説明

放射線画像撮影装置および方法

【課題】被検体への被曝量を増大させることなく、簡易な放射線検出器の構成により、放射線量を自動制御できるようにする。
【解決手段】放射線検出器14の画素50からはTFTスイッチ52をオンとすることにより電荷が読み出される。画素50のうちTFTスイッチ52を短絡させた、短絡画素50Aを所定間隔にて放射線検出器14の全面に亘ってに設ける。撮影時の放射線量を短絡画素50Aからの出力信号に基づいて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる複数の撮影方向から被検体を撮影して複数の放射線画像を取得する放射線画像撮影装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線画像撮影装置において、患部をより詳しく観察するために、放射線源を移動させて異なる角度から被検体に放射線を照射して撮影を行い、これにより取得した複数の撮影画像を加算して所望の断層面を強調した画像を得ることができるトモシンセシス撮影が提案されている。トモシンセシス撮影では、撮影装置の特性や必要な断層画像に応じて、放射線源を放射線検出器と平行に移動させたり、円や楕円の弧を描くように移動させて、異なる照射角となる複数の線源位置から被検体に放射線を照射することにより複数の撮影画像を取得し、単純逆投影法あるいはフィルタ逆投影法等の逆投影法等を用いてこれらの撮影画像を再構成して断層画像を生成する。
【0003】
一方、放射線画像を取得する場合、被検体に照射される放射線量を最小にしながらも良好な画像品質を確保する必要がある。したがって、被検体における関心領域の適切な放射線画像を取得するためには、関心領域に所望の量の放射線が照射されるように照射制御条件を設定する必要がある。そこで、被検体を透過した放射線量の検出結果に基づいて、放射線源から被検体に照射される放射線量を制御する自動露出制御(AEC、Automatic Exposure Control)システムを備える放射線画像撮影装置が提案されている。とくに、放射線検出器にAECを行うための複数のAECセンサを配設し、放射線が被検体を透過する位置範囲内にあるAECセンサのみを選択的に用いるようにすれば、より好適なAECが実現できる。
【0004】
ところで、上述したトモシンセシス撮影を行う場合、被検体内のある部位についての放射線検出器への投影位置は、撮影画像を取得した放射線源の位置に応じて異なるものとなる。ここで、上述したAECセンサは放射線検出器上において多くとも5カ所の位置に配置されているのみであるため、ある位置のAECセンサに入射する放射線は、放射線源の位置が変わると被検体の異なる部位を透過したものとなる。例えば、ある線源位置での撮影時には、ある位置のAECセンサには被検体内の骨部を透過した放射線が照射され、別の線源位置での撮影時には、その位置のAECセンサには被検体内の内蔵等の軟部を透過した放射線が照射されることが生じる。
【0005】
ここで、骨部と軟部とでは放射線の透過率が異なるため、トモシンセシス撮影時にAECセンサを用いて、線源位置に拘わらず同一線量となるように放射線を照射しようとした場合、骨部を透過した放射線がAECセンサに照射される場合と、軟部を透過した放射線がAECセンサに照射される場合とで、放射線の照射時間が異なるものとなる。このように放射線の照射時間が異なると、複数の撮影画像のそれぞれの画像の全体の濃度が異なるものとなるため、再構成を行った場合に、高画質の断層画像を取得できなくなってしまう。
【0006】
ここで、患者に大きな負担をかけずに組織片を採取する方法として、中が空洞の組織採取用の針(以下、生検針と称する)を患者に刺し、針の空洞に埋め込まれた組織を採取するバイオプシを行うための装置において、生検針の存在によるAECセンサの放射線量の精度低下を防止するために、あらかじめ被検体に低線量の放射線を照射して撮影を行うプレ撮影を行うことにより放射線画像を取得し、この放射線画像を利用して実際の撮影時の放射線量を制御する手法が提案されている(特許文献1参照)。また、特許文献1には、放射線検出器の画像読み出し方式がTFT方式である場合には、放射線検出器を構成する画素の一部をAECセンサとして代用する手法も提案されている。特許文献1に記載されたように放射線検出器を構成する画素の一部をAECセンサとして代用すれば、AECセンサの数を実質的に多くすることができるため、線源位置に応じてAECセンサとして使用する画素を選択すれば、線源位置に拘わらず、被検体に照射される放射線量が同一となるように露出制御を行うことができる。
【0007】
また、放射線検出器を構成する画素を流れる電流量を検出し、電流量の検出結果を用いて放射線の照射時間を制御する手法も提案されている(特許文献2参照)。特許文献2に記載された手法は、放射線検出器に電流量を検出する検出手段を設け、この検出手段を用いて放射線の照射により画素を流れる電流量を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−279516号公報
【特許文献2】特開2001−10870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1に記載された手法をトモシンセシス撮影を行う場合にも適用することにより、線源位置に拘わらず、撮影毎に被検体に照射される放射線量が同一となるように自動露出制御を行うことができる。しかしながら、特許文献1に記載された手法は、プレ撮影を行うことにより実際の撮影時の放射線量を制御するものであるため、撮影回数が多くなり、その結果、被検体である患者への被曝量が多くなる。一方、特許文献2に記載された放射線検出器を使用すれば、プレ撮影を行うことなく、放射線の照射量を検出することができる。しかしながら、特許文献2に記載された放射線検出器は、通常の放射線検出器には不要な電流量の検出手段を設ける必要があるため、回路規模が大きくなるとともに、製造コストも大きくなってしまう。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、被検体への被曝量を増大させることなく、簡易な放射線検出器の構成により、放射線量を自動制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による放射線画像撮影装置は、被検体に放射線を照射する放射線源と、
前記放射線の照射を受けて電荷を発生し、該発生した電荷を蓄積する蓄積部、および該蓄積部に蓄積された電荷を読み出すためのTFTスイッチを有する多数の画素、前記TFTスイッチをオン/オフするための多数の走査線、並びに前記蓄積部に蓄積された電荷を画像信号として読み出すための多数のデータ線を備えた放射線検出器であって、前記TFTスイッチが短絡されてなる短絡画素が全面に亘って複数配置されてなる放射線検出器と、
前記放射線源を前記放射線検出器に対して相対的に移動させ、前記放射線源の移動による複数の線源位置において前記被検体に前記放射線を照射して、前記複数の線源位置にそれぞれ対応する複数の撮影画像を取得する画像取得手段と、
前記複数の線源位置のそれぞれに対応して、前記複数の短絡画素のうちの、前記放射線の線量を検出するための検出用短絡画素の位置を設定する短絡画素設定手段と、
前記複数の線源位置のそれぞれにおいて、前記検出用短絡画素から読み出された電気信号に基づいて、前記放射線源から出射される前記放射線の線量を制御する線量制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
「放射線源を検出手段に対して相対的に移動させる」とは、検出手段を固定して放射線源のみを移動させる場合、および検出手段と放射線源との双方を同期させて移動する場合の両方を含む。また、移動は、直線に沿った移動および円弧に沿った移動のいずれであってもよい。
【0013】
「短絡画素を放射線検出器の全体に亘って複数配置する」とは、例えば所定画素間隔にて短絡画素を配置したり、ランダムに短絡画素を配置することにより実現することができる。
【0014】
「TFTスイッチが短絡されてなる」とは、TFTスイッチの両端部が電気的に接続されて、実質的にTFTスイッチが常時オンとされていることを意味する。
【0015】
なお、本発明による放射線画像撮影装置においては、前記複数の撮影画像から断層画像を再構成する再構成手段をさらに備えるものとしてもよい。
【0016】
また、本発明による放射線画像撮影装置においては、前記短絡画素設定手段を、前記複数の線源位置、前記被検体と前記複数の線源位置との距離、および前記被検体と前記放射線検出器との距離に応じて、前記検出用短絡画素の位置を設定する手段としてもよい。
【0017】
本発明による放射線画像撮影方法は、被検体に放射線を照射する放射線源と、
前記放射線の照射を受けて電荷を発生し、該発生した電荷を蓄積する蓄積部、および該蓄積部に蓄積された電荷を読み出すためのTFTスイッチを有する多数の画素、前記TFTスイッチをオン/オフするための多数の走査線、並びに前記蓄積部に蓄積された電荷を画像信号として読み出すための多数のデータ線を備えた放射線検出器であって、前記TFTスイッチが短絡されてなる短絡画素が全面に亘って複数配置されてなる放射線検出器と、
前記放射線源を前記放射線検出器に対して相対的に移動させ、前記放射線源の移動による複数の線源位置において前記被検体に前記放射線を照射して、前記複数の線源位置にそれぞれ対応する複数の撮影画像を取得する画像取得手段と、
前記複数の線源位置のそれぞれに対応して、前記複数の短絡画素のうちの、前記放射線の線量を検出するための検出用短絡画素の位置を設定する短絡画素設定手段とを備えた放射線画像撮影装置における放射線画像撮影方法であって、
前記複数の線源位置のそれぞれにおいて、前記検出用短絡画素から読み出された電気信号に基づいて、前記放射線源から出射される前記放射線の線量を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、TFTスイッチが短絡されてなる短絡画素が全面に亘って複数配置されてなる放射線検出器を使用し、複数の短絡画素について、複数の線源位置のそれぞれに対応して放射線の線量を検出するための検出用短絡画素の位置を設定し、複数の線源位置のそれぞれにおいて、検出用短絡画素から読み出された電気信号に基づいて、放射線源から出射される放射線の線量を制御するようにしたものである。このため、放射線の線量を自動制御するに際し、特許文献1に記載された手法のようにプレ撮影を行う必要がなくなることから、撮影回数を少なくすることができ、これにより、被検体へ照射される放射線を低減することができる。また、放射線検出器における短絡画素は、TFTスイッチが短絡されてなるものであるため、特別な検出手段を設けることなく、短絡画素の電荷を電気信号として検出することができる。このため、放射線検出器の回路規模の大型化およびコストの増大を防止しつつ、複数の線源位置における被検体への放射線量を同一にすることができ、その結果、複数の撮影画像の画質を均一なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態による放射線画像撮影装置の概略図
【図2】放射線検出器の回路構成ブロック図
【図3】放射線検出器における短絡画素の配置を示す概略図
【図4】被検体内の所定位置に含まれる部位の投影位置が、放射線源の位置に応じてどのように移動するかを示す図
【図5】投影位置の算出を説明するための図
【図6】本実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の実施形態による放射線画像撮影装置の概略図である。図1に示すように、本実施形態による放射線画像撮影装置10は、トモシンセシス撮影を行うためのものであり、放射線源12およびフラットパネル放射線検出器(以下、単に放射線検出器とする)14を備える。放射線源12は移動機構16により直線または円弧に沿って移動し、移動経路上の複数の位置において、撮影台天板4上の被検体2に放射線を照射する。本実施形態においては直線軌道に沿って矢印A方向に放射線源12を往復移動させるものとする。なお、被検体2への放射線照射量は後述する制御部により所定量となるように制御される。また、移動機構16は後述する制御部により制御されて放射線源12を移動する。
【0021】
また、放射線源12にはコリメータ(照射野絞り)6が接続されており、被検体2に照射される放射線の範囲(照射範囲)を操作者が設定できるようになっている。なお、コリメータ6を用いて照射範囲を設定する際には、放射線に代えて可視光がコリメータ6を介して被検体2に照射される。なお、可視光はコリメータ6に設けられた照射野ランプ(不図示)から発せられる。これにより、操作者は被検体2に照射された可視光の範囲をコリメータ6を用いて調整することにより、放射線の照射範囲を設定することができる。
【0022】
放射線検出器14は、被検体2を透過した放射線を検出するために、被検体2を載置する撮影台天板4を間に挟んで放射線源12と対向するように配置されている。放射線検出器14は、移動機構18により必要に応じて直線または円弧に沿って移動し、移動経路上の複数の位置において被検体2を透過した放射線を検出する。なお、本実施形態においては直線軌道に沿って矢印B方向に放射線検出器14を往復移動させるものとする。
【0023】
図2は放射線検出器14の回路構成ブロック図である。放射線検出器14は、放射線を感知して電荷を発生させるアモルファスセレン(a−Se)等の物質からなる光電変換層51を行列状の薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)(以下TFTスイッチとする)52のアレイの上に配置した構造を有し、光電変換層51において発生した電荷を蓄積容量53に蓄積した後、各行毎にTFTスイッチ52を順次オンにして、蓄積容量53に蓄積した電荷を画像信号として読み出す。図2では、光電変換層51および蓄積容量53からなる画素1つの画素50と1つのTFTスイッチ52との接続関係のみを示し、その他の画素50の構成については省略している。
【0024】
放射線検出器14の各画素50に接続されるTFTスイッチ52には、行方向に平行に延びるゲート線54と、列方向に平行に延びる信号線56とが接続されている。各ゲート線54は、ライン走査駆動部58に接続され、各信号線56は、マルチプレクサ66に接続されている。ゲート線54には、行方向に配列されたTFTスイッチ52をオンオフ制御する制御信号Von、Voffがライン走査駆動部58から供給される。この場合、ライン走査駆動部58は、ゲート線54を切り替える複数のスイッチSW1と、スイッチSW1の1つを選択する選択信号を出力するアドレスデコーダ60とを備えている。アドレスデコーダ60には、後述する画像取得部20からアドレス信号が供給される。
【0025】
また、信号線56には、列方向に配列されたTFTスイッチ52を介して各画素50の蓄積容量53に保持されている電荷が流出する。この電荷は、増幅器62によって増幅される。増幅器62には、サンプルホールド回路64を介してマルチプレクサ66が接続される。マルチプレクサ66は、信号線56を切り替える複数のスイッチSW2と、スイッチSW2の1つを選択する選択信号を出力するアドレスデコーダ68とを備えている。アドレスデコーダ68には、画像取得部20からアドレス信号が供給される。マルチプレクサ66には、A/D変換器70が接続され、A/D変換器70によってデジタル信号に変換された画像信号が画像取得部20に出力される。
【0026】
なお、図2においては放射線検出器14としてTFT方式を採用した場合について例示しているが、光読み出し方式の放射線検出器14であってもよい。具体的には、光読み出し方式の放射線検出器14は、上述したアモルファスセレンのような放射線を直接的に電荷に変換する放射線-電荷変換材料の代わりに、蛍光体材料と光電変換素子(フォトダイオード)を用いて間接的に電荷に変換する。蛍光体材料としては、ガドリニウム硫酸化物(GOS)やヨウ化セシウム(CsI)が公知である。この場合、蛍光材料によって放射線−光変換を行い、光電変換素子のフォトダイオードによって光−電荷変換を行う。
【0027】
ここで、本実施形態による放射線検出器14は、TFTスイッチ52を短絡させた短絡画素50Aが設けられている。短絡画素50Aは、TFTスイッチ52の両端が電気的に接続されることにより、TFTスイッチ52が短絡されているため、ライン走査駆動部58からの制御信号Vonがなくても、常時電荷を信号線56に流出する。本実施形態においては、短絡画素50Aを自動露出制御(以下AECとする)のために使用する。AECについては後述する。
【0028】
図3は放射線検出器における短絡画素の配置を示す概略図である。なお、図3においては、放射線検出器14の画素の配置のみを簡易に示している。また、図3においては短絡画素50Aにのみ斜線を付与している。図3に示すように短絡画素50Aは、行方向および列方向の双方向に例えば5画素毎の所定間隔にて、放射線検出器14の全面に亘って配置されている。なお、短絡画素50Aの間隔はこれに限定されるものではなく、10画素毎、20画素毎、100画素毎等、任意の間隔としてもよいものである。また、放射線検出器14上の全面に亘ってランダムに短絡画素50Aを配置してもよい。
【0029】
また、放射線画像撮影装置10は、画像取得部20および再構成部22を備える。画像取得部20は、放射線源12の移動による複数の線源位置(すなわち被検体2に放射線を照射する位置)において被検体2に放射線を照射し、被検体2を透過した放射線を放射線検出器14により検出して、複数の線源位置のそれぞれにおける複数の撮影画像を取得する。
【0030】
再構成部22は、画像取得部20が取得した複数の撮影画像を再構成することにより、被検体2の所望の断面を示す断層画像を生成する。本実施形態においては、再構成部22は、シフト加算法、単純逆投影法あるいはフィルタ逆投影法等の逆投影法等を用いてこれらの撮影画像を再構成して断層画像を生成するものとする。
【0031】
また、放射線画像撮影装置10は、操作部24、表示部26および記憶部28を備える。操作部24はキーボード、マウスあるいはタッチパネル方式の入力装置からなり、操作者による放射線画像撮影装置10の操作を受け付ける。また、トモシンセシス撮影を行うために必要な、撮影条件等の各種情報の入力および情報の修正の指示も受け付ける。本実施形態においては、操作者が操作部24から入力した情報にしたがって、放射線画像撮影装置10の各部が動作する。表示部26は液晶モニタ等の表示装置であり、画像取得部20が取得した撮影画像および再構成部22が再構成した断層画像の他、操作に必要なメッセージ等を表示する。なお、表示部26は音声を出力するスピーカを内蔵するものであってもよい。記憶部28は、放射線画像撮影装置10を動作させるために必要な撮影条件を設定する各種パラメータ等を記憶している。なお、各種パラメータは、撮影部位に応じた標準値が記憶部28に記憶されており、必要に応じて操作者が操作部24から指示を行うことにより修正される。
【0032】
撮影条件を設定するためのパラメータとしては、基準面、断層角度、線源距離、ショット数、ショット間隔、並びに放射線源12の管電圧および管電流等が挙げられる。なお、これらのパラメータのうち、ショット数、ショット間隔、並びに放射線源12の管電圧および管電流等は、これらがそのまま撮影条件となりうるものである。
【0033】
基準面は、断層画像を取得する範囲を定める面であり、例えば撮影台天板4の天板面、放射線検出器14の検出面あるいは被検体2における任意の断層面等を用いることができる。断層角度は、基準面上の基準点から放射線源12の移動範囲を定める2つの端部を臨む角度である。なお、基準点としては放射線検出器14の重心を通る垂線と基準面との交点を用いることができる。ここで、放射線検出器14の検出面と放射線源12の移動経路とは平行となっているため、放射線源12の移動経路上における放射線検出器14の検出面に最も近い距離を線源距離とする。
【0034】
ショット数は、断層角度の範囲内において放射線源12が端から端まで移動する間の撮影回数である。ショット間隔は、各ショットの時間間隔である。
【0035】
また、放射線画像撮影装置10は、放射線制御部30を備える。放射線制御部30は、撮影条件を設定するパラメータにしたがって、放射線源12から放射線を照射するタイミングと、放射線源12における放射線発生条件(すなわち管電流、管電圧等)とを制御するものである。ここで、放射線検出器14に放射線を照射すると、短絡画素50Aから常時電荷が流出するため、短絡画素50Aから流出する電荷に基づく電気信号(以下短絡画素信号とする)は、放射線検出器14に照射される放射線量に対応するものとなる。このため、放射線制御部30は、画像取得部20が取得した短絡画素信号を用いてAECを行う。具体的には、放射線制御部30は、各線源位置において、放射線の照射を開始してから短絡画素信号を検出し、短絡画素信号の累積値が、上記放射線発生条件から定められる放射線量に対応する値となったときに放射線の照射を停止するように、放射線源12を制御する。
【0036】
また、放射線画像撮影装置10は演算部32を備える。演算部32は、放射線源12の移動範囲、各撮影における放射線源12の位置(以下線源位置とする)、撮影時間および線源走行速度等の撮影条件を記憶部28に記憶されたパラメータにしたがって算出する。また、演算部32は、AECを行う際に、放射線検出器14に含まれる短絡画素50Aのうちのいずれの短絡画素50AをAECに使用するかを設定する。
【0037】
図4は被検体内の所定位置に含まれる部位の投影位置が放射線源の位置に応じて、放射線検出器上をどのように移動するかを示す図である。図4に示すように、放射線源12がその移動範囲の最初の線源位置S1にある場合、被検体2の所定位置P1の投影位置は放射線検出器14の右方の位置Pt1となる。放射線源12がその移動範囲の中央の線源位置Scにある場合、所定位置P1の投影位置は、放射線検出器14の中央に位置Ptcとなる。放射線源12がその移動範囲の最後の線源位置Snにある場合、所定位置P1の投影位置は、放射線検出器14の左方に位置Ptnとなる。このように、放射線源12の位置が変更されると、被検体2における所定位置P1は、放射線検出器14上の異なる位置に投影されることとなる。なお、投影位置は、放射線源12の移動方向に移動し、移動方向に直交する方向には移動しない。
【0038】
演算部32は、各線源位置と被検体2における所定位置P1との位置関係に基づいて、所定位置P1の放射線検出器14における投影位置を算出する。図5は投影位置の算出を説明するための図である。なお、図5および以降の説明において、放射線源12が移動する方向をx方向、これに直交する方向をy方向、紙面の上下方向をz方向とする。また、図3においては放射線検出器14の重心を通る垂線と放射線源12の移動範囲との交点を基準位置O1、所定位置P1の放射線検出器14上への投影位置をPti(i=1〜n)とする。
【0039】
ここで、放射線検出器14の検出面から撮影台天板4の天板面までの距離、i番目の線源位置Siの座標位置および線源距離は既知であり、記憶部28に記憶されている。また、撮影台天板4の天板面から所定位置P1を通る面B0までの高さは、計測することにより取得することができる。したがって、放射線検出器14の検出面から面B0までの距離zaおよび面B0から放射線源12の移動範囲までの距離zbを算出でき、さらに基準位置O1と線源位置Siとの間の距離SLを算出することができる。よって、放射線検出器14の検出面の重心から投影位置Ptiまでのx方向の距離diは下記の式(1)により算出できる。なお、投影位置Ptiのy方向の位置は、所定位置P1の計測値と、放射線検出器14のy方向の位置関係とに基づいて算出できる。
【0040】
di=SL×za/zb (1)
放射線制御部30は、放射線源12の各線源位置に対応する所定位置P1の投影位置Ptiに基づいて、放射線検出器14における複数の短絡画素50Aから、AECに使用するAEC短絡画素50Bを選択する。具体的には、各線源位置毎に投影位置Pti近傍の短絡画素50AをAEC短絡画素50Bとして選択する。例えば図4に示すように線源位置がS1の場合には、放射線検出器14の位置Pt1近傍の短絡画素50Aを、線源位置がScの場合には、位置Ptc近傍の短絡画素50Aを、線源位置がSnの場合には位置Ptn近傍の短絡画素50AをAEC短絡画素50Bとして選択する。なお、AEC短絡画素50Bは1つのみであってもよく、複数であってもよい。
【0041】
このようにAEC短絡画素50Bを選択するのは、被検体2における共通する部位を透過した放射線に基づいてAECを行うことにより、線源位置に拘わらず被検体2に照射される放射線量がほぼ同一となり、取得される撮影画像の濃度をほぼ同一のものとすることができるからである。
【0042】
また、放射線画像撮影装置10は、断層画像および複数の撮影画像を記録する記録制御部34を備える。なお、記録制御部34は、例えばハードディスクおよび半導体メモリ等からなる記録媒体36に断層画像および複数の撮影画像を記録する。
【0043】
さらに、放射線画像撮影装置10は、放射線画像撮影装置10の各部を制御するための制御部38を備える。制御部38は、操作部24からの指示に応じて放射線画像撮影装置10の各部を制御する。
【0044】
次いで本実施形態において行われる処理について説明する。図6は本実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。なお、ここでは、放射線源12のみを移動し、放射線検出器14は移動させないでトモシンセシス撮影を行うものとして説明する。また、AEC短絡画素50Bは、演算部32によりあらかじめ設定され、その位置は記憶部28に記憶されているものとする。操作者による処理開始の指示を操作部24が受け付けることにより制御部38が処理を開始し、移動機構16が放射線源12を初期位置に移動し(ステップST1)、放射線制御部30が放射線源12から被検体2に向けて放射線を照射する(ステップST2)。この際、放射線制御部30は、AEC短絡画素50Bからの短絡画素信号に基づいて、放射線発生条件から定められた所定線量の放射線が被検体2に照射されたか否かの監視を開始する(ステップST3)。
【0045】
ステップST3が肯定されると、放射線制御部30は放射線源12からの放射線の照射を停止し(ステップST4)、画像取得部20が放射線検出器14から画像信号を読み出して、現在の線源位置Siにおける撮影画像を取得する(ステップST5)。
【0046】
そして、制御部38がすべての線源位置における撮影画像を取得したか否かを判定し(ステップST6)、ステップST6が否定されると線源位置を次の線源位置に移動し(ステップST7)、ステップST2に戻り、ステップST2以降の処理を繰り返す。
【0047】
ステップST6が肯定されると、再構成部22が複数の撮影画像を再構成して、断層画像を生成する(ステップST8)。そして、記録制御部34が、複数の撮影画像および断層画像を記録媒体36に記録し(ステップST9)、処理を終了する。
【0048】
このように、本実施形態においては、TFTスイッチ52が短絡されてなる短絡画素50Aをその全面に亘って複数配置した放射線検出器14を使用し、複数の短絡画素50Aについて、複数の線源位置のそれぞれに対応して放射線の線量を検出するためのAEC短絡画素50Bの位置を設定し、複数の線源位置のそれぞれにおいて、AEC短絡画素50Bから読み出された短絡画素信号に基づいて、放射線源12からの放射線量を制御するようにしたものである。このため、放射線の線量を自動制御するに際し、特許文献1に記載された手法のようにプレ撮影を行う必要がなくなることから、撮影回数を少なくすることができ、これにより、被検体2へ照射される放射線を低減することができる。また、放射線検出器14における短絡画素50Aは、TFTスイッチ52が短絡されてなるものであるため、特別な検出手段を設けることなく、電荷を電気信号として検出することができる。したがって、放射線検出器14の回路規模の大型化およびコストの増大を防止しつつ、複数の線源位置における被検体2への放射線量を同一にすることができ、その結果、複数の撮影画像の画質を均一なものとすることができる。
【0049】
なお、上記実施形態においては、放射線源12のみを移動させているが、放射線源12と放射線検出器14とを同期させて移動させるようにしてもよい。この場合においても、複数の線源位置および放射線検出器14の幾何学的な位置関係に応じて、放射線検出器14におけるAEC短絡画素50Bを設定すればよい。
【0050】
また、上記実施形態においては、被検体を臥位にて撮影台に載置してトモシンセシス撮影を行っているが、立位の撮影台を用いてトモシンセシス撮影を行う場合にも本発明を適用できることはもちろんである。
【0051】
また、上記実施形態においては、本発明による放射線画像撮影装置をトモシンセシス撮影を行うものとしているが、複数の線源位置から被検体に放射線を照射して撮影画像を取得する装置であれば、例えばステレオ画像を取得するためのステレオ撮影装置にも本願発明を適用することができることはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
2 被検体
4 撮影台天板
6 コリメータ
10 放射線画像撮影装置
12 放射線源
14 放射線検出器
16,18 移動機構
20 画像取得部
22 再構成部
24 操作部
26 表示部
28 記憶部
30 放射線制御部
32 演算部
34 記録制御部
36 記録媒体
38 制御部
50 画素
50A 短絡画素
52 TFTスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に放射線を照射する放射線源と、
前記放射線の照射を受けて電荷を発生し、該発生した電荷を蓄積する蓄積部、および該蓄積部に蓄積された電荷を読み出すためのTFTスイッチを有する多数の画素、前記TFTスイッチをオン/オフするための多数の走査線、並びに前記蓄積部に蓄積された電荷を画像信号として読み出すための多数のデータ線を備えた放射線検出器であって、前記TFTスイッチが短絡されてなる短絡画素が全面に亘って複数配置されてなる放射線検出器と、
前記放射線源を前記放射線検出器に対して相対的に移動させ、前記放射線源の移動による複数の線源位置において前記被検体に前記放射線を照射して、前記複数の線源位置にそれぞれ対応する複数の撮影画像を取得する画像取得手段と、
前記複数の線源位置のそれぞれに対応して、前記複数の短絡画素のうちの、前記放射線の線量を検出するための検出用短絡画素の位置を設定する短絡画素設定手段と、
前記複数の線源位置のそれぞれにおいて、前記検出用短絡画素から読み出された電気信号に基づいて、前記放射線源から出射される前記放射線の線量を制御する線量制御手段とを備えたことを特徴とする放射線画像撮影装置。
【請求項2】
前記複数の撮影画像から断層画像を再構成する再構成手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の放射線画像撮影装置。
【請求項3】
前記短絡画素設定手段は、前記複数の線源位置、前記被検体と前記複数の線源位置との距離、および前記被検体と前記放射線検出器との距離に応じて、前記検出用短絡画素の位置を設定する手段であることを特徴とする請求項1または2記載の放射線画像撮影装置。
【請求項4】
被検体に放射線を照射する放射線源と、
前記放射線の照射を受けて電荷を発生し、該発生した電荷を蓄積する蓄積部、および該蓄積部に蓄積された電荷を読み出すためのTFTスイッチを有する多数の画素、前記TFTスイッチをオン/オフするための多数の走査線、並びに前記蓄積部に蓄積された電荷を画像信号として読み出すための多数のデータ線を備えた放射線検出器であって、前記TFTスイッチが短絡されてなる短絡画素が全面に亘って複数配置されてなる放射線検出器と、
前記放射線源を前記放射線検出器に対して相対的に移動させ、前記放射線源の移動による複数の線源位置において前記被検体に前記放射線を照射して、前記複数の線源位置にそれぞれ対応する複数の撮影画像を取得する画像取得手段と、
前記複数の線源位置のそれぞれに対応して、前記複数の短絡画素のうちの、前記放射線の線量を検出するための検出用短絡画素の位置を設定する短絡画素設定手段とを備えた放射線画像撮影装置における放射線画像撮影方法であって、
前記複数の線源位置のそれぞれにおいて、前記検出用短絡画素から読み出された電気信号に基づいて、前記放射線源から出射される前記放射線の線量を制御することを特徴とする放射線画像撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−254(P2013−254A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132769(P2011−132769)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】