説明

新規なアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ

【課題】安定性が良く、高濃度のASTの定量が可能なアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ、その製造法、及びそれを用いたASTの測定法、測定試薬の提供を課題とする。
【解決手段】アーキオグロブス・フルジダスDSM4304菌株由来の新規なアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ及び、該酵素を用いたASTの測定法、測定試薬を提供する。特に、NADH、NADPH、又はホルマザン色素の増加を測定することを特徴とするASTの測定法、測定試薬を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定法、該測定に有用なアーキア(Archaea)に属する微生物が生産する新規なアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ、及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスアミナーゼは広く原核生物から真核生物まで分布している、アミノ化合物とα−ケト酸との間のアミノ基転移反応に関する酵素の総称である。生化学診断分野では体液中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.6.1、以下ASTと略称する。GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)と呼ばれることもある)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.21、以下ALTと略称する。GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)と呼ばれることもある)が良く測定される。
生体内においてASTは、心筋、肝臓、骨格筋、腎臓等に高濃度に存在し、ALTは肝臓と腎臓に多く含まれている。これらの酵素は、細胞が破壊されると血中に漏れ出て、血中の酵素活性が上昇することから、これらの血中濃度上昇は、特に腎臓疾患では細胞障害の程度と良く相関し、また血中のAST及びALT濃度の差は心筋梗塞や肝臓疾患のみならず他の疾患の鑑別にも広く用いられ重要視されている。
血中AST濃度(AST活性)が高値になる例として、例えばウイルス性肝炎の場合、炎症が進んでいる急性期には100U/L以上になり、200U/Lから300U/L位まで上昇する。また、劇症肝炎、薬物性肝炎、虚血性肝炎の場合も1,000U/L場合によっては数千U/Lという高濃度になる例もある。
【0003】
現在、酵素を用いた体液中のAST活性の定量方法として、(1)リンゴ酸デヒドロゲナーゼを共役酵素として用いる酵素法と(2)オキサロ酢酸デカルボキシラーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを共役酵素として用いる酵素法がある。
1989年、日本臨床化学会はヒト血清中のAST活性の測定方法について上記(1)のリンゴ酸デヒドロゲナーゼを共役酵素として用いる酵素法を勧告法として公表した(非特許文献3)。この方法はAST活性を検出するために、まず、ASTの基質としてL−アスパラギン酸及び2−オキソグルタル酸を用い、オキサロ酢酸とL-グルタミン酸を生成させる(式1)。
L-アスパラギン酸 + 2−オキソグルタル酸 → オキサロ酢酸 + L-グルタミン酸(式1)
【0004】
ここで生成したオキサロ酢酸をリンゴ酸デヒドロゲナーゼの存在の下L-リンゴ酸に変化させる。このとき、補酵素NADHはNAD+となるため、波長340nmにおけるNADHの吸光度は減少する(式2)。この吸光度の減少速度からAST活性を求める方法である。
なお、本明細書中では、ニコチンアミドジヌクレオチドをNAD、ニコチンアミドジクレオチドホスフェイトをNADP、還元型ニコチンアミドジヌクレオチドをNADH、もしくは還元型ニコチンアミドジクレオチドホスフェイトNADPHと略称することがある。
オキサロ酢酸 + NAD(P)H + H+ → L-リンゴ酸 + NAD(P)+(式2)
前記(1)の方法は日本臨床検査標準協議会及び国際医療化学連合に認証され、標準化されているので広く用いられている。本方法は反応過程において減少するNADHの紫外部吸収波長における吸光度を測定する方法であるが、光学測定器の測定可能な吸光度に限界があるため、反応液中に予め存在させることができるNADH濃度に上限があるという問題がある。そのため、測定可能なAST活性の範囲が一定の範囲に限られ、さらに、1000U/ml以上の高濃度のAST活性を測定する場合、試料の希釈を行わなければ反応速度を一定に保てないという問題もある。
【0005】
また、前記(2)の方法であるオキサロ酢酸デカルボキシラーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを共役酵素として用いる酵素法は、式1の反応により生じたオキサロ酢酸をオキサロ酢酸デカルボキシラーゼによりピルビン酸とし(式3)、更にピルビン酸オキシダーゼにより過酸化水素を発生し(式4)、過酸化水素はペルオキシダーゼの作用で、例えばロイコ型色素などを酸化し、酸化によって生成する色素を比色定量する方法である(式5)。
オキサロ酢酸 → ピルビン酸 + CO2 (式3)
ピルビン酸 + O2 + リン酸 → 過酸化水素 + アセチルリン酸 + CO2 (式4)
ロイコ型色素 + 過酸化水素 → 色素 + H2O (式5)
【0006】
この方法も、1000U/ml以上のAST活性を測定する場合に問題がある。すなわち、溶存酸素の濃度が全反応を律速するものとなり、正確なAST活性測定が困難になるからである。また、AST反応の生成物を直接測定する方法に比べて使用する酵素が多く、不経済である。
AST反応の生成物を直接測定することによりAST活性を測定する方法として、例えば、NAD(P)Hの増加速度を測定する方法が考えられる。例えば、式1でL-グルタミン酸を、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.2または1.4.1.3)を使用してNAD(P)の共存下、NAD(P)Hの増加速度を測定することによりAST活性を測定する方法である。しかし、この方法では、血清中に存在する多種類のトランスアミナーゼが、同様に血清中に存在する多種類のアミノ酸と反応液中に存在する2−オキソグルタル酸を基質にしてグルタミン酸を生成するために、無視し難い誤差を与えてしまうという問題がある。
このように、ヒト検体中、例えば血清中のAST活性(0〜1000U/ml及び1000U/ml以上)を反応生成物の増加反応により測定する実用的な方法はこれまで報告されていない。
【0007】
ところで、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼは、EC番号が付与されていない比較的新しい酵素であり、NAD又はNADPの存在下、基質とする1モルのL−アスパラギン酸を1モルのNAD又はNADPを消費して、イミノアスパラギン酸を経て1モルのオキサロ酢酸及び1モルのNADHもしくはNADPHに変換、及びその逆反応を触媒する作用を有する。
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼとしては、これまでにKlebsiella pneumoniae IFO 13541(非特許文献1)、及びThermotoga maritima(非特許文献2)のバクテリア由来のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼが報告されているが、AST活性の測定に使われているという報告はない。
後述する本発明のアーキオグロブス・フルジダス (Archaeoglobus fulgidus) DSM4304菌株については、全ゲノム解析が終了しており、配列表配列番号2に示した遺伝子の塩基配列及び配列表配列番号1に示したアミノ酸配列は公知である(非特許文献4)。しかし、該タンパク質の機能についての報告は一切ない。
【非特許文献1】Okamuraら、Aspartate dehydrogenase in vitamin B12-producing Klebsiella pneumoniae IFO 13541. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 1998, Aug;44(4):483-490.
【非特許文献2】Zhiru Yangら、Aspartate dehydrogenase, a novel enzyme identified from structural and functional studies of TM1643. J Biol Chem. 2003, Mar 7;278(10):8804-8808. Epub 2002 Dec 21.
【非特許文献3】日本臨床化学会、臨床化学、第18巻、第4号、1989年、226−249頁
【非特許文献4】Hans-Peter Klenkら、The complete genome sequence of the hyperthermophilic, sulphate-reducing archaeon Archaeoglobus fulgidus. Nature 390, 364-370 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高濃度のASTの定量が可能である実用的なASTの測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いることにより検体中のASTをNAD(P)H濃度の減少速度を測定することにより定量できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)アーキア(Archaea)に属する微生物が生産するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(2)アーキオグロブス(Archaeoglobus)属に属する微生物由来のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(3)アーキオグロブス・フルジダス(Archaeoglobus fulgidus)DSM4304菌株由来のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(4)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法に用いられるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(4−2)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法に用いられる前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(5)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼが、NADを補酵素としてL−アスパラギン酸を基質とした時のL−アスパラギン酸に対するKm値をKm1、NADHを補酵素としてオキサロ酢酸を基質としたときのオキサロ酢酸に対するKm値をKm2とすると、
Km1<Km2
の関係を満たす性質を有する前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(6)以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(a)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(b)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(7)以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼタンパク質。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
(8)以下の(a)又は(b)の遺伝子。
(a)配列番号2に示される遺伝子配列を含むアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子。
(b)配列番号2に示される遺伝子配列において1もしくは複数個の核酸が欠失、置換もしくは付加された核酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
(9)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを製造するための前記(7)又は(8)に記載の遺伝子の使用方法。
(10)前記(7)又は(8)に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を含有する組換えベクター。
(11)前記(10)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(12)前記(10)に記載の形質転換体を培地に培養し、その培養物からアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを採取することを特徴とするアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの製造方法。
(13)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
(14)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ又はタンパク質を用いたアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
(15)反応生成物の増加を測定する前記(13)又は(14)に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
(16)反応生成物の増加が、NADH、NADPH、又はホルマザン色素の増加である前記(15)に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
(17)2000U/ml以下の濃度のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを測定する前記(13)〜(16)のいずれかに記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
(17−2)1000〜2000U/ml以下の濃度のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを測定する前記(13)〜(16)のいずれかに記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
(18)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ又はタンパク質を含むアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定用試薬。
(19)試薬が液体である前記(18)に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定用試薬。
(20)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ又はタンパク質を含むアスパラギン酸アミトランスフェラーゼ測定用試薬キット。

【発明の効果】
【0010】
本発明により、安定性が良いアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ、その製造方法、それを用いた高濃度のASTの定量が可能なASTの測定方法、及び測定試薬を提供することができる。
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたAST測定方法によれば、NAD(P)H濃度の増加速度を測定するため、減少速度を測定するよりもAST濃度を広範囲に測定できる。 また、反応速度を一定に保ちやすいので高濃度のASTでも正確に測定できる。さらに、使用する酵素が極力少なくできるため経済的である。
また、本発明のアーキオグロブス・フルジダス が産生するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼは、熱処理後も高い活性を有するため、液状での安定性に優れ、本発明を用いた試薬は、液状で保存することも可能となり、特に臨床診断薬として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼとしては、アーキア(Archaea、古細菌、始原菌)の生産するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼであれば、何ら限定されるものではないが、アーキオグロブス・フルジダス DSM4304菌株由来のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼが好ましく、配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列であるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼが特に好ましい。
別の態様としては、以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質であることが好ましい。
(a)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(b)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
特には、配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼが好ましい。
さらに別の態様としては、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを構成するアミノ酸配列としては、配列表配列番号1のアミノ酸配列の1から236で表記されるアミノ酸配列のN末端側及びC末端側はアミノ酸残基又はポリペプチド残基を含んでもよく、そのアミノ酸残基としてはシグナルペプチド又はT7タグ、Hisタグ、Sタグ、Trxタグ、CBDタグ、DsbAタグ、GSTタグ、NusタグなどのFusion Tag等が挙げられる。
また、別の態様としては、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを構成するアミノ酸配列は、配列表配列番号1のアミノ酸配列の1から236で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドによる酵素活性発現と同様の効果を発現する均等物も含まれる。例えば、配列表配列番号1のアミノ酸配列の1から236のアミノ酸配列の一部から実質的になるアミノ酸配列や酵素活性発現に関与しない一部のアミノ酸の配列を変異、欠損又は付加したものである。
【0012】
本発明の配列表配列番号1のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ
のアミノ酸配列をコードするDNA配列としては、配列表配列番号2に示されるDNA配列が挙げられるが、それ以外の配列として、例えば、各アミノ酸に対応するコドンが複数種類考えられる場合に、各アミノ酸においてそのうちいずれか1つのコドンを選択することができ、そのようにして得られるDNA配列も好ましい一例として挙げられる。
或いは、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを構成するアミノ酸配列をコードするDNAは、配列表配列番号1のアミノ酸配列1から236で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドによる酵素活性発現と同様の効果を発現する均等物のアミノ酸配列をコードするDNAであっても良い。例えば、酵素活性発現に関与しない一部のアミノ酸の配列を変異、欠損又は付加したものである。
上記DNAの好適な例として配列表配列番号1の1から711で表される塩基配列を有するDNAを挙げる事ができる。該DNAは、5’末端の上流側にアミノ酸をコードするコドンを1個以上有したものでもよく、TAA、TAG及びTGA以外のコドンであれば良い。さらに好ましくはATG、GTG、それら以外の開始コドン又はシグナルペプチドに対応するコドンを有したものを挙げる事ができる。3’末端の711下流側には、アミノ酸をコードするコドンを1個以上有するか、又は翻訳終止コドンを有するかのいずれでもよく、さらに、その3’末端側にアミノ酸をコードするコドンを1個以上有する場合には、このアミノ酸をコードするコドンの3’末端側に翻訳終止コドンを有する事が望ましい。
【0013】
本発明のタンパク質を、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼとして使用することも本発明の範囲内である。
【0014】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子としては、アーキアよりDNAが分離精製され、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であれば何でも良いが、例えば、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
(a)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の別の態様としては、以下の(a)又は(b)の遺伝子が挙げられる。
(a)配列表配列番号2に示される遺伝子配列を含むアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子。
(b)配列表配列番号2において1もしくは複数個の核酸が欠失、置換もしくは付加された核酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0015】
上記の本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを製造するために使用することも本発明の範囲内である。
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクター及び該組換えベクターを含む形質転換体も本発明の範囲内である。
上記の本発明の形質転換体を培地に培養し、その培養物からアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを採取することを特徴とするアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの製造方法も本発明の範囲内である。
【0016】
次に、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを産生する遺伝子組換え微生物の製造方法について説明する。
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼタンパク質をコードするDNAは、例えば、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の供与体である、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを生産するアーキアよりDNAを分離精製した後、制限酵素などを用いて切断した該DNAと、同じく切断して直鎖状にした発現ベクターとを、両DNAの末端部をDNAリガーゼなどにより結合閉環させる。このようにして得られた組み換えDNAプラスミドを宿主微生物に導入し、発現ベクターのマーカーと、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの活性発現若しくはDNAプローブを指標としてスクリーニングを行い、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含有する組み換えDNAプラスミドを保持する微生物を分離する。該遺伝子組み換え微生物を培養し、該培養菌体から該組み換えDNAプラスミドを分離精製し、次いで該組み換えDNAプラスミドからアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子であるDNAを取得することにより得られる。
該DNAの供与体である微生物としては、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを生産するアーキアであれば、なんら限定されるものではないが、好ましくはアーキオグロブス・フルジダス DSM4304菌株が挙げられる。
【0017】
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを生産する微生物に由来するDNA(以下total DNAと略称する)を採取するには、例えばアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを生産するアーキアを培養し、得られる培養物から菌体を集菌し、次いでこれを溶菌させることによってアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含有する溶菌物を調製する。溶菌方法としては、例えばリゾチームなどの細胞壁溶解酵素による処理が施され、必要によりプロテアーゼなどの他の酵素やラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤が併用され、さらに細胞壁の物理的破壊法である凍結融解やフレンチプレス処理を上述の溶菌法と組合せで行っても良い。
この様にして得られた溶菌物からtotal DNAを分離精製するには、常法に従って、例えばフェノール抽出による除タンパク処理、プロテアーゼ処理、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈澱、遠心分離などの方法を適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0018】
分離精製されたtotal DNAを切断する方法は、常法に従って制限酵素処理により行えばよく、特に得られるtotal DNA断片とベクターとの結合を容易ならしめるため、制限酵素、とりわけ特定ヌクレオチド配列に作用する、例えば、SalI、BglII、BamHI、XhoI、又はMluIなどのII形制限酵素が適している。
【0019】
total DNA断片を組み込むベクターとしては、宿主微生物体内で自律的に増殖しうるファージ又はプラスミドから遺伝子組み換え用として構築されたものが適しており、ファージベクターとしては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に属する微生物を宿主微生物とする場合にはλgt・λC、λgt・λBなどが使用できる。また、プラスミドベクターとしては、例えば、エシェリヒア・コリを宿主微生物とする場合には、プラスミドpET-3a、pET-11a、pET-32aなどのpETベクター(Novagen)又はpBR322、pBR325、pACYC184、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pIN I、Bluescript KS+、枯草菌を宿主とする場合にはpUB110、pKH300PLK、放線菌を宿主とする場合にはpIJ680、pIJ702、酵母特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)を宿主とする場合にはYRp7、pYC1、Yep13などが使用できる。このようなベクターを、total DNAの切断に使用した制限酵素で生成するDNA末端と、同じ末端を生成する制限酵素で切断してベクター断片を作成し、total DNA断片とベクター断片とを、DNAリガーゼ酵素により常法に従って結合させれば良い。
【0020】
total DNAの断片を結合したプラスミドを移入する宿主微生物としては、組み換えDNAが安定かつ自律的に増殖可能であればよく、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリに属する微生物の場合、エシェリヒア・コリ BL21、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)、エシェリヒア・コリ BL21trxB、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)、エシェリヒア・コリ Rosetta、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)pLysS、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)pLacl、エシェリヒア・コリ RosettaBlue、エシェリヒア・コリ Rosetta-gami、エシェリヒア・コリ Origami、エシェリヒア・コリ Tuner、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ W3110、エシェリヒア・コリC600などが利用できる。また、微生物宿主が枯草菌に属する微生物の場合、バチルス・サチリス ISW1214など、放線菌に属する微生物の場合、ストレプトマイセス・リビダンス TK24など、サッカロマイセス・セルビシエに属する微生物の場合、サッカロマイセス・セルビシエ INVSC1などが使用できる。
宿主微生物に組み換えDNAを移入する方法としては、例えば、宿主微生物がエシェリヒア・コリやサッカロマイセス・セルビシエ、ストレプトマイセス・リビダンスに属する微生物の場合には、常法に従ってコンピテントセル化した宿主菌株に組み換えDNAの移入を行えばよく、菌株によっては電気穿孔法を使用しても良い。
【0021】
形質転換体からのアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むDNAの分離は、常法に従って行えば良い。上述の方法によって得られたアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のDNAの塩基配列は、デオキシ法で解読すればよく、またアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを構成するポリペプチドの全アミノ酸配列は、塩基配列より予測決定できる。この様にして一度選択された組み換えDNAは、組み換えDNAを保持する形質転換微生物から取り出され、他の宿主微生物に移入することも容易に実施できる。また、さらに、該組み換えDNAから制限酵素などにより切断してアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを構成するポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを切り出し、前記と同様な方法により切断して得られる他の開環ベクターの末端に結合させて新規な特徴を有する組み換えDNAを作製して、他の宿主微生物に移入することも容易に実施できる。
【0022】
このようにして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることによりアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを産生し得るが、宿主微生物によってはアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を移入するだけではアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ生産性を有しない場合がありうる。このような場合、得られたアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むDNA断片を、ゾラーの方法による部位特異的変異法による制限酵素認識部位の作製や、制限酵素による切り出しなどにより適切な形態で分離し、該宿主微生物に適合する遺伝子プロモーター下流にアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を結合したDNAを組み込んだプラスミドにより、新たな形質転換体を作成し、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを産生させれば良い。
【0023】
例えば、上記宿主微生物がエシェリヒア・コリに属する微生物の場合、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を接続する遺伝子プロモーターとしては、lacZプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、ピルビン酸オキシダーゼ遺伝子プロモーターなどが例示され、これらのプロモーターの下流にリボソーム結合部位を介在して、開始コドンATGやGTGを有するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ構造遺伝子を接続し、大腸菌を宿主とするベクターに組み込み、かくのごとくして作成されたプラスミドで大腸菌を形質転換すれば良い。
【0024】
上記の遺伝子操作に一般的に使用される量的関係は、供与微生物からのDNA及びプラスミドDNA0.1から10μgに対し、制限酵素約1から10U、リガーゼ約300U、その他の酵素約1から10U、程度が例示される。
【0025】
また、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼは公知の遺伝子操作手段により、本来の反応を触媒する性質を損なわないペプチドの変異をなしてもよく、このような変異体アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子から遺伝子工学的手法により作製される人工変異遺伝子を意味し、この人工変異遺伝子は前述の部位特異的変異法や、目的遺伝子の特定DNA断片を人工変異DNAで置換するなどの種々なる遺伝子工学的方法を使用して得られる。このようにして取得された人工変異アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子をベクターに挿入して宿主微生物に移入させることによって変異体アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを発現させることが可能であり、優れた性質を有する変異体アスパラギン酸デヒドロゲナーゼができればそれを製造することも可能である。
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含み、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを産生し得る形質転換微生物の具体的な例示としては、図5に示すようなエシェリヒア・コリ BL21 Codon Plus(DE3)を含有するプラスミドpET-11a/AF1838を導入した形質転換微生物が挙げられる。
【0026】
次にアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの生産方法について説明する。
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼは主としてその菌体内に含有、蓄積されており、その菌体内から抽出すれば良い。当該デヒドロゲナーゼを産生する菌を培養し、培養物から得ることができる。産生する菌は前記形質転換体でもよいし、天然の微生物であってもよい。
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ産生菌を培養し、培養終了後、得られた湿潤菌体をリン酸緩衝液やトリス-塩酸緩衝液などの溶液に分散し、濾過又は遠心分離などの手段により菌体を採集し、次いでこの菌体を機械的方法又はリゾチームなどの酵素的方法、超音波処理、フレンチプレス処理、ダイノミル処理などの菌体破砕手段を適宜選択組み合わせて、粗製のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ含有液を得る。
【0027】
粗製のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ含有液から公知のタンパク質や酵素などの単離、精製手段を用いて精製アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを得る。例えば、粗製のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ含有液にアセトン、メタノール、エタノールなどの有機溶媒による分別沈殿法、硫酸アンモニウム、食塩などによる塩析法などを適用してアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを沈殿させ、回収する。さらに、この沈殿物を必要に応じて透析、等電点沈殿を行った後、電気泳動法などで単一の帯を示すまで、イオン交換体、ゲル濾過剤、吸着体などを用いるカラムクロマトグラフィーなどにより精製する。また、これらの方法を適当に組み合わせることによりアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの精製度が上がる場合は適宜組み合わせて行うことができる。
例えば、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの製造方法として、本発明の形質転換体を培地に培養し、以下の工程により製造する方法等が挙げられる。
(a)本発明の組換えベクターを含む形質転換体を液体培養する工程。
(b)工程(a)で得られる形質転換体を集菌し可溶化する工程。
(c)工程(b)で得られる可溶化液を熱処理する工程。
(d)工程(c)に続いてアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製する工程。
(e)必要に応じて工程(c)から(d)を繰り返す工程。
【0028】
形質転換微生物の培養条件は、その栄養生理的性質を考慮して選択すれば良く、通常多くの場合は、液体培養で行うが、工業的には深部通気撹拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが広く使用されうる。炭素源としては、資化可能な炭素化合物であればよく、例えばグルコース、サッカロース、ラクトース、マルトース、フラクトース、糖蜜などが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であれば良く、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0029】
培養温度は微生物が発育し、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリの場合、好ましくは20から42℃程度である。培養時間は、条件によって多少異なるが、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼが最高収量に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すればよく、エシェリヒア・コリの場合、通常は12から48時間程度である。培地pHは菌が発育し、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリの場合、好ましくはpH6から8程度である。
【0030】
これらの方法によって得られる酵素は安定化剤として、各種の塩類、糖類、タンパク質、脂質、海面活性化剤などを加え、あるいは加えることなく、限外濾過濃縮、凍結乾燥などの方法により、液状又は固形のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを得ることができ、また、適宜凍結乾燥を行ってもよく、この場合安定化剤としてサッカロース、マンニトール、食塩、アルブミンなどを0.5から10%程度添加しても良い。
【0031】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼとしては、グルタミン酸を基質としないアスパラギン酸デヒドロゲナーゼが好ましく、特に、L−アスパラギン酸に基質特異性が高いアスパラギン酸デヒドロゲナーゼが好ましい。さらにはL−アスパラギン酸のみを基質とするアスパラギン酸デヒドロゲナーゼが好ましい。
【0032】
また、本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼは熱安定性がよいものが好ましい。例えば、70℃20分で85%以上の活性を保持する酵素であれば好ましく、80℃20分で85%以上の活性を保持する酵素であればさらに好ましく、90℃20分で85%以上の活性を保持する酵素であれば大変に好ましい。その結果、特に本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを液状試薬に使用することにより大幅な試薬の安定性の向上が見込まれる。
【0033】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼとして、具体的に次のような理化学的性質を有するものを挙げることができる。。
(1)熱安定性が、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.2)中で、少なくとも70℃、20分間熱処理した場合に酵素活性が85%以上保持され、80℃で85%以上保持され、さらに90℃で85%以上保持される。
(2)至適pHが、pH11からpH12である。
(3)至適温度が、約80℃である。
(4)pH安定性が、pH5からpH11.0の範囲で安定である。
(5)基質特異性がL-アスパラギン酸に特異的である。
このような理化学的性質を有するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼは、L−アスパラギン酸に対して特異的であり、かつ高い熱安定性により、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの測定に好適に用いることができる。
【0034】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの酵素作用について説明する。本作用は、in vivoでの反応は式6と考えられるが、in vitroではイミノアスパラギン酸が自発的に加水分解されるので見かけ上の反応は式7である。
L-アスパラギン酸 + NAD(P)+ ⇔ イミノアスパラギン酸 + NAD(P)H + H+(式6)
L-アスパラギン酸 + NAD(P)+ + H2O ⇔ オキサロ酢酸 + NAD(P)H + NH4+(式7)
【0035】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたASTの測定原理について説明する。本方法は、ASTを含有する体液などの試料にアスパラギン酸デヒドロゲナーゼとNAD又はNADPを作用させることで、NAD又はNADPが還元されて生成するNADH又はNADPHについて、その増加速度を紫外部における吸光度により測定し、定量するものである。
【0036】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼによるASTの測定方法の特徴は、(1)NADH、NADPH又はホルマザン色素の増加速度を測定する方法であるために、その測定可能な濃度範囲がNADH、NADPH又はホルマザン色素の減少速度を測定する方法に比べて広く、高濃度(2000U/ml以下)まで測定できる、(2)該酵素はデヒドロゲナーゼであるために、高濃度(1000U/ml以上)のASTを測定する場合、溶存酸素の濃度が全反応を律速しない、という点にある。
【0037】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたASTの測定法の反応式は次のようである。式8のASTの反応により生じたアスパラギン酸を本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの存在下にオキサロ酢酸に変化させる。このとき、補酵素NAD(P)はNAD(P)+となるため、340nmにおけるNADHの吸光度は増加する(式9)。このNADHの吸光度よりASTを定量し、ASTの増加速度を測定することができる。また、ジアホラーゼとニトロブルーテトラゾリウム(NBT)を使用してホルマザン色素の増加を測定することで(式10)、ASTを定量することもできる。
【0038】

L-グルタミン酸 + オキサロ酢酸 → L-アスパラギン酸 + α-ケトグルタル酸 (式8)
L-アスパラギン酸 + NAD(P)+ + H2O → オキサロ酢酸 + NAD(P)H +NH4+ (式9)
NAD(P)H + NBT + H+ → ホルマザン色素 + NAD(P)+ (式11)
【0039】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたASTの測定法において、使用しうる試料とは、ASTを含有するものであれば特に限定されないが、生体試料、例えば、血漿、血清、尿などを挙げる事ができる。
【0040】
また、本発明の測定法において、使用しうる試薬とは、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの作用により試料中のAST反応生成物であるアスパラギン酸を測定する試薬、及び該反応によって変化するNAD(P)H又はホルマザン色素などの光学的増加によりASTを測定する試薬のことをいう。
【0041】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたASTの測定法において、使用するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼは反応液中、0から100U/ml、好ましくは0から10U/mlさらに好ましくは0から1U/mlである。
【0042】
緩衝剤としては公知のいずれの緩衝剤も使用されうるが、好ましくはpH8以上の緩衝液が用いられ、例えば、トリス緩衝液、グリシルグリシン緩衝液、2−アミノ−2−メチル1,3−プロパンジオール緩衝液、ジエタノールアミン緩衝液、ホウ酸緩衝液、グリシン緩衝液、炭酸ナトリウム炭酸水素ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液、やGOODの緩衝液、その他BrittonとRobinsonの広域緩衝液などが挙げられる。緩衝液の濃度は反応液のpHを長期間安定に保つ濃度で有ればよいが、1から2000mM、好ましくは10から500mM、さらに好ましくは20から300mMである。
【0043】
使用するオキサロ酢酸濃度は反応液中に反応液を長期間安定に保つために必要充分量入っていれば良いが、1から1000mM、好ましくは1から500mM、さらに好ましくは10から100mMである。使用するNAD(P)濃度は反応液中に反応液を長期間安定に保つために必要充分量入っていれば良いが、1から1000mM、好ましくは1から500mM、さらに好ましくは10から100mMである。
【0044】
使用するグルタミン酸濃度は反応液中に反応液を長期間安定に保つために必要充分量入っていれば良いが、1から1000mM、好ましくは1から500mM、さらに好ましくは10から100mMである。その他、必要に応じてジアホラーゼを1から500U/ml、好ましくは1から50U/ml、ホルマザン色素を0.1から10%、好ましくは0.1から2%、界面活性剤を0.001%から5%、好ましくは0.05%から1%添加してもよい。
【0045】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを含有するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ組成物も本発明の範囲内である。
当該組成物としては、少なくとも本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを含有する組成物であれば特に限定されないが、例えば、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼに加えて、さらにpH緩衝剤、オキサロ酢酸、NAD(P)、およびグルタミン酸から選択される少なくとも1つ以上の成分を含むことを特徴とする組成物が挙げられる。
また、これらに加えて、さらに、ジアホラーゼ、ホルマザン色素、界面活性剤、および賦形剤から選択される少なくとも1つ以上の成分を含むことを特徴とする組成物も好適な一例として挙げられる。
本発明の酵素を含有する組成物の使用目的は特に限定されないが、例えば、AST測定に使用することは好ましい態様である。AST測定に使用する態様としては、例えば、AST測定キットへの使用、ポイント・オブ・ケア(POC)のキャピラリーや試験片への使用、又は酵素センサーや酵素電極としての使用等が挙げられるが、AST測定キットへの使用が好ましい。
該組成物中のpH緩衝剤は公知のいずれのpH緩衝剤も使用されうる。本発明のAST測定には好ましくはpH8以上に調整できるpH緩衝剤が用いられ、例えば、トリス緩衝剤、グリシルグリシン緩衝剤、2−アミノ−2−メチル1,3−プロパンジオール緩衝剤、ジエタノールアミン緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、炭酸ナトリウム炭酸水素ナトリウム緩衝剤、リン酸緩衝剤やGOODの緩衝剤、その他BrittonとRobinsonの広域緩衝剤などが挙げられる。
該組成物中のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ濃度は、10mU/ml、緩衝剤濃度は10mM、オキサロ酢酸濃度は1mM、NAD(P)濃度は1mM、グルタミン酸濃度は1mMが好ましく、必要に応じてジアホラーゼを1U/ml、ホルマザン色素を0.1%界面活性剤を0.05%加えても良い。別の態様においては、上記の各物質の成分の濃度が必要に応じて濃縮された組成物であってもよい。例えば、POCのキャピラリーや試験片への使用又は酵素センサーや酵素電極としての使用の場合、各成分の濃度は通常よりも濃い濃度が好ましく、例えば、紙に染み込ませたり、ゲル状組成物として使用することが好ましい。
【0046】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたASTの測定法を行うにあたり、測定に用いる試薬を組み合わせ、キットとすることもできる。
本発明の酵素を含有するキットとしては、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを含有し、ASTを測定できるキットであれば特に限定されないが、例えば、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ、緩衝液、オキサロ酢酸、NAD(P)、グルタミン酸を含有するキットが好ましい。該キットには、必要に応じて適宜、ジアホラーゼ、ホルマザン色素、界面活性剤を添加してもよい。また、例えば、含有する試薬の安定化や測定精度の安定化や向上の目的で、2試薬以上に分けて、キットとしても良い。
【0047】
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを含有するキットを用いて試料中のAST活性を測定する方法では、反応槽中で試料と本発明の酵素を含有するキットを混和して20から50℃で0から15分間、通常好ましくは、37℃で5分間反応させることにより、NAD(P)Hまたはホルマザン色素の変化を測定することができる。測定には例えばNAD(P)Hまたはホルマザン色素の吸収極大を利用した光学的方法や電位差などの電気的な変化を測定する方法が例示される。
【0048】
これらの試薬やキットは液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥及び/又は風乾及び/又は減圧乾燥等による)として提供できる。液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品が好ましく、液状品、液状品の凍結乾燥品がより好ましく、液状品が最も好ましい。別の態様として、液状品の凍結物が好ましい場合もある。さらに別の態様としては、液状品の凍結乾燥が好ましい場合もある。
【0049】
以下、本発明の実施例を詳しく述べるが、本発明は何らこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中、常法に従い、と記述した遺伝子操作技術は、例えば、市販の各種酵素、キット類に添付された手順に従えば実施できるものである。また、実験に使用した組み換えDNA実験酵素試薬(制限酵素など)、ベクターDNA、キット類は特に指摘しない限り宝酒造株式会社より購入したものである。

【実施例】
【0050】
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性測定方法
<酵素活性測定法>
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性は還元的アミノ化反応を測定して求めた。酵素活性測定反応液の組成は次の通りである。
100mM トリス-塩酸緩衝液(pH7.5)
5mM オキサロ酢酸
800mM 塩化アンモニウム
0.2mM NADH
この酵素活性測定溶液0.95mlを層長1cmの石英セル中で50℃、3分間予備加温した後、適当に希釈した酵素液0.05mlを添加して酵素反応を開始し、反応開始後1分後から2分後の340nmにおける吸光度差を測定した(As)。また、盲検として適当に希釈した酵素液の代わりに蒸留水を用いて同一の操作を行って吸光度差を測定した(Ab)。この酵素液使用の吸光度(As)と盲検の吸光度(Ab)の吸光度差(As-Ab)より酵素活性を求めた。酵素活性1単位(1ユニット)は50℃で1分間に1マイクロモルのNADHをNADに酸化する酵素量とした。本条件下におけるNADHのミリモル吸光係数は6.22を使用した。
【0051】
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの理化学的性質
後述する試験例1〜5により製造されたアーキオグロブス・フルジダス DSM4304菌株由来のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの理化学的性質について測定結果を示す。
<熱安定性>
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを1mg/mlになるように10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.2)中に溶解し、各温度で20分間熱処理した後の残存活性を前記酵素活性測定法に従って測定した。その結果を図1に示した。これより少なくとも90℃、20分で85%以上の活性を保持していることが確認された。
【0052】
<Km値>
本発明のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの各基質、各補酵素に対するKm値をLineweaver-Burkプロットにより算出した、その結果を表1にまとめて示した。
【0053】
【表1】

【0054】
<分子量>
分子量はSuperose6(登録商標、Pharmacia Biotech社)によるゲル濾過法にて48.7kDa、SDSポリアクリルアミド電気泳動法にて25.5kDa、アミノ酸一次配列からの計算値にて26,208であった。したがって、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼは2量体と推定された。
【0055】
<至適pH>
前記酵素活性測定法にしたがって、至適pHを調べ、その結果を図2に示した。図2は、pH6.5からpH7.5の範囲はリン酸カリウム緩衝液(図中○印)、pH7.5からpH9.2の範囲はグリシルグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(図中●印)、pH9.0からpH10.5の範囲はグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(図中△印)、及びpH10.5からpH12.0の範囲はリン酸1水素ナトリウム-水酸化ナトリウム緩衝液(図中▲印)を使用した場合の最大活性を100%とした相対活性を示すもので、これよりアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの至適pHはpH11からpH12であることが確認された。
【0056】
<至適温度>
前記酵素活性測定法にしたがって、活性測定時の反応温度を調べ、その結果を図3に示した。図3は活性測定時の反応温度を20℃から90℃の範囲とした場合の最大活性を100%とした相対活性を示すもので、これよりアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの至適温度は約80℃であることが確認された。
【0057】
<pH安定性>
前記酵素活性測定法に従って、100mMの各種緩衝液中のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ1mg/mlを50℃で30分間処理した場合の残存活性を測定し、その結果を図4に示した。図4は、pH3.5からpH5.5の範囲は100mMの酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(図中○印)、pH5.5からpH7.5の範囲は100mMのBisTris-塩酸緩衝液(図中●印)、pH6.5からpH7.5の範囲は100mMのリン酸カリウム緩衝液(図中△印)、pH7.5からpH9.0の範囲はグリシルグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(図中▲印)、pH9.0からpH11の範囲はグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(図中□印)、及びpH11.0からpH12.0の範囲はリン酸1水素ナトリウム-水酸化ナトリウム緩衝液(図中■印)を使用したときの最大活性を100%とした相対活性を示すもので、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼはpH5からpH11.0の範囲で安定であることが確認された。
【0058】
<基質特異性>
表1に示す各化合物を基質として活性染色法にて基質特異性を測定した。アスパラギン酸デヒドロゲナーゼはL-アスパラギン酸のみを基質とすることが確認された。
【0059】
【表2】

【0060】
[試験例1]
<アーキオグロブス・フルジダス DSM4304菌株からのDNAの抽出>
Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen (DSMZ)から購入したアーキオグロブス・フルジダス DSM4304を50mMのトリス-塩酸(pH8.0)、50mMのEDTA、15%シュークロースを含む1mg/mlリゾチーム溶液で37℃、10分処理した後、SDSを最終濃度0.25%になるよう添加して菌体を溶解した。さらに等量のフェノール/クロロホルム=1:1混合液を加え、30分攪拌した後、12,000rpmで15分遠心分離処理をして水層を回収した。
回収した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)を混合後、2倍量のエタノールを静かに重層し、ゲノムDNAをガラス棒に巻き付かせて分離した。分離したゲノムDNAを、10mM トリス-塩酸(pH8.0)、1mMのEDTA水溶液(TEバッファー)20mlに溶解し、20mg/mlのRNaseAを200μl加え、37℃で1時間保温し、混在しているRNAを分解した。次いで、等量のフェノール/クロロホルム混合液を加え、前記と同様に処理して、水層を分取した。分取した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)と2倍量のエタノールを加えて前記の方法でもう一度ゲノムDNAを分離した。
この染色体を50mlのTE(10mMのトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)、1mMのEDTA(pH8.0))に溶解し、TE飽和のフェノールとクロロホルムの1:1混和液20mlを加え、全体を懸濁した後、同様の遠心分離を繰り返し、上層を再び別の容器に移した。この分離した上層20mlに3M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)2mlとエタノール50mlを加え、撹拌後-70℃で5分間冷却した後、遠心分離(2,000G、4℃、15分)し、沈澱した染色体を75% エタノールで洗い、減圧乾燥した。以上の操作によりアーキオグロブス・フルジダス DSM4304標品1mgを得た。
【0061】
[試験例2]
<PCR法による配列表に示す遺伝子の増幅>
PCRは以下の条件で行った。
(1)プライマー
配列表配列番号3に示したヌクレオチドをセンスプライマーとして、配列表配列番号4に示したヌクレオチドをアンチセンスプライマーとして用いた。
(2) PCR反応溶液組成
KOD DNAポリメラーゼ 1μl
10倍濃縮のKOD DNAポリメラーゼに添付の緩衝液 5μl
1mM塩化マグネシウム 2μl
0.2mM dNTP 7.5μl
101μg/ml アーキオグロブス・フルジダス DSM4304のDNA 10μl
10pmol/μl センスプライマー 5μl
アンチセンスプライマー 5μl
蒸留水 14.5μl
(3)PCR反応条件
(a)98℃15秒、(b)65℃2秒、(c)74℃30秒、(a)から(c)を30回繰り返した。
【0062】
[試験例3]
<アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ発現プラスミドの構築>
実施例2で増幅したPCR産物はNdeIとBamHIで切断して精製し、これをpET-11aのNdeIとBamHIの切断部位に挿入し、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ発現プラスミド遺伝子が連結されたプラスミドを構築し、本プラスミドをpET-11a/AF1838と命名した。プラスミドpET-11a/AF1838の構造を図5に示した。なお、図中のBamHIとNdeI間はアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ構造遺伝子を、「Ap」はアンピシリン耐性構造遺伝子を、「ori」は大腸菌プラスミドの複製起点領域を、「lacI」はlacプロモーター領域をそれぞれ表す。このpET-11a/AF1838をエシェリヒア・コリ BL21codon Plus(DE3)株に導入した。
【0063】
[試験例4]
<pET-11a/AF1838保持大腸菌の培養とその細胞抽出液の調製>
pET-11a/AF1838を導入したエシェリヒア・コリ BL21codon Plus(DE3)株を50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に接種し、培養液の600nmの吸光度が0.6になったときにpETプロモーター誘導剤である1mMのIPTG(和光純薬社製)を添加した。その後、37℃でさらに4時間培養し、遠心分離(15,000G、1分、4℃)により集菌し、10mMのトリス-塩酸緩衝液(pH8.5)で懸濁して超音波破砕機を用いて菌体を破砕した後、遠心分離(15,000G、5分、4℃)し、上清を取得して粗酵素液とした。
【0064】
[試験例5]
<アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの精製法>
実施例4で得た粗酵素液を80℃で20分間加熱処理した。その後、遠心分離(15,000G、5分、4℃)し、上清を取得した。この上清を10mMのトリス-塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したRed Sepharose CL-4B(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)に吸着させた。10mMのトリス-塩酸緩衝液(pH8.5)で充分に洗浄した後、0及び0.5Mの塩化カリウムを含む10mMのトリス-塩酸緩衝液(pH8.5)を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分を10mMのトリス-塩酸緩衝液(pH8.5)で平衡化したG-25で脱塩して精製酵素とし、SDS-PAGEで単一バンドである事を確認した。精製工程のまとめを表3に、SDS−PAGE結果を図6に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
[実施例1]<アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたASTの測定>
サンプルとしてエンザイムレファレンスマテリアル(日本・常用酵素標準物質、ERM(旭化成ファーマ社製))ロット2を使用した。アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを使用したAST測定試薬は100mM トリス-塩酸緩衝液(pH9及びpH10)、1mM オキサロ酢酸、2mM NAD、2.5mU/ml アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ、2mM グルタミン酸、5U/ml ジアホラーゼ(旭化成ファーマ社製)、0.0125% NBT、0.1% トリトンX-100から成る。AST測定試薬0.7mlを層長1cmの石英セル中37℃で3分間予備加温した後、AST活性161U/LのERMを10μl添加して酵素反応を開始し、反応開始後4分後から6分後の550nmにおける吸光度差を測定した(As)。また、盲検としてアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの代わりに蒸留水を用いたAST測定試薬を使用して同一の操作を行って吸光度差を測定した(Ab)。この酵素液使用の吸光度(As)と盲検の吸光度(Ab)の吸光度差(As-Ab)をまとめて表4に示した。アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いて、ASTを増加反応で測定できた。
【0067】
【表4】

【産業上の利用の可能性】
【0068】
本発明により、安定性が良く、高濃度のASTの定量が可能なアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ、その製造法、及びそれを用いたASTの測定法、測定試薬を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの熱安定を示した図である。
【図2】アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの至適pHを示した図である。
【図3】アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの至適温度を示した図である。
【図4】アスパラギン酸デヒドロゲナーゼのpH安定性を示した図である。
【図5】アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現プラスミドpET18a/AF1838の制限酵素地図を示した図である。
【図6】アスパラギン酸デヒドロゲナーゼの各精製工程のSDS-PAGEを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーキア(Archaea)に属する微生物が生産するアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項2】
アーキオグロブス(Archaeoglobus)属に属する微生物由来のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項3】
アーキオグロブス・フルジダス(Archaeoglobus fulgidus)DSM4304菌株由来のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項4】
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法に用いられるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項5】
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼが、NADを補酵素としてL−アスパラギン酸を基質とした時のL−アスパラギン酸に対するKm値をKm1、NADHを補酵素としてオキサロ酢酸を基質としたときのオキサロ酢酸に対するKm値をKm2とすると、
Km1<Km2
の関係を満たす性質を有する請求項1〜4のいずれかに記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項6】
以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(a)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ。
(b)配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項7】
以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるアスパラギン酸デヒドロゲナーゼタンパク質。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項8】
以下の(a)又は(b)の遺伝子。
(a)配列番号2に示される遺伝子配列を含むアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子。
(b)配列番号2に示される遺伝子配列において1もしくは複数個の核酸が欠失、置換もしくは付加された核酸配列からなり、かつアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項9】
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを製造するための請求項7又は8に記載の遺伝子の使用方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項12】
請求項10に記載の形質転換体を培地に培養し、その培養物からアスパラギン酸デヒドロゲナーゼを採取することを特徴とするアスパラギン酸デヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項13】
アスパラギン酸デヒドロゲナーゼを用いたアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ又はタンパク質を用いたアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
【請求項15】
反応生成物の増加を測定する請求項13又は14に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
【請求項16】
反応生成物の増加が、NADH、NADPH、又はホルマザン色素の増加である請求項15に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
【請求項17】
2000U/ml以下の濃度のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを測定する請求項13〜16のいずれかに記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定方法。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれかに記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ又はタンパク質を含むアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定用試薬。
【請求項19】
試薬が液体である請求項18に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ測定用試薬。
【請求項20】
請求項1〜6のいずれかに記載のアスパラギン酸デヒドロゲナーゼ又はタンパク質を含むアスパラギン酸アミトランスフェラーゼ測定用試薬キット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−254730(P2006−254730A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73757(P2005−73757)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月18日 社団法人日本農芸化学会主催の「2004年度 日本農芸化学会中国四国支部大会(第10回講演会)」において文書をもって発表
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】