説明

散乱線吸収グリッド

【課題】中間方向がグリッド表面に垂直な方向と交差する2つの照射方向から放射線が照射される散乱線吸収グリッドにおいて、視差方向成分を含む散乱線を除去しつつ、透過率の低下および大型化を回避して両方向の透過率を同等にする。
【解決手段】各遮蔽部材51が、板状部材であって中間方向D3をグリッド表面に投影した投影方向に間隔をあけて配置され、且つ一方の照射方向D1から照射された放射線のうち間隙を透過する放射線の割合と、他方の照射方向D2から照射された放射線のうち間隙を透過する放射線の割合とが同等となるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線撮影装置に使用される散乱線吸収グリッドに関する。より詳しくは、異なる2つの撮影方向から放射線を照射して撮影する放射線撮影装置に使用される散乱線吸収グリッドに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線撮影装置において、撮影の際に被写体と放射線検出器との間に散乱線吸収グリッドを配置することにより、被写体によって散乱された散乱線を吸収してS/Nの高い放射線を検出することが知られている。この散乱線吸収グリッドは、被写体に対して略垂直方向から臨む基準位置に放射線源が位置するものとして、当該放射線源に向けて収束するように配置される、放射線吸収材料からなる多数の遮蔽部材から構成されることが一般的である。
【0003】
このような散乱線吸収グリッドによれば、被写体によって散乱されて斜めに進む放射線(以下、散乱線という。)は遮蔽部材に吸収され、放射線源から被写体を通して直線的に放射線検出器に進む放射線(以下、直接線という。)のみが透過して放射線検出器に到達する。
【0004】
ところで、近年では診断をより行い易くするため、被写体に異なる2つ以上の方向から放射線を照射して被写体を透過した放射線を放射線検出器によりそれぞれ検出し、互いに視差のある放射線画像を取得することにより、立体視可能な放射線画像を撮影する放射線撮影装置が知られている。
【0005】
このような立体視可能な放射線画像を撮影できる放射線装置に、通常撮影に使用される平面視用の散乱線吸収グリッド(以下、通常撮影用のグリッドという。)を使用すると、放射線源が上記の基準位置からずれて放射線を照射する場合、放射線の照射方向と遮蔽部材の配置がずれているため、直接線の一部が遮蔽部材によってけられてしまう。
【0006】
また、立体視可能な放射線画像の撮影においては、一方の放射線画像を平面視用の通常撮影された放射線画像としても利用したいため、互いに視差を有する放射線画像のうち、一方の放射線画像を被写体に対して略垂直方向から臨む基準位置、他方の放射線画像をこの基準位置から所定角度ずれた参照位置から放射線をそれぞれ照射して撮影されることがある。
【0007】
すなわち、グリッド裏面の中央位置と基準位置とを結ぶ方向と、グリッド裏面の中央位置と参照位置とを結ぶ方向との中間方向が、グリッド表面に垂直な方向と交差するように撮影される。したがって、通常撮影用のグリッドでは、他方の放射線画像の撮影においてけられが多くなり、他方の放射線画像の画質が一方の放射線画像の画質よりも劣化してしまう。
【0008】
立体視用の放射線画像を撮影する際に、2つの照射方向から照射された放射線のうち、グリッドを透過する直接線を同等にするために、特許文献1には、複数のX線源を備えた放射線撮影装置に使用されるグリッドであって、X線源の配列方向と直交する方向に間隔をあけて配置された遮蔽部材から構成される散乱線吸収グリッドが提案されている。また、特許文献2には、グリッド内に放射線吸収材料からなるくさび形のブロックを有す散乱線吸収グリッドが提案されている。また、特許文献3には、放射線源の位置に応じて遮蔽部材が可動する散乱線吸収グリッドが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−233962号公報
【特許文献2】特開2005−13311号公報
【特許文献3】特開2009−183373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に提案されている散乱線吸収グリッドでは、被写体を通して視差方向成分を含む斜めの方向に散乱された散乱線を除去できないため、このような散乱線吸収グリッドを用いて撮影された立体視用の放射線画像は、視差方向の鮮鋭度が低くなり、立体視がしずらくなる虞がある。また、特許文献2に提案されている散乱線吸収グリッドでは、ブロック状の遮蔽部材によって放射線を吸収するため、吸収される直接線の量が多くなり、直接線の透過率が低減する虞がある。また、特許文献3に提案されている散乱線吸収グリッドでは、遮蔽部材を可動させる機構が必要となり、グリッド自体の大型化する虞がある。
【0011】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、その中間方向がグリッド表面に垂直な方向と交差する2つの照射方向から放射線を照射する立体視可能な放射線画像の撮影において、視差方向成分を含む散乱線を除去しつつ、直接線の透過率の低下およびグリッド自体の大型化を回避して両方向の直接線の透過率が同等となる散乱線吸収グリッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の散乱線吸収グリッドは、放射線吸収材料からなる複数の遮蔽部材がそれぞれの間に所定の間隔をあけて配置された散乱線吸収グリッドであって、その中間方向が散乱線吸収グリッドの表面に直交する方向と交差する2つの照射方向から放射線が照射されるものであり、複数の遮蔽部材が、板状部材であって中間方向を表面に投影した投影方向に間隔をあけて配置され、且つ一方の照射方向から照射された放射線のうち間隙を透過する放射線の割合と、他方の照射方向から照射された放射線のうち間隙を透過する放射線の割合とが同等となるように配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の散乱線吸収グリッドにおける「照射方向」とは、本発明の散乱線吸収グリッドに向けて放射線を照射する放射線源と散乱線吸収グリッド裏面の中央位置とを結ぶ方向を意味する。また、上記「中間方向」とは、2つの照射方向を含む平面において、2つの照射方向のなす角度を等分する方向を意味する。また、上記「透過する放射線の割合」とは、放射線源から照射された放射線の全線量に対する間隙を透過した放射線の全線量、すなわち透過率を意味する。上記「同等」とは、両照射方向の透過率が厳密に等しくなる意味に限定されず、両照射方向の透過率のうち、大きい透過率に対する小さい透過率が90%以上100%以下となることを含む意味である。
【0014】
また、本発明の散乱線吸収グリッドは、各遮蔽部材が、中間方向の軸上の1点に向けて収束するように、傾けて配置されているものであってもよい。また、本発明の散乱線吸収グリッドは、2つの照射方向から照射された放射線を検出する放射線検出器の表面に一体化されているものであってもよい。また、本発明の散乱線吸収グリッドは、一方の照射方向と他方の照射方向とのなす角度が、2°〜8°の範囲であってもよく、一方の照射方向が表面に直交する方向であってもよく、他方の照射方向が、表面に直交する方向とのなす角度が4°であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の散乱線吸収グリッドによれば、その中間方向が散乱線吸収グリッドの表面に直交する方向と交差する2つの照射方向から放射線が照射された際、複数の遮蔽部材が、板状部材であって中間方向を表面に投影した投影方向に間隔をあけて配置され、且つ一方の照射方向から照射された放射線のうち間隙を透過する放射線の割合と、他方の照射方向から照射された放射線のうち間隙を透過する放射線の割合とが同等となるように配置されている。したがって、視差方向成分を含む斜め方向に散乱された散乱線は遮蔽部材に入射して吸収される。また、遮蔽部材が板状部材であるため、グリット板材に入射する直接線は減少する。また、遮蔽部材を可動させる必要がないため、グリッド自体が大型化することもなく両照射方向の透過率を同等にできる。
【0016】
また、本発明の散乱線吸収グリッドによれば、各遮蔽部材が、中間方向の軸上の1点に収束するように、傾けて配置されているため、より精度良く両照射方向の透過率を同等にできる。
【0017】
また、本発明の散乱線吸収グリッドは、2つの照射方向から照射された放射線を検出する放射線検出器の表面に一体化されているため、長時間の使用に伴う散乱線吸収グリッドと放射線検出器との位置ずれを回避でき、精度良く両照射方向の透過率を同等にできる。
【0018】
また、本発明の散乱線吸収グリッドによれば、一方の照射方向と他方の照射方向とのなす角度が2°〜8°の範囲であるため、観察者が立体視可能な放射線画像の撮影において、両照射方向の透過率を同等にできる。
【0019】
また、本発明の散乱線吸収グリッドによれば、一方の照射方向が、散乱線吸収グリッドの表面に直交するものであるため、一方の照射方向の撮影による放射線画像を平面視用の放射線画像として利用できる放射線撮影において、両照射方向の透過率を同等にできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】放射線画像撮影表示システムの概略構成図
【図2】放射線画像撮影装置の一部正面図
【図3】コンピュータの構成を示すブロック図
【図4】散乱線吸収グリッドの構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の散乱線吸収グリッドの一実施形態を用いた放射線画像撮影表示システムの概略構成図である。放射線画像撮影表示システム100は、図1に示すように、放射線画像撮影装置1、放射線画像撮影装置1に接続されたコンピュータ2、コンピュータ2に接続されたモニタ3および入力部4を備えている。
【0022】
最初に、放射線画像撮影装置について図1および図2を用いて説明する。図2は放射線画像撮影装置の一部正面図である。放射線画像撮影装置1は、被写体として乳房Mの立体視可能な放射線画像を撮影するものであり、図1に示すように、基台11、基台11に対し上下方向(Z方向)に移動可能であり、かつ回転可能な回転軸12および回転軸12により基台11と連結されたアーム部13を備えている。
【0023】
アーム部13はアルファベットのCの形をしており、その一端には撮影台14が、その他端には撮影台14と対向するように放射線照射部16が取り付けられている。アーム部13の回転および上下方向の移動は、基台11に組み込まれたアームコントローラ31により制御される。
【0024】
撮影台14の内部には、フラットパネルディテクタ等の放射線検出器15と、放射線検出器15からの電荷信号の読み出しを制御する検出器コントローラ33と、乳房Mによって散乱された散乱線を除去する散乱線吸収グリッド50とを備えていている。そして、撮影台14の内部には、放射線検出器15から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部などが設けられた回路基板なども設置されている。また、撮影台14はアーム部13に対し回転可能に構成されており、基台11に対してアーム部13が回転した時でも、撮影台14の向きは基台11に対し固定された向きとすることができる。
【0025】
放射線検出器15は、検出面15aに照射された放射線を検出するものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線画像検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線画像検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチをオン・オフされることによって放射線画像信号が読み出される、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0026】
散乱線吸収グリッド50は、乳房Mで散乱された散乱線を吸収するものであり、放射線検出器15の検出面15a上に放射線検出器15と一体化して配置されている。散乱線吸収グリッド50の詳細な構造については後述する。
【0027】
放射線照射部16の内部には放射線源17と、放射線源コントローラ32が格納されている。放射線源コントローラ32は、放射線源17から放射線を照射するタイミングと、放射線源17における放射線発生条件(管電流(mA)、照射時間(ms)、管電圧(kV)等)を制御するものである。
【0028】
また、アーム部13の中央部には、撮影台14の上方に配置されて乳房Mを押さえつけて圧迫する圧迫板18と、その圧迫板18を支持する支持部20と、支持部20を上下方向(Z方向)に移動させる移動機構19が設けられている。圧迫板18の位置、圧迫圧は、圧迫板コントローラ34により制御される。
【0029】
次にコンピュータ2について説明する。図3はコンピュータ2の概略構成を示すブロック図である。コンピュータ2は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリやハードディスクやSSD等のストレージデバイスなどを備えており、これらのハードウェアによって、図3に示すような制御部2a、放射線画像記憶部2bおよび表示制御部2cから構成されている。制御部2aは、各種のコントローラ31〜34に対して所定の制御信号を出力し、装置全体の制御を行うものである。具体的な制御方法については後述する。
【0030】
放射線画像記憶部2bは、互いに異なる2つの撮影方向からの撮影によって放射線検出器15によって検出された2枚の放射線画像を記憶するものである。表示制御部2cは、放射線画像記憶部2bから読み出された2枚の放射線画像に対して所定の処理を施した後、モニタ3に乳房Mの立体視画像を表示させるものである。
【0031】
次にモニタについて説明する。モニタ3は、コンピュータ2から出力された2つの放射線画像を用いて立体視可能な放射線画像を表示するように構成されたものである。モニタ3の表示の方式としては、たとえば、2つの画面を用いて2つの放射線画像をそれぞれ表示させて、これらをハーフミラーや偏光グラス等を用いることで一方の放射線画像は観察者の右目に入射させ、他方の放射線画像は観察者の左目に入射させることによって立体視画像を表示する方式を採用することができる。
【0032】
また、2つの放射線画像を重ね合わせ、これを偏光グラスで観察することで立体視画像を表示する方式を用いてもよい。さらに、モニタ3を3D液晶により構成し、パララックスバリア方式およびレンチキュラー方式のように、2つの放射線画像を立体視可能な方式を用いてもよい。
【0033】
次に入力部について説明する。入力部4は、たとえば、キーボードやマウス等のポインティングデバイスから構成されるものであり、撮影者による撮影条件等の入力や撮影開始指示の入力等を受け付けるものである。
【0034】
再び図2を用いて放射線画像撮影表示システム100の作用について説明する。まず、撮影台14の上に乳房Mが設置され、圧迫板18により乳房Mが所定の圧力によって圧迫される。そして、入力部4おいて、撮影者による撮影の指示が入力されて撮影を開始する。制御部2aが、第1の撮影角度θ1および第2の撮影角度θ2をそれぞれ読み出し、読み出した第1および第2の撮影角度θ1,θ2の情報をアームコントローラ31に出力する。
【0035】
ここで、撮影角度θとは、撮影方向と検出面15aに対して直交する方向Vとのなす角度であり、撮影方向とは、放射線源17の位置と検出面15aの中央位置とを結ぶ方向である。また、散乱線吸収グリッド50への放射線の照射方向とは、放射線源17の位置と散乱線吸収グリッド50の裏面の中央位置とを結ぶ方向である。前述のとおり、散乱線吸収グリッド50は、放射線検出器15と一体化されているため、散乱線吸収グリッド50の裏面の中央位置と検出面15aの中央位置と一致する。すなわち照射方向は撮影方向と一致するものである。
【0036】
また、第1の撮影角度θ1に基づく撮影方向を第1の撮影方向D1、第2の撮影角度θ2に基づく撮影方向を第2の撮影方向D2とする。ここで、第1の撮影方向D1は、診断し易くするとともに平面視用の放射線撮影画像として利用可能にするため、第1の撮影角度θ1が0°近傍、たとえば0°〜2°程度の値に設定される。また、第2の撮影方向D2は第1の撮影方向D1よりも傾くため、第2の撮影角度θ2は第1の撮影角度θ1よりも大きな値に設定される。
【0037】
すなわち、第1の撮影方向D1と第2の撮影方向D2との中間方向D3が検出面15aに対して直交する方向Vと交差する。ここで、中間方向D3は、2つの撮影方向D1,D2を含む平面において、2つの照射方向D1,D2のなす角度を等分する方向である。
【0038】
本実施形態では、第1の撮影角度θ1として0°、第2の撮影角度θ2として4°がそれぞれデフォルトで設定されているが、第2の撮影角度θ2が第1の撮影角度θ1よりも大きければ特に限定されるものではなく、2枚の放射線画像が立体視可能な視差を有するよう、第1の撮影方向D1と第2の撮影方向D2とのなす角度が2°〜°となるように設定されていればよい。
【0039】
アームコントローラ31が、第1の撮影角度θ1の情報を受け取り、図2の実線で示すような、アーム部13が検出面15aに対して垂直となる制御信号を出力する。アーム部13が、制御信号を受け取り、検出面15aに対して垂直な姿勢となる。この第1の撮影角度θ1に基づいた放射線源17の位置をP1とする。制御部2aは、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ33に対して放射線の照射と放射線画像信号の読出を行う制御信号を出力する。
【0040】
この制御信号に応じて、放射線源17が乳房Mに第1の撮影方向D1から放射線を照射する。散乱線吸収グリッド50が乳房Mで散乱された散乱線を吸収する。放射線検出器15が、乳房Mで散乱されず直線的に検出面15aに入射した放射線を検出する。放射線検出器15から放射線画像信号が読み出され、制御部2aが放射線画像信号をモニタ3に送信する。
【0041】
アームコントローラ31が、第2の照射角度θ2の情報を受け取り、図2の二点鎖線で示すような、アーム部13が検出面15aの垂直方向に対して4°傾いた姿勢となる制御信号を出力する。この第2の照射角度θ2に基づいた放射線源17の位置をP2とする。制御部2aは、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ33に対して放射線の照射と放射線画像信号の読出を行う制御信号を出力する。
【0042】
この制御信号に応じて、放射線源17が乳房Mに第2の照射方向D2で放射線を照射する。散乱線吸収グリッド50が乳房Mで散乱された散乱線を吸収する。放射線検出器15が、乳房Mで散乱されず、直線的に検出面15aに入射する放射線を検出する。放射線検出器15から放射線画像信号が読み出され、制御部2aが放射線画像信号をモニタ3に送信する。
【0043】
モニタ3が、観察者が乳房Mの放射線画像を立体視できるよう、放射線画像信号に基づいて2枚の放射線画像をそれぞれ表示する。モニタ3は撮影条件、患者情報等を表示する。
【0044】
本発明の一実施形態である散乱線吸収グリッド50について説明する。図4は散乱線吸収グリッド50の概略構成図である。散乱線吸収グリッド50は、図4に示すように、放射線吸収材料からなる複数の遮蔽部材51と、放射線透過材料からなる充填材52とから主に構成されている。図4においては、撮影台14、放射線検出器15、放射線源17および散乱線吸収グリッド50についてのみ図示し、他の部材については省略している。また、図4においては、乳房Mは撮影台14に設置されていない。
【0045】
遮蔽部材51は、厚さが0.1mm程度、高さが3〜15mm程度、幅が450mm程度の板状部材であり、粉体状の単体、または粉体状の鉛酸化物、ビスマス化合物、あるいは他の重金属化合物などを溶液に混合して有機ポリマーを結合材(バインダ)とする溶液にして、この溶液を平面上に塗布して薄板に形成した材料や、鉛箔、タンタル、ビスマス等の薄板の単体材料によって形成されている。充填材52には、発泡性樹脂、たとえば発泡ポリスチレン、発泡ポリプロポピレン、発泡ポリウレタン等で形成されている。
【0046】
散乱線吸収グリッド50は、所定の間隔をあけて形成されている複数の係止溝を有する不図示の支持部材を備えている。この複数の係止溝に各遮蔽部材51を挿入して係止させることで各遮蔽部材51が所定の間隙をあけて配置される。各遮蔽部材51は、中間方向D3(図2)をグリッドの表面に投影した投影方向に所定の間隔をあけて配置される。
【0047】
また、各係止溝は所定の傾きを有しており、第1の撮影方向D1から放射線を照射した際の透過率と、第2の撮影方向D2から放射線を照射した際の透過率とが同等となるよう、各遮蔽部材51が傾いて立設している。各遮蔽部材51は、第1の撮影方向D1の透過率に対する第2の撮影方向の透過率が90〜100%程度となるように、傾いて立設している。充填材52が各遮蔽板材51の間隙を充填する。
【0048】
各遮蔽部材51は、図4に示すように、第1の撮影位置P1と第2の撮影位置P2との中間位置P3にある放射線源17に収束するように傾いて配置されている。ここで、中間位置P3は、散乱線吸収グリッド50の裏面の中央位置を通る中間方向D3の軸線上の1点である。各遮蔽部材51は、中間位置P3にある放射線源17から直線的に放射線検出器15に入射する直接線Rを吸収しないように配置されている。
【0049】
このように、散乱線吸収グリッド50は、放射線吸収材料からなる複数の遮蔽部材51がそれぞれの間に所定の間隔をあけて配置されたものであって、複数の遮蔽部材51が、散乱線吸収グリッド50の表面に直交する方向に対して傾いた方向であって、散乱線吸収グリッド50の裏面の中央位置を通る軸線上の1点に収束するように配置されたものである。
【0050】
上記の実施形態によれば、各遮蔽部材51が、中間方向D3を散乱線吸収グリッド50の表面に投影した投影方向に間隔をあけて配置され、第1の撮影方向D1から放射線を照射した際の透過率と、第2の撮影方向D2から放射線を照射した際の透過率とが同等となるように配置されているため、視差方向成分を含む斜め方向に散乱された散乱線も遮蔽部材51に入射するため吸収できる。また、遮蔽部材51が板状部材であるため、遮蔽部材51に入射する直接線Rを低減できる。また、遮蔽部材51を可動させることなく両照射方向D1,D2の直接線Rの透過率を同等にできる。
【0051】
また、上記の実施形態によれば、各遮蔽部材51が、第1および第2の撮影方向D1,D2の中間方向D3に収束するように傾けて配置されることにより、第1の撮影方向D1の直接線Rの入射方向と各遮蔽部材51の立設方向とのずれが、第2の撮影方向D2の直接線Rの入射方向と各遮蔽部材51の立設方向とのずれと等しくなり、より精度良く両撮影方向D1,D2の直接線Rの透過率を同等にできる。
【0052】
また、上記の実施形態によれば、散乱線吸収グリッド50は、放射線検出器15と一体化されているため、長時間の使用に伴う散乱線吸収グリッドと放射線検出器との位置ずれを回避でき、精度良く両照射方向の透過率を同等にできる。また、上記の実施形態によれば、両方の撮影方向D1,D2とのなす角度が2°〜8°の範囲であるため、観察者が立体視可能な放射線画像の撮影において、両照射方向の透過率を同等にできる。また、上記の実施形態によれば、第1の撮影角度θ1が0°であるため、第1の撮影方向D1で撮影された放射線画像を平面視用の放射線画像として利用できる放射線撮影においても、両撮影方向D1,D2の直接線Rの透過率を同等にできる。
【0053】
なお、上記の実施系形態において、被写体を乳房Mとして説明したが、特に限定されるものではなく、肺や胃等の部位を撮影するものであってもよい。また、上記の実施形態において、散乱線吸収グリッド51が異なる2つの撮影方向から放射線を照射して撮影する放射線撮影装置に適用して説明したが、特に限定されるものではなく、トモシンセシス撮影、CT撮影に適用するものであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
D1 第1の撮影方向(一方の照射方向)
D2 第2の撮影方向(他方の照射方向)
D3 中間方向
50 散乱線吸収グリッド
51 遮蔽部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線吸収材料からなる複数の遮蔽部材がそれぞれの間に所定の間隔をあけて配置された散乱線吸収グリッドであって、
その中間方向が前記散乱線吸収グリッドの表面に直交する方向と交差する2つの照射方向から放射線が照射されるものであり、
前記複数の遮蔽部材が、板状部材であって前記中間方向を前記表面に投影した投影方向に前記間隔をあけて配置され、且つ一方の照射方向から照射された放射線のうち前記間隙を透過する放射線の割合と、前記他方の照射方向から照射された放射線のうち前記間隙を透過する放射線の割合とが同等となるように配置されていることを特徴とする散乱線吸収グリッド。
【請求項2】
前記各遮蔽部材が、前記中間方向の軸上の1点に収束するように、傾けて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の散乱線吸収グリッド。
【請求項3】
前記2つの照射方向から照射された放射線を検出する放射線検出器の表面に一体化されていることを特徴とする請求項1または2に記載の散乱線吸収グリッド。
【請求項4】
前記一方の照射方向と前記他方の照射方向とのなす角度が、2°〜8°の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の散乱線吸収グリッド。
【請求項5】
前記一方の照射方向が、前記表面に直交する方向であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の散乱線吸収グリッド。
【請求項6】
前記他方の照射方向が、前記表面に直交する方向とのなす角度が4°であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の散乱線吸収グリッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205782(P2012−205782A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73863(P2011−73863)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】