説明

新規なカルボニル架橋型アセン系化合物およびその製造方法

【課題】 規則性の高い導電性薄膜を簡易な方法で効率良く作成することができる新規なアセン系化合物前駆体を提供する。
【解決手段】 一般式(1)


(式中、Zは−C(=O)−を表わす。m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるカルボニル架橋型アセン系化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体デバイス等を構成する導電性薄膜の原材料として有用な新規なカルボニル架橋型アセン系化合物に関する。また、本発明はかかるカルボニル架橋型アセン系化合物の容易な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスのパターンは微細化して、回路の集積度も増々高くなっていく傾向にあり、現在、数ナノメートル(nm)〜数十nmの導電性薄膜を形成する技術の確立が望まれている。このような薄い導電性薄膜を半導体上に形成する技術の一例として、有機分子を用いて自己組織化(Self Assembling)薄膜(以下、SA薄膜と称する)を形成させる方法が近年提唱されている。この技術は有機分子が規則的な構造に配列する性質を利用したものであり、極めて欠陥が少なくかつ高い秩序性を持った薄膜を製造することができる。SA薄膜は、印刷やインクジェットなどの手法により有機分子またはその前駆体を半導体等の基体上に付与することにより形成することができる。
【0003】
SA薄膜の作成に適した材料として、アセン系化合物の一種であるペンタセンの前駆体となる各種のペンタセン付加化合物が報告されている(下記の特許文献1〜3および非特許文献1および2参照)。しかし、これらのペンタセン付加化合物を用いて規則的な構造を有する薄膜の製造を簡便安価な設備で効率良く実施するには多くの問題が存在していた。例えば、これらのペンタセン付加化合物をペンタセンに変換するには、高価な設備を伴う光照射を要したり、200℃以上の高温での熱分解を要したり、150℃で1時間もの長時間の熱分解を要したりしていた。
【0004】
これらの問題に鑑み、近年ペンタセンの高温溶解による直接的なペンタセン薄膜の作成方法が報告されている(下記の特許文献4および非特許文献3,4参照)。これらの方法は上述のペンタセン付加化合物をペンタセンに変換する方法より若干簡便であるが、溶解度が極めて低いペンタセンを溶解させるため、煩雑な工程、即ち、溶剤として200℃以上の高沸点の溶剤を用い、ペンタセンと溶剤の混合物を高温に加熱して急冷することによりペンタセン微粒子の分散液を得る工程を含む。さらに、これらの方法では、この分散液を基板上に塗布してから100℃〜200℃に再加熱する必要がある。従って、これらの方法は導電性薄膜を効率良く作成するにはいまだ充分ではない。
【特許文献1】米国特許公開第2003/0144562号公報
【特許文献2】米国特許公開第2004/0119073号公報
【特許文献3】米国特許公開第2004/0183070号公報
【特許文献4】特開2005−281180公報
【非特許文献1】Tetrahedoron Letters,46,1981(2005)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.2004,126,12740(1994)
【非特許文献3】Synth.Met.,153,1(2005)
【非特許文献4】応用物理 75(3),565(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は規則性の高い導電性薄膜を簡易な方法で効率良く作成することができる新規なアセン系化合物前駆体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる目的を達成するために、目的のアセン系化合物よりも有機溶媒に溶解しやすくかつ簡易な操作により容易にアセン系化合物に変換される前駆体について鋭意検討した結果、カルボニル架橋型アセン系化合物が、多くの有機溶媒に対して良好な溶解性を有し、そして100℃〜150℃程度の温度で短時間加熱することにより、目的のアセン系化合物を容易に生成することを見出した。さらに、本発明者らは、このカルボニル架橋型アセン系化合物が、Diels−Alder反応を利用した二種類の合成ルート、即ち(A)ジメチリデンノルボルネン類に縮合ベンザイン類を反応させる方法、及び(B)ノルボルナジエン類にオルトジハロキノジメタン類を反応させる方法の、いずれかの合成ルートを利用することにより、ヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を経由して容易に誘導できることを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、一般式(1)

(式中、Zは−C(=O)−を表わす。m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるカルボニル架橋型アセン系化合物が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、一般式(2)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
一般式(4)

(式中、mは0以上の整数を表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるジメチリデンノルボルネン類と
一般式(5)

(式中、nは0以上の整数を表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表される縮合ベンザイン類を反応させることにより、一般式(6)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表される環化体もしくはそのアルカリ金属塩を得、この環化体もしくはそのアルカリ金属塩を脱水素させることにより、
一般式(3)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるオキシメチレン架橋型アセン系化合物を得、このオキシメチレン架橋型アセン系化合物を分解することにより、
一般式(2)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を得ることを特徴とする一般式(2)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、一般式(7)

(式中、mは0以上の整数を表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるノルボルナジエン類と
一般式(8)

(式中、nは0以上の整数を表わす。Xはハロゲンを表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるオルトジハロキノジメタン類を反応させることにより、一般式(9)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。Xはハロゲンを表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表される環化体を得、この環化体を脱ハロゲン化水素させることにより、
一般式(3)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるオキシメチレン架橋型アセン系化合物を得、このオキシメチレン架橋型アセン系化合物を分解することにより、
一般式(2)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を得ることを特徴とする一般式(2)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、一般式(2)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を酸化することを特徴とする一般式(1)で表されるカルボニル架橋型アセン系化合物の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、一般式(1)で表されるカルボニル架橋型アセン系化合物をその分解温度まで加熱して分解することを特徴とする
一般式(10)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるアセン系化合物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物は、目的のアセン系化合物よりも有機溶媒に溶けやすく、且つ100〜150℃程度の温度で短時間加熱するという簡易な操作により容易に目的のアセン系化合物に変換できるため、有機半導体デバイス等の分野で有用な規則性の高い導電性薄膜を簡単な方法で効率良く製造するために用いることができる。
また、アセン系化合物やその前駆体の溶解に使用する有機溶媒としては、環境保護の観点からハロゲン数が多いトリクロロベンゼンやジクロロベンゼンよりハロゲン数が少ないモノクロロベンゼンやハロゲンを含まないキシレンなどの使用が望ましいが、本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物はモノクロロベンゼンの沸点(132℃)やキシレンの沸点(約140℃)に近い分解温度を有するので、これらを溶媒として使用することができ、環境に優しい導電性薄膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物は、導電性薄膜の材料であるアセン系化合物の前駆体の一種であり、カルボニル型の架橋、即ち−C(=O)−の架橋部を有するアセン系化合物である。この化合物の製造方法の概略を以下の反応スキーム1に示す。一般式(1)の化合物は、一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物を分解して一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を得、これを酸化することにより容易に得ることができる。一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物は、Diels−Alder反応を利用した二種類の合成ルート、即ち(A)一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類に一般式(5)の縮合ベンザイン類を反応させる方法、及び(B)一般式(7)のノルボルナジエン類に一般式(8)のオルトジハロキノジメタン類を反応させる方法、のいずれかの合成ルートを利用することにより誘導できる。

(スキーム中、Zは−C(=O)−を表わす。m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)
【0015】
次に、上記の合成ルート(A)及び合成ルート(B)を利用した本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物の製造方法についてさらに具体的に説明する。
合成ルート(A)を利用した本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物の製造方法
合成ルート(A)を利用した本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物の製造方法の詳細を以下の反応スキーム2に示す。この製造方法ではまず、一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類と一般式(5)の縮合ベンザイン類のDiels−Alder反応(1)−Aにより一般式(6)の環化生成物もしくはそのアルカリ金属塩が導かれる。この環化生成物もしくはそのアルカリ金属塩は次に脱水素反応(2)−Aにより一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物に変換される。このオキシメチレン架橋型アセン系化合物は酸、アルカリ、もしくは中性条件の分解反応(3)により一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物に変換される。このヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物はさらに酸化反応(4)により一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物に誘導される。

(図中、Z、m、n、R、R及びRは反応スキーム1について定義されるものと同じである。)
【0016】
上記の反応スキーム2に示される各反応についてさらに具体的に説明する。
反応(1)−A
反応(1)−Aは、一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類と一般式(5)の縮合ベンザイン類のDiels−Alder反応により一般式(6)の環化体を得る反応である。
反応(1)−Aに用いられる一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類としては、例えば7−アセトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ベンゾノルボルネン、7−(p−クロロベンゾイルオキシ)―2,3−ビスメチリデン−5,6−ベンゾノルボルネン、7−ベンジルオキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ベンゾノルボルネン、7−t−ブトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ベンゾノルボルネン、7−(α−エトキシ)エトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ベンゾノルボルネン、7−(α−ピラニル)オキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ベンゾノルボルネン、7−アセトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ナフトノルボルネン、7−(p−クロロベンゾイルオキシ)―2,3−ビスメチリデン−5,6−ナフトノルボルネン、7−ベンジルオキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ナフトノルボルネン、7−t−ブトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ナフトノルボルネン、7−(α−エトキシ)エトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ナフトノルボルネン、7−(α−ピラニル)オキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−ナフトノルボルネン、7−アセトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−アントラノルボルネン、7−(p−クロロベンゾイルオキシ)―2,3−ビスメチリデン−5,6−アントラノルボルネン、7−ベンジルオキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−アントラノルボルネン、7−t−ブトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−アントラノルボルネン、7−(α−エトキシ)エトキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−アントラノルボルネン、7−(α−ピラニル)オキシ―2,3−ビスメチリデン−5,6−アントラノルボルネンおよびこれらの化合物のベンゼン環上に前記の置換基R(RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)が結合した化合物を挙げることができる。
【0017】
置換基RにおけるC1〜30のアルキルは特に限定されず、例えばメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチル、ネオペンチル、オクチル、ドデシル等を挙げることができ;C1〜C30のハロゲン化アルキル基は特に限定されず、例えばトリフルオロメチル、トリフルオロエチル、パーフルオロヘキシル等を挙げることができ;C6〜C30のアリールは特に限定されず、フェニル、パーフルオロフェニル、メチルフェニル、ジオクチルフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ナフチル、ビフェニル等を挙げることができ;C4〜C30のヘテロアリールは特に限定されず、例えばチエニル、ピロリル、ピリジル、ヘキシルチエニル、ベンゾチエニル、カルバゾリル等を挙げることができ;C1〜C30のアルコキシもしくはC6〜C30アリールオキシは特に限定されず、例えばメトキシ、エトキシ、オクチルオキシ、フェノキシ、ナフトキシ、パーフルオロフェノキシ、パーフルオロナフトキシ等を挙げることができ、C3〜C30のトリアルキルシリル基は特に限定されず、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリn−オクチルシリル基等を挙げることができ、ハロゲンは特に限定されず、例えばフッ素、クロル、ブロモ等を挙げることができる。
【0018】
これらの一般式(4)の化合物は以下の公知文献1〜3を参考にして合成することができる。
公知文献1:Org.Biomol.Chem.,,448(2005)
公知文献2:Helvetica Chimca Acta,68,236(1985)
公知文献3:J.Amer.Chem.Soc.,98,1810(1976)
【0019】
反応(1)−Aに用いられる一般式(5)の縮合ベンザイン類は通常、2,3−ジハロゲン化アセン系化合物に脱ハロゲン化剤を作用させることにより反応系中にて反応活性種として得ることができる。2,3−ジハロゲン化アセン系化合物としては1−フルオロ−2−ヨードベンゼン、1−フルオロ−2−ブロモベンゼン、1,2−ジブロモベンゼン、1,2−ジヨードベンゼン、2−フルオロ−3−ヨードナフタレン、2−ブロモ−3−フルオロベンゼン、2−フルオロ−3−ブロモナフタレン、2−クロロ−3−ヨードナフタレン、2−クロロ−3−ブロモナフタレン、2,3−ジヨードナフタレン、2,3−ジブロモナフタレン、2,3−ジヨードアントラセン、2,3−ジブロモアントラセン、2,3−ジヨードテトラセン、2,3−ジブロモテトラセン、およびこれらの化合物のベンゼン環上に前記の置換基R(RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)が結合した化合物を挙げることができる。
【0020】
置換基RにおけるC1〜30のアルキルは特に限定されず、例えばメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチル、ネオペンチル、オクチル、ドデシル等を挙げることができ;C1〜C30のハロゲン化アルキル基は特に限定されず、例えばトリフルオロメチル、トリフルオロエチル、パーフルオロヘキシル等を挙げることができ;C6〜C30のアリールは特に限定されず、フェニル、パーフルオロフェニル、メチルフェニル、ジオクチルフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ナフチル、ビフェニル等を挙げることができ;C4〜C30のヘテロアリールは特に限定されず、例えばチエニル、ピロリル、ピリジル、ヘキシルチエニル、ベンゾチエニル、カルバゾリル等を挙げることができ;C1〜C30のアルコキシもしくはC6〜C30アリールオキシは特に限定されず、例えばメトキシ、エトキシ、オクチルオキシ、フェノキシ、ナフトキシ、パーフルオロフェノキシ、パーフルオロナフトキシ等を挙げることができ、C3〜C30のトリアルキルシリル基は特に限定されず、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリn−オクチルシリル基等を挙げることができ、ハロゲンは特に限定されず、例えばフッ素、クロル、ブロモ等を挙げることができる。
【0021】
脱ハロゲン化剤としては、Li、Na、Kなどのアルカリ金属類もしくはメチルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、N,N−ジイソプロピルリチウムアミド、フェニルリチウムなどアルカリ有機金属類を使用することができる。
【0022】
一般式(5)の縮合ベンザイン類の調製は以下の公知文献4〜6を参考に行なうことができる。
公知文献4:J.Chem.Soc.(C),2162(1970)
公知文献5:European Polym.J.,27,27−33(1991)
公知文献6:J.Amer.Chem.Soc.,128,9612(2006)
【0023】
反応(1)−Aにおいて、一般式(5)の縮合ベンザイン類の原料となる2,3−ジハロゲン化アセン系化合物の使用量は一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類1重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜4重量部である。また、脱ハロゲン化剤の使用量は2,3−ジハロゲン化アセン系化合物1重量に対して1〜6重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜4重量部である。
【0024】
本反応は、実質的に2,3−ジハロゲン化アセン系化合物を用いて一般式(5)の縮合ベンザイン類を調製する条件に準じて行なわれ、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気において反応容器に2,3−ジハロゲン化アセン系化合物、一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類および脱ハロゲン化剤を仕込み、−90〜120℃、好ましくは−70〜80℃の条件で1〜60時間、好ましくは1〜30時間反応させることによって行うことができる。反応試剤の仕込み方法は一括添加もしくは逐次添加が好ましく、滴下等のように反応試剤の濃度を調節するなどの方法も適用することができる。また、本反応は通常、常圧開放系で実施されるが、密閉容器を用いて常圧〜加圧下で実施することもできる。
【0025】
本反応では必要に応じて溶媒を使用する。溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、フルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒は1種単独で使用してもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。溶媒の使用量は一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類1重量部に対して5〜500重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜250重量部である。
【0026】
本反応の生成物である一般式(6)の環化体の単離方法としては抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーもしくはこれらを組み合わせた操作を用いることができる。場合によっては濃縮や溶媒置換を行ってからこれらの操作を行うことが適当である。また、さらに高純度の目的物を得る必要がある場合には単離物に対して抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの精製操作をさらに行うことができる。また、生成物の単離は必ずしも本反応工程には必要なく、次反応(2)−Aもしくは次々反応(3)を実施してから単離することもできる。
【0027】
反応(2)−A
反応(2)−Aは、反応(1)−Aにより得られた一般式(6)の環化体を脱水素して一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物を得る反応である。本反応に用いられる脱水素反応試剤としては2,3,5,6−テトラクロロ−p−ベンゾキノン,2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン等のベンゾキノン類、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、1−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等の低温分解性のアゾ化合物、Li、Na、Kなどのアルカリ金属類もしくはメチルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、N,N−ジイソプロピルリチウムアミド、フェニルリチウムなどアルカリ有機金属類が挙げられる。なお、前記の反応(1)−Aに続いて本反応を行う場合、反応(1)−Aにおいて使用される脱ハロゲン化反応試剤が本反応の脱水素反応試剤としても作用するので、反応(1)−Aにおいて使用された脱ハロゲン化反応試剤が反応後も反応系中に残存しているように脱ハロゲン化反応試剤の添加量を調節することにより、実質的に脱水素反応試剤を新たに加えることなく反応(2)−Aを行うことも可能である。
【0028】
前記の脱水素反応試剤の使用量は一般式(6)の環化体1重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5重量部である。
【0029】
本反応は一般的には常圧条件下、0〜200℃、好ましくは0〜150℃、1〜50時間、好ましくは1〜30時間で行うことができる。
【0030】
本反応では必要に応じて溶媒を使用する。溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒は1種単独で使用してもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。溶媒の使用量は原料の一般式(6)の化合物1重量部に対して5〜500重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜250重量部である。
【0031】
本反応の生成物である一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物の単離方法としては抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーもしくはこれらを組み合わせた操作を用いることができる。場合によっては濃縮や溶媒置換を行ってからこれらの操作を行うことが適当である。また、さらに高純度の目的物を得る必要がある場合には単離物に対して抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの精製操作をさらに行うことができる。また、生成物の単離は必ずしも本反応工程には必要なく、次反応(3)を実施してから単離することもできる。
【0032】
反応(3)
反応(3)は、反応(2)−Aにより得られた一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物を分解して一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を得る反応である。本反応に用いられる反応試剤は一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物の置換基Rの構造に応じて酸、塩基もしくは中性条件下で反応が行なわれる接触水添触媒やエステル加水分解酵素が用いられる。酸性条件にするための酸としては塩酸、硫酸、ギ酸、シュウ酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、クロル酢酸、フルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の無機、有機の酸、およびこれらの水溶液を使用することができる。また塩基性条件にするための塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、リチウムメトキサイド、カリウムメトキサイド、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、プロピルアミン、ヒドラジン、メチルヒドラジン等の無機、有機の塩基およびこれらの水溶液を使用することができる。
【0033】
前記の酸の使用量は一般式(3)の化合物1重量部に対して0.0001〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.001〜1重量部である。また、塩基の使用量は一般式(3)の化合物1重量部に対して0.1〜20重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0034】
本反応は一般的には常圧条件下、0〜200℃、好ましくは0〜150℃、1〜50時間、好ましくは1〜30時間で行うことができる。
【0035】
本反応では必要に応じて溶媒を使用する。溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒もしくは水などを使用することができる。これらの溶媒は1種単独で使用してもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。溶媒の使用量は一般式(3)の化合物1重量部に対して5〜500重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜250重量部である。
【0036】
本反応の生成物である一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物の単離方法としては抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーもしくはこれらを組み合わせた操作を用いることができる。場合によっては濃縮や溶媒置換を行ってからこれらの操作を行うことが適当である。また、さらに高純度の目的物を得る必要がある場合には単離物に対して抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの精製操作をさらに行うことができる。また、生成物の単離は必ずしも本反応工程には必要なく、次反応(4)を実施してから単離することもできる。
【0037】
本反応をより効率的に行なうために、酸、塩基のいずれを用いる場合においても相関移動触媒を用いて反応を加速することが望ましい。酸を用いる場合の相関移動触媒としてはテトラ−N−エチルアンモニウムブロミド、テトラ−N−ブチルアンモニウムブロミド、N−ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、N−ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、トリエチルオクチルアンモニウムアイオダイドなどの四級アンモニウム塩類を挙げることができ、塩基を用いる場合の相関移動触媒としては前記の4級アミン塩、18−クラウン−5、18−クラウン−6、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、5,6−ベンゾ−4,7,13,16,21,24−ヘキサオクサ−1,10−ジアザビシクロ[8,8,8]ヘキサコサンなどのクラウンエーテル類を挙げることができる。相間移動触媒の使用量は一般式(3)の化合物1重量部に対して0.0001〜0.1重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.0005〜0.05重量部である。
【0038】
本反応の実施はアルコール保護基の分解やエステル類の加水分解などに関する以下の公知文献7、8を参考に行なうことができる。本反応は前記の酸、塩基を用いる反応以外にエステル加水分解酵素を用いる中性条件の反応でも実施することができる。
公知文献7:Protective Groups In Organic Syn-thesis,PP10〜142(1990:John Wily & Sons)
公知文献8:第5版実験化学講座、No.16、10(2005:日本化学会)
【0039】
反応(4)
反応(4)は、反応(3)により得られた一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を酸化して一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物を得る反応である。本反応は2級アルコールである一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物をケトンに変換する酸化反応であり、下記の公知文献に報告されているようにJones試薬,Sarett試薬,Collins試薬、PCC,PDCなどように酸化クロムを利用する酸化反応(公知文献9、10)、超原子価ヨウ素化合物剤を利用する酸化反応(公知文献11)、ジメチルスルホキシドを酸化剤とするスワ−ン酸化(公知文献12)、スルフィンイミドイルクロリド類を用いる酸化反応(公知文献13)などを利用することができる。安全性の面からは有害な酸化クロムを使用しない方法(公知文献12、13)が望ましく、臭気を発生しない方法(公知文献13)を用いることによってより簡便に実施することができる。
公知文献9:Tetrahedron Letters.,1975,2647
公知文献10:Tetrahedron Letters.,1979,399
公知文献11:J.Org.Chem.,48,4156(1983)
公知文献12:Tetrahedron,34,1651(1978)
公知文献13:Bull.Chem.Soc.Jpn.,75,223(2002)
【0040】
前記のスルフィンイミドイルクロリドを用いて本反応を行う場合、スルフィンイミドイルクロリドとしてはN−tert−ブチルフェニルスルフィンイミドイルクロリドが好適であり、併用する塩基としては1、8−ジアザビシクロ[5、4、0]ウンデカ−7−エン、1、5−ジアザビシクロ[4、3、0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどを使用できる。スルフィンイミドイルクロリド類の使用量は一般式(2)の化合物1重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜3重量部である。併用する塩基の使用量は一般式(2)の化合物1重量部に対して1〜15重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5重量部である。
【0041】
本反応に前記のスワーン酸化を用いる場合、活性な酸化剤はジメチルスルホキシドおよび塩化オキサリルから調製される。ジメチルスルホキシドの使用量は一般式(2)の化合物1重量部に対して1〜20重量部であることが好ましく、さらに好ましくは2〜10重量部であり、塩化オキサリルの使用量は一般式(2)の化合物1重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1.2〜5重量部である。併用する塩基としては1、8−ジアザビシクロ[5、4、0]ウンデカ−7−エン、1、5−ジアザビシクロ[4、3、0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの3級アミン類を使用できる。3級アミン類の使用量は一般式(2)の化合物1重量部に対して1〜15重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1.5〜10重量部である。
【0042】
本反応は一般的には常圧条件下、−80〜150℃、好ましくは−80〜100℃、1〜50時間、好ましくは1〜30時間で行うことができる。
【0043】
本反応では必要に応じて溶媒を使用する。溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒は1種単独で使用してもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。溶媒の使用量は一般式(2)の化合物の1重量部に対して5〜500重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜250重量部である。
【0044】
本反応の生成物である一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物の単離方法としては抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーもしくはこれらを組み合わせた操作を用いることができる。場合によっては濃縮や溶媒置換を行ってからこれらの操作を行うことが適当である。また、さらに高純度の目的物を得る必要がある場合には単離物に対して抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの精製操作をさらに行うことができる。
【0045】
合成ルート(B)を利用した本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物の製造方法
合成ルート(B)を利用した本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物の製造方法の詳細を以下の反応スキーム3に示す。この製造方法ではまず、一般式(7)のノルボルナジエン類と一般式(8)のオルトジハロキノジメタン類のDiels−Alder反応(1)−Bにより一般式(9)の環化生成物が導かれる。この環化生成物は次に脱ハロゲン化水素反応(2)−Bにより一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物に変換される。このオキシメチレン架橋型アセン系化合物は酸、アルカリ、もしくは中性条件の分解反応(3)により一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物に変換される。このヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物はさらに酸化反応(4)により一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物に誘導される。

(図中、Z、m、n、R、R及びRは反応スキーム1について定義されるものと同じである。)
【0046】
上記の反応スキーム3に示される各反応についてさらに具体的に説明する。
反応(1)−B
反応(1)−Bは、一般式(7)のノルボルナジエン類と一般式(8)のオルトジハロキノジメタン類のDiels−Alder反応により一般式(9)の環化体を得る反応である。
反応(1)−Bに用いられる一般式(7)のノルボルナジエン類としては、例えば7−アセトキシ−5,6−ベンゾノルボルナジエン、7−(p−クロロベンゾイルオキシ)−5,6−ベンゾノルボルナジエン、7−ベンジルオキシ−5,6−ベンゾノルボルナジエン、7−t−ブトキシ−5,6−ベンゾノルボルナジエン、7−(α−エトキシ)エトキシ−5,6−ベンゾノルボルナジエン、7−(α−ピラニル)オキシ−5,6−ベンゾノルボルナジエン、7−アセトキシ−5,6−ナフトノルボルナジエン、7−(p−クロロベンゾイルオキシ)−5,6−ナフトノルボルナジエン、7−ベンジルオキシ−5,6−ナフトノルボルナジエン、7−t−ブトキシ−5,6−ナフトノルボルナジエン、7−(α−エトキシ)エトキシ−5,6−ナフトノルボルナジエン、7−(α−ピラニル)オキシ−5,6−ナフトノルボルナジエン、7−アセトキシ−5,6−アントラノルボルナジエン、7−(p−クロロベンゾイルオキシ)−5,6−アントラノルボルナジエン、7−ベンジルオキシ−5,6−アントラノルボルナジエン、7−t−ブトキシ−5,6−アントラノルボルナジエン、7−(α−エトキシ)エトキシ−5,6−アントラノルボルナジエン、7−(α−ピラニル)オキシ−5,6−アントラノルボルナジエンおよびこれらの化合物のベンゼン環上に前記の置換基R(RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)が結合した化合物を挙げることができる。
【0047】
置換基Rの内容は、合成ルート(A)の反応(1)−Aに用いられる一般式(4)のジメチリデンノルボルネン類の置換基Rと実質的に同様である。
【0048】
これらの一般式(7)の化合物は以下の公知文献14〜16を参考にして合成することができる。
公知文献14:J.Org.Chem.,33,324(1968)
公知文献15:Tetrahedron,59,6609−6614(2003)
公知文献16:Synthesis,326(1986)
【0049】
反応(1)−Bに用いられる一般式(8)のオルトジハロキノジメタン類としては、例えば1,2−(α、α’−ジクロロ)キノジメタン、1,2−(α、α’−ジブロモ)キノジメタン、2,3−(α、α’−ジクロロ)ナフトキノジメタン、2,3−(α、α’−ジブロモ)ナフトキノジメタン、2,3−(α、α’−ジクロロ)アントラキノジメタン、2,3−(α、α’−ジブロモ)アントラキノジメタンおよびこれらの化合物のベンゼン環上に前記の置換基R(RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)が結合した化合物を挙げることができる。
【0050】
置換基Rの内容は合成ルート(A)の反応(1)−Aに用いられる一般式(5)のベンザイン類の置換基Rと実質的に同様である。
【0051】
これらの一般式(8)オルトジハロキノジメタン類は2,3−ビス(α、α−ジハロゲン化メチル)アセン系化合物に脱ハロゲン化剤を作用させることにより、反応系中にて反応活性種として生成させることができる。2,3−ビス(α、α−ジハロゲン化メチル)アセン系化合物は、市販試薬として容易に入手することができ、あるいは以下の公知文献17〜19を参考にして合成することができる。
公知文献17:Synthesis,328(1986)
公知文献18:Synthesis,416(1973)
公知文献19:Chem.Ber.,89,708(1956)
【0052】
2,3−ビス(ジハロゲン化メチル)アセン系化合物からの一般式(8)のオルトジハロキノジメタン類の生成は、前記公知文献17〜19を参考に行うことができる。
【0053】
反応(1)−Bにおいて、一般式(8)のオルトジハロキノジメタン類の原料となる2,3−ビス(α、α−ジハロゲン化メチル)アセン系化合物の使用量は一般式(7)のノルボルナジエン類1重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜4重量部である。また、脱ハロゲン化剤の使用量は2,3−ビス(α、α−ジハロゲン化メチル)アセン系化合物1重量に対して1〜20重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0054】
本反応の条件は使用する脱ハロゲン化剤の種類に依存する。脱ハロゲン化剤としてヨウ化アルカリ金属類を使用する場合、本反応は、反応容器に一般式(7)のノルボルナジエン類、2,3−ビス(α、α−ジハロゲン化メチル)アセン系化合物、脱ハロゲン化剤および溶媒を仕込み、5〜150℃、好ましくは10〜100℃の条件で1〜60時間、好ましくは1〜30時間反応させることによって行うことができる。反応試剤の仕込み方法は一括添加もしくは逐次添加が好ましく、滴下等のように反応試剤の濃度を調節するなどの方法も適用することができる。反応は通常、常圧開放系で実施されるが、密閉容器を用いて常圧〜加圧下で実施することもできる。
【0055】
溶媒としては、例えばホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルピロリジノン、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等のアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒は1種単独で使用してもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。溶媒の使用量は一般式(7)のノルボルナジエン類1重量部に対して5〜500重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜250重量部である。
【0056】
一方、本反応の脱ハロゲン化剤としてヨウ化アルカリ金属類以外のアルカリ金属類もしくはアルカリ有機金属を使用する場合、本反応は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気において反応容器に一般式(7)のノルボルナジエン類、2,3−ビス(α、α−ジハロゲン化メチル)アセン系化合物および脱ハロゲン化剤を仕込み、−90〜120℃、好ましくは−70〜80℃の条件で1〜60時間、好ましくは1〜30時間反応させることによって行うことができる。反応試剤の仕込み方法は一括添加もしくは逐次添加が好ましく、滴下等のように反応試剤の濃度を調節するなどの方法も適用することができる。反応は通常、常圧開放系で実施されるが、密閉容器を用いて常圧〜加圧下で実施することもできる。
【0057】
本反応では必要に応じて溶媒を使用する。溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒は1種単独で使用してもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。溶媒の使用量は一般式(7)のノルボルナジエン類1重量部に対して5〜500重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜250重量部である。
【0058】
本反応の生成物である一般式(9)の環化生成物の単離方法としては抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーもしくはこれらを組み合わせた操作を用いることができる。場合によっては濃縮や溶媒置換を行ってからこれらの操作を行うことが適当である。また、さらに高純度の目的物を得る必要がある場合には単離物に対して抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの精製操作をさらに行うことができる。また、生成物の単離は必ずしも本反応工程には必要なく、次反応(2)−Bを実施してから単離することもできる。
【0059】
反応(2)−B
反応(2)−Bは、反応(1)−Bにより得られた一般式(9)の環化生成物を脱ハロゲン化水素して一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物を得る反応である。本反応は、脱ハロゲン化水素反応試剤を使用して行うことができる。脱ハロゲン化水素反応試剤としては有機アミン系のものを使用することができ、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン等の3級アミン類;ピリジン、2−メチルピコリン、2,4,6−トリメチルピコリン等の芳香族アミン類を使用することができる。なお、前記の反応(1)−Bに続いて本反応を行う場合、反応(1)−Bにおいて使用される脱ハロゲン化反応試剤が本反応の脱ハロゲン化水素反応試剤としても作用するので、反応(1)−Bにおいて使用された脱ハロゲン化反応試剤が反応後も反応系中に残存しているように脱ハロゲン化反応試剤の添加量を調節することにより、実質的に脱ハロゲン化水素反応試剤を新たに加えることなく反応(2)−Bを行うことも可能である。
【0060】
前記の有機アミン系脱ハロゲン化水素反応試剤の使用量は一般式(9)の環化生成物1重量部に対して2〜20重量部であることが好ましく、さらに好ましくは2〜10重量部である。
【0061】
本反応は、反応容器に一般式(9)の環化生成物および溶媒を仕込み、新たに脱ハロゲン化水素反応試剤を添加もしくは添加することなく−70〜150℃、好ましくは−40〜100℃の条件で1〜60時間、好ましくは1〜30時間反応させることによって行うことができる。反応試剤の仕込み方法は一括添加もしくは逐次添加が好ましく、滴下等のように反応試剤の濃度を調節するなどの方法も適用することができる。反応は通常は、常圧開放系で実施されるが、密閉容器を用いて常圧〜加圧下で実施することもできる。
【0062】
溶媒としては、例えばホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルピロリジノン、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等のアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、α、α、α−トリフルオロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒などを使用することができる。これらの溶媒は1種単独で使用してもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。溶媒の使用量は一般式(9)の環化生成物1重量部に対して5〜500重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜250重量部である。
【0063】
本反応は前反応(1)−Bに続いて新たに脱ハロゲン化水素反応試剤を添加もしくは添加せずにワンポットで行うことがより簡易であり、実質的に反応(1)−Bの反応条件に準じて実施できる。
【0064】
本反応の生成物である一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物の単離方法としては抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーもしくはこれらを組み合わせた操作を用いることができる。場合によっては濃縮や溶媒置換を行ってからこれらの操作を行うことが適当である。また、さらに高純度の目的物を得る必要がある場合には単離物に対して抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーなどの精製操作をさらに行うことができる。また、生成物の単離は必ずしも本反応工程には必要なく、次反応(3)を実施してから単離することもできる。
【0065】
反応(3)
本反応は前記の合成ルート(A)を利用した製造方法における、一般式(3)のオキシメチレン架橋型アセン系化合物を分解して一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を得る反応(3)と同じであり、同様に行うことができる。
【0066】
反応(4)
本反応は前記の合成ルート(A)を利用した製造方法における、一般式(2)のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を酸化して一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物を得る反応(4)と同じであり、同様に行なうことができる。
【0067】
一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物からの目的とする一般式(10)のアセン系化合物の製造方法
本発明の製造方法が最終目的とする一般式(10)のアセン系化合物は、上述のようにして製造された一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物をその分解温度まで加熱して分解することにより容易に製造することができる。一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物の分解温度は個々の化合物の分子構造に依存して変動するが、一般的に100〜150℃程度である。加熱時間は短時間で良く、一般的に5分も加熱すれば十分である。一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物は通常白色〜微黄色であるが、加熱により分解されて目的の一般式(10)のアセン系化合物に変換されると、橙色(テトラセンの場合)や青紫色(ペンタセンの場合)に変化するので、この色の変化を指標にして分解反応の終了を確認することができる。
【0068】
実際に本反応を応用して基板上に導電性薄膜を作成する場合は、一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物をモノクロロベンゼンやキシレンなどの適当な溶媒に溶解させて溶液を調製し、導電性薄膜を形成させたい基板(一般的に、ガラス、サファイヤ、ジルコニアなどのセラミックス、シリコン、アルミニウムなどの無機系材料、あるいはプラスチックなどの有機系材料)にこの溶液を塗布して100〜150℃の温度で5分程度加熱すればよい。加熱により溶液中の一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物は架橋部分が分解されて一般式(10)のアセン系化合物に変換され、次にこのアセン系化合物が自己組織化して基板上に導電性薄膜を形成する。
【0069】
以上、本発明の方法によれば、100〜150℃の温度で5分程度加熱することにより基体上に導電性薄膜を形成されることができる。また、本発明の方法では、溶媒としてハロゲン数の少ないモノクロロベンゼンやハロゲンを含まないキシレンなどの環境に優しい溶媒を使用することができる。従って、本発明の方法によれば、規則性の高い導電性薄膜を簡易かつ環境に優しい方法で効率良く作成することができる。
【実施例】
【0070】
以下本発明の内容を実施例により具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例に関連する原料化合物(4−a)、(4−b)、(5−a)、(5−b)、中間化合物(2−i)、(2−ii)、(2−iii)、および目的化合物(1−i)、(1−ii)、(1−iii)を以下に示す。

【0071】
実施例1:反応(1)−A、反応(2)−A及び反応(3)による中間化合物(2−i)の合成
Ar雰囲気下、原料化合物(4−a)1.00gと1,2−ジブロモベンゼン1.10gのトルエン溶液10mlに−60℃の冷却下、n−BuLi(15%ヘキサン溶液:7.4ml)を滴下し、4hr反応した。原料の消失を確認後、反応溶液を濃縮し、得られた粗体についてシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒系:酢酸エチル/ヘキサン)により必要な生成物を分離した。分離した取得物は環化体であり、原料化合物に由来するα−エトキシエチル基の一部が脱離した物も含まれる。
上記操作により取得した環化体をMeOH10mlに溶解し、触媒量のp−トルエンスルホン酸を加えてから室温にて1hr反応した。反応後に水を加え、クロロホルム抽出を行った。抽出液を濃縮して得られた黄色オイルをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒系:酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、微黄色粉状の結晶を380mg(収率38%)得た。得られた結晶についてH−NMRを測定し、化合物(2−i)であることを確認した。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](DMSO−d:δ)4.29(d,2H),4.33(ddd,H),5.70(d,H),6.99−7.01(m,2H),7.31−7.38(m,4H),7.72−7.75(m,4H)
【0072】
実施例2:反応(1)−B、反応(2)−B及び反応(3)による中間化合物(2−i)の合成
原料化合物(5−a)1.0g(4.67mmol),α,α,α’,α’−テトラブロモ−o−キシレン4.92g(11.7mmol)、NaI4.2g(28.0mmol)およびDMF50mlをフラスコに仕込み、窒素雰囲気下に65℃で20hr反応した。反応後に水を加え、トルエン抽出を行った。次いで抽出液をチオ硫酸ナトリウムにて洗浄し、減圧にて濃縮した。得られた黄色オイルをMeOH40mlに溶解し、触媒量の50%硫酸を加えてから室温にて60℃で1hr反応した。反応後に水を加え、クロロホルム抽出を行った。抽出液を濃縮して得られた黄色オイルをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒系:酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、微黄色粉状の結晶を570mg(収率47%)得た。得られた結晶についてH−NMRを測定し、実施例1と同様なNMRデータが得られたことから化合物(2−i)であることを確認した。
【0073】
実施例3:反応(4)による化合物(1−i)の合成
Ar雰囲気下、実施例1又は2で得られた中間化合物(2−i)374mgおよびトリエチルアミン293mgのTHF溶液20mlにN−tert−ブチルベンゼンスルフィンイミドイルクロリド470mgのジクロロメタン溶液5mlを−60℃以下にて滴下し、3hr反応した。反応後に水を添加し、酢酸エチルにて抽出操作を行った。抽出液を減圧濃縮し、冷却すると微黄色の粉状結晶が析出した。析出物をろ過、乾燥し、130mg(収率36%)の粉状結晶を単離した。このH−NMRを測定し、化合物(1−i)であることを確認した。その分析データを以下に示す。
分解温度:112〜115℃(分解により橙色に変化)
FT−IR(KBr:cm−1)1784(C=O)
H−NMR](CDCl3:δ)4.88(s,2H),7.18〜7.20(m,2H),7.44〜7.51(m,4H),7.78〜7.82(m,2H),7.90(s,2H)
[EI−Mass](m/z(%))=228(100,M−CO)
【0074】
実施例4:テトラセンの製造
(1)実施例3で得られた化合物(1−i)の粉末10mgをフラスコに入れ、Ar雰囲気下に加熱すると112〜115℃で橙色の粉末9mgに変化した。この物はTHFに難溶であり、TOFF−Massスペクトル:M228を示すことからテトラセンであることを確認した。
(2)Ar雰囲気下、実施例3で得られた化合物(1−i)10mgをTHF1mlに溶解し、ガラス基板上に塗布した。塗布膜を乾燥し、115℃に加熱すると橙色に変化した。この薄膜のTOFF−Massスペクトルは上記のスペクトルと同じであった。また、熱分析の結果、化合物(1−i)からテトラセンへの変換による重量変化は5分後で90%以上であった。
【0075】
実施例5:反応(1)−A、反応(2)−A及び反応(3)による中間化合物(2−ii)の合成
Ar雰囲気下、原料化合物(4−a)7.5gと2,3−ジブロモナフタレン8.37gのトルエン溶液300mlに−60℃の冷却下、PhLi(19%ブチルエ−テル溶液:39.6g)を滴下し、22hr反応した。反応後、反応液を濃縮し、得られた残渣についてシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒系:酢酸エチル/ヘキサン)を行い、微黄色固体2.57g(収率23%)を得た。このH−NMRを測定し、化合物(2−ii)の前駆体であることを確認した。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](CDCl3:δ)1.17(t,3H),1.26(d,3H),3.33(dq,H),3.52(dq,H),4.46(t,H),4.47(d,2H),4.82(q,H),7.06〜7.09(m,2H),7.33〜7.42(m,4H),7.83(d,2H),7.92〜7.95(m,2H),8.24(s,2H)
得られた化合物(2−ii)の前駆体2.06gをメタノール(300ml)に懸濁し、p−トルエンスルホン酸・1水和物1.03gを加え、室温で1hr反応した。反応後に水を添加し、クロロホルムにて抽出操作を行った。抽出液を10%重曹水で洗浄し、濃縮すると微黄色残渣が得られた。この残渣を酢酸エチル/n−ヘキサン混合液で処理すると微橙色粉末1.46g(収率88%)が得られた。このH−NMRを測定し、化合物(2−ii)であることを確認した。そのNMRデータを以下に示す。
H−NMR](DMSO−d:δ)4.33(s,3H),5.78(d,H),7.01〜7.04(m,2H),7.33〜7.36(m,2H),7.42〜7.45(m,2H),7.86(s,2H),7.98〜8.01(m,2H),8.35(s,2H)
【0076】
実施例6:反応(1)−B、反応(2)−B及び反応(3)による中間化合物(2−ii)の合成
原料化合物(5−a)1.0g,2,3−ビス(ジブロモメチル)ナフタレン5.52g、NaI4.2gおよびDMF60mlをフラスコに仕込み、窒素雰囲気下に65℃で20hr反応した。反応後に水を加え、トルエン抽出を行った。次いで抽出液をチオ硫酸ナトリウムにて洗浄してから減圧にて濃縮した。この濃縮物についてシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒系:酢酸エチル/ヘキサン)を行い、黄色固体を得た。これをさらにTHF40mlに溶解し、触媒量の50%硫酸を加えてから50℃で1hr反応した。反応後、水を加えてからクロロホルム抽出を行い、抽出液を濃縮して得られた黄色固体をMeOHに懸濁すると白色粉状の結晶が560mg(収率39%)得られた。この結晶のH−NMRを測定し、実施例5と同じNMRデータが得られたことから化合物(2−ii)であることを確認した。
【0077】
実施例7:反応(4)による化合物(1−ii)の合成
Ar雰囲気下、実施例5又は6で得られた中間化合物(2−ii)1.0g(3.24mmol)およびトリエチルアミン2.46gのテトラヒドロフラン溶液80mlにN−tert−ブチルベンゼンスルフィンイミドイルクロリド3.5gのジクロロメタン溶液15mlを−10℃以下にて滴下し、2.5hr反応した。次いで反応析出物をろ過し、含水メタノールで洗浄すると白色粉末が得られた。この粉末をさらに含水テトラヒドロフランで懸濁精製し、白色粉末880mg(収率89%)を得た。このH−NMRを測定し、化合物(1−ii)であることを確認した。その分析データを以下に示す。
分解温度:120〜123℃(分解により青紫色に変化)
FT−IR(KBr:cm−1)1782(C=O)
H−NMR](THF−d:δ)4.92(s,2H),7.19〜7.22(m,2H),7.41〜7.44(m,2H),7.53〜7.56(m,2H),7.97〜8.01(m,2H),8.07(s,2H),8.42(s,2H)
[EI−Mass](m/z(%))=278(100,M−CO)
【0078】
実施例8:ペンタセンの製造(I)
実施例7で得られた化合物(1−ii)の粉末10mgをフラスコに入れ、Ar雰囲気下に加熱すると120〜123℃で青紫色の粉末9mgに変化した。この物はTHFに難溶であり、TOFF−Massスペクトル:M+278を示すことからペンタセンであることを確認した。また、熱分析の結果、化合物(1−ii)からペンタセンへの変換による重量変化は5分後で90%以上であった。
【0079】
実施例9:反応(1)−A、反応(2)−A及び反応(3)による中間化合物(2−iii)の合成
雰囲気下、原料化合物(4−b)610mgと1,2−ジブロモベンゼン1.04gを含むトルエン溶液20mlに−60℃の冷却下、n−BuLi(15%ヘキサン溶液:4ml)を滴下し、−60℃以下で2時間反応してから室温まで昇温した。反応後、トルエン抽出を行い、次いで抽出液を濃縮して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ−にて精製することにより微黄色結晶を660mg(収率87%)得た。
次いでフラスコに前記の微黄色結晶660mg、1,2,4,5−テトラクロロ−p−キノン930mg、トルエン30mlを仕込み、1時間加熱還流下に反応を行った。反応後、室温に冷却してから飽和重炭酸ソーダ水を加え、析出した塩をろ過により除去した後にトルエン抽出を行った。次いでトルエン抽出液を減圧濃縮することにより褐色の結晶を得た。この物をメタノール30mlに溶解し、触媒量のp−トルエンスルホン酸を添加してから室温で1時間攪拌した。次いで反応液を炭酸カリウムで中和してから減圧濃縮を行った。この濃縮物を酢酸エチルにて抽出し、抽出液を減圧濃縮した。得られた残渣をメタノールに加熱溶解し、冷却すると微褐色粉末260mg(通算収率42%)が得られた。得られた結晶について以下の分析をおこない、化合物(2−iii)であることを確認した。その分析データを以下に示す。
融点:268〜270℃
H−NMR](CDCl3:δ)3.02(s,3H),3.24(s,3H),3.74(s,4H),4.02〜4.06(m,2H),6.66〜6.70(m,2H),7.35〜7.40(m,2H),7.66〜7.72(m,2H)
[EI−Mass](m/z(%))=308(6,M),291(5,M−OH),279(100,M−CHO)
【0080】
実施例10:反応(1)−B、反応(2)−B及び反応(3)による中間化合物(2−iii)の合成
原料化合物(5−b)1.0g,α,α,α’,α’−テトラブロモ−o−キシレン4.00g、NaI3.41gおよびDMF60mlをフラスコに仕込み、窒素雰囲気下に65℃で20hr反応した。反応後に水を加え、トルエン抽出を行った。次いで抽出液をチオ硫酸ナトリウムにて洗浄し、減圧にて濃縮した。この濃縮物についてシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒系:酢酸エチル/ヘキサン)を行い、黄色固体を得た。これをさらにTHF40mlに溶解し、触媒量の50%硫酸を加えてから50℃で1hr反応した。反応後、水を加えてからクロロホルム抽出を行い、抽出液を濃縮して得られた黄色固体をMeOHに懸濁すると白色粉状の結晶が640mg(収率55%)得られた。この結晶のH−NMRを測定し、実施例9と同じNMRデータが得られたことから、化合物(2−iii)であることを確認した。
【0081】
実施例11:反応(4)による化合物(1−iii)の合成
窒素雰囲気下、フラスコに塩化オキサリル45mg、塩化メチレン2mlを仕込み、−50℃以下に冷却してからDMSO61mgを添加し、次いで実施例9又は10で得られた中間化合物(2−iii)50mgの塩化メチレン溶液2mlおよびトリエチルアミン820mgを添加し、−50℃より徐々に室温に昇温した。反応後、析出物をろ過、洗浄することにより白色粉末の結晶28mg(収率56%)を得た。得られた結晶について以下の分析を行い、化合物(1−iii)であることを確認した。その分析データを以下に示す。
分解温度:145〜147℃(青紫色に変化)
FT−IR(KBr:cm−1)1774(C=O)
H−NMR](THF−d:δ)5.02(s,2H),7.40〜7.47(m,4H),7.78〜7.85(m,2H),7.94〜8.00(m,4H)
[EI−Mass](m/z(%))=278(100,M−CO)
【0082】
実施例12:ペンタセンの製造(II)
実施例11で得られた化合物(1−iii)の粉末10mgをフラスコに入れ、Ar雰囲気下に加熱すると145〜147℃で青紫色の結晶9mgに変化した。この結晶は以下のマス分析によりペンタセンであることを確認した。また、熱分析の結果、化合物(1−iii)からペンタセンへの変換による重量変化は5分後で90%以上であった。
[Toff−Mass](m/z(%))=278(100,M
【0083】
溶解度試験
本発明の一般式(1)のカルボニル架橋型アセン系化合物が目的のアセン系化合物より高い溶解度を有することを確認するため、実施例3、7および11で合成した化合物(1−i)、(1−ii)および(1−iii)の溶解度を30℃にて測定した。結果を以下の表に示す。

【0084】
表から明らかな通り、本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物はいずれも目的のアセン系化合物より溶解度が高いことがわかる。従って、本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物を原料として用いると、目的のアセン系化合物を原料として用いる従来の方法のように予め微粒子化したり何度も加熱する必要がなく、効率良く導電性薄膜を形成させることができる。具体的には、例えば本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物は、常温もしくは低温加熱下で溶剤に溶解させて基板上に塗布し、簡易な加熱処理によりアセン系化合物を短時間に遊離させることができるので、高品質の配向構造を有する導電性薄膜を簡易な方法で効率良く形成させることができる。
【0085】
また、本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物は、実施例4、8および12に示されるように150℃以下の温度で単時間加熱するだけで簡単に目的のアセン系化合物へと変換される。従って、本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物を用いると、光照射や高温加熱や低温での長時間加熱を必要とする従来の方法より簡便安価な設備で導電性薄膜を容易に形成させることができる。
【0086】
また、本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物は、実施例3,7及び11に示されるように分解温度が低く、モノクロロベンゼンの沸点(132℃)やキシレンの沸点(約140℃)に近いため、これらを溶媒として使用することができる。これらの溶媒はハロゲン数が少ない(モノクロロベンゼン)か又はハロゲンを含まず(キシレン)、環境に優しい溶媒である。従って、本発明によれば、環境に与える負荷を最小限にしながら導電性薄膜を形成させることができる。
【0087】
なお、上述の実施例では本発明の範囲に含まれる多数の化合物のうちほんの一例のみを合成しているが、他の化合物も上述の実施例を参考にすれば同様に合成できることは当業者には明らかである。例えば、以下に示すような中間化合物(2−iv)〜(2−ix)及び目的化合物(1−iv)〜(1−ix)は、実施例で合成した中間化合物や目的化合物にブロモ置換が導入されたもの、実施例で合成した中間化合物や目的化合物よりベンゼン環の数が増加されたもの、又は実施例で合成した中間化合物や目的化合物よりベンゼン環の数が増加されかつブロモ置換が導入されたものに相当するので、これらの化合物は実施例で使用した原料化合物を適宜変更することによって容易に合成することができる。

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のカルボニル架橋型アセン系化合物は規則性の高い導電性薄膜を簡易な方法で効率良く作成することができるので、有機半導体デバイス、有機トランジスタ等の広範囲の分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)

(式中、Zは−C(=O)−を表わす。m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるカルボニル架橋型アセン系化合物。
【請求項2】
一般式(2)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物。
【請求項3】
一般式(4)

(式中、mは0以上の整数を表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるジメチリデンノルボルネン類と
一般式(5)

(式中、nは0以上の整数を表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表される縮合ベンザイン類を反応させることにより、
一般式(6)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表される環化体もしくはそのアルカリ金属塩を得、この環化体もしくはそのアルカリ金属塩を脱水素することにより、
一般式(3)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるオキシメチレン架橋型アセン系化合物を得、このオキシメチレン架橋型アセン系化合物を分解することにより、
一般式(2)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を得ることを特徴とする請求項2に記載のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(7)

(式中、mは0以上の整数を表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるノルボルナジエン類と
一般式(8)

(式中、nは0以上の整数を表わす。Xはハロゲンを表わす。RはH、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるオルトジハロキノジメタン類を反応させることにより、一般式(9)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。Xはハロゲンを表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表される環化体を得、この環化体を脱ハロゲン化水素することにより、
一般式(3)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。RはC2〜C30のアシル、C2〜C30のα−アルコキシアルキル、テトラヒドロピラニル、C4〜C30のt−アルキル、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはC8〜C30のアリルジアルキルシリルのいずれかを表わす。)で表されるオキシメチレン架橋型アセン系化合物を得、このオキシメチレン架橋型アセン系化合物を分解することにより、
一般式(2)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を得ることを特徴とする請求項2に記載のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載のヒドロキシメチレン架橋型アセン系化合物を酸化することを特徴とする請求項1に記載のカルボニル架橋型アセン系化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のカルボニル架橋型アセン系化合物をその分解温度まで加熱して分解することを特徴とする
一般式(10)

(式中、m,nは0以上の整数を表わす。R、Rはそれぞれ独立して、H、C1〜C30のアルキル、C1〜C30のハロゲン化アルキル、C6〜C30のアリール、C4〜C30のヘテロアリール、C1〜C30のアルコキシ、C6〜C30のアリールオキシ、C3〜C30のトリアルキルシリルまたはハロゲンのいずれかを表わす。)で表されるアセン系化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−120570(P2009−120570A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298258(P2007−298258)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(394004860)ダイトーケミックス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】