説明

新規なワカメペプチド、L−チロシル−L−プロリン及び血圧降下剤

【目的】ワカメのプロテアーゼSアマノ並びにプロレザーFG−1分解液から、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有し、血圧降下作用を有する新規なワカメペプチド、L−チロシル−L−プロリンを提供する。
【構成】ワカメをプロテアーゼ等で分解処理し、新規なアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するジペプチドはL−チロシル−L−プロリンであり、この新規なワカメペプチドは生体内での血圧降下作用を有し、毒性も極めて低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品として有用性を有するL−チロシル−L−プロリンで示されるジペプチド構造を有する新規なワカメペプチド並びにその新規なワカメペプチドを有効成分とする血圧降下剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品由来のペプチドは、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤としての利点を持つ。
【特許文献1】 特許第2046483号
【特許文献2】 特許第2678180号
【特許文献3】 特許第2920829号
【特許文献4】 特許第3108920号
【特許文献5】 特願2001−113295号
【特許文献6】 特願2001−118914号
【特許文献7】 特願2001−228754号
【特許文献8】 特願2001−355368号
【非特許文献1】 マリンバイオテクノロジー、6卷、163頁、1998年.
【非特許文献2】 日本水産学会誌、64巻、862頁、1998年.
【非特許文献3】 マリンバイオテクノロジー、3卷、305頁、2001年.
【非特許文献4】 ジャーナル・ニュートリショナル・バイケミストリー、9卷、415頁、1998年.
【非特許文献5】 ジャーナル・ニュートリショナル・バイケミストリー、11卷、450頁、2000年.
【非特許文献6】 S.H.Ferreia et al:Biochemistry,9,3583(1970).
【非特許文献7】 G.Oshima et al:Biochim.Biophs.Acta,566,128(1979).
【非特許文献8】 S.Maruyama et al.:Agric.Biol.Chem.,46,1393(1983).
【非特許文献9】 山本節子等:日胸疾会誌,18,297−302(1989).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、海藻由来の食品たんぱく質の酵素分解中にアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害ペプチド等の薬理活性ペプチドが本発明者によって報告されてきた。すなわち、海苔たんぱく質由来のACE阻害ペプチドとしてIle−Tyr;Met−Lys−Tyr;Ala−Lys−Tyr−Ser−Tyr;Leu−Arg−Tyr等[非特許文献1]が、ヒジキたんぱく質由来のACE阻害ペプチドとしてGly−Lys−Tyr;Ser−Val−Tyr;Ser−Lys−Thr−Tyr等[非特許文献2]が報告されてきている。微藻類由来としては、クロレラ・スピルリナたんぱく質由来のACE阻害ペプチドとしてIle−Val−Val−Glu;Ala−Phe−Leu;Phe−Ala−Leu,Ala−Glu−Leu,Val−Val−Pro−Ala,Ile−Ala−Glu;Ile−Ala−Pro−Gly,Val−Ala−Phe等[非特許文献3]が報告されてきている。又、ニンニク抽出物からはSer−Tyr;Gly−Tyr;Phe−Tyr;Asn−Tyr;Ser−Phe;Gly−Phe;Asn−Phe等[非特許文献4]が報告されてきている。更には,ワカメたんぱく質由来のACE阻害ペプチドとしてAla−Ile−Tyr−Lys;Tyr−Lys−Tyr−Tyr;Lys−Phe−Tyr−Gly;Tyr−Asn−Lys−Leu等[非特許文献5]が報告されてきている。ところで、レニン−アンジオテンシン系が生体の水・電解質及び血液の調節に重要な役割を果たしていることはよく知られている。このレニン−アンジオテンシン系にはアンジオテンシン変換酵素(以下、ACEと略記する)が存在し、アンジオテンシンIはACEによってアンジオテンシンIIに変換される。アンジオテンシンIIは強力な昇圧物質で、血管、副腎皮質のみならず中枢神経系並びに末梢神経系に働いて血圧上昇を促す。又、ACEは生体内降圧物質であるブラジキニンを分解し、不活性化する作用を有し、昇圧系に関与している。従って、ACEの活性を阻害することによって血圧を降下させることが可能であり、又、そのことは臨床的に高血圧の予防、治療に有効であると考えられている。この目的のためプロリン誘導体であるカプトリルが合成され、その降圧作用が確認されて以来、カプトリルの構造研究に基づく種々のACE阻害剤の合成研究が盛んに行われ、最近ではマレイン酸エナラブリルやアラセブリル等の物質が、次々と臨床の場に供されている。現在、ACE阻害剤は本態性高血圧症、病候性高血圧症を問わず、又、軽症、重症を問わず、幅広く用いられ、高血圧症の第一次選択の治療薬中に加えられ、多く優れた点を有することが見出されている。一方、ACE阻害物質の作用機序としては、アンジオテンシンIIの産生抑制によるアルドステロンやバソプレッシンの分泌抑制、又、腎動脈収縮の解除によるナトリウムや水の排泄促進が考えられている。更に、ACE阻害剤については、それがカリクレン−キニン系の不活性化を抑制し、プロスタグランジン系を賦活させることにより末梢血管拡張やナトリウム及び水の排泄を更に促進させると考えられており、心不全の悪循環を断つ上で合目的な治療薬として期待されている。ACE阻害物質としては、上記の合成品の他に天然物又は天然物由来の物質として蛇毒由来のブラジキニン増強因子(C末端がPro)[非特許文献6]、ゼラチンのコラゲナーゼ消化物由来の6種類のペプチド(いずれもC末端がAla−Hyp)[非特許文献7]、牛カゼインのトリプシン消化物由来のペプチド(C末端がGly−Lys)[非特許文献8]等に始まり本発明者等のイワシ筋肉由来の5種のヘクサペウチド(いずれもC末端から2番目又は3番目がPro、N末端がLeu)[特許文献1]、海苔たんぱく質由来のテトラペプチド(Pro−Gly−Val−Ala)[特許文献2]、朝鮮人参たんぱく質由来のペンタペプチド(Ile−Gly−Pro−Ala−Gly)[特許文献3]、クロレラたんぱく質由来のペンタペプチド(Val−Val−Pro−Pro−Ala)及び3種のワカメたんぱく質由来のテトラペプチド(Tyr−Asn−Lys−Leu,Tyr−Lys−Tyr−Tyr,Ala−Ile−Tyr−Lys)[特許文献4]等が挙げられ、いずれもACE阻害剤となり得ることが開示されている。先に述べたように、ACE阻害剤としてのワカメたんぱく質由来のワカメペプチドに関する提案は本発明者によって多くの提案[特許文献5,6,7,8]がなされているが、ワカメペプチドの中で、規則性を持ったアミノ酸配列を有するジペプチドのACE阻害作用(試験管内薬理効果)並びに経口投与による降圧効果(生体内薬理効果)は不明であり、発見されて以来未だ医薬品としての開発が進んでいるとの報告はない(式中、アミノ酸残基を表す各記号は、アミノ酸化学において慣用の表示法によるものである)。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、褐藻コンブ目(Laminariales)の海藻種に属するワカメの蛋白質分解酵素の分解液から薬理作用を有する物質を検索し、新規なワカメペプチドが強いアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有することを見出した。そして更に、新規なワカメペプチドを医薬として実用化するための研究を鋭意行った。その結果、この新規なワカメペプチドが血圧降下作用を有し、天然物由来のアンジオテンシン変換酵素阻害剤としての有用性を見出した。本発明は係る知見に基づくものである。本発明に係る新規なワカメペプチドは、L−チロシル−L−プロリンで示されるジペプチド構造を有し、常温における性状は白色の粉末である。
【0005】
本発明による新規なワカメペプチドは、化学的に合成する方法又はワカメのたんぱく質分解酵素の分解液から分離精製する方法を挙げることができる。本発明に係る新規なワカメペプチドを化学的に合成する場合には、液相法又は固相法等の通常のペプチド合成方法によって行うことができるが、好ましくは固相法によってポリマー性の固相支持体へ前記ワカメペプチドのカルボキシル末端側(C末端)アミノ酸残基に対応したL体のアミノ酸を順次ペプチド結合によって結合して行くのが良い。そして、そのようにして得られた合成ジペプチドは、トリフルオロメタンスルホン酸、フッ化水素等を用いてポロマー性の固相支持体から切断した後、アミノ酸側鎖の保護基を除去し、逆相系のカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する)などを用いた通常の方法で精製することができる。
【0006】
上記したように、本発明に係る新規なワカメペプチドは、ワカメのたんぱく質分解酵素の分解液から分離精製することができるが、その場合には例えば以下のようにして行うことができる。上記の新規なワカメペプチドを含有しているワカメのたんぱく質部分を用いて加水分解する。加水分解は常法に従って行う。例えば、プロテアーゼSアマノ、プロレザーFG−1等のタンパク質分解酵素で加水分解する場合は、ワカメを必要とあれば更に加水分解した後、酵素の至適温度まで加温しpHを至適値(pH8.0、pH10.0)に調整し酵素を加えてインキュベートする。次いで必要に応じ中和した後、酵素を失活させて加水分解液を得る。その加水分解物を濾紙及び/又はセライト等を用いて濾過することによって不溶性成分を除去し、その得られた濾液をセロファンなどの半透膜を用いて適当な溶媒(例えば、水、トリス−塩酸緩衝液、リン酸緩衝液の中性の緩衝液等)中で十分に透析し、その濾液中の成分で半透膜を通過した成分を含む溶液を強酸性陽イオン交換樹脂(例えば、ダウケミカル社製のDowex 50W等)にかけ、その吸着溶出分画からアンジオテンシン変換酵素(以下、ACEと略記する)阻害活性を有する成分を含有する分画を得、得られたACE阻害活性画分をゲル濾過(例えば、ファルマシア社製のSephadex G−25等)によって分画し、得られたACE阻害活性画分を陽イオン交換ゲル濾過(例えば、ファルマシア社製のSP−Sephadex C−25等)によって分画し、これらクロマトグラフィー精製により得られたACE阻害活性画分を、更に逆相HPLCによって分画する。
【0007】
本発明に係る新規なワカメペプチドの製法において用いる褐藻類としては、本発明の目的を達成できる限りいかなる褐藻類を用いても良いが、好ましくはワカメを用いるのが良い。以上のようにして得られた本発明に係る新規なワカメペプチドは、静脈内へ繰り返し投与を行った場合、抗体産生を惹起せず、アナフィラキシーショックを起こさせない。又、本発明に係る新規なワカメペプチドはL−アミノ酸のみの配列構造からなり、投与後、生体内のプロテアーゼにより徐々に分解される為、毒性は極めて低く、安全性は極めて高い(LD50>5000mg/kg;ラット経口投与)。新規なワカメペプチドは、通常用いられる賦形剤等の添加物を用いて注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等に調製することができる。投与方法としては、通常は、ACEを有している哺乳類(例えば、ヒト、イヌ、ラット等)に注射すること、あるいは経口投与することがあげられる。投与量は、例えば、動物体1kg当りこの新規なワカメペプチドを0.01〜10mgの量である。投与回数は、通常1日1〜4回程度であるが、投与経路によって、適宜、調製することができる。
【0008】
上記の各種製剤において用いられる賦形剤、結合剤、潤沢剤の種類は、特に限定されず、通常の注射剤、散剤、顆粒剤、錠剤あるいはカプセル剤に用いられるものを使用することができる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤に用いる添加物としては、下記のものをあげることができる。賦形剤としては、結晶セルロース等の糖類、マンニトール等の糖アルコール類、デンプン類、無水リン酸カルシウム等;結合剤としては澱粉類、ヒドロキシプロピルメチルセルローズ等;崩壊剤としてはカルボキシメチルセルロース及びそのカリウム塩類;潤滑剤としてはステアリン酸及びその塩類、タルク、ワックス類を挙げることができる。又、製剤の調整にあたっては必要に応じメントール、クエン酸及びその塩類、香料等の矯臭剤を用いることができる。注射用の無菌組成物は、常法により、新規なワカメペプチドを、注射用水、生理食塩水及びキシリトールやマンニトール等の糖アルコール注射液、プロピレングリコールやポリエチレングリコール等のグリコールに溶解又は懸濁させて注射剤とすることができる。この際、緩衝液、防腐剤、酸化防止剤等を必要に応じて添加することができる。新規なワカメペプチドを含有する製剤は凍結乾燥品又は乾燥粉末の形とし、用時、通常の溶解剤、例えば水又は生理食塩液に溶解して用いることもできる。
【0009】
本発明に係る新規なワカメペプチドは優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有し、血圧降下作用、ブラジキニン不活化抑制作用を示す。従って、本態性高血圧、腎性高血圧、副腎性高血圧等の高血圧症の予防、治療剤、これらうっ血性心不全に対する臓器循環の正常化と長期予後の改善(延命効果)作用を有し、心不全の治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態・実施例】
【0010】
本発明に係る新規なワカメペプチドは、L−チロシル−L−プロリンで示されるジペプチド構造を有し、常温における性状は白色の粉末である。以下に実施例として、製造例及び試験例を記載し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0011】
製造例1
徳島県鳴門市大毛島地区において、1998年1月から6月にかけて採集した天然産ワカメを十分洗浄して供試料とした。採集されたワカメ葉状部2.4kgを細かく刻み、0.5Mトリス塩酸緩衝液(pH7.9)24Lを加え攪拌(37℃、36時間)後、グラスフィルター(G−3)で吸引ろ過した。ろ過したペースト液を廃棄し、得られた沈殿物に脱イオン水を加えてホモジナイズ後、凍結乾燥してワカメ由来のたんぱく質とした。このワカメ由来のたんぱく質粉末の一般分析の結果は、水分2.8g/100g、たんぱく質74.1g/100g、脂質2.1g/100g、糖質10.4g/100g、繊維9.1g/100g、灰分1.5g/100gであった。上記調製したワカメ由来のたんぱく質粉末10gに脱イオン水250mLを加えて作成したたんぱく質液に、天野製薬製プロテアーゼSアマノあるいはプロレザーFG−1各々300mg添加後、プロテアーゼSアマノ添加たんぱく質液のpHを8.0に、又、プロレザーFG−1添加たんぱく質液のpHを10.0に調整後、65℃で5時間撹拌しながら酵素分解を行った。各々分解反応液を直ちに限外濾過膜(アミコン社製、YM10型;分画分子量約1万)に通過させた通過液を、Dowex50W×4[H]カラム(φ4.0×55cm)に加えた。そのカラムを脱イオン水で十分洗滌した後、2規定のアンモニウム水2Lを用いて溶出した。減圧濃縮によりアンモニアを除去した後、濃縮液を予め脱イオン水で緩衝化したSephadexG−25(φ1.6×113cm)に負荷し、流速12mL/hr、各分画量5.7mLでゲル濾過を行った。ゲル濾過クロマトグラフィー後、ACE阻害活性の高い画分を集め減圧濃縮後、予め、脱イオン水で緩衝化したSP−SephadexC−25[H]カラム(φ1.8×40cm)に負荷し、脱イオン水500mLから1.5%塩化ナトリウム500mLの濃度勾配法を行い、流速70mL/hr、各分画量10mLでクロマトグラフィーを行った。クロマトグラフィー後、ACE阻害活性の高かった画分を集めて凍結乾燥して精製ペプチド粉末を得た。この精製ペプチド粉末20mgを60μLの脱イオン水に溶解した後、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する)を行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min、検出波長220nmでHPLCを行い、プロテアーゼSアマノ添加たんぱく質液由来のペプチドフラグメントとして溶出時間61.1分に、又、プロレザーFG−1添加たんぱく質液由来のペプチドフラグメントとして溶出時間83.3分に、各々ACE阻害活性の高いペプチドフラグメントを得た。このようにして得られたACE阻害作用を有するペプチドのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステ厶(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、プロテアーゼSアマノ添加たんぱく質液由来のペプチドフラグメント並びにプロレザーFG−1添加たんぱく質液由来のペプチドフラグメント共々、L−チロシル−L−プロリンで示されるジペプチド構造を有するワカメペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
尚、本発明に係るジペプチドすなわち新規なワカメペプチドをACE阻害剤として、例えば錠剤に製剤する場合には、常法に従って、例えば次のように処理すればよい:▲1▼ワカメペプチド11g、▲2▼乳糖67g、▲3▼コーンスターチ38g、▲4▼ステアリン酸マグネシウム1.3gを原料とし、先ず▲1▼、▲2▼及び21gのコーンスターチを混和し、12gのコーンスターチから作ったペーストとともに顆粒化し、この顆粒に8gのコーンスターチと▲4▼とを加え、得られた混合物を圧縮錠剤機で打錠し、錠剤1000個を製造する。
【0012】
製造例2
本例は、合成法による製造例である。
L−チロル−L−プロリンの合成法
アプライドバイオシステム社製のペプチド自動合成装置430A型を用いた固相法によって当該ジペプチドを合成した。固相担体としては、スチレンジビニルベンゼン共重合体(ポリスチレン樹脂)をクロロメチル化した樹脂を使用した。まず、当該ジペプチドのアミノ酸配列に従って、常法どおり、そのC末端側のからプロリンからクロロメチル樹脂に反応させペプチド結合樹脂を得た。この時のアミノ酸は、t−ブトキシカルボニル(以下、t−Bocと略記する)基で保護されたt−Bocアミノ酸を使用した。次にこのペプチド結合樹脂をエタンジチオールとチオアニソールからなる混合液に懸濁し、室温で10分間撹拌後、氷冷下でトリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)を加え、更に10分間撹拌した。この混合液にトリフルオロメタンスルホン酸を滴下し、室温で30分間撹拌した後、無水エーテルを加えてその生成物を沈澱させて分離し、その沈澱物を無水エーテルで数回洗浄した後、減圧下で乾燥した。このようにして得られた未精製の合成ペプチドは蒸留水又はメタノールに溶解した後、逆相系のカラムC18(5μm)を用いたHPLCにより精製した。移動相として(A)0.1%TFA含有蒸留水、(B)0.1%TFA含有アセトニトリル溶液を使用し、(A)液が67分間で81%→65%の濃度勾配法により流速1.6mL/minでクロマトグラフィーを行った。紫外部波長2000nmで検出し、最大の吸収を示した溶出画分を分取し、これを凍結乾燥することによって目的とする合成ジペプチドを得た。
【0013】
この合成ジペプチドをマススペクトル分析、アミノ酸分析及びアミノ酸配列決定機で、アミノ酸組成がL−チロシル−L−プロリンで示されるジペプチド構造を有するワカメペプチドであることが確認された。合成によって得られた本発明係るジペプチドすなわち新規なワカメペプチドは、以下に示す試験によって薬理効果が確認された。
【0014】
試験例1
アンジオテンシン変換酵素阻害活性測定法:ACE(シグマ社製、酵素番号EC3.4.15.1)2.5mU、合成基質Hippuryl−L−histidyl−L−leucine(ペプチド研究所製)12.5mMを用いLiebermanの測定法を改良した山本等の方法[非特許文献9]に準じて測定した。すなわち、生成した馬尿酸を酢酸エチルにて抽出し225nmの吸光度で測定した。被検液での吸光度をEs、被検液の代わりに緩衝液を加えた時の値をEc、予め反応停止液を加えて反応させた時の値をEbとして次式から阻害率(%)を求めた。
阻害率(%)=(Ec−Es)/(Ec−Eb)×100
ACE阻害剤の阻害活性IC50値は、ACEの酵素活性を50%阻害するために必要な試料の濃度(M)で示した。本発明に係るジペプチド;L−チロシル−L−プロリンの牛肺血清のアンジオテンシン変換酵素に対する阻害活性(IC50値)は0.87μMと極めて高いものであった。
【0015】
試験例2
高血圧自然発症ラットへ投与時の降圧効果:実験動物は日本チャールズ・リバー社より15週齢雄性高血圧自然発症ラット(以下、SHRと略記する。)を購入し、1週間の予備飼育後、収縮期血圧が160mmHg以上(体重280〜330g)の動物3匹1群として用いた。ラットは、室温23±2℃、湿度55±10%及び12時間明暗(午前6時〜午後6時点灯)に調整された飼育室でステンレスワイヤー製ラット用個別ゲージに1匹ずつ収容し飼育した。飼料はオリエンタル酵母社製MF粉末飼料を、飲水は自家揚水(水道水質基準適合)をそれぞれ自由に摂取させた。血圧は非観血的尾動脈血圧測定装置(理研開発社製、PS−100型)を用いtail−cuff法により、投与前を0時間とし、投与後27時間までと、投与後9週目までの期間で、SHR尾動脈の収縮期血圧(mmHg、上値)、平均血圧(mmHg)及び拡張期血圧(mmHg、下値)の測定を一定時間毎に各5回づつ行い、得られた測定値の最高値と最低値を棄却し、3回の平均値をもって各時間の測定値とした。本発明に係る合成L−チロシル−L−プロリン10mg/kgをSHRに27時間まで経口投与した時の各血圧値(mmHg)についての結果は、表1に示すとおりである。
【表1】


又、本発明に係る合成ジペプチド;L−チロシル−L−プロリン10mg/kgをSHRに9週間まで経口投与した時の各血圧値(mmHg)についての結果は、表2に示すとおりである。
【表2】


これらの試験の結果、本発明係るジペプチドすなわち新規なワカメペプチドは、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有し、in vivo(生体内)においても有意な血圧降下作用を示すことが確認された。従って、本発明係るジペプチドすなわち新規なワカメペプチドは高血圧症の治療又は予防薬として有用である。尚、本発明係るジペプチドすなわちL−チロシル−L−プロリンは、構造的にそのアミノ酸配列を部分構造とするペプチドにおいて、構造中に採用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式;L−チロシル−L−プロリン
で示されるジペプチド構造を有する新規なワカメペプチド。
【請求項2】
次式;L−チロシル−L−プロリン
で示されるジペプチド構造を有する新規なワカメペプチドを有効成分として含有することを特徴とする血圧降下剤。

【公開番号】特開2007−182415(P2007−182415A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27643(P2006−27643)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(505447157)
【Fターム(参考)】