説明

故障診断システム

【課題】事例データベースに含まれる誤情報の影響を除き、より高い精度で故障原因の診断が可能な故障診断システムを提供する。
【解決手段】故障診断システムは、画像形成装置10の機種毎に、各々の故障原因に関連する故障現象、故障部位、故障状態及び処置内容の各々の発生件数を蓄積する市場品質情報データベース40と、故障原因毎に、前記故障原因に関連する故障部位と、前記故障原因に関連する故障現象、故障状態、処置内容の少なくとも1つとの全ての組合せの発生件数を前記市場品質情報データベース40より取得する診断モデル更新部34と、前記診断モデル更新部34により取得された故障原因毎の発生件数に基づいて、前記画像形成装置10を構成する部品の故障診断モデルを表すベイジアンネットワークの各ノード間の発生確率を算出する確率更新処理部33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やプリンタなどのオフィス機器においては、良好な品質を維持するために専門のサービスマンが派遣され、定期的なメンテナンスが実施されてきた。しかし、近年のオフィス機器のカラー化、高機能化に伴い、故障の様態も複雑化してきており、専門のサービスマンでも故障原因を特定しきれない場合がある。更に、顧客サイドでの機器のダウンタイムを極力少なくする必要があることから、故障に関連しそうな部品をまとめて交換するようなケースが多発している。このため、本来正常な部品も一緒に交換されてしまい、サービスコストの増大を招くという問題があった。
【0003】
この問題に対し、我々はベイジアンネットワークを利用して故障箇所を推定する故障診断方法(特許文献1参照。)を出願している。ベイジアンネットワークには、故障原因ノードに対して市場での故障発生頻度を蓄積したデータベースを元にした初期確率を予め与えている。そして、定期的にデータベースから各故障原因の発生件数を自動的に取得してベイジアンネットワークモデルの初期確率を更新することで、市場での最新の故障発生頻度に基づいた診断が可能となるようにしている。
【特許文献1】特開2005−309078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、データベースに蓄積されている情報は、機種毎にサービスマンなどメンテナンスを施した者がトラブル対応後にレポートとして入力したものからなっている。このため、中には「処置は施したが複数の部位を一度に交換したため本来の原因は不明である」、「適切な処置ができなかった」、「処置を施した部位のコード情報が前任機のものと異なっているにも関わらず、それに気づかずに新規マシンのレポートに対して前任機のコード情報を使用している」等、故障発生頻度に対して誤交換や信頼性の低い情報も含まれている。従って、データベースの情報をそのまま用いて初期確率を算出した場合、実態に対して誤差を含み、診断制度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、事例データベースに含まれる誤情報の影響を除き、より高い精度で故障原因の診断が可能な故障診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するために、請求項1記載の故障診断システムは、画像形成装置の機種毎に、各々の故障原因に関連する故障現象、故障部位、故障状態及び処置内容の各々の発生件数を蓄積する蓄積手段と、故障原因毎に、前記故障原因に関連する故障部位と、前記故障原因に関連する故障現象、故障状態、処置内容の少なくとも1つとの全ての組合せの発生件数を前記蓄積手段より取得する取得手段と、前記取得手段により取得された故障原因毎の発生件数に基づいて、前記画像形成装置を構成する部品の故障診断モデルを表すベイジアンネットワークの各ノード間の発生確率を算出する発生確率算出手段と、を備えている。
【0007】
請求項2記載の故障診断システムは、請求項1記載の故障診断システムにおいて、前記発生確率算出手段は、前記取得手段により取得された全ての組合せの発生件数に、前記故障原因に対する前記故障現象、故障部位、故障状態及び処置内容の各々の関連度を示す重み係数を乗ずる乗算手段と、前記乗算手段により乗じた結果の全ての組合せの発生件数の総和を算出する総和算出手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の故障診断システムは、請求項2記載の故障診断システムにおいて、前記取得手段は、診断する画像形成装置の前に使用された他の画像形成装置の故障部位を更に含む全ての組合せの発生件数を取得し、前記乗算手段は、前記取得手段により取得された全ての組合せの発生件数に、前記故障原因に対する前記他の画像形成装置の前記故障部位との関連度を示す重み係数を更に乗ずることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の故障診断システムは、請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の故障診断システムにおいて、前記発生確率算出手段により算出された発生確率に基づいて、前記部品の故障原因を推論する推論手段を、更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、故障部位のみならず、故障現象、故障状態、処置内容に関する情報に基づいて発生件数を算出して発生確率を求めるため、詳細な診断が可能となるという効果が得られる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、故障現象、故障部位、故障状態、処置内容の各項目に対して設定した重み係数に基づいて発生件数を算出するため、信頼性の低い情報の影響を除いた診断が可能となるという効果が得られる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、診断対象機種の他に前任機の情報を保持するため、前任機の情報が誤って使用される等の誤情報の影響を除いた診断が可能となるという効果が得られる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、画像形成装置毎に高い精度で故障原因を推論することが可能となるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明に係る故障診断システムを構成する画像形成製装置10の基本構成を示す。画像形成装置10は、原稿画像を読み取る画像読取部11と、読み取った画像又はプリント指示された画像を形成して出力するプリントエンジン部12と、用紙通過時間、駆動電流、装置内部温湿度などの装置の内部状態情報を得るためのセンサ部13と、ユーザが故障診断に必要な情報を入力するための診断情報入力部14と、各取得情報に基づいて装置の故障診断を行う故障診断部15と、ネットワークを介してサーバコンピュータである管理装置から最新の診断モデルを取得する通信部16とを備えている。
【0015】
図2は、上述の画像形成装置10を構成する故障診断部15の機能ブロック図を示す。故障診断部15は、センサ部13により取得された各部品の稼動状態を示す部品情報を観測データ情報として取得する部品状態情報取得部21と、画像形成装置10の使用状況の監視結果を履歴情報として取得する履歴情報取得部22と、装置内部の環境条件を直接、或いはセンサ部13を介して取得する環境情報取得部23と、発生した故障の状態を診断情報入力部14によりユーザが入力することにより得られる故障情報を取得する故障情報取得部24と、ユーザ操作によって動作条件の異なる状態で故障情報を取得する追加操作情報取得部25と、各取得部21〜25より得られた情報に基づいて故障原因の確率を算出する故障確率推論部26と、診断結果をユーザに通知する診断結果通知部27とを備えている。
【0016】
更に、故障確率推論部26は、故障を引き起こすと考えられる各故障原因候補が、発生した故障の主原因である確率を各取得情報に基づいて算出する推論エンジン28と、推論エンジン28により算出された確率を元にして故障原因候補を絞り込む故障候補抽出部29とを備えている。
【0017】
ここで、故障原因の発生確率の算出を行う推論エンジン28には、ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)を利用する。ベイジアンネットワークとは、因果関係が複雑な問題領域を表すため、複数の変数間の因果関係を順次結び、グラフ構造を持つネットワークとして表現したものであり、変数間の依存関係を有向グラフにより表している。
【0018】
図3は、画像欠陥系の故障診断を行う場合のベイジアンネットワークの構成例を示す。同図が示すように、このベイジアンネットワークは、画像欠陥を引き起こす原因を表す故障原因ノードND0と、画像形成装置を構成する部品(コンポーネント)の状態情報を表すコンポーネント状態ノードND1と、画像形成装置の履歴情報を表す履歴情報ノードND2と、画像形成装置が設置されている周辺環境情報を表す環境情報ノードND3と、画像欠陥の状態情報を表す観測状態ノードND4と、ユーザ操作によって得られる追試結果情報を表すユーザ操作ノードND5と、欠陥種類ノードND6とを含んで構成される。
【0019】
各ノードは、“原因”→“結果”の関係になるように結線される。例えば、“故障原因ノードND0”と“観測状態ノードND4”の関係は、“故障原因”が元で“観測状態(濃度が薄い、筋状・帯状、など)”が現れるという関係になる。一方、“履歴情報ノードND2”と“故障原因ノードND0”の関係は、“履歴情報に基づく状態(コピー枚数が多い、稼動年数が長い、など)”が元で“故障原因(部品劣化など)”が発生するという関係が成り立つ。なお、ベイジアンネットワークを利用した故障診断方法の詳細は、特許文献1に記載されている。
【0020】
図4は、故障診断システムの具体的な事例を示すものであり、図3に示す画像欠陥による故障診断の構成例の中で「線・帯」発生時のベイジアンネットワークを表している。同図に示すように、各ノードは、“原因”→“結果”の関係になるように結線される。例えば、“ドラムの傷”と“線幅情報”の関係は、“ドラムの傷”が元で細い線が発生といった“線幅情報”が現れるという関係になる。一方、“フィード数履歴情報”と“フューザ”の関係は、“フィード数履歴情報”に基づく状態(フィード数が何枚以上)が元で“フューザ”劣化による線・帯発生の可能性が高くなるという関係が成り立つ。
【0021】
各ノードの確率データの初期値は、過去のデータを元に決定される。その後、部品の交換頻度や不具合発生頻度など、市場トラブルの統計データを元に定期的に(例えば、一ヶ月毎に)各ノードの確率が更新される。また、“線幅情報”や“周期性情報”、“発生箇所情報”といった画像欠陥の特徴を示すグレーのノードは、図2の故障情報取得部24によって得られた特徴量に基づいて“線幅情報”であれば「細い線が発生」などの故障の状態が決定される。
【0022】
図5は、本発明に係る故障診断システムの構成例を示す。故障診断システムは、市場品質情報入力装置50、市場品質情報データベース40、管理装置30及び画像形成装置10がネットワークを介して接続される。管理装置30は、故障診断に用いる診断モデルを蓄積する診断モデル蓄積部31と、診断モデルを構成する故障原因ノードの発生確率を更新するのに必要なデータを市場品質情報データベース40から取得して保持し、さらに更新に必要な属性情報を管理する更新情報管理部32と、更新情報管理部32が保持する情報を元に各故障原因ノードの発生確率を算出して更新する確率更新処理部33と、確率更新処理部33により算出された確率を診断モデルに反映させて診断モデルを更新し、診断モデル蓄積部31に格納する診断モデル更新部34と、市場品質情報データベース40から更新に必要な情報を受信したり、画像形成装置10と通信して更新された診断モデルを送信する通信部35とを備えている。
【0023】
市場品質情報データベースは40は、市場で発生したトラブルの故障現象、故障部位、故障状態、処置内容の各々に関する詳細項目をコード情報として発生件数と対応付けて蓄積する。そして、診断モデル更新部34が、一つ又は複数のコードを指定することで対応する内容の発生件数を知ることができる。市場品質情報入力装置50は、サービスマンが市場でのトラブル対応後に上記各種コードを入力し、市場品質情報データベース40に登録する。
【0024】
図6及び図7は、更新対象となる故障原因に対する市場品質情報データベース40に登録されている各項目のコード情報と重み係数との関係を示す。この重み係数情報は、管理装置30の更新情報管理部32にて保持され、確率更新処理部33が確率更新処理を実行する時に、更新情報管理部32から参照して用いるものである。重み係数情報は、診断モデルの故障原因ノードで親ノードを持たないノード毎に有している。図4の例では、二重線で囲まれた故障原因ノードに対してそれぞれ重み係数情報が設定される。ある診断対象機種の「線・帯」発生時のベイジアンネットワークに対して、故障原因ノードが「ドラムの傷」の場合の重み係数情報を図6に示す。重み係数情報は、同図(A)〜(D)に示される故障現象、故障部位、故障状態、処置内容の各項目に対してそれぞれ設定される。
【0025】
まず、故障現象については、「線・帯」診断用モデルなので「線・帯」という項目に対するコード情報と重み係数が設定される。さらに、本実施の形態では、故障診断対象の画像形成装置としてタンデム方式の複写機を想定しているが、この場合、「ドラムの傷」は通常単色で発生し、複数色が同時に発生する頻度は低い。このため、図6(A)に示すように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)それぞれの故障現象に対しては、重み係数は1.0とし、混色の故障現象に対しては0.1を設定する。
【0026】
次に、故障部位については、「ドラムの傷」の対象部位は各色の「Drum Cartridge」であるため、それぞれに対するコード情報と重み係数1.0を設定する。通常は、ここで診断対象となる機種の部位のコード情報を設定すればよいが、「Drum Cartridge」のようにメンテナンスが頻繁になされる部品の場合、サービスマンが市場品質情報入力装置50によってトラブル情報を入力する時に、他機種(前任機)の部品のコード情報を覚えていて、それをそのまま入力してしまうことがある。その場合、診断モデル更新部34が、市場品質情報データベース40から診断対象機種の情報を取得すると、例えば「Drum Cartridge」という部品に対して、診断対象機種のコード情報による件数以外に他機種のコード情報による件数も含まれることになる。その結果、診断対象機種のコード情報による件数のみに着目すると実際の発生件数との乖離が生じ、診断精度が低下する。そこで、図6(B)に示すように、「Drum Cartridge」に対して診断対象機種の部位コード情報だけでなく、他機種の部位コードも付加して重み係数を設定する。
【0027】
次に、故障状態については、予め登録されている各種の故障状態情報のうち、「線・帯」を発生させる「ドラムの傷」に関連する故障状態に対して、図6(C)に示すように重み係数を設定する。図6のグレー部分は、故障状態情報として登録されている項目のうち、「ドラムの傷」とは関連のない項目を表しており、説明のために重み係数を0として記載しているが、実際には管理装置30の更新情報管理部32には保持されない。このように関連する項目にのみ重み係数を設定し、その他の項目を管理装置30の更新情報管理部32に保持しない。これは、サービスマンが市場品質情報入力装置50によってトラブル情報を入力する時に、誤入力をしたり、適切に処置できなかったが取り敢えず対応した部品を登録することがあり、そのような診断に対して誤情報となりうる項目をできる限り取り除くためである。
【0028】
次に、処置内容については、予め登録されている各種の処置内容情報のうち、「ドラムの傷」が発生した時に採りうる処置内容に対して、図6(D)に示すように重み係数を設定する。ここで、グレー部分および重み係数の設定方法については、上述の故障状態の場合と同様である。
【0029】
また、ある診断対象機種の「線・帯」発生時のベイジアンネットワークに対して、故障原因ノードが「ドラムの汚れ」の場合の重み係数情報を図7に示す。
【0030】
同図(A)及び(B)に示す故障部位、故障部位に対する重み係数の設定方法は、上述の「ドラムの傷」と同様であるが、「ドラムの傷」に比べて「ドラムの汚れ」の方が複数色同時に発生する頻度が高いため、図7(A)の故障現象「線・帯(混色)」の重み係数が図6(A)に比べて高くなっている。
【0031】
故障状態は、図6(C)では「傷」の重み係数は1.0であったが、「ドラムの汚れ」を引き起こすものではないため、図7(C)では0、つまり更新情報管理部32には該情報は保持されない。また、他の項目も「ドラムの汚れ」との関連度に応じて、図7(C)に示すように重み係数を設定する。また、処置内容についても同様に、図7(D)に示すように重み係数を設定する。
【0032】
次に、図6及び図7で説明した重み係数情報を用いて、診断モデルを構成する故障原因ノードの発生確率を更新する方法について、図8に示すフローチャートに沿って説明する。
【0033】
まず、ステップ100では、管理装置30の診断モデル更新部34が、診断モデル蓄積部31に格納されている診断モデル群から確率更新処理を施す診断モデルを選択する。
【0034】
ステップ110では、診断モデル更新部34が、更新情報管理部32に保持されている重み係数情報を参照して、選択された診断モデルを構成する故障原因ノードに対応する故障現象、故障部位、故障状態および処置内容のコード情報を取得し、市場品質情報データベース40より各情報の組毎の発生件数を取得する。
【0035】
図6の故障原因が「ドラムの傷」の例の場合、以下の処理が行われる。まず、診断モデル更新部34が、〔故障現象、故障部位、故障状態、処置内容〕の組が〔線・帯(Y)、Drum Cartridge(Y)−対象機、磨耗、トラブル交換〕に対応するコード情報〔1001、2001、3001、4001〕を、確率更新対象機種情報と共に市場品質情報データベース40に送信し、対象機種のこの組に対する発生件数を取得する。次に、〔線・帯(Y)、Drum Cartridge(Y)−対象機、磨耗、応急処置〕に対応するコード情報〔1001、2001、3001、4004〕を市場品質情報データベース40に送信し、対象機種のこの組に対する発生件数を取得する。このようにして、重み係数情報に反映されている各項目の組合せ全てに対する発生件数をそれぞれ取得する。
【0036】
ステップ120では、確率更新処理部33が、ステップ110で取得した各組の発生件数に対して、対応する重み係数をそれぞれ掛け合わせる。例えば、図6において、〔故障現象、故障部位、故障状態、処置内容〕の組が〔線・帯(Y)、Drum Cartridge(Y)−対象機、磨耗、トラブル交換〕の組の発生件数が200件だった場合、これに対応する重み係数、1.0、1.0、0.3、1.0を順次乗算する。従って、重み係数を反映した〔線・帯(Y)、Drum Cartridge(Y)−対象機、磨耗、トラブル交換〕の組の発生件数は、200×1.0×1.0×0.3×1.0=60件となる。他の組に対しても同様にして、重み係数を反映した発生件数が算出される。
【0037】
ステップ130では、確率更新処理部33が、ステップ120での各乗算結果を累積して総和を故障原因ノードに対する発生件数とする。ステップ110からステップ130までの処理を式(1)に表す。
【0038】
【数1】

【0039】
ここで、Nは算出対象となる故障原因ノードの発生件数、α(i=1〜m)はi番目の故障現象の重み係数、β(j=1〜n)はj番目の故障部位の重み係数、γ(k=1〜o)はk番目の故障状態の重み係数、θ(l=1〜p)はl番目の処置内容の重み係数、Nijklはi番目の故障現象、j番目の故障部位、k番目の故障状態、l番目の処置内容の組に対する発生件数を表す。
【0040】
ステップ140では、確率更新処理部33が、診断モデルを構成する全ての故障原因ノードに対する発生件数を算出したか否かを判定する。肯定判定された場合はステップ150に進み、否定判定された場合はステップ110に戻ってステップ110からステップ130までの処理を繰り返す。
【0041】
ステップ150では、確率更新処理部33が、算出された全ての故障原因ノードの発生件数に基づいて、故障原因ノード毎の発生確率を算出する。発生確率の算出方法については、図4に示す診断モデルを例に説明する。
【0042】
前述の通り、重み係数情報を有する故障原因ノードは図4において二重線で表されており、この二重線で囲まれたノードに対する発生件数がステップ140までに算出されている。そして、発生確率は子ノードが共通であるノード間で算出される。
【0043】
例えば、「ドラムの傷」ノードに対する子ノードは「ドラムユニット」であり、同じ子ノードを有する故障原因ノードは「ドラムの汚れ」ノードなので、この2つのノード間の発生確率を算出する。「ドラムの傷」の発生件数が60件、「ドラムの汚れ」の発生件数が40件だとすると、「ドラムユニット」ノードでの「ドラムの傷」の発生確率は60%、「ドラムの汚れ」の発生確率は40%となる。そして、この結果を子ノードである「ドラムユニット」ノードの条件付確率テーブルに反映させる。
【0044】
図9は、条件付確率テーブルの例を示す。同図に示す表は、子ノードである「ドラムユニット」ノードと、その親ノードである「ドラムの傷」ノード及び「ドラムの汚れ」ノードとの関係を表す。テーブルの要素は、それぞれの親ノードの故障原因が正常または異常状態にある場合において、子ノードの故障原因が正常または異常状態にある確率を表す。
【0045】
具体的には、条件付確率テーブルは、親ノードの「ドラムの傷」及び「ドラムの汚れ」が正常である(故障原因でない)場合には、親ノードのいずれかの異常が原因で子ノードである「ドラムユニット」が異常となる確率は0%である。即ち、この状態では子ノードである「ドラムユニット」は100%の確率で正常であることを表している(図9の表の2行2列目)。
【0046】
また、条件付確率テーブルは、親ノードの「ドラムの傷」が異常であり、かつ、「ドラムの汚れ」が正常である場合には、親ノードの「ドラムの傷」が原因で子ノードである「ドラムユニット」が異常である確率が60%であることを表している(図9の表の3行2列目)。
【0047】
さらに、確率更新処理部33が、他の故障原因ノードに対しても同様に条件付確率を設定する。例えば、「フューザ」に対しては「ヒートロールの傷」及び「オフセット」の発生件数を用いて、「画像出力装置系」に対しては「ボード」、「ドラムユニット」及び「フューザ」の発生件数を用いて確率を算出して設定する。なお、「ドラムユニット」や「フューザ」など、二重線でない故障原因の発生件数は、親ノードの発生件数の総和として算出する。本実施の形態では、「ドラムユニット」の発生件数は、60+40=100件となる。
【0048】
また、親ノードを持たない二重線で囲まれた故障原因ノードの初期確率は、確率更新処理部33が、正常状態として限りなく100%に近い値に設定しておく(例えば99.9%など)。このように設定することにより、故障が発生していない状態、即ち証拠情報(図2の故障情報取得部24により得られた特徴量に基づく情報)が与えられていない状態では、各故障原因の確率はほぼ0%となり、故障が発生して証拠情報が与えられると、確率伝搬により各故障原因の確率が確率更新処理部33によって再計算される。
【0049】
ステップ160では、診断モデル更新部34が、上述のように算出された各故障原因ノードの条件付確率に基づいて、診断モデルの各故障原因ノードの条件付確率テーブルを更新して診断モデル蓄積部31に格納する。
【0050】
ステップ170では、診断モデル更新部34が、診断モデル蓄積部31に格納されている全診断モデルの条件付確率テーブルが更新されたか否かを判定する。否定判定された場合はステップ100に戻ってステップ100からステップ160までの処理を繰り返し、肯定判定された場合は確率更新処理を終了する。
【0051】
以上のように、重み係数情報を用いて故障原因ノードの条件付確率を算出することにより、市場品質情報データベース40に含まれる誤情報を極力排除し、故障原因の発生確率を精度よく得ることができる。また、レアケースなど、元々発生頻度の低い事例に対しては誤情報の件数が含まれると発生確率の誤差が大きくなり、診断結果に大きな影響を及ぼすことから、本発明を適用することにより、より正確な発生確率を得ることができる。
【0052】
さらに、画像形成装置10に備わった故障診断部15が、このようにして得られた故障原因の発生確率に基づいて部品の故障原因を推論することによって、より高い精度で故障原因を診断することが可能となる。
【0053】
また、誤情報が診断結果に影響を及ぼす事例について、以下に説明する。図10は、図4のベイジアンネットワークに誤情報が含まれる場合と誤情報を除いた場合の故障原因の発生確率を反映させた事例を示す。図10では、説明を簡単にするために、図4に対して故障原因ノード(二重線)と故障原因の中間ノード(一重線)のみ共通で、観測状態ノードを2つとした。
【0054】
ここで、例えば故障原因ノードの「プラテン傷」に対して、図8のステップ110からステップ130の処理を施さずに発生件数を取得した結果、全件数1005件中15件発生していたとする。この場合、「プラテン傷」の初期確率は15/1005≒1.5%となる。
【0055】
同様にして他の故障原因ノードの初期確率を算出した結果、図10の各故障原因ノードの近傍に2段に示した数値の上段の値となったとする。さらに、図10の「観測状態1」ノード及び「観測状態2」ノードの近傍に説明するような確率を与え、証拠情報としてこの2つのノードの状態を確定させた時の各故障原因の発生確率を計算すると、確率の高い順に以下のような結果となる(4位以下省略)。
【0056】
1.プラテン傷 : 30.3%
2.ボードBの故障 : 28.7%
3.ボードAの故障 : 22.9%
次に、故障原因ノードの「プラテン傷」に対して、図8のステップ110からステップ130の処理を施して発生件数を取得した結果、10件発生していたとする。つまり、差分の5件は図6のグレー部分等に含まれていた誤情報であり、簡単にするため他の故障原因ノードの発生件数の取得結果は変わらないとすると、全件数は1000件となる。このとき、「プラテン傷」の初期確率は10/1000=1%となる。
【0057】
同様に他の故障原因ノードの初期確率を分母を1000件として再計算すると、図10の各故障原因ノードの近傍に2段に示した数値の下段の値になる。これらの値を用いて「観測状態1」ノード及び「観測状態2」ノードに証拠情報を与えたときの各故障原因の発生確率を計算すると、確率の高い順に以下のような結果となる(4位以下省略)。
【0058】
1.ボードBの故障 : 31.8%
2.ボードAの故障 : 25.4%
3.プラテン傷 : 22.8%
以上の結果から分かるように、故障原因ノードに初期確率を設定するに当たって誤情報が含まれると、そのベイジアンネットワークを用いて診断した結果は、本来得られるべき結果と異なり、診断精度が著しく低下してしまう。上述の例では簡単のために、一つのノードのみ誤情報を含む場合と含まない場合とで比較を行ったが、他のノードにも誤情報が含まれる場合、さらに誤差が拡大することになる。従って、これまで説明してきたように、故障原因ノードの条件付確率を算出するに当たり、データベースに含まれる誤情報を極力排除して故障原因の発生確率を精度よく得ることにより、より正確な故障診断が可能となる。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、ベイジアンネットワークではなく、エキスパートシステムやテーブル参照型の診断システム、その他AIを用いた診断システムに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る故障診断システムを構成する画像形成製装置の基本構成図である。
【図2】図1の画像形成装置を構成する故障診断部の機能ブロック図である。
【図3】画像欠陥系の故障診断を行う場合のベイジアンネットワークの構成図である。
【図4】画像欠陥による故障診断の構成例の中で線・帯発生時のベイジアンネットワークの構成図である。
【図5】本発明に係る故障診断システムの構成図である。
【図6】線・帯発生時の診断モデルの故障原因「ドラムの傷」に対する重み係数の設定例を示す図である。
【図7】線・帯発生時の診断モデルの故障原因「ドラムの汚れ」に対する重み係数の設定例を示す図である。
【図8】診断モデルを構成する故障原因ノードの発生確率の更新処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】条件付確率テーブルの例を示す図である。
【図10】図4のベイジアンネットワークに誤情報が含まれる場合と誤情報を除いた場合の故障原因の発生確率を反映させた事例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 画像形成装置
11 画像読取部
12 プリントエンジン部
13 センサ部
14 診断情報入力部
15 故障診断部
16 通信部
21 部品状態情報取得部
22 履歴情報取得部
23 環境情報取得部
24 故障情報取得部
25 追加操作情報取得部
26 故障確率推論部
27 診断結果通知部
28 推論エンジン
29 故障候補抽出部
30 管理装置
31 診断モデル蓄積部
32 更新情報管理部
33 確率更新処理部
34 診断モデル更新部
35 通信部
40 市場品質情報データベース
50 市場品質情報入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置の機種毎に、各々の故障原因に関連する故障現象、故障部位、故障状態及び処置内容の各々の発生件数を蓄積する蓄積手段と、
故障原因毎に、前記故障原因に関連する故障部位と、前記故障原因に関連する故障現象、故障状態、処置内容の少なくとも1つとの全ての組合せの発生件数を前記蓄積手段より取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された故障原因毎の発生件数に基づいて、前記画像形成装置を構成する部品の故障診断モデルを表すベイジアンネットワークの各ノード間の発生確率を算出する発生確率算出手段と、
を備えた故障診断システム。
【請求項2】
前記発生確率算出手段は、前記取得手段により取得された全ての組合せの発生件数に、前記故障原因に対する前記故障現象、故障部位、故障状態及び処置内容の各々の関連度を示す重み係数を乗ずる乗算手段と、前記乗算手段により乗じた結果の全ての組合せの発生件数の総和を算出する総和算出手段と、を含む請求項1記載の故障診断システム。
【請求項3】
前記取得手段は、診断する画像形成装置の前に使用された他の画像形成装置の故障部位を更に含む全ての組合せの発生件数を取得し、
前記乗算手段は、前記取得手段により取得された全ての組合せの発生件数に、前記故障原因に対する前記他の画像形成装置の前記故障部位との関連度を示す重み係数を更に乗ずる請求項2記載の故障診断システム。
【請求項4】
前記発生確率算出手段により算出された発生確率に基づいて、前記部品の故障原因を推論する推論手段を、更に備えた請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の故障診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−256981(P2008−256981A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99595(P2007−99595)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】