説明

放射線画像検出装置、放射線撮影装置、及び放射線撮影システム

【課題】格子のアスペクト比を所望の放射線制御性能を奏功可能に高くでき、かつ格子の機械的強度を向上させる。
【解決手段】放射線撮影システムは、複数の配列された条帯32bを有する第1の格子31と、第1の格子31を通過した放射線によって形成される放射線像のパターン周期に実質的に一致する周期で配列された複数の条帯32bを有する第2の格子32と、第2の格子32によってマスキングされた放射線像を検出する放射線画像検出器30と、散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯34bを有してこれらの条帯34bの配列方向が第2の格子32の条帯32bの配列方向と交差する状態に第2の格子32と一体化される散乱除去格子34と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線を用いた被写体の位相イメージングを可能とする放射線画像検出装置、放射線撮影装置、及び放射線撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、物質を構成する元素の原子番号と、物質の密度及び厚さとに依存して減衰するといった特性を有することから、被検体の内部を透視するためのプローブとして用いられている。X線を用いた撮影は、医療診断や非破壊検査等の分野において広く普及している。
【0003】
一般的なX線撮影システムでは、X線を放射するX線源とX線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体の透過像を撮影する。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射された各X線は、X線画像検出器までの経路上に存在する物質の特性(原子番号、密度、厚さ)の差異に応じた量の減衰(吸収)を受けた後、X線画像検出器の各画素に入射する。この結果、被検体のX線吸収像がX線画像検出器により検出され画像化される。X線画像検出器としては、X線増感紙とフイルムとの組み合わせや輝尽性蛍光体のほか、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)が広く用いられている。
【0004】
しかし、X線吸収能は、原子番号が小さい元素からなる物質ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線吸収像としての十分な画像の濃淡(コントラスト)が得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線の吸収量の差が少ないため、濃淡差が得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、近年、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化(角度変化)に基づいた画像(以下、位相コントラスト画像と称する)を得るX線位相イメージングの研究が盛んに行われている。一般に、X線が物体に入射したとき、X線の強度よりも位相のほうが高い相互作用を示すことが知られている。このため、位相差を利用したX線位相イメージングでは、X線吸収能が低い弱吸収物体であっても高コントラストの画像を得ることができる。このようなX線位相イメージングの一種として、近年、2枚の透過回折格子(位相型格子及び吸収型格子)とX線画像検出器とからなるX線タルボ干渉計を用いたX線撮影システムが考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
X線タルボ干渉計は、被検体の背後に第1の回折格子(位相型格子あるいは吸収型格子)を配置し、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長で決まる特定距離(タルボ干渉距離)だけ下流に第2の回折格子(吸収型格子)を配置し、その背後にX線画像検出器を配置することにより構成される。上記タルボ干渉距離とは、第1の回折格子を通過したX線が、タルボ干渉効果によって自己像を形成する距離であり、この自己像は、X線源と第1の回折格子との間に配置された被検体とX線との相互作用(位相変化)により変調を受ける。
【0007】
X線タルボ干渉計では、第1の回折格子の自己像と第2の回折格子との重ね合わせ(強度変調)により生じるモアレ縞を検出し、被検体によるモアレ縞の変化を解析することによって被検体の位相情報を取得する。モアレ縞の解析方法としては、例えば、縞走査法が知られている。この縞走査法によると、第1の回折格子に対して第2の回折格子を、第1の回折格子の面にほぼ平行で、かつ第1の回折格子の格子方向(条帯方向)にほぼ垂直な方向に、格子ピッチを等分割した走査ピッチで並進移動させながら複数回の撮影を行い、X線画像検出器で得られる各画素値の変化から、被検体で屈折したX線の角度分布(位相シフトの微分像)を取得する方法であり、この角度分布に基づいて被検体の位相コントラスト画像を得ることができる。
【0008】
上記の通り、X線位相イメージングは、被写体をX線が通過する際に起こるX線の位相変化を観測するものであり、位相変化を観測することとは、被写体の通過によって起こるX線の光路の変化、つまりはX線の屈折を観測することに相当する。しかし、X線と被写体との相互作用の中で、屈折以外にもX線の光路を変える物理現象(例えば、コンプトン散乱やレイリー散乱)が存在する。そして、これらの現象は、X線の屈折に基づく位相変化によってもたらされる各画素の信号を劣化させる。上記の散乱に関し、特許文献1では、複数の条帯が高アスペクト比に形成された第2の回折格子が散乱除去格子としても機能する可能性を示唆している。
【0009】
ここで、高アスペクト比の条帯の製造には大きな労力を伴うため、特許文献2では、格子をX線進行方向の前後に分割して複数の部分格子と成すことが示されている。特許文献2には、これら部分格子の条帯が共通の基板の表裏にそれぞれ形成されることや、条帯が形成された個々の基板を有する部分格子が積層されることが示されている。特許文献2には、同じ方向に配列された条帯を有する部分格子のそれぞれに、単一の格子の放射線吸収能を按分させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2008−545981号公報
【特許文献2】特開2007‐203066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
位相イメージングに用いられる格子には、高アスペクト比が要求される。位相イメージングでは位相型あるいは吸収型である第1の格子と、吸収型の第2の格子とが用いられるが、吸収型の格子には特に高いアスペクト比が必要とされる。更に、特許文献1のように第2の吸収型格子が散乱除去格子を兼ねるとすると、第2の格子を非常に高いアスペクト比にする必要性が見込まれる。
高アスペクト比の格子の製造には、エッチング等で条帯を高アスペクト比に形成することの困難性に加え、基板の厚みバラつき、条帯の倒れやピッチ変動などに起因する面内均一性等、課題が多い。
【0012】
ここで、格子をX線進行方向の前後で分割した部分格子とした場合、条帯と条帯との間に介在する基板で放射線の反射や散乱が生じ、所望のX線吸収性能が得られない悩みがある。すなわち、特許文献2の構成では、複数の部分格子の条帯に按分させたX線吸収能の総和が反射や散乱したX線によって減殺されてしまう。このような反射散乱X線がどれだけ生じるかの見積もりは、格子の支持構造や格子表面の粗さの状態などによって散乱状態が変わることから困難であり、このようなX線の散乱等を考慮して、所望のX線吸収性能が得られるような部分格子の積層数を設計することも非常に難しい。また、部分格子を積層する構造では、条帯と条帯との間にある基板の分、X線画像検出装置が嵩張ってしまう。
【0013】
一方、高アスペクト比とすると条帯の強度が低下するため、高アスペクト比とするためには、格子の機械的強度の確保が重要課題となる。特許文献2のように部分格子を用いる構造では、吸収能按分に伴い設計が複雑化するため、一つの格子を複数に分割する必要なく、機械的強度を確保したい。
なお、位相型格子の場合、吸収型格子に比較してアスペクト比はさほど高くは要求されないが、条帯の放射線制御性能と強度との兼ね合いに関して、上述と同様の課題がある。
【0014】
以上から、本発明の目的は、格子のアスペクト比を所望の放射線制御性能を奏功可能に高くでき、かつ格子の機械的強度を向上させることが可能な放射線画像検出装置、放射線撮影装置、及び放射線撮影システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
複数の配列された条帯を有する第1の格子と、
前記第1の格子を通過した放射線によって形成される放射線像のパターン周期に実質的に一致する周期で配列された格子パターンと、
前記格子パターンによってマスキングされた前記放射線像を検出する放射線画像検出器と、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第1の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第1の格子と一体化される散乱除去格子と、を備えることを特徴とする放射線画像検出装置。
【0016】
複数の配列された条帯を有する第1の格子と、
前記第1の格子を通過した放射線によって形成される放射線像のパターン周期に実質的に一致する周期で配列される複数の条帯を有する第2の格子と、
前記第2の格子によってマスキングされた前記放射線像を検出する放射線画像検出器と、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第2の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第2の格子と一体化される散乱除去格子と、を備えることを特徴とする放射線画像検出装置。
【0017】
上述の放射線画像検出装置と、
前記第1の格子に向けて放射線を照射する放射線源とを備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【0018】
上述の放射線撮影装置と、
前記放射線撮影装置の前記放射線画像検出器により検出された画像から、前記放射線画像検出器に入射する放射線の屈折角の分布を演算し、この屈折角の分布に基づいて、被写体の位相コントラスト画像を生成する演算処理部と、を備えることを特徴とする放射線撮影システム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、格子のアスペクト比を所望の放射線制御性能を奏功可能に高くでき、かつ格子の機械的強度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの一例の構成を模式的に示す側面図である。
【図2】図1の放射線撮影システムの制御ブロック図である。
【図3】ブロックを用いて放射線画像検出器の構成を示す模式図である。
【図4】第1、第2の格子、散乱除去格子、及び放射線画像検出器の斜視図である。
【図5】第1、第2の格子、散乱除去格子、及び放射線画像検出器の一部断面側面図である。
【図6】第2の格子及び散乱除去格子の分解斜視図である。
【図7】第1及び第2の格子の相互作用による干渉縞(モアレ)の周期を変更するための機構を示す模式図である。
【図8】被写体による放射線の屈折を説明するための模式図である。
【図9】縞走査法を説明するための模式図である。
【図10】縞走査に伴う放射線画像検出器の画素の信号を示すグラフである。
【図11】上記例の変形例を示し、第2の格子と散乱除去格子の斜視図である。
【図12】上記例の他の変形例を示し、第2の格子と散乱除去格子の斜視図である。
【図13】上記例の他の変形例を示し、第1、第2の格子、散乱除去格子、及び放射線画像検出器の斜視図である。
【図14】本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例の構成を示す模式図である。
【図15】図14の放射線撮影システムの変形例の構成を示す模式図である。
【図16】本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例の構成を示す模式図である。
【図17】本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例の構成を示す模式図である。
【図18】本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例に関し、その放射線画像検出器の構成を示す。
【図19】前の図の放射線画像検出器を備える構成に関し、第1の格子、散乱除去格子、及び放射線画像検出器を示す一部断面側面図である。
【図20】本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例の概略構成図である。
【図21】光読取方式の放射線画像検出器の概略構成を示す図である。
【図22】第1の格子、第2の格子及び放射線画像検出器の画素の配置関係を示す図である。
【図23】第2の格子に対する第1の格子の傾き角を設定する方法を説明するための図である。
【図24】第2の格子に対する第1の格子の傾き角の調整方法を説明するための図である。
【図25】光読取方式の放射線画像検出器の記録の作用を説明するための図である。
【図26】光読取方式の放射線画像検出器の読取りの作用を説明するための図である。
【図27】光読取方式の放射線画像検出器から読み取られた画像信号に基づいて、複数の縞画像を取得する作用を説明するための図である。
【図28】光読取方式の放射線画像検出器から読み取られた画像信号に基づいて、複数の縞画像を取得する作用を説明するための図である。
【図29】TFTスイッチを用いた放射線画像検出器と第1及び第2の格子との配置関係を示す図である。
【図30】CMOSを用いた放射線画像検出器の概略構成を示す図である。
【図31】CMOSを用いた放射線画像検出器の1つの画素回路の構成を示す図である。
【図32】CMOSを用いた放射線画像検出器と第1及び第2の格子との配置関係を示す図である。
【図33】本発明の実施形態を説明するための放射線位相画像撮影装置の他の例の概略構成図である。
【図34】放射線画像検出器の一実施形態の概略構成を示す図である。
【図35】放射線画像検出器の一実施形態の記録の作用を説明するための図である。
【図36】放射線画像検出器の一実施形態の読取りの作用を説明するための図である。
【図37】放射線画像検出器のその他の実施形態を示す図である。
【図38】放射線画像検出器のその他の実施形態の記録の作用を説明するための図である。
【図39】放射線画像検出器のその他の実施形態の読取りの作用を説明するための図である。
【図40】格子面を曲面状に凹面化した格子の一例を示す図である。
【図41】本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例に関し、その演算処理部の構成を示すブロック図である。
【図42】図41の放射線撮影システムの演算処理部における処理を説明するための放射線画像検出器の画素の信号を示すグラフである。
【図43】散乱除去格子を内蔵する第2の格子の構造を示す部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの一例の構成を示し、図2は、図1の放射線撮影システムの制御ブロックを示す。
なお、既に述べた構成と同様の構成については同一符号を付してその説明を省略し、既に述べた構成との差異についてのみ説明する。
【0022】
X線撮影システム10は、被写体(患者)Hを立位状態で撮影するX線診断装置であって、被写体HにX線を照射するX線源11と、X線源11との間に被写体Hを介在させた状態でX線源11に対向配置され、X線源11から被写体Hを透過したX線を検出して画像データを生成する放射線画像検出装置としての撮影部12と、操作者の操作に基づいてX線源11の曝射動作や撮影部12の撮影動作を制御するとともに、撮影部12により取得された画像データを演算処理して位相コントラスト画像を生成するコンソール13(図2)とに大別される。
【0023】
X線源11は、天井から吊り下げられたX線源保持装置14により上下方向(x方向)に移動自在に保持されている。
撮影部12は、床上に設置された立位スタンド15により上下方向に移動自在に保持されている。
【0024】
X線源11は、X線源制御部17の制御に基づき、高電圧発生器16から印加される高電圧に応じてX線を発生するX線管18と、X線管18から発せられたX線のうち、被写体Hの検査領域に寄与しない部分を遮蔽するように照射野を制限する可動式のコリメータ19aを備えたコリメータユニット19とから構成されている。X線管18は、陽極回転型であり、電子放出源(陰極)としてのフィラメント(図示せず)から電子線を放出して、所定の速度で回転する回転陽極18aに衝突させることによりX線を発生する。この回転陽極18aの電子線の衝突部分がX線焦点18bとなる。
【0025】
X線源保持装置14は、天井に設置された天井レール(図示せず)により水平方向(z方向)に移動自在に構成された台車部14aと、上下方向に連結された複数の支柱部14bとからなる。台車部14aには、支柱部14bを伸縮させて、X線源11の上下方向に関する位置を変更するモータ(図示せず)が設けられている。
【0026】
立位スタンド15は、床に設置された本体15aに、撮影部12を保持する保持部15bが上下方向に移動自在に取り付けられている。保持部15bは、上下方向に離間して配置された2つのプーリ15cの間に掛架された無端ベルト15dに接続され、プーリ15cを回転させるモータ(図示せず)により駆動される。このモータの駆動は、操作者の設定操作に基づき、後述するコンソール13の制御装置20により制御される。
【0027】
また、立位スタンド15には、プーリ15c又は無端ベルト15dの移動量を計測することにより、撮影部12の上下方向に関する位置を検出するポテンショメータ等の位置センサ(図示せず)が設けられている。この位置センサの検出値は、ケーブル等によりX線源保持装置14に供給される。X線源保持装置14は、供給された検出値に基づいて支柱部14bを伸縮させ、撮影部12の上下動に追従するようにX線源11を移動させる。
【0028】
コンソール13には、CPU、ROM、RAM等からなる制御装置20が設けられている。制御装置20には、操作者が撮影指示やその指示内容を入力する入力装置21と、撮影部12により取得された画像データを演算処理してX線画像を生成する演算処理部22と、X線画像を記憶する記憶部23と、X線画像等を表示するモニタ24と、X線撮影システム10の各部と接続されるインターフェース(I/F)25とがバス26を介して接続されている。
【0029】
入力装置21としては、例えば、スイッチ、タッチパネル、マウス、キーボード等を用いることが可能であり、入力装置21の操作により、X線管電圧やX線照射時間等のX線撮影条件、撮影タイミング等が入力される。モニタ24は、液晶ディスプレイ等からなり、制御装置20の制御により、X線撮影条件等の文字やX線画像を表示する。
【0030】
撮影部12は、半導体回路からなる放射線画像検出器としてのフラットパネル検出器(FPD)30、被写体HによるX線の位相変化(角度変化)を検出し位相イメージングを行うための第1の吸収型格子31及び第2の吸収型格子32、及び散乱X線を除去あるいは低減する散乱除去格子34を有する。
【0031】
撮影部12には、第2の吸収型格子32を上下方向(x方向)に並進移動させることにより、第1の吸収型格子31及び第2の吸収型格子32を相対移動させる走査手段33が設けられている。
【0032】
FPD30は、検出面がX線源11から照射されるX線の光軸Aに直交するように配置されている。詳しくは後述するが、第1及び第2の吸収型格子31,32及び散乱除去格子34は、FPD30とX線源11との間に配置されている。
【0033】
図3は、図1の放射線撮影システムに含まれる放射線画像検出器の構成を示す。
【0034】
放射線画像検出器としてのFPD30は、X線を電荷に変換して蓄積する複数の画素40がアクティブマトリクス基板上にxy方向に2次元配列されてなる受像部41と、受像部41からの電荷の読み出しタイミングを制御する走査回路42と、各画素40に蓄積された電荷を読み出し、電荷を画像データに変換して記憶する読み出し回路43と、画像データをコンソール13のI/F25を介して演算処理部22に送信するデータ送信回路44とから構成されている。なお、走査回路42と各画素40とは、行毎に走査線45によって接続されており、読み出し回路43と各画素40とは、列毎に信号線46によって接続されている。
【0035】
各画素40は、アモルファスセレン等の変換層(図示せず)でX線を電荷に直接変換し、変換された電荷を変換層の下部の電極に接続されたキャパシタ(図示せず)に蓄積する直接変換型の素子として構成することができる。各画素40には、TFTスイッチ(図示せず)が接続され、TFTスイッチのゲート電極が走査線45、ソース電極がキャパシタ、ドレイン電極が信号線46に接続される。TFTスイッチが走査回路42からの駆動パルスによってON状態になると、キャパシタに蓄積された電荷が信号線46に読み出される。
【0036】
なお、各画素40は、酸化ガドリニウム(Gd)やヨウ化セシウム(CsI)等からなるシンチレータ(図示せず)でX線を一旦可視光に変換し、変換された可視光をフォトダイオード(図示せず)で電荷に変換して蓄積する間接変換型のX線検出素子として構成することも可能である。また、X線画像検出器としては、TFTパネルをベースとしたFPDに限られず、CCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子をベースとした各種のX線画像検出器を用いることも可能である。
【0037】
読み出し回路43は、積分アンプ回路、A/D変換器、補正回路、及び画像メモリ(いずれも図示せず)により構成されている。積分アンプ回路は、各画素40から信号線46を介して出力された電荷を積分して電圧信号(画像信号)に変換して、A/D変換器に入力する。A/D変換器は、入力された画像信号をデジタルの画像データに変換して補正回路に入力する。補正回路は、画像データに対して、オフセット補正、ゲイン補正、及びリニアリティ補正を行い、補正後の画像データを画像メモリに記憶させる。なお、補正回路による補正処理として、X線の露光量や露光分布(いわゆるシェーディング)の補正や、FPD30の制御条件(駆動周波数や読み出し期間)に依存するパターンノイズ(例えば、TFTスイッチのリーク信号)の補正等を含めてもよい。
【0038】
図4及び図5は、第1、第2の格子31,32、散乱除去格子34、及びFPD30を示す。図6は、第2の格子32及び散乱除去格子34の分解斜視図である。
【0039】
第1の吸収型格子31は、基板31aと、この基板31aに配置された複数の条帯31bとを有して構成されている。格子パターンである第2の吸収型格子32もまた、基板32aと、この基板32aに配置された複数の条帯32bとを有して構成されている。基板31a,32aは、いずれもX線を透過させるガラス等のX線透過性部材により形成されている。
【0040】
条帯31b,32bは、いずれもX線源11から照射されるX線の光軸Aに直交する面内の一方向(x方向及びy方向のうち一方の方向であり、図4の例ではy方向)に延伸した線状の部材で構成される。各条帯31b,32bの材料としては、X線吸収性に優れるものが好ましく、例えば、金、白金等の重金属であることが好ましい。これらの条帯31b,32bは、金属メッキ法や蒸着法、フォトリソグラフィー法などによって形成することが可能である。
【0041】
条帯31bは、X線の光軸Aに直交する面内において、上記一方向と直交する方向(図4の例では第1の方向としてのx方向)に一定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。同様に、条帯32bも、X線の光軸Aに直交する面内において、x方向に一定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。
このような第1及び第2の吸収型格子31,32は、入射X線に位相差を与えるものでなく、強度差を与えるものであるため、振幅型格子とも称される。そのため、条帯31b、32bはいずれも、X線遮蔽部材として形成されている。なお、スリット部(上記間隔d,dの領域)は空隙でなくてもよく、例えば、高分子や軽金属などのX線低吸収材で該空隙を充填してもよい。
【0042】
第1及び第2の吸収型格子31,32は、タルボ干渉効果の有無に係らず、スリット部を通過したX線を幾何学的に投影するように構成されている。具体的には、間隔d,dを、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とすることで、照射X線に含まれる大部分のX線をスリット部で回折させずに、直進性を保ったまま通過するように構成する。例えば、前述の回転陽極18aとしてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は、約0.4Åである。この場合には、間隔d,dを、1〜10μm程度とすれば、スリット部で大部分のX線が回折されずに幾何学的に投影される。
【0043】
X線源11から放射されるX線は、平行ビームではなく、X線焦点18bを発光点としたコーンビームであるため、第1の吸収型格子31を通過して射影される投影像(以下、この投影像をG1像と称する)は、X線焦点18bからの距離に比例して拡大される。第2の吸収型格子32の格子ピッチp及び間隔dは、そのスリット部が、第2の吸収型格子32の位置におけるG1像の明部の周期パターンと実質的に一致するように決定されている。すなわち、X線焦点18bから第1の吸収型格子31までの距離をL、第1の吸収型格子31から第2の吸収型格子32までの距離をLとした場合に、格子ピッチp及び間隔dは、次式(1)及び(2)の関係を満たすように決定される。
【0044】
【数1】

【0045】
【数2】

【0046】
第1の吸収型格子31から第2の吸収型格子32までの距離Lは、タルボ干渉計では、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長とで決まるタルボ干渉距離に制約されるが、本X線撮影システム10の撮影部12では、第1の吸収型格子31が入射X線を回折させずに投影させる構成であって、第1の吸収型格子31のG1像が、第1の吸収型格子31の後方のすべての位置で相似的に得られるため、該距離Lを、タルボ干渉距離と無関係に設定することができる。
【0047】
上記のように撮影部12は、タルボ干渉計を構成するものではないが、第1の吸収型格子31でX線を回折したと仮定した場合のタルボ干渉距離Zは、第1の吸収型格子31の格子ピッチp、第2の吸収型格子32の格子ピッチp、X線波長(ピーク波長)λ、及び正の整数mを用いて、次式(3)で表される。
【0048】
【数3】

【0049】
式(3)は、X線源11から照射されるX線がコーンビームである場合のタルボ干渉距離を表す式であり、「Atsushi Momose, et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol.47, No.10, 2008年10月, 8077頁」により知られている。
【0050】
本X線撮影システム10では、撮影部12の薄型化を目的とし、上記距離Lを、m=1の場合の最小のタルボ干渉距離Zより短い値に設定する。すなわち、上記距離Lは、次式(4)を満たす範囲の値に設定される。
【0051】
【数4】

【0052】
なお、X線源11から照射されるX線が実質的に平行ビームとみなせる場合のタルボ干渉距離Zは次式(5)となり、上記距離Lを、次式(6)を満たす範囲の値に設定する。
【0053】
【数5】

【0054】
【数6】

【0055】
条帯31b,32bは、コントラストの高い周期パターン像を生成するためには、X線を完全に遮蔽(吸収)することが好ましいが、上記したX線吸収性に優れる材料(金、白金等)を用いたとしても、吸収されずに透過するX線が少なからず存在する。このため、X線の遮蔽性を高めるためには、条帯31b,32bのそれぞれの厚みh,hを、可能な限り厚くすることが好ましい。例えば、X線管18の管電圧が50kVの場合に、照射X線の90%以上を遮蔽することが好ましく、この場合には、厚みh,hは、金(Au)換算で30μm以上であることが好ましい。
【0056】
一方、条帯31b,32bの厚みh,hを厚くし過ぎると、斜めに入射するX線がスリット部を通過しにくくなり、いわゆるケラレが生じて、条帯31b,32bの延伸方向(条帯方向)に直交する方向(x方向)の有効視野が狭くなるといった問題がある。このため、視野確保の観点から、厚みh,hの上限を規定する。FPD30の検出面におけるx方向の有効視野の長さVを確保するには、X線焦点18bからFPD30の検出面までの距離をLとすると、厚みh,hは、図5に示す幾何学的関係から、次式(7)及び(8)を満たすように設定する必要がある。
【0057】
【数7】

【0058】
【数8】

【0059】
例えば、d=2.5μm、d=3.0μmであり、通常の病院での検査を想定して、L=2mとした場合には、x方向の有効視野の長さVとして10cmの長さを確保するには、厚みhは100μm以下、厚みhは120μm以下とすればよい。
【0060】
散乱除去格子34は、第2の格子32とFPD30との間に配置されており、散乱されたX線(以下、散乱線という)を吸収して除去する複数の配列された条帯34bを有する。条帯34bは、x方向に延伸し、かつX線の光軸Aに直交する面内において、y方向に互いに間隔を空けて配列されている。隣り合う条帯34b,34bの間には、X線を透過させるX線透過部34aが充填されるように設けられている。このような散乱除去格子34は、例えば、X線低吸収材料であるガラス、高分子、軽金属等により形成された基板と、鉛、銅、タングステン等のX線吸収材料である重金属製の金属箔とを交互に積層した母材から、積層方向と直交する面に沿ってスライスして切り出すことによって製作される。このようにして製作された散乱除去格子の基板部分がX線透過部材34aに相当し、金属箔部分が条帯34bに相当する。このような製造方法によれば、スライスする厚みを調整することで条帯34bの高さが変えられるので、所望のX線吸収性能を有する散乱除去格子を容易に製造できる。
【0061】
X線の散乱は、大気中の粒子やX線以外の光線、電磁波の波長などの影響によっても生じうるが、厚みのある被写体HをX線が通過する際にX線の強い散乱が生じ易い。散乱除去格子34の条帯34bの配列方向(y方向)に進行する散乱線の成分が条帯34bに入射して吸収されることにより、散乱除去格子34は散乱線を除去あるいは低減する。
また、散乱除去格子34が第2の吸収型格子32とFPD30との間に配置されていることで、散乱除去格子34は、第1の吸収型格子31や第2の吸収型格子32において発生する散乱線についても除去あるいは低減する。
【0062】
散乱除去格子34は、その条帯34bの配列方向(y方向)が、第2の格子32の条帯32bの配列方向(x方向)と交差する状態で第2の格子32に一体化される。散乱除去格子34のX線透過部34aと条帯34bとの構造体は第2の格子32の基板32aとは別部材であって、このように互いに別部材とされた散乱除去格子34と第2の格子32とが互いに接合されて一体に固定される。なお、本明細書において、接合とは、融着、接着、圧着等、任意の方法で固着されることを意味する。
第2の格子32はその条帯32bがX線源11側に、その基板32aがFPD30側にそれぞれ向くように配置されており、この第2の格子32の基板32bの裏面(条帯32aが立設された側と反対側の面)に散乱除去格子34が接合されている。X線進行方向において条帯32bが基板32aの前段に配置されているので、G1像と第2の格子32とのモアレから位相コントラスト画像を取得する上で、基板32aにおける屈折、散乱等の影響で位相コントラスト画像の画質が低下することを抑制できる。
【0063】
以上の構成によれば、第2の格子32とは別途、散乱除去格子34が設けられており、第2の格子32に散乱除去機能を持たせる必要がないので、第2の格子32のアスペクト比(条帯32b,32bの間隔(開口幅)と条帯32bの高さとの比)を第2の格子32が散乱除去格子を兼ねるときのアスペクト比程には高くしなくて済む。そのため、第2の格子32の条帯32bをフォトエッチングなどを用いて高精度に製造する際の技術的要件を緩和できる。
また、第2の格子32とは独立に散乱除去格子34が設けられるため、第2の格子の条帯を複数に分割して個々の条帯のアスペクト比を低く抑えるなどの方策が不要となり、第2の格子に要求されるX線吸収性能に関する設計が複雑化しない。また、基板を介在させて格子を分割する場合のように光軸方向に嵩張ることなく、コンパクトな構成にできる。
【0064】
ここで、互いに別部材とされた第2の格子32と散乱除去格子34とがそれぞれの条帯の配列方向が交差するように一体化されたことにより、これら第2の格子32と散乱除去格子34との構造体の機械的強度を向上させることができる。図4〜図7に示した例では散乱除去格子34が第2の格子32の基板32aの裏面に接合されるので、第2の格子32の基板のソリなどが生じ難く、そして第2の格子32の条帯32bの倒れやピッチ変動なども防止できる。また、後述するように第2の格子32はアクチュエータ等の走査手段33によって駆動されるので、走査の際の外乱等に強くなる。
【0065】
以上のように構成された撮影部12では、第1の吸収型格子31のG1像と第2の吸収型格子32との重ね合わせにより、強度変調された像が形成され、FPD30によって撮像される。ここで、散乱除去格子34によって被写体H、第1、第2の格子31,32等で生じた散乱線が除去あるいは低減されることにより、位相コントラスト画像の画質の低下を防止できる。
第2の吸収型格子32の位置におけるG1像のパターン周期p’と、第2の吸収型格子32の実質的な格子ピッチp’(製造後の実質的なピッチ)とは、製造誤差や配置誤差により若干の差異が生じる。このうち、配置誤差とは、第1及び第2の吸収型格子31,32が、相対的に傾斜や回転、両者の間隔が変化することによりx方向への実質的なピッチが変化することを意味している。
【0066】
G1像のパターン周期p’と格子ピッチp’との微小な差異により、画像コントラストはモアレ縞となる。このモアレ縞の周期Tは、次式(9)で表される。
【0067】
【数9】

【0068】
このモアレ縞をFPD30で検出するには、画素40のx方向に関する配列ピッチPは、少なくとも次式(10)を満たす必要があり、更には、次式(11)を満たすことが好ましい(ここで、nは正の整数である)。
【0069】
【数10】

【0070】
【数11】

【0071】
式(10)は、配列ピッチPがモアレ周期Tの整数倍でないことを意味しており、n≧2の場合であっても原理的にモアレ縞を検出することが可能である。式(11)は、配列ピッチPをモアレ周期Tより小さくすることを意味している。
【0072】
FPD30の画素40の配列ピッチPは、設計的に定められた値(一般的に100μm程度)であり変更することが困難であるため、配列ピッチPとモアレ周期Tとの大小関係を調整するには、第1及び第2の吸収型格子31,32の位置調整を行い、G1像のパターン周期p’と格子ピッチp’との少なくともいずれか一方を変更することによりモアレ周期Tを変更することが好ましい。
【0073】
図7に、モアレ周期Tを変更する方法を示す。
【0074】
モアレ周期Tの変更は、第1及び第2の吸収型格子31,32のいずれか一方を、光軸Aを中心として相対的に回転させることにより行うことができる。例えば、第1の吸収型格子31に対して、第2の吸収型格子32を、光軸Aを中心として相対的に回転させる相対回転機構50を設ける。この相対回転機構50により、第2の吸収型格子32を角度θだけ回転させると、x方向に関する実質的な格子ピッチは、「p’」→「p’/cosθ」と変化し、この結果、モアレ周期Tが変化する(FIG.7A)。
【0075】
別の例として、モアレ周期Tの変更は、第1及び第2の吸収型格子31,32のいずれか一方を、光軸Aに直交し、かつy方向に沿う方向の軸を中心として相対的に傾斜させることにより行うことができる。例えば、第1の吸収型格子31に対して、第2の吸収型格子32を、光軸Aに直交し、かつy方向に沿う方向の軸を中心として相対的に傾斜させる相対傾斜機構51を設ける。この相対傾斜機構51により、第2の吸収型格子32を角度αだけ傾斜させると、x方向に関する実質的な格子ピッチは、「p’」→「p’×cosα」と変化し、この結果、モアレ周期Tが変化する(FIG.7B)。
【0076】
更に別の例として、モアレ周期Tの変更は、第1及び第2の吸収型格子31,32のいずれか一方を光軸Aの方向に沿って相対的に移動させることにより行うことができる。例えば、第1の吸収型格子31と第2の吸収型格子32との間の距離Lを変更するように、第1の吸収型格子31に対して、第2の吸収型格子32を、光軸Aの方向に沿って相対的に移動させる相対移動機構52を設ける。この相対移動機構52により、第2の吸収型格子32を光軸Aに移動量δだけ移動させると、第2の吸収型格子32の位置に投影される第1の吸収型格子31のG1像のパターン周期は、「p’」→「p’×(L+L+δ)/(L+L)」と変化し、この結果、モアレ周期Tが変化する(FIG.7C)。
【0077】
本X線撮影システム10において、撮影部12は、上述のようにタルボ干渉計ではなく、距離Lを自由に設定することができるため、相対移動機構52のように距離Lの変更によりモアレ周期Tを変更する機構を、好適に採用することができる。モアレ周期Tを変更するための第1及び第2の吸収型格子31,32の上記変更機構(相対回転機構50、相対傾斜機構51、及び相対移動機構52)は、圧電素子等のアクチュエータにより構成することが可能である。
【0078】
X線源11と第1の吸収型格子31との間に被写体Hを配置した場合には、FPD30により検出されるモアレ縞は、被写体Hにより変調を受ける。この変調量は、被写体Hによる屈折効果によって偏向したX線の角度に比例する。したがって、FPD30で検出されたモアレ縞を解析することによって、被写体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。
【0079】
次に、モアレ縞の解析方法について説明する。
【0080】
図8は、被写体Hのx方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折される1つのX線を示す。なお、図8では散乱除去格子の図示は省略する。
【0081】
符号55は、被写体Hが存在しない場合に直進するX線の経路を示しており、この経路55を進むX線は、第1及び第2の吸収型格子31,32を通過してFPD30に入射する。符号56は、被写体Hが存在する場合に、被写体Hにより屈折されて偏向したX線の経路を示している。この経路56を進むX線は、第1の吸収型格子31を通過した後、第2の吸収型格子32より遮蔽される。
【0082】
被写体Hの位相シフト分布Φ(x)は、被写体Hの屈折率分布をn(x,z)、zをX線の進む方向として、次式(12)で表される。
【0083】
【数12】

【0084】
第1の吸収型格子31から第2の吸収型格子32の位置に投射されたG1像は、被写体HでのX線の屈折により、その屈折角φに応じた量だけx方向に変位することになる。この変位量Δxは、X線の屈折角φが微小であることに基づいて、近似的に次式(13)で表される。
【0085】
【数13】

【0086】
ここで、屈折角φは、X線波長λと被写体Hの位相シフト分布Φ(x)を用いて、式(14)で表される。
【0087】
【数14】

【0088】
このように、被写体HでのX線の屈折によるG1像の変位量Δxは、被写体Hの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、この変位量Δxは、FPD30の各画素40から出力される信号の位相ズレ量ψ(被写体Hがある場合とない場合とでの各画素40の信号の位相のズレ量)に、次式(15)のように関連している。
【0089】
【数15】

【0090】
したがって、各画素40の信号の位相ズレ量ψを求めることにより、式(15)から屈折角φが求まり、式(14)を用いて位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まるから、これをxについて積分することにより、被写体Hの位相シフト分布Φ(x)、すなわち被写体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。本X線撮影システム10では、上記位相ズレ量ψを、下記に示す縞走査法を用いて算出する。
【0091】
縞走査法では、第1及び第2の吸収型格子31,32の一方を他方に対して相対的にx方向にステップ的に並進移動させながら撮影を行う(すなわち、両者の格子周期の位相を変化させながら撮影を行う)。本X線撮影システム10では、前述の走査手段33により第2の吸収型格子32を移動させているが、第1の吸収型格子31を移動させてもよい。第2の吸収型格子32の移動に伴って、モアレ縞が移動し、並進距離(x方向への移動量)が、第2の吸収型格子32の格子周期の1周期(格子ピッチp)に達すると(すなわち、位相変化が2πに達すると)、モアレ縞は元の位置に戻る。このようなモアレ縞の変化を、格子ピッチpを整数分の1ずつ第2の吸収型格子32を移動させながら、FPD30で縞画像を撮影し、撮影した複数の縞画像から各画素40の信号を取得し、演算処理部22で演算処理することにより、各画素40の信号の位相ズレ量ψを得る。
【0092】
図9は、格子ピッチpをM(2以上の整数)個に分割した走査ピッチ(p/M)ずつ第2の吸収型格子32を移動させる様子を模式的に示す。
【0093】
走査手段33は、k=0,1,2,・・・,M−1のM個の各走査位置に、第2の吸収型格子32を順に並進移動させる。なお、同図では、第2の吸収型格子32の初期位置を、被写体Hが存在しない場合における第2の吸収型格子32の位置でのG1像の暗部が、条帯32bにほぼ一致する位置(k=0)としているが、この初期位置は、k=0,1,2,・・・,M−1のうちいずれの位置としてもよい。
【0094】
まず、k=0の位置では、主として、被写体Hにより屈折されなかったX線が第2の吸収型格子32を通過する。次に、k=1,2,・・・と順に第2の吸収型格子32を移動させていくと、第2の吸収型格子32を通過するX線は、被写体Hにより屈折されなかったX線の成分が減少する一方で、被写体Hにより屈折されたX線の成分が増加する。特に、k=M/2では、主として、被写体Hにより屈折されたX線のみが第2の吸収型格子32を通過する。k=M/2を超えると、逆に、第2の吸収型格子32を通過するX線は、被写体Hにより屈折されたX線の成分が減少する一方で、被写体Hにより屈折されなかったX線の成分が増加する。
【0095】
k=0,1,2,・・・,M−1の各位置で、FPD30により撮影を行うと、各画素40について、M個の信号値が得られる。以下に、このM個の信号値から各画素40の信号の位相ズレ量ψを算出する方法を説明する。第2の吸収型格子32の位置kにおける各画素40の信号値をI(x)と標記すると、I(x)は、次式(16)で表される。
【0096】
【数16】

【0097】
ここで、xは、画素40のx方向に関する座標であり、Aは入射X線の強度であり、Aは画素40の信号値のコントラストに対応する値である(ここで、nは正の整数である)。また、φ(x)は、上記屈折角φを画素40の座標xの関数として表したものである。
【0098】
次いで、次式(17)の関係式を用いると、上記屈折角φ(x)は、次式(18)のように表される。
【0099】
【数17】

【0100】
【数18】

【0101】
ここで、arg[ ]は、偏角の抽出を意味しており、各画素40の信号の位相ズレ量ψに対応する。したがって、各画素40で得られたM個の信号値から、式(18)に基づいて各画素40の信号の位相ズレ量ψを算出することにより、屈折角φ(x)が求められる。
【0102】
図10は、縞走査に伴って変化する放射線画像検出器の一つの画素の信号を示す。
【0103】
各画素40で得られたM個の信号値は、第2の吸収型格子32の位置kに対して、格子ピッチpの周期で周期的に変化する。図10中の破線は、被写体Hが存在しない場合の信号値の変化を示しており、図10中の実線は、被写体Hが存在する場合の信号値の変化を示している。この両者の波形の位相差が各画素40の信号の位相ズレ量ψに対応する。
【0104】
そして、屈折角φ(x)は、上記式(16)で示したように微分位相値に対応する値であるため、屈折角φ(x)をx軸に沿って積分することにより、位相シフト分布Φ(x)が得られる。
【0105】
以上の演算は、演算処理部22により行われ、演算処理部22は、位相コントラスト画像を記憶部23に記憶させる。
【0106】
上記の縞走査、及び位相コントラスト画像の生成処理は、入力装置21から操作者により撮影指示がなされた後、制御装置20の制御に基づいて各部が連係動作し、自動的に行われ、最終的に被写体Hの位相コントラスト画像がモニタ24に表示される。
【0107】
以上のようなX線位相イメージングを行うにあたり、特に、散乱除去格子34及び第2の格子32に関して前述した構成から、第2の格子32のアスペクト比を高くでき、かつ第2の格子31と散乱除去格子34との機械的強度を向上させることが可能となる。このように第2の格子32のX線吸収性能及び機械的強度が向上することで、高画質の位相コントラスト画像を確実に取得することが可能となるので、X線撮影システムの信頼性を向上させることができる。
【0108】
また、散乱除去格子34が第2の吸収型格子32とFPD30との間、すなわち第2の格子32の後段に配置されているため、散乱除去格子34での光路変化が、第2の吸収型格子32を走査することによって得られる各画素40の一連の信号(強度変調信号)の位相ズレ量ψに影響を及ぼさない。もし仮に、散乱除去格子34が被写体Hと第2の格子32との間に配置されていると、散乱除去格子34の表面の凹凸(例えばスライス痕)による光路変更(屈折など)が被写体HでのX線の屈折と区別なく検出されて、位相コントラスト画像上の陰影として現れることが考えられるが、このような不具合発生を防止することができる。
【0109】
更に、第2の格子32の条帯の配列方向(x方向)に対し、散乱除去格子34の条帯の配列方向を90度で直交するy方向としたことにより、x方向に交差するモアレ成分が散乱除去格子34によって生じることを防止できる。すなわち、第2の格子32に関しては、第2の格子32と散乱除去格子34とが同じ方向に周期性を持たないため、第2の格子32と散乱除去格子34との間ではモアレが生じず、そしてFPD30に関しては、FPD30の画素と散乱除去格子34との周期差に応じてモアレが生じたとしても、散乱除去格子の条帯の配列方向がy方向であるため、第2の格子をx方向に走査してもこのモアレは動かず、第2の格子を走査して得られる各画素40の強度変調信号には、第1の格子の像(G1像)と第2の格子による強度変化のみが反映されるため、このモアレがG1像と第2の格子32とのx方向のモアレに重畳しても位相コントラスト画像の画質に影響を及ぼさない。縞走査法において、仮に、散乱除去格子の条帯の配列方向がy方向ではなくこの散乱除去格子と第2の格子とでモアレが生じた場合には、このモアレが第2の格子の走査時に動くことでデータ取得が困難となるが、散乱除去格子の条帯の配列方向がy方向の場合には、散乱除去格子と第2の格子とのモアレが生じないので、データ取得が困難となる不都合はない。
【0110】
なお、X線撮影システムの放射線画像検出装置(図1では撮影部12)は、装置筐体に対して着脱可能とされていてもよい。このように可搬型とされた放射線画像検出装置(カセッテと呼ばれることがある)には、据え置き型とされる場合よりも高い耐衝撃性が求められるので、上記の機械的強度向上の効果を大きくできる。
【0111】
また、上記例では散乱除去格子34の条帯34bの配列方向(y方向)が第2の格子32の条帯32bの配列方向(x方向)に直交していたが、これに限らず、散乱除去格子の条帯の配列方向が第2の格子の条帯の配列方向に90度以外の角度で交差していてもよい。このような構成によれば、x方向の屈折が反映された位相シフト分布Φ(x)に及ぼす影響が相対的に大きいx方向の散乱光成分を散乱除去格子の条帯によって吸収して除去可能となるので、位相コントラスト画像の画質向上に寄与できる。
【0112】
上記のように散乱除去格子の条帯の配列方向と、第2の格子の条帯の配列方向とが90度以外の角度で交差するとき、散乱除去格子の条帯の配列ピッチによっては、空間周波数応答における画素40のx方向に関する配列ピッチPとの関係で、x方向に周期性を有するモアレが発生する場合がある。その場合、G1像もまたx方向に周期性を有するモアレ縞であることから、散乱除去格子34及びFPD30に起因する上記のモアレは、周波数フィルタを適用するなどの適宜な画像処理によって画像から除去される必要がある。そこで、散乱除去格子34の条帯34aの配列ピッチを、空間周波数応答における画素40のx方向に関する配列ピッチPとの関係で、画像上問題となる周波数のモアレを発生させることのないピッチに設定することで、上記のような画像処理を不要にできる。
【0113】
なお、上記例では、第2の格子32に散乱除去格子34が一体に設けられる構成を示したが、第2の格子32ではなく、第1の格子31に散乱除去格子34と同様の構成の散乱除去格子が設けられていてもよい。この場合にも、第1の格子において高アスペクト化及び機械的強度の向上が実現し、散乱光の除去あるいは低減によって位相コントラスト画像の画質低下を抑制できる。
勿論、第1、第2の格子31,32のそれぞれに、これらの格子の条帯配列方向と交差する条帯を有する散乱除去格子が一体に接合されていてもよい。この場合には、撮影部12は2つの散乱除去格子を有する。
【0114】
X線撮影システム10では、第1の吸収型格子31で殆どのX線を回折させずに、第2の吸収型格子32に幾何学的に投影するため、照射X線には、高い空間的可干渉性は要求されず、X線源11として医療分野で用いられている一般的なX線源を用いることができる。そして、第1の吸収型格子31から第2の吸収型格子32までの距離Lを任意の値とすることができ、該距離Lを、タルボ干渉計での最小のタルボ干渉距離より小さく設定することができるため、撮影部12を小型化(薄型化)することができる。更に、本X線撮影システムでは、第1の吸収型格子31からの投影像(G1像)には、照射X線のほぼすべての波長成分が寄与し、モアレ縞のコントラストが向上するため、位相コントラスト画像の検出感度を向上させることができる。
【0115】
なお、本X線撮影システム10は、第1の格子の投影像に対して縞走査を行って屈折角φを演算するものであって、そのため、第1及び第2の格子がいずれも吸収型格子であるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。上述のとおり、タルボ干渉像に対して縞走査を行って屈折角φを演算する場合にも、本発明は有用である。よって、第1の格子は、吸収型格子に限らず位相型格子であってもよい。また、第1の格子のX線像と第2の格子との重ね合わせによって形成されるモアレ縞の解析方法は、前述した縞走査法に限られず、例えば「J. Opt. Soc. Am. Vol.72,No.1 (1982) p.156」により知られているフーリエ変換/フーリエ逆変換を用いた方法など、モアレ縞を利用した種々の方法も適用可能である。
【0116】
また、本X線撮影システム10は、位相シフト分布Φを画像としたものを位相コントラスト画像として記憶ないし表示するものとして説明したが、上記のとおり、位相シフト分布Φは、屈折角φより求まる位相シフト分布Φの微分量を積分したものであって、屈折角φ及び位相シフト分布Φの微分量もまた被写体によるX線の位相変化に関連している。よって、屈折角φを画像としたもの、また、位相シフトΦの微分量を画像としたものも位相コントラスト画像に含まれる。
【0117】
また、被写体がない状態で撮影(プレ撮影)して取得される画像群から位相微分像(位相シフト分布Φの微分量)を作成するようにしてもよい。この位相微分像は、検出系の位相ムラを反映している(モアレによる位相ズレ、グリッドの不均一性、線量検出器の屈折等が含まれている)。そして、被写体がある状態で撮影(メイン撮影)して取得される画像群から位相微分像を作成し、これからプレ撮影で得られた位相微分像を引くことで、測定系の位相ムラを補正した位相微分像を得ることが出来る。
【0118】
図11は、上記例の変形例を示す。上記例では、散乱除去格子34が第2の格子32の基板32aの裏面に接合されていたが、図11の例では、散乱除去格子34が第2の格子32の各条帯32bのそれぞれの先端に接合されている。このようにすることにより、第2の格子32の条帯32bの倒れやそれに伴うピッチ変動をより確実に防止することができる。
【0119】
図12は、上記例の他の変形例を示す。本例の散乱除去格子134は、基体としての基板134aと、基板134aに一定のピッチで立設された複数の条帯134bとを有する。この散乱除去格子134の条帯134bと、第2の格子32の条帯32bとのそれぞれの先端同士が接合されている。このように、第2の格子32及び散乱除去格子34のそれぞれの条帯32b、134bが相互に架設される構成とすることにより、第2の格子32及び散乱除去格子34が積層された構造の機械的強度を向上させることができる。
【0120】
図13は、上記例の他の変形例を示す。上述した散乱除去格子34(図4参照)の複数の条帯34bはそれぞれ、yz断面において光軸Aと平行となるように基板32aに立設されたいわゆる平行グリッド構造とされていたが、図13の散乱除去格子234の複数の条帯234bは、yz断面におけるそれぞれの立設方向延長線が光軸Aに集束するいわゆる集束グリッドとされている。このような散乱除去格子234が用いられることにより、X線が散乱除去格子の条帯に向かって入射するいわゆるケラレを生じにくくすることができる。なお、被写体Hによって屈折されたX線の位相変化(角度変化)は典型的には数μradであって、被写体Hで屈折されたX線は、X線源11からの放射方向に略沿って進行する。
【0121】
図43は、上記例の他の変形例を示す。図43は、散乱除去格子を内蔵する第2の格子232の部分拡大斜視図である。このような第2の格子232を、上記例の第2の格子32及び散乱除去格子34に代替して設けてもよい。
第2の格子232は、基板32aと、基板32a上にx方向に配列された複数の条帯32bとを有する。これら複数の隣り合う条帯32b,32bのそれぞれの間には、散乱除去格子の条帯を構成する複数の条帯片334bが配置されている。すなわち、散乱除去格子の複数の条帯のそれぞれは、第2の格子232の条帯32b間の複数の条帯片334bによって、条帯32bを介して間断的に形成されており、第2の格子232の全体を見たとき、散乱除去格子の各条帯は、第2の格子232の条帯配列方向に直交するy方向に配列されている。このような図43の構造においては、第2の格子と散乱除去格子とが光軸Aと交差するxy方向における同一平面上に一体化されている。
【0122】
このように格子と散乱除去格子とが一体化された構成によれば、格子と散乱除去部材との高精度な接合を不要にできるという利点がある。また、格子と散乱除去部材とが光軸方向に重ならないので、薄型化に有利である。
隣り合う条帯片334b,343bの間は、空隙とされるか、あるいはX線透過材料が充填されることにより、X線が透過するX線透過部334aとされている。第2の格子232の条帯配列ピッチよりも、散乱除去格子の条帯片334bの配列ピッチが広いため、X線透過部334aは長辺を有する矩形状に形成されている。
図43の構成によれば、第2の格子232を通過するX線によって、x方向の屈折が反映されたモアレ像が得られるとともに、散乱除去格子の条帯片334bに入射したX線が吸収されることにより、散乱X線が除去あるいは低減される。
【0123】
なお、図43では散乱除去格子の条帯片334bがy方向に等ピッチで並んでいるが、散乱除去格子が周期性を持たないように、散乱除去格子の条帯片をy方向にランダムなピッチで配置することにより、被写体の画像測定に不要なモアレの発生を防止することができる。
【0124】
図14は、本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例を示す。
【0125】
図14に示すマンモグラフィ装置80は、被検体として乳房BのX線画像(位相コントラスト画像)を撮影する装置である。マンモグラフィ装置80は、基台(図示せず)に対して旋回可能に連結されたアーム部材81の一端に配設されたX線源収納部82と、アーム部材81の他端に配設された撮影台83と、撮影台83に対して上下方向に移動可能に構成された圧迫板84とを備える。
【0126】
X線源収納部82にはX線源11が収納されており、撮影台83には撮影部12が収納されている。X線源11と撮影部12とは、互いに対向するように配置されている。圧迫板84は、移動機構(図示せず)により移動し、撮影台83との間で乳房Bを挟み込んで圧迫する。この圧迫状態で、上記したX線撮影が行われる。
【0127】
なお、X線源11及び撮影部12は、前述したX線撮影システム10のものと同様の構成であるため、各構成要素には、前述したX線撮影システム10と同一の符号を付している。その他の構成及び作用については、前述したX線撮影システム10と同様であるため説明は省略する。
【0128】
図15は、図14の放射線撮影システムの変形例を示す。
【0129】
図15に示すマンモグラフィ装置90は、第1の吸収型格子31がX線源11と圧迫板84との間に配設されている点が前述したマンモグラフィ装置80と異なる。第1の吸収型格子31は、アーム部材81に接続された格子収納部91に収納されている。撮影部92は、FPD30、第2の吸収型格子32、走査機構33により構成されている。
【0130】
このように、被検体(乳房)Bが第1の吸収型格子31と第2の吸収型格子32との間に位置する場合であっても、第2の吸収型格子32の位置に形成される第1の吸収型格子31の投影像(G1像)が被検体Bにより変形する。したがって、この場合でも、被検体Bに起因して変調されたモアレ縞をFPD30により検出することができる。すなわち、本マンモグラフィ装置90でも前述した原理で被検体Bの位相コントラスト画像を得ることができる。
【0131】
そして、本マンモグラフィ装置90では、第1の吸収型格子31による遮蔽により、線量がほぼ半減したX線が被検体Bに照射されることになるため、被検体Bの被曝量を、前述したマンモグラフィ装置80の場合の約半分に低減することができる。なお、本マンモグラフィ装置90のように、第1の吸収型格子31と第2の吸収型格子32との間に被検体を配置することは、前述したX線撮影システム10にも適用することが可能である。
【0132】
好ましくは、散乱線の影響が強い撮影手技の場合に散乱除去格子34を用いて撮影され、散乱線の影響が弱い場合には、被爆低減の観点から、散乱線除去グリッドを用いずに撮影される。散乱線の影響が強い撮影手技としては、例えば腰などの厚い部位(図1)や体副方向に撮影するもの、あるいは肺や乳房などの淡いコントラスを描出するもの(図14、図15)が例示される。一方、散乱線の影響が弱い場合としては、例えば手指や足指など薄い部位を撮影する場合が例示される。そこで、散乱除去格子34がX線照射野から退避可能であることが好ましい。例えば、散乱除去格子34を収納する撮影部12のハウジング内で、X線源11から照射されるX線の光軸Aに直交する面内の一方向(例えばy方向)に移動可能に散乱除去格子34を支持し、適宜な駆動機構を用いて上記の一方向に散乱除去格子34を進退させ、散乱線の影響が弱い撮影手技の場合に、上記の駆動機構によって散乱除去格子34をX線照射野から退避させる。あるいは、撮影部12のハウジングの外に抜去して散乱除去格子34をX線照射野から退避させるようにしてもよい。
【0133】
図16は、本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例を示す。
【0134】
図16に示すX線撮影システム100は、X線源101のコリメータユニット102に、マルチスリット103を配設した点が、上記第1実施形態のX線撮影システム10と異なる。その他の構成については、前述したX線撮影システム10と同一であるので説明は省略する。
【0135】
前述したX線撮影システム10では、X線源11からFPD30までの距離を、一般的な病院の撮影室で設定されるような距離(1m〜2m)とした場合に、X線焦点18bの焦点サイズ(一般的に0.1mm〜1mm程度)によるG1像のボケが影響し、位相コントラスト画像の画質の低下をもたらす恐れがある。そこで、X線焦点18bの直後にピンホールを設置して実効的に焦点サイズを小さくすることが考えられるが、実効的な焦点サイズを縮小するためにピンホールの開口面積を小さくすると、X線強度が低下してしまう。本X線撮影システム100においては、この課題を解決するために、X線焦点18bの直後にマルチスリット103を配置する。
【0136】
マルチスリット103は、撮影部12に設けられた第1及び第2の吸収型格子31,32と同様な構成の吸収型格子(第3の吸収型格子)であり、一方向(y方向)に延伸した複数の条帯が、第1及び第2の吸収型格子31,32の条帯31b,32bと同一方向(x方向)に周期的に配列されている。このマルチスリット103は、X線焦点18bから放射される放射線を部分的に遮蔽することにより、x方向に関する実効的な焦点サイズを縮小して、x方向に多数の点光源(分散光源)を形成することを目的としている。
【0137】
このマルチスリット103の格子ピッチpは、マルチスリット103から第1の吸収型格子31までの距離をLとして、次式(19)を満たすように設定する必要がある。
【数19】

【0138】
上記式(21)は、マルチスリット103により分散形成された各点光源から射出されたX線の第1の吸収型格子31による投影像(G1像)が、第2の吸収型格子32の位置で一致する(重なり合う)ための幾何学的な条件である。
【0139】
また、実質的にマルチスリット103の位置がX線焦点位置となるため、第2の吸収型格子32の格子ピッチp及び間隔dは、次式(20)及び(21)の関係を満たすように決定される。
【0140】
【数20】

【0141】
【数21】

【0142】
また、本例では、FPD30の検出面におけるx方向の有効視野の長さVを確保するには、マルチスリット103からFPD30の検出面までの距離をL’とすると、第1及び第2の吸収型格子31,32のX線遮蔽部31b,32bの厚みh,hは、次式(22)及び(23)を満たすように決定される。
【0143】
【数22】

【0144】
【数23】

【0145】
上記式(19)は、マルチスリット103により分散形成された各点光源から射出されたX線の第1の吸収型格子31による投影像(G1像)が、第2の吸収型格子32の位置で一致する(重なり合う)ための幾何学的な条件である。このように、本例では、マルチスリット103により形成される複数の点光源に基づくG1像が重ね合わせられることにより、X線強度を低下させずに、位相コントラスト画像の画質を向上させることができる。以上説明したマルチスリット103は、前述したいずれのX線撮影システムにおいても適用可能である。
【0146】
上記各例では、前述したように、位相コントラスト画像は、第1及び第2の吸収型格子31,32のX線遮蔽部31b,32bの周期配列方向(x方向)のX線の屈折成分に基づくものとなり、X線遮蔽部31b,32bの延伸方向(y方向)の屈折成分は反映されない。すなわち、xy面である格子面を介して、x方向に交差する方向(直交する場合はy方向)に沿った部位輪郭がx方向の屈折成分に基づく位相コントラスト画像として描出されるのであり、x方向に交差せずにx方向に沿っている部位輪郭はx方向の位相コントラスト画像として描出されない。すなわち、被写体Hとする部位の形状と向きによっては描出できない部位が存在する。例えば、膝等の関節軟骨の荷重面の方向を格子の面内方向であるxy方向のうちy方向に合わせると、y方向にほぼ沿った荷重面(yz面)近傍の部位輪郭は十分に描出されるが、荷重面に交差しx方向にほぼ沿って延びる軟骨周辺組織(腱や靭帯など)については描出が不十分になると考えられる。被写体Hを動かすことにより、描出が不十分な部位を再度撮影することは可能ではあるが、被写体H及び術者の負担が増えることに加え、再度撮影した画像との位置再現性を担保することが難しいといった問題がある。
【0147】
そこで、他の例として、図17に示すように、第1及び第2の吸収型格子31,32の格子面の中心に直交する仮想線(X線の光軸A)を中心として、第1及び第2の吸収型格子31,32を、図17(a)に示す第1の向き(X線遮蔽部31b,32bの延伸方向がy方向に沿う方向)から一体的に任意の角度で回転させて、図17(b)に示す第2の向き(X線遮蔽部31b,32bの延伸方向がx方向に沿う方向)とする回転機構105を設け、第1の向きと第2の向きとのそれぞれにおいて位相コントラスト画像を生成するように構成することも好適である。こうすることで、上述した位置再現性の問題をなくせる。なお、図17(a)には、X線遮蔽部31b,32bの延伸方向がy方向に沿う方向となるような第1、第2格子31,32の第1の向きを示し、図17(b)には、図17(a)の状態から90度回転させ、X線遮蔽部31b,32bの延伸方向がx方向に沿う方向となるような第1、第2格子31,32の第2の向きを示したが、第1、第2の格子の回転角度は任意である。また、第1の向き及び第2の向きに加えて、第3の向き、第4の向きなど、2回以上の回転操作を行って、それぞれの向きでの位相コントラスト画像を生成するように構成してもよい。
【0148】
なお、この回転機構105は、FPD30とは別に第1及び第2の吸収型格子31,32のみを一体的に回転させるものであってもよいし、第1及び第2の吸収型格子31,32とともにFPD30を一体的に回転させるものであってもよい。更に、マルチスリット103を備える場合は、第1及び第2の吸収型格子31,32と回転が一致するように、マルチスリット103及びコリメータ109、若しくはこれらが一体で形成された放射線源を回転させる。回転機構105を用いた第1及び第2の向きにおける位相コントラスト画像の生成は、上記いずれの例においても適用可能である。
【0149】
図18は、本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例に関し、そのX線画像検出器130の構成を示す部分拡大図である。
上記各例では、第2の吸収型格子がFPDとは独立して設けられているが、上記各例のFPDとして、特開平2009−133823号公報に開示された構成のX線画像検出器を用いることにより、前述した格子パターンとしての第2の吸収型格子を用いることなく、格子パターンを具備することができる。
X線画像検出器130は、X線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを画素毎に備えた直接変換型とされており、その電荷収集電極は、第1の方向にそれぞれ延伸しかつ第1の格子31により形成された放射線像の縞状パターンの周期と実質的に一致するピッチで配列された複数の線状電極を互いに電気的に接続してなる複数の線状電極群を有する。これらの線状電極群は、互いに位相が異なるように線状電極のピッチよりも短いピッチで位置がずれた状態に配置されている。ここで、格子パターンは、複数の線状電極群の各々により構成されている。
このようにX線画像検出器130を構成することにより、第2の吸収型格子が不要となるため、コスト削減とともに、撮像部のさらなる薄型化を図ることができる。また、一度の撮影で複数の位相成分の縞画像を取得することができるため、縞走査のための物理的な走査が不要となる。
【0150】
図18に示すように、画素120が、x方向及びy方向に沿って一定のピッチで2次元配列されており、各画素120には、X線を電荷に変換する変換層によって変換された電荷を収集するための電荷収集電極121が形成されている。電荷収集電極121は、第1〜第6の線状電極群122〜127から構成されており、各線状電極群の線状電極の配列周期の位相がπ/3ずつずれている。具体的には、第1の線状電極群122の位相を0とすると、第2の線状電極群123の位相はπ/3、第3の線状電極群124の位相は2π/3、第4の線状電極群125の位相はπ、第5の線状電極群126の位相は4π/3、第6の線状電極群127の位相は5π/3である。
【0151】
第1〜第6の線状電極群122〜127はそれぞれ、y方向に延伸した線状電極をx方向に所定のピッチpで周期的に配列したものである。この線状電極の配列ピッチpの実質的なピッチp’(製造後の実質的なピッチ)と、電荷収集電極121の位置(X線画像検出器130の位置)におけるG1像のパターン周期p’と、x方向に関する画素120の配列ピッチPとの関係は、上記例と同様に、式(9)で表されるモアレ縞の周期Tに基づき、式(10)を満たす必要があり、更には、式(11)を満たすことが好ましい。
【0152】
更に、各画素120には、電荷収集電極121により収集された電荷を読み出すためのスイッチ群128が設けられている。スイッチ群128は、第1〜第6の線状電極群121〜126のそれぞれに設けられたTFTスイッチからなる。第1〜第6の線状電極群121〜126により収集された電荷を、スイッチ群128を制御してそれぞれ個別に読み出すことによって、一度の撮影により、互いに位相の異なる6種類の縞画像を取得することができ、この6種類の縞画像に基づいて位相コントラスト画像を生成することができる。
【0153】
このような構成のX線画像検出器130を用いることにより、撮像部から第2の吸収型格子が不要となるため、コスト削減とともに、撮像部のさらなる薄型化を図ることができる。また、本例では、一度の撮影で複数の位相成分の縞画像を取得することができるため、縞走査のための物理的な走査が不要となり、上記走査機構を排することができる。なお、電荷収集電極の構成には、上記構成に代えて、特開平2009−133823号公報に記載のその他の構成を用いることも可能である。
【0154】
図19は、図18のX線画像検出器130を備える放射線画像検出装置の構成を示す。第1の格子31には、前述の散乱除去格子34とほぼ同様に構成された散乱除去格子334が一体に接合されている。散乱除去格子334の複数の条帯は、第1の格子31の条帯31bの配列方向(x方向)と交差するy方向に配列されている。このような構成によっても、散乱除去格子34について前述した作用効果とほぼ同様の作用効果が得られる。
【0155】
次に、本発明の例を説明するための他のX線撮影システムの構成例について説明する。図20に本例の放射線位相画像撮影装置の概略構成を示す。
本例のX線位相画像撮影装置は、X線源11から射出されたX線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子131と、第1の格子131により形成された第1の周期パターン像を強度変調して第2の周期パターン像を形成する第2の格子132と、第2の格子132により形成された第2の周期パターン像を検出するX線画像検出器(放射線画像検出器)240と、X線画像検出器240により検出された第2の周期パターン像に基づいて縞画像を取得し、その取得した縞画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部260とを備えている。なお、位相コントラスト画像生成部260は、コンソール13(図2)内の制御装置20の処理の一部を構成する。
【0156】
X線源11は、被写体Hに向けてX線を射出するものであり、第1の格子131にX線を照射したとき、タルボ干渉効果を発生させうるだけの空間的干渉性を有するものである。たとえば、X線の発光点のサイズが小さいマイクロフォーカスX線管やプラズマX線源を利用することができる。また、通常の医療現場で用いられるような比較的X線の発光点(いわゆる焦点サイズ)の大きなX線源を用いる場合は、所定のピッチを有するマルチスリット(例えば、上述したマルチスリット103)をX線源11と第1の格子131との間に設置して使用することができる。
【0157】
第1の格子131は、照射されるX線に対して約90°又は約180°の位相変調を与える、いわゆる位相変調型格子であることが望ましく、たとえば、条帯を金とした場合、通常の医療診断用のX線エネルギー領域において必要な厚さhは1μm〜数μm程度になる。また、第1の格子131として、振幅変調型格子を用いることもできる。
一方、第2の格子132は、振幅変調型格子であることが望ましい。
【0158】
ここで、X線源11から照射されるX線が、平行ビームではなく、コーンビームである場合には、第1の格子131を通過して形成される第1の格子131の自己像は、X線源11からの距離に比例して拡大される。そして、本例においては、第2の格子132の格子ピッチPと間隔dは、そのスリット部が、第2の格子132の位置における第1の格子131の自己像の明部の周期パターンとほぼ一致するように決定される。すなわち、X線源11の焦点から第1の格子131までの距離をL、第1の格子131から第2の格子132までの距離をLとした場合、第2の格子ピッチP及び間隔dは、上記の(1)及び式(2)の関係を満たすように決定される。
【0159】
なお、X線源11から照射されるX線が平行ビームである場合には、P=P,d
=dを満たすように決定される。
【0160】
X線画像検出器240は、第1の格子131に入射したX線が形成する第1の格子131の自己像が第2の格子132によって強度変調された像を画像信号として検出するものである。このようなX線画像検出器240として、本例においては、直接変換型のX線画像検出器であって、線状の読取光によって走査されることによって画像信号が読み出される、いわゆる光読取方式のX線画像検出器を用いる。
【0161】
図21(A)は、本例のX線画像検出器240の斜視図、図21(B)は図21(A)に示すX線画像検出器のXZ面断面図、図21(C)は図4(A)に示すX線画像検出器のYZ面断面図である。
【0162】
本例のX線画像検出器240は、図21(A)〜(C)に示すように、X線を透過する第1の電極層241、第1の電極層241を透過したX線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層242、記録用光導電層242において発生した電荷のうち一方の極性の電荷に対しては絶縁体として作用し、かつ他方の極性の電荷に対しては導電体として作用する電荷輸送層244、読取光の照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層245、及び第2の電極層246をこの順に積層してなるものである。記録用光導電層242と電荷輸送層244との界面近傍には、記録用光導電層242内で発生した電荷を蓄積する蓄電部243が形成される。なお、上記各層は、ガラス基板247上に第2の電極層246から順に形成されている。
【0163】
第1の電極層241としては、X線を透過するものであればよく、たとえば、ネサ皮膜(SnO2)、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、アモルファス状光透過性酸化膜であるIDIXO(Idemitsu Indium X-metal Oxide ;出光興産(株))などを50〜200nm厚にして用いることができ、また、100nm厚のAlやAuなども用いることもできる。
【0164】
記録用光導電層242は、X線の照射を受けることにより電荷を発生するものであればよく、X線に対して比較的量子効率が高く、また暗抵抗が高いなどの点で優れているa−Seを主成分とするものを使用する。厚さは10μm以上1500μm以下が適切である。また、特にマンモグラフィ用途である場合には、150μm以上250μm以下であることが好ましく、一般撮影用途である場合には、500μm以上1200μm以下であることが好ましい。
【0165】
電荷輸送層244としては、たとえば、X線画像の記録の際に第1の電極層241に帯電する電荷の移動度と、その逆極性となる電荷の移動度の差が大きい程良く(例えば10以上、望ましくは10以上)、たとえば、ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK)分散物,Clを10〜200ppmドープしたa−Se、AsSe等の半導体物質が適当である。厚さは0.2〜2μm程度が適切である。
【0166】
読取用光導電層245としては、読取光の照射を受けることにより導電性を呈するものであればよく、たとえば、a−Se、Se−Te、Se−As−Te、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン、MgPc(Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine)、CuPc(Cupper phtalocyanine)などのうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質が好適である。厚さは5〜20μm程度が適切である。
【0167】
第2の電極層246は、読取光を透過する複数の透明線状電極246aと読取光を遮光する複数の遮光線状電極246bとを有するものである。透明線状電極246aと遮光線状電極246bとは、X線画像検出器240の画像形成領域の一方の端部から他方の端部まで連続して直線状に延びるものである。そして、透明線状電極246aと遮光線状電極246bとは、図21(A),(B)に示すように、所定の間隔を空けて交互に平行に配列されている。
【0168】
透明線状電極246aは読取光を透過するとともに、導電性を有する材料から形成されている。たとえば、第1の電極層241と同様に、ITO、IZOやIDIXOを用いることができる。そして、その厚さは100〜200nm程度である。
【0169】
遮光線状電極246bは読取光を遮光するとともに、導電性を有する材料から形成されている。たとえば、上記の透明導電材料とカラーフィルターを組み合せて用いることができる。透明導電材料の厚さは100〜200nm程度である。
【0170】
そして、本例のX線画像検出器240においては、後で詳述するが、隣接する透明線状電極246aと遮光線状電極246bとの1組を用いて画像信号が読み出される。すなわち、図21(B)に示すように、1組の透明線状電極246aと遮光線状電極246bとによって1画素の画像信号が読み出されることになる。本例においては、1画素が略50μmとなるように透明線状電極246aと遮光線状電極246bとが配置されている。
【0171】
そして、本例のX線位相画像撮影装置は、図21(A)に示すように、透明線状電極246aと遮光線状電極246bの延伸方向に直交する方向(X方向)に延設された線状読取光源250を備えている。本例の線状読取光源250は、LED(Light EmittingDiode)やLD(Laser Diode)などの光源と所定の光学系とから構成され、略10μmの幅の線状の読取光をX線画像検出器240に照射するように構成されている。そして、この線状読取光源250は、所定の移動機構(図示省略)によって透明線状電極246a及び遮光線状電極246bの延伸方向(Y方向)について移動するものであり、この移動により線状読取光源250から発せられた線状の読取光によってX線画像検出器240が走査されて画像信号が読み出される。画像信号の読取りの作用については後で詳述する。
【0172】
そして、X線源11、第1の格子131、第2の格子132及びX線画像検出器240を備える構成をタルボ干渉計として機能させるためには、更にいくつかの条件をほぼ満たさねばならない。その条件について以下に説明する。
【0173】
まず、第1の格子131と第2の格子132とのグリッド面が、図20に示すX−Y平面に平行であることが必要である。
【0174】
そして、更に、第1の格子131と第2の格子132との距離Z(タルボ干渉距離Z)は、第1の格子131が90°の位相変調を与える位相変調型格子である場合、次式(24)をほぼ満たさなければならない。
【数24】

【0175】
ただし、λはX線の波長(通常はピーク波長)、mは0か正の整数、Pは上述した第1の格子131の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子132の格子ピッチである。
【0176】
また、第1の格子131が180°の位相変調を与える位相変調型格子である場合には、タルボ干渉距離Zに関して次式(25)をほぼ満たさなければならない。mは0か正の整数、Pは上述した第1の格子131の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子132の格子ピッチである。また、第1の格子131が振幅変調型格子である場合には、上述の式(3)をほぼ満たさなければならない。
【0177】
【数25】

【0178】
また、第1、第2の格子131,132のそれぞれの厚みh,hに関しても、第1、第2の格子31,32に関して上述した式(7)及び式(8)を満たすように設定する必要がある。
【0179】
そして、更に本例のX線位相画像撮影装置においては、図22に示すように、第1の格子131と第2の格子132とが、第1の格子131の延伸方向と第2の格子132の延伸方向とが相対的に傾くように配置されるものである。そして、このように配置された第1の格子131と第2の格子132に対して、X線画像検出器240によって検出される画像信号の各画素の主走査方向(図21のX方向)の主画素サイズDxと副走査方向の副画素サイズDyとは、図22に示すような関係となる。
【0180】
主画素サイズDxは、上述したようにX線画像検出器240の透明線状電極246aと遮光線状電極246bの配列ピッチによって決定されるものであって、本例においては50μmに設定されている。また、副画素サイズDyは、線状読取光源250によってX線画像検出器240に照射される線状の読取光の幅によって決定されるものであって、本例においては10μmに設定されている。
【0181】
ここで、本例においては、複数の縞画像を取得し、その複数の縞画像に基づいて位相コントラスト画像を生成するが、その取得する縞画像の数をMとすると、M個の副画素サイズDyが位相コントラスト画像の副走査方向の1つの画像解像度Dとなるように第1の格子131が第2の格子132に対して傾けられる。
【0182】
具体的には、図23に示すように、第2の格子132のピッチ及び第1の格子131によって第2の格子132の位置に形成される周期パターン像(以下、第1の格子131の自己像G1という)のピッチをp、第2の格子132に対する第1の格子131の自己像のX−Y面内の相対的な回転角をθ、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度をD(=Dy×M)とすると、回転角θを下式(26)を満たすように設定することによって、副走査方向の画像解像度Dの長さに対して、第1の格子131の自己像G1と第2の格子132の位相がn周期分ずれることになる。なお、図23においては、M=5、n=1の場合を示している。
【数26】

【0183】
したがって、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度DをM分割したDx×Dyの各画素によって、第1の格子131の自己像のn周期分の強度変調をM分割した画像信号が検出できることになる。図23に示す例では、n=1としているので、副走査方向の画像解像度Dの長さに対して、第1の格子131の自己像G1と第2の格子132の位相が1周期分ずれることになる。もっとわかり易く言えば、第1の格子131の自己像G1の1周期分の第2の格子132を通過する範囲が、副走査方向の画像解像度Dの長さにわたって変化する。
【0184】
そして、M=5としているので、Dx×Dyの各画素によって第1の格子131の自己像の1周期の強度変調を5分割した画像信号が検出できることになり、すなわち、Dx×Dyの各画素によって互いに異なる5つの縞画像の画像信号をそれぞれ検出することができることになる。なお、5つの縞画像の画像信号の取得方法については、後で詳述する。
【0185】
なお、本例においては、上述したとおり、Dx=50μm、Dy=10μm、M=5としているので、位相コントラスト画像の主走査方向の画像解像度Dxと副走査方向の画像解像度D=Dy×Mが同じになるが、必ずしも主走査方向の画像解像度Dxと副走査方向の画像解像度Dとを合わせる必要はなく、任意の主副比としてもよい。
【0186】
更に、本例においては、M=5としているが、Mは3以上であればよく、5以外であってもよい。また、上記説明ではn=1としたが、nは0以外の整数であれば1以外の整数でもよい。すなわち、nが負の整数の場合には上述した例に対して反対周りの回転となり、また、nを±1以外の整数としてn周期分の強度変調としてもよい。ただし、nがMの倍数の場合は、1組のM個の副走査方向画素Dyの間で第1の格子131の自己像G1と第2の格子132の位相が等しくなり、異なるM個の縞画像とならないため除外するものとする。
【0187】
また、第2の格子132に対する第1の格子131の自己像の回転角θについては、たとえば、X線画像検出器240と第2の格子132の相対回転角を固定した後、第1の格子131を回転させることによって行うことができる。
【0188】
たとえば、上式(26)でp=5μm、D=50μm、n=1とすると、理論上の回転角θは約5.7°である。そして、第2の格子132に対する第1の格子131の自己像の実際の回転角θ’は、たとえば、第1の格子の自己像と第2の格子132によるモアレのピッチによって検出することができる。
【0189】
具体的には、図24に示すように、実際の回転角をθ’、回転によって生じたX方向への見た目の自己像のピッチP’とすると、観測されるモアレのピッチPmは、1/Pm=|1/P’−1/P|であるので、P’=P/cosθ’を上式に代入することによって実際の回転角θ’を求めることができる。なお、モアレのピッチPmについては、X線画像検出器240によって検出された画像信号に基づいて求めるようにすればよい。
【0190】
そして、理論上の回転角θと実際の回転角θ’とを比較し、その差の分だけで自動又は手動で第1の格子131の回転角を調整するようにすればよい。
【0191】
位相コントラスト画像生成部260は、X線画像検出器240により検出された互いに異なるM種類の縞画像の画像信号に基づいてX線位相コントラスト画像を生成するものである。
【0192】
なお、第1の格子131と第2の格子132とを格子パターンの配列方向が同じ方向となるように配置したとき(すなわちθ=0°)、第2の格子132のピッチが式(1)から算出されるピッチpより若干ずれると、第1の格子131の格子パターンと同じ方向に周期性を有するモアレ縞が発生する。このことを利用すると、第1の格子131の格子パターンと同じ方向にピッチが狭く周波数が高いモアレを発生させることが出来、Dy方向に1画素、及びDx方向に複数画素からなる画素群を使うことでも位相微分像の復元をすることが出来る。しかしながらこの方法は、高周波数な信号成分が発生する方向(図5のx方向)に空間分解能が悪くなるため、実用的ではない。
【0193】
次に、本例のX線位相画像撮影装置の作用について説明する。
【0194】
まず、図20に示すように、X線源11と第1の格子131との間に、被写体Hが配置された後、X線源11からX線が射出される。そして、そのX線は被写体Hを透過した後、第1の格子131に照射される。第1の格子131に照射されたX線は、第1の格子131で回折されることにより、第1の格子131からX線の光軸方向において所定の距離において、タルボ干渉像を形成する。
【0195】
これをタルボ効果と呼び、光波が第1の格子131を通過したとき、第1の格子131から所定の距離において、第1の格子131の自己像を形成する。たとえば、第1の格子131が、90°の位相変調を与える位相変調型格子の場合、上式(24)(180°の位相変調型格子の場合は上式(25)、強度変調型格子の場合は上式(3))で与えられる距離において第1の格子131の自己像を形成する一方、被写体Hによって、第1の格子131に入射するX線の波面は歪むため、第1の格子131の自己像はそれに従って変形している。
【0196】
続いて、X線は、第2の格子132を通過する。その結果、上記の変形した第1の格子131の自己像は第2の格子132との重ね合わせにより、強度変調を受け、上記波面の歪みを反映した画像信号としてX線画像検出器240により検出される。
【0197】
ここで、X線画像検出器240における画像検出と読出しの作用について説明する。
【0198】
まず、図25(A)に示すように高圧電源400によってX線画像検出器240の第1の電極層241に負の電圧を印加した状態において、第1の格子131の自己像と第2の格子132との重ね合わせによって強度変調されたX線が、X線画像検出器240の第1の電極層241側から照射される。
【0199】
そして、X線画像検出器240に照射されたX線は、第1の電極層241を透過し、記録用光導電層242に照射される。そして、そのX線の照射によって記録用光導電層242において電荷対が発生し、そのうち正の電荷は第1の電極層241に帯電した負の電荷と結合して消滅し、負の電荷は潜像電荷として記録用光導電層242と電荷輸送層244との界面に形成される蓄電部243に蓄積される(図25(B)参照)。
【0200】
次に、図26に示すように、第1の電極層241が接地された状態において、線状読取光源250から発せられた線状の読取光L1が第2の電極層246側から照射される。読取光L1は透明線状電極246aを透過して読取用光導電層245に照射され、その読取光L1の照射により読取用光導電層245において発生した正の電荷が電荷輸送層244を通過して蓄電部243における潜像電荷と結合するとともに、負の電荷が、透明線状電極246aに接続されたチャージアンプ200を介して遮光線状電極246bに帯電した正の電荷と結合する。
【0201】
そして、読取用光導電層245において発生した負の電荷と遮光線状電極246bに帯電した正の電荷との結合によって、チャージアンプ200に電流が流れ、この電流が積分されて画像信号として検出される。
【0202】
そして、線状読取光源250が、副走査方向に移動することによって線状の読取光L1によってX線画像検出器240が走査され、線状の読取光L1の照射された読取ライン毎に上述した作用によって画像信号が順次検出され、その検出された読取ライン毎の画像信号が位相コントラスト画像生成部260に順次入力されて記憶される。
【0203】
そして、X線画像検出器240の全面が読取光L1に走査されて1フレーム全体の画像信号が位相コントラスト画像生成部260に記憶された後、位相コントラスト画像生成部260は、その記憶された画像信号に基づいて、互いに異なる5つの縞画像の画像信号を取得する。
【0204】
具体的には、本例においては、図23に示すように、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度Dを5分割し、第1の格子131の自己像の1周期の強度変調を5分割した画像信号が検出できるように第1の格子131を第2の格子132に対して傾けるようにしたので、図27に示すように、第1読取ラインから読み出された画像信号が第1の縞画像信号M1として取得され、第2読取ラインから読み出された画像信号が第2の縞画像信号M2として取得され、第3読取ラインから読み出された画像信号が第3の縞画像信号M3として取得され、第4読取ラインから読み出された画像信号が第4の縞画像信号M4として取得され、第5読取ラインから読み出された画像信号が第5の縞画像信号M5として取得される。なお、図27に示す第1〜第5読取ラインは、図23に示す副画素サイズDyに相当する。
【0205】
また、図27においては、Dx×(Dy×5)の読取範囲しか示していないが、その他の読取範囲についても、上記と同様にして第1〜第5の縞画像信号が取得される。すなわち、図28に示すように、副走査方向について4画素間隔毎の画素行(読取ライン)からなる画素行群の画像信号が取得されて1フレームの1つの縞画像信号が取得される。より具体的には、第1読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第1の縞画像信号が取得され、第2読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第2の縞画像信号が取得され、第3読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第3の縞画像信号が取得され、第4読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第4の縞画像信号が取得され、第5読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第5の縞画像信号が取得される。
【0206】
上記のようにして互いに異なる第1〜第5の縞画像信号が取得され、この第1〜第5の縞画像信号に基づいて、位相コントラスト画像生成部260において位相コントラスト画像が生成される。
【0207】
本例における位相コントラスト画像の生成方法は、既に式(12)〜(18)を参照して説明した内容と同様であるため、その説明を省略する。
【0208】
なお、上述した第1の格子131と第2の格子132とを傾ける構成において、第1の格子131と第2の格子132とをともに吸収型(振幅変調型)格子として構成し、タルボ干渉効果の有無に関わらず、スリット部を通過した放射線を幾何学的に投影する構成としてもよい。この場合には、第1の格子131の間隔dと第2の格子132の間隔dとを、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とすることで、照射X線に含まれる大部分をスリット部で回折せずに、直進性を保ったまま通過するように構成する。たとえば、X線源のターゲットとしてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は約0.4Åである。この場合には、第1の格子131の間隔dと第2の格子132の間隔dを、1μm〜10μm程度とすればスリット部で大部分の放射線が回折されずに幾何学的に投影される。第1の格子131の格子ピッチPと第2の格子132の格子ピッチPとの関係と、第1の格子131の間隔dと第2の格子132の間隔dとの関係とについては、上述した第1の格子131が位相変調型格子である場合と同様である。また、第2の格子132に対する第1の格子131の傾きについても、上述の例と同様であり、位相コントラスト画像の生成も、上述の例と同様に行われる。
【0209】
なお、上記例においては、X線画像検出器240として、線状読取光源250から発せられた線状の読取光の走査によって画像信号が読み出される、いわゆる光読取方式のX線画像検出器を用いるようにしたが、これに限らず、たとえば、特開2002−26300号公報に記載されているような、TFTスイッチが2次元状に多数配列され、そのTFTスイッチをオンオフすることによって画像信号が読み出されるTFTスイッチを用いたX線画像検出器や、CMOSを用いたX線画像検出器などを用いるようにしてもよい。
【0210】
具体的には、TFTスイッチを用いたX線画像検出器は、たとえば、図29に示すように、X線の照射によって半導体膜において光電変換された電荷を収集する画素電極271と画素電極271によって収集された電荷を画像信号として読み出すためのTFTスイッチ272とを備えた画素回路270が2次元状に多数配列されたものである。そして、TFTスイッチを用いたX線画像検出器は、画素回路行毎に設けられ、TFTスイッチ272をオンオフするためのゲート走査信号が出力される多数のゲート電極273と、画素回路列毎に設けられ、各画素回路270から読み出された電荷信号が出力される多数のデータ電極274とを備えている。なお、各画素回路270の詳細な層構成については、特開2002−26300号公報に記載されている層構成と同様である。
【0211】
そして、たとえば、第2の格子132と画素回路列(データ電極)とが平行になるように設置した場合、1つの画素回路列が、上記例において説明した主画素サイズDxに相当し、1つの画素回路行が、上記例において説明した副画素サイズDyに相当する。なお、主画素サイズDx及び副画素サイズDyは、たとえば、50μmとすることができる。
【0212】
そして、上記例と同様に、位相コントラスト画像を生成するためにM枚の縞画像を使用する場合、M行の画素回路行が、位相コントラスト画像の副走査方向の1つの画像解像度Dとなるように第1の格子131が第2の格子132に対して傾けられる。具体的な、第1の格子131の回転角については、上記例と同様に、上式(26)によって算出される。
【0213】
上式(26)において、たとえば、M=5、n=1として第1の格子131の回転角θを設定した場合、図29の1つの画素回路270によって第1の格子131の自己像の1周期の強度変調を5分割した画像信号を検出できることになり、すなわち、図29に示す5本のゲート電極273に接続される5行の画素回路行によって、互いに異なる5つの縞画像の画像信号をそれぞれ検出することができることになる。なお、図29においては、1つの画素回路列に対して1本の第2の格子132と自己像G1とが対応して示されているが、実際には、1つの画素回路列に対して多数の第2の格子132及び自己像G1が存在していてもよく、図29は図示省略しているものとする。
【0214】
したがって、第1読取ライン用ゲート電極G11に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第1の縞画像信号M1として取得され、第2読取ライン用ゲート電極G12に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第2の縞画像信号M2として取得され、第3読取ライン用ゲート電極G13に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第3の縞画像信号M3として取得され、第4読取ライン用ゲート電極G14に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第4の縞画像信号M4として取得され、第5読取ライン用ゲート電極G15に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第5の縞画像信号M5として取得される。
【0215】
第1〜第5の縞画像信号に基づいて位相コントラスト画像を生成する方法については、上記例と同様である。なお、上述したように1つの画素回路270の主走査方向及び副走査方向のサイズが50μmである場合には、位相コントラスト画像の主走査方向の画像解像度は50μmとなり、副走査方向の画像解像度は50μm×5=250μmとなる。
【0216】
また、CMOSを用いたX線画像検出器としては、たとえば、X線の照射を受けて可視光を発生し、その可視光を光電変換することによって電荷信号を検出する画素回路280が、図30に示すように2次元状に多数配列されたものを用いることができる。そして、このCMOSを用いたX線画像検出器は、画素回路行毎に設けられ、画素回路280に含まれる信号読み出し回路を駆動するための駆動信号が出力される多数のゲート電極282及びリセット電極284と、画素回路列毎に設けられ、各画素回路280の信号読み出し回路から読み出された電荷信号が出力される多数のデータ電極283とを備えている。なお、ゲート電極282及びリセット電極284には、信号読み出し回路に駆動信号を出力する行選択走査部285が接続され、データ電極283には、各画素回路から出力された電荷信号に所定の処理を施す信号処理部286が接続されている。
【0217】
各画素回路280は、図31に示すように、基板800の上方に絶縁膜803を介して形成された下部電極806と、下部電極806上に形成された光電変換膜807と、光電変換膜807上に形成された上部電極808と、上部電極808上に形成された保護膜809と、保護膜809上に形成されたX線変換膜810とを備えている。
【0218】
X線変換膜810は、たとえば、X線の照射を受けて550nmの波長の光を発するCsI:TIから形成される。その厚さは500μm程度とすることが望ましい。
【0219】
上部電極808は、光電変換膜807に550nmの波長の光を入射させる必要があるため、その入射光に対して透明な導電性材料で構成される。また、下部電極806は、画素回路280毎に分割された薄膜であり、透明又は不透明の導電性材料で形成される。
【0220】
光電変換膜807は、たとえば、550nmの波長の光を吸収してこの光に応じた電荷を発生する光電変換材料から形成される。このような光電変換材料としては、たとえば、有機半導体、有機色素を含む有機材料、及び直接遷移型のバンドギャップをもつ吸収係数の大きい無機半導体結晶等を単体又は組み合わせた材料などがある。
【0221】
そして、上部電極808と下部電極806との間に所定のバイアス電圧を印加することで、光電変換膜807で発生した電荷のうち一方が上部電極808に移動し、他方が下部電極806に移動する。
【0222】
そして、下部電極806の下方の基板800内には、この下部電極806に対応させて、下部電極806に移動した電荷を蓄積するための電荷蓄積部802と、電荷蓄積部802に蓄積された電荷を電圧信号に変換して出力する信号読み出し回路801とが形成されている。
【0223】
電荷蓄積部802は、絶縁膜803を貫通して形成された導電性材料のプラグ804によって下部電極806に電気的に接続されている。信号読み出し回路801は、公知のCMOS回路によって構成されている。
【0224】
そして、上述したようなCMOSを用いたX線画像検出器を、図32に示すように、第2の格子132と画素回路列(データ電極)とが平行になるように設置した場合、1つの画素回路列が、上記例において説明した主画素サイズDxに相当し、1つの画素回路行が、上記例において説明した副画素サイズDyに相当する。なお、主画素サイズDx及び副画素サイズDyは、CMOSを用いたX線画像検出器の場合には、たとえば、10μmとすることができる。
【0225】
そして、上記例と同様に、位相コントラスト画像を生成するためにM枚の縞画像を使用する場合、M行の画素回路行が、位相コントラスト画像の副走査方向の1つの画像解像度Dとなるように第1の格子131が第2の格子132に対して傾けられる。具体的な、第1の格子131の回転角については、上記例と同様に、上式(26)によって算出される。
【0226】
上式(26)において、たとえば、M=5、n=1として第1の格子131の回転角θを設定した場合、図32の1つの画素回路280によって第1の格子131の自己像の1周期の強度変調を5分割した画像信号を検出できることになり、すなわち、図32に示す5本のゲート電極282に接続される5行の画素回路行によって、互いに異なる5つの縞画像の画像信号をそれぞれ検出することができることになる。なお、図32においては、1つの画素回路列に対して1本の第2の格子132と自己像G1とが対応して示されているが、実際には、1つの画素回路列に対して多数の第2の格子132及び自己像G1が存在していてもよく、図32は図示省略しているものとする。
【0227】
したがって、TFTスイッチを用いたX線画像検出器の場合と同様に、第1読取ライン用ゲート電極G11に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第1の縞画像信号M1として取得され、第2読取ライン用ゲート電極G12に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第2の縞画像信号M2として取得され、第3読取ライン用ゲート電極G13に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第3の縞画像信号M3として取得され、第4読取ライン用ゲート電極G14に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第4の縞画像信号M4として取得され、第5読取ライン用ゲート電極G15に接続される画素回路行から読み出された画像信号が第5の縞画像信号M5として取得される。
【0228】
第1〜第5の縞画像信号に基づいて位相コントラスト画像を生成する方法については、上記例と同様である。なお、上述したように1つの画素回路280の主走査方向及び副走査方向のサイズが10μmである場合には、位相コントラスト画像の主走査方向の画像解像度は10μmとなり、副走査方向の画像解像度は10μm×5=50μmとなる。
【0229】
なお、上述したようにTFTスイッチを用いたX線画像検出器やCMOSを用いたX線画像検出器も用いることは可能であるが、これらのX線画像検出器は、画素が正方形であるため、本発明を適用する場合には、副走査方向の解像度が主走査方向の解像度に対して悪くなる。これに対し、上記例で説明した光読取方式のX線画像検出器においては、主走査方向については線状電極の幅(延伸方向と垂直な方向)によって解像度Dxが制限されるが、副走査方向については、線状読取光源250の読取光の副走査方向の幅及び1ラインあたりのチャージアンプ200の蓄積時間と線状読取光源250の移動速度の積で解像度Dyが決まることになる。主副解像度ともに典型的には数10μmであるが、主走査方向の解像度を維持したまま副走査方向の解像度を高くする設計が可能である。たとえば、線状読取光源250の幅を小さくしたり、移動速度を遅くすることにより実現可能であって、光読取方式のX線画像検出器は、より有利な構成である。
【0230】
また、1回の撮影で複数の縞画像信号を取得することができるので、上述したような即座に繰り返し使用可能な半導体の検出器に限らず、蓄積性蛍光体シートや銀塩フイルムなども利用することができる。なお、この場合、蓄積性蛍光体シートや現像された銀塩フイルムなどを読み取る際の読取画素が請求項における画素に相当するものとする。
【0231】
次に、本発明の例を説明するための他のX線撮影システムの構成例について説明する。図33に本例のX線位相画像撮影装置の概略構成を示す。
X線位相画像撮影装置は、図33に示すように、X線源11から射出されたX線を通過させて周期パターン像を形成する格子131と、格子131により形成された周期パターン像を検出するとともに、その周期パターン像に対して強度変調を施すX線画像検出器(放射線画像検出器)340と、X線画像検出器340をその線状電極の延伸方向に直交する方向に移動させる移動機構333と、X線画像検出器340において上記周期パターン像に対して強度変調の施された縞画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部260とを備えている。
【0232】
本例においても、所定のピッチを有するマルチスリット(例えば、上述のマルチスリット103)をX線源11と第1の格子131との間に設置して使用することができる。
【0233】
X線画像検出器340は、X線が格子131を通過することによって格子131によって形成された格子131の自己像を検出するとともに、その自己像に応じた電荷信号を後述する格子状に分割された電荷蓄積層に蓄積することによって自己像に強度変調を施して縞画像を生成し、その生成した縞画像を画像信号として出力するものである。このようなX線画像検出器340として、本例においては、直接変換型のX線画像検出器であって、線状の読取光によって走査されることによって画像信号が読み出される、いわゆる光読取方式のX線画像検出器を用いる。
【0234】
図34(A)は、本例のX線画像検出器340の斜視図、図34(B)は図34(A)に示すX線画像検出器のXZ面断面図、図34(C)は図34(A)に示すX線画像検出器のYZ面断面図である。
【0235】
本例のX線画像検出器340は、図34(A)〜(C)に示すように、X線を透過する第1の電極層241、第1の電極層241を透過したX線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層242、記録用光導電層242において発生した電荷のうち一方の極性の電荷に対しては絶縁体として作用し、かつ他方の極性の電荷に対しては導電体として作用する電荷蓄積層343、読取光の照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層245、及び第2の電極層246をこの順に積層してなるものである。なお、上記各層は、ガラス基板247上に第2の電極層246から順に形成されている。
【0236】
電荷蓄積層343は、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性の膜であれば良く、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等のポリマーやAs、Sb、ZnS等の硫化物、その他に酸化物、フッ化物より構成される。更には、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性であり、それと逆の極性の電荷に対しては導電性を有する方がより好ましく、移動度×寿命の積が、電荷の極性により3桁以上差がある物質が好ましい。
【0237】
好ましい化合物としては、AsSe、AsSeにCl、Br、Iを500ppmから20000ppmまでドープしたもの、AsSeのSeをTeで50%程度まで置換したAs(SexTe1−x)(0.5<x<1)、AsSeのSeをSで50%程度まで置換したもの、AsSeからAs濃度を±15%程度変化させたAsxSey(x+y=100、34≦x≦46)、アモルファスSe−Te系でTeを5−30wt%のもの等が挙げられる。
【0238】
なお、電荷蓄積層343の材料としては、第1の電極層241と第2の電極層246との間に形成される電気力線が曲がらないようにするため、その誘電率が、記録用光導電層242と読取用光導電層245の誘電率の1/2倍以上2倍以下のものを用いることが望ましい。
【0239】
そして、本例における電荷蓄積層343は、図34(A)〜(C)に示すように、第2の電極層246の透明線状電極246a及び遮光線状電極246bの延伸方向に平行となるように線状に分割されている。
【0240】
また、電荷蓄積層343は、透明線状電極246a若しくは遮光線状電極246bの配列ピッチよりも細かいピッチで分割されるが、その配列ピッチPと間隔dは、格子131との組み合わせによって位相イメージングを行うことができるように決定される。
なお、透明線状電極246a若しくは遮光線状電極246bの配列ピッチP及び間隔dは、上述した第2の格子132に関するピッチP及び間隔dと同様に決められるため、同一符号を用いて説明する。
【0241】
具体的には、X線源11から照射されるX線が、平行ビームではなく、コーンビームである場合には、格子131を通過して形成される格子131の自己像は、X線源11からの距離に比例して拡大される。そして、本例においては、電荷蓄積層343の配列ピッチPと間隔dは、線状の電荷蓄積層343の部分が、電荷蓄積層343の位置における格子131の自己像の明部の周期パターンとほぼ一致するように決定される。すなわち、格子131の格子ピッチをP、格子131の条帯の間隔をd、X線源11の焦点から格子131までの距離をL、格子131からX線画像検出器340の検出面までの距離をLとした場合、電荷蓄積層343の配列ピッチP及び間隔dは、上記の(1)及び式(2)の関係を満たすように決定される。
【0242】
また、電荷蓄積層343は、積層方向(Z方向)について2μm以下の厚さで形成される。
【0243】
そして、電荷蓄積層343は、たとえば、上述したような材料と金属板に穴を空けたメタルマスクやファイバーなどによって形成されたマスクとを用いて抵抗加熱蒸着によって形成することができる。また、フォトリソグラフィを用いて形成するようにしてもよい。
【0244】
そして、本例のX線画像検出器340においては、後で詳述するが、隣接する透明線状電極246aと遮光線状電極246bとの1組を用いて画像信号が読み出される。すなわち、図34(B)に示すように、1組の透明線状電極246aと遮光線状電極246bとによって1画素の画像信号が読み出されることになる。本例においては、1画素が略50μmとなるように透明線状電極246aと遮光線状電極246bとが配置されている。
【0245】
そして、本例のX線位相画像撮影装置は、図34(A)に示すように、透明線状電極246aと遮光線状電極246bの延伸方向に直交する方向(X方向)に延設された線状読取光源250を備えている。
【0246】
そして、X線源11、格子131、及び上記のように分割された電荷蓄積層343を有するX線画像検出器340を備える構成をタルボ干渉計として機能させるためには、更にいくつかの条件をほぼ満たさねばならない。その条件について以下に説明する。
【0247】
まず、格子131とX線画像検出器340の検出面が、図33に示すX−Y平面に平行であることが必要である。
【0248】
そして、更に、格子131とX線画像検出器340の検出面までの距離Z(タルボ干渉距離Z)は、格子131が90°の位相変調を与える位相変調型格子である場合、上述の式(24)をほぼ満たさなければならない。
【0249】
また、格子131が180°の位相変調を与える位相変調型格子である場合には、タルボ干渉距離Zに関して上述の式(25)をほぼ満たさなければならない。また、格子131が振幅変調型格子である場合には、上述の式(3)をほぼ満たさなければならない。
【0250】
移動機構333は、上述したように、X線画像検出器340をその線状電極の延伸方向に直交する方向に並進移動させることにより、格子131とX線画像検出器340との相対位置を変化させるものである。移動機構333は、たとえば、圧電素子等のアクチュエータにより構成される。
【0251】
次に、本例のX線位相画像撮影装置の作用について説明する。
【0252】
X線は被写体Hを透過した後、格子131に照射される。格子131に照射されたX線は、格子131で回折されることにより、格子131からX線の光軸方向において所定の距離において、タルボ干渉像を形成する。
【0253】
そして、格子131の自己像は、X線画像検出器340の第1の電極層241側から入射され、X線画像検出器340の電荷蓄積層343によって強度変調を受け、上記波面のみを反映した縞画像の画像信号としてX線画像検出器340により検出される。
【0254】
ここで、X線画像検出器340における縞画像の検出と読出しの作用について、より詳細に説明する。
【0255】
まず、図35(A)に示すように高圧電源400によってX線画像検出器340の第1の電極層241に負の電圧を印加した状態において、格子131の自己像を担持したX線が、X線画像検出器340の第1の電極層241側から照射される。
【0256】
そして、X線画像検出器340に照射されたX線は、第1の電極層241を透過し、記録用光導電層242に照射される。そして、そのX線の照射によって記録用光導電層242において電荷対が発生し、そのうち正の電荷は第1の電極層241に帯電した負の電荷と結合して消滅し、負の電荷は潜像電荷として電荷蓄積層343に蓄積される(図35(B)参照)。
【0257】
ここで、本例における電荷蓄積層343は、上述したような配列ピッチで線状に分割されているので、記録用光導電層242において格子131の自己像に応じて発生した電荷のうちその直下に電荷蓄積層343が存在する電荷のみが電荷蓄積層343によってトラップされて蓄積され、それ以外の電荷については線状の電荷蓄積層343の間(以下、非電荷蓄積領域という)を通過し、読取用光導電層245を通過した後、透明線状電極246aと遮光線状電極246bとに流れ出してしまう。
【0258】
このように記録用光導電層242において発生した電荷のうち、その直下に線状の電荷蓄積層343が存在する電荷のみを蓄積することによって、格子131の自己像は電荷蓄積層343の線状のパターンとの重ね合わせにより強度変調を受け、被写体Hによる自己像の波面の歪みを反映した縞画像の画像信号が電荷蓄積層343に蓄積されることになる。すなわち、本例の電荷蓄積層343は、従来の2つの格子を利用した位相イメージングにおける2つ目の格子と同等の機能を果たすことになる。
【0259】
そして、次に、図36に示すように、第1の電極層241が接地された状態において、線状読取光源250から発せられた線状の読取光L1が第2の電極層246側から照射される。読取光L1は透明線状電極246aを透過して読取用光導電層245に照射され、その読取光L1の照射により読取用光導電層245において発生した正の電荷が電荷蓄積層343における潜像電荷と結合するとともに、負の電荷が、透明線状電極246aに接続されたチャージアンプ200を介して遮光線状電極246bに帯電した正の電荷と結合する。
【0260】
そして、読取用光導電層245において発生した負の電荷と遮光線状電極246bに帯電した正の電荷との結合によって、チャージアンプ200に電流が流れ、この電流が積分されて画像信号として検出される。
【0261】
そして、線状読取光源250が、副走査方向(Y方向)に移動することによって線状の読取光L1によってX線画像検出器340が走査され、線状の読取光L1の照射された読取ライン毎に上述した作用によって画像信号が順次検出され、その検出された読取ライン毎の画像信号が位相コントラスト画像生成部260に順次入力されて記憶される。
【0262】
そして、X線画像検出器340の全面が読取光L1に走査されて1フレーム全体の画像信号が位相コントラスト画像生成部260に記憶される。
【0263】
本例における位相コントラスト画像の生成方法の原理は、式(12)〜(18)を参照して説明した内容と同様であるため、その説明を省略する。位相コントラスト画像生成部260により、複数の縞画像に基づいて位相コントラスト画像が生成される。
【0264】
なお、上述のX線位相画像撮影装置は、格子131からX線画像検出器340の検出面までの距離Zがタルボ干渉距離となるように、上述の式(24)又は式(25)、あるいは式(3)を満たすようにしたが、格子131が入射X線を回折せずに投影させる構成としてもよい。この構成によれば、格子131を通過して射影される投影像が、格子131の後方の全ての位置で相似的に得られるため、格子131からX線画像検出器340の検出面までの距離Zを、タルボ干渉距離を無関係に設定することができる。
【0265】
次に、上述のX線位相画像撮影装置の変形例について説明する。上述のX線位相画像撮影装置は、移動機構333によってX線画像検出器340を並進移動させ、各位置においてX線画像の撮影を行うことによってM枚の縞画像信号を取得するようにしたが、本例のX線位相画像撮影装置は、上記のような移動機構333を必要とすることなく、1回のX線画像の撮影によってM枚の縞画像信号を取得可能に構成されたものである。
すなわち、上述の図22〜図28等を参照して説明したように、本例においても、図22〜図24等に示すように、格子131とX線画像検出器340とが、格子131の延伸方向とX線画像検出器340の電荷蓄積層343の延伸方向とが相対的に傾くように配置されるものである。そして、このように配置された格子131と電荷蓄積層343に対して、X線画像検出器340によって検出される画像信号の各画素の主走査方向(図34のX方向)の主画素サイズDxと副走査方向の副画素サイズDyとは、図23に示すような関係となる。上述の図22〜図28等を参照して説明した構成及び作用と同様にして、1回の放射線画像の撮影が行われた後、X線画像検出器340の全面が読取光L1に走査されて1フレーム全体の画像信号が位相コントラスト画像生成部260に記憶され、位相コントラスト画像生成部260は、その記憶された画像信号に基づいて、互いに異なる5つの縞画像の画像信号を取得する。この第1〜第5の縞画像信号に基づいて、位相コントラスト画像生成部260により、上記例と同様にして位相コントラスト画像が生成される。
【0266】
また、上記例においては、X線画像検出器340として、電極間に、記録用光導電層242、電荷蓄積層343及び読取用光導電層245の3層を設けたものを利用するようにしたが、必ずしもこの層構成である必要はなく、たとえば、図37に示すように、読取用光導電層245を設けることなく、第2の電極層の透明線状電極246a及び遮光線状電極246b上に直接接触するように線状の電荷蓄積層343を設け、その電荷蓄積層343の上に記録用光導電層242を設けるようにしてもよい。なお、この記録用光導電層242は、読取用光導電層としても機能するものである。
【0267】
この構造は、読取用光導電層245なしに第2の電極層246に直接電荷蓄積層343を設ける構造で、線状の電荷蓄積層343の形成を容易にする。すなわち、この線状の電荷蓄積層343は、蒸着で形成することができる。この蒸着工程において、選択的に線状パターンを形成するためにメタルマスクなどを用いるが、読取用光導電層245の上に線状の電荷蓄積層343を設ける構成では、読取用光導電層245の蒸着後のメタルマスクをセットする工程のため、読取用光導電層245の蒸着工程と記録用光導電層242の蒸着工程の間で大気中操作により、読取用光導電層245に劣化や、光導電層間に異物が混入して品質の劣化をもたらす虞がある。上述した読取用光導電層245を設けない構造とすることで、光導電層の蒸着後の大気中操作を減らすことができるため、上述の品質劣化の懸念を低減することができる。
【0268】
以下に、図37に示すX線画像検出器360のX線画像の記録と読み出しの作用について説明する。
【0269】
まず、図38(A)に示すように高圧電源400によってX線画像検出器360の第1の電極層241に負の電圧を印加した状態において、格子131の自己像を担持したX線が、X線画像検出器360の第1の電極層241側から照射される。
【0270】
そして、X線画像検出器340に照射されたX線は、第1の電極層241を透過し、記録用光導電層242に照射される。そして、そのX線の照射によって記録用光導電層242において電荷対が発生し、そのうち正の電荷は第1の電極層241に帯電した負の電荷と結合して消滅し、負の電荷は潜像電荷として電荷蓄積層343に蓄積される(図38(B)参照)。なお、第2の電極層246に接した線状の電荷蓄積層343は絶縁性の膜であるから、この電荷蓄積層343に到達した電荷はそこに捕えられ、第2の電極層246へ行くことができず、蓄積されて留まる。
【0271】
ここでも、上記例のX線画像検出器340と同様に、記録用光導電層242において発生した電荷のうち、その直下に線状の電荷蓄積層343が存在する電荷のみを蓄積することによって、格子131の自己像は電荷蓄積層343の線状のパターンとの重ね合わせにより強度変調を受け、被写体Hによる自己像の波面の歪みを反映した縞画像の画像信号が電荷蓄積層343に蓄積されることになる。
【0272】
そして、図39に示すように、第1の電極層241が接地された状態において、線状読取光源250から発せられた線状の読取光L1が第2の電極層246側から照射される。読取光L1は、透明線状電極246aを透過して電荷蓄積層343近傍の記録用光導電層242に照射され、その読取光L1の照射により発生した正の電荷が線状の電荷蓄積層343へ引き寄せられて再結合する。そして、もう一方の負の電荷は、透明線状電極246aへ引き寄せられ、透明線状電極246aに帯電した正の電荷及び透明線状電極246aに接続されたチャージアンプ200を介して遮光線状電極246bに帯電した正の電荷と結合する。これによりチャージアンプ200に電流が流れ、この電流が積分されて画像信号として検出される。
【0273】
上述したX線画像検出器360を用いた場合においても、複数の縞画像信号の取得方法及び位相コントラスト画像の生成方法は上記各例と同様である。
【0274】
また、上記各例においては、X線画像検出器340の電荷蓄積層343を、完全に線状に分離して形成するようにしたが、これに限らず、たとえば、図40に示すように、平板形状の上に線状のパターンを形成することによって格子状に形成するようにしてもよい。
【0275】
なお、上記例で説明した光読取方式のX線画像検出器においては、主走査方向については線状電極の幅(延伸方向と垂直な方向)によって解像度Dxが制限されるが、副走査方向については、線状読取光源250の読取光の副走査方向の幅及び1ラインあたりのチャージアンプ200の蓄積時間と線状読取光源250の移動速度の積で解像度Dyが決まることになる。主副解像度ともに典型的には数10μmであるが、主走査方向の解像度を維持したまま副走査方向の解像度を高くする設計が可能である。たとえば、線状読取光源250の幅を小さくしたり、移動速度を遅くすることにより実現可能である。
【0276】
図41は、本発明の実施形態を説明するための放射線撮影システムの他の例に関し、その演算部の構成を示す。
【0277】
前述した各X線撮影システムによれば、これまで描出が難しかったX線弱吸収物体の高コントラストな画像(位相コントラスト画像)が得られるが、更に、位相コントラスト画像と対応して吸収画像が参照できることは読影の助けになる。例えば、吸収画像と位相コントラスト画像を重み付けや階調、周波数処理などの適当な処理によって重ね合わせることにより吸収画像で表現できなかった部分を位相コントラスト画像の情報で補うことは有効である。しかし、位相コントラスト画像とは別に吸収画像を撮影することは、位相コントラスト画像の撮影と吸収画像の撮影の間の撮影肢位のズレによって良好な重ね合わせを困難にするのに加え、撮影回数が増えることにより被検者の負担となる。また、近年、位相コントラスト画像や吸収画像の他に、小角散乱画像が注目されている。小角散乱画像は、被検体組織内部の微細構造に起因する組織性状を表現可能であり、例えば、ガンや循環器疾患といった分野での新しい画像診断のための表現方法として期待されている。
【0278】
そこで、本X線撮影システムは、位相コントラスト画像のために取得した複数枚の画像から、吸収画像や小角散乱画像を生成することも可能とする演算処理部190を用いる。演算処理部190は、位相コントラスト画像生成部191、吸収画像生成部192、小角散乱画像生成部193が構成されている。これらは、いずれもk=0,1,2,・・・,M−1のM個の各走査位置で得られる画像データに基づいて演算処理を行う。このうち、位相コントラスト画像生成部191は、前述の手順に従って位相コントラスト画像を生成する。
【0279】
吸収画像生成部192は、画素ごとに得られる画素データI(x,y)を、図42に示すように、kについて平均化して平均値を算出して画像化することにより吸収画像を生成する。なお、平均値の算出は、画素データI(x,y)をkについて単純に平均化することにより行なっても良いが、Mが小さい場合には誤差が大きくなるため、画素データI(x,y)を正弦波でフィッティングした後、フィッティングした正弦波の平均値を求めるようにしてもよい。また、吸収画像の生成には、平均値に限られず、平均値に対応する量であれば、画素データI(x,y)をkについて加算した加算値等を用いることが可能である。
【0280】
なお、被写体がない状態で撮影(プレ撮影)して取得される画像群から、吸収像を作成するようにしてもよい。この吸収像は、検出系の透過率ムラを反映している(グリッドの透過率ムラ、線量検出器の吸収の影響等の情報が含まれている)。そこで、この画像から、検出系の透過率ムラを補正するための補正係数マップを作成することが出来る。被写体がある状態で撮影(メイン撮影)して取得される画像群から、吸収像を作成し、前述の補正係数を各画素にかけることで、検出系の透過率ムラを補正した、被写体の吸収像を得ることが出来る。
【0281】
小角散乱画像生成部193は、画素ごとに得られる画素データI(x,y)の振幅値を算出して画像化することにより小角散乱画像を生成する。なお、振幅値の算出は、画素データI(x,y)の最大値と最小値との差を求めることによって行なっても良いが、Mが小さい場合には誤差が大きくなるため、画素データI(x,y)を正弦波でフィッティングした後、フィッティングした正弦波の振幅値を求めるようにしても良い。また、小角散乱画像の生成には、振幅値に限られず、平均値を中心としたばらつきに対応する量として、分散値や標準偏差等を用いることが可能である。
【0282】
なお、被写体がない状態で撮影(プレ撮影)して取得される画像群から、小角散乱画像を作成するようにしてもよい。この小角散乱画像は、検出系の振幅値ムラを反映している(グリッドのピッチ不均一性、開口率不均一性、グリッド間の相対位置ズレによる不均一性等の情報が含まれている)。そこで、この画像から、検出系の振幅値ムラを補正するための補正係数マップを作成することが出来る。被写体がある状態で撮影(メイン撮影)して取得される画像群から、小角散乱画像を作成し、前述の補正係数を各画素にかけることで、検出系の振幅値ムラを補正した、被写体の小角散乱画像を得ることが出来る。
【0283】
本X線撮影システムによれば、被写体の位相コントラスト画像のために取得した複数枚の画像から吸収画像や小角散乱画像を生成するので、吸収画像や小角散乱画像の撮影の間の撮影肢位のズレが生じず、位相コントラスト画像と吸収画像や小角散乱画像との良好な重ね合わせが可能となる。
【0284】
前述の各X線撮影システムでは、放射線として一般的なX線を用いる場合について説明したが、本発明に用いられる放射線はX線に限られるものではなく、α線、γ線等のX線以外の放射線を用いることも可能である。
【0285】
以上説明した各例は、本発明を医療診断用の装置に適用したものであるが、本発明は医療診断用途に限られず、工業用等のその他の放射線検出装置に適用することが可能である。
【0286】
以上、説明したように、本明細書には、
複数の配列された条帯を有する第1の格子と、
前記第1の格子を通過した放射線によって形成される放射線像のパターン周期に実質的に一致する周期で配列された格子パターンと、
前記格子パターンによってマスキングされた前記放射線像を検出する放射線画像検出器と、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第1の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第1の格子と一体化される散乱除去格子と、を備えることを特徴とする放射線画像検出装置が開示されている。
【0287】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記格子パターンは、複数の配列された条帯を有する第2の格子であり、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第2の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第2の格子と一体化される散乱除去格子を更に備える。
【0288】
また、本明細書には、
複数の配列された条帯を有する第1の格子と、
前記第1の格子を通過した放射線によって形成される放射線像のパターン周期に実質的に一致する周期で配列された複数の条帯を有する第2の格子と、
前記第2の格子によってマスキングされた前記放射線像を検出する放射線画像検出器と、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第2の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第2の格子と一体化される散乱除去格子と、を備えることを特徴とする放射線画像検出装置が開示されている。
【0289】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記散乱除去格子と、当該散乱除去格子と一体化される前記格子とは、互いに別部材とされるとともに、互いに接合される。
【0290】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記散乱除去格子と一体化される前記格子は、前記複数の条帯と、これらの条帯が立設される基体とを有し、
前記散乱除去格子は、前記格子の前記複数の条帯の先端に接合される。
【0291】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記散乱除去格子と一体化される前記格子は、前記複数の条帯と、これらの条帯が立設される基板とを有し、
前記散乱除去格子は、前記格子の前記基板における前記条帯が立設された側と反対側の面に接合される。
【0292】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記散乱除去格子は、前記複数の条帯と、これらの条帯が立設される基体とを有し、
前記散乱除去格子と、当該散乱除去格子と一体化される前記格子とは、それぞれが有する前記条帯が対向する向きに配置され、
前記散乱除去格子の条帯と、当該散乱除去格子が一体化される前記格子の条帯とは、互いに架設される。
【0293】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記散乱除去格子の複数の条帯のそれぞれは、当該散乱除去格子と一体化される前記格子の隣り合う条帯と条帯との間のそれぞれに配置される複数の条帯片を有して構成される。
【0294】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記散乱除去格子の条帯の配列方向は、当該散乱除去格子と一体化される前記格子の条帯の配列方向と直交する。
【0295】
また、本明細書に開示された放射線画像検出装置においては、
前記第2の格子と一体化される前記散乱除去格子は、前記第2の格子と前記放射線画像検出器との間に配置される。
【0296】
また、本明細書には、
上述の放射線画像検出装置と、
前記第1の格子に向けて放射線を照射する放射線源とを備えることを特徴とする放射線撮影装置が開示されている。
【0297】
また、本明細書には、
上述の放射線撮影装置と、
前記放射線撮影装置の前記放射線画像検出器により検出された画像から、前記放射線画像検出器に入射する放射線の屈折角の分布を演算し、この屈折角の分布に基づいて、被写体の位相コントラスト画像を生成する演算処理部と、を備えることを特徴とする放射線撮影システムが開示されている。
【符号の説明】
【0298】
10 X線撮影システム
11 X線源(放射線源)
12 撮影部
13 コンソール(制御演算手段)
30 フラットパネル検出器(FPD)
31 第1の格子
31a 基板(基体)
31b 条帯
32 第2の格子
32a 基板(基体)
32b 条帯
34 散乱除去格子
34a 基板(基体)
34b 条帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の配列された条帯を有する第1の格子と、
前記第1の格子を通過した放射線によって形成される放射線像のパターン周期に実質的に一致する周期で配列された格子パターンと、
前記格子パターンによってマスキングされた前記放射線像を検出する放射線画像検出器と、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第1の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第1の格子と一体化される散乱除去格子と、を備えることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線画像検出装置であって、
前記格子パターンは、複数の配列された条帯を有する第2の格子であり、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第2の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第2の格子と一体化される散乱除去格子を更に備えることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項3】
複数の配列された条帯を有する第1の格子と、
前記第1の格子を通過した放射線によって形成される放射線像のパターン周期に実質的に一致する周期で配列された複数の条帯を有する第2の格子と、
前記第2の格子によってマスキングされた前記放射線像を検出する放射線画像検出器と、
散乱された放射線を除去する複数の配列された条帯を有してこれらの条帯の配列方向が前記第2の格子の条帯の配列方向と交差する状態で前記第2の格子と一体化される散乱除去格子と、を備えることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置であって、
前記散乱除去格子と、当該散乱除去格子と一体化される前記格子とは、互いに別部材とされるとともに、互いに接合されることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線画像検出装置であって、
前記散乱除去格子と一体化される前記格子は、前記複数の条帯と、これらの条帯が立設される基体とを有し、
前記散乱除去格子は、前記格子の前記複数の条帯の先端に接合されることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項6】
請求項4に記載の放射線画像検出装置であって、
前記散乱除去格子と一体化される前記格子は、前記複数の条帯と、これらの条帯が立設される基板とを有し、
前記散乱除去格子は、前記格子の前記基板における前記条帯が立設された側と反対側の面に接合されることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項7】
請求項6に記載の放射線画像検出装置であって、
前記散乱除去格子は、前記複数の条帯と、これらの条帯が立設される基体とを有し、
前記散乱除去格子と、当該散乱除去格子と一体化される前記格子とは、それぞれが有する前記条帯が対向する向きに配置され、
前記散乱除去格子の条帯と、当該散乱除去格子が一体化される前記格子の条帯とは、互いに架設されることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置であって、
前記散乱除去格子の複数の条帯のそれぞれは、当該散乱除去格子と一体化される前記格子の隣り合う条帯と条帯との間のそれぞれに配置される複数の条帯片を有して構成されることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置であって、
前記散乱除去格子の条帯の配列方向は、当該散乱除去格子と一体化される前記格子の条帯の配列方向と直交することを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項10】
請求項2から9のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置であって、
前記第2の格子と一体化される前記散乱除去格子は、前記第2の格子と前記放射線画像検出器との間に配置されることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の放射線画像検出装置と、
前記第1の格子に向けて放射線を照射する放射線源とを備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項12】
請求項11に記載の放射線撮影装置と、
前記放射線撮影装置の前記放射線画像検出器により検出された画像から、前記放射線画像検出器に入射する放射線の屈折角の分布を演算し、この屈折角の分布に基づいて、被写体の位相コントラスト画像を生成する演算処理部と、を備えることを特徴とする放射線撮影システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−125364(P2012−125364A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278647(P2010−278647)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】