説明

新規なポリグリセリン誘導体又はその塩、及びその製造方法

【課題】リン酸エステル型ポリグリセリンと同等又はそれ以上の分散機能を有し、かつ耐加水分解性性に優れた顔料分散剤を提供する。
【解決手段】本発明のポリグリセリン誘導体又はその塩は、ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基が、下記式(1)
【化1】


(式中、R1は水素原子又は水酸基を示し、R2は直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示す)
で表されるホスホン酸基又はホスフィン酸基を含む置換基で置換されている構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種界面活性剤製造原料、保湿剤、キレート剤や表面改質剤、分散剤原料、有機−無機ハイブリッド材料の原料等として有用な新規なホスホン酸基又はホスフィン酸基含有ポリグリセリン誘導体又はその塩、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム、亜鉛、鉄などの各種金属粉体、あるいは金属塩類が塗料などの種々の製品中に広く配合されてきた。しかし、これらの金属粉体あるいは金属塩類は水や有機溶媒に対する溶解度が極めて低いため、これを配合した製品の使用形態が粉体やサスペンジョン等に限定されるという欠点があった。
【0003】
このため、水や有機溶媒と混合したとき均一で安定な分散液となり、種々の形態での使用が可能な金属あるいは無機塩類の分散を可能とする機能性分子材料すなわち分散剤が望まれている。例えば、特許文献1では、リン酸エステル基をもつ重合性モノマーを高分子鎖構成原料として使用することにより分散機能が付与された水系塗料材料が開示されている。
【0004】
一方、ポリグリセリン誘導体は、ポリグリセリン鎖の高い極性や親水性、また水酸基の反応性を利用したエステル化やウレタン化、あるいはエーテル化など種々の誘導体化が可能であるなどの特徴を有していることから、これの無機塩誘導体自体を利用する目的や、反応性官能基と無機物質との相互作用による機能発現を利用する目的で、リン酸エステル基が導入されたポリグリセリン誘導体が検討されてきている。
【0005】
例えば特許文献2では、ポリグリセリンに、ポリリン酸、オキシハロゲン化リン、オルトリン酸、五酸化リン等のリン酸化剤を反応させることにより合成されたリン酸エステル基を有するポリグリセリン誘導体が開示されている。また、特許文献3ではポリグリセリン脂肪酸エステルやポリエステル鎖導入ポリグリセリン誘導体にリン酸エステル基を導入したポリグリセリン誘導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−50454号公報
【特許文献2】特開平5−001081号公報
【特許文献3】特開平11−292961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般にリン酸エステル類は加水分解を起こしやすく、一旦部分的な加水分解が起きると生成したリン酸基によってさらに加速度的にエステル結合の加水分解が進行することが知られている。上記のリン酸エステル基含有ポリグリセリン誘導体類はその分子構造に高極性で親水性の極めて高いポリグリセリン鎖に直結する形でリン酸エステル結合を含むことにより、本質的にリン酸エステル基の加水分解が起こりやすいという特徴を持ち合わせていることから、これらを使用した製品の性能の長期安定性が損なわれやすく、さらには遊離したリン酸が耐加水分解性などに予想外の悪影響を及ぼす場合がある、等の欠点を有する。特に近年の低VOC(揮発性有機化合物、Volatile Organic Compounds)規制やHAPs(有害性大気汚染物質、Hazardous Air Pollutants)規制による使用制限の傾向を踏まえ、水を主媒体とする塗料やコーティング材料がますます重要性を増しており、大量の水が共存する環境下においても、安定した無機微粒子類の分散機能と、それら無機微粒子分散物が配合された水媒体製品の品質を長期にわたって維持する上で、上記リン酸エステル型ポリグリセリン誘導体類の欠点はしばしば致命的である。
【0008】
従って、本発明の目的は、リン酸エステル型ポリグリセリンと同等かあるいはそれ以上の分散機能を有しているとともに、耐加水分解性に優れ、分散機能を長期に亘って安定に維持できる顔料分散剤、該顔料分散剤を含有する顔料分散体及び塗料を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、上記の優れた顔料分散剤として有用な新規なポリグリセリン誘導体又はその塩、及びその簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、数多くのリン酸エステル基と同等の効果を有する置換基を導入したポリグリセリン誘導体の合成法および性質に関して鋭意検討した結果、リン酸エステル基を持たないかわりにアルキルホスホン酸基を有する縮合度2以上のポリグリセリンと、金属または金属塩類が、水あるいは極性有機溶媒と混合したとき均一な分散液となり、溶液状、エマルション、ペースト状等の形態を有する製品に広範囲に配合できるものであることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基が、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は水酸基を示し、R2は直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示す)
で表されるホスホン酸基又はホスフィン酸基を含む置換基で置換されたポリグリセリン誘導体又はその塩を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記のポリグリセリン誘導体又はその塩の製造方法であって、ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基がアルケニルオキシ基で置換されたポリグリセリン誘導体に次亜リン酸又はその塩を反応させる工程を含むポリグリセリン誘導体又はその塩の製造方法を提供する。
【0013】
この製造方法は、ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基がアルケニルオキシ基で置換されたポリグリセリン誘導体に次亜リン酸又はその塩を反応させた後、酸化する工程を含んでいてもよい。
【0014】
本発明は、さらに、上記のポリグリセリン誘導体又はその塩を含有する顔料分散剤を提供する。
【0015】
本発明は、さらにまた、顔料と上記の顔料分散剤を含有する顔料分散体を提供する。
【0016】
前記顔料としては、アルミニウム顔料が特に好ましい。
【0017】
本発明は、また、前記の顔料分散体を含む塗料を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、顔料分散剤として有用な新規なポリグリセリン誘導体又はその塩と、その簡易な製造方法が提供される。
【0019】
本発明の顔料分散剤は、水と混合すると均一な溶液を与え、液状、エマルション、ペースト状等の各種形態を有する製品に広範囲に配合可能であり、金属粉体あるいは金属塩の水分散組成物、キレート剤や表面改質剤、各種界面活性剤原料等として有用である。また、分子構造内にリン酸エステル結合を含まないため耐加水分解性に優れており、分散液の形態で長期にわたって安定した性能が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】COLOCパルス系列による実施例2の反応生成物の31P−1H 2次元相関NMRスペクトル(観測側:31P、照射側:1H)である。
【図2】実施例2及び比較例1で得られた化合物の弱酸性条件下での耐加水分解性(pH=5、封管中100℃)を比較したグラフである(試験4)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[ポリグリセリン誘導体又はその塩]
本発明のポリグリセリン誘導体は、ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基が、前記式(1)で表されるホスホン酸基又はホスフィン酸基を含む置換基で置き換えられた構造を有している。
【0022】
ポリグリセリンの縮合度は、特に限定されないが、2〜100、特に2〜10が好ましい。本発明において、ポリグリセリンとは縮合度が2以上のグリセリン重合体であり、縮合度2のポリグリセリンとは、ジグリセリンを意味する。また、ポリグリセリン上の置換基である前記式(1)で表される基の数は1以上で、かつ縮合度、すなわちポリグリセリン鎖を構成するグリセリン単位数以下の範囲であれば特に制限されないが、1〜2が特に好ましい。
【0023】
式(1)において、R1は水素原子又は水酸基を示し、R2は直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。R1が水素原子の場合、式(1)で表される基はホスフィン酸基を含む置換基であり、R1が水酸基の場合、式(1)で表される基はホスホン酸基を含む置換基である。R2におけるアルキレン基(ホスフィン酸基又はホスホン酸基とポリグリセリン鎖の間に存在するアルキレン基)としては、直鎖状でも分岐構造を含んでいてもよく、炭素数としては3〜10であることが親水性/疎水性バランスの観点より好ましい。
【0024】
ポリグリセリン誘導体の塩としては、式(1)中のホスフィン酸基又はホスホン酸基が塩を形成している化合物が挙げられる。該塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、チタン塩、アルミニウム塩などの金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩等);アンモニウム塩などのオニウム塩;トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アルキルアミン塩などのアミン塩等が挙げられる。
【0025】
本発明のポリグリセリン誘導体のうちホスフィン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体又はその塩は、例えば、縮合度2以上のアルケニルオキシ基置換ポリグリセリン(ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基がアルケニルオキシ基で置換されたポリグリセリン誘導体)に次亜リン酸(ホスフィン酸)又はその塩を反応させてホスフィン酸基又はその塩を導入することにより合成できる。
【0026】
本発明のポリグリセリン誘導体のうちホスホン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体又はその塩は、例えば、前記のようにしてホスフィン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体又はその塩を合成し、引き続いて酸化してホスフィン酸基をホスホン酸基に変換することにより製造することができる。
【0027】
また、本発明のポリグリセリン誘導体のうちホスホン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体又はその塩は、縮合度2以上のアルケニルオキシ基置換ポリグリセリンに亜リン酸(ホスホン酸)又はその塩を反応させてホスホン酸基又はその塩を導入することにより合成することもできる。なお、ホスホン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体又はその塩の製造方法としては、反応収率の面で、上記次亜リン酸を使用する2段階合成法が優れている。
【0028】
前記ホスホン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体又はその塩、及びこの化合物を合成する過程で中間体として得られる前記ホスフィン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体は、各種金属粉体、あるいは金属塩類の分散用途に用いることができる。
【0029】
本発明のポリグリセリン誘導体の合成原料である前記アルケニルオキシ基置換ポリグリセリンは、例えば、対応するアルケニルグリセリルエーテルあるいはアルケニルアルコールを開始剤として、塩基性触媒の存在下に所望の平均付加モル数に相当するグリシドールを開環付加させることにより得ることができる。
【0030】
上記アルケニルオキシ基置換ポリグリセリンの合成原料に用いるアルケニルグリセリルエーテルとしては、例えば、アリルグリシジルエーテル(ダイソー株式会社製、商品名「ネオアリル E−10」)等を例示できる。
【0031】
また、上記アルケニルオキシ基置換ポリグリセリンの合成原料に用いるアルケニルアルコールとしては、例えば、アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−へキセン−1−オール、9−デセン−1−オール等を例示でき、さらに、分岐構造を持つアルコールであっても末端不飽和基を有している限りにおいて好適に用いられ、例えば1−オクテン−3−オールを例示でき、使用目的やコストなどを考慮して適切なものを選択すればよい。これらは例えば和光純薬工業株式会社より市販の原料として入手することが可能である。
【0032】
さらに、分子内に1以上のアルケニル基を有するアルケニルオキシ基置換ポリグリセリンは、例えば、グリセリンまたはアルケニルグリセリルエーテルを開始剤として、塩基性または酸性触媒の存在下にグリシドールおよびアルケニルグリシジルエーテルを開環重合することにより得ることができる。
【0033】
上記アルケニルグリシジルエーテルとしては、例えば、アリルグリシジルエーテル(ダイソー株式会社製、商品名「ネオアリル G」)等を例示できるが、使用目的により必要に応じて、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−へキセン−1−オール、9−デセン−1−オール等のアルケニルアルコールとエピクロルヒドリンとから、例えば特開平10−36307号公報に記載されているような方法で合成できるグリシジルエーテルを用いてもよい。
【0034】
エピクロルヒドリンとアルコールとからのグリシジルエーテル類の合成は、今日ではエポキシ樹脂原料を合成するためのきわめて一般的な方法となっており、前記文献以外にも過去多数の文献報告例が存在するので、目的物質の分離のしやすさ、あるいは収率などを考慮して合成条件を選択すればよい。
【0035】
上記アルケニル基置換ポリグリセリンへのホスフィン酸基又はその塩あるいはホスホン酸基又はその塩の導入は、例えば、アルケニル基置換ポリグリセリンと次亜リン酸もしくはその塩又は亜リン酸もしくはその塩とを、ラジカル開始剤の存在下で反応させることにより行うことができる。
【0036】
次亜リン酸もしくはその塩又は亜リン酸もしくはその塩の使用量は、所望するホスフィン酸基等の導入量により異なるが、例えば、アルケニル基置換ポリグリセリン1モルに対して、1〜5モル程度、好ましくは1〜2モル程度である。
【0037】
ラジカル開始剤としては、例えば、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;t−ブチルパーオキシイソブチレート等のパーオキシエステル類;2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤などが挙げられる。ラジカル開始剤の使用量は、アルケニル基置換ポリグリセリンに対して、例えば、0.05〜5モル%程度である。
【0038】
反応は、溶媒の存在下で行われることが多い。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等が好ましく用いられる。
【0039】
反応温度は、通常20〜120℃、好ましくは50〜100℃である。
【0040】
反応終了後、反応生成物は、濃縮、抽出、晶析などの一般的な精製操作により分離精製することができる。
【0041】
本発明のポリグリセリン誘導体のうちホスホン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体又はその塩を、前述のようにホスフィン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体を合成し、引き続いて酸化してホスフィン酸基をホスホン酸基に変換して得る場合において、酸化反応は、ホスフィン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体と酸化剤とを反応させることにより行われる。
【0042】
前記酸化剤としては、過酸化水素、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物、空気、酸素、オゾンなどを使用できるが、過酸化水素が特に好ましい。酸化剤の使用量は、ホスフィン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体中のホスフィン酸基1モルに対して、1モル以上(例えば1〜2モル)である。大過剰量の酸化剤を使用してもよい。
【0043】
酸化反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル類;水;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0044】
酸化反応における反応温度は、例えば20〜120℃、好ましくは50〜110℃程度である。
【0045】
酸化反応終了後、反応生成物は、濃縮、抽出、晶析などの一般的な精製操作により分離精製することができる。
【0046】
なお、上記アルケニルオキシ基置換ポリグリセリンへのホスフィン酸基あるいはホスホン酸基の導入反応の条件については、例えば工業化学雑誌 第68巻第11号2080(1965)、あるいはJ. Org. Chem. 24, 2049(1959)、また特開2000−7687、特開2000−38398等の文献にそれぞれ記載の不飽和化合物へのホスフィン酸基等の導入反応の条件を参考にできる。
【0047】
本発明のポリグリセリン誘導体の塩は、前記ポリグリセリン誘導体を塩形成反応に付すことにより製造することもできる。より具体的には、前記ポリグリセリン誘導体を、対応する塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニア、又はアルキルアミン、アルカノールアミンなどのアミンで中和することにより得られる。また、このようにして得られたポリグリセリン誘導体のアルカリ金属塩やアンモニウム塩などと、亜鉛、アルミニウム、チタンなど遷移金属の水溶性塩を、水性または極性有機溶媒などの媒体中で反応させることにより、本発明のポリグリセリン誘導体の遷移金属塩を得ることができる。
【0048】
本発明のポリグリセリン誘導体又はその塩は、水、極性有機溶媒、これらの混合液と混合することにより均一な溶液が得られるため、種々の形態での使用が可能である。例えば、本発明のポリグリセリン誘導体又はその塩は、金属粉末(金属粉体)や金属塩微粒子を水や極性有機溶媒に分散させる際の分散剤、キレート剤、表面改質剤、界面活性剤原料等として使用できる。
【0049】
本発明の顔料分散剤は、前記本発明のポリグリセリン誘導体又はその塩を含有する。本発明の顔料分散体は、顔料と前記本発明の顔料分散剤を含有している。この顔料分散体における顔料としては、無機顔料、有機顔料のいずれであってもよい。無機顔料として、例えば、土系顔料、焼成土、鉱物性顔料、珊瑚末、胡粉等の天然無機顔料;酸化物顔料(酸化チタン等)、水酸化物顔料、硫化物顔料、珪酸塩顔料、燐酸塩顔料、炭酸塩顔料、金属粉顔料(金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉、鉄粉、亜鉛粉等)、炭素顔料(カーボンブラック等)などの合成無機顔料が挙げられる。有機顔料として、例えば、天然有機顔料、合成有機顔料が挙げられる。これらの中でも、無機顔料が好ましい。また、無機顔料の中でも、金属粉顔料が好ましく、特に、アルミニウム顔料が好適に使用される。顔料、例えば金属粉末(粉体)や金属塩微粒子の表面は、別の無機物質で予め改質されていてもよい。
【0050】
顔料分散体は、顔料及び前記顔料分散剤のほか、必要に応じて、他の樹脂成分や、他の分散剤を含んでいてもよい。
【0051】
本発明のポリグリセリン誘導体を十分な量、共存させた顔料(例えば、金属粉末あるいは金属塩微粒子)は、水に対する分散性が良好であり、水分散液として、又は必要に応じてエタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン等の他の極性有機溶媒を含む分散液として使用することができる。また目的に応じて、その他の樹脂成分や他の分散剤など成分と混合して使用することもでき、溶液状、エマルション、ペースト状等の広い範囲の形態での使用が可能である。
【0052】
本発明の塗料は、前記顔料分散体を含んでいる。該塗料は、顔料分散体のほか、アクリル樹脂、メラミン樹脂等の樹脂成分、水、有機溶剤等を含有していてもよい。代表的な塗料として、水性メタリック塗料などが挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(合成例1)アリル基含有ポリグリセリンの合成
撹拌機、窒素導入口、冷却管つき減圧ベントを有する2Lフラスコに、グリセリンモノアリルエーテル373g(2.82モル)、および水酸化ナトリウム22.6g(0.564モル)を仕込み、系中を窒素で置換した後、撹拌しながら80℃まで昇温し、10torrまで減圧し、4時間脱水を行った。次いで、窒素パージして減圧を解除した後、60℃まで降温し、反応器に還流管を取り付け、仕込みポンプより導かれた仕込み口を接続し、グリシドール627g(8.47モル)を計量槽に計り取り、反応液温度70℃、常圧条件でグリシドールを12時間かけて滴下仕込し、さらに1時間反応を続けた。次にリン酸を10g(0.1モル)加え、系内を中和した。さらに60℃まで降温し、メタノール500mLを加えた。このメタノール溶液を濾過することで中和塩を除去し、さらに100℃、10torrでメタノールを除去し、アリル基置換ポリグリセリン956gを得た。1H−NMR測定の結果より、得られた化合物のアリル基あたりの平均グリセリン付加モル数は3.9であり、また性状分析値としては、水酸基価:787KOHmg/gであった。
【0055】
(実施例1)
撹拌機、窒素導入口、還流管およびベント、滴下ロートを有する2Lセパラブルフラスコに、合成例1で得られたアリル基置換ポリグリセリン425g(1.2モル)および50重量%次亜リン酸水溶液158g(1.2モル)を入れ、撹拌を開始し、1mmHgに減圧しつつ昇温して80℃で30分間撹拌した。次いで、窒素パージして減圧を解除した。これに日本油脂(株)製の「パーブチル−O」13.0g(0.06モル)とエタノール150gの混合溶液を3時間かけて滴下仕込みした。滴下終了後、さらに3時撹拌した。この反応混合物にpH試験紙でpH11になるまで48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えた後、30重量%過酸化水素水204gを添加し、80℃で2時間撹拌後、さらに過酸化水素水102gを追加仕込みして、還流温度で4時間撹拌した。その後、冷却して取り出し、ロータリーエバポレーターで恒量値まで濃縮した後、純水600gで希釈し、前もって酸処理でプロトン置換しておいたアンバーライト IR120B AGカラム(樹脂量1.5kg)を通過させ、酸性フラクションを合一してロータリーエバポレーターで恒量値まで濃縮し、粘稠オイル状物質[アルキルホスホン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体(ポリグリセリン結合アルキルホスホン酸)]426gを得た。内部標準物質としてリン酸トリクレジルを添加したDMSO−d6溶液中での31P−NMRを測定し、アルキルホスホン酸基由来のシグナルを定量したところリン換算で6.5重量%であることが計算により求められた。また、水酸基価:1230KOHmg/g(計算値1250KOHmg/g、酸価:188KOHmg/g(計算値191KOHmg/g)であった。
【0056】
(合成例2)
撹拌機、窒素導入口、還流管およびベント、2基の仕込みポンプより導入される仕込み口をそれぞれ有するセパラブルフラスコに、グリセリン286gおよび42.5重量%リン酸水溶液0.05gを入れ内部を窒素置換して昇温し、120℃に反応溶液温度を保ちつつ、窒素雰囲気下にてグリシドール354gとアリルグリシジルエーテル460gの混合液を10時間かけて滴下仕込みした。同時に42.5重量%リン酸水溶液の仕込みを開始し、2.15gを10時間15分かけて滴下仕込みした。仕込み終了後も120℃の反応混合物温度と窒素雰囲気を維持しつつ撹拌を継続し、残留アリルグリシジルエーテルが0.5重量%以下となった時点で冷却し、反応生成物(アリル基置換ポリグリセリン)を取り出した。
【0057】
(実施例2)
撹拌機、窒素導入口、還流管およびベント、滴下ロートを有するセパラブル反応器に、合成例2で得られたアリル基置換ポリグリセリン425gおよび50重量%次亜リン酸水溶液158gを入れ、撹拌を開始し、1mmHgに減圧しつつ昇温して80℃で30分間撹拌した。その後、窒素パージして減圧を解除した。これに日本油脂(株)製「パーブチルーO」13.0gをn−ブタノール100mlで希釈した溶液を3時間かけて滴下仕込みし、滴下終了後さらに3時撹拌した。この反応混合物に、pH試験紙でpH11になるまで48重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えた後、30重量%過酸化水素水136gを添加し、80℃で2時間撹拌後、さらに過酸化水素水63.0gを追加仕込みして還流温度で4時間撹拌した後、冷却して取り出し、ロータリーエバポレーターで恒量値まで濃縮した後、純水600gで希釈し、前もって酸処理でプロトン置換しておいたアンバーライト IR120B AGカラム(樹脂量 1.5kg)を通過させ、酸性フラクションを合一してロータリーエバポレーターで恒量値まで濃縮し、粘稠オイル状物質[アルキルホスホン酸基を含む置換ポリグリセリン誘導体(ポリグリセリン結合アルキルホスホン酸)]431gを得た。得られた反応生成物の31P−1H 2次元相関NMRスペクトルを測定した結果、(図1)のごとくホスホン酸基のリン原子由来の31P−NMRシグナルと、ホスホン酸基に結合したメチレン基の水素原子由来の1H−NMRシグナルとの間に相関シグナルが観測され、目的とするアルキルホスホン酸基を有するポリグリセリン誘導体が得られていることが確認された。内部標準物質としてリン酸トリクレジルを添加したDMSO−d6溶液中での31P−NMRを測定し、アルキルホスホン酸基由来のシグナルを定量したところリン換算で8.7重量%であることが計算により求められた。また、酸価を測定したところ140KOHmg/gであった。
【0058】
(実施例3)
<アルミニウム顔料の1次処理>
市販のアルミニウム顔料(東洋アルミニウム(株)製:7640NS−不揮発分65重量%、水面拡散面積1.1m2/g)100gに、実施例1または実施例2で得られたアルキルホスホン酸基を有するポリグリセリン誘導体5gおよびポリオキシエチレンスチリル化フェノールエーテル(第一工業製薬株式会社製、「ノイゲンEA−137」)5g(HLB=10)を加え混練した後、水500gと、過酸化水素30重量%を含む過酸化水素水10gに金属モリブデン粉末1gを加えて反応させて得られた溶液を添加し、室温で1時間撹拌する事によりアルミニウム顔料分散体を得た。
【0059】
<水性メタリックベース塗料の作製>
実施例1または2で得られたアルミニウム顔料分散体を用い、下記の組成で水性メタリックベース塗料を作製した。
トリエチルアミンで中和した水溶性アクリル樹脂 58.4g(三井化学(株)製、「アルマテックス(登録商標)WA911」)、メラミン樹脂8.80g(三井サイアナミッド(株)製、「サイメル(登録商標)350」)、アルミニウム顔料分散体(金属Al換算)6.00g、および脱イオン水80.00gを十分撹拌した後、ディスパーにより1000rpm×約10分間撹拌して分散した。その後、10重量%トリエチルアミンでpHを8.6に調整する。脱イオン水を添加し、#4フォードカップを用いて、フォードカップのオリフィス(排出口)を通して内容液100mlが流下し切るまでの時間が19〜20秒になる様、粘度調整した。
【0060】
<油性クリアー塗料の作製>
アクリル樹脂(三井化学(株)製:アルマテックス 110)140g、メラミン樹脂(三井化学(株)製:「ユーバン 20SE60」)50g、炭化水素系高沸点溶剤(エクソン化学(株)製:ソルベッソ100)60gを室温で混合した。
【0061】
<塗装試料の作製>
岩田塗装機工業(株)製SA−71スプレーガンを使用して、予めプライマーを塗装した鋼板に、水性メタリックベース塗料を乾燥膜厚13μmとなるように塗装し、90℃のエアーオーブン中で10分間予備乾燥を行い、その上に油性クリアー塗料を乾燥膜厚40μmとなるように塗布した後、160℃のエアーオーブン中で30分間焼付けすることにより硬化させたものをメタリック塗装試験片(塗装試料)とした。
【0062】
(実施例4)
実施例3で得られた水性メタリックベース塗料を、70℃で2週間保存した後、実施例3と同様スプレー塗装して塗装試料を作製した。
【0063】
(比較例1)
特開平05−001081の実施例に記載の方法を参考にして、撹拌機、窒素導入口、還流管およびベント、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、坂本薬品工業製のポリグリセリン#500を87.0g入れ、オイルバス加熱により反応器内部温度を80℃とし、撹拌しつつポリリン酸(和光純薬工業)175gを2時間かけて滴下し、さらに24時間80℃で撹拌を継続した。水30gを添加して80℃で4時間撹拌し、MgCl2・6H2O 190gを添加して撹拌し、28重量%NH3水溶液でpHを8とし、析出物を濾過して除き濾液をDOWEX 50WX8イオン交換樹脂カラムに付し、pH酸性の溶出液を回収して合一の上、凍結乾燥してオイル状生成物[リン酸エステル結合ポリグリセリン(ポリグリセリンリン酸エステル)]を得た。内部標準物質としてリン酸トリクレジルを添加したDMSO−d6溶液中での31P−NMRを測定し、リン酸エステル基由来のシグナルを定量したところリン換算で12.2重量%であることが計算により求められた。
【0064】
(比較例2)
実施例3において、アルキルホスホン酸基を有するポリグリセリン誘導体の代わりに比較例1で得られたリン酸エステル結合ポリグリセリンを用いた以外の操作は同一として、アルミニウム顔料の1次処理、水性メタリックベース塗料の作製、及び塗装試料の作製を行った。
【0065】
(比較例3)
比較例2で得られた水性メタリックベース塗料を、70℃で2週間保存した後、実施例3と同様の操作でスプレー塗装して塗装試料を作製した。
【0066】
<試験項目>
試験1(塗料の保存安定性)
実施例3および比較例2で作成した水性メタリックベース塗料200gを三角フラスコに採取し、フラスコの口にゴム栓付きメスピペットを取り付けて、これらを50℃に調整した湯煎器内で10日間保管した場合の累積水素ガス発生量を測定した。
保存安定性の評価基準:
○ 水素ガス発生量1ml未満下
△ 同1ml〜5ml未満
× 同5ml以上。
【0067】
試験2(塗膜の隠蔽性及び光輝性)
実施例3、実施例4、比較例2、および比較例3で得られたメタリック塗装塗板の隠蔽性と色調を目視により評価した。
隠蔽性の評価基準:
良好 下地が完全に隠蔽されている
不良 下地が透けて見える
光輝性の評価基準:
良好 金属感が有り、見る角度により明度が大きく変化
不良 金属感が無く、見る角度で明度があまり変化しない
【0068】
試験3(塗膜の耐温水性)
試験片を50℃の温水中に10日間浸漬後、浸漬部分の白化度合いを非浸漬部分の色調と比較評価した。白化度合いの評価は目視で行った。
耐温水性の評価基準:
○ 色調に変化なし
△ わずかの差が認められる
× 許容できない変色が認められる
【0069】
試験1〜3の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
試験4(耐加水分解性)
実施例2で得られたポリグリセリン結合アルキルホスホン酸および比較例1で得られたポリグリセリンリン酸エステルのそれぞれについて、10重量%の重水を添加した水に溶解して10重量%水溶液とし、塩酸でpHを5とした後、シールドチューブに入れ封管状態で100℃に加熱して所定の時間ごとに溶液をサンプリングして、31P−NMRにより、実施例2の化合物についてはホスホン酸基の残留量、比較例1の化合物については燐酸エステル基の残留量を定量して、図2のプロットを得た。図2のプロットより、酸性雨程度のpHにおいて比較例1の化合物のリン酸エステル基は加水分解されたのに対して、同じ条件下であっても実施例2の化合物のアルキルホスホン酸基はもとの構造のまま残留し、構造安定性において明確な差が認められた。
【0072】
試験5(金属塩の安定性)
実施例2で得られたポリグリセリン結合アルキルホスホン酸および比較例1で得られたポリグリセリンリン酸エステルのそれぞれ10gを50gの水に溶解し、これに水酸化亜鉛2.5gを粉末のまま加え、よく撹拌して溶解した。得られたポリグリセリン結合アルキルホスホン酸亜鉛塩水溶液及びポリグリセリンリン酸エステル亜鉛塩水溶液からそれぞれ凍結乾燥により、ポリグリセリン結合アルキルホスホン酸亜鉛塩及びポリグリセリンリン酸エステル亜鉛塩を得た。それぞれの亜鉛塩にそれぞれ同重量の水を加え希釈し、塩酸でpHを4に調整してからシールドチューブに入れ、封管状態で130℃、10時間熱処理した。内容液を取り出し水を添加して10倍に希釈してから水酸化ナトリウム水溶液でそれぞれpHを7としたところ、実施例2で得られたポリグリセリン結合アルキルホスホン酸の亜鉛塩を用いた溶液は均一であったのに対して、比較例1で得られたポリグリセリンリン酸エステルの亜鉛塩の溶液には白濁を生じた。したがって、実施例2のごとくリン系酸基とポリグリセリン骨格との間にリン酸エステル構造を含まないホスホン酸化合物はそれを用いた組成物が暴露される条件にかかわらずイオン性の物質との相互作用を維持できるのに対して、比較例1のごとくリン酸エステル結合を有する化合物はそれを用いた組成物あるいは製品が暴露される条件により、例えば酸性雨に晒されるような環境下においては当初の機能を保持できなくなることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基が、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は水酸基を示し、R2は直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示す)
で表されるホスホン酸基又はホスフィン酸基を含む置換基で置換されたポリグリセリン誘導体又はその塩。
【請求項2】
請求項1記載のポリグリセリン誘導体又はその塩の製造方法であって、ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基がアルケニルオキシ基で置換されたポリグリセリン誘導体に次亜リン酸又はその塩を反応させる工程を含むポリグリセリン誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項3】
ポリグリセリン中の水酸基のうち1以上、且つポリグリセリンの縮合度以下の数の水酸基がアルケニルオキシ基で置換されたポリグリセリン誘導体に次亜リン酸又はその塩を反応させた後、酸化する工程を含む請求項2記載のポリグリセリン誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のポリグリセリン誘導体又はその塩を含有する顔料分散剤。
【請求項5】
顔料と請求項4記載の顔料分散剤を含有する顔料分散体。
【請求項6】
顔料がアルミニウム顔料である請求項5記載の顔料分散体。
【請求項7】
請求項6記載の顔料分散体を含む塗料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−1277(P2011−1277A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143926(P2009−143926)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】