は等間隔とされている。間隔d1は3〜10μm程度に形成される。間隔d1は格子周期や格子間隔とも呼ばれる。なお、複数の回折部材152の相互間の間隔d1及び各回折部材152の幅は特に限定されず、回折部材152相互間の間隔と各回折部材152の幅が等しくなるように形成してもよいし、異なるように形成してもよい。
【0071】
複数の回折部材152を構成する材料としては、X線吸収性に優れるものが好ましく、例えば金、銀、白金等の金属を用いることができる。回折部材152は例えば基板151の上にこれらの金属をめっき、蒸着等することにより形成される。回折部材152は、回折部材152に照射されたX線の位相速度を変化させるものであり、回折部材152としては、照射されるX線に対して約80°〜100°、好ましくは90°の位相変調を与える、いわゆる位相型回折格子を構成するものであることが好ましい。X線はかならずしも単色である必要はなく、上記条件を満たす範囲のエネルギー幅(つまり波長スペクトル幅)を有しても構わない。
【0072】
図8は、図6におけるII−II断面図である。図6及び図8に示すように、第二回折格子16は、前記第一回折格子15と同様に基板161と複数の回折部材162とを備える。なお、基板161の、回折部材162が配置されている面を回折格子面163とする。
【0073】
ここで、第二回折格子16の回折部材162相互間の間隔d2は、X線管8から第二回折格子16までの距離L+Z1と間隔d2との比が、X線管8から第一回折格子15までの距離Lと第一回折格子15における間隔d1との比にほぼ等しくなるように構成される。なお、第二回折格子16の回折部材162相互間の間隔d2を第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔d1と例えば同一となるように構成することも可能である。また、第二回折格子16の各回折部材162の幅は、第一回折格子15の各回折部材152の幅と同一となっている。
【0074】
第二回折格子16は、その回折部材162の延在方向が、第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して後述するように相対的に微小角θだけ回転した状態で配置されており、第一回折格子15により回折されたX線を回折することにより、画像コントラストを形成する構成となっている。第二回折格子16については、回折部材162をより厚くした振幅型回折格子であることが望ましいが、第一回折格子15と同様の構成とすることも可能である。
【0075】
次に、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16がタルボ干渉計を構成する条件を説明する。
【0076】
第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は、第一回折格子15が位相型回折格子であることを前提にすれば、次の条件をほぼ満たさねばならない。ただし、mは整数、d1は前述した第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔である。
【0077】
【数1】
【0078】
タルボ効果とは、図9を参照して説明すると、X線の平面波が第一回折格子15を通過したとき、第一回折格子15が位相型回折格子の場合、式(1)で与えられる距離において回折格子の自己像を形成することである。被写体Hが存在しない状態では、第一回折格子15から式(1)で与えられる距離Z1だけ離れた位置に第一回折格子15の自己像、すなわち間隔d1ごとの格子周期が若干拡大された回折部材152の像が現れる。
【0079】
なお、式(1)で与えられる距離Z1以外の位置では自己像は見えないか或いはピントがぼけた像になる。しかし、式(1)で与えられる距離Z1の近傍では比較的ピントがあった状態が保たれる。従って、以下、式(1)で与えられる距離Z1という場合、その近傍の距離も含まれる。また、実際の距離Z1の設定においても、式(1)で与えられる距離Z1から遊びが許容される。
【0080】
そして、式(1)で与えられる距離Z1の位置に、回折部材162の延在方向が第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して相対的に微小角θだけ回転された状態の第二回折格子16を置くとモアレ縞が現れ、X線検出器17により図6に示したようなモアレ縞Mが映し出されたモアレ縞画像が検出される。この場合、発生するモアレ縞Mの間隔は、回折部材152の間隔d1と相対的な微小角θとからd1/θで与えられる。
【0081】
一方、X線管8と第一回折格子15との間に被写体Hが存在すると、X線管8から照射されたX線は、被写体Hを透過する間に被写体Hにより位相がずれるので、第一回折格子15に入射するX線の波面が歪む。したがって、第一回折格子15の自己像はそれに依存して変形する。
【0082】
そして、第一回折格子15で回折されたX線が、第二回折格子16を通過すると、X線の波面の歪みに応じてモアレ縞Mも被写体Hの形状に応じて歪む。その際、X線は被写体Hの内部を透過するから、X線は被写体Hの内部の形状によっても歪み、これらの歪みがモアレ縞Mの中に映し出されることになる。
【0083】
その際、実際には、第一回折格子15の自己像にも被写体Hによる歪みが反映されており、式(1)で与えられる距離Z1の位置では間隔d1ごとの格子周期が若干拡大された間隔となった回折部材152の回折縞の中に被写体H及びその内部の形状が反映される状態となる。しかし、この回折縞は通常のX線検出器17の分解能では検出できず、したがって、被写体Hによる回折縞の歪みも検出されないため、このままでは被写体HのX線画像を得ることは困難である。
【0084】
しかし、第二回折格子16を第一回折格子15に対して相対的に微小角θだけ回転してより縞の間隔が格子周期よりも格段に大きいモアレ縞画像を形成するように構成すれば、このモアレ縞Mは通常のX線検出器17の分解能でも検出できるようになる。そして、被写体H及びその内部の形状に沿って歪んだモアレ縞Mを通常のX線検出器17を用いて検出することで、被写体H及びその内部の形状が映し出された被写体HのX線画像を得ることが可能となる。
【0085】
以上のようなタルボ干渉計を用いた本実施形態の放射線画像撮影装置1において、X線管8から照射される前述した15〜60keVの平均エネルギーを有するX線の第一回折格子15に入射する際の干渉性を高くするために、X線管8と第一回折格子15との距離Lは一定以上の距離を置くことが必要となる。
【0086】
前述したように、X線管8の焦点径aが最小の1μmで、X線の平均エネルギーが最高の60keVの場合には、X線管8と第一回折格子15との距離Lは0.5m以上であることが必要となる。ただし、可干渉性(可干渉距離)は、距離Lに比例し、X線の平均エネルギーと焦点径に反比例するため、X線の平均エネルギーが60keVで可干渉性が得られた場合、例えばX線の平均エネルギーが15keVであればX線管8と第一回折格子15との距離Lは0.125m(12.5cm)以上にできるかまたは、X線管8の焦点径aを4μmまで広げても、同等の可干渉性が得られる。
【0087】
また、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は前記式(1)で与えられるが、式(1)中にX線の波長λがあることから分かるように、距離Z1はX線管8から照射されるX線の平均エネルギーに依存する。したがって、前述したように、第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔d1を技術的に作製可能な3μm程度に形成し、照射されるX線の平均エネルギーが15〜60keVの範囲である場合、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は0.05m以上であることが必要となる。
【0088】
なお、X線管8からX線検出器17までの距離Ltotalの取り得る範囲の下限は、上記のように距離L、距離Z1の制限(第二回折格子16からX線検出器17までの距離Z2は0)に規定される。また、上限は特に限定されないが、本実施形態の放射線画像撮影装置1を室内で使用することを考慮すれば2m程度とされる。
【0089】
以上のように、本実施形態に係る放射線画像撮影装置1によれば、装置を医療用に用いる場合、15〜60keVという比較的狭い平均エネルギーの範囲のX線しか照射できないが、そのような場合でも、第二回折格子16をX線検出器17に当接させるように配設し、X線管8と第一回折格子15との距離L、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1、及びX線管8の焦点径aを上記のように規定することで、タルボ効果を十分に発揮させてモアレ縞画像中に被写体H及びその内部の形状を精度良く検出することが可能となる。
【0090】
また、照射するX線の平均エネルギーが15keV未満だと、照射するX線のほとんど大部分が被写体で吸収されてしまうために、被写体の被曝線量が非常に大きくなってしまい、臨床での利用は好ましくないが、15keV以上とすることでそのような問題を回避することができるとともに、1回の撮影ごとのX線の照射は数分の一秒間程度、長くても2〜3秒以下でX線の照射を完了することが可能となるため、被写体Hである人体の動きによるぶれがないX線画像を得ることが可能となる。また、照射するX線の平均エネルギーを60keV以下とすることで、人体を構成する骨や軟部の組織等のコントラストが十分に得られる。
【0091】
そのため、リウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影等の関節疾患等のように通常のX線撮影装置ではX線画像が得られ難い組織部分でもタルボ干渉計方式を用いてその辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることが可能となり、得られたコントラストが明確なX線画像を診断等に効果的に用いることが可能となる。
【0092】
また、放射線画像撮影システム100の画像処理装置30により適切に画像処理を行うことで、より鮮明なX画像が得られるとともに、被写体Hの三次元画像や症状が現れている部分を強調した画像等を得ることが可能となる。
【0093】
なお、図2に示した本実施形態に係る放射線画像撮影装置1のように、被写体H(被写体台12)をX線管8と第一回折格子15の間に置くように構成する代わりに、例えば図10に示す放射線画像撮影装置のように、被写体Hを第一回折格子15と第二回折格子16の間に配置するように構成することも可能である。
【0094】
本実施形態においては、図10に示すように、X線管8から照射され第一回折格子15を透過したX線が、被写体H及び第二回折格子16を透過してX線検出器17に入射するようになっており、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ干渉計が構成される。
【0095】
また、第一回折格子15をX線管8と被写体Hとの間に配置するように構成したため、被写体HをX線管8と第一回折格子15の間に挿入するように構成した場合に比べ、第一回折格子15をより小面積に形成することが可能となり、第一回折格子15の作製作業が容易となる。また、それと同時に、回折部材152の製造ムラ等によって生じるX線画像のぶれ等の影響が低減され、より高精細なX線画像を得ることが可能となる。
【0096】
[他の実施形態]
図11乃至図19に基づいて他の実施形態について説明する。同図に示す放射線画像撮影システムの放射線画像撮影装置1は、前述したタルボ干渉計方式とタルボ・ロー干渉計方式と屈折コントラスト画像方式を切り換えられるようになっている。同図に示す事項以外は図1乃至図10で説明した放射線画像撮影システムと共通であり説明は省略する。
【0097】
放射線画像撮影装置1がタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合には、第一回折格子に入射するX線は可干渉性を有する必要があり、可干渉性を有するにはX線管8の焦点径はより小さい径であることが好ましいが、本発明では、X線管8から照射されたX線が後述するマルチスリット11で多光源化されるので、X線管8には高出力が要請されることもあり、X線管8の焦点径としてはそれほど小さくする必要はない。そこで、本実施形態では、X線管8の焦点径が100μm以上に設定される。具体的にはX線管8の焦点径は100〜2000μmが好ましく、300μm以上であればより好ましい。実用的には、600〜1200μmの焦点径が好ましく採用される。
【0098】
そして、放射線画像撮影装置1が屈折コントラスト画像方式として使用される場合には、X線管8の焦点径は30〜200μmが好ましい。
【0099】
本実施形態では、X線管8の焦点径の切り換えは、後述する制御装置によりX線管球のターゲットの角度が変えられることにより行われるようになっている。ターゲットの角度を切り換えるには、ターゲットを傾けて切り換える方法や、あらかじめ2つの角度を持つターゲットを作製しておき、電子線が照射されるターゲットの位置を変えることにより角度を切り換える方法などがある。この他にも、例えば、ターゲットに照射される電子線の領域を変更することにより焦点径を切り換えたり、焦点径が異なる複数のX線管を備えておき、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式との切り換えに際してX線管8自体を別のものに交換するように構成することも可能である。
【0100】
X線管8の下方には、図11及び図12に示すように、マルチスリット11が配設されている。マルチスリット11は、放射線画像撮影装置1がタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合にはX線管8から照射されたX線の光路上に配置され、放射線画像撮影装置1がタルボ干渉計方式として使用される場合には前記光路上から離脱されるようになっている。
【0101】
マルチスリット11は、図13に示すように、複数のスリット111が平行になるように設けられた薄板で構成されている。薄板には、例えば、鉛やタングステンなどX線を遮蔽する(X線の吸収が大きい)素材が用いられ、また、各スリット111の開口部の幅(すなわちいわゆるスリット幅)は1〜50μm程度、タルボ効果を有効に利用してかつ十分なX線量を得るためには、好ましくは7〜30μm程度に形成されている。これにより、後述する第一回折格子に入射するX線が可干渉性を有するようになりながら多光源化される。なお、マルチスリット11のスリット111相互間の間隔d0については後述する。
【0102】
また、マルチスリット11の複数のスリット111は、X線管8から照射されるX線の照射野内にのみ形成されている。マルチスリット11は、図12に示すように、支持部材112を介して保持部材7に昇降自在に支持されており、位置調整装置9で保持部材7に沿って昇降されて位置調整されるようになっている。
【0103】
本実施形態では、マルチスリット11は、位置調整装置9の駆動により保持部材7に対して保持部材7の軸周りに回動できるようになっており、放射線画像撮影装置1をタルボ干渉計方式として使用する場合にはマルチスリット11を保持部材7周りに回動させて前記光路上から離脱させ、放射線画像撮影装置1をタルボ・ロー干渉計方式として使用する場合にはマルチスリット11を保持部材7周りに回動させて前記光路上に配置させるようになっている。
【0104】
なお、この回動動作を他の駆動装置で行わせたり手動で行うように構成することも可能である。また、この他にも、例えば、マルチスリット11と保持部材7との連結部分を伸縮自在に構成して、マルチスリット11を保持部材7方向或いは保持部材7から離れる方向に移動させてX線の光路上に配置し、或いは光路上から離脱させるように構成することも可能である。
【0105】
マルチスリット11は、X線の光路上に配置される場合には、複数のスリット111の延在方向が後述する第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して平行になるように配設される。また、X線管8から照射されたX線が図11に示すようにX線管8から離れるほど広がっていくため、マルチスリット11をX線管8から離れた位置に配置すると、マルチスリット11の面積を大きくせざるを得なくなるとともに、被写体Hにぶつかったりして撮影の邪魔になる。そのため、マルチスリット11はX線管8から1〜10cm程度の距離の位置に配置されることが好ましい。なお、本発明において、X線管8と他の部材との距離とは、正確にはX線管8の焦点と他の部材との距離を表す。
【0106】
前述したように、X線管8から照射されたX線はマルチスリット11で多光源化されるために、いわばマルチスリット11を光源のように考えることができる。そして、第一回折格子15と光源との距離が的確に調整される必要があり、マルチスリット11がX線の光路上から離脱されたタルボ干渉計方式の場合には、X線管8と第一回折格子15との距離Lは、第一回折格子15が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。また、マルチスリット11がX線の光路上に配置されたタルボ・ロー干渉計方式の場合には、前述したように、X線管8から照射されたX線はマルチスリット11で多光源化されるからいわばマルチスリット11を光源のように考えることができる。そのため、第一回折格子15と光源としてのマルチスリット11との距離Lが、第一回折格子15が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。
【0107】
また、第一回折格子15と第二回折格子16とは、それぞれX線管8から照射されたX線の光路上への配置及び前記光路上からの離脱を可能とされている。第一回折格子15及び第二回折格子16は、位置調整装置9の駆動により保持部材7に対して保持部材7の軸周りに回動できるようになっており、放射線画像撮影装置1をタルボ干渉計方式として使用する場合には第一回折格子15と第二回折格子16とを保持部材7周りに回動させて前記光路上に配置させ、放射線画像撮影装置1を屈折コントラスト画像方式として使用する場合には第一回折格子15と第二回折格子16とを保持部材7周りに回動させて前記光路上から離脱させるようになっている。
【0108】
なお、この回動動作を他の駆動装置で行わせたり手動で行うように構成することも可能である。また、この他にも、例えば、第一回折格子15及び第二回折格子16と保持部材7との連結部分を伸縮自在に構成して、第一回折格子15と第二回折格子16とを保持部材7方向或いは保持部材7から離れる方向に移動させてX線の光路上に配置し、或いは光路上から離脱させるように構成することも可能である。
【0109】
第一回折格子15と第二回折格子16とを離脱させる際には、単にこれらの各格子15,16を保持部材7から取り外すようにしてもよい。
【0110】
X線検出器17は、X線管8又は光源としてのマルチスリット11との距離Ltotalが0.5m以上となるように設定されるようになっており、また、距離Ltotalの上限は、放射線画像撮影装置1を室内で使用することや放射線画像撮影装置1の精度や強度等を考慮して2m程度に設定される。
【0111】
例えば、入力装置22aから放射線画像撮影装置1の方式としてタルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれかが入力され、前述したように使用されるX線管8の管電圧が設定されると、X線管8から照射されるX線の平均エネルギーが決まり、X線管8と第一回折格子15との距離L又は光源としてのマルチスリット11と第一回折格子15との距離Lの許容範囲や、第一回折格子15と第二回折格子16との間の距離Z1、X線管8と被写体Hとの距離R1、被写体HとX線検出器17との距離R2が決まる。また、前述したように第二回折格子16とX線検出器17とを密着させた場合、図11において、被写体台12の位置により被写体Hの拡大率は(R1+R2)/R1で決まる。
【0112】
そこで、本実施形態では、制御装置20は、入力装置22aを介して装置の方式やX線管8の管電圧、距離L、距離Z1、拡大率等が入力されると、それに基づいて位置調整装置9を駆動させて、被写体台12に対してX線管8やマルチスリット11、第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整を行う。第一回折格子15及び第二回折格子16については上下方向の位置調整の他、設定された装置の方式に応じて位置調整装置9の駆動により保持部材7の軸周りに回動されてX線の光路上に配置され(タルボ・ロー干渉計方式、タルボ干渉計方式の場合)、或いは光路上から離脱される(屈折コントラスト画像方式)。さらに、マルチスリット11についてはこの上下方向の位置調整のほか、設定された装置の方式に応じて位置調整装置9の駆動により保持部材7の軸周りに回動されてX線の光路上に配置され(タルボ・ロー干渉計方式の場合)、或いは光路上から離脱される(タルボ干渉計方式の場合)。
【0113】
そして、それらの位置関係を保ったまま支持基台3の昇降により被写体台12を昇降させて被検者が疲れにくい姿勢をとるように位置調整を行うようになっている。
【0114】
なお、被写体台12と第一回折格子15等とが接触しないように位置調整されなければならないから、前述した距離R1、R2には限界があり、従って、拡大率(R1+R2)/R1も設定できる範囲が限られる。そのため、装置の方式やX線管8の管電圧、距離L、距離Z1、拡大率が入力された段階で表示装置22bに拡大率の設定可能な範囲を表示するように構成することも可能である。
【0115】
また、あらかじめ装置の方式と使用されるX線管8の管電圧に対して好適な距離L,R1,R2や距離Z1のLUT(Look Up Table)を用意しておき、装置の方式と管電圧が入力されると自動的に距離L,R1,R2や距離Z1が設定されるように構成することも可能である。この場合、装置の方式と管電圧が入力されると自動的にX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整が行われ、拡大率が入力されると、それに応じてそれらと被写体台12との位置調整が行われる。
【0116】
さらに、本実施形態では、タルボ・ロー干渉計方式の場合、X線管8の下方に配置されるマルチスリット11とX線管8との距離は予め設定された距離に設定されるようになっているが、これを装置の方式やX線管8の管電圧等の入力と同時に入力して設定したり、装置の方式と使用されるX線管8の管電圧に対して好適な距離を設定するLUTを用意しておくようにしてもよい。
【0117】
また、制御装置20は、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれかが入力され、使用されるX線管8の管電圧が設定されると、前述したように、装置の方式に応じてX線管球のターゲットの角度を変えてX線管8の焦点径の切り換えを行うようになっている。
【0118】
制御装置20は、このようにしてX線管8等の位置調整とともに、駆動装置6を駆動して支持軸5を図12のCW方向又はCCW方向に回動させ、撮影装置本体部4を被写体H周りに回動させて放射線照射角度を調節するようになっている。
【0119】
また、制御装置20は、放射線画像撮影装置1の稼動時には、電源部10から供給された電力に従ってX線管8から照射されたX線を被写体Hに照射し(タルボ・ロー干渉計方式の場合にはマルチスリット11で多光源化させて被写体Hに照射し)、放射線量検出装置21が検出したX線量が予め設定されたX線量に達すると、電源部10からX線管8への電力の供給を停止してX線の照射を停止させる。なお、X線の照射条件は、放射線量検出装置21が検出するX線量以外の要素、すなわち例えばX線検出器17の種類等も加味されて適宜設定される。
【0120】
本実施形態では、制御装置20は、駆動装置6を駆動して支持軸5を回転させて撮影装置本体部4を回転させ、X線管8やX線検出器17(タルボ干渉計方式の場合には第一回折格子15、第二回折格子16も、タルボ・ロー干渉計方式の場合にはさらにマルチスリット11)を被写体Hの周囲で回転させることで、被写体Hに複数の方向からX線を照射して連続的に撮影することができるようになっている。なお、撮影装置本体部4の回転量や撮影タイミング(回転角度が何度ごとに撮影するかのタイミング)等は、入力装置22aから入力されて設定される。
【0121】
また、本実施形態では、制御装置20は、撮影されたX線画像から異常陰影候補を検出するように構成されており、異常陰影候補を検出した場合には、その異常陰影候補をより鮮明に撮影するために装置を屈折コントラスト画像方式からタルボ干渉計方式に切り換えるようになっている。
【0122】
X線画像からの異常陰影候補の検出は、例えば、本願出願人が先に提出した特開2005−102936号公報に記載されている医用画像診断支援システムの技術により行うことができる。このシステムでは、X線画像等の医用画像を画像解析して特徴量を算出し、その特徴量に基づいて画像中から異常陰影候補を検出するようになっている。
【0123】
なお、この放射線画像撮影装置1により撮影されたX線画像から異常陰影候補を検出する装置を図示しない診断支援装置として放射線画像撮影装置1とは別の装置として設け、ネットワークNで放射線画像撮影装置1等と接続して放射線画像撮影システム100内に設けるように構成することも可能である。
【0124】
その場合、放射線画像撮影装置1の制御装置20は、例えば、診断支援装置が異常陰影候補を検出してその情報が送信されてくると、その情報に基づいて放射線画像撮影装置1を屈折コントラスト画像方式からタルボ干渉計方式に切り換えるように構成することができる。
【0125】
次に、本実施形態の放射線画像撮影装置1において構成されるタルボ・ロー干渉計について説明し、マルチスリット11や第一回折格子15、第二回折格子16の構成やそれらとX線検出器17との位置関係等の説明とあわせて放射線画像撮影装置1の作用について説明する。
【0126】
本実施形態においては、図6及び図14に示すように、X線管8から照射されたX線は、図14の場合はマルチスリット11を透過して、被写体Hを透過し、第一回折格子15及び第二回折格子16を透過してX線検出器17に入射するようになっている。図6に示すように、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ干渉計が構成され、図14に示すように、X線管8、マルチスリット11、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ・ロー干渉計が構成される。
【0127】
次に、マルチスリット11の構成について説明する。放射線画像撮影装置1がタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合には、図15に示すように、マルチスリット11と第一回折格子15とは距離Lだけ離れている。また、マルチスリット11の1つのスリット111aを通過したX線は、後述するように例えば第一回折格子15の回折部材152aの自己像と回折部材152bの自己像を第一回折格子15から距離Z1だけ離れた位置に配置された第二回折格子16(それとほとんど近接するX線検出器17)上に形成する。
【0128】
また、マルチスリット11のスリット111aに隣接するスリット111bを通過したX線によっても第一回折格子15の回折部材152a、152bの自己像がそれぞれ第二回折格子16上に形成される。すなわち、マルチスリット11の各スリット111を通過したX線により第二回折格子16上には第一回折格子15の各回折部材152の自己像が縞状に形成される。
【0129】
このとき、マルチスリット11のスリット111のスリット間隔d0が適切でないと、マルチスリット11のスリット111a、111bを通過した各X線により第二回折格子16上に形成された縞状の自己像が互いに打ち消しあってしまう。
【0130】
しかし、図15に示すように、スリット111aを通過したX線による回折部材152aの自己像と、スリット111bを通過したX線による回折部材152bの自己像とが、第二回折格子16上のYの位置で重なりあうようにスリット間隔d0を調整すれば、それぞれの自己像の縞が重なり合い、いわばピントがあった状態とすることができる。
【0131】
この場合、マルチスリット11のスリット111のスリット間隔d0、第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔(格子周期)d1、マルチスリット11と第一回折格子15との距離L、及び第一回折格子15から第二回折格子16までの距離Z1の間には、
d0:d1=(L+Z1):Z1
で表される関係が成立し、これを解くと、スリット間隔d0は式(2)のように表される。
【0132】
【数2】
【0133】
また、図16では、マルチスリット11のスリット111a、111bを通ったX線が第一回折格子15の隣接する回折部材152a、152bの部分を通る場合を考察したが、X線が、例えば回折部材152aの部分と、回折部材152aから格子周期d1の整数倍離れた位置にある回折部材152cや回折部材152d等の部分を通る場合、すなわち式(2)のd1を整数p倍してpd1とした式(3)の関係が成り立つ場合でも、第一回折格子15の自己像の縞がちょうど重なり合い、ピントがあう。
【0134】
【数3】
【0135】
また、前述したようにL+Z1+Z2=Ltotalであり、また、第二回折格子16とX線検出器17との距離Z2はほぼ0であるから、式(3)は下記の式(4)のように表してもよい。
【0136】
【数4】
【0137】
つまり、マルチスリット11は、そのスリット111のスリット間隔d0を式(3)や式(4)を満たすように適切に形成されれば、マルチスリット11の各スリット111を通過した各X線が第二回折格子16上で第一回折格子15の自己像を有効に形成してその自己像が重なりあい、ピントがあったものとすることができる。
【0138】
次に、放射線画像撮影装置1が図14に示したタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合に、X線管8、マルチスリット11、第一回折格子15及び第二回折格子16がタルボ・ロー干渉計を構成する条件について説明する。
【0139】
この場合も、原理的には上記のタルボ干渉計方式の場合と同様であり、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は、前記(1)式を満たすように設定される。そして、図16に示すように、マルチスリット11の各スリット111を通過したX線により、それぞれ前述したタルボ効果が生じる。そして、各スリット111を通過したX線によって第一回折格子15から距離Z1だけ離れた位置に第一回折格子15の自己像が形成されるが、その際、マルチスリット11のスリット間隔d0が式(3)や式(4)を満たすように構成されていれば、これらの自己像が第一回折格子15から距離Z1だけ離れた位置でちょうど重なり合い、ピントがあう。
【0140】
そのため、式(1)で与えられる距離Z1の位置に、回折部材162の延在方向が第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して相対的に微小角θだけ回転された状態の第二回折格子16を置くとモアレ縞が現れ、X線検出器17により図14に示したようなモアレ縞Mが映し出されたモアレ縞画像が検出される。
【0141】
一方、マルチスリット11と第一回折格子15との間に被写体Hが存在すると、X線管8から照射されマルチスリット11を通過した各X線は、被写体Hを透過する間に被写体Hにより位相がずれるので、第一回折格子15に入射する各X線の波面がそれぞれ歪む。したがって、第一回折格子15の自己像はそれに依存して変形する。
【0142】
そして、第一回折格子15で回折された各X線が、第二回折格子16を通過すると、各X線の波面の歪みに応じてモアレ縞Mも被写体Hの形状に応じて歪む。その際、X線は被写体Hの内部を透過するから、X線は被写体Hの内部の形状によっても歪み、これらの歪みがモアレ縞Mの中に映し出されることになる。このようにして、被写体H及びその内部の形状に沿って歪んだモアレ縞Mを通常のX線検出器17を用いて検出することで、被写体H及びその内部の形状が映し出された被写体HのX線画像を得ることが可能となる。
【0143】
次に、本実施形態の放射線画像撮影装置1で実行される屈折コントラスト画像方式について説明し、マルチスリット11や第一回折格子15、第二回折格子16の構成やそれらとX線検出器17との位置関係等の説明とあわせて放射線画像撮影装置1の作用について説明する。
【0144】
本実施形態においては、屈折コントラスト画像方式であると、マルチスリット11、第一回折格子15及び第二回折格子16の全てが、X線管8から照射されたX線の光路から離脱しているので、X線管8から照射されたX線は、被写体Hを透過してX線検出器17に入射するようになっている。
【0145】
図17は、屈折コントラスト画像方式の概略を説明する図である。 図17に示すように、通常の撮影方法の場合、X線検出器17に接する位置に被写体Hが配置されている(図17の密着撮影位置)。この場合、そのX線検出器17に記録されるX線画像(潜像)はライフサイズ(被写体Hと同一サイズであることをいう)とほぼ等サイズとなる。
【0146】
これに対し、屈折コントラスト画像方式は、被写体HとX線検出器17間に距離を設けるものであり、X線管8からコーンビーム状に照射されたX線により、ライフサイズに対して拡大されたX線画像(以下、拡大画像という)の潜像がX線検出器17で検出されることとなる。
【0147】
ここで、拡大画像のライフサイズに対する拡大率Mは、X線管8の焦点から被写体Hまでの距離をR1、被写体HからX線検出器17までの距離をR2、X線源8の焦点からX線検出器17までの距離をR3(R3=R1+R2)とすると、下記式(5)により求めることができる。
【0148】
M=R3/R1・・・(5)
屈折コントラスト画像方式では、 図18に示すように、被写体Hの辺縁を通過することにより屈折したX線が被写体Hを介さずに通過したX線とX線検出器17上で重なり合い、重なった部分のX線強度が強くなる。一方で、屈折したX線の分だけ、被写体Hの辺縁内側の部分においてX線強度が弱くなる現象が生じる。そのため、被写体Hの辺縁を境にしてX線強度差が広がるエッジ強調作用(エッジ効果ともいう)が働き、辺縁部分が鮮鋭に描写された視認性の高いX線画像を得ることができる。
【0149】
撮影室内等、距離R3の設定に制限がある場合には、距離R3を固定し、その固定した距離R3の中で距離R1、R2の比率を変えて最適な条件で撮影することができる。例えば、R3=2.0(m)に決定した場合、この距離R3に対し、R1=1.0(m)、R2=1.0(m)とする。一般的な撮影室の広さを考慮すると、0.1≦R1≦1.5、0.3≦R2≦1.5、0.8≦R3≦2.0の範囲とし、拡大率Mを1.5≦M≦10、焦点径Dを0.03(mm)≦D≦0.2(mm)の範囲とし、この範囲内で拡大画像の視認性との関係を見ながら、経験的、実験的に最適な距離R3、R1、R2及び拡大率M、焦点径Dを決定すればよい。焦点径Dをこのような範囲とすることで、X線強度が強く、短時間の撮影が可能となり、被写体Hの動きによる運動ボケを小さくさせることができる。なお、より好ましい距離としては、0.5≦R1≦1.2、0.5≦R2≦1.2、1.0≦R3≦2.0の範囲を満たし、拡大率Mを3≦M≦8、焦点径Dを0.05(mm)≦D≦0.12(mm)の範囲を満たす設定とすることができる。
【0150】
拡大率Mは高い方がより微細な画像情報を得ることができるので、定量結果の精度も高いものとなる。一方、高拡大率撮影には、より小さな焦点径のX線管が必要になるが、出力が低くなり撮影時間が長くなるので、被写体の動きによるボケが生じやすくなり、画質の鮮明さが損なわれ、精度の高い解析ができなくなるので、現実的には上記の範囲が最適になる。
【0151】
このように、放射線画像撮影装置1をタルボ干渉計方式として使用する場合、タルボ・ロー干渉計方式として使用する場合、屈折コントラスト画像方式とで種々の設定条件が異なる。そのため、制御装置20は、例えば前述したように撮影されたX線画像から異常陰影候補を検出し、或いは放射線画像撮影システム100の診断支援装置がX線画像から異常陰影候補を検出してその情報が送信されてくると、その異常陰影候補をより鮮明に撮影するために、屈折コントラスト画像方式からタルボ干渉計方式に切り換える。
【0152】
その場合、制御装置20は、第一回折格子15及び第二回折格子16を保持部材7の軸周りに回動させてX線の光路上に配置させるとともに、X線管球のターゲットの角度を変えてX線管8の焦点径を切り換える。また、屈折コントラスト画像方式ではマルチスリット11と第一回折格子15との距離として調整されていた距離Lが、タルボ干渉計方式ではマルチスリット11が離脱され、X線管8と第一回折格子15との距離として調整されるようになるなど調整すべき対象が多少変わるため、必要に応じてX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整を適宜行う。
【0153】
タルボ干渉計方式から屈折コントラスト画像方式に切り換える場合には、制御装置20は、上記と逆の操作を行う。
【0154】
以上のように、本実施形態に係る放射線画像撮影装置1によれば、第一回折格子15及び第二回折格子16をX線の光路上への配置及び光路上からの離脱が制御されてタルボ干渉計方式と屈折コントラスト画像方式とを切り換えることができる。ここで、タルボ干渉計方式やタルボ・ロー干渉計方式では、回折格子およびその距離の調整が必要であったり、可干渉性を得るために微小焦点X線管やマルチスリットが必要であるが、屈折コントラスト方式ではこれらのものが不要となる。ただし、上記のように撮影部位により程度の違いはあるが、鮮明さは概してタルボ干渉計方式やタルボ・ロー干渉計方式の方がよい。それぞれの方式によって特徴が異なるが、上記したようにタルボ干渉計方式と屈折コントラスト画像方式とが切換可能であると、どの撮影部位においても(例えば、関節、乳房、小児など)、または、同一の部位であっても、特に描出能を高めたい部分に対して(例えば関節画像においても、骨なのか、軟部組織なのか、軟骨なのかによって)、より効果の高い撮影方法を選択し、辺縁部のコントラストが強調された放射線画像を取得することができることになる。
【0155】
そのため、例えば、屈折コントラスト画像方式で広範囲に被写体を撮影し、タルボ干渉計方式に切り換えて患部等のより鮮明なX線画像を撮影することで、リウマチを代表とする関節疾患や、そのほとんどが軟部組織でありさらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など通常のX線撮影装置ではX線画像が得られ難い組織部分でもタルボ干渉計方式やタルボ・ロー干渉計方式を用いてその辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることが可能となる。
【0156】
また、放射線画像撮影システム100の画像処理装置30により適切に画像処理を行うことで、より鮮明なX画像が得られるとともに、被写体Hの三次元画像や症状が現れている部分を強調した画像等を得ることが可能となる。
【0157】
なお、図11に示した本実施形態に係る放射線画像撮影装置1のように、被写体H(被写体台12)をマルチスリット11と第一回折格子15の間(装置をタルボ干渉計方式として用いる場合はX線管8と第一回折格子15の間)に置くように構成する代わりに、例えば図19に示す放射線画像撮影装置のように、被写体Hを第一回折格子15と第二回折格子16の間に配置するように構成することも可能である。
【0158】
その際、本実施形態の放射線画像撮影装置1に比べて、第一回折格子15がマルチスリット11やX線管8に接近する状態となる。第一回折格子に入射するX線は可干渉性を有する必要があり、そのためには、装置を図14に示したタルボ・ロー干渉計方式として用いる場合に用いられるマルチスリット11の各スリット111の開口部の幅(すなわちいわゆるスリット幅)は、0.1〜10μm程度に、好ましくは1〜5μm程度に形成される。これにより、第一回折格子15に入射するX線が可干渉性を有するようになり、X線管8から照射された高エネルギーのX線が適度に低エネルギー化されるとともに、多光源化される。
【符号の説明】
【0159】
1 放射線画像撮影装置
8 X線管
11 マルチスリット(X線管から照射されたX線を多光源化するX線管用の格子)
12 被写体台
15 第一回折格子(格子)
16 第二回折格子(格子)
17 X線検出器
20 制御装置
30 画像処理装置
50 画像出力装置
100 放射線画像撮影システム
H 被写体
M モアレ縞
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像撮影システムに係り、特に、タルボ干渉計方式を用いた放射線画像撮影装置により撮影された画像の処理を行う放射線画像撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本におけるリウマチ疾患の罹患率は1%にも達しており、今や国民病ともされている。その初期症状として軟骨部の磨り減り(軟骨破壊)や微細な骨形状や骨梁の変化が観察され、症状が進行したところで骨部の形状の大きな変化が観察される。したがって、リウマチ疾患は、軟骨部の形状や微細な骨形状や骨梁の変化を観察することで病状の診断が可能であり、症状の進行を止める治療方法しかない現在の段階では早期発見による治療への移行が重要である。
【0003】
リウマチ疾患の上記初期症状は、手軽な検査方法であるX線写真では検出することが非常に難しく、発症しているか否かを判断し難い。
【0004】
一方、軟部組織の変化を発見するためには、最近、放射線画像撮影に代わり、MRI(magnetic resonance imaging)等により得られた画像を用いた診断が検討されている。また、最近では、放射線画像撮影のうち、放射線が平行に直進する放射光を取り出し、これを用いて軟骨部を撮影する技術も報告されている。しかし、MRIによる撮影は費用や診察に要する時間等の観点から被撮影者の負担が大きく、一般の定期検診等に組み込んで行うことは難しいことから、撮影を定期的に行い手指等の関節部の変化を経時的に観察することは困難であるという問題があった。
【0005】
また、放射光を用いた撮影を行うためには、巨大な撮影設備が必要であり、また、撮影に数10分の時間を要する場合もあるため、一般の医療施設において診療に使用することは困難である。このようなことから、簡便に関節形状や骨形状の微細な変化や腫れなどの軟部組織の疾患を早期に診断できるようにすることが望まれている。
【0006】
ここで、前記のように、例えばリウマチ疾患早期の診断を行うには、患部の微細な症状を識別できる鮮鋭性の高い放射線画像を撮影する必要があるわけであるが、鮮鋭性の高い放射線画像が得られる放射線画像撮影装置としては、例えば特許文献1に示すような放射線画像撮影装置を用いて位相コントラスト画像を撮影する技術が知られている。この技術によれば、通常の吸収によって形成される放射線画像では十分なコントラストが得られないX線吸収の低い被写体に対しても、その辺縁部(エッジ部)のコントラストを強調した画像を得ることができる。そして、この技術は前記のリウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など、様々な部位に適用することができる。
【0007】
そして、被写体の辺縁部のコントラストをさらに強調することができる技術として、例えば特許文献2に回折格子によるタルボ効果を用いたタルボ干渉計方式のX線撮影装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−248699号公報
【特許文献2】国際公開第2004/058070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載されているタルボ干渉計方式では、放射光X線源が使用されており、上記にも示したが特殊な施設が必要であるため、広く一般の診療施設で利用することができないという問題がある。また、低エネルギーのX線を照射することが想定されている。これは、低エネルギーのX線の方が位相コントラストの効果大きいことと、さらに従来のX線画像で利用されている吸収コントラストも強いためである。しかし、低すぎるエネルギーのX線は人体への吸収が多く検出器への到達線量が少ないため、検出器での信号が程度のSNを得るためには照射線量を多くする必要が生じ、このことは被曝量が多くなるとことにつながる。また、照射線量が増えることは、撮影時間が長くなることにつながる。しかし、長時間の撮影時間の間に被写体である人体が動かないようにすることは困難である。そして、被写体が動くことで、被写体の辺縁部がぶれたX線画像が撮影されてしまい、被写体の辺縁部のコントラストを強調することができるというタルボ干渉計方式の特性が減退してしまう。
【0010】
一方、照射するX線のエネルギーが高すぎると、照射時間は短くなるが、人体を構成する骨や軟部の組織等のコントラストが十分に得られないという知見が得られている。有効にコントラストが得られなければ被写体である人体の診断に使用しうるX線画像が得られないという問題点がある。
【0011】
このように、タルボ干渉計方式の放射線画像撮影装置を医療用に用いる場合、使用できるX線のエネルギー(正確には平均エネルギー)の範囲は比較的狭い。しかも、タルボ効果を生じさせてタルボ干渉計方式を実現するためには、後述するように第一回折格子と第二回折格子との距離や各回折格子を構成する回折部材の間隔(格子周期)等に大きな制約を受ける。
【0012】
前記のように、タルボ干渉計方式を、リウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など、様々な部位に適用することが期待されている。しかし、そのためには上記のような極めて厳しい条件をクリアするように構成しなければならない。
【0013】
本発明は、タルボ干渉計方式を用いて人体の軟骨組織等の辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることができる放射線画像撮影装置の撮影画像を処理する放射線画像撮影システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の問題を解決するために、本発明の放射線画像撮影システムは、
X線を照射するX線管と、
被写体を載置する被写体台と、
複数の格子と、
前記複数の格子を通過したX線を検出するX線検出器と、
を備える放射線画像撮影装置と、
前記被写体台に被写体を載置しない状態で前記X線管からX線を照射し、前記複数の格子を透過したX線を前記X線検出器で検出して撮影されるモアレ縞画像に基づいて、前記複数の格子に歪みが生じたか否かを判断する制御装置と、
前記放射線画像撮影装置により撮影された画像を処理する画像処理装置と、
前記画像処理装置により処理された画像を出力する画像出力装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記被写体台に被写体を載置しない状態で予め撮影された第一のモアレ縞画像と、前記第一のモアレ縞画像の撮影後に前記被写体台に被写体を載置しない状態で撮影された第二のモアレ縞画像とに基づいて、前記複数の格子のいずれかに歪みが生じたか否かの判断を行い、
前記画像処理装置は、前記第二のモアレ縞画像のX線画像データに基づいて、前記被写体が存在する状態で前記放射線画像撮影装置により撮影されたX線画像データの補正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タルボ効果を十分に発揮させてモアレ縞画像中に被写体の形状を精度良く検出することが可能となる。その際、X線管から15〜60keVの平均エネルギーを有するX線を数分の一秒以下の短時間照射することで、被写体である人体の動きによるぶれがないX線画像が得られ、人体への負担が軽減されるとともに、X線管とX線検出器との距離、X線管と第一回折格子との距離、及びX線管の焦点径を的確に設定することでX線の短時間の照射でも十分明瞭なX線画像を得ることが可能となる。
【0016】
そのため、リウマチを代表とする関節疾患や、そのほとんどが軟部組織でありさらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など通常のX線撮影装置ではX線画像が得られ難い様々な部位に対してタルボ干渉計方式を用いてその辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る放射線画像撮影システムの全体構成の一例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【図3】図2の放射線画像撮影装置の内部構成を示す図である。
【図4】第一回折格子、第二回折格子及び温度センサの斜視図である。
【図5】本実施形態に係る放射線画像撮影装置の制御構成を示すブロック図である。
【図6】図2の放射線画像撮影装置におけるX線の透過及びモアレ縞を説明する要部斜視図である。
【図7】図6のI−I断面図である。
【図8】図6のII−II断面図である。
【図9】図2の放射線撮影装置におけるX線管、被写体、第一回折格子、第二回折格子、X線検出器の位置関係を説明する説明図である。
【図10】被写体を第一回折格子と第二回折格子の間に配置するように構成した放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【図11】他の実施形態に係る放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【図12】図11の放射線画像撮影装置の内部構成を示す図である。
【図13】マルチスリットの構成を示す斜視図である。。
【図14】放射線画像撮影装置をタルボ・ロー干渉計方式とした場合のX線の透過及びモアレ縞を説明する要部斜視図である。
【図15】マルチスリットの各スリットを通過したX線による第一回折格子の自己像が第二回折格子上でピントがあった状態を説明する図である。
【図16】タルボ・ロー干渉計方式の放射線画像撮影装置におけるX線管、マルチスリット、被写体、第一回折格子、第二回折格子、X線検出器の位置関係を説明する説明図である。
【図17】屈折コントラスト画像方式の概略を説明する図である。
【図18】位相コントラスト効果について説明する図である。
【図19】被写体を第一回折格子と第二回折格子の間に配置するように構成した放射線画像撮影装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る放射線画像撮影システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。
【0019】
本実施形態では、放射線画像撮影システム100は、図1に示すように、放射線であるX線を照射することにより被写体の画像を生成する放射線画像撮影装置1と、放射線画像撮影装置1によって生成された画像の画像処理等を行う画像処理装置30と、画像処理装置30によって画像処理等が行われた画像等を表示又はフィルム出力等する画像出力装置50とから構成されており、各装置は、例えば図示しないスイッチングハブ等を介してLAN(Local Area Network)等の通信ネットワーク(以下単に「ネットワーク」という。)Nに接続されている。
【0020】
なお、放射線画像撮影システム100の構成は、ここに例示したものに限定されず、例えば、画像処理装置30と画像出力装置50とが一体化されて、1つの装置によって画像処理と画像処理された画像の出力(表示又はフィルム出力等)とを行うように構成してもよい。
【0021】
放射線画像撮影装置1には、図2及び図3の構成例に示すように、支持基台3が床面にボルト等で固定された支持台2に対して昇降自在に設けられている。支持基台3には、撮影装置本体部4が支持軸5を介して支持されている。支持軸5は、筒状の支持外筒5aとその内側の支持内軸5bとで構成されており、支持外筒5aは支持内軸5bの外側でCW方向及びCCW方向に回動されるようになっている。
【0022】
支持基台3には、その昇降及び支持軸5の回動を駆動する駆動装置6が備えられており、駆動装置6は、図示しない公知の駆動モータ等を備えている。撮影装置本体部4は支持外筒5aに固定されており、支持軸5を介して支持基台3の昇降にあわせて昇降するようになっている。また、撮影装置本体部4は、支持軸5の支持外筒5aがCW方向及びCCW方向に回動されることにより支持軸5を回動軸として回動するようになっている。
【0023】
撮影装置本体部4内には、略棒状の保持部材7が上下方向に延びるように固定されている。保持部材7の上部には、被写体HにX線を放射するX線管8が昇降自在に支持されており、X線管8は、図示しない公知の駆動モータ等を備える位置調整装置9で昇降されて位置調整されるようになっている。X線管8には、電力を供給する電源部10が支持基台3や支持軸5、撮影装置本体部4を介して接続されている。X線管8のX線放射口には、X線照射野を調節するための絞り8aが、開閉自在に設けられており、絞り8aはX線管8とともに昇降するようになっている。
【0024】
X線管8は、15〜60keVの平均エネルギーを有するX線を照射するものが用いられる。これは、照射するX線の平均エネルギーが15keV未満では、照射するX線のほとんど大部分が被写体で吸収されてしまうために、被写体の被曝線量が非常に大きくなってしまい、臨床での利用は好ましくない。また、照射するX線の平均エネルギーが60keVより大きいと、人体を構成する骨や軟部の組織等のコントラストが十分に得られず、得られたX線画像が診断等に用いることができない可能性があるためである。
【0025】
X線管8としては、例えば、医療現場で広く用いられているクーリッジX線管や回転陽極X線管が好ましく用いられる。その際、X線管球のターゲット(陽極)に乳房撮影で使用されるMo(モリブデン)を用いた場合(この場合は、通常、30μm厚のモリブデンフィルタを付加する)、一般に管電圧の設定値が22kVpで平均エネルギーが15keVのX線が照射され、管電圧の設定値が39kVpで平均エネルギーが21keVのX線が照射される。また、ターゲットに一般撮影で使用されるW(タングステン)を用いた場合、管電圧の設定値が30、50、100、150kVpで平均エネルギーがそれぞれ22、32、47、60keVのX線が、通常照射される。
【0026】
本実施形態のようにリウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影等の関節疾患等を対象とした放射線画像撮影装置1の場合、前記のX線エネルギーの中でも特に低X線エネルギー(低管電圧に設定)のX線照射で、位相コントラスト効果により鮮明度が向上し診断能が向上するので、照射するX線の平均エネルギーは好ましくは15〜32keVであり、被曝線量等を考慮すると、ターゲットとしてWを用いた20〜27keVであることがさらに好ましい。
【0027】
また、X線管8の焦点径は、上記の平均エネルギーの範囲のX線を照射でき、且つ実用上の出力強度が得られるように1μm以上に設定されるようになっている。十分なX線強度を得るために焦点径は7μm以上であれば好ましい。また、後述する第一回折格子に入射するX線は、可干渉性を有する必要がある。X線が15〜60keVの平均エネルギーを有するX線が用いられる点と、後述するように撮影装置として長くても2m程度が上限である点より、可干渉性を有するには、X線管8の焦点径は50μm以下であることが好ましい。さらに、可干渉性を良くし、後述するタルボ効果をより有効に利用し鮮明な画像を得るためには30μm以下であることが好ましい。なお、X線管8の焦点径は、JIS Z 4704−1994の7.4.1焦点試験の(2.2)スリットカメラに規定されている方法で測定することができる。
【0028】
X線管8から照射されるX線の平均エネルギーが15〜60keVの範囲内であり、その焦点径が1μm以上であれば、1回の撮影ごとのX線の照射は数分の一秒間程度、長くても2〜3秒以下で終了するように設定することができる。
【0029】
なお、X線管8は、照射するX線の波長分布の半値幅が、当該X線のピーク波長の0.1倍以下であるものが好ましく、X線管8は、このような条件を満たすものであれば上記のクーリッジX線管や回転陽極X線管に限定されず、マイクロフォーカスX線源等であってもよい。
【0030】
X線管8の下方には、被写体Hを載置するための被写体台12が床面にほぼ平行な状態になるように支持軸5の支持内軸5bから延設されている。被写体台12や支持内軸5bは撮影装置本体部4や保持部材7には固定されておらず、そのため、前述したように撮影装置本体部4は支持軸5の支持外筒5aの回動によりCW方向及びCCW方向に回動されても、被写体台12はそれにあわせて回動しないようになっている。
【0031】
被写体台12は、必要に応じて支持内軸5b周り等に回転することも可能とされており、また、必要に応じて被写体Hは上方から圧迫板13で圧迫されて固定されるようになっている。圧迫板13は図示しない支持部材で被写体台12に支持されている。圧迫板13の移動は、自動又は手動のいずれも適用可能である。
【0032】
被写体台12は、このように支持軸5を介して支持基台3の昇降にあわせて昇降するようになっており、支持基台3を昇降させて、例えば被検者が被写体Hである腕を被写体台12に載せて疲れにくい姿勢をとることができるような位置に調整される。また、被写体台12の下面には、被験者が脚をぶつけることなく撮影位置につくことができるように、プロテクタ14が、ほぼ鉛直方向に延在して設けられている。これにより、被検者は椅子Xに座った状態で、後述する第一回折格子15等に脚をぶつけることなく、また、X線により被曝することなく撮影位置につくことができるようになっている。なお、圧迫板13及びプロテクタ14は必須の構成要素ではなく、圧迫板13及びプロテクタ14を用いない構成としてもよい。
【0033】
保持部材7の中央部には、被写体台12の下側に第一回折格子15が昇降自在に支持されており、保持部材7の下部には、第二回折格子16が昇降自在に支持されている。第一回折格子15と第二回折格子16とは、互いに平行に配置されるように保持されている。第一回折格子15と第二回折格子16の構成及びそれらと後述するX線検出器17との位置関係については後で詳しく述べる。
【0034】
第一回折格子15のX線管8に対する距離Lは、第一回折格子15が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。また、第一回折格子15から第二回折格子16までの距離Z1は、第二回折格子16が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。なお、本実施形態では、第一回折格子15および第二回折格子16は、それぞれ独立に位置調整装置9で昇降される。また、本発明において、X線管8と他の部材との距離とは、正確にはX線管8の焦点と他の部材との距離を表す。
【0035】
また、第一回折格子15と第二回折格子16には、例えば図4に示すように、X線により撮影されない位置にそれらの温度を測定する温度センサ15a、16aがそれぞれ配設されている。なお、例えば、第一回折格子15と第二回折格子16の温度がそれぞれの面内で均一となるようにX線撮影を阻害せず熱伝導性が良いものを第一回折格子15と第二回折格子16とにそれぞれ貼り付けたり、例えば電流の向きや電流の大きさを制御して加熱や冷却を行うことができるペルチェ素子等を第一回折格子15や第二回折格子16に配設してそれらの加熱や冷却を行うことができるように構成することも可能である。
【0036】
図2及び図3に示すように、第二回折格子16の下方には、X線検出器17を支持する検出器支持台18が保持部材7に対して昇降自在に支持されており、検出器支持台18は前述した位置調整装置9により第一回折格子15等とは独立に昇降されて位置調整されるようになっている。
【0037】
X線検出器17は、X線管8に対向するように検出器支持台18上に支持されている。図2及び図3等では、X線検出器17と第二回折格子16とが別体であることを示すためにそれらの間にある程度の距離Z2があいているように表現されているが、実際には、X線検出器17と第二回折格子16とは互いに当接した状態で配設される。これは、第二回折格子16とX線検出器17の距離が離れるほど、モアレ縞がぼけてしまうからである。すなわち図3における距離Z2がほぼ0になるように配置される。なお、第二回折格子16とX線検出器17を一体的に構成することも可能である。また、X線検出器17の下側や検出器支持台18の内部等には、X線検出器17の下方にある人体へのX線照射による被曝を防ぐために図示しない放射線遮蔽部材が設けられている。
【0038】
X線検出器17は、図示を省略するパネルや検出器制御部等がバスで接続されて構成されている。そして、X線管8から放射され被写体Hを透過したX線量を検出してX線画像データとしてネットワークN(図1参照)を介して画像処理装置30に出力するようになっている。
【0039】
X線検出器17としては、X線量を画素ごとにデジタル情報として検出するFPD(Flat Panel Detector)やCR(Computed Radiography)、CCD(Charge Coupled Device)を用いた検出器が好ましく用いられるが、2次元画像センサとして優れるFPDが特に好ましい。画素サイズは10〜200μmが好ましく、50〜150μmであればより好ましい。パネル全体の大きさは適宜選択される。
【0040】
X線検出器17は、X線管8との距離Ltotalが0.5m以上となるように設定されるようになっており、また、距離Ltotalの上限は、放射線画像撮影装置1を室内で使用することや放射線画像撮影装置1の精度や強度等を考慮して2m程度に設定される。
【0041】
放射線画像撮影装置1に対する各種設定やその動作の制御は、図5に示す制御装置20で行われるようになっている。制御装置20は、図示しないCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等がバスで接続されたコンピュータで構成される。
【0042】
放射線画像撮影装置1が設置された同じ室内に制御装置20を設置することも可能であるが、本実施形態では、制御装置20は、ネットワークNを介して放射線画像撮影装置1に接続されている画像処理装置30を構成するコンピュータを利用して構築されている。すなわち、制御装置20と画像処理装置30とが同じコンピュータを用いて構成されている。なお、制御装置20を、ネットワークNを介して接続される画像処理装置30とは別体のコンピュータ内に構成することも可能である。
【0043】
制御装置20は、図5に示すように、前述したX線管8や電源部10、駆動装置6、位置調整装置9、温度センサ15a、16aのほか、照射されたX線量の検出を行う放射線量検出装置21や、入力装置22a及び表示装置22bを備える操作装置22等に接続されている。
【0044】
制御装置20のROM等のメモリには、放射線画像撮影装置1各部を制御するための制御プログラム及び各種処理プログラムが記憶されており、制御装置20は、キーボードやマウス、コントローラ等の入力装置22aから入力されるオペレータの入力に基づいて、メモリから制御プログラム及び各種処理プログラムを読み出して、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ等の表示装置22bに制御内容を表示させながら放射線画像撮影装置1各部の動作を統括的に制御するようになっている。
【0045】
例えば、前述したように使用されるX線管8の管電圧が設定されるとX線管8から照射されるX線の平均エネルギーが決まり、それに応じてX線管8と第一回折格子15との距離Lの許容範囲や、第一回折格子15と第二回折格子16との間の距離Z1が決まる。また、前述したように第二回折格子16とX線検出器17とを密着させた場合、図2において、仮にX線管8から被写体台12までの距離をR1、被写体台12からX線検出器17までの距離をR2とすると、被写体台12の位置により被写体Hの拡大率は(R1+R2)/R1で決まる。
【0046】
そこで、本実施形態では、制御装置20は、入力装置22aを介してX線管8の管電圧や距離L、距離Z1、拡大率等が入力されると、それに基づいて位置調整装置9を駆動させて、被写体台12に対してX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整を行う。そして、それらの位置関係を保ったまま支持基台3の昇降により被写体台12を昇降させて被検者が疲れにくい姿勢をとるように位置調整を行うようになっている。
【0047】
なお、被写体台12と第一回折格子15等とが接触しないように位置調整されなければならないから、前述した距離R1、R2には限界があり、従って、拡大率(R1+R2)/R1も設定できる範囲が限られる。そのため、X線管8の管電圧や距離L、距離Z1、拡大率が入力された段階で表示装置22bに拡大率の設定可能な範囲を表示するように構成することも可能である。
【0048】
また、あらかじめ使用されるX線管8の管電圧に対して好適な距離Lや距離Z1のLUT(Look Up Table)を用意しておき、管電圧が入力されると自動的に距離Lや距離Z1が設定されるように構成することも可能である。この場合、管電圧が入力されると自動的にX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整が行われ、拡大率が入力されると、それに応じてそれらと被写体台12との位置調整が行われる。
【0049】
制御装置20は、このようにしてX線管8等の位置調整とともに、駆動装置6を駆動して支持軸5を図3のCW方向又はCCW方向に回動させ、撮影装置本体部4を被写体H周りに回動させて放射線照射角度を調節するようになっている。
【0050】
また、制御装置20は、放射線画像撮影装置1の稼動時には、電源部10からX線管8に電力を供給して被写体Hに対してX線を照射させ、放射線量検出装置21が検出したX線量が予め設定されたX線量に達すると、電源部10からX線管8への電力の供給を停止してX線の照射を停止させる。なお、X線の照射条件は、放射線量検出装置21が検出するX線量以外の要素、すなわち例えばX線検出器17の種類等も加味されて適宜設定される。
【0051】
本実施形態では、制御装置20は、駆動装置6を駆動して支持軸5を回転させて撮影装置本体部4を回転させ、X線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17を被写体Hの周囲で回転させることで、被写体Hに複数の方向からX線を照射して連続的に撮影することができるようになっている。なお、撮影装置本体部4の回転量や撮影タイミング(回転角度が何度ごとに撮影するかのタイミング)等は、入力装置22aから入力されて設定される。
【0052】
また、制御装置20は、第一回折格子15と第二回折格子16に配設された温度センサ15a、16aにより測定された第一回折格子15と第二回折格子16の温度が、予め設定された温度以上か否かの判断を行うようになっており、本実施形態では、制御装置20は、第一回折格子15の温度と第二回折格子16の温度の少なくとも一方が予め設定された温度以上になった場合には、警告を行うようになっている。警告は、表示装置22bを制御して警告する旨を視覚的或いは聴覚的な報知により表示をさせる。
【0053】
なお、前述したように電流の向きや電流の大きさを制御して加熱や冷却を行うことができるペルチェ素子等が第一回折格子15や第二回折格子16に配設されている場合には、温度センサ15a、16aが測定した第一回折格子15と第二回折格子16の温度が上昇又は下降する場合にペルチェ素子等を作動させて第一回折格子15と第二回折格子16の温度が所定の温度範囲に収まるように制御することも可能である。
【0054】
本実施形態では、さらに、制御装置20は、後述するように被写体Hを被写体台12に載置しない状態で検出されるモアレ縞画像(後述する図6のモアレ縞M参照)に基づいて第一回折格子15や第二回折格子16に温度による歪みや経時的な歪みが生じたか否かを判断するように構成されている。
【0055】
具体的には、制御装置20は、放射線画像撮影装置1が工場から出荷されて室内に設置された段階や第一回折格子15及び第二回折格子16を交換した段階で、装置の稼動開始前に被写体Hを被写体台12に載置しない状態で撮影されたモアレ縞画像をRAM等のメモリに記憶しておく。そして、設定された放射線画像撮影装置1の使用時間を経過したりX線の照射回数が所定の回数に達するなど予め設定された条件を満たした段階で、改めて被写体Hを被写体台12に載置しない状態でモアレ縞画像を撮影する。定期的にモアレ縞画像を撮影するように構成してもよい。
【0056】
そして、稼動開始前に撮影したモアレ縞画像をメモリから読み出して比較して、今回撮影されたモアレ縞画像が、稼動開始前に撮影したモアレ縞画像に比べてモアレ縞の間隔が所定量以上拡大し又は縮小した、モアレ縞の一部又は全部が曲がった、モアレ縞のうち照射されたX線が最大の部分と最小の部分との検出量の差が所定量以上に拡大又は縮小した等の条件を満たす場合に、制御装置20は、第一回折格子15や第二回折格子16の回折部材(格子)に歪みが生じたと判断するようになっている。なお、この操作は、後述するタルボ干渉計方式とタルボ・ロー干渉計方式と屈折コントラスト画像方式を切り換えられるようになっている実施形態においては、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれか一方の方式の場合にのみ行ってもよく、全ての方式で行ってもよい。
【0057】
制御装置20は、このようにして第一回折格子15や第二回折格子16の回折部材に歪みが生じたと判断すると、前記と同様に、表示装置22bを制御して警告する旨を視覚的或いは聴覚的な報知により表示をさせて警告を行うようになっている。
【0058】
画像処理装置30と画像出力装置50とは、図1に示したように、ネットワークNで放射線画像撮影装置1に接続されている。画像出力装置50には、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ等の表示装置や画像をフィルム出力するための現像装置等が含まれる。
【0059】
画像処理装置30は、ネットワークNを介して放射線画像撮影装置1のX線検出器17から画素ごとのX線画像データが送信されてくると、図示しないメモリに受信したX線画像データを一時記憶するようになっている。メモリとしては、大容量かつ高速の記憶装置であるハードディスク、RAID(Redundant Array of Independent Disks)等のハードディスクアレイ、シリコンディスク等を用いることができる。
【0060】
また、画像処理装置30は、被写体Hが存在しない状態で予め放射線画像撮影装置1にモアレ縞画像を撮影させてそのX線画像データを送信させ、そのX線画像データをメモリに記憶しておくようになっている。このX線画像データを仮に基準X線画像データとする。そして、画像処理装置30は、放射線画像撮影装置1による被写体Hの撮影作業が開始されると、被写体Hが存在する状態で放射線画像撮影装置1により撮影され送信されてきたX線画像データを基準X線画像データに基づいて補正するようになっている。
【0061】
補正は、例えば画像上の位置ずれや感度ムラ(すなわち検出器の信号値の非一様性)等について行われる。すなわち、基準X線画像データにより画像上の一定の画素領域で位置ずれが生じることが分かっている場合には、送信されてきたX線画像データのその画素領域について位置ずれの分だけ元に戻す補正を行うことで、位置ずれを補正することができる。また、位置ずれ補正後のX線画像データを基準X線画像データで画素ごとに割り算することで、回折格子が存在することに起因する感度ムラのないX線画像を得ることができる。画像処理装置30はこのように処理したX線画像データもメモリに保存するようになっている。
【0062】
また、画像処理装置30は、X線検出器17により検出されたX線画像(モアレ縞画像)から被写体Hによる屈折効果によってX線が曲げられる角度の分布像(位相シフト微分像)への変換、位相シフト微分像を積分することによる位相のずれそのものを表す像の取得を行うことができるようになっている。前記変換や像の取得には、国際公開第2004/058070号などに示される方法など公知の手法が用いられる。
【0063】
また、本実施形態では、画像処理装置30は、画像放射線画像撮影装置1から被写体Hを撮影する方向を変えて連続的に撮影された複数のX線画像データが送信されてくると、それらの複数のX線画像データに基づいて被写体Hの三次元画像を形成するようになっている。形成された三次元画像は、液晶ディスプレイ等に表示させたりフィルム出力させるなどして画像出力装置50から出力される。なお、この場合、被写体Hを撮影した複数の二次元の画像データから三次元画像を形成する手法としては公知の手法が用いられる。
【0064】
なお、このようにして得られた被写体Hの二次元画像や三次元画像に対してさらに処理を施すことも可能である。例えば、背景の淡色に対して軟骨部分が濃色で出力される画像の輝度を反転させて表示、フィルム出力させたり、或いは標準的な軟骨部分のモデルに対して大きく変化している部分を着色して表示、フィルム出力させることで、症状が現れている部分を強調した画像等を得ることが可能となる。また、例えば、手の指にリウマチの症状が現れているような場合には、指の関節の角度を種々変化させた複数の三次元画像を得ることで動画像的に患部を観察することが可能となる。
【0065】
なお、以上の操作は、後述するタルボ干渉計方式とタルボ・ロー干渉計方式と屈折コントラスト画像方式を切り換えられるようになっている実施形態においては、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれか一方の方式の場合にのみ行ってもよく、全ての方式で行ってもよい。
【0066】
次に、本実施形態の放射線画像撮影装置1において構成されるタルボ干渉計について説明し、第一回折格子15と第二回折格子16の構成やそれらとX線検出器17との位置関係等の説明とあわせて放射線画像撮影装置1の作用について説明する。
【0067】
本実施形態においては、図6に示すように、X線管8から照射され被写体Hを透過したX線が、第一回折格子15及び第二回折格子16を透過してX線検出器17に入射するようになっており、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ干渉計が構成される。
【0068】
図7は、図6におけるI−I断面図である。図6及び図7に示すように、第一回折格子15は、基板151と、この基板151に配置された複数の回折部材152とを備え、被写体台12及びこれに保持された被写体Hを透過して照射されたX線を回折することにより後述するタルボ効果を生じさせる。基板151は、例えばガラス等により形成される。なお、基板151の、回折部材152が配置されている面を回折格子面153とする。
【0069】
複数の回折部材152は、いずれも、X線管8から照射されるX線の照射方向に直交する一方向、すなわち例えば図6では上下方向に延びる線状の部材である。各回折部材152の厚みはほぼ等しくなっており、例えば10〜50μmの範囲で形成される。
【0070】
また、図7に示すように、複数の回折部材152相互間の間隔d1は一定とされており、回折部材152相互間の間隔は等間隔とされている。間隔d1は3〜10μm程度に形成される。間隔d1は格子周期や格子間隔とも呼ばれる。なお、複数の回折部材152の相互間の間隔d1及び各回折部材152の幅は特に限定されず、回折部材152相互間の間隔と各回折部材152の幅が等しくなるように形成してもよいし、異なるように形成してもよい。
【0071】
複数の回折部材152を構成する材料としては、X線吸収性に優れるものが好ましく、例えば金、銀、白金等の金属を用いることができる。回折部材152は例えば基板151の上にこれらの金属をめっき、蒸着等することにより形成される。回折部材152は、回折部材152に照射されたX線の位相速度を変化させるものであり、回折部材152としては、照射されるX線に対して約80°〜100°、好ましくは90°の位相変調を与える、いわゆる位相型回折格子を構成するものであることが好ましい。X線はかならずしも単色である必要はなく、上記条件を満たす範囲のエネルギー幅(つまり波長スペクトル幅)を有しても構わない。
【0072】
図8は、図6におけるII−II断面図である。図6及び図8に示すように、第二回折格子16は、前記第一回折格子15と同様に基板161と複数の回折部材162とを備える。なお、基板161の、回折部材162が配置されている面を回折格子面163とする。
【0073】
ここで、第二回折格子16の回折部材162相互間の間隔d2は、X線管8から第二回折格子16までの距離L+Z1と間隔d2との比が、X線管8から第一回折格子15までの距離Lと第一回折格子15における間隔d1との比にほぼ等しくなるように構成される。なお、第二回折格子16の回折部材162相互間の間隔d2を第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔d1と例えば同一となるように構成することも可能である。また、第二回折格子16の各回折部材162の幅は、第一回折格子15の各回折部材152の幅と同一となっている。
【0074】
第二回折格子16は、その回折部材162の延在方向が、第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して後述するように相対的に微小角θだけ回転した状態で配置されており、第一回折格子15により回折されたX線を回折することにより、画像コントラストを形成する構成となっている。第二回折格子16については、回折部材162をより厚くした振幅型回折格子であることが望ましいが、第一回折格子15と同様の構成とすることも可能である。
【0075】
次に、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16がタルボ干渉計を構成する条件を説明する。
【0076】
第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は、第一回折格子15が位相型回折格子であることを前提にすれば、次の条件をほぼ満たさねばならない。ただし、mは整数、d1は前述した第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔である。
【0077】
【数1】
【0078】
タルボ効果とは、図9を参照して説明すると、X線の平面波が第一回折格子15を通過したとき、第一回折格子15が位相型回折格子の場合、式(1)で与えられる距離において回折格子の自己像を形成することである。被写体Hが存在しない状態では、第一回折格子15から式(1)で与えられる距離Z1だけ離れた位置に第一回折格子15の自己像、すなわち間隔d1ごとの格子周期が若干拡大された回折部材152の像が現れる。
【0079】
なお、式(1)で与えられる距離Z1以外の位置では自己像は見えないか或いはピントがぼけた像になる。しかし、式(1)で与えられる距離Z1の近傍では比較的ピントがあった状態が保たれる。従って、以下、式(1)で与えられる距離Z1という場合、その近傍の距離も含まれる。また、実際の距離Z1の設定においても、式(1)で与えられる距離Z1から遊びが許容される。
【0080】
そして、式(1)で与えられる距離Z1の位置に、回折部材162の延在方向が第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して相対的に微小角θだけ回転された状態の第二回折格子16を置くとモアレ縞が現れ、X線検出器17により図6に示したようなモアレ縞Mが映し出されたモアレ縞画像が検出される。この場合、発生するモアレ縞Mの間隔は、回折部材152の間隔d1と相対的な微小角θとからd1/θで与えられる。
【0081】
一方、X線管8と第一回折格子15との間に被写体Hが存在すると、X線管8から照射されたX線は、被写体Hを透過する間に被写体Hにより位相がずれるので、第一回折格子15に入射するX線の波面が歪む。したがって、第一回折格子15の自己像はそれに依存して変形する。
【0082】
そして、第一回折格子15で回折されたX線が、第二回折格子16を通過すると、X線の波面の歪みに応じてモアレ縞Mも被写体Hの形状に応じて歪む。その際、X線は被写体Hの内部を透過するから、X線は被写体Hの内部の形状によっても歪み、これらの歪みがモアレ縞Mの中に映し出されることになる。
【0083】
その際、実際には、第一回折格子15の自己像にも被写体Hによる歪みが反映されており、式(1)で与えられる距離Z1の位置では間隔d1ごとの格子周期が若干拡大された間隔となった回折部材152の回折縞の中に被写体H及びその内部の形状が反映される状態となる。しかし、この回折縞は通常のX線検出器17の分解能では検出できず、したがって、被写体Hによる回折縞の歪みも検出されないため、このままでは被写体HのX線画像を得ることは困難である。
【0084】
しかし、第二回折格子16を第一回折格子15に対して相対的に微小角θだけ回転してより縞の間隔が格子周期よりも格段に大きいモアレ縞画像を形成するように構成すれば、このモアレ縞Mは通常のX線検出器17の分解能でも検出できるようになる。そして、被写体H及びその内部の形状に沿って歪んだモアレ縞Mを通常のX線検出器17を用いて検出することで、被写体H及びその内部の形状が映し出された被写体HのX線画像を得ることが可能となる。
【0085】
以上のようなタルボ干渉計を用いた本実施形態の放射線画像撮影装置1において、X線管8から照射される前述した15〜60keVの平均エネルギーを有するX線の第一回折格子15に入射する際の干渉性を高くするために、X線管8と第一回折格子15との距離Lは一定以上の距離を置くことが必要となる。
【0086】
前述したように、X線管8の焦点径aが最小の1μmで、X線の平均エネルギーが最高の60keVの場合には、X線管8と第一回折格子15との距離Lは0.5m以上であることが必要となる。ただし、可干渉性(可干渉距離)は、距離Lに比例し、X線の平均エネルギーと焦点径に反比例するため、X線の平均エネルギーが60keVで可干渉性が得られた場合、例えばX線の平均エネルギーが15keVであればX線管8と第一回折格子15との距離Lは0.125m(12.5cm)以上にできるかまたは、X線管8の焦点径aを4μmまで広げても、同等の可干渉性が得られる。
【0087】
また、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は前記式(1)で与えられるが、式(1)中にX線の波長λがあることから分かるように、距離Z1はX線管8から照射されるX線の平均エネルギーに依存する。したがって、前述したように、第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔d1を技術的に作製可能な3μm程度に形成し、照射されるX線の平均エネルギーが15〜60keVの範囲である場合、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は0.05m以上であることが必要となる。
【0088】
なお、X線管8からX線検出器17までの距離Ltotalの取り得る範囲の下限は、上記のように距離L、距離Z1の制限(第二回折格子16からX線検出器17までの距離Z2は0)に規定される。また、上限は特に限定されないが、本実施形態の放射線画像撮影装置1を室内で使用することを考慮すれば2m程度とされる。
【0089】
以上のように、本実施形態に係る放射線画像撮影装置1によれば、装置を医療用に用いる場合、15〜60keVという比較的狭い平均エネルギーの範囲のX線しか照射できないが、そのような場合でも、第二回折格子16をX線検出器17に当接させるように配設し、X線管8と第一回折格子15との距離L、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1、及びX線管8の焦点径aを上記のように規定することで、タルボ効果を十分に発揮させてモアレ縞画像中に被写体H及びその内部の形状を精度良く検出することが可能となる。
【0090】
また、照射するX線の平均エネルギーが15keV未満だと、照射するX線のほとんど大部分が被写体で吸収されてしまうために、被写体の被曝線量が非常に大きくなってしまい、臨床での利用は好ましくないが、15keV以上とすることでそのような問題を回避することができるとともに、1回の撮影ごとのX線の照射は数分の一秒間程度、長くても2〜3秒以下でX線の照射を完了することが可能となるため、被写体Hである人体の動きによるぶれがないX線画像を得ることが可能となる。また、照射するX線の平均エネルギーを60keV以下とすることで、人体を構成する骨や軟部の組織等のコントラストが十分に得られる。
【0091】
そのため、リウマチを代表とする関節疾患の他、そのほとんどが軟部組織であり、さらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影等の関節疾患等のように通常のX線撮影装置ではX線画像が得られ難い組織部分でもタルボ干渉計方式を用いてその辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることが可能となり、得られたコントラストが明確なX線画像を診断等に効果的に用いることが可能となる。
【0092】
また、放射線画像撮影システム100の画像処理装置30により適切に画像処理を行うことで、より鮮明なX画像が得られるとともに、被写体Hの三次元画像や症状が現れている部分を強調した画像等を得ることが可能となる。
【0093】
なお、図2に示した本実施形態に係る放射線画像撮影装置1のように、被写体H(被写体台12)をX線管8と第一回折格子15の間に置くように構成する代わりに、例えば図10に示す放射線画像撮影装置のように、被写体Hを第一回折格子15と第二回折格子16の間に配置するように構成することも可能である。
【0094】
本実施形態においては、図10に示すように、X線管8から照射され第一回折格子15を透過したX線が、被写体H及び第二回折格子16を透過してX線検出器17に入射するようになっており、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ干渉計が構成される。
【0095】
また、第一回折格子15をX線管8と被写体Hとの間に配置するように構成したため、被写体HをX線管8と第一回折格子15の間に挿入するように構成した場合に比べ、第一回折格子15をより小面積に形成することが可能となり、第一回折格子15の作製作業が容易となる。また、それと同時に、回折部材152の製造ムラ等によって生じるX線画像のぶれ等の影響が低減され、より高精細なX線画像を得ることが可能となる。
【0096】
[他の実施形態]
図11乃至図19に基づいて他の実施形態について説明する。同図に示す放射線画像撮影システムの放射線画像撮影装置1は、前述したタルボ干渉計方式とタルボ・ロー干渉計方式と屈折コントラスト画像方式を切り換えられるようになっている。同図に示す事項以外は図1乃至図10で説明した放射線画像撮影システムと共通であり説明は省略する。
【0097】
放射線画像撮影装置1がタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合には、第一回折格子に入射するX線は可干渉性を有する必要があり、可干渉性を有するにはX線管8の焦点径はより小さい径であることが好ましいが、本発明では、X線管8から照射されたX線が後述するマルチスリット11で多光源化されるので、X線管8には高出力が要請されることもあり、X線管8の焦点径としてはそれほど小さくする必要はない。そこで、本実施形態では、X線管8の焦点径が100μm以上に設定される。具体的にはX線管8の焦点径は100〜2000μmが好ましく、300μm以上であればより好ましい。実用的には、600〜1200μmの焦点径が好ましく採用される。
【0098】
そして、放射線画像撮影装置1が屈折コントラスト画像方式として使用される場合には、X線管8の焦点径は30〜200μmが好ましい。
【0099】
本実施形態では、X線管8の焦点径の切り換えは、後述する制御装置によりX線管球のターゲットの角度が変えられることにより行われるようになっている。ターゲットの角度を切り換えるには、ターゲットを傾けて切り換える方法や、あらかじめ2つの角度を持つターゲットを作製しておき、電子線が照射されるターゲットの位置を変えることにより角度を切り換える方法などがある。この他にも、例えば、ターゲットに照射される電子線の領域を変更することにより焦点径を切り換えたり、焦点径が異なる複数のX線管を備えておき、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式との切り換えに際してX線管8自体を別のものに交換するように構成することも可能である。
【0100】
X線管8の下方には、図11及び図12に示すように、マルチスリット11が配設されている。マルチスリット11は、放射線画像撮影装置1がタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合にはX線管8から照射されたX線の光路上に配置され、放射線画像撮影装置1がタルボ干渉計方式として使用される場合には前記光路上から離脱されるようになっている。
【0101】
マルチスリット11は、図13に示すように、複数のスリット111が平行になるように設けられた薄板で構成されている。薄板には、例えば、鉛やタングステンなどX線を遮蔽する(X線の吸収が大きい)素材が用いられ、また、各スリット111の開口部の幅(すなわちいわゆるスリット幅)は1〜50μm程度、タルボ効果を有効に利用してかつ十分なX線量を得るためには、好ましくは7〜30μm程度に形成されている。これにより、後述する第一回折格子に入射するX線が可干渉性を有するようになりながら多光源化される。なお、マルチスリット11のスリット111相互間の間隔d0については後述する。
【0102】
また、マルチスリット11の複数のスリット111は、X線管8から照射されるX線の照射野内にのみ形成されている。マルチスリット11は、図12に示すように、支持部材112を介して保持部材7に昇降自在に支持されており、位置調整装置9で保持部材7に沿って昇降されて位置調整されるようになっている。
【0103】
本実施形態では、マルチスリット11は、位置調整装置9の駆動により保持部材7に対して保持部材7の軸周りに回動できるようになっており、放射線画像撮影装置1をタルボ干渉計方式として使用する場合にはマルチスリット11を保持部材7周りに回動させて前記光路上から離脱させ、放射線画像撮影装置1をタルボ・ロー干渉計方式として使用する場合にはマルチスリット11を保持部材7周りに回動させて前記光路上に配置させるようになっている。
【0104】
なお、この回動動作を他の駆動装置で行わせたり手動で行うように構成することも可能である。また、この他にも、例えば、マルチスリット11と保持部材7との連結部分を伸縮自在に構成して、マルチスリット11を保持部材7方向或いは保持部材7から離れる方向に移動させてX線の光路上に配置し、或いは光路上から離脱させるように構成することも可能である。
【0105】
マルチスリット11は、X線の光路上に配置される場合には、複数のスリット111の延在方向が後述する第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して平行になるように配設される。また、X線管8から照射されたX線が図11に示すようにX線管8から離れるほど広がっていくため、マルチスリット11をX線管8から離れた位置に配置すると、マルチスリット11の面積を大きくせざるを得なくなるとともに、被写体Hにぶつかったりして撮影の邪魔になる。そのため、マルチスリット11はX線管8から1〜10cm程度の距離の位置に配置されることが好ましい。なお、本発明において、X線管8と他の部材との距離とは、正確にはX線管8の焦点と他の部材との距離を表す。
【0106】
前述したように、X線管8から照射されたX線はマルチスリット11で多光源化されるために、いわばマルチスリット11を光源のように考えることができる。そして、第一回折格子15と光源との距離が的確に調整される必要があり、マルチスリット11がX線の光路上から離脱されたタルボ干渉計方式の場合には、X線管8と第一回折格子15との距離Lは、第一回折格子15が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。また、マルチスリット11がX線の光路上に配置されたタルボ・ロー干渉計方式の場合には、前述したように、X線管8から照射されたX線はマルチスリット11で多光源化されるからいわばマルチスリット11を光源のように考えることができる。そのため、第一回折格子15と光源としてのマルチスリット11との距離Lが、第一回折格子15が位置調整装置9により保持部材7に対して昇降されて調整されるようになっている。
【0107】
また、第一回折格子15と第二回折格子16とは、それぞれX線管8から照射されたX線の光路上への配置及び前記光路上からの離脱を可能とされている。第一回折格子15及び第二回折格子16は、位置調整装置9の駆動により保持部材7に対して保持部材7の軸周りに回動できるようになっており、放射線画像撮影装置1をタルボ干渉計方式として使用する場合には第一回折格子15と第二回折格子16とを保持部材7周りに回動させて前記光路上に配置させ、放射線画像撮影装置1を屈折コントラスト画像方式として使用する場合には第一回折格子15と第二回折格子16とを保持部材7周りに回動させて前記光路上から離脱させるようになっている。
【0108】
なお、この回動動作を他の駆動装置で行わせたり手動で行うように構成することも可能である。また、この他にも、例えば、第一回折格子15及び第二回折格子16と保持部材7との連結部分を伸縮自在に構成して、第一回折格子15と第二回折格子16とを保持部材7方向或いは保持部材7から離れる方向に移動させてX線の光路上に配置し、或いは光路上から離脱させるように構成することも可能である。
【0109】
第一回折格子15と第二回折格子16とを離脱させる際には、単にこれらの各格子15,16を保持部材7から取り外すようにしてもよい。
【0110】
X線検出器17は、X線管8又は光源としてのマルチスリット11との距離Ltotalが0.5m以上となるように設定されるようになっており、また、距離Ltotalの上限は、放射線画像撮影装置1を室内で使用することや放射線画像撮影装置1の精度や強度等を考慮して2m程度に設定される。
【0111】
例えば、入力装置22aから放射線画像撮影装置1の方式としてタルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれかが入力され、前述したように使用されるX線管8の管電圧が設定されると、X線管8から照射されるX線の平均エネルギーが決まり、X線管8と第一回折格子15との距離L又は光源としてのマルチスリット11と第一回折格子15との距離Lの許容範囲や、第一回折格子15と第二回折格子16との間の距離Z1、X線管8と被写体Hとの距離R1、被写体HとX線検出器17との距離R2が決まる。また、前述したように第二回折格子16とX線検出器17とを密着させた場合、図11において、被写体台12の位置により被写体Hの拡大率は(R1+R2)/R1で決まる。
【0112】
そこで、本実施形態では、制御装置20は、入力装置22aを介して装置の方式やX線管8の管電圧、距離L、距離Z1、拡大率等が入力されると、それに基づいて位置調整装置9を駆動させて、被写体台12に対してX線管8やマルチスリット11、第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整を行う。第一回折格子15及び第二回折格子16については上下方向の位置調整の他、設定された装置の方式に応じて位置調整装置9の駆動により保持部材7の軸周りに回動されてX線の光路上に配置され(タルボ・ロー干渉計方式、タルボ干渉計方式の場合)、或いは光路上から離脱される(屈折コントラスト画像方式)。さらに、マルチスリット11についてはこの上下方向の位置調整のほか、設定された装置の方式に応じて位置調整装置9の駆動により保持部材7の軸周りに回動されてX線の光路上に配置され(タルボ・ロー干渉計方式の場合)、或いは光路上から離脱される(タルボ干渉計方式の場合)。
【0113】
そして、それらの位置関係を保ったまま支持基台3の昇降により被写体台12を昇降させて被検者が疲れにくい姿勢をとるように位置調整を行うようになっている。
【0114】
なお、被写体台12と第一回折格子15等とが接触しないように位置調整されなければならないから、前述した距離R1、R2には限界があり、従って、拡大率(R1+R2)/R1も設定できる範囲が限られる。そのため、装置の方式やX線管8の管電圧、距離L、距離Z1、拡大率が入力された段階で表示装置22bに拡大率の設定可能な範囲を表示するように構成することも可能である。
【0115】
また、あらかじめ装置の方式と使用されるX線管8の管電圧に対して好適な距離L,R1,R2や距離Z1のLUT(Look Up Table)を用意しておき、装置の方式と管電圧が入力されると自動的に距離L,R1,R2や距離Z1が設定されるように構成することも可能である。この場合、装置の方式と管電圧が入力されると自動的にX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整が行われ、拡大率が入力されると、それに応じてそれらと被写体台12との位置調整が行われる。
【0116】
さらに、本実施形態では、タルボ・ロー干渉計方式の場合、X線管8の下方に配置されるマルチスリット11とX線管8との距離は予め設定された距離に設定されるようになっているが、これを装置の方式やX線管8の管電圧等の入力と同時に入力して設定したり、装置の方式と使用されるX線管8の管電圧に対して好適な距離を設定するLUTを用意しておくようにしてもよい。
【0117】
また、制御装置20は、タルボ干渉計方式、タルボ・ロー干渉計方式及び屈折コントラスト画像方式のいずれかが入力され、使用されるX線管8の管電圧が設定されると、前述したように、装置の方式に応じてX線管球のターゲットの角度を変えてX線管8の焦点径の切り換えを行うようになっている。
【0118】
制御装置20は、このようにしてX線管8等の位置調整とともに、駆動装置6を駆動して支持軸5を図12のCW方向又はCCW方向に回動させ、撮影装置本体部4を被写体H周りに回動させて放射線照射角度を調節するようになっている。
【0119】
また、制御装置20は、放射線画像撮影装置1の稼動時には、電源部10から供給された電力に従ってX線管8から照射されたX線を被写体Hに照射し(タルボ・ロー干渉計方式の場合にはマルチスリット11で多光源化させて被写体Hに照射し)、放射線量検出装置21が検出したX線量が予め設定されたX線量に達すると、電源部10からX線管8への電力の供給を停止してX線の照射を停止させる。なお、X線の照射条件は、放射線量検出装置21が検出するX線量以外の要素、すなわち例えばX線検出器17の種類等も加味されて適宜設定される。
【0120】
本実施形態では、制御装置20は、駆動装置6を駆動して支持軸5を回転させて撮影装置本体部4を回転させ、X線管8やX線検出器17(タルボ干渉計方式の場合には第一回折格子15、第二回折格子16も、タルボ・ロー干渉計方式の場合にはさらにマルチスリット11)を被写体Hの周囲で回転させることで、被写体Hに複数の方向からX線を照射して連続的に撮影することができるようになっている。なお、撮影装置本体部4の回転量や撮影タイミング(回転角度が何度ごとに撮影するかのタイミング)等は、入力装置22aから入力されて設定される。
【0121】
また、本実施形態では、制御装置20は、撮影されたX線画像から異常陰影候補を検出するように構成されており、異常陰影候補を検出した場合には、その異常陰影候補をより鮮明に撮影するために装置を屈折コントラスト画像方式からタルボ干渉計方式に切り換えるようになっている。
【0122】
X線画像からの異常陰影候補の検出は、例えば、本願出願人が先に提出した特開2005−102936号公報に記載されている医用画像診断支援システムの技術により行うことができる。このシステムでは、X線画像等の医用画像を画像解析して特徴量を算出し、その特徴量に基づいて画像中から異常陰影候補を検出するようになっている。
【0123】
なお、この放射線画像撮影装置1により撮影されたX線画像から異常陰影候補を検出する装置を図示しない診断支援装置として放射線画像撮影装置1とは別の装置として設け、ネットワークNで放射線画像撮影装置1等と接続して放射線画像撮影システム100内に設けるように構成することも可能である。
【0124】
その場合、放射線画像撮影装置1の制御装置20は、例えば、診断支援装置が異常陰影候補を検出してその情報が送信されてくると、その情報に基づいて放射線画像撮影装置1を屈折コントラスト画像方式からタルボ干渉計方式に切り換えるように構成することができる。
【0125】
次に、本実施形態の放射線画像撮影装置1において構成されるタルボ・ロー干渉計について説明し、マルチスリット11や第一回折格子15、第二回折格子16の構成やそれらとX線検出器17との位置関係等の説明とあわせて放射線画像撮影装置1の作用について説明する。
【0126】
本実施形態においては、図6及び図14に示すように、X線管8から照射されたX線は、図14の場合はマルチスリット11を透過して、被写体Hを透過し、第一回折格子15及び第二回折格子16を透過してX線検出器17に入射するようになっている。図6に示すように、X線管8、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ干渉計が構成され、図14に示すように、X線管8、マルチスリット11、第一回折格子15及び第二回折格子16によってタルボ・ロー干渉計が構成される。
【0127】
次に、マルチスリット11の構成について説明する。放射線画像撮影装置1がタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合には、図15に示すように、マルチスリット11と第一回折格子15とは距離Lだけ離れている。また、マルチスリット11の1つのスリット111aを通過したX線は、後述するように例えば第一回折格子15の回折部材152aの自己像と回折部材152bの自己像を第一回折格子15から距離Z1だけ離れた位置に配置された第二回折格子16(それとほとんど近接するX線検出器17)上に形成する。
【0128】
また、マルチスリット11のスリット111aに隣接するスリット111bを通過したX線によっても第一回折格子15の回折部材152a、152bの自己像がそれぞれ第二回折格子16上に形成される。すなわち、マルチスリット11の各スリット111を通過したX線により第二回折格子16上には第一回折格子15の各回折部材152の自己像が縞状に形成される。
【0129】
このとき、マルチスリット11のスリット111のスリット間隔d0が適切でないと、マルチスリット11のスリット111a、111bを通過した各X線により第二回折格子16上に形成された縞状の自己像が互いに打ち消しあってしまう。
【0130】
しかし、図15に示すように、スリット111aを通過したX線による回折部材152aの自己像と、スリット111bを通過したX線による回折部材152bの自己像とが、第二回折格子16上のYの位置で重なりあうようにスリット間隔d0を調整すれば、それぞれの自己像の縞が重なり合い、いわばピントがあった状態とすることができる。
【0131】
この場合、マルチスリット11のスリット111のスリット間隔d0、第一回折格子15の回折部材152相互間の間隔(格子周期)d1、マルチスリット11と第一回折格子15との距離L、及び第一回折格子15から第二回折格子16までの距離Z1の間には、
d0:d1=(L+Z1):Z1
で表される関係が成立し、これを解くと、スリット間隔d0は式(2)のように表される。
【0132】
【数2】
【0133】
また、図16では、マルチスリット11のスリット111a、111bを通ったX線が第一回折格子15の隣接する回折部材152a、152bの部分を通る場合を考察したが、X線が、例えば回折部材152aの部分と、回折部材152aから格子周期d1の整数倍離れた位置にある回折部材152cや回折部材152d等の部分を通る場合、すなわち式(2)のd1を整数p倍してpd1とした式(3)の関係が成り立つ場合でも、第一回折格子15の自己像の縞がちょうど重なり合い、ピントがあう。
【0134】
【数3】
【0135】
また、前述したようにL+Z1+Z2=Ltotalであり、また、第二回折格子16とX線検出器17との距離Z2はほぼ0であるから、式(3)は下記の式(4)のように表してもよい。
【0136】
【数4】
【0137】
つまり、マルチスリット11は、そのスリット111のスリット間隔d0を式(3)や式(4)を満たすように適切に形成されれば、マルチスリット11の各スリット111を通過した各X線が第二回折格子16上で第一回折格子15の自己像を有効に形成してその自己像が重なりあい、ピントがあったものとすることができる。
【0138】
次に、放射線画像撮影装置1が図14に示したタルボ・ロー干渉計方式として使用される場合に、X線管8、マルチスリット11、第一回折格子15及び第二回折格子16がタルボ・ロー干渉計を構成する条件について説明する。
【0139】
この場合も、原理的には上記のタルボ干渉計方式の場合と同様であり、第一回折格子15と第二回折格子16との距離Z1は、前記(1)式を満たすように設定される。そして、図16に示すように、マルチスリット11の各スリット111を通過したX線により、それぞれ前述したタルボ効果が生じる。そして、各スリット111を通過したX線によって第一回折格子15から距離Z1だけ離れた位置に第一回折格子15の自己像が形成されるが、その際、マルチスリット11のスリット間隔d0が式(3)や式(4)を満たすように構成されていれば、これらの自己像が第一回折格子15から距離Z1だけ離れた位置でちょうど重なり合い、ピントがあう。
【0140】
そのため、式(1)で与えられる距離Z1の位置に、回折部材162の延在方向が第一回折格子15の回折部材152の延在方向に対して相対的に微小角θだけ回転された状態の第二回折格子16を置くとモアレ縞が現れ、X線検出器17により図14に示したようなモアレ縞Mが映し出されたモアレ縞画像が検出される。
【0141】
一方、マルチスリット11と第一回折格子15との間に被写体Hが存在すると、X線管8から照射されマルチスリット11を通過した各X線は、被写体Hを透過する間に被写体Hにより位相がずれるので、第一回折格子15に入射する各X線の波面がそれぞれ歪む。したがって、第一回折格子15の自己像はそれに依存して変形する。
【0142】
そして、第一回折格子15で回折された各X線が、第二回折格子16を通過すると、各X線の波面の歪みに応じてモアレ縞Mも被写体Hの形状に応じて歪む。その際、X線は被写体Hの内部を透過するから、X線は被写体Hの内部の形状によっても歪み、これらの歪みがモアレ縞Mの中に映し出されることになる。このようにして、被写体H及びその内部の形状に沿って歪んだモアレ縞Mを通常のX線検出器17を用いて検出することで、被写体H及びその内部の形状が映し出された被写体HのX線画像を得ることが可能となる。
【0143】
次に、本実施形態の放射線画像撮影装置1で実行される屈折コントラスト画像方式について説明し、マルチスリット11や第一回折格子15、第二回折格子16の構成やそれらとX線検出器17との位置関係等の説明とあわせて放射線画像撮影装置1の作用について説明する。
【0144】
本実施形態においては、屈折コントラスト画像方式であると、マルチスリット11、第一回折格子15及び第二回折格子16の全てが、X線管8から照射されたX線の光路から離脱しているので、X線管8から照射されたX線は、被写体Hを透過してX線検出器17に入射するようになっている。
【0145】
図17は、屈折コントラスト画像方式の概略を説明する図である。 図17に示すように、通常の撮影方法の場合、X線検出器17に接する位置に被写体Hが配置されている(図17の密着撮影位置)。この場合、そのX線検出器17に記録されるX線画像(潜像)はライフサイズ(被写体Hと同一サイズであることをいう)とほぼ等サイズとなる。
【0146】
これに対し、屈折コントラスト画像方式は、被写体HとX線検出器17間に距離を設けるものであり、X線管8からコーンビーム状に照射されたX線により、ライフサイズに対して拡大されたX線画像(以下、拡大画像という)の潜像がX線検出器17で検出されることとなる。
【0147】
ここで、拡大画像のライフサイズに対する拡大率Mは、X線管8の焦点から被写体Hまでの距離をR1、被写体HからX線検出器17までの距離をR2、X線源8の焦点からX線検出器17までの距離をR3(R3=R1+R2)とすると、下記式(5)により求めることができる。
【0148】
M=R3/R1・・・(5)
屈折コントラスト画像方式では、 図18に示すように、被写体Hの辺縁を通過することにより屈折したX線が被写体Hを介さずに通過したX線とX線検出器17上で重なり合い、重なった部分のX線強度が強くなる。一方で、屈折したX線の分だけ、被写体Hの辺縁内側の部分においてX線強度が弱くなる現象が生じる。そのため、被写体Hの辺縁を境にしてX線強度差が広がるエッジ強調作用(エッジ効果ともいう)が働き、辺縁部分が鮮鋭に描写された視認性の高いX線画像を得ることができる。
【0149】
撮影室内等、距離R3の設定に制限がある場合には、距離R3を固定し、その固定した距離R3の中で距離R1、R2の比率を変えて最適な条件で撮影することができる。例えば、R3=2.0(m)に決定した場合、この距離R3に対し、R1=1.0(m)、R2=1.0(m)とする。一般的な撮影室の広さを考慮すると、0.1≦R1≦1.5、0.3≦R2≦1.5、0.8≦R3≦2.0の範囲とし、拡大率Mを1.5≦M≦10、焦点径Dを0.03(mm)≦D≦0.2(mm)の範囲とし、この範囲内で拡大画像の視認性との関係を見ながら、経験的、実験的に最適な距離R3、R1、R2及び拡大率M、焦点径Dを決定すればよい。焦点径Dをこのような範囲とすることで、X線強度が強く、短時間の撮影が可能となり、被写体Hの動きによる運動ボケを小さくさせることができる。なお、より好ましい距離としては、0.5≦R1≦1.2、0.5≦R2≦1.2、1.0≦R3≦2.0の範囲を満たし、拡大率Mを3≦M≦8、焦点径Dを0.05(mm)≦D≦0.12(mm)の範囲を満たす設定とすることができる。
【0150】
拡大率Mは高い方がより微細な画像情報を得ることができるので、定量結果の精度も高いものとなる。一方、高拡大率撮影には、より小さな焦点径のX線管が必要になるが、出力が低くなり撮影時間が長くなるので、被写体の動きによるボケが生じやすくなり、画質の鮮明さが損なわれ、精度の高い解析ができなくなるので、現実的には上記の範囲が最適になる。
【0151】
このように、放射線画像撮影装置1をタルボ干渉計方式として使用する場合、タルボ・ロー干渉計方式として使用する場合、屈折コントラスト画像方式とで種々の設定条件が異なる。そのため、制御装置20は、例えば前述したように撮影されたX線画像から異常陰影候補を検出し、或いは放射線画像撮影システム100の診断支援装置がX線画像から異常陰影候補を検出してその情報が送信されてくると、その異常陰影候補をより鮮明に撮影するために、屈折コントラスト画像方式からタルボ干渉計方式に切り換える。
【0152】
その場合、制御装置20は、第一回折格子15及び第二回折格子16を保持部材7の軸周りに回動させてX線の光路上に配置させるとともに、X線管球のターゲットの角度を変えてX線管8の焦点径を切り換える。また、屈折コントラスト画像方式ではマルチスリット11と第一回折格子15との距離として調整されていた距離Lが、タルボ干渉計方式ではマルチスリット11が離脱され、X線管8と第一回折格子15との距離として調整されるようになるなど調整すべき対象が多少変わるため、必要に応じてX線管8や第一回折格子15、第二回折格子16、X線検出器17の位置調整を適宜行う。
【0153】
タルボ干渉計方式から屈折コントラスト画像方式に切り換える場合には、制御装置20は、上記と逆の操作を行う。
【0154】
以上のように、本実施形態に係る放射線画像撮影装置1によれば、第一回折格子15及び第二回折格子16をX線の光路上への配置及び光路上からの離脱が制御されてタルボ干渉計方式と屈折コントラスト画像方式とを切り換えることができる。ここで、タルボ干渉計方式やタルボ・ロー干渉計方式では、回折格子およびその距離の調整が必要であったり、可干渉性を得るために微小焦点X線管やマルチスリットが必要であるが、屈折コントラスト方式ではこれらのものが不要となる。ただし、上記のように撮影部位により程度の違いはあるが、鮮明さは概してタルボ干渉計方式やタルボ・ロー干渉計方式の方がよい。それぞれの方式によって特徴が異なるが、上記したようにタルボ干渉計方式と屈折コントラスト画像方式とが切換可能であると、どの撮影部位においても(例えば、関節、乳房、小児など)、または、同一の部位であっても、特に描出能を高めたい部分に対して(例えば関節画像においても、骨なのか、軟部組織なのか、軟骨なのかによって)、より効果の高い撮影方法を選択し、辺縁部のコントラストが強調された放射線画像を取得することができることになる。
【0155】
そのため、例えば、屈折コントラスト画像方式で広範囲に被写体を撮影し、タルボ干渉計方式に切り換えて患部等のより鮮明なX線画像を撮影することで、リウマチを代表とする関節疾患や、そのほとんどが軟部組織でありさらに微細な石灰化の検出が必要である乳房撮影、骨のほとんどが軟骨である小児撮影など通常のX線撮影装置ではX線画像が得られ難い組織部分でもタルボ干渉計方式やタルボ・ロー干渉計方式を用いてその辺縁部のコントラストを強調した良好なX線画像を得ることが可能となる。
【0156】
また、放射線画像撮影システム100の画像処理装置30により適切に画像処理を行うことで、より鮮明なX画像が得られるとともに、被写体Hの三次元画像や症状が現れている部分を強調した画像等を得ることが可能となる。
【0157】
なお、図11に示した本実施形態に係る放射線画像撮影装置1のように、被写体H(被写体台12)をマルチスリット11と第一回折格子15の間(装置をタルボ干渉計方式として用いる場合はX線管8と第一回折格子15の間)に置くように構成する代わりに、例えば図19に示す放射線画像撮影装置のように、被写体Hを第一回折格子15と第二回折格子16の間に配置するように構成することも可能である。
【0158】
その際、本実施形態の放射線画像撮影装置1に比べて、第一回折格子15がマルチスリット11やX線管8に接近する状態となる。第一回折格子に入射するX線は可干渉性を有する必要があり、そのためには、装置を図14に示したタルボ・ロー干渉計方式として用いる場合に用いられるマルチスリット11の各スリット111の開口部の幅(すなわちいわゆるスリット幅)は、0.1〜10μm程度に、好ましくは1〜5μm程度に形成される。これにより、第一回折格子15に入射するX線が可干渉性を有するようになり、X線管8から照射された高エネルギーのX線が適度に低エネルギー化されるとともに、多光源化される。
【符号の説明】
【0159】
1 放射線画像撮影装置
8 X線管
11 マルチスリット(X線管から照射されたX線を多光源化するX線管用の格子)
12 被写体台
15 第一回折格子(格子)
16 第二回折格子(格子)
17 X線検出器
20 制御装置
30 画像処理装置
50 画像出力装置
100 放射線画像撮影システム
H 被写体
M モアレ縞
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線管と、
被写体を載置する被写体台と、
複数の格子と、
前記複数の格子を通過したX線を検出するX線検出器と、
を備える放射線画像撮影装置と、
前記被写体台に被写体を載置しない状態で前記X線管からX線を照射し、前記複数の格子を透過したX線を前記X線検出器で検出して撮影されるモアレ縞画像に基づいて、前記複数の格子に歪みが生じたか否かを判断する制御装置と、
前記放射線画像撮影装置により撮影された画像を処理する画像処理装置と、
前記画像処理装置により処理された画像を出力する画像出力装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記被写体台に被写体を載置しない状態で予め撮影された第一のモアレ縞画像と、前記第一のモアレ縞画像の撮影後に前記被写体台に被写体を載置しない状態で撮影された第二のモアレ縞画像とに基づいて、前記複数の格子のいずれかに歪みが生じたか否かの判断を行い、
前記画像処理装置は、前記第二のモアレ縞画像のX線画像データに基づいて、前記被写体が存在する状態で前記放射線画像撮影装置により撮影されたX線画像データの補正を行うことを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項2】
前記複数の格子には、前記X線管から照射されたX線を多光源化する前記X線管用の格子が含まれることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像撮影システム。
【請求項1】
X線を照射するX線管と、
被写体を載置する被写体台と、
複数の格子と、
前記複数の格子を通過したX線を検出するX線検出器と、
を備える放射線画像撮影装置と、
前記被写体台に被写体を載置しない状態で前記X線管からX線を照射し、前記複数の格子を透過したX線を前記X線検出器で検出して撮影されるモアレ縞画像に基づいて、前記複数の格子に歪みが生じたか否かを判断する制御装置と、
前記放射線画像撮影装置により撮影された画像を処理する画像処理装置と、
前記画像処理装置により処理された画像を出力する画像出力装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記被写体台に被写体を載置しない状態で予め撮影された第一のモアレ縞画像と、前記第一のモアレ縞画像の撮影後に前記被写体台に被写体を載置しない状態で撮影された第二のモアレ縞画像とに基づいて、前記複数の格子のいずれかに歪みが生じたか否かの判断を行い、
前記画像処理装置は、前記第二のモアレ縞画像のX線画像データに基づいて、前記被写体が存在する状態で前記放射線画像撮影装置により撮影されたX線画像データの補正を行うことを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項2】
前記複数の格子には、前記X線管から照射されたX線を多光源化する前記X線管用の格子が含まれることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像撮影システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−196557(P2012−196557A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164606(P2012−164606)
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【分割の表示】特願2009−500113(P2009−500113)の分割
【原出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【分割の表示】特願2009−500113(P2009−500113)の分割
【原出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
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