説明

新規カルノシン誘導体及び組成物

【課 題】L−カルノシンの有する難点を克服し、カルノシナーゼに安定で、かつ抗酸化作用が優れている新規なL−カルノシン誘導体の提供。
【解決手段】一般式(II)


で示されるL−カルノシン誘導体、またはその薬理的に許容し得る塩、エステルもしくはアミド。この化合物は活性酸素種による障害に起因する疾病の治療または予防、老化防止などを目的とした医薬品、皮膚用化粧品などに利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルノシナーゼに対して安定で、かつ抗酸化活性に優れた新規L−カルノシン誘導体及び該誘導体を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素種によって引き起こされる脂質や蛋白質の過酸化は、ヒト及び他の哺乳動物組織の構造及び機能が加齢と共に低下する要因の一つと考えられており、かかる過酸化を防止するための物質が、抗酸化剤として医薬品、化粧品、栄養補助食品などに適用されている。
【0003】
このような物質の例として、式(I):
【化1】

で示されるL−カルノシン(β−アラニル−L−ヒスチジン)が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
L−カルノシンは、脊椎動物の骨格筋の非蛋白画分(例えば、非特許文献1,2)、水晶体(例えば、非特許文献3)などに多く含まれる天然の抗酸化剤で、組織や血中成分の脂質、蛋白質などが活性酸素種、脂質過酸化物(例えば、非特許文献4,5)、あるいは不飽和脂肪酸の酸化により二次的に生じるアクロレイン、4−ヒドロキシ−トランス−2,3−ノネナール(HNE)などのα,β−不飽和アルデヒド(例えば、非特許文献6,7)などにより損傷を受けるのを防ぐうえで重要な役割を果たしていることが知られている。そのため、L−カルノシンは一部の国で栄養補助食品、化粧品として使用されているが、血漿中、あるいは組織中に多量に存在するカルノシナーゼという酵素によって容易に加水分解されてβ−アラニンとL−ヒスチジンとなり、その生理活性を完全に失うので、医薬品としては何ら利用されておらず、またL−カルノシンを主成分とする栄養補助食品や化粧品などの製品もその効果が必ずしも満足できるものではない。また、本発明者らが知る限りにおいては、L−カルノシンを化学修飾した誘導体で上記目的に使用されているものはない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−267992号公報
【非特許文献1】K. G. Crush, Com. Biocem. Physiol., Vol.34, 3, 1970
【非特許文献2】A. A. Boldyrev., S. E. Severin, Adv. Enzyme Regul., Vol.30, 1990
【非特許文献3】F. Margolis, Science, Vol.184, 909, 1974
【非特許文献4】M. A. Babizhayev et al., Biochem. J., Vol.304, 509, 1994
【非特許文献5】J. H. Kang et al., Molecules and Cells, Vol.13, 107, 2002
【非特許文献6】G. Poli, R. Schaur, IUBMB Life, Vol.50, 315, 2000
【非特許文献7】F. J .Romero et al., Environ. Health Perspect., Vol.106, 1229, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、L−カルノシンの有する難点を克服し、カルノシナーゼに安定で、かつ抗酸化作用が優れている新規なL−カルノシン誘導体を提供することにある。また、本発明の目的は、この新規なL−カルノシン誘導体を、活性酸素種による障害に起因する疾病の治療または予防、老化防止などを目的とした医薬品、皮膚用化粧品などに適用できる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の動物生体内に多量に存在する天然の抗酸化剤であり、安全性に優れたL−カルノシン(すなわち、β−アラニル−L−ヒスチジン)に着目し、抗酸化活性がL−カルノシンより優れ、かつカルノシナーゼなどのペプチダーゼに対して安定な新規L−カルノシン誘導体の開発を目指して鋭意研究を行った結果、新規なカルノシン誘導体の創成に成功した。また本発明者らは、前記カルノシン誘導体がL−カルノシンよりも強力な抗酸化活性を示し、かつカルノシナーゼなどのプロテアーゼ抵抗性に優れることを見出すと共に、該誘導体がL−カルノシンよりも優れた紫外線防御作用や皮膚の保湿作用を示すことを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1] 式(II):
【化2】

で示されるL−カルノシン誘導体、またはその薬理的に許容し得る塩、エステルもしくはアミド、
[2] L−カルノシン誘導体(II)が、N−[(2RS)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンである前記[1]記載の化合物、
[3] L−カルノシン誘導体(II)が、N−[(2R)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンである前記[1]記載の化合物、
[4] L−カルノシン誘導体(II)が、N−[(2S)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンである前記[1]記載の化合物、
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を含有する医薬、
[6] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を含有する化粧品、および
[7] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を含有する抗酸化剤、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規なL−カルノシン誘導体(II)は天然L−カルノシンより強力な抗酸化活性を有し、カルノシナーゼなどのプロテアーゼによる加水分解に抵抗するので、経口的あるいは非経口的に投与したときに生体の各種組織内で安定に存在することができ、ヒトあるいはその他の哺乳動物の組織、皮膚などの活性酸素種による障害の予防・治療にとって有用である。したがって、例えば動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、くも膜下出血などの虚血性疾患の予防や治療に用いることができ、抗老化(アンチエージング)効果が期待できるほか、紫外線防御作用や皮膚の保水性や弾力性を高めるなどの効果を有するので、皮膚の健康を増進する化粧品としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の目的化合物は、一般式(II):
【化3】

で示されるL−カルノシン誘導体、またはその薬理的に許容し得る塩、エステルもしくはアミドである。
【0011】
「薬理学的に許容し得る塩」としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、塩酸塩、硫酸塩のような無機酸塩、リンゴ酸塩、フマール酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩のような有機酸塩が挙げられる。
【0012】
「そのエステル」としては、カルボキシル基の「一般的な保護基」であるエステルか、あるいは「生体内で加水分解のような生物学的方法により開裂し得る保護基」であるエステルが挙げられる。
【0013】
「一般的な保護基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のようなアルキル基;ベンジル基、フェネチル基のようなアラルキル基;ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基のようなヒドロキシ置換アルキル基などが挙げられる。
【0014】
また、「生体内で加水分解のような生物学的方法により開裂し得る保護基」としては、例えば、メトキシメチル基、1−エトキシエチル基、1−メチル−1−メトキシエチル基、エトキシメチル基、n−プロポキシメチル基、tert−ブトキシメチル基のようなアルコキシ置換アルキル基;メトキシカルボニルメチル基のようなアルコキシカルボニル置換アルキル基;メチルチオメチル基、エチルチオメチル基のようなアルキルチオ置換アルキル基;アセトキシメチル基、1−アセトキシエチル基、プロピオニルオキシメチル基、1−プロピオニルオキシエチル基、ブチリルオキシメチル基、ピバロイルオキシメチル基、1−ピバロイルオキシエチル基、バレリルオキシメチル基、イソバレリルオキシメチル基、1−シクロヘキサンカルボニルオキシエチル基のような脂肪族アシルオキシ置換アルキル基;メトキシカルボニルオキシメチル基、エトキシカルボニルオキシメチル基、プロポキシカルボニルオキシメチル基のようなアルコキシカルボニルオキシ置換アルキル基などが挙げられる。
【0015】
また、「そのアミド」を形成する基としては、例えば、式(A):
【化4】

[式中、RaおよびRbはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアラルキル基を示すか、あるいは両者が隣接する窒素原子と共に5〜7員複素環式基を形成していてもよいことを示す。]
で示される基が挙げられる。
【0016】
本発明に係る新規なL−カルノシン誘導体(II)は、例えば、下記の方法1または方法2によって製造することができる。
(方法1)
一般式(Ia):
【化5】

[式中、Rは水素原子またはカルボキシル基の保護基を示す。]
で示されるL−カルノシン類化合物と一般式(III):
【化6】

[式中、R’は水素原子または水酸基の保護基を示す。]
で示される6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン誘導体またはそのカルボキシル基における反応性誘導体を反応させ、Rおよび/またはR’が保護基である場合は、さらに生成物から該保護基を除去するか、あるいは
(方法2)
一般式(IV):
【化7】

[式中、Rは上記と同意義を示す。]
で示されるL−ヒスチジン類化合物と式(V):
【化8】

[式中、R’は上記と同意義を示す。]
で示される化合物またはそのカルボキシル基における反応性誘導体を反応させ、Rおよび/またはR’が保護基である場合は、さらに生成物から該保護基を除去することにより、目的化合物(II)を製造することができる。
【0017】
上記方法2における原料化合物(V)は次のようにして製造できる。すなわち式(VI)
【化9】

[式中、Rは前記と同意義を示す。]
で示されるβ−アラニン類化合物と上記化合物(III)またはそのカルボキシル基における反応性誘導体を反応させ、次いで必要により脱保護することにより化合物(V)を製造することができる。
【0018】
式(Ia)、(IV)及び(VI)で示される化合物中、Rで示される基がカルボキシル基の保護基である場合、該保護基としては、アミノ酸やペプチド化学の分野でカルボン酸の保護基として公知のものが挙げられる。かかる保護基としては、例えばアルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基など)や、アラルキル基(例、ベンジル基、p−メトキシベンジル基など)などが挙げられる。
【0019】
一方、式(III)及び(V)で示される化合物中、R’で示される水酸基の保護基としては、例えばアシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、p−メトキシベンジル基など)などが挙げられる。
【0020】
化合物(III)と化合物(Ia)との反応、あるいは化合物(V)と化合物(IV)との反応
これらの反応は通常適宜の縮合剤の存在下、または化合物(III)もしくは化合物(V)を一旦それぞれそのカルボキシル基における反応性誘導体に導いた後、化合物(Ia)もしくは化合物(IV)とそれぞれ反応させることにより行われる。上記反応に用いられる縮合剤としては、それ自体公知のもの、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、水溶性カルボジイミド(WSC)[例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩など]、カルボニルジイミダゾール(CDI)、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリス(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、ジフェニルリン酸アジド(DPPA)などが挙げられ、これらは必要によりN−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)などの共存下に使用してもよい。また、化合物(III)もしくは化合物(V)のカルボキシル基における反応性誘導体としては、例えば酸クロリド、活性エステル(例えば、p−ニトロフェニルエステル、ペンタクロロフェニルエステル、N−ヒドロキシコハク酸イミドとのエステル、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとのエステルなど)、イミダゾリド、混合酸無水物(例えば、メトキシ蟻酸、エトキシ蟻酸、プロポキシ蟻酸、ブトキシ蟻酸、イソブトキシ蟻酸、tert−ブトキシ蟻酸、フェノキシ蟻酸、2,2−ジメチルプロピオン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸との混合酸無水物など)などが挙げられる。これら反応性誘導体をいったん単離して化合物(Ia)もしくは化合物(IV)と反応させてもよく、これら反応性誘導体を反応系内で生成させた後、あるいは生成させながら化合物(Ia)あるいは(IV)と反応させてもよい。
【0021】
上記の反応は、通常溶媒中必要により適宜塩基の共存下に行われる。溶媒としては、通常不活性な有機溶媒が用いられるが、場合により水を溶媒として用いることもでき、あるいはまたこれらの混合物を用いることもできる。用いる有機溶媒としては、例えばハロゲン化アルキル類(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなど)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルイソブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピペリドン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。用いられうる塩基としては、例えば無機塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)、有機塩基(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペリジンなど)などが挙げられる。反応温度は用いる縮合剤、あるいは化合物(III)の反応性誘導体もしくは化合物(V)の反応性誘導体の種類等によっても異なるが、通常、約−30℃〜100℃、好ましくは−10℃〜約40℃の範囲である。縮合剤、塩基の使用量は、通常、化合物(III)もしくは化合物(V)1モルに対し1〜5当量、好ましくは1〜3当量である。化合物(III)もしくは(V)をそれらの反応性誘導体の形で使用する場合、その使用量は化合物(IV)もしくは化合物(VI)1モルに対して0.1〜3当量、好ましくは0.3〜1当量である。
【0022】
このようにして得られた化合物中のRおよび/またはR’が水素原子以外の保護基である場合、その保護基に応じた、それ自体公知の適宜の反応条件(例、酸、アルカリによる加水分解、パラジウム炭素を触媒とする接触還元等)を用いて脱保護することにより、目的の化合物(II)を得ることができる。目的化合物(II)は、例えば溶媒抽出、クロマトグラフィー、再結晶などを行うことにより単離精製することができる。
【0023】
原料化合物(V)を化合物(III)と化合物(IV)から製造する場合も、原則的に上記した縮合反応および脱保護反応と全く同様にして実施できる。
【0024】
また、原料化合物(III)あるいは(V)は、不斉炭素を有するので2種の光学異性体[(R)体および(S)体]が存在する。したがって、用いる化合物(III)あるいは化合物(V)の光学異性体の違いにより、目的物(II)はそれぞれがジアステレオマーの関係にある2種の異性体、[(R)−(S)]体または[(S)−(S)]体として得ることができ、あるいは化合物(III)あるいは(V)のラセミ体を用いれば、目的物(II)を該ジアステレオマーの混合物、[(RS)−(S)]体として得ることができる。また、目的物(II)のジアステレオマー混合物は必要によりそれぞれのジアステレオマーとして分離精製することもできる。本発明の目的物(II)はこれらの各ジアステレオマーおよびそれらの混合物のいずれも包含するものであるが、光学的に純粋な[(R)−(S)]体または[(S)−(S)]体が好ましい。
【0025】
上記のようにして得られる化合物(II)は、必要により、その薬理的に許容し得る塩、エステルもしくはアミドとすることができる。塩形成反応、エステル化反応、アミド化反応はこの技術分野で採用されている常法に従って実施することができる。また、エステルは前記方法1または方法2における合成中間体としても得られる。
【0026】
上記のようにして得られる本発明の目的化合物(II)またはその薬理的に許容し得る塩、エステルまたはアミドは、優れた抗酸化活性を有し、カルノシナーゼあるいは他のプロテアーゼによる分解にも抵抗するので、経口的あるいは非経口的に投与したとき、ヒトあるいはその他の哺乳動物の生体内で分解され難く、安定した抗酸化剤として作用する。したがって、活性酸素種によって引き起こされるさまざまな疾病、例えば動脈硬化、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、くも膜下出血などの虚血性疾患の予防や治療に用いることができるほか、活性酸素種が深くかかわって起こるさまざまな老化現象に対する抗老化(アンチエージング)効果が期待できる。また、目的化合物(II)は皮膚の老化を予防あるいは遅延させ、紫外線防御作用を有するので、化粧品に配合して皮膚用化粧品として使用することができる。
【0027】
本発明の目的化合物を医薬として用いる場合、医薬の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口投与用製剤、あるいは注射剤、座剤などの非経口投与用製剤が挙げられる。これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、結晶性セルロース、アラビアゴム、デキストラン、プルラン、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、燐酸水素カルシウムなど)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、コロイドシリカなど)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴールなど)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンなど)、安定剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコールなど)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される甘味料、酸味料、香料など)、希釈剤などの添加剤を用いて周知の方法で製造される。目的化合物の投与量は、疾患の種類、症状、年齢、投与方法などによって異なるが、例えば、経口投与に場合には、0.1〜100mg/kg/日、特に0.5〜20mg/kg/日が好ましい。また、静脈注射の場合には、0.01〜10mg/kg/日、特に0.1〜2mg/kg/日が好ましい。
【0028】
また、本発明の目的化合物を化粧品として用いる場合、化粧品の剤形は軟膏、クリーム、乳液、ローション、油状、ゲル状など、皮膚に塗布するのに適した剤形であれば任意であるが、軟膏の形が好ましい。軟膏は、公知の軟膏基剤を使用し、公知の方法に従って調製することができる。基剤の例は、例えば、白色ワセリン、黄色ワセリン、吸水ワセリン、マクロゴール、パラフィン、流動パラフィン、プラスチベース、シリコーン、牛脂、ロウ、ラノリン、植物油、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。製剤は慣用の化粧料添加剤、例えば香料を含むことができる。目的化合物の化粧品中への配合量は特に限定されないが、通常、0.01〜5w/w%、特に0.1〜2w/w%が好ましい。
【0029】
以下に参考例、実施例をあげて本発明をより詳細に説明するが、これが発明を限定するものではない。なお、本明細書において、「アルキル基」とは、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、アルコキシ基としては炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、脂肪族アシル基としては、炭素数1〜6の脂肪族アシル基が好ましい。また、本発明の目的化合物(II)などに含まれるクロマン骨格は、“3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾピラン”とも命名される。
【実施例】
【0030】
(参考例1)L−カルノシンベンジルエステル・2(p−トルエンスルホン酸)塩
L−カルノシン(原料化合物(I))(22.6g,0.1mol)及びp−トルエンスルホン酸・1水和物(以下、TsOH・HOと略記)(39.9g,0.21mol)を水(100ml)に溶解後、減圧下に水を留去した。残留物に、TsOH・HO(5.0g,0.026mol)及びベンジルアルコール(75ml)を添加して溶解後、さらにクロロホルム(80ml)を添加して、生成する水を共沸条件下にモレキュラーシーブス−4Aで除きながら、薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと略記)にて原料化合物(I)のスポットが消失するまで12時間加熱還流した。
クロロホルムを減圧下に留去し、残留物に酢酸エチル(以下、AcOEtと略記)(300ml)を添加して残渣油状物質を洗浄した。さらに、この油状物質を約30℃に加温してAcOEt(4x300ml)で洗浄した後、減圧下に乾燥すると標題化合物(52.5g,79.7%)がアモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,DMSO−d):δ 2.30(6H,s),2.45−2.56(2H,m),2.88−3.23(4H,m),4.60−4.74(1H,m),5.12(2H,s),7.08−7.16(4H,br d),7.28−7.53(10H,m),7.68(3H,br s),8.99(1H,d,J=1.2Hz).
【0031】
(参考例2)N−tert−ブトキシカルボニル−L−カルノシンベンジルエステル
N−tert−ブトキシカルボニル−β−アラニン(1.5g,7.92mmol)及びL−ヒスチジンベンジルエステル・2(p−トルエンスルホン酸)塩(7.02g,11.9mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)(20ml)溶液に、氷冷下N,N−ジイソプロピルエチルアミン(以下、DIEAと略記)(3.07g,23.8mmol)、続いて1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1.67g,8.72mmol)を加えた後、室温にて72時間撹拌した。反応液をAcOEt(40ml)で希釈し、これを水(1x40ml,2x10ml)及び飽和食塩水(20ml)で洗浄した。水層をさらにAcOEt(2x15ml)で抽出後、全有機層を乾燥(MgSO)し、溶媒を留去した。油状残留物を、ヘキサン/酢酸エチル(1:1)、続いてクロロホルム/メタノール(15:1)を溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製したところ、標題化合物(3.14g,95%)が無色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDCl):δ 1.43(9H,s),2.42(2H,br dd),3.06(1H,d of a pair of ABq,JAB=15.6Hz,JAX=4.9Hz),3.12(1H,d of a pair of ABq,JAB=15.6Hz,JBX=4.9Hz),3.34−3.49(2H,m),4.84(1H,dt,J=7.5,4.9Hz),5.08および5.17(1H each,ABq,J=12.2Hz),5.59(2H,br t),6.53(1H,d,J=1.1Hz),7.22(1H,br d,J=7.5Hz),7.25−7.40(5H,m),7.50(1H,d,J=1.1Hz).
【0032】
(参考例3)L−カルノシンベンジルエステル・2塩酸塩
N−tert−ブトキシカルボニル−L−カルノシンベンジルエステル(1.00g,2.40mmol)のアセトニトリル(5ml)溶液に4N塩化水素‐AcOEt溶液(3ml)を室温にて滴下した後、同温にて10分間撹拌した。反応液を減圧下に濃縮すると、L−カルノシンベンジルエステル・2塩酸塩(940mg,定量的)が得られた。
H−NMR(200MHz,CDOD):δ 2.69(2H,t,J=6.4Hz),3.10−3.38(4H,m),4.73−4.94(1H,m),5.15および5.22(1H each,ABq,J=12.1Hz),7.27(1H,d,J=1.3Hz),7.30−7.44(5H,m),8.78(1H,d,J=1.3Hz).
【0033】
(参考例4)(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル−β−アラニン(化合物(V),R’=H)
(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(化合物(III),R’=H)(1.00g,3.99mmol)及びβ−アラニンエチルエステル・塩酸塩(736mg,4.79mmol)のDMF(10ml)溶液に、DIEA(2.07g,16.0mmol)、続いてベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリス(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(以下、PyBOPと略記)(2.08g,3.99mmol)を添加した。その後、反応液を室温にて一晩撹拌した。TLCにより原料(化合物(III),R’=H)が消失していることを確認した。反応液をAcOEt(30ml)にて希釈した後、これを1NHCl(2x20ml)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1x15ml)及び飽和食塩水(20ml)で洗浄後、乾燥(MgSO)した。溶媒を留去した後、粗生成物をヘキサン/酢酸エチル(3:1)を溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製すると、標題化合物のエチルエステル(1.42g,定量的)が黄白色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDCl):δ 1.21(3H,t,J=7.1Hz),1.49(3H,s),1.88(1H,ddd,J=13.5,8.1,6.6Hz),2.09(3H,s),2.18(6H,s),2.24−2.72(5H,m),3.49(2H,q,J=6.1Hz),4.05および4.06(total 2H,both q,J=7.1Hz),4.50(1H,s),7.05(1H,br t,J=6.1Hz).
【0034】
本エチルエステル(1.40g,3.99mmol)のメタノール(10ml)溶液に水酸化リチウム・1水和物(0.50g,12.0mmol)の水(4ml)溶液を滴下後、2時間還流した。メタノールを減圧留去した後、残留液の液性を1N塩酸にてpH1に調整した。析出した結晶をAcOEt(1x50ml,2x10ml)で抽出し、有機層を乾燥(MgSO)した後、溶媒を留去すると標題化合物(1.24g,96.5%)が白色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDOD):δ 1.45(3H,s),1.82(1H,ddd,J=13.4,8.6,6.4Hz),2.06(3H,s),2.14(6H,s),2.21−2.71(5H,m),3.34−3.47(2H,m),7.50(1H,br t,J=5.9Hz).
【0035】
(実施例1)
1)N−[(2RS)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンベンジルエステル(R:S=1:1混合物)
A法:L−カルノシンベンジルエステル・2(p−トルエンスルホン酸)塩(0.86g,1.3mmol)のピリジン(5ml)溶液に室温にて(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(250mg,1.0mmol)を添加後、5−10℃にて1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(280mg,1.46mmol)を加え、反応液を室温にて6時間撹拌した。ピリジンを減圧下に留去後、残留物をAcOEt(20ml)に溶解し、飽和食塩水(2x20ml)で洗浄後、乾燥(MgSO)した。溶媒を減圧下に留去後、残留物をヘキサン/酢酸エチル(1:1)、続いてクロロホルム/メタノール(10:1)を溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製すると、標題化合物(260mg,56.8%)が粘性油状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDCl):δ 1.48および1.51(total 3H,both s),1.70−2.70(6H,m),2.07および2.08(total 3H,both s),2.14および2.17(total 6H,both s),2.80−3.10(2H,m),3.20−3.67(2H,m),4.38(0.5H,dt,J=6.8,6.1Hz),4.73(0.5H,dt,J=7.5,5.7Hz),5.03および5.09(1H each,ABq,J=12.3Hz),6.46(0.5H,br d,J=6.8Hz),6.53(0.5H,d,J=1.0Hz),6.57(0.5H,d,J=0.9Hz),7.10−7.40(6.5H,m),7.45(0.5H,d,J=0.9Hz),7.49(0.5H,d,J=1.0Hz).
【0036】
B法:(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル−β−アラニン(化合物(V),R’=H)(600mg,1.87mmol)及びL−ヒスチジンベンジルエステル・2(p−トルエンスルホン酸)塩(3.30g,5.60mmol)のDMF(10ml)溶液に、室温にて、DIEA(1.21g,9.34mmol)、続いて1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(394mg,2.05mmol)を加えた後、同温にて96時間撹拌した。反応液をAcOEt(40ml)で希釈し、これを水(1x20ml,4x10ml)及び飽和食塩水(15ml)で洗浄した後、乾燥(MgSO)し、溶媒を留去した。油状残留物をヘキサン/酢酸エチル(1:1)、続いてクロロホルム/メタノール(10:1)を溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製すると、標題化合物(869mg,85%)が粘性油状物質として得られた。
【0037】
2)N−[(2RS)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシン・・・化合物(1)
N−[(2RS)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンベンジルエステル(R:S=1:1混合物)(895mg,1.63mmol)のメタノール(8ml)溶液に10%パラジウム炭素(水分含量:52.7%)(200mg)を加え、常温、常圧で接触還元した。触媒をろ去した後、溶媒を留去すると、微黄色粘性油状物質が得られた。これをメタノール/クロロホルム(1:3)に溶解後、AcOEtを徐々に加えて生成物を晶出させた後、上澄液を除去した(本操作を3回繰り返した)。溶媒を留去後、油状残留物をメタノール(1.5ml)に溶解し、リグロイン(沸点範囲80〜110℃,4〜5ml)を徐々に加えて懸濁液とした。その後、溶媒を減圧下に留去し、さらに真空乾燥すると、標題化合物(617mg,82%)が微黄白色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDOD):δ 1.436および1.444(total 3H,both s),1.75−1.90(1H,m),2.05(3H,s),2.13(3H,s),2.14(3H,s),2.10−2.70(5H,m),2.99−3.52(4H,m),4.64−4.72(1H,m),7.29(0.5H,d,J=1.3Hz),7.30(0.5H,d,J=1.3Hz),7.59(0.5H,br t),7.90(0.5H,s),8.74(0.5H,d,J=1.3Hz),8.81(0.5H,d,J=1.3Hz).
エレクトロスプレーイオン化法質量分析
陽イオンモード:
観測値(M+H):459.1 for C2331
計算値:459.2 for isotope model MH;
陰イオンモード:
観測値(M−H):457.1 for C2329
計算値:457.2 for isotope model(M−H).
HPLC分析(下記)の結果、化合物(1)は2種のジアステレオマー混合物(1:1)であった。
【数1】

【0038】
(実施例2)
1)N−[(2R)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンベンジルエステル
L−カルノシンベンジルエステル・2塩酸塩(1.12g,2.88mmol)のDMF(3ml)溶液に室温にて(2R)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(721mg,2.88mmol)及びジクロロメタン(3ml)を加えて溶解し、続いてDIEA(1.12g,8.64mmol)、PyBOP(1.50g,2.88mmol)を加えた後、反応液を室温にて72時間撹拌した。大部分のジクロロメタンを減圧留去後、残留物をAcOEt(40ml)に溶解し、これを水(1x30ml,3x10ml)及び飽和食塩水(20ml)で洗浄した(水層のpH:5.5)。水層をさらにAcOEt(2x10ml)で抽出した後、全有機層を乾燥(MgSO)し、濃縮した。油状残留物をクロロホルム、続いてクロロホルム/メタノール(15:1)を溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製すると標題化合物(1.58g,定量的)が白色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDCl):δ 1.50(3H,s),1.69−1.88(1H,m),2.05−2.67(5H,m),2.07(3H,s),2.15(6H,s),2.90および2.97(1H each,ABX system,JAB=15.6Hz,JAX=6.1Hz),3.21−3.38(1H,m),3.49−3.67(1H,m),4.46(1H,dt,J=6.8,6.1Hz),5.04および5.10(1H each,ABq,J=12.3Hz),6.33(2H,br),6.49(1H,d,J=1.0Hz),6.54(1H,d,J=6.8Hz),7.16(1H,dd,J=7.0,5.2Hz),7.22−7.37(5H,m),7.49(1H,d,J=1.0Hz).
【0039】
2)N−[(2R)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシン・・・化合物(2)
N−[(2R)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンベンジルエステル(700mg,1.27mmol)のメタノール(3ml)溶液に10%パラジウム炭素(水分含量:52.7%)(100mg)を加えて、常温、常圧で接触還元した。その後、触媒をろ去し、ろ液を減圧下に濃縮すると黄白色アモルファスが得られた。これにAcOEt(5ml)を加えて撹拌した後、上澄液を除いた。さらにクロロホルム(3ml)を加えて同様に洗浄した。残渣をメタノールに溶解した後、減圧下に濃縮し、続いて真空乾燥すると、標題化合物(564mg,97%)が黄白色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDOD):δ 1.44(3H,s),1.81(1H,ddd,J=13.4,8.2,6.2Hz,),2.05(3H,s),2.13(3H,s),2.14(3H,s),2.17−2.70(5H,m),3.06(1H,ABX system,JAB=15.3Hz,JAX=7.8Hz),3.20(1H,ABX system,JAB=15.3Hz,JBX=5.6Hz),3.30−3.48(2H,m),4.66(1H,dd,J=7.8,5.6Hz),7.27(1H,d,J=1.5Hz),8.70(1H,d,J=1.5Hz).
13C−NMR(50.3MHz,CDOD):δ 12.0,12.4,13.0,21.6,24.7,28.2,31.0,36.0,36.6,52.9,79.1,118.5,118.6,122.2,123.3,124.9,131.5,135.0,145.7,147.3,173.4,173.8,177.1.
エレクトロスプレーイオン化法質量分析
陽イオンモード:
観測値(M+H):459.1 for C2331
計算値:459.2 for isotope model MH;
陰イオンモード:
観測値(M−H):457.1 for C2329
計算値:457.2 for isotope model(M−H).
【0040】
(実施例3)
1)N−[(2S)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンベンジルエステル
カルノシンベンジルエステル・2塩酸塩(940mg,2.40mmol)のDMF(3ml)溶液に室温にて(S)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(601mg,2.40mmol)及びジクロロメタン(3ml)を加えて溶解し、続いてDIEA(931mg,7.20mmol)、PyBOP(1.25g,2.40mmol)を加えた後、反応液を室温にて72時間撹拌した。大部分のジクロロメタンを減圧留去後、反応混合物をAcOEt(40ml)にて希釈して、これを水(1x30ml,3x10ml)及び飽和食塩水(20ml)で洗浄した(水層のpH:5.5)。水層をさらにAcOEt(3x10ml)で抽出した後、全有機層を乾燥(MgSO)後、濃縮した。油状残留物をクロロホルム、続いてクロロホルム/メタノール(15:1)を溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製すると標題化合物(1.08g,81%)が白色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDCl):δ 1.47(3H,s),1.77−1.94(1H,m),2.06(3H,s),2.13(6H,s),2.18−2.68(5H,m),2.99および3.05(1H each,ABX system,JAB=15.6Hz,JAX=5.7Hz),3.37−3.56(2H,m),4.73(1H,dt,J=7.5,5.7Hz),5.03および5.09(1H each,ABq,J=12.3Hz),5.90(2H,br),6.55(1H,d,J=0.9Hz),7.11(1H,d,J=7.5Hz),7.18−7.35(6H,m),7.47(1H,d,J=0.9Hz).
【0041】
2)N−[(2S)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシン・・・化合物(3)
N−[(2S)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンベンジルエステル(600mg,1.09mmol)のメタノール(3ml)溶液に10%パラジウム炭素(水分含量:52.7%)(80mg)を加えて、アスピレーターによる減圧脱気及び反応フラスコ内の水素ガス置換操作を5回繰り返した後、水素雰囲気下(風船使用)に5時間激しく撹拌した。その後、Pd触媒をろ去し、ろ液を減圧下に濃縮すると黄白色アモルファスが得られた。これにAcOEt(5ml)を加えて撹拌した後、上澄液を除いた。さらにクロロホルム(3ml)を加えて同様に洗浄した。このアモルファス残渣をメタノールに溶解した後、減圧下に濃縮し、続いて真空乾燥すると、標題化合物(498mg,定量的)が黄白色アモルファス状物質として得られた。
H−NMR(200MHz,CDOD):δ 1.43(3H,s),1.79(1H,ddd,J=13.4,8.2,6.4Hz,),2.04(3H,s),2.12(3H,s),2.13(3H,),2.18−2.68(5H,m),3.02(1H,ABX system,JAB=15.3Hz,JAX=7.0Hz),3.16(1H,ABX system,JAB=15.3Hz,JBX=5.3Hz),3.33−3.46(2H,m),4.46(1H,dd,J=7.0,5.3Hz),7.16(1H,d,J=1.1Hz),8.47(1H,d,J=1.1Hz).
13C−NMR(50.3MHz,CDOD):δ 12.0,12.4,13.0,21.6,24.8,29.5,31.0,36.2,36.7,54.9,79.1,118.3,118.6,122.3,123.2,125.0,132.8,134.9,145.7,147.3,173.3,176.1,177.0.
エレクトロスプレーイオン化法質量分析
陽イオンモード:
観測値(M+H):459.1 for C2331
計算値:459.2 for isotope model MH;
陰イオンモード:
観測値(M−H):457.1 for C2329
計算値:457.2 for isotope model(M−H).
【0042】
(実施例4)抗酸化作用(DPPHテスト)
K. Schlesierらの方法(Free Radical Research, Vol.36, 177-187, 2002)に従い、化合物(1)、(2)、(3)の0.025mM〜0.150mM濃度における2,2−ジフェニル−1−ピクリルヒドラジルラジカル(DPPH)の消去作用を調べた。その結果は、下記表1の通りである。
表1から明らかなように、本発明の化合物はいずれも濃度依存的にDPPHの消去作用を示したが、L−カルノシンは高濃度でもそのような作用を殆ど示さなかった。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例5)リポ蛋白の酸化抑制作用(MDAテスト)
105mM−KOH、20mM−リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)を含む水溶液0.5mlにヒト血漿50μl及び被験化合物の水溶液5−25μlを加えて下記表2に示す最終濃度に調整した。次いで、新たに調整した100mM−FeSO溶液20μlを加え、37℃で60分間インキュベーションした。その50μlをとり、脂質の過酸化によって生じるマロンアルデヒド(MDA)をチオバルビタール酸反応性物質(TBRAS)として定量し、コントロールに対する%で示した。結果は、下記表2の通りである。
表2から明らかなように、本発明の化合物(1)、(2)および(3)は、L−カルノシンよりも強いリポ蛋白酸化抑制作用を示した。
【0045】
【表2】

【0046】
(実施例6)加水分解酵素に対する抵抗性
ヒト血清200μlを800μlの125mM−Tris−HCl緩衝液(pH8.5)、300μlの5mM−CdCl/30mM−クエン酸ナトリウム水溶液、300μlの水の混合物に加え、37℃で30分間インキュベーションした後、400μlの50mM−試験サンプル水溶液(0.05M−NaOHでpH=8.5に調整)を加え、最終的に10mM溶液とした。これを0分(インキュベーション前)、インキュベーション開始10、20、30、60、90、及び180分後にそれぞれの100μlをとり、HPLCを用いて化合物残存量を測定した。結果は、下記表3の通りである。なお、表中、0分を100としたときの被験化合物の残存率を示す。また、L−カルノシンは2人のドナー1、2から得た血清での平均値、化合物(2)および(3)はドナー別の数値で示した。
表3から明らかなように、L−カルノシンは比較的速やかに加水分解されたが、本発明化合物(2)および(3)は、90分、180分後でも殆ど分解されず安定であった。
【0047】
【表3】

【0048】
(実施例7)紫外線防御作用
化合物(2)、化合物(3)の紫外線防御作用を測定し、対照化合物L−カルノシン及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)と比較した。
健康なボランティアーの脊椎に対して対称な2箇所(それぞれ直径25mmの円)を選び、一方には被験化合物の0.3%溶液を塗布し、他方をコントロールとした。両方にHB 400UVバルブ(Philips)で1分間紫外線照射し、照射前と照射24時間後の局所における紅斑の強さI、I24をセンサーMexameter(Courage & Kazaka Electronics, Germany)を用いて測定し、その差ΔIを求めた。紅斑の度合いKを次の計算式を用いて求めた。
【数2】

結果は表4の通りである。なお、表中、紅斑の度合いKの値はコントロールを100としたときの値を示す。
表4から明らかなように、本発明化合物はL−カルノシン、BHTよりも優れた紫外線防御作用を示し、特に化合物(3)の作用は最も顕著で、既知の紫外線防御剤であるBHTより有意に優れていた。
【0049】
【表4】

【0050】
(実施例8)皮膚上皮の保湿作用と弾力性に及ぼす効果
健常人の前腕部近辺に直径25mmのテストエリアを設定し共鳴器を設置した。ここに被験化合物の0.3%溶液を50μl/cmの割合で塗布し、塗布前と塗布5分後の皮膚共鳴周波数Qをそれぞれ測定し、それぞれの差ΔQを求めた。ΔQが大きいほど、皮膚上皮が膨潤し弾力を増すことを示す。各化合物のΔQ間の有意差検定はコンピュータープログラム“Biostatistica”を用いて行った。結果は、下記表5の通りである。
【0051】
【表5】

【0052】
結果及び考察
L−カルノシンは水と差がなく、むしろ保湿作用は弱い傾向が認められたが、これはL−カルノシンが何らかの形で水分子と相互作用をし、水単独の場合よりも皮膚の水分含量をやや低下させるためと考えられる。しかしながら本発明化合物(3)は水よりも強力な保湿効果を示したので、化合物(3)はL−カルノシン水溶液や水単独の場合よりも皮膚の弾力性を増加させることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るL−カルノシン誘導体(II)、またはその薬理的に許容し得る塩、エステルもしくはアミドは、天然L−カルノシンより強力な抗酸化活性を有し、カルノシナーゼなどのプロテアーゼによる加水分解に抵抗するので、経口的あるいは非経口的に投与したときに生体の各種組織内で安定に存在することができ、ヒトあるいはその他の哺乳動物の組織、皮膚などの活性酸素種による障害の予防・治療にとって有用である。したがって、本発明の目的化合物は、例えば動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、くも膜下出血などの虚血性疾患の予防や治療に用いることができ、抗老化(アンチエージング)効果が期待できるほか、紫外線防御作用や皮膚の保水性や弾力性を高めるなどの効果を有するので、皮膚の健康を増進する化粧品としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
【化1】

で示されるL−カルノシン誘導体、またはその薬理的に許容し得る塩、エステルもしくはアミド。
【請求項2】
L−カルノシン誘導体(II)が、N−[(2RS)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンである請求項1記載の化合物。
【請求項3】
L−カルノシン誘導体(II)が、N−[(2R)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンである請求項1記載の化合物。
【請求項4】
L−カルノシン誘導体(II)が、N−[(2S)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル]−L−カルノシンである請求項1記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物を含有する医薬。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物を含有する化粧品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物を含有する抗酸化剤。


【公開番号】特開2008−19188(P2008−19188A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190776(P2006−190776)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000236573)浜理薬品工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】