説明

断熱性紙製容器に用いる原材料シート及び断熱性紙製容器

【課題】断熱性能の高い発泡層を得る原材料シートと断熱性に優れる紙製容器を提供する。
【解決手段】 断熱性紙製容器1に用いる原材料シートにおいて、紙基材は中性紙であって、該紙基材の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成した原材料シートであって、紙中に炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上含有する原材料シート。紙基材の抄紙pHが6.0以上10以下で抄造されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性を必要とする紙製容器及び容器用の原材料シートに関する。さらに詳細には、自動販売機等に利用されるホットコーヒーなどの充填用のカップ、熱湯を注入することによって内填物を飲食し得る状態にするいわゆる即席可食品用容器、さらには電子レンジによる調理用の容器等に利用される断熱性を有する使い捨て容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンバーガーショップなどのファーストフード店や列車の車内あるいは自動販売機などでコーヒーあるいはスープなどの温飲料が購入者に供される場合、およびカップ入り即席ラーメンなどでは一般的に断熱容器が使用されている。
従来、このような用途に使用される容器としては、発泡ポリスチレン(EPS)製の断熱性を有するものが知られている。これはポリスチレンに発泡剤を加える工程を経た後、この材料をモールド内に注型し、その後、熱と圧力を加えて原料を発泡させ、成型容器を型から取り出すことによって製造される。このようにして得られた断熱性容器は断熱性の点では非常に優れている。しかし、この容器は全体のプラスチックを発泡させていることから嵩があり、ゴミ量が多くなる。そして、使用後にゴミとして焼却処分する際、高熱を発して燃焼するため焼却炉を損傷しやすく、石油資源の節約の観点からも見直しが求められている。また、環境ホルモンとしての人体への悪影響も懸念される、さらに、発泡ポリスチレンの外表面は微小な凹凸が多数存在するので、外表面に模様、文字、記号などを印刷しても鮮明に表現されない、紙カップに比べ肉厚強度が弱く即席麺などの比較的大きな容器の場合輸送中に割れたりすることがある、など欠点もあった。
【0003】
一方、前記の発泡プラスチック製容器の他に、例えば、特許文献1(特開昭57−110439号公報)には、容器胴部材及び底板部材からなる紙製容器において、容器胴部材の外壁面に低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートし、加熱することにより、基材である紙に含まれている水分の蒸気圧を利用してフィルムを凹凸に発泡させる技術が記載されている。このとき、紙の他面には、加熱時に蒸気圧を保持する層として、同様の発泡層となる熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートするか、又は、アルミ箔をコーティグすることが記載されている。この容器は比較的良好な断熱性を有し、安価に、かつ、容易に製造することができるなどの利点を有する。
【0004】
同じく、紙に含有されている水分の加熱蒸発により発泡させる技術として、特許文献2(特許第3596681号公報)には、胴部材の一方の壁面に、紙の表面側から低融点の熱可塑性樹脂の発泡内層とこれよりも高い融点を有する熱可塑性樹脂の非発泡外層とからなる2層構造断熱膜が被着されており、発泡内層と紙との層間強度、紙の坪量、発泡層および非発泡外層の膜厚を規定した紙製容器が記載されている。特許文献2にはまた、紙の他面に、加熱時に蒸気圧を保持する層として高融点の熱可塑性樹脂をラミネートすることが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、容器胴部材の開口上縁に上部フランジ部を有する紙製容器が記載されており、フランジ部を断面角形に強制加工することにより、フランジ部が発泡せず、口当たりが良くなることが記載されている。さらに、フランジ部の内側巻き込み端をフランジ部の上部に重合させて二重構造にすることにより、強度が高まることなどが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭57−110439号公報
【特許文献2】特許第3596681号公報
【特許文献3】特開2001−354226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1あるいは2に記載の容器は、紙を基材とし、ラミネート層(樹脂層)は石油を原料に作られているもののその厚さは断熱性に必要な最小限に抑えられている。そのため、化石燃料の使用が極力削減されており、全体が発泡ポリスチレンからなる容器に比べて環境負荷が小さく、また印刷性にも優れる。
しかし、紙基材中に含まれていた水分を加熱蒸発させ、この蒸発水分により熱可塑性樹脂層を発泡させて断熱性を付与する機構であることから、紙中の水分が少ないと発泡が不十分となり、十分に発泡しないと高い断熱性は得られない。そして、坪量の低い紙は含水量が低く発泡性に劣るため、紙基材としては高坪量のものを使用しなければならない。
一方、紙製容器は、胴部材と底板部材とからカップの形に成型したり、特に容器胴部材の開口上縁には、飲食する際の口当たりや強度付与のため特許文献3のように上部フランジ部が設けられるが、坪量の高い紙を用いた場合は成型加工し難く、また、全体のコストアップも招く。
そこで、本発明は、断熱性能の高い発泡層を得る原材料シートと断熱性に優れる紙製容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、断熱性紙製容器に用いる原材料シートについて鋭意検討したところ、紙中に炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウムを高含有させることにより、発泡性に優れた原材料シートを実現できることを知見下。このオリジナルの着想に基づき、本願発明の主な構成として次の提案を行う。
【0009】
(1)断熱性紙製容器に用いる原材料シートにおいて、紙基材は中性紙であって、該紙基材の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成した原材料シートであって、紙中に炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上含有することを特徴とする原材料シート。
(2)紙中に含まれる炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムが、対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.4〜1.3重量%であることを特徴とする(1)記載の原材料シート。
(3)紙基材が抄紙pHが6.0以上10以下で抄造されたものであることを特徴とする(1)又は(2)記載の原材料シート。
(4)サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを用いたことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の原材料シート。
(5)紙基材の坪量が250g/m以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の原材料シート。
(6)少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成した断熱性紙製容器用原材料シートに用いる紙基材の製造方法であって、
ナトリウム塩を0.4%以上3重量%未満添加し、サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを用い、pH6.5〜10にて抄紙して、
紙中の炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上2重量%未満含有させたこと
を特徴とする紙基材の製造方法。
(7)胴部材と底板部材とからなる断熱性紙製容器において、胴部材及び/又は底板部材用として請求項1〜5に記載された原材料シートのいずれかを用い、断熱性紙製容器の断熱層が、該原材料シートの少なくとも片面存在する熱可塑性樹脂層を紙基材に含有されている水分を加熱蒸発させて発泡させることにより形成した発泡層であることを特徴とする断熱性紙製容器。
【発明の効果】
【0010】
1.中性紙紙基材を用いて、断熱性に優れた断熱性紙製容器及び原材料シートを提供することができる。発泡性については、紙基材として中性原紙よりも酸性原紙を用いる方が優れているが、中性原紙を用いる場合でも炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上2重量%未満含有させることにより、良好で十分な発泡層の厚さが得られ、断熱性に優れた紙製容器が提供できる。
2.断面浸透性の小さい原材料シートを実現したので、貼り合わせ断面の強度低下が防止できる。特に、アルキルケテンダイマーをサイズ剤としてとして用いることにより断面浸透性を少なくすることができる。アルキルケテンダイマーは、酸性の内容物であっても酸性原紙と比較して断面浸透が少なくなる。
3.紙基材中の水分含量を高くすることができるの、低坪量の紙を使用しても十分に発泡に必要な水分量が確保できるので、高坪量の紙を使用した場合と同等の断熱効果を付与することができるため、屈曲などの加工対応性に優れると共に省資源化及びコストダウンが可能である。
4. 発泡ポリスチレンを使用しない紙を主成分とする紙製容器であり、環境に配慮した容器、人体への影響が少ない容器であって、紙系のゴミとして処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の断熱性紙製容器について図面に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、発泡層を形成した紙製シートを用いて断熱性を付与した容器である。
図1は、本発明による紙製容器の一例の断面図である。本発明の紙製容器1は、基本的に胴部材2と底板部材3とから構成されている。
図2は、図1においてYで示された胴部の部分拡大断面斜視図である。本例では、胴部材の外壁面側(容器外側)に、紙基材4の表面に発泡した熱可塑性樹脂層5(以下、発泡熱可塑性樹脂層5という)が存在しており、発泡熱可塑性樹脂層5は、発泡セル6が並んだ構造となっている。胴部の内壁面側(容器内側)には、発泡熱可塑性樹脂層5の熱可塑性樹脂よりも融点の高い熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層7(以下、非発泡熱可塑性樹脂層7という)が存在している。この非発泡熱可塑性樹脂層7は、後述するように、容器製造における加熱処理の際に発泡せず、紙基材からの蒸発水分の逃散を防止して発泡熱可塑性樹脂層5を確実かつ十分に発泡させるものである。
【0012】
[発泡熱可塑性樹脂層]
本発明の紙製容器の胴部材等に用いる原材料シートは、上記の紙基材上に、紙に含有されている水分の加熱蒸発により発泡する熱可塑性樹脂層を積層して作製される。
発泡熱可塑性樹脂層となる熱可塑性樹脂としては、押出しラミネートが可能でかつ発泡可能であれば特に制限されず、結晶性樹脂、非結晶性樹脂のどちらの熱可塑性樹脂も使用することができる。結晶性樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、PPS樹脂等を挙げることができる。非結晶性樹脂としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂、変性PPE、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂の融点としては、80〜120℃程度が好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂は単一の樹脂を単層で使用しても、複数の樹脂を複層で使用しても良いが、発泡性の点から単層であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明では、ラミネート適性、発泡性に優れることからポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、大きくは直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンに区分される。密度としては、直鎖状低密度ポリエチレンは888〜910kg/m、低密度ポリエチレンは910〜925kg/m、中密度ポリエチレンは925〜940kg/m、さらに高密度ポリエチレンは940〜970kg/m程度である。融点としては、直鎖状低密度ポリエチレンは55℃〜120℃、低密度ポリエチレンは105〜120℃、中密度ポリエチレンは120〜125℃、さらに高密度ポリエチレンは125〜135℃程度である。
【0014】
[非発泡熱可塑性樹脂層]
本発明では、発泡効率を高めるために、胴部材の発泡熱可塑性樹脂層を有する壁面の反対壁面側を、発泡熱可塑性樹脂層よりも融点の高い熱可塑性樹脂からなるとともに加熱処理した際に発泡しない熱可塑性樹脂層(非発泡熱可塑性樹脂層)、あるいはアルミ箔等で被覆することが好ましい。紙基材の片面が地のままだと、加熱処理の際にこの未被覆面から紙中の水分が大気中に蒸散してしまい、十分確実に発泡させることが難しくなる。従って、このような被覆層を設けることにより、紙中の水分を効率良く発泡に寄与させることができる。なお、これらの非発泡熱可塑性樹脂層やアルミ箔などは、胴部材の内壁面側に存在すると、充填液体等が紙中へ浸透することを防止でき好ましい。
同様に、発泡効率を高める目的で、発泡熱可塑性樹脂層の上に、非発泡熱可塑性樹脂層を設けることもできる。発泡熱可塑性樹脂層が胴部材の外壁面側に存在するときは、その表面は凹凸があり平滑ではないため、非発泡熱可塑性樹脂層の存在により、滑らかな手触りと光沢のある外観を得ることができ、容器の防水性もより向上する。
【0015】
これらの非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂は、発泡熱可塑性樹脂層と同一であっても異なっていてもよい。同一の場合は、密度に差を持たせることにより融点に差を生じさせることができる。例えば、両者の熱可塑性樹脂としてポリエチレンを選択する場合、発泡熱可塑性樹脂層は低密度ポリエチレンとし、非発泡熱可塑性樹脂層は中密度または高密度ポリエチレンとする。発泡熱可塑性樹脂層と非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂における融点の差は5℃以上あることが好ましく、非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂の融点としては、加熱の際に融解せず蒸発水分の拡散を防止できればよく特に制限されないが、125℃以上が好ましい。
【0016】
[熱可塑性樹脂層の積層方法]
発泡熱可塑性樹脂層および非発泡熱可塑性樹脂層の形成方法は特に制限されず、紙基材上に、押出しラミネート法の他、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の予めフィルム状にしたものと貼合する方法を適宜使用して積層すればよいが、紙基材との密着性、発泡性等の点から、押出しラミネート法が好ましい。押出しラミネートは、例えば、巻取から繰り出された紙基材の一表面に、Tダイから熱可塑性樹脂層を溶融樹脂膜の状態で押出し、クーリングロールとこれに対向するニップロールとの間で冷却しつつ圧着する方法である。押出しラミネートにおいて、樹脂の溶融温度、積層速度などの操業条件は、用いる樹脂の種類や装置によって適宜設定すればよく特に制限されないが、一般に、例えば溶融温度は200〜350℃程度、積層速度は50〜200m/分程度である。また、ニップロールとしては硬度70度以上(JIS K−6253)のものを用い、線圧は15kgf/cm以上で押圧・圧着を行うことが好ましい。
【0017】
また、発泡熱可塑性樹脂層上に非発泡熱可塑性樹脂層を設ける場合や、発泡熱可塑性樹脂層を複数の熱可塑性樹脂層で形成する場合など、2以上の熱可塑性樹脂層を積層するときは、熱可塑性樹脂層間の密着性や生産効率の点から、複数台の押出機を用いて各熱可塑性樹脂を溶融状態でそれぞれのTダイに導き、各Tダイから同時に押出して積層接着する方法が適している。このような多層の熱可塑性樹脂層を同時に形成可能な方法は、押出しラミネート法の中で特に共押出しラミネート法と呼ばれる。さらに、熱可塑性樹脂層同士の間に接着性樹脂層を挟んで、樹脂層間の接着性を高めてもよい。なお、いずれの場合でも、必要に応じて紙基材や熱可塑性樹脂の接着性を向上させるために、コロナ処理、オゾン処理等を行ってもよい。
【0018】
また、発泡熱可塑性樹脂層および非発泡熱可塑性樹脂層の各熱可塑性樹脂層の厚さについて、発泡熱可塑性樹脂層は、発泡させたときに所望の断熱性を付与するのに十分な厚さであればよく特に限定されないが、発泡前の厚さとして40〜80μm程度、発泡後は400〜2000μm程度である。
また、非発泡熱可塑性樹脂層も、蒸発水分の飛散を防止するのに十分な厚さであって、胴部材の内壁面側に存在する場合は耐液体浸透性を確保きる厚さであれば特に限定されず、20〜50μm程度である。
【0019】
また、容器の胴部材や底部材の外壁面側及び内壁面側は、同じ積層構成であってもよいし異なっていてもよい。使用される樹脂の種類やその他の素材も、同一であってもよいし異なっていてもよい。
また、発泡熱可塑性樹脂層及び非発泡熱可塑性樹脂層の各熱可塑性樹脂層には、所望の効果を阻害しない範囲で一般的に使用される種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、例えば、帯電防止剤、白色顔料(酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等の無機顔料等)、耐ブロッキング剤(アクリルビーズ、ガラスビーズ、シリカ等)、紫外線吸収剤などがある。
【0020】
[紙製容器の成型]
本発明では、上記の胴部材原材料シートと底板部材原料シートとを常用のカップ製造装置やカップ成型機により成型する。まず、巻き取りロールから胴部材原材料シートを繰り出し、所定箇所に必要な印刷を施す。この段階でバーコードなどを印刷することもできる。印刷部分の位置決めなどは常用の手段または手順により行うことができる。
次に、それぞれの原材料シートから胴部材用ブランクと底板部材用ブランクを打ち抜き、常用のカップ成型機で容器の形に組み立てる。ここで、発泡熱可塑性樹脂層は、胴部材の外壁面側および内壁面側のどちらか片方あるいは両方に存在すればよく、断熱性、手触り、外観審美性など所望に応じて適宜決定すればよいが、容器内部を発泡面とした場合、飲食の際に発泡樹脂が箸やフォーク等により傷付いて口の中に入り込むおそれがあるため、外壁面側になるように存在することが望ましい。そこで、例えば、胴部材原材料シートの熱可塑性樹脂層が容器外側に向くように、また、底板部材は熱可塑性樹脂層面が容器内側に向くようにして、組み立てる。なお、底板部材原材料シートは、紙基材の少なくとも片面に1以上の熱可塑性樹脂層やアルミ泊等を設けたものが好ましく使用される。これは紙中への液体等の浸透防止のためである。底板部材に用いられる熱可塑性樹脂は、胴部材と同じであっても異なっていてもよく、積層方法も押出しラミネート法の他、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の予めフィルム状にしたものと貼合する方法が適宜使用できる。
【0021】
カップ麺など湯を注入後しばらく放置するものは、容器底面からの放熱を防止する上で底部材にも発泡層を設けることが有効である。特に、屋外での用途や冬場や寒冷地では好ましい。
【0022】
[加熱処理による発泡]
成型後の紙製容器は、発泡させるために加熱処理を行う。本発明では、加熱処理により、胴部材の紙基材中に含まれる水分が蒸発して、熱可塑性樹脂層が発泡し発泡熱可塑性樹脂層となる。
加熱温度及び加熱時間は使用する紙基材及び熱可塑性樹脂の種類に応じて変化し、使用する熱可塑性樹脂に対する最適な加熱温度と加熱時間の組み合わせは適宜決定することができるが、加熱温度は発泡する熱可塑性樹脂の融点よりもやや高い温度(融点+5〜10℃の範囲)が適し、一般的に、加熱温度約110℃〜約200℃程度、加熱時間約1分間〜約6分間程度である。加熱手段は特に限定されず、熱風、電熱、電子線など任意の手段を使用できる。コンベヤによる搬送手段を備えたトンネル内で、熱風または電熱などによって加熱すれば、安価に大量生産することができる。
【0023】
本発明では、所望の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、紙製容器の分野で公知の技術を適用することができる。例えば、外壁面となる胴部材の一部に合成樹脂成分を5重量%〜40重量%含有する塗料を塗布し、部分的に発泡を抑制する技術(特許第3014629号公報)、外壁面となる胴部材の表面に発泡と同調して滑らかな印刷面を形成する同調インキを塗布する技術(特許第3408156号公報)、容器胴部材の開口上縁にフランジ部を設ける技術であって、断面角型に強制加工し内側巻き込み端をフランジ部の上部に重合させて二重構造にする技術(特開2001−354226号公報)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、印刷適性を高めるために、胴部材の外壁面となる最表層に、顔料とバインダーを主成分とするインキ受理層を設けてもよい。
【0024】
[紙基材]
本発明使用する紙は中性紙であり、炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上含有させて、水分量を確保したものである。発泡用に使用する水分量を確保できるので低坪量の紙を基材として使用することが可能となる。また、アルキルケテンダイマーを内添サイズ剤として用いて、断面浸透性を小さく押さえたものである。容器の内側に紙基材の断面が露出するので、断面からの水分等の液体の浸透は、容器の脆弱化となるので、断面浸透性を低く押さえることは有益である。
本発明の原材料シートは、紙基材の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成したものであり、該紙基材は、坪量が250g/m以上で、かつ炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上であって、抄紙の制限上3重量%未満含有することが特徴である。以下に、紙基材について説明する。
【0025】
(紙)
本発明の紙基材に使用される紙とは、植物繊維または植物繊維とその他の繊維とを絡み合わせ膠着させて製造したものをいい、製紙分野で公知の方法により製造される。植物繊維としては針葉樹または広葉樹などの木材繊維、ミツマタ、コウゾなどの靭皮繊維、バガス、ケナフ、麻などの非木材繊維、木綿繊維、古紙等が挙げられこれらに限定されるものではないが、地球環境問題を背景とした廃棄物処理や環境負荷の観点から、植物繊維100%の組成からなる紙が好ましい。
【0026】
木材繊維のパルプとして、具体的には、針葉樹、広葉樹などを用いた化学パルプ;針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹の未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹の未晒クラフトパルプ(LUKP)等、機械パルプ;グラウンドウッドパルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等、脱墨パルプ(DIP)等が挙げられ、これらを単独または任意の割合で混合して使用される。なお、脱墨パルプは再生パルプとも呼ばれる。本発明では、中でも、針葉樹の晒クラフトパルプ(以下NBKPという)または広葉樹の晒クラフトパルプ(以下LBKPという)は、含水率及び汎用性の面から好適である。また、本発明では異なる種類のパルプを併用してもよく、パルプを併用する場合、NBKPとLBKPとを用いることが好ましく、NBKP/LBKP比が30/70以下であることが好ましい。通常、NBKPの配合割合が多くなると発泡性が低下しやすい。
【0027】
紙の製造方法としては、一般的に、上記のパルプ、水、及び必要に応じて填料やその他薬品等を添加して調成した紙料を抄紙機のワイヤー上に噴射し、ワイヤーパートで脱水、プレスパートで搾水、ドライヤーパートで乾燥、また必要に応じて紙に強度や耐水性を付与するサイズプレスや、紙の表面の凹凸を整えるカレンダー処理を施して抄紙し、仕上がった紙を巻取り所定の巻取寸法に仕上げて完成される。なお、本発明における紙の製造はこれに制限されるものではない。
(坪量)
【0028】
本発明では、紙中の加熱蒸発水分を利用して熱可塑性樹脂層が発泡する機構であることから、紙の坪量が重要であり、坪量は含有される水分の量に影響する。坪量が低過ぎる場合は、発泡に必要な水分が少ないためか十分に発泡せず、また、容器を手で把持したときに熱さを感じやすい。坪量が高過ぎる場合は、水分量が多くなって必要以上に発泡し過発泡や発泡セルの破裂などを招いたり、胴部材として所望の剛度を超えて不経済であり、また、容器の成型加工性が低下して上部フランジ部の形成も困難になる。そこで、坪量は250g/m以上であることが必須であり、好ましくは250g/m以上400g/m以下である。紙中の含水率としては、5〜15重量%が好ましく、6〜10重量%であるとさらに好ましい。
【0029】
(ろ水度)
パルプのろ水度に関わらず発泡性を向上させることが可能である。但し、ろ水度が低いパルプの場合、抄紙時に脱水性が悪化する、密度が高くなって嵩が出ない、不透明度が低下する、繊維の損傷が激しく紙の強度が著しく低下するなどの弊害もあり、容器として必要な厚さや剛度が得られ難いため、ろ水度の下限はJIS−P−8121に基づくカナダ標準ろ水度(以下、CSFと略することがある)で150ml以上であることが好ましい。
【0030】
(密度)
紙の密度は所望に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、密度が低い方が、蒸発水分が通りやすく発泡性が良好になると考えられ好ましい。但し、低過ぎると容器に必要な紙力が得られず、また、後述する熱可塑性樹脂層のラミネート適性に劣り、高過ぎると容器として必要な厚さが得られないため、0.6g/cm以上0.9g/cm以下が好適である。
【0031】
(原料pH)
断熱性紙製容器は、原材料シートを円筒状に丸めて縁を重ねて貼り合わせるので、紙基材の断面が容器内側に露出することとなる、液体が充填された際の容器の耐性上重要な要素である。
アルキルケテンダイマーを使用する中性原紙は酸性原紙と比較して、断面浸透が少なくでき、一方、中性原紙よりも酸性原紙のほうが発泡性に優れていることを本発明者は知見しており、本発明では、中性原紙の低断面浸透特性を活かしながら、発泡性の改善を実現した。すなわち、本発明者らは、炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを一定量以上含有させることにより、原紙を熱可塑性樹脂で両面ラミネート処理した後、ブランクスに打ち抜いて、室内あるいは倉庫で保管した後、加熱処理により熱可塑性樹脂層を発泡させた際に良好で十分な発泡層の厚さが得られ、断熱性に優れた紙製容器が提供できることを見出し、提案するものである。
この理由として、炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを紙中に含有させると、原紙端面からの水分の放出を抑制し、原紙水分を高く保つことができるため、原紙の平衡水分が高くなるためと考えられる。特に炭酸ナトリウムは吸湿性の薬品であるため、原紙中の水分を高く保持することができると考えられる。この場合紙中の炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムは対絶乾パルプ重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上とすることより、十分な発泡性が確保できる。一方、抄紙工程において、3.0重量部以上添加した場合には、抄造できない結果が得られており、事実上紙基材には2重量%以上添加することは抄紙技術上限界であると考えられる。好ましくは0.5重量%以上1.5重量%以下である。紙中の炭酸ナトリウムび/または炭酸水素ナトリウムの含有量が0.2重量%以下の場合、原紙の水分を保持する能力が十分ではないため、原紙から水分が放出されやすく、十分な発泡層の厚さが得られず、断熱性に劣る。紙中の炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムの含有量が2重量%を超える場合、原紙を抄造する際の脱水性が低下するため、抄紙速度を低下させる必要が生じ、生産性に支障をきたす。
【0032】
中性紙の製造方法は以下の2つの方法が一般的である。紙の種類は、抄紙pHが6〜10の中性領域またはアルカリ性領域で抄紙される中性紙であることが好ましい。
(1)パルプ原料に填料、薬品等を添加する際に、歩留り向上のために酸性の硫酸バンドを添加して、pH調整のためにアルカリ性薬品である苛性ソーダ等を添加して中性とする。
(2)パルプ原料に填料、薬品等を添加する際に、歩留り向上のための酸性の硫酸バンドを使用しないことにより中性とする。この場合抄紙原料のpH調整のため一般に炭酸水素ナトリウムが使用される。しかし、紙中に含まれる炭酸水素ナトリウムの量は0.3重量%未満である。
【0033】
本発明の工夫の一つは、上記の製造方法(1)については、pH調整のため一般的に苛性ソーダの代わりに炭酸水素ナトリウムを使用するかまたは苛性ソーダに代えて、本発明の場合、pH調整のために炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを使用する。このとき紙中には硫酸バンドと反応せずに、未反応の炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムの形で炭酸ナトリウム換算量として0.3重量%以上含有される。炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムの紙中の含有量が炭酸ナトリウム換算量で0.3重量%以上の場合には原紙の平衡水分を高く保つことが可能である。炭酸ナトリウム換算量の上限は、現段階では抄紙工程の制限によって、2〜3%である。
本発明の他の工夫は、製造方法(2)については紙中の炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムの紙中の含有量を炭酸ナトリウム換算量で0.3重量%と通常より高くすることにより、調湿時の平衡水分が高くなり、発泡性が良好となると考えられる。上限については上述のとおり。
【0034】
(サイズ剤)
本願発明で用いるサイズ剤としては、断面浸透性を小さくする上でアルキルケテンダイマー(AKD)が好ましい。特に、カップに入れる内容物が酸性である場合、サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを使用することにより、他の一般的なロジンサイズ剤やアルケニル琥珀酸(ASA)を使用する場合と比較して、断面浸透を少なくすることが可能である。
【0035】
(填料、その他薬品等)
本発明で用いられる紙は、填料は無配合でも配合してもよく、発泡性へ影響するため無配合が望ましいが、不透明度を高める観点からは配合してもよい。填料を配合する場合、種類は製紙分野で一般に使用されている填料が使用でき、特に限定されるものではない。例えば、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などの無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料が単独でまたは適宜2種類以上を組み合わせて使用される。また酸性抄紙では、前記中性抄紙で使用する填料から、酸溶解性のものを除いた填料が使用され、その単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用される。
【0036】
また、各種の内添サイズ剤を配合してもよく、従来から使用されている各種のノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留まり向上剤、濾水度向上剤、紙力向上剤等の製紙用内添助剤が必要に応じて適宜選択して使用される。さらに、例えば、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダや、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等の塩基性アルミニウム化合物や、水に易分解性のアルミナゾル等の水溶性アルミニウム化合物、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物、シリカゾル等が内添されてもよい。
【0037】
その他、製紙用助剤として各種澱粉類、ポリアクリルアミド、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド、ポリアミン樹脂、ポリアミン、ポリエチレンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物及びこれらの誘導体あるいは変性物等の各種化合物を使用できる。
さらに、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添剤を用途に応じて適宜添加することもできる。
【0038】
(抄紙)
抄紙機の型式は特に限定は無く、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網式抄紙機、ギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマー(オントップフォーマー)等の公用の抄紙機で抄紙することができる。プレス線圧は通常の操業範囲内で用いられる。また、平滑性を付与し印刷適性を向上させる目的などから、カレンダー処理を行ってもよい。
本発明で用いられる紙は、全く塗工処理をしていないか、あるいは顔料を含まない表面処理剤を塗工してもよい。また、表面強度やサイズ性の向上の目的で、水溶性高分子を主成分とする表面処理剤を塗工してもよい。水溶性高分子としては、澱粉、酸化澱粉、加工澱粉、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の表面処理剤として通常使用されるものを単独、あるいはこれらの混合物を使用することができる。また、表面処理剤の中には、水溶性高分子の他に耐水化、表面強度向上を目的とした紙力増強剤やサイズ性付与を目的とした外添サイズ剤を添加することができる。表面処理剤の塗布方法としては、表面処理剤は、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター等の塗工機によって塗布することができるが、ゲートロールコーターのような被膜転写方式の塗工機を使用する方が表面処理剤が紙表面に留まり、密度の増加が少なくなるので好ましい。表面処理剤の塗布量としては、片面当たり0.1g/m以上3g/m以下程度である。
なお、抄紙工程において、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを3%以上添加した場合は抄紙不良であるから実務上これ以下とする必要があり、紙中の炭酸ナトリウム換算量は2重量%未満が、好ましくは1.5%程度が上限となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明する。なお、特に断らない限り、部は重量部、%は重量%を示す。
【0040】
[実施例1]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;カナダ標準濾水度(CSF)600ml)25部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP;CSF400ml)75部を混合し、混合後の濾水度がCSF450mlのパルプ原料に、内添薬品として固形分で対パルプ絶乾重量当り、アルキルケテンダイマー0.5%、紙力剤としてポリアクリルアミド0.1%、炭酸ナトリウム1.0%を添加し、pHを7.7とした紙料を、長網抄紙機にて抄速40m/分で単層抄きし、坪量300g/m、紙厚は332μmの紙匹を作製した。
次いで、得られた紙匹をカレンダーサイジング(線圧30kgf/cm)にて、ポリビニルアルコール(固形分濃度2.0%)を0.9g/m(絶乾塗工量)塗工し、赤外線ドライヤーにて乾燥後、線圧30kgf/cmでカレンダー処理を行い、水分8.0%の原紙Aを得た。
【0041】
[実施例2]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸ナトリウムの添加量を2.0%に変更し、紙料pHを8.1とした以外は、実施例1と同様にして原紙Bを得た。
【0042】
[実施例3]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸ナトリウムの添加量を0.7%に変更し、紙料pHを7.4とした以外は、実施例1と同様にして原紙Cを得た。
【0043】
[実施例4]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸水素ナトリウムの添加量を1.0%に変更し、原料pHを6.9とした以外は、実施例1と同様にして原紙Dを得た。
【0044】
[実施例5]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸水素ナトリウムの添加量を2.0%に変更し、原料pHを7.0とした以外は、実施例1と同様にして原紙Eを得た。
【0045】
[実施例6]
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP;CSF400ml)を100部、針葉樹晒クラフトパルプを無配合とした以外は、実施例3と同様にして原紙Fを得た。
【0046】
[実施例7]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;CSF600ml)50部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP;CSF400ml)50部を混合し、混合後の濾水度がCSF500mlのパルプ原料に変更した以外は、実施例3と同様にして原紙Gを得た。
【0047】
[実施例8]
広葉樹晒クラフトパルプの濾水度をCSF500mlとした以外は、実施例3と同様にして原紙Hを得た。
【0048】
[実施例9]
広葉樹晒クラフトパルプの濾水度をCSF300mlとした以外は、実施例3と同様にして原紙Iを得た。
【0049】
[実施例10]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド0.5%、炭酸ナトリウム2.0%添加し、原料pHを6.0とした以外は、実施例1と同様にして原紙Jを得た。
【0050】
[実施例11]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド1.0重量%、水酸化ナトリウム0.5重量%、炭酸ナトリウム1.0重量%添加し、原料pHを6.0とした以外は、実施例1と同様にして原紙Kを得た。
【0051】
[実施例12]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド1.0%、水酸化ナトリウム0.5%、炭酸水素ナトリウム1.0%添加し、原料pHを6.0とした以外は、実施例1と同様にして原紙Lを得た。
【0052】
[比較例1]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド1.25%添加、炭酸ナトリウム無添加、サイズ剤をアルキルケテンダイマーからロジンエマルジョンに変更して0.5%添加して、原料pHを4.5とした以外は、実施例1と同様にして原紙Mを得た。
[比較例2]
内添薬品として炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを無添加として、原料pHを6.2とした以外は、実施例1と同様にして原紙Nを得た。
[比較例3]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸ナトリウムの添加量を3.0%に変更して、原料pHを8.5とした以外は、実施例1と同様に抄造したが、抄紙機のワイヤー上での濾水性が悪く、プレスでの地合不良が発生した。
[比較例4]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸ナトリウムの添加量を0.5%に変更して、原料pHを7.0とした以外は、実施例1と同様にして原紙Oを得た。
[比較例5]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸水素ナトリウムの添加量を3.0%に変更して、原料pHを7.4とした以外は、実施例1と同様に抄造したが、抄紙機のワイヤー上での濾水性が悪く、プレスでの地合不良が発生した。
【0053】
[比較例6]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、炭酸水素ナトリウムの添加量を0.5%に変更して、原料pHを6.8とした以外は、実施例1と同様にして原紙Pを得た。
[比較例7]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド0.5%添加、炭酸ナトリウム0.5%添加して、原料pHを5.9とした以外は、実施例1と同様にして原紙Qを得た。
[比較例8]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド0.5%、炭酸水素ナトリウム0.5%添加して、原料pHを5.9とした以外は、実施例1と同様にして原紙Rを得た。
[比較例9]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド0.5%、炭酸ナトリウム4.0%添加して、原料pHを7.0とした以外は、実施例1と同様に抄造したが、抄紙機のワイヤー上での濾水性が悪く、プレスでの地合不良が発生した。
【0054】
[比較例10]
内添薬品として対パルプ絶乾重量当り、硫酸バンド0.5%、炭酸水素ナトリウム4.0%添加して、原料pHを7.0とした以外は、実施例1と同様に抄造したが、抄紙機のワイヤー上での濾水性が悪く、プレスでの地合不良が発生した。
【0055】
実施例1〜12、及び比較例1、2、4、6〜8で得られた原紙の片面に、紙製容器としたとき胴部材の外壁面となる発泡熱可塑性樹脂層として、融点108℃の低密度ポリエチレン(LDPE)を厚さ70μmとなるように340℃の溶融温度で押出し、この溶融樹脂と原紙とをクーリングロールと硬度70度のニップロールを用いて、線圧15kgf/cmで押圧・圧着した。また、原紙の反対面には、胴部材の内壁面となる非発泡熱可塑性樹脂層として、融点128℃の中密度ポリエチレン(中密度PE)を厚さ40μmとなるように、320℃の溶融温度で押出しラミネートし、胴部材原材料シートを得た。
また、この胴部材原材料シートを、底板部材原材料シート(坪量220g/mの原紙に中密度ポリエチレンを厚さ40μmとなるように押出しラミネートしたもの)と組み合わせて、直径95mm、高さ115mmの容器を成型し、115℃の乾燥機で4分間加熱し発泡させ、断熱性を有する紙製容器を得た。
【0056】
上記の実施例及び比較例で用いらたパルプのろ水度及び得られた原紙の紙質評価は、下記のように行った。また、実施例及び比較例で得られた胴部材原材料シートを用いて、以下の評価試験を行った。結果をまとめて表1に示す。
【0057】
<パルプ、紙質の評価>
・カナダ標準ろ水度(CSF) JIS P 8121:1995に従った。
・坪量:JIS P 8124:1998(ISO 536:1995)に従った。
・厚さ:JIS P 8118:1998に従った。
・密度:厚さ、坪量の測定値より算出した。
・紙面PH:原紙を厚さ方向のほぼ中央部で剥離し、JAPAN TAPPI紙ハ゜ルフ゜試験方法No.49-2に従い測定した。
・含水率:JIS P8127に従った。
【0058】
<発泡性(発泡樹脂層厚さ)>
発泡後の紙製容器の胴部材の一部を切り出し、発泡した熱可塑性樹脂層の厚さを測定した。なお、発泡樹脂層厚さが1300μm以上であれば、断熱性は十分である。
<断熱性>
胴部材原材料シートを、底板部材原材料シート(坪量220g/mの原紙に中密度ポリエチレンを厚さ40μmとなるように押出しラミネートしたもの)と組み合わせて、直径95mm、高さ115mmの容器を成型し、115℃の乾燥機で4分間加熱し、発泡させた。その後、発泡した容器に90℃のお湯を入れ、3分後、容器外壁面を手で触り次の基準で評価した。
◎…あまり熱くなく、手で容器を十分に保持することができ、断熱性に優れる。
〇…やや熱いが、手で容器を保持し続けることができ、断熱性良好。
△…熱く、手で容器を十分には保持することが難しく、断熱性やや良。
×…かなり熱く、手で容器を保持することが難しく、断熱性悪い。
【0059】
<紙中炭酸塩量の測定>
原紙10gを500gの蒸留水で煮沸し、ろ過することにより原紙からろ液を分別した。ろ液を105℃にて蒸発乾固させた後、るつぼに移し、電気炉を使用して280℃で3時間加熱し、るつぼに蓋をして冷却後秤量した。秤量した粉体をイオン交換水に溶かし、硫酸の酸標準液でメチルオレンジを指示薬として滴定した。このことにより原紙10gに含まれる炭酸ナトリウム分を定量した。この測定方法では、炭酸水素ナトリウムを加熱して炭酸ナトリウムとして定量しているため、紙中炭酸水素ナトリウム量とは異なる。炭酸水素ナトリウムは270から300℃に加熱することにより、下記に示されるように炭酸ナトリウムが生成する。

2NaHCO→NaCO+HO+CO

炭酸水素ナトリウムの分子量は約84で、炭酸水素ナトリウム2分子で、炭酸ナトリウム1分子(分子量は約106)が生成する。このことより炭酸水素ナトリウム168gで炭酸ナトリウム106gが得られ、炭酸水素ナトリウムは炭酸ナトリウムとなるときに4割程度重量が減ることになる。しかしながら、発泡性向上効果は、炭酸ナトリウムと比較して炭酸水素ナトリウムの方が4割程度低いため、重量の差は発泡性向上効果の差と相殺され、炭酸ナトリウムとしての量が発泡性向上に影響を及ぼすと考えられる。
【0060】
<断面吸水度>
以下の手順で測定を行い、断面吸水度を算出した。
(1)実施例及び比較例で得られた各塗工紙の両面に、エアーが入らないようポリエチレン粘着テープを貼って、両表面からの吸水を防止した後、縦(MD方向)50mm×横(CD方向)50mmに切断することにより試験片5枚を作成し、それぞれの重量を、小数点第3位まで測定可能な電子坪量秤を使用して測定した。
(2)上記各試験片を、パットに入れた2%クエン酸水溶液中に重ならないように浸漬し、重しを載せて浮き上がりを防止しつつ放置した。なお、2%クエン酸水溶液は23℃、50%の恒温恒湿室で一昼夜放置したものを使用した。
(3)60分後、各試験片を純水中から取り出し、表面に付着している水分を吸取紙で速やかに除去してから、そのそれぞれの重量を上記(1)と同様にして測定した。
【0061】
(4)2%クエン酸水溶液に浸漬する前の試験片重量(浸漬前重量)と、浸漬した後の重量(浸漬後重量)より、次の式を用いて断面吸水度を算出した。

断面吸水度(mg/m)=(浸漬後重量−浸漬前重量)

【0062】
断面吸水度の判定基準を以下に示す。
○:0.35mg/m未満
△:0.35mg/m以上0.45mg/m未満
×:0.45mg/m以上
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示されるように、実施例1〜12の原材料シートは、いずれも発泡樹脂層厚さが1300μm以上であり、断熱性紙容器に使用した場合、断熱性が良好であることが示された。
紙中の炭酸ナトリウム、あるいは炭酸水素ナトリウムが0.3重量%以上である各実施例は、抄造後の水分が8.0%と揃えてあるが、調湿後は7.4%以上であるのに対して、比較例では、7.3%以下であって、発泡に寄与する水分量の確保に差が認められる。
紙中の炭酸ナトリウム、あるいは炭酸水素ナトリウムが0.2重量%以下である比較例1、2、4、6〜8の原材料シートは、いずれも発泡樹脂層厚さが1300μm未満であり、断熱性紙容器に使用した場合、断熱性が不十分であった。
原料pHが4.5で抄造し紙面pH5.2である酸性の比較例1の原材料シートは断面吸水度が不十分であった。また、炭酸ナトリウムあるいは炭酸水素ナトリウムを3%以上抄紙工程に添加した比較例3、5、9、10は、ワイヤー上で脱水性が悪く抄造することが不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による紙製容器の一例の断面図である。
【図2】図1においてYで示された胴部の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 紙製容器
2 胴部材
3 底板部材
4 紙基材
5 発泡熱可塑性樹脂層
6 発泡セル
7 非発泡熱可塑性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性紙製容器に用いる原材料シートにおいて、紙基材は中性紙であって、該紙基材の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成した原材料シートであって、紙中に炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上含有することを特徴とする原材料シート。
【請求項2】
紙中に含まれる炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムが、対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.4〜1.3重量%であることを特徴とする請求項1記載の原材料シート。
【請求項3】
紙基材が抄紙pHが6.0以上10以下で抄造されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の原材料シート。
【請求項4】
サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを用いたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原材料シート。
【請求項5】
紙基材の坪量が250g/m以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の原材料シート。
【請求項6】
少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成した断熱性紙製容器用原材料シートに用いる紙基材の製造方法であって、
ナトリウム塩を0.4%以上3重量%未満添加し、サイズ剤としてアルキルケテンダイマーを用い、pH6.5〜10にて抄紙して、
紙中の炭酸ナトリウム及び/または炭酸水素ナトリウムを対パルプ絶乾重量当たり炭酸ナトリウム換算で0.3重量%以上2重量%未満含有させたこと
を特徴とする紙基材の製造方法。
【請求項7】
胴部材と底板部材とからなる断熱性紙製容器において、胴部材及び/又は底板部材用として請求項1〜5に記載された原材料シートのいずれかを用い、断熱性紙製容器の断熱層が、該原材料シートの少なくとも片面存在する熱可塑性樹脂層を紙基材に含有されている水分を加熱蒸発させて発泡させることにより形成した発泡層であることを特徴とする断熱性紙製容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−246979(P2008−246979A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93963(P2007−93963)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】