説明

放電加工電極製造方法とその方法を用いて製造された放電加工電極を用いるコイル製造方法

【課題】高精度の放電加工電極を簡単に低コストで製造可能な放電加工電極製造方法を提供する。
【解決手段】導電性の基板1上にフォトレジスト層2aを配置するA工程と、このフォトレジスト層を放電加工電極の配線形状を映したマスク3で被覆するB工程と、紫外光4を、マスクを介してフォトレジスト層に露光するC工程と、フォトレジスト層を現像して、マスクによって形成された放電加工電極の配線形状のパターン5aを残して他のフォトレジスト層を取り除くD工程と、導電性の基板に代えてパターン上に、さらにA工程からD工程を少なくとも1回繰り返してパターン上にさらにパターン5bを重ねて型枠5を形成する工程と、導電性の基板をメッキ電極として電解メッキを行い型枠に金属を析出させて放電加工電極を形成させる工程と、型枠を剥離させる工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜の放電加工電極の製造方法とその厚膜の放電加工電極を用いる小型コイルあるいはマイクロコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型コイルあるいはさらに小型のマイクロコイルは、ミニモーターや電磁アクチュエーターやマイクロリレーなどのマイクロエレクトロニクス関連機器、計器あるいは振動センサなどのセンサ類など広く用途がある。
マイクロマシン技術の進展に伴って、コイルの小型化も進んできているものの、従来技術ではコイルはボビンに巻き線コイルを巻く方法がとられており、この方法でいくと、2mm径程度以下の小径巻きが難しく、巻き線径を0.1mm以下に細くして対応するしかなく、これが電気抵抗の増大をもたらし、ひいてはQ値(Q=Lω/R ここで、Lは、コイルのインダクタンス、Rはコイルの電気抵抗、ωは周波数を意味している。)の低下の一因にもなっていた。また、生産面においては、品質のばらつきという問題があり、生産性にも限界があるのが現状であった。
【0003】
このような課題を解決するために、既に小型コイルやマイクロコイルを平面コイルとして形成する方法が開発されている。例えば、特許文献1には、「マイクロコイルの製造方法」として、基板上に電解めっきにより配線を形成するマイクロコイルの製造方法が開示されている。
本製造方法は、基板上に電解めっき用の電極を形成するための触媒金属層を配線が形成される予定の部分にのみ形成させ、その金属層の上に光反応性硬化剤を含有するエポキシ樹脂を塗布した後に不要部分を除去し、配線の形成用の型枠として無電解めっきによって電解めっき用電極を形成させて、さらに電解めっきによって配線を形成するものである。
このようなマイクロコイルの製造方法によれば、型枠を高く形成させることによって、巻き線の高さと幅の比として表現されるアスペクト比を大きく設定することができ、小型でも大きな磁束密度を実現可能なマイクロコイルを提供可能である。
【特許文献1】特開2003−197452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される発明では、確かにアスペクト比は高いものの、この製造方法によれば、最初にフォトレジストを塗布して配線形状のパターニングを行い、その後プラチナ蒸着を行い、フォトレジストを除去し、触媒金属層を形成させておいて、さらにその後にエポキシ樹脂を塗布して配線形状にパターニングを行い、このエポキシ樹脂を型枠として用いて電解メッキを行い、金属を析出させてコイル電極を形成させるため、フォトレジストとエポキシ樹脂の塗布が互いにずれることもあり、より精細なマイクロコイルを製造する場合に触媒金属層がエポキシ樹脂に埋もれて露出しなかったりするなどの不具合の可能性があった。
また、工程そのものが多く複雑なっているため、製造時間がかかると同時に製造コストが高く、歩留まりも悪いという課題があった。
このような課題に対応すべく、放電加工によってマンガニン等の合金板をコイル形状に加工して、これを積層することでマイクロコイルを製造する方法が研究されている。この放電加工によってマイクロコイルを製造する方法では、微細加工を行うことができることからコイル中心の小径まで密にコイルを巻くことができ、しかも、コイル形状にしたものを積層することでコイル断面積を大きくとって電気抵抗値を小さくできるので、前述のQ値を大きくとることができる。また、生産時間を短縮でき、製品も均質なものが生産可能である。しかも、生産の自動化が容易という利点もある。
ところが、このような放電加工のためには、例えば銅製の放電加工電極が必要であり、しかもその放電加工電極は、1000μm程度の深い溝を備えたものでなければ、コイル形状に加工することができないという課題があった。このような深い溝を備えた厚膜の放電加工電極を製造するためには高厚膜のレジストを作成する必要があり、その厚膜レジストはフォトリソグラフィー技術を用いて加工されるものの、これほど深い溝を形成させる場合には、通常X線リソグラフィーの技術を用いる必要があるが、X線は放射線の一種でありその管理は限られた施設においてのみ許可されるもので使用が容易ではなく、一般的な紫外線露光機を用いて容易に加工できる技術が望まれていた。
【0005】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、高精度のマイクロコイルを簡単に低コストで製造可能なコイルを製造するために必要な厚膜の放電加工電極の製造方法とそれを用いるコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である放電加工電極製造方法は、導電性の基板上に紫外光に感光する感光性有機物質層(以下、フォトレジスト層という。)を配置する工程(以下、A工程という。)と、このフォトレジスト層を前記放電加工電極の配線形状を映したマスクで被覆する工程(以下、B工程という。)と、紫外光を、前記マスクを介して前記フォトレジスト層に露光する工程(以下、C工程という。)と、前記フォトレジスト層を現像して、前記マスクによって形成された放電加工電極の配線形状のパターンを残して他のフォトレジスト層を取り除く工程(以下、D工程という。)と、前記導電性の基板に代えて前記パターン上に、さらに前記A工程からD工程を少なくとも1回繰り返して前記パターン上にさらにパターンを重ねて型枠を形成する工程と、前記導電性の基板をメッキ電極として電解メッキを行い前記型枠内に金属を析出させて前記放電加工電極を形成させる工程と、前記型枠を剥離させる工程と、を有するものである。
このように構成された放電加工電極製造方法では、X線などの放射線よりも長波長の紫外光がフォトレジスト層を感光する作用を有する。また、フォトレジスト層によって形成されるパターンを重ねることで型枠として作用する。また、導電性基板がそのままメッキ電極として作用する。型枠を剥離させた状態で、型枠内に析出した金属と導電性基板によって放電加工電極を形成するという作用を有する。
【0007】
また、請求項2に記載の発明である放電加工電極製造方法は、基板上に電解メッキにより放電加工電極を製造する方法であって、導電性の基板上に、導電性の接着剤を介して導電性の薄板を貼付する工程と、この薄板上に紫外光に感光する感光性有機物質層(以下、フォトレジスト層という。)を配置する工程(以下、A工程という。)と、このフォトレジスト層を前記放電加工電極の配線形状を映したマスクで被覆する工程(以下、B工程という。)と、紫外光を、前記マスクを介して前記フォトレジスト層に露光する工程(以下、C工程という。)と、前記フォトレジスト層を現像して、前記マスクによって形成された放電加工電極の配線形状のパターンを残して他のフォトレジスト層を取り除く工程(以下、D工程という。)と、前記導電性の薄板に代えて前記パターン上に、さらに前記A工程からD工程を少なくとも1回繰り返して前記パターン上にさらにパターンを重ねて型枠を形成する工程と、前記導電性の基板をメッキ電極として電解メッキを行い、前記型枠内及び前記型枠の高さを超えて金属を析出させて前記型枠を被覆するように前記放電加工電極を形成させる工程と、前記薄板を除去して前記放電加工電極と前記基板を分離する工程と、前記型枠を剥離させる工程と、を有するものである。
このように構成された放電加工電極製造方法では、請求項1に記載の発明と同様にX線などの放射線よりも長波長の紫外光がフォトレジスト層を感光する作用を有する。また、フォトレジスト層によって形成されるパターンを重ねることで型枠として作用する。また、請求項1に記載の発明と異なり、導電性基板に導電性接着剤を介して導電性薄板を設けているので、この導電性薄板がメッキ電極として作用する。さらに、導電性接着剤を剥がすと、薄板と基板を剥離させることができ、金属が析出して形成された放電加工電極から導電性薄板のみを除去することで、放電加工電極を得るという作用を有する。
【0008】
また、請求項3に記載の発明である放電加工電極製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記フォトレジスト層が、フィルム状のフォトレジスト層を積層させて形成されるものである。
このように構成された放電加工電極製造方法では、フィルム状のフォトレジスト層を任意の厚さに積層するという作用を有する。
【0009】
最後に、請求項4に記載の発明であるコイルの製造方法は、導電性のらせん状コイルを複数積層して構成されるコイルの製造方法であって、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の放電加工電極製造方法を用いて製造された放電加工電極に、前記らせん状コイルの材料からなるコイル材薄板を被加工物として接近させて放電加工して前記らせん状コイルを作成するものである。
このように構成されたコイルの製造方法では、請求項1乃至請求項3のいずれか1項の放電加工電極製造方法によって製造された放電加工電極は、コイル材薄板を近接させながら放電加工して、らせん状コイルの形状に従って穿孔するように作用する。さらに、放電加工電極は、コイル材薄板に穿設されたらせん状コイル様の孔に挿通されて放電加工するという作用を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1及び請求項2に記載の放電加工電極製造方法では、導電性基板上あるいは導電性薄板上に紫外光に感光するフォトレジスト層を重ねながらパターンを形成させるので、1層のフォトレジスト層が紫外光に感光する薄いレジスト層であっても、それを重ねることで深い溝を備える型枠を形成させることができる。そして、これを厚膜の放電加工電極製造のための型枠として利用することができるので、深い溝を備えた微細な放電加工電極を容易かつ短時間に精度高く製造することができる。また、X線などの放射線を用いることがなく、一般的に普及している紫外光露光装置を用いて手軽に放電加工電極を製造することができる。さらに、紫外光よりも短波長のX線を用いることがないので放射線管理区域を設ける必要がなく、そこに立ち入ることもないので、被曝を回避するなどの安全性の観点からあるいは放射線の漏洩防止や放射線源の適切な保管という管理面からも望ましい。
【0011】
請求項3に記載の放電加工電極製造方法では、請求項1及び請求項2に記載の発明の効果に加えて、フォトレジスト層をフィルム状のフォトレジスト層を用いることで任意の厚みに調整することが可能である。特に、紫外光露光によって紫外光が届く厚みに対して容易に対応することができるという効果を発揮することができる。
【0012】
請求項4に記載のコイル製造方法では、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の放電加工電極製造方法によって製造された厚膜の放電加工電極には深い溝が形成されているため、コイルに必要な太さを備えたコイル材薄板を十分に挿通させることができる。しかも、フォトレジスト技術を用いて放電加工電極が製造されていることから、その微細程度は理論的には写真技術の限界まで可能であり、微細なコイルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の第1の実施の形態に係る放電加工電極製造方法について図1乃至図5を参照しながら説明する。
図1(a)乃至(d)、図2(a)及び(b)、図4(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図であり、図3(a)及び(b)は本実施の形態に係るフォトレジスト層によって形成された型枠を示す写真であり、図5(a)及び(b)は本実施に形態に係る放電加工電極製造方法を用いて製造された放電加工電極の写真である。
本実施の形態に係る放電加工電極製造方法では、図1(a)に示すような銅製の導電性基板1上に、図1(b)に示すように第1のフォトレジスト層2aを設ける。本実施の形態では、フィルム状のフォトレジストを2枚積層させることで第1のフォトレジスト層2を形成させている。フィルム状のフォトレジストは、電気絶縁性の液体のレジストを硬めに構成したものであり、約120μmの厚みのフォトレジストが厚さ約20μmの2枚の剥離可能なフィルムに挟まれるように構成されており、第1の剥離可能なフィルムはポリエチレン製で、これを剥がしてフィルム状のフォトレジストを導電性基板1上に貼着する。さらに、第2の剥離可能なフィルムを剥がして、その上に2枚目のフィルム状のフォトレジストを2枚目の第1の剥離可能なフィルムを剥がして貼着する。第2の剥離可能なフィルムはポリエチレンテレフタレート(以下、PETという。)製である。これを繰り返して容易に積層された第1のフォトレジスト層2aを導電性基板1上に形成させることができる。
【0014】
次に、図1(c)に示されるようにマスク3を第1のフォトレジスト層2aに密着させるように配置、固定してその上部から紫外光4を露光させるが、その際には、最上層のフィルム状のフォトレジストのPET製の第2の剥離可能なフィルムは剥がさずにそのままにしておき、紫外光4の露光の後に剥がすとよい。マスク3には、製造される放電加工電極のらせん状の配線形状が映されており、その形状に沿って紫外光4を第1のフォトレジスト層2aに直接露光可能に構成されている。
本実施の形態におけるフォトレジスト層は、紫外光4が感光した部分が残るいわゆるネガ型のフォトレジスト層であり、図1(d)に示されるように、現像処理を行うことで、マスク3に映されたパターンに沿って第1のフォトレジスト層2aによってパターン枠5aが形成される。マスクに映されている放電加工電極のらせん状の配線の幅(溝の幅)は約100〜200μmであるが、さらに狭い幅を持たせたものも製造可能である。
【0015】
図1(d)のように形成されたパターン枠5aの上に、連続して図2(a)に示されるようにさらに第2のフォトレジスト層2bを形成させる。この第2のフォトレジスト層2bの形成の方法は、先に図1を参照しながら説明した方法と同様であり、2枚の剥離可能な厚さ約20μmのフィルムに挟まれるフォトレジストを積層するものである。ポリエチレン製の第1の剥離可能なフィルムを剥がして、フィルム状のフォトレジストを先に形成された第1のフォトレジスト層2aのパターン枠5a上に貼着し、第2の剥離可能なフィルムを剥がした上に、さらに他のフォトレジストを貼着して積層する。
【0016】
図2(a)に示されるようにパターン枠5a上にさらに、第2のフォトレジスト層2bを形成させるが、この場合はフィルム状のフォトレジストを5枚積層させている。すなわち、この第2のフォトレジスト層2bは、図1(d)に示される第1のフォトレジスト層2aと厚さが異なっている。その理由は、第1のフォトレジスト層2aでは、紫外光4によるエッチングで導電性基板1の表面を完全に露出させる必要があるため、紫外光4が必ず導電性基板1の表面6まで十分に透過しなければならない。さらに、その後の現像で感光しなかった第1のフォトレジスト層2aは完全に除去されなければ導電性基板1の表面6を完全に露出させることができないため、第2のフォトレジスト層2bに比較すると第1のフォトレジスト層2aは薄型に構成されている。現像は、現像液に浸して行われるため、液体が細い溝7aへ流入容易なように、その溝7aはある程度浅いことが重要な要素となるのである。しかも、導電性基板1の表面を露出させるまで第1のフォトレジスト層2aを剥離させる必要があるので、第1のフォトレジスト層2aは薄いことが望まれる。但し、第1のフォトレジスト層2a及び第2のフォトレジスト層2bとして、それぞれフォトレジストを何枚重ねるかについてはフォトレジストの材質や厚み、紫外光の強度などを考慮して適宜設定されるものであり特に限定するものではない。
【0017】
一旦、第1のフォトレジスト層2aによってパターン枠5aが構成されると、その上に貼着される第2のフォトレジスト層2bは、第1のフォトレジスト層2aより厚くとも紫外光4が透過しさえすれば、導電性基板1の表面6は既に露出しているので、現像液を深く浸透させて導電性基板1の表面に付着するフォトレジスト層を剥離させなければならないという心配もない。
【0018】
第2のフォトレジスト層2bをパターン枠5a上に貼着した後に、先に使用したマスク3を、第2のフォトレジスト層2bの上面に密着させてアライメントをとりながら第1のフォトレジスト層2aによって形成されたパターン枠5aの形状に符合させるように配置、固定して、その上方から紫外光4を露光させる。
その際には、前述のとおり、第2のフォトレジスト層2bの最上層を構成するフィルム状のフォトレジストの第2の剥離可能なフィルムは剥がさずに、紫外光4を露光した後に剥がすようにする。
【0019】
紫外光4による露光が終わると、現像液に浸漬して現像処理を行う。現像処理によって、感光した部分の第2のフォトレジスト層2bが残り、結局第1のフォトレジスト層2aによるパターン枠5aと第2のフォトレジスト層2bによるパターン枠5bが積層されて、図2(b)に示されるような型枠5が形成される。
型枠5は、本実施の形態においては、第1及び第2のフォトレジスト層2a,2bを用いて2層で形成したが、この積層数は、2層以上であれば特に限定するものではなく、各層の厚みや製造する放電加工電極のアスペクト比などにもよって適宜決定してもよい。
【0020】
このように形成されたフォトレジスト層による型枠5の写真を図3(a)及び(b)に示す。(a)は、第1及び第2のフォトレジスト層に加えて、第3のフォトレジスト層を用いて、3段階で積層したフォトレジスト層として、放電加工電極の多数個取り用に構成して得られた型枠であり、(b)は、(a)の型枠のうち、1つの放電加工電極の型枠を拡大したものである。なお、図3(a)及び(b)に示す型枠は、厚さ120μmのフィルム状のフォトレジストを第1のフォトレジスト層では2枚積層し、第2のフォトレジスト層では5枚積層し、第3のフォトレジスト層でも5枚積層して、型枠の厚みを1440μmとしている。このフィルム状のフォトレジストを5枚積層したのは、この厚みが紫外光がフォトレジスト層の下端まで届く厚みであるためである。図3(a),(b)に示す写真は、いずれも本実施の形態に係る放電加工電極製造方法によって試作された型枠である。
【0021】
本実施の形態に係る放電加工電極製造方法における型枠5は、フォトレジスト層を導電性基板1上に積層させて、1つのマスク3を用いて、このフォトレジスト層に露光するフォトリソグラフィー技術を用いて成形されるものであるため、自由なパターンを作成でき、しかも微細程度は写真技術の限界まで可能である。
また、露光には紫外光を用いることでX線などの放射線光を用いることに伴う特殊技術も不要で容易に高精度な厚膜のフォトレジスト製の型枠を成形することができる。
【0022】
このようにして形成された型枠5の溝7に電解メッキによって、放電加工電極を形成させる。
図4(a)は、本実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程のうち、導電性基板1をメッキ電極としてメッキを施す工程を示す概念図である。図4(a)において、銅メッキ8は型枠5の溝7に作用し、厚みを持ちながら、銅製の放電加工電極9が形成される。
本実施の形態においては、メッキ電極として銅製の導電性基板1を用いたが、銅以外の金属や合金であってもよいし、メッキ液に含まれて析出して放電加工電極9を形成する金属イオンも銅イオン以外の金属イオンや複数の金属イオンから構成されてよい。但し、放電加工電極に要求される仕様を満足するような金属や合金、あるいはそれらのイオンが選択されることは言うまでもない。
【0023】
図4(b)では、第1のフォトレジスト層2a及び第2のフォトレジスト層2bによって形成される型枠5を、剥離液を用いて溶かして剥離させた後の状態を示している。型枠5が存在していた部分がそのまま空隙10となっている。放電加工電極9は導電性基板1上に形成されるため、この導電性基板1を含めて放電加工電極としている。放電加工電極9のらせん状の配線端面の平滑性を維持するために研磨し、放電加工電極が完成する。
【0024】
本実施の形態に係る放電加工電極製造方法を用いて試作した厚膜の放電加工電極の写真を図5(a),(b)に示すが、(a)は図3(a)に示した多数個取り用の型枠を用いて製造された放電加工電極であり、(b)は、その一つを拡大して示すものである。
これらの写真に示される放電加工電極は、前述のとおり、図3(a)に示したとおりフォトレジスト層を3段階に積層した型枠を用いており、らせん状の放電加工電極の配線幅(溝幅)が200μmに対して、配線厚(巻き線の高さ)は前述の型枠の厚みと同値で1440μmとなるため、1440/200=7.2という高アスペクト比を実現している。
【0025】
次に、図6乃至図8を参照しながら、本発明に係る放電加工電極製造方法の第2の実施の形態について説明する。図6(a)乃至(d)、図7(a)及び(b)、図8(a)及び(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図である。本実施の形態においては、第1の実施の形態が導電性基板1上に放電加工電極を形成させるのに対して、導電性基板1に導電性の接着剤を介して貼着された導電性薄板11上に形成させる以外は同様の製造方法である。従って、第1の実施の形態と同様な構成に係る説明は一部省略する。
第2の実施の形態においては、図6(a)に示すように、導電性基板1の表面に導電性の接着剤(図示せず)を介して導電性薄板11を貼着しておき、この導電性薄板11上に第1のフォトレジスト層2aを設ける(図6(b))。
本実施の形態においても第1の実施の形態と同様に、フィルム状のフォトレジストを積層させることで第1のフォトレジスト層2を形成させている。フィルム状のフォトレジストの厚みや、このフィルム状のフォトレジストを挟む2枚の剥離可能なフィルムも同様であり、フィルムの材質、貼着の仕方や積層方法も同様である。
【0026】
次に、図6(c)に示されるようにマスク3を第1のフォトレジスト層2aに密着させて配置、固定してその上部から紫外光4を露光させ、さらに、図6(d)に示されるように、現像処理を行うことで、マスク3に映されたパターンに沿って第1のフォトレジスト層2aによってパターン枠5aが形成されるのも第1の実施の形態に係る放電加工電極製造方法と同様である。
【0027】
図6(d)のように形成されたパターン枠5aの上に、さらに第2のフォトレジスト層2bを形成させる。この第2のフォトレジスト層2bの形成の方法は、先に図1を参照しながら説明した方法と同様であり、2枚の剥離可能な厚さ約20μmのフィルムに挟まれるフォトレジストを積層するものである。ポリエチレン製の第1の剥離可能なフィルムを剥がして、フィルム状のフォトレジストを先に形成された第1のフォトレジスト層2aのパターン枠5a上に貼着し、第2の剥離可能なフィルムを剥がした上に、さらに他のフォトレジストを貼着して積層する。
【0028】
図7(a)に示されるようにパターン枠5a上にさらに、第2のフォトレジスト層2bを形成させ、先に使用したマスク3を、第2のフォトレジスト層2bの上面に密着させてアライメントをとりながら第1のフォトレジスト層2aによって形成されたパターン枠5aの形状に符合させるように配置、固定して、その上方から紫外光4を露光させる。
【0029】
紫外光4による露光が終わると、現像液に浸漬して現像処理を行う。現像処理によって、感光していない第2のフォトレジスト層2bが残り、結局第1のフォトレジスト層2aによるパターン枠5aと第2のフォトレジスト層2bによるパターン枠5bが積層されて、第1の実施の形態と同様に図7(b)に示されるような型枠5が形成される。但し、本実施の形態に係る型枠5は、導電性薄板11に形成されている。
本実施の形態に係る型枠5も第1及び第2のフォトレジスト層2a,2bを用いて2層で形成したが、この積層数は、特に限定するものではなく、各層の厚みや製造する放電加工電極のアスペクト比などにもよって適宜決定してもよいことは第1の実施の形態と同様である。
このようにして形成された型枠5の溝7に電解メッキによって、厚膜の放電加工電極を形成させる。
【0030】
図8(a)は、本実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程のうち、導電性薄板11をメッキ電極としてメッキを施す工程を示す概念図である。図8(a)において、銅メッキ8は型枠5の溝7に作用し、厚みを持ちながら、銅製の放電加工電極9が形成される。本実施の形態では、第1の実施の形態と異なり、導電性薄板11をメッキ電極として銅メッキを施すが、この導電性薄板11を次の工程で除去するので、型枠5の中から型枠5の高さ(厚み)を超えて銅メッキ8を施している。
本実施の形態においては、メッキ電極として銅製の導電性薄板11を用いたが、第1の実施の形態と同様に、銅以外の金属や合金であってもよいし、メッキ液に含まれて析出して放電加工電極9を形成する金属イオンも銅イオン以外の金属イオンや複数の金属イオンから構成されてよい。但し、放電加工電極に要求される仕様を満足するような金属や合金、あるいはそれらのイオンが選択される必要がある。
【0031】
図8(b)では、第1のフォトレジスト層2a及び第2のフォトレジスト層2bによって形成される型枠5を、剥離液を用いて溶かして剥離させた後の状態を示している。型枠5が存在していた部分がそのまま空隙10となっている。放電加工電極9は導電性薄板11上に形成されるため、この図8(a)に示される状態から、まず、導電性薄板11及び導電性基板1を除去する。その際にはまず、導電性基板1と導電性薄板11を接着した接着剤を剥がして導電性基板1を除去し、その後にエッチングなどで導電性薄板11を除去するので、製造される放電加工電極の端面の平面を整えることが容易である。さらに、型枠5を除去することで、放電加工電極のらせん状配線を露出させるので、第1の実施の形態によって製造される放電加工電極の巻き方向とは逆向きの放電加工電極を製造することができる。
導電性薄板11は、前述のとおりエッチングなどで除去可能である。型枠5を除去した後は、放電加工電極9のみとなり、放電加工電極が完成する。第1の実施の形態においては導電性基板1を含めて放電加工電極としたが、本実施の形態では導電性基板1を除去するため、予め型枠5の高さを越えてメッキを行い、図8(b)に示されるようにらせん状の配線の上部にまで放電加工電極9を形成させる必要がある。
【0032】
以上のように本発明の第1及び第2の実施の形態に係る放電加工電極製造方法によって製造される厚膜の放電加工電極は、フォトレジスト層を導電性基板1上に積層させて、1つのマスク3を用いて、このフォトレジスト層に紫外光で露光するフォトリソグラフィー技術を用いて成形される型枠を用いるため、X線などの放射線を用いる必要がなく、一般的に普及している紫外光露光装置を用いて微細で自由なパターンの放電加工電極を手軽に製造することができる。
また、フィルム状のフォトレジストを積層させて、フォトレジスト層を形成させるので、任意の厚みのフォトレジスト層を構成可能であり、フォトレジスト層を透過させる紫外光の強度を見ながら適宜、積層数を修正することも可能である。しかも、フォトレジスト層を複数回に分けて積層しながら、取扱いが容易な紫外光を同一のマスクを配置、固定しながら露光させては現像し、徐々に型枠を形成させることで、簡単に高精度で深い溝を備える型枠を形成させることができ、もって、高厚膜の微細放電加工電極の製造が可能となる。
【0033】
次に、第1の実施の形態あるいは第2の実施の形態に係る放電加工電極を用いてコイルを製造する方法を第3の実施の形態として説明する。
図9(a)乃至(c)は、本実施の形態に係るコイル製造方法の工程を示す概念図である。図9(a)において、コイル材薄板であるマンガニン合金板12を厚膜の放電加工電極9に接近させてアーク放電させる。マンガニン合金板12は、厚膜の放電加工電極9に形成されたらせん形状に沿って放電加工される。
マンガニン合金板12は、徐々に放電加工電極9に近づけられ、放電加工が進むと穿孔され、その後は放電加工電極9の空隙10に進めてさらに放電加工を行う。このように放電加工電極9の溝、すなわち、空隙10が深いことによって、マイクロコイルの線の厚みとして必要な、例えば500μm程度の厚みを備えたマンガニン合金板12を挿通させることが可能となる。
深い溝、すなわち空隙10にマンガニン合金板12を挿通させながら放電加工を行い、放電加工が終了した後に、放電加工電極9から抜き取れば、らせん状コイル13が完成する。
なお、コイル材薄板としては、本実施の形態ではマンガニン合金板12を用いたが、特にマンガニン合金板に限定するものではなく、導電性の金属板あるいは合金板であって放電加工可能なものであり、そして前述のQ値などに照らしてマイクロコイルに適切な材料であれば、その材料は限定されるものではない。
以上説明したとおり、本実施の形態に係るコイル製造方法においては、深い溝を備えた厚膜の放電加工電極を用いるので、コイルに必要な太さを備えたマンガニン合金板12を十分に挿通させることができる。また、微細な放電加工電極であるので、微細な小型コイルあるいはマイクロコイルを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項3に記載された発明は、高厚膜の微細放電加工電極を製造可能であり、従って、ミニモーターや電磁アクチュエーターやマイクロリレーなどのマイクロエレクトロニクス関連機器、計器あるいは振動センサなどのセンサ類など広く利用可能性があるマイクロコイルの製造に利用できる。さらに、特に小型という特性を活かして医療の分野におけるマイクロマシンのアクチュエーターやマイクロリレーに用いられるマイクロコイルの製造には好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)乃至(d)は、それぞれ本発明の第1の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図である。
【図2】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図である。
【図3】(a)は第1の実施の形態に係る放電加工電極製造方法によって試作された放電加工電極の多数個取り用の型枠を示す写真であり、(b)は(a)に示される型枠の一部を拡大して示す写真である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図である。
【図5】(a)は図3(a)に示した多数個取り用の型枠を用いて製造された放電加工電極の写真であり、(b)は、その一つを拡大して示す写真である。
【図6】(a)乃至(d)は、それぞれ本発明の第2の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図である。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る放電加工電極製造方法の工程の一部を示す概念図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るコイル製造方法の工程を示す概念図である。
【符号の説明】
【0036】
1…導電性基板 2a…第1のフォトレジスト層 2b…第2のフォトレジスト層 3…マスク 4…紫外光 5…型枠 5a,5b…パターン枠 6…表面 7,7a…溝 8…銅メッキ 9…放電加工電極 10…空隙 11…導電性薄板 12…マンガニン合金板 13…らせん状コイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に電解メッキにより放電加工電極を製造する方法であって、
導電性の基板上に紫外光に感光する感光性有機物質層(以下、フォトレジスト層という。)を配置する工程(以下、A工程という。)と、
このフォトレジスト層を前記放電加工電極の配線形状を映したマスクで被覆する工程(以下、B工程という。)と、
紫外光を、前記マスクを介して前記フォトレジスト層に露光する工程(以下、C工程という。)と、
前記フォトレジスト層を現像して、前記マスクによって形成された放電加工電極の配線形状のパターンを残して他のフォトレジスト層を取り除く工程(以下、D工程という。)と、
前記導電性の基板に代えて前記パターン上に、さらに前記A工程からD工程を少なくとも1回繰り返して前記パターン上にさらにパターンを重ねて型枠を形成する工程と、
前記導電性の基板をメッキ電極として電解メッキを行い前記型枠内に金属を析出させて前記放電加工電極を形成させる工程と、
前記型枠を剥離させる工程と、を有することを特徴とする放電加工電極製造方法。
【請求項2】
基板上に電解メッキにより放電加工電極を製造する方法であって、
導電性の基板上に、導電性の接着剤を介して導電性の薄板を貼付する工程と、
この薄板上に紫外光に感光する感光性有機物質層(以下、フォトレジスト層という。)を配置する工程(以下、A工程という。)と、
このフォトレジスト層を前記放電加工電極の配線形状を映したマスクで被覆する工程(以下、B工程という。)と、
紫外光を、前記マスクを介して前記フォトレジスト層に露光する工程(以下、C工程という。)と、
前記フォトレジスト層を現像して、前記マスクによって形成された放電加工電極の配線形状のパターンを残して他のフォトレジスト層を取り除く工程(以下、D工程という。)と、
前記導電性の薄板に代えて前記パターン上に、さらに前記A工程からD工程を少なくとも1回繰り返して前記パターン上にさらにパターンを重ねて型枠を形成する工程と、
前記導電性の基板をメッキ電極として電解メッキを行い、前記型枠内及び前記型枠の高さを超えて金属を析出させて前記型枠を被覆するように前記放電加工電極を形成させる工程と、
前記薄板を除去して前記放電加工電極と前記基板を分離する工程と、前記型枠を剥離させる工程と、を有することを特徴とする放電加工電極製造方法。
【請求項3】
前記フォトレジスト層は、フィルム状のフォトレジスト層を積層させて形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の放電加工電極製造方法。
【請求項4】
導電性のらせん状コイルを複数積層して構成されるコイルの製造方法であって、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の放電加工電極製造方法を用いて製造された放電加工電極に、前記らせん状コイルの材料からなるコイル材薄板を被加工物として接近させて放電加工して前記らせん状コイルを作成することを特徴とするコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−226494(P2009−226494A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71302(P2008−71302)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、中小企業地域新生コンソーシアム研究開発事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】