説明

放送受信機用アンテナ

【課題】通常は微弱な信号を高感度で受信することができる放送受信機のアンテナにおいて、強い電波を受信する状態のときには、簡単な手法によってアンテナからの信号を減衰することができる「放送受信機用アンテナ」とする。
【解決手段】電波を受信して受信信号を受信機に出力するアンテナエレメントのほかに、電波を受信して電圧を誘起する電圧誘起コイルを設け、電圧誘起コイルで誘起した電圧が所定以上の時には、アンテナエレメントの受信信号を減衰する信号減衰回路を作動し、アンプへのアンテナ出力を減衰する。また、電圧誘起コイルで誘起した電圧が所定以上の時に、スイッチを切り替えて、受信機から供給される電圧に替えて誘起電圧を供給するようにしてもよい。その際には電圧誘起コイルからの電圧を電圧安定化回路で安定させる。また、前記電圧誘起コイルからの交流電圧を整流回路とリップ除去フィルターを通す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種放送を受信する放送受信機用のアンテナに関し、特に車両に搭載するデジタル放送受信機において、強力な電波を受信する場所でも適切な受信を可能とする放送受信機用アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
各種放送を受信する放送受信機においては、多くの場合微弱な電波でも確実に受信できるようにアンテナの性能を向上する技術が広く研究されている。またアンテナで受信した微弱な電波を増幅して受信機に出力するアンテナアンプの開発も行われている。一方、逆に受信電波が極めて強いときには、アンテナアンプの入力が過大となって、アンプの出力特性により歪んだり、抑圧されたりする問題もあり、そのためにアンテナからアンプへの入力部に減衰器としてのアッテネータを設けることも行われている。
【0003】
このような受信電波の強さの対策は、一般家庭の放送受信機においては、その放送受信機は固定されているため、その受信機の設置される場所に適したアンテナの受信特性に一旦設定すると、その後は安定した受信が可能である。しかしながら例えば車両に搭載する放送受信機のように移動する放送受信機においては、特定の放送局の周波数について車両の移動と共にその局の送信アンテナからの距離によって大きく受信強度が変化するばかりでなく、例えば 東京タワー直下近傍を走行しているときのように、極めて強い電波を受信するとき、殆どの放送局について適切な受信を行うことができなくなる。
【0004】
また、現在受信している目的の受信信号そのものでなくても、その受信信号に近い周波数でも、それが過大な信号のときは、アッテネータ等の減衰器を介して入力しても、アンプの非直線性で目的の受信信号が歪んだり、抑圧されたりする恐れがある。更にアッテネータ回路の減衰率を大きくすると、目的の信号も大きく減衰されてしまい、SN比が低下するという問題もある。
【0005】
その対策として、例えば特開平11−41127号公報(特許文献1)に示されるような技術が存在する。この技術においては、アンテナとチューナとの間に、広帯域増幅器と減衰回路との並列回路を接続し、広帯域増幅器に供給する電源を制御して、広帯域増幅器を動作させるときには増幅器で信号を増幅し、広帯域増幅器を動作させないときには減衰回路で信号を減衰させるように切り替えている。
【特許文献1】特開平11−41127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の特許文献開示の技術では、電源の制御は、後段側のチューナ以降の信号レベルに基づいて行われているため、この信号レベルには、広帯域増幅器のオンオフ制御が影響する。即ち、広帯域増幅器のオン状態で過大な信号レベルと判断されてオフ状態になると、信号レベルが低下し、過大ではないと判断されて、再び広帯域増幅器がオンになるという作動を繰り返す恐れがある。また、アンテナアンプに自動利得制御動作を行わせる場合は、受信を希望する周波数の近くに妨害電波がある場合の相互変調や混変調によるひずみや信号抑圧が問題となる。
【0007】
前記のような強電界強度の電波を受信するときに、増幅器の飽和を回避するため各種減衰器を設け、または増幅器のダイナミックレンジを広げる制御回路を設ける技術が提案されている。しかしながら、それらの技術は何れも高価な回路素子を用いる必要があり、受信機全体のコストアップの原因となる。
【0008】
したがって本発明は、通常は微弱な信号を高感度で受信することができる放送受信機のアンテナにおいて、強い電波を受信する状態のときには、簡単な手法によってアンテナからの信号を減衰し、またその時に得られる電波をアンプの回路の駆動電源とすることもできるようにした放送受信機用アンテナを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る放送受信機用アンテナは、前記課題を解決するため、電波を受信して受信信号を受信機に出力するアンテナエレメントと、前記電波を受信して電圧を誘起する電圧誘起コイルと、前記電圧誘起コイルで誘起した電圧が所定以上の時に、前記アンテナエレメントの受信信号を減衰する信号減衰回路と、前記信号減衰回路の信号を入力して増幅し受信機に出力するアンプとを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る他の放送受信機用アンテナは、前記放送受信機用アンテナにおいて、前記電圧誘起コイルで誘起した電圧が所定以上の時に、受信機から供給される電圧に替えて前記誘起電圧を供給するスイッチを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る他の放送受信機用アンテナは、前記放送受信機用アンテナにおいて、前記アンプに供給する電圧は、電圧安定化回路で安定させた電圧であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る他の放送受信機用アンテナは、前記放送受信機用アンテナにおいて、前記電圧誘起コイルからの交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、該整流回路の出力信号のリップを除去するリップ除去フィルターとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記のように構成したので、通常は微弱な信号を高感度で受信することができる放送受信機のアンテナにおいて、強い電波を受信する状態のときには、簡単な手法によってアンテナからの信号を減衰し、またその時に得られる電波によってアンプの回路の駆動電源とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、通常は微弱な信号を高感度で受信することができる放送受信機のアンテナにおいて、強い電波を受信する状態のときには、簡単な手法によってアンテナからの信号を減衰という目的を、電波を受信して受信信号を受信機に出力するアンテナエレメントと、前記電波を受信して電圧を誘起する電圧誘起コイルと、前記電圧誘起コイルで誘起した電圧が所定以上の時に、前記アンテナエレメントの受信信号を減衰する信号減衰回路と、前記信号減衰回路の信号を入力して増幅し受信機に出力するアンプとを備えることにより実現した。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例を図面に沿って説明する。図1は本発明における最も基本的な構成を示す図であり、放送受信機システムにおいてアンテナで受信した信号を受信機に送信する部分である受信機のフロントエンド部分を示している。図1に示す例においては従来より用いられているアンテナエレメント1を備え、その受信信号は従来より用いられている各種の回路を用いることができる信号減衰器3を介してアンプ4に入力している。なお、ここで用いるアンテナエレメント1は、用途により種々の形態のアンテナを用いることができ、例えば従来より用いられているダイポール、モノポール、ループなどのエレメントを用いることができる。
【0016】
信号減衰回路3には電圧誘起コイル2も接続しており、電圧誘起コイル2は内部に電気を誘起することができるコイルを内蔵し、周囲の電波によってコイルが発生する電気を信号減衰回路3に出力可能としている。この減衰回路3に例えばFET等の素子を用いる形式の場合には、数μAの消費電流で起動することが可能な構成の回路とすることができる。電圧誘起コイル2から出力される電気は周囲の電波の強度の増大と共に増大するため、それにより周囲に強い電波が存在するときにはその電波の受信により誘起された大きな電力を信号減衰回路3に出力し、信号減衰回路3を作動させることができる。
【0017】
電圧誘起コイル2としては種々のものを用いることができるが、近年はフィルム状のコイルも広く用いられるようになっており、特に本発明による電圧誘起コイル2は後述するように充分小さなものでも作動することができるため、前記のようなフィルム状の電圧誘起コイルとすることができる。また、ロッドアンテナを用いるときには、そのロッドの根元のレドーム内のアンプが収納される部分にこれを内蔵させることもできる。
【0018】
電圧誘起コイル2が出力することができる誘起電圧Vは、コイルの巻き数をNとし、受信周波数がfであるときの角周波数をω(=2πf)、磁束をφとするとき、V=N×ω×φで求めることができ、ここで磁束φはコイルの面積をSとし、磁束密度をBとすると、φ=S×Bで求めることができる。また、このときの磁束密度Bは、コイルの透磁率をμとし磁界の強さをHとすると、B=μ×Hで求めることができる。
【0019】
したがって例えばコイルの巻き数N=20回、受信周波数f=400MHz、透磁率μ=4×π×10−7、コイルの半径r=4cmと仮定し、コイルでの受信RFレベルを10dBm/mで磁界の強さが5.31であると、前記各式から最終的に誘起電圧V=1.7Vp−pの交流電圧が得られることがわかる。この交流電圧を例えば全波整流回路で直流に変換すると、1.1Vp−pの出力が得られ、この電圧を信号減衰回路3に入力することにより、アンテナエレメント1で受信した信号の減衰を行う各種回路の作動を確実に制御することが可能であるばかりでなく、更に後述するようなアンプ用電源として用いることができることもわかる。なお、電圧誘起コイルで発生する電圧は必ずしも前記のような大きな電圧である必要はなく、0.5V程度でも充分各種回路を作動させることができ、したがって更に小さな電圧誘起コイルとすることができる。
【0020】
図1の例においては、アンテナエレメント1で受信した信号強度が強過ぎることによって、アンプでの作動で信号にひずみを生じる等の問題が発生する危険がある電波状態と、前記のような作動によって、電圧誘起コイル2で周囲の電界の電波を受けて発電し、その電圧が所定以上のときとのときとが一致するように設定することによって、信号減衰回路3の作動を適切に行わせることができる。この設定に際しては、前記の数式等に基づいて、コイルの巻き数N、コイルの半径rの設定によるコイルの面積S等を適切に設定することによって所定の作動を行わせることができる。
【0021】
信号減衰回路3で前記のような作動を行い、その信号をアンプ4に出力し、アンプ4では受信機からコネクタ5を介してケーブルを通して供給される電力によって増幅作動を行う。ここで用いるアンプ4は、NFの小さいノイズの少ないアンプを用いる。その増幅信号はコネクタ5を介して受信機に出力し、図示されない受信機ではこの信号を処理して映像信号或いは音声信号とし、モニタ或いはスピーカから出力し、所定の放送受信機としての機能を行う。
【0022】
このように、電圧誘起コイル2を用いて周囲が強電界の時、ここで所定の電圧を誘起し、その電圧を利用して信号減衰回路3を作動することができ、それによりアンテナエレメント1からの過大な受信信号によってアンプの作動が不適切となり、出力信号にひずみを生じる等の不適切な作動を防止することができる。したがって、格別な電源を必要とすることなく信号減衰回路を作動すると共に、電圧誘起コイルの巻き数やその半径、即ち面積等を適切に設定することにより、所望の特性を容易に得ることができる。
【実施例2】
【0023】
本発明の他の実施例を図2に示している。図2に示す実施例においては、前記のような電圧誘起コイル2で得られた電気を利用し、前記のような信号減衰回路3の作動のほか、電源安定化回路6及びスイッチ7を介してアンプ4にも供給可能とし、それにより電圧誘起コイル2で所定以上の大きな電圧を発生しているときには、アンプ4の電源として利用する例を示している。
【0024】
即ち図2に示す例においては、スイッチ7はアンプ4への供給電圧を、前記電源安定化回路6を経由して得られる電圧誘起コイル2からの電圧か、或いは従来と同様に受信器側からコネクタ5を介してケーブルによって供給される電圧かを切り替えて用いることができるようにし、その切り替えは電源安定化回路6で得られた電圧によって作動させる。ここで用いる電源安定回路6は、電圧誘起コイル2で発生した電圧をアンプで使用できるような安定した電圧に変換する回路とする。またスイッチ7は、受信機から供給される電圧よりコイルから発生する電圧が高いときに切り替わるスイッチ回路とする。
【0025】
上記のような構成を採用することにより、前記実施例と同様に、中電界や弱電界の通常使うときには各種回路を作動する電圧を発生できないように設定し、送信アンテナ直下などの電界強度が著しく高い時には、電圧誘起コイル2をこの磁束が通ると所定以上の電圧が発生し、信号減衰回路3等の作動を可能とする。また、電圧誘起コイル2で発生した電圧を信号減衰回路3に印加するとき、電界強度に応じた量のRF信号の減衰動作が働くように設定することによって、アンプや受信機に対して適切な信号レベルに補正することができる。
【0026】
更に信号減衰回路3の減衰量が不充分でアンプ内で信号がクリップしてしまう場合には、充分大きな電圧が供給される電圧誘起コイル2からの電圧を用いて、アンプの駆動電圧を上げてアンプのダイナミックレンジを確保することができる。アンプにこのような電圧を供給するには、アンプの最大定格を考慮し、電源安定化回路の作動によって電圧を安定させ、破壊を防ぐようにすることも可能である。
【0027】
本発明は前記のような作動を行うものであるが、電圧誘起コイル2で発生する電圧は交流電圧であり、各種回路の作動電圧としては直流電圧であることが好ましいため、例えば図3に示すような全波整流回路8を用いることが好ましい。即ち図3に示す例においては、電圧誘起コイル2で誘起した交流電圧を4個のダイオードを用いた周知の全波整流回路8に導き、その出力側に更にリップル除去フィルター9を設けることにより、安定した直流電圧を取り出すことができるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施例の回路ブロック図である。
【図2】同第2実施例の回路ブロック図である。
【図3】本発明において全波整流回路を用いた例の回路ブロック図である。
【符号の説明】
【0029】
1 アンテナエレメント
2 電圧誘起コイル
3 信号減衰回路
4 アンプ
5 コネクタ
6 電源安定化回路
7 スイッチ
8 全波整流回路
9 リップル除去フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を受信して受信信号を受信機に出力するアンテナエレメントと、
前記電波を受信して電圧を誘起する電圧誘起コイルと、
前記電圧誘起コイルで誘起した電圧が所定以上の時に、前記アンテナエレメントの受信信号を減衰する信号減衰回路と、
前記信号減衰回路の信号を入力して増幅し受信機に出力するアンプとを備えたことを特徴とする放送受信機用アンテナ。
【請求項2】
前記電圧誘起コイルで誘起した電圧が所定以上の時に、受信機から供給される電圧に替えて前記誘起電圧を供給するスイッチを備えたことを特徴とする請求項1記載の放送受信機用アンテナ。
【請求項3】
前記アンプに供給する電圧は、電圧安定化回路で安定させた電圧であることを特徴とする請求項2記載の放送受信機用アンテナ。
【請求項4】
前記電圧誘起コイルからの交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、該整流回路の出力信号のリップを除去するリップ除去フィルターとを備えたことを特徴とする請求項1記載の放送受信機用アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−231993(P2009−231993A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72625(P2008−72625)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】