整相システム、整相装置及び整相プログラム
【課題】変形したえい航型ラインアレイの形状を推定することができ、推定したえい航型ラインアレイの形状から指向性を補償した整相処理を行なうことができるようにする。
【解決手段】本発明の整相システムは、複数の受波器及びセンサを備えるラインアレイと、整相装置とを備え、整相装置が、センサからのセンサ情報及びえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、複数の受波器からの受波信号に対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与して受波信号の位相を整相する整相処理手段とを有する。
【解決手段】本発明の整相システムは、複数の受波器及びセンサを備えるラインアレイと、整相装置とを備え、整相装置が、センサからのセンサ情報及びえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、複数の受波器からの受波信号に対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与して受波信号の位相を整相する整相処理手段とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整相システム、整相装置及び整相プログラムに関し、例えば、えい航型のラインアレイが備える複数の受波器からの受波信号に対して整相処理を行なう整相システム、整相装置及び整相プログラムに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、目標を探知するために、えい航船は、ケーブルに複数の受波器を配列させたラインアレイをえい航し、各受波器からの受波信号を整相することにより、目標の存在、方位等を検出している。
【0003】
従来のえい航型ラインアレイの整相処理では、えい航船の変針等によってラインアレイが変形した場合、ラインアレイの形状を直線として整相処理のために、複数の受波器からの受波信号のそれぞれに対して遅延時間を算出し、これを付与している。
【0004】
しかし、遅延時間が付与された受波信号に対する整相出力は方位のずれや信号レベルの劣化が生じ得、又整相処理は、長時間に亘って受波信号を用いて積分処理を行なっているので、ラインアレイが変形した場合には、変化前と変化後との整相出力が影響するので正しく方位を検出できず、実用に供することができないという問題がある。
【0005】
特許文献1には、このような問題を解決する技術が記載されている。以下では特許文献1の記載技術を簡単に説明する。図2は、特許文献1に記載の技術を説明する説明図である。
【0006】
図2では、えい航船91が、えい航ケーブル92に複数の受波器94−1〜94−Nが配列されたラインアレイをえい航している場合を示している。
【0007】
特許文献1の記載技術は、図2に示すように、受波器94−1〜94−Nの位置にコンパス93−1〜93−Nを設定し、各コンパス93−1〜93−Nの出力と、既知である受波器94−1〜94−N間の間隔とを用いて、各受波器94−1〜94−Nの座標を求めて、ラインアレイが変形した場合の受波器94−1〜94−Nに与える遅延時間を算出することとしている。
【0008】
この技術によって、ラインアレイが変形した場合の形状を求め、そこから整相処理における遅延時間を算出することができるので、ラインアレイが非直線状となっても整相方位を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−261727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の記載技術は、受波器の数だけコンパスが必要となる。一般的に受波器は非常に多数配列させるため、非常に多数のコンパスをえい航型ラインアレイに内蔵する必要があり、製造上の面から実用性に欠けたものとなり得る。
【0011】
そのため、実用面を考慮して、えい航型ラインアレイが変形した場合に、指向性を補償した整相処理のため、変形したえい航型ラインアレイの形状を推定することができ、そのラインアレイの形状を利用して整相処理を行なえる整相システム、整相装置及び整相プログラムが求められている。
【0012】
そこで、本発明は、えい航型ラインアレイの形状を求めるためのセンサとして、コンパス、及び、深度センサ若しくは傾斜センサを用い、それらセンサからの出力に対して時間遅延を与えることによって、えい航型ラインアレイの任意の位置における疑似コンパス出力、及び、疑似深度センサ出力若しくは疑似傾斜センサ出力を生成する。そして、実際の出力に加え、これらの疑似出力を用いてえい航型ラインアレイの変形した形状を推定し、その形状を用いてえい航型ラインアレイが変形したときの整相システム、整相装置及び整相プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の整相システムは、(A)えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと、(B)複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置とを備え、整相装置が、(1)センサからのセンサ情報及びえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、(2)疑似出力生成手段からの複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、(3)複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段とを有することを特徴とする。
【0014】
第2の本発明の整相装置は、えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置において、(1)センサからのセンサ情報又はえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、(2)疑似出力生成手段からの複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、(3)複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
第3の本発明の整相プログラムは、えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置を、(1)センサからのセンサ情報又はえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段、(2)疑似出力生成手段からの複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段、(3)複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、えい航型のラインアレイが変形した場合に、変形したえい航型ラインアレイの形状を推定することができ、その推定したえい航型ラインアレイの形状を利用して、指向性を補償した整相処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態のえい航船が備える音波探知装置の構成を示す構成図である。
【図2】従来の音波探知装置における整相処理を説明する説明図である。
【図3】第1の実施形態の整相装置の内部構成を示す内部構成図である。
【図4】第1の実施形態の疑似コンパス出力生成部の内部構成を示す内部構成図である。
【図5】第1の実施形態の疑似コンパス生成部の出力を説明する説明図である。
【図6】第1の実施形態のラインアレイ形状推定部の内部構成を示す内部構成図である。
【図7】第1の実施形態の疑似コンパス生成処理を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施形態のラインアレイ形状推定処理を示すフローチャートである。
【図9】第1の実施形態のシミュレーションに係るえい航型ラインアレイの模式図である。
【図10】第1の実施形態のシミュレーションにおける整相結果を示す図である。
【図11】第2の実施形態の疑似コンパス出力生成部の構成を示す構成図である。
【図12】第2の実施形態のシミュレーションに係るえい航型ラインアレイの模式図である。
【図13】第2の実施形態のシミュレーションにおける整相結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(A)第1の実施形態
以下では、本発明の整相システム、整相装置及び整相プログラムの第1の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0019】
第1の実施形態では、ラインアレイをえい航するえい航船が備える音波探知装置に、本発明を適用した場合の実施形態を例示する。
【0020】
(A−1)第1の実施形態の構成
(A−1−1)全体構成
図1は、第1の実施形態のえい航船が備える音波探知装置の構成を示す構成図である。
【0021】
図1に示すように、第1の実施形態の音波探知装置7は、えい航船2が備える信号処理装置1と、えい航ケーブル3にコンパス4及び受波器5−1〜5−N(Nは正の整数)が配置されたえい航型ラインアレイ6とを少なくとも有して構成される。
【0022】
えい航船2は、えい航型ラインアレイ6をえい航する船舶や潜水艦等である。えい航船2は、えい航型ラインアレイ6と接続する信号処理装置1を備える。また、えい航船2は、えい航船2の方位を測定するコンパス等の方位測定手段(図示しない)を備えている。
【0023】
信号処理装置1は、えい航ケーブル3を通じてコンパス4からコンパス方位情報(以下ではコンパス方位ともいう)と、受波器5−1〜5−Nから受波信号とを受け取り、これらコンパス方位及び受波信号を用いて整相処理を行ない、整相出力を用いて目標の存在や方位等(例えば、方位、深度、傾斜度など)を検出するものである。また、信号処理装置1は、構成要素の1つとして整相装置(図1には図示しない)を有する。この整相装置の構成及び動作については後述する。
【0024】
えい航型ラインアレイ6は、えい航船2により、例えば水中、水面などをえい航されるものである。えい航型ラインアレイ6は、えい航ケーブルを通じて信号処理装置2と接続しており、コンパス4のコンパス方位、受波器5−1〜5−Nの受波信号を信号処理装置2に与えるものである。
【0025】
受波器5−1〜5−Nは、受波した音波信号を電気信号に変換する素子であり、変換した電気信号を受波信号として信号処理装置1に与えるものである。受波器5−1〜5−Nは、えい航ケーブル3上に所定間隔でN個配置されている。また、受波器5−1〜5−Nの配置間隔は、既知の情報として信号処理装置1に設定されている。なお、受波器5−1〜5−Nは、種々の受波器を適用することができ、例えば、圧電素子、磁歪素子、マイクロフォン等を適用することができる。
【0026】
コンパス4は、方位を求めるものであり、測定したコンパス方位を信号処理装置1に与えるものである。コンパス4は、受波器5−1〜5−Nよりも、えい航船2側に設置されている。また、コンパス4の設置位置は、既知の情報として信号処理装置1に設定されている。なお、コンパス4は、種々のものを適用することができ、例えば、磁針とロータリエンコーダなどから構成されるものや、ジャイロコンパスなどを適用することができる。
【0027】
(A−1−2)整相装置の内部構成
図3は、第1の実施形態の整相装置10の内部構成を示す内部構成図である。図3において、第1の実施形態の整相装置10は、疑似コンパス出力生成部11、ラインアレイ形状推定部12、整相処理部13、位置情報記憶部14を少なくとも有して構成される。
【0028】
位置情報記憶部14は、コンパス4の位置情報と、疑似コンパス出力の位置の間隔情報とを記憶するものである。例えば、コンパス4の位置情報としてはえい航船2からのコンパス4までの距離を記憶する。また例えば、疑似コンパス出力の位置としては、コンパス4と次の疑似コンパス出力の位置との間の距離と、疑似コンパス出力位置間の間隔とを示す距離を記憶する。これにより、疑似コンパス出力の位置(疑似コンパス出力算出位置)を得ることができる。また、位置情報記憶部14は、各受波器5−1〜5−Nの位置情報も記憶する。例えば、えい航型ラインアレイ6の直線状態における各受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルとしても良い。
【0029】
疑似コンパス出力生成部11は、コンパス4の位置から所定距離ずつ後方にある複数(例えばk個)の位置を疑似コンパス出力算出位置とし、コンパス4からのコンパス方位θcを用いて複数の疑似コンパス出力算出位置における疑似的なコンパス出力θ1〜θkを生成するものである。
【0030】
疑似コンパス出力生成部11は、えい航船2の方位情報θsと、えい航型ラインアレイ6に設置したコンパス4から受け取ったコンパス方位θcとに基づいて、えい航船2の方位の変化開始時刻とえい航型ラインアレイ6に設置したコンパス4のコンパス出力の変化開始時刻との時間差τを算出するものである。なお、えい航船2の方位情報θsは、例えば、えい航船2が備えるコンパス等(図示しない)の出力を用いるようにしても良い。
【0031】
また、疑似コンパス出力生成部11は、算出した時間差τを用いて、コンパス4の位置から任意の距離だけ後方のk(kは正の整数)個の位置1〜kにおける方位を示す疑似コンパス出力θ1〜θkを生成するものである。
【0032】
ここで、疑似コンパス出力θ1〜θkの生成方法としては、例えば、えい航船2からコンパス4までの距離Lc、コンパス4から疑似コンパス出力を算出する位置までの距離L1〜Lk、そして上述の時間差τを用いて、各位置1〜kにおける遅延時間τ1〜τkを求める。疑似コンパス出力θ1〜θkは、これらコンパス出力θcに上述の方法から算出した遅延時間τ1〜τkを付与することにより生成する方法を適用することができる。
【0033】
ラインアレイ形状推定部12は、コンパス4からのコンパス出力θcと、疑似コンパス出力生成部11からの疑似コンパス出力θ1〜θkとに基づいて、えい航型ラインアレイ6の形状を推定するものである。
【0034】
ここで、えい航型ラインアレイ6は、コンパス4の位置情報、及び、疑似コンパス出力θ1〜θkを算出した位置1〜kによってk個の区間に分割される。このとき、コンパス4の位置は既知情報であり、また各位置1〜kの区間の長さも全て既知情報である。そこで、ラインアレイ形状推定部12は、各位置1〜kの区間の長さと、その区間の両端のコンパス出力又は疑似コンパス出力を用いて、えい航型ラインアレイ6の形状を求める。
【0035】
ラインアレイ形状推定部12は、最終的には、全ての受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルを示す受波器位置ベクトルP1〜Pnを算出し、これら全ての受波器位置ベクトルP1〜Pnを整相処理部13に与える。
【0036】
整相処理部13は、受波器5−1〜5−Nからの受波器出力(受波信号)S1〜SNと、ラインアレイ形状推定部12からの受波器位置ベクトルP1〜PNとを受け取り、それぞれの受波器位置ベクトルP1〜PNで音波を受波したときの遅延時間を算出し、各受波器5−1〜5−Nからの受波信号S1〜SNに対して対応する遅延時間を付与し、受波信号の位相を整相するものである。整相処理部13は、最終的には、M個(M方位)の整相出力B1〜BMを求める。
【0037】
(A−1−3)疑似コンパス出力生成部11の詳細な内部構成
図4は、疑似コンパス出力生成部11の詳細な内部構成を示す内部構成図である。
【0038】
図4において、疑似コンパス出力生成部11は、立ち上がり時刻検出部111、立ち上がり時刻検出部112、遅延時間算出部113、遅延時間生成部114、遅延時間付与部115を少なくとも有する。
【0039】
立ち上がり時刻検出部111は、えい航船2の方位θsを受け取り、えい航船2の方位θsの変化開始時刻tsを検出するものである。立ち上がり時刻検出部111は、検出した方位の変化開始時刻tsを、遅延時間算出部113に与える。
【0040】
また、立ち上がり時刻検出部112は、コンパス4からコンパス出力θcを受け取り、コンパス出力θcの変化開始時刻tcを検出するものである。立ち上がり時刻検出部112は、検出した方位の変化開始時刻tcを、遅延時間算出部113に与える。
【0041】
ここで、立ち上がり時刻検出部111及び112は、入力された方位を監視し、方位の標準偏差が閾値を超えた時刻を検出することができれば、種々の方法を広く適用することができる。
【0042】
例えば、立ち上がり時刻検出部111及び112は、式(1)に従って、入力された方位θの標準偏差σθを求め、方位の標準偏差σθが閾値σthを超えた時刻を、変化開始時刻とする。なお、閾値θthは、実用的な運用に応じて予め設定するようにしても良く、又必要に応じて変更できるようにしても良い。
【数1】
【0043】
ここで、Tは標準偏差算出のための時間幅である。立ち上がり時刻検出部111及び112は、式(1)に従って、えい航船2の方位θs及びコンパス4の方位θcの変化開始時間ts及びtcを求める。
【0044】
遅延時間算出部113は、立ち上がり時刻検出部111からえい航船2の方位の変化開始時刻tsと、立ち上がり時刻検出部112からコンパス4の方位の変化開始時刻tcとを受け取り、えい航船2の変化開始時刻tsとコンパス4の変化開始時刻tcとの差分を取り、えい航船2の方位の変化に対するコンパス方位の変化の遅延時間τを算出するものである。また、遅延時間算出部113は、求めた遅延時間τを遅延時間生成部114に与えるものである。
【0045】
遅延時間生成部114は、遅延時間算出部113から遅延時間τを受け取り、この遅延時間τを用いて、コンパス4から所定距離だけ後方に位置する疑似コンパス位置1〜kにおける遅延時間τ1〜τkを生成するものである。
【0046】
まず、遅延時間生成部114は、遅延時間τと、えい航船2の速度vとに基づいて、コンパス4が移動した距離LMVを求める。ここで、コンパス4の移動距離LMVは、式(2)を利用して求めることができる。
【数2】
【0047】
このとき、えい航船2が直進状態の場合、コンパス4は、えい航船2の軌跡に沿って移動する。従って、えい航船2とコンパス4との距離をL(このLはえい航ケーブル3の長さおよびコンパス4の位置情報等から計算されるものである)とすると、L=LMVとなる。しかしながら、えい航船2が変針等をした場合、えい航船2の移動に伴い、えい航型ラインアレイ6も移動する。このとき、えい航型ラインアレイ6上のコンパス4は、えい航船2の軌跡の内側を通ると考えられる。そのため、コンパス4の移動距離LMVは、えい航船とコンパス4との距離Lよりも小さくなると考えられる。
【0048】
そこで、遅延時間生成部114は、LとLMVとの比から係数α(=LMV/L)を求める。なお、Lはえい航船2の移動距離であり、vはえい航船2の速度であり、τは遅延時間であるから、遅延時間生成部114は、これらの設定値又は測定値を利用することで求めることができる。
【0049】
次に、遅延時間生成部114は、係数αを算出した後、任意の位置(疑似コンパス出力位置)1〜kに設置された疑似コンパス出力での遅延時間τ1〜τkを求める。
【0050】
ここで、疑似コンパス出力での遅延時間τ1〜τkは、次に示す関係式(3)を用いて求めることができる。
【0051】
式(3)は、疑似コンパス出力の算出位置L’と、えい航船2の方位変化の立ち上がりと疑似コンパス出力の変化の立ち上がりとの時間差τ’との関係を示す関係式を示す。
【数3】
【0052】
なお、疑似コンパス出力の算出位置L’は、位置情報記憶部14に記憶されるコンパス4の位置及び受波器5−1〜5−N間の間隔距離を用いて、コンパス4の位置から各疑似コンパス出力の位置までの距離を求めることにより得られる。
【0053】
遅延時間付与部115は、コンパス出力θcと、遅延時間生成部114により求められた各疑似コンパス出力の位置に対する遅延時間τ1〜τkとを受け取り、コンパス出力θcの変化開始時刻tcに遅延時間τ1〜τkを付与して、疑似コンパス出力の位置に対する疑似コンパス出力θ1〜θkを求めるものである。また、遅延時間付与部115は、疑似コンパス出力θ1〜θkをラインアレイ形状推定部12に与える。
【0054】
図5は、疑似コンパス出力生成部11から出力される疑似コンパス出力θ1〜θkの出力イメージを説明する説明図である。
【0055】
図5(a)及び図5(b)は、えい航船2の方位の変化開始時刻及びコンパス4の方位の変化開始時刻の検出を示し、図5(c)は、疑似コンパス出力生成部11からの疑似コンパス出力θ1〜θkを示す。
【0056】
図5(a)及び図5(b)に示すように、立ち上がり時刻検出部111が、えい航船2の方位θsの変化開始時刻tsを検出し、その後、立ち上がり時刻検出部112が、コンパス4の方位θcの変化開始時刻tcを検出する。遅延時間算出部113では、この変化開始時刻ts及びtcに基づいて、遅延時間τを求める。
【0057】
また、遅延時間生成部114では、係数α及び疑似コンパス出力の算出位置L’を式(3)に代入して、各疑似コンパス出力位置での遅延時間τ1〜τkを求める。
【0058】
そして、図5(c)に示すように、遅延時間付与部115が、コンパス4の変化開始時刻tcに各遅延時間τ1〜τkを付与することにより、各疑似コンパス出力θ1〜θkを出力する。
【0059】
(A−1−4)ラインアレイ形状推定部12の詳細な内部構成
図6は、ラインアレイ形状推定部12の内部構成を示す内部構成図である。図6に示すように、ラインアレイ形状推定部12は、ラインアレイ形状算出部121、受波器位置ベクトル算出部122を有する。
【0060】
ラインアレイ形状算出部121は、コンパス出力θcと、疑似コンパス出力生成部11から疑似コンパス出力θ1〜θkとを受け取り、ラインアレイ形状を推定するものである。
【0061】
例えば、ラインアレイ形状算出部121は、位置情報記憶部14からえい航船2からコンパス4までの距離を取り出し、えい航船2からコンパス4までの距離とコンパス出力θcとに基づいて、えい航船2の位置に対するコンパス4の位置を求めることができる。
【0062】
また、ラインアレイ形状算出部121は、位置情報記憶部14から各疑似コンパス出力の算出位置の間隔情報を取り出し、各疑似コンパス出力の算出位置の間隔と各疑似コンパス出力θ1〜θkとに基づいて、求めたコンパス4の位置に対する次の疑似コンパス出力の位置を求めることができ、これをk個の疑似コンパス出力位置まで繰り返すことで、ラインアレイ6の形状を推定する。
【0063】
受波器位置ベクトル算出部122は、ラインアレイ形状算出部121により推定されたラインアレイ6の形状と、直線状態のときの受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルとに基づいて、推定したラインアレイ形状上における全ての受波器5−1〜5−Nの受波器位置ベクトルP1〜PNを求めるものである。
【0064】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の整相処理の動作について図面を参照しながら説明する。
【0065】
えい航船2の方位θsと、えい航型ラインアレイ6上のコンパス4から出力されるコンパス方位θcとは、常時、整相装置10の疑似コンパス出力生成部11に入力される。
【0066】
図7は、疑似コンパス出力生成部11における処理を示すフローチャートである。
【0067】
疑似コンパス出力生成部11では、立ち上がり時刻検出部111が、えい航船2の方位θsの変化を監視しており、式(1)に従って求めた方位θsの標準偏差σθsが閾値σthを超えると、その時刻をえい航船2の方位の変化開始時刻tsとして検出する(ステップS101)。
【0068】
また、立ち上がり時刻検出部112は、コンパス4からのコンパス方位θcの変化を監視しており、式(1)に従って求めた方位θcの標準偏差σθcが閾値σthを超えると、その時刻をコンパス4の方位の変化開始時刻tcとして検出する(ステップS102)。
【0069】
なお、えい航船2の方位θsの標準偏差σθsに対する閾値と、コンパス4の方位θcの標準偏差σθcに対する閾値は、異なる値でも良い。
【0070】
疑似コンパス出力生成部11では、遅延時間算出部113が、変化開始時刻ts及びtcの差分を取り、えい航船2の方位に対するコンパス4の方位の変化の遅延時間τを算出する(ステップS103)。
【0071】
次に、遅延時間生成部114では、えい航船2の移動速度v及び遅延時間τを用いて、式(2)に従って、コンパス4の移動距離LMVを算出する(ステップS104)。
【0072】
そして、遅延時間生成部114では、ステップS104で求めたコンパス4の移動距離LMVとえい航船2とコンパス4との距離Lとの比(LMV/L)から係数αを算出する(ステップS105)。
【0073】
遅延時間生成部114は、係数αを算出すると、疑似コンパス算出位置と係数αとを用いて、式(3)の関係式を利用して各疑似コンパス出力算出位置における遅延時間τ1〜τkを求める(ステップS106)。
【0074】
そして、遅延時間付与部115が、コンパス4のコンパス方位θcの変化開始時間tcに対して、各疑似コンパス出力算出位置の遅延時間τ1〜τkを付与して、各疑似コンパス出力位置における疑似コンパス出力θ1〜θkを生成する(ステップS106)。
【0075】
上記のようにして生成された疑似コンパス出力θ1〜θkと、コンパス4からのコンパス方位θcとは、ラインアレイ形状推定部12に与えられる。
【0076】
図8は、ラインアレイ形状推定部12における処理を示すフローチャートである。
【0077】
ラインアレイ形状推定部12のラインアレイ形状算出部121では、例えば、位置情報記憶部14から取り出したえい航船2からコンパス4までの距離と、コンパス4の方位θcとに基づいて、えい航船2に対するコンパス4の位置を求め、さらにコンパス4と次の疑似コンパス出力位置との間の距離と当該疑似コンパス出力θ1と基づいて、コンパス4に対する当該疑似コンパス出力の位置を求める。そして、このような処理をk個の疑似コンパス出力について繰り返すことにより、えい航型ラインアレイ6の形状を推定する(ステップS201)。
【0078】
次に、受波器位置ベクトル122は、ラインアレイ形状算出部121が求めたラインアレイ形状と、直線状態の受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルとに基づいて、推定したラインアレイ形状に沿った全ての受波器5−1〜5−Nの受波器位置ベクトルを算出する(ステップS202)。
【0079】
上記のようにしてラインアレイ形状推定部12により求められた全ての受波器5−1〜5−Nの受波器位置ベクトルP1〜PNは、整相処理部13に与えられる。
【0080】
最後に、整相処理部13では、受波器位置ベクトルP1〜PNが入力されると、m番目の整相方位θBFmに対してn(1≦n≦N)番目の受波器出力(受波信号)Snに与える遅延時間τBF(m、n)を算出する。そして、受波器5−nからの受波器出力Snに対して遅延時間τBF(m、n)を付与して時間領域でずらし、整相方位ごとに加算し、受波器出力Snの位相を整相した整相出力を出力する。
【0081】
なお、整相処理部13において、遅延時間を周波数領域における位相差へ変換し、周波数領域整相処理を行っても良い。
【0082】
図9、図10を用いて、第1の実施形態のシミュレーションを説明する。図9は、第1の実施形態のシミュレーションで設定したえい航型ラインアレイ6の模式図である。
【0083】
図9に示すように、第1の実施形態では、えい航型ラインアレイ6の先頭に1台のコンパス4を設置している。また、コンパス4の後方に音響中心(目標)があるとする。
【0084】
図10は、えい航船2がえい航ラインアレイ6をえい航し、90度変針した場合の、ある時刻の整相結果を示す図である。なお、北を0度とし、時計回りを正とする。図10において、横軸は整相方位(deg)を表し、縦軸は整相出力のビームレベル(dB)を表す。また、120度に目的が存在するものとする。
【0085】
図10(a)は、えい航型ラインアレイのアレイ部が直線であるとしたときの整相の結果である。えい航型ラインアレイのアレイ部が直線であるという仮定は、一般的なえい航型ラインアレイでよく適用される。この図から、一般的なえい航型ラインアレイに対する整相処理では、整相の結果に明確なピークが現れず、目標を検出できないことがわかる。
【0086】
一方、図10(b)は、第1の実施形態のえい航型ラインアレイ6により複数の疑似コンパス出力θ1〜θkを生成し、その値から受波器位置ベクトルを算出し、整相処理を実施した結果である。この結果では、整相方位120度に明確なピークが現れていることが確認できる。
【0087】
以上から、アレイの前方にコンパス4が設置された場合、各受波器出力が、アレイ前方のコンパス出力の時間遅延によって表される仮定が成り立つ場合、第1の実施形態で提案する方法が有効であることが確認できた。
【0088】
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、えい航型ラインアレイ6が1台のコンパス4を備えるものであり、このコンパス4からのコンパス方位を利用して複数の疑似コンパス出力を生成し、コンパス出力及び複数の疑似コンパス出力を用いてラインアレイ形状を推定し、推定したラインアレイ形状に沿った受波器5−1〜5−Nの位置を対応付けることで、各受波器出力に対して指向性を補償した整相処理を行うことができる。
【0089】
(B)第2の実施形態
次に、本発明の整相システム、整相装置及び整相プログラムの第2の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0090】
(B−1)第2の実施形態の構成
第1の実施形態では、コンパスがえい航型ラインアレイの先頭側に設置されている場合を説明した。これに対して、第2の実施形態では、コンパスがえい航型ラインアレイの最後尾に設置されている場合の任意の位置における疑似コンパス出力の生成方法について示す。なお、疑似コンパス出力を用いた整相処理の方法については、第1の実施形態と同様である。
【0091】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、えい航型ラインアレイの後尾にコンパスが設けられていることと、整相装置の疑似コンパス出力生成部の処理である。
【0092】
それ以外の構成要素は、第1の実施形態と同様であるので、以下では、第2の実施形態に特有の構成を中心に説明する。
【0093】
図11は、第2の実施形態の整相装置の疑似コンパス出力生成部の構成を示す構成図である。図11において、第2の実施形態の疑似コンパス出力生成部は、疑似コンパス出力生成部21、誤差算出部22、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23を少なくとも有する。
【0094】
疑似コンパス出力生成部21は、えい航船2の方位θsと、疑似コンパス出力算出位置CP1〜CPkと、コンパス4からの位置情報とを入力し、疑似コンパス出力θ1〜θkを生成して、図示しないラインアレイ形状推定部に与えるものである。
【0095】
また、疑似コンパス出力生成部21は、実際のコンパス4の位置における疑似コンパス出力を誤差算出部22に与え、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23により修正された疑似コンパス出力の生成パラメータを受け取り、この修正された生成パラメータを用いて、疑似コンパス出力θ1〜θkを生成する。
【0096】
誤差算出部22は、疑似コンパス出力生成部21から実際のコンパス4の位置における疑似コンパス出力と、コンパス4からのコンパス出力とを受け取り、実際のコンパス4位置の疑似コンパス出力とコンパス出力との差分を算出し、これを誤差として疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23に与えるものである。
【0097】
疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23は、誤差算出部22により求められた誤差を受け取り、疑似コンパス出力の生成パラメータを修正するものである。また、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23は、修正した生成パラメータを疑似コンパス出力生成部21に与える。
【0098】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、第2の実施形態の動作を図面を参照しながら説明する。
【0099】
まず、疑似コンパス出力生成部21には、えい航船2の方位θsと、k個の疑似コンパス出力算出位置CP1〜CPkと、コンパス4が設置されている実際の位置とが入力される。
【0100】
疑似コンパス出力生成部21は、上記の入力に基づいて、疑似コンパス出力θ1〜θkを生成すると共に、コンパス4の実際の位置に対する疑似コンパス出力も生成する。
【0101】
ここで、疑似コンパス出力の生成においては、まず、えい航船2の方位θsを用いて複数の疑似コンパス出力のモデル出力を求める。
【0102】
一般に、コンパス4からのコンパス出力θcは、えい航船2の方位θsよりも緩やかに変化するため、疑似コンパス出力生成部21は、えい航船の方位θsに対して積分処理を適用してモデル出力を求める。
【0103】
疑似コンパス出力のモデル出力を求める方法は、種々の方法を適用することができるが、第2の実施形態では、例えば、式(4)に示すような指数加重移動平均処理を用いて、えい航船2の方位θsからモデル出力θmodelを求める。
【数4】
【0104】
ここで、θmodel(k)は時刻kにおけるモデル出力、θmodel(k−1)は時刻(k−1)におけるモデル出力、θs(k)は時刻kにおけるえい航船の方位θs、そしてNは積分に使用するデータ数を示す。
【0105】
なお、えい航船2の方位θsとモデル出力間のインパルス応答が既知であれば、えい航船の方位θsにインパルス応答を畳み込めば、モデル出力を求めることができる。
【0106】
モデル出力が求まると、疑似コンパス出力生成部21は、モデル出力に遅延時間を与えて、疑似コンパス出力算出位置CP1〜CPkにおける疑似コンパス出力θ1〜θkを求める。
【0107】
ここで、モデル出力に付与する遅延時間の求め方は、第1の実施形態で説明した式(3)の関係式を用いて求めることができる。ただし、式(3)における係数αの代わりに、係数βを用いる。この係数βは実験的に算出した値を用いる。
【0108】
上記のようにして、疑似コンパス出力生成部21は、k個の疑似コンパス出力及びコンパス4の実際の位置における疑似コンパス出力を生成する。
【0109】
誤差算出部22には、疑似コンパス出力生成部21により生成されたコンパス4の実際の位置における疑似コンパス出力と、コンパス4からのコンパス出力θcとが入力される。
【0110】
誤差算出部22では、コンパス4からのコンパス出力θcと、疑似コンパス出力生成部21からの疑似コンパス出力との差分を取り、この差分を誤差として疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23に与える。
【0111】
疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23では、誤差算出部22が求めた誤差が小さくなるように、モデル出力に与える遅延時間を逐次補正する。例えば、遅延時間を小さくするには、式(3)の係数βが大きくなるように、逆に遅延時間を大きくするには、式(3)の係数βが小さくなるようにする。
【0112】
図12、図13を用いて、第2の実施形態のシミュレーションを説明する。
【0113】
図12は、第2の実施形態のシミュレーションで設定したえい航型ラインアレイ8の模式図である。コンパス4は、えい航型ラインアレイ6の後尾に設置されている。また、コンパス4の位置は、音響中心(目標)に対して後方とする。
【0114】
図13は、えい航船2がえい航ラインアレイ6をえい航し、90度変針した場合の、ある時刻の整相結果を示す図である。整相処理における受波器位置ベクトルの算出方法以外の条件は、第1の実施形態と同じである。なお、一般的な整相の結果は、図10(a)と同じである。
【0115】
図13に示す第2の実施形態の整相出力の計算では、疑似コンパス出力生成部21のモデル出力の計算アルゴリズムとして指数積分を使用している。また、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23では、誤差が最小になるように疑似コンパス出力に対して遅延時間を算出するようにしている。
【0116】
この結果から、120度付近にピークが現れていることが確認できる。ピークの誤差は第1の実施形態の結果と比べ若干大きいが、一般的な整相の結果と比べれば、大幅に能力が向上している。
【0117】
以上から、艦首方位から生成する疑似コンパス出力が、実際のコンパス出力を再現できていれば、提案する方法が有効であることが確認できた。
【0118】
(B−3)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、えい航型ラインアレイ6の後尾に1台のコンパス4を備えた場合でも、疑似コンパス出力生成部21が、複数の疑似コンパス出力を生成することができる。また、第2の実施形態によれば、実際のコンパス出力とコンパスの実際の位置における疑似コンパス出力とに基づく誤差が小さくなるように疑似コンパス出力を補正することができる。
【0119】
(C)他の実施形態
(C−1)第1及び第2の実施形態では、水平方向のえい航型ラインアレイの形状を推定するためのセンサとしてコンパスを設置した場合を説明したが、これだけに限定されるものではなく、鉛直方向の形状を推定するセンサをさらに備えるようにしても良い。
【0120】
このえい航型ラインアレイの鉛直方向の形状を推定するセンサとしては、例えば、深度センサ若しくは傾斜センサ等を適用することができる。例えば深度センサや傾斜センサ等のセンサを設けた場合も、第1及び第2の実施形態と同様にして、これらセンサ出力に基づいて疑似的な複数のセンサ出力を生成することで、えい航型ラインアレイの鉛直方向の形状を推定することができる。これによって、水平方向だけでなく、鉛直方向の形状も推定することができ、3次元的なえい航型ラインアレイの整相処理に活用できる。
【0121】
また、従来の方法では、受波器の数だけコンパスも必要であったが、提案する方法ではコンパスが1個だけあれば十分な性能を得ることができ、実際の製造の観点から実用的である。
【0122】
(C−2)センサとしてのコンパスをえい航型ラインアレイの中間辺りに設置することで、第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせた整相装置としてもよい。
【0123】
(C−3)第1及び第2の実施形態で説明した整相装置における処理は、いわゆるソフトウェア処理により実現することができる。例えば、整相装置のハードウェア構成が、CPU、ROM、RAM、EEPROM等を備えており、CPUが、ROMに格納される処理プログラムを実行することにより第1及び第2の実施形態で説明した処理を実現することができる。
【符号の説明】
【0124】
1…信号処理部、2…えい航船、3…えい航ケーブル、4…コンパス、
5−1〜5−N…受波器、10…整相装置、
11…疑似コンパス出力生成部、12…ラインアレイ形状推定部、13…整相処理部、
14…位置情報記憶部、111…立ち上がり時刻検出部、
112…立ち上がり時刻検出部、113…遅延時間算出部、114…遅延時間生成部、
115…遅延時間付与部、21…疑似コンパス出力生成部、22…誤差算出部、
23…疑似コンパス出力生成パラメータ修正部、
121…ラインアレイ形状算出部、122…受波器位置ベクトル算出部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、整相システム、整相装置及び整相プログラムに関し、例えば、えい航型のラインアレイが備える複数の受波器からの受波信号に対して整相処理を行なう整相システム、整相装置及び整相プログラムに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、目標を探知するために、えい航船は、ケーブルに複数の受波器を配列させたラインアレイをえい航し、各受波器からの受波信号を整相することにより、目標の存在、方位等を検出している。
【0003】
従来のえい航型ラインアレイの整相処理では、えい航船の変針等によってラインアレイが変形した場合、ラインアレイの形状を直線として整相処理のために、複数の受波器からの受波信号のそれぞれに対して遅延時間を算出し、これを付与している。
【0004】
しかし、遅延時間が付与された受波信号に対する整相出力は方位のずれや信号レベルの劣化が生じ得、又整相処理は、長時間に亘って受波信号を用いて積分処理を行なっているので、ラインアレイが変形した場合には、変化前と変化後との整相出力が影響するので正しく方位を検出できず、実用に供することができないという問題がある。
【0005】
特許文献1には、このような問題を解決する技術が記載されている。以下では特許文献1の記載技術を簡単に説明する。図2は、特許文献1に記載の技術を説明する説明図である。
【0006】
図2では、えい航船91が、えい航ケーブル92に複数の受波器94−1〜94−Nが配列されたラインアレイをえい航している場合を示している。
【0007】
特許文献1の記載技術は、図2に示すように、受波器94−1〜94−Nの位置にコンパス93−1〜93−Nを設定し、各コンパス93−1〜93−Nの出力と、既知である受波器94−1〜94−N間の間隔とを用いて、各受波器94−1〜94−Nの座標を求めて、ラインアレイが変形した場合の受波器94−1〜94−Nに与える遅延時間を算出することとしている。
【0008】
この技術によって、ラインアレイが変形した場合の形状を求め、そこから整相処理における遅延時間を算出することができるので、ラインアレイが非直線状となっても整相方位を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−261727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の記載技術は、受波器の数だけコンパスが必要となる。一般的に受波器は非常に多数配列させるため、非常に多数のコンパスをえい航型ラインアレイに内蔵する必要があり、製造上の面から実用性に欠けたものとなり得る。
【0011】
そのため、実用面を考慮して、えい航型ラインアレイが変形した場合に、指向性を補償した整相処理のため、変形したえい航型ラインアレイの形状を推定することができ、そのラインアレイの形状を利用して整相処理を行なえる整相システム、整相装置及び整相プログラムが求められている。
【0012】
そこで、本発明は、えい航型ラインアレイの形状を求めるためのセンサとして、コンパス、及び、深度センサ若しくは傾斜センサを用い、それらセンサからの出力に対して時間遅延を与えることによって、えい航型ラインアレイの任意の位置における疑似コンパス出力、及び、疑似深度センサ出力若しくは疑似傾斜センサ出力を生成する。そして、実際の出力に加え、これらの疑似出力を用いてえい航型ラインアレイの変形した形状を推定し、その形状を用いてえい航型ラインアレイが変形したときの整相システム、整相装置及び整相プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の整相システムは、(A)えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと、(B)複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置とを備え、整相装置が、(1)センサからのセンサ情報及びえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、(2)疑似出力生成手段からの複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、(3)複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段とを有することを特徴とする。
【0014】
第2の本発明の整相装置は、えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置において、(1)センサからのセンサ情報又はえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、(2)疑似出力生成手段からの複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、(3)複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
第3の本発明の整相プログラムは、えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置を、(1)センサからのセンサ情報又はえい航体の方位情報に基づいて、ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段、(2)疑似出力生成手段からの複数の疑似センサ出力情報及び複数の疑似的な位置に基づきラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段、(3)複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、えい航型のラインアレイが変形した場合に、変形したえい航型ラインアレイの形状を推定することができ、その推定したえい航型ラインアレイの形状を利用して、指向性を補償した整相処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態のえい航船が備える音波探知装置の構成を示す構成図である。
【図2】従来の音波探知装置における整相処理を説明する説明図である。
【図3】第1の実施形態の整相装置の内部構成を示す内部構成図である。
【図4】第1の実施形態の疑似コンパス出力生成部の内部構成を示す内部構成図である。
【図5】第1の実施形態の疑似コンパス生成部の出力を説明する説明図である。
【図6】第1の実施形態のラインアレイ形状推定部の内部構成を示す内部構成図である。
【図7】第1の実施形態の疑似コンパス生成処理を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施形態のラインアレイ形状推定処理を示すフローチャートである。
【図9】第1の実施形態のシミュレーションに係るえい航型ラインアレイの模式図である。
【図10】第1の実施形態のシミュレーションにおける整相結果を示す図である。
【図11】第2の実施形態の疑似コンパス出力生成部の構成を示す構成図である。
【図12】第2の実施形態のシミュレーションに係るえい航型ラインアレイの模式図である。
【図13】第2の実施形態のシミュレーションにおける整相結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(A)第1の実施形態
以下では、本発明の整相システム、整相装置及び整相プログラムの第1の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0019】
第1の実施形態では、ラインアレイをえい航するえい航船が備える音波探知装置に、本発明を適用した場合の実施形態を例示する。
【0020】
(A−1)第1の実施形態の構成
(A−1−1)全体構成
図1は、第1の実施形態のえい航船が備える音波探知装置の構成を示す構成図である。
【0021】
図1に示すように、第1の実施形態の音波探知装置7は、えい航船2が備える信号処理装置1と、えい航ケーブル3にコンパス4及び受波器5−1〜5−N(Nは正の整数)が配置されたえい航型ラインアレイ6とを少なくとも有して構成される。
【0022】
えい航船2は、えい航型ラインアレイ6をえい航する船舶や潜水艦等である。えい航船2は、えい航型ラインアレイ6と接続する信号処理装置1を備える。また、えい航船2は、えい航船2の方位を測定するコンパス等の方位測定手段(図示しない)を備えている。
【0023】
信号処理装置1は、えい航ケーブル3を通じてコンパス4からコンパス方位情報(以下ではコンパス方位ともいう)と、受波器5−1〜5−Nから受波信号とを受け取り、これらコンパス方位及び受波信号を用いて整相処理を行ない、整相出力を用いて目標の存在や方位等(例えば、方位、深度、傾斜度など)を検出するものである。また、信号処理装置1は、構成要素の1つとして整相装置(図1には図示しない)を有する。この整相装置の構成及び動作については後述する。
【0024】
えい航型ラインアレイ6は、えい航船2により、例えば水中、水面などをえい航されるものである。えい航型ラインアレイ6は、えい航ケーブルを通じて信号処理装置2と接続しており、コンパス4のコンパス方位、受波器5−1〜5−Nの受波信号を信号処理装置2に与えるものである。
【0025】
受波器5−1〜5−Nは、受波した音波信号を電気信号に変換する素子であり、変換した電気信号を受波信号として信号処理装置1に与えるものである。受波器5−1〜5−Nは、えい航ケーブル3上に所定間隔でN個配置されている。また、受波器5−1〜5−Nの配置間隔は、既知の情報として信号処理装置1に設定されている。なお、受波器5−1〜5−Nは、種々の受波器を適用することができ、例えば、圧電素子、磁歪素子、マイクロフォン等を適用することができる。
【0026】
コンパス4は、方位を求めるものであり、測定したコンパス方位を信号処理装置1に与えるものである。コンパス4は、受波器5−1〜5−Nよりも、えい航船2側に設置されている。また、コンパス4の設置位置は、既知の情報として信号処理装置1に設定されている。なお、コンパス4は、種々のものを適用することができ、例えば、磁針とロータリエンコーダなどから構成されるものや、ジャイロコンパスなどを適用することができる。
【0027】
(A−1−2)整相装置の内部構成
図3は、第1の実施形態の整相装置10の内部構成を示す内部構成図である。図3において、第1の実施形態の整相装置10は、疑似コンパス出力生成部11、ラインアレイ形状推定部12、整相処理部13、位置情報記憶部14を少なくとも有して構成される。
【0028】
位置情報記憶部14は、コンパス4の位置情報と、疑似コンパス出力の位置の間隔情報とを記憶するものである。例えば、コンパス4の位置情報としてはえい航船2からのコンパス4までの距離を記憶する。また例えば、疑似コンパス出力の位置としては、コンパス4と次の疑似コンパス出力の位置との間の距離と、疑似コンパス出力位置間の間隔とを示す距離を記憶する。これにより、疑似コンパス出力の位置(疑似コンパス出力算出位置)を得ることができる。また、位置情報記憶部14は、各受波器5−1〜5−Nの位置情報も記憶する。例えば、えい航型ラインアレイ6の直線状態における各受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルとしても良い。
【0029】
疑似コンパス出力生成部11は、コンパス4の位置から所定距離ずつ後方にある複数(例えばk個)の位置を疑似コンパス出力算出位置とし、コンパス4からのコンパス方位θcを用いて複数の疑似コンパス出力算出位置における疑似的なコンパス出力θ1〜θkを生成するものである。
【0030】
疑似コンパス出力生成部11は、えい航船2の方位情報θsと、えい航型ラインアレイ6に設置したコンパス4から受け取ったコンパス方位θcとに基づいて、えい航船2の方位の変化開始時刻とえい航型ラインアレイ6に設置したコンパス4のコンパス出力の変化開始時刻との時間差τを算出するものである。なお、えい航船2の方位情報θsは、例えば、えい航船2が備えるコンパス等(図示しない)の出力を用いるようにしても良い。
【0031】
また、疑似コンパス出力生成部11は、算出した時間差τを用いて、コンパス4の位置から任意の距離だけ後方のk(kは正の整数)個の位置1〜kにおける方位を示す疑似コンパス出力θ1〜θkを生成するものである。
【0032】
ここで、疑似コンパス出力θ1〜θkの生成方法としては、例えば、えい航船2からコンパス4までの距離Lc、コンパス4から疑似コンパス出力を算出する位置までの距離L1〜Lk、そして上述の時間差τを用いて、各位置1〜kにおける遅延時間τ1〜τkを求める。疑似コンパス出力θ1〜θkは、これらコンパス出力θcに上述の方法から算出した遅延時間τ1〜τkを付与することにより生成する方法を適用することができる。
【0033】
ラインアレイ形状推定部12は、コンパス4からのコンパス出力θcと、疑似コンパス出力生成部11からの疑似コンパス出力θ1〜θkとに基づいて、えい航型ラインアレイ6の形状を推定するものである。
【0034】
ここで、えい航型ラインアレイ6は、コンパス4の位置情報、及び、疑似コンパス出力θ1〜θkを算出した位置1〜kによってk個の区間に分割される。このとき、コンパス4の位置は既知情報であり、また各位置1〜kの区間の長さも全て既知情報である。そこで、ラインアレイ形状推定部12は、各位置1〜kの区間の長さと、その区間の両端のコンパス出力又は疑似コンパス出力を用いて、えい航型ラインアレイ6の形状を求める。
【0035】
ラインアレイ形状推定部12は、最終的には、全ての受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルを示す受波器位置ベクトルP1〜Pnを算出し、これら全ての受波器位置ベクトルP1〜Pnを整相処理部13に与える。
【0036】
整相処理部13は、受波器5−1〜5−Nからの受波器出力(受波信号)S1〜SNと、ラインアレイ形状推定部12からの受波器位置ベクトルP1〜PNとを受け取り、それぞれの受波器位置ベクトルP1〜PNで音波を受波したときの遅延時間を算出し、各受波器5−1〜5−Nからの受波信号S1〜SNに対して対応する遅延時間を付与し、受波信号の位相を整相するものである。整相処理部13は、最終的には、M個(M方位)の整相出力B1〜BMを求める。
【0037】
(A−1−3)疑似コンパス出力生成部11の詳細な内部構成
図4は、疑似コンパス出力生成部11の詳細な内部構成を示す内部構成図である。
【0038】
図4において、疑似コンパス出力生成部11は、立ち上がり時刻検出部111、立ち上がり時刻検出部112、遅延時間算出部113、遅延時間生成部114、遅延時間付与部115を少なくとも有する。
【0039】
立ち上がり時刻検出部111は、えい航船2の方位θsを受け取り、えい航船2の方位θsの変化開始時刻tsを検出するものである。立ち上がり時刻検出部111は、検出した方位の変化開始時刻tsを、遅延時間算出部113に与える。
【0040】
また、立ち上がり時刻検出部112は、コンパス4からコンパス出力θcを受け取り、コンパス出力θcの変化開始時刻tcを検出するものである。立ち上がり時刻検出部112は、検出した方位の変化開始時刻tcを、遅延時間算出部113に与える。
【0041】
ここで、立ち上がり時刻検出部111及び112は、入力された方位を監視し、方位の標準偏差が閾値を超えた時刻を検出することができれば、種々の方法を広く適用することができる。
【0042】
例えば、立ち上がり時刻検出部111及び112は、式(1)に従って、入力された方位θの標準偏差σθを求め、方位の標準偏差σθが閾値σthを超えた時刻を、変化開始時刻とする。なお、閾値θthは、実用的な運用に応じて予め設定するようにしても良く、又必要に応じて変更できるようにしても良い。
【数1】
【0043】
ここで、Tは標準偏差算出のための時間幅である。立ち上がり時刻検出部111及び112は、式(1)に従って、えい航船2の方位θs及びコンパス4の方位θcの変化開始時間ts及びtcを求める。
【0044】
遅延時間算出部113は、立ち上がり時刻検出部111からえい航船2の方位の変化開始時刻tsと、立ち上がり時刻検出部112からコンパス4の方位の変化開始時刻tcとを受け取り、えい航船2の変化開始時刻tsとコンパス4の変化開始時刻tcとの差分を取り、えい航船2の方位の変化に対するコンパス方位の変化の遅延時間τを算出するものである。また、遅延時間算出部113は、求めた遅延時間τを遅延時間生成部114に与えるものである。
【0045】
遅延時間生成部114は、遅延時間算出部113から遅延時間τを受け取り、この遅延時間τを用いて、コンパス4から所定距離だけ後方に位置する疑似コンパス位置1〜kにおける遅延時間τ1〜τkを生成するものである。
【0046】
まず、遅延時間生成部114は、遅延時間τと、えい航船2の速度vとに基づいて、コンパス4が移動した距離LMVを求める。ここで、コンパス4の移動距離LMVは、式(2)を利用して求めることができる。
【数2】
【0047】
このとき、えい航船2が直進状態の場合、コンパス4は、えい航船2の軌跡に沿って移動する。従って、えい航船2とコンパス4との距離をL(このLはえい航ケーブル3の長さおよびコンパス4の位置情報等から計算されるものである)とすると、L=LMVとなる。しかしながら、えい航船2が変針等をした場合、えい航船2の移動に伴い、えい航型ラインアレイ6も移動する。このとき、えい航型ラインアレイ6上のコンパス4は、えい航船2の軌跡の内側を通ると考えられる。そのため、コンパス4の移動距離LMVは、えい航船とコンパス4との距離Lよりも小さくなると考えられる。
【0048】
そこで、遅延時間生成部114は、LとLMVとの比から係数α(=LMV/L)を求める。なお、Lはえい航船2の移動距離であり、vはえい航船2の速度であり、τは遅延時間であるから、遅延時間生成部114は、これらの設定値又は測定値を利用することで求めることができる。
【0049】
次に、遅延時間生成部114は、係数αを算出した後、任意の位置(疑似コンパス出力位置)1〜kに設置された疑似コンパス出力での遅延時間τ1〜τkを求める。
【0050】
ここで、疑似コンパス出力での遅延時間τ1〜τkは、次に示す関係式(3)を用いて求めることができる。
【0051】
式(3)は、疑似コンパス出力の算出位置L’と、えい航船2の方位変化の立ち上がりと疑似コンパス出力の変化の立ち上がりとの時間差τ’との関係を示す関係式を示す。
【数3】
【0052】
なお、疑似コンパス出力の算出位置L’は、位置情報記憶部14に記憶されるコンパス4の位置及び受波器5−1〜5−N間の間隔距離を用いて、コンパス4の位置から各疑似コンパス出力の位置までの距離を求めることにより得られる。
【0053】
遅延時間付与部115は、コンパス出力θcと、遅延時間生成部114により求められた各疑似コンパス出力の位置に対する遅延時間τ1〜τkとを受け取り、コンパス出力θcの変化開始時刻tcに遅延時間τ1〜τkを付与して、疑似コンパス出力の位置に対する疑似コンパス出力θ1〜θkを求めるものである。また、遅延時間付与部115は、疑似コンパス出力θ1〜θkをラインアレイ形状推定部12に与える。
【0054】
図5は、疑似コンパス出力生成部11から出力される疑似コンパス出力θ1〜θkの出力イメージを説明する説明図である。
【0055】
図5(a)及び図5(b)は、えい航船2の方位の変化開始時刻及びコンパス4の方位の変化開始時刻の検出を示し、図5(c)は、疑似コンパス出力生成部11からの疑似コンパス出力θ1〜θkを示す。
【0056】
図5(a)及び図5(b)に示すように、立ち上がり時刻検出部111が、えい航船2の方位θsの変化開始時刻tsを検出し、その後、立ち上がり時刻検出部112が、コンパス4の方位θcの変化開始時刻tcを検出する。遅延時間算出部113では、この変化開始時刻ts及びtcに基づいて、遅延時間τを求める。
【0057】
また、遅延時間生成部114では、係数α及び疑似コンパス出力の算出位置L’を式(3)に代入して、各疑似コンパス出力位置での遅延時間τ1〜τkを求める。
【0058】
そして、図5(c)に示すように、遅延時間付与部115が、コンパス4の変化開始時刻tcに各遅延時間τ1〜τkを付与することにより、各疑似コンパス出力θ1〜θkを出力する。
【0059】
(A−1−4)ラインアレイ形状推定部12の詳細な内部構成
図6は、ラインアレイ形状推定部12の内部構成を示す内部構成図である。図6に示すように、ラインアレイ形状推定部12は、ラインアレイ形状算出部121、受波器位置ベクトル算出部122を有する。
【0060】
ラインアレイ形状算出部121は、コンパス出力θcと、疑似コンパス出力生成部11から疑似コンパス出力θ1〜θkとを受け取り、ラインアレイ形状を推定するものである。
【0061】
例えば、ラインアレイ形状算出部121は、位置情報記憶部14からえい航船2からコンパス4までの距離を取り出し、えい航船2からコンパス4までの距離とコンパス出力θcとに基づいて、えい航船2の位置に対するコンパス4の位置を求めることができる。
【0062】
また、ラインアレイ形状算出部121は、位置情報記憶部14から各疑似コンパス出力の算出位置の間隔情報を取り出し、各疑似コンパス出力の算出位置の間隔と各疑似コンパス出力θ1〜θkとに基づいて、求めたコンパス4の位置に対する次の疑似コンパス出力の位置を求めることができ、これをk個の疑似コンパス出力位置まで繰り返すことで、ラインアレイ6の形状を推定する。
【0063】
受波器位置ベクトル算出部122は、ラインアレイ形状算出部121により推定されたラインアレイ6の形状と、直線状態のときの受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルとに基づいて、推定したラインアレイ形状上における全ての受波器5−1〜5−Nの受波器位置ベクトルP1〜PNを求めるものである。
【0064】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の整相処理の動作について図面を参照しながら説明する。
【0065】
えい航船2の方位θsと、えい航型ラインアレイ6上のコンパス4から出力されるコンパス方位θcとは、常時、整相装置10の疑似コンパス出力生成部11に入力される。
【0066】
図7は、疑似コンパス出力生成部11における処理を示すフローチャートである。
【0067】
疑似コンパス出力生成部11では、立ち上がり時刻検出部111が、えい航船2の方位θsの変化を監視しており、式(1)に従って求めた方位θsの標準偏差σθsが閾値σthを超えると、その時刻をえい航船2の方位の変化開始時刻tsとして検出する(ステップS101)。
【0068】
また、立ち上がり時刻検出部112は、コンパス4からのコンパス方位θcの変化を監視しており、式(1)に従って求めた方位θcの標準偏差σθcが閾値σthを超えると、その時刻をコンパス4の方位の変化開始時刻tcとして検出する(ステップS102)。
【0069】
なお、えい航船2の方位θsの標準偏差σθsに対する閾値と、コンパス4の方位θcの標準偏差σθcに対する閾値は、異なる値でも良い。
【0070】
疑似コンパス出力生成部11では、遅延時間算出部113が、変化開始時刻ts及びtcの差分を取り、えい航船2の方位に対するコンパス4の方位の変化の遅延時間τを算出する(ステップS103)。
【0071】
次に、遅延時間生成部114では、えい航船2の移動速度v及び遅延時間τを用いて、式(2)に従って、コンパス4の移動距離LMVを算出する(ステップS104)。
【0072】
そして、遅延時間生成部114では、ステップS104で求めたコンパス4の移動距離LMVとえい航船2とコンパス4との距離Lとの比(LMV/L)から係数αを算出する(ステップS105)。
【0073】
遅延時間生成部114は、係数αを算出すると、疑似コンパス算出位置と係数αとを用いて、式(3)の関係式を利用して各疑似コンパス出力算出位置における遅延時間τ1〜τkを求める(ステップS106)。
【0074】
そして、遅延時間付与部115が、コンパス4のコンパス方位θcの変化開始時間tcに対して、各疑似コンパス出力算出位置の遅延時間τ1〜τkを付与して、各疑似コンパス出力位置における疑似コンパス出力θ1〜θkを生成する(ステップS106)。
【0075】
上記のようにして生成された疑似コンパス出力θ1〜θkと、コンパス4からのコンパス方位θcとは、ラインアレイ形状推定部12に与えられる。
【0076】
図8は、ラインアレイ形状推定部12における処理を示すフローチャートである。
【0077】
ラインアレイ形状推定部12のラインアレイ形状算出部121では、例えば、位置情報記憶部14から取り出したえい航船2からコンパス4までの距離と、コンパス4の方位θcとに基づいて、えい航船2に対するコンパス4の位置を求め、さらにコンパス4と次の疑似コンパス出力位置との間の距離と当該疑似コンパス出力θ1と基づいて、コンパス4に対する当該疑似コンパス出力の位置を求める。そして、このような処理をk個の疑似コンパス出力について繰り返すことにより、えい航型ラインアレイ6の形状を推定する(ステップS201)。
【0078】
次に、受波器位置ベクトル122は、ラインアレイ形状算出部121が求めたラインアレイ形状と、直線状態の受波器5−1〜5−Nの位置ベクトルとに基づいて、推定したラインアレイ形状に沿った全ての受波器5−1〜5−Nの受波器位置ベクトルを算出する(ステップS202)。
【0079】
上記のようにしてラインアレイ形状推定部12により求められた全ての受波器5−1〜5−Nの受波器位置ベクトルP1〜PNは、整相処理部13に与えられる。
【0080】
最後に、整相処理部13では、受波器位置ベクトルP1〜PNが入力されると、m番目の整相方位θBFmに対してn(1≦n≦N)番目の受波器出力(受波信号)Snに与える遅延時間τBF(m、n)を算出する。そして、受波器5−nからの受波器出力Snに対して遅延時間τBF(m、n)を付与して時間領域でずらし、整相方位ごとに加算し、受波器出力Snの位相を整相した整相出力を出力する。
【0081】
なお、整相処理部13において、遅延時間を周波数領域における位相差へ変換し、周波数領域整相処理を行っても良い。
【0082】
図9、図10を用いて、第1の実施形態のシミュレーションを説明する。図9は、第1の実施形態のシミュレーションで設定したえい航型ラインアレイ6の模式図である。
【0083】
図9に示すように、第1の実施形態では、えい航型ラインアレイ6の先頭に1台のコンパス4を設置している。また、コンパス4の後方に音響中心(目標)があるとする。
【0084】
図10は、えい航船2がえい航ラインアレイ6をえい航し、90度変針した場合の、ある時刻の整相結果を示す図である。なお、北を0度とし、時計回りを正とする。図10において、横軸は整相方位(deg)を表し、縦軸は整相出力のビームレベル(dB)を表す。また、120度に目的が存在するものとする。
【0085】
図10(a)は、えい航型ラインアレイのアレイ部が直線であるとしたときの整相の結果である。えい航型ラインアレイのアレイ部が直線であるという仮定は、一般的なえい航型ラインアレイでよく適用される。この図から、一般的なえい航型ラインアレイに対する整相処理では、整相の結果に明確なピークが現れず、目標を検出できないことがわかる。
【0086】
一方、図10(b)は、第1の実施形態のえい航型ラインアレイ6により複数の疑似コンパス出力θ1〜θkを生成し、その値から受波器位置ベクトルを算出し、整相処理を実施した結果である。この結果では、整相方位120度に明確なピークが現れていることが確認できる。
【0087】
以上から、アレイの前方にコンパス4が設置された場合、各受波器出力が、アレイ前方のコンパス出力の時間遅延によって表される仮定が成り立つ場合、第1の実施形態で提案する方法が有効であることが確認できた。
【0088】
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、えい航型ラインアレイ6が1台のコンパス4を備えるものであり、このコンパス4からのコンパス方位を利用して複数の疑似コンパス出力を生成し、コンパス出力及び複数の疑似コンパス出力を用いてラインアレイ形状を推定し、推定したラインアレイ形状に沿った受波器5−1〜5−Nの位置を対応付けることで、各受波器出力に対して指向性を補償した整相処理を行うことができる。
【0089】
(B)第2の実施形態
次に、本発明の整相システム、整相装置及び整相プログラムの第2の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0090】
(B−1)第2の実施形態の構成
第1の実施形態では、コンパスがえい航型ラインアレイの先頭側に設置されている場合を説明した。これに対して、第2の実施形態では、コンパスがえい航型ラインアレイの最後尾に設置されている場合の任意の位置における疑似コンパス出力の生成方法について示す。なお、疑似コンパス出力を用いた整相処理の方法については、第1の実施形態と同様である。
【0091】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、えい航型ラインアレイの後尾にコンパスが設けられていることと、整相装置の疑似コンパス出力生成部の処理である。
【0092】
それ以外の構成要素は、第1の実施形態と同様であるので、以下では、第2の実施形態に特有の構成を中心に説明する。
【0093】
図11は、第2の実施形態の整相装置の疑似コンパス出力生成部の構成を示す構成図である。図11において、第2の実施形態の疑似コンパス出力生成部は、疑似コンパス出力生成部21、誤差算出部22、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23を少なくとも有する。
【0094】
疑似コンパス出力生成部21は、えい航船2の方位θsと、疑似コンパス出力算出位置CP1〜CPkと、コンパス4からの位置情報とを入力し、疑似コンパス出力θ1〜θkを生成して、図示しないラインアレイ形状推定部に与えるものである。
【0095】
また、疑似コンパス出力生成部21は、実際のコンパス4の位置における疑似コンパス出力を誤差算出部22に与え、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23により修正された疑似コンパス出力の生成パラメータを受け取り、この修正された生成パラメータを用いて、疑似コンパス出力θ1〜θkを生成する。
【0096】
誤差算出部22は、疑似コンパス出力生成部21から実際のコンパス4の位置における疑似コンパス出力と、コンパス4からのコンパス出力とを受け取り、実際のコンパス4位置の疑似コンパス出力とコンパス出力との差分を算出し、これを誤差として疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23に与えるものである。
【0097】
疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23は、誤差算出部22により求められた誤差を受け取り、疑似コンパス出力の生成パラメータを修正するものである。また、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23は、修正した生成パラメータを疑似コンパス出力生成部21に与える。
【0098】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、第2の実施形態の動作を図面を参照しながら説明する。
【0099】
まず、疑似コンパス出力生成部21には、えい航船2の方位θsと、k個の疑似コンパス出力算出位置CP1〜CPkと、コンパス4が設置されている実際の位置とが入力される。
【0100】
疑似コンパス出力生成部21は、上記の入力に基づいて、疑似コンパス出力θ1〜θkを生成すると共に、コンパス4の実際の位置に対する疑似コンパス出力も生成する。
【0101】
ここで、疑似コンパス出力の生成においては、まず、えい航船2の方位θsを用いて複数の疑似コンパス出力のモデル出力を求める。
【0102】
一般に、コンパス4からのコンパス出力θcは、えい航船2の方位θsよりも緩やかに変化するため、疑似コンパス出力生成部21は、えい航船の方位θsに対して積分処理を適用してモデル出力を求める。
【0103】
疑似コンパス出力のモデル出力を求める方法は、種々の方法を適用することができるが、第2の実施形態では、例えば、式(4)に示すような指数加重移動平均処理を用いて、えい航船2の方位θsからモデル出力θmodelを求める。
【数4】
【0104】
ここで、θmodel(k)は時刻kにおけるモデル出力、θmodel(k−1)は時刻(k−1)におけるモデル出力、θs(k)は時刻kにおけるえい航船の方位θs、そしてNは積分に使用するデータ数を示す。
【0105】
なお、えい航船2の方位θsとモデル出力間のインパルス応答が既知であれば、えい航船の方位θsにインパルス応答を畳み込めば、モデル出力を求めることができる。
【0106】
モデル出力が求まると、疑似コンパス出力生成部21は、モデル出力に遅延時間を与えて、疑似コンパス出力算出位置CP1〜CPkにおける疑似コンパス出力θ1〜θkを求める。
【0107】
ここで、モデル出力に付与する遅延時間の求め方は、第1の実施形態で説明した式(3)の関係式を用いて求めることができる。ただし、式(3)における係数αの代わりに、係数βを用いる。この係数βは実験的に算出した値を用いる。
【0108】
上記のようにして、疑似コンパス出力生成部21は、k個の疑似コンパス出力及びコンパス4の実際の位置における疑似コンパス出力を生成する。
【0109】
誤差算出部22には、疑似コンパス出力生成部21により生成されたコンパス4の実際の位置における疑似コンパス出力と、コンパス4からのコンパス出力θcとが入力される。
【0110】
誤差算出部22では、コンパス4からのコンパス出力θcと、疑似コンパス出力生成部21からの疑似コンパス出力との差分を取り、この差分を誤差として疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23に与える。
【0111】
疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23では、誤差算出部22が求めた誤差が小さくなるように、モデル出力に与える遅延時間を逐次補正する。例えば、遅延時間を小さくするには、式(3)の係数βが大きくなるように、逆に遅延時間を大きくするには、式(3)の係数βが小さくなるようにする。
【0112】
図12、図13を用いて、第2の実施形態のシミュレーションを説明する。
【0113】
図12は、第2の実施形態のシミュレーションで設定したえい航型ラインアレイ8の模式図である。コンパス4は、えい航型ラインアレイ6の後尾に設置されている。また、コンパス4の位置は、音響中心(目標)に対して後方とする。
【0114】
図13は、えい航船2がえい航ラインアレイ6をえい航し、90度変針した場合の、ある時刻の整相結果を示す図である。整相処理における受波器位置ベクトルの算出方法以外の条件は、第1の実施形態と同じである。なお、一般的な整相の結果は、図10(a)と同じである。
【0115】
図13に示す第2の実施形態の整相出力の計算では、疑似コンパス出力生成部21のモデル出力の計算アルゴリズムとして指数積分を使用している。また、疑似コンパス出力生成パラメータ修正部23では、誤差が最小になるように疑似コンパス出力に対して遅延時間を算出するようにしている。
【0116】
この結果から、120度付近にピークが現れていることが確認できる。ピークの誤差は第1の実施形態の結果と比べ若干大きいが、一般的な整相の結果と比べれば、大幅に能力が向上している。
【0117】
以上から、艦首方位から生成する疑似コンパス出力が、実際のコンパス出力を再現できていれば、提案する方法が有効であることが確認できた。
【0118】
(B−3)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、えい航型ラインアレイ6の後尾に1台のコンパス4を備えた場合でも、疑似コンパス出力生成部21が、複数の疑似コンパス出力を生成することができる。また、第2の実施形態によれば、実際のコンパス出力とコンパスの実際の位置における疑似コンパス出力とに基づく誤差が小さくなるように疑似コンパス出力を補正することができる。
【0119】
(C)他の実施形態
(C−1)第1及び第2の実施形態では、水平方向のえい航型ラインアレイの形状を推定するためのセンサとしてコンパスを設置した場合を説明したが、これだけに限定されるものではなく、鉛直方向の形状を推定するセンサをさらに備えるようにしても良い。
【0120】
このえい航型ラインアレイの鉛直方向の形状を推定するセンサとしては、例えば、深度センサ若しくは傾斜センサ等を適用することができる。例えば深度センサや傾斜センサ等のセンサを設けた場合も、第1及び第2の実施形態と同様にして、これらセンサ出力に基づいて疑似的な複数のセンサ出力を生成することで、えい航型ラインアレイの鉛直方向の形状を推定することができる。これによって、水平方向だけでなく、鉛直方向の形状も推定することができ、3次元的なえい航型ラインアレイの整相処理に活用できる。
【0121】
また、従来の方法では、受波器の数だけコンパスも必要であったが、提案する方法ではコンパスが1個だけあれば十分な性能を得ることができ、実際の製造の観点から実用的である。
【0122】
(C−2)センサとしてのコンパスをえい航型ラインアレイの中間辺りに設置することで、第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせた整相装置としてもよい。
【0123】
(C−3)第1及び第2の実施形態で説明した整相装置における処理は、いわゆるソフトウェア処理により実現することができる。例えば、整相装置のハードウェア構成が、CPU、ROM、RAM、EEPROM等を備えており、CPUが、ROMに格納される処理プログラムを実行することにより第1及び第2の実施形態で説明した処理を実現することができる。
【符号の説明】
【0124】
1…信号処理部、2…えい航船、3…えい航ケーブル、4…コンパス、
5−1〜5−N…受波器、10…整相装置、
11…疑似コンパス出力生成部、12…ラインアレイ形状推定部、13…整相処理部、
14…位置情報記憶部、111…立ち上がり時刻検出部、
112…立ち上がり時刻検出部、113…遅延時間算出部、114…遅延時間生成部、
115…遅延時間付与部、21…疑似コンパス出力生成部、22…誤差算出部、
23…疑似コンパス出力生成パラメータ修正部、
121…ラインアレイ形状算出部、122…受波器位置ベクトル算出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと、
上記複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置と
を備え、
上記整相装置が、
上記センサからのセンサ情報及び上記えい航体の方位情報に基づいて、上記ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、
上記疑似出力生成手段からの上記複数の疑似センサ出力情報及び上記複数の疑似的な位置に基づき上記ラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での上記複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、
上記複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、上記ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する上記受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、上記遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段と
を有することを特徴とする整相システム。
【請求項2】
上記疑似出力生成手段が、上記センサの位置における上記疑似センサ出力情報も生成するものであり、
上記疑似出力生成手段からの上記センサの位置における上記疑似センサ出力情報と、上記センサからのセンサ情報との誤差に基づいて上記複数の疑似センサ出力情報の生成パラメータを修正し、この修正した生成パラメータを上記疑似出力生成手段に与える生成パラメータ修正手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の整相システム。
【請求項3】
えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、上記複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置において、
上記センサからのセンサ情報又は上記えい航体の方位情報に基づいて、上記ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、
上記疑似出力生成手段からの上記複数の疑似センサ出力情報及び上記複数の疑似的な位置に基づき上記ラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での上記複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、
上記複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、上記ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する上記受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、上記遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段と
を備えることを特徴とする整相装置。
【請求項4】
えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、上記複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置を、
上記センサからのセンサ情報又は上記えい航体の方位情報に基づいて、上記ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段、
上記疑似出力生成手段からの上記複数の疑似センサ出力情報及び上記複数の疑似的な位置に基づき上記ラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での上記複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段、
上記複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、上記ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する上記受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、上記遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段
として機能させることを特徴とする整相プログラム。
【請求項1】
えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと、
上記複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置と
を備え、
上記整相装置が、
上記センサからのセンサ情報及び上記えい航体の方位情報に基づいて、上記ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、
上記疑似出力生成手段からの上記複数の疑似センサ出力情報及び上記複数の疑似的な位置に基づき上記ラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での上記複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、
上記複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、上記ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する上記受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、上記遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段と
を有することを特徴とする整相システム。
【請求項2】
上記疑似出力生成手段が、上記センサの位置における上記疑似センサ出力情報も生成するものであり、
上記疑似出力生成手段からの上記センサの位置における上記疑似センサ出力情報と、上記センサからのセンサ情報との誤差に基づいて上記複数の疑似センサ出力情報の生成パラメータを修正し、この修正した生成パラメータを上記疑似出力生成手段に与える生成パラメータ修正手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の整相システム。
【請求項3】
えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、上記複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置において、
上記センサからのセンサ情報又は上記えい航体の方位情報に基づいて、上記ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段と、
上記疑似出力生成手段からの上記複数の疑似センサ出力情報及び上記複数の疑似的な位置に基づき上記ラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での上記複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段と、
上記複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、上記ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する上記受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、上記遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段と
を備えることを特徴とする整相装置。
【請求項4】
えい航体がえい航するものであり、受波した音波を受波信号に変換する複数の受波器と、水平方向及び又は鉛直方向を測定するセンサを備えるラインアレイと接続し、上記複数の受波器から受け取った受波信号の位相を整相する整相装置を、
上記センサからのセンサ情報又は上記えい航体の方位情報に基づいて、上記ラインアレイ上の複数の疑似的な位置から出力されたとみなす複数の疑似センサ出力情報を生成する疑似出力生成手段、
上記疑似出力生成手段からの上記複数の疑似センサ出力情報及び上記複数の疑似的な位置に基づき上記ラインアレイの形状を推定し、この推定したラインアレイ上での上記複数の受波器の位置を求めるラインアレイ形状推定手段、
上記複数の受波器から受け取った受波信号のそれぞれに対して、上記ラインアレイ形状推定手段により求められた対応する上記受波器の位置で音波を受波したときの遅延時間を付与し、上記遅延時間を付与した受波信号の位相を整相する整相処理手段
として機能させることを特徴とする整相プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−158391(P2011−158391A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21434(P2010−21434)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】
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