説明

放音制御装置

【課題】運動者の運動に応じて放音される楽音を運動者に聴取させることによって、その運動の変化態様と手本となる運動の変化態様との違いを認識させることができる放音制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態に係る楽音再生装置を利用する運動者は、放音部からの放音を聴取して、どの演奏パートの音量が小さくなっているかを確認することによって、どの測定部位の筋電位の変化が、基準となる筋電位の変化と違っているか、またその違いの程度について認識することができる。したがって、運動者は、全ての演奏パートについて音量が小さくならないように運動することにより、理想的な運動パターンに近づけることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動の変化態様について基準となる変化態様との比較した結果に応じた放音制御を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
演奏参加者の動きや状態に応じて多彩に楽音を制御することにより、演奏参加者全体で楽音演奏を楽しむことができる装置が、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−195060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術においては、演奏参加者の動きに応じて楽音演奏をすることができるが、演奏参加者は本来どのような動きをすべきなのかを知ることはできず、理想的な演奏を行うための動きを練習することには向いていない。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、運動者の運動に応じて放音される楽音を運動者に聴取させることによって、その運動の変化態様と手本となる運動の変化態様との違いを認識させることができる放音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明は、基準となる筋電位の変化に応じた基準データを予め記憶する記憶手段と、利用者の身体の一部に取り付けて、前記身体の一部に発生する筋電位を測定する測定手段と、前記測定手段によって測定された筋電位の変化に応じた筋電データと前記記憶手段に記憶された基準データとを比較する比較手段と、設定される処理の内容にしたがって楽音信号を生成する生成手段と、楽音信号が供給されることにより放音する放音手段に対して、前記生成手段によって生成された楽音信号を供給する供給手段と、前記放音手段からの放音により前記利用者に聴取される内容が、前記比較手段による比較結果に応じた内容となるように、前記生成手段に設定される処理の内容を制御する制御手段とを具備することを特徴とする放音制御装置を提供する。
【0007】
また、別の好ましい態様において、前記測定手段は、複数であり、前記記憶手段は、前記測定手段の各々に対応した前記基準データを予め記憶し、前記比較手段は、前記測定手段によって測定された筋電位に応じた筋電データと前記記憶手段に記憶された基準データとを、前記測定手段の各々に対応させて比較することを特徴とする。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記測定手段は、複数であり、前記比較手段は、複数の前記測定手段によって測定された筋電位の変化に応じた筋電データに予め設定された計算処理を施して得られる結果と前記記憶手段に記憶された基準データとを比較する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運動者の運動に応じて放音される楽音を運動者に聴取させることによって、その運動の変化態様と手本となる運動の変化態様との違いを認識させることができる放音制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る楽音再生装置の使用態様を説明する説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る楽音再生装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る記憶部に記憶されている測定部位と演奏パートとを対応付けた対応テーブルの一例を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る放音制御部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
<実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る楽音再生装置1の使用態様を説明する説明図である。楽音再生装置1は、本体部10、筋電位測定部20および放音部30を有している。楽音再生装置1の利用者である運動者1000は、楽音再生装置1を使用するときには、本体部10を腰や腕などに装着し、筋電位測定部20を身体の各部位(この例においては、左右の大腿部、左右の腕)に装着する。ここで、筋電位測定部20は、左の大腿部(以下、単に左足という)に装着された筋電位測定部20−LF、右の大腿部(以下、単に右足という)に装着された筋電位測定部20−RF、左腕に装着された筋電位測定部20−LH、右腕に装着された筋電位測定部20−RHを総称したものである。以下の説明においては、これらをそれぞれ区別しない場合には、単に筋電位測定部20という。なお、この例においては、筋電位測定部20は、4箇所の測定部位を測定するようになっていたが、さらに多くの測定部位を測定するものであってもよいし、1箇所の測定部位(例えば、左足だけ)を測定するものであってもよい。
【0013】
運動者1000は、ヘッドフォンなどの放音部30を耳に装着して、放音部30からの放音を聴取する。そして、運動者1000は、楽音再生装置1を使用し、放音部30からの放音を聴取しながら運動(この例においては歩行運動)を行うと、運動者1000の運動内容が理想的な場合と比べてどの程度違うかによって、聴取内容が変化するようになっている。
【0014】
図2は、本発明の実施形態に係る楽音再生装置1の構成を示すブロック図である。本体部10は、筋電位測定部20および放音部30と無線または有線により接続している。本体部10は、制御部11、記憶部12、操作部13、表示部14、楽音信号出力部15、信号入力部16、運動検出部17およびインターフェイス18を有し、バスを介して互いに接続されている。
【0015】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、DSP(Digital Signal Processor)などを有する。CPUは、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMにロードして実行することにより、本体部10の各部について、バスを介して制御し、後述する放音制御機能などを実現する。また、RAMは、CPUが各データの加工などを行う際のワークエリアとして機能する。
【0016】
記憶部12は、例えば、不揮発性メモリなどの大容量記憶手段であって、各種データを記憶する。この例においては、記憶部12は、楽音記憶領域12−1に楽音制御データを記憶し、基準記憶領域12−2に基準データを記憶し、また対応テーブル12−3を記憶している(図4参照)。なお、記憶部12は、外付けの不揮発性メモリなどの記録媒体を、接続インターフェイスなどを介して接続したものであってもよい。
【0017】
楽音制御データは、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)形式など、音源において発音すべき楽音の内容(音高、音長など)、発音タイミング、再生時のテンポなどを制御するデータであり、複数のトラックを有している。複数のトラックの各々は、演奏パート(この例においては、ドラム、ベース、ギター、キーボード)に対応し、対応する演奏パートにおける発音タイミング、発音すべき楽音の内容などを制御するデータを有する。なお、楽音制御データは、以下に示す運動パターン毎に対応したものとして記憶されていてもよい。その場合には、楽音の発音態様が運動パターンに応じたものとなっていてもよい。例えば、運動パターンが反復運動を示している場合には、その反復周期に応じた再生時のテンポ、発音パターンの繰り返しなどを示す楽音制御データとなっていればよい。反復運動でなくても、運動の動きに対応した楽音を発音させる楽音制御データとなっていればよい。
【0018】
運動パターンとは、運動者1000が特定の運動を行うときの運動のパターンを示すものであり、例えば、ゴルフや野球のスイングのパターン、歩行やマラソンなどの手足の運動のパターン、楽器の演奏を行うときの動き(運動)のパターン、空手などの型などを示している。
【0019】
基準データは、運動パターン毎に対応して記憶され、運動パターンに応じた動きを理想的に行った場合の手本となるデータであって、測定部位毎に、身体の各測定部位における時刻の進行に伴う筋電位の変化、すなわち基準となる筋電位の変化を示すデータである。基準データによって示される筋電位の変化については、筋電位そのものの変化(筋電位信号)であってもよいが、この例においては、筋電位信号の出力レベル(振幅)、周波数などの特徴量の変化を示すものである。なお、これらの特徴量は、一定時間の平均値としてもよい。
【0020】
また、記憶部12は、楽音制御データの演奏パートの各々と筋電位測定部20が装着される測定部位とを対応付けた対応テーブルを記憶している。
【0021】
図3は、測定部位と演奏パートとを対応付けた対応テーブルを説明する図である。図3に示すように、測定部位の「LF(左足)」、「RF(右足)」、「LH(左腕)」、「RH(右腕)」には、それぞれ「ドラム」、「ベース」、「ギター」、「キーボード」が対応付けられている。これらの対応付けについては、後述する操作部13の操作によって行ってもよいし、筋電位測定部20の測定部位の各々に後述のようにして再生される楽音制御データのトラックに係る演奏パートの各々を自動的に割り当てるようにしてもよく、この場合には後述する表示部14に対応付けの内容を表示させてもよい。
【0022】
図2に戻って説明を続ける。操作部13は、操作ボタンなどを有し、利用者が操作ボタンを操作するとその操作内容を表すデータが制御部11へ出力される。例えば、電源のオンオフ、音量の制御、再生の開始などの指示、再生する楽音制御データの指定、運動パターンの指定、運動開始のタイミングの指定などを操作によって行う。
【0023】
表示部14は、表示画面に画像を表示する液晶ディスプレイなどの表示デバイスである。表示部14は、制御部11の制御により、表示画面に画像を表示する。表示画面に表示される表示される画像は、操作に応じた表示、メニュー表示、後述する放音制御部100において得られる各パラメータ表示などの各種表示である。
【0024】
楽音信号出力部15は、放音部30と有線または無線により接続するインターフェイスを有し、制御部11の制御によって入力される楽音データに対してデジタルアナログ変換処理、増幅処理などを施した楽音信号を、接続されている放音部30に供給する。楽音信号出力部15が放音部30に楽音信号を供給することによって、放音部30から放音され、楽音信号に係る音が運動者1000によって聴取される。
【0025】
信号入力部16は、筋電位測定部20から出力される筋電位信号が測定部位別に入力されるインターフェイスであり、入力された各測定部位の筋電位信号(筋電位の変化)に応じた、測定部位毎の筋電データを制御部11に出力する。
【0026】
筋電データは、筋電位そのものの変化(筋電位信号)であってもよいが、この例においては、基準データに対応するように、筋電位信号の出力レベル(振幅)、周波数などの特徴量の変化を示すものに変換されて出力される。なお、基準データと同様に、これらの特徴量は、一定時間の平均値としてもよい。また、筋電位信号から筋電データへの変換は、信号入力部16においてなされるものでなくてもよく、筋電位信号をこのような筋電データに変換する変換部を、後述する放音制御部100において信号入力部16と比較部102との経路の間に設けるようにしてもよい。
【0027】
運動検出部17は、例えば、加速度センサ、振動センサなどにより運動者1000による運動の態様を検出するセンサであって、運動者1000の運動の態様に応じた検出信号を制御部11に出力する。なお、地磁気センサ、ジャイロセンサなど、様々なセンサを用いてもよいし、複数のセンサを併用してもよい。なお、これらのセンサは、本体部10の外部に設けられてもよい。この場合には、筋電位測定部20から筋電位信号が入力される信号入力部16と同様に、外部に設けられたセンサの出力信号が入力される信号入力部を設ければよい。
【0028】
インターフェイス18は、例えば、外部装置と有線接続する接続端子、無線接続する無線接続手段、ネットワークなどを介して接続する通信手段などであって、接続した外部装置と各種データの送受信を行う。例えば、楽音制御データ、基準データなどを受信した場合には、制御部11の制御によって記憶部12の楽音記憶領域12−1、基準記憶領域12−2に記憶される。
【0029】
筋電位測定部20(この例においては、筋電位測定部20−LF、20−RF、20−LH、20−RH)は、表面筋電位計測を行う複数の電極が設けられた測定バンドを有する。筋電位を測定したい身体の部位に測定バンドを巻きつけると、各電極が測定部位に接触するようになっている。筋電位測定部20は、このようにして測定バンドが取り付けられた身体の一部の測定部位における筋電位(表面筋電位)を測定し、測定された筋電位を示す筋電位信号を信号入力部16に出力する。ここで、筋電位は非常に低い電圧であるため、信号入力部16に出力する前に、差動アンプを用いた双極誘導法を用いてノイズを低減する処理、アンプを用いた増幅処理、不要な周波数帯域を除去するフィルタ処理などを行って、ノイズの影響を減少させた筋電位信号に変換してもよい。
【0030】
放音部30は、上述したように、ヘッドフォンなどの放音手段を有し、楽音信号出力部15から供給される楽音信号を放音して、運動者1000に聴取させる。
【0031】
以上が、楽音再生装置1の構成の説明である。次に、制御部11が制御プログラムを実行することによって放音制御機能が実現されるときにRAM上に構成される放音制御部100について図4を用いて説明する。なお、以下に説明する放音制御部100については、それぞれの各機能の全部または一部をハードウエアによって実現してもよい。
【0032】
図4は、本発明の実施形態に係る放音制御部100の構成を示すブロック図である。放音制御部100は、運動開始検出部101、比較部102、再生制御部103および再生部104を有する。
【0033】
運動開始検出部101は、運動者1000の運動が開始されるタイミングである運動開始タイミングを検出する。運動開始タイミングは、操作部13の操作によって運動開始タイミングが指定されることにより検出されてもよいし、運動検出部17から出力される検出信号を解析して、予め設定された信号パターンが検出信号に現れたタイミングとして検出されてもよい。そして、運動開始検出部101は、検出した運動開始タイミングを示す信号を出力する。
【0034】
比較部102は、運動開始検出部101において検出された運動開始タイミングから、信号入力部16から出力される筋電データと、基準記憶領域12−2から読み出した基準データとを、測定部位毎に比較し、比較結果を示す情報を出力する。この例においては、比較部102は、筋電データと基準データとの差分(例えば、特徴量の差分)を測定部位毎に算出して、算出した測定部位毎の差分を示す差分情報を出力する。なお、差分ではなく、比などのその他の計算方法により筋電データと基準データとを比較するようにしてもよく、筋電データと基準データとの違いを比較結果として示すものであればどのようなものであってもよい。すなわち、特定のアルゴリズムによる演算を用いたもの、例えば、マハラノビス距離やMT法(マハラノビス・タグチ・メソッド)、N次元パラメータ空間での距離などを用いて得られる筋電データと基準データとの違いを比較結果として示してもよい。また、筋電データおよび基準データは、特定のタイミングにおける値(例えば、データ最初の特徴量)を基準とした相対値として表されるものとして、相対値の差分として比較されるようにしてもよい。また、全測定部位の特徴量の平均または合計を基準とした相対値としてもよい。
【0035】
再生制御部103は、比較部102から出力された差分情報と記憶部12に記憶されている対応テーブル12−3とに基づいて、再生部104を制御する。この例においては、後述する再生部104によって再生される楽音制御データにおける各トラックの音量を制御する。具体的には、差分情報が示す各測定部位の差分が大きいほど、各測定部位に対応する演奏パートのトラックの音量を小さくするように制御する。例えば、LF(左足)の差分が大きい場合には、再生部104が楽音制御データを再生するときに、演奏パートがドラムのトラックの音量が小さくなるように制御する。ここで、測定部位に対応する演奏パートは、対応テーブル12−3によって対応付けられた関係に基づく。なお、このような音量制御は、差分が一定の値以上になっているときに行われるようにし、音量の変動が大きくなりすぎないようにしてもよい。また、差分が一定の値以上になっているときに、対応するトラックをミュートして、消音させるようにしてもよい。
【0036】
また、再生制御部103は、操作部13の操作による再生開始指示があると、再生部104に楽音制御データの再生を開始させる。そして、運動開始検出部101において検出される運動開始タイミングにより、比較部102において筋電データと基準データとの比較が開始されたことを示す音を再生部104から出力させるように制御する。なお、再生部104によって楽音制御データの再生がされていない場合には、再生を開始させることにより、比較部102において筋電データと基準データとの比較が開始されたことを示すようにしてもよい。また、運動開始タイミングが操作部13により指定された場合など、現時点から運動開始タイミングに至るまでの時間がある場合には、運動開始タイミングに向けてカウントダウンを示す音を再生部104に出力させるように制御してもよい。カウントダウンは、楽音制御データに示されている再生時のテンポに応じたものとして行ってもよい。例えば、テンポが「120」である場合には、0.5秒間隔でカウントを行い、テンポが「60」である場合には、1秒間隔でカウントを行う。このような運動開始タイミングに係る音については、出力させなくてもよい。
【0037】
再生部104は、再生される楽音制御データに従った楽音の波形を示す楽音データを生成する音源を有し、楽音記憶領域12−1から楽音制御データを読み出して再生することにより楽音データ生成し、楽音信号出力部15に出力する。再生部104は、楽音制御データを再生して楽音データを生成するときには、再生制御部103による制御に従って各トラック(各演奏パート)の音量を調整する。楽音制御データがMIDI形式のデータである場合には、楽音制御データを再生するときに、トラックの各々の音量を規定するそれぞれのボリューム値を、再生制御部103の制御に従って調節した上で、音源に楽音データを生成させればよい。
【0038】
また、再生制御部103により、運動開始を示す音、運動開始タイミングに向けたカウントダウンを示す音を出力するように制御されているときには、再生部104は、このような音が、楽音制御データに係る音に重畳されたものとなるように、楽音データを生成する。以上が、放音制御部100の構成についての説明である。
【0039】
次に、楽音再生装置1の動作の具体的な一例について説明する。まず、運動者1000は、操作部13を操作して、再生させる楽音制御データの指定、再生開始指示を行い、またこれから運動して、理想的な動きと比較しようとする運動パターンの指定、運動開始タイミング(例えば10秒後)の指定をする。なお、運動パターンと楽音制御データとが対応するものとして設定されていれば、再生する楽音データの指定は行わなくてもよく、例えば、操作部13の操作により運動パターンを指定すれば、運動パターンに対応する楽音制御データが自動的に指定される。
【0040】
再生開始指示により、再生部104は楽音制御データの再生を開始し、放音部30からの放音により、運動者1000によって楽音制御データに係る楽音が聴取される。そして、運動開始タイミングに近づいてくると、そのタイミングを示すカウントダウンを示す音(例えば「3、2、1、開始」という声)を聴取する。
【0041】
そして、運動開始タイミングに達すると、運動者1000の運動によって生じた各測定部位の筋電位に応じた筋電データと、指定された運動パターンに対応する基準データとの測定部位毎の比較が開始される。そして、再生部104において楽音制御データの各トラックの音量が比較内容に応じて制御され、その結果生成される楽音データに係る楽音が運動者1000に聴取される。
【0042】
これにより、本発明の実施形態に係る楽音再生装置1を利用する運動者1000は、放音部30からの放音を聴取して、どの演奏パートの音量が小さくなっているかを確認することによって、どの測定部位の筋電位の変化が、基準となる筋電位の変化と違っているか、またその違いの程度について認識することができる。したがって、運動者1000は、全ての演奏パートについて音量が小さくならないように運動することにより、理想的な運動パターンに近づけることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
【0044】
<変形例1>
上述した実施形態においては、比較部102は、筋電データと基準データとを測定部位毎に比較し、筋電位の特徴量の差分を差分情報として出力していたが、筋電位の特徴量の変化について、一定期間における変化パターンを単位として比較し、変化パターンの違いを差分情報として出力してもよい。この場合には、基準データは、筋電位の特徴量の変化パターンとして規定したものであってもよい。なお、反復運動などにより筋電位の特徴量の変化が周期的なパターンとなるときには、反復運動による1周期のパターンの単位時間当たりの回数などを比較するようにしてもよい。
【0045】
また、比較部102は、複数の測定部位の筋電位を測定している場合には、複数の測定部位の筋電データに予め設定された計算処理を施して得られる結果と、複数の測定部位の基準データに予め設定された計算処理を施して得られる結果とを比較してもよい。例えば、筋電データおよび基準データについて、左手と右手との比率を計算処理により得ることによって、これを比較対象としてもよい。これによれば、左手と右手との運動のバランスを基準と比較することができる。このような計算処理は、比率に限られず、左手の筋電データと右手の筋電データとの差分であったり、平均であったりしてもよい。全部の測定部位の平均としてもよい。
【0046】
この場合、記憶部12に記憶されている対応テーブル12−3は、このような計算処理を施して得られる結果により、制御を行う演奏パートを規定するようにすればよい。また、基準データは、このような計算処理が予め施されたものとしてもよい。なお、比較対象は、実施形態と同様なものとし、複数の測定部位に対応する差分に対して、予め設定された計算処理を施した結果を差分情報としてもよい。
【0047】
<変形例2>
上述した実施形態においては、再生制御部103は、測定部位に対応した演奏パートの音量を、その測定部位における差分に応じて制御するようにしていたが、このような制御態様は一例であって、運動者1000が放音部30からの放音を聴取して、聴取する音の内容を変化させるものであれば、どのような制御を行ってもよい。以下に、制御態様の例を複数挙げて説明する。
【0048】
第1に、差分が大きくなったときに、対応する演奏パートの音量が大きくなるようにしてもよい。この場合には、運動者1000の運動が理想的な運動パターンであるほど音が小さくなる。最終的には、無音になるようにしてもよい。なお、差分は、絶対値としての大きさであるものとしてきたが、差分を筋電データから基準データを引いた値とした場合には、差分が正の値であるか負の値であるかにより制御を変えてもよい。この態様の場合、差分が正の値の場合は音量を大きくなるようにして、差分が負の値の場合には音量が小さくなるようにしてもよい。このような制御は、以下の別の例においても適用できる。
【0049】
第2に、差分が大きくなったときに、対応する演奏パートにおいて、発音すべき楽音を間引くようにしてもよい。差分に応じて間引く割合を変えてもよい。また、これとは逆に、差分が大きくなったときに、発音すべき楽音を増やすようにしてもよい。この増やす楽音の音高設定により、不協和音などを構成するようにしてもよいし、効果音などの発音させるようにしてもよい。また、楽音を間引く代わりに、その楽音の音高を変更するようにしてもよい。
【0050】
第3に、差分に応じて、対応する演奏パートに音響処理を施してもよい。音響処理については、リバーブ、ディレイなどの音場効果を付与して、その付与の程度を制御するものであってもよいし、イコライジング処理などの周波数分布を制御するものであってもよい。また、運動者1000が聴取するときの音像の位置を制御するものであってもよい。例えば、変形例1において説明したような左手と右手との運動のバランスを基準と比較する場合であれば、左右のバランスのずれに応じて音像を左右に動かすようにすることもできる。
【0051】
第4に、各測定部位を制御対象となる演奏パートに対応付けるのではなく、特定の演奏パートにおける音に対応付けてもよい。例えば、特定の演奏パートが「ドラム」であるとすれば、測定部位「LF(左足)」は「シンバル」、「RF(右足)」は「キックドラム」、「LH(左腕)」は「スネアドラム」、「RH(右腕)」は「ハイハット」として対応付け、差分に応じてその音量を制御するようにすればよい。特定の演奏パートが「キーボード」であれば、各測定部位に音高を対応付ければよい。いずれの場合であっても、楽音制御データがMIDI形式のものであれば、測定部位とノートナンバとが対応付けられていることになる。
【0052】
なお、これらの制御は、測定部位に応じたものだけでなく、変形例1のように計算処理により得られる結果に応じたものであってもよい。このようにすれば、さらに、演奏パート全体に対しての制御、再生する楽音制御データの変更などの制御なども行うことができる。なお、楽音制御データに曲調を示す曲調情報を対応付けておけば、再生する楽音制御データを変更するときには、曲調が異なる楽音制御データに変更するようにするとよい。
【0053】
<変形例3>
上述した実施形態においては、基準データは記憶部12の基準記憶領域12−2に記憶されていたが、運動者1000が行った運動によって得られた筋電データを基準データとして、基準記憶領域12−2に記憶させるようにしてもよい。このようにすると、過去における運動者1000自身の運動パターンと比較することもできる。
【0054】
<変形例4>
上述した実施形態においては、筋電データと基準データとの比較結果に応じて、再生制御部103における再生部104の制御が行われていたが、さらに他の生体信号、例えば、心拍数、体温、発汗量などについて並行して比較を行うようにしてもよいし、運動検出部17において検出される運動の態様についても比較を行うようにしてもよい。
【0055】
<変形例5>
上述した実施形態においては、記憶部12の楽音記憶領域12−1には、楽音制御データが記憶されていたが、非圧縮の波形データであるWAVE形式、圧縮された波形データ、例えば、MP3(MPEG-1 Audio Layer-3)形式などの波形データファイルである楽曲データであってもよい。この場合には、演奏パート毎の楽曲データが記憶される。そして、再生部104は、複数の楽曲データを同時に再生して、それぞれの楽曲データに係る音を、再生制御部103の制御に応じた音量で合成した楽音データを生成すると、実施形態における楽音制御データの再生によって生成される楽音データと同様な内容とすることができる。
【0056】
なお、上述した変形例2において説明した制御のうち、演奏パート毎の制御が不要な場合には、演奏パート毎の複数の楽曲データが記憶される態様でなくてもよい。また、楽音を間引くような制御を行う場合には、断続的にミュートするような再生をしてもよい。一方、楽音を追加するような制御を行う場合には、追加する楽音の波形を示すデータを別途記憶しておき、楽曲データとともにこのデータを再生するようにすればよい。また、実施形態における楽音制御データと変形例5に示すような楽曲データとを合わせて用いるようにしてもよい。
【0057】
<変形例6>
上述した実施形態において、指定される運動パターンについて、運動者1000がその運動パターンの運動に慣れていない場合に、理想的な運動のパターンをゆっくりとした進行で比較できるようにしてもよい。この場合には、比較部102が筋電データと比較する基準データを基準記憶領域12−2から読み出すときに、実施形態における場合より遅い速度で読み出すようにするなどして、基準データに係る特徴量の変化が時間軸上で伸張されるようにすればよい。例えば、50%の読み出し速度とすれば、基準データは、時間軸上で2倍に伸張され、時刻の進行を半分の速さとしたときにおける理想的な運動のパターンの筋電位の特徴量の変化とすることができる。
【0058】
このとき、再生部104における楽音制御データの再生についても、基準データの読み出し速度に応じた再生テンポで行うようにしてもよい。上述の例において、例えば、本来の楽音制御データの再生時におけるテンポが「120」と規定されていた場合には、再生時のテンポを「60」とするようにして楽音制御データに応じた楽音データを生成するようにすればよい。
【0059】
このように、運動パターンの進行速度を変化させるのは、操作部13の操作により指示できるようにすればよい。また、実施形態における構成により運動者1000が運動をした結果、筋電データと基準データとの不一致が大きかった場合(例えば、差分情報が示す差分の時間積分値が、予め設定されたしきい値を超えた場合)、次に同じ運動パターンにより比較を行うとき、またはしきい値を超えた後から運動パターンの進行速度を遅くするようにすればよい。そして、この状態において比較を行った結果、再び不一致が大きかった場合には、さらに進行速度を遅くし、一方、不一致が少なかった場合(例えば、差分情報が示す差分の時間積分値が、予め設定されたしきい値を超えなかった場合)には、もとの進行速度に戻すようにすればよい。進行速度を変化させる割合は、不一致の程度に応じて決定されるものとしてもよい。
【0060】
<変形例7>
上述した実施形態においては、楽音再生装置1は運動者1000が携帯できるような装置であったが、トレーニング装置、例えば、エルゴメータ、トレッドミル、ストレングスマシンなどに組み込まれたものであってもよい。この場合、運動検出部17は、トレーニング装置の運動時の可動部に設けてもよい。このようにトレーニング装置に組み込まれている場合に、放音部30は、スピーカとしてトレーニング装置に設けられていてもよい。すなわち、放音部30は、楽音信号に係る音を運動者1000に聴取させるものであればどのようなものであってもよい。
【0061】
<変形例8>
上述した実施形態における制御プログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスクなど)、光記録媒体(光ディスクなど)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶した状態で提供し得る。ネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…楽音再生装置、10…本体部、11…制御部、12…記憶部、12−1…楽音記憶領域、12−2…基準記憶領域、12−3…対応テーブル、13…操作部、14…表示部、15…楽音信号出力部、16…信号入力部、17…運動検出部、18…インターフェイス、20,20−LF,20−RF,20−LH,20−RH…筋電位測定部、30…放音部、100…放音制御部、101…運動開始検出部、102…比較部、103…再生制御部、104…再生部、1000…運動者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準となる筋電位の変化に応じた基準データを予め記憶する記憶手段と、
利用者の身体の一部に取り付けて、前記身体の一部に発生する筋電位を測定する測定手段と、
前記測定手段によって測定された筋電位の変化に応じた筋電データと前記記憶手段に記憶された基準データとを比較する比較手段と、
設定される処理の内容にしたがって楽音信号を生成する生成手段と、
楽音信号が供給されることにより放音する放音手段に対して、前記生成手段によって生成された楽音信号を供給する供給手段と、
前記放音手段からの放音により前記利用者に聴取される内容が、前記比較手段による比較結果に応じた内容となるように、前記生成手段に設定される処理の内容を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする放音制御装置。
【請求項2】
前記測定手段は、複数であり、
前記記憶手段は、前記測定手段の各々に対応した前記基準データを予め記憶し、
前記比較手段は、前記測定手段によって測定された筋電位に応じた筋電データと前記記憶手段に記憶された基準データとを、前記測定手段の各々に対応させて比較する
ことを特徴とする請求項1に記載の放音制御装置。
【請求項3】
前記測定手段は、複数であり、
前記比較手段は、複数の前記測定手段によって測定された筋電位の変化に応じた筋電データに予め設定された計算処理を施して得られる結果と前記記憶手段に記憶された基準データとを比較する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−259457(P2010−259457A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110159(P2009−110159)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】