説明

新規カリウムチャネルモジュレータペプチド

新規13残基ペプチドMo1659を、食虫イモガイ、クビカザリイモの毒から単離した。毒抽出物のHPLC分画で質量1659Daに強いUV吸収画分を生じた。マトリックス支援レーザー脱離イオン化及びエレクトロスプレーMS/MS法を、タンパク質分解断片の解析とともに用いてデノボ配列決定をしたところ、アミノ酸配列FHGGSWYRFPWGY−NHを首尾よく得た。これは、化学合成したペプチドとの比較及び慣用のエドマン法による配列決定によって更に確認された。Mo1659は、圧倒的多数の芳香族残基があり、Ala、Val、Leu、Ileのような無極性脂肪族残基が存在しない特異な配列を有している。Mo1659にはジスルフィド結合がなく、コノトキシンと区別され、イモガイ毒からこれまでに単離された非環式ペプチドのいずれとも配列類似性がない。後根神経節ニューロンで測定した電流に対するMo1659の効果に関する電気生理的研究は、ペプチドが不活化電位型カリウムチャネルを標的にすることを示唆している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不整脈、多発性硬化症、関節リウマチ、及びカリウムチャネルの欠損に関与する他の症候群のような疾患の治療用分子としての有用性を有するカリウムチャネルモジュレータの分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
カリウムチャネルは膜タンパク質であり、心拍、筋収縮、神経細胞の興奮性、及び免疫機能の調節のような複雑な生物学的プロセスに関与する静止膜電位及び活動電位の持続時間を決定する(Kurokawa,J.ら、Journal of Molecular and Cellular Cardiology(2001)、33、873−882;Dodson,P.D.及びForsythe,I.D.、Trends in Neurosciences(2004)、27、210−217;Koo,G.C.ら、Cellular Immunology(1999)、197、99−107)。これらは神経伝達物質、薬物、毒素などの標的として作用し、合理的な薬物デザインのための魅力的な道具である。例えば、あるKチャネルの遮断薬は、リエントリー性不整脈を予防又は抑制するために利用されるクラスIII抗不整脈作用を示す(Tamargo,J.ら、Cardiovascular Research(2004)、62、9−33)。サソリ由来毒素であるMargatoxinは、多発性硬化症や関節リウマチのような自己免疫疾患を治療する特性を有することが報告されている(Shak,Kら、Cellular Immunology(2003)、221、100−106)。イモガイ由来ペプチドであるコノトキシンは、中枢神経系の受容体及びチャネルに対する最も強力なリガンドの1つである。アヤメイモ由来のκ−コノトキシン、κ−Pviiaは、アルツハイマー病、ランバート・イートン症候群、及び重症筋無力症を治療するための有力候補として進展している(Olivera,B.M.ら、Expert Opinion on Therapeutic Patents(2001)、11、603−623)。カリウムチャネルは膜タンパク質であり、心拍、筋収縮、神経細胞の興奮性、及び免疫機能の調節のような複雑な生物学的プロセスに関与する静止膜電位及び活動電位の持続時間を決定する(Kurokawa,J.ら、Journal of Molecular and Cellular Cardiology(2001)、33、873−882;Dodson,P.D.及びForsythe,I.D.、Trends in Neurosciences(2004)、27、210−217;Koo,G.C.ら、Cellular Immunology(1999)、197、99−107)。これらは神経伝達物質、薬物、毒素などの標的として作用し、合理的な薬物デザインのための魅力的な道具である。例えば、あるKチャネルの遮断薬は、リエントリー性不整脈を予防又は抑制するために利用されるクラスIII抗不整脈作用を示す(Tamargo,J.ら、Cardiovascular Research(2004)、62、9−33)。サソリ由来毒素であるMargatoxinは、多発性硬化症や関節リウマチのような自己免疫疾患を治療する特性を有することが報告されている(Shak,Kら、Cellular Immunology(2003)、221、100−106)。イモガイ由来ペプチドであるコノトキシンは、中枢神経系の受容体及びチャネルに対する最も強力なリガンドの1つである。アヤメイモ由来のκ−コノトキシン、κ−Pviiaは、アルツハイマー病、ランバート・イートン症候群、及び重症筋無力症を治療するための有力候補として進展している(Olivera,B.M.ら、Expert Opinion on Therapeutic Patents(2001)、11、603−623)。
【0003】
チャネルの分子多様性は、他のイオンチャネル群よりも大きく、80を越える異なる遺伝子と多くのスプライス変異体がある。多様性は中枢神経系で際立って観察され、独特のカリウムチャネルセットを発現するニューロンのサブタイプが数多く存在する。電位型カリウムチャネルは、ニューロンに潜在的な作用の再分極の原因である。後根神経節ニューロンに対する初期の電気生理的研究は、少なくとも6つの電位型K電流、3つの過渡電流、及び3つの非不活化電流の発現を示していた。
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
本発明は、クビカザリイモから得た13残基ペプチドの新規カリウムチャネル調節活性について主張する。標的配列は慣用の固相ペプチド合成法で調製されており、天然配列と同一であることがわかっている。このペプチド配列のアナログは合成法で容易に調製することができる。
【0005】
電気生理的研究は、13残基ペプチドMo1659が非不活化K電流に特異的に作用することを示唆している。クローン化Kチャネルを用いた研究及び合成アナログの調査は、標的チャネルサブタイプの同定及びチャネル遮断活性の分子メカニズムの確立に必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
発明の詳細な説明
本発明は、アミノ酸配列FHGGSWYRFPWGY(配列番号1)を有する実質的に純粋なペプチドについて開示する。
【0007】
ペプチドはカリウムチャネルモジュレータとして用いられる。
【0008】
実質的に純粋なペプチドを調製する方法であって:
(i) ペプチドの単離、及び
(ii) クロマトグラフ法によるペプチドの精製、
を含む前記方法。
【0009】
工程(i)のペプチドはクビカザリイモの毒から単離される。
【0010】
精製工程(ii)はHPLC(高速液体クロマトグラフィ)で行われる。
【0011】
ペプチドは神経生理的な障害及び神経障害の治療に用いられる。
【0012】
ペプチドは、神経生理的な障害及び神経障害、統合失調症、てんかん、双極性障害、又は神経系に影響する症候群の治療に用いられる。
【0013】
アミノ酸配列FHGGSWYRFPWGY(配列番号1)を有するペプチドを、医薬的に許容可能な担体と共に又は伴わずに含む、医薬組成物。
【0014】
本発明を以下の実施例において論じるが、限定的なものとみなされるべきではない。
【実施例】
【0015】
実施例1(ペプチドの単離及び精製)
クビカザリイモ標本をインドの南東海岸から採取した。解剖後、毒管をエタノール中に保存し、流れ出た毒をrotavaporで濃縮後、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)精製に供した。粗製毒抽出物をJupiter 4μ、Proteo 90Å、C18カラム(10mm×250mm)に供し、0.1%TFAを含有するアセトニトリルの直線勾配で溶出させた。流速を1ml/分に維持し、226nmで吸収をモニターした。いくつかのペプチド成分への分画を達成した。ペプチド成分を個々のHPLC画分のMALDI質量スペクトル解析で解析した。質量分析デノボ配列決定のために、分子量1659Daに相当する保持時間23.4分の強い成分を選択した。ペプチド成分は高分解MALDI質量スペクトルを示し、[M+H]+=1659.1Da(モノアイソトピック質量)を証明した。挿入図は、+2及び+3状態を検出可能なエレクトロスプレー質量スペクトルで観察された荷電状態を示しており、分子中に少なくとも3つのプロトン化可能な基の存在を示唆している。DTTで還元した後、ヨードアセトアミドでアルキル化しても分子量は変化せず、ジスルフィド結合がないことを証明した。無水酢酸及び酢酸によるアセチル化で質量[M+H]+=1701.3Da(m=+42Da)の産物を得、1級アミノ基が1つ存在することを示した。UV及び蛍光スペクトルによりTrp及びTyr残基の存在を証明した。MALDI MS/MS技術を用いて、1659.1Daを前駆イオンとして選択してペプチド配列決定を行った。図3は、観察された断片イオンを、b及びyイオン系列の帰属と共に示している(13)。285Daの強いb2イオンの存在は、8残基セグメント−GGSWYRFP−の連続追跡を可能にした。70、110、136、及び159のインモニウムイオンは、それぞれ、Pro、His、Tyr、及びTrp残基の存在を示唆していた。285Daのb2イオンは、アミノ末端のジペプチド−FH−又は−HF−に対応するであろう。194.9Daの質量ピークの観察は、ジペプチドイオン−GH−又は−HG−の存在を示唆していた。これはN末端配列−FHG−の帰属を支持している。質量範囲1200〜1500Daにおける強い断片の不足により、C末端配列の伸長が制限された。
【0016】
実施例2(ペプチドの確認)
2つの個別の方法で決定した配列の確認を行った。第1に、Mo1659の決定した配列に対応する合成ペプチドを調製し、そのMS/MSフラグメンテーションパターンが天然産物と同一であることを示した(図5)。合成ペプチドと天然ペプチドとの同一性はHPLC解析でも証明した(図5、挿入図)。第2に、自動配列決定装置を用いた慣用のエドマン法による配列決定により配列を確認した。Mo1659の注目すべき特徴は、13残基の短いストレッチ中に7つもの芳香族アミノ酸(F−2、Y−2、W−2、H−1)が存在することである。陽に荷電されたペプチドは、Ala、Val、Leu、及びIleのような一般的な脂肪族疎水性アミノ酸を著しく欠損している。
【0017】
実施例2(a)
還元及びアルキル化: 精製ペプチドを、30μLの0.05M NHHCOバッファー、pH8.0中に溶解した。還元するため、200mMジチオスレイトール(DTT)保存溶液を加えて終濃度8mMとし、37℃で2時間インキュベーションし、ヨードアセトアミド保存溶液を添加して終濃度40mMとした。得られた混合物を暗所中、室温で1時間インキュベーションし、その後、MALDI MSで解析した。
【0018】
アセチル化: ペプチド溶液を乾燥させ、1:1比の酢酸及び無水酢酸中に再懸濁した。室温で5分間インキュベーションした後、得られた溶液を再度乾燥させ、1:1比(v/v)の0.1% TFA及びアセトニトリル中に再懸濁し、MALDI MSを用いて解析した。トリプシン消化。精製サンプルを、TPCK処理トリプシン(シグマ社、米国)を50μlの50mM NHHCO、pH8.0中に10μgの酵素で用いて、37℃で3時間消化した。消化産物をMALDI及びESI質量分析計を用いて解析した。
【0019】
トリプシン消化: 精製サンプルを、TPCK処理トリプシン(シグマ社、米国)を50μlの50mM NHHCO、pH8.0中に10μgの酵素で用いて、37℃で3時間消化した。消化産物をMALDI及びESI質量分析計を用いて解析した。トリプシンによるMo1659の消化により、それぞれN末端及びC末端断片に対応する、質量(MALDI)1010Da及び668Daの2つの断片を生じた。668Da断片は、先に図3において断片イオンとして検出されたC末端断片−FPXXと帰属された[加水分解により、17Da(OH)がN末端断片に付加され、1Da(H)がC末端断片に付加されていることに注意されたい]。668Da断片を、イオントラップ質量分析計中、エレクトロスプレーイオン源を用いて高エネルギー衝突誘起解離(CID)に供した。観察されたESI MS/MSフラグメンテーションパターンを図4に示す。651Daの強いピークは、C末端からのNHの容易な喪失に相当し、C末端アミド化の存在を示唆している。イモガイペプチドは翻訳後修飾されることが多く、アミド化が一般に観察される(14,15)。245Daのb2イオンの同定は、MALDI MS/MSによって既に証明されている−FP−断片に相当し、C末端トリペプチド−WGY−アミドの容易な同定を可能にする。最終決定した配列はFHGGSWYRFPWGY−NHであり、計算された平均質量1659.8Da(ESI MSで観察された平均質量=1659.3Da)に相当する。
【0020】
質量分析: 四重極解析器を備えたヒューレット・パッカードのHP1100MSDシリーズ分光計でエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量スペクトルを得た。300〜1500m/zの範囲にわたって陽イオンモードでデータを取得し、HP LC/MSD Chemstationソフトウェアを用いて解析した。337nmの窒素レーザーを備えたBruker DaltonicsのUltraflex TOF/TOFシステムを用いて、リフレクトロン陽イオンモードでMALDIスペクトルを採取した。等量のペプチド溶液と飽和マトリックス(α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)とを混合することによってサンプルを調製した。標準のペプチド混合物を外部較正に用いた。Esquire3000プラスLCイオントラップ質量分析計(Bruker Daltonics、ドイツ)でESI MS/MSデータを得た。ネブライザーに対する窒素ガス圧及び流速はそれぞれ10bar及び5L/分であり、乾燥ガス温度は300℃であった。スキャン範囲を50〜1000m/zにセットした。0.1%HCOOHを含有する1:1(v/v)比の水及びアセトニトリルにサンプルを溶解し、シリンジポンプによって送達されるシステムに流速120μl/時で直接注ぎ込んだ(Cole−Parmer、バーノンヒル、イリノイ州、米国)。CID実験の衝突ガスとしてヘリウムを用いた。Esquireデータ解析ソフトウェア、バージョン3.1を用いてデータを解析した。
【0021】
エドマン法による配列決定: LC−10A HPLCシステムを備えた島津PPSQ−10タンパク質配列決定装置を用いてペプチドの1次配列を決定した。
【0022】
実施例3(Mo1659配列の確認)
2つの個別の方法で決定した配列の確認を行った。第1に、Mo1659の決定した配列に対応する合成ペプチドを調製し、そのMS/MSフラグメンテーションパターンが天然産物と同一であることを示した(図5)。合成ペプチドと天然ペプチドとの同一性はHPLC解析でも証明した(図5、挿入図)。第2に、自動配列決定装置を用いた慣用のエドマン法による配列決定により配列を確認した。Mo1659の注目すべき特徴は、13残基の短いストレッチ中に7つもの芳香族アミノ酸(F−2、Y−2、W−2、H−1)が存在することである。陽に荷電されたペプチドは、Ala、Val、Leu、及びIleのような一般的な脂肪族疎水性アミノ酸を著しく欠損している。
【0023】
実施例4(コノペプチドMo1650の新規性)
既存のタンパク質配列データベースの検索では、Mo1659の決定した配列に匹敵するものはないことを示している。異なるデータベース検索により、Blast、BlastPなどのような異なるアルゴリズムを用いて、以下に記載のようにペプチドの独自性を証明する:
配列:FHGGSWYRFPWGY(配列番号1)の独自性
配列FHGGSWYRFPWGYの独自性を以下の方法で示した:
Prositeを用いて配列:F−H−G−G−S−W−Y−R−F−P−W−G−Y(配列番号1)を検索した。
この配列をPDB、Swissprot、TrEMBL、TrEMBL newで検索した。ヒットはなかった。
【0024】
また、Prositeを用いて以下の変異体を検索した:
[FY]−H−G−G−S−W−[YF]−[RK]−[FY]−P−W−G−[YF]。
ヒットはなかった。
【0025】
実施例5(ペプチドのカリウムチャネル活性化に関するアッセイ)
DRGニューロンの調製。電気生理的研究のために後根神経節(DRG)ニューロンを以下のように調製した:
生後5日の雄性ウィスターラットをジエチルエーテルで麻酔した。脊柱全体を取り出し、予め酸素を含ませたリン酸緩衝化食塩水を含有する皿に移した。脊柱を保持しながら一辺の骨を脊柱の後根から切り出した。後根神経節を後根及び前根とともに細い解剖用鉗子で個々に取り出し、1.5mg/mlトリプシン(ブタ膵由来、シグマ、米国)を含有するリン酸緩衝化食塩水中に移した。DRGを解剖用スプリングハサミで細かく切り、37℃で30分間インキュベーションした。トリプシン処理後、1000rpmで5分間遠心して細胞を沈殿させた。上清を除去し、10%FBSを含有する1mlのDMEMで洗浄した。10%FBSを含有する新鮮なDMEMに再懸濁した後、炎で研磨したパスツールピペットで粉砕して単一細胞の懸濁液を得た。細胞密度を増加させるために、部分的に加工した直径8mmの光学研磨ガラスリングを滅菌35mm細胞培養皿の底に置いた。ガラスリングによって形成されたウェルに懸濁細胞を蒔いた。細胞を37℃で1時間インキュベーションした。単離DRGニューロンを電気生理的実験に用いた。
【0026】
電気生理学: パッチクランプ技術により、EPC−8増幅器(Heka)を用いて全細胞モードでDRGニューロンから単離K電流を記録した。抵抗1〜3MΩのパッチクランプ電極をホウケイ酸ガラス(Clark Electromedical Instruments、英国)から作製した。外部浴溶液は:130mM塩化コリン、3mM KCl、2.5mM CoCl、0.6mM MgCl、10mM Hepes、1.2mM NaHCO、及び10mMグルコース、pH7.4、並びにTris塩基を含有しており;浸透圧はショ糖で325mOsm調整した。内部溶液は:140mM KCl、1mM CaCl・2HO、2mM MgCl・6HO、11mM EGTA、10mM Hepes、pH7.2、並びにTris塩基を含有しており;浸透圧310mOsmであった。全ての実験においてニューロンを−80mVに電圧固定した。P/4サブトラクションプロトコールを用いて容量及び漏れサブトラクションを行った。全ての実験において50%のRs補正を用いることにより電圧エラーを最小にした。データ取得及びパルスプロトコルをpClamp8ソフトウェア及びDigidata1320アナログ/デジタル変換器(Axon Instruments社)で調整した。浴温を20℃に維持した。毒素を水に溶解した。毒素のボーラス適用を用いて最終浴濃度200nMを達成した。本明細書に報告するK電流に対するMo1659の効果を、ペプチド適用後15分に記録した。
【0027】
Mo1659はDRGニューロンにおいてKチャネル調節活性を示す。図6は、DRGニューロンからの、細胞全体の混合した外向きK電流に対するMo1659の効果を示す。外部浴溶液中の200nM Mo1659により、全ての電位における電流振幅の顕著な低下を観察した。混合したK電流は、速い過渡電流成分及び持続電流成分を有する。2つの異なるプレバルス電圧の後、図7に図示した同一電圧プロトコルを用いて、速い過渡電流成分を持続電流成分と別々にした。調整プレパルス電圧単独でK電流成分を完全に単離することはできないが(18)、結果は、外部浴溶液へのMo1659の添加は持続K電流成分に優位に影響することを示唆している。電流トレースのサブトラクション後に得られた過渡電流成分は、Mo1659によって有意に影響されないことに注目することができる。5つの異なる実験で同様の結果を得た。したがって、Mo1659は、不活化電位型カリウムチャネルに影響を及ぼすと思われる。興奮細胞のカリウムチャネルを遮断することによる合計K電流の低下は、不整脈及び心不全の療法の開発に重要なプロセスである。カリウムチャネル遮断薬を用いて活動電位持続時間を高めることは、新規クラスの抗不整脈剤を開発するための可能な戦略である。
【0028】
実施例6(クビカザリイモペプチドMo1659の産生方法)
貝毒からの精製: クビカザリイモ標本はインドの南東海岸より採取した。解剖後、毒管をエタノール中に保存し、流れ出た毒をrotavaporで濃縮後、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)精製に供した。粗製毒抽出物をJupiter 4μ、Proteo 90Å、C18カラム(10mm×250mm)に供し、0.1%TFAを含有するアセトニトリルの直線勾配で溶出させた。流速を1ml/分に維持し、226nmで吸収をモニターした。保持時間23.4分の強い成分は所望のMo1659ペプチドである。この画分の均質性を分析用カラム(Zorbax C18 RP、孔径300Å、粒子サイズ5μ)を用いたHPLCによる解析で示した。更に、ペプチドの同一性及び混入物質の不在をLC−ESI及びMALDI質量分析で示した。
【0029】
こうして得られたペプチドを電気生理的活性について試験し、更なる使用のため+4℃で保存した。
【0030】
実施例7(クビカザリイモペプチドMo1659の化学合成)
Fmoc化学を用いた標準の固相ペプチド合成法でペプチドを合成した。全てのアミノ酸はN末端がFmoc基(Nova Biochem)で保護されている。Tyr及びSerの測鎖はt−Bu基で、ArgはMtr基で、Hisはトリチル基で保護した。Fmoc−RinkアミドAM樹脂(200−400メッシュ、Nova Biochem)上で保護アミノ酸のOPfpエステルを用いてカップリング反応を進めた。ビーズ容量0.63mMg−1の樹脂300mgを用いて合成を行った。C端アミノ酸(Tyr)を、固相支持体から出ているアミノ官能基とのアミド結合の形成によって樹脂に連結させた。HBTU(N−[(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)(ジメチルアミノ)メチレン]−N−メチルメタナミニウム ヘキサフルオロリン酸N−オキシド)を用いてSerとHisをカップリングさせた。20%ピペリジンのジメチルホルムアミド溶液でFmoc脱保護を行った。合成後、5%アニソール(400μl)及び1%エタンジチオール(80μl)を陽イオンスカベンジャーとして含有する94%TFA(7.52ml)を用いて100mgの樹脂からペプチドを切断した。5〜6時間後、樹脂をろ過して除去し、TFAを真空で蒸発させて除去し、ペプチドをエーテルで沈殿させた。沈殿物をエーテルで繰り返し洗浄し、RP HPLCで精製した。
【0031】
本発明はペプチド配列について記載しており、それに基づいてそれぞれのアミノ酸の公知のトリプレット暗号からDNA配列を生ずることができるという事実を利用して、このペプチドを組換えDNA技術で作製することも可能である。こうして得られるDNA配列は合成することができる/関連遺伝子のストレッチを貝DNAから、cDNAクローニング、ポリメラーゼ連鎖反応などの方法を用いて得ることができ、原核系又は真核系の発現ベクターにクローニングすることができる。このようにして得られるクローンを遺伝子操作して、ペプチドMo1659を公知の方法で作製し、公知の方法で均質になるまで精製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列FHGGSWYRFPWGY(配列番号1)を有する実質的に純粋なペプチド。
【請求項2】
カリウムチャネルモジュレータとして用いられる、請求項1に記載の実質的に純粋なペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載の実質的に純粋なペプチドを調製する方法であって:
(i) ペプチドの単離、及び
(ii) クロマトグラフ法によるペプチドの精製
を含む、前記方法。
【請求項4】
工程(i)のペプチドが、食虫イモガイの毒から単離される、請求項3に記載の実質的に純粋なペプチドの調製方法。
【請求項5】
食虫イモガイがクビカザリイモである、請求項4に記載の実質的に純粋なペプチドの調製方法。
【請求項6】
精製工程(ii)がHPLC(高速液体クロマトグラフィ)によって行われる、請求項3に記載の実質的に純粋なペプチドの調整方法。
【請求項7】
神経生理的な障害及び神経障害の治療に用いられる、請求項1に記載の実質的に純粋なペプチド。
【請求項8】
神経生理的な障害及び神経障害、統合失調症、てんかん、双極性障害、又は神経系に影響する症候群の治療に用いられる、請求項7に記載の実質的に純粋なペプチド。
【請求項9】
アミノ酸配列FHGGSWYRFPWGY(配列番号1)を有するペプチドを、医薬的に許容可能な担体と共に又は伴わずに含む、医薬組成物。

【公表番号】特表2008−505055(P2008−505055A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553694(P2006−553694)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003278
【国際公開番号】WO2005/085276
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(506098804)ナショナル センター フォー バイオロジカル サイエンシズ (2)
【Fターム(参考)】