説明

敏感肌用知覚過敏予防改善剤

【課題】簡便に使用可能且つ安全性の高い敏感肌用知覚過敏予防改善剤を提供する。
【解決手段】アスナロ又はその抽出物を有効成分とする敏感肌用知覚過敏予防改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敏感肌用知覚過敏予防改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、敏感肌改善剤としては神経成長因子(NGF)生成抑制剤が知られており、例えば、フキ、知母、シラカバ、ヨモギ等を有効成分とする神経成長因子(NGF)産生抑制剤(特許文献1)や、オイゲノール配糖体、イソオイゲノール配糖体、ラズベリーケトン配糖体、ロドデンドロール配糖体等からなる神経成長因子生成抑制剤(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−84222号公報
【特許文献2】特開2004−107250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
神経成長因子(NGF)はアトピー性皮膚炎等の炎症部位ではその産生が増加し、熱痛覚過敏等を引き起こすことが知られているが、同時に、皮膚の再生に関与する生理活性物質の分泌を促進する作用もあるため、特に過剰な炎症や免疫反応を起こしていないにもかかわらず感覚刺激を認知し易くなっているときには、この発現を抑制することは好ましくない場合がある。
従って、本発明の課題は神経成長因子(NGF)の発現量は変化させずに感覚刺激を認知し易くなっている敏感肌における知覚過敏症状の予防・改善に有効な知覚過敏予防改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは前記課題を解決すべく広く植物の抽出物についてその薬理作用を検討してきたところ、アスナロの抽出物が神経成長因子(NGF)の発現量は変化させずに敏感肌における知覚過敏症状の予防・改善する作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、アスナロ又はその抽出物を有効成分とする敏感肌用知覚過敏予防改善剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有効成分であるアスナロ又はその抽出物によれば、神経成長因子(NGF)の発現量は変化させずに敏感肌における知覚過敏症状の予防・改善することができる。また、アスナロ又はその抽出物は、古くから薬用に広く用いられているものであり、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ヒト皮膚再構築モデルにおける神経成長因子(NGF)発現に対するアスナロエキスの効果を示す図である。
【図2】敏感肌におけるアスナロエキス連用塗布前後の電流感覚閾値(CPT)を示す図である。
【図3】敏感肌におけるアスナロエキス連用塗布前後のスティンギングスコアを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の敏感肌用知覚過敏予防改善剤の有効成分であるアスナロの生理活性については、抗微生物作用、美白作用、骨疾患予防作用、細胞接着抑制作用、抗アレルギー作用、免疫抑制作用、抗炎症作用等が知られている(特開平2−62809号、特開平5−345710号、特開平6−340542号、特開平9−315991号)が神経成長因子(NGF)の発現量は変化させずに知覚過敏症状を予防・改善する作用については全く知られていない。
【0010】
本発明に用いるアスナロ抽出物は、アスナロの全体又は部分を溶媒で抽出して得られる。アスナロの部分としては、葉部、小枝部等が挙げられる。より具体的には、アスナロの主に葉部、小枝部等を乾燥又は乾燥することなく粉砕した後、常温下又は加温下で溶媒により、又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得ることができる。なお、本発明におけるアスナロ抽出物とは、各種溶媒抽出液又はその希釈液、濃縮液もしくは乾燥末を意味するものとする。
【0011】
好ましくは、溶媒抽出物は、アスナロの全部、部分又はそれらの乾燥末を水、有機溶媒(石油エーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン等のケトン類;ピリジン等の塩基性溶媒;ブタノール、プロパノール、エタノール、メタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の一価又は多価アルコール系溶媒など)、水性アルコール等を用い、通常3〜70℃で抽出処理することにより得られる。
【0012】
アスナロからの好ましい具体的抽出例としては、アスナロの乾燥粉砕物100gをエタノール1リットルに浸漬し、室温で7日間抽出を行い、得られた抽出液をろ過して上澄みを得る方法が挙げられる。
【0013】
上記抽出物は、そのまま本発明の有効成分として用いることができるが、当該抽出物を濃縮後、さらに適当な分離手段、例えばゲルろ過やシリカゲルカラムクロマト法、高速液体クロマト法等により、活性の高い画分を分画して用いることもできる。
【0014】
以上のアスナロ抽出物は、そのまま、又は希釈、濃縮もしくは凍結乾燥した後、粉末状又はペースト状に調製し、適宜製剤化して用いることもできる。また、さらに必要により活性炭等を用いて脱臭、脱色等の精製処理を施してから用いることもできる。
【0015】
特に、上記抽出物は、溶媒置換等の方法により、エタノールを除去して多価アルコール溶解物として使用することが、敏感肌に対し刺激を生じさせること無く抽出成分を皮膚へ塗布可能であり、その有効成分の効果を十分に発揮させ得るため好ましい。なお、当該多価アルコールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量1000以下)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール(1,3−ブチレングリコール)等のジオール;グリセリン、ジグリセリン等の3〜4価のアルコールが挙げられる。このうち、ジオールであるプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールが好ましい。多価アルコールの含有量は、本発明の敏感肌用知覚過敏予防改善剤中に、0.02〜50質量%が好ましく、さらに2〜20質量%が特に好ましい。また、本発明の敏感肌用知覚過敏予防改善剤中のエタノールの含有量は、8質量%未満が好ましく、さらに4質量%未満が好ましく、さらに1質量%未満が好ましく、特に実質的にエタノールを含有しないことが好ましい。
【0016】
アスナロ抽出物は、後記実施例に示すように、神経成長因子(NGF)の発現量は変化させずに刺激閾値を顕著に上昇させる。従って、敏感肌用知覚過敏予防改善剤として有用である。なお、本発明において敏感肌とは、神経線維の表皮内、角層直下への伸長により、感覚刺激を認知し易くなっている知覚過敏状態のことを指し、過剰な炎症や免疫反応を起こしているアレルギー状態やその一種であるアトピー性皮膚炎等の疾患肌とは区別されるものである。具体的には、知覚神経が過敏であるため僅かな外部刺激(温度、湿度、ホコリ、アレルゲン等)に対しても影響を受けやすく、化粧品の使用や外部刺激により、ぴりぴり、チクチク、むずむず感といったような感覚刺激を訴えるものの、皮膚性状は比較的健常であるため、炎症を抑えるためのトリートメント等を施しても刺激の緩和は認められない肌である。過剰な炎症や免疫反応を起こしているアレルギー状態やその一種であるアトピー性皮膚炎等の疾患肌では、炎症部位にて神経成長因子(NGF)の発現量が増加して痛覚過敏が著しく増進される等の問題が生じているため、従来のように抗炎症剤や神経成長因子(NGF)発現抑制剤を投与することで神経成長因子(NGF)の発現量を通常レベルまで低下させることは、好ましい方向に作用すると考えられる。しかしながら、炎症が起こっていない肌の場合は神経成長因子(NGF)の発現量はもともと増加していないので従来のように神経成長因子(NGF)発現抑制剤を投与すると神経成長因子(NGF)の発現量が通常レベル以下に減少してしまい神経成長因子(NGF)不足による様々な影響が生じてしまう可能性がある。従って、神経成長因子(NGF)の発現量は変化させずに敏感肌における知覚過敏症状を予防・改善することができる本発明の敏感肌用知覚過敏予防改善剤は非常に好ましい。
【0017】
本発明の敏感肌用知覚過敏予防改善剤は、通常用いられる添加剤とともに任意の形態に製剤化される。これらの製剤中のアスナロ抽出物の含有量は、固形物換算で0.0001〜0.1質量%、さらに0.01〜0.1質量%が好ましい。なお固形物換算とは、測定試料10mLを105℃にて6時間乾燥処理して得られた固形物量に基づき換算された値である。
【0018】
本発明の敏感肌用知覚過敏予防改善剤は、必要に応じて、化粧品、医薬部外品、医薬品の皮膚外用剤に配合される界面活性剤、保湿剤、油剤、増粘剤、顔料、色素、塩類、キレート剤、中和剤、紫外線吸収剤、防腐剤、殺菌剤、精製水、天然水、深層海洋水、エチルアルコール等を適宜配合することができる。また、剤型としては、軟膏、ローション、乳液、クリーム、ゲル、パック、粉末、エアゾール、パップ剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の敏感肌用知覚過敏予防改善剤は、単回適用でなく、一定期間以上皮膚の所定部に適用するのがより好ましい。敏感肌の刺激閾値を上昇させるためには、アスナロ抽出物を固形物換算で0.0001〜0.1質量%含有する組成物を、1回当たり0.1mg/cm2〜5mg/cm2の量を1日1〜5回、3日以上、より好ましくは1週間以上皮膚に適用するのが好ましい。さらに、1回当たり1mg/cm2〜3mg/cm2の量を1日1〜3回、1週間以上、より好ましくは10日間以上皮膚に適用するのが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下の実施例、試験例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0021】
参考例1
(アスナロエキスの製法)
アスナロの乾燥枝葉(約1kg)を細切し、エタノール(10リットル)に浸漬し、室温で時々撹拌しながら7日間抽出を行い、得られた抽出液をろ過し、ろ液を5℃で3日間静置した後、再度ろ過して上澄みを得る。これに9倍量の50%1,3−ブチレングリコール溶液を加え、ろ過する。そのろ液を濃縮し、これにさらに1,3−ブチレングリコール及び精製水を加えて、もう一度ろ過して製品(約100L)とする。得られたアスナロエキスの1,3−ブチレングリコールの含有量は54.75%、含水量は45%、アスナロ固形物の含有量は0.25%であった。
【0022】
試験例1
ヒト皮膚再構築モデルとしてテストスキンLSE−High(東洋紡社製)を用い、培養した。培地に参考例1のアスナロエキスの1%(V/V)1,3−ブチレングリコール:エタノール=1:1溶液もしくはコントロール溶媒(1,3−ブチレングリコール:エタノール=1:1)を2mg/cm2の量となるように添加して、72時間培養後、テストスキン表皮部分をピンセットで剥ぎ取り、RNAを回収し、RT-PCRで神経成長因子(NGF)及びG3PDHの発現を調べた。
その結果を図1に示す。図1からも明らかなとおり、アスナロエキスを適用しても神経成長因子(NGF)の発現度合い(NGF/G3PDH)は変化しなかった。
【0023】
試験例2 アスナロエキス連用塗布による電流感覚刺激閾値に対する効果
敏感肌の被験者を選出する為に、次の方法で1%乳酸水溶液スティンギング試験を実施した。アトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚炎等の疾患肌ではない被験者に対して洗顔後10分間馴化させ、1%乳酸水溶液1.2mLを浸した20cm2の不織布を頬部に適用し、適用直後から1分毎に10分後まで被験者が認知した感覚刺激について申告したスコア(0=刺激なし、0.5=わずかに感じる、1=弱い、1.5=確かに感じる、2.0=強い、2.5=非常に強い、3=我慢できない)の10回の合計の累積が同様に実施した蒸留水の場合より両頬について5以上の被験者を本発明における敏感肌とした。
この敏感肌の被験者12名について、参考例1のアスナロエキスの4%水溶液を1日3回2週間、片頬部位に2mg/cm2の量となるように塗布した(もう片頬部位には対照として蒸留水を塗布した)。連用前後における末梢神経の知覚過敏の程度を調べるため電流感覚閾値をニューロメーターを用いて測定した結果、図3に示す如く、アスナロエキス水溶液を塗布した側は電流感覚閾値が上昇し、知覚過敏状態が改善したことが判明した。
なお、以上の結果から、本剤により、神経成長因子(NGF)生成抑制剤とは別の因子により伸長してくる神経の表皮への進入が抑制されたため知覚過敏の状態が改善されたと考察される。
【0024】
なお、ニューロメーターによる電流感覚閾値の測定方法は以下のとおりである。
≪電流感覚閾値の測定方法≫
直径約1cmの電極を頬部に貼り、Neurotron社製のニューロメーターを用いて250Hzの交流電流を流したとき、被験者がその刺激を知覚できる最低レベルの電流量を電流感覚閾値(CPT:Current Perception Threshold)とした。
【0025】
試験例3 アスナロエキス連用塗布による乳酸スティンギングスコアの変化
試験例3の被験者に対して同様に、参考例1のアスナロエキスの4%水溶液を1日3回2週間片頬に2mg/cm2の量となるように連用した前後で1%乳酸水溶液スティンギング試験を試験例3と同様に実施した。その結果、適用直後から1分毎に10分後まで被験者が認知した感覚刺激について申告したスコア(0=刺激なし、0.5=わずかに感じる、1=弱い、1.5=確かに感じる、2.0=強い、2.5=非常に強い、3=我慢できない)の10回の合計の累積の12人の平均値は、図4に示す如く、アスナロエキス水溶液を塗布した側の頬は連用前後でスティンギングスコアが減少し、知覚過敏が改善されたことが判明した。また、皮膚のキメが荒くなる等の皮膚の再生遅延による悪影響は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスナロ又はその抽出物を有効成分とする敏感肌用知覚過敏予防改善剤。
【請求項2】
アスナロ抽出物を固形物換算で0.0001〜0.1質量%含有する組成物を、1回当たり0.1mg/cm2〜5mg/cm2の量で、1日1〜5回、3日以上敏感肌の皮膚に適用して使用するものである請求項1記載の敏感肌用知覚過敏予防改善剤。
【請求項3】
エタノール含有量が8質量%未満である請求項2記載の敏感肌用知覚過敏予防改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132220(P2011−132220A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257752(P2010−257752)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】