説明

新規な胚様体(EB)の調製方法およびその使用

多分化能性または多能性細胞から胚様体(EB)を作製する手段および方法を提供する。特に、胚様体(EB)を作製する方法は、多分化能性または多能性細胞の培養物懸濁液を、細胞凝集物が生成されるまで容器中で攪拌すること、任意に、該懸濁液を希釈すること、さらにEBが形成されるまで懸濁液を撹拌すること、を含むことが記載されている。また、本発明は、新規な培養方法およびそれによって得られたEBの、ゲノム科学、診断的アッセイ、催奇性/胎児性の毒性薬理学および薬理学的アッセイ、ならびに組織移植片の供給といった種々の用途での使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多分化能性または多能性細胞から胚様体(EB)を作製する方法に関する。特に、本発明は、細胞凝集物が作製されるまで、容器中で多分化能性または多能性細胞の培養物懸濁液を撹拌すること、任意のステップとして懸濁液を任意に希釈すること、及びEBが形成されるまで懸濁液をさらに撹拌することを含む胚様体(EB)を作製する方法に関する。さらに本発明は、その方法および、限定されないが、特異的な遺伝子のホモ接合性突然変異を含むES細胞を用いた「機能損失」アッセイ、外来遺伝子を過剰発現する胚性幹(ES)細胞を用いた「機能の取得」アッセイ、in vitroでの催奇性/胎児毒性化合物の発生分析、薬理学的アッセイおよび病理学的細胞機能のためのモデル系の確立を含めた種々の用途、ならびに組織移植片のソースとして使用され得る、選択的に分化した細胞を誘導するための分化および成長因子の用途のために、取得されたEBの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
前駆細胞は、医学研究の中心的な関心となってきている。一方で、前駆物質は、傷害または疾患によって老化または損傷した細胞に取って代わることができ、また、他方で、これらの細胞は、発生と分化およびこれらのプロセスに影響を及ぼす要因を研究するための理想的なモデルを提供するものである。これらの研究に従来の細胞株を用いることは、個別の細胞株がインタクトな生物体の複雑な生物学的性質を完全に表すことができないかもしれないという点で不利である。さらに、多数の細胞株において試験を繰り返しても、生物体で起こる細胞および組織の複雑な相互作用を再現も説明もしない。
【0003】
胎児毒性および突然変異誘発性物質を検出するため、ならびに組織移植片を調製するために、全能性/多能性胚性幹(ES)細胞の持続的な培養を採用するための努力が数年間なされている。ES細胞は、胚様凝集物、いわゆる、胚様体(EB)、3つ全ての胚葉、すなわち、中胚葉、外胚葉および内胚葉の誘導体中で分化することができる。そのため、胚様体は、催奇性/胎児毒性学的研究のため、ならびに損傷した臓器、例えば、梗塞の認められる心臓を治療するための組織片の前駆物質として、要因を促進する細胞タイプおよび組織を同定するために特に好適である。EBを作製するためのいくつかのプロトコルについて記載がある。
【0004】
例えば、国際公開公報第02/051987号は、好ましくは「ハンギングドロップ」方法またはメチルセルロース培地を用いて製造が行われる、胚様体を得るためのプロトコルを記載している(Wobusら、Differentiation 48(1991)、172-182)。
【0005】
この別法として、培養方法として、撹拌フラスコ(撹拌培養)が記載されている。したがって、未分化のES細胞を撹拌培養に導入し、確立した処置にしたがって、持続的に混合する。したがって、1000万個のES細胞を20%FCSを含む150mlの培地に導入し、20rpmの速度で一定に撹拌する。そこで、攪拌運動の方向を定期的に変化させる。ES細胞導入の24時間後、血清を含む100mlの培地を追加し、引き続き、100〜150mlの培地を毎日交換する(Wartenbergら、FASEB J. 15(2001)、995-1005)。これらの培養条件のもとで、大量の、ES細胞に由来する細胞、すなわち、培地の組成によって、心筋細胞、内皮細胞、神経細胞等を得ることができる。 細胞は、引き続き攪拌培養中または、平板培養後のそれぞれのいずれかに、耐性遺伝子によって選択される。近年、国際公開公報第03/004626号は、多数の胚性幹(ES)細胞由来の組織を作製する方法を記載している。そこでは、指標となるデザイン(guiding design)は、個別の、または多数のES細胞を、例えば、アガロース微小滴の形状でカプセル化することによって、EBの凝集を阻止している。この測定を用いて、いわゆるカプセル化された攪拌培養物において、高EB効率が報告されている。しかしながら、こういった方法は全て厄介であり、及び/又は、例えば、ハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイに適する十分な量の胚様体を提供しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、十分な量および質でEBを提供することができる、確実で、容易でかつ費用効率がよい方法が必要である。この技術的に問題に対する解決策は、請求項にその特徴を述べた態様を提供することによって達成される。それを以下にさらに説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[発明の概要]
本発明は、多分化能性または多能性細胞から胚様体(EB)を作製する方法であって、
(a)細胞凝集物が生成されるまで、多分化能性または多能性細胞の培養物懸濁液を、約0.1〜5×10細胞/mlの濃度で容器中で撹拌すること、および
(b)任意のステップとして懸濁液を希釈すること、及びEBが形成されるまで懸濁液をさらに撹拌することを含む、方法に関する。
【0008】
本発明はまた、本発明の記載された方法によって得られた胚様体、ならびにそのような胚様体に由来する分化した細胞または組織、特に心筋細胞に関する。
【0009】
さらに、本発明は、特異的な遺伝子の「機能損失」アッセイ、外来遺伝子の「機能の取得」アッセイ、催奇性/胎児毒性化合物の発生分析、薬理学的アッセイ、マイクロアレイ系、および病理学的細胞機能のためのモデル系の確立、ならびに選択的分化した細胞を誘導するための分化および成長因子の用途または組織移植片のソースとしての本発明の方法、胚様体、細胞および組織の使用に関する。
【0010】
さらに、本発明は、本発明の方法において使用されるキットであって、培地成分、選択可能なマーカー、参照サンプル、マイクロアレイ、ベクター、プローブ、容器、多分化能性または多能性細胞を含むキットに関する。
【0011】
さらに、本発明は、本発明の方法のための、細胞容器、細胞を攪拌及び/又は培養するための装置、培地およびその成分、多分化能性または多能性細胞、ベクターおよびマイクロアレイの使用に関する。
【0012】
特に、本発明は、細胞の特定の細胞タイプへの分化に影響を及ぼす物質を同定するための試験システムに関する。したがって、本発明は、細胞分化の修飾物質を取得し、及び/又はプロファイリングする方法を提供する。この方法は、本発明の方法によって得たEBを含有する試験サンプルを試験されるべき物質と接触させること、次いで試験物質がEBまたはレポーター遺伝子生成物の量に及ぼす影響または対照サンプルと比較した活性を測定することを含む。EB作製および本発明によって提供される試験システムは、薬物スクリーニングの目的のために有用である。
【0013】
本発明の他の実施態様を以下の説明において明らかにする。
【0014】
[定義]
本明細書の目的において、用語「幹細胞」は、幹細胞または生殖細胞(例としては、それぞれ胚性幹(ES)および生殖(EG)細胞が挙げられる)のいずれかを言う。最低限、幹細胞は、複数の異なる表現型の細胞を増殖および形成させることができ、および同じ培養の一部として、あるいは異なる条件下で培養したとき、自己複製することもできる。胚性幹細胞はまた、典型的にテロメラーゼ陽性およびOCT−4陽性である。テロメラーゼ活性は、TRAP活性アッセイによって(Kimら、Science 266(1997)、2011)、市販のキット(TRAPeze(登録商標) XK Telomerase Detection Kit、Cat. s7707;Intergen Co., Purchase N.Y.;もしくはTeloTAGGG(登録商標) Telomerase PCR ELISAplus, Cat. 2,013,89;Roche Diagnostics, Indianapolis)を用いて決定することができる。hTERT発現はまた、RT−PCRによって、mRNAレベルで評価することもできる。LightCycler TeloTAGGG(登録商標)hTERT定量キット(Cat. 3,012,344; Roche Diagnostics)は、研究目的のために市販されている。
【0015】
本発明によれば、用語「胚性幹(ES)細胞」は、受精後のあらゆる時期における、胚の前段階、胚性、または胎児性の組織に由来する多分化能性の幹細胞または多能性の幹細胞を含み、標準的な技術的に可能な試験によって、3つの胚の層(内胚葉、中胚葉および外胚葉)の全ての誘導体であるいくつかの異なる細胞タイプの子孫を作製する適切な条件下で生存することができる特性、例えば、8〜12週齢のSCIDマウスにおいてテラトーマを形成することができる能力などを有している。
【0016】
「胚性生殖細胞」即ち「EG細胞」は、始原的な生殖細胞に由来する細胞である。用語「胚性生殖細胞」は、胚性多能性細胞表現型を示す、本発明の細胞を説明するために用いられる。用語「ヒト胚性生殖細胞(EG)」または「胚性生殖細胞」は、本明細書においては互換可能に使用することができ、本明細書において定義されている多能性の胚性幹細胞表現型を表す本発明の哺乳動物、特にヒト細胞またはその細胞株を説明している。したがって、EG細胞は、外胚葉、内胚葉および中胚葉の細胞への分化が可能である。EG細胞はまた、特定の抗体の結合によって同定される特異的なエピトープ部位に関連するマーカーの有無、および特定の抗体の結合の欠如によって同定される特定のマーカーの不存在によって特徴付けることもできる。
【0017】
「多能性」は、生殖細胞株を含めた広範囲の細胞系列に分化する発生的な可能性を保持する細胞を言う。用語「胚性幹細胞表現型」および「胚性幹様細胞」もまた未分化の、したがって多能性細胞である細胞を説明するために本明細書において互換可能に用いることもできる。
【0018】
ES細胞の定義には、種々のタイプの胚性細胞が含まれる。例えば、Thomson et al. (Science 282(1998)、1145)によって記載されているヒト胚性幹細胞;アカゲザル幹細胞などの他の霊長類からの胚性幹細胞(Thomson et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995)、7844)、マモセット幹細胞(Thomson et al.、Biol. Reprod. 55 (1996)、254)およびヒト胚性生殖(hEG)細胞(Shamblott et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998)、13726)が挙げられる。他のタイプの多能性細胞もこの用語に含まれる。胚性組織、胎児性組織または他のソースのいずれから誘導されるかに関わらず、3つの胚の層の誘導体である子孫を作製することが可能な、哺乳動物由来のあらゆる細胞が含まれる。本発明における幹細胞は、好ましくは(必ずしも限定されるわけではないが)核型正常である。しかしながら、悪性ソースに由来するES細胞を使用することは好ましくない。
【0019】
「フィーダー細胞」または「フィーダー」は、別のタイプの細胞と共培養され、第二のタイプの細胞が成長することができる環境を提供する1つのタイプの細胞を表す言葉である。フィーダー細胞は、任意に、それを支持している細胞のような、異なる種から得られる。例えば、特定のタイプのES細胞は、第1のマウス胚性線維芽細胞、固定化マウス胚性線維芽細胞(例えば、マウスSTO細胞、例えば、MartinとEvans、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72(1975)、1441-1445)、またはヒトES細胞から分化したヒト線維芽細胞様細胞によって支持され得る。本開示の後半に記載している。用語「STO細胞」は、例えば、胚性線維芽細胞マウス細胞は、市販されており、ATCC CRL 1503として寄託されているものを含む。
【0020】
用語「胚様体(EB)」は、「凝集体」と同義の語である。この用語は、ES細胞が単層の培養物中で過成長した時、または懸濁培養物中に維持されている時に表れる分化した細胞または未分化の細胞の凝集物を言う。胚様体は、形態学的基準によって区別可能な異なる細胞タイプ、典型的には複数の胚葉の混合物である。下記も参照されたい。本明細書に記載されている「胚様体」、「EB」または「EB細胞」は典型的に、その大半が分化した胚性幹(ES)細胞である細胞集団からなる形態学的な構造を言う。EBを形成するのに好適な培養条件の下で(例えば、白血病抑制因子または他の類似の阻害因子の除去)、ES細胞は、増殖し、分化を開始する細胞の小塊を形成する。分化の最初の段階においては、通常、ヒトの分化の約1〜4日に対応して、細胞の小塊が内胚葉細胞を外層上に形成する。それは、「単純な胚様体」であると考えられる。第二の段階では、通常、ヒトの分化の約3〜20日に対応して、「複雑な胚様体」が形成される。それは、外胚葉および中胚葉細胞ならびに誘導体組織の広範囲の分化によって特徴づけられる。本明細書に記載されているところの「胚様体」または「EB」は、文脈において特に必要がない場合、単純な及び複雑な胚様体の双方を包含する。ES細胞の培養物中で、いつ胚様体が形成されたかの決定は、当業者によって、例えば、形態学の目視検査などによってルーチンになされる。約20以上の細胞の浮遊塊が胚様体であると考えられる。例えば、Schmitt et al.、Genes Dev. 5 (1991)、728-740; Doetschman et al. J. Embryol. Exp. Morph. 87(1985)、27-45を参照されたい。本明細書において用いられているところの用語「胚様体」、「EB」または「EB細胞」は、その大半が、適切な条件下で培養されたとき、異なる細胞系列へ発育することが可能な多能性細胞である細胞集団を含む。本明細書において用いられている用語はまた、始原的な生殖細胞に由来する等価の構造を言う。それは、胚性の性腺領域から抽出された始原的な細胞である。例えば、Shamblott, et al.(1998)前掲の文献を参照されたい。始原的な生殖細胞はまた、当該技術分野において、EG細胞または胚性生殖細胞と言われることもあるものであるが、適切な因子で処理されたとき、胚様体が由来し得る多能性のES細胞によって処理される。例えば、米国特許第5,670,372号、Shamblottらの前掲の文献を参照されたい。
【0021】
他に記載がなければ、用語「化合物」、「物質」および「(化学的)組成物」は、互換可能に用いられ、限定されないが、治療薬(または潜在的治療薬)、神経毒、肝臓毒、発癌性物質、造血細胞の毒素、 筋毒素、テトラゲン、または1以上の生殖系臓器の毒素などの公知の毒性を持つ作用物質が含まれる。化学組成物はさらに、殺虫剤、防かび剤、殺線虫剤および肥料などの農薬、いわゆる「コスメシューティカル」を含む化粧品、産業廃棄物もしくは副産物、または環境汚染物質が上げられる。それらはまた、動物治療薬または潜在的な動物治療薬とすることもできる。
【0022】
本発明の方法を用いて試験することができる試験物質は、あらゆる種類の化学物質、例えば、織物原料化学物質、実験室化学物質、産業化学物質、医学的化学物質、印刷用化学物質、皮革化学物質、特に、ブリーチ、トイレ洗浄剤、ブロッククリーナー、皿洗い用洗剤、粉末および液体石鹸、織物コンディショナー、窓用洗剤、オーブン用洗剤、浴室用洗剤、キッチンクリーナーおよびカーペットクリーナー、皿洗い液およびすすぎ補助剤、水軟化物質、錆落とし剤、染み取り剤、艶出し剤、塗料、塗料除去剤、潤滑剤、染料、コーティング剤、粘着剤、溶媒、ワニス、空気清浄剤、モスボール殺虫剤などを含む家庭用品を含む。
【0023】
家庭用品の新たな成分を常に開発し、試験する必要がある。例えば、近年、(しみを消化するための)新たな酵素および「光学的光沢剤」(洗濯物をより白くする)が粉末および液体洗剤において使用するために開発された。新たな界面活性剤(油を切り崩し、こびりついた汚れを除去する)および化学的「混和剤」(水軟化剤として作用し、界面活性剤がより効果的に作用するようにする)が粉末および液体洗剤、食器洗浄液および種々の洗浄物質において使用するために開発されている。しかし、医学的物質、例えば、新たなフィリングポリマー、金属合金およびバイオアクティヴ・セラミックスなどの歯科材料も試験されなければならない。さらに、装置のあらゆる部分の化学組成物、例えば、電極、接着剤、ペースト、異なる濃度の成分を含むゲルまたはクリームおよび存在する不純物を本発明の方法によって試験してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
種々の幹細胞は、再生医療において注目されている。それらは、培養物中で増殖し、その後、in vitroまたはin situで必要な細胞タイプに分化することが可能である。この柔軟性ゆえに、毒性テストの非常に理想的なモデルとなっている。特に、互いに相互作用する3つの胚葉の異なる細胞タイプからなる胚様体(EB)は、非常に感受性の高い試験システムを提供する。ある態様において、胚様体内の細胞は、それらの分化において実質的に同時発生する。したがって、既知の間隔で、同時発生した多数の細胞が3つの胚性胚葉に分化し、さらに、軟骨、骨、平滑筋および横紋筋、胚性神経節を含む神経組織などの多数の組織タイプに分化する。こうして、胚様体内の細胞は、 従来の単細胞もしくは酵母アッセイよりも生物個体の複雑さにより近いモデルを提供しながら、尚、コストを抑え、マウスやより大きな哺乳動物の使用に関する困難を回避するものである。さらに近年、ヒト胚様体が使用可能になったことにより、ヒト臓器系およびヒトにおける毒性をモデル化するためのさらに近い媒体を提供することによって、本発明の予測可能な能力が高められている。したがって、十分な量のEBを経済的な方法で提供することが本発明の目的である。
【0025】
したがって、本発明は、多分化能性または多能性細胞から胚様体(EB)を作製する方法であって、(a)細胞凝集物が生成されるまで、多分化能性または多能性細胞の培養物懸濁液を容器中で撹拌すること、および(b)任意のステップとして前記懸濁液を希釈すること、及びEBが形成されるまで前記懸濁液をさらに撹拌することを含む方法に関する。
【0026】
本発明は、選択の方法として前記したように、EB攪拌法やハンギングドロップ培養法よりむしろ攪拌技術に基づいている。
【0027】
本発明によれば、胚性幹(ES)細胞凝集物、いわゆる胚様体(EB)を大量かつ高密度に生成することができ、その後、心筋細胞、神経細胞、内皮細胞などの特定の細胞タイプおよび組織に分化するよう誘導され得る。本発明は、適切な容器で特定の量および濃度のES細胞を攪拌することは、例えば、ES細胞凝集物、特に胚様体を調製するための攪拌培養方法よりも優れているという観察に基いている。こうして、従来の培養システムに記載の方法とは対照的に、EBを高密度に生成することができる培養方法であって、心筋細胞、神経細胞、内皮細胞、肝臓細胞などの異なる細胞タイプへの分化能に否定的な影響を及ぼさない培養システムを確立することができるであろう。さらに他の方法と比較して、本発明の方法は、例えば、攪拌されたバイオリアクターの醗酵槽のような高性能の機器も、国際公開第03/004626号に記載のカプセル化の方法のような時間と労力のかかる細胞調製も必要でない。したがって、本発明の利点は、大量の高品質のEBを簡易で安価な方法で生成することである。それは薬物発見におけるハイスループットスクリーニング のような大規模な試験処置に好適な方法となる。
【0028】
本発明の方法によれば、細胞凝集物を以前の方法に比べて大量かつ高密度で培養することができるので、従来の方法に比べて胚様体の収率をかなり高めることができる。本発明の方法はまた、治療的用途として十分な量の組織を生成することができ、標的組織を国際公開公報第02/051987号に記載されているような常法によって精製することができる。したがって、本発明の方法は、胚様体を調製するための従来技術の調製方法と比較していくつかの利点を有している。
【0029】
第1に、胚様体、したがって、あらゆる所望の前駆物質および細胞タイプを大量かつ高密度で提供し、産業規模での化合物のスクリーニングを可能にする。
【0030】
第2に、本発明の方法は、例えば、ハンギングドロップ培養法とは対照的にかなり容易に行える。これによれば、本発明の方法は、従来の方法に比べてより確実で再現性が高い。
【0031】
第3に、本発明の方法による胚様体の大規模な生成方法にかかる操作費用も他の醗酵槽培養と比較してかなり安い。
【0032】
第4に、撹拌フラスコでの培養と比較して、本発明の方法においては、ES細胞は、せん断応力にさらされることが少ないため、細胞が適切な方法で分化する能力が悪影響を受けることがない。
【0033】
第5に、例えば、毒物学的および薬理学的研究のため、および移植を目的とした組織の生成のために、個別の条件(「バッチ」)の下で大量のES細胞凝集物およびそれに由来する組織をそれぞれ調製することが重要である。
【0034】
実施例および図面において説明しているように、本発明の方法は、概ね以下のように記載される。
【0035】
1.フィーダー細胞、例えば、マウス胚性線維芽細胞上でES細胞を任意に従来のように培養する;
2.所望の試験または分化処置に関して、図1に示すように、2つの異なるプロトコル(高密度細胞懸濁および低濃度細胞懸濁)が可能である;
3.高密度の細胞懸濁液からのEB生成(プロトコル1):約1〜5×10ES細胞/ml、好ましくは、1.5〜2.5×10ES細胞/ml、最も好ましくは、約2×10ES細胞/mlの密度の細胞懸濁液を調製し、ペトリ皿などの適切な容器に移す;
4.細胞凝集物が生成されるまで、約6時間、約50rpmで振動台上で懸濁液を攪拌する;
5.懸濁液を1:10または1:20に希釈し、好ましくはT25フラスコなどの適切な第二の容器に移す;
6.懸濁液を振動台上で約12〜18時間、好ましくは合計(ステップ(a)および(b))で16〜20時間、最も好ましくは18時間、攪拌する;任意に、
7.細胞凝集物を所望の最終濃度に分割する:試験化合物に添加する(任意);
8.低密度の細胞懸濁液からのEB生成(プロトコル2):約0.1〜0.5×10ES細胞/ml、最も好ましくは、0.2×10ES細胞/mlの密度の細胞懸濁液を調製し、ペトリ皿などの適切な容器に移す;
9.細胞凝集物が生成されるまで、約48時間、約50rpmで振動台上で懸濁液を攪拌する;
10.懸濁液を、ペトリ皿などの適切な容器中で所望の最終濃度、好ましくは100〜2000EB/10mlの濃度に希釈する;
11.懸濁中、またはコラーゲンを塗布した細胞培養皿などの適切な表面に細胞を播いた後、細胞を所望の組織に分化させる;任意に、
12.好ましくは、耐性マーカーの助けを借りて、所望の、分化した細胞タイプおよび組織の選択、例えば、ピューロマイシン選択を行う;そして任意に、
13.胚様体、細胞または組織を、実施例に記載したように、心臓毒性アッセイまたは移植などの治療のための種々の、in vitro試験において使用する。
【0036】
上記双方のプロトコルによって、最初のペトリ皿ごとに等量のEBが得られる。低密度法は、同じ量のES細胞の約10倍のEB細胞を生成するという利点があるが、EBは最初の48時間には生成されない。高密度プロトコルは、12〜18時間後には既に安定したEBを生成する利点があり、それは胚葉形成早期における胎児毒性試験や幹細胞の運命の操作などのいくつかの試験処置にとって重要である。
【0037】
したがって、上記および図1の説明から明らかなように、本発明の方法のステップ(b)の希釈ステップは、任意であり、最初のES細胞の濃度に依存する。したがって、最初の細胞密度が約1〜5×10ES細胞/mlであればプロトコル1が好ましく、一方、プロトコル2は、10ES細胞/ml以下の細胞密度のときに利用することが有利であろう。もちろん、当業者が認めるであろうように、0.5〜1×10ES細胞/mlの密度でプロトコル1あるいは2のいずれを使うかは、たいていの場合は、胚様体の意図された使用に基づいて、ケースバイケースで決めればよい。したがって、単回のEBスクリーニングの目的においては、プロトコル1の高密度細胞懸濁液を用いることが好ましい。一方、組織移植片の調製もしくは組織構造形成の研究などの他の目的においては、プロトコル2の低密度細胞懸濁液を用いることがより適切である。
【0038】
本発明は、あらゆる脊椎動物種の幹細胞を用いて行うことができる。ヒトならび非ヒト霊長類、家畜家禽、家畜および他の非ヒト哺乳動物の幹細胞が含まれる。本発明に好適な幹細胞には、妊娠後に形成される組織に由来する、胚盤胞などの霊長類の多能性幹細胞、または妊娠中の任意の時期に得られる、胎児性もしくは胚性組織がある。限定されないが、例として、初期培養または確立された胚性幹細胞系列が挙げられる。本発明はまた、成体幹細胞にも適用可能である。それについては、Andersonら、Nat. Med. 7 (2001)、393 395およびAndersonら、2001、Gage、F.H.、200、ならびにProckop、Science 276 (1997)、71-74の文献に記載があり、それらの細胞の抽出および培養について記載されている。したがって、本発明の方法に従って用いられる前記多分化能性または多能性細胞は、通常、胚性幹(ES)細胞、始原的な生殖(EG)細胞、または成体幹細胞、最も好ましくは、ES細胞である。
【0039】
前述したように、ES細胞のいくつかのソースは、当業者が利用できるものであるが、そのうちヒト幹細胞は、本発明の態様の大半にとって、特に移植などの治療目的のために好ましいものである。ヒト胚性幹細胞および、異なる細胞および組織タイプを調製するためのそれらの使用についてもReprod. Biomed. Online 4 (2002)、58-63に記載がある。胚性幹細胞は、霊長類種のメンバーの胚盤胞から単離することができる(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92(1995)、7844)。ヒト胚性生殖(EG)細胞は、最終月経期の約8〜11週間後にヒト胎児の物質に存在する始原的な生殖細胞から調製することができる。好適な調製方法がShamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95(1998)、13726に記載されている。形態学的に胚性幹細胞または胚性生殖細胞に類似する細胞を作製する方法、および始原的な生殖細胞に由来する多能性がヒト胎児の性腺の隆線などのヒト胚性組織から単離される。これは米国特許第A−6,245,566号に記載がある。
【0040】
近年、比較的入手しやすい組織である剥離ヒト脱落歯が、神経細胞、脂肪細胞、象牙芽細胞などの種々の細胞タイプに分化することが可能な高度に増殖性があるクローン形成性細胞の集団として同定された多能性幹細胞を含有することが報告されている。Miuraら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(2003)、5807-5812を参照されたい。in vivo移植後、こうした細胞は、神経マーカーとともに骨形成、象牙質生成、およびマウス脳での生存を誘導することができることがわかった。さらに、分裂中期II卵母細胞に由来するホモ接合性の幹細胞の多系列の可能性についてLinらがStem Cells 21(2003)、152-161の中で記載している。生後筋中の種々の前駆細胞のソースおよび新たな骨格および心筋のin vivoでの生成における幹細胞の関与を高め得る要因について、Groundsら、J. Histochem. Cytochem. 50(2002)、589-610に概説されている。希少な造血幹細胞(HSC)を均質に精製して骨髄に返すことが米国特許第2003/0032185号に記載されている。肝臓、肺、消化管および皮膚の上皮に分化することも可能であることから、これらの成体骨髄細胞は大きな分化能を有することが記載されている。この所見は、遺伝子疾患の臨床治療または組織修復に貢献するかもしれない。さらに、胎芽再構築のための核移植のような手技を採用することができる。そこでは、複相体ドナー核が除核細胞MII卵母細胞へ移植される。レシピエントのそれらと遺伝子的に一致するカスタマイズした胚性幹(ES)細胞株の確立を援助する他の処置と組み合わせたこの技法についてColmanとKind, Trends Biotechnol. 18 (2000)、192-196に概説されている。同系および自己細胞 移植における同種もしくは異種細胞に関連する移植片の拒絶を避けるために、レシピエントを本発明の対応する実施形態において使用することが好ましい。骨髄や歯などからの近年発見された幹細胞ソースを見れば、この需要は、胚性細胞および組織に頼ることなく、達成できるはずである。別法として、細胞を遺伝子的に操作して、関連移植抗原を抑制してもよい。前掲の文献を参照されたい。免疫抑制物質を使用することもできる。
【0041】
KiesslingとAnderson(Harvard Medical School)がヒト胚性幹細胞、科学および治療的可能性への導入(Human Embryonic Stem Cells: An Introduction to the Science and Therapeutic Potential);(2003) Jones and Bartlett Publishers;ISBN:076372341Xの中で幹細胞技術の分野を概説している。.
【0042】
少なくとも特定の状況においては妥当と思われるが、幹細胞のドナーとして、例えば、ヒト胚を使用しないでいいように、トランスジェニック非ヒト動物、特に、胚性幹細胞のソースとしての哺乳動物を使用することを可能にするかもしれない。例えば、異種移植のドナーとして使用するためのトランスジェニックブタを作製する組成物および方法が米国特許第A-5,523,226号に記載されている。同様に、国際公開公報第97/12035号は、ヒト患者へ異種移植するためのトランスジェニック動物の作製方法を記載している。さらに、ヒト患者への異種移植に好適な免疫学的に適合する動物組織が国際公開公報第01/88096号に記載されている。ブタから胚性生殖細胞を作製する方法は、例えば、米国特許第A−6,545,199号に記載されている。
【0043】
特に好ましい態様において、特にスクリーニングの目的のために、本発明によって用いられる幹細胞は、マウスES細胞株、例えば、Nagyら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993)、8424-8428によって記載されているR1細胞株(ATCC No.SCRC-1011)およびおよび細胞株D3に由来する。実施例1も参照されたい。
【0044】
幹細胞は、分化を促進せずに増殖を促進する培養条件の組み合わせを用いて、培養液中で継続的に増殖させることができる。従来、幹細胞は、フィーダー細胞、典型的に、しばしば胚性または胎児性の組織に由来する線維芽細胞タイプの細胞の層上で培養する。細胞株をほぼコンフルエントで播き、通常、増殖を阻害するために照射し、次いで特定の細胞によって条件付けられた培地(例えば、KoopmanとCotton, Exp. Cell 154 (1984)、233-242;SmithとHooper、Devel. Biol. 121(1987)、1-91)、または、白血病抑制因子 (LIF)を外来的に添加した培地中で培養する。そのような細胞は、適切な培養状件を用いて、比較的無限に増殖することが可能である。
【0045】
本発明の方法の好ましい態様において、ステップ(a)の前に細胞をマウス胚性線維芽細胞上で培養する。前掲の文献参照。
【0046】
原則的には、得られる細胞が所望の特徴を有する限り、本発明の方法には、従来のあらゆる培地、例えば、いくつかの異なる構造式のいずれかを有し得る幹細胞を単離し、増殖するための培地を用いることもでき、さらに増殖することができる。好適なソースとしては、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、Gibco, #12440-053;ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco #11965-092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco #10829-018; 200 mM L-glutamine, Gibco # 15039-027;非必須アミノ酸溶液、Gibco 11140-050;[ベータ]−メルカプトエタノール、Sigma # M7522;ヒト組換え塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、Gibco # 13256-029が含まれる。血清含有ES培地および幹細胞を培養する条件は公知であり、細胞タイプにしたがって適切に最適化することができる。特に、前述のセクションにおいて言及した細胞タイプのための培地および培養技術を本明細書において援用する。
【0047】
しかしながら、20%FCSのIMDMを5%COで使用することが好ましい。一方、20%FCSのDMEMを7%COで使用することも可能であるが、あまり好ましくない。したがって、本発明の特に好ましい態様においては、ステップ(a)及び/又はステップ(b)における培地は20%FCSのIMDMを5%COで使用することが好ましい。
【0048】
他の培養条件は、当業者に公知の常法にしたがって調整することができる。しかしながら、本発明の方法を実施することが特に好ましく、ステップ(a)及び/又は(b)、最も好ましくは双方のステップおよび培養時間が完了する間の培養条件は、37℃、湿度95%である。
【0049】
特に好ましい態様において、プロトコル1にしたがって本発明の方法を行うことが好ましい。そこでは、懸濁液をステップ(a)において約6時間及び/又はステップ(b)において合計約18時間培養する。最初の培養ステップの時間はより重要かもしれない。したがって、指示された時間の約6時間はできるだけ近似させなければならない。第二の培養ステップを含めた合計培養時間は、すなわち、ステップ(b)は、例えば、約16〜20時間の間で変化し得る。この後、均質の形状および大きさのES細胞凝集物(「胚様体」、EB)が、典型的には約500/mlの懸濁液として形成される。第1のプロトコルは、毒物学的な試験を連続的に行う場合、特に有利である。、ステップ(b)の培養時間の12〜18時間の後、細胞凝集物が新鮮で最も生存可能性が高いからである。所望の試験および分化処置に関しては、図1に記載のように2つの異なるプロトコル(高密度細胞懸濁液および低密度細胞懸濁液)が可能である。上記したように、開始細胞懸濁液の密度は、約1〜5×10ES細胞/mlが好ましく、約2×10ES細胞/mlが最も好ましい。
【0050】
しかしながら、本発明の方法のもう1つの、すなわち、プロトコル2による態様において、特定の目的のために、例えば、移植に有用な組織もしくは組織様構造を作製する目的のために、または、組織形成の研究のために、より低い密度である約10〜10、好ましくは約1〜5×10ES細胞/ml、最も好ましくは約2×10ES細胞/mlを使用することも可能である。この態様においては、ステップ(a)および(b)を組み合わせている。すなわち、希釈ステップがなく、EBが作製されるまで、細胞懸濁液の攪拌および培養を連続的なステップで行っている。ここでは本発明の方法による培養時間が長くなっている。通常合計36〜60時間、好ましくは約48時間(±1、2、3、4もしくは5時間、さらには1〜10時間、これらは必要に応じて実験的に決定すればよい)。
【0051】
もちろん、当業者は、多分化能性または多能性細胞の培養物懸濁液を使用し、細胞凝集物が生成されるまで、一定に、好ましくは水平に、決められた時間の間、攪拌し、細胞懸濁液を移すことを含むという本発明の主旨に沿って実施する限り、本発明の方法のための本明細書に記載の1以上のパラメーターを変えてもよい。
【0052】
ステップ(a)および(b)において用いられる容器は、細胞培養システムにおいて用いられる、あらゆる従来のタイプのものでよく、ガラスもしくは好ましくはプラスチックなどのあらゆる適切な材料から構成することができる。ステップ(a)における細胞懸濁液の培養については、ペトリ皿などの丸い容器が好ましい。理論に拘束されることを意図するわけではないが、本発明にしたがって行った実験においては、容器の形が、細胞および細胞凝集物の収率および状態のそれぞれに影響を及ぼすかもしれない。したがって、多分化能性または多能性細胞の培養物懸濁液の第1の培養ステップでは、ペトリ皿などの丸い容器が好ましいことがわかっている。この点に関して、高密度プロトコルに関しては、例えば、4mlの細胞懸濁液に対して6cm(直径)のペトリ皿の比率とすれば、良好な結果となることがわかった。低密度プロトコルに関しては、例えば、10mlの細胞懸濁液に対して10cm(直径)のペトリ皿の比率とすれば、良好な結果となることがわかった。したがって、ステップ(a)および任意にステップ(b)の容器は、好ましくは、対応する細胞懸濁液と容器の培養表面が実施例に記載のようになるように好ましく選択すべきである。
【0053】
同様に、高密度プロトコルのステップ(b)において、容器、例えば、培養フラスコは、好ましくは、T25フラスコについて、実施例において記載した寸法となるようにようにすべきである。さらに、本発明の方法において用いられる寸法にしたがって、撹拌率を対応して調節しなければならない。典型的には、ステップ(a)及び/又は(b)の攪拌は、50rpmで行う。しかしながら、これらからずれた異なる速度を容器に利用してもよい。
【0054】
したがって、本発明のさらに好ましい態様において、プラスチック製の容器内でインキュベーションステップを行う。そして、ステップ(a)の懸濁培養物はペトリ皿で、及び/又は、ステップ(b)は培養フラスコ、ビーカー、もしくはタンブラー、最も好ましくは、T25フラスコで、好ましくは50rpmで攪拌を行う。ステップ(a)及び/又は(b)での攪拌は、水平攪拌であることが好ましい。しかしながら、他の撹拌処置を行ってもよい。但しあまり好ましくない。
【0055】
高密度プロトコルでは、ステップ(a)の後、細胞懸濁液、すなわち、細胞凝集物を約5〜20の希釈率、好ましくは約10の希釈率で希釈する。実際の希釈率は、例えば、多分化能性または多能性細胞の初期濃度によって変えてもよい。通常、ステップ(b)の希釈は、少なくとも約≧1:5であることが好ましく、より好ましくは、約1:10以上、例えば、18mlの新たな培地、例えば、IMDM20%FCSを用いたステップ(a)で得られる懸濁液が2mlであることが好ましい。例えば、実施例を参照されたい。最も好ましくは、希釈率は、多分化能性または多能性細胞の初期濃度が2×10細胞/mlである場合、1:10である。
【0056】
低密度プロトコルでは、EBの最終希釈ステップは、初期の懸濁液から直接行うことが好ましい。所望の試験または分化プロトコルおよび更なる培養のために用いられる容器に関して、最も好ましくは、希釈は、10mlの培地に対して100〜2000EBのEB密度とすべきである。EB密度が高いと、心臓の分化に関する図3に示すように、分化能の損失が生じる。
【0057】
胚様体を生成するためのこれまでの方法において、胚様体の収率は、50/mlの範囲であった。しかしながら、本発明の方法によれば、ステップ(b)の懸濁培養物におけるEBの最終濃度は、100〜1.000/ml以上、通常、約500/mlの範囲とすることができる。プロトコル1の方法は、培養物が濃度約≧500/mlのEBとなるように行うことが好ましい。したがって、本発明による胚様体のための実験的設定さえ、約10.000の胚様体を1回の実験で作製することができ(1つの6cmペトリ皿から開始)、種々の試験を同時に並行して行うことが可能である。これは化合物のスクリーニングにおいて特に好ましい。試験化合物のいくつかの希釈を試験しなければならず、通常そのようなスクリーニング方法においては、プロファイルとしての標準化合物と試験化合物のそれを比較するために、種々の標準化合物が用いられるからである。したがって、本発明の方法は、化合物のスクリーニングにおいて、胚様体を、コスト効果的なやり方で、かつ、合理的な産業規模で、初めて使用することを可能としたものである。
【0058】
本発明の方法の必須のステップが完了した後、例えば、毒性試験及び/又は特定の細胞タイプおよび組織を作製するために、ステップ(b)で得た細胞凝集物を所望の濃度に分割するなど、更なるステップを行うことができる。
【0059】
フィーダー細胞、外来性の白血病抑制因子(LIF)または調整培地の非存在下で、胚様体状のESもしくはEG細胞は、内胚葉、中胚葉および外胚葉のそれぞれにおいて認められる細胞を含む広範囲の細胞タイプに同時に分化する。成長および分化因子の適切な組み合わせによって、細胞分化を制御することができる。例えば、EB細胞は、造血系列をin vitroで作製することができる(Kellerら、Mol. Cell Biol. 13 (1993)、473-486; Palaciosら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995)、7530-7534; Rich、Blood 86 (1995)、463-472)。さらに、マウスES細胞が神経細胞 (Bainら、Developmental Biology 168 (1995)、342-357;Fraichardら、J. Cell Science 108 (1995)、3161-3188)、心筋細胞(心臓の筋肉細胞) (Klugら、Am. J. Physiol. 269 (1995)、H1913-H1921)、骨格筋細胞(Rohwedelら、Dev. Biol. 164 (1994)、87-101)、血管細胞(Wang ら、発生 114 (1992)、303-316)のin vitro培養で用いられている。米国特許第A−5,773,255号は、グルコース反応性のインスリン分泌膵臓ベータ細胞株に関し、また米国特許第A−5,789,246号は、肝実質細胞の前駆細胞に関する。マウス胚性幹細胞の肝臓分化もまた、Jonesら、Exp. Cell Res. 272 (2002)、15-22に記載されている。
【0060】
他の関連する前駆体は、限定されないが、軟骨細胞、骨芽細胞、網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞皮膚細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛嚢、腎管上皮細胞、平滑筋細胞および骨格筋細胞、肝細胞、精巣前駆体および血管内皮細胞を含む。in vitroでの心臓発生、筋発生、神経発生、上皮性および血管平滑筋細胞分化の胚性幹細胞分化モデルについてGuanら、 Cytotechnology 30 (1999)、211?226に一般的に記載されている。
【0061】
本発明のいくつかの態様において、分化は、未分化細胞の成長を促進し、または分化の抑制物質として機能する1以上の培地成分を取り除くことによって促進される。そのような成分の例としては、いくつかの成長因子、マイトジェン、白血球抑制因子(LIF)および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が含まれる。分化は、所望の細胞株へ、分化を促進する、または望ましくない特徴を持つ細胞の成長を阻害する培地成分を添加することによって促進してもよい。
【0062】
したがって本発明の方法のさらに別の態様は、細胞を少なくとも1つの上記したような細胞タイプに分化することができる条件下で、さらに細胞および細胞凝集物、すなわち、胚様体をそれぞれ培養することを含む。
【0063】
もちろん、本発明の方法によって、胚様体(embryod bodies)を作製するために使用される多分化能性または多能性細胞は、天然のものでなくてもよく、例えば、レポーター遺伝子コントラクトといった遺伝子的に操作されたもの、及び/又は、例えば、細胞の発生および分化における機能を解明することがに望ましい他の導入遺伝子でもよい。さらに上記したように、本発明によれば、上記した方法によって得た胚様体は、特定の細胞タイプおよび組織を誘導すように作製することができる。分化した細胞の集団は、比較的未分化の細胞及び/又は望ましくないタイプの細胞を、望ましくない細胞や細胞タイプに対して致死的である選択系を用いて、すなわち、特異的な細胞タイプの細胞に外部からの作用物質の致死的作用に対する耐性を付与する選択可能なマーカー遺伝子を、所望の細胞タイプ及び/又は発生の特定の段階にある細胞において、優先的に発現するように制御しながら発現させることによって、激減させることができる。これを達成するために、細胞を治療にとって望ましい系列に分化させるためのプロセスを使用する前に、所望の細胞タイプに特異的な細胞タイプ特異的制御配列と作動的に結合した選択可能なマーカーを含むように、細胞を遺伝子的に改変する。
【0064】
この目的にとってあらゆる好適な発現ベクターを使用することができる。本発明によって改変された、幹細胞を作製するための好適なウイルスベクター系は、市販のウイルス成分を用いて調製することができる。ベクターコンストラクトまたは複数のベクターコンストラクトの胚性幹細胞への導入は、公知の方法、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションもしくはウイルスベクターの助けを借りて行うことができる。エフェクター遺伝子を含むウイルスベクターは、最後のセクションで言及した文献に一般的に記載されている。別法として、ベクタープラスミドは、エレクトロポレーションによって、または脂質/DNA複合体を用いて、細胞に導入することができる。. Gibco/Life Technologiesから入手可能な調製物Lipofectamine 2000(登録商標)が例として挙げられる。試薬の別の例としては、FuGENE(登録商標) 6 Transfection Reagent、非リポソームの形状の脂質と他の化合物を80%エタノール中に混合したもの(Roche Diagnostics Corporationから入手可能)が挙げられる。国際公開公報第02/051987号に記載のベクターコンストラクトおよびトランスフェクション方法を用いることが好ましい。その開示内容を引用によって本明細書に援用する。
【0065】
耐性遺伝子自体公知である。これらの例としては、例えば、ピューロマイシン、ネオマイシンもしくハイグロマイシンに耐性を持つ、ヌクレオシドおよびアミノグリコシド−抗生物質−耐性遺伝子が挙げられる。耐性遺伝子のさらに別の例としては、アミノプテリンおよびメトトレキサートに対して耐性をもつデヒドロ葉酸−リダクターゼ、ならびに多くの抗生物質、例えば、ビンブラスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシンDに対する多剤耐性遺伝子が挙げられる。
【0066】
本発明の特に好ましい態様において、前記選択可能なマーカーは、ピューロマイシンに対する耐性を有する。ピューロマイシンは、トランスジェニックEBの接着性培養において、非心臓細胞の高速除去に特に好適である。さらに、心臓細胞の薬物選択は、トランスジェニックEBの懸濁培養物において全体的に行うことができる。したがって、精製されたES細胞由来の心筋細胞が未処理の対応物よりも培養物においてより長く生存することもわかっている。さらに、未分化のES細胞の薬物選択プロセスにおける除去は、それ自身、生存度およびそのような分化ES細胞由来の細胞の心筋細胞としての寿命に対して明らかな陽性効果をもつことがわかっている。さらに、驚くべきことに、未分化細胞は、心筋細胞の増殖を誘導することがわかった。したがって、薬物選択は、精製効果および増殖効果の双方を有する。
【0067】
本発明の好ましい態様において、前記EBの前記多分化能性または多能性細胞は、レポーター遺伝子を含む。好ましくは、前記レポーターは、ある細胞タイプに特異的な細胞タイプ特異的制御配列に作動可能に結合する。この種のベクターは、分化を視覚化し、薬物選択を開始する時間ポイントを定義し、薬物選択およびレシピエント組織に移植された精製された細胞の運命の追跡を行うという利点を有する。本明細書の方法に好適に採用されるそのようなベクターは、国際公開公報第02/051987号に記載されている。通常、レポーター遺伝子の前記細胞タイプ特異的制御配列は、マーカー遺伝子の前記細胞タイプ特異的制御配列と実質的に同一である。前記マーカー遺伝子および前記レポーター遺伝子を同じ組換え核酸分子、すなわち、幹細胞トランスフェクションに用いられるベクターに、好ましくは、前記マーカー遺伝子および前記レポーター遺伝子が同じシストロン上に含有されるように導入することによって達成され得ることが好ましい。
【0068】
レポーターは、それが細胞に対して損傷を与えず、観測可能もしくは測定可能な表現型を授与するものである限り、あらゆる種類のものとすることができる。本発明によれば、クラゲAequorea victoriaからの緑色蛍光タンパク質(GFP)(国際公開公報第95/07463号、第96/27675号および第95121 191号に記載されている)およびその誘導体「Blue GFP」(Heimら、 Curr. Biol. 6 (1996)、178-182およびRedshift GFP” (Muldoonら、 Biotechniques 22 (1997)、162-167)を用いることができる。高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)が特に好ましい。さらに別の態様としては、機能が高められた黄色およびシアン蛍光タンパク質(それぞれ、EYFPおよびECFP)および赤色蛍光タンパク質(DsRed、HcRed)が挙げられる。さらなる蛍光タンパク質が当業者に公知であり、それらが細胞に損傷を与えない限りにおいて、本発明によって用いることができる。蛍光タンパク質は、それ自身公知の蛍光検出方法によって検出される。例えば、Kolossovら、 J. Cell Biol. 143(1998)、2045-2056を参照されたい。別法として、蛍光タンパク質、特にin vivoで適用されるとき、他の検出可能なタンパク質、特にこれらのタンパク質のエピトープを用いることもできる。また細胞自身には損傷を与えるかもしれないが、そのエピトープは細胞に損傷を与え得るが、そのエピトープは、細胞に損傷を与えないタンパク質のエピトープを用いることができる。国際公開公報第02/051987号も参照されたい。
【0069】
安定してトランスフェクトしたES細胞を選択するには、ベクターコンストラクトは、例えば、ネオマイシンなどの抗生物質に対する耐性を持つ選択可能なマーカー遺伝子をさらに含有する。もちろん、他の公知の耐性遺伝子、例えば、蛍光タンパク質コード遺伝子と組み合わせて上記の耐性遺伝子を使用することもできる。安定してトランスフェクトされたES細胞を選択するための選択遺伝子は、検出可能なタンパク質の発現の制御を調節するものとは異なるプロモーターの制御下にある。構成的に活性のあるプロモーター、例えば、PGKプロモーターが用いられることがある。
【0070】
第二の選択遺伝子の使用は、首尾よくトランスフェクトされたクローン(効率は比較的低い)を同定する能力を有する点において有利である。そうでなければ、トランスフェクトされていない覆われているES細胞の大部分が存在することになるかもしれない。また、分化の間、例えば、非EGFP陽性細胞が検出されないかもしれない。
【0071】
本発明のさらに別の態様において、特異的な組織が形成されないように細胞をさらに操作することができる。これは、例えば、抑制物質のエレメント、例えば、ドキシシクリン(doxicyclin)誘導可能抑制物質エレメントなどを挿入することによって発生し得る。それによって、所望の分化細胞と、多能的であり、潜在的に腫瘍原性を有する細胞とが混入する可能性を除外することもできる。
【0072】
幹細胞および胚様体が分化することが意図されている所望の細胞タイプは、あらゆる種類のものがあり、限定されないが、神経細胞、グリア細胞、心筋細胞、グルコース反応性のインスリン分泌膵臓ベータ細胞、肝実質細胞、星状細胞、オリゴデンドロサイト、軟骨細胞、骨芽細胞、上皮細胞、網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、樹状細胞、毛嚢細胞、腎管上皮細胞、血管内皮細胞、精巣前駆体、平滑筋細胞および骨格筋細胞を含む。前掲の文献も参照されたい。
【0073】
本発明の特に好ましい態様において、前記細胞タイプは心筋細胞である。この態様では、薬物耐性遺伝子を動かすための細胞タイプ特異的制御配列が用いられる。それは、心房特異性及び/又は心室特異性であることが好ましい。対応する制御配列、すなわち、心臓特異的プロモーターは、まさに早期の心筋細胞および中胚葉の前駆細胞のそれぞれに特異的なNkx-2.5(Lintsら、発生119(1993)、419-431);心筋に特異的なヒト心臓−α−アクチン(Sartorelliら、Genes Dev. 4(1990)、1811-1822)および心室心筋細胞に特異的なMLC-2V(O'Brienら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90(1993)、 5157-5161および国際公開出願第A−96/16163号)が記載されている。Palermoら、 Cell Mol. Biol. Res. 41 (1995)、501-519; Gulickら、 J. Biol. Chem. 266 (1991), 9180-91855に記載されている心臓特異的α−ミオシン重鎖プロモーターの発現、およびLeeら、 Mol. Cell Biol. 14 (1994)、 1220-1229; Franz ら、Circ. Res. 73 (1993)、629-638に記載されているミオシン軽鎖2v(MLC2v)プロモーターも参照されたい。心房特異的ミオシン重鎖AMHC1およびYutzey ら、Development 120 (1994)、871-883に記載されているニワトリ心臓において発達した前後の極性の確立をも参照されたい。.
【0074】
別の細胞タイプは、線維芽細胞である。これも本発明の方法にしたがって、ES細胞から、de novoで作製することができる。したがって、ES細胞を含む組換え核酸分子でマーカーおよび任意に細胞タイプ特異的制御配列に作用的に結合したレポーター遺伝子、すなわち、骨細胞で活性のあるa2(I)コラーゲンプロモーターなどの線維芽細胞特異的プロモーターでトランスフェクトする;Lindahlら、J. Biol. Chem. 277 (2002)、6153-6161; Zhengら、Am. J. Pathol. 160 (2002)、1609-1617; Antonivら、J. Biol. Chem. 276 (2001)、21754-21764;Finerら、J. Biol. Chem. 262 (1987)、13323-13333; Bou-Ghariosら、J. Cell Biol. 134 (1996)、1333-1344;Zhengら、Am. J. Pathol. 160 (2002)、1609-1617; Metsarantaら、J. Biol. Chem. 266 (1991)16862-16869も参照されたい。
【0075】
さらに別の細胞タイプは、内皮細胞である。それは、一般的に前述したようにベクターコンストラクトでトランスフェクトしたES細胞から誘導することができ、前記細胞タイプ特異的制御配列は内皮特異的プロモーターである。例えば、Goryら、Blood 93 (1999)、184-192に記載されている血管内皮カドヘリンプロモーター;Schlaeger ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997)、3058-3063に記載されているTie−2プロモーター/エンハンサー;Kappelら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 276 (2000)、1089-1099に記載されているFlk−1プロモーター/エンハンサーを参照されたい。
【0076】
さらに、細胞タイプ特異的プロモーターおよび組織タイプ特異的プロモーターが公知である。例えば、Zhouら、 J. Cell Sci. 108(1995)、 3677-3684に記載の軟骨細胞特異的プロアルファ1(II)コラーゲン鎖(コラーゲン2)プロモーターフラグメント;Glosterら、 J. Neurosci. 14(1994);7319-7330に記載の神経系アルファ-1チューブリン特異的プロモーター;Besnardら、 J. Biol. Chem. 266(1991)、18877-18883の神経膠線維酸性蛋白質(GFAP)プロモーターを参照されたい。組織特異的プロモーターのさらに別の例は、グリア細胞、造血細胞、神経細胞、好ましくは胚性神経細胞、内皮細胞、軟骨細胞もしくは上皮性細胞ならびにインスリン分泌β細胞において活性のあるものが挙げられる。「組織特異的」は、「細胞特異的」と言う語に包含される。
【0077】
非心臓特異的プロモーターのさらに別の例は、PECAM1、FLK−1(内皮)、ネスチン(神経細胞の前駆細胞)、チロシンヒドロキシラーゼ−1−プロモーター(ドーパミン作動性神経細胞)、平滑筋αアクチン、平滑筋ミオシン(平滑筋)、α1−フェトプロテイン(内胚葉)、平滑筋重鎖(SMHC最小プロモーター(平滑筋に特異的(Kallmeierら、J. Biol. Chem. 270(1995)、30949-30957)が挙げられる。
【0078】
用語「発生特異的プロモーター」は、発生の特定の時期において活性のあるプロモーターを言う。そのようなプロモーターの例としては、マウスの心室(ventriculum)の胚性の発生のまに発現され、出生前の段階でα−MHCプロモーターによって抑制されるβ−MHCプロモーター;早期中胚葉/心臓発生の間のプロモーターであるNKx2.5、プロモーター;心房−ナトリウム利尿−ファクター;ペースメーカーを除く、早期の胚性心臓のマーカー、これは発生段階においてもダウンレギュレートされる;Flk−1、早期の脈管形成の時期において活性のある内皮特異的プロモーター;神経細胞の前駆細胞において発現するネスチン遺伝子のイントロン2−セグメント(胚性の神経細胞およびグリア細胞)および生体グリア細胞(特に、依然として分割能を有している)(LothianとLendahl、Eur. J. Neurosci. 9 (1997), 452-462U)が挙げられる。
【0079】
本明細書において既に記載した態様において、前記耐性遺伝子および前記レポーター遺伝子は、ビシストロン性ベクターに含有されていることが好ましく、IRESによって分割されることが好ましい。コンストラクトを用いることが特に好ましい。そこでは、前記耐性遺伝子がピューロマイシンに対する耐性を授与し、前記マーカーがEGFPであり、前記プロモーターが心臓性αMHCプロモーターである。実施例も参照されたい。基本的に心臓細胞からなるEB生成に関する上記態様において、本発明によって得られるEBは、通常、自動的に拍動し、心房および心室の心筋細胞ならびにペースメーカー細胞の電気生理学的特性を含む機能的心臓組織を有することが有利である。
【0080】
本発明はまた、胚様体ならびに分化した細胞および前記胚様体に由来する組織に関する。したがって、前記細胞は、胚性細胞タイプ及び/又は組織特異的であることが好ましい。心臓組織であることが最も好ましい。同様に、これらの細胞、細胞凝集物および組織からなる臓器、ならびに細胞、細胞凝集物、組織および臓器からなるインプラントまたはトランスプラントは本発明の対象物である。これら全ては、患者の損傷した組織または臓器の治療方法に用いることができ、それを必要とする患者にインプラントまたはトランスプラントすることを含む。したがって、本明細書に記載の本発明の細胞凝集物または組織のあらゆるものを含む、薬学的組成物などの組成物が本発明の範囲に包含される。既に記載したように、これら本発明の組成物および方法は、種々の目的、例えば、胚の発生の早期の組織形成または要因および化合物がこのプロセスに及ぼす影響の分析などに用いることができる。さらに、EBは、トランスジェニック非ヒト動物の作製に用いることもできる。トランスジェニック動物をES細胞から作製することは、当該技術分野において公知である。例えば、A. L. Joyner Ed., Gene Targeting, A Practical Approach (1993)、Oxford University Pressを参照されたい。トランスジェニック非ヒト動物を作製する一般的な方法が例えば、国際公開公報第94/24274号など当該技術分野において記載されている。
【0081】
したがって、本発明は一般的に、前述の本発明の方法の、それによって得られた胚様体、ならびにその分化した細胞および組織を特異的な遺伝子機能損失アッセイ、外来遺伝子の機能取得アッセイ、催奇性の/胎児毒性化合物の発生分析、例えば、心臓毒性または神経毒性化合物といった毒性化合物の組織特異的分析、薬理学的アッセイ、マイクロアレイシステム、病理学的細胞機能のモデル系の確立、選択的に分化した細胞または組織移植片を導入するための分化および成長因子の適用のための使用に関する。ある態様において、細胞タイプの運命、および細胞凝集物および組織の形成、ならびに細胞もしくは細胞凝集物の生理学的及び/又は発生学的状態を、例えば、異性体張力(isomeric tension)の測定、心エコー検査などによって分析する。アレイ上の細胞の電気活性の分化をモニターすることによって、例えば、マイクロ電極アレイ(MEA)によって細胞外の外界電位を記録することによって、細胞もしくは細胞凝集物の状態を分析することが好ましい。例えば、胚性幹細胞が心筋細胞へ分化していく進行中の電気生理学的特性を、例えば、60の基板統合電極からなるマイクロ電極アレイ(MEA)を用いた細胞外の外界電位の記録に続いて行うことができる; Banach et al. Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. (2003)、 Feb 6、p S0363-6135を参照されたい。タングステンのマイクロ電極のマルチプルアレイを用いて、呼吸器系モーターパターン生成に寄与する脳幹神経細胞の反応を同時に記録する; Morrisら、 Respir. Physiol. 121 (2000)、119-133を参照されたい。
【0082】
本発明のEBおよび方法は、薬物スクリーニングおよび治療的投与に用いるのに、特に好適である。例えば、本発明の分化したEBは、物質(例えば、溶媒、小分子薬物、ペプチド、ポリヌクレオチドなど)、特に家庭用品(上掲参照)または分化した細胞の特徴付けに影響を及ぼす環境条件(培養条件もしくは操作)をスクリーニングするために用いることができる。分化した細胞、特に胚様体の一般的ならびに特異的特性は当業者に公知である。さらに、細胞特異的特徴、すなわち、マーカーおよび所与の試験化合物がEBに及ぼす影響を、例えば、MTT、XTT、LDHなどの生命力のテストを行うことによって、測定するための試験キット、ならびに、例えば、カスパーゼ、アネキシンなどの量または活性を測定することによってアポトーシスを測定する方法は、当業者に公知である。例えば、NIH公報第01-4499号、急性全身性毒性のin vitro評価方法(In Vitro Methods for Assessing Acute Systemic Toxicity)に関するInternational Workshopの報告(2001年8月)、ならびに、この点に関する他のNIH公報を参照されたい。本発明の特別のスクリーニングへの適用は、薬学的化合物の薬学的研究における試験に関する。それは一般的に標準的な教科書「薬学的研究におけるin vitro方法」("In vitro Methods in Pharmaceutical Research")、Academic Press, 1997および米国特許第A−5,030,015号に言及されている。
【0083】
薬理学的化合物のスクリーニングにおける、またはハイスループットのin vitro系における胎児毒性化合物を検出するための方法としての使用のために、EBを、ES細胞と適切な組織特異的プロモーター(例えば、心筋細胞のためのα−MHC)に由来するレポーター遺伝子(例えば、蛍光レポーター様GFP)を用いて作製することができる。実施例も参照されたい。96ウェルプレート(平底、黒;Falcon, Becton Dickinson)へ播いた後、異なる濃度の試験化合物に、また、対照として希釈液にEBを曝露する。培地の半分を新鮮な培地および化合物と1週間に2回交換する。心筋細胞への分化が、対照EBに認められた後、すべてのEBの蛍光を、蛍光分光光度計(Tecan)を用いて測定する。胎児毒性が試験化合物へ及ぼす影響を、対照を100%とした百分率で求める。
【0084】
したがって、本発明はまた、疾患の回復もしくは治療のための薬物の同定および/もしくは取得を行う、または化合物の毒性を決定するための方法であって、
(a)本発明の方法によって取得した胚様体(EB)を含む試験サンプルまたはそれらの分化した細胞または組織を、スクリーニングする試験物質と接触させること、および
(b)前記EB細胞または組織の表現型の反応性の変化を測定することを含み、対照と比較した反応性の変化によって有用な薬物または化合物の毒性が示される、方法に関する。
【0085】
もちろん、当業者は、試験物質が測定すべきEBに及ぼす影響が、前記EBの表現型またはその分化した細胞のあらゆる反応性の変化を含み得ることを即座に認識するだろう。例えば、前記効果、すなわち、表現型は、限定されないが細胞の大きさ、細胞の形状、細胞生存度、アポトーシス細胞死、タンパク質合成、アクチン/ミオシンフィラメントの組織化、細胞特異的もしくは組織特異的な遺伝子の発現パターン及び/又は早期胚発生の間に発現する遺伝子の活性化からなる群から選択されるパラメーターを含む。
【0086】
一般的に標準的な教科書である「薬学的研究におけるin vitroの方法(In vitro Methods in Pharmaceutical Research)」Academic Press、1997や米国特許出願第5,030,015号を参照することができる。候補化合物の活性の評価は一般的に、本発明のEBまたは分化した細胞と候補化合物とを、単独もしくは他の薬物とともに、組み合わせることを含む。研究者は、形態学的性質、マーカー表現型、または化合物に帰する細胞の機能的活性(未処理の細胞もしくは不活性の化合物で処理した細胞との比較による)におけるあらゆる変化を決定し、次いで、その化合物の効果と観察された変化とを相関させる。試験化合物が、作用物質と接触したin vitroで分化した細胞に影響を及ぼす表現型の変化は、当業者に公知のあらゆる手段によって評価することができる。ある態様において、形態学的性質を調べる。例えば、(電子)顕微鏡検査を用いて、細胞の(超)構造を評価する。好適な評価パラメーターは、限定されないが、心筋細胞などの接触する細胞間の間隙の結合の評価を含む。別の態様においては、免疫組織化学的または免疫蛍光法の技法を用いて、表現型を変化している。例えば、実施例4および図6を参照されたい。さらに別の態様において、表現型の変化は、細胞において発現される特異的なmRNA分子の発現の分析によって評価する。好適なアッセイシステムとしては、限定されないが、RT−PCR、in situハイブリダイゼーション、ノーザン分析法、またはRNaseタンパク質アッセイなどが挙げられる。さらに別の態様においては、分化した細胞において発現するポリペプチドのレベルを評価する。用いられるポリペプチドアッセイの特異的、非限定的な例としては、ウェスタンブロットアッセイ、ELISAアッセイ、または免疫蛍光法がある。別法として、カルシウム過渡応答が測定される。以下を参照されたい。.
【0087】
そのアッセイは、細胞の機能、例えば、心筋細胞の機能に影響を及ぼす効果をスクリーニングするために用いることができる。当業者に公知のあらゆる方法を用いて、心臓の機能を評価することができる。ある態様において、心筋細胞の拍動速度を調べて、拍動を上昇または減少させる作用物質を同定する。拍動速度を評価するための方法の1つは、顕微鏡による拍動の観察である。このようにしてスクリーニングすることができる作用物質は、交感神経作用薬などの変力性の薬物である。ある態様において、その作用物質に接触する細胞と対照とを比較している。好適な対照としては、作用物質に接触させない細胞、または賦形剤のみと接触させた物質がある。基準値を対照として用いることもできる。
【0088】
第1の例として、細胞生存度、生存率、形態学的性質および特定のマーカーおよびレポーターの発現に及ぼす影響によって細胞毒性を決定することができる。薬物が染色体DNAに及ぼす影響は、DNA合成または修復を測定することによって決定することができる。[H]−チミジンまたはBrdUの、特に細胞周期の予期せぬ時期における、または、細胞複製に必要なレベル以上の取り込みは、薬物の効果と一致している。望ましくない効果としては、異常な速度の姉妹染色分体交換(中期の伝播によって決定される)も含まれる。さらに別の同化作用については、A. Vickers (375-410) in In vitro Methods in Pharmaceutical Research, Academic Press、1997を参照することができる。
【0089】
細胞機能の効果は、表現型または、例えば、マーカー発現、受容体結合、収縮性の活性、細胞培養中の電気生理学的性質など心筋細胞の活性を観察するあらゆる標準的なアッセイを用いて評価することができる。薬剤候補物質は、例えば、それらが収縮の程度や頻度を増加させるか、減少させるかといった、収縮性の活性に及ぼす効果について調べることができる。効果が観察されれば、化合物の濃度を滴定して、中程度の有効用量を決定することができる。
【0090】
アッセイは、対照と比較して反応性の変化があるかどうかを決定する、単純な「イエス/ノー」アッセイとしてもよい。試験化合物または複数の試験化合物を試験細胞、好ましくは異なる濃度の、または希釈系中の胚様体、好ましくは、対応するタイプの試験化合物の生理学的レベルに対応する用量の試験細胞にさらして試験することできる。したがって、国際公開出願第00/34525号に記載のものと類似の目的で化合物のプロファイルを作成することもできる。例えば、2以上のアッセイを用いてもよく、及び/又はパラメーターを評価してもよい。それらのアッセイ/パラメーターは、並行して、または連続的に、行うことができる/評価することができる。または、1つのアッセイの結果を、別個に行われた対応アッセイの結果と比較してもよい。試験組成物の分子プロファイルが一旦決定すると、それを所望の生物学的活性を持つ化学組成物、好ましくは、所望の生物学的活性を有する化学組成物の分子プロファイルのライブラリと比較することができる。そのような比較の結果によって、その試験組成物が薬物としての潜在能力を有するか、または毒性を有するかの可能性、また、他の既知の毒性組成物と比較してどのような毒性を有しているのかといったことを予測するための情報が提供される。
【0091】
さらに別の態様において、前記方法はアレイ上で行う。本発明のアッセイに用いるアレイは通常、固体支持体と、それに付着またはそこに懸濁している、in vitroで分化した細胞とを含む。培養された細胞および細胞凝集物を調べるためのバイオセンサーとしての平面マイクロ電極アレイは特に興味深い。そのようなアレイは一般的に、ガラス、プラスチック、またはシリコンの基板と、その上に配置され、パターン化されている、例えば、金、プラチナ、インジウムすず酸化物、イリジウムなどの導体からなる。絶縁層、例えば、フォトレジスト、ポリイミド、二酸化ケイ素、窒化ケイ素などが導体電極上に配置され、相互に接続し、次いで電極上の領域において除去され、記録部位を規定している。細胞は、この表面で直接培養することができ、脱絶縁された(deinsulated)記録部位において、露出した導体と接触する。電極と細胞の大きさに依存して、電気的活性を単一の細胞または細胞凝集物を含む細胞集団のいずれかから記録することができる。各電極部位は一般的に、高入力インピーダンスの入力、低ノイズ増幅器と、AC結合コンデンサを用いて、または、用いずに結合し、比較的小さな細胞外信号を増幅させている。そのようなバイオセンサーの例は、Novakら、IEEE Transactions on Biomedical Engineering BME-33(2) (1986)、196-202; Drodgeら、J. Neuroscience Methods 6 (1986)、1583-1592; Eggersら、 Vac. Sci. Technol. B8(6) (1990)、1392-1398; Martinoiaら、J. Neuroscience Methods 48 (1993)、115-121; Maedaら、J. Neuroscience 15 (1995)、6834-6845;およびMohrら、SensorsとActuators B-Chemical 34 (1996)、265-269に記載されている。
【0092】
ある態様において、本発明の方法は、上記したようなマルチまたはマイクロ電極アレイ(MEA)を用いて行うことが好ましい。本発明のこのアッセイシステムは、通常かなり時間がかかり、高価である、心臓作用を分析するための動物試験に代わるものとして特に有利である。このように、機能的な組織アッセイシステムは、ヒトまたは動物が接触するかもしれないあらゆる化合物を試験する薬物発生および毒性試験において特に有用である。マイクロ電極アレイ(MEA)は、例えば、ES細胞に由来の心筋細胞内での活動電位の発生および伝播の多くの細胞外記録ができる装置である。この記録は、医師が用いる公知のECGに類似するものである。MEAのマトリックスは通常、特別に設計された細胞培養装置の底部に統合した60個の金電極からなる。ES細胞由来の胚様体(EB)は、そのような装置内で培養することができる。表面に付着し、展開した後、心筋細胞を含有するEB細胞は電極と接触する。次いで、得られた全ての細胞外の活動電位を短時間または長時間の観察実験に間に同時に記録することができる。続く、適切なプログラムを用いた頻度と潜伏時間の分析によって、拍動クラスターの詳細な「電気マップ」を明らかにすることができる。
【0093】
例えば、試験化合物を心筋細胞に添加する前、途中、後の電気生理学的特性は、例えば、60個の基板統合型電極からなるマイクロ電極アレイ(MEA)を用いた細胞外のフィールドポテンシャルの記録によって追跡することができる。Banachら、Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. (2003)、Feb 6、p S0363-6135を参照されたい。タングステン電極の多数のアレイを用いて、呼吸器系モーターパターン発生(respiratory motor pattern generation)に寄与する脳幹神経細胞の同時反応を記録する。Morrisら、Respir. Physiol. 121 (2000)、119-133を参照されたい。
【0094】
実施例4に記載しているように、本発明のアッセイにおいて胚様体を用いて化学組成物を試験する。前掲の文献も参照されたい。胚様体が由来する特定の種の選択は、典型的にいくつかの要因を反映するであろう。まず、研究の目的にしたがって、1以上の種が対象とされる。例えば、潜在的なヒト治療薬として試験される組成物のみならず産業化学物質の毒物学的な試験での使用には、ヒト胚様体が特に対象となる。一方、獣医学治療には、ウマ、ネコ、ウシ、ブタ、ヤギ、イヌまたはヒツジ胚様体がより対象となるかもしれない。一般的に前臨床試験に用いられる他の種の胚様体は、例えば、モルモット、マウス、ラット、ウサギ、ブタおよびイヌも好ましい。典型的に、これらの種の胚様体は、「ファーストパス」スクリーニングにおいて、または、ヒトの毒性に関する詳細な情報が必要でない場合、またはマウスやこれらの実験動物種の他のいずれか1つにおける結果がヒトにおける公知の毒性や他の作用と相関している場合に用いられる。さらに、ヒト治療薬に関しては、ヒトでの治験を始める前に調節物質は通常動物データを必要としており、前臨床動物実験に用いる種の胚様体を用いることが望ましいであろう。胚様体における試験の結果から、毒性の程度および種類に関する研究者は、動物試験において予測をすることができる。いくつかの動物種は、他とは異なるタイプのよりよいモデルとして当該技術分野において公知であり、薬物を代謝する能力についても種によって異なる。例えば、Williams、Environ. Health Perspect. 22 (1978)、133-138; Duncan、Adv. Sci. 23 (1967)、537-541を参照されたい。こうして、特定の前臨床毒性試験に用いるのに好適な特別の種は、薬物候補物質の使用目的によって変わるかもしれない。例えば、生殖系に影響を及ぼすことを目的とした薬物に好適なモデルを提供する種は、神経系に影響を及ぼすことを目的とした薬物のモデルには適さないかもしれない。前臨床試験のための適切な種を選択するための基準は、当該技術分野において公知である。
【0095】
胚様体培養を一旦開始した後、それを化学組成物に接触させる。その化学組成物は、水溶液中にあることが好都合であり、従来から使用され、培地に導入されて溶媒、例えば、DMSO中に存在することが好ましい。実施例を参照されたい。その導入は、あらゆる都合のよい手段によって行うことができるが、ピペット、マイクロピペッター、又はシリンジによるのが好ましい。ハイスループットスクリーニング、化学組成物などのいくつかの適用においては、ロボットのような腕に存在するかもしれない自動化されたピペット手段などの自動化された手段によって導入される。化学組成物は、粉末形状または固体形状で、薬学的添加剤、結合剤および薬学的組成物に一般的に用いられる他の物質の存在下もしくは不存在下で、意図された目的において採用することができるかもしれない他の担体とともに、培地に導入することもできる。例えば、農業化学薬品または石油化学薬品に使用することが意図されている化学組成物を、それらの化学薬品または作用物質の毒性を試験するため、それら自身を培地に導入することができる。または環境において用いてもよい、または用いられている他の物質と組み合わせて導入し、化学薬品または作用物質の組み合わせが相乗効果を有しているかどうかを決定することができる。典型的に、培養は、少なくとも化学組成物の導入のすぐ後に、振とうさせ、組成物が培地全体に確実に分散するようにすることができる。
【0096】
化学組成物を培養物に添加する時間は、実施者の裁量で決められ、特定の研究目的によって異なってくる。胚様体が幹細胞から発生してすぐに化学組成物を添加することが好都合であり、それによって胚様体の全ての組織の発生に関するタンパク質や遺伝子の発現を変化させることができる。しかしながら、特定の組織タイプに及ぼす組成物の作用についての研究に注目することは興味深いことであるかもしれない。前述したように、例えば、筋肉、神経および肝臓組織といった個別の組織は、胚様体が形成された後の特定の時期に発育することが知られている。したがって、化学組成物の添加は、関連する組織の遺伝子またはタンパク質の発現の変更に対する効果を観察するために、関連する組織が発生する時間または発生開始後の選択された時間に発生するように段階付けることができる。
【0097】
異なる量の化学組成物は、組成物の毒性について知られている情報、研究目的、使用可能な時間、および実施者の資源に依存して、胚様体と接触させるために用いられる。化学組成物は、特に、他の研究または過去の実績、または化合物を用いたフィールド実験によって、特定の濃度が体内に一般的に認められるものである場合、ちょうど1つの濃度で投与される。より一般的には、該化学組成物は、異なる濃度で胚様体の培養物に並行して添加され、その結果、濃度の違いが遺伝子またはタンパク質の発現に及ぼす作用、したがって、異なる濃度での組成物の毒性の違いを評価することができる。典型的に、例えば、化学組成物を正常または中程度の濃度で添加し、所望の精度に依存して、濃度を2倍もしくは5倍に上昇および減少させることによってまとめることができる。
【0098】
組成物の毒性が未知である場合、予備的研究をまず行って、組成物が試験される濃度範囲を決定することが好ましい。濃度用量を決定するための種々の処置が当該技術分野において知られている。例えば、1つの一般的な処置は、作用物質が直接的に毒性を示す用量を測定することである。次いで実施者は、用量を1.5倍に減少させて、用量研究を行う。典型的には、対象としている作用物質を5倍または2倍の濃度に希釈して細胞の並行培養に投与することによって行う。環境汚染物質としては、組成物は通常、それが環境中に見いだされる濃度で試験することもできる。食物に残っている殺虫剤などの農業化学薬品に関しては、作用物質は、他の濃度で試験する可能性もあるものの、通常は残留物が認められる濃度で行われる。したがって、試験化合物の希釈は、分離した管中で、連続的に50倍もしくは100倍の濃度のDMSO中化合物に希釈することによって行うことができる。各希釈物の1μl〜2μlを、細胞懸濁液を分布する前に各ウェルに分布させる。
【0099】
さらに、EBおよび分化した細胞の表現型または特徴はそれぞれ、分析し得る下記のパラメーターのいずれか1つもしくは全部を含むことができる。
(i)Na+チャネル;
(ii)Ca2+/Kチャネル;
(iii)Kチャネル;
(iv)振幅及び/又は電場電位持続性(FDP);
(v)心臓細胞の変周期性または神経細胞性の細胞のバースト時間;
(vi)不整脈、EAD様減少;
(vii)pH値;
(viii)酸素分圧(pO);
(ix)拍動の停止;
(x)AV解離収縮性(AV-dissociation contractility)の分析、NO作用及び/又は形態学的変化;
(ix)レポーター遺伝子の発現または活性;または
(iix)マーカー遺伝子の発現。
【0100】
好ましい態様において、試験サンプルは、心筋細胞に分化する胚様体(EB)、最も好ましくは、自動的に拍動し、心房および心室心筋細胞ならびにペースメーカー細胞の電気生理学的特性をカバーする機能的な心臓組織からなるEBを含む。
【0101】
本発明の方法の特に好ましい態様において、前記細胞または組織特異的マーカーは、トロポニンI、クレアチニンキナーゼMBまたは他の心臓特異的な遺伝子からなる群から選択される。
【0102】
そのような細胞および組織特異的マーカーを検出するためのアッセイおよびキットは、当該技術分野において公知であり、例えば、TropT and Cardiac T(Roche Diagnostics製)、アポトーシス検出キット(Promega製)、LDH検出キット(Promega)、その他として入手可能である。下記を参照されたい。それらの態様においては、前記胚様体は、心房および心室心筋細胞ならびにペースメーカー細胞を含む機能的心臓組織を含むことが好ましい。前掲の文献も参照されたい。
【0103】
実施例において説明されているように、本発明の方法は、前記胚様体、細胞または組織の蛍光を測定することを含む。したがって、本発明の方法の特に好ましい態様において、前記胚様体は、心房および心室心筋細胞ならびにペースメーカー細胞を含む機能的心臓組織を含み、前記方法は、
(i)蛍光を測定することによって、胚様体内の心臓細胞を測定すること、
(ii)心臓特異的バイオマーカーの測定、および
(iii)細胞生存度及び/又はアポトーシス事象の測定、を含む。
【0104】
したがって、本発明の方法、特に時間とコストを抑えた再現性のある胚様体のソースを提供することは、これまでに確立されている胚性幹細胞試験(EST)をかなり向上させるものである。例えば、Seilerら、Altex 19 suppl. 1 (2002), 55-63を参照されたい。それは、化学薬品の毒性を分類するために用いられる特定の指標について述べている。すなわち、(i)ES細胞の心筋細胞(ID50)への分化の阻害;(ii)ES細胞のMTT細胞毒性試験における生存度の程度(IC50);これに(iii)対応する生存度試験3T3細胞(IC503T3)を補充している。ID50およびIC50の計算などの細胞毒性測定を含めた従来技術における胚性幹細胞試験をどのようにして行うかについての概説がGenschowら、ATLA 30 (2002)、151-176に記載されている。胚性幹細胞に基づく毒性試験についての更なる情報については、European Commissionのデータベースである、生物医学(ECVAM)における動物実験についての高度な二者択一的方法についての科学情報サービス(SIS)に記載があり、それは高度な非動物試験の開発および毒物学的評価の確認に関する、事実に基づき評価された情報が提供されている。
【0105】
蛍光の測定による胚様体中の心臓細胞の量の測定方法は、当業者に公知である。実施例も参照されたい。さらに、心臓特異的バイオマーカーの測定も当業者に公知である。例えば、国際公開出願第99/24571号および米国特許出願第A−6,657,104号およびそこに援用されている文献を参照されたい。生存度及び/又はアポトーシス事象の測定方法についても同様である。例えば、細胞増殖および細胞毒性アッセイは、Roche Diagnosticsなどの供給元から入手可能である。例えば、細胞DNAフラグメンテーションELISAアッセイ、LDH細胞毒性検出キット、MTTおよびXTT細胞増殖キットならびにWST−1細胞増殖試薬もRoche Applied Scienceから入手可能である。もちろん、他の供給元ならびに対応する文献を使用することもでき、それらは当該技術分野において公知である。
【0106】
本発明のスクリーニングアッセイの特別の態様の、従来のin vitroアッセイに比べた利点としては次の点が挙げられる。
・高度に標準化された細胞培養モデル、均質かつ再現性のあるEBの生成;
・正常な生理学的ふるまいをする心房、心室およびペースメーカー細胞の存在(例えば、発現およびイオンチャネルの調節);
・全体的にin vitroベースのシステム、困難な細胞調製の必要がない;
・時間とコストの節約。
【0107】
このように、本発明の種々のアッセイにおいて、化合物は、ドイツ特許第195 25 285 A1号;Seilerら、ALTEX 19 Suppl. 1 (2002)、55-63;Takahashiら、Circulation 107 (2003)、1912-1916 and Schmidtら、Int. J. Dev. Biol. 45 (2001)、421-429に記載の方法によって行うことができる。後者には、胎児毒性のある作用物質のスクリーニングの、ES細胞の心臓および筋原性細胞への分化を濃度依存的に測定することによる、作用物質のEuropean Union実証研究に用いられるES細胞試験(EST)が記載されている。
【0108】
試験を行うための好ましい化合物製剤は、全体の製剤に有意な作用を及ぼす保存料などの追加成分を含まない。したがって、好ましい製剤は、基本的に生物学的に活性のある化合物および生理学的に受け入れられる担体、例えば、水、エタノール、DMSOなどからなる。しかしながら、化合物が添加剤を含まない液体である場合、その製剤は、本質的に化合物自身である。
【0109】
さらに、複数のアッセイを異なる化合物濃度で同時に行い、種々の濃度に対する異なる反応を取得することもできる。当該技術分野において公知のように、化合物の効果的な濃度の決定は、典型的には、1:10からの濃度範囲、または素材規格、希釈を用いる。該濃度は、必要に応じて、さらに第二の連続希釈によって精製してもよい。典型的には、これらの濃度の1つは、陰性対照、すなわち、ゼロ濃度または検出レベル以下となる。
【0110】
対象となる化合物は、典型的には有機分子であるが、多くの化学的クラスを含む。前掲の文献を参照されたい。候補作用物質は、タンパク質と構造的相互作用をする、特に水素結合をするのに必要な官能器を含み、典型的には、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基、好ましくは、少なくともこの官能基の2つを含むことが好ましい。候補作用物質はしばしば、環式の炭素または複素環式構造、及び/又は、1以上の上記官能器で置換された芳香族またはポリ芳香族構造を含む。候補作用物質はまた、ペプチド、核酸、サッカライド、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的アナログ、またはこれらの組み合わせを含む生物分子中に見出すことができる。
【0111】
化合物および候補作用物質は、合成または天然の化合物のライブラリを含む広範囲のソースから取得される。前掲の文献を参照されたい。例えば、多数の手段をランダムに用いることが可能であり、ランダム化されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む、多岐にわたる有機化合物および生物分子の合成が行われる。または、細菌類、菌類、植物および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリが入手可能であるか、または容易に作製することができる。例えば、腫瘍誘導性の血管新生および胚様体の対抗培養におけるマトリックスメタロプロテイナーゼの発現および伝統的な漢方薬に用いられる植物成分による球状腫瘍がWartenbergらによって、Lab. Invest. 83 (2003)、87-98に記載されている。
【0112】
さらに、天然または合成的に生成されたライブラリおよび化合物は、従来の化学的、物理的および生化学的手段によって容易に改変され、コンビナトリアルライブラリを作製するために用いられ得る。公知の薬理学的作用物質を、意図的もしくはランダムに、アクリル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの化学的改変を行い、構造的アナログを作製してもよい。
【0113】
化合物はまた、追加成分、例えば、イオン強度、pH、合計タンパク質濃度などに影響を及ぼす成分などが添加された流体を含むサンプルに含まれていてもよい。さらに該サンプルは、少なくとも部分的な分画または濃度を達成するために処理されてもよい。化合物の劣化を減少させるように手入れが成されるのであれば、生物試料を、例えば、窒素保存、冷凍保存またはそれらの組み合わせによって保存してもよい。サンプルの量は、測定可能な検出ができれば十分であり、通常、約0.1μl乃至1mlの生物試料で十分である。
【0114】
試験化合物は、上記のあらゆるクラスの分子を含む。さらに未知の含有物のサンプルを含んでもよい。多くのサンプルは溶液形状の化合物を含むが、好適な溶媒に溶解することが可能な固体サンプルのアッセイを行うこともできる。対象となるサンプルは、環境的なサンプル、例えば、地下水、海水、鉱水など;生物試料、例えば、作物から作製したライセート、組織サンプルなど;製造中のサンプル、例えば、製薬作製中の時間推移;ならびに分析用に調製された化合物ライブラリなどを含む。潜在的な治療的価値を調べるための対象となる化合物のサンプル、すなわち、薬物候補物質が評価されている。
【0115】
試験化合物は、任意に、複数の化合物をスクリーニングするためのコンビナトリアルライブラリであってもよい。そのような試験物質の収集物は、約10乃至約10の多様性があり、該方法を行う際に連続的に減少するものである。任意に、他のものと2回以上組み合わせられる。本発明の方法によって同定される化合物は、溶液中、あるいは固体支持体と結合後、PCRやオリゴマー制限(Saikiら、Bio/Technology 3 (1985)、1008-1012、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ分析(Connerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80 (1983)、278)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)(Landegrenら、Science 241 (1988)、1077)などの特異的DNA配列決定の検出に通常適用されるあらゆる方法によって、さらなる評価、検出、クローニング、配列決定などがなされる。DNA分析のための分子技法が概説されている(Landegrenら、Science 242 (1988)、229-237)。したがって、本発明の方法はまた、in vitroで分化した細胞の転写プロファイリングに用いることもできる;例えば、Ramalho-Santosら、Science 298 (2002)、597-600;Tanakaら、Genome Res. 12 (2002)、1921-1928を参照されたい。
【0116】
本発明のアッセイの方法は、従来の実験室形式とすることができ、または、ハイスループットのために適用される。用語「ハイスループット」(HTS)は、同時に多数のサンプルの分析を容易に行うことができ、ロボット的操作が可能なアッセイデザインを言う。ハイスループットアッセイの別の好ましい特徴は、試薬の使用を減少させ、望ましい分析を達成するために多くの操作を最小限にするように最適化されたアッセイデザインである。
【0117】
別の好ましい態様において、本発明の方法は、アレイ中の任意に異なる位置における2、3、4、5、7、10以上の測定を含む。いくつかの試験物質を組み合わせることができ、同時または連続的に添加して、効果を高め、もしくは抑制し得ることについての情報を得ることができる。このように、本発明のさらに別の局面は既に記載した方法に関する。そこでは、前記接触ステップはさらに、前記試験サンプルを少なくとも1つの第二の試験物質と、前記第1の試験物質の存在下で接触させることを含む。組み合わせて試験される2以上の物質は、一般的に、それらの相互作用についての情報を提供するであろう。本発明のスクリーニング方法のある態様においては、疾患プロセスを活性化もしくは抑制することが知られている化合物をサンプルまたは培地に添加する。
【0118】
さらに、上記方法は、もちろん、上記のスクリーニング方法もしくは他の当該技術分野において公知のスクリーニングのいずれかの1以上のステップと組み合わせることができる。臨床的な化合物発見のための方法は、例えば、先導的同定のための超ハイスループットスクリーニング(Sundberg、Curr. Opin. Biotechnol. 11 (2000)、47?53)、および構造ベースの設計(VerlindeとHol、Structure 2 (1994)、577?587)および先導的最適化のためのコンビナトリアルケミストリー(Salemmeら、Structure 15 (1997), 319?324)を含む。薬物が選択されると、該方法は、改変された薬物を使用する合理的な薬物デザインを行い、前記改変された薬物が例えば、相互作用/エネルギー分析にしたがって、より良好なアフィニティーを示すかどうかを評価するために用いられる方法を繰り返す更なるステップを有することができる。本発明の方法は、1回以上繰り返し、その結果、前記化合物の収集物を連続的に減少させてもよい。
【0119】
物質は、それらが in vivo投与された後、排泄もしくは代謝によって1以上の活性もしくは不活性の代謝物へと排除されるように代謝される(Meyer、J. Pharmacokinet. Biopharm. 24 (1996)、449-459)。したがって、活性化合物または本発明の方法によって同定および取得された薬物を使用するよりむしろ、対応する製剤をプロドラッグとして使用して、患者の体内で代謝によって活性形態に換えるようにすることができる。プロドラッグおよび薬物の適用のために取り得る予防策が文献に記載されている。例えば、Ozama、J. Toxicol. Sci. 21 (1996)、323-329を参照されたい。
【0120】
さらに、本発明は、例えば、損傷した組織または異常な組織もしくは臓器の形成、心不全などに関連する障害の治療のための組成物の調製方法のいずれかによって、同定、単離、及び/又は作製された化合物の使用に関する。前掲の文献を参照されたい。好ましくは、単離された化合物または対応する薬物は、心筋症の治療に有用である。治療方法として、このような疾患に苦しむ患者に、同定された物質またはそれを含有する組成物を投与することができる。上記方法によって同定、単離、及び/又は作製された化合物は、薬物発見および薬物もしくはプロドラッグの調製におけるリード化合物として用いることもできる。これは通常、リード化合物もしくはその誘導体または単離された化合物を上記のように、例えば、前記物質を改変して、毒性を引き起こす疑いのある部分を変え、削除し、及び/又は誘導体化し、バイオアベイラビリティ、溶解性及び/又は半減期を増加させるように、改変することを含む。該方法はさらに、単離もしくは改変された物質と薬学的に許容される担体とを混合することを含む。上記した種々のステップは、当該技術分野において一般的に知られている。例えば、これらの技法を実行するコンピュータプログラムが利用可能である。例えば、Rein、Computer-Assisted Modeling of Receptor-Ligand Interactions (Alan Liss、New York、1989)。化学誘導体およびアナログの調製方法は当業者に公知であり、例えば、Beilstein、Handbook of Organic Chemistry、Springer edition New York Inc.、175 Fifth Avenue、New York、N.Y. 10010 U.S.A.やOrganic Synthesis、Wiley、New York、USAに記載がある。さらに、例えば、上記方法によって、ペプチドミメティクス及び/又は適切な誘導体およびアナログのコンピュータ支援デザインを用いることができる。薬物発見におけるリード生成の方法はまた、タンパク質の使用およびマススペクトロメトリーなどの検出方法も含む(Chengら、J. Am. Chem. Soc. 117 (1995)、8859?8860)およびいくつかの核磁気共鳴(NMR)法(Fejzoら、 Chem. Biol. 6 (1999)、755?769; Linら、 J. Org. Chem. 62 (1997)、8930?8931)。それらはまた、定量的な構造−活性化の関係(QSAR)の分析(Kubinyi、J. Med. Chem. 41 (1993)、2553-2564、Kubinyi、Pharm. Unserer Zeit 23 (1994)、281-290)、コンビナトリアルバイオケミストリー、古典化学、その他(例えば、HolzgrabeとBechtold、Pharm. Acta Helv. 74 (2000)、149-155を参照されたい)も含む。さらに、担体および製剤方法の例は、Remington's Pharmaceutical Sciencesに見出すことができる。
【0121】
上記本発明の方法のいずれかによって薬物が一旦選択されると、薬物またはそのプロドラッグの治療的有効量が合成される。本明細書において用いられているところの「治療的有効量」という用語は、患者にとって有意義な利点、すなわち、損傷した組織の治療、治癒、予防もしくは回復、または、そのような状態の治療、治癒、予防もしくは回復の速さの上昇を示すのに十分な量の薬物またはプロドラッグの合計量を意味する。さらに、または別法として、特に薬物の前臨床試験に関連して、用語「治療的有効量」は、非ヒト動物試験における生理学的反応を誘発するのに十分な薬物またはプロドラッグの量を言う。
【0122】
ある態様において、本発明の方法はさらに、単離または改変された物質と薬学的に許容される担体とを混合することを含む。担体および製剤方法の例は、Remington's Pharmaceutical Sciencesに見出すことができる。
【0123】
さらに、本発明は、本明細書に記載の本発明の方法およびアッセイにおいて使用するための装置およびアレイにそれぞれ関する。例えば、複数のマイクロ電極を備えた、本発明の教示にしたがって使用及び/又は採用される細胞電位測定装置は、欧州特許出願第0 689 051 A3号に記載されている。
【0124】
また、国際公開出願第98/54294号は、細胞をモニタリングする装置および方法、ならびに分析物を細胞環境に添加した後の細胞における変化をモニタリングする方法を記載している。それは、細胞培養容器に配置されたマイクロ電極アレイを含み、細胞部分のアレイはマイクロ電極の表面に接着した装置を含む。細胞の直径は、マイクロ電極の直径より大きい。電圧信号がマイクロ電極および参照電極のそれぞれに付加されている。電圧信号の付加によって得られる信号を検出およびモニタリングすることによって、インピーダンス(細胞膜キャパシタンスとコンダクタンスの組み合わせ)、活動電位パラメーター、細胞膜キャパシタンス、細胞膜コンダクタンスおよび細胞/基板の密封抵抗性を含む個別の細胞の電気特性に関する情報が提供される。
【0125】
好ましい態様において、本発明は、 実施例に記載されているもののような蛍光リーダーの使用に関する。
【0126】
本発明の教示にしたがって実行される手段および方法は、例えば、Egertら、Brain Res. Brain Res. Protoc. 2 (1998)、229-242;Duportら、Biosens. Bioelectron. 14 (1999)、369-376およびドイツ特許出願第195 29 371 A1号などの文献を参照されたい。
【0127】
本発明はまた、これまでに述べたもののような特異的な試薬を含む、上記本発明の方法のいずれか1つを行うのに有用なキット組成物にも関する。それは、例えば、培地成分、選択可能なマーカー、参照サンプル、マイクロアレイ、ベクター、プローブ、容器、多分化能性または多能性細胞を含有している。そのようなキットは典型的に、少なくとも1つの容器に密閉して保留するのに好適な区画化された担体からなる。該担体は、さらに前記方法を実行するのに有用な試薬を含む。該担体はまた、例えば、標識された酵素基質などの検出手段を含む。したがって、本発明はまた、細胞容器、攪拌装置、及び/又は培養細胞、培地およびそれらの成分、多分化能性または多能性細胞、ベクター、蛍光を記録する装置、これまでに記載した本発明の方法に使用するためのマイクロアレイを含む。
【0128】
したがって、これまで記載した本発明の手段および方法は、限定されないが、特異的な遺伝子のホモ接合性突然変異を含むES細胞を用いた「機能損失」アッセイ、外来遺伝子を過剰発現するES細胞を用いた「機能の取得」アッセイ、in vitroでの催奇性/胎児毒性化合物の発生分析、毒性化合物、例えば、心臓毒性もしくは神経毒性化合物の臓器特異的分析、薬理学的アッセイおよび病理学的細胞機能のためのモデル系の確立、ならびに組織移植片のソースとして使用することが可能な選択的に分化した細胞を誘導するための分化および成長因子の適用を含めた種々の用途に用いることができる。例えば、Guanら、Altex 16 (1999)、135-141に概説されている。
【0129】
これらおよびその他の態様が本発明の明細書および実施例に開示され、包含されている。本発明において採用されるべき材料、方法、使用および化合物のいずれかに関するさらに別の文献は、公開されているライブラリおよびデータベースから、例えば、電子機器を用いて検索することができる。例えば、National Institutes of HealthのNational Center for Biotechnology Information及び/又はNational Library Medicineによって管理されている公開のデータベース「メドライン("medline")」を用いてもよい。European Molecular Biology Laboratory (EMBL)の一部であるEuropean Bioinformatics Institute(EBI)のもののような、さらに別のデータベースおよびウェブアドレスが当業者に公知であり、インターネットの検索エンジンを用いて取得することも可能である。後向き研究および現在の認識の研究に有用なバイオテクノロジーの特許情報および関連する特許情報の調査の概観がBerks、TIBTECH 12 (1994)、352-364に記載されている。
【0130】
上記開示は一般的に、本発明を記載している。以下の特別の実施例を参照することによって、より完全に理解することができる。それらは、説明の目的のためだけに提供されているものであり、本発明の範囲を限定することを意図していない。全ての引例(本願全体において引用されている発行された特許、公開された特許出願、および製造元の仕様書、説明書などの引用文献を含む)の内容を引用によってここに明らかに援用する。しかしながら、引用したあらゆる文献が実際に本発明に対する従来技術であると認めるものではない。
【0131】
本発明のプラクティスは、特に記載がなければ、当該技術分野である細胞生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の従来の技法を採用する。
【0132】
幹細胞技法に関する一般的な技法のさらに詳細な説明について、実施者は、標準的な教科書、例えば、奇形癌と胚性幹細胞(Teratocarcinomas and embryonic stem cells):実践的アプローチ(A practical approach )(E. J. Robertson編、IRL Press Ltd. 1987);マウス発生における技法への手引き(Guide to Techniques in Mouse Development)(P. M. Wassermanら編、Academic Press 1993);in vitroでの胚性幹細胞分化(Embryonic Stem Cell Differentiation in Vitro)(Wiles、Meth. Enzymol. 225 (1993)、900,);胚性幹細胞の特性と使用(Properties and uses of Embryonic Stem Cells):ヒト生物学および遺伝子治療への適用の見込み(Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy)(Rathjenら、Reprod. Fertil. Dev. 10 (1998)、31)を参照することができる。幹細胞の分化については、Robertson、Meth. Cell Biol. 75 (1997)、173;およびPedersen、Reprod. Fertil. Dev. 10 (1998)、31において概説されている。上で既に記載した幹細胞のソースの他に、さらなる引例が提供されている。EvansとKaufman、Nature 292 (1981)、154-156;Handysideら、Roux’s Arch. Dev. Biol.、196 (1987)、185-190;Flechonら、 J. Reprod. Fertil. Abstract Series 6 (1990)、25;Doetschmanら、 Dev. Biol. 127 (1988)、224-227;Evansら、 Theriogenology 33 (1990)、125-128;Notarianniら、 J. Reprod. Fertil. Suppl.、43 (1991)、255-260;Gilesら、 Biol. Reprod. 44 (Suppl. 1) (1991)、57; Strelchenkoら、 Theriogenology 35 (1991)、274;Sukoyanら、 Mol. Reprod. Dev. 93 (1992)、418-431;Iannacconeら、 Dev. Biol. 163 (1994)、288-292を参照されたい。
【0133】
分子遺伝子学および遺伝子工学における方法は、分子クローニング(Molecular Cloning)の原版:実験室マニュアル(A Laboratory Manual)、(Sambrookら、(1989) 分子クローニング(Molecular Cloning): 実験室マニュアル(A Laboratory Manual)、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory Press); DNAクローニング、I 、II巻(D. N. Glover編、1985);オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)(M. J. Gait ed.、1984);核酸ハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)(B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984);転写と翻訳(Transcription And Translation)(B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984);動物細胞の培養(Culture Of Animal Cells)(R. I. Freshney、Alan R. Liss、Inc.、1987);哺乳動物細胞への遺伝子伝達ベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells)(Miller & Calos編);分子生物学における現代のプロトコルおよび分子生物学における省略版プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology)、第三編(F. M. Ausubelら編);および組換えDNA方法(Recombinant DNA Methodology)(R. Wu ed.、Academic Press)、哺乳動物細胞への遺伝子伝達ベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells)(J. H. Miller and M. P. Calos eds.、1987、Cold Spring Harbor Laboratory); 酵素学における方法(Methods In Enzymology)、第154巻および155巻(Wuら編);固定化細胞および酵素(Immobilized Cells And Enzymes)(IRL Press、1986);B. Perbal、分子クローニングへの実践的手引き(A Practical Guide To Molecular Cloning)(1984);論文、酵素学における方法(Methods In Enzymology)(Academic Press、Inc.、N.Y.);細胞および分子生物学における免疫化学的方法(Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology)(MayerとWalker編、Academic Press、London、1987);実験免疫学のハンドブック(Handbook Of Experimental Immunology)第I〜IV巻(D. M. WeirとC. C. Blackwell編、1986)に記載がある。この開示において言及されている試薬、クローニングベクターおよび遺伝子操作のためのキットは、BioRad、Stratagene、InvitrogenやClontechなどの業者から市販されているものを入手可能である。細胞培養および培地回収の一般的な技法は、大規模な哺乳動物細胞の培養(Large Scale Mammalian Cell Culture)(Huら、Curr. Opin. Biotechnol. 8 (1997)、148);無血清培地(Serum-free Media)(Kitano、Biotechnology 17 (1991)、73); 大規模な哺乳動物細胞の培養(Large Scale Mammalian Cell Culture)(Curr. Opin. Biotechnol. 2 (1991)、375);および哺乳動物の懸濁培養(Suspension Culture of Mammalian Cells)(Birchら、Bioprocess Technol. 19 (1990)、251)に概説されている。培地およびそれらが培養環境に及ぼす影響についての他の観察がMarshall McLuhanとFred Allenによって成されている。
【実施例】
【0134】
実施例1:高濃度細胞懸濁液からの「胚様体」(EB)の生成および心臓細胞の分化(図1、プロトコル1)
マウス胚性幹細胞(ES細胞、クローンD3、ATCC CRL 1934)を、心臓α−ミオシン重鎖(?−MHC)プロモーターの制御下で緑色蛍光タンパク質を含有するpαMHC−GFPベクターを用いて安定にトランスフェクトした。このベクターを得るために、マウスα−ミオシン重鎖遺伝子(Genbank 471441)のプロモーター領域を含有する5.5kbのフラグメントを、pEGFP−1ベクター(Clontech Laboratories)のポリリンカーに導入した。
【0135】
ES細胞を10cmのペトリ皿(Falcon、Becton Dickinson)上で、15%FCS(Gibco, invitrogen、バッチコントロールされている)および1x10U/mlのLIF(Chemicon)を添加したDMEM(Gibco、Invitrogen)中、フィーダー細胞(不活化されたマウス胚性線維芽細胞、標準的なプロトコルにしたがって調製されている;上記発明の明細書を参照されたい)の層上で、1.4×10の密度で培養した。細胞を37℃、7%CO、湿度95%の条件下でインキュベートした。トリプシン処理を行って、単一の細胞懸濁液とし、フィーダー細胞をコーティングした新鮮な10cm皿上に1.4×10の密度で播種することによって、細胞を毎日分割させた。
【0136】
1以上のペトリ皿のES細胞をトリプシン処理して、単一の細胞懸濁液を取得し、遠心分離によって回収した(800g、5分間)。細胞を、2×10個/mlの密度となるように、20%(v/v)のウシ胎児血清(FBS、Invitrogen、バッチコントロールされている)を追加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、Invitrogen)中に再懸濁させた。
【0137】
EBを作製するために、ES細胞を懸濁液中で、密度2×10個/mlで、6cmペトリ皿(Greiner、Darmstadt、Germany)中、20%FCS(Invitrogen、Karlsruhe、Germany)を添加した4mlのIMDM中で、37℃、5%CO、湿度95%の条件下で、振動台(GFL3006、GFL、Braunschweig、Germany)上で50rpm、6時間培養した。6時間後、懸濁液を、20%FCSを含むIMDMで1:10に希釈し、さらに12〜16時間、好ましくは(ステップ(a)および(b))の合計で18時間、T25細胞培養フラスコ(Falcon、 Becton Dickinson、Heidelberg、Germany)中、ロッキング台上で、37℃、5%CO、湿度95 %でインキュベートした。翌日、EB懸濁液をCOPAS選択粒子ソーター(Union Biometrica、Geel、Belgium)に移し、製造元の指示にしたがって、単一のEBを96ウェルU字形マイクロタイタープレート(Greiner)のウェルに分類した。EBを各ウェル中200μlのIMDM中20%FCSで培養し、37℃、5%CO、湿度95%の条件下でインキュベートした。5日目と10日目、培地を新鮮な培地と交換した。14日目、心臓細胞を表す蛍光領域を、10倍のAchroplan対物レンズ、GFP用HQフィルターセット(AF Analysentechnik、Tubingen、Germany)およびSensicam 12ビット冷却撮像システム(PCO Imaging、Kelheim、Germany)を備えたZeiss Axiovert 200Mを用いて蛍光顕微鏡検査によって検出した。培養の異なる段階のEBの顕微鏡写真を図4に示している。合計の倍率は、図の説明に示したとおりである。
【0138】
実施例2:低濃度細胞懸濁液からの「胚様体」(EB)の生成および心臓細胞の分化(図1、プロトコル2)
ES細胞を実施例1に記載のように培養した。EBを生成するために、ES細胞を懸濁液中に培養した。0.2×10個/mlの密度で、10cmペトリ皿(Greiner, Darmstadt, Germany)上、20%FCS(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を含む10mlのIMDM中で、37℃、5%CO、湿度95%の条件下で振動台(GFL3006、GFL、Braunschweig、Germany)上で、50rpm、48時間培養した。2日目、100〜2000のEBを10cm細菌皿(Greiner) に移し、10mlのIMDM、20%FCSとし、攪拌しながら、あるいは攪拌せずに、37℃、5%CO、湿度95%の条件下でインキュベートした。5日目および7日目、または1日おきに、2000EB/10mlといった高濃度の懸濁液については、10mlの新鮮な培地と交換した。14日目、心臓細胞を表す蛍光領域を、10倍のAchroplan対物レンズ、GFP用HQフィルターセット(AF Analysentechnik、Tubingen、Germany)およびSensicam 12ビット冷却撮像システム(PCO Imaging、Kelheim、Germany)を備えたZeiss Axiovert 200Mを用いて蛍光顕微鏡検査によって検出した。
【0139】
実施例3:胎児毒性化合物がEBの心筋細胞への分化能に及ぼす効果
EB細胞を実施例1に記載のように培養した。1日目、30のEBを細菌学的な6−ウェルプレート(Greiner)の各ウェルに、20%FCSを含む3mlのIMDMとなるように移し、既知の胎児毒性の潜在性を有する試験化合物を図に示すように異なる濃度で添加した(溶媒:DMSO、DMSOの最終濃度:0.1%)。試験化合物を、in vitroでの胎児毒性試験で確認するためにEuropean Center for the Validation of Alternative Methods(ECVAM)(Brown、NA 2002; ATLA 30、177-198)によって推奨されている化合物のリストから選択した。各化合物濃度を3つの個別の実験において3回試験した。EBを37℃、5%CO、湿度95%の条件下で培養した。5日目、培養物にを2mlの新鮮な培地を添加し、新鮮な試験化合物を添加した。14日目、各プレート上のEBを計数し、溶解緩衝液(20mMのトリス−HCl/0.5%のTritonX 100)中に溶解させ、蛍光強度をTecan Safire(登録商標)(Tecan、Crailsheim、Germany)を用いて476/508nmの波長で測定した。試験に導入した全てのEBが処置中、生存するわけではないので、値は100EBの仮の数字に正規化しておいた。次いで正規化された数字を対照値(0.1%DMSOのみ)に対するパーセントとして表した。分化において有意な変化が認められた場合(Student’s t検定)、化合物が胎児毒性を有するものと判定した。図5は、3つの異なる試験化合物、すなわち、フタル酸ジメチル(非胎児毒性)、バルプロン酸(弱い胎児毒性)およびメトトレキサート(強い胎児毒性)の効果を示す。*=p<0.05;**=p<0.01;***=p<0.002。
【0140】
実施例4:心臓毒性化合物の同定
EB細胞を実施例1に記載のように培養した。5日目、5つのEBを24−ウェル組織培養プレート(Falcon、Becton Dickinson)の各ウェルに、20%FCSを含む2mlのIMDMとなるように移し、37℃、5%CO、湿度95%の条件下でインキュベートした。10日目に、培養物の半分を新鮮な培地と交換した。14日目に、蛍光顕微鏡検査によってEBが心臓分化しているかどうかを調べ、蛍光領域を持つEBの蛍光顕微鏡写真は、10倍のAchroplan対物レンズ、GFP用HQフィルターセット(AF Analysentechnik)およびSensicam 12ビット冷却撮像システム(PCO Imaging)を備えたZeiss Axiovert 200Mを用いて撮影した。心臓毒性化合物を図6に示すように異なる濃度で添加した(溶媒:DMSO、DMSOの最終濃度:0.1%)、0.1%のDMSOを陰性対照として使用した。EBを37℃、5%CO、湿度95%の条件下で、さらに3日間インキュベートした。
【0141】
試験化合物を用いたインキュベーションの48時間後および72時間後、蛍光顕微鏡写真を撮影し、AnalySISソフトウェア(Soft Imaging Systems、Munster、Germany)を用いて蛍光領域を計算した。試験化合物を用いた処置後に得た値と、処置前に得た値とを比較した。図6は、3つの異なる化合物、すなわち、デキサメタゾン(非心臓毒性)、ドキソルビシン(心臓毒性)およびエメチン(心臓毒性)がES細胞由来の心筋細胞に72時間以内に及ぼす影響を示している。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】攪拌培養によってEBを作製するための2つの異なるプロトコルのフローチャート(Row chart)を示す図である。
【図2】ES細胞(クローンαMHC−23)の心臓の分化を、EBを高密度懸濁液から取り出した日の関数として示す図である。EB懸濁液の最終希釈の時間ポイントが心臓の分化に及ぼす影響を示す。Y軸(GFP*EBs(%))は、EB内の心臓細胞の相対量を示す。
【図3】ES細胞(クローンαMHC−23)の心臓の分化を、EBの濃度の関数として示す図である。EB懸濁液の最終的な希釈率が心臓の分化に及ぼす影響を示す。Y軸(GFP*EBs(%))は、EB内の心臓細胞の相対量を示す。
【図4】胚様体(EB)の作製および心臓組織への分化を示す。EBは、実施例1に記載したように作製される。6、12および24時間後(位相差、合計倍率50倍)および14日目(蛍光、合計倍率50倍)に撮影した顕微鏡写真を示す。14日目の淡いグレーの領域が心臓細胞を表す。
【図5】異なる試験化合物がEBの分化能に及ぼす影響を示す。図に示すように、EBを作製し、胎児毒性の可能性があることが既知の試験化合物で処理した。試験化合物の濃度は、10-8、10-7、10-6および10-5Mとした。14日目、心臓の分化を表す蛍光強度を、実施例3に記載のように測定し、計算した。*=p<0.05;**=p<0.01;***=p<0.002。
【図6】心臓毒性化合物の同定を示す。実施例3に記載のように、EBを作製し、心臓細胞を分化させた。14日目、図に示したように、EBを記載のように、心臓毒性の可能性があることが既知の試験化合物で処理した。処理前および処理の8および72時間後、顕微鏡写真を撮影した(緑色蛍光を淡いグレーの領域で示している。合計倍率200倍)。実施例4に記載したように心臓細胞を表す蛍光領域を測定し、計算した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多分化能性または多能性細胞から胚様体を作製する方法であって、
(a)細胞凝集物が生成されるまで、多分化能性または多能性細胞の培養物懸濁液を容器中で撹拌すること、および
(b)任意のステップとして前記懸濁液を任意に希釈すること、及びEBが形成されるまで前記懸濁液をさらに撹拌することを含む方法。
【請求項2】
ステップ(a)の前に、前記細胞をマウス胚性線維芽細胞(フィーダー細胞)上で培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多分化能性または多能性細胞は、胚性幹(ES)細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞は、マウスES細胞株に由来する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)及び/又は(b)の培地は、IMDM20%FCSおよび5%COである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)及び/又は(b)の培養条件は、37℃および湿度95%であることを含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
多分化能性または多能性細胞の前記培養物は、濃度が約1×10〜5×10細胞/mlである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)の前記懸濁液を約6時間培養する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記懸濁液を約16〜20時間培養する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)の前記懸濁物をT25フラスコ内で培養する、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)での前記希釈は1:10である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
懸濁培養物中のEBの最終濃度は、約500/mlである、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞凝集物を分割して、所望の最終濃度にすることをさらに含む、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
多分化能性または多能性細胞の前記培養物は、濃度が約0.1×10〜0.5×10細胞/mlである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法
【請求項15】
前記懸濁液を約48時間培養する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
得られたEBを濃度約100〜2000EB/10mlに希釈する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞を少なくとも1つの細胞タイプに分化させる条件下で、前記細胞を培養することをさらに含む、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞タイプは、心筋細胞、神経細胞、内皮細胞、上皮細胞、肝実質細胞、線維芽細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞および軟骨細胞から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
所望の細胞タイプを1以上の選択マーカー及び/又は試薬を用いて選択することをさらに含む、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞は遺伝子操作されたものである、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞は、選択マーカー及び/又はレポーター遺伝子を含む、請求項1乃至20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞は、細胞タイプ特異的制御配列に作動的に結合した選択マーカー遺伝子を含む、請求項1乃至21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記選択マーカーは、ピューロマイシンに対する耐性を付与する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞は、細胞タイプ特異的制御配列に作動的に結合したレポーター遺伝子を含む、請求項1乃至23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記レポーター遺伝子の前記細胞タイプ特異的制御配列は、前記マーカー遺伝子の前記細胞タイプ特異的制御配列とほぼ同じである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記レポーターは、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の異なる色の種類から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記マーカー遺伝子および前記レポーター遺伝子は、同じ組換え核酸分子に含有される、請求項22乃至26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記マーカー遺伝子および前記レポーター遺伝子は、同じシストロンに含有される、請求項27に記載の方法
【請求項29】
前記細胞タイプ特異的制御配列は、心房特異的及び/又は心室特異的である、請求項22乃至28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記制御配列は、αMHCまたはMLC2vのプロモーターのいずれかから選択される、心臓特異的制御配列である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1乃至30のいずれか1項に記載の方法によって得た胚様体。
【請求項32】
請求項31に記載の胚様体に由来する、分化した細胞または組織。
【請求項33】
前記細胞が心筋細胞である、請求項32に記載の分化した細胞。
【請求項34】
薬物を同定および/もしくは取得、または化合物の毒性を決定するための方法であって、
(a)請求項31の胚様体(EB)を含む試験サンプルを、スクリーニングする試験物質と接触させること、および
(b)試験物質がEBまたはレポーター遺伝子生成物の量に及ぼす影響、または対照サンプルと比較した活性を決定することを含む方法。
【請求項35】
前記EBへ及ぼす影響は、分化した細胞の特徴である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記方法は、マイクロウェルプレートまたはアレイ上で行われる、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記アレイは、マイクロ電極アレイ(MEA)である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記胚様体は、心臓細胞からなる、請求項34乃至37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記胚様体の蛍光を決定することを含む、請求項34乃至38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
請求項34乃至39のいずれか1項に記載の方法であって、
(i)蛍光を測定することによって、胚様体内の心臓細胞の量を測定すること、
(ii)心臓特異的な特徴を測定すること、および、任意に
(iii)細胞生存度及び/又はアポトーシス事象を測定することを含む方法。
【請求項41】
請求項31に記載の胚様体または請求項32もしくは33に記載の細胞もしくは組織を含む、薬学的組成物。
【請求項42】
請求項31に記載の胚様体または請求項32もしくは33に記載の細胞もしくは組織を、特異的な遺伝子の機能損失アッセイ、外来遺伝子の機能取得アッセイ、催奇性/胎児毒性化合物の発生分析、薬理学的アッセイ、マイクロアレイシステム、病理学的細胞機能のためのモデル系の確立、選択的に分化した細胞を誘導するための、あるいは組織移植片のソースとしての、分化および成長因子の適用を調べるための、請求項1乃至30のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項43】
培地成分、選択可能なマーカー、対照サンプル、マイクロアレイ、ベクター、プローブ、容器または多分化能性もしくは多能性細胞を含む、請求項1乃至30または34乃至40のいずれか1項に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項44】
請求項1乃至30及び34乃至40のいずれか1項に記載の方法に使用するための、細胞容器、細胞を撹拌及び/又は培養するための装置、培地およびその成分、多分化能性もしくは多能性細胞、ベクター、蛍光リーダーもしくは顕微鏡、またはマイクロアレイの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−513107(P2009−513107A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518153(P2006−518153)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007530
【国際公開番号】WO2005/005621
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(505460260)
【氏名又は名称原語表記】AXIOGENESIS AG
【住所又は居所原語表記】Nattermannallee 1,Gebaude S20,50829 Koln,Germany
【Fターム(参考)】