説明

新規なヒドラジド含有タキサン共役体

本発明は、式Iの化合物またはその塩に関する。
【化21】


式中、R1は水素とR4とからなる群から選択され;R2は水素とアセチルとR4とからなる群から選択され;R3はアルキルと−O−アルキルと−NH−アルキルとアリールとヘテロシクリルとからなる群から選択され;R4は部分(A)を表し、
【化22】


式中、Xは、単結合、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはヘテロシクリレン部分からなる群から選択され;R5およびR6は同一または異なり、独立して、水素、アルキル、アリールまたはヘテロシクリルから選択される;あるいはR5およびR6は、これらが結合する窒素原子と一緒になってヘテロシクリル環系を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の予防及び治療において化学療法剤として用いられる、新規な、タキサンのヒドラジド含有カルボン酸誘導体及びその調製法に関する。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
一般的に、「タキサン」という用語は、イチイ(Taxus)属の植物から生成されるジテルペンを指す。この用語は、下記の式のような核構造を含む化合物を意味する。
【0004】
【化2】

【0005】
一般的にタキサンとして知られている化合物を多く得るため、基本的なタキサン核構造はさらに置換されたり、その環に不飽和基を含んだりする。薬剤のタキサン類にはパクリタキセルおよびドセタキセルが含まれる。パクリタキセル(タキソール(登録商標)、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社)は天然の複合ジテルペノイドであり、もともとは限られた地域に分布する成長の遅い希少樹木である太平洋イチイ(Taxus Brevifolia)の針葉および樹皮から分離されたものである。この薬剤は、何千もの植物および天然物の抽出物に対して抗腫瘍活性のスクリーニングを行う米国国立癌研究所のプログラムの一環として発見された。その後の研究によってヨーロッパイチイまたはヒマラヤイチイ(Taxus Bacatta)の針葉および小枝由来のバッカチンと呼ばれる前駆化学物質からこの薬剤が半合成的に調製された。パクリタキセルは、一次化学療法および後に続く化学療法が上手くいかなかった後の転移性卵巣癌患者の治療のために1992年12月に米国において認可された。現在、肺癌、乳癌および進行したカポジ肉腫の患者の治療のために流通している。
【0006】
パクリタキセルの同族体でより効力が強いと報告されているドセタキセル(タキソテール(登録商標)、サノフィ・アベンティス社)は、最初の「タキソイド」、すなわち、タキソール様化合物である。ドセタキセルの主な用途は、一次化学療法が上手くいかなかった後の様々な癌の治療である。乳癌、前立腺癌、非小細胞癌、胃腺癌および頭部と首の扁平上皮癌の治療に流通されている。臨床データにより、ドセタキセルは、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝臓癌、腎臓癌と胃癌およびメラノーマ細胞に対して細胞毒性を有することが示された(Lyseng−Williamson K.A.,Drugs 2005;65(17):2513〜31)。ドセタキセルは、リンパ節転移陽性乳癌の治療のためのドキソルビシンおよびシクロフォスファミドを用いたアジュバント療法として生存率を改善することが明らかになっている。このため、ドセタキセルは、他の治療を補助するという利点を有する。
【0007】
下記の式IIは、パクリタキセル(R1=H;R2=アセチル;R3=Ph)およびドセタキセル(R1=H;R2=H;R3=tert−ブチルオキシ)の構造を表すものである。
【0008】
【化3】

【0009】
このクラスの薬剤に関しての通常の番号付けを下記に示す。これを本明細書全体を通して適用する。
【0010】
【化4】

【0011】
現在、第1世代のタキサンであるパクリタキセルとドセタキセルは、癌化学療法において最も楽しみな薬剤の2つであると考えられている。これら2つの薬剤は、他の化学療法剤では治療効果がない様々な癌に対して、有意で広範な抗癌活性を呈する。これら薬剤の抗癌活性は、高い親和性で微小管へ可逆的に結合し、微小管を安定化させ、カルシウムイオン、温度低下および希釈からの微小管の脱重合を防ぐ(微小管のプラス端にて選択的に)ことを伴う特有の作用機序を介して細胞増殖を阻害する。このため、チューブリンの重合を阻害するビンカアルカロイド、コルヒチン、コンブレタスタチンおよびクリプトフィシンなどの他の微小管毒とは異なり、タキサンは微小管を安定化させる。
【0012】
パクリタキセルとドセタキセルはどちらも特有な抗腫瘍剤であることが証明されているが、それらの有効性にはいくつかの制限がある。その制限としては、正常細胞に優先して癌細胞を死滅させるという選択性が低い、多剤耐性(MDR)が出現する、一般的に投与薬剤に用いられる水性媒体に対する溶解性が低いといったものがある。水溶性が低いと非水媒体中でこれらの薬剤を調製する必要がある、例えば、パクリタキセルを可溶化するため剤形中にクレモホールEL(登録商標)(ポリエトキシ化ひまし油)と共溶媒としてのエタノールの混合液が使用される。残念ながら、適応量のパクリタキセルを送達するためには多量のクレモホールEL(登録商標)が必要であり、患者におけるタキソールの副作用を増幅させてしまう。ワイス(Weiss)ら(J.Clin.Oncol.,1990,8,1263〜1268)やその他多くにより、このような製剤で治療された患者において深刻な皮膚発疹、蕁麻疹、紅潮、呼吸困難および頻搏といった様々な過敏症が報告されている。こうした影響の原因の一つは、ヒスタミン遊離(ロウィンスキー(Rowinsky),E.K.ら、J.Natl Cancer Inst.1990;82,1247〜59)の原因となるクレモホールEL(登録商標)である。パクリタキセル同様、ドセタキセル(<0.05mg/mL)も水溶性が低い。ドセタキセルを溶解するのに現在使用されている最も好ましい溶媒はポリソルベート80(トゥイーン(登録商標)80)である。クレモホールEL(登録商標)同様、ポリソルベートも患者において過敏症を引き起こすことが多い。さらに、ポリソルベートは、有毒なフタル酸ジエチルヘキシルを溶出する性質を有するためPVC送達装置で用いることができない。このため、患者への薬剤の安全な送達を確保するためパクリタキセル溶液の調製および投与には特別な準備をする必要があり、必然的に調製コストが高くなる。
【0013】
タキサンの水溶性の改善およびより安全な臨床製剤の開発を目的として、タキサンのプロドラッグ形態を含む誘導体の合成がいくつかのグループにより研究されている。これら研究は、2’位および/または7位もしくは10位が適切な基で誘導体化されたタキサン類似体の合成に向けられている。こうした努力の結果、親タキサンよりも水溶性が高いと報告されるタキサン共役体またはプロタキサンが得られた。先行技術の化合物の一部を以下の参考文献に例示する:
米国特許第4,942,184号(ホーグウィッツ(Haugwitz)R.Dら)は、2’−O−位に様々な置換アシル基を有する水溶性タキソールを開示している。
【0014】
米国特許第4,960,790号(ステラ(Stella)V.J.ら)は、2’および/または7−ヒドロキシル基が、特定のアミノ酸またはアミノ酸模倣化合物で誘導体化された水溶性タキソールを開示している。
【0015】
米国特許第5,352,805号(1994年)および同第5,411,984号(1995年)(キングストン・デヴィッド(Kingston David)ら)は、改善された水溶性を有する、スルホン化2’−アクリロイル、スルホン化2’−O−アシル酸タキソール並びに置換2’−ベンゾイルおよび2’,7−ジベンゾイルタキソールを開示している。
【0016】
米国特許第5,817,840号(1998年)(ニコラウ(Nicolaou)KCら)はアルカリ感受性の水溶性プロタキソールを開示しており、プロタキソール組成物は、パクリタキセルと比較して水溶性および生体外での細胞毒性が増大したタキソールの2’−および/または7−O−エステル誘導体と、2’−および/または7−O−炭酸誘導体とを含む。
【0017】
米国特許第5,977,163号(1999年)(チュン・リ(Chun Li)ら)は、ポリエチレングリコール、ポリ(L−グルタミン酸)、ポリ(L−アスパラギン酸)などのポリマーとの共役により形成された水溶性タキサン誘導体を開示している。
【0018】
WO9414787(ポス(Poss)M.A.ら)として公開されているPCT出願は、タキサンのC−7、C−10におよび/または側鎖の2’位にホスホノキシ基を有するタキサンの水溶性プロドラッグ形態を開示している。
【0019】
水溶性改善のため、タキサンの共役体について、その他数多くの研究が文献で報告されている。以下に例を挙げる。
【0020】
2’−スクシニルパクリタキセルおよび2’−グルタリルパクリタキセルの塩、ドイチュ(Deutsch)ら(J.Med.Chem.1989,32,788〜792)。
【0021】
スルホネート誘導体―ツァオ(Zhao),Z.ら(J.Nat.Prod.1991,54,1607〜1611)。
【0022】
パクリタキセルの2’および7−アミノ酸誘導体並びにその塩―マシュー(Mathew)ら(J.Med.Chem.1992,35,145〜151)。
【0023】
7−リン酸パクリタキセル類似体―ヴィアス(Vyas)ら(Bioorg.Med.Chem.Lett.1993,3,1357〜1360)。
【0024】
2’−および7−ホスホノオキシフェニル−プロピオン酸パクリタキセル―ウエダ(Ueda),Y.ら(Bioorg.Med.Chem.Lett.1993,3,1761〜1366)。
【0025】
パクリタキセルの2’および7−ポリエチレングリコールエステル―グリーンウォルド(Greenwald)ら(J.org.Chem.1995,60,331〜336およびJ.Med.Chem.1996,39,424〜431)。
【0026】
パクリタキセルの2’−および7−酢酸メチルピリジニウム類似体―ニコラウ(Nicholaou)K.C.ら(Angew Chemie 1994,106,1672〜1675)およびパロマ(Paloma)I.G.ら(Chem.Biol.1994,1,107〜112)。
【0027】
2’位にリンゴ酸を有するパクリタキセルのプロドラッグ―ダメン(Damen),E.W.P.ら(Bioorg.Med.Chem.Lett.2000,8,427〜432)。
【発明の概要】
【0028】
本発明は、式Iの化合物およびその塩を提供する。
【0029】
【化5】

【0030】
式中、R1は水素とR4とからなる群から選択され;R2は水素とアセチルとR4とからなる群から選択され;R3はアルキルと−O−アルキルと−NH−アルキルとアリールとヘテロシクリルとからなる群から選択され;R4は部分(A)を表し、
【0031】
【化6】

【0032】
式中、Xは、単結合、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはヘテロシクリレン部分からなる群から選択され;R5およびR6は同一または異なり、独立して、水素、アルキル、アリールまたはヘテロシクリルから選択される;あるいはR5およびR6は、これらが結合する窒素原子と一緒になってヘテロシクリル環系を形成する。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、式Iの化合物およびその塩を提供する。
【0034】
【化7】

【0035】
式中、R1は水素とR4とからなる群から選択され;R2は水素とアセチルとR4とからなる群から選択され;R3はアルキルと−O−アルキルと−NH−アルキルとアリールとヘテロシクリルとからなる群から選択され;R4は部分(A)を表し、
【0036】
【化8】

【0037】
式中、Xは、単結合、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはヘテロシクリレン部分からなる群から選択され;R5およびR6は同一または異なり、独立して、水素、アルキル、アリールまたはヘテロシクリルから選択される;あるいはR5およびR6は、これらが結合する窒素原子と一緒になってヘテロシクリル環系を形成する。
【0038】
新規な、タキサンのヒドラジド基含有カルボン酸誘導体、すなわち式Iの化合物、およびその塩は、増大した水溶性を有する。
【0039】
本発明の新規なタキサン共役体は、一般に、一般式Iまたはその塩で表される、タキサンの2’−,7−および/または10−位エステル誘導体として記載できる。
【0040】
実施形態の1つにおいて、本発明は、R1が水素である式Iの化合物に関する。
【0041】
別の実施形態において、本発明は、R1が水素であり、R2が水素またはアセチルから選択され、R3がフェニルまたはtert−ブチルオキシから選択される式Iの化合物に関する。
【0042】
本発明の新規なタキサン共役体は、式IIのタキサンよりも水に溶けやすく、塩化ナトリウム溶液、デキストロース溶液もしくはこれらの混合液などの水性輸液、またはリンゲル液中でデキストロースを用いて比較的簡単に調剤および投与が行える。式Iの新規なタキサン共役体は、水性静脈輸液を含む水性液に対して溶解性があり、血漿中などの生理的条件下で加水分解して、不溶性であるため調剤が困難であった対応する式IIの活性タキサン化合物を生じる。式IIの化合物は下記の構造により表され得る。
【0043】
【化9】

【0044】
式中、R1は水素を表し、R2は水素またはアセチルを表し、R3はアルキル、−O−アルキル、−NH−アルキル、アリールまたはヘテロシクリルを表す。
【0045】
以下はこの明細書で用いられる用語の定義である。特に断りのない限り、ここで用いられる基または用語に与えられる最初の定義を、個々にまたは他の基の一部として、本明細書全体を通して同じ基または用語に適用するものとする。
【0046】
特に断りのない限り、前述および後述する一般用語は、この開示の範囲内において以下の意味を有することが好ましい。
【0047】
本明細書で用いられる「アルキル」は、1〜20個の炭素原子を含む直鎖、分岐もしくは環状の脂肪族基であり得、必要であれば1個以上の不飽和基を含有し得および/または1個以上のヘテロ原子を組み込み得、必要であればいずれの場合も、ハロゲン、−OH、アルキル、−O−アルキル、−OCO−(C1−C3)−アルキル、(C3−C13)−シクロアルキル、−NH2、−NH(アルキル)、−N(アルキル)2、−NH(アルキル)−OC(O)−アルキル、−OC(O)−アルキル、−(C3−C13)−シクロアルキル、−SH、−S−アルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは複素環式ラジカルで置換された1個以上の水素原子を有し得る。本明細書で用いられる「1個以上の不飽和基を含むアルキル」は、「アルケニル」および/または「アルキニル」を意味すると解釈されるものとする。アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、3−ペンチル、2−オクチルなどが例示される。アルケニル基としては、エテニル、プロペニル、1−ブテニル、(Z)−2−ブテニル、(E)−3−メチルブタ−2−エニル、(E)−2,4−ペンタジエニル、(Z)−3−ヘプテニルなどが例示される。アルキニル基としては、エチニル、プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、4−メチル−2−ペンチニル、2,4−ヘキサジイニルなどが例示される。
【0048】
「アルキレン」という用語は、1〜10個の炭素原子を含み、必要であれば1個以上のヘテロ原子、アリーレンまたはヘテロシクリレンを組み込み、さらに必要であればいずれの場合も、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、−O−アルキル、アリールもしくはヘテロシクリル基で置換された1個以上の水素原子を有する2価のアルキル基を指す。アルキレン基としては、−CH2−、−CH(C65)CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2(C64)CH2−、−CH2CH(CH32CH2−などが例示される。
【0049】
「アルケニレン」という用語は、2〜10個の炭素原子を有し、少なくとも1個の、EまたはZのいずれかの配置の二重結合を有するアルキレンを指す。アルケニレン基としては、−CH=CH−、−CH2−CH=CH−CH2−、−CH=C(CH3)−CH2−などが例示される。
【0050】
「アルキニレン」という用語は、2〜10個の炭素原子を含み、少なくとも1個の三重結合を有する2価のアルキニル基またはアルキレン基を指す。アルキニレン基としては、−C≡C−、−CH2−C≡C−、CH(CH3)−C≡C−、−CH2−C≡C−CH2−などが例示される。
【0051】
本明細書で用いられる「シクロアルキル」は、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、ノルボルニル、アダマンチルなどの単環、二環、三環および多環式環系を意味すると解釈されるものとする。本明細書で用いられる「シクロアルキル」という用語は、必要であれば、例えばハロゲン、−OH、−O−アルキル、−OC(O)−アルキル、(C3−C13)−シクロアルキル、アリールもしくは複素環式ラジカルなどの1個以上の不飽和基および/または置換基を含み得る。
【0052】
本明細書で用いられる「ハロゲン」または「ハロ基」は、−F、−Cl、−Brまたは−Iを指す。
【0053】
本明細書で用いられる「アリール」は、必要であれば、1個以上の水素原子が他の置換基で置換された芳香族環系を意味すると解釈されるものとする。
【0054】
「アリーレン」という用語は、必要であれば、1個以上の水素原子が他の置換基で置換されたアリールジイル基を指す。
【0055】
本明細書で用いられる「ヘテロシクリル」または「複素環式環」は、炭素に加え、例えば、不飽和であってもまたは完全にもしくは部分的に飽和していてもよい、窒素、酸素または硫黄などの1個以上のヘテロ原子も含む置換もしくは非置換の安定な単環式または二環式環系を意味すると解釈されるものとする。この定義はさらにヘテロシクリル環が芳香性である、すなわち「ヘテロアリール」である環系を含む。
【0056】
窒素および硫黄ヘテロ原子を含有するヘテロシクリル系は必要であれば酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は必要であれば4級化されてもよい。さらに、ヘテロシクリルラジカルは、アリールまたはヘテロアリール環と縮合していてもよい。
【0057】
置換されたアリールおよび複素環系において、存在する可能性がある置換基として、ハロゲン、−OH、−CN、−NO2、−アルキル、−シクロアルキル、−O−アルキル、−O−シクロアルキル、−O−アリール、−O−ヘテロシクリル、−アルキル−O−アルキル、−O−アルキル−O−アルキル、−O−アルキル−NH(アルキル)、−O−アルキル−N(アルキル)2、−O−アルキル−(ヘテロシクリル)、−C(O)−アルキル、−COOH、−C(O)NH2、−C(O)NH−アルキル、−C(O)N(アルキル)2、−C(O)O−アルキル、−ハロアルキル、−アルケニル、−アルキニル、−OC(O)−NH2、−OC(O)−NH(アルキル)、−OC(O)−N(アルキル)2、−NH2、−NH(アルキル)、−N(アルキル)2、−NH−SO2−アルキル、N(アルキル)−SO2−アルキル、−NH−C(O)−(アルキル)−N(アルキル)−C(O)−アルキル、−NH−C(O)O−アルキル、−N(アルキル)−C(O)O−アルキル、−NH−C(O)−NH2、−NH−C(O)−NH(アルキル)、−N(アルキル)−C(O)−NH(アルキル)、−N(アルキル)−C(O)−N(アルキル)2、−NH−C(O)−NH−SO2−アルキル、−N(アルキル)−C(O)−NHSO2−アルキル、−N(アルキル)−C(O)−N(アルキル)−SO2−アルキル、−S−アルキル、−S(O)−アルキル、−SO2−アルキル、−S−アリール、−S(O)−アリール、SO2−アリール、−S−ヘテロシクリル、−SO−ヘテロシクリル、−SO2−ヘテロシクリル、−SO2NH2、−SO2NH−(アルキル)、−SO2N(アルキル)2が挙げられ、ヘテロシクリルおよびアリール基はいずれの場合も非置換または一置換もしくは多置換である。
【0058】
ヘテロシクリルは特に、1または2個のヘテロ原子を有する5、6または7員環の環系であり、例えば、2−ピペラジニル、2−もしくは3−ピロリジニル、2−オキソ−5−ピロリジニル、ピペリジニル、N−ベンジル−4−ピペリジニル、N−アルキル−4−ピペリジニル、N−アルキル−ピペラジニル、モルホリニル、例えば、2−もしくは3−モルホリニル、2−オキソ−1H−アゼピン−3−イル、2−テトラヒドロフラニル、または2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−イルである。
【0059】
ヘテロアリール環としては、ベンズイミダゾリル、1−[(C1−C6)−アルキル]ベンズイミダゾリル、イミダゾリル、2−または3−チエニル、2−または3−フリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、2−,3−または4−ピリジル、ピリミジニル、4−,5−または6−ピリダジン−2H−イル−3−オン、4−,5−または6−ピリダジン−2−(C1−C8)−アルキル−2H−イル−3−オン、2−ベンジル−4−、−5−または−6−ピリダジン−2H−イル−3−オン、3−または4−ピリダジニル、2−,3−,4−または8−キノリニル、1−,3−または4−イソキノリニル、1−フタラジニル、3−または4−シンノリニル、2−または4−キナゾリニル、2−ピラジニル、2−キノキサリニル、2−,4−または5−オキサゾリル、3−,4−または5−イソキサゾリル、2−,4−または5−チアゾリル、3−,4−または5−イソチアゾリル、1−[(C1−C6)−アルキル]−2−、−4−または−5−イミダゾリル、3−,4−または5−ピラゾリル、1−[(C1−C6)−アルキル]−3−、−4−または−5−ピラゾリル、1−または4−[1,2,4]−トリアゾリル、4−または5−[1,2,3]−トリアゾリル、1−[(C1−C6)−アルキル]−4−または−5−[1,2,3]トリアゾリル、3−,4−または7−インドリル、N−[(C1−C6)−アルキル]−3−、−4−または−7−インドリル、2−[(C1−C6)−アルキル]−3(2H)−インダゾリル、1−[(C1−C6)−アルキル]−3(1H)−インダゾリル、5−テトラゾリル、1−[(C1−C6)−アルキル]−1H−テトラゾリル、2−[(C1−C6)−アルキル]−2H−テトラゾリルが挙げられる。
【0060】
「ヘテロシクリレン」という用語は、必要であれば、ハロゲン、アルキル、−O−アルキル、アリールまたはヘテロシクリル基で置換された1個以上の水素原子を有するヘテロシクリル−ジイル基を指し、例えば、ピリジン−3,5−ジイル、イミダゾール−2,4−ジイル、チアゾール−2,5−ジイル、ベンゾイミダゾール1,6−ジイル、ピリミジン−2,4−ジイルなどである。
【0061】
後述する好ましい式Iの化合物およびそれらのN−オキシドの基については、上述した一般定義から置換基の定義を合理的に用いてもよく、例えば、より一般的な定義を、より具体的な定義または特に好ましいと特徴付けられた定義に替えてもよい。
【0062】
任意の不斉炭素原子が、(R)−,(S)−または(R,S)−配置で存在していてもよい。これにより化合物は、異性体混合物としてまたは純粋な異性体として存在し得る。
【0063】
本発明は、式Iの化合物の可能な互変異性体にも関する。
【0064】
化合物、塩などが複数形で用いられている場合、これは、単数の化合物、塩なども意味すると解釈される。
【0065】
塩は特に式Iの化合物の薬学的に許容される塩である。このような塩は、例えば、好ましくは有機もしくは無機酸と酸付加塩として、または塩基性窒素原子を有する式Iの化合物から特に薬学的に許容される塩として形成される。適切な無機酸は、例えば、塩酸などのハロゲン酸、硫酸またはリン酸である。適切な有機酸は、例えば、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸またはスルファミン酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、グリコール酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸またはアスパラギン酸などのアミノ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、メチルマレイン酸、安息香酸、サリチル酸、4−アミノサリチル酸、フタル酸、マンデル酸、桂皮酸、ベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,5−ナフタレン−ジスルホン酸、2−,3−あるいは4−メチルベンゼンスルホン酸、またはアスコルビン酸などの他の有機プロトン酸である。
【0066】
塩はまた、カルボキシまたはスルホなどの負に帯電したラジカルの存在下で、塩基、例えば金属塩またはアンモニウム塩、例えばアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩もしくはカルシウム塩、またはアンモニアもしくは適切な有機アミンを有するアンモニウム塩、例えば3級モノアミン、例えば、エルブミンまたはトリス(2−ヒドロキシルエチル)アミン、または複素環塩基、例えば、N−エチルピペリジンもしくはN,N’−ジメチルピペラジンで形成されてもよい。
【0067】
同じ分子に酸基が存在する場合、式Iの化合物はまた分子内塩を形成してもよい。
【0068】
単離または精製目的に、薬学的に許容されない塩、例えばピクリン酸塩または過塩素酸塩を用いてもよい。治療用には、薬学的に許容される塩または遊離化合物のみが用いられるため、これらは好ましい。
【0069】
例えば、新規な化合物の精製または同定において、遊離形態の新規な化合物と、中間体として用いられ得る塩などのそれらの塩形態のものとの密接な関係を考慮すれば、前述および後述される遊離化合物に対する言及は、妥当であり適切な対応する塩も指すと解釈されるものとする。
【0070】
本発明の化合物は、以下の非限定的な例示物により例示され得る。
【0071】
【表1】

【0072】
本発明は、式IIの化合物を式IIIの化合物と反応させること(スキーム−I)を含む式Iの化合物の調製法を提供する。
【0073】
【化10】

【0074】
式IIおよび式IIIの化合物において、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびXは、上の式Iに関して定義した通りである。式IIIの活性形態において、Yは脱離基であり、不活性溶媒中において不活性な塩基および/または適切な触媒の存在下で縮合反応が行われるのが好ましい。あるいは、活性形態の式IIIの化合物は、対応する酸(Y=OH)からインサイチュ(in situ)で生成され、式IIの化合物と縮合し、式Iの化合物を生成する。Y=OHである式IIIの化合物は、当該分野において公知の方法で調製してもよく、例えば、一般式X−(COOH)2の対応するジカルボン酸もしくはそのモノエステルまたは一般式X−(CO)2Oの環状無水物を適切なヒドラジン誘導体H2N−NR56と縮合することにより調製される。
【0075】
活性形態の式IIIの化合物は、特にハロゲン化アシル(Y=ハロ)、反応性エステル、反応性無水物または反応性環状アミドである。このような活性化誘導体を対応する酸から調製する方法は、当該分野において一般に公知である。例えば、Yがハロゲン化物である式IIIの活性形態は、例えば、対応する酸を、塩化チオニル、五塩化リンまたは塩化オキサリルなどのハロゲン化剤で処理することにより得ることができる。
【0076】
式IIIの酸の反応性エステルは例えば以下であり得る。
【0077】
・エステル化ラジカルの結合炭素原子において飽和されていないエステル:例えば、対応するエステルを酢酸ビニルとエステル交換反応させることにより得られ得る実際のビニルエステルなどのビニルエステル型のエステル;または、例えば、対応する酸を1,2−オキサゾリウムのようなイソオキサゾリウム試薬で処理することにより得られ得るカルバモイルビニルエステル;または、例えば、対応する酸をアルコキシアセチレンで処理することにより調製され得る1−アルコキシビニルエステル。
【0078】
・アミジノ型のエステル:例えば、対応する酸を適切なN,N’−二置換カルボジイミド、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドで処理、または対応する酸をN,N−二置換シアナミドで処理することにより得られ得る、N,N’−二置換アミジノエステルなど。
【0079】
・適切なアリールエステル:特に、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤の存在下で対応する酸を適切に置換されたフェノール、例えば、4−ニトロフェノール、4−メチルスルホニルフェノールで処理することにより得られ得る、電子吸引性置換基で適切に置換されたフェニルエステル。
【0080】
・シアノメチルエステル:例えば、塩基の存在下で対応する酸をクロロアセトニトリルで処理することにより調製され得るシアノメチルエステル。
【0081】
・チオエステル:例えば、対応する酸をニトロ置換されたチオフェノールで処理、または、とりわけ、無水物法あるいはカルボジイミド法で得られ得る、例えば、ニトロ置換されたフェニルチオエステル。
【0082】
・アミノまたはアミドエステル:例えば、対応する酸をN−ヒドロキシアミノまたはN−ヒドロキシアミド化合物、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシピペリジン、N−ヒドロキシフタルイミドまたは1−ヒドロキシベンゾトリアゾールで、例えば無水物法またはカルボジイミド法により処理することにより得られ得るアミノまたはアミドエステル。
【0083】
式IIIの酸の反応性無水物は対称であるか、好ましくは以下のような混合無水物である。
【0084】
・炭酸半誘導体との無水物:例えば、対応する酸をハロ蟻酸(例えばクロロ蟻酸)アルキルエステルで、または1−アルコキシカルボニル−2−アルコキシ−1,2−ジヒドロキノリン、例えば1−アルコキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリンで処理することにより得られ得る、例えば、炭酸アルキル半エステル。
【0085】
・有機酸との無水物:例えば、有機カルボン酸との混合無水物(例えば、対応する酸を非置換または置換アルカン酸ハロゲン化物、例えば、ピバル酸クロリドまたはトリフルオロアセチルクロリドで処理することにより得られる)。
【0086】
・有機スルホン酸との無水物(対応する酸の塩、例えばアルカリ金属塩を適切な有機スルホン酸ハロゲン化物、例えばメタン−またはp−トルエンスルホニルクロリドで処理することにより得られる)。
【0087】
・有機ホスホン酸との無水物(対応する酸を適切な有機ホスホン酸無水物またはホスホン酸シアン化物で処理することにより得られる)。または
・ジハロゲン化リン酸との無水物:例えば、対応する酸をオキシ塩化リンで処理することにより得られ得るジハロゲン化リン酸との無水物。
【0088】
対称無水物は、例えば、対応する酸をカルボジイミドまたは1−(ジエチルアミノ)プロピンの存在下で縮合することにより得られ得る。
【0089】
適切な環状アミドは、例えば、N,N’−カルボニルジイミダゾールで対応する酸を処理することにより得られ得るイミダゾールを有するアミド;あるいは、ピラゾール、例えば、3,5−ジメチルピラゾール(アセチルアセトンで処理することによる酸ヒドラジドを経て得られ得る)、などの2個の窒素原子を有する5員芳香族化合物を有するアミドであり得る。
【0090】
活性形態の式IIIは、対応する酸(Y=OH)からインサイチュで生成されるのが好ましい。例えば、N,N’−二置換アミジノエステルは、式III(Y=OH)の酸と式IIの化合物との混合物を適切な縮合剤、例えばN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下で反応させることによりインサイチュで形成可能である。式III(Y=OH)の酸の反応性混合無水物は、適切な塩基、例えばトリエチルアミンまたは4−(ジメチルアミノ)ピリジンの存在下で、有機ホスホン酸をプロピルホスホン酸無水物またはシアノホスホン酸ジエチルと反応させることによりインサイチュで生成してもよい。
【0091】
反応条件は特に式III(Y=OH)の酸基がどのように活性化されたかによるが、反応は自体公知の方法で、通常、適切な溶媒または希釈剤またはそれらの混合液の存在下で、必要な場合には縮合剤の存在下で実施可能である。通常の縮合剤としては、例えば、カルボジイミド、例えばN,N’−ジエチル−、N,N’−ジイソプロピル、N,N’−ジシクロヘキシル−またはN−エチル−N’−(3−ジエチルアミノプロピル)−カルボジイミド;適切なカルボニル化合物、例えばカルボニルジイミダゾール、または1,2−オキサゾリウム化合物、例えば2−エチル−5−フェニル−1,2−オキサゾリウム−3’−スルホナートおよび2−tert−ブチル−5−メチル−イソオキサゾリウム過塩素酸塩、または適切なアシルアミノ化合物、例えば2−エトキシ−1−エトキシカルボニル−1,2−ジヒドロキノリンが挙げられる。縮合の補助に一般的に用いられる塩基は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの無機塩基か、ピリジン、トリエチルアミン、N,N’−ジイソプロピル−N−エチルアミンまたは4−(ジメチルアミノ)ピリジンなどの有機塩基のいずれかである。
【0092】
あるいは、式Iの化合物は、式IV(式中、Yは脱離基であり、化合物は活性形態であり、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、Xは先に定義した通りである)の化合物を用いて合成することができる。式IVの化合物は、対応する酸、すなわちY=OHからインサイチュで生成可能であり、これは当業者に公知の方法で式IIの化合物から調製可能である。式IVの活性化化合物は、Y=OHである式IVの酸を用いて、上記で詳述した式IIIの化合物と同様の方法で調製することができる。続いて、このようにして得た活性化化合物を式Vのヒドラジン化合物と縮合させて、式I(スキームII)の所要のヒドラジド化合物を得る。式Vの化合物は、対応するアミンから、当該分野において一般的に公知であるヒドラジン調製法を用いて調製され得る。例えば、式Vの所望のヒドラジンは、対応するアミンから、ニトロ化/ジアゾ化を行い、続いて、亜鉛酸、重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を用いた還元、例えば接触水素化を行うことにより調製され得る。
【0093】
【化11】

【0094】
式Iの化合物は、当業者に公知の方法により粗製形態で単離してもよい。最終的な精製は、クロマトグラフィー、例えば分取クロマトグラフィー、再結晶により、または当業者に公知の他の方法、例えば酸−塩基精製、溶媒溶出などで実施され得る。
【0095】
2’位に加えて7および/または10位も−OR4で誘導体化された式Iの化合物は、これらの位置に−OH基を有する式Iの対応する化合物から調製され得る。
【0096】
反応の出発材料として用いられる式IIの化合物は、当該分野において公知で市販のもの、または以下に挙げる公知の方法で調製可能なもののいずれかである。例えば、ワニ(Wani),M.C.;Wall,M.E.,J.Chem.Soc.93,2325(1971);キングストン(Kingston),D.G.I.,J.Org.Chem.62,3775〜78(1997)、欧州特許第253,738号、米国特許第4,814,470号。参照によりこれらの内容を本明細書に援用する。
【0097】
式Iの化合物(その塩を含む)は、水和物の形態でも得られる。
【0098】
式Iの化合物は生理的条件下で親タキサンを放出し、その後、高い親和性で微小管に可逆的に結合する。タキサンが微小管に結合すると微小管は安定化され、塩化カルシウムなどの微小管破壊剤により引き起こされる脱重合が抑制され、その結果、細胞増殖が阻害される。このように、タキサンは、微小管の凝集を促進しながら凝集の分解を阻害することにより細胞分裂のG2期およびM期を妨害するため、特有の作用機序を呈する。従って、本発明の新規なタキサン共役体は、微小管脱重合の阻害に応答する疾患の治療に利用され得、より好ましくは癌の治療に利用される。より好ましくは、本発明の式Iの化合物は、癌の予防処置または特に治療処置において有用である。さらに、式Iの化合物は、他の恒温動物の治療に有用である。このような化合物を試験系において参照基準として用い、他の化合物との比較を行ってもよい。
【0099】
治療用には、必要とする患者に、式Iの化合物またはその塩を治療的有効量投与し得る。「治療的有効量」という用語は、内科的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比で、治療を必要とする哺乳動物において、微小管脱重合の阻害により引き起こされる症状の予防処置および/または治療処置、特に癌の治療に効果的で十分な量の式Iの化合物またはその塩を指す。ある特定の患者に対する具体的な治療的有効用量レベルは、治療されている癌の種類、疾患の段階または重症度、使用されている化合物の活性、使用されている特定の医薬製剤、個々の薬物動態的データおよび有効成分の投与方法を含む様々な要因により決定される。
【0100】
さらに、式Iの化合物は、腫瘍治療のために単独で、あるいは放射線療法、免疫療法、外科的介入またはこれらの組み合わせに追加して投与され得る。化合物は、上述したように他の治療方針と関連して、長期治療の一部としてまたはアジュバント療法として投与され得る。他に可能な治療としては、寛解あるいは腫瘍縮小後の患者の状態を維持するための治療、または、例えば、リスクを有する患者における化学的予防治療が挙げられ得る。
【0101】
式Iの化合物は、単独投与または1種以上の他の治療剤との併用投与が可能であり、可能な併用療法は、固定併用剤の形態、または本発明の化合物と1種以上の他の治療剤とを交互にあるいは互いに独立して投与する形態、または固定併用剤と1種以上の他の治療剤との併用投与の形態を取る。
【0102】
可能な併用に用いられる治療剤は、特に、別のチロシンキナーゼ阻害剤、(例えばイマチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、ラパチニブ、スニチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ)、1種以上の細胞増殖抑制化合物または細胞毒性化合物、例えば、インダルビシン、シタラビン、インターフェロン、ヒドロキシ尿素、ブスルファン、DNAアルキル化/挿入剤、ポリアミン生合成の阻害剤、葉酸拮抗剤、トポイソメラーゼI&II阻害剤、
プロテオソーム阻害剤、タンパク質キナーゼの阻害剤、特にセリン/スレオニンタンパク質キナーゼ(タンパク質キナーゼCなど)あるいはチロシンタンパク質キナーゼ(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼなど)の阻害剤、サイトカイン、ネガティブ成長調節因子(TGF−βまたはIFN−βなど)、アロマターゼ阻害剤、古典的な細胞増殖抑制剤、およびSH2ドメインのリン酸化タンパク質との相互作用の阻害剤からなる群から選択される1つまたは複数の化学療法剤である。
【0103】
本発明の化合物は、それを必要とする恒温動物に、適切な医薬製剤の形態、例えば、非経口製剤として投与され得る。医薬製剤は、有効成分を単独で含んでいてもよく、好ましくは薬学的に許容される担体を一緒に含む。医薬製剤は、単回投与の場合、およそ1%〜およそ95%の有効成分を含み得る。適切な医薬製剤は有効成分の溶液、特に、等張水溶液、分散液または懸濁液であってもよく、例えば、有効成分を単独でまたは担体と一緒に含む凍結乾燥組成物の場合、使用前に作ることができる。医薬製剤は、薬学的に許容される担体、例えば、安定化剤、湿潤剤および/または乳化剤、溶解剤、浸透圧を調節するための塩および/または緩衝剤などを含んでいてもよい。さらに、製剤は、自体公知の方法で、例えば、通常の溶解および凍結乾燥工程により調製され得る。前記溶液または懸濁液は、必要であれば増粘剤または溶解剤を含有してもよい。殺菌製剤については、最終段階で殺菌されてもよく、および/または細菌汚染を防ぐための賦形剤、例えば防腐剤を含有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】ヒト血漿における化合物I.04の時間対面積の関係を示す図である。
【図2】ヒト血漿におけるドセタキセルの時間対面積の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0105】
以下の実施例は、本発明をその範囲を限定することなく説明するものである。
【0106】
実施例1
2’−[N−(N,N−ジメチルアミノ)スクシンアミドイル]タキソール(化合物I.01)
【0107】
【化12】

【0108】
無水塩化メチレン(20ml)において、パクリタキセル(0.30g、0.35mmol)と3−(N,N’−ジメチルヒドラジノカルボニル)−プロピオン酸(0.112g、0.70mmol)と1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.181g、0.87mmol)と4−(ジメチルアミノ)ピリジン(0.042g、0.35mmol)との混合物を、窒素雰囲気下、周囲温度で4時間攪拌した。この混合物を−15℃まで冷却し、析出したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去した。濾液を水で洗浄し、乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチル100%)により精製し、標題化合物を白色固形物として得た(融点:157〜161℃)。
【0109】
化合物I.08、I.09およびI.10を化合物I.01と同様の方法で合成した。
【0110】
実施例2
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’−[(N−モルホリン−4−イル)スクシンアミドイル]タキソール(化合物I.02)
【0111】
【化13】

【0112】
無水塩化メチレン(20ml)において、ドセタキセル(0.500g、0.61mmol)とN−モルホリン−4−イル−スクシンアミド酸(0.250g、1.23mmol)と1−エチル−3−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド塩酸塩(0.296g、1.54mmol)と4−(ジメチルアミノ)ピリジン(0.070g、0.61mmol)との混合物を、窒素雰囲気下25〜30℃で6.0時間攪拌した。反応混合物を水で反応を停止させ、有機層を分離し、水で洗浄し、乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中アセトン40%)により精製し、標題化合物を白色固形物として得た(融点:155〜157℃)。
【0113】
化合物I.05、I.06およびI.07を同様の方法で合成した。
【0114】
実施例3
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’,7−ビス[(N−ピペリジン−1−イル)スクシンアミドイル]タキソール(化合物I.03)
【0115】
【化14】

【0116】
無水塩化メチレン(50ml)において、ドセタキセル(2.0g、2.47mmol)とN−ピペリジン−1−イル−スクシンアミド酸(1.98g、9.9mmol)と1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.53g、7.4mmol)と4−(ジメチルアミノ)ピリジン(032g、2.4mmol)との混合物を、窒素雰囲気下25〜30℃で3.5時間攪拌した。反応混合物を5℃まで冷却し、析出したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去した。濾液を水で洗浄し、乾燥し、減圧濃縮し、残渣を分取HPLC(アセトニトリル−水勾配、ODS Shimpackカラム)で精製し、標題化合物を白色固形物として得た(融点:136〜138℃)。
【0117】
化合物I.04も化合物I.03と同様の方法で調製および精製した。但し、ドセタキセル、N−ピペリジン−1−イル−スクシンアミド酸、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド、4−(ジメチルアミノ)ピリジンのモル比を1.0:1.1:2.0:0.5とした。
【0118】
実施例4
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’−[(N−ピペリジン−1−イル)−スクシンアミドイル]タキソール(化合物I.04)
【0119】
【化15】

【0120】
ドセタキセル(2.0g、2.47mmol)と4−(ジメチルアミノ)ピリジン(0.302g、2.47mmol)と無水コハク酸(0.495g、4.95mmol)と乾燥ピリジン(10ml)との混合物を、窒素雰囲気下25〜30℃で5.5時間攪拌した。反応混合物にクエン酸溶液30ml(水中50%)を加え、オフホワイトの析出物を生成した。生成物を酢酸エチルに抽出し、酢酸エチル層を水で洗浄し、乾燥し、減圧濃縮し、2’−スクシノイルドセタキセルをオフホワイトの固形物として得た(融点:126〜130℃)。
【0121】
無水塩化メチレン(50.0ml)において、(ベンゾトリアゾール−1イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)(1.16g、2.64mmol)を、2’−スクシノイルドセタキセル(1.2g、1.32mmol)とトリエチルアミン(0.36ml、2.64mmol)と1−アミノピペリジン(0.198g、1.98mmol)とを含有する攪拌溶液に加えた。この混合物を窒素雰囲気下25〜30℃で6時間攪拌した後、水に注いだ。有機層を分離し、水で洗浄し、乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィー(ヘキサン中50%アセトン)で精製し、標題化合物を白色固形物として得た(融点:195〜198℃)。
【0122】
表1および表2に、代表例の化学構造、プロトンNMRおよび質量分析データをそれぞれ示す。
表1−式Iの代表的な化合物
【0123】
【化16】

【0124】
【表2】

【0125】
表2:合成された化合物のスペクトルデータ
【0126】
【表3】


【0127】
実施例5
ヒト血漿における式1の化合物の活性タキサン化合物への変換:
本発明の試験化合物I.04の活性/親タキサン化合物への変換をヒト血漿試料において確認した。周囲温度で、2000ng/ml濃度の試験化合物をヒト血漿に加え、37℃に維持したインキュベーターに保持した。この血漿試料のアリコートを一定時間間隔で取り出し、LC−MS/MS分析に供した。その試料について、選択反応モニタリング(SRM)モードで動作するLC−MS/MSを用い、試験溶液中の変換されていない試験化合物の量と形成されたドセタキセルの量とを次のように分析した。
【0128】
カラム:Hypurity Aquastar C−18、50×2.1mm、3ミクロン
移動相:10mmol酢酸アンモニウム−アセトニトリル、40:60
流速:250μl/分
オーブン温度:45℃
化合物I.04の保持時間:13.9分
ドセタキセルの保持時間:0.79分
【0129】
モニタリングした親イオン>プロダクトイオンは以下の通りであった。
m/z990.6>345.980およびm/z990.6>182.366(化合物I.04)およびm/z830>247.866およびm/z830>303.974(ドセタキセル)
【0130】
異なる時間間隔で測定した変換されていない試験化合物I.04の割合を下の表3に示す。試験化合物I.04とドセタキセルについて質量ピーク面積も測定し、その結果を表4に示した。試験化合物と放出されたドセタキセルの時間対面積の関係を図1および図2に示す。
【0131】
【表4】

【0132】
【表5】

【0133】
図1、図2と表3、表4のデータから、本発明のタキサン共役体は、生理的条件下で活性タキサン化合物に変換することが分かる。よって、本発明の化合物は癌治療に有用である可能性がある。
【0134】
実施例6
式Iのタキサン共役体の溶解性を試験する手順
約2mgの式1のタキサン共役体を0.5mlの水(殺菌)に分散させ、約2分間超音波処理を行った。薬学的に許容された酸の少量のアリコートを加え、加える毎に2〜3分間超音波処理を行い、透明性を目視観察した。
【0135】
例えば、2mgの化合物I.03を0.5mlの水に分散させ、約2分間超音波処理を行った。2.5MのHClを20μl加え、2000ng/ml濃度で約2分間超音波処理を行い、透明な溶液を得た。
【0136】
上記の試験条件において、パクリタキセルとドセタキセルはどちらも完全に不溶性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物またはその塩であって、
【化17】

式中、R1は水素とR4とからなる群から選択され;R2は水素とアセチルとR4とからなる群から選択され;R3はアルキルと−O−アルキルと−NH−アルキルとアリールとヘテロシクリルとからなる群から選択され;R4は部分(A)を表し、
【化18】

式中、Xは、単結合、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンまたはヘテロシクリレン部分からなる群から選択され;R5およびR6は同一または異なり、独立して、水素、アルキル、アリールまたはヘテロシクリルから選択される;あるいはR5およびR6は、これらが結合する窒素原子と一緒になってヘテロシクリル環系を形成する、式Iの化合物またはその塩。
【請求項2】
1が水素であり、R2が水素およびアセチルから選択され、R3がフェニルおよびtert−ブチルオキシから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
2’−[N−(N,N−ジメチルアミノ)スクシンアミドイル]タキソール;
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’−[(N−モルホリン−4−イル)スクシンアミドイル]タキソール;
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’,7−ビス[(N−ピペリジン−1−イル)スクシンアミドイル]タキソール;
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’−[(N−ピペリジン−1−イル)スクシンアミドイル]タキソール;
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’−[[5−メチル−3−(ピペリジン−1−イルカルバモイル)メチル]ヘキサノイル]タキソール;
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’−[4−(ピペリジン−1−イルカルバモイル)ブチリル]タキソール;
10−デアセチル−N−デベンゾイル−N−(tert−ブチルオキシカルボニル)−2’−[3,3−ジメチル−4−(ピペリジン−1−イルカルバモイル)ブチリル]タキソール;
2’−[3−(N−(ピペリジン−1−イル)−カルバモイル)ベンゾイル]タキソール;
2’−[(Z)−3−(ピペリジン−1−イルカルバモイル)アクロイル]タキソール;
2’−[(N−ピペリジン−1−イル)スクシンアミドイル]タキソール;およびこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式IIの化合物を式IIIの化合物と反応させることを含む、式Iの化合物の調製法であって、
【化19】

式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびXは、式Iに関して定義した通りであり、Yは脱離基である。
【請求項5】
式IVの化合物を式Vの化合物と反応させることを含む、式Iの化合物の調製法であって、
【化20】

式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびXは、式Iに関して定義した通りであり、Yは脱離基である。
【請求項6】
式Iの化合物を有効量投与することを含む、腫瘍の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−524852(P2011−524852A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547304(P2010−547304)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際出願番号】PCT/IN2009/000112
【国際公開番号】WO2010/079499
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(507310592)サン・ファーマ・アドバンスド・リサーチ・カンパニー・リミテッド (10)
【Fターム(参考)】