新規の糖タンパク質及びそれを含有する医薬組成物
(a)分子量が約60kDaであり、(b)糖質とタンパク質との含有比率(糖質:タンパク質)が16.4:1.0である、新規糖タンパク質を開示する。前記糖タンパク質は、(1)マツタケをアルカリ溶液又は熱水で抽出し、(2)得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させ、(3)前記陰イオン交換樹脂から、溶離液により吸着画分を溶出させ、(4)ゲル濾過により、分子量50〜70kDaの画分を取得することにより、調製することができる。
前記糖タンパク質は、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤の有効成分として有用である。
前記糖タンパク質は、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤の有効成分として有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の糖タンパク質並びにそれを含有する医薬組成物、例えば、新規免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤に関する。本発明の免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、若しくは抗腫瘍剤、又は本発明の新規糖タンパク質は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、健康食品(好ましくは機能性食品)又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。なお、前記食品には飲料が含まれる。更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。なお、本明細書における免疫増強活性には、抗腫瘍活性が含まれる。
【背景技術】
【0002】
マツタケ[Tricholoma matsutake(S.Ito & Imai)Sing.]には種々の生理活性物質が含まれていることが知られており、例えば、特許文献1及び特許文献2には、マツタケに含有される各種の抗腫瘍性物質が開示されている。前記特許文献1には、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水又は希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、及びエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示されている。また、前記特許文献2には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量=10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【0003】
また、本発明者は、マツタケ熱水抽出液、マツタケのアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分が、免疫増強活性を有することを既に見出している(特許文献3)。
更に、本発明者らは、特定のマツタケ株を特定の培養方法により培養して得られた菌糸体由来の部分精製画分に、免疫増強作用及びストレス負荷回復促進作用があることも既に見出している(特許文献4)。なお、前記特許文献4に記載の前記部分精製画分は、理化学的性質の点で、公知の画分(例えば、前記特許文献3に記載の陰イオン交換樹脂吸着画分)とは異なる画分である。
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号明細書
【特許文献3】国際公開第WO01/49308号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO03/070264号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、免疫増強活性及び/又はストレス負荷回復促進活性を有するマツタケ由来の前記抽出液又は画分に含まれる活性本体の精製を試みたが、天然由来高分子物質の複雑きわまる特性(特に糖タンパク質)の点で、単一ピークとして単離することは容易なことではなかった。しかし、イオン交換分離の後、分子量分画操作を組み合わせたところ、免疫増強活性、ストレス負荷回復促進活性、及び抗腫瘍活性を有する化合物を単一ピークとして単離することに成功し、更に、それが新規の糖タンパク質であることを新たに見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0005】
従って、本発明の課題は、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、及び/又は抗腫瘍剤の有効成分として有用な、新規の糖タンパク質を提供し、更に、それを含有する新規の医薬組成物、例えば、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明による、下記の性質を有する糖タンパク質:
(a)分子量:約60kDa(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(b)糖質とタンパク質との含有比率:(糖質:タンパク質)16.4:1.0
により解決することができる。
また、本発明は、(1)マツタケをアルカリ溶液又は熱水で抽出する工程、
(2)得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、
(3)前記陰イオン交換樹脂から、適当な溶離液により吸着画分を溶出する工程、及び
(4)前記溶出工程で得られた溶出画分を、ゲル濾過により分画し、分子量50〜70kDaの画分を取得する工程
を含む製造方法により調製することのできる、糖タンパク質に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する、医薬組成物に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を、免疫増強が必要な対象に、有効量で投与することを含む、免疫増強方法に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を、ストレス負荷回復促進が必要な対象に、有効量で投与することを含む、ストレス負荷回復促進方法に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を、腫瘍の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することを含む、腫瘍の治療又は予防する方法に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質の、免疫増強剤若しくは免疫増強用医薬組成物、ストレス負荷回復促進剤若しくはストレス負荷回復促進用医薬組成物、又は抗腫瘍剤若しくは抗腫瘍用医薬組成物を製造するための使用に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の免疫増強剤によれば、免疫増強が必要な対象の免疫能を増強することができる。また、本発明のストレス負荷回復促進剤によれば、ストレス負荷に対する回復を促進することができる。更に、本発明の抗腫瘍剤によれば、腫瘍を治療又は予防することができる。本発明の糖タンパク質は、前記免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤の有効成分として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[1]本発明の糖タンパク質
本発明の糖タンパク質は、以下の性質を有する。
(1)分子量:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により決定される分子量が約60kDa(50〜70kDa)である。
(2)タンパク質含量及び糖質含量:本発明の糖タンパク質の加水分解により得られるアミノ酸量を基に算出したところ、38.42μg/mgである。また、本発明の糖タンパク質の加水分解により得られる単糖量を基に算出したところ、628.72μg/mgである。糖質とタンパク質との比率(糖質:タンパク質)は、16.4:1.0である。
(3)脂肪酸含量:ステアリン酸(C18:0)1.86μg/mg、パルミチン酸(C16:0)1.84μg/mg、オレイン酸[C18:1(9)]1.52μg/mg、リノール酸[C18:2(9,12)]0.94μg/mg、及びミリスチン酸(C14:0)0.55μg/mgである。
(4)アミノ酸組成:アスパラギン酸及びアスパラギン9.65mol%、トレオニン6.15mol%、セリン6.83mol%、グルタミン酸及びグルタミン10.19mol%、グリシン8.74mol%、アラニン9.84mol%、バリン6.94mol%、1/2−シスチン0.15mol%、メチオニン1.31mol%、イソロイシン5.47mol%、ロイシン9.55mol%、チロシン2.64mol%、フェニルアラニン4.09mol%、リシン4.99mol%、ヒスチジン1.97mol%、アルギニン5.00mol%、トリプトファン1.17mol%、及びプロリン5.33mol%である。
(5)中性糖組成:グルコース561.45μg/mg、マンノース16.68μg/mg、ガラクト−ス42.65μg/mg、及びフコース9.57μg/mgである。なお、キシロースは検出限界以下である。
(6)アミノ糖組成:グルコサミン0.36μg/mgである。なお、マンノサミンは検出限界以下である。
(7)円偏光二色性分析(CD):図7に示すスペクトルを示す。
(8)核磁気共鳴(NMR)分析
(i)1H一次元NMR分析:本発明の糖タンパク質は、図8に示すスペクトルを示す。
ヒドラジン処理により本発明のタンパク質からタンパク質を除いた場合には、図9に示すスペクトルを示す。
(ii)13C一次元NMR分析:本発明の糖タンパク質は、図10に示すスペクトルを示
す。ヒドラジン処理により本発明のタンパク質からタンパク質を除いた場合には、図11に示すスペクトルを示す。
(9)糖質部の糖結合位置:本発明の糖タンパク質における糖質部は、表6に示す各結合様式を、表6に示す割合で含む。1→4結合のグルコースが主要な結合である。
(10)赤外分光分析(IR):図12に示すスペクトルを示す。
(11)紫外分光分析(UV):図13に示すスペクトルを示す。
【0009】
本発明の糖タンパク質は、前記性質を示す限り、その由来は特に限定されるものではないが、例えば、マツタケから分離することができる。
前記マツタケとしては、例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体若しくは培養物(Broth)を挙げることができる。培養に用いる前記マツタケとしては、例えば、国際公開第WO02/30440号パンフレットに記載のマツタケFERM BP−7304株を挙げることができる。前記マツタケFERM BP−7304株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[(旧)工業技術院生命工学工業技術研究所(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)]に平成12年9月14日より寄託しているものである。このマツタケFERM BP−7304株は、京都府亀岡市で採取したマツタケCM6271株から子実体組織を切り出し、試験管内で培養することにより、菌糸体継代株を得たものであり、呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で維持している。
【0010】
本発明の糖タンパク質は、以下の操作に限定されるものではないが、例えば、
マツタケをアルカリ溶液又は熱水で抽出する工程(以下、抽出工程と称する)、
得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させる工程(以下、陰イオン交換樹脂吸着工程と称する)、
前記陰イオン交換樹脂から、適当な溶離液により吸着画分を溶出する工程(以下、溶出工程と称する)、
前記溶出工程において、以下に示す溶出条件で溶出された所定画分を、ゲル濾過により分画し、分子量50〜70kDaの画分を取得する工程(以下、ゲル濾過分画工程と称する)
を含む製造方法により、調製することができる。なお、本発明の糖タンパク質には、前記製造方法により調製された糖タンパク質が含まれるだけでなく、前記製造方法により調製された糖タンパク質と同じ性質を示す糖タンパク質である限り、前記製造方法以外の製法で調製された糖タンパク質も含まれる。
【0011】
前記抽出工程において、マツタケとして子実体又は菌糸体を用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
抽出工程で熱水を用いる場合には、その熱水の温度は、60〜100℃であることが好ましく、80〜98℃であることがより好ましい。また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、マツタケの状態(すなわち、子実体、菌糸体、又は培養物のいずれの状態であるか、あるいは、破砕物又は粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常、1〜6時間であり、2〜3時間であることが好ましい。
【0012】
抽出工程でアルカリ溶液を用いる場合には、前記アルカリ溶液としては、これに限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。前記アルカリ溶液のpHは、8〜13であることが好ましく、9〜12であることがより好ましい。アルカリ溶液抽出工程は、0〜20℃で実施することが好ましく、0〜15℃で実施することがより好ましい。アルカリ抽出工程で得られた抽出液は、中和処理を実施してから次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。
【0013】
抽出工程で得られた抽出液は、不溶物が混在する状態で、そのまま、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることもできるが、不溶物を除去してから、あるいは、不溶物を除去し、更に、抽出液中の低分子画分を除去してから、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることが好ましい。例えば、不溶物が混在する抽出液を遠心分離することにより不溶物を除去し、得られる上清のみを、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。あるいは、不溶物が混在する抽出液を遠心分離して得られる前記上清を透析し、低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。
【0014】
また、抽出工程で得られた抽出液は、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いる前に、脱脂工程を実施することもできる。なお、この脱脂工程と前記不溶物及び/又は低分子画分除去工程は、いずれか一方のみを実施することもできるし、両方を実施することもできる。
前記脱脂工程に用いる有機溶媒としては、例えば、脂溶性有機溶媒(例えば、クロロホルム、メタノール、エーテル、エタノール、酢酸エチル、又はヘキサン等)又はそれらの混合物(例えば、クロロホルムとメタノールとの混合液)を用いることができ、クロロホルムとメタノールとの混合液が好ましい。前記有機溶媒としてクロロホルムとメタノールとの混合液を使用する場合には、その混合比[クロロホルム:メタノール(v/v)]は、例えば、10:1〜1:10であることができる。脱脂工程は、15〜30℃の温度で実施することが好ましい。
【0015】
陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることのできる陰イオン交換樹脂としては、公知の陰イオン交換樹脂を用いることができ、例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)セルロース又はトリエチルアンモニオエチル(TEAE)セルロースを挙げることができる。
【0016】
溶出工程に用いる溶離液は、陰イオン交換樹脂吸着工程に用いる陰イオン交換樹脂の種類に応じて適宜決定することができ、例えば、塩化ナトリウム水溶液などを挙げることができる。溶出工程により溶出される画分の内、以下に示す溶出条件で溶出された画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB)を、次のゲル濾過分画工程に使用することができる。
例えば、前記吸着工程において、陰イオン交換樹脂として、例えば、DEAE TOYOPEARL PAK 650M充填カラム(φ22mm,h20cm)]を使用し、吸着させるサンプルを50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH7.2)に溶解させてアプライした場合、溶出工程において、溶出液A(50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)及び溶出液B(1mol/L塩化ナトリウム含有50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)のリニアグラジエント溶出を流速5mL/minで行い、12分〜15分(液量15mL)に溶出される画分を、次のゲル濾過分画工程に使用することができる。
【0017】
ゲル濾過分画工程は、常法に従って実施することができ、分子量50〜70kDaの画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB−1−2)を取得することにより、本発明の糖タンパク質が単一ピークとして含まれる画分を取得することができる。ゲル濾過分画工程は、分画範囲の異なる複数(例えば、2種類)のゲル濾過カラムを用いて複数段階(例えば、2段階)で実施することができ、例えば、分画範囲が分子量1×103〜1×105Daであるゲル濾過カラムを使用し、前記ゲル濾過カラムにより分画された分子量10kDa以上の画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB−1)を、続いて、分画範囲が分子量4×104〜2×107Daであるゲル濾過カラムにアプライし、分子量50〜70kDaの画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB−1−2)を取得することができる。
【0018】
[2]本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物、特には、本発明の免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤は、有効成分として、本発明の糖タンパク質を含有する。
本発明の免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤は、有効成分としての本発明の糖タンパク質を、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)に投与することができる。すなわち、本発明の組成物(好ましくは医薬組成物)、例えば、本発明の免疫増強組成物(好ましくは免疫増強医薬組成物)、ストレス負荷回復促進組成物(好ましくはストレス負荷回復促進医薬組成物)、又は抗腫瘍組成物(好ましくは抗腫瘍医薬組成物)は、有効成分としての本発明の糖タンパク質と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する。
【0019】
本発明の免疫増強剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、免疫増強活性を有する。前記免疫増強活性には、例えば、国際公開第WO03/070264号パンフレットに記載の各種活性、例えば、抗腫瘍活性[例えば、担癌個体における生存期間の延長活性、抗原発腫瘍活性(特には、原発腫瘍の増殖抑制活性)、又は抗転移活性(特には、転移巣の増殖抑制活性)]、キラー活性誘導促進活性(特には、腸管リンパ球のキラー活性誘導促進活性)、腫瘍細胞認識増強活性、インターロイキン12(IL−12)遺伝子発現増強活性、又は血清IAP値上昇活性、あるいは、TGF−β(免疫抑制物質の1つ)活性抑制活性などが含まれる。
本発明の免疫増強剤による治療又は予防の対象となる疾病としては、例えば、癌、感染症、自己免疫疾患、慢性疲労症候群、又は生活習慣症などを挙げることができる。
【0020】
本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、免疫増強が必要な対象に、有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、免疫増強組成物(好ましくは免疫増強医薬組成物)、免疫増強健康食品(好ましくは免疫増強機能性食品)、あるいは、免疫増強用のオーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0021】
本発明のストレス負荷回復促進剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、ストレス負荷に対する回復促進活性を有する。本発明のストレス負荷回復促進剤による治療又は予防の対象となる疾病としては、例えば、癌、感染症、自己免疫疾患、慢性疲労症候群、又は生活習慣症などを挙げることができる。
本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、ストレス負荷に対する回復促進が必要な対象に、有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、ストレス負荷に対する回復促進組成物(好ましくは、ストレス負荷に対する回復促進医薬組成物)、ストレス負荷に対する回復促進健康食品(好ましくは、ストレス負荷に対する回復促進機能性食品)、あるいは、ストレス負荷に対する回復促進用のオーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0022】
一般に、動物に対して、単発的に、あるいは、或る期間に亘ってストレスを与えると、通常、その動物における免疫能は低下するが、前記ストレス負荷から解放されると、自発的な免疫力の回復が起こる。本明細書における「ストレス負荷に対する回復促進活性(ストレス負荷回復促進活性)」とは、ストレス負荷から開放した後、免疫力回復期における免疫力の回復を、自発的な回復よりも促進する活性を意味する。
本発明のストレス負荷回復促進剤の投与時期は、ストレス負荷により一時的に低下した免疫力を、その投与により回復促進可能である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ストレス負荷の前、ストレス負荷中、及び/又はストレス負荷から開放した後の免疫力回復期に投与することができる。
【0023】
なお、本発明における前記「ストレス負荷回復促進活性」は、本発明者が見出した前記の単なる「免疫増強活性」とは異なる。すなわち、「免疫増強活性」とは、そのような活性を有する有効成分を投与した場合に、投与前の状態(ストレスの負荷がなく、免疫力が通常の状態であることもできるし、あるいは、ストレス負荷により、免疫力が低下している状態であることもできる)と比較して、免疫力の向上がみられる活性を一般に意味し、従って、免疫力それ自体を向上させる活性である。一方、本発明における「ストレス負荷回復促進活性」とは、前述のように、免疫力回復期における免疫力の回復を促進する活性であって、従って、免疫力の回復速度を向上させる活性である。本発明のストレス負荷回復促進剤を投与すると、本発明のストレス負荷回復促進剤を投与しない場合と比較して、免疫力の回復速度が上昇する。
【0024】
更には、「免疫増強活性」においては、そのような活性を有する有効成分を投与すると、直接的に、免疫力の向上がみられるのに対して、本発明のストレス負荷回復促進剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質を、予め、ストレスを負荷する前に対象動物に投与しておくと、ストレス負荷中及び免疫力回復期中に、本発明の糖タンパク質を投与しなくても、免疫力回復期において免疫力の回復が促進される。この点においても、本発明における「免疫増強活性」と本発明における「ストレス負荷回復促進活性」とは、異なる活性である。
【0025】
本発明の抗腫瘍剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、抗腫瘍活性を有する。なお、前記抗腫瘍活性は免疫増強活性に含まれる。前記抗腫瘍活性には、例えば、担癌個体における生存期間の延長活性、抗原発腫瘍活性(特には、原発腫瘍の増殖抑制活性)、又は抗転移活性(特には、転移巣の増殖抑制活性)などが含まれる。本発明の抗腫瘍剤による治療又は予防の対象となる癌としては、例えば、肺癌、胃癌、肝臓癌、結腸・直腸癌、膵臓癌、食道癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、肉腫、メラノーマ、又は白血病などを挙げることができる。
【0026】
従って、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、腫瘍の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、抗腫瘍組成物(好ましくは抗腫瘍医薬組成物)、抗腫瘍健康食品(好ましくは抗腫瘍機能性食品)、あるいは、抗腫瘍用のオーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0028】
これらの経口剤は、例えば、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0029】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。
例えば、注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
また、本発明の医薬組成物は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の医薬組成物をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療又は予防すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0030】
本発明の医薬組成物は、これに限定されるものではないが、本発明の糖タンパク質を、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
本発明の医薬組成物を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。
【0031】
また、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、健康食品(好ましくは機能性食品)又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。なお、前記食品には飲料が含まれる。
食品には、(1)栄養素としての働き(第一次機能)、(2)人間の五感に訴える働き(第2次機能)の他に、(3)人間の健康、身体能力、又は心理状態に好ましい影響を与える働き(第3次機能)、例えば、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統を調節して、健康の維持や健康の回復に好ましい効果を及ぼす働きがあることが知られている。本明細書において「健康食品」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品を意味し、「機能性食品」とは、前記「健康食品」の中でも、前記の種々の生体調節機能(すなわち、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統の調節機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品を意味する。
【0032】
更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、本発明の糖タンパク質を、添加剤(例えば、食品添加剤)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤等に添加することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
《実施例1:活性の評価方法》
後述の実施例2で実施したマツタケFERM BP−7304株菌糸体及びそれに由来する各画分の活性の評価方法として、(1)ストレス負荷に対するナチュラルキラー[Natural Killer(以下、NKと称する)]細胞の回復促進活性、及び(2)ヒト遺伝子組み替えトランスフォーミング増殖因子[Transforming
Growth Factor-β1(以下、TGF−β1と称する)]結合活性を用いた。
【0035】
(1)ストレス負荷に対するNK細胞活性回復促進活性の評価
ストレス負荷に対するNK細胞活性回復促進活性は、評価用サンプルをマウスに10日間経口投与した後、拘束ストレスを18時間負荷し、ストレス解放後のNK細胞活性を測定することにより、評価した。
具体的には、日本チャールズリバーから購入した8週齢雄性C57BL/6マウス(各群=5匹)に、評価用サンプルの水溶液を10日間に亘って、通常の飼育ケージ中で経口投与(マツタケ菌糸体の300mg/kg/日相当量)した。続いて、マウスを前記飼育ケージから取り出し、空気抜けの穴を開けた50mL容のキャップ付きポリプロピレン製遠心用チューブ(カタログ番号2341-050;テクノグラス社)にマウスを1匹ずつ閉じ込めた。このチューブ中に閉じ込められたマウスは、身動きができない状態となった。次に、それらのチューブを飼育用ケージに戻し、18時間その状態で放置することにより、拘束ストレスを与えた。18時間のストレスの後、チューブからマウスを取り出し、飼育用ケージに戻し、普通の環境下で飼育した。
【0036】
前記拘束ストレスを解放してから、7日後にマウスを屠殺し、Greenbergらの方法により(Greenberg AHら, J Exp Psychol, 12, 25-31, 1986)、以下の手順に従って、試験管内でNK感受性の腫瘍細胞株YAC−1に対するリンパ節細胞の細胞傷害活性を測定することにより、ナチュラルキラー(NK)細胞活性を評価した。
すなわち、マウスから脾臓を無菌的に取り出し、ハンクス平衡塩類溶液(Hanks
Balanced Salt Solution)を入れた無菌シャーレに移した。はさみとピンセットとでリンパ節をほぐした後、メッシュを通してリンパ球の単細胞液を調製した。10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理を実施)添加RPMI1640培地で細胞を3回洗浄した後、20mmol/Lの4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルフォン酸、及び20μg/mLゲンタマイシンをそれぞれ添加したRPMI1640培地で、細胞濃度を5x106個/mLに調整して得た細胞懸濁液をエフェクター細胞として用いた。
【0037】
一方、標的細胞として用いたYAC−1細胞は、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地中で、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所で継代維持したものである。前記YAC−1細胞にクロム酸ナトリウム(アマ−シャムジャパン)を加え、37℃で20分間反応させた。未結合の放射性クロム酸ナトリウムを、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地で3回洗浄することにより除去し、放射性クロム標識腫瘍細胞を5x104個/mLに調整した。
【0038】
先に調整した前記エフェクター細胞懸濁液又はその2倍希釈系列と、前記放射性クロム標識腫瘍細胞とを、試験管に0.1mLずつ加え、37℃の5%炭酸ガス培養器中で4時間反応させた。なお、この際、後述する特異的傷害率を算出するために、放射性クロム標識腫瘍細胞と培地とを試験管に加えた懸濁液、そして、放射性クロム標識腫瘍細胞と界面活性剤(トリトン;最終濃度=0.05%)とを試験管に加えた懸濁液についても、37℃の5%炭酸ガス培養器中で4時間反応させた。反応終了後、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地をそれぞれの試験管に1.5mLずつ加え、ミキサーでよく混合した後、遠心分離(1200rpm,5分間,4℃)して、上清を分離し、放射活性をガンマカウンターを用いて測定した。
【0039】
特異的傷害率[Specific Lysis;S.L.(単位=%)]は、式:
[S.L.]={(B−Bf)/(Bmax−Bf)}x100
[式中、Bは実験群上清の放射活性(単位=Bq)であり、Bfは自然遊離群上清の放射活性(単位=Bq)であり、Bmaxは最大遊離群の放射活性(単位=Bq)である]
から算出し、エフェクター細胞107個当り30%の腫瘍細胞を傷害する細胞数、すなわち、「30%傷害単位(Lytic Units 30%;LU30)」でNK細胞活性を算出した。そして、評価用サンプルのNK細胞活性値が、対照の蒸留水投与群のNK細胞活性値に対し、有意に促進されている場合(p<0.05)に「促進活性あり」、有意差がない場合(p>0.05)に「促進活性なし」と表示した。
【0040】
(2)TGF−β1結合活性の評価
TGF−β1結合活性は、TGF−β1標品と評価用サンプルとを試験管内で2時間反応させた後、酵素免疫測定法により、結合TGF−β1を定量することにより、評価した。
具体的には、タンパク質吸着の少ないポリプロピレンチューブ(マルチシリコナイズチューブ,Safe Seal Microcentrifuge Tube;フナコシ)中で、TGF−β1標品(フナコシ)を2%アルブミン含有リン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、100ng/mL溶液に調整した。一方、評価用サンプルを2%アルブミン含有リン酸緩衝液に溶解させ、2mg/mL濃度に調整した。前記TGF−β1溶液と評価用サンプル溶液の段階希釈溶液とを0.5mLずつ、タンパク質吸着の少ないチューブに入れ、22℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液中のTGF−β1含量を市販の測定キット(Quantikine
human TGF-β1 ELISA kit;フナコシ)を用いて測定した。
【0041】
結合率(単位=%)は、式:
[結合率(%)]={(Tc−T)/Tc}x100
[式中、Tは評価用サンプル添加群のTGF−β1実測値(単位=ng/mL)であり、Tcは2%アルブミン含有リン酸緩衝液添加群のTGF−β1実測値(単位=ng/mL)である]により算出した。そして、評価用サンプルのTGF−β1結合率が、30%以上の場合に「結合活性あり」、30%以下の場合に「結合活性なし」と表示した。
【0042】
《実施例2:マツタケFERM BP−7304株菌糸体の乾燥粉末からの活性画分の単離》
マツタケFERM BP−7304株菌糸体の乾燥粉末(ロット番号:M65T1Y1)2.0gを、500mL容の三角フラスコに入れ、これに0.2mol/Lの水酸化ナトリウム100mLを添加し、23℃でスターラー攪拌下、1時間抽出した。遠心分離(12000rpm,30分間,4℃)の後、1.0mol/Lの塩酸でpHを7.0に調整し、上清(アルカリ抽出液)と沈殿(アルカリ抽出残渣)を回収した。アルカリ抽出液を、500mL容の分液ロートに入れ、次いでクロロホルムとメタノールとの混合液[1:1(v/v);以下、ChMeと称する]を100mL加え、23℃で抽出した。水層部とChMe層部をそれぞれ回収し、凍結乾燥を実施し、それぞれの粉末0.5gと0.05gを得た。生物活性は水層部にみられた(表1)。
【0043】
【表1】
N.D.;未試験
【0044】
次に、水層部粉末0.5gを0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液(pH7.2)5mLに溶解し、前以て0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で平衡化させたジエチルアミノエチル(DEAE)TOYOPEARL PAK 650M充填カラム(φ22mm,h20cm)にアプライし、溶出液A(50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)及び溶出液B(1mol/L塩化ナトリウム含有50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)のリニアグラジエント溶出を流速5mL/minで行い、280nmの吸収度を指標に分画した。
その結果、図1に示すようなパターンを示した。得られたピークを5つに分け、各画分を分画分子量13000の透析膜中(外液は蒸留水)で20時間以上透析した後、各透析膜内画分について、それぞれの生物活性を測定したところ、活性はフラクションBにみられた(表2)。
【0045】
【表2】
N.D.;未試験
【0046】
更に、B画分の前記透析膜内画分を、0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で前以て平衡化させたセファクリル(Sephacryl)S−100(ファルマシア社)充填カラム(φ16mm,h300mm)にアプライし、同緩衝液で溶出させ、280nmの吸収度を指標に分画した。その結果、図2に示すようなパターンを示し、得られたフラクションを3つに分け、生物活性を測定したところ、活性はフラクションB−1にみられた(図3及び表3)。
【0047】
【表3】
【0048】
フラクションB−1を、0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で前以て平衡化させたセファクリル(Sephacryl)S−500(ファルマシア社)充填カラム(φ16mm,h600mm)にアプライし、同緩衝液で溶出させ、280nmの吸収度を指標に分画した。その結果、図4に示すようなパターンを示し、得られたフラクションを3つに分け、生物活性を測定したところ、活性はフラクションB−1−2にみられた(表4)。
【0049】
【表4】
【0050】
フラクションB−1−2を、0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で前以て平衡化させたC18逆相カラムであるIntesil EP300(GLサイエンス社)充填カラム(φ4.5mm,h150mm)にアプライし、A溶液(0.05%ギ酸)及びB溶液[アセトニトリル/水(90/10)+0.05%ギ酸]のリニアグラジエントで溶出させ、280nmの吸収度を記録した。その結果、図5に示すような単一ピーク(以下、PGと称することがある)を示した。生物活性も確認された(表5)。初発物質に比べ、比活性は、TGF−β1結合活性で約33倍、NK細胞回復促進活性で約60倍に増加した。
【0051】
【表5】
【0052】
《実施例3:活性構造の解析》
(1)ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)分析
実施例2で得られたPGの5μgを水10μLに溶解した後、泳動バッファー(0.25mol/L−Tris−HCl,2%SDS,10%メルカプトエタノール,30%グリセロール,0.01%ブロモフェノールブルー)10μLを加え、65℃で15分間熱変性させ、電気泳動を実施した。条件は以下のとおりである。
・ゲル:PAGミニ「第一」15/25(第一化学)
・泳動用緩衝液:トリスグリシン・ランニングバッファー(第一化学)
・泳動条件:35mAで60分間泳動を行った。
・MWマーカー:各バンド(MW=97400,66300,42400)(第一化学)
・染色:銀染色
その結果、図6に示すように、分子量が約60kDa付近に1本のスポットが検出された。
【0053】
(2)アミノ酸組成分析
酸加水分解は、以下の手順で実施した。すなわち、PG6.30mgを秤量し、純水3.15mLに溶解した後、0.22μmのフィルターで濾過し、2mg/mLの溶液を得た。この溶液200μLをガラス試験管に採取し、エバポレーターで減圧乾固した。次いで、6mol/L塩酸200μLを添加し、110℃で22時間加水分解の後、エバポレーターで減圧乾固して残渣を得た。残渣を純水100μLに溶解し、その50μLをアミノ酸分析に用いた。
【0054】
また、アルカリ加水分解(トリプトファン分析用)は、以下の手順で実施した。すなわち、前記PG溶液(2mg/mL)1mLをエッペンドルフチューブに入れて減圧乾固した後、可溶性デンプン(Starch Soluble)5mgを含む4.2mol/L水酸化ナトリウム溶液100μLを加えた。このチューブをガラス試験管に入れ、真空封管下、110℃で16時間加水分解した。空冷後、開封し、チューブを氷中で冷却し、6mol/L塩酸30μLを添加し、中和した。更に、精製水420μLを添加して総量を500μLとし、その50μLをアミノ酸分析に用いた。
アミノ酸分析の装置として日立L−8500型アミノ酸分析計(日立製作所)を使用し、ニンヒドリン発色により定量した。
【0055】
分析の結果、アミノ酸組成は、アスパラギン酸及びアスパラギン9.65mol%、トレオニン6.15mol%、セリン6.83mol%、グルタミン酸及びグルタミン10.19mol%、グリシン8.74mol%、アラニン9.84mol%、バリン6.94mol%、1/2−シスチン0.15mol%、メチオニン1.31mol%、イソロイシン5.47mol%、ロイシン9.55mol%、チロシン2.64mol%、フェニルアラニン4.09mol%、リシン4.99mol%、ヒスチジン1.97mol%、アルギニン5.00mol%、トリプトファン1.17mol%、及びプロリン5.33mol%であった。
【0056】
(3)タンパク質部N末端の分析
PGをPVDF(polyvinylidene difluoride)膜にブロッティング後、電気泳動後のゲルをPVDF膜に載せ、50mAで2時間、ブロッティングした。なお、ブロッティングバッファーには、電気泳動バッファーに10%容量のメタノールを加えた溶液を用いた。ブロッティング後、クーマシーブリリアントブルー(CBB)染色液[2.5%(w/v)CBB R−250,25%(w/v)エタノール,10%(w/v)酢酸]中で15分間振盪後、脱色液[25%(w/v)エタノール,10%(w/v)酢酸]で余分な染色が取れるまで脱色を行った。そして、目的のバンドを切り出し、アミノ酸シーケンス分析に用いた。
【0057】
気相シーケンサーによるN末端のアミノ酸分析は下記条件で行った。すなわち、試料を50%メタノール/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)、メタノールで洗浄後、乾燥し、下記の機器を用いてエドマン分解を実施し、N末端より8残基までアミノ酸配列検出を試みた。
・プロテインシーケンサー:Procise cLC 492cLC(アプライドバイオシステムズ)
・PTHアナライザー:140D(アプライドバイオシステムズ)
・UV検出器:S200(アプライドバイオシステムズ)
・分析プログラム:Pulsed-liquid ProSorb cLC
【0058】
その結果、エドマン分解の各サイクルで複数のフェニルチオヒダントイン(PTH)標識アミノ酸が検出され、且つ各サイクル前後で増減あるPTH標識アミノ酸は見られず、配列を決定することはできなかった。
【0059】
(4)円偏光二色性分析(CD)
検体(PG約3mg)に精製水を添加して2mg/mLとし、測定に使用した。
測定装置として、JASCOJ−500Aを使用し、溶媒として水を使用した。波長範囲200〜250nm、セル長1mm、温度は室温(23℃)であり、積算回数は8回である条件で測定した。
得られたCDスペクトルを図7に示す。2次構造解析の結果、αへリックス21%、βシート34%であり、残りは不規則構造と推定された。
【0060】
(5)中性糖及びアミノ糖分析
PG6.30mgを秤量し、純水3.15mLに溶解した後、0.22μmのフィルターで濾過し、2mg/mLの溶液を得た。この溶液500μLをガラス試験管に採取し、エバポレーターで減圧乾固した。次いで、2mol/Lのトリフルオロ酢酸200μLを添加し、100℃で6時間加水分解した後、エバポレーターで減圧乾固して残渣を得た。残渣を純水200μLに溶解し、更に、純水で20倍又は200倍希釈した。この溶液50μLに内部標準物質ヘプトース500ngを添加し、カラムTSK−gel Sugar AXG 15cmx4.6mm ID(東ソー)と検出器分光光度計RF−535(島津製作所)とを装着した高速液体クロマト装置LC−9A(島津製作所)にアプライした。カラム温度は70℃であり、移動相及びその流速は0.5mol/Lホウ酸カリウム緩衝液(pH8.7)及び0.4mL/分であった。ポストカラム標識の条件は、反応試薬として1%アルギニン/3%ホウ酸を用い、流速は0.5mL/分であり、反応温度は150℃であり、検出波長はEx320nm及びEM430nmであった。
PGの中性糖組成は、多い方から順に、グルコース561.45μg/mg、マンノース16.68μg/mg、ガラクト−ス42.65μg/mg、及びフコース9.57μg/mgであった。なお、キシロースは検出限界以下であった。
【0061】
一方、前記PG溶液500μLをガラス試験管に採取し、エバポレーターで減圧乾固した。次いで、4mol/Lの塩酸200μLを添加し、100℃で6時間加水分解した後、エバポレーターで減圧乾固して残渣を得た。残渣を純水200μLに溶解し、そのうち50μLを、カラムTSK−gel Sugar SGX 15cmx4.6mm ID(東ソー)と検出器分光光度計RF−10AXL(島津製作所)とを装着した高速液体クロマト装置LC−9A(島津製作所)にアプライした。カラム温度は60℃であり、移動相及びその流速は0.04mol/Lホウ酸カリウム緩衝液(pH7.6)及び0.3mL/分であった。ポストカラム標識の条件は、反応試薬として1%アルギニン/3%ホウ酸を用い、流速は0.5mL/分であり、反応温度は150℃であり、検出波長はEx320nm及びEM430nmであった。
PGのアミノ糖組成は、グルコサミン0.36μg/mgであった。なお、マンノサミンは検出限界(0.2μg/mg)以下であった。
【0062】
(6)タンパク質の定量
前記実施例3(2)のPG加水分解により得られたアミノ酸量を基に、タンパク質含有量を算出すると、38.42μg/mgの値になった。
【0063】
(7)糖質の定量
前記実施例3(5)のPGの加水分解により得られた単糖量を基に、糖質含有量を算出すると、628.72μg/mgの値になった。
【0064】
(8)核磁気共鳴(NMR)分析
(i)PGの1H一次元NMR分析
PG11.6mgにD2O2.5mLを加え、超音波で約5分間処理した。サンプル溶液には少し濁りがあった。1H NMRの測定条件は以下のとおりとした。すなわち、測定装置としては、Unity plus 500型(Varian社)を使用し、観測周波数は500.2MHz(1H核)である。溶媒としてD2O溶液を使用し、濃度は飽和溶液である。標準としてアセトン2.225ppmを用い、温度は25℃と45℃、観測幅8kHz、データ点64K、パルス幅約45°、パルス繰り返し時間5.5秒、積算回数を128回とした。
【0065】
得られたスペクトルを図8に示す。PG中性糖の主成分であるグルコースについて解析した。すなわち、25℃の1H NMRでは、グルコースの1位のプロトンに特徴的な4.5ppm〜5.5ppmに着目すると、5.4ppmと5.2ppm付近がグルコースのα1位と考えられる。また、4.65ppm付近のマイナーピーク(ダブレットピーク)はβ1位と考えられる。4.75ppm〜5.15ppm付近のピーク(45℃測定での4.79ppmのピークも含む)はグルコース以外の糖やタンパク質のαプロトン由来と推定される。
【0066】
(ii)ヒドラジン処理PGの1H一次元NMR分析
PG糖質部の構造解析のため、タンパク質部をヒドラジン処理により除いたサンプル(以下、ヒドラジン処理PGと称する)を調製した。すなわち、PGを試験管(φ5mmxh50mm)に入れ、ヒドラグラフ(生化学工業)内にセットし、50℃で5時間真空乾燥した。次いで、無水ヒドラジン2mLを添加して100℃で2時間加熱することにより、気相ヒドラジン分解を行った。ヒドラジンを留去し、残渣を純水0.5mLに溶解し、純水を外液にして一晩透析した。透析内液をエバポレーターにて減圧乾固し、NMR測定用試料とした。サンプル濃度が7.7mg/2.5mLであること以外は、測定条件は実施例3(8)(i)と同じである。
【0067】
得られたスペクトルを図9に示す。25℃の1H NMRスペクトルは、実施例3(8)(i)のそれよりもブロードであった。これは、ヒドラジン処理によりタンパク質がなくなり、多糖の濃度が増加したためと考えられる。また、実施例3(8)(i)でみられた3.66ppmの大きなピークはなくなっていた。
グルコースの1位のプロトンに特徴的な4.5ppm〜5.5ppmに着目すると、5.4ppm付近がグルコースのα1位と考えられる。また、4.7ppm〜5.2ppm付近のピーク(45℃での4.78ppmのピークも含む)はβ1位またはグルコース以外の糖由来と推定される。
【0068】
(iii)PGの13C一次元NMR分析
PGを、約11.6mg/2.5mLになるように、D2Oに溶解した。サンプル溶液には少し濁りがあった。13C NMRの測定条件は以下のとおりである。すなわち、観測周波数は125.8MHzであり、基準はアセトン(30.5ppm)、温度は25℃、観測幅は31.4KHz、データ点は128K、パルス幅は約45°、パルス繰り返し時間は4.0秒、積算回数40000、1H完全デカップリングである条件で測定を実施した。
【0069】
得られたスペクトルを図10に示す。13C NMRについては、感度が上がらないため、S/N比が不充分で解析は難しかった。60.7ppmの大きなピークは糖質以外の成分由来と推定された。65ppm〜80ppmのピークが均一でないことから、構成糖は不均一であると推定された。
100.1ppmのピークは、グルコースの1位の炭素で、α型でグルシド結合したものと考えられ、1H NMRの結果を支持している。
1位以外については、60〜80ppmのピークの化学シフトを解析した。グルコース単糖又は2糖の化学シフトを解析すると、グルコースのα2位及び4位の炭素がグルシド結合していると考えられ、結合様式は、α1−2又はα1−4と推定された。
【0070】
(iv)ヒドラジン処理PGの13C一次元NMR分析
得られたスペクトルを図11に示す。13C NMRについては、実施例3(8)(iii)よりもS/N比がやや改善したスペクトルが観測され、化学シフト値はほぼ同様であった。実施例3(8)(iii)にあった60.7ppmの大きなピークはなくなった。
65ppm〜80ppmのピークは均一でないことから、糖の結合様式は不均一であると推定された。100.0ppmのピークは、グルコースの1位の炭素で、α型でグルシド結合したものと考えられ、1H NMRの結果を支持している。
1位以外については、60ppm〜80ppmのピークの化学シフトを解析した。グルコース単糖又は2糖の化学シフトと比較すると、グルコースのα2位及び4位の炭素がグルシド結合している可能性が実施例3(8)(iii)と同様考えられ、結合様式はα1−2又はα1−4と推定された。
【0071】
(9)メチル化による糖結合位置の分析
PG糖質部を、粉末水酸化ナトリウム存在下、ヨウ化メチルで完全メチル化し、生成したメチル化多糖を単糖に分解し、得られたメチル化単糖を還元アセチル化し、部分メチル化糖アルコールのアセチル誘導体(部分メチル化アルジトールアセテート)の形にしてガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)測定により誘導体の同定を行い、組成比を求めた。
【0072】
すなわち、バイアル瓶にPG2.4mgを秤量し、5酸化リン存在下で一晩乾燥させた。これに、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.8mLを添加して5時間攪拌後、粉末の水酸化ナトリウム80mgを加えて4時間攪拌した。次に、ヨウ化メチル0.6mLを添加して1時間攪拌後、クロロホルム1mLで3回抽出した。純水にて3回洗浄の後、クロロホルム層を回収し、無水硫酸ナトリウム1.8gを加えて脱水し、室温で1時間放置した。この溶液を濾過し、得られた濾液を濃縮した後、その少量をサンプリングして、薄層クロマト板にスポットし、薄層クロマトグラフィーを行い、オルシノール硫酸で発色させてメチル化糖の存在を確認した。この溶液をエバポレーターにて乾固し、得られた残渣に少量の純水を加えて洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、純水0.5mLを加えて残渣を溶解し、NaBH420mg/純水2mLを0.5mL加えて攪拌し、室温にて4時間放置した。酢酸で過剰のNaBH4を分解し、エバポレーターにて減圧乾固した。得られた残渣をメタノール2mLで5回洗浄し、次いで無水酢酸・ピリジン混液(1/1)1mLを添加して100℃にて4時間加熱した後、エバポレーターにて減圧乾固した。得られた残渣にクロロホルム2mLを加えて抽出し、更に、純水2mLを添加して混和させた。クロロホルム層に無水硫酸ナトリウム1.5gを加えて脱水し、室温で30分間放置後、濾過し、濾液を得た。この濾液をエバポレーターにて減圧乾固した後、クロロホルムに溶解し、GC及びMS分析を行なった。
【0073】
GC−MS測定条件は以下の通りとした。すなわち、GC分析装置はHewlett−Packerd HP5890 SERIESで、カラム液相はSPB−5(スペルコジャパン)、カラムタイプはfused silica capillary 30mx0.25mm IDを用い、キャリヤーガスはHe、カラム温度は60℃(1分保持)→280℃(+8℃/分で昇温)、注入口温度は280℃、検出モードはFID、注入量は0.5μLで、注入モードはsplitlessであった。MSは、装置JMS DX−303質量分析計(日本電子)とデータ処理システムJMA DA5000データ処理システム(日本電子)とを用い、MS部のイオン化方式はEI、電子加速電圧は70V、イオン化電流は300μA、イオン源温度は250℃、イオン加速電圧は3.0KV、走査速度は1sec/scan(m/z=10〜500)、走査間隔は1secであった。
【0074】
部分メチル化アルジトールアセテートの標準マススペクトルと照合することにより、試料のクロマトグラム上の各ピークを同定した結果を表6に示した。更に、ガスクロマトグラムで得られた各ピークの面積から、部分メチル化アルジトールアセテートの組成比を求めた結果も表6に示した。これらの結果から、PGの糖鎖は1→4結合のグルコースが主要な結合であることが示唆された。
【0075】
【表6】
Glc;グルコース、→4 Glc 1→;1→4結合のグルコース、→2 Glc 1→;1→2結合のグルコース、→6
Glc 1 →;1→6結合のグルコース、→4,6 Glc 1→; 1→4結合と→6結合のグルコース、→2,4 Glc1→;1→2結合と→4結合のグルコース
【0076】
(10)PG中の脂肪酸分析
PG6.65mgを1.5mL容ポリチューブに秤量後、メタノール0.2mLを加えた。Speed Vacを用い、これを減圧乾燥し、乾燥物試料6.22mgをガラス製ネジ付き試験管内に移した。これに、5%塩酸・メタノール溶液1mLを加え、オーブン内で90℃、16時間加熱反応させることにより、PG中に存在する脂肪酸のトリグリセライドを脂肪酸メチルエステルに変換した。メタノリシス終了後、ヘキサン1mLを加えて激しく振り混ぜ、静置した後にヘキサン層を回収し、窒素パージで乾固後、クロロホルム(内部標準としてペンタデカン酸メチルを約0.01%含む)1.0mLに再溶解した。この溶液を、以下に記載する通り、GC法により測定した。
【0077】
次に、定量用標準品としてオレイン酸メチル(ジーエルサイエンス株式会社)25.37mgを10mLメスフラスコに秤量し、内部標準を含むクロロホルムを標線まで加えて2537μg/mL標準溶液とした。更に、この溶液を、内部標準を含むクロロホルムで25倍希釈して101.5μg/mL溶液を調製した。更に、これを、内部標準を含むクロロホルムで順次5倍希釈して20.3μg/mL溶液、4.06μg/mL溶液、及び0.81μg/mL溶液を調製した。以下に記載する通り、これらを、試料溶液と同様に、GC分析を行い、得られたピーク面積と標準溶液の濃度より検量線を作成し、これより試料溶液中の各脂肪酸の定量分析を行った。
一方、定性用標準品として、以下の2種類の標準溶液(溶媒:クロロホルム)を用いた。(1)C14〜C18の飽和脂肪酸、及び1〜3価不飽和脂肪酸のメチルエステル混合溶液。(2)C20〜C26の飽和脂肪酸、及び1価不飽和脂肪酸のメチルエステル混合溶液。
【0078】
GC分析は下記の通リに実施した。すなわち、装置としてガスクロマトグラフHP5890型(Hewlett Packard社)、検出器として水素炎イオン化検出器(FID)、カラムとしてSP2380(h30mxφ0.25mm,膜厚0.2μm)を用い、カラム温度50℃(1分保持)→250℃(+8℃/分で昇温)、注入口温度250℃、注入量1μL(splitless注入)の条件であった。なお、GC分析は脂肪酸メチルとして行っているので、以下の式に従って、試料中の脂肪酸量(遊離脂肪酸として)を算出した。
[脂肪酸量]=[脂肪酸メチルとして得られた定量結果]x[遊離脂肪酸分子量/脂肪酸
メチル分子量]
その結果、PGの脂肪酸組成は、多い方から順に、ステアリン酸(C18:0)1.86μg/mg、パルミチン酸(C16:0)1.84μg/mg、オレイン酸[C18:1(9)]1.52μg/mg、リノール酸[C18:2(9,12)]0.94μg/mg、及びミリスチン酸(C14:0)0.55μg/mgであった。
【0079】
(9)赤外分光分析(IR)
赤外分光分析は、KBr法により実施した。より具体的には、PG1mgとKBr粉末10mgとを均質に混合した後、プレスして円盤状に成型し、FTIR VAKOR−III型[日本分光(株)]を用いて測定を実施した。得られたIRスペクトルを図12に示す。
【0080】
(10)紫外分光分析(UV)
PGを純水に溶解し、50mg/mL濃度で測定した。装置として、Bio Spec 1600(島津製作所)を使用した。得られたUVスペクトルを図13に示す。
【0081】
《実施例4:抗腫瘍活性の評価》
【0082】
(1)メラノーマB16
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雄性C57BL/6Nマウスの腋窩部皮下に、メラノーマB16を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、メラノーマB16は、C57BL/6マウスの皮膚に発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(An NY Acad. Sci 100: 762-790, 1963)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0144)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、C57BL/6Nマウスの腋窩部皮下で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察した。結果を図14に示す。平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):15.5±1.2日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、19.0±2.6日及び20.5±1.9日であり、検体投与により生存期間は延長された。
【0083】
(2)形質細胞腫X5563
チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雌性C3H/HeNマウスの腋窩部皮下に、形質細胞腫X5563を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、形質細胞腫X5563は、C3H/Heマウス回盲部に発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(JNCI 24: 1153-1165, 1960)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0174)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、C3H/HeNマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、60日間毎日生死を観察したところ、対照群の60日生存率50%(3/6)に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、100%(6/6)及び67%(4/6)であり、検体投与により生存率の向上がみられた。更に、生存個体においても、図15に示すとおり、腫瘍サイズは、検体投与により明らかに抑制された。
【0084】
(3)サルコーマ180
日本クレア(東京)から購入した5週齢の雌性ICRマウスの腋窩部皮下に、サルコーマ180[Sarcoma 180 (S180)]を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群10匹)。なお、サルコーマ180は、アルビノマウス由来の肉腫に由来する腫瘍細胞株(Cancer
Res 20: 930-939, 1969)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0173)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、ICRマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後25日目に、マウスをと殺し、腫瘍結節を取り出して重量を測定したところ、対照群の腫瘍結節重量[平均値±標準誤差(SE)]:1.05±0.22gに対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、0.01±0.01g及び0.00±0.00gであり、検体投与により、腫瘍増殖は明らかに抑制された。
【0085】
(4)エールリッヒ癌
日本クレア(東京)から購入した5週齢の雌性ICRマウスの腋窩部皮下に、エールリッヒ癌(Ehrlich)を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群10匹)。なお、エールリッヒ癌は、ddYマウスに発生した乳腺腫瘍に由来する腫瘍細胞株(JNCI
13: 1299-1377, 1953)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0147)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、ICRマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後25日目に、マウスをと殺し、腫瘍結節を取り出して重量を測定したところ、対照群の腫瘍結節重量(平均値±SE):1.96±0.50gに対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、0.01±0.01g及び0.48±0.33gであり、検体投与により、腫瘍増殖は明らかに抑制された。
【0086】
(5)吉田肉腫
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雄性Donryuラットの腹腔内に、吉田肉腫(YS)を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、吉田肉腫は、o−アミノアゾトルエンを3箇月間与え、亜ヒ素酸アルコールを塗布することにより発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(Proc Imp Acad Tokyo 20: 611-618, 1944)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0088)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、Donryuラットの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察し、平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):8.3±0.3日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、9.0±0.4日及び7.5±1.1日であり、検体125mg/kg投与により、生存期間は延長される傾向にあった。
【0087】
(6)白血病P388
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢のCDF1マウスの腋窩部皮下に、白血病P388を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、白血病P388は、DBA/2マウスをメチルコランスレン処置することにより発生した白血病に由来する腫瘍細胞株(Am J Pathol 33: 603, 1957)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0326)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、CDF1マウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察し、平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):17.3±2.2日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、18.3±2.4日及び19.6±1.7日であり、検体投与により、生存期間は延長傾向にあった。
【0088】
(7)白血病EL4
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢のC57BL/6N雄マウスの腋窩部皮下に、白血病EL4を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、白血病EL4は、マウスをジメチルベンズアントラセン(DMBA)処置することにより膵臓に発生したリンホーマに由来する腫瘍細胞株(Cancer Res 16: 338-343, 1956)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0150)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、C57BL/6Nマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察し、平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):12.0±0.4日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、13.0±0.0日及び11.8±0.3日であり、検体125mg/kg投与により、生存期間は延長傾向にあった。
【0089】
(8)肝癌AH13
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雄性Donryuラットの腹腔内に、肝癌AH13を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、肝癌AH13は、ラットをジメチルアミノアゾベンゼン(DAB)処置することにより肝臓に発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(病理学会誌 11: 147-168, 1967)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0011)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、Donryuラットの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察したところ、対照群の12日生存率17%(1/6)に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、いずれも67%(4/6)であり、検体投与により生存期間は延長された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の糖タンパク質は、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、及び/又は抗腫瘍剤の用途に適用することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】アルカリ抽出液のChMe処理により得られた水層部について、陰イオン交換クロマトグラフィーを実施して得られた溶出パターンを示すクロマトグラフである。
【図2】陰イオン交換クロマトグラフィーにより得られたフラクションBについて、ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−100)を実施して得られた溶出パターンを示すクロマトグラフである。
【図3】陰イオン交換クロマトグラフィーにより得られたフラクションBについて、ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−100)を実施して得られた各画分におけるTGF−β1の結合活性を示すグラフである。
【図4】ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−100)により得られたフラクションB−1について、更にゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−500)を実施して得られた溶出パターン及び各画分におけるTGF−β1の結合活性を示すグラフである。
【図5】ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−500)により得られたフラクションB−1−2について、逆相クロマトグラフィーを実施して得られた溶出パターンを示すクロマトグラフである。
【図6】逆相クロマトグラフィーにより得られた本発明の糖タンパク質について、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を実施した結果を示す、クロマトグラフである図面に代わる写真である。
【図7】本発明の糖タンパク質の円偏光二色性分析により得られたCDスペクトルである。
【図8】本発明の糖タンパク質の1H一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図9】ヒドラジン処理糖タンパク質の1H一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図10】本発明の糖タンパク質の13C一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図11】ヒドラジン処理糖タンパク質の13C一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図12】本発明の糖タンパク質の赤外分光分析により得られたスペクトルである。
【図13】本発明の糖タンパク質の紫外分光分析により得られたスペクトルである。
【図14】本発明の糖タンパク質を投与したメラノーマB16移植マウスの生存率を示すグラフである。
【図15】本発明の糖タンパク質を投与した形質細胞腫X5563移植マウスにおける腫瘍体積の経時変化を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の糖タンパク質並びにそれを含有する医薬組成物、例えば、新規免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤に関する。本発明の免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、若しくは抗腫瘍剤、又は本発明の新規糖タンパク質は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、健康食品(好ましくは機能性食品)又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。なお、前記食品には飲料が含まれる。更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。なお、本明細書における免疫増強活性には、抗腫瘍活性が含まれる。
【背景技術】
【0002】
マツタケ[Tricholoma matsutake(S.Ito & Imai)Sing.]には種々の生理活性物質が含まれていることが知られており、例えば、特許文献1及び特許文献2には、マツタケに含有される各種の抗腫瘍性物質が開示されている。前記特許文献1には、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水又は希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、及びエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示されている。また、前記特許文献2には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量=10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【0003】
また、本発明者は、マツタケ熱水抽出液、マツタケのアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分が、免疫増強活性を有することを既に見出している(特許文献3)。
更に、本発明者らは、特定のマツタケ株を特定の培養方法により培養して得られた菌糸体由来の部分精製画分に、免疫増強作用及びストレス負荷回復促進作用があることも既に見出している(特許文献4)。なお、前記特許文献4に記載の前記部分精製画分は、理化学的性質の点で、公知の画分(例えば、前記特許文献3に記載の陰イオン交換樹脂吸着画分)とは異なる画分である。
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号明細書
【特許文献3】国際公開第WO01/49308号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO03/070264号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、免疫増強活性及び/又はストレス負荷回復促進活性を有するマツタケ由来の前記抽出液又は画分に含まれる活性本体の精製を試みたが、天然由来高分子物質の複雑きわまる特性(特に糖タンパク質)の点で、単一ピークとして単離することは容易なことではなかった。しかし、イオン交換分離の後、分子量分画操作を組み合わせたところ、免疫増強活性、ストレス負荷回復促進活性、及び抗腫瘍活性を有する化合物を単一ピークとして単離することに成功し、更に、それが新規の糖タンパク質であることを新たに見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0005】
従って、本発明の課題は、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、及び/又は抗腫瘍剤の有効成分として有用な、新規の糖タンパク質を提供し、更に、それを含有する新規の医薬組成物、例えば、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明による、下記の性質を有する糖タンパク質:
(a)分子量:約60kDa(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(b)糖質とタンパク質との含有比率:(糖質:タンパク質)16.4:1.0
により解決することができる。
また、本発明は、(1)マツタケをアルカリ溶液又は熱水で抽出する工程、
(2)得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、
(3)前記陰イオン交換樹脂から、適当な溶離液により吸着画分を溶出する工程、及び
(4)前記溶出工程で得られた溶出画分を、ゲル濾過により分画し、分子量50〜70kDaの画分を取得する工程
を含む製造方法により調製することのできる、糖タンパク質に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する、医薬組成物に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を、免疫増強が必要な対象に、有効量で投与することを含む、免疫増強方法に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を、ストレス負荷回復促進が必要な対象に、有効量で投与することを含む、ストレス負荷回復促進方法に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質を、腫瘍の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することを含む、腫瘍の治療又は予防する方法に関する。
また、本発明は、前記糖タンパク質の、免疫増強剤若しくは免疫増強用医薬組成物、ストレス負荷回復促進剤若しくはストレス負荷回復促進用医薬組成物、又は抗腫瘍剤若しくは抗腫瘍用医薬組成物を製造するための使用に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の免疫増強剤によれば、免疫増強が必要な対象の免疫能を増強することができる。また、本発明のストレス負荷回復促進剤によれば、ストレス負荷に対する回復を促進することができる。更に、本発明の抗腫瘍剤によれば、腫瘍を治療又は予防することができる。本発明の糖タンパク質は、前記免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤の有効成分として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[1]本発明の糖タンパク質
本発明の糖タンパク質は、以下の性質を有する。
(1)分子量:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により決定される分子量が約60kDa(50〜70kDa)である。
(2)タンパク質含量及び糖質含量:本発明の糖タンパク質の加水分解により得られるアミノ酸量を基に算出したところ、38.42μg/mgである。また、本発明の糖タンパク質の加水分解により得られる単糖量を基に算出したところ、628.72μg/mgである。糖質とタンパク質との比率(糖質:タンパク質)は、16.4:1.0である。
(3)脂肪酸含量:ステアリン酸(C18:0)1.86μg/mg、パルミチン酸(C16:0)1.84μg/mg、オレイン酸[C18:1(9)]1.52μg/mg、リノール酸[C18:2(9,12)]0.94μg/mg、及びミリスチン酸(C14:0)0.55μg/mgである。
(4)アミノ酸組成:アスパラギン酸及びアスパラギン9.65mol%、トレオニン6.15mol%、セリン6.83mol%、グルタミン酸及びグルタミン10.19mol%、グリシン8.74mol%、アラニン9.84mol%、バリン6.94mol%、1/2−シスチン0.15mol%、メチオニン1.31mol%、イソロイシン5.47mol%、ロイシン9.55mol%、チロシン2.64mol%、フェニルアラニン4.09mol%、リシン4.99mol%、ヒスチジン1.97mol%、アルギニン5.00mol%、トリプトファン1.17mol%、及びプロリン5.33mol%である。
(5)中性糖組成:グルコース561.45μg/mg、マンノース16.68μg/mg、ガラクト−ス42.65μg/mg、及びフコース9.57μg/mgである。なお、キシロースは検出限界以下である。
(6)アミノ糖組成:グルコサミン0.36μg/mgである。なお、マンノサミンは検出限界以下である。
(7)円偏光二色性分析(CD):図7に示すスペクトルを示す。
(8)核磁気共鳴(NMR)分析
(i)1H一次元NMR分析:本発明の糖タンパク質は、図8に示すスペクトルを示す。
ヒドラジン処理により本発明のタンパク質からタンパク質を除いた場合には、図9に示すスペクトルを示す。
(ii)13C一次元NMR分析:本発明の糖タンパク質は、図10に示すスペクトルを示
す。ヒドラジン処理により本発明のタンパク質からタンパク質を除いた場合には、図11に示すスペクトルを示す。
(9)糖質部の糖結合位置:本発明の糖タンパク質における糖質部は、表6に示す各結合様式を、表6に示す割合で含む。1→4結合のグルコースが主要な結合である。
(10)赤外分光分析(IR):図12に示すスペクトルを示す。
(11)紫外分光分析(UV):図13に示すスペクトルを示す。
【0009】
本発明の糖タンパク質は、前記性質を示す限り、その由来は特に限定されるものではないが、例えば、マツタケから分離することができる。
前記マツタケとしては、例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体若しくは培養物(Broth)を挙げることができる。培養に用いる前記マツタケとしては、例えば、国際公開第WO02/30440号パンフレットに記載のマツタケFERM BP−7304株を挙げることができる。前記マツタケFERM BP−7304株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[(旧)工業技術院生命工学工業技術研究所(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)]に平成12年9月14日より寄託しているものである。このマツタケFERM BP−7304株は、京都府亀岡市で採取したマツタケCM6271株から子実体組織を切り出し、試験管内で培養することにより、菌糸体継代株を得たものであり、呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で維持している。
【0010】
本発明の糖タンパク質は、以下の操作に限定されるものではないが、例えば、
マツタケをアルカリ溶液又は熱水で抽出する工程(以下、抽出工程と称する)、
得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させる工程(以下、陰イオン交換樹脂吸着工程と称する)、
前記陰イオン交換樹脂から、適当な溶離液により吸着画分を溶出する工程(以下、溶出工程と称する)、
前記溶出工程において、以下に示す溶出条件で溶出された所定画分を、ゲル濾過により分画し、分子量50〜70kDaの画分を取得する工程(以下、ゲル濾過分画工程と称する)
を含む製造方法により、調製することができる。なお、本発明の糖タンパク質には、前記製造方法により調製された糖タンパク質が含まれるだけでなく、前記製造方法により調製された糖タンパク質と同じ性質を示す糖タンパク質である限り、前記製造方法以外の製法で調製された糖タンパク質も含まれる。
【0011】
前記抽出工程において、マツタケとして子実体又は菌糸体を用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
抽出工程で熱水を用いる場合には、その熱水の温度は、60〜100℃であることが好ましく、80〜98℃であることがより好ましい。また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、マツタケの状態(すなわち、子実体、菌糸体、又は培養物のいずれの状態であるか、あるいは、破砕物又は粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常、1〜6時間であり、2〜3時間であることが好ましい。
【0012】
抽出工程でアルカリ溶液を用いる場合には、前記アルカリ溶液としては、これに限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。前記アルカリ溶液のpHは、8〜13であることが好ましく、9〜12であることがより好ましい。アルカリ溶液抽出工程は、0〜20℃で実施することが好ましく、0〜15℃で実施することがより好ましい。アルカリ抽出工程で得られた抽出液は、中和処理を実施してから次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。
【0013】
抽出工程で得られた抽出液は、不溶物が混在する状態で、そのまま、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることもできるが、不溶物を除去してから、あるいは、不溶物を除去し、更に、抽出液中の低分子画分を除去してから、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることが好ましい。例えば、不溶物が混在する抽出液を遠心分離することにより不溶物を除去し、得られる上清のみを、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。あるいは、不溶物が混在する抽出液を遠心分離して得られる前記上清を透析し、低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。
【0014】
また、抽出工程で得られた抽出液は、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いる前に、脱脂工程を実施することもできる。なお、この脱脂工程と前記不溶物及び/又は低分子画分除去工程は、いずれか一方のみを実施することもできるし、両方を実施することもできる。
前記脱脂工程に用いる有機溶媒としては、例えば、脂溶性有機溶媒(例えば、クロロホルム、メタノール、エーテル、エタノール、酢酸エチル、又はヘキサン等)又はそれらの混合物(例えば、クロロホルムとメタノールとの混合液)を用いることができ、クロロホルムとメタノールとの混合液が好ましい。前記有機溶媒としてクロロホルムとメタノールとの混合液を使用する場合には、その混合比[クロロホルム:メタノール(v/v)]は、例えば、10:1〜1:10であることができる。脱脂工程は、15〜30℃の温度で実施することが好ましい。
【0015】
陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることのできる陰イオン交換樹脂としては、公知の陰イオン交換樹脂を用いることができ、例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)セルロース又はトリエチルアンモニオエチル(TEAE)セルロースを挙げることができる。
【0016】
溶出工程に用いる溶離液は、陰イオン交換樹脂吸着工程に用いる陰イオン交換樹脂の種類に応じて適宜決定することができ、例えば、塩化ナトリウム水溶液などを挙げることができる。溶出工程により溶出される画分の内、以下に示す溶出条件で溶出された画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB)を、次のゲル濾過分画工程に使用することができる。
例えば、前記吸着工程において、陰イオン交換樹脂として、例えば、DEAE TOYOPEARL PAK 650M充填カラム(φ22mm,h20cm)]を使用し、吸着させるサンプルを50mmol/L−Tris−HCl緩衝液(pH7.2)に溶解させてアプライした場合、溶出工程において、溶出液A(50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)及び溶出液B(1mol/L塩化ナトリウム含有50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)のリニアグラジエント溶出を流速5mL/minで行い、12分〜15分(液量15mL)に溶出される画分を、次のゲル濾過分画工程に使用することができる。
【0017】
ゲル濾過分画工程は、常法に従って実施することができ、分子量50〜70kDaの画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB−1−2)を取得することにより、本発明の糖タンパク質が単一ピークとして含まれる画分を取得することができる。ゲル濾過分画工程は、分画範囲の異なる複数(例えば、2種類)のゲル濾過カラムを用いて複数段階(例えば、2段階)で実施することができ、例えば、分画範囲が分子量1×103〜1×105Daであるゲル濾過カラムを使用し、前記ゲル濾過カラムにより分画された分子量10kDa以上の画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB−1)を、続いて、分画範囲が分子量4×104〜2×107Daであるゲル濾過カラムにアプライし、分子量50〜70kDaの画分(例えば、後述の実施例2におけるフラクションB−1−2)を取得することができる。
【0018】
[2]本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物、特には、本発明の免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤は、有効成分として、本発明の糖タンパク質を含有する。
本発明の免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、又は抗腫瘍剤は、有効成分としての本発明の糖タンパク質を、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)に投与することができる。すなわち、本発明の組成物(好ましくは医薬組成物)、例えば、本発明の免疫増強組成物(好ましくは免疫増強医薬組成物)、ストレス負荷回復促進組成物(好ましくはストレス負荷回復促進医薬組成物)、又は抗腫瘍組成物(好ましくは抗腫瘍医薬組成物)は、有効成分としての本発明の糖タンパク質と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する。
【0019】
本発明の免疫増強剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、免疫増強活性を有する。前記免疫増強活性には、例えば、国際公開第WO03/070264号パンフレットに記載の各種活性、例えば、抗腫瘍活性[例えば、担癌個体における生存期間の延長活性、抗原発腫瘍活性(特には、原発腫瘍の増殖抑制活性)、又は抗転移活性(特には、転移巣の増殖抑制活性)]、キラー活性誘導促進活性(特には、腸管リンパ球のキラー活性誘導促進活性)、腫瘍細胞認識増強活性、インターロイキン12(IL−12)遺伝子発現増強活性、又は血清IAP値上昇活性、あるいは、TGF−β(免疫抑制物質の1つ)活性抑制活性などが含まれる。
本発明の免疫増強剤による治療又は予防の対象となる疾病としては、例えば、癌、感染症、自己免疫疾患、慢性疲労症候群、又は生活習慣症などを挙げることができる。
【0020】
本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、免疫増強が必要な対象に、有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、免疫増強組成物(好ましくは免疫増強医薬組成物)、免疫増強健康食品(好ましくは免疫増強機能性食品)、あるいは、免疫増強用のオーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0021】
本発明のストレス負荷回復促進剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、ストレス負荷に対する回復促進活性を有する。本発明のストレス負荷回復促進剤による治療又は予防の対象となる疾病としては、例えば、癌、感染症、自己免疫疾患、慢性疲労症候群、又は生活習慣症などを挙げることができる。
本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、ストレス負荷に対する回復促進が必要な対象に、有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、ストレス負荷に対する回復促進組成物(好ましくは、ストレス負荷に対する回復促進医薬組成物)、ストレス負荷に対する回復促進健康食品(好ましくは、ストレス負荷に対する回復促進機能性食品)、あるいは、ストレス負荷に対する回復促進用のオーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0022】
一般に、動物に対して、単発的に、あるいは、或る期間に亘ってストレスを与えると、通常、その動物における免疫能は低下するが、前記ストレス負荷から解放されると、自発的な免疫力の回復が起こる。本明細書における「ストレス負荷に対する回復促進活性(ストレス負荷回復促進活性)」とは、ストレス負荷から開放した後、免疫力回復期における免疫力の回復を、自発的な回復よりも促進する活性を意味する。
本発明のストレス負荷回復促進剤の投与時期は、ストレス負荷により一時的に低下した免疫力を、その投与により回復促進可能である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ストレス負荷の前、ストレス負荷中、及び/又はストレス負荷から開放した後の免疫力回復期に投与することができる。
【0023】
なお、本発明における前記「ストレス負荷回復促進活性」は、本発明者が見出した前記の単なる「免疫増強活性」とは異なる。すなわち、「免疫増強活性」とは、そのような活性を有する有効成分を投与した場合に、投与前の状態(ストレスの負荷がなく、免疫力が通常の状態であることもできるし、あるいは、ストレス負荷により、免疫力が低下している状態であることもできる)と比較して、免疫力の向上がみられる活性を一般に意味し、従って、免疫力それ自体を向上させる活性である。一方、本発明における「ストレス負荷回復促進活性」とは、前述のように、免疫力回復期における免疫力の回復を促進する活性であって、従って、免疫力の回復速度を向上させる活性である。本発明のストレス負荷回復促進剤を投与すると、本発明のストレス負荷回復促進剤を投与しない場合と比較して、免疫力の回復速度が上昇する。
【0024】
更には、「免疫増強活性」においては、そのような活性を有する有効成分を投与すると、直接的に、免疫力の向上がみられるのに対して、本発明のストレス負荷回復促進剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質を、予め、ストレスを負荷する前に対象動物に投与しておくと、ストレス負荷中及び免疫力回復期中に、本発明の糖タンパク質を投与しなくても、免疫力回復期において免疫力の回復が促進される。この点においても、本発明における「免疫増強活性」と本発明における「ストレス負荷回復促進活性」とは、異なる活性である。
【0025】
本発明の抗腫瘍剤における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、抗腫瘍活性を有する。なお、前記抗腫瘍活性は免疫増強活性に含まれる。前記抗腫瘍活性には、例えば、担癌個体における生存期間の延長活性、抗原発腫瘍活性(特には、原発腫瘍の増殖抑制活性)、又は抗転移活性(特には、転移巣の増殖抑制活性)などが含まれる。本発明の抗腫瘍剤による治療又は予防の対象となる癌としては、例えば、肺癌、胃癌、肝臓癌、結腸・直腸癌、膵臓癌、食道癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、肉腫、メラノーマ、又は白血病などを挙げることができる。
【0026】
従って、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、腫瘍の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、本発明の糖タンパク質は、抗腫瘍組成物(好ましくは抗腫瘍医薬組成物)、抗腫瘍健康食品(好ましくは抗腫瘍機能性食品)、あるいは、抗腫瘍用のオーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0028】
これらの経口剤は、例えば、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0029】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。
例えば、注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
また、本発明の医薬組成物は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の医薬組成物をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療又は予防すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0030】
本発明の医薬組成物は、これに限定されるものではないが、本発明の糖タンパク質を、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
本発明の医薬組成物を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。
【0031】
また、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、健康食品(好ましくは機能性食品)又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。なお、前記食品には飲料が含まれる。
食品には、(1)栄養素としての働き(第一次機能)、(2)人間の五感に訴える働き(第2次機能)の他に、(3)人間の健康、身体能力、又は心理状態に好ましい影響を与える働き(第3次機能)、例えば、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統を調節して、健康の維持や健康の回復に好ましい効果を及ぼす働きがあることが知られている。本明細書において「健康食品」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品を意味し、「機能性食品」とは、前記「健康食品」の中でも、前記の種々の生体調節機能(すなわち、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統の調節機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品を意味する。
【0032】
更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、本発明の糖タンパク質を、添加剤(例えば、食品添加剤)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤等に添加することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
《実施例1:活性の評価方法》
後述の実施例2で実施したマツタケFERM BP−7304株菌糸体及びそれに由来する各画分の活性の評価方法として、(1)ストレス負荷に対するナチュラルキラー[Natural Killer(以下、NKと称する)]細胞の回復促進活性、及び(2)ヒト遺伝子組み替えトランスフォーミング増殖因子[Transforming
Growth Factor-β1(以下、TGF−β1と称する)]結合活性を用いた。
【0035】
(1)ストレス負荷に対するNK細胞活性回復促進活性の評価
ストレス負荷に対するNK細胞活性回復促進活性は、評価用サンプルをマウスに10日間経口投与した後、拘束ストレスを18時間負荷し、ストレス解放後のNK細胞活性を測定することにより、評価した。
具体的には、日本チャールズリバーから購入した8週齢雄性C57BL/6マウス(各群=5匹)に、評価用サンプルの水溶液を10日間に亘って、通常の飼育ケージ中で経口投与(マツタケ菌糸体の300mg/kg/日相当量)した。続いて、マウスを前記飼育ケージから取り出し、空気抜けの穴を開けた50mL容のキャップ付きポリプロピレン製遠心用チューブ(カタログ番号2341-050;テクノグラス社)にマウスを1匹ずつ閉じ込めた。このチューブ中に閉じ込められたマウスは、身動きができない状態となった。次に、それらのチューブを飼育用ケージに戻し、18時間その状態で放置することにより、拘束ストレスを与えた。18時間のストレスの後、チューブからマウスを取り出し、飼育用ケージに戻し、普通の環境下で飼育した。
【0036】
前記拘束ストレスを解放してから、7日後にマウスを屠殺し、Greenbergらの方法により(Greenberg AHら, J Exp Psychol, 12, 25-31, 1986)、以下の手順に従って、試験管内でNK感受性の腫瘍細胞株YAC−1に対するリンパ節細胞の細胞傷害活性を測定することにより、ナチュラルキラー(NK)細胞活性を評価した。
すなわち、マウスから脾臓を無菌的に取り出し、ハンクス平衡塩類溶液(Hanks
Balanced Salt Solution)を入れた無菌シャーレに移した。はさみとピンセットとでリンパ節をほぐした後、メッシュを通してリンパ球の単細胞液を調製した。10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理を実施)添加RPMI1640培地で細胞を3回洗浄した後、20mmol/Lの4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルフォン酸、及び20μg/mLゲンタマイシンをそれぞれ添加したRPMI1640培地で、細胞濃度を5x106個/mLに調整して得た細胞懸濁液をエフェクター細胞として用いた。
【0037】
一方、標的細胞として用いたYAC−1細胞は、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地中で、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所で継代維持したものである。前記YAC−1細胞にクロム酸ナトリウム(アマ−シャムジャパン)を加え、37℃で20分間反応させた。未結合の放射性クロム酸ナトリウムを、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地で3回洗浄することにより除去し、放射性クロム標識腫瘍細胞を5x104個/mLに調整した。
【0038】
先に調整した前記エフェクター細胞懸濁液又はその2倍希釈系列と、前記放射性クロム標識腫瘍細胞とを、試験管に0.1mLずつ加え、37℃の5%炭酸ガス培養器中で4時間反応させた。なお、この際、後述する特異的傷害率を算出するために、放射性クロム標識腫瘍細胞と培地とを試験管に加えた懸濁液、そして、放射性クロム標識腫瘍細胞と界面活性剤(トリトン;最終濃度=0.05%)とを試験管に加えた懸濁液についても、37℃の5%炭酸ガス培養器中で4時間反応させた。反応終了後、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地をそれぞれの試験管に1.5mLずつ加え、ミキサーでよく混合した後、遠心分離(1200rpm,5分間,4℃)して、上清を分離し、放射活性をガンマカウンターを用いて測定した。
【0039】
特異的傷害率[Specific Lysis;S.L.(単位=%)]は、式:
[S.L.]={(B−Bf)/(Bmax−Bf)}x100
[式中、Bは実験群上清の放射活性(単位=Bq)であり、Bfは自然遊離群上清の放射活性(単位=Bq)であり、Bmaxは最大遊離群の放射活性(単位=Bq)である]
から算出し、エフェクター細胞107個当り30%の腫瘍細胞を傷害する細胞数、すなわち、「30%傷害単位(Lytic Units 30%;LU30)」でNK細胞活性を算出した。そして、評価用サンプルのNK細胞活性値が、対照の蒸留水投与群のNK細胞活性値に対し、有意に促進されている場合(p<0.05)に「促進活性あり」、有意差がない場合(p>0.05)に「促進活性なし」と表示した。
【0040】
(2)TGF−β1結合活性の評価
TGF−β1結合活性は、TGF−β1標品と評価用サンプルとを試験管内で2時間反応させた後、酵素免疫測定法により、結合TGF−β1を定量することにより、評価した。
具体的には、タンパク質吸着の少ないポリプロピレンチューブ(マルチシリコナイズチューブ,Safe Seal Microcentrifuge Tube;フナコシ)中で、TGF−β1標品(フナコシ)を2%アルブミン含有リン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、100ng/mL溶液に調整した。一方、評価用サンプルを2%アルブミン含有リン酸緩衝液に溶解させ、2mg/mL濃度に調整した。前記TGF−β1溶液と評価用サンプル溶液の段階希釈溶液とを0.5mLずつ、タンパク質吸着の少ないチューブに入れ、22℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液中のTGF−β1含量を市販の測定キット(Quantikine
human TGF-β1 ELISA kit;フナコシ)を用いて測定した。
【0041】
結合率(単位=%)は、式:
[結合率(%)]={(Tc−T)/Tc}x100
[式中、Tは評価用サンプル添加群のTGF−β1実測値(単位=ng/mL)であり、Tcは2%アルブミン含有リン酸緩衝液添加群のTGF−β1実測値(単位=ng/mL)である]により算出した。そして、評価用サンプルのTGF−β1結合率が、30%以上の場合に「結合活性あり」、30%以下の場合に「結合活性なし」と表示した。
【0042】
《実施例2:マツタケFERM BP−7304株菌糸体の乾燥粉末からの活性画分の単離》
マツタケFERM BP−7304株菌糸体の乾燥粉末(ロット番号:M65T1Y1)2.0gを、500mL容の三角フラスコに入れ、これに0.2mol/Lの水酸化ナトリウム100mLを添加し、23℃でスターラー攪拌下、1時間抽出した。遠心分離(12000rpm,30分間,4℃)の後、1.0mol/Lの塩酸でpHを7.0に調整し、上清(アルカリ抽出液)と沈殿(アルカリ抽出残渣)を回収した。アルカリ抽出液を、500mL容の分液ロートに入れ、次いでクロロホルムとメタノールとの混合液[1:1(v/v);以下、ChMeと称する]を100mL加え、23℃で抽出した。水層部とChMe層部をそれぞれ回収し、凍結乾燥を実施し、それぞれの粉末0.5gと0.05gを得た。生物活性は水層部にみられた(表1)。
【0043】
【表1】
N.D.;未試験
【0044】
次に、水層部粉末0.5gを0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液(pH7.2)5mLに溶解し、前以て0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で平衡化させたジエチルアミノエチル(DEAE)TOYOPEARL PAK 650M充填カラム(φ22mm,h20cm)にアプライし、溶出液A(50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)及び溶出液B(1mol/L塩化ナトリウム含有50mmol/L−Tris−HCl緩衝液)のリニアグラジエント溶出を流速5mL/minで行い、280nmの吸収度を指標に分画した。
その結果、図1に示すようなパターンを示した。得られたピークを5つに分け、各画分を分画分子量13000の透析膜中(外液は蒸留水)で20時間以上透析した後、各透析膜内画分について、それぞれの生物活性を測定したところ、活性はフラクションBにみられた(表2)。
【0045】
【表2】
N.D.;未試験
【0046】
更に、B画分の前記透析膜内画分を、0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で前以て平衡化させたセファクリル(Sephacryl)S−100(ファルマシア社)充填カラム(φ16mm,h300mm)にアプライし、同緩衝液で溶出させ、280nmの吸収度を指標に分画した。その結果、図2に示すようなパターンを示し、得られたフラクションを3つに分け、生物活性を測定したところ、活性はフラクションB−1にみられた(図3及び表3)。
【0047】
【表3】
【0048】
フラクションB−1を、0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で前以て平衡化させたセファクリル(Sephacryl)S−500(ファルマシア社)充填カラム(φ16mm,h600mm)にアプライし、同緩衝液で溶出させ、280nmの吸収度を指標に分画した。その結果、図4に示すようなパターンを示し、得られたフラクションを3つに分け、生物活性を測定したところ、活性はフラクションB−1−2にみられた(表4)。
【0049】
【表4】
【0050】
フラクションB−1−2を、0.05mol/L−Tris塩酸緩衝液で前以て平衡化させたC18逆相カラムであるIntesil EP300(GLサイエンス社)充填カラム(φ4.5mm,h150mm)にアプライし、A溶液(0.05%ギ酸)及びB溶液[アセトニトリル/水(90/10)+0.05%ギ酸]のリニアグラジエントで溶出させ、280nmの吸収度を記録した。その結果、図5に示すような単一ピーク(以下、PGと称することがある)を示した。生物活性も確認された(表5)。初発物質に比べ、比活性は、TGF−β1結合活性で約33倍、NK細胞回復促進活性で約60倍に増加した。
【0051】
【表5】
【0052】
《実施例3:活性構造の解析》
(1)ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)分析
実施例2で得られたPGの5μgを水10μLに溶解した後、泳動バッファー(0.25mol/L−Tris−HCl,2%SDS,10%メルカプトエタノール,30%グリセロール,0.01%ブロモフェノールブルー)10μLを加え、65℃で15分間熱変性させ、電気泳動を実施した。条件は以下のとおりである。
・ゲル:PAGミニ「第一」15/25(第一化学)
・泳動用緩衝液:トリスグリシン・ランニングバッファー(第一化学)
・泳動条件:35mAで60分間泳動を行った。
・MWマーカー:各バンド(MW=97400,66300,42400)(第一化学)
・染色:銀染色
その結果、図6に示すように、分子量が約60kDa付近に1本のスポットが検出された。
【0053】
(2)アミノ酸組成分析
酸加水分解は、以下の手順で実施した。すなわち、PG6.30mgを秤量し、純水3.15mLに溶解した後、0.22μmのフィルターで濾過し、2mg/mLの溶液を得た。この溶液200μLをガラス試験管に採取し、エバポレーターで減圧乾固した。次いで、6mol/L塩酸200μLを添加し、110℃で22時間加水分解の後、エバポレーターで減圧乾固して残渣を得た。残渣を純水100μLに溶解し、その50μLをアミノ酸分析に用いた。
【0054】
また、アルカリ加水分解(トリプトファン分析用)は、以下の手順で実施した。すなわち、前記PG溶液(2mg/mL)1mLをエッペンドルフチューブに入れて減圧乾固した後、可溶性デンプン(Starch Soluble)5mgを含む4.2mol/L水酸化ナトリウム溶液100μLを加えた。このチューブをガラス試験管に入れ、真空封管下、110℃で16時間加水分解した。空冷後、開封し、チューブを氷中で冷却し、6mol/L塩酸30μLを添加し、中和した。更に、精製水420μLを添加して総量を500μLとし、その50μLをアミノ酸分析に用いた。
アミノ酸分析の装置として日立L−8500型アミノ酸分析計(日立製作所)を使用し、ニンヒドリン発色により定量した。
【0055】
分析の結果、アミノ酸組成は、アスパラギン酸及びアスパラギン9.65mol%、トレオニン6.15mol%、セリン6.83mol%、グルタミン酸及びグルタミン10.19mol%、グリシン8.74mol%、アラニン9.84mol%、バリン6.94mol%、1/2−シスチン0.15mol%、メチオニン1.31mol%、イソロイシン5.47mol%、ロイシン9.55mol%、チロシン2.64mol%、フェニルアラニン4.09mol%、リシン4.99mol%、ヒスチジン1.97mol%、アルギニン5.00mol%、トリプトファン1.17mol%、及びプロリン5.33mol%であった。
【0056】
(3)タンパク質部N末端の分析
PGをPVDF(polyvinylidene difluoride)膜にブロッティング後、電気泳動後のゲルをPVDF膜に載せ、50mAで2時間、ブロッティングした。なお、ブロッティングバッファーには、電気泳動バッファーに10%容量のメタノールを加えた溶液を用いた。ブロッティング後、クーマシーブリリアントブルー(CBB)染色液[2.5%(w/v)CBB R−250,25%(w/v)エタノール,10%(w/v)酢酸]中で15分間振盪後、脱色液[25%(w/v)エタノール,10%(w/v)酢酸]で余分な染色が取れるまで脱色を行った。そして、目的のバンドを切り出し、アミノ酸シーケンス分析に用いた。
【0057】
気相シーケンサーによるN末端のアミノ酸分析は下記条件で行った。すなわち、試料を50%メタノール/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)、メタノールで洗浄後、乾燥し、下記の機器を用いてエドマン分解を実施し、N末端より8残基までアミノ酸配列検出を試みた。
・プロテインシーケンサー:Procise cLC 492cLC(アプライドバイオシステムズ)
・PTHアナライザー:140D(アプライドバイオシステムズ)
・UV検出器:S200(アプライドバイオシステムズ)
・分析プログラム:Pulsed-liquid ProSorb cLC
【0058】
その結果、エドマン分解の各サイクルで複数のフェニルチオヒダントイン(PTH)標識アミノ酸が検出され、且つ各サイクル前後で増減あるPTH標識アミノ酸は見られず、配列を決定することはできなかった。
【0059】
(4)円偏光二色性分析(CD)
検体(PG約3mg)に精製水を添加して2mg/mLとし、測定に使用した。
測定装置として、JASCOJ−500Aを使用し、溶媒として水を使用した。波長範囲200〜250nm、セル長1mm、温度は室温(23℃)であり、積算回数は8回である条件で測定した。
得られたCDスペクトルを図7に示す。2次構造解析の結果、αへリックス21%、βシート34%であり、残りは不規則構造と推定された。
【0060】
(5)中性糖及びアミノ糖分析
PG6.30mgを秤量し、純水3.15mLに溶解した後、0.22μmのフィルターで濾過し、2mg/mLの溶液を得た。この溶液500μLをガラス試験管に採取し、エバポレーターで減圧乾固した。次いで、2mol/Lのトリフルオロ酢酸200μLを添加し、100℃で6時間加水分解した後、エバポレーターで減圧乾固して残渣を得た。残渣を純水200μLに溶解し、更に、純水で20倍又は200倍希釈した。この溶液50μLに内部標準物質ヘプトース500ngを添加し、カラムTSK−gel Sugar AXG 15cmx4.6mm ID(東ソー)と検出器分光光度計RF−535(島津製作所)とを装着した高速液体クロマト装置LC−9A(島津製作所)にアプライした。カラム温度は70℃であり、移動相及びその流速は0.5mol/Lホウ酸カリウム緩衝液(pH8.7)及び0.4mL/分であった。ポストカラム標識の条件は、反応試薬として1%アルギニン/3%ホウ酸を用い、流速は0.5mL/分であり、反応温度は150℃であり、検出波長はEx320nm及びEM430nmであった。
PGの中性糖組成は、多い方から順に、グルコース561.45μg/mg、マンノース16.68μg/mg、ガラクト−ス42.65μg/mg、及びフコース9.57μg/mgであった。なお、キシロースは検出限界以下であった。
【0061】
一方、前記PG溶液500μLをガラス試験管に採取し、エバポレーターで減圧乾固した。次いで、4mol/Lの塩酸200μLを添加し、100℃で6時間加水分解した後、エバポレーターで減圧乾固して残渣を得た。残渣を純水200μLに溶解し、そのうち50μLを、カラムTSK−gel Sugar SGX 15cmx4.6mm ID(東ソー)と検出器分光光度計RF−10AXL(島津製作所)とを装着した高速液体クロマト装置LC−9A(島津製作所)にアプライした。カラム温度は60℃であり、移動相及びその流速は0.04mol/Lホウ酸カリウム緩衝液(pH7.6)及び0.3mL/分であった。ポストカラム標識の条件は、反応試薬として1%アルギニン/3%ホウ酸を用い、流速は0.5mL/分であり、反応温度は150℃であり、検出波長はEx320nm及びEM430nmであった。
PGのアミノ糖組成は、グルコサミン0.36μg/mgであった。なお、マンノサミンは検出限界(0.2μg/mg)以下であった。
【0062】
(6)タンパク質の定量
前記実施例3(2)のPG加水分解により得られたアミノ酸量を基に、タンパク質含有量を算出すると、38.42μg/mgの値になった。
【0063】
(7)糖質の定量
前記実施例3(5)のPGの加水分解により得られた単糖量を基に、糖質含有量を算出すると、628.72μg/mgの値になった。
【0064】
(8)核磁気共鳴(NMR)分析
(i)PGの1H一次元NMR分析
PG11.6mgにD2O2.5mLを加え、超音波で約5分間処理した。サンプル溶液には少し濁りがあった。1H NMRの測定条件は以下のとおりとした。すなわち、測定装置としては、Unity plus 500型(Varian社)を使用し、観測周波数は500.2MHz(1H核)である。溶媒としてD2O溶液を使用し、濃度は飽和溶液である。標準としてアセトン2.225ppmを用い、温度は25℃と45℃、観測幅8kHz、データ点64K、パルス幅約45°、パルス繰り返し時間5.5秒、積算回数を128回とした。
【0065】
得られたスペクトルを図8に示す。PG中性糖の主成分であるグルコースについて解析した。すなわち、25℃の1H NMRでは、グルコースの1位のプロトンに特徴的な4.5ppm〜5.5ppmに着目すると、5.4ppmと5.2ppm付近がグルコースのα1位と考えられる。また、4.65ppm付近のマイナーピーク(ダブレットピーク)はβ1位と考えられる。4.75ppm〜5.15ppm付近のピーク(45℃測定での4.79ppmのピークも含む)はグルコース以外の糖やタンパク質のαプロトン由来と推定される。
【0066】
(ii)ヒドラジン処理PGの1H一次元NMR分析
PG糖質部の構造解析のため、タンパク質部をヒドラジン処理により除いたサンプル(以下、ヒドラジン処理PGと称する)を調製した。すなわち、PGを試験管(φ5mmxh50mm)に入れ、ヒドラグラフ(生化学工業)内にセットし、50℃で5時間真空乾燥した。次いで、無水ヒドラジン2mLを添加して100℃で2時間加熱することにより、気相ヒドラジン分解を行った。ヒドラジンを留去し、残渣を純水0.5mLに溶解し、純水を外液にして一晩透析した。透析内液をエバポレーターにて減圧乾固し、NMR測定用試料とした。サンプル濃度が7.7mg/2.5mLであること以外は、測定条件は実施例3(8)(i)と同じである。
【0067】
得られたスペクトルを図9に示す。25℃の1H NMRスペクトルは、実施例3(8)(i)のそれよりもブロードであった。これは、ヒドラジン処理によりタンパク質がなくなり、多糖の濃度が増加したためと考えられる。また、実施例3(8)(i)でみられた3.66ppmの大きなピークはなくなっていた。
グルコースの1位のプロトンに特徴的な4.5ppm〜5.5ppmに着目すると、5.4ppm付近がグルコースのα1位と考えられる。また、4.7ppm〜5.2ppm付近のピーク(45℃での4.78ppmのピークも含む)はβ1位またはグルコース以外の糖由来と推定される。
【0068】
(iii)PGの13C一次元NMR分析
PGを、約11.6mg/2.5mLになるように、D2Oに溶解した。サンプル溶液には少し濁りがあった。13C NMRの測定条件は以下のとおりである。すなわち、観測周波数は125.8MHzであり、基準はアセトン(30.5ppm)、温度は25℃、観測幅は31.4KHz、データ点は128K、パルス幅は約45°、パルス繰り返し時間は4.0秒、積算回数40000、1H完全デカップリングである条件で測定を実施した。
【0069】
得られたスペクトルを図10に示す。13C NMRについては、感度が上がらないため、S/N比が不充分で解析は難しかった。60.7ppmの大きなピークは糖質以外の成分由来と推定された。65ppm〜80ppmのピークが均一でないことから、構成糖は不均一であると推定された。
100.1ppmのピークは、グルコースの1位の炭素で、α型でグルシド結合したものと考えられ、1H NMRの結果を支持している。
1位以外については、60〜80ppmのピークの化学シフトを解析した。グルコース単糖又は2糖の化学シフトを解析すると、グルコースのα2位及び4位の炭素がグルシド結合していると考えられ、結合様式は、α1−2又はα1−4と推定された。
【0070】
(iv)ヒドラジン処理PGの13C一次元NMR分析
得られたスペクトルを図11に示す。13C NMRについては、実施例3(8)(iii)よりもS/N比がやや改善したスペクトルが観測され、化学シフト値はほぼ同様であった。実施例3(8)(iii)にあった60.7ppmの大きなピークはなくなった。
65ppm〜80ppmのピークは均一でないことから、糖の結合様式は不均一であると推定された。100.0ppmのピークは、グルコースの1位の炭素で、α型でグルシド結合したものと考えられ、1H NMRの結果を支持している。
1位以外については、60ppm〜80ppmのピークの化学シフトを解析した。グルコース単糖又は2糖の化学シフトと比較すると、グルコースのα2位及び4位の炭素がグルシド結合している可能性が実施例3(8)(iii)と同様考えられ、結合様式はα1−2又はα1−4と推定された。
【0071】
(9)メチル化による糖結合位置の分析
PG糖質部を、粉末水酸化ナトリウム存在下、ヨウ化メチルで完全メチル化し、生成したメチル化多糖を単糖に分解し、得られたメチル化単糖を還元アセチル化し、部分メチル化糖アルコールのアセチル誘導体(部分メチル化アルジトールアセテート)の形にしてガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)測定により誘導体の同定を行い、組成比を求めた。
【0072】
すなわち、バイアル瓶にPG2.4mgを秤量し、5酸化リン存在下で一晩乾燥させた。これに、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.8mLを添加して5時間攪拌後、粉末の水酸化ナトリウム80mgを加えて4時間攪拌した。次に、ヨウ化メチル0.6mLを添加して1時間攪拌後、クロロホルム1mLで3回抽出した。純水にて3回洗浄の後、クロロホルム層を回収し、無水硫酸ナトリウム1.8gを加えて脱水し、室温で1時間放置した。この溶液を濾過し、得られた濾液を濃縮した後、その少量をサンプリングして、薄層クロマト板にスポットし、薄層クロマトグラフィーを行い、オルシノール硫酸で発色させてメチル化糖の存在を確認した。この溶液をエバポレーターにて乾固し、得られた残渣に少量の純水を加えて洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、純水0.5mLを加えて残渣を溶解し、NaBH420mg/純水2mLを0.5mL加えて攪拌し、室温にて4時間放置した。酢酸で過剰のNaBH4を分解し、エバポレーターにて減圧乾固した。得られた残渣をメタノール2mLで5回洗浄し、次いで無水酢酸・ピリジン混液(1/1)1mLを添加して100℃にて4時間加熱した後、エバポレーターにて減圧乾固した。得られた残渣にクロロホルム2mLを加えて抽出し、更に、純水2mLを添加して混和させた。クロロホルム層に無水硫酸ナトリウム1.5gを加えて脱水し、室温で30分間放置後、濾過し、濾液を得た。この濾液をエバポレーターにて減圧乾固した後、クロロホルムに溶解し、GC及びMS分析を行なった。
【0073】
GC−MS測定条件は以下の通りとした。すなわち、GC分析装置はHewlett−Packerd HP5890 SERIESで、カラム液相はSPB−5(スペルコジャパン)、カラムタイプはfused silica capillary 30mx0.25mm IDを用い、キャリヤーガスはHe、カラム温度は60℃(1分保持)→280℃(+8℃/分で昇温)、注入口温度は280℃、検出モードはFID、注入量は0.5μLで、注入モードはsplitlessであった。MSは、装置JMS DX−303質量分析計(日本電子)とデータ処理システムJMA DA5000データ処理システム(日本電子)とを用い、MS部のイオン化方式はEI、電子加速電圧は70V、イオン化電流は300μA、イオン源温度は250℃、イオン加速電圧は3.0KV、走査速度は1sec/scan(m/z=10〜500)、走査間隔は1secであった。
【0074】
部分メチル化アルジトールアセテートの標準マススペクトルと照合することにより、試料のクロマトグラム上の各ピークを同定した結果を表6に示した。更に、ガスクロマトグラムで得られた各ピークの面積から、部分メチル化アルジトールアセテートの組成比を求めた結果も表6に示した。これらの結果から、PGの糖鎖は1→4結合のグルコースが主要な結合であることが示唆された。
【0075】
【表6】
Glc;グルコース、→4 Glc 1→;1→4結合のグルコース、→2 Glc 1→;1→2結合のグルコース、→6
Glc 1 →;1→6結合のグルコース、→4,6 Glc 1→; 1→4結合と→6結合のグルコース、→2,4 Glc1→;1→2結合と→4結合のグルコース
【0076】
(10)PG中の脂肪酸分析
PG6.65mgを1.5mL容ポリチューブに秤量後、メタノール0.2mLを加えた。Speed Vacを用い、これを減圧乾燥し、乾燥物試料6.22mgをガラス製ネジ付き試験管内に移した。これに、5%塩酸・メタノール溶液1mLを加え、オーブン内で90℃、16時間加熱反応させることにより、PG中に存在する脂肪酸のトリグリセライドを脂肪酸メチルエステルに変換した。メタノリシス終了後、ヘキサン1mLを加えて激しく振り混ぜ、静置した後にヘキサン層を回収し、窒素パージで乾固後、クロロホルム(内部標準としてペンタデカン酸メチルを約0.01%含む)1.0mLに再溶解した。この溶液を、以下に記載する通り、GC法により測定した。
【0077】
次に、定量用標準品としてオレイン酸メチル(ジーエルサイエンス株式会社)25.37mgを10mLメスフラスコに秤量し、内部標準を含むクロロホルムを標線まで加えて2537μg/mL標準溶液とした。更に、この溶液を、内部標準を含むクロロホルムで25倍希釈して101.5μg/mL溶液を調製した。更に、これを、内部標準を含むクロロホルムで順次5倍希釈して20.3μg/mL溶液、4.06μg/mL溶液、及び0.81μg/mL溶液を調製した。以下に記載する通り、これらを、試料溶液と同様に、GC分析を行い、得られたピーク面積と標準溶液の濃度より検量線を作成し、これより試料溶液中の各脂肪酸の定量分析を行った。
一方、定性用標準品として、以下の2種類の標準溶液(溶媒:クロロホルム)を用いた。(1)C14〜C18の飽和脂肪酸、及び1〜3価不飽和脂肪酸のメチルエステル混合溶液。(2)C20〜C26の飽和脂肪酸、及び1価不飽和脂肪酸のメチルエステル混合溶液。
【0078】
GC分析は下記の通リに実施した。すなわち、装置としてガスクロマトグラフHP5890型(Hewlett Packard社)、検出器として水素炎イオン化検出器(FID)、カラムとしてSP2380(h30mxφ0.25mm,膜厚0.2μm)を用い、カラム温度50℃(1分保持)→250℃(+8℃/分で昇温)、注入口温度250℃、注入量1μL(splitless注入)の条件であった。なお、GC分析は脂肪酸メチルとして行っているので、以下の式に従って、試料中の脂肪酸量(遊離脂肪酸として)を算出した。
[脂肪酸量]=[脂肪酸メチルとして得られた定量結果]x[遊離脂肪酸分子量/脂肪酸
メチル分子量]
その結果、PGの脂肪酸組成は、多い方から順に、ステアリン酸(C18:0)1.86μg/mg、パルミチン酸(C16:0)1.84μg/mg、オレイン酸[C18:1(9)]1.52μg/mg、リノール酸[C18:2(9,12)]0.94μg/mg、及びミリスチン酸(C14:0)0.55μg/mgであった。
【0079】
(9)赤外分光分析(IR)
赤外分光分析は、KBr法により実施した。より具体的には、PG1mgとKBr粉末10mgとを均質に混合した後、プレスして円盤状に成型し、FTIR VAKOR−III型[日本分光(株)]を用いて測定を実施した。得られたIRスペクトルを図12に示す。
【0080】
(10)紫外分光分析(UV)
PGを純水に溶解し、50mg/mL濃度で測定した。装置として、Bio Spec 1600(島津製作所)を使用した。得られたUVスペクトルを図13に示す。
【0081】
《実施例4:抗腫瘍活性の評価》
【0082】
(1)メラノーマB16
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雄性C57BL/6Nマウスの腋窩部皮下に、メラノーマB16を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、メラノーマB16は、C57BL/6マウスの皮膚に発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(An NY Acad. Sci 100: 762-790, 1963)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0144)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、C57BL/6Nマウスの腋窩部皮下で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察した。結果を図14に示す。平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):15.5±1.2日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、19.0±2.6日及び20.5±1.9日であり、検体投与により生存期間は延長された。
【0083】
(2)形質細胞腫X5563
チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雌性C3H/HeNマウスの腋窩部皮下に、形質細胞腫X5563を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、形質細胞腫X5563は、C3H/Heマウス回盲部に発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(JNCI 24: 1153-1165, 1960)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0174)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、C3H/HeNマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、60日間毎日生死を観察したところ、対照群の60日生存率50%(3/6)に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、100%(6/6)及び67%(4/6)であり、検体投与により生存率の向上がみられた。更に、生存個体においても、図15に示すとおり、腫瘍サイズは、検体投与により明らかに抑制された。
【0084】
(3)サルコーマ180
日本クレア(東京)から購入した5週齢の雌性ICRマウスの腋窩部皮下に、サルコーマ180[Sarcoma 180 (S180)]を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群10匹)。なお、サルコーマ180は、アルビノマウス由来の肉腫に由来する腫瘍細胞株(Cancer
Res 20: 930-939, 1969)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0173)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、ICRマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後25日目に、マウスをと殺し、腫瘍結節を取り出して重量を測定したところ、対照群の腫瘍結節重量[平均値±標準誤差(SE)]:1.05±0.22gに対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、0.01±0.01g及び0.00±0.00gであり、検体投与により、腫瘍増殖は明らかに抑制された。
【0085】
(4)エールリッヒ癌
日本クレア(東京)から購入した5週齢の雌性ICRマウスの腋窩部皮下に、エールリッヒ癌(Ehrlich)を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群10匹)。なお、エールリッヒ癌は、ddYマウスに発生した乳腺腫瘍に由来する腫瘍細胞株(JNCI
13: 1299-1377, 1953)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0147)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、ICRマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に10回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後25日目に、マウスをと殺し、腫瘍結節を取り出して重量を測定したところ、対照群の腫瘍結節重量(平均値±SE):1.96±0.50gに対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、0.01±0.01g及び0.48±0.33gであり、検体投与により、腫瘍増殖は明らかに抑制された。
【0086】
(5)吉田肉腫
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雄性Donryuラットの腹腔内に、吉田肉腫(YS)を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、吉田肉腫は、o−アミノアゾトルエンを3箇月間与え、亜ヒ素酸アルコールを塗布することにより発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(Proc Imp Acad Tokyo 20: 611-618, 1944)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0088)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、Donryuラットの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察し、平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):8.3±0.3日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、9.0±0.4日及び7.5±1.1日であり、検体125mg/kg投与により、生存期間は延長される傾向にあった。
【0087】
(6)白血病P388
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢のCDF1マウスの腋窩部皮下に、白血病P388を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、白血病P388は、DBA/2マウスをメチルコランスレン処置することにより発生した白血病に由来する腫瘍細胞株(Am J Pathol 33: 603, 1957)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0326)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、CDF1マウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察し、平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):17.3±2.2日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、18.3±2.4日及び19.6±1.7日であり、検体投与により、生存期間は延長傾向にあった。
【0088】
(7)白血病EL4
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢のC57BL/6N雄マウスの腋窩部皮下に、白血病EL4を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、白血病EL4は、マウスをジメチルベンズアントラセン(DMBA)処置することにより膵臓に発生したリンホーマに由来する腫瘍細胞株(Cancer Res 16: 338-343, 1956)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0150)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、C57BL/6Nマウスの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察し、平均生存期間を求めたところ、対照群の平均生存日数(平均値±SE):12.0±0.4日に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、それぞれ、13.0±0.0日及び11.8±0.3日であり、検体125mg/kg投与により、生存期間は延長傾向にあった。
【0089】
(8)肝癌AH13
日本チャールズリバー(神奈川)から購入した6週齢の雄性Donryuラットの腹腔内に、肝癌AH13を1×106個/0.2mLハンクス平衡塩溶液/匹移植した(1群6匹)。なお、肝癌AH13は、ラットをジメチルアミノアゾベンゼン(DAB)処置することにより肝臓に発生した腫瘍に由来する腫瘍細胞株(病理学会誌 11: 147-168, 1967)であり、本実施例では、東北大学・加齢医学研究所付属医用細胞資源センター(保管番号:TKG0011)から入手し、呉羽化学工業株式会社・生物医学研究所において、Donryuラットの腹腔内で継代・維持している細胞を使用した。
移植24時間後から、実施例2で得られたPG(生理食塩水に溶解)を125mg/kg又は250mg/kg量、隔日に4回、腹腔内注射した。対照として、検体溶液の代わりに、生理食塩水0.2mLを用いた。
移植後、毎日生死を観察したところ、対照群の12日生存率17%(1/6)に対し、検体125mg/kg及び250mg/kg投与群のそれは、いずれも67%(4/6)であり、検体投与により生存期間は延長された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の糖タンパク質は、免疫増強剤、ストレス負荷回復促進剤、及び/又は抗腫瘍剤の用途に適用することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】アルカリ抽出液のChMe処理により得られた水層部について、陰イオン交換クロマトグラフィーを実施して得られた溶出パターンを示すクロマトグラフである。
【図2】陰イオン交換クロマトグラフィーにより得られたフラクションBについて、ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−100)を実施して得られた溶出パターンを示すクロマトグラフである。
【図3】陰イオン交換クロマトグラフィーにより得られたフラクションBについて、ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−100)を実施して得られた各画分におけるTGF−β1の結合活性を示すグラフである。
【図4】ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−100)により得られたフラクションB−1について、更にゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−500)を実施して得られた溶出パターン及び各画分におけるTGF−β1の結合活性を示すグラフである。
【図5】ゲル濾過クロマトグラフィー(セファクリルS−500)により得られたフラクションB−1−2について、逆相クロマトグラフィーを実施して得られた溶出パターンを示すクロマトグラフである。
【図6】逆相クロマトグラフィーにより得られた本発明の糖タンパク質について、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を実施した結果を示す、クロマトグラフである図面に代わる写真である。
【図7】本発明の糖タンパク質の円偏光二色性分析により得られたCDスペクトルである。
【図8】本発明の糖タンパク質の1H一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図9】ヒドラジン処理糖タンパク質の1H一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図10】本発明の糖タンパク質の13C一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図11】ヒドラジン処理糖タンパク質の13C一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図12】本発明の糖タンパク質の赤外分光分析により得られたスペクトルである。
【図13】本発明の糖タンパク質の紫外分光分析により得られたスペクトルである。
【図14】本発明の糖タンパク質を投与したメラノーマB16移植マウスの生存率を示すグラフである。
【図15】本発明の糖タンパク質を投与した形質細胞腫X5563移植マウスにおける腫瘍体積の経時変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の性質を有する糖タンパク質。
(a)分子量:約60kDa(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)。
(b)糖質とタンパク質との含有比率:(糖質:タンパク質)16.4:1.0。
【請求項2】
(1)マツタケをアルカリ溶液又は熱水で抽出する工程、
(2)得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、
(3)前記陰イオン交換樹脂から、溶離液により吸着画分を溶出する工程、及び
(4)前記溶出工程で得られた溶出画分を、ゲル濾過により分画し、分子量50〜70kDaの画分を取得する工程
を含む製造方法により調製することのできる、糖タンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する、医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、免疫増強剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、ストレス負荷回復促進剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、抗腫瘍剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を、免疫増強が必要な対象に、有効量で投与することを含む、免疫増強方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を、ストレス負荷回復促進が必要な対象に、有効量で投与することを含む、ストレス負荷回復促進方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を、腫瘍の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することを含む、腫瘍を治療又は予防する方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質の、免疫増強剤又は免疫増強用医薬組成物を製造するための使用。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質の、ストレス負荷回復促進剤又はストレス負荷回復促進用医薬組成物を製造するための使用。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質の、抗腫瘍剤又は抗腫瘍用医薬組成物を製造するための使用。
【請求項1】
下記の性質を有する糖タンパク質。
(a)分子量:約60kDa(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)。
(b)糖質とタンパク質との含有比率:(糖質:タンパク質)16.4:1.0。
【請求項2】
(1)マツタケをアルカリ溶液又は熱水で抽出する工程、
(2)得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、
(3)前記陰イオン交換樹脂から、溶離液により吸着画分を溶出する工程、及び
(4)前記溶出工程で得られた溶出画分を、ゲル濾過により分画し、分子量50〜70kDaの画分を取得する工程
を含む製造方法により調製することのできる、糖タンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する、医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、免疫増強剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、ストレス負荷回復促進剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする、抗腫瘍剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を、免疫増強が必要な対象に、有効量で投与することを含む、免疫増強方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を、ストレス負荷回復促進が必要な対象に、有効量で投与することを含む、ストレス負荷回復促進方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質を、腫瘍の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することを含む、腫瘍を治療又は予防する方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質の、免疫増強剤又は免疫増強用医薬組成物を製造するための使用。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質の、ストレス負荷回復促進剤又はストレス負荷回復促進用医薬組成物を製造するための使用。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の糖タンパク質の、抗腫瘍剤又は抗腫瘍用医薬組成物を製造するための使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【国際公開番号】WO2005/035571
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514633(P2005−514633)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015057
【国際出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/015057
【国際出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】
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