説明

放熱用伝熱管および放熱器

【課題】放熱性および内面フィンの形成加工性に優れた二酸化炭素冷媒を用いた放熱用伝熱管および前記伝熱管を用いた放熱性に優れる放熱器を提供する。
【解決手段】二酸化炭素が流れる放熱用伝熱管であって、前記放熱用伝熱管の内面に複数のフィンを螺旋状に備え、前記フィンの高さhが0.15mm以上、隣り合うフィンの間隔gがh×0.9mm以上である放熱用伝熱管で、更に前記放熱用伝熱管の内面に複数のフィンを螺旋状に備え、前記フィンの高さhが0.20mm以上、隣り合うフィンの間隔gが0.10mm以上である放熱用伝熱管、及び前記放熱用伝熱管を流れる高温の二酸化炭素と低温の水との熱交換により水を加熱し、その加熱された水を給湯することを特徴とする放熱器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を冷媒とするヒートポンプ式給湯機などの放熱器(高圧側熱交換器)に用いられる放熱用伝熱管、および前記放熱用伝熱管を用いた放熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、ヒートポンプ式給湯機は、圧縮機4、放熱器5、減圧機(膨張弁)6、蒸発器7を主要部とし、圧縮機4で圧縮されて高温となった冷媒を放熱器5で被加熱流体(水)を流して冷却し、減圧機6で減圧した冷媒を蒸発器7で蒸発させて被冷却流体(外気)から吸熱するように構成されている。図4で8は冷却ファンで、10は給湯タンクである。
【0003】
前記ヒートポンプ式給湯機などの蒸気圧縮サイクルを利用する熱システムにおいては、従来、冷媒としてフロン(R410aなど)が用いられていたが、最近、地球環境保全の観点から、自然界に存在し地球環境に殆ど影響を与えない二酸化炭素(CO2)の使用が提案されている。
【0004】
前記フロン冷媒と二酸化炭素冷媒のもっとも大きな相違点として上げられるのは、二酸化炭素冷媒の高圧側作動圧力が10〜15MPaとフロン冷媒の約3MPaと比べて著しく高いことである。
特に放熱器における冷媒の作動圧力は、圧縮機を出た直後の圧力であるために、熱サイクル中で最も高圧である。そのため、放熱用伝熱管には強い耐圧強度が要求される。通常、二酸化炭素を冷媒として採用する放熱器の放熱用伝熱管は、耐圧強度を高めるため、十分な肉厚を有し、且つ外径5mm以下の比較的細径の管が使用されている。
【0005】
例えば特許文献1で提案されているように、高温高圧の二酸化炭素冷媒を外径5mm程度以下の細径の放熱用伝熱管内に流通し、その放熱用伝熱管と接触する被加熱流体管内には水を流通し、高温の湯を製造する放熱器があり、その湯が家庭用などの給湯水に用いられる。
【0006】
ところで、放熱用伝熱管の高性能化には、例えば特許文献2で提案される管内面に螺旋状の溝(またはフィン)を形成する内面溝付管を使用することで行われている。 これは、放熱用伝熱管内面に多数の溝またはフィンを設けることで、管内の伝熱表面積を拡大し、さらに、冷媒の流れを乱流として、その効果によって伝熱性能を向上させよう
とするものである。近年、フロン冷媒を使用するエアコンなどの空調機では、ほとんど全てにおいて内面溝付管が使用されており、内面に加工されていない平滑管を使用することのほうが稀である。
【0007】
更に、二酸化炭素を冷媒として用いた放熱器用伝熱管の伝熱状況について、二酸化炭素冷媒中に冷凍機油が混入した場合、放熱器用伝熱管の熱伝達率が大きく低下することが非特許文献1で知られている。したがって、二酸化炭素を冷媒とする放熱器の放熱用伝熱管に内面溝付管を使用する場合には、この冷凍機油の影響を考慮した形状設計が要求される。
【0008】
上記で述べた放熱器用伝熱管に用いる内面溝付管は、一般にリン脱酸銅(JIS H 3300:C−1220)が使用される。その代表的形成方法を図3に示す。
即ち、リン脱酸銅管21の内部の半引き抜き方向側にフローティングプラグ22を配し、引抜方向側に溝付プラグ23を配し、溝付プラグ23が位置する前記銅管21の外面に自転し公転するボール24を押圧しつつ、前記銅管21を矢印方向に引抜前記銅管21内面に溝付プラグ23の螺旋溝23cを転造する。図3で、25はフローティングプラグ22と溝付プラグ23を連結するプラグロッド、26はダイス、27は加工ヘッド、28はストッパ、29はベアリングである。
【0009】
【特許文献1】特開2005−201625号公報
【特許文献2】特開2001−241877号公報
【非特許文献1】森幸治、森本博嗣、嶋岡洋和、中西重康、大西潤治、第12回日本機械学会環境工学総合シンポジウム講演論文集、2002、p.395−397、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、二酸化炭素を冷媒とする内面溝付管のような細径且つ肉厚のある管を図3の方法で製造する場合、細径且つ肉厚が厚くなるほど、内面に設ける溝又はフィン(以下、内面フィンと称す)の転造加工は困難となっていき、従来使用されているフロン冷媒用の内面溝付管のようにその内面フィン形状を種々に成形加工することができない。
又、内面フィン形状を種々に成形加工することができないことから放熱器用伝熱管の熱伝達率を大きく低下させうる混入した冷凍機油の影響を抑える内面フィンを備えられないという課題が生じている。
【0011】
本願は、このような状況に鑑み、種々の検討を踏まえて成したもので、伝熱性能と内面フィンの成形加工性の両者を良好とする内面フィン形状を規定することで、二酸化炭素冷媒を用いる放熱用伝熱管及びこの放熱器用伝熱管を用い、放熱性に優れる放熱器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、二酸化炭素が流れる放熱用伝熱管であって、前記放熱用伝熱管の内面に複数のフィンを螺旋状に設け、前記フィンの高さhが0.15mm以上、隣り合うフィン同士の間隔gがh×0.9mm以上であることを特徴とする放熱用伝熱管である。
【0013】
請求項2記載の発明は、二酸化炭素が流れる放熱用伝熱管であって、前記放熱用伝熱管の内面に複数のフィンを螺旋状に備え、前記フィンの高さhが0.20mm以上、隣り合うフィンの間隔gが0.10mm以上であることを特徴とする放熱用伝熱管である。
【0014】
請求項3記載の発明は、前記フィンの先端部には平坦部が設けられ、その横断面形状が台形形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかの放熱用伝熱管である。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかの放熱用伝熱管を備え、前記放熱用伝熱管を流れる高温の二酸化炭素と低温の水との熱交換により水を加熱し、その加熱された水を給湯することを特徴とする放熱器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る放熱用伝熱管は、内面に設ける複数の螺旋状フィンの形状(高さ及び間隔)を規定することにより、その形成が容易に可能となると共に、伝熱性能への冷凍機油混入の影響を受けにくい放熱用伝熱管であって、この放熱用伝熱管を組み込んだ放熱器は、その伝熱性能向上の顕著な効果により放熱性に優れるものである。
更に、本発明に係る放熱用伝熱管及び放熱器は、二酸化炭素冷媒を用いた冷凍サイクル製品の実用化を拡大し、有害なフロンの使用量が減少させることができるために、地球環境を良好に保全する働きを担うものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図を用いて本発明に係る放熱用伝熱管を説明する。
図1は、放熱用伝熱管の実施形態を示すもので、(イ)は横断面説明図、(ロ)は内面展開図、(ハ)はA−A断面図である。図1において、1は放熱用伝熱管、2は内面フィンを示し、放熱用伝熱管1の外径をD(mm)、放熱用伝熱管1の内径をd(mm)、内面フィン2の高さをh(mm)、放熱用伝熱管1の底肉厚みをt(mm)、内面フィン2の間隔をg(mm)、内面フィン2のリード角をβ(度)とする。
【0018】
図2は、放熱用伝熱管の内面フィン形状の実施形態の代表例を示すもので、(イ)は先端部断面が湾曲形状を示す内面フィン、(ロ)は先端部断面が台形形状を示す内面フィンで、2aが湾曲形状内面フィン、2bが台形形状内面フィンを示している。
図2において、αは内面フィンの頂角、γは内面フィン先端部の湾曲率、bは内面フィン先端部の台形上辺長である。
【0019】
図1で示される内面フィン2の高さhを0.15mm以上、内面フィン2の間隔gをg≧0.9×t=0.9×0.15=0.135mmとするのは、その高さh及び間隔gの値が小さくなると、冷媒中に混入している冷凍機油が放熱用伝熱管1の内面壁に付着するようになり、その放熱性を劣化させるもので、内面フィン2の形成による伝熱面積拡大の効果を低減してしまうためである。
また、内面フィン2の高さhを0.20mm以上、内面フィン2の間隔gをg≧0.10mmと設定するのは、ある程度内面フィンが高くなることで、内面フィンによる二酸化炭素冷媒の流れに攪拌を与えることができ、その結果、二酸化炭素冷媒中に冷凍機油が十分に分散されて、内面フィン2の間隔gが小さくなっても内壁面には付着しにくくなるためと思われる。
更に、内面フィン2の形状にもよるが、内面フィン2の高さhは、放熱用伝熱管2の内径dの0.15倍以上になるとその形成加工性が大きく損なわれ、設けることが困難になってしまうことから、その範囲は、0.15mm以上でd×0.15mm以下で良好な諸特性が得られる。
【0020】
リード角βは、その角度が大きいなるほど、放熱用伝熱管の内面フィンの形成加工が難しくなり、その生産性が低下してしまうので、40度以下が望ましい。また、リード角βが小さくなると内面フィン数を多くでき、内面フィンの表面積を増大させて放熱性を良好にできるが、内面フィン数が多すぎると放熱用伝熱管の重量増とコスト高を招くので、内面フィンの形成加工性と放熱性との兼ね合いでリード角βは、決定されるものである。
【0021】
なお内面フィン2の高さhの上限値は、特に限定されるものではないが、高くしても伝熱性の向上には大きくは寄与しないために、内面フィン2の高さhは1mm以下で良い。 また内面フィン2の間隔gの上限値も、特に限定されるものではないが、内面フィン2の間隔gが大きくなるということは、内面フィンの数を減らすことになるので、内面フィンを設けることによるほう熱用伝熱管内面の表面積の増大、即ち伝熱面積の拡大率が減少し、高い伝熱性を得ることができない。したがって、内面フィン2の間隔gは内面フィンの高さhの2.5倍以下が良い。
【0022】
次に、放熱用伝熱管1の内面フィン2は任意の形状を採ることができるが、図2(イ)及び(ロ)で代表して示されるように、その内面フィン頂角αは、30度以上であることが、内面フィン2を容易に形成することから望ましい。30度よりも小さいと内面フィン2を形成することが極めて困難になってしまう。内面フィン2の先端部断面を図2(イ)の2aで示すような湾曲状にする場合、内面フィン形成加工性の観点から、その内面フィン先端部の湾曲率γは、0.02mmから0.1mmの範囲であると良好な形成加工性が得られる。また、図2(イ)の2aで示されるような先端部を断面湾曲状に形成するよりも、図2(ロ)の2bに示すように先端部を平坦に形成して、内面フィンの断面形状をほぼ台形形状にすると、内面フィンの断面積が大きくなり、内面フィンの形成加工性が向上する。
以下に、本発明を実施例により説明する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
表1に示されるような外径Dと底肉厚みtのリン脱酸銅(JIS H3300:C−1220)製の内面フィン付伝熱管を、図3に示す製造装置による転造加工によって作製した。
内面フィンの高さhと内面フィンの間隔gの比g/hを本発明規定値内で種々に変化させた。内面フィンの頂角αは30〜40度の範囲、リード角βは40度以下の範囲で種々に変化させた。内面フィンの先端部は湾曲状と平坦状の2通りとした。
【0024】
前記放熱用伝熱管の底肉厚みtはCO冷媒の高作動圧力に耐える必要があるため、冷凍保安規則関係基準に規定されている下記数1を満足する厚みを、外径4.76mm及び3.50mmの場合について計算し、適当な肉厚を設定した。
【0025】
【数1】

【0026】
但し、設計圧力Pを10MPa、放熱用伝熱管の許容応力σをJIS H 3300から33N/mm、溶接継手の効率ηは1とした。
【0027】
作製した伝熱有効長さ4000mmの内面フィン付伝熱管を、図5に示す伝熱性評価装置11を用いて交換熱量を測定した。測定は、内面フィン付伝熱管を高温流体用伝熱管13として、二重管12の内側に設置し、冷媒である二酸化炭素を入口条件:10MPa、90℃、出口条件:30℃になるように毎時15kgの条件で流通させ、二重管12の内側で放熱用伝熱管13の外側に設けた、水が流れる低温流体用伝熱管14との間での、二酸化炭素と水との交換熱量を測定し、その値を表1に記した。 なお、交換熱量は、同外径の平滑伝熱管である表1の従来例No.12(D=4.76mm)および従来例No.13(D=3.50mm)の交換熱量を100として、各々比率表示して示している。
【0028】
【表1】









【0029】
内面フィンの高さhが0.15mm以上では、その間隔gが0.15mm以上、且つ高さhとの比g/hが0.9以上である本発明例No.1、No.11の放熱用伝熱管の交換熱量は、平滑管を用いた従来例No.100及びNo,101より少なくとも2%以上の高い伝性能を示していることが判る。
また、内面フィンの高さhが0.20mm以上、その間隔gが0.10mm以上である本発明例No.2〜No.10の放熱用伝熱管の交換熱量は、平滑管を用いた従来例No.100及びNo,101より少なくとも2%以上の高い伝熱性能を示していることが判る。なお、内面フィンの高さhが0.20mm以上においてもg/hを大きくするほど高い伝熱性能を得られる傾向にある。
【0030】
内面フィンの高さhが0.20mm未満と低い比較例No.20及びNo.24では、伝熱性能の向上が見られなかった。
内面フィン高さhが0.20mm未満で、間隔gが0.110mmと狭い比較例No.21では、伝熱性能の低下が見られた。
内面フィン高さhが0.20mm以上であるが、間隔gが0.05mmと狭い比較例No.22、No.23では伝熱性能低下が見られた。
なお、実施例では、二酸化炭素冷媒用として外径5mm前後、底肉厚みが0.4mm以上の底厚肉の内面フィン付伝熱管を代表例として示したが、外径、底肉厚み共に、上記値に限られるものではなく、用いられる放熱器の仕様に適したものを用いられるのは言うまでもない。
【0031】
(実施例2)
図6は本発明に係る放熱用伝熱管を用いた熱交換器の一例を示したもので、図6において、32は水30が流通する低温流体用伝熱管、33は二酸化炭素31が流通する本発明に係る内面フィン対高温流体用放熱伝熱管、35は熱交換器である。
水が流通する低温流体用伝熱管32に接して、高温の二酸化炭素冷媒が流通する内面フィン付高温流体用伝熱管33を配置することで、熱交換器の高性能化と小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る放熱用伝熱管の実施形態を示すもので、(イ)横断面説明図、(ロ)内面展開図、(ハ)図1(ロ)のA−A断面図、(ニ)図1(ロ)のB−B断面図である。
【図2】本発明に係る放熱用伝熱管の内面フィン形状の実施形態を示す横断面説明図で、(イ)先端部湾曲形状、(ロ)先端部平坦形状である。
【図3】内面フィン付伝熱管の製造装置の概略図である。
【図4】ヒートポンプ式給湯機のフロー図である。
【図5】伝熱性評価装置である。
【図6】本発明に係る放熱用伝熱管を用いた熱交換器である。
【符号の説明】
【0033】
1 放熱用伝熱管
2 内面フィン
2a 先端部断面湾曲形状の内面フィン
2b 先端部断面台形形状の内面フィン
4 圧縮機
5 放熱器
6 減圧機(膨張弁)
7 蒸発器
8 空冷ファン
10 給湯タンク
11 伝熱性評価装置
12 二重管
13 高温流体用伝熱管(二酸化炭素が流通)
14 低温流体用伝熱管(水が流通)
30 低温流体(水)
31 高温流体(二酸化炭素)
32 水が流通する低温流体用伝熱管
33 二酸化炭素が流通する内面フィン付高温流体用伝熱管
34 接合部位
35 隙間
36 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素が流れる放熱用伝熱管であって、前記放熱用伝熱管の内面に複数のフィンを螺旋状に備え、前記フィンの高さhが0.15mm以上、隣り合うフィンの間隔gがh×0.9mm以上であることを特徴とする放熱用伝熱管。
【請求項2】
二酸化炭素が流れる放熱用伝熱管であって、前記放熱用伝熱管の内面に複数のフィンを螺旋状に備え、前記フィンの高さhが0.20mm以上、隣り合うフィンの間隔gが0.10mm以上であることを特徴とする放熱用伝熱管。
【請求項3】
前記フィンの先端部には平坦部が設けられ、その横断面形状が台形形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかの放熱用伝熱管。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3記載のいずれかの放熱用伝熱管を備え、前記放熱用伝熱管を流れる高温の二酸化炭素と低温の水との熱交換により水を加熱し、その加熱された水を給湯することを特徴とする放熱器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−178115(P2007−178115A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317091(P2006−317091)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】